引用例から把握する技術内容を変更した審決についての違法性を判断

引用例から把握する技術内容を変更した審決についての違法性を判断した判決
2008.3.14
第2電気情報 中田 雅彦
1.事件番号
2.関連条文
3.判決言渡日
4.原告
(控訴人)
5.被告
(被控訴人)
6.出願番号
等
(出願経過)
7.要約
平成18年(行ケ)第10538号審決取消請求事件
159条2項の準用する50条(査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合)
2008年2月21日
株式会社力王
特許庁長官
平成13年(2001)05月11日
1)出願日
(特願平2001-141413)
平成15年08月01日
2)拒絶理由通知書
平成15年10月10日
3)意見書・補正書
平成16年02月16日
4)拒絶査定
平成16年03月23日
5)拒絶査定不服審判請求
平成18年11月16日
6)拒絶審決
平成18年12月14日
7)審決取消訴訟
平成20年02月21日
(請求棄却)
1.実務の指針
拒絶理由通知に応答する場合、審査官がした進歩性を否定する理論構成以外に、同一引用文
献を用いた他の理論構成が可能でないかを検討することが必要である。
2.事件の内容
引用文献から把握する技術内容を変更したにも関わらず拒絶理由通知を行うことなくされた審
決は、特段の事情がない限り、特許法159条2項の準用する同法50条の規定に違反するものと
なるが、本件の具体的な事情の下において審決を取り消すべき違法はないと判断された。
3.事案の概要
(発明の名称) 「祭用地下たび」
(本願発明(請求項1)の構成)(平成15年10月10日付手続補正により補正)
A) アッパーの底部に接地底を取付けてなるものであって、
B) 底部にこれと略等しい大きさの衝撃吸収シートを介在させると共に、
C) 踵部の衝撃吸収シートと接地底との間に空気封入弾性片を介在させ、
D) かつアッパー爪先部の胛被と被せ布との間にクッション材を装填したことを特徴とする祭用地
下たび。
(審決の認定)
拒絶査定時の引用文献1~5のうち、引用文献2(特開平11-127901号公報)に記載された
引用発明と本願発明とを対比して、引用発明の「クッションシート4」は本願発明の「衝撃吸収シー
ト」と、引用発明の「衝撃吸収シート片3」は本願発明の「空気封入弾性片」と夫々、一致すると認定
し、さらに、引用発明と本願発明との3点の相違点について、夫々、従来周知であると認定の上、
本願発明について、引用発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであるとした。
1
(本願当初明細書に添付された図面)
【図2】
(引用文献2に記載された図面)
(裁判所の認定)
審査段階で、引用文献2(審決の引用刊行物)の「衝撃吸収シート片3」が補正前発明の「衝撃吸
収シート」に相当し、補正前発明の「空気封入弾性片」に相当するものが引用文献4に記載されて
いると認定していたところ、審決では、引用刊行物(引用文献2)の「クッションシート4」、「衝撃吸収
シート片3」がそれぞれ本願発明の「衝撃吸収シート」、「空気封入弾性片」に相当するとしているか
ら、引用文献2(引用刊行物)から把握される技術内容が変更されていると判断した。
本願発明
審査
審決
衝撃吸収シート
引用文献2「衝撃吸収シート片3」
引用文献2「クッションシート4」
空気封入弾性片
引用文献4
引用文献2「衝撃吸収シート片3」
引用例としては同一であっても、そこから把握する技術内容を変更することは、その限りにおい
て、本願発明と対比されるべき公知技術の内容を変更するものであり、出願人には、新たな引用
発明を前提として、意見陳述の機会を与えなければならなかったものというべきであるから、拒絶
理由通知を行うことなくされた審決は、特段の事情がない限り、特許法159条2項の準用する同法
50条の規定に違反するものであるとした。
しかしながら、「本願発明の祭用地下たびは、簡素なものであり、材質等に格別のものが使用さ
れているというわけでもなく、発明の効果を含めて、本願発明と各引用文献との対比において、格
別の困難があるとは考えられないこと」、「原告は、意見書において、引用文献2に関して意見・反
論をし、審判請求書ではさらに本願発明と引用文献2との比較検討もしており、実質的に必要なと
ころは論じ尽くされていること」などを理由として、本件の具体的な事情の下において審決を取り消
すべき違法はないと判断した。
以上
2