毎日新聞セミナー

毎日新聞社
NIE セミナー
2005 年 3 月 19 日(土)
新聞活用「実践教室」
アクロス福岡にて
熊本市立出水南小学校教諭
村上浩一
「教育に新聞『を』」は誤訳!?
■自己紹介は、私のウェブページをご覧下さい。http://www5f.biglobe.ne.jp/~kyouzai/
1.
NIE(NewspaperInEducation)とは!
従来から、識者は NIE を「教育に新聞を」と訳してきた。私には、NIE が以前より下火
になっているという認識があるのだが、それが全国的に事実だとすれば、この誤訳に問題
があるのではと僣越ながら感じているところである。
教育とは端的に言えば、以下の図の如く児童生徒 C に必要な学習内容 A を理解させるこ
とである。
学習内容 A
児童生徒 C
例えば、次のような学習内容 A1 があるとする。
A1:「アルミニウムは、ボーキサイトを電気分解して製造されていく。
」
これを児童生徒へ理解させるわけだが、内容をそのまま教えるのなら、今の世の中では
教師の存在意義はなくなるだろう。なぜなら、多くの図書が存在するし、特に強力なイン
ターネットが存在しているからである。免許状を持つ、我々教師は、児童生徒が理解しや
すいように、ここに何かを介在させなくてはいけないわけである。つまり、教材 B を介在
させるわけである。
学習内容 A1
児童生徒 C1
教材 B1
内容 A1 に対し、教材 B1 が必要なわけである。B1 として、
「ボーキサイトの実物」を持
ってくる教師がいるだろう。B2 として、「アルミ缶は電気を食う」という新聞記事を持っ
てくる教師がいるだろう。これらの教材を通して、児童生徒は、次のような理解や新たな
疑問を示すだろう。C1 は「ボーキサイトって、どこでとれるのだろう?」、C2 は「アルミ
缶は環境破壊につながるのかな?」等々である。
まとめる。教育、特に、授業は、次の関数 y=f(x)が成り立つのである。
学習内容の理解
y
=
教材化
f
(学習内容
x )
つまり、変数(x)である各学習内容に対して、教材化(f)を施し、結果(y)である学
習内容の理解、定着を児童生徒に図っていくわけである。
2.
教育に新聞「も」
これが、NIE の正しい訳だと、私は考えている。f にあたる部分に、写真が来たり、実物
が来たり、新聞が来たりする教材化がくるのである。だから、教育(教材)に新聞「も」
となるのである。第一、NIE 活動に参加しようがしまいが、多くの教師が日頃から新聞も
教材として活用しているのではないだろうか。
一方で、この教材化 f には、様々な料理方法が存在してくる。それは、教材は前述したよ
うに多種多様だからである。つまり、それぞれの教材に、それぞれの関数たる教材の解読
方法が実在するのであろう。例えば、実物という教材を子どもたちにどう与え、どう発問
し、どう対応していくのかという、一連の授業行為である。手前味噌になるが、実物教材
たるモノに関しては、私の拙論を参考にして頂ければ幸いである。
『授業活性化のすぐ使えるモノ図鑑』(明治図書
絶版)→興味ある方は私まで
3.NIE の効能
■何事も効能がなければ、使用しないだろう。それでは、NIE の効能とは何だろうか。新
聞の教材化 f を語る前に、その効用を薬の処方箋?みたいに記述してみたい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
国語・算数・理科・社会に掃除・給食等の細切れ時間、そして教科書学習に能力開発で
きないでいる子どもたち。そんな時、新聞をお役立て下さい。新聞は、教科学習において
は最新の情報をお知らせすると同時に、2002 年に導入された総合学習の教材にもなります。
〔新聞の有効成分と作用〕
1.
投稿薬配合==25%
子どもたちの見えない能力を引き出します。「読者欄」に投稿して、自分の文才に気づ
いた子ども、俳句に投稿する中で、学習の仕方を身につけていった子どももいます。
2.
教材薬配合==25%
2002 年からの総合学習の教材はもちろん、教科の学習内容を現在進行形で紹介してい
ます。
3.
情報薬配合==25%
全ての人に、必要な情報を提供します。その情報を読み解く力を身につけていくこと
で、「生きる力」「生涯学習力」を身につけることができます。
4.
まとめ薬配合==25%
学習のまとめとして新聞作りをする際の参考書になります。
〔適応症〕
教科書のみの学習に子どもたちが飽きてきている時、現代社会事象の理解に急を要する
時、やる気や違った才能を引き出したい時、生涯学習力・情報リテラシーを身につけさせ
たい時、教科書の補助教材にしたい時などに効果があります。
〔用法・用量〕
★ 1 日 1,2 回新聞を読んで、必要な記事を切り取ってスクラップ、又は自分なりの方法で
保管して下さい。
〔使用上の注意〕
1.
次の人は、使用前に新聞社又は担当記者に相談して下さい。
(1) 記事の内容を詳しく知りたい人
(2) 過去に似たような記事がなかったか、検索したい人
(3) 新聞の書き方を子どもたちに指導したい人
(4) 新聞社を見学したい人
(5) 新聞を使った教育実践を知りたい人
2.
使用中又は使用後は、以下のことに注意して下さい。
(1) 子どもたちの小さな発見、スクラップの継続等を大げさに誉めてあげましょう。
(2) 決して無理強いしてはいけません。
(3) 継続できるように、教師は繰り返し繰り返し、伏線をはっていきましょう。
3.
保管及び取り扱い上の注意
(1) 児童・生徒の手の届く所に必ず保管して下さい。
(2) 図書室等には、必ず新聞を置くようにしましょう。
(3) 切り取る場合は、家族が読んでしまってからするようにしましょう。
(4) なお、新聞を使った工作等は、「新聞を使った教育」とは言いません。念のため
付け加えておきます。
4.
使用に際して、以下のことに注意して下さい。
(1) 小学校低・中学年には、なるべく文字資料は与えず、絵画や写真を中心に使用
しましょう。
(2) スクラップを指導する時は、新聞社名と日付、並びに簡単なコメントを書くこ
とが習慣となるようにしていきましょう。
(3) 記事を提示した時は、一度教師が読んで聞かせましょう。又、難しい漢字や言
葉については、教師が説明してやりましょう。
(4) 新聞を使った情報リテラシーを身につけさせたい場合は、別途 NIEFAX 教材集
(巻末資料)を参考にしましょう。
(5) 新聞の隅々を見ていくことで、教科書の補助教材となるヒントが湧き出てきま
す。NIE にそのような実践例がたくさん保存されています。ご活用下さい。
(6) 新聞記事を印刷する場合は、なるべく拡大コピーにかけてルビを打った方がい
いでしょう。読もうという環境を設定させる必要があります。
(7) 写真等の画像もカラー拡大コピーか、TPシートにカラーコピーすると説明も
しやすくなります。そんな時はパソコンが重宝するでしょう。文字情報などの
場合は、中のキーワードを削って、クイズ形式にしても面白いでしょう。
(8) 見出し・リード・本文等々の新聞用語も作業をしながら教えていく必要があり
ます。
(9) 教師サイドでは、新聞の保管方法を自分なりに考えておかないと、情報公害に
なってしまうでしょう。私の場合はMO ディスクにスキャナーで読み取らせて
デジタル化しているところです。
〔備考〕
(1) 新聞は、1紙 130 円程で買える手軽なものです。できれば、缶ジュースを辛
抱して、他紙をもう一部揃えてみることをお勧めします。同じ社会事象を他
紙はどう報道しているのか、比較できるからです。
(2) 又、最近では、各新聞社がインターネットでも新聞を公開しているので、そ
の HP にアクセスしてみるのもいいでしょう。参考になります。
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以上、NIE を現代教育の「薬」と仮定して、NIE の特色などをまとめてみた。私がここ 15
年間のNIE 実践で心に残っている子が 3 人いる。
一人は、地元新聞への投稿欄に載ったことを機に、次々と文章を書くようになった女の
子である。女子大生となった現在も続けているようである。当時は、文章を書く意欲と共
に、現代社会への関心が強くなっていったのを覚えている。さらに、童話も手がけ、新聞
社はもちろん、放送局からも原稿依頼が舞い込み、自分の才能に気づいていった。
もう一人は、勉強が苦手な自然が大好きな男の子だった。ある時、自然をうたった俳句
が良かったので、これまた地元新聞の俳句コーナーに投稿してみたら、名前入りで紹介さ
れた。これがきっかけとなり、俳句を 1 日に 10 句作ることを目標にひたすら書き始めまし
た。「よくもこれだけ『ネタ』があるね。」と聞いたら、彼は百科事典を眺めることで「ネタ」
を探していたのであった。もしこんな機会がなかったなら、事典を開くこともなかったの
かもしれない。母親は勉強する気になった子どもの姿に大変感謝されていた。
そして、もう一人は、後継ぎのいなくなった地元の「神楽」を継ぐ決意をした男の子であ
る。この子も最初は、「神楽なんて」と思っていたようだ。しかし、学校で地元のことを学
び、それを文章にして新聞に投稿していく中で、自分の置かれた立場を認識し「子ども神楽」
を舞う子どもとして活躍していった。
この 3 人の子どもたち、もしその時、「新聞」という存在がなかったら、関心を持たなか
ったら、こうなっていただろうか、と思う。「たかが新聞、されど新聞」なのである。私は、
子どもたちの才能を新聞で伸ばそうなんて大それたことは考えていない。しかし、結果的
には子どもたちの才能を伸ばし、自己を認識させる機会になったと考えている。
もちろん、新聞を使えば全てこうなるというわけではない。しかし、可能性は棄てきれ
ないということなのである。
4.新聞教材化の y=f(x)
(1)新聞構成と学習内容のタイアップ
■まずは、教材化・授業化のためには、新聞記事を「選ぶ」ことが重要となる。例えば、
毎日新聞 2005 年 1 月 21 日(金)の場合を見てみよう。以下のように、新聞の構成全体を
学校のカリキュラムと対比させてみると、教材化の視点 f がでてくるだろう。
面
毎日新聞の記事内容
考えられる学習内容
1
○ その新聞のその日のベスト1の記事
・ メディアリテラシー⇒他社は何を取
○ コラム「余録」
り上げたのか
○ 毎日新聞のロゴ=みどりの日には、
・ コラムを読み取り教材として朝自習
緑色に変身
2
3
等に使用する。
○ 天気予報
・ 理科で天気図の読み取りに!
○ 巨大津波
・ 理科や社会科教材として永久保存版
○ 「ひと」
・ 道徳教材として
○ 1面の補足記事
・教師の社会勉強として?
○ 特集記事「未来が見えますか」
4
○「人びと」
「民族」「地球」
・社会科(地理)教材(地誌)として
5
○ 「政治をひらく」
・ 社会科(公民)教材(政治)として
○ 社説・首相日々
・ 首相の仕事や社説の他社との比較
○ 「経済がわかる」「企業がみえる」
・ 総合学習(環境・起業家教育等々)
○ 市場だより
・ 小5社会科農業分野の教材として
○ 「いまの為替は」
・ 社会科(公民)教材(経済)として
7
○ 「同」
・
8
○株式
・社会科(公民)教材として(株売買ゲ
6
ーム)
9
○「生活
いきいき
家庭」
・学校図書館の蔵書参考資料となる
・教師のための社会勉強
10
○「どうなる憲法改正」
11
○「同」
12
○「企画特集
13
○モータースポーツ
14
○「スポーツ
15
○「同」
16
○(全面広告)
モードの話」
人間ドラマ」
・社会科(公民)教材(政治)として
・家庭科教材(被服)として
・道徳教材として
・広告も教科等々の教材として使える。
・1面カラー広告でいくら?⇒社会科教
材として
17
○「激しく
18
○(全面広告)
19
○「文化
20
○「くまもと
21
○ 「同」
美しく」
釣りだより」
・教師の趣味として?
熊本」
・地域教材として
・小5社会科漁業教材に(海苔養殖)
○ のり漁場水温
22
○ 「テレビ
見聞録
ラジオ」
・小5社会科情報分野の教材に(系列テ
レビ局)
23
○ 「話題
ひと
暮らし」
・教師の社会勉強と教材研究として
○ 特集「15 歳のカード」
24
○ 「社会
25
○ 「同」・4駒マンガ
事件
ひと
話題」
・セリフを抜いてセリフを自由に入れさ
せたりして、
「落ち」の構成を学ぶ。
26
○ 「テレビ見聞録」
(2)新聞はネタの宝庫
■毎日新聞で今、気になっているコーナーは、左の「15
歳のカード」
(2005 年 1 月 19 日)である。移植問題は、
以前道徳の授業で扱ったことがある。
「もし、皆さんのご両親が脳死状態になったとします。
子どものあなたは、移植をするのに賛成しますか、反対
しますか。」
と 15 年も前に問うたことがあった。
これらの記事は、授業のヒントとなる。命の大切さと
いうことの再認識を迫られる。また、個人的には、携帯
電話の問題としてペースメーカーの件が気になっていた
のだが、左の記事にはそのモノずばり写真で紹介してあ
り、初めて目にすることができた。
■年間通して、ネタの一番の宝庫は、正月三が日である。
各社、総力を上げてその 1 年間の「元」となるものを「元
日」にもってくる。しかも、値段 130 円なのにボリューム満点ときている。これは、買わ
ざるを得ないだろう。毎年、全国紙 4 紙、地元紙1紙、地方紙 1 紙、スポーツ新聞1紙を
購入しているところである。毎年恒例の、「私のお年玉」となっている。
なお、記事を保存する必要性が出てくるが、以前は山根式袋ファイルというシステムに
していたが、現在ではスキャナーで電子スクラップをしているところである。また、各社
のウェブページでは、検索機能が充実してきているので(有料にもなるだろうが)、スクラ
ップも不要な時代を迎えている。つまり、教材はこちらに求める心があれば「空」?から
降ってくる時代を迎えているようだ。さらに、モバイル環境にあれば、膨大な教材庫を持
ち歩いているのと同じであり、それこそ「紙?神?の手」を持ったに等しいのではないだ
ろうか。
■さて、新聞には新聞広告とチラシもある。これらも、以下の通り「ネタの宝庫」である。
チラシから社会が見える!!
バブル崩壊の頃は、極端にチラシが少なかった。チラシの量で、経済発展の様相がわか
ると言える。その一方で、営業成績もわかる。食料品広告は別として、営業成績が伸びて
いる、又は伸ばそうとしている会社がわかる。それは、消費者たる我々国民の需要の裏返
しでもある。最近では、エステはほぼ毎日のように、他、自動車・パソコン・不動産辺り
が毎日のように挿入されている。
ここで、いくつかのチラシを具体的に見てみよう。
★従業員募集のチラシから
ここに2つのチラシがある。
●「トヨタ自動車
期間従業員募集」
●「日本電装
男女季節従業員募集」
この2つのチラシから、次のようなことが明らかになる。
1. 労働環境がわかる。(給与、休暇の有無、通勤手当の有無、福利厚生等の待遇)
2. その企業のこと(関連工場等々)
期間限定というのが、
「ミソ」のような気がする。例えば、月別自動車生産台数と消費者
の購買意欲、銀行金利との関係、経済の好転(輸出等の関連)などが類推される。高学年
の社会科学習においては、教科書より面白いモノになるかもしれない。
★不動産のチラシから
不動産チラシで目をひくものは、次のものだ。
1.航空写真と地図
2.設計図
航空写真と地図は社会科学習に、設計図は家庭科学習に利用できる。特に、航空写真は
高価で入手が難しい。そこで、これらを注意深く収集していくことで、いつか校区の写真
が入手できるかもしれない。あるいは、校区でなくても、駅前だとか中心部・発展部の写
真となるわけだから、学習する際には重宝する。地図と比較させていくこと等ができる。
又、不動産の地図も同様に、方角や国道名、地図記号の学習等に生きた教材となる。さら
に、地図の書き方、まとめ方の学習にもなる。教師側にも新しい発見があったりする。
★催し物のチラシから
例えば、次のようなチラシがある。
●大陶器市
●□□県直送便
●大江戸のれん市
●□□県の名産と観光展
●日本の技展
このようなチラシで、各地方の物産や伝統工芸品等が一目瞭然となる。子どもたちの自
学自習にて、集めさせたいものである。
★観光旅行のチラシから
これらのチラシは、まずシミュレーション地理(中学生を行った気分にさせて地理を学
習させていくパターン)の参考資料としてもってこいである。私は最近、4 年生に「北海道
の教科書作り」という実践をしたが、その際、これらの観光チラシを大いに利用させた。
いずれにせよ、その地方の物産、歴史、観光がよくわかるカラーつきの資料と考えれば
いいだろう。教科書にはない第一級の写真ばかりである。
★その他のチラシから
■商業広告から
コンビニやショッピングセンター等のチラシから立地条件や店舗の拡大、業務内容、営
業時間や食材などについて、学習資料ともなるだろう。
■ 塾の広告から
これは教師用である。教職にどっぷりつかっていると、周りが見えなくなるときがある。
そんな時、塾の広告チラシが新しい教育の視点やシステムを教えてくれることがある。
時代に乗り遅れないためにも、塾のチラシは必見である。
■ ポスターとして見る
その他、いろいろなチラシをポスターとして見ると、図画工作科のデザイン学習に応用
できる。
■ 政治広告から
各政党の紹介や最高裁判所裁判官審査等の広告もあって、生きた学習材料になるだろう。
その他、動物や昆虫等が図案として用いられている時は、低学年の学習材料ともなる。
チラシは、新聞記事と同等の教材的価値がある。
「たかがチラシ、されどチラシ」である。
(3)新聞記事から授業へ
■新聞は、文字と写真等の画像からなる。低・中学年には、文字教材はまず不可能と考え
たがいい。つまり、画像中心にいきたいものである。
では、画像の教材化 f をどう進めていくのかである。(画像は省略)
①写真などの画像を提示して、意見を拡散させたい場合は、以下の
ように発問するといいだろう。
「この写真を見て、わかったこと・考えたこと・気づいたことなど、
どんな小さなことでも構いませんから、ノートに箇条書きにしてい
きなさい。」
②一方、意見を収束(集中)させたい場合は、次のように 5W1H に目をつけて発問すると
いいだろう。
・ 「この人は、何を見ているのでしょうか。」
・ 「この写真は、いつ頃のものでしょうか。」
・ 「ここは、どこでしょうか。」
・ 「この人は、何を持っているのでしょうか。」
③ところが、上記のような発問をしてもなかなか意見を持てない子どもがいる。そのよう
な時は、五感に注目させたい。この場合だったら、次のような発問が考えられる。
「音が聞こえるとしたら、どんな音だろう。」
等々と一緒に何度かやっていくと次第に見方が身についてくる。要は、「手を換え、品を換
え」の教育観が大切であろう。
④総合学習では特に、課題を持たせることが重要であるが、クラス全員に課題を持たせる
のは至難の業である。ところが、最初は機械的かもしれないが、慣れてしまえば、それこ
そ全員に課題を持たせることが可能となる。さき程の 5W1H に当てはめて、課題を作成さ
せるのである。上記の写真でいうと、例えばこうなる。
○いつ
・投票はいつ始まったのだろうか?
・戦争が終わってから、投票までにどれ位時間が経ったのだろうか?
○どこで
・ここは、どこだろうか?
○だれが
・だれが立候補しているのだろうか?
・だれが投票させたのだろうか?
○何を
・何を決めるのだろうか?
○どのように
・テロの多い中、どのようにして投票するのだろうか?
○なぜ
・なぜ、投票をするのだろうか?
このような視点を身につけさせ、何回も訓練していくことで問題発見力が備わってくる。
■次に、文章で資料を与えた場合は、1つ1つ簡単な質問をしていくことで内容理解を進
めていく一方で、以下のような発問をしてみるといいだろう。
「この文章を読んで、一番大切なキーワードは何だと考えますか。」
この発問で主題に迫らせることができるだろう。また、上記の通り、5W1H で記事を整
理していくことも大切である。
■その一方で、以下のようなことにも目をやる必要性が出てくる。これはあとで述べるメ
ディアリテラシーとも関連してくるだろう。私が開発した e-learning(後述)より抜粋して
みることにする。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(前略―村上)
(2)写真を読み解く
イラク戦争では、多くのメディアが「エンベッド取材」と言って、埋め込み型の取材を余儀(よぎ)な
くされました。つまり、一部メディアの写真にそのまま文章を埋め込んでいって、各社横並びの記
事になっていったわけです。米軍に帯同(たいどう)しての取材も今回初めてなされ、生々しい写真
が配信されると同時に、米軍側に立ったアングルが目立ったわけです。つまり、銃口を向けている
側からの写真なわけです。銃口(じゅうこう)を向けられた側からのアングルではないわけです。そ
の当時、典型的だったのは、アメリカの CNN とカタールのアルジャジーラの報道でした。
写真を見る時には、戦争のみでなく、全ての写真において、このことを
意識して見る必要があります。あるいは、写真の枠を大きく広げて想像
写真の周りを想像
写真
する必要があるわけです。つまり、写っていない部分はどうなっている
のだろうということですね。このイラク戦争を巡っては、当時の新聞社の
社説を比較してみるというのも「新聞の読み方」の1つです。詳しくは、
右側(省略)を参照して下さい。
(3)記者の主観を見抜く(みぬく)こと!!
これが最も大切かもしれません。新聞記者は客観的(きゃっかんてき)な事実を取材して報道す
るのですが、どうしても主観(しゅかん)(気持ちや自分なりの見方)が入ってしまい、読者はそれを
鵜呑み(うのみ)にすると、正しい情報活用とは言えなくなるわけです。例えば、ここに「食糧自給
率」という数字があります。現在の日本の食糧自給率は、40%(『日本国勢図会(こくせいずえ)
2003』(矢野恒太記念会)です。これは事実です。この事実に対し、記者が次のように書いたとした
らどうでしょう。
① 日本の食糧自給率は、ついに 40%に達したようだ。
② 日本の食糧自給率は、40%にとどまった。
①の表現だと、今までは低かったけど、とうとう 40%にも到達し、先は明るいという記者の見方
(主観)が入ってしまっています。逆に②の表現だと、日本政府は努力したけど、40%にしかならな
かった、お先真っ暗だという記者の見方(主観)が入ってしまっています。このようなことを、しっか
り読みとっていかねばならないわけです。数字に限ったことではありません。言葉というものに、敏
感になっていく必要があります。そこで、問題です。
③ 日本の平均寿命(女性)は、ついに 85 歳に達したようだ。
④ 日本の平均寿命(女性)は、85 歳にとどまった。
★問題2:上の文章(記事)には、どのような記者の主観(気持ち)が入っているかを説
明しなさい。
(以下省略)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
5.他メディアとのコラボレーション
(1)インターネット新聞とのコラボレーション
■左の画像は、毎日新聞社のものであ
る。http://www.mainichi-msn.co.jp/
①これは、「特集一覧」というもので、
特に「見えない戦争
ザンビアのエイ
ズ」はとてもいい記事である。エイズ
実践の際に、参考にしたいコーナーで
ある。その他、特集に関する過去の記
事も読めるようになっていて重宝する。
②さらに、NIE のコーナーも充実して
いる。そこでは、「News がわかる」と
いう小冊子の紹介もしてあったので、早速購入した次第(1 年間で 3960 円:ウェブページ
より申し込み可能)である。とても親切な冊子であるので、お勧めである。小学生も楽し
めるような工夫が随所にしてある。
③その他、ニュース用語集等々、充実しているウェブページである。よって、新聞を生か
しながら、ウェブページでも動画や画像、ニュース用語等々を使いながらの学習もこれか
らの課題となるだろう。
④では、新聞とインターネット新聞とは、どの
ような違いがあるのだろうか。
以下のような違いが考えられる。そこで、そ
れぞれの特色を生かしながら、補完しあってい
くことが重要だと考える。
新聞紙
インターネット新聞
1.1日分の記事量
インターネットより多い
新聞より少ない
2.検索のしやすさ
スクラップしていても不可能
検索しやすい
3.くわしさ
小さいことまで詳しい
記事の精選がしてある
4.画像
静止画(写真)
静止画(写真)と動画
5.アクセスのしやすさ
さっと見ることができる。
ネット接続が必要である
6.関連事項の調査
リンク先が示されていない
リンク先がある場合がある
7.保存方法
のりとはさみによるスクラッ
記事をデジタル保存するか、ネ
プ、又はスキャナーで電子スク
ット上にて検索アクセスという
ラップ
方法がある
夕刊か翌日の朝刊
簡単にできる
8.情報の変更
(2)雑誌(社)・放送(局)とのコラボレーション
■各全国紙は、系列のテレビ局や雑誌と関係を持
っている。毎日新聞社の場合は、東京放送(TBS)
と『サンデー毎日』等々である。
ちなみに、朝日新聞社の場合は朝日放送と『週
刊朝日』、読売新聞社の場合は日本テレビと『ヨミ
ウリウィークリー』、日本経済新聞社の場合はテレ
ビ東京と『日経ネットナビ』、産経新聞社の場合は
フジテレビと『サンケイスポーツ』等々である。
他にも、それぞれまだまだたくさんあるようだ。
①
では、新聞と雑誌の違いは何だろうか。
②
また、新聞と放送の違いは何だろうか。それ
ぞれを対比してみた。
新聞
雑誌
購入する時の言葉 とる・読む
買う
発行日
日刊
週に1回か、月に1回
客観性
雑誌より客観性がある
意見が新聞より偏る(かたよる)場合がある
ビジュアル性
少しカラー記事が入る
グラビアにカラーが多い
1つの記事の量
雑誌より少ない
ボリュームがある
情報伝達のスピー 早い
新聞より遅いが、そう問題はない
ド
分野
総合
総合雑誌と専門雑誌に分かれる
その日の情報
天気予報や株など多い
スクープ記事を中心にねらう
娯楽性
低い
高い
視聴者との双方向 雑誌よりある(読者の投
性
稿など)
新聞より少ない
新聞
情報の更新
形式・様態
保存
見る時間
ビジュアル
性
次の朝刊まで情報の更新不能
リアルタイムで変更可能(臨時ニュースも可
(号外・夕刊を除き)
能)
紙に文字や写真を印刷
電波で音声や映像を送信
個人としてはスクラップ、企業と
してはマイクロフィルム
読み(見)直
ビデオ録画
いつでも読める
プログラム順に従わねばならない
静止画像である
動画なので、インパクトが強い
情報伝達の 今日の出来事は、翌日の朝刊か
スピード
テレビ
ら(夕刊を除き)
今日の出来事は、夕方のニュースから
いつでも読み直せる
見直すことはできない(VTR以外)
実況中継
できない
できる
娯楽性
低い
高い
す
視聴者との テレビより多い(「読者の投稿
双方向性
等々)
料金
購読料を講読者が支払う
考える時間 じっくり考えることができる
新聞より少ない
CM提供企業が支える(NHK は視聴者が受信
料を支払う)
新聞より考える時間がない(情報を鵜呑みに
しやすい)
(3)他紙とのコラボレーション
■私は熊本日日新聞を講読している。最近、毎日新聞をコンビニで購入しているところで
ある。地元新聞と全国紙の対比も面白いのかもしれない。
①情報スピードは?
毎日新聞の場合、九州関係の印刷所は北九州と鳥栖にあるそうで、熊本に配達する紙面
は鳥栖で印刷しているとのこと。しかし、九州一円に配達する紙面を一緒に製作・印刷し
ているため、どうしても印刷開始時間が早くなり、地元紙に比べると情報が遅れる場合が
出てくるようだ(例えば、2 月 18 日の場合、小倉では 14 版、熊本では 12 版であった)。
②署名記事の偉大さ
左の通り(2003 年 10 月 13 日)、毎
日新聞は各記事の最後に、書いた記者
名が記してある。説明責任ということ
を考えても、他紙と比べるととても先
進的だと言える。
③広告の違いは?
これは大いにある。つまり、大手企
業のものは全国共通だろうが、全国紙
にしか載らない CM もあるようだ。例
えば、1 月 17 日に載せられた兵庫県の
「1・17 宣言」というのは、熊本等で
の地元紙では永遠に知ることができな
いだろう。
「一月十七日は忘れない」で
始まる詩は、素晴らしい。防災教育の教材としてもってこいである。
また、
左 側 の
CM も 素
晴らしか
った。こ
こでは、
その授業
を少し紹
介する。
この広告は、三井住友フィナンシャルグループの
CM で、作家の倉本氏が考案したアンケートを都会と
富良野で実施した結果を紹介してある。
そのアンケートとは、こういうものである。「生活
必需品を 10 ずつ挙げよ。」というものである。本クラスでも、生活必需品を国語辞典で引
かせてから、5 つずつ挙げてもらった。その結果を対比すると、以下のようになった。
順位
都会
富良野
本クラス
1
金
水
食べ物
2
ケイタイ
火
命
3
テレビ
ナイフ
水
4
車
食物
家
5
家
着る物
体
―――――――――
14 位:人
6 位:友達
倉本氏は CM の中で、
「原点に近い暮らしをしていると、自分の暮らしを支えている根源
を見据えて立つ癖がつく」といい、さらに「自分は絶対に一人では生きられない気がする。
そばに誰かしらいて欲しい。故に人間は自分にとってまちがいなく生活必需品である」と
いう。本クラスでは、「友達」と出たことに、ほのかな期待と同時に、「人間とは」という
道徳の授業を行ったことであった。
■この項で、私が言いたいことは次のことである。CM も教師の見方次第で、教材に昇格す
るということである。
④検索システム
毎日新聞の検索システムは、一般に開放してあるところが素晴らしいと考える。登録し
ないですむので、気楽にいつでもどこでも使用することができる。ユニバーサルデザイン
と言えるだろう。
6.情報単元としての新聞社を e-learning で!!
<1>教科書の情報単元は?
新聞社は、教科書にどう取り上げられているだろうか。小学 5 年社会科の教科書にあた
ってみた。教科書会社 5 社の現行教科書(平成 16 年度)を調べてみたら、情報単元として
4 社が放送局を取り上げ、1 社のみが新聞社を取り上げているようだ。これだけから判断す
ると、新聞社はマイナーになっていると言える。もっと我々は、身近な新聞社のことを取
り上げるべきではないのか。そんな気がする。あまりにも、「新聞」そのものに焦点が集中
しているようである。
ところで、文部科学省の「小学校学習指導要領解説
社会編」にこうある。
2.内容⑶我が国の通信などの産業について、次のことを見学したり資料を活用したりして調
べ、これらの産業は国民の生活に大きな影響を及ぼしていることや情報の有効な活
用が大切であることを考えるようにする。
ア.放送、新聞、電信電話などの産業と国民生活とのかかわり
イ.これらの産業に従事している人々の工夫や努力
3.内容の取扱い
⑷の⑶のイについては、放送、新聞、電信電話などの中から一つを取り上
げるものとする。
指導書にはこうあるのだが、教科書の割合からすると、新聞社を情報単元として学習で
きる教科書は 20%にすぎないということになる。
では、新聞社の役割は少なくなっているのだろうか。そうではない。インターネット隆
盛の今でさえも、新聞の役割は情報の記録保持、正確な情報描写、広告量の豊富さ等々か
(媒体別広告費―日本国勢図会 2003/04 年版)てはいないと考える。
ら考えても、色褪せ(「広告費の割合」
このグラフからもそう言えるし、情報の
歴史からしても、瓦版から情報伝達が始
まったことを考えれば、新聞の大切さは
クローズアップされてくるはずである。
むしろ、それぞれのメディアが競い合う
のではなく、補完しあうのがこれから先
の情報化社会の在り方ではないだろうか。
さて、教科書を中心に情報単元の学習
を組んだ場合は、新聞社を学習する子ど
もたちの数は前述の通り、極端に少なくなってしまうのが現状だと言える。
なお、上記の広告費の割合としては、つい先日、ネット広告がラジオ広告を抜いたとい
う記事が出ていた。
<2>e-learning とは
では、情報としての役割が大きい新聞社を情報単元として取り扱うには、どのような方
法があるだろうか。ここからは、放送局を取り上げた会社の教科書を使っている場合を想
定して述べていく。
昨今の文部科学省は、補充・発展学習も認めるようになった。そこで、まずは新聞社を
発展学習として取り上げてみるということが考えられる。例えば、教科書で放送局の内容
を「基礎基本」として学習する。つまり、学び方や情報に関する基礎を精選して学習する
わけだ。その後に、学習の応用として新聞社を調べ学習に使っていくというパターンが考
えられる。
しかし、これでは教師の負担が増してしまうかもしれない。そこで考えられるのは、イ
ンターネットを利用した学習である。今までのウェブサイト上での学習では、どうしても
調べ学習の資料としてしか使えない場合が多かったと思う。授業を肩代わりできるような
ウェブサイトでなければ、子どもたちの発展学習を支援していくことは難しくなると思わ
れる。
そこで、最近注目されているのが、
「e-learning」というものである。別名、「遠隔学習」
とも言われ、高等教育や通信教育、企業内教育で採用され始めているところだが、そのす
そ野は広がりつつあるようだ。一言でいうと、e-learning とは「パソコンとインターネット
を中心とする IT 技術を活用した教育システム」ということになる。
今回、小学 5 年社会科の情報分野に的を絞って、新聞社を学習する e-learning サイトを
開発してみた。下記のアドレスでアクセスすることが可能である。
■e ラーニングウェブサイト「私たちのくらしと新聞」http://e-learning.3.pro.tok2.com/
今回開発した e-learning には、次の
ような利点がある。
① 教科書・資料集・ノートは一切不要
で、全てネット上にて学習を進めて
いくことができる。
② ネット学習を進めながら、メディア
リテラシーが身につくようになっ
ている。
③ 教材は、内容理解として画像や文章、
動画からなり、課題は簡単なテスト
やレポート作成からなっている。
④ 質問や課題等々はメールで提出し、2日以内に私の方で評価を返すようにしている。
⑤ 完全自学自習システムで、ネットにつながったパソコンがあれば、いつでも誰でもどこ
でも、何度でもチャレンジ可能である。
⑥ このサイトは、学習に関する Q&A や、その他の学習情報からなっていて、新聞全体に
関することを学習することができる。
<3>内容の紹介
それでは、少し中身を紹介する。全体で、6 章からなっている。
⑴第 0 章:オリエンテーション
掲示板への自己紹介と、リアルタイムでのチャット学習により学習意欲を高める内容か
ら始まる。このチャット等により一人になりがちのネット学習を架空の教室を再現して支
援していくことになる。チャットでは、学習に対する質問や参加理由等々を述べてもらう
ようになっている。
⑵第 1 章:情報に囲まれたくらし
1 日の生活が情報によって成り立っていることを再確認し、同じ情報でも受け取る人によ
って違った情報になっていることを理解する。
⑶第 2 章:新聞「紙」の秘密
新聞紙第 1 面上方欄外に記されている号数から新聞の年齢を計算したり、版数で情報の
鮮度が違ったりすること等々、新聞紙の秘密を探っていくようにしている。また、署名記
事や通信社との関連、外国為替相場や天気予報、地方新聞の特色等々の各種新聞情報につ
いても学習していく。一方で、新聞のみならず折り込み広告についても、その見方も学習
していく。そして、新聞紙面の構成や新聞の読み方(5W1H や写真の読み取り等)につい
ても学習していくことになる。
⑷第 3 章:新聞「社」の秘密
最初に、新聞社のことをクイズ形式で学んでいき、次に記者の仕事を場面毎に追ってい
く。新聞ができるまでを映像つきで概観し、さらに新聞のおかれた現況や統計資料をグラ
フで読み解いく。なお、ここでの学習は、主に熊本日日新聞社の協力を仰いだ。
⑸第 4 章:新聞 VS 他メディア
新聞 VS インターネット新聞、新聞 VS 放送、新聞 VS 雑誌ということで、対比しながら、
それぞれのメディアの特色を学習する。
⑹第 5 章:まとめと評価
最後の章では、まとめということで新聞作りをする。身近な話題等々から自分なりの新
聞を作成していくようになっている。そして、評価として「単元テスト」を受ける。これ
らは、ダウンロードして解答を書いてから、メールに添付して送り返すというパターンを
とっている。
最後まで修了すれば、
「修了証書」をメールに添付して送るということにしている。
<4>学習方法
以下のような手順で学習していくことになる。
⑴上記ウェブページにアクセスし、受講者情報を村上あてに送信する。
⑵村上からの確認メールが届けば、学習登録完了である。
⑶村上が受講者には週に 1 回、事務連絡のメールを送るので、それを参考にして学習を個
人で進めていくようにしている。
⑷スピードは各自の自由で、わからないことがあったら、村上へメールを送ったり、掲示
板に書いたりして解決を図る。
⑸掲示板とチャットは、最低 1 回体験して頂き、あとは参加自由である。特に、チャット
は月に 2 回定期的に 30 分間行っているので、月初めにウェブページで確認して頂くことに
なっている。つまり、リアルタイムでの学習が可能となるのである。
⑹各章の第 1 節で、その章の学習内容を細かく解説しており、あとはクリック 1 つで学習
を進めていくことになる。
⑺各節の課題が村上へ届いたら、2 日以内に評価をメールにて返信します。各章が終了する
と、総合評定を 4 段階にて評価したエクセル表をメールに添付して送信している。これは、
「学習履歴」を兼ねている。また、学習をやり直すためのレポート再提出等々も可能であ
る。
⑻最後に、単元テストを受け、新聞を作って修了となる。修了した場合は、デジタルの修
了証書をメールに添付してお送りしている。
⑼学習場所は、学校のパソコン室でも家庭からでも可能である。提出等々がうまくいかな
い場合は、郵送や FAX でも構わないが、それらは各自の負担となる。この学習システムは
無料だが、パソコンのアクセス等々は各自の負担となる。
<5>学習経過報告
今までの学習経過をお知らせする。受講者は、小学校 2 年生から成人(保護者)まで、
広範囲にわたる。2004 年前半に、のべ 34 人の方が受講され、その声を少し紹介する。
○ 小学生には、学習過程でネット以外のナビゲーション手段もいるのかなと思いました。
○ とてもわかりやすく、楽しく学習できました。もっといろいろな学習ができるといいで
すね。
○ フィードバックの必要が生じた場合、子どもにとっては動画があまり多いと、煩雑にな
るのかもしれないと感じました。
○ 全体的に少し量が多かったですが、課題やレポートはとても楽しくやりがいがありまし
た。
○ お忙しい中、たいへんていねいにお答え頂いたと思っています。
○ ちょっと難しいところがあったので、もっと簡単なのがあったらドンドンやってみたい
です。
○ 本当に、先生や小学生の皆さんといろいろな触れ合いを頂き、感謝しています。
○ 新聞のトップニュースやリードがどこにあるかわかったので、新聞を前よりたくさん読
むようになりました。
○ 塾の学習や他にもたくさんやることがあって、なかなか進めることができませんでし
た。
<6>成果と問題点
この e-learning を実践して、まずは成果から箇条書きにしてみる。
① は、ある程度まで個別新聞全体について学ぶ箇所が教育段階で不在であったが、このサ
イトにより概観できるようになったのではないかと感じている。つまり、教科書教材と
して、新聞社があろうとなかろうと、気軽にアクセスして学習していくことができるよ
うになったということである。
② 発展学習ということで、細部に入りすぎた箇所があり、内容が小学生にとっては高度に
なりすぎたのではないかと思ったが、受講者からは全体的には概ね「適当」という評価
を頂いた。
③ 新聞社の発展学習としては、この e-learning がベストではないかと考える。理由は、個
別学習において個々人を支援していく(学習スピードや理解状況の違い等々)のは相当
な労力を必要とするが、このシステムで対応が可能である。さらに、今では新聞社自体
がウェブサイト上にウェブページを持っているので、アクセスして学習していくのに都
合がよかった。何しろ、日本全国の地方新聞を気軽に見ていくことができるというのは
大きかった。
最後に、今後の課題を同様に、箇条書きにしてみる。
⑴チャットに関しては、ネチケットの問題も含めて、様々な問題が横たわっているので、
導入に際しては注意を必要とする。できれば保護者の目の届くところでの学習を推奨す
る。
⑵何が何でもインターネットというのは避けたいので、この学習に入るまでに、調べ学習
の基本として、国語辞典や百科事典の引き方、電話のかけ方、手紙の書き方、課題の立
て方、インタビューの仕方等々の学習を済ませておくことが望ましいと考える。
⑶課題に関しては「難しかった」というのもあったので、内容をもっと単純にしていく必
要があると感じた。特に小学生によっては、ネットばかりでなく、隣にいての支援が必
要であると感じた。
⑷教材作成においては、小学生が喜びそうなキャラクターやストーリー性をもっと取り入
れなければと感じた。
以上のような実践をしてみた。今後、できるところから手直しをして、さらにいいもの
を作っていけたらと感じているところである。なお、学校の授業で利用されたい場合は、
自由にお使い下さい。その際は、課題提出等々は担任の先生でお願い頂く。
7.メディアリテラシー
■メディアリテラシーとも関連してくるのだが、我々教師には教材開発リテラシーが必要
だと考える。
裏を読み取れば見えてくるものがある。見えないものを見る力こそが重要となる。
ということである。
新聞記事を「表」と考えれば、当然記者の意図という「裏」が存在する。全てこのよう
に考えていくと、教材開発は身近になると考える。例えば、起業家教育を考えてみよう。
前任校で 4 年生を担当していた時に、保護者にレストラン経営者がおられた。そこで、環
境ホルモンの問題と食育も絡めて、そのレストランのあるデパートを探検させた。そして、
エスカレーターの途中迂回路(購買意欲向上策)、最上階でのイベント(シャワー効果)、
地階の食料品売り場(噴水効果)等々の効果を学習させていった。こうすることで、企業
のやり方が見えてくる。そして、圧巻はレストラン見学をした後、その気づき(例えばエ
スカレーターを上った先にディスプレーがあること等々)を発表させて、「自分がレストラ
ン経営者なら」ということで簡単な設計図を書かせる授業をしたりした。こうやって、起
業の視点というのを学習させていったが、これはメディアリテラシーの手法と同じだと考
える。
いまそこにある「モノ」
(表)をしっかり見れば、制作者の考え等々(裏)を見抜くこと
ができる。これがひいては、教材開発の一歩となっていく。
その例を上げればきりがないのだが、詳しくは、私のウェブページをご覧下さい。問題
は、その見抜き方なのだと考える。そのためのメールマガジン(MM)も発行しているので、
私のウェブページより無料講読できる。
■そもそもメディアリテラシーとは、
『メディアリテラシー』
(菅谷明子著
岩波新書
2000
年)によると、こうある。
●「メディアが形作る現実を批判的に読み取るとともに、メディアを使って表現していく
能力のことである。(中略―村上)機器の操作能力に限らず、メディアの特性や社会的な意
味を理解し、メディアが送り出す情報を構成されたものとして建設的に批判するとともに、
自らの考えなどをメディアを使って表現し、社会に向けて効果的にコミュニケーションを
はかることでメディア社会と積極的に付き合うための総合的な能力を指す」
●「メディアが送り出す情報は、現実そのものではなく、送り手の観点からとらえられた
ものの見方のひとつにしかすぎない。事実を切り取るためにはつねに主観が必要であり、
また、何かを伝えるということは、裏返せば何かを伝えないということでもある。メディ
アが伝える情報は、取捨選択の連続によって現実を再構成した恣意的なものであり、特別
な意図がなくても、制作者の思惑や価値判断が入り込まざるを得ないのだ」
●「メディアの現実をさらに複雑にしているのは、ニュースは中立公平・客観報道といっ
た建前と現実のギャップである。(中略―村上)情報の送り手側はメディアが持つ限界を世
にさらし、また、受け取る側もその現実に対峙する必要があるのではないだろうか」
■諸外国ではどうなっているのだろうか。同じく同書には、こんなことが紹介されていた。
■アメリカでは、NPO「チルドレンズ・エクスプレス」(子ども通信社)というのがあり、
著名人へのインタビューも敢行し、優れた報道を行っている。大人と子どもでは見方がま
るで違うので、両方の視点を社会に反映させ、多様性を打ち出すことが重要という。また、
権力の番犬(ウオッチドッグ)がジャーナリズムなら、そのジャーナリズムの番犬はメデ
ィア・ウオッチドッグという団体である。公正さと正確さをチェックしており、例えば「日
本がハリウッドを侵略」
(ニューズウィーク)という見出しが、もし他国だったら「侵略」
という語句を使わなかっただろうというような論評をしている。
■英国では、国語科(正確には英語科という)の授業にメディア教育(英国ではメディア
リテラシーとは呼ばない)が組み込まれている。英語科の「読む」分野に 4 つの対象が組
み込まれている。「英文学遺産」「他文化・伝統によるテクスト」「活字媒体」「情報テクノ
ロジーによるテクスト」
「メディアと動画」
○ 活字、イメージ、音などが統合されてできているテクストがどう意味をなすか
○ 形式やレイアウトなどの選択がどう効果に関わるか
○ メディアの性質や目的がどう内容や意味に関わるのか
○ 視聴者・読者はどうメディアを選択し反応するか
中等教育では、英語科とは別に選択科目として「映画とメディア研究」「メディア研究」
「メディア研究上級レベル」の 3 科目がある。ロンドン市内グラッデスモア高校「広告プ
ロジェクト」
(広告の仕組み・広告代理店の役割・商品開発・CM 作成等々の学習)
■カナダでは、メディア学習は全ての学校で義務づけられている。
○ 1 年生→写真や絵を使ってストーリーを作る。
○ 2 年生→番組とコマーシャルの違いがわかる。
○ 3 年生→クローズアップやローアングルなど映像ショットの違いを学習する。
○ 4 年生→屋外広告や T シャツ広告について学習する。
○ 5 年生→ニュース、ドキュメンタリー映画、インターネット、CD-ROM 等々における
情報伝達の特徴を考える。
○ 6 年生→情報の送り手による誇張表現、偏った情報を見極める。
子どもたちの理解度も高く、以下のようなコメントを寄せている。
「記事のアングルとか、写真の使われ方、それにタイトルやキャプションまでもが気にな
るの。この記事が一面なのはなぜかと考えちゃう。おかげで新聞を読むのにずいぶん時間
がかかるけど。」「先生のせいで、昔みたいにテレビや映画を無邪気に楽しめなくなった。」
■最後に、私が今一番、教材開発を進めていかねばならないと考えているのは、毎日新聞 2
月 1 日に特集してあった「報道被害
傷癒えぬ」という問題である。このことをもっと、
NIE 実践で取り上げていかねばならないのではないかと、思案中である。また、その一方
で、日本新聞協会が取り組んでいる「HAPPY NEWS 2004」というイベントは素晴らしい
と思う。その冒頭にこうある。
心がぽっとあたたまったり、勇気がふっとわいてきたり。新聞を読んで、そんなうれし
い気持ちになったこと、ありませんか。新聞記事は人の暮らしそのもの。世の中の HAPPY
が増えるほど、HAPPY な記事も増えていくはず。そうなることへ願いをこめて、日本新聞
協会は「HAPPY NEWS 2004」を募集します。毎日の暮らしの中で、あなたが新聞を読んで
HAPPY な気持ちになった記事と、その理由を送ってください。どんな小さな記事でも結構
です。発表は 2005 年 4 月 6 日の「新聞をヨム日」。あなたがみつけた HAPPY を、どうぞた
くさんの人に広げてください。
こんな新聞記事が増えるといいなーと思う。このような記事が増えるということは、社
会がそれだけよくなる、あるいはよくしていこうという気構えにつながることになるので
はないか。こう考えると、「新聞は社会を写す鏡」だとつくづく感じる。
■そして、もう1つ提案である。毎日新聞 2005 年 2 月 4 日立春の社説に、
「心弾む読書
次
の半世紀も」と題して、こうある。
「読書を楽しみ、感動を文章に表現することを通して、豊かな人間性や考える力をはぐく
む」
そんな願いをこめて始まった「青少年読書感想文全国コンクール」(全国学校図書館
協議会、毎日新聞社主催)が、・・・・
ここの箇所で、「読書」「本」という単語を「新聞」に置き換えてみたら、どうなるだろ
うか。表現してみる。
「心弾む『新聞』
次の半世紀も」
新聞を楽しみ、(中略―村上)受賞作品を読むと、「新聞」と出合い、読み、書くという
行為がその人の成長の大きな糧になっていることがよくわかる。さらに何か問題意識をも
って読むと、
「新聞」はそれにきっちり応えてくれることも、記事から感じ取れる。優れた
感想文にはそんな対話、キャッチボールがある。「考える『新聞』」が根付いていることが
うかがえ、心強い。(中略―村上)テレビやパソコン、携帯電話などが日々の生活に入り込
む時代になった。しかし情報があふれるほど、考える力、読解力、判断力が大事になる。
その土台をつくるのが「新聞」であり、「新聞」の重要性は増してきている。「新聞」推進
運動の発展が必要であり、その核の一つして、次の半世紀もコンクールをさらに充実させ
ていきたい。
私が提案したいことを述べて、本レポートを終わる。
「青少年新聞感想文全国コンクール」(毎日新聞社主催)
村上浩一の教材開発
私たちのくらしと新聞社
http://www5f.biglobe.ne.jp
http://e-learning.3.prp.tok2.com/
熊本市立出水南小学校教諭:村上浩一