e-learning による救急看護実践能力の育成

e-learning による救急看護実践能力の育成
―救急隊・ER 連携での事例提供―
石橋カズヨ・聖マリア学院大学*
牧
香里* 佐藤 亜紀*
七田理恵子・聖マリア病院
山津 靖宏 ・鳥栖市消防本部
連絡先(久留米市津福本町 422・℡0942‑35‑7271
FAX0942‑34‑9125・Email:ishibashi@st‑mary.ac.jp)
キーワード:e‑learning.救急看護実践能力.救急搬入事例
1.はじめに
を教授し、終了後は e‑learning の「小テスト」機能と
看護系大学では卒業時の看護実践力の低下が問われ
メッセージ機能を活用して理解度を確認する。また、
ており、根幹となる看護技術教育が課題となっている。
市販ソフトを利用して一次救命の基礎知識の復習と救
カリキュラムは基礎分野・専門基礎分野・専門分野Ⅰ・
急看護への動機づけを行う。
Ⅱで構成され、看護学は専門分野に位置づけられてい
る。本学の専門分野(精神看護学、成人看護学、老年
看護学、地域看護学、母子看護学、助産学)では、基
礎看護学の学びを土台に、あらゆるライフサイクルに
ある人々の健康状態に対応した看護実践(応用力)を教
授する。その授業展開は、講義・学内演習・臨地実習
へと連動しているのが特徴である。しかしながら、一
般市民への AED の普及が進められる現在にあっても、
最もスタンダードな心肺蘇生技術や専門的なフィジカ
ルアセスメント力を要求される救急看護場面を臨地実
習で経験することは皆無である。そこで、卒業時の到
達度向上のみならず救急看護実践能力の育成に寄与す
2)システム運営の準備と展開
ることを目的に、大学・救急隊・救急救命センター(以
教員は、学習目標達成に有効な救命救急を要する傷
下、ER)スタッフが連携して、救急医療の実際をリアリ
病者の事例を選び、事故発生から救急隊の現場到着、
ティのあるコンテンツとして提供し、事例に対する観
救急活動、救急搬送までのプレホスピタルケア(病院
察・判断・ケアの選択を e‑learning を通して反復学習
前救護)のシナリオを作成し、救急救命士に提示する。
できるシステムを現在構築中である。
救急隊は提示された事例のシナリオについて、救急救
命士の立場から「救急搬送傷病者に対するプロトコー
2.学習支援のための地域連携システムの構築
システムの軸となる救急看護学習会のための地域協
働図で学習支援の全体像を示す(図 1)。
1)学習システムへの導入段階
1年次基礎看護学において一次救急を学んだ学生が、
ル」に基づきシナリオを修正し提案する。一方、救急
看護認定看護師に対しては、病院に搬送途中の救急隊
からのホットライン受信と搬入準備、搬入、搬入後の
経過に基づく医療シナリオを提示する。ER スタッフは、
ER 現場のリアリティを再現できるようシナリオを修正
2年次で成人期のあらゆる系統別機能障害患者の看護
し提案する。三者の協働で完成したシナリオに基づき
を学ぶ。前期の講義・演習では共通事例で看護方法論
「学生のための救急看護学習会」を開催する。学生の
社団法人 私立大学情報教育協会
平成20年度 教育改革IT戦略大会
参加は学年を問わず自由である。救急隊と ER スタッフ
必要なケアを選択し、そのエビデンスを考察できる。
をインストラクターとした学習会では、模擬患者の事
第3に救急医療の実際に接することで生命の尊重と医
故発生からプレホスピタル―インホスピタルに至る救
療の役割を実感できる。第4に一次医療・二次医療で
急場面がシナリオ通りに展開される。デモンストレー
要求される看護技術の確実な修得が期待できる。第5
ション後は、場面別に学生とインストラクターとのデ
に映像による自己点検で達成度が高まれば、就職時の
ィスカッションを行う。資器材や医療機器に触れ、観
リアリティショックの防止に役立つ。
察技術やケアを直接体験する機会にもなってる。
3)e‑learning 用コンテンツの作成と配信
コンテンツは、学習会後にシナリオに沿って作成し、
4.今後の課題
開学 3 年目であり、2年次に経験した学生が3年次
場面別に整理した VTR とともに Web 上に配信する。
での配信事例にどのように取り組み、どのような反応
コンテンツの一例を図 2 に示す。各節の途中には簡単
を示すかについては今後評価することになる。つまり
システムの最終段階である救急車同乗見学とカリキュ
ラムにおける各論実習は本年度後期からの開始となる
ため到達度評価は今後の課題である。
5.終りに
メディア教育開発センター(NIME)による調査では、
看護学での e‑learning の導入は、わずか 12 大学、2 短
期大学の合計 14 校のみであるのが現状であった(2006)。
e‑learning 活用の効果については、
「学生が自由に教材
を繰り返し利用することによって、予習や復習の内容
を深められること、授業においての活用は、事例のイ
メージ化の促進を図り、思考過程を豊かなものにする
な「確認テスト」を用意し、間違えた場合には再度、
効果があるのではないか(真嶋等 2007)2)との見解があ
解説を読み復習できる。全体の学習が終了したら「修
る。つまり、e‑learning は学習者が進んで利用しない
了テスト」にチャレンジすることになる。いつでも・
と効果が得られない。学習会後のアクセス状況からみ
どこでも・何回でも、配信される救急搬入事例の学習
ると、救急場面のリアリティさやインストラクターと
に取り組み、病態を分析し、症状のアセスメントを行
の接触で、救急看護をより身近に感じ、e‑learning に
い、必要なケアを選択することができる。Web 上で、ケ
取り組もうという意欲につながっているのではないか
ア選択の根拠について教員とディスカッションし考察
と推測される。IT 教育の視点から看護に必要な思考・
することも可能である。
判断・実践力をサポートするにも、いかに学習意欲を
高めるコンテンツをつくるかが重要な鍵となろう。
3.成果あるいは期待される効果
学生の関心は、リアリティのある救急搬入事例への
(文献)
デモンストレーションで一気に高まり、学習会参加者
1)メディア教育開発センター:e ラーニング等の ICT を
以外のアクセス数も徐々に増加している。学習会後の
活用した教育に関する調査報告書,千葉,メディア
アンケートによれば、88.5%の学生が「救急車同乗体
教育開発センター,2008
験を希望する」など、学習意欲の向上がみられた。ま
2)真嶋由貴恵,中村裕美子:看護実践能力の獲得を支
た、今後に期待される成果は、次の5点である。第1
援する e‑learning ‐ CanGo プロジェクトの実践−.
に e‑learning により提供される救急患者の病態、症状
看護教育 48(4):298‑302,2007
のアセスメント力が高まる。第2に事例の救命救急に
社団法人 私立大学情報教育協会
平成20年度 教育改革IT戦略大会