C6:クラウジウス・クラベイロンの式

実験 C6
クラウジウス-クラペイロンの式
この実験では,クラジウス – クラペイロンの式を使って,液体の温度変化に対する(液体の)蒸気
圧の変化を調べます。
イントロダクション
化学者たちは,温度が変化する際の蒸気圧の変化を,クラジウス – クラペイロンの式を使って
説明しています。数学的に表すと,次のようになります。
ln P =
∆Hvap  1 
  +C
R T
クラジウス – クラペイロンの式を使って,蒸発のエンタルピー(熱)を計算できます。この実験で
は,水の蒸気圧と温度の効果に関するデータを収集します。
この実験では,逆さにしたメスシリンダーの中に空気のサンプルを入れ,それを水浴の中で熱
して,空気のサンプルを水蒸気で飽和させます。蒸気が冷えると,空気中の水蒸気の量は減少
しますが,気体のモル数は一定です。
シリンダーの中の空気のモル数を計算することによって,任意の温度における空気の分圧を求
めることができます。室内の気圧をもとに簡単な計算を行うことによって,水蒸気圧を求める
ことができます。
空気中の水蒸気が1%以下である0°C の近くで,空気のモル数を決定します。その場合の水蒸気
の量は無視できますが,計算の精度に影響します。目標は,集めたデータをクラジウス– クラペ
イロンの式を使って処理して,水の蒸発のエンタルピーを求めることです。
Note: この方法を使うと必然的に誤差が出ます。逆さにしたメスシリンダーの中のメニスカス
によって,体積の測定が不正確になります。10ml のメスシリンダーの場合には,誤差は0.2ml
になります。精度の良い結果を得るためには,この値を体積の測定値から引きます。
必要な装置
Ÿ
ガスバーナー,三脚,石綿つき金網
(またはホットプレート)
TI 温度センサー
Ÿ
点火装置(ガスバーナーを使う場合)
Ÿ
10ml のメスシリンダー
Ÿ
プラスティックの盆
Ÿ
1リットルのビーカー
Ÿ
TI-GRAPH LINK (オプション)
Ÿ
蒸留水
Ÿ
マグネチック・スターラーとスターリング
バー(オプション)
Ÿ
スタンド
Ÿ
CBL
Ÿ
接続ケーブルのついた電卓
Ÿ
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CBLを使った化学の探求 79
プログラム
プログラム CLAUSIUS を電卓にダウンロードして使用します。
装置の設定手順
図1にしたがって,次の手順で装置を接続します。
A それぞれの機器の下部にある入出力口を使って,接続ケーブルで CBLを電卓に接続します。
ケーブルの端をきっちり押し込んでください。
2
温度センサーを CBL の上側にあるチャネル1 (CH1)に接続します。
3
温度センサーをクランプを使って,スタンドに取りつけます。
4
CBL と電卓の電源を入れます。
これで,CBL が電卓からの命令を受け取ることができます。
図 1 : 装置の設定
実験手順
A
10ml のメスシリンダーに蒸留水を6 -7 ml 入れます。1リットルのビーカーを水道水で一杯
にします(後で述べるように,逆さにしたメスシリンダーを入れる余地を残します)。
2
メスシリンダーを指か手でふさいで,急いでビーカーの水の中に入れます。実験の精度を
上げるためには,メスシリンダーの中に水を4 - 5ml 入れます。
3
必要ならば,さらに水を入れて,メスシリンダーの中の空気がビーカーの中の水で完全に
ふたされているようにします。
4
ビーカーをバーナーの上の金網に乗せます(または,ホットプレートの上に置きます)。
5
ビーカーの水が約80ºC になるまで熱します。
80 CBLを使った化学の探求
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メスシリンダーの中の空気の体積を慎重に観察します。水温に関係なく,メスシリンダー
の中の水面が目盛りを越えたところで,ビーカーをバーナーの上から,マグネチック・ス
ターラーの上のプラスティックの盆の上に移します。スターリングバーをビーカーの中に
入れ,水全体が同じ温度になるように非常にゆっくり攪拌します。
7
温度センサーを取りつけたクランプを下げてスタンドに固定します。図1のように,温度セ
ンサーがメスシリンダーの横に,水に浸かっているように設置します。
8
気体の体積が読みとれる(10ml またはそれよりわずかに少な目)ようになったら,CBL の電
源が入っていることを確認します。電卓でプログラム CLAUSIUS をスタートします。指示
が表示されたら,センサーを接続したチャネルの番号と,集めるデータの個数「20」を入力
します。温度データを測定する度に,気体の体積を0.1ml の単位で読み取ります。「ML?」と
表示されたら,その値を入力します。
Note : 温度の値を調べるためには,CBL の Nを押します。「ML?」と表示されたら,メ
スシリンダー内の気体の体積を0.1ml の単位で入力します。そのデータは電卓の画面に表
示され,Nをもう一度押すまで,プログラムは停止します。
9
お湯が冷えてメスシリンダー内の気体の体積が変化したら,水温が約50ºC になるまで,約
0.2ml の間隔でさらに測定します。冷却を早めるために,氷を使ってもかまいません。し
かし,その場合には小さな氷を使用します。気体の体積の変化は水温ほど速くはないので,
誤差が生じます(氷を入れて水が溢れても,盆があるので問題ありません)。
J
水温が50°C になったら,大きな氷を入れて,5°C に冷やします。「ML?」と表示されたら,
そのときの気体の体積を入力します。全データを測定したあとで,収集したデータの
STAT PLOT を表示します。CBL の Nをもう一度押して,データの収集を終了します。
K
教室の気圧計で気圧を計って,実験ノートに記録します。
1.
L4 の中の温度データを処理し,表1のような表を作成してください。気体の体積は L5 に入
っています。
2.
最も低い温度における温度と体積のデータと,室内の気圧データを使って,メスシリンダ
分析
ーの中の空気のモル数を計算してください。低温のため,水蒸気圧が無視できると仮定し
ていることに注意します。したがって,温度が低いほど計算が正確になります。結論部分
で説明される式を使って,P空気とP水 を計算してください。
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CBLを使った化学の探求 81
3.
1/Tを L1 に入れ,蒸気圧 (lnP水) を L2 に入れます。STAT PLOT を指定し,図2のように,L1 と
L2 のデータを散布図(Ðのマーク)にします。このグラフとクラウジウス – クラペイロンの式
を使って,水の蒸発のエンタルピーを求めることができます。TI-GRAPH LINK を使って,
データをコンピュータに送って,このグラフを印刷してください。
Note : 電卓の統計機能の利用方法については,ガイドブック「CBL System Compatible
Calculators」の“Performing Data Analysis (データ分析)”を参照してください。
4.
データの精度を検査してください。次の2つの方法があります。
(1) 電卓の rを使って,65°C 周辺の温度における水蒸気圧を STAT PLOT から読んで,
測定値と比較する。
(2) グラフから,水の沸点を推定して,それを通常の水の沸点と比較する。
結論
Note : 電卓の統計機能の利用方法については,ガイドブック「CBL System Compatible
Calculators」の“Performing Data Analysis (データ分析)”を参照してください。
実験の精度を調べるときに,実際の気化熱 (40.6 kJ/mol )を参照することができます。実験レポ
ートの結論部分には,実験結果に影響を及ぼした要素についても書いてください。
1.
メスシリンダーの中の空気のモル数は,次の方程式で計算できます。
PV = nRT
ここで,P = 室内の気圧,V = 体積,R = 気体定数,T = 温度 です。
n=
PV
atm ) ( 0.0065 L )
( 10188
.
=
RT ( 0.08206 L atm / K mol ) ( 318K )
= 0.000227 mol air
2.
絶対温度318度で体積が6.5 ml ある空気柱に対する空気圧( P空気 )と水蒸気( P水 )は,次のよ
うになります。
P空気= nRT
V
P空気
=
P水 = P室内 N P空気
(0.000227 mol air) (0.08206 L atm / K mol) (318 K)
0.0065 L
P水 = 1.0188 atm room pressure N 0.9113
82 CBLを使った化学の探求
= 0.9113 atm
= 0.1075 atm
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表1に,この実験の典型的な測定結果の例を示します。TI-82を利用すると,収集したデー
タを有効に処理でき,クラジウス – クラペイロンの式の本来の意味を理解することができ
ます。
容積(mL)
絶対温度
6.5
6.8
7.2
7.6
8.3
9.8
318
323
328
333
338
344
1/T
P空気 (atm)
P水(atm)
0.00314
0.00310
0.00305
0.00300
0.00296
0.00291
0.9113
0.8848
0.8486
0.8162
0.7586
0.6539
0.1075
0.1340
0.1702
0.2026
0.2602
0.3649
lnP水
L2.230
L2.010
L1.771
L1.597
L1.346
L1.008
表1
3.
L1 と L2 に入っているデータの線形回帰モデルを求めるには,STAT CALC メニューで
「LinReg L1,L2」と入力します。
4.
1/T ( x 軸) - ln P水 ( y 軸)のグラフの線形回帰は,次のようになります。
傾き(a)
= L5103
y軸との交点(b) = 13.785
r
=
L0.9949
5. 水の蒸発のエンタルピー( ∆Hvap ) は,∆Hvap が上記の直線の傾きに関係することを使って,
次のように計算できます。
傾き
=
∆Hvap/R
( R = 8.3145J/K mol)
-5103 =
∆Hvap/8.3145J/K mol
∆Hvap
=
42,429 J/mol
∆Hvap
≅
42.4 kJ/mol
図2に液体の蒸気圧 lnP水 ( y 軸)と1/温度 ( x 軸)の
STAT PLOT を示します。上記の3.で計算した線形
回帰モデルを「Y=」に入力して,STAT PLOT と同時
に表示します。window 変数は ZoomStat を使っ
てください。そのグラフの直線の傾きが ∆Hvap/R
に等しくなります。
図 2 : 1/T( x 軸) - lnP水 ( y 軸)
6.
よく出版物で紹介されている水蒸気のエンタルピーの値は40.6 kJ/mol で,5.で求めた42.4
kJ/mol と比べると,良く合っています。
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