食品の用途発明に関する審査基準改訂のお知らせ (1)食品の用途発明に関する審査基準が改訂され、食品に付された用途限定は、発明 特定事項としての意味を有するものとして新規性及び進歩性が判断されることになりまし た。改訂後の審査基準は、平成28年4月1日以後の審査に適用されます。 (2)従前は、食品の発明に用途限定を付したとしても、当該用途限定は発明特定事項 として扱われず、実質的に無視されて新規性及び進歩性の判断がなされていました。 例えば、本願発明が「成分Aを添加した骨強化用ヨーグルト」の場合、これが骨におけ るカルシウムの吸収を促進するという未知の属性の発見に基づく発明であるとしても、審 査の際には「骨強化用」の記載は無視されて、実質的に「成分Aを添加したヨーグルト」 と認定され、その結果、 「成分Aを添加したヨーグルト」自体が公知であれば、新規性が否 定されていました。 (3)しかし、改訂後の審査基準では、食品の用途発明において、 (1)その用途が、未 知の属性を発見したことにより見出されたものであり、(2)その属性により見出された用 途が、従来知られている用途とは異なる新たなものである場合には、用途限定は発明特定 事項として扱われ、新規性及び進歩性が判断されることになりました(第Ⅲ部第2章第4 節「3.1.2(1)」 ) 。 ●事例(出典;審査ハンドブック付属書A「新規性に関する事例集」の「事例30」) 本願発明「成分Aを有効成分とする歯周病予防用食品組成物。」 引用文献には、グレープフルーツ中に「成分A」が含まれ、「成分A」にはコレステロー ル低下作用があり、 「成分A」を有効成分とするコレステロール低下用食品組成物が開示さ れている。 <判断> 「歯周病予防用」という用途が、未知の属性(成分Aの歯周病原因菌に対する抗菌効果) を発見したことにより見出されたものであり、その属性により見出された用途(歯周病予 防用)が、従来知られている用途(コレステロール低下作用)とは異なる新たなものであ ることから、 「歯周病予防用」は発明特定事項として扱われます。 その結果、本願発明は「歯周病予防用」という構成を有するのに対し、引用文献にはか かる構成が記載されていないことから、本願発明は新規性を有します。 (4)但し、「食品」という語の使用には注意する必要があります。 改訂後の審査基準においても、「動物」や「植物」自体の用途発明は認めていません(こ の場合、用途限定の記載は無視されます。)。通常、「食品」の語には、「動物」や「植物」 自体も含まれることから(例えば、 「りんご」や「みかん」という植物は「食品」に含まれ ます。)、特許請求の範囲で「~用食品」という記載した場合、「動物」や「植物」自体も含 まれると認定判断され、その結果、新規性及び進歩性の判断において「~用」の記載は発 明特定事項として扱われず無視されることがあります。 ●事例(出典;審査ハンドブック付属書A「新規性に関する事例集」の「事例30」) 本願発明「成分Aを有効成分とする歯周病予防用食品。 」 引用文献には、グレープフルーツ中に「成分A」が含まれ、「成分A」にはコレステロー ル低下作用があり、「成分A」を有効成分とするコレステロール低下用食品組成物が開示さ れている。 <判断> 「食品」には「グレープフルーツ」自体も含まれることから、請求項6には「成分Aを 有効成分とする歯周病予防用グレープフルーツ」(=「植物」自体)が含まれています。 よって、「歯周病予防用」の部分は新規性及び進歩性の判断において無視されて、請求項 6に係る発明は単なる「成分Aを有効成分とするグレープフルーツ」と解釈される結果、 引用文献により請求項6に係る発明は新規性が否定されます(∵グレープフルーツに「成 分A」が含まれていることが引用文献で開示されている。 )。 この場合は、明細書中で「食品」に「グレープフルーツ」自体が含まれないことを明確 にする必要があります。尚、「~用食品組成物」の記載であれば、「グレープフルーツ」(= 「植物」自体)が含まれないことから、 「~用」の部分は発明特定事項として扱われる結果、 新規性は肯定されます。 よって、食品の用途発明においては、「食品組成物」という語を使用するか、あるいは請 求項で「~用食品」の記載をした上で、明細書中で「食品」には動物や植物自体が除かれ ることを明記する必要があります。 尚、「~用食品」の記載であっても、動物や植物自体が含まれないことが明確である場合 には、「~用」の部分は発明特定事項として扱われます。 ●事例(出典;審査ハンドブック付属書A「新規性に関する事例集」の「事例31」) 本願発明「成分Aを有効成分とする血圧下降用食品。」 引用文献には、「成分A」を乳化剤として食品に配合することが記載されている。但し、 「成分A」は天然に存在する成分ではなく、人工的に製造された物質である(この点が上 記事例30のケースとは異なる。) 。 <判断> 「成分A」は天然に存在する成分ではなく、人工的に製造された物質であることから、 「成 分A」を含む動物や植物自体は存在せず、その結果、本願発明の「血圧下降用食品」には 動物や植物自体が含まれないことが明らかです。 よって、本願発明の「血圧下降用」は発明特定事項として扱われ、一方、引用例は「乳 化剤」であって、「血圧下降用」の記載がないことから、新規性が肯定されます。 (5)今回の審査基準の改訂は、食品に付された用途限定が、一定要件の下、発明特定 事項としての意味を有するものとして扱われ、用途限定のみで相違する場合であっても新 規性が肯定される点がポイントです。 よって、従来と比べて新規性が認められ易くなる結果、いわゆる健康食品の特許を認め られ易くなりますが、今回の審査基準の改訂は進歩性のハードルを下げるものではなく、 用途限定が自明であれば進歩性が否定されて拒絶される点には注意する必要があります。
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