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DVA(Department of Veterans Affairs) P.22 (1) VA の研究開発活動の特徴 P.22 (2) 外国企業との共同研究に際してのリスクマネジメント P.23 3. エネルギー省再生可能エネルギー研究所(National Renewable of P.24 Energy Laboratory:NREL) (1) NREL の特徴 (2) 研究成果の帰属 P.24 (3) NREL の研究業務の分類 P.25 (4) ライセンス活動 P.26 (5) 外国企業へのライセンス等 P.26 (6) 外国企業との共同研究(CRADA)契約の締結に際して P.27 P.25 第三章 米国における大学技術移転機関での国費研究成果に係る対忚 1. ヒアリング調査対象大学 P.29 (1) 選定基準 P.29 (2) 分析 P.29 (3) ヒアリング調査実施対象大学 P.32 2. 質問項目及び面接者 P.38 3. 大学ヒアリング調査結果まとめ P.42 第四章 米国調査におけるまとめ まとめ 【参考資料】 大学技術移転局へのインタビューの結果まとめ P.45 P.46 第五章 日本における関連法規制の整理 1.日本版バイ・ドール規定(産業活力再生特別措置法第 30 条) P.55 (1)背景 P.55 (2)措置の内容 P.55 (3)施行 P.55 2.産業技術力強化法 P.56 (1)産業活力再生特別措置法から産業技術力強化法への移管 P.56 (2)日本版バイ・ドール規定の対象の範囲の拡大 P.56 (3)日本版バイ・ドール規定の対象となる権利の一部変更 P.56 第六章 日本の大学における外国企業等との共同研究におけるリスク マネジメントについて 1.日本の大学のヒアリング調査結果まとめ P.59 2.日本の大学のヒアリング内容 P.62 あとがき P.72 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて はじめに 日本国民の税金である国費が投入されている研究活動の成果は、言うまでもなく、一義的には国民に還元されなけ ればならない。研究成果を活かし新たな商品、サービスが生み出され、それらが国民の生活を便利にし、豊かにして いくことによって国民及び社会全体にその成果が還元されていくことが求められる。 国による研究成果や国が支援している大学の研究成果は、直ちに新商品に結びつくものは多くはなく、また、国や大 学には商品を開発していく能力やマーケットのニーズを敏感に見抜く力も十分に備わっていない場合が多い。このた め、産業界と連携していくことにより、研究成果を最大限、社会に還元していけるようにするための取り組みが産学 官連携活動の「肝」と言えよう。 しかしながら、企業活動のグローバル化、研究開発のオープン・イノベーション化が叫ばれて久しい今日、研究成果 は国境を越え様々な場所、分野で活用されているのが実態であり、その研究成果が直接的には自国民に還元され ない場合があるというジレンマも顕在化し始めている。このような場合、スポンサーたる国民に対して、研究開発予 算の支出について、政府が説明責任を十分に果たせないということになり、国費を使った研究成果の海外流出をあ る程度、食い止めるべきとの論調が散見されても不思議ではないであろう。 他方、米国ではバイ・ドール法等をベースとして、産業界、大学、政府機関の間の産学官連携活動において 30 年以 上の実績があり、様々な事例・経験が蓄積されている。また、米国マーケットは数多くの国々の企業にもアクセスし 易いオープンなマーケットになっており、国費研究成果の流出について、上記と同様なジレンマを抱えるケースも多 いものと想定される。 このため、本調査では、米国が国費研究成果の国外流出についてどのように対忚しているか、そのリスクマネジメン トに焦点をあて調査を行った。具体的にはまず、産学官連携活動において国費研究成果の国外流出を防ぐため、ど のような法整備等が行われているのかを整理し、そして、成果のハンドリングを実際に行うプレーヤー、すなわちス ポンサー省庁、大学の技術移転局が、関連法規を踏まえ、実務面でどのような対忚をしているかについて、ヒアリン グ調査を行った。また、日本の大学の現状についても併せて調査を行った。 本調査は文部科学省による補助金「大学等産学官連携自立化促進プログラム【機能強化支援型】」を受け、名古屋 大学産学官連携推進本部が実施したものである。本調査結果が日本の産学官連携関係者にとって、研究成果の国 外流出リスクマネジメントに係る企画立案、実務等において、僅かながらも参考となることを願ってやまない。 末筆ながら、ご多忙の中、ヒアリング調査等に対忚してくださった米国政府機関の方々、大学技術移転局の皆様に ここにお礼を申し上げる。 平成 24 年 3 月 名古屋大学 産学官連携推進本部長 宮田 隆司 ―1― ―2― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第一章 米国における国費研究成果の国外流出防止に係る関連法規制の整理 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1.国費研究成果の国外流出が懸念されるケースの分類 国費による研究成果と一概に言っても、それが生み出される際の国の関与の仕方には様々なタイプが存在し、また、 関与するプレーヤーも異なる。法規制は行為やその行為者を特定して整備されるのが通常であることから、国外流 出リスクが想定されるケースを予め整理する必要がある。全てのケースを詳細に分類することは困難であるが、国 費研究成果の創出形態に忚じて、大きく下記の通り分類できる。 ① 連邦政府研究機関が自ら研究開発したもの 例えば、国立衛生研究所(National Institute of Health : NIH)所属の研究員が研究開発した成果など、連邦政府機 関に属する者によって実現されたもの ② 連邦政府が大学にグラント(補助金)を支給し、大学が研究開発したもの 連邦政府自体は直接、研究開発に関与しないケース。例えば、全米科学財団(National Science Foundation : NSF)が大学にグラントを支給し、その研究費を活用して大学が研究開発した成果 ③ 連邦政府研究機関と民間企業、または大学の共同研究により、研究開発されたもの 連邦政府と民間企業 、大学が共同研究開発契約( Cooperative Research and Development Agreement : CRADA)を締結し、共同研究を行った結果生じた成果 表1: 国費研究成果の創出形態と想定される流出リスクの分類(イメージ) ① セルフタイプ ② グラントタイプ ③ 共同研究タイプ 国費研究成果の 創出形態 連邦政府研究機関が自ら 実施した研究開発成果 連邦政府機関が大学に研 究費を助成し、大学が研 究開発した成果 連邦政府研究機関と民間 企業・大学が CRADA を 締結し、実施した研究開 発成果 関係するプレーヤー 連邦政府研究機関 例)NIH、エネルギー省関 係民営研究所 大学 連邦政府機関(スポンサー 省庁) 連邦政府研究機関 民間企業、大学 想定される 国外流出リスク 連邦政府が成果を外国 企業にライセンスし、国 外流出 大学が成果を外国企業 にライセンスし、国外流 出 大学が成果をベースに 外国企業と共同研究を 実施し、新たな成果と共 に国外流出 連邦政府が外国企業 と CRADA を締結。成 果が外国企業に帰属 するという契約に基づ き国外流出 2.対忚する法律 米国では、国費研究成果の研究成果の国外流出を防止する目的ではないが、上記研究成果の活用、技術移転促 進という観点から、各種法律が整備されている。特に有名なものはバイ・ドール法であるが、上記の表に対忚して、 関連する法律を整理すると表2の通りとなる。ここでは、これらの法律について、その概要及び外国企業に関する規 定を整理する。 ―3― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 表2: 対忚する関連法律等 ① セルフタイプ ② グラントタイプ ③ 共同研究タイプ 国費研究成果の 創出形態 連邦政府研究機関が自ら 実施した研究開発成果 大学 に研 究費 を助 成し、 大学が研究開発した成果 連邦政府研究機関と民間 企業・大学が CRADA を 締結し、実施した研究開 発成果 関係するプレーヤー 連邦政府研究機関 例)NIH、エネルギー省関 係民営研究所 大学 連邦政府機関(スポンサー 省庁) 連邦政府研究機関 民間企業、大学 想定される 国外流出リスク 連邦政府が成果を外国 企業にライセンスし、国 外流出 大学が成果を外国企業 にライセンスし、国外流 出 大学が成果をベースに 外国企業と共同研究を 実施し、新たな成果と共 に国外流出 連邦政府が外国企業 と CRADA を締結。成 果が外国企業に帰属 するという契約に基づ き国外流出 対忚する法律等 Stevenson-Wydler Technology Innovation Act (15 USC 3701-3722) Bayh-Dole Act (35 USC 200 – 212) 1986 年 Federal Technology Transfer Act により Stevenson-Wydler Technology Innovation Act に CRADA 条項を追加 15 USC 3701a Bayh-Dole Act 関連条項 35 USC 209 3.バイ・ドール法 バイ・ドール法(Bayh-Dole Act)は昨年、施行 30 周年を迎えたところであり、その果たした役割や意義はもちろんの こと、見直しの議論を含め、現在、米国内でいわゆるその功罪が論じられているところである。しかしながら、同法が 大きな役割を果たしたことについては疑う余地はなく、今後 30 年に向けても、概ね現行制度をベースに必要に忚じ て改善され、産学連携が展開されていくことになるというのが、米国産学連携関係者のほぼ共通した見解と言っても 過言ではない。 日本においても 1999 年に産業活力再生特別措置法が施行されたが、同法内にも日本版バイ・ドール条項が盛り込 まれるなど、バイ・ドール法は日本の産学官連携関係者の間でも馴染みが深い法令と言える。これまでに、多くの研 究者によって、その意義、統計をめぐる各種調査研究が進められてきている。このためここでは、こうした調査につい ては割愛し、本調査の趣旨に則り、特に連邦政府の支援を受けた研究成果の取り扱いについて、バイ・ドール法が どのように規定しているかを確認することとする。 ―4― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて バイ・ドール法の主な規定 1 大学を含む非営利団体と中小企業は、連邦政府の資金による研究プログラムの下で開発された発明に対 する権利を保持できる 大学は、連邦政府の補助金から生じる発明の利用を促進するために営利企業と協力するよう奨励される 大学は、自身が所有することとした発明について特許出願をすることが望まれる 大学は、中小企業へのライセンスを優先することが望まれる 政府は世界中で非独占的実施権を有する 政府は march-in する権利を有する (1) バイ・ドール法の概要 ① U.S. Code 米国の法体系では、バイ・ドール法という呼称はあるものの、そうした名前の法律が独立して存在するのではなく、 35 USC(U.S. Code の Title 35)に根拠条文が含まれている。この部分は P.L. 96-517, Patent and Trademark Act Amendments of 1980 によって追加されたものである。Title 35 には特許に関する法令が包括的に納められており、 そのうち Chapter 18 – Patent Rights in Inventions Made with Federal Assistance の Section 200 – 212 までが、 いわゆるバイ・ドール法の条文とされている。なかでも大学との権利関係の整理において重要な条文は Section 202 – 204 であり、同法においても特に重要な条項となっている。 35 USC CHAPTER 18 – PATENT RIGHTS IN INVENTIONS MADE WITH FEDERAL ASSISTANCE 200. Policy and objective. 201. Definitions. 202. Disposition of rights. 203. March-in rights. 204. Preference for United States industry. 205. Confidentiality. 206. Uniform clauses and regulations. 207. Domestic and foreign protection of federally owned inventions. 208. Regulations governing Federal licensing. 209. Licensing federally owned inventions. 210. Precedence of chapter. 211. Relationship to antitrust laws. 212. Disposition of rights in educational awards. ② Code of Federal Register 35 USC の Chapter 18 の Section 206 は、上記で述べた大学との権利関係を整理している特に重要な条文 Section 202 – 204 に係る具体的な運用方法については、別途商務長官が定めると規定されている。これに基づき、 商務長官が定めた規定が 37 CFR 401 であり、35 USC の各条文を補足するものとなっている。 1 www.autm.net/Bay_Dole_Act.htm ―5― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて PART 401-RIGHTS TO INVENTIONS MADE BY NONPROFIT ORGANIZATIONS AND SMALL BUSINESS FIRMS UNDER GOVERNMENT GRANTS, CONTRACTS, AND COOPERATIVE AGREEMENTS 401.1 401.2 401.3 401.4 401.5 401.6 401.7 401.8 401.9 401.10 401.11 401.12 401.13 401.14 401.15 401.16 401.17 Scope. Definitions. Use of the standard clauses at §401.14. Contractor appeals of exceptions. Modification and tailoring of clauses. Exercise of march-in rights. Small business preference. Reporting on utilization of subject inventions. Retention of rights by contractor employee inventor. Government assignment to contractor of rights in invention of government employee. Appeals. Licensing of background patent rights to third parties. Administration of patent rights clauses. Standard patent rights clauses. Deferred determinations. Electronic filing. Submissions and inquiries. ③ モデル契約 とりわけ 37 CFR 401.14 で定められている政府関係機関と大学等の間の研究契約の雛形は、バイ・ドール法におい て定められた権利、義務等を実際に契約ベースで保証することを目的に、各種条項を盛り込んだものとなっており、 バイ・ドール法の「縮図」と言えるものとなっている。 Patent Right (Small Business Firms and Nonprofit Organizations) (a) (b) (c) (d) (e) (f) (g) (h) (i) (j) (k) (l) Definition Allocation of Principal Rights Invention Disclosure, Election of Title and Filing of Patent Application by Contractor Conditions When the Government May Obtain Title Minimum Rights to Contractor and Protection of the Contractor Right to File Contactor Action to Protect the Government’s Interest Subcontractor Reporting on Utilization of Subject Inventions Preference for United States Industry March-in Rights Special Provisions for Contractor with Nonprofit Organizations Communication (2) 外国企業に係る規定 一連のバイ・ドール法の体系においては、U.S. Code、Code of Federal Register、あるいは大学と政府の研究契約 の雛形の中にも、外国企業へのライセンスを排除するような規定は特に見当たらない。 ① 「相当程度国内生産規定」 他方で、国内企業を暗に優先するよう要求しているとも受け取れる規定が、35 USC 204 に設けられている。具体的 には、「ライセンシーが当該技術を用いた商品等の生産の相当程度を米国内で行わない限り、独占実施権を許諾し てはならない」とされており、米国内に生産拠点を持たない外国企業への独占実施権許諾を、実質的に排除するこ とを可能にしている。国費による研究開発の成果が、実際に米国内で活用され、関連製品が生産されることにより、 米国内での雇用の創出、米国の競争力の維持・向上を目指すことを目的とした規定と考えることもできる。 ―6― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて Section 204. Preference for United States industry(前段) Notwithstanding any other provision of this chapter, no small business firm or nonprofit organization which receives title to any subject invention and no assignee of any such small business firm or nonprofit organization shall grant to any person the exclusive right to use or sell any subject invention in the United States unless such person agrees that any products embodying the subject invention or produced through the use of the subject invention will be manufactured substantially in the United States. ただし、同規定は絶対的なものではなく、ライセンサーである中小企業や大学等が米国内で生産活動を行うライセン シーを探す適切な努力をしたものの発掘できなかったこと、そもそも米国内で当該ライセンス技術を活用した生産が 商業的に成立しないことを証明すれば、この限りではないこととされている(すなわち、米国内で生産活動を行わな い者(外国企業等)への独占実施権の許諾が可能となる)。なお、同様な規定が大学と政府間の研究契約の雛形に も盛り込まれている(37 CFR 401.14 で定められている契約雛形の(i)Preference for United States Industry)。 Section 204. Preference for United States industry(後段) However, in individual cases, the requirement for such an agreement may be waived by the Federal agency under whose funding agreement the invention was made upon a showing by the small business firm, nonprofit organization, or assignee that reasonable but unsuccessful efforts have been made to grant licenses on similar terms to potential licensees that would be likely to manufacture substantially in the United States or that under the circumstances domestic manufacture is not commercially feasible. ② 国による March-in Rights(介入権) バイ・ドール法の大きな目的のひとつは言うまでもなく、国が支援した研究成果が実際に社会で活用されることであ り、これを確かなものにするための規定のひとつとして、35 USC 203 において March-in Rights が定められている (大学と政府間の研究契約の雛形〔37 CFR 401.14〕の(j)項においても、契約上政府の March-in Rights を保証する 同様の規定があり、その発動のために必要な詳細な手続きが 37 CFR 401.6 において定められている)。 March-in とは、政府の支援を受けた大学の研究成果に関し、当該大学からライセンスを受けた者(企業等のライセ ンシー)が、ライセンス供与された技術の実用化に向け、適切な努力をしていないと政府が判断した場合に、第三者 に適切な対価の下で当該技術をライセンスするよう求めることができる権利、さらにはこの要請をライセンシーが拒 否した場合、政府が当該第三者に強制的に実施権を許諾できる権利を言う。 しかしながら、このように極めて強力な権利、いわば「伝家の宝刀」と言うべき権利であるものの、その発動基準は明 確とは言い難く、過去に国が March-in したことはない。下記にその判断基準のポイントを簡単に記すとともに、35 USC 203 の規定を抜粋しておく。 March-in Rights 発動基準 大学やライセンシーが当該技術活用のために、十分かつ適切な努力をしていないとき(上述) 健康保護、安全確保の観点から対忚が求められる事態において、大学やライセンシー任せにできないと判断 したとき 連邦法で公益のための使用が求められる技術について、大学やライセンシーの対忚が十分でないとき 上記①で述べた相当程度国内生産規定に反するとき ―7― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 35 USC 203. March-in Rights (a) With respect to any subject invention in which a small business firm or nonprofit organization has acquired title under this chapter, the Federal agency under whose funding agreement the subject invention was made shall have the right, in accordance with such procedures as are provided in regulations promulgated hereunder to require the contractor, an assignee or exclusive licensee of a subject invention to grant a nonexclusive, partially exclusive, or exclusive license in any field of use to a responsible applicant or applicants, upon terms that are reason- able under the circumstances, and if the con- tractor, assignee, or exclusive licensee refuses such request, to grant such a license itself, if the Federal agency determines that such— (1) action is necessary because the contractor or assignee has not taken, or is not expected to take within a reasonable time, effective steps to achieve practical application of the subject invention in such field of use; (2) action is necessary to alleviate health or safety needs which are not reasonably satisfied by the contractor, assignee, or their licensees; (3) action is necessary to meet requirements for public use specified by Federal regulations and such requirements are not reasonably satisfied by the contractor, assignee, or licensees; or (4) action is necessary because the agreement required by section 204 has not been obtained or waived or because a licensee of the exclusive right to use or sell any subject invention in the United States is in breach of its agreement obtained pursuant to section 204. (b) 項省略 4.Stevenson-Wydler Technology Innovation Act (SW 法) バイ・ドール法が連邦政府資金の拠出を受けた大学の研究成果の取り扱いについて規定しているのに対し、連邦政 府機関による研究成果の取り扱いについて定めている法律として挙げられるのが Stevenson-Wydler Technology Innovation Act(以下、SW 法 : 15 USC 3701-3722 〔Chapter 63〕)及び 35 USC 209(バイ・ドール法の一部)であ る。 連邦政府研究機関における研究成果を民間企業等へライセンスする際の手続きに係る部分はバイ・ドール法とほぼ 同様だが、バイ・ドール法が大学に求めている手続き・規制等よりも、より透明度・公正度の高いものとなっている。 (1) SW 法の概要 SW 法はバイ・ドール法とほぼ時を同じくして制定された法律で、政府保有の成果の取り扱いに係るポリシー等を定 めている。具体的には、Section 3710 (15 USC 3710)において、政府資金を拠出した研究成果を最大限活用するこ とは政府の責務であり、そのために保有する成果を民間企業や州政府等に対し、積極的に技術移転するよう要求し ている。 15 USC 3710. UTILIZATION OF FEDERAL TECHNOLOGY (a) Policy (1) It is the continuing responsibility of the Federal Government to ensure the full use of the results of the Nation’s Federal investment in research and development. To this end the Federal Government shall strive where appropriate to transfer federally owned or originated technology to State and local governments and to the private sector. (2) Technology transfer, consistent with mission responsibilities, is a responsibility of each laboratory science and engineering professional. (3) Each laboratory director shall ensure that efforts to transfer technology are considered positively in laboratory job descriptions, employee promotion policies, and evaluation of the job performance of scientists and engineers in the laboratory. ―8― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて SW 法における連邦政府機関の研究成果のライセンスに係る規定及び 35 USC 209 については、具体的内容、手 続き等が 37 CFR 404 に規定されている。下記にその概要を記す。 37 CFR Part 404 Licensing of Government Owned Inventions 404.1 404.2 404.3 404.4 404.5 404.6 404.7 404.8 404.9 404.10 404.11 404.12 404.13 404.14 Scope of part. Policy and objective. Definitions. Authority to grant licenses. Restrictions and conditions on all licenses granted under this part. Nonexclusive licenses. Exclusive, co-exclusive and partially exclusive licenses. Application for a license. [Reserved] Modification and termination of licenses. Appeals. Protection and administration of inventions. Transfer of custody. Confidentiality of information. ① ライセンス許諾の判断権限 ライセンスを民間企業等に許諾する権限は各連邦政府研究機関が個別に有しており(404.4)、それぞれの判断によ りライセンスの実施許諾が可能となっている。 ② ライセンス許諾の申請 ライセンスを希望する民間企業等は、ライセンスに係る技術の開発計画及びマーケティング計画を提出するとともに、 当該ライセンシーとしての計画実行能力があることを証明しなければならない(404.5)。ただし、非独占契約の場合に は、研究開発の段階に関する説明だけでよいとされている。 ③ 「相当程度国内生産規定」 バイ・ドール法と 同様に、ライセンス技術に係る製品は相当程度米国 内で生産されなければならないとする 「Preference for United States Industry」の規定が盛り込まれている。そして、これを免除する要件もバイ・ドール法 と同様、①米国で生産するライセンシーを探したが見つからなかった場合、②米国で生産することに経済的合理性が ない場合、のいずれかと規定されている。 ただし、ここで特筆すべきは、バイ・ドール法の場合、独占実施権を付与する場合にのみ、「Preference for United States Industry」による米国内相当程度生産規定が適用されるが、SW 法では非独占実施権を付与する場合にも 同様の規定が適用されることである。政府機関が自ら税金を使って達成した成果を、より米国の国益につなげるべく、 バイ・ドール法より高いスタンダードを課していると言える(404.5(a)(2))。 ④ 契約に盛り込まれるべき事項 各契約においては、①契約期間を一定期間の年限とすること、②政府機関の承認があれば、サブライセンスも可能で あること、③定期的な報告義務を課すこと、④米国内での相当程度の製造要件を満たすこと(免除されていない場合 のみ)、等を明記することが求められている。さらには、ライセンスを受ける際に提出した計画やコミットメントを遵守 できない場合、米国内での相当程度の生産を行わない場合などには、契約を破棄することを明記しなければならな い(404.5) ―9― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (2) 独占・非独占実施権、国内・外国企業に係る規定の差別化 SW 法においては、独占実施権の許諾か非独占実施権の許諾かによって、適用される規定の度合いが異なる。37 CFR 404.7 において、独占実施権を許諾する場合についての詳細規定が別途定められている。また、相手が国内 企業か外国企業かによっても異なる規定が設けられている。 具体的には、政府機関が国内企業に独占実施権を許諾しようとする場合には、 ① 15 日間以上公示し、反対意見を述べる機会を設けなければならない(404.7(a)(1)(i)) ② 当該独占実施権の許諾に際して、当該発明の製品化に本当に必要か、投資や経費の確保等に関し、ライセン シーへのインセンティブが妥当なレベルであるか、過剰なインセンティブとなっていないか (404.7(a)(1)(ii)、市 場の競争を阻害しないか(404.7(a)(1)(iii)、等を十分精査しなければならない。 ③ ライセンス希望者の中に中小企業がいる場合、同社が他社と同等以上の能力を有するのであれば、当該中小 企業と優先的に交渉しなければならない(404.7(a)(1)(iv)) ④ 独占実施権を許諾した場合でも、国による実施権は一定程度留保される(404.7(a)(2)(i)) ⑤ ライセンシーに対して、必要に忚じて適切な者へ、適切な条件で、サブライセンスするよう指示(一種の March-in Rights とも言える)することができる(404.7(a)(2)(ii)) 他方で、外国企業への独占実施権の許諾の場合には、上記の①〜⑤のうち、③(中小企業優遇規定)及び⑤(いわゆ る March-in Rights 規定)については、SW 法では規定されていない。これは、外国に拠点を置く外国企業の場合に は、そもそも連邦政府の命令権が及ばず実行力が行使しにくいと考えられること、また、外国の中小企業を優先して も米国内の産業、雇用育成の観点から特に意味をなさないことが理由であると考えられる。 5.連邦政府研究機関と民間企業等の共同研究(CRADA) 連邦政府研究機関の研究成果を迅速に商品化するなどの形で最大限活用することにより、米国の競争力を向上す るた め 、 1986 年 Federal Technology Transfer Act に お いて 、Cooperative Research and Development Agreement (CRADA) 条項が SW 法に導入された。CRADA は連邦政府研究機関と民間企業等の共同研究を通じ て産学連携・技術移転を実現する、優れたツールとなっている。 (1) CRADA の概要 ① 研究成果 IP 等の取り扱いの柔軟性 CRADA に係る詳細は 15 USC 3710a Cooperative Research and Development Agreement に規定されているが、 通常の共同研究契約と大きく異なる点は、CRADA は事前(CRADA 締結時)に、共同研究の結果生まれるであろう 研究成果や既に連邦政府が所有している IP について、独占・非独占実施権を取得できるオプションを共同研究パー トナー(民間企業)に与えている点である。研究・商品開発のスピードを重要視する企業にとって、このオプションは 非常に魅力的なものとなっている。 ② 双方のリソースをベストミックス CRADA により、連邦政府研究機関の研究員やそのノウハウ、民間企業の技術やその効率的なマネジメント能力等 を柔軟に組み合わせることが可能となる。これにより、迅速な研究開発・商品化を実現でき、一般的に、双方に下記 のようなメリットがもたらされる。 ― 10 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (民間企業のメリット) 連邦政府研究機関の研究員や施設にアクセスできる 既存の研究成果に直接アクセスでき、ライセンスを受けることも可能 契約締結時にライセンスに係るオプションあり 役割分担、外部リソースの活用により迅速・効率的な研究開発を実現 (連邦政府研究機関のメリット) CRADA がなければ、連邦政府内で「死蔵」してしまう可能性のある技術の商品化が可能となり、国・社会へ研 究投資の成果を還元できる 単独で行うよりも迅速な技術移転、商品化が可能 コスト意識の向上、マーケットのニーズをより正確に把握 ロイヤリティ収入の実現 ③ IP に対する連邦政府の権利 CRADA により民間企業に成果や IP が与えられた場合であっても、連邦政府は非独占実施権を留保できる。また、 独占実施権が民間企業に許諾された場合には、連邦政府は一定の条件下において、当該民間企業に対して、適切 な第三者に非独占実施権、独占実施権等を許諾するよう求めることができる。当該民間企業が従わない場合には、 自らが実施権を行使できることとされている。なお、ここで言う「一定の条件」は、 公衆衛生上必要なアクションであるにもかかわらず、当該民間企業が十分な対忚をしていないとき 連邦法規制により、公衆衛生上の目的のためのアクションが求められるにもかかわらず、当該民間企業が十 分な対忚を取らないとき 当該民間企業による CRADA の履行に不十分な点が認められるとき なお、この規定はバイ・ドール法等で規定されている March-in Rights に似たものとなっている。 ④ 中小企業を優遇 2 連邦政府研究機関が CRADA を締結するパートナーを選定する際には、中小企業を優先的に考慮しなければなら ないとされている。 ⑤ 資金の流れは一方向のみ 3 双方のリソースをベストミックスするものの、研究資金については連邦政府研究機関側から民間企業へ拠出すること は認められていない。これは、政府資金の節約の他に、CRADA が連邦政府研究機関から民間企業への研究グラ ントのツールとして使用されないようにするためと考えられる。 (2) CRADA における外国企業の取り扱い 4 連邦政府機関が CRADA を締結する際には、その相手の選定に際して、米国内に支店・工場等を有し、研究成果を 使用した商品を米国内で相当程度生産するとしている企業を優先しなければならないことが規定されている。また、 これらの企業が外国政府や外国企業の支配下にある場合には、当該外国政府の研究機関が米国企業に対して、 CRADA やライセンス契約の締結を認めているかどうかを考慮し、判断することとされている。 2 3 4 15 USC 3710a (c) Contract considerations (4) (A) 15 USC 3710a (d) Definitions (1) 15 USC 3710a (c) Contract considerations (4) (B) ― 11 ― ― 12 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第二章 米国におけるスポンサー省庁での国費研究成果の国外流出 リスクマネジメント 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて Summary 第一章では、国費研究成果の国外流出防止に係る各種規制を整理したが、本章では各種規制をベースに、実際に スポンサー省庁がどのように国外流出防止に取り組み、運用しているかを調査した。本件に関しては文献等では十 分な調査をすることが難しいため、実際にスポンサー省庁の技術移転責任者等と面談し、インタビュー調査を行っ た。 数多くのスポンサー省庁の中から本調査では、毎年巨額の研究開発費(研究開発グラント)を大学に支給している NIH(National Institutes of Health)、CRADA による研究開発の多い VA(Department of Veterans Affairs)、そして エネルギー省傘下であり日本では見られない GOCO(Government Owned Contractor Operated)形態の研究所で ある NREL(National Renewable Energy Laboratory)を取り上げ、成果の国外流出防止をどのように図っているか を調査した。 面談した者は下記の通りである。 表3: 連邦政府研究機関技術移転局面談者一覧 組織名 役職 氏名 面談日 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health(NIH)) Deputy Director Licensing & Entrepreneurship Office of Technology Transfer Steven M. Ferguson 11/29/2011 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health(NIH)) Director and Policy Officer Division of Extramural Inventions & Technology Resources Office of Policy for Extramural Research Administration Office of Extramural Research J. P. Kim 01/17/2012 米国退役軍人省(Department of Veterans Affairs(VA)) Technology Transfer Specialis, Technology Transfer Program Research & Development Veterans Health Administration Ken Levin 01/18/2012 米国国立再生可能エネルギー 研究所(National Renewable Energy Laboratory(NREL)) Director National Bioenergy Center Joseph M. Cleary 01/24/2012 図1: 訪問した連邦政府研究機関の所在地 ― 13 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1. NIH (National Institutes of Health) NIH において自らの研究施設の研究成果を外部の民間企業等にライセンスする際には SW 法が、NIH がスポンサーとなった研究で大学等が所有する研究成果をライセンスす る際にはバイ・ドール法が適用される。外国企業へのライセンスについてはこれらの法 律では特に規定されていないものの、実質的に外国企業へのライセンスの際に最も大 きな障害となると思われる「相当程度国内生産規定」の取り扱いについて、当該規定の 適用免除要件に該当するかどうかの判断につき、NIH では予めその審査ポイントとなる 判断基準を明確化している。 (1) NIH が所有する研究成果について NIH 関連の研究機関において研究開発された成果を企業にライセンスする際には、独占契約、非独占契約を問わ ず、「相当程度国内生産規定」を満たすライセンシーに限られる。ライセンシーが同規定を満たさない場合には、法 律の定める免除要件に該当するかどうかについては、NIH 技術移転局が個別に判断している。技術移転局の職員 5 向けマニュアル によれば、下記の通り定められている。 ① 「努力したが、他に適切なライセンシーが見つからなかった」ことの証明 ・ 技術の重要性、代替製品の利用可能性、想定される対象ユーザー(マーケット)、相当程度国内生産規定を 適用した場合、米国並びに外国市場において商品化が遅れるかどうか、遅れる場合には、その遅れがどの 程度、米国や外国の公衆衛生に与えるか ・ NIH 技術移転局がどのようなマーケティング努力を展開してきたか。すなわち、コンタクトした企業の数、マ ーケティング方法並びにコンタクト方法、ライセンスのタイプとライセンシー候補に提示した条件、外国ライセ ンシー候補と国内ライセンシー候補に提示した条件の比較、NIH のマーケティング努力に対するライセンシ ー候補の反忚 ② 「米国での生産に経済的合理性がない」ことの証明 ・ 当該技術が利用される製品の国際市場の状況。すなわち、どのような企業が製品を提供し、どこで生産さ れているか、米国内相当程度生産規定を適用した場合、米国や外国市場で商品化が遅れるかどうか、遅 れる場合には、その遅れがどの程度米国や外国の公衆衛生に影響を与えるか ・ 当該技術を利用した製品のうち、米国外で生産されるのはどの程度か ・ ライセンシーが米国で製品を生産する能力、生産施設を米国内に設置することに向けた努力の程度 ・ 外国で生産しなければならない経済・市場の情勢 ・ 米国内で生産することを経済合理性がない理由。すなわち、米国内と外国での生産コストの比較など ・ 公衆衛生における当該技術の重要性。すなわち、代替製品や治療法の利用可能性、対象とする患者の数 など。 ・ 米国内で生産されなくともライセンスする意義。工場、施設等、米国に直接・間接的に投資される額、米国内 で創出される高度なスキルを要する雇用者数、米国内における技術力の向上、国内におけるさらなる技術 の開発、米国貿易収支に与える好影響度(製品の輸入 VS ロイヤリティ収入の比較など)、米国への貢献 を最大化するためにライセンス契約に含めたクロスライセンス、サブライセンスや第三者への譲渡などの規 定、政府機関のプログラムの目的のさらなる達成に向けた政府リソースとのバランス しかしながら、上述の基準は整備されているものの、実際にはケース・バイ・ケースで個別に判断されているようであ る。例えば、米国内で生産活動を行う予定が全くない企業に対しても、米国民の公衆衛生の向上、すなわち製品・サ ービスの実用化により、米国民である患者の生活の質の向上に資すると判断されれば、適用除外を認め、ライセン スすることもあり得るという。 5 United State Public Health Service Technology Transfer Manual Chapter No. 309 ― 14 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (2) 大学が所有する研究成果について バイ・ドール法の適用を受ける技術の取り扱いについて、下記の場合には、大学は事前に NIH の許可を得なければ ならないこととなっている。 ① NIH からの補助金を受領した大学が、その研究成果を外国企業など米国内で生産しない企業にライセンスする とき(「相当程度国内生産規定」の免除を申請) ② NIH から補助金を受領した大学が、当該研究成果について商業化を目指す発明者に返還し、発明者の所有と するとき ③ NIH からの補助金を受領した大学が、当該研究成果の所有権を第三者に移転するとき 6 上記①〜③に関する許可申請はそれぞれ iEdison.gov のウェブサイト から行うことができる。ウェブサイトでは、上 記の判断基準が個別に掲載されており、申請者はそれぞれに対し、論理的に説明を入力するよう求められている。 7 なお、①については、NIH の内部マニュアル によれば、NIH が保有する研究成果をライセンスする際の免除規定と ほぼ同じものとなっている。これについても、NIH が所有する技術のライセンスと同様、実際にはケース・バイ・ケー スにて個別に判断されており、米国内で生産活動を行う予定が全くない企業に対しても、米国民の公衆衛生の向上 に資すると判断されれば、適用除外を認めることもあり得るとのことであった。なお、そもそも大学側から NIH に申請 される適用除外要求の数は年間で 10 件程度であり、申請自体が極めて尐なくなっている。 また、②、③については、特許自体が外国企業を含めた第三者に譲渡されることをモニタリングできる規定となって おり、間接的ではあるが、外国企業への知財流出を監督できるツールとなっている。 iEdison(図 2~4)は 1997 年、NIH によりバイ・ドール法に係る報告を行うプラットフォームとして創設したもので、現在 では 29 以上のスポンサー省庁の間で広く用いられている。 6 7 https://s-edison.info.nih.gov/iEdison/ManufacturingWaiver.jsp United States Public Health Service Technology Transfer Manual Chapter No. 604 ― 15 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図2: NIH Procedures for Handling Requests for Waivers of the U.S. Manufacturing Requirement in Licenses to Extramural Inventions [U.S. Manufacturing Waiver Fill-in Form] ― 16 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図2: (続き) NIH Procedures for Handling Requests for Waivers of the U.S. Manufacturing Requirement in Licenses to Extramural Inventions [U.S. Manufacturing Waiver Fill-in Form] 適切なライセンシ ーが見つからなか ったことの説明 米国内生産への 経済的合理性がな いことの説明 ― 17 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図3: NIH Procedures for Waiving an Invention to the Inventor [Inventor Certification and Patent-Related Information] ― 18 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図3: (続き) NIH Procedures for Waiving an Invention to the Inventor [Inventor Certification and Patent-Related Information] ― 19 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図4: NIH Procedures for Requests for Approval of Third Party Assignment [Third Party Assignment Fill-in Form] ― 20 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 図4: (続き) NIH Procedures for Requests for Approval of Third Party Assignment [Third Party Assignment Fill-in Form] (3) March-in Rights の発動について NIH はこれまで数回にわたり、患者団体等から March-in を要請されたことがあるが、過去に実施したことは1度もな い。March-in Rights を行使しない主な理由として、特許制度をそもそも否定する可能性があること、市場原理を覆す 怖れがあること、等が挙げられている。 NIH における March-in Rights に係る事例 8 2010 年8月、日本では難病指定されているファブリー病の患者団体が NIH に対し、バイ・ドール法に基づく March-in Rights を発動するよう要請した。ファブリー病は、全身の細胞のライソゾームに存在する加水分解酵素のひとつであ る α-ガラクトシダーゼ A という酵素の活性が欠損または低下することにより生じる、先天性のスフィンゴ糖脂質代謝 9 異常症であり 、四肢末端痛、被角血管腫、低汗症等を発症する疾患である。この病気の有効な治療薬として現在、 FDA に認可されているのはアガルシダーゼベータのみであり、これは Genzyme 社によって開発、治験、認可取得 がなされ、同社によって独占的に販売されている。 同薬の基礎的部分の開発は NIH からグラントを受けた Mount Sinai School of Medicine of New York University が行ったものであり、同大学が研究成果(発明)に係る特許について、Genzyme 社に独占権を与え、Genzyme 社 が開発した経緯がある。 患者団体によると、Genzyme 社唯一のアガルシダーゼベータ生産工場が 2009 年半ばより、汚染等の問題で十分 な生産活動を行うことができず、同薬の供給に大きな問題が生じているという。フル生産レベルに回復するのは 8 9 Genomics Law Report, www.genomicslawreport.com/index.php/2011/01/18/government-refuses-to-march-in-under-bayh-dole-again/ 難病情報センター、www.nanbyou.or.jp/entry/182 ― 21 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 2011 年初頭であり、また、新工場の建設も 2011 年末まで見込めない。この結果、現在、ファブリー病患者に処方さ れている同薬の量は 70%も減っており、患者は大きな肉体的・精神的苦痛を強いられている。このため、患者団体 は NIH に対し、バイ・ドール法に基づく March-in Rights を発動し Genzyme 社への独占契約を他社にも許諾するよ う求めている。 一方、このような患者団体の要請に対して NIH は、2011 年 12 月、同団体が指摘した事実を認めつつも、March-in Rights 発動の必要性を認めず要請を却下した。その主な理由として NIH は、他社に技術を許諾したとしても、 Genzyme 社が供給不足から回復するよりも早く製品を市場投入することは困難(他社も治験、FDA 認可申請等の 規制手続きを経ることが必要)であること、現時点において Mount Sinai School of Medicine of New York University に対し、実際にライセンス供与を求める他社サプライヤーが皆無であること、等を挙げている。 ちなみに NIH は過去に3度、March-in Rights の発動を求められたことがあるが、いずれも市場をゆがめることにな る可能性がある等の理由から却下している。今回の NIH の判断及びこれまでの判断を見ると、NIH はいかなる事態 であっても March-in は発動しないと予め表明しているようなものであり、一部でこれは、「伝家の宝刀」たる March-in Rights の発動は一切行わないという、誤ったメッセージを送ってしまっているとの指摘もなされている。 2. DVA (Department of Veterans Affairs) 退役軍人省(Department of Veterans Affair:VA)は、米国の退役軍人に関する行政を 企画、実施する省庁であり、職員数で見れば国防総省に次ぎ、米国で2番目に大きな省 庁である。主な業務は、退役軍人のニーズに即した福利厚生であり、なかでも軍事活動 で負傷し障害が残った退役軍人や高齢化した退役軍人に対するヘルスケアプログラム は最重要業務となっている。このため、VA は退役軍人向けの病院(VA 病院)を数多く保 有し、医療サービスを提供するとともに、治療法の開発等を目的とした研究開発も活発 に行っている。 (1) VA の研究開発活動の特徴 ① DAP が多い VA 病院は単独で存在するケースよりも、米国内の大学医学部に附属する形で運営されていることが多い。このため VA の研究者の多くは、VA 病院附属の大学の研究者も兼ねた Dual Appointment Personnel (DAP)となっている。 ② CTAA を附属機関と締結し知財を管理 DAP が発明した技術等は原則として、VA 及び附属病院を所有する大学の両方に帰属することになるため、VA と大 学は知財の取り扱いについて、個別ケースごとではなく、予め包括的な知財取り扱い協定である Cooperative Technology Administration Agreements (CTAA)を締結している。現時点において CTAA の数は 60 に及び、この協 定に基づき、個別事例が議論されている。 ③ 予算規模以上の研究活動を実施 VA には、年間約6億ドルの研究開発予算が連邦政府から割り当てられている。この額自体は特段大きなものでは ないが、DAP 等の人件費や施設費等は別の予算(例えば大学側が他の省庁から獲得したグラント等)で賄われるこ とが多く、実質的には 15 億ドルの研究開発規模に相当すると言われている。 ④ バイ・ドール法は適用されない VA は NIH と異なり、研究開発グラントを大学等に配分する権限を持たない。このため、VA 独自の研究開発活動 の成果にはバイ・ドール法が適用されず、SW 法が適用されている。逆に大学との共同所有となっている知財に ついては、バイ・ドール法が適用される。 ― 22 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて ⑤ 数多くの CRADA 大学に附属する VA 病院では、数多くの民間企業等と CRADA を締結しており、その数は年間 600 にも上り、1年に 約 6000 万ドルの資金を VA にもたらしている。この多くは、製薬企業等との臨床試験・治験に係る契約となっている。 この背景には、VA には数多くの退役軍人が登録しているため、企業が研究する症例を大量に1ヵ所(VA 病院)で確 保できることがある。ただし、これらの CRADA は治験に係るものであるため、新たな発見がなされたり、新たな知財 が生み出されることは尐ない。また、こうした CRADA もバイ・ドール法の適用を受けない。 (2) 外国企業との共同研究に際してのリスクマネジメント ① 大学と共同で所有する知財について 予め当該大学と締結した CTAA をベースに、取り扱いが協議される。基本的には、大学側がライセンス先を発掘した り、スタートアップ等を起業することで商業化を目指す場合には大学任せになっており、VA が自ら商業化のための活 動を行うことは尐ない。大学側が当該知財から収益を上げた場合には、CTAA に基づき、一定の割合が VA に納付さ れることになっている。 大学の商業化活動についても、VA 側が積極的に関与することはなく、いわば「任せきり」の状態がほとんどなのが実 態のようである。実際には、成果がどのようなところにライセンスされているのかすら、VA サイドでは十分に把握で きない状態となっている。従って、外国企業へライセンスする際には、大学側から必要に忚じてバイ・ドール法に基づ く手続きを行っているものと想定される。 ② VA が単独で所有する知財について VA の研究者による発明、または大学との共同所有であるものの大学側が商業化のための活動をしないと判断し、 かつ VA が単独で商業化活動をすると判断した知財については、VA の技術移転局がライセンス活動を実施してい る。 しかしながら、その数は尐なく、年に数例程度である。担当者によれば、純粋な外国企業へのライセンスは記憶にな いとのことであった。現時点においては、外国企業にライセンスした事例はほとんどなく、リスクマネジメントが問題と なるケースは尐ないものと思われる。 ③ 外国企業との CRADA の締結等について VA は年間約 600 の CRADA を締結しているが、そのうち 30 程度がいわゆる外国企業との CRADA となっている。 ここで言う外国企業の定義は明確ではないとのことであったが、米国に活動拠点を持つ欧州系の製薬会社等は一 般的に外国企業と見なされているようである。これらの企業と CRADA を締結する際には、United States Trade 10 Representative (USTR)に事前に照会 することとなっているが、これまで USTR から契約締結にストップがかかっ たことはないと言う。 10 15 USC 3710a (c) Contract considerations (4) (B) ― 23 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 3. エネルギー省再生可能エネルギー研究所 (National Renewable Energy Laboratory) (1) NREL の特徴 NREL はエネルギー省の傘下の Government Own Contractor Operate (GOCO)の国立研究所であり、連邦政府が所有するものの、 その運営は民間機関等に委託されている、日本ではあまり例を見な いタイプの研究所となっている。この背景には、GOCO が第二次世 界大戦以降、研究所のパフォーマンスを最大化することを目的に、国 立の研究所に民間の効率的な組織管理・運営方法、研究活動を積 極的に導入してきた経緯がある。 11 エネルギー省傘下の研究所では1ヵ所 を除き、全て GOCO の研究所となっている。GOCO をエネルギー省に代わ って運営する団体・組織・機関は総じて、Managing and Operating Contractor (M&O)と呼ばれ、民間企業、大学、 あるいは NPO 等、大小様々な組織が、その能力に忚じて運営を委託されている。 M&O への業務の委託期間は5年となっており、5年後に単純更新することもあり得る一方、他の M&O と競争入札を 経て、エネルギー省からの受託を再度獲得しなければならない場合もある。なお、M&O の選定手続きは、政府の一 般競争入札等の手続きである Federal Acquisition Regulation (FAR)に則り行われる。 図5: エネルギー省所管研究所 訪問した NREL はエネルギー省傘下の GOCO タイプの国立研究所であり、Alliance for Sustainable Energy, LLC が M&O となっている。なお、Alliance for Sustainable Energy, LLC は Battelle と MRI Global の両者が、エネルギ ー省研究所の運営受託を目的に、平等に出資し設立された有限責任会社である。 11 National Energy Technology Laboratory は唯一 GOGO(Government Own Government Operated)の研究所となっている。 ― 24 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (2) 研究成果の帰属 エネルギー省は GOCO 方式で国立研究所を運営する M&O に、国立研究所での研究成果に係る技術移転活動も 12 13 委託することができる 。また、研究成果の帰属についても M&O の種類ごとに、関係規定 により、下記の通り定め られている。 表4: M&O と研究成果の帰属先 M&O Contractor の種類 研究成果の帰属先 ①NPO、大学、中小企業 M&O が成果を所有することができる ②中小企業を除く営利企業(技術移転機能なし) エネルギー省 ③エネルギー省から Advance Class Waiver を得ている 営利企業(中小企業を除く) M&O が成果を所有することができる しかしながら、ヒアリング調査によれば、実際にはほとんどの全ての M&O において、創出された知財を所有する権 利が M&O に与えられているとのことであった。この理由としては、上記②の技術移転機能を有しない営利企業であ る M&O はほとんど存在しないこと、また、ほぼ全ての営利企業に政府から③の Advance Class Waiver が与えられ ていることが挙げられる。これは、優秀な M&O を獲得するために、エネルギー省が知財の権利をインセンティブの一 部として M&O に与えているとも考えられる。 (3) NREL の研究業務の分類 GOCO として NREL は、主に下記の業務を主に実施している。 ① エネルギー省から委託された研究業務(すなわち、コア業務。Non-competitive 業務とも言う) ② エネルギー省から委託されたもの以外の研究業務(すなわち、その他業務。Competitive 業務とも言う) (i) CRADA による第三者との共同研究(ほとんどのケースにおいて第三者から NREL に研究資金が支払 われる) (ii) Work for Other (WFO)。第三者からの受託研究 (iii) Technical/Analytic Service Agreement。小規模(25 万ドル以下)な受託研究 収入構成から見た業務全体の比率は、2年前は①のコア業務が 90%であったが、現時点では 78%にその割合が減 っている。なお、将来的にはこの比率を 50%にまで引き下げ、エネルギー省からの受託以外のその他業務の割合を 大幅に増やすことを目指している。 それぞれの業務における成果の帰属先は、個別の契約によって異なるものの、概ね以下の通りに規定されている。 表5: 研究業務の種類と成果の帰属先 研究業務の種類 帰属先 コア業務 その他業務 12 13 NREL CRADA NREL と第三者で協議 WFO 業務を依頼した第三者 T/A SA 小規模業務のため、基本的には知 財は発生しない 48 CFR 970.2703-1 Purposes of patent rights clauses (b) (1) 48 CFR 970.2703-2 Patent rights clause provisions for management and operating contractors ― 25 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (4) ライセンス活動 正確な統計はないとのことであったが、ヒアリング調査によれば、NREL における年間のライセンス契約数は 20~30 件程度とのことであった。 ライセンス収入は、特許申請維持費用等の経費を差し引いた後、25%は発明者、25%は研究センター、そして 50% が NREL に還元されることとなっている。また、NREL に還元される収益が、エネルギー省から M&O に与えられる 毎年の研究所予算の5%を超えた場合には、超過分の 75%が財務省に還元される仕組みとなっている。 NREL がその研究成果を企業等にライセンスする際には、可能な限り非独占実施権を許諾する方針となっている。 例えば、ライセンシーが独占実施権を希望する場合でも、非独占実施権の許諾は3社まで等と限定したり、6ヵ月~ 1年間は一切他者にライセンスしないことを確約する等の代替案を検討・提示し、できる限り非独占にするよう努力し ている。しかしながら、それでもライセンシーが独占実施権にこだわる場合には、独占実施権を与えることとなるが、 その場合も可能な限り、欧州やアジアなど、マーケットを限定した独占実施権とするようにしている。 (5) 外国企業へのライセンス等 14 M&O 自ら発明し、保有することとなった知財をライセンスする際には、下記の規定を考慮しなければならない 。 (i)米国の国際競争力向上のため、ライセンス供与された技術が米国内で研究開発されて商品化されるか、また、 相当程度の製品が米国内で生産されるか。 あるいは (ii)米国内に当該外国企業の支店等が存在し、ライセンスの結果、米国内で経済効果が期待できるか。外国企業 や外国政府が支配する企業がライセンシーの場合には、当該外国政府は米国政府、組織、企業等が当該国の政 府関係研究機関と共同研究契約を結ぶことを認めているか、また、米国の知財を尊重する政策をとっているか。 もし、上記(i)及び(ii)ともに満たすことができない場合には、M&O はエネルギー省から個別に許可を得なければなら ないとされている。 また、M&O はライセンスに際して、35 USC 204 (Preference for United States industry) (バイ・ドール法の一部)を 満たさなければならないことが特に規定されている。 U.S. Industrial Competitiveness (1) In the interest of enhancing U.S. Industrial Competitiveness, the Contractor shall, in its licensing and assignments of Intellectual Property, give preference in such a manner as to enhance the accrual of economic and technological benefits to the U.S. domestic economy. The Contractor shall consider the following factors in all of its licensing and assignment decisions involving Laboratory intellectual property where the Laboratory obtains rights during the course of the Contractor’s operation of the Laboratory under this contract: (i) whether any resulting design and development will be performed in the United States and whether resulting products, embodying parts, including components thereof, will be substantially manufactured in the United States; or (ii) (A) whether the proposed licensee or as- signee has a business unit located in the United States and whether significant economic and technical benefits will flow to the United States as a result of the license or assignment agreement; and (B) in licensing any entity subject to the control of a foreign company or government, whether such foreign government permits United States agencies, organizations or other persons to enter into cooperative re- search and development agreements and licensing agreements, and has policies to protect United States Intellectual Property rights. 14 48 CFR 970.5227-3 (f) U.S. Industrial Competitiveness ― 26 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて U.S. Industrial Competitiveness. (続き) (2) If the Contractor determines that neither of the conditions in paragraphs (f)(1)(i) or (ii) of this clause are likely to be fulfilled, the Contractor, prior to entering into such an agreement, must obtain the approval of the contracting officer. The contracting officer shall act on any such requests for approval within thirty (30) days. (3) The Contractor agrees to be bound by the provisions of 35 U.S.C. 204 (Preference for United States industry). なお、純粋な外国企業へのライセンスを実施するため、エネルギー省に許可を申請した案件はほ、これまでとんどな いとのことであった。 (6) 外国企業との共同研究(CRADA)契約の締結に際して 15 M&O が CRADA を第三者と締結する際には、まずは中所企業を優遇しなければならないこと 、そして、研究成果を 16 活用した製品が米国内で相当程度生産されなければならないこと が規定されている。また、外国企業や政府が支 配する企業がライセンシーの場合には、当該外国政府が米国政府、組織、企業等が当該国の政府関係研究機関と 共同研究契約を結ぶことを認めているかどうかを、考慮することとしている。 15 16 48 CFR 970.5227-3 (n) Technology transfer through cooperative research and development agreements. (2) Selection of participants (i) 48 CFR 970.5227-3 (n) Technology transfer through cooperative research and development agreements. (2) Selection of participants (ii) ― 27 ― ― 28 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第三章 米国における大学技術移転機関での国費研究成果に係る対忚 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1.ヒアリング調査対象大学 (1) 選定基準 連邦政府予算の支援を受けた研究成果の取り扱いについて調べるという本調査の趣旨に鑑み、 ① 連邦政府研究開発費を多く得ている総合研究開発大学を調査対象とする(この基準では、絶対量の多寡、ある いは総研究開発費に占める連邦政府資金の割合の多寡に着目するという手法があるが、小規模の研究開発 大学でほとんどの研究開発費を連邦政府に依存しているというような場合〔すなわち、絶対量は尐ないものの連 邦政府資金割合が高い場合〕を極力除外するため、単純に絶対量の多寡に注目した) ② ライセンス契約数が多い大学を調査対象とする(外国企業へのライセンス契約数が多い大学に焦点を当てるの が適切であるが、入手可能な統計の制約上、ここでは米国内・国外企業を問わず、総ライセンス件数に注目し た) ③ 州外企業と州内企業に対する取り扱いの違いという切り口でも調査するため、地域経済成長への貢献をより強 く求められている州立大学とする (2) 分析 ① 研究開発費 これまでに獲得した連邦政府資金額のうち、2006 年度から 2008 年度までの3ヵ年の平均値を取り、大きい順に上 17 位 50 大学を整理した表を下記に記す 。上位 50 大学中 29 大学が公立大学となっていることがわかる。 上位 50 大学中 29 大学が公立大学であるが、これは使用した統計の性質上、州立大学など複数の場所にキャンパ スがある大学は、全キャンパスの数字をまとめてひとつの大学としてデータを計上している場合があり、州立大学の 数字が大きく計上されやすいことが一因であると思われる。事実、UC バークレー校、UCLA、UC サンディエゴ校など を要するカリフォルニア州立大学システムは同統計では、まとめて University of California System として扱われて おり、連邦政府資金額では1位となっている。 調査対象の選定にあたっては、上位 50 大学中にランキングされている公立大学のうち、総研究開発費における連 邦政府資金額の占める割合が高い大学を優先した。 ② ライセンス件数 18 2006 年から 2008 年におけるライセンス件数の平均値を算出し、上位 50 大学を整理した表を下記に記す 。このう ち、公立大学は 34 校を占めている。これは、上述の通り、州立大学等は複数のキャンパスのデータを統合してひと つの大学として取り扱われていることに加え、期待される地元経済に果たす役割等の観点から、中小企業等の小さ なライセンスも数多くこなしているものと考えられることが要因として挙げられる。 調査対象の選定にあたっては、①の研究開発費の基準で選定した大学のうち、できる限りライセンス件数の多い公 立大学を選ぶこととした。 17 18 AUTM Licensing Activity Survey 2006, 2997, and 2008 同上 ― 29 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 表4: 連邦政府研究開発資金の受け入れ額上位 50 大学 1 Univ. of California System 63% 公立・私立 の別 (Y=公立) Y 2 Massachusetts Inst. of Technology (MIT) $1,106,203,000 $1,249,533,333 89% N 3 $1,084,696,832 $1,347,205,397 81% N $764,166,705 $780,864,650 98% N 5 Johns Hopkins Univ. Johns Hopkins Univ. Applied Physics Laboratory Univ. of Washington/Wash. Res. Fdn. $669,911,841 $974,877,327 69% Y 2 6 Univ. of Michigan $597,384,354 $831,894,856 72% Y 3 7 Univ. of Pennsylvania $558,435,921 $655,208,479 85% N 8 Stanford Univ. $552,079,722 $697,783,795 79% N 9 W.A.R.F./Univ. of Wisconsin Madison $539,200,000 $985,000,000 55% Y 10 Harvard Univ. $497,744,448 $638,057,332 78% N 11 Univ. of Wisconsin at Madison $491,810,000 $831,895,000 59% Y 5 12 Univ. of Pittsburgh $477,375,350 $621,080,333 77% Y 6 13 Washington Univ. St. Louis $471,931,667 $535,160,000 88% N 14 Univ. of Colorado $468,187,159 $643,791,161 73% Y 7 15 Univ. of Illinois, Chicago, Urbana $464,815,000 $818,488,000 57% Y 8 16 Research Foundation of SUNY $453,302,789 $763,658,076 59% Y 9 17 Duke Univ. $442,177,774 $657,116,485 67% N 18 Univ. of North Carolina, Chapel Hill $438,471,170 $597,654,825 73% Y 19 California Inst. of Technology $423,342,560 $435,002,377 97% N 20 Cornell Research Fdn., Inc. $388,464,253 $644,316,885 60% N 21 Penn State Univ. $385,906,333 $679,669,667 57% Y 11 22 Univ. of Minnesota $375,276,667 $575,455,667 65% Y 12 23 Vanderbilt Univ. $328,737,657 $414,427,304 79% N 24 Univ. of Texas at Austin $322,442,322 $483,369,850 67% Y 13 25 Ohio State Univ. $321,417,658 $691,699,340 46% Y 14 26 Univ. of Southern California $307,500,000 $443,600,000 69% N 27 Emory Univ. $305,506,050 $374,000,890 82% N 28 Univ. of Florida $303,592,655 $472,237,516 64% Y 15 29 Univ. of Arizona $283,263,114 $538,265,556 53% Y 16 30 Case Western Reserve Univ. $277,845,081 $359,614,891 77% N 31 Univ. of Rochester $277,208,798 $358,123,094 77% N 32 Univ. of Chicago/UCTech $273,114,372 $336,858,419 81% N 33 Georgia Inst. of Technology $271,850,075 $497,946,230 55% Y 17 34 Univ. of Massachusetts $268,268,922 $412,559,667 65% Y 18 35 The UAB Research Fdn. $266,931,000 $338,161,667 79% Y 19 36 Boston Univ./Boston Medical Ctr. $265,987,541 $344,407,004 77% N 37 Texas A&M Univ. System $261,221,066 $598,655,449 44% Y 38 Northwestern Univ. $255,638,001 $359,379,421 71% N 39 Baylor College of Medicine $252,021,333 $314,450,333 80% N 40 Univ. of Maryland, College Park $239,508,092 $327,238,076 73% Y 41 Mount Sinai School of Medicine of NYU $234,602,744 $278,464,572 84% N 42 Univ. of Maryland, Baltimore $233,518,618 $349,126,500 67% Y 22 43 Oregon Health & Science Univ. $227,617,698 $269,091,941 85% Y 23 44 Univ. of Iowa Research Fdn. $223,122,667 $334,388,000 67% Y 24 45 Indiana Univ. (ARTI) $220,720,637 $397,843,694 55% Y 25 46 Univ. of Miami $216,817,540 $313,497,533 69% N 47 Colorado State Univ. $208,219,183 $288,670,981 72% Y 26 48 Univ. of Virginia Patent Fdn. $207,160,333 $242,195,333 86% Y 27 49 Univ. of Texas Southwestern Med. Ctr. $201,982,560 $354,980,903 57% Y 28 50 Univ. of Utah $194,818,233 $264,709,477 74% Y 29 順 位 4 大学名 2006 から 2008 年の 間の連邦政府助成 金平均額 (①) $2,405,303,794 2006 から 2008 年 の間の総研究費 平均額(②) $3,817,451,346 ― 30 ― 割合(%) (① / ②) 公立大学 での順位 1 4 10 20 21 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 表5: ライセンス件数上位 50 大学 順位 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 大学名 2006, 2007, 2008 年 ライセンスの締結件数 平均値 公立・私立 の別 公立大学での 順位 221.0 190.0 159.0 113.3 111.7 103.3 101.3 97.0 93.0 87.0 82.0 80.0 78.0 74.0 74.0 67.7 66.0 66.0 65.7 65.3 64.0 61.3 57.3 56.7 56.0 54.0 52.7 52.3 47.0 46.7 46.0 45.7 45.0 44.3 44.3 43.0 42.0 39.0 39.0 38.0 36.3 36.3 35.7 34.3 34.0 33.7 32.7 31.7 30.3 28.7 Y Y Y Y N Y N Y Y Y N Y N Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y N N Y Y N N N Y Y Y N N Y N Y N Y N Y N Y Y Y Y Y N 1 2 3 4 Univ. of California System Univ. of Washington/Wash. Res. Fdn. Univ. of Wisconsin at Madison Univ. of Georgia Massachusetts Inst. of Technology Iowa State Univ. Stanford Univ. Purdue Research Fdn. Univ. of Michigan North Dakota State Univ. Johns Hopkins Univ. North Carolina State Univ. Duke Univ. Univ. of Florida Univ. of Minnesota Univ. of Utah Univ. of Illinois, Chicago, Urbana W.A.R.F./Univ. of Wisconsin Madison Rutgers, The State Univ. of NJ Univ. of North Carolina, Chapel Hill Univ. of Colorado Univ. of Virginia Patent Fdn. Texas A&M Univ. System Univ. of Pittsburgh California Inst. of Technology Baylor College of Medicine Univ. of Massachusetts Research Foundation of SUNY Harvard Univ. Vanderbilt Univ. Columbia Univ. New Jersey Inst. of Technology Indiana Univ. (ARTI) Oregon Health & Science Univ. Washington Univ. St. Louis Cornell Research Fdn., Inc. Univ. of Texas at Austin Univ. of Pennsylvania Oregon State Univ. New York Univ. Montana State Univ. Case Western Reserve Univ. Georgia Inst. of Technology Univ. of Southern California Univ. of Missouri, all campuses Univ. of Iowa Research Fdn. Michigan State Univ. Univ. of Oregon Univ. of Arizona Brigham Young Univ. ― 31 ― 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 上述した選定基準及び分析を基に、協力が得られた下記の大学を訪問し、面談調査を実施した。 大学名 表6: ヒアリング調査実施対象大学 連邦政府研究資金受入額 ライセンス件数 ランキング ワ シ ン ト ン 大 学 ( University of Washington) ミシガン大学(University of Michigan) フロリダ大学(University of Florida) ノースカロライナ州立大学 ( North Carolina State University (NCSU)) バージニア大学(University of Virginia) 公立・私立の別 5 2 公立 6 9 公立 28 14 公立 — 88 公立 48 22 公立 なお、NCSU については、質問項目の作成に関して意見を聞かせていただくなどの協力を得た。 図6: 訪問した各大学の所在地 (3) ヒアリング調査実施対象大学 ① ワシントン大学の概要 ワシントン大学はアメリカ西海岸における最古の公立総合大学のひとつであり、ワシントン 州シアトル市にメインキャンパスを置く州立大学である。同大学の歴史は、1861 年にデニ ー夫妻、テリー夫妻、そしてエドワード・ランダ-らがエリオット湾を見下ろす 10 エーカーの 敷地をキャンパス設立のために寄贈したことから始まる。この初代学舎は 1894 年まで使 われ、現在はシアトル市街地内に Fairmont Olympic Hotel として残されている。同大は ― 32 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 各学期ごとに約 1,800 の科目を提供する 16 学部で構成されている。現在のシアトル校キャンパス内には University of Washington Medical Center が併設され、世界的に見てもトップクラスの治療や研究が行われている。2009 年か 19 ら 2010 年にかけての学生在籍者総数は約 4 万 8 千人 、また教員数は 2010 年から 2011 年の年度で見ると 3,752 20 名となっており、そのうち約 8 割がフルタイムの教員である 。また、毎年 1 万 2 千を超える学士、修士、博士号の学 位が授与されている。 世界大学学術ランキングを発表することで知られる中国、上海交通大学によって「教育の質」、「教員の質」、「研究 発表の度合い」、及び「学生1人当たりのパフォーマンスの度合い」の4項目で総合評価される Center for World-Class Universities の 2011 年度のランキングによれば、ワシントン大学は世界で 16 位にランクインしている。 全米では総合第 14 位、公立大学としてはカリフォルニア州にある University of California システム内の3校、バーク レー校、ロサンゼルス校、サンディエゴ校に次いで第 4 位となっている。また、医学・薬学の分野で第3位、ライフサイ エンスで5位、数学で 17 位、そしてコンピュータサイエンスでは 20 位につけ、教育機関としての質の高さを示してい る。ちなみにこのランキングでは上位 20 校のうち、Oxford、Cambridge, University College London の3校以外は 21 全てアメリカの大学となっている 。 さらに、オランダのライデン大学による Universities’ scientific impact and their involvement in scientific 22 collaboration ランキング において世界第 13 位に選ばれたことからもわかるように、同大の研究の質の高さは世界 的に評価されている。因みにこのランキングの世界第1位はマサチューセッツ工科大学であり、公立大学のみのラン キングではワシントン大学は第4位となっている(公立大学での第 1 位は University of California サンタバーバラ校)。 なかでも最近は、脳の視床下部の損傷と肥満の関係を明らかにした、医学部教授のマイケル・W・シュワルツ氏の研 究が注目されている。また、ブレイク・ハナフォード教授が率いる電気工学部チームが企画・製作した、共通したシス テムで機能する外科手術用ロボットのプロトタイプ7台は今後他大学に送られ、各種外科手術用ロボットとしてさらに 23 忚用開発される予定となっている 。 ワシントン大学はスポーツにも力を入れている。同大のチームは Huskies という愛称で親しまれており、男子は野球、 バスケットボール、陸上、フットボール、そして女子もバスケットボール、バレーボール、陸上、テニスをはじめ、実に 24 多様な競技で地元の人気を集めている 。 ワシントン大学の著名な卒業生の中には、俳優のブルース・リー、高級百貨店を創立し経営するノードストロム家か ら代々多数、1989 年にアフリカ系アメリカ人として初めてシアトル市長となったノーム・ライス等がおり、またノーベル 25 賞受賞者も数名輩出している 。 ② フロリダ大学の概要 フロリダ大学はフロリダ半島中央やや北に位置するゲインズビル(Gainesville) 市に 拠点を置く、大規模な公立研究大学である。ランド・グラント校でもある州内最古の同 大は、米国でも最も教育内容の幅広さを誇る大学のひとつに数えられている。当大学 は、医学部、工学部、教育学部、農学・生物科学部などからなる 16 の学部を持ち、ま た、オンライン上においても単位取得、非取得両方の遠隔プログラムを行っている。総 敷地面積は 2,000 エーカー、建造物数は教室棟やラボ棟を含む 900 からなっており、 キャンパス北東部地域は Historic District on the National Register of Historic Places として登録されている。フロリダ大学を中心として広がるゲインズビル市は、人 26 口 12 万 4 千余りで音楽や芸術の盛んな街である 。 19 20 21 22 23 24 25 26 ワシントン大学ウェブサイト、 http://www.washington.edu/discover/ ワシントン大学ウェブサイト、http://admit.washington.edu/QuickFacts#faculty ワシントン大学ウェブサイト、http://www.washington.edu/news/articles/uw-ranked-16th-in-world-in-recent-study-1 http://www.leidenranking.com/ranking.aspx ワシントン大学リサーチウェブサイト、 http://www.washington.edu/research/ ワシントン大学ウェブサイトニュース、http://www.washington.edu/news/articles/uw-ranked-16th-in-world-in-recent-study-1 ワシントン大学卒業生関連ウェブサイト、 http://www.washington.edu/alumni/ その他の概要の主な資料元:フロリダ大学ウェブサイト、http://www.ufl.edu/about-uf/ ― 33 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて フロリダ大学は国際教育プログラムや各種研究などにおいても長い歴史を誇っている。大学設立の歴史を見てみる と、1853 年に州からの援助を受けていた東部フロリダ神学校が Ocala にあった Kingsbury Academy を引き継ぎ、 1860 年にゲインズビル市に移転、当時 Lake City にあったランド・グラント校である州立のフロリダ農業大学と合併。 それから 35 年後の 1905 年、正式にゲインズビル市内にフロリダ大学として開校した。 1906 年 9 月の開校時における在籍学生数は 102 名で、女子学生は 1947 年から受け入れ始めた。2010 年度には、 国際バカロレア資格を持つ学生を 1,315 名受け入れており、現在は 5 万人以上の在籍者を有する、国内でも最大規 模の大学として知られている。教員は 52 名の名誉教授を含む優秀な人材を揃えており、その数は 5,400 名を超える。 教員には、2つのピューリッツァー賞、NASA の研究に対する Top Award や、Smithsonian Institution の Conservation Award 等の受賞者も名を連ねている。こうした受賞実績からも想像できる通り成績も優秀で、全米大 学ランキングにおいては常に上位にランクインしている。例えば、2010 年 8 月の News & World Report による ―Top Public Universities‖ では全米 17 位、2010 年 Kiplinger の―Best Values in Public Colleges‖ では全米2位、そし て 2011 年度版の Princeton Review においては Best Value Public Colleges 部門で全米第3位となっている。ま た、2010 年には Job Recruiters が ‖Top 25 places where corporations prefer to recruit new employees‖ で同 大を9位に選んでおり、2011 年の Smart Money 誌による ‖List of colleges and universities that help graduates get top salaries‖ においても第3位にランクされるなど、卒業後のキャリアや就職面でも高く評価されている。 同時に研究機関としても重要な役割を果たしており、フロリダ州のみならず、全米、さらには世界に貢献する研究と 発見において広くその名を知られている。フロリダ大学は 2010 年から 2011 年にかけて、6億ドル以上の研究資金を 獲得。ナノスケール研究所、新興病原体研究機関、バイオ医療科学研究所等の設備・研究所設立のために、7 億 5 千万ドルを投じ、一部施設は現在建築中、あるいは既に完成して利用されている。また、代替エネルギー開発研究 も盛んで、エタノール製造、原子力、太陽光エネルギー等の各分野において、強力なプロジェクトを推し進めている。 また、医療部門、宇宙開発部門においても、リーダー的存在となっている。近年、注目を浴びた研究成果の例として、 14 の医療機関との共同研究として実施、The Lancet Neurology Journal オンライン版に発表された「パーキンソン 病の治療」が挙げられる。これはパーキンソン病患者の脳局部に、手術により小さな電極を埋め込む治療方法を忚 用したもので、同研究によって、これらの電極を介した DBS(Deep Brain Stimulation:脳深底部に与える刺激)が、 27 重度のパーキンソン病患者の病状、さらには生活上の質全般を向上させることが明らかになった 。 フロリダ大学の著名な卒業生には、デジタルコンピュータの発明者であるジョン・アタナソフ、米国内トップのスポーツ 飲料ゲータレイドの発案者、ロバート・ケイドなどがおり、ノーベル賞受賞者2名、尐なくとも9名のフロリダ州知事、 NASA 宇宙飛行士3名の他、プロ、アマチュア含め多数の陸上選手も輩出している。 同大のスポーツチームの名称は、学内にも生息しているアリゲーターをもじった Gators で、2006 年には全国男子バ スケットボール、そしてフットボールの同時優勝を果たすなど、強豪として知られている。 ③ バージニア大学の概要 バージニア大学(University of Virginia、通称 UVA)は、バージニア州シャーロッツビ ル市にメインキャンパスを置く州立大学で、合衆国建国の父であり、独立宣言の起草 者で第3代大統領でもあるトーマス・ジェファーソンによって 1819 年に創立された。メ インキャンパスに 11 の学部を持ち、47 分野において 51 の学士号コース、67 分野に おいて 84 の修士号コース、6 つの専門的教育の学位、法律、医学から成る2つの職 業学位, そして 55 分野での 57 に及ぶ博士号コースから成る学科で構成されている。 同大のデータによると、2010-2011 年度における学生数は、学部生が 14,039 名、大 学院生が 4,806 名、法律、医学系合わせて 1,719 名、そして社会人向け教育課程が 485 名と、合計 21,049 名が在籍している。また、教員数は 7,979 名で、そのうち教育・ 研究に携わる者は 2,125 名、その他の教科課程に携わる教員は 5,854 名となっている。学生のうち約 7 割がバージ ニア出身者だが、3割は全米各地、及び世界 120 ヵ国から集まってきた者たちだ。過去には人種や性別により入学 者を限定していたが、現在は人種性別を問わない多様性のある大学となっており、2010-2011 年度の学部課程にお 27 フロリダ大学ニュース、http://news.ufl.edu/2012/01/11/dbs/ ― 34 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 28 ける白人以外の学生の割合は 27%となっている 。 シャーロッツビルは、イギリスの国王ジョージ3世の妻であった Charlotte of Mecklenburg-Strelitz にちなんで名づ けられたバージニア州中央部に位置する都市で、2008 年 7 月の国勢調査によると人口は 41,487 名となっている (厳密にはバージニア州は State ではなく、Commonwealth of Virginia である)。近辺には有名なシェナンドー国立 公園があり、公園内を走り抜けるスカイラインドライブからは、シャーロッツビルの美しい景観を楽しむことができる。 同市における最大の雇用主はバージニア大学で、他には病院(University of Virginia Medical Center, Martha Jefferson Hospital) 、役所関係、保険会社の State Farm 等がこれに続く。また、1987 年にバージニア大学は、ト 29 ーマス・ジェファーソンの邸宅モンティチェロと合わせて、世界遺産に登録された 。なお、シャーロッツビルはトーマ ス・ジェファーソンの他に、ジェイムス・モンロー大統領を輩出した街としても知られている。 自ら創立した大学を誇りにしていたジェファーソンの伝統を受け継ぐバージニア大学は、現在、米国でも最高の高等 教育機関のひとつとして広く知られている。同大は通称「パブリック・アイビー(Public Ivy)」と呼ばれる名門公立大学 のリストに早い時期から名を連ねており、2011 年度 U.S. News & World Report Rankings 内の America's Best Colleges 部門 Best Public University において第2位に輝いている(UCLA と同点2位で、1 位は University of California バークレー校) 。また、医学、経済、法律、文学など、分野を問わず、常にランキングでは上位にランクさ れている。 2004 年には、米国の公立大学として初めて、個人からの寄付金の総額が州からの助成金を上回った。現在、バー ジニア大学、バージニア工科大学、ウィリアム・アンド・メアリー大学の3校は、州政府が直面する予算削減にかかわ らず自由な経営をするためのチャーター・イニシアティブに取り組んでいる。 バージニア大学は多岐に及ぶ分野の研究をサポートしているが、人文科学、バイオ医療、物理科学、工学等の分野 が特に傑出している。2008 年度に連邦政府、州政府、企業、私立財団から授与された委託研究費の合計は、3億 1400 万ドルを超えている。この半分以上は国立衛生研究所(National Institutes of Health)から拠出されており、 461 件、計 1 億 6 千万ドルが研究者に与えられた。 同大のスポーツチームの愛称はキャバリアーズ( Cavaliers)で、マスコットはバージニア州に「古い領地 (Old Dominion)」という愛称が付けられた当時の騎士である。もうひとつの非公式なニックネームに Wahoos があり、略し て Hoos とも呼ばれている。フットボールをはじめ、バスケットボール、男子、女子ラクロスにも力を入れている。 著名な卒業生 には、航空機による初の南北両極点到達を成し遂げた探検家のリチャード・バード 、第 35 代アメリカ 合衆国大統領ジョン・F・ケネディの実弟で司法長官(1961 年~1964 年)を務めたロバート・ケネディ、第 67 代 バー ジニア州知事のジョージ・アレン 、現在アメリカで最も権威あるニュースキャスター兼ジャーナリストの 1 人であるケイ ティ・コーリック等がいる。 ④ ミシガン大学の概要 ミシガン大学(University of Michigan, Ann Arbor) はミシガン州にある州 立総合大学で、デトロイト近郊の Ann Arbor 市に メインキャンパスを持つ。 1817 年、同大は米国北西領土で最初の公立大学として、デトロイト市に University of Michigania の名称で設立された。その後、ミシガンが州として 制定された 1837 年に Ann Arbor に移転し、その4年後に 2 人の教授と 7 名の学生により講義が開始された。現在、Ann Arbor 校には 19 の学部が あり、Flint、Dearborn 等のキャンパスを合わせた学生総数は 2010 年秋現 30 在、58,947 名で、教員は 8,791 名に上っている 28 29 30 概要の主な資料元:バージニア大学ウェブサイト、http://www.virginia.edu/ シャーロッツビル市ウェブサイト、http://www.charlottesville.org/Index.aspx?page=1 ミシガン大学ウェブサイト、http://vpcomm.umich.edu/aboutum/ ― 35 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 「教育レベルの質」、「学生数に対する教員数の割合」、「留学生や外国人の教員レベル」等、幅広い項目で評価され る U.S.News & World Report の ランキングを見ると、2011 年度版においてミシガン大学は、World's Best Universities 部門で世界第 14 位に入っている。学術別で見ると、2010 年度のランキングでは化学で全米 16 位、生 31 物科学で 20 位、医療で 10 位となっており、教育機関としての質の高さは全米トップレベルと言えよう 。 研究機関としても重要な立場にあり、Ann Arbor 校内ノース・キャンパスに総合研究施設を持ち、Cardiovascular Research、Translational Oncology、Biointerfaces 等の多岐に渡る研究開発を行っている。2010 年度の研究助成 金は連邦政府から7億 5,100 万ドル、民間企業から 3,900 万ドルを獲得し、全体では 11 億 4,000 万ドルとなってい る。同年度、研究発表の結果として 290 の発明の開示があった。また、特許出願件数は 153 件、ライセンスの締結 は 97 件に上り、10 を超えるスタートアップ企業を発足させ、ロイヤリティ等から総額 3,980 万ドルもの収益を上げた。 最近注目を浴びている主な研究としてはバイオメディカル分野が挙げられ、Scholl of Public Health の Laura Scott 博士率いるチームが、今回新しく発見した数種の遺伝子変異体が、双極性障害や統合失調症の発症と関連がある ことを突き止めた。また、他の研究としては、研究論文の主な執筆者であり臨床心理学博士課程の学生でもある Eric Kim 氏が、米国に暮らす 50 歳以上の成人 6,044 名を対象とした2年間にわたる研究の結果、楽観的な性格の 人は悲観的な人に比べて脳卒中にかかる危険性が低い、という興味深い論文を発表している。これらの研究は、病 32 気の治療法を開発する上で、今後の足がかりになるのではないかと思われる 。 ミシガン大学の卒業生には 7 名のノーベル賞受賞者をはじめ、JetBlue Airways 創設者であり代表取締役の David Barger、税申告サービス業の世界最大手である H&R Block 社共同設立者で名誉会長の Henry W. Bloch、著名な 劇作家でピューリッツァー賞も受賞している Arthur Miller などがいる。 同大のスポーツチームは輝かしい歴史と数々の逸話にあふれている。野球部が大学野球大会開始から3年連続で 優勝したのをきっかけに、1865 年に初の学内スポーツチームとして発足、その後、フットボールをはじめ数々の競技 チームが生まれている。チームの愛称はウルヴァリンズ(Wolverines)で、1901 年のフットボール全米優勝を皮切り 33 に、これまで 12 の種目で 52 の全米チャンピオンの座を勝ち取っている 。 ⑤ ノースカロライナ州立大学の概要 ノースカロライナ州立大学(NC State University) は、米国東部ノー スカロライナ州中央やや東よりに位置する Raleigh 市 にキャンパス を置く州立大学である。ランド・グラント校として 1887 年、North Carolina College of Agriculture and Mechanic Arts の名の下に設立され、1889 年、ひとつの学舎で 72 名の学生 により講義が始まって以来、1 世紀以上にわたって教育、研究、その他のサービス等において地元社会に貢献して 34 いる 。現在は College of Agriculture and Life Sciences、College of Engineering、College of Physical and Mathematical Sciences、College of Veterinary Medicine などからなる 10 の学部を持ち、学生総数 31,000 以上、 35 教員数 2,000 名余り、学舎数は 700 以上に上る 。 2011 年版 USA Today の Princeton Review によれば、Best Overall Public University Value 部門で全国第 9 位、2010 年発行の National Science Foundation による所、Industry Research Funding among universities without medical schools (2008 年調べ)で第 7 位、Total Research Expenditures Among Public Universities Without Medical Schools (2008 年調べ) 2011 年度版 U.S. News & World Report では、Best Overall Public University Value で第 3 位、Graduate Programs among top 30 Public Universities で第 9 位、Graduate 36 Veterinary Medicine で第 3 位、そして Textiles (2007 年調べ ) では全国第 1 位である 。 31 U.S.News & World Report、 http://www.usnews.com/education/worlds-best-universities-rankings/top-400-universities-in-the-worldhttp://www.usnews.com/education/ worlds-best-universities-rankings/top-400-universities-in-the-world 32 ミシガン大学リサーチウェブサイト、http://research.umich.edu/ 33 ミシガン大学スポーツウェブサイト、 http://www.mgoblue.com/ 34 NCSU 歴史についてのウェブサイト、 http://www.ncsu.edu/about-nc-state/history/index.php 35 NCSU 学校概要についてのウェブサイト、 http://www.ncsu.edu/about-nc-state/quick-view/index.php 36 NCSU ランキングについてのウェブサイト、http://www.ncsu.edu/about-nc-state/rankings/index.php ― 36 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて Value で第3位、Graduate Programs among top 30 Public Universities で第 9 位、Graduate Veterinary Medicine 37 で第3位、Textiles (2007 年調べ) では全米第 1 位となっている 。 各種研究も盛んである。これまで同大が開発し、既に実用化・商品化された発明は数多い。その一例に、世界初の 人口大動脈、人口網膜のプロトタイプ、心臓病の危険性をより正確に測定できる血中コレステロールの測定方法、光 にさらされた場合に細菌やウイルスを不活性化、あるいは死滅させる恒久的なナノコーティング、などがある。これま で研究に費やされた金額は計 3 億 8,000 万ドル、政府からの助成金は 1 億 4,000 万ドルに上る。特許保有件数は 550 件、教員の 7 割以上が企業等から援助を受けた研究・開発に携わっている。米国国内での特許保有件数は 705 38 に上る 。 著名な卒業者には、大手ソフトウエア製造会社の SAS Institute Inc.社長、James Goodnight、2007 年に Al Gore とともにノーベル平和賞を受賞した Rajendra Kumar Pachauri、プラズマディスプレイの共同開発者の1人である 39 Donald Bitzer 等がおり、幅広い分野において第一線で活躍する人物を多数輩出している 。 ノースカロライナ州立大学のスポーツチームは The Wolfpack Club と呼ばれ、1892 年の最初のフットボールの試合 以来、全米大学競技協会全国優勝 2 回、インターカレッジ女子運動協会のタイトル2つ、他 4 つの全国チャンピオン シップ獲得、また水泳ではオリンピックのメダリストを輩出するなど、26 に及ぶ競技でトップレベルでの活躍を見せて 40 いる 。 37 38 39 40 NCSU NCSU NCSU NCSU ランキングについてのウェブサイト、http://www.ncsu.edu/about-nc-state/rankings/index.php 研究についてのウェブサイト、http://www.ncsu.edu/research/index.php 卒業生についてのウェブサイト、http://www.ncsu.edu/alumni/index.php 運動クラブについてのウェブサイトによる。http://www.ncsu.edu/athletics/index.php ― 37 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 2.質問項目及び面談者 各大学へは事前に下記の質問項目を送付し、問題意識を明確に伝達した上で、面談してヒアリング調査を行った。 Collaboration with Foreign Companies: Handling of the Fruits of Research Resulting from Federal Government Supported/Funded Research Technology Partnership of Nagoya University, Inc. Background In July of 2011, the Japan Science and Technology Agency (JST), a Japanese Governmental Agency, and the Tokyo Institute of Technology (TIT), a national public university, announced that they had licensed innovative Thin Film Transistor (TFT) technology to Samsung Electronics, a multinational corporation headquartered in South Korea. For more than a decade, TFT technology had collected the keen interest of the digital media industry because TFT was considered to be a ―game changer‖ technical innovation in the LED market. The Japanese Government, thorough JST, had supported TIT’s research on TFT technology for more than 10 years because of TFT’s promising commercial possibilities. While Samsung and Japan’s Sony Corp. and Sharp Corp. compete intensively in the LED market, this license agreement with a rival foreign company brought a debate among Japanese tech transfer community, business leaders, and politicians on how to handle the research fruits resulting from research sponsored or funded by the Japanese government and how to keep Japan’s competitiveness over foreign industries. The Japanese Government, through its Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology (MEXT), has commissioned the Technology Partnership of Nagoya University to conduct a survey of select US universities to see how they and the US government handle this issue. We thank you in advance for your kind cooperation and participation in this study. Please feel free to add other comments or advice you might deem helpful or more illustrative of your policies. (2011 年 7 月、日本政府機関の一つである独立行政法人科学技術振興機構(JST)と国立大学法人の東京工業大学(TIT) は、画期的な薄膜トランジスタ(TFT)技術を、大韓民国に本社を置く多国籍企業、サムソン電子にライセンスしたと発表した。 TFT 技術は液晶画面市場における―優位性‖を変えてしまう技術であると考えられるため、注目を集めてきた技術であり、科学 技術振興機構を通して日本政府は10年以上もの間、東京工業大学の TFT 技術に関する研究を援助してきた。サムソンと日 本企業のソニーやシャープが液晶画面市場にて強烈なしのぎを削る競争を行なっている中、競争相手である外国企業への ライセンス契約は、日本の産学連携関係者、経済界、そして政治家の間に、日本政府の援助によって得られた研究成果をど う取り扱い、また外国企業に対しどう日本の競争力を保つのかという問題を提起した。 日本政府は文部科学省(MEXT)を通じ、米国大学や米国政府がこのような問題にどう対処しているのか実態を把握するた め、Technology Partnership of Nagoya University, Inc.に補助金を支出し調査を行うこととした。 貴校のこの調査への寛 大な協力に対し、ここに感謝致します。なお、有用であると思われる意見や助言はいつでも加えて下さって結構です。) (質問項目続く) ― 38 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1. General Collaborations (一般的なコラボレーション) (1) How do you choose the licensee if you are fortunate enough to have more than one potential licensee? What is the most important factor when deciding among several potential licensees? Similarly, how do you choose a research collaboration partner when you have more than one candidate to choose from? (幸運にも1社以上の特許契約者候補が現れた場合、どのようにして契約者を決定しますか?複数の契約者候補の 中から選択する過程で、何が最も重要な決定要因になりますか?同様に、もし共同研究の候補者が複数いる場合、 どのようにして共同研究のパートナーを決定しますか?) (2) Who has the final say in deciding upon licensees or research collaboration partners? What due diligence or processes do you need to go through to select and finally approve a licensee or collaboration partner who expresses an interest in your research technology? Are there any differences in these processes in case of licensing or collaborating with foreign companies? (特許契約者もしくは共同研究パートナーの決定は、最終的に誰が行いますか?貴校の研究技術に興味を示す特許 契約者もしくはコラボレーションパートナーを最終的に容認するうえで、どのような配慮や段階を経る必要があります か?外国企業との特許契約もしくはコラボレーションの場合、こうしたプロセスにおいて異なる点はありますか?) (3) With licensing, other than financial consideration paid to acquire the license rights, how often do you receive research funds from licensees to develop the technology further? (特許契約において、ライセンスの権利獲得のために支払われた金銭上の報酬以外に、技術のさらなる開発のため に、どの程度の頻度で特許契約者から研究資金を受け取りますか?) 2. Collaboration with Foreign Companies (外国企業とのコラボレーション) (1) License to Foreign Companies: (外国企業へのライセンシング): (a) To what extent do you license your technologies to Foreign Companies? In other words, approximately what percentage of your licensing deals have been made with Foreign Companies, and approximately what percentage of overall royalty income has been paid by foreign companies? (貴校の技術を外国企業へライセンスするのはどの程度ですか?言い換えれば、貴校の技術の特許契約はどれ ぐらいの割合で外国企業と締結され、特許使用料から来る総収入の何割ぐらいが外国企業によって支払われて いますか?) (b) Have you ever licensed to foreign companies any research technologies that resulted from Federal Government sponsored or funded research? Please give a few examples of any such licensing to foreign companies. (米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究によって得られた研究成果を、これまで外国企業にライ センスしたことがありますか?もしある場合は、その例をいくつか挙げてください。) (c) In contrast, have there been any cases where you declined or had to give up licensing to foreign companies regarding Federal Government sponsored or funded research technologies? Why? What field was the technology in? (反対に、米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術において、外国企業へのライセンスを拒否 したり断念しなければならなかったことはありますか?それはなぜですか?また、それはどの分野の技術におい てですか?) (質問項目続く) ― 39 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (2) Sponsored Research Fund from Foreign Companies: (外国企業からの研究資金援助について:) (a) To what extent do you receive research funds from foreign companies? In other words, approximately what percentage of your research funds comes from Foreign Companies, and approximately how much is it in total? (外国企業から貴校が受け取る研究資金はどの程度でしょうか?言い換えれば、貴校の研究資金のうち、外国 企業から提供されるのは何割程度ですか?また、その額は全体でいくらになりますか?) (b) Have you ever declined or given up accepting research funds from foreign companies regarding Federal Government sponsored or funded research technologies? Why? What field was the technology in? (これまでに米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術において、これまでに外資系企業からの 研究資金援助を拒否もしくは受け入れを断念したことがありますか?それはなぜですか?また、それはどの分野 の技術においてですか?) 3. University Policy/Regulation (大学内政策 / 規定) (1) License to Foreign Companies: (外国企業へのライセンス) (a) Other than Bayh-Dole, are there any federal or state statutes or regulations that prohibit or discourage universities from licensing Federal or State Government sponsored or funded research technologies to foreign or out-of-state companies? (バイ・ドール法以外に、米国連邦政府もしくは州政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術を、外国企業 や州外の企業へライセンシングすることを禁止もしくは制限する連邦法や州法はありますか?) (b) In your IP Policy or any other related written policies, are there any rules or directives that directly or indirectly favor domestic U.S. companies over foreign companies for the selection of licensees? Even if such express language does not exist in your written policies or documents, have there been any cases where domestic U.S. companies were given priority over foreign companies? (貴校の知的財産に係る政策、またはそれに関連する明文化されたその他の政策において、ライセンシー選択の 際、外国企業よりも米国内企業を優遇するための直接・間接的な規定や指示がありますか?貴校の政策や公文 書において、そのような規定が明文化されていない場合であっても、米国企業が外国企業よりも優先された例は これまでにありますか?) (c) What would be the most significant difference between sponsored research agreements with domestic companies and sponsored research agreements with foreign companies? Does your IP policy require special clauses in sponsor research agreements with foreign companies? What are they and why do you have them? (米国企業とのライセンス契約と外国企業とのそれとで、最も大きな違いは何ですか?貴校の知的財産に係る政 策は、外国企業とのライセンス契約において特別条項を必要としますか?それはなぜですか?) (2) Sponsored Research Funding from Foreign Companies: (外国企業からの研究資金援助) (a) In your IP Policy or any other related written policies, are there any special rules on accepting research funds from foreign companies, especially in the same fields where the Federal Government has been funding some research? (貴校の知的財産に係る政策、またはそれに関連する明文化されたその他の政策において、外国企業からの研 究資金を受理する上で、特に連邦政府が資金を提供している同じ研究分野において、特別なルールはあります か?) (質問項目続く) ― 40 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (b) What would be the most significant difference between sponsored research agreements with domestic companies and sponsored research agreements with foreign companies? Does your IP policy require special clauses in sponsor research agreements with foreign companies? What are they and why do you have them? (外国企業との委託研究契約と国内企業とのものでは、何が最も異なるのでしょうか?貴校の知的財産に係る政 策は、外国企業とのスポンサーの研究契約に特別条項を必要としますか?それらの条項はどのような内容で、 また、何故そのような条項があるのですか?) 4. Protecting U.S./State Interests (米国 / 州の利益の保護) (1) What do you think U.S. or State interests are when they fund research in your university? (米国や州が貴校に研究資金を提供する際、何が彼らの利益になるとお考えですか?) (2) How do you protect those U.S./State interests in the event that you consider licensing the research fruits to foreign or out-of-state companies? (外国や州外の企業へ研究成果をライセンス供与することを検討する場合、先に述べた米国や州の利益をどのように 守りますか?) (3) Similarly, how do you protect U.S. interests in cases where you receive research funds from both the Federal Government and foreign companies concurrently in the same field? How do you fire-wall them? (同様に、同じ研究分野において、連邦政府と外国企業の両方から研究資金を受け取る場合、どのように米国の国益 を守りますか?) 表7: 大学技術移転局面談者一覧 大学名 役職 氏名 面談日 ノースカロライナ州立大学 (North Carolina State University (NCSU)) Executive Director Office of Technology Transfer Billy B. Houghteling 11/09/2011 バージニア大学 (University of Virginia) Executive Director Associate Vice President Innovation Partnerships and Commercialization W. Mark Crowell 11/30/2011 ワシントン大学(University of Washington) Senior Technology Manager Center for Commercialization Lisa Norton 12/06/2011 ミシガン大学(University of Michigan) Director of Licensing Tech Transfer Robin L. Rasor 12/09/2011 フロリダ大学(University of Florida) Director Office of Technology Licensing sid Martin Biotechnology Development Incubator Office of Research David L. Day 01/12/2012 ― 41 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 3.大学ヒアリング調査結果まとめ 各大学における国費研究成果の国外流出リスクマネジメントについて、ヒアリング調査した結果を以下にまとめる。 なお、ヒアリング結果の概要は【参考】を参照されたい。 (1) IP ポリシーにおいて、外国企業の取り扱いを別途、規定している例は尐ない 今回訪問した大学のうちで、産学連携活動の基本となる IP ポリシーにおいて、外国企業の取り扱いについて明確な 規定を設けているところはなかったばかりか、IP ポリシー内に「外国(Foreign)」という単語が出てくる大学も皆無で あった。このことから、知財のライセンス等の日常業務において、相手が外国企業か国内企業かについては、どの 大学も特段意識していないことがわかる。 (2) 国内企業を優遇するよりも能力を精査しライセンス先を決定 ライセンス先選定における最優先事項は、商業化を実現する能力(技術力、商品開発力、資金等)の有無であり、米 国内企業や地元企業をライセンシーとして優遇する方針の大学は尐なく、外国企業という理由だけでライセンスを断 った事例もない。国内企業と外国企業の2つのライセンス希望者が同時に現れた場合、同じ条件であれば国内企業 を優先するとの意見も一部あったが、実際には複数のライセンシー候補者が同時に現れることは極めて稀なことで ある。なお、ライセンシーの最終的な決定権限はほとんどの場合、技術移転局長が保有する。 (3) 「外国企業」の定義は存在せず、定義も困難な場合が多い 各大学の IP ポリシーに外国企業の取り扱いが明確化されていないということは、「外国企業」も定義されていないこ とを意味する。このため、各大学の担当者個々人よって、「外国企業」の定義も異なっている。しかしながら、世界的 な大手製薬企業である GSK やアストラゼネカのように、米国に本社を持たないものの米国内で広く活動を展開して いる企業については、米国の産学連携関係者の多くが「外国企業」ではなく「国内企業」として認識している。 実際、ヒアリングをした大学のみならず、ほとんどの大学の産学連携活動の実務において、「外国企業」「国内企業」 の別が意識されるのは、バイ・ドール法に基づく「相当程度国内生産規定」が満たせるかどうか、という点のみのよう 41 である 。すなわち、各大学は企業の本社所在地ではなく、生産拠点に関心を持っている。 (4) 「相当程度国内生産規定」の適用除外申請は尐ない 大学がバイ・ドール技術に係る独占実施権を企業に許諾する際には、「相当程度国内生産規定」が満たさなければ ならないが、適用除外の規定も用意されている。スポンサー省庁に申請し、米国内で生産を行う適切なライセンシー を探したが見つからなかったこと、あるいは米国内での生産は経済的に合理性がないことを証明することで、適用除 外扱いとなる。 外国企業等、米国内に生産拠点を持たない企業に独占権を許諾する際には、「相当程度国内生産規定」の適用除 外を受ける必要があるが、実際には大学側からの適用除外申請は頻繁には行われていない。事実、膨大な額の研 究グラントを大学に支出している NIH ですら、適用除外申請は年間 10 件以下に留まっている。また、スポンサー省 庁側においても、適用除外申請をシステマティックに受け付ける体制が十分に整備されてこなかったという背景があ る。近年では、NIH の iEdison というシステムが多くの省庁に横断的に使用されるようになっており、今後運用の改善 がなされていくものと考えられる。 41 AUTM 前会長 Dr. Ashley Stevens 氏との面談(2011 年 12 月 19 日)より ― 42 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (5) バイ・ドール技術をベースとした共同研究成果に、バイ・ドール法が適用されるかどうかの判断は大学の個別判 断に委ねられることが多い 外国企業、国内企業を問わず、企業が共同研究相手となる大学を選ぶ際には、当該大学が有する知財、過去の研 究成果に着目することが多い。国費による研究成果・知財をベースにした技術(バイ・ドール法の適用を受ける技術) について、その改善や商品に忚用できるプラットフォーム等、企業側から特定部分の研究開発を共同で実施したいと 大学に申し出ることも尐なくない。 この場合、バイ・ドール技術をベースとして新たに生み出された技術が、国が非独占実施権を留保したり、March-in Rights が及んだりするバイ・ドール技術として取り扱われるかどうかについては、明確な判断基準が存在しておらず、 大学側によるケース・バイ・ケースの判断に委ねられているのが実態である。 具体的には、ベースがバイ・ドール技術である以上、改善技術についても全てバイ・ドール技術として取り扱うとして いる大学もある一方、民間企業が追加で行う研究に国からの資金が流用されないよう厳格な事務処理をすることに より、バイ・ドール技術ではないものとして取り扱うとしている大学も多くあった。 具体的には、予め企業側から国の関与(国の非独占実施権の所有等)を排除したい、との申し出があった場合には、 国費部分と企業拠出部分を明確に区別してから、共同研究を実施することで対忚している。この場合、成果は純粋 に大学と企業に帰属し、国は一切関与できない(「相当程度国内生産規定」等も適用されない)。例えば、IBM は国 の関与を嫌う傾向にあり、バイ・ドール技術かどうかがライセンスの際に大きなポイントとなるとのことであった。 ただし、このようなケースにおいては、研究資金の切り分け事務が煩雑となるばかりでなく、企業の方針により研究 成果を公表できない場合も多い。このため、研究成果を公表することでキャリアを築かなければならないポスドク等 を、共同研究活動に十分に活用できない、等の問題が一部存在する。 (6) 外国企業とのライセンス契約で追記している条項 外国企業とのライセンス契約において、国内企業とのライセンス契約と比較し、特に追加している条項は事務的な事 項が主であるが、下記の通り。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ 相当程度国内生産規定を満たすための条件(商品化に成功し米国で販売する際には、相当程度を米国内で 生産する、あるいは直ちには困難であっても近い将来、米国で生産を開始する、等の条件) バイ・ドール法で求められる契約記載事項(米国連邦政府が非独占実施権を有すること、連邦政府による March-in があり得ること、等) ロイヤリティ等の支払いに係る税法上の取り扱いに係る規定 米国ドル及びライセンシー現地通貨の為替相場に関する規定 裁判、調停に係る所管地区の場所 英語とライセンシー現地言語の契約書の両方が存在する場合には、英語版が優先する規定 ライセンシーの商品化に係る努力のモニタリング規定(定期的な報告、必要に忚じ来学して大学に対する進捗 説明) ただし、上記に挙げたバイ・ドール法関連の規定は、外国企業だけに追加的に求められる事項ではなく、バイ・ドー ル法適用技術については、ライセンシーの国籍に関係なく求められる事項である。また、⑦については、外国企業の モニタリングは難しく、リソースの尐ない大学では十分できていないとの認識が背景にある。 (7) 「国内 VS 外国」よりも「州内 VS 州外」 訪問した大学では、外国企業か国内企業の別よりも、州内企業か州外企業の別をより注視する大学が多数見られ た。教育、研究と並び、産学連携による地元経済への貢献が重要な役割として認識され、定着している米国の大学 では、地元企業へのサービス、育成、支援による地場経済の成長発展、端的に言えば、雇用創出確保が最重要課 題となっているためである。 ― 43 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて このため、州内企業や州内で起業する会社に対しては、ライセンス料やロイヤリティをディスカウントする大学も存在 する他、大学の支援リソースを最大限駆使し、スタートアップ等に対してきめ細かい育成支援を実施している。 (8) 「外国」へのライセンスは、結局「州内・地元」へ 各大学とも地元経済への貢献は、地元企業へのサービス・貢献に留まっていては実現できないことを十分理解して いる。例えば、州政府の資金が投入された研究成果は州内企業にしかライセンスしない、という運用もあり得るもの の、このように研究成果に「足枷」をつけてしまっては、技術の普及や商業化の機会を失うことになりかねないと大学 側も十分認識している。国籍、所在地にかかわらず、Right Partner を探すことが最も重要、というのは、技術移転局 関係者の共通認識となっている。 外国企業や州外企業へのライセンスであっても、ベストな企業へライセンスすることで研究成果が有効活用されれば、 商品化などにより、社会にインパクトを与えることが可能になる。そのインパクトは直接、地元や州内にもたらされる ものではないかもしれないが、その経済への好影響は間接的に州内、地元にも還元されるものであると考えられる。 訪問した各大学では、国内あるいは州内と閉鎖的に考えるのではなく、研究成果の社会への還元のためには何が 必要かを十分考慮し、産学連携活動を展開している。 ― 44 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第四章 米国調査におけるまとめ 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて まとめ 4ヵ月以上にわたり、米国における国費研究成果の国外流出に係るリスクマネジメントの調査として、法体系・各種 規制の調査、補助金等のグラントを大学等に支出しているスポンサー省庁の担当責任者へのヒアリング調査、また 代表的な大学の技術移転局長等のヒアリング調査を行ってきたが、本調査ではスポンサー省庁、大学ともに外国企 業へのライセンス件数といった統計もほとんど整備していないばかりか、ライセンス、共同研究実施時において、驚く べきほど、「外国企業」と「米国企業」の別を意識していないことが判明した。 これは、スポンサー省庁や大学は、技術のライセンス先は国籍で選ぶものではなく、その商品化まで実現する能力 を最重要視して選ばなければならないことを十分認識しているために他ならない。ライセンシーが外国企業であれ米 国企業であれ、スポンサー省庁や大学にとって最も重要なことは、技術が実際に商品・サービスの形となって、国民 や地域の人々に利用されるようになることである。この意味では、米国ではスポンサー省庁も大学も、過度に研究成 果の国外流出を恐れてはいないとも言えるかもしれない。 バイ・ドール法において、外国企業へのライセンスを抑制する効果があると考えられる唯一の規定である「相当程度 国内生産規定」についても、適用除外が設けられており、実質的な阻害条項とはなっていない。また、米国は開かれ たマーケットであり、かつ外国企業を惹きつける魅力のある市場であることから、多くの外国企業が米国内において 何らかの活動拠点や生産拠点を有しており、この「相当程度国内生産規定」が大問題となるケースもそれほど多くは ないものと思われる。 以上を言い換えれば、バイ・ドール法による産学連携の歴史が 30 年以上ある米国では、現時点においては、外国企 業へのライセンスに足枷をつけるような規制は見当たらず、大学関係者等による実際の運用においても、極めて柔 軟な対忚が行われているのが実態といえる。 他方で、米国経済の低迷、失業率の高止まり、財政状況の悪化により、国費が本当に国民のために使われている かに対する注目が高まる中、また、中国等の新興国の台頭を受け、イノベーションを通じた米国産業競争力の強化・ 維持が叫ばれている中、バイ・ドール法の運用についても、より厳格に米国企業へもたらされる恩恵を求めていくべ き、という保守的な意見・動きも一部聞かれるようになっている。 例えば、今回行った大学へのヒアリング調査では、過去十数年間1度もなかったにもかかわらず、最近、スポンサー 省庁の担当者が突然大学を訪問し、知財の管理状況について確認した、とのコメントがなされた。また、「相当程度 国内生産規定」に対する適用除外申請が、NIH に年間 10 件程度しかなされていない事実を見れば、NIH のグラント の規模、それを通じた発明、さらにはライセンス件数から見ても、バイ・ドール法の運用が適切になされているとは言 い難い。さらに、そもそも「相当程度国内生産規定」は 30 年前の規定であり、現在では当たり前となったグローバル 化、国境を越えたオープン・イノベーションを想定していなかったことは言うまでもない。 30 年を経たバイ・ドール法は今後も引き続き産学連携の中心に座し、米国の産学連携に貢献していくという見方が スポンサー省庁、大学担当者の大方の見方であるが、例えば、現下の経済情勢を反映し、米国企業への優先規定 や雇用創出に向けた「相当程度国内生産規定」の運用の強化など、マイナーチェンジが行われる可能性も十分ある と考えられる。大統領選挙の年にあたり、共和党各候補者が一層保守化していく中で、引き続き米国の産学連携の 動向には注視していく必要がある。 ― 45 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 【参考資料】 大学技術移転局へのインタビュー結果まとめ42 Questionnaire 1. General Collaborations (一般的なコラボレーション) (1) How do you choose the licensee if you are fortunate enough to have more than one potential licensee? What is the most important factor when deciding among several potential licensees? Similarly, how do you choose a research collaboration partner when you have more than one candidate to choose from? (幸運にも1社以上の特許契約者候補が現れた場合、どのようにして契約者を決定しますか?複数の契約者候補の中から選択する過程 で、何が最も重要な決定要因になりますか?同様に、もし共同研究の候補者が複数いる場合、どのようにして共同研究のパートナーを決 定しますか?) (NCSU) まず、アビリティとコミットメントを見る。その上で、金銭的対価を含む各種条件。例えば、大学は1億円投資するだけかもしれない が、企業はその後長年にわたって 100 億円を投資して商品開発し、販売するなど、膨大な時間と資金が必要になる可能性がある。 最初に商品化するためのリソースとアビリティが本当にあるかどうかを見極め、判断する。すなわち、アーリーステージの技術に対 して、これをやり遂げるだけの能力(研究開発の継続)があるか、そしてやり遂げるだけのコミットメントがあるかが最も重要。 (UVA) 24 年間大学の OTT で働いているが、これまでに同時に複数のライセンシーが現れたケースは5件に過ぎない。ライセンシーはそ の能力(Capacity)で選ぶことになるだろう。知識、経験、実績、同様の製品を開発した経験があるか等が決め手となる。ロイヤリ ティ等の財政的な条件も要素のひとつだが、最も重要な要素ではない。一般論であるが、仮に全く同じ条件のライセンシーが2社 現れた場合、外国企業よりも国内企業、州外企業よりも州内企業、大企業よりも中小企業に優先度が与えられる場合が多いだろ う。 (UW) 最初にライセンス希望者に対して、①安全保障に係る輸出規制が存在すること、②裁判・係争に係る特殊な取り扱いがあり得ること、 ③著作権法を遵守しなければいけないこと、④特許・商標法を遵守しなければいけないこと、⑤論文等の発表を通じて成果を社会に 普及させる義務があること、等を説明する。これらを理解した者に対してのみ、ライセンスの協議を開始する。ライセンスの交渉で は、一般的に独占契約よりも非独占契約を志向することにより、複数のライセンシーの競合を避けるように努める。もちろん、企業 は通常は独占ライセンスを希望することが多いが、2つの企業が同時に現れることは稀である。仮に同時に現れたとしても、地域 を特定してその地域内だけでの独占契約とするやり方や、Field of Use を限定してその領域についてのみ独占とするやり方など、 複数のライセンシーに独占契約を与えるやり方は工夫の仕方次第でいろいろある。特に最近は複数の分野で使用できる技術が 増えているので、このようなやり方は珍しくないと思う。ライセンシーの選定には、商業化できるか、製品・サービスを社会に届ける ことができるか、その能力を見極めることが最も重要であり、ライセンス料等の条件は興味のあるポイントであるが、それほど重要 ではないかもしれない。特にライセンスする技術はアーリーステージのものが多いため、ライセンス料等がライセンスの判断の大き な要素になることはそれほど多くはないのではないか。 (UM) 一般的に同時に複数のライセンシーが現れることは尐ない。ただし、関心を示す企業が複数来ることはよくある。先日もひとつの 技術について 10 程度の企業が関心を示し、それを発明者とともに精査して2社程度に絞り込んだ。このプロセスには、やはり発明 者の意向がかなり大きく影響する。ライセンスした後も発明者は技術の商業化についてライセンシーに協力を求められ、大きな影 響を及ぼすため、発明者が反対するライセンシーにライセンスすることはあり得ない。市場に製品を届けることができる可能性の 高いライセンシー、そして発明者が付き合っていき易いライセンシーを選ぶことになる。 (UF) 商業化させる能力を第一に精査し、それが確認できればライセンスすることになる。通常はライセンシーの選択に際し、ほとんどオ プションがないのが普通であり(ひとつでもライセンシーが見つかれば十分であり)、複数のライセンシーが同時に現れることはま ずない。 (2) Who has the final say in deciding upon licensees or research collaboration partners? What due diligence or processes do you need to go through to select and finally approve a licensee or collaboration partner who expresses an interest in your research technology? Are there any differences in these processes in case of licensing or collaborating with foreign companies? (特許契約者もしくは共同研究パートナーの決定は、最終的に誰が行いますか?貴校の研究技術に興味を示す特許契約者もしくはコラボレ ーションパートナーを最終的に容認するうえで、どのような配慮や段階を経る必要がありますか?外国企業との特許契約もしくはコラボレー ションの場合、こうしたプロセスにおいて異なる点はありますか?) 42 これらはインタビューを実施した者の理解に基づく整理であり、またインタビュー結果は大学全体の公式見解ではなく、対忚して下さった方々 の個人的な見解も含まれる。 ― 46 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (NCSU) 局長自身が最終的な判断権限を有する。当大で署名権限があるのは学長、OTT 局長、OSR 局長(Office of Sponsored Research)の3人のみ。しかもこれはノースカロライナ州として署名する権限だ。Chancellor、Vice President for Research、そし て OTT 局長の順に権限が委任されており、全ての権限を局長が有する。 (UVA) ライセンシーは Virginia Patent Foundation(VPF)の私が全責任を持って決めることができる。国内企業だろうが外国企業だろう が手続きは同じ。外国企業の場合で、当該ライセンシーがバイ・ドール法の「相当程度を米国で生産する」という要件を満たすこと ができない場合には、その説明責任を負うことになるので、常に明確な理由が必要となる。ただし、この要件を満たすことができな い理由をライセンスの前に予め政府当局に通知し、許可を取るというような手続きは不要。なお、VPF は当大より OTT 業務を委託 されているエージェントである。ヴァージニア州法は例えば、大学がスタートアップのエクイティを取得することなど禁じている(ノー スカロライナ州では当然のように認められている)など、制限が多い。このため、別法人を設立して活動し易いようにしている。これ は、英国やオーストラリアでよく見られるやり方だ。VPF は従前、収益の 40%を取り、60%に大学に納めていた。この 40%から VPF の人件費、家賃等の経費を賄わなければならなかった。いわば、完全に大学から独立自治の状態だった。しかし、これでは 年間のロイヤリティ収入の変動に忚じて VPF の収入が大きく変動し、安定的な組織運営が難しい場合もある。また、例えば膨大な 研究資金を受け取ることにより、成果のライセンス料を無料や定額に抑えるというようなスポンサー研究契約を大学が VPF の知ら ないところで締結することも可能であり、すなわち、将来の VPF の収入が大学側に「取り上げられる」事態も発生し得る。従って、 現在では、大学の研究開発担当副総長から毎年度、VPF の予算(ロイヤリティ収入の 40%を目処)を定額支給されるという方式 に変更した。これにより、大学からの完全な独立自治の状態ではなくなり、副総長からの管理を受けるようになった。 (UW) ライセンスの交渉は、発明者が Center for Commercialization (C4C)にインライセンスに関心のある企業を持ち込むことから始ま る場合が多い。ライセンス先の決定には、発明者自身の判断が大きく影響することもあるが、最終的には C4C が判断する事項で ある。なお、Washington Research Foundation(WRF)という組織が大学組織として存在するが、これはバイ・ドール法制定前から 存在し、当大の特許等に係る技術移転活動を実施していた組織。バイ・ドール法施行以後は、大学の一組織として C4C がその業 務を担っている。当大は公立大学であるため、スタートアップ企業等、民間企業への投資ができないことになっている。このため、 大学とは別組織であり、このような規制の及ばない WRF が大学に代わり、当大発スタートアップへの投資など、ベンチャーキャピ タルのような役割を担っている。また、シードファンディング等も行っている。 (UM) 規定上は OTT が決定権を有するが、最終的な判断には発明者の意向が大きく影響する。発明者が金銭面での条件にこだわる場 合は、金銭的条件が大きな要素のひとつとなる。ただし、発明者に様々なオプションを示し、「教育」し、正しい判断ができるように サポートすることも重要。ライセンシーの選択で発明者ともめることは尐ないが、発明の開示があった技術の取り扱いをめぐり、発 明者と議論となることはよくある。発明者は一般的に特許申請等により権利の保護を求めるが、OTT の調査により、そこまでしなく てもよい(する価値がない)と判断した場合には、大きな議論となるときがある。共同研究等の場合には OSR が大学のポリシーに 照らして判断することとなる。外国企業から共同研究資金等を受け入れるからという理由で拒絶されることや、特別な手続きはな いと思う。 (UF) OTL(Office of Technology Licensing)に任せられているが、それに加え発明者の意向が重要となる。個人的にこれまで約 800 ケ ースのライセンスを取り扱ってきたが、発明者の意向に反し、ライセンスしたのはたったひとつに過ぎない。そして、それは大きな失 敗に終わった。それ以降、必ず発明者の意向に従うこととしている。 (3) With licensing, other than financial consideration paid to acquire the license rights, how often do you receive research funds from licensees to develop the technology further? (特許契約において、ライセンスの権利獲得のために支払われた金銭上の報酬以外に、技術のさらなる開発のために、どの程度の頻度で 特許契約者から研究資金を受け取りますか?) (UVA) ライセンスを受けた技術(連邦政府資金による発明)の改善等を行いたいというライセンシーが、ライセンス契約と同時に研究資金 を大学・研究者に提供する場合もある。このような場合には、改善部分についてもバイ・ドール法の適用を受ける技術として取り扱 うことにしている。研究者の人件費、設備等が連邦政府資金によって賄われている場合には、厳密な切り分けが難しく、論理的に は連邦政府資金が改善のための研究に「投入」されているとも解釈できる。万が一のことを考慮し、バイ・ドール法の適用を受ける 技術と同様に取り扱っている。逆に言えば、企業が研究のスポンサーとなる場合に、研究成果について連邦政府の関与を断ち切 りたい(バイ・ドール法の世界に入りたくない)という希望があれば、予め連邦政府資金との関係を全て断ち切り、区別して取り扱う ことになる。 (UW) そのようなケースは結構あるのではないか。大雑把に言えば、ライセンシーから追加で特定目的のための資金が提供されるケー スは 20~25%程度あると言えるだろう。また、発明者が引き続きライセンシー企業とコンサルティング契約を結び、商業化の支援 を行うことも多い。 (UM) 難しい質問だが、経験的に言えば、ライセンス全体の 20%程度は、追加の共同研究等に進むことがあるのではないか。また、スポ ンサー企業と Option agreement(研究を行う一定期間について、成果をライセンスする権利)を結ぶこともよくある。これは共同研 究契約の際によく一緒に結ぶ契約。例えば、成果のライセンスについて、一定期間は独占的に交渉できる権利をスポンサー企業 ― 47 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて に付与し、一定の対価や特許申請料を支払ってもらう約束を得る契約。共同研究契約とは別に結ぶことも多い。その対価も様々で ある。 (UF) 珍しいケースではないと思う。政府グラント等、年間6億ドルの研究費を獲得している。そのうち、民間企業がスポンサーとなってい るのは 15~20%程度となっており、企業がライセンスを受けた際に、追加的な研究活動に向けて資金を拠出したり、当大が有する 知財を目当てに民間企業が研究のスポンサーとなる場合は珍しくないと思う。 2. Collaboration with Foreign Companies (外国企業とのコラボレーション) (1) License to Foreign Companies: (外国企業へのライセンシング): (a) To what extent do you license your technologies to Foreign Companies? In other words, approximately what percentage of your licensing deals have been made with Foreign Companies, and approximately what percentage of overall royalty income has been paid by foreign companies? (貴校の技術を外国企業へライセンスするのはどの程度ですか?言い換えれば、貴校の技術の特許契約はどれぐらいの割合で外 国企業と締結され、特許使用料から来る総収入の何割ぐらいが外国企業によって支払われていますか?) (NCSU) 外国企業の場合は金額、件数ともに 10%未満程度。 (UVA) 厳密な統計ではないが、年間 60~80 のライセンス。そのうち、55 程度が独占ライセンス。外国企業との契約は統計がないが、尐 なくはない。外国企業の定義もいろいろあるので、そのようなデータは取りにくい。ロイヤリティ等は年間 800 万~900 万ドル。その うち、米国企業、あるいは外国企業であっても米国で大規模に事業を展開している企業(ファイザーや GSK)からの収入は 80~ 90%程度になるのではないか。すなわち、いわゆる「完全」な外国企業からのロイヤリティは 10~20%程度。 (UW) そもそも国内企業と外国企業で分けて統計は取っていないため、そのようなデータを出すことはできない。これは日常の業務にお いて、我々が国籍を気にしていないことの表れとも言えるかもしれない。強いて言えば、米国に何らかの活動のベースのある外国 企業を除いて、全くの外国企業(例えば、米国に支部局を全く持たない外国企業)へのライセンスの割合は5~10%程度ではない か。同様な理由から金額のデータもないが、概ね件数のシェアと同じようなものではないか。 (UM) 外国企業の定義が難しいので、統計的に出すことはできない。Bayer、BASF、Devio Pharma 等を外国企業と定義するのか。こう した企業は米国でかなりの活動をしており、外国に本社があっても、技術移転の世界の多くの人は外国企業とは見なしていないだ ろう。米国で活動しておらす、純粋に外国で活動する企業へのライセンスを「外国企業へのライセンス」と定義するのであれば、例 えば最近では、香港のスタートアップ企業へのライセンスがあるが稀なような気がする。 (UF) 正確な統計はないが、10%程度ではないか。そもそも外国企業の定義が難しい。日常の活動の際に、外国企業か米国企業かを 意識することはあまりない。大雑把に言えば 10%のうち、米国において支店等を有し、何らかの経済活動を行っている外国企業へ のライセンスは5%程度で、残りの5%は米国内で全く経済活動を行っていない外国企業へのライセンス。 (b) Have you ever licensed to foreign companies any research technologies that resulted from Federal Government sponsored or funded research? Please give a few examples of any such licensing to foreign companies. (米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究によって得られた研究成果を、これまで外国企業にライセンスしたことがあ りますか?もしある場合は、その例をいくつか挙げてください。) (NCSU) もちろん、たくさんある。Right Partner を選んだ結果、外国企業だった、ということはよくある。例えば、フランスの企業に Avian embryonic セルラインに係る技術をライセンスしたことがある。もちろん、このフランス企業は研究費を一切負担しておらず、この研 究は連邦政府から研究費をもらっていた。また、この技術については、人体用と動物用に分け、人体用をフランス企業に、動物用 をジョージア州の企業に独占的にライセンスした。 (UVA) 最近の例であれば、アストラゼネカに対する循環器系の技術のライセンスや、シーメンスへのライセンスなどがある。 (UF) 最近の例で言えば、ソーラーパネルに係る技術をオランダの企業へライセンスした。また、オレンジの生産に係る技術について、ブ ラジル企業にライセンスした。後者の例は、フロリダ州のオレンジ農家等が研究開発に関与していただけに、ブラジル企業にライセ ンスした際には、関係者は失望した。だが、フロリダ州内の企業の中から適切なライセンシーを見つけられなかった、という事情が ある。 ― 48 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (c) In contrast, have there been any cases where you declined or had to give up licensing to foreign companies regarding Federal Government sponsored or funded research technologies? Why? What field was the technology in? (反対に、米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術において、外国企業へのライセンスを拒否したり断念しなけ ればならなかったことはありますか?それはなぜですか?また、それはどの分野の技術においてですか?拒否したり放棄しなけれ ばならなかった事はありますか?それは何故ですか?また、それはどの分野の技術においてでしょうか?) (NCSU) ない。州立大学という立場上、ノースカロライナ州民のために機能し、貢献することが求められる。また、雇用の創出、地域経済成 長などの役割を担うことが強く期待されている。しかし、外国企業にライセンスした場合でも、そのメリットが回り回って、間接的にノ ースカロライナ州にもたされることも考えられる。商品が一般大衆が利用できるものにならないと、そもそも意味がない。もちろん地 元に工場が建設され、雇用が創出されればよいのは確かだが、地元にこだわっていては機会を失うこともあり得る。ライセンスの 機会があれば、国外、国内、州内を問わず、Right Partner を探す努力をすべき。地元あるいは国内企業にパートナーを限定して しまえば大きな市場を失うことになり、回り回って地元や米国に戻ってくるかもしれない利益まで失ってしまう恐れがある。 (UVA) 外国企業だからという理由でライセンスを断ることはないし、これまでにそのような例はない。むしろ企業の方が、バイ・ドール法に より国が関与してくることを嫌う傾向がある。すなわち、自社が独占実施権を取得したにもかかわらず、国が実施することもあり得 ることを嫌う企業ある。例えば、IBM は国の関与について非常に敏感な時期があった。また、外国企業へのライセンスに限ったこと ではないが、バイ・ドール法に基づき国が March-in Rights を発動しようとした場合も確かあったと思うが、どれも失敗している。手 続き的に、また司法判断的に、March-in Rights を発動するのは実質的には難しいのではないか。 (UW) 超音波を利用した医療画像技術を中国企業にライセンスしようとした際に、各種困難が生じた例がある。当初、米国企業にライセ ンスする計画であったが、その企業が中国企業に買収されたため、このような問題に発展した。問題となった技術は、純粋な医療 画像診断技術であったが、戦地での兵士の内出血の診断にも使えるということから、Defense Advanced Research Project Agency (DARPA)から懸念が示された。しかし、結局は中国企業に無事ライセンスできた。 (UM) 外国企業だから断念したという例は、すぐには思い浮かばない。 (UF) ない。ただし、外国企業との交渉は国内企業との交渉と比べて、文化の違い、言語の違い等から難航する場合が多く、交渉がまと まらず断念したケースは多々ある。例えば、一般的に言えば、ヨーロッパの大手企業について言えば、米国内の担当者と議論して いる際には全く問題は生じないが、欧州にある本社の法務部が最終的に関与してくると話が複雑になり、交渉がスローダウンする 場合が多い。また、中国の企業は米国流の技術移転のやり方を理解していない場合が多く、説明に時間を要したり、そもそも理解 しようとしない場合などもあり、うまくいかないこともある。その点、日本やインドの企業は米国と価値観が似ているため、交渉やビ ジネスがやり易い。 (2) Sponsored Research Fund from Foreign Companies: (外国企業からの研究資金援助について:) (a) To what extent do you receive research funds from foreign companies? In other words, approximately what percentage of your research funds comes from Foreign Companies, and approximately how much is it in total? (外国企業から貴校が受け取る研究資金はどの程度でしょうか?言い換えれば、貴校の研究資金のうち、外国企業から提供される のは何割程度ですか?また、その額は全体でいくらになりますか?) (UW) 共同研究等については Office of Sponsored Projects という組織が存在し、企業からの研究資金の受け入れを管理している。ま た、この組織が大学の規定、IP ポリシー等に照らし、企業からの研究資金を受け入れてよいかどうかの最終判断も行っている。担 当者の話によると、外国企業からの研究資金はざっと見て 1500 万ドル程度とのことである。当大全体の研究資金受入額は今年 度は 15 億ドルに上るため、単純計算で1%になる。なお、15 億ドルのうちの 97%は政府機関からの資金であり、なかでも NIH 拠 出の研究費の割合が高くなっている。 (UF) 外国企業という観点に基づく統計はない。毎年獲得している約6億ドルの研究費のうち、民間企業からの拠出は約 15%にあたる 9000 万ドル程度だろうか。そのほとんどが製薬会社からの資金で、治験や臨床研究に関するもの。一般的に製薬会社の多くが外 国に本社を持っていることから、こうした企業は外国企業と呼べるのかもしれない。 (b) Have you ever declined or given up accepting research funds from foreign companies regarding Federal Government sponsored or funded research technologies? Why? What field was the technology in? (これまでに米国連邦政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術において、これまでに外資系企業からの研究資金援助を拒 否もしくは受け入れを断念したことがありますか?それはなぜですか?また、それはどの分野の技術においてですか?) ― 49 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (UW) OSP の担当者によると、研究資金の受け入れを断った例で記憶にあるのは2件のみとのことであり、これから判断すると極めて尐 ないと言えるのではないか。 (UM) 外国企業だからという理由ではなく、大学が企業との契約で合意に至らず、資金を受け入れることができなかった例はある。例え ば、研究者が成果を論文等で発表することを企業が認めなかったり、企業が IP を所有することを主張する場合などは、大学のポリ シーと照らすと合意は難しい。ただし、医学部の臨床試験契約等は別である(この場合には、企業側が成果を全て所有することも 多い)。これらは Office of Sponsored research (OSR) が担当している。 3. University Policy/Regulation (大学内政策 / 規定) (1) License to Foreign Companies: (外国企業へのライセンス) (a) Other than Bayh-Dole, are there any federal or state statutes or regulations that prohibit or discourage universities from licensing Federal or State Government sponsored or funded research technologies to foreign or out-of-state companies? (バイ・ドール法以外に、米国連邦政府もしくは州政府がスポンサーもしくは資金援助した研究技術を、外国企業や州外の企業へラ イセンシングすることを禁止もしくは制限する連邦法や州法はありますか?) (NCSU) バイ・ドール法しか思い浮かばない。特に関連した州法もないのではないか。バイ・ドール法には、相当程度国内生産規定や国の March-in Rights がある。ただし、国内企業への独占実施権付与も義務ではない。政府機関から助成金を受け取っている組織とし て、その助成金を基に行われた研究成果の報告、ライセンスを行った際の報告、そしてどのようにその技術が商品化されたかを報 告をする義務である Utilization Report がある。これら全ての報告書を国に提出しているため、国は全てを知り得る立場にある。し かしながら、1980 年代にバイ・ドール法が施行して以来、国が外国企業へのライセンスに異議を唱えたり、March-in Rights を発 動したことは聞いたことがない。国への報告は多くの大学が、最初の報告と特許の報告は行うが、Utilization Report まできちんと 実行している大学は減っている、と聞いている。逆に、特にオバマ政権になってから、雇用の創出、より透明な説明責任の確保と いう観点から、成果の取り扱いに厳しくなってきたとの印象を持っている。先日も連邦政府の担当者がやってきて、知財の取り扱い について調査をしていった。このようなことはこれまでなかったが、今後は政府の方針として増えていくのかもしれない(この件に関 しては AUTM 会長の Robin Raiser さんに尋ねるのがいいかもしれない。彼女なら政府の規制と技術移転局のこれまでの関係に ついて、数多くの事例を知っている可能性がある) (UVA) バージニア州にはない。ただし、テキサス州など保守的な州には、州政府の研究資金が投入された研究成果は、州内の企業にし かライセンスできないという規制があると聞いたことがある。これは極めて近視眼的なものの見方。ただし、わかり易いことから、州 議会議員はこのような制度を持ち出すことがある。このように技術成果に「足枷」を課しては、技術の普及活用が妨げられ、機会を 失うことになりかねない。州外の企業にライセンスしても、そのメリットが回り回ってテキサス州に戻ってくることも多いに想定される。 「国内企業 VS 外国企業」の議論でも同じことが言える。 (UW) 技術移転に関しワシントン州法には、バイ・ドール法を補完するような規制は存在しない。むしろワシントン州政府は大学技術の商 業化に積極的である。例えば、ワシントン州には、Washington Technology Center という州内の技術の商業化を支援している組 織があり、スタートアップ企業、研究者に対して各種グラントを支給している。また、Life Science Discovery Fund というのもあり、 毎年 500 万ドル程度を製薬関連企業に投資していると聞いている。さらに W Fund と呼ばれるものもある。このようにワシントン州 は独自のプログラムを展開し、技術の商業化を支援している。C4C も州政府とは密接に連携している。 (UM) ミシガン州では州内に留まることを条件に、州政府が企業に補助金等を支給した例がある。補助金を受給した企業は契約上、州 内で活動を続けなければならないが、万が一、他州に移転する場合は、受給した補助金の一部を返還(Buy Out)しなければなら ないこともあると聞いた。ミシガン州は比較的、州内の企業・雇用にこだわる傾向が強いのではないだろうか。オハイオ州で勤務し たこともあるが、20 年前と比べると、こうした「州内規定」が厳しくなってきている印象がある。ただし、このような「州内規定」はメリ ットよりもデメリットの方が大きいという意見もある。州内企業にこだわっていては、チャンスを逃すことも多いのではないか。 (UF) バイ・ドール法に「相当程度国内生産規定」という規定がある。この規定を満たすのがそれほど難しくないからかもしれないし、スポ ンサーである省庁が捕捉していないということなのかもしれないが、16 年間のキャリアで同規定に係る免除申請を行ったことはな い。これまで問題になったこともない。大学等において、バイ・ドール法に基づく報告等は、一般的にきちんと行われていないので はないか。 (b) In your IP Policy or any other related written policies, are there any rules or directives that directly or indirectly favor domestic U.S. companies over foreign companies for the selection of licensees? Even if such express language does not ― 50 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて exist in your written policies or documents, have there been any cases where domestic U.S. companies were given priority over foreign companies? (貴校の知的財産に係る政策、またはそれに関連する明文化されたその他の政策において、ライセンシー選択の際、外国企業より も米国内企業を優遇するための直接・間接的な規定や指示がありますか?貴校の政策や公文書において、そのような規定が明文 化されていない場合であっても、米国企業が外国企業よりも優先された例はこれまでにありますか?) (NCSU) ない。すなわち、州法にも当大の規定にも、国内企業や州内企業を優先しなければならないとする規定は存在しない。地元経済成 長という観点を、地元企業優遇と解釈すれば別だが。地元企業に限定しなくとも、地元の経済成長を実現する手法はある。 (UVA) ない。強いて言えば、州内の企業や大学発ベンチャーなどを優遇し、低率のロイヤリティレートでライセンスする場合はある。ただ し、明文化は一切されていない。一般論であるが、国内・外国企業を問わず、個別の技術別のライセンスではなく、Field of Use と いう形でまとめたライセンス(例えば、個別技術を列記するのではなく、診断技術分野における全ての理由を認めるライセンス等) や、地理的な場所を特定しまとめたライセンス(例えば、アジア地区の権利は全て東芝へライセンスする等)が徐々に増えているの ではないか。これは、ライセンシー企業の自由度と商業化の可能性を高めることができる一方、大学側としてもより大きな対価が 期待できる。複数の分野に同時に忚用できる技術が増えてきたことも一因だ。 (UW) 外国企業に関する取り扱いを別途規定している部分は、直接・間接を問わず一切ない。ただし、明確な規定にはなっていないが、 当大発のスタートアップ企業には特別配慮し支援することがある。ライセンスの条件を優遇するということではなく、我々や我々の 有するネットワークを総動員し、ハンズオンで各種支援をする。具体的には、Entrepreneur in Residence を活用した経営支援、ビ ジネススクールやロースクールの学生を活用した実践的な支援、エンジェルや VC 等の投資家への紹介、安価なオフィススペース の紹介などが挙げられる。ちなみに当大発のスタートアップは毎年 10 社から 12 社程度。この数字には設立されたばかりのペーパ ーカンパニーは含まれない。実際に投資を受けた、CEO を雇用した、オフィスを賃借した等、実態のある活動を展開し、ある程度 サバイバルしている企業のみをカウントしている。 (UM) バイ・ドール法では、大企業よりも中小企業を優先しなければならない、とされている。また、外国企業、国内企業という区別ではな く、米国で製品を売るのであれば、「相当程度米国内で生産する」ことを求めている。ライセンスした技術を利用した製品を米国外 で売るのであれば、工場はどこにあっても構わない。この規定を適用除外とする要件も定められており、これは個別案件ごとにス ポンサー省庁に申請して許可を得る必要があるが、これまでに数件しか申請したことがない。すなわちこれは、企業の多くは米国 で一定のプレゼンスがあり、要件を満たすことができるということだと思う。米国の市場はオープンでマーケットとしても魅力があり、 様々な企業が進出してくるため、「外国企業」という定義が難しく、「相当程度米国内で生産する」という規定は、昨今ではあまり意 味を持たなくなってきているのかもしれない(その点、日本の市場は未だに関税が高いなど閉鎖されており、外国企業のアクセス が十分ではなく、国内企業 VS 外国企業という対比がし易いのかもしれない) 州内の企業や大学発スタートアップを州外企業よりも「優遇」することもあるが、ライセンス料をディスカウントするといったことでは なく、ハンズオンの各種サービスを無料で提供することにより支援している。 (UF) 明記されている規定においても、明記されていない運用上の取り扱いにおいても、国内企業を国外企業より優遇するよう定めた規 定は一切ない。同様に、州内企業を州外企業より優先するという規定も一切ない。技術移転は Equal Opportunity Business だと 思っている。どのパートナーといても平等に付き合い、その中から最も商業化の能力のある者を選ぶことが大事。ただし、先に述 べたように、ライセンス先がひとつ見つかればいい方で、通常は選べる立場ではない。仮に同じ条件で外国企業と国内企業が同 時にライセンスを申し込んできたとしても、その能力、商業化の可能性の高さを評価した上でどちらにライセンスするか決める。盲 目的に国内企業を選ぶことはない。ただし、カウフマン財団のレポートによると、統計的には大学の技術移転の8割は、大学から 400 マイル以内の企業に対して行われているようである。これは地元企業を優遇しているということの現れというよりも、物理的に 近い企業(大学発スタートアップを含む)には実際に面談できる、話がし易いなどのメリットがあり、ライセンスし易いからかもしれな い。 (c) What would be the most significant difference between license agreements with domestic companies and ones with foreign companies? Does your IP policy require special clauses in license agreements with foreign companies? Why? (米国企業とのライセンス契約と外国企業とのそれとで、最も大きな違いは何ですか?貴校の知的財産に係る政策は、外国企業と のライセンス契約において特別条項を必要としますか?それはなぜですか?) (NCSU) 個別ケースごとに契約の内容は異なるが、外国企業との契約だからといって、国内企業との契約に比べ有意な差を設けることは ない。本質的なことではないが、敢えて言えば、外国企業との契約の際には、税金の取り扱い、為替レート、裁判地等の条項につ いて、国内企業との契約に追記されることが多い。 (UVA) 基本的にはないが、バイ・ドール法の「米国内での相当程度の製造」要件等に関し、契約で保証する場合もある。 (UW) 外国企業とのライセンスであっても特別追記することはないが、裁判管轄地や監査等に係る規定を充実させることはよくある。バ イ・ドール法で求められる契約のターム(国が非独占ライセンスを有すること、March-in Rights が存在すること等)を実際のライセ ― 51 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて ンス契約に記載することになるが、これは外国企業だから記載しなければならないのではなく、バイ・ドール法適用技術だから記載 しなければいけないのであり、外国企業、国内企業のライセンス契約に共通する事項である。 (UM) 特別な違いはない。複数の言語で契約書が書かれているときには、英語版が優先する規定を入れたり、税金上の取り扱いを設け たりするくらいか。本当は監査やモニタリングをもっとしっかりすべきであるが、大学にはそのリソースが十分揃っていない。なお通 常、スタートアップへのライセンスの際には大学がエクイティを取るが、先に挙げた香港のスタートアップへのライセンスについては、 大学法務担当の判断・アドバイスによりエクイティを取らなかった。外国株式の取得はリスクが大きく、事務手続きが煩雑となる場 合が多い。 (UF) 大きな事項、細かな事項等いろいろあると思われるが、やはり言語の問題であろう。外国企業との契約に条項を追加するというよ りも、技術移転という行為に対する理解の相違を双方が埋める作業が必要となる。一部の国では、米国のやり方とは大きく異なる 方法が採用されており、苦労する場合が多い。外国企業は物理的に離れているため、モニタリングが難しいと言われるが、モニタ リングに係る条項を追加することはしていない。毎年の進捗状況レポート、四半期ごとの財務報告を課しているのみである。これは 国内企業の場合も同じ。 (2) Sponsored Research Funding from Foreign Companies: (外国企業からの研究資金援助) (a) In your IP Policy or any other related written policies, are there any special rules on accepting research funds from foreign companies, especially in the same fields where the Federal Government has been funding some research? (貴校の知的財産に係る政策、またはそれに関連する明文化されたその他の政策において、外国企業からの研究資金を受理する 上で、特に連邦政府が資金を提供している同じ研究分野において、特別なルールはありますか?) (UW) 外国企業から提供された研究資金だからといって、特殊な事項・手続きは存在しない。 (b) 4. (1) What would be the most significant difference between sponsored research agreements with domestic companies and sponsored research agreements with foreign companies? Does your IP policy require special clauses in sponsor research agreements with foreign companies? What are they and why do you have them? (外国企業との委託研究契約と国内企業とのものでは、何が最も異なるのでしょうか?貴校の知的財産に係る政策は、外国企業と のスポンサーの研究契約に特別条項を必要としますか?それらの条項はどのような内容で、また、何故そのような条項があるので すか?) Protecting U.S./State Interests (米国 / 州の利益の保護) What do you think U.S. or State interests are when they fund research in your university? (米国や州が貴校に研究資金を提供する際、何が彼らの利益になるとお考えですか?) (UVA) 純粋科学の追究、論文や技術移転による成果の普及等、いろいろあるのではないか。強いて言えば、州政府の州内企業に対する こだわりの方が、連邦政府の国内企業へのこだわりよりも強いのではないか。 (UW) 基本的には、研究の促進、技術の商業化、雇用の創出などが挙げられるのではないか。 (UF) 現下の経済情勢を反映しているのか、最近、特に「雇用創出」が技術移転の目的のひとつとして PR される場合が多いが、これは 政治向けのレトリックだと思っている。資本主義経済においては、誰も雇用を創出するために経済活動を行ってはいない。目指して いるのは、経済的なメリット、利益を生み出すことである。大学もそこから生み出された資金を新たな研究に投資したり、優秀な若 い研究者の獲得に使うことができる。研究者にとっても経済的なインセンティブは大きいはずだ。 (2) How do you protect those U.S./State interests in the event that you consider licensing the research fruits to foreign or out-of-state companies? (外国や州外の企業へ研究成果をライセンス供与することを検討する場合、先に述べた米国や州の利益をどのように守りますか?) (NCSU) 最適なパートナーを選ぶことに尽きる。選んだ企業が外国企業であっても、州外企業であっても、それほど気にすることはない。例 えば、中国は知財を国として尊重しないことで有名だ。このような国とは、そもそも技術移転の話をするのは難しいかもしれないが、 OTT が Right partner と判断した場合は技術提携やライセンスを行う。米国モデルの技術移転は、最初に欧州、次に日本、韓国、 その後、その他の地域へと広がっていった。個別の国に対する好みはないが、一般的に大学への技術移転の歴史が長い国の方 ― 52 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて が、共通の土壌での議論が可能となり交渉し易い。 (UVA) バイ・ドール法に基づく国内企業優先規定等は一定程度、米国の利益を保護しているものと言える。ただし、外国企業の定義が難 しく複雑化している昨今では、実際の効力がどれほどあるかについては不明な点もある。大学は政府に対し、最初の特許申請時 報告、毎年度の利用状況報告等を行う義務がある。政府がどれほど真剣にライセンス状況をモニタリングしているか不明だし、大 学側の報告にも十分でない点があることも事実。ただし、25 年前に比べると、現在は大学もきちんと報告するようになってきてい る。 (UW) C4C では、外国企業にライセンスし、当該企業が米国で生産を行わない場合には、バイ・ドール法の米国内生産規定の免除を受 けるため、なぜ当該外国企業がベストなのかを説明する。ただし、外国企業と言っても大なり小なり、何らかの拠点が既に米国に 存在する場合がほとんどであり、米国内生産規定を全く満たすことができないケースはそれほど多くないのではないか。 (UM) バイ・ドール法について言えば、基本的な骨格は今のまま維持されるべきであろう。ただし、大学の政府機関への報告義務の果た し方等、改善点は多い。特に国会議員の中には、「米国内製造規定」をどの程度しっかり適用しているか、疑問を持っている者もい る。30 年前には iEdison のような報告ツールもなかったが、今は整備されている。今後は、こうした点をさらに改善する必要がある のではないか。間接経費の中に技術移転に係るコストを盛り込むべきとの意見もあるが、政府に間接経費の使い方を指示された くないという意見もある。また、技術移転活動が研究者の 10~20%しかサポートしていない実態を見ると、一律に間接経費に盛り 込むのは尐し難しいだろう。 (UF) バイ・ドール法を今のまま維持することに尽きる。最近、カウフマン財団などが大幅な見直しを提唱しているが、どれも机上の空論 のような気がする。なぜなら、同財団の提唱者の中に、技術移転を実際に経験した者が1人もいないからである。30 年の歴史があ る同法をベースに様々な経験が蓄積されてきており、これを直ちに改正すべきという議論はあまり支持を得られないのではない か。 また、大学の利益を保護するという観点から言えば、ライセンス収入だけを追求するような技術移転であってはいけない。技術移 転局の目的は研究者サービス、というのが当大の考え方である。仮にロイヤリティ収入だけを追求すればよいのなら、発明開示の あった技術のうち本当に優れたもの、5%についてのみ特許申請し、企業にライセンスすればよい。そうすれば短期的には収益は 上がるだろう。だが、残りの 95%の発明をした研究者は、徐々に技術移転局を相手にしなくなっていくだろう。そうすると、技術移転 局の活動ベースも次第に細々としたものになってしまう。自身の発明を商業化したいというような優秀な研究者は、当大に見向きも しなくなるだろう。当大の技術移転局のロイヤリティ収入は所詮 3000 万ドルに過ぎない。このうち 1/3 は発明者に提供され、600 万ドルは技術移転局の運営費(人件費、家賃等)にあてられる。つまり、大学にもたらされる純益は 1400 万ドルに過ぎないことに なる。他方、当大が獲得する外部研究費は年間6億ドルに上る。尐しでも優秀な研究者をリクルートして、その研究者が外部から 研究費を獲得してくれた方が、大学に取ってはありがたい。研究者サービスを充実させ、研究者を採用し易くすることも技術移転 局の重要な役割のひとつである。実際、技術移転局は企業等との充実したネットワークを持っているため、産業界から研究者をリ クルートする際には、このネットワークが役に立つ。 (3) Similarly, how do you protect U.S. interests in cases where you receive research funds from both the Federal Government and foreign companies concurrently in the same field? How do you fire-wall them? (同様に、同じ研究分野において、連邦政府と外国企業の両方から研究資金を受け取る場合、どのように米国の国益を守りますか?) (UVA) 当然、スポンサーの研究資金と連邦政府資金は混同しない。先に述べた通り、基本的に全てバイ・ドール法の適用を受ける技術と して取り扱うこととしているため、スポンサー企業が国の関与を排除するよう希望した場合は、直接、間接を問わず、国の資金が企 業のスポンサーする研究開発プロジェクトに流れないようにする。バイ・ドール法はうまく機能しているし、今後も概ね維持されてい くのではないか。ただし、大学の報告規定等は今後、より厳格に運用されるようになるのではないか。大学に対してはよりよい報告、 遵守が求められてくだろう。事実、24 年の経験において、報告事項に対して政府から問い合わせがあったことはこれまで1度もな い。また、技術移転に係る経費を政府が支援すべきという議論は従前からなされている。技術移転は成功する可能性が極めて低 いビジネスで、成功報酬だけで経費を捻出するのはどの大学にとっても厳しい。 (UW) バイ・ドール技術をベースにした技術について、企業が発明者に研究資金を支給し、その改善や商品に忚用できるプラットフォー ム等、特定部分の研究の実施を希望する場合もある。当該研究資金拠出企業が研究成果をバイ・ドール法非適用となるようにす ることを望む場合は、要望に合わせ、細心の注意を払って連邦政府関連部分と民間企業拠出部分を切り分けなければならない。 このような研究に携わる者は当然、全て企業からの資金で賄われなければならないし、また、こうした研究は論文発表できないこ とが多いため、大学院生やポスドクなど、成果を発表することでキャリアを積まなければならない研究者には参画させない。当大 の間接経費率は 56%程度であるが、企業からこのような特殊な要請がある場合でも、余分な手続きが必要なのにもかかわらず、 間接経費率は同じである。なお、このような要請が企業からあることは珍しいことではない。 (UM) 外国企業、国内企業を問わず、民間が投資した追加部分に係る研究成果は通常、ベースのバイ・ドール技術と切り離して取り扱 われることになるのではないか。特許を取得する際には、必ず連邦政府の支援を受けていることを明記しなければならないが、追 加部分の成果に係る特許申請には、連邦政府の支援を受けているとは記載しないだろう。ただし、ベースとなっているバイ・ドール ― 53 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 技術とバイ・ドール技術でない技術をともに用いて製品を製造販売する際には、「相当程度米国内で生産する」という規定が適用さ れることになる。 (UF) ケース・バイ・ケースだと思う。一般的には、連邦政府の資金が改善に尐しでも使われれば、改善部分もバイ・ドール技術になるだ ろう。例えば SBIR のグラントを獲得した企業が大学と一緒に研究した場合は、企業の資金といえども政府拠出分が混ざっている ため、バイ・ドール技術扱いされる。よく使う手は、スポンサー企業に追加部分、改善部分に係る技術について、最初にライセンス を受ける権利を与える方法である。これにより、大学と企業の権利関係を整理できるが、他方で政府の関与(バイ・ドール技術かど うか)は個別に判断することが多い。企業の中には、政府の関与を毛嫌いするところもある。IBM は技術を全て所有したがること、 政府の関与を徹底的に排除したがることで有名だ。逆にモトローラなどは、この点では極めてリーズナブルな企業である。 ### ― 54 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第五章 日本における関連法規制の整理 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1. 日本版バイ・ドール規定(産業活力再生特別措置法第30条) (1) 背景 ① 米国では、1970年代後半の米国経済の国際競争力低下を背景として、1980年に、政府資金による研 究開発から生じた発明についてその事業化促進を図るため、政府資金による研究開発から生じた特許権 等を民間企業等に帰属させることを骨子としたバイ・ドール法(特許法の一部改正法)が制定された。これ により企業等による技術開発が加速され、新たなベンチャー企業が生まれるなど、米国産業が協商力を取 り戻すこととなった。 ② 日本においても、米国バイ・ドール法を参考とし、政府資金による委託研究開発から派生した特許権等を 民間企業等に帰属させることにより、 ・政府資金による民間企業や大学での研究開発及びその実施化を活性化させる、 ・これらを用いた新しい商品の生産・販売、新しい役務の提供、新しい生産方式の導入、新たな事業分野 の開拓につながる、 といった効果がもたらされ、新たな技術が活発に生まれる環境が整備され、全体として日本国産業の生産性 向上が図られることとなる。 (2) 措置の内容 ① 今回の措置により、以下の3つの条件を受託者が約する場合に、各省庁が政府資金を供与して行っている 全ての委託研究開発(特殊法人等を通じて行うものを含む。)に係る知的財産権について、100%受託企 業に帰属させ得ることとする。 i) 研究成果が得られた場合には国に報告すること ii) 国が公共の利益のために必要がある場合に、当該知的財産権を無償で国に実施許諾すること iii) 当該知的財産権を相当期間利用していない場合に、国の要請に基づいて第三者に当該知的財産権を実 施許諾すること ② 研究活動の活性化と事業活動におけるその成果の効率的な活用の促進を図るという本条項の目的、及び、 実際の国の委託研究において国に譲渡することとされている知的財産権の内容を踏まえ、受託者に帰属 させ得る知的財産権として ・特許権、特許を受ける権利(特許法) ・実用新案権、実用新案登録を受ける権利(実用新案法) ・意匠権、意匠登録を受ける権利(意匠法) ・プログラムの著作物の著作権、データベースの著作物の著作権(著作権法) ・回路配置利用権、回路配置利用権の設定の登録を受ける権利(半導体集積回路の回路配置に関する法 律) ・育成者権(種苗法) を政令で規定。 (注)従来、政府の委託研究で得られる知的財産権については、国に100%帰属することとなっていた。(*) (*)例外的に、国際共同研究であって、その研究に参加する外国企業の所属国において委託研究成果に係る特許 権等を受託企業に帰属させている場合に限って、2分の1まで受託企業に帰属させることを法律上認めている。 (研究交流促進法、産業技術に関する研究開発体制の整備等に関する法律) (3) 施行 平成11年10月1日から施行され、以後締結される委託研究契約については本条項の適用が可能となった。 ― 55 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 産業活力再生特別措置法第30条 産業活力再生特別措置法 (国の委託に係る研究の成果に係る特許権等の取扱い) 第30条 国は、技術に関する研究活動を活性化し、及びその成果を事業活動において効率的に活用することを促進する ため、その委託に係る技術に関する研究の成果に係る特許権その他の政令で定める権利について、次の各号のいずれ にも該当する場合には、その特許権等を受託者から譲り受けないことができる。 一 特定研究成果が得られた場合には、遅滞なく、国にその旨を報告することを受託者が約すること。 二 国が公共の利益のために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求める場合には、無償で当該特許権等を利 用する権利を国に許諾することを受託者が約すること。 三 当該特許権等を相当期間活用していないと認められ、かつ、当該特許権等を相当期間活用していないことについて正 当な理由が認められない場合において、国が当該特許権等の活用を促進するために特に必要があるとしてその理由を 明らかにして求めるときは、当該特許権等を利用する権利を第三者に許諾することを受託者が約すること。 2 前項の規定は、国が資金を提供して他の法人に技術に関する研究を行わせ、かつ、当該法人がその研究の全部又は 一部を委託する場合における当該法人と当該研究の受託者との関係に準用する。 3 前項の法人は、同項において準用する第1項第2号又は第3号の許諾を求めようとするときは、国の要請に忚じて行う ものとする。 2. 産業技術力強化法(平成 12 年法律第 44 号) 日本版バイ・ドール規定は、産業活力再生特別措置法に規定され運用されてきたが、産業活力再生特別措置法は 特別の措置を規定する法律である。日本版バイ・ドール規定は立法当初から恒久的な措置を念頭に置いており、ま た制度として十分に認知され定着してきたことから、同規定を恒久措置とし、国による研究開発の実態に即して適用 範囲を拡大するため、2007年の第166回通常国会において、「産業活力再生特別措置法等の一部を改正する法 律案」が提出され、同法案は2007年4月末に成立し、同年8月6日から施行された。以下、変更された内容を紹介 する。 (1) 産業活力再生特別措置法から産業技術力強化法(平成 12 年法律第 44 号)への移管 日本版バイ・ドール規定について、旧産業活力再生特別措置法第30条から、恒久法である産業技術力強化法 の第19条に移管した。これにより、日本版バイ・ドール規定の恒久化が措置された。 (2) 日本版バイ・ドール規定の対象の範囲の拡大 従来、日本版バイ・ドール規定は国の委託研究開発のみを対象としていたが、日本政府の「知的財産推進計画 2006」(2006年6月8日:知的財産戦略本部決定)を受け、ソフトウェア開発については、産業技術力強化法 へ移管の際に条文を修正し、国の請負契約についても対象に加えた。これにより、国からソフトウェア開発を請 け負った企業等にも知的財産を帰属させることが可能になった。 (3) 日本版バイ・ドール規定の対象となる権利の一部変更 日本版バイ・ドール規定の対象となる権利について、旧産業活力再生特別措置法施行令(平成11年政令第25 8号)では、[1]特許権、[2]特許を受ける権利、[3]実用新案権、[4]実用新案登録を受ける権利、[5]意匠権、 [6]意匠登録を受ける権利、[7]プログラムの著作物の著作権、[8]データベースの著作物の著作権、[9]回路 配置利用権、[10]回路配置利用権の設定の登録を受ける権利および[11]育成者権の11の権利が規定され ていた。法律改正により産業技術力強化法に移管されたため、これらの権利も産業技術力強化法施行令で規 定されることにjなったが、その際、[7]と[8]の著作権に係る部分については、「著作権」としてまとめられること になり、全ての著作物の著作権が対象となった。この権利の一部変更の理由は、知的財産の事業化を図る上で 必要な設計図やマニュアルなども著作権の発生する著作物であるため、著作物としてデータベースとプログラム に限定されている旧規定を改正し、限定を解除する必要があったからである。 ― 56 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 産業技術力強化法 (国が委託した研究における開発の成果等に係る特許権等の取扱い) 第19条 国は、技術に関する研究開発活動を活性化し、及びその成果を事業活動において効率的に活用すること を促進するため、国が委託した技術に関する研究及び開発又は国が請け負わせたソフトウェアの開発の成果(以下 この条において「特定研究開発等成果」という。)に係る特許権その他の政令で定める権利(以下この条において 「特許権等」という。)について、次の各号のいずれにも該当する場合には、その特許権等を受託者又は請負者(以 下この条において「受託者等」という。)から譲り受けないことができる。 一 特定研究開発等成果が得られた場合には、遅滞なく、国にその旨を報告することを受託者等が約すること。 二 国が公共の利益のために特に必要があるとしてその理由を明らかにして求める場合には、無償で当該特許権 等を利用する権利を国に許諾することを受託者等が約すること。 三 当該特許権等を相当期間活用していないと認められ、かつ、当該特許権等を相当期間活用していないことに ついて正当な理由が認められない場合において、国が当該特許権等の活用を促進するために特に必要がある としてその理由を明らかにして求めるときは、当該特許権等を利用する権利を第三者に許諾することを受託者 等が約すること。 四 当該特許権等の移転又は当該特許権等を利用する権利であって政令で定めるものの設定若しくは移転の承 諾をしようとするときは、合併又は分割により移転する場合及び当該特許権等の活用に支障を及ぼすおそれが ない場合として政令で定める場合を除き、あらかじめ国の承認を受けることを受託者等が約すること。 2 前項の規定は、国が資金を提供して他の法人に技術に関する研究及び開発を行わせ、かつ、当該法人がその 研究及び開発の全部又は一部を委託する場合における当該法人と当該研究及び開発の受託者との関係及び 国が資金を提供して他の法人にソフトウェアの開発を行わせ、かつ、当該法人がその開発の全部又は一部を 他の者に請け負わせる場合における当該法人と当該開発の請負者との関係に準用する。 3 前項の法人は、同項において準用する第1項第2号又は第 3 号の許諾を求めようとするときは、国の要請に忚じ て行うものとする。 ― 57 ― ― 58 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 第六章 日本の大学における外国企業等との共同研究における リスクマネジメントについて 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 1.日本の大学のヒアリング調査結果まとめ 日本の大学を調査した結果について 本調査は、「外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメント」、特に、国費により大学等が獲得した知的財産を 基にした共同研究や受託研究における外国企業・機関とどのように連携すべきかを日本と、本事例に関連する蓄積 が多いと思われる米国のそれぞれの実態を調査することを目的としている。この章では、日本の大学における実態 を調査したので、その概要を以下に紹介する。 まず、外国企業等と共同研究することは、何を意味するかを尐し検討したい。大学における産学官連携活動は、従 来から行われてきており、最近は各大学に産学官連携活動を推進する組織が設置されたこともあり、大学と外部の 共同研究や受託研究は、件数・金額ともに総じて増加傾向にあるといえる。大学は、基礎研究や忚用研究を行って いる組織である。大学内で生まれた成果は社会に活用されることにより、大学の意義がより高まるといえる。大学の 研究内容は、元来すぐに実用化できるものは尐なく、企業等の外部の連携を得て、初めて事業化されるものが多い のが実態である。その意味で、企業等との共同研究や受託研究を推進することにより、大学の研究成果が企業等を 通じて社会で活用されることは、大きな意義がある。もし、企業等が大学の研究成果について、実用化の意図が低 ければ、大学の研究者や学生が、大学発ベンチャーとして自ら実用化に取り組むこともありうる。共同研究や受託研 究いずれの場合であっても、大学の研究者と企業等の研究者が密接な情報交換を行い、相手に期待する内容を明 確にしたうえで活動することが求められる。研究期間には、研究テーマにより長短はみられるが、大学の研究者と企 業等研究者との双方の信頼関係がなければ期待通りの成果を創出できないものと思われる。その意味で、共同研 究や受託研究の相手先との信頼関係があることが非常に重要である。もし共同研究や受託研究の相手先が日本の 企業等であれば、これまでの経験から比較的容易に相手先の信頼性は、確認できると思われる。 一方、共同研究や受託研究の相手先が外国企業であるときは、グローバル企業であれば知名度も高く、企業の概 要を確認することができやすいが、そうでないときは慎重に相手先の信頼性を確認することが重要となる。特に、ラ イセンス契約のように、直接的な利害関係が発生するときは、要注意である。 本調査における「外国企業等」の対象となる範囲であるが、外国でのみ事業活動を行っている企業もあれば、本社 は外国に存在するが日本に事業拠点を置き日本で製造活動等を実施している企業も存在する。外国企業と単にい っても、多くの形態がありうる。一方、日本企業といった場合、契約は日本の本社と研究契約を締結しても、製造等 の事業活動は外国でのみ行われている企業もありうる。要は、産学官連携活動を推進する真の意義が、日本の中 に雇用の増加、税金の増加等を期待するものではないかと考えることもできる。 今回、日本の大学を調査するにあたって、文部科学省科学・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進 室から平成 23 年 11 月 30 日に発表された「平成 22 年度大学等における産学連携等実施状況について」に掲載さ れた共同研究実績(外国企業対象)において件数の多いトップ 5 大学を訪問の上、調査することとした。具体的には、 東京大学、九州大学、東北大学、京都大学と広島大学の 5 大学である 各大学の個々の内容については、別途まとめた報告をご覧いただきたいと思いますが、全体を通じた内容について、 以下のとおり、コメントさせていただく。 全体を通じていえることは、各大学ともに外国企業等と共同研究契約や受託研究契約を行うにあたっては、それなり に配慮しつつ慎重に進めていることが明確になった。本報告書の前半で、米国の大学の状況を報告させていただい たが、総じていえるのは、研究先が外国企業だから特別に配慮しているように感じられず、むしろ州立大学であれば 州外の企業かどうかという点について、多尐の関心はあるものの、大学の研究成果が結果として活用されれば、い ずれ大学に何らかの還元がなされると思っていることが印象的であった。日本の大学もいずれある程度の経験等を 重ねることにより、米国の大学が感じていることに近づくかもしれない。米国は、元来、世界中の知識を集約し、米国 の研究成果を広く活用されることを意図した政策が取られてきたことから考えれば当然のこととも思える。 一方、日本の置かれている状況を見てみると、尐子化になってきており、また中国や韓国の台頭により、日本の経済 活動が厳しい状況に置かれてきている。そのような中で日本の大学に求められているのは、大学の革新的な研究成 果をできれば日本の企業により事業化されることにより、日本の現在置かれている状況から一刻も脱却し、日本の 経済活動を活性化することに寄与することが求められている。このため、外国企業等と日本の大学が共同研究契約 や受託研究契約を行うことにより、日本の大学の知見が外国企業により実用化することを助けているともいえる。 ― 59 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて ただ、日本には市場がなかったり日本の企業にとって関心のない研究成果を、日本の大学が外国企業等と一緒に 行っても、特に問題のない場合もありうる。日本の大学にとって、日本の企業から共同研究や受託研究の申し入れ が多くとても外国企業からの研究を受け入れることができないという状況が本来であれば望ましいといえるが、現実 はこのような状態になっていない。 万一、日本の大学が、外国企業等と共同研究や受託研究を行うことになったときに、すでに大学が研究契約を締結 する前に保有する既存の知的財産権の取扱いが重要となる。特にその既存の知的財産権が、国費にもとづいて創 出された成果に該当するときは、日本版バイ・ドール規定の適用を受けることになり、このようなことが実際に日本の 大学で生じているのか、もし生じているのであればどのような取り扱いを実務として行われているかを調査すること が、今回の調査の重要な観点である また、折角の機会でもあるので、昨今日本の大学に求められているものとして安全輸出管理があるが、外国企業等 との研究契約において、どのような規定が盛り込まれているか等の現状の取扱いについても、併せて調査した (1)外国企業等との共同研究について 日本の大学は、外国企業との共同研究契約件数は、尐ない。件数も尐ないことから、調査した大学にとっては、共 同研究先を確認することは容易な状態にあるといえるが、各大学とも日本で有数の大学ということもあり、共同研究 先の外国企業は、欧米のグローバル企業が多く、あえて外国企業の実態を調査することがあまり必要と感じられな い場合が多い。 地域でみると、アジアの企業と共同研究を行っている大学は存在するが、欧米との共同研究契約の件数に比べ、相 対的に尐ない。この理由を正確に判断することは容易でないが、欧米企業であれば研究開発の技術力が高く、日本 の大学と対等に活動できるからと思われる、広島大学ではアジアでの産学連携活動に注力していることもあり、現地 企業との技術指導のような共同研究も行われているとのことであった。このようなアプローチもあると思われる。中国 や韓国との共同研究は、今後増加すると思われるが、知的財産の帰属の取扱いや特許保証・技術保証等のことに ついても、さらに関心が高まると思われる。 (2)外国企業と共同研究に至るきっかけ 外国企業から大学の教員にアプローチがあるものと、大学から外国企業へアプローチして共同研究が成立する二 つの方法があるが、前者のアプローチによる場合が多い。教員は、学会等で発表する機会が多く、そのような場に は有力企業の研究開発者が多く参加し先端の研究シーズを探し求めていることから考えると 当然のことのようにも思える。外国企業から、最初に教員へ共同研究の申し出が入るのであれば、大学として外国 企業との共同研究を増加させることに期待するのであれば、教員と部局や産学連携組織との連携が重要と思われ る。 一方、大学から外国企業へ共同研究のアプローチする方法として、東京大学のように国際版 Proprius の手法を活用 しているところもあれば、広島大学のように世界各地にいるコーデイネ-ターを活用しているところもあり、大学に忚 じた取り組みがなされている。 (3)外国企業との共同研究契約の内容について 企業と共同研究契約を結ぶときに、最初にどちらの契約のひな形を利用するかという問題がある もし大学に英文のひな形が、なければ、大学が個別の案件に忚じた契約のドラフトを準備したり、または相手方のひ な形を利用することになる。契約を円滑にしかもリスクを尐なくして締結するためには、大学側としては、大学のひな 形を利用することが望ましい。 調査した大学では、大学としてのひな形を準備しているところが多いが、どちらを優先するかになると、相手先のひな 形であっても受け入れている大学が半数あり、柔軟な対忚を取っていることがうかがえる。 (4) 知的財産の取扱い 共同研究契約の中で、大学と企業双方にとって、特に関心の高い項目である。知的財産の取扱いは、双方の研 究者が判断、決定できるものではなく、それぞれの組織の専門家が、自らの組織にとって不利益が発生しないように 慎重に判断することもあり、決着に時間がかかる内容である。各大学とも、知的財産条項に工夫しながら対忚してい る。共同研究先にとって、何らかの配慮が必要であり、独占権を選択できるオプションを設定しているところもある。 ― 60 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 欧米のグローバル企業にあっては、権利の譲渡を希望する場合もあり、各大学は状況をみながら個別に対忚してい るようである。 もし共同研究において、研究成果として知的財産権の創出が想定されないときには、知的財産の取扱いにあまりこ だわらずに決めるように柔軟な対忚を取っている大学もある。 (5)共同出願 共同研究契約の中で知的財産の取扱いが、双方にとって関心が高いと上記したが、なかでも共同研究において 共同に係る知的財産権が発生するため、共同出願の取り扱いが注目を集める。日本の特許法の規定(第 73 条第 2 項)によれば、「特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を 得ないでその特許発明の実施をすることができる。」とあり、共同研究者である日本企業からは、いわゆる不実施補 償は考えられないとする根拠といわれている。 海外の特許制度においては、共有特許の取扱いは、それぞれの法制が異なることもあり、多様な取り扱いが存在す る。その意味で、外国企業との共同特許の取扱いについては、正確に対忚する必要がある。外国企業との共同研究 件数自体がそれほど多くないため、実際に共同出願に至っている案件が、尐ないのが実態である。多くの大学では 特許経費の負担を外国企業に求めている。また、共同出願先の企業に出願から 1 年間半の期間に独占権を希望す るかについて選択できるような何らかの優先権を外国企業に与えている大学もある。 (6)既存の知的財産権の取扱い 既存の知的財産権の取扱いが、本調査の中で関心の高い内容になるが、調査した大学では、その取扱いはそ れぞれの状況に忚じて判断されている。既存の知的財産権は、共同研究先の企業にとって必要になるとの認識から、 あらかじめ共同研究契約のひながたに非独占のオプションを与える旨明記している大学があるほか、共同研究で使 用するときは、あらためて別途契約で規定しているところもある。 一般論としては、既存の知的財産権について、共同研究相手先から実施許諾の申し出を受けることは、稀と思われ るが、共同研究先の企業から、既存の知的財産権について、ライセンス許諾の申し出を受けた大学が現にあり、こ の場合は非独占の実施許諾を行っている。 (7)日本版バイ・ドールの制約への対忚について 各大学とも日本版バイ・ドールの制約を承知しており、日本版バイ・ドールの適用を受ける既存の知的財産権に ついて、実施許諾の申し出を受けたときに、どのように対忚しているのか等、関心が高い項目である。もし既存の知 的財産権が国費の研究費用にもとづかないときは、各事例毎に対忚を決めている大学が、ある。 また、既存の知 的財産権について、国費の研究資金が使用されているかにかかわらず、独占の実施権を許諾しないとポリシーを決 めている大学もある。 多くの大学では、既存の知的財産権が国費の研究費用にもとづかない場合であっても、まず日本企業にアプローチ したうえで、海外企業への実施許諾を検討していることがうかがえる。これは、国立大学の特徴として、国から多くの 支援を受けていることから、できるだけ日本企業に大学の研究成果である知的財産権を活用してほしいというあらわ れと思われる。 (8)安全保障輸出管理について 大学において、安全保障輸出管理を遵守することは、法人として活動するうえで、極めて重要となっており、多くの 大学でそれぞれの大学の状況に忚じて工夫が取られている。本調査では、安全保障輸出管理に関する一般的な内 容を検討することに論点があるわけではなく、外国企業等との共同研究契約の中で、安全保障輸出管理について、 どのように規定されているかを調査した。 多くの大学は、外国企業等との共同研究契約の中に、安全保障輸出管理を遵守する旨規定した条項を盛り込んで 対忚している。また、共同研究契約の中に安全保障輸出管理規定がない大学であっても、個別に案件ごとに検討さ れていることから、充分な対忚が講じられていると思われる。 外国企業を地域ごとに分けてみてみると、米国の企業等は、安全保障輸出管理に関する規定に追加を修正希望す るところがあり、一方、欧州企業等は、それほど厳密に要求してこないと感じているとのコメントが調査大学からあっ ― 61 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて た。 また、米国の大学における安全保障輸出管理は、基礎研究が多くしかも公表することが多く、実態は、それほど厳し く管理されていないのではないかという意見もあった。 2.日本の大学のヒアリング内容 (韓国調査結果を付記) 調査目的:国費により、大学等が獲得した知的財産権を基に外国企業と連携して共同研究を実施する場合、その成 果の取扱いが我が国にとって不利にならないようにするためにどのようにすべきかについて検討するため、そのリス クマネジメントの現状についてヒアリングを行う。平成 22 年度において、海外企業との共同件数の多い上位5大学を ヒアリングの対象とした。合わせて韓国の大学について状況を補足調査した。 ヒアリング対象大学 (1)東京大学、(2)東北大学、(3)九州大学、(4)京都大学、(5)広島大学、(6)高麗大学(韓国) (1)東京大学 日 時: 平成 24 年 1 月 17 日(木)13:30~15:30 場 所: 東京大学産学連携プラザ 出席者: 東京大学産学連携本部知的財産部長 小蒲哲夫教授 東京大学産学連携本部知的財産部 弁理士 峯崎裕知的財産統括主幹 訪問者: 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 ① 海外企業との共同研究 まだ、件数は尐ない。共同研究を行っている海外企業は、米国、欧州の大企業である。従って、相手がどんな企 業かといったことを調査する、Due Diligence などは不要と考えている。交渉の結果、知財の扱いで合意ができず 契約できなかったということがないように、まず信頼関係を構築しながら知財条項を並行して協議して、本格的な 共同研究に進むという方式をとっている。 ②海外企業と共同研究に至るきっかけ 東京大学側からのアプローチ(産学連携本部の研究推進部が行う)によるものと先方から個別に教員に対して直 接アプローチがあり、共同研究に結びついたものがある。東京大学側からのアプローチは Proprius21 と同様であ り、その国際版といえるものである。Proprius21 では事業性がまだ定かではないものや基礎的なものについて知 財条項を含めない形で契約を行い、研究をすすめるやり方をとっている。研究の内容が具体化してきたところで更 にフィージビリティスタディ契約を結んだり、知財条項について合意済みの場合には、合意済みの共同研究契約を 締結する。信頼関係が構築される前にいきなり知財について議論を始めるとそれだけで時間を浪費してしまうた めそのような方法をとっている。Proprius21 では、産学連携研究推進部が Global 企業を訪問、必要であれば知 財部も同席して、共同研究を推進している。教員に直接申し入れがあるものをフォローするケースとの比率はほぼ 半々。Proprius21 的なアプローチは大企業と長期的な関係をもつことができるなど、東京大学側にもメリットがあ る。 ③共同研究契約の内容について (i)知財の取り扱い 東京大学の場合、共同出願については企業側に優先権を与えており、出願から 1 年半の期間内に独占を希望す るかどうか決めることになっている。期間を経過すれば、自動的に非独占となる。知財の取扱いで折り合わず、契 約を見送ったことがあるが、知財が出ないような共同研究では妥協する場合もある。努力が無駄にならないよう最 初に知財の扱い等、重要な点について交渉するようにしている。Global 企業、特に欧州企業は Worldwide で活動 するためとして譲渡を求めてきて、交渉が難航するケースがある。欧州企業等で、個別の案件で対忚していくしか ― 62 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて ないと考えている。 (ii)共同出願 海外企業と共同研究推進を組織的に行うようになってまだそれほど期間が経過しておらず、成果として特許を出 願したのは尐ない。共同出願の費用は先方企業負担を求めている。米国企業との共同出願で、発明者に米国居 住者が含まれているため、米国を第一国出願国として出願した事例がある。 (iii)既存知的財産権 Background IP Background IP について企業側から指摘されることはあまりない。相手方から特にこの条項を盛り込むことを要 求された場合に、当該先生の発明に限って認めたケースがある。 (iv)既存成果の知的財産の実施許諾について 既存成果の知的財産権の実施許諾については海外を含めて、東京大学 TLO が技術移転活動をしている。国内 企業への実施許諾が多い。共同研究相手先海外企業からの実施許諾申し入れは今のところまだない。 (v)日本版バイ・ドールの制約への対忚について 常の運用にて対忚可能と認識している。バイドール対象案件の取扱いについては、東京大学 TLO へ注意喚起す るようにしている。 (vi)準拠法 契約書雛型の準拠法は日本としている。グローバル企業の場合交渉が難航することもあり、やむを得ない場合は 仲裁を前提として第三国とすることがある。被告地主義とすることもあるが、大学側が訴えるとしたら、研究費の不 払いが多いであろうことを考えると、必ずしも有利とは言えないと考えている。 (vii)仲裁 研究費の不払いに対して相手側の国で訴訟をおこすことなどは考えられないため、被告地主義は好ましいとは思 えない。仲裁は第三国で行うことにしている。仲裁の段階で解決し、訴訟にもっていかないという姿勢が重要。信頼 関係の構築が大事である。基本的に企業側も大学に対して訴訟を起こすことはないと考えていると思われる。もし 折り合いがつかなければ、企業側は単に当該大学との共同研究に入らないだけと考えている。 (viii)安全保障輸出管理 共同研究相手先はグローバル企業であり、中小企業は尐ない。問題となることはあまりないと考えている。 東京大学の共同研究契約雛形の安全保障輸出管理に関する条項は一般的なものであるが、米国企業等は先方 の判断で追加修正してくる場合が多い。欧州企業はそれほど厳密ではない。基礎研究はオープンにするため、米 国の大学における輸出管理はそれほど厳しくないようである。軍に関連する研究テーマ、軍の研究資金に基づく ものは部局で受入不可となる。 (ix)共同研究受入の決定及び共同研究契約書の決裁 東京大学の場合、共同研究契約書の署名は部局の事務長が行う。ただし、交渉は実務的には産学連携本部が 主として対忚している。国内及び海外で取扱いの違いはない。部局は共同研究の他、MTA、NDA についても署 名している。実施許諾契約、共同出願契約については産学連携本部長が署名する。 ④ リスクについて 共同研究契約で、他社特許を侵害していないことを求める条項については大学として保証すべきものとは考えてい ないため、受け入れないようにしている。大学にとって一番リスクが大きいのは、共同研究契約よりむしろ独占のライ センス契約であると考えている。企業側が防衛的に訴訟に踏み切ると大学も巻き込まれてしまうケースが想定され るからである。もう一点は発明者の認定に関するトラブルである。海外企業や大学は権利意識が非常に強いため、 相手が大学であっても訴訟を提起する可能性があるからである。 ⑤ 雛型 東京大学の英文共同研究契約雛形には知財について、共同研究相手先の企業に優先交渉権の設定がなされ ている。独占/非独占を選択するもの。出願から 1 年半以内に決定する。優先交渉権、費用負担、独占がセット になっている。先方企業から自社の雛形を使って欲しいという場合はあるが、受け入れているケースは尐ない。 ― 63 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 東大の雛形を優先して使用してもらうようにしている。企業のものは下請け企業に対する契約書の雛形を大学 向けとしたものが多く、問題であると認識している。 ⑥ その他 欧州企業との交渉は非常に時間がかかる。忘れた頃に契約書の修正案が返ってくることもあった。 (2)東北大学 日 時: 平成 24 年 1 月 20 日(金)13:30~15:30 場 所: 東北大学産学連携推進本部国際連携部 出席者: 東北大学産学連携推進本部国際連携部 磯村明宏特任教授 東北大学産学連携推進本部国際連携部 松野晃久氏 東北大学安全保障輸出管理室 船田正幸室長 訪問者: 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 ① 海外企業との共同研究 民間等との共同研究は約 30 億円(2010 年度)、海外企業との共同研究等(受託研究、学術指導を含む)は 67 件 (1 社で複数件の場合があり、企業数はもっと尐ない)、約 2.7 億円(2010 年度である。相手先は欧米の素材メー カー、製薬企業、輸送機器メーカーなどである。件数ベースでは、先方より、部局、あるいは研究室に直接お話が あり、部局に契約書が提示される場合が若干多いが、部局には国際交渉、英文契約に対忚できる人材が尐ない ため、国際連携部に相談される場合がほとんどである。極力、なるべく東北大学の雛形に準ずるよう努力してい るが、内容は交渉の結果次第で事例によりさまざまである。前身の産学官連携本部国際連携室の時代に英文契 約のサポートを始めたが、2008 年に現在の組織編成となって以来、ここ数年、海外企業との共同研究は増加傾 向にある。分野によっては海外本社側と直接交渉する案件もあるが、製薬企業などは日本の窓口を経由し、契約 は本国が対忚するため英文になるというような場合もある。共同研究の相手先は、売上規模1兆円以上のグロー バル企業がほとんどである。海外企業との共同研究の研究費は高額なものが多い。震災以降、海外の企業から、 復興支援を兼ねた共同研究の提案が複数あり、交渉中である。 ② 海外企業と共同研究に至るきっかけ 共同研究に至るきっかけはやはり、企業側から教員への直接の接触によるものが多い。また、東北大学教員の 紹介によるなど教員のネットワークによるものや展示会で話が始まった事例もある。大学側からのアプローチとし て、Fortune500 に含まれるか、あるいはそれに準ずる規模の企業からメーカー100 社程度を抽出し、メール、訪 問などの活動を行っている。展示会は本学承認 TLO である東北テクノアーチと一緒に参加するケースも多い。例 えば、欧米や台湾で開催される展示会に参加し、日本ではライセンス先候補が容易に見出せない案件を紹介して いる。東北テクノアーチに共同研究の打診が来た場合は、国際連携部につないでもらうことになっている。 ③ 共同研究契約の内容について (i)知財の取り扱い 共同研究で注意する点は知財条項の取り扱いである。有償譲渡を希望される場合が多いが将来大きく発展した場 合について心配する先生もいる。費用の先方負担、共願を求めている。非独占の場合、先方企業は無償使用とし、 了解がえられれば第三者への実施許諾ができるようにする。独占の場合は、実施料支払いを求める。なお、外国 企業への条件は、日本企業への場合と差をつけている。 (ii)共同出願 海外企業の特許についての考え方は国内企業のそれとはかなり異なる。発明がでた時点で金額を指定し、譲渡す る場合が多い(欧州系の製薬企業)。譲渡契約に Academic Use はできるとの条項をつける。材料系の基本特許 のようなものの場合、どう対忚するかは悩ましいところである。 (iii) 既存知的財産権 Background IP 共同研究で使用する場合は別途契約する。 (iv)既存成果の知的財産の実施許諾について 東北大学の共同研究契約雛形の中に既存の知的財産に関する実施許諾の条項はない。既存成果の知的財産に ― 64 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて ついて許諾の申し入れがある場合や契約の可能性がある場合は、むしろ積極的に実施許諾を進める。一方、ナシ ョナルプロジェクトに近い分野や独占を主張する場合は断っている。技術移転に関しては東北テクノアーチが対忚 しているが、国内で手を挙げる企業がないときに海外企業への実施許諾を検討する等、国内企業を優先している。 ただし、製薬関連については、発明対象物の性質上、最初から外資系企業に打診することもある。海外企業から既 存成果の知財について実施許諾の申し入れを受けた経験があり、実施許諾した事例が複数ある。これらは東北テ クノアーチのホームページに掲載されている。ただし、パテントトロールと推察される相手方からの問合せについて は対忚拒否している。 (v)日本版バイ・ドールの制約への対忚について 英文の共同研究契約書雛形の14条に Government Use の条項があるが企業側は気にしていない。実際には企 業側の研究費による成果になるので問題としないようだ。 国立大学は国の支援を受けていることから海外へ独占実施をしてよいのか、ということは本部内でも議論になっ ている。学内には、国内企業と共同研究を行っているという理由で、海外企業との共同研究に消極的な姿勢の教 員もいるが、分野にもよる。製薬系は海外との共同研究を行いたいという意欲が強い。一方、農学分野については、 遺伝子組み換え作物は海外企業に対して積極的でない。自動車、半導体についてどう考えるかは課題である。 (vi)準拠法 準拠法は日本にならないものもあるがやむを得ないと考えている。 (vii)仲裁 仲裁条項は被告地主義で対忚している。 (viii) 安全保障輸出管理 海外企業・機関と連携して共同研究を実施する場合の安全保障輸出管理については、受入れ留学生・外国人 研究者に対する技術提供の場合や外国への貨物輸出の場合と同様、相手先の懸念性の度合いや提供技術・輸 出貨物の内容に忚じて判定手続の内容を異にして対忚している。 具体的には、相手先がホワイト国又は非ホワイト国で懸念先(懸念国、国連武器禁輸国・地域、外国ユーザー リスト掲載機関)以外若しくは懸念情報がない場合には、公知の技術提供や最新の法令に基づくメーカーの非該 当証明書からリスト規制非該当が明らかな貨物輸出については部局での事前確認のみ、非公知の技術提供や 自作品の貨物・非該当証明書の存しない貨物の輸出については部局での事前確認のほか該非判定・取引審査、 相手先が非ホワイト国で懸念先又は懸念情報がある場合には、提供技術・輸出貨物の内容に関わらず、すべて 部局での事前確認及び該非判定・取引審査に加えて、本部の安全保障輸出管理委員会において該非判定・取 引審査を行っている。 米国などのホワイト国は、キャッチオール規制の対象外であるため、提供技術・輸出貨物がリスト規制非該当 の場合、仮に当該技術・貨物の相手先における用途に、いわゆる「おそれ省令」や「おそれ告示」に該当する懸念 情報が存する場合であっても、外為法上は許可申請の対象とはならないが、学内的には非ホワイト国の場合と同 様、慎重に審査を行うべきものと考えている(なお、これまでに該当の事例はない)。 また、英文の共同研究契約のひな形(第 25 条)に安全保障輸出管理を遵守する旨規定してある。 (3)九州大学 日 時: 平成 24 年 1 月 25 日(火)13:30~15:30 場 所: 九州大学産学連携棟Ⅰ 出席者: 九州大学総長特別補佐(産学官連携・知的財産担当)知的財産本部副本部長 古川勝彦教授 九州大学知的財産本部総合調整グループ サブリーダー 猿渡 映子コーディネータ 九州大学国際法務室・安全保障輸出管理担当 知的財産本部国際知財契約担当兼務 PD(International Law) MBA 佐藤 弘基氏 訪問者: 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 ― 65 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (ア) 海外企業との共同研究 共同研究の受入は部局が行う。部局で金額、実施するかどうかだけ先に決定する。受入決定後(内容、金額等が 決まった後)国際、国内にかかわらず、学術研究推進部産学連携課に回る。調整が必要と判断されれば知的財 産本部総合調整グループが対忚する。部局の決定前に知的財産本部に事前相談がある場合もある。この場合 は調整を先に行う。共同研究の交渉は総合調整グループが行うが、相手先海外企業は米国、欧州が多く、韓国、 中国との契約は尐ない。大学としてはアジアに力を入れているが、結果として欧米企業が多くなっている。 (イ) 海外企業と共同研究に至るきっかけ 企業側から教員への直接の働きかけがきっかけとなることが多い。知的財産本部の国際案計対忚グループ設置 当初は大学側から積極的に企業側への働きかけを行ったが、現在は、部局からの受入案件の対忚を行う体制に 変更した。 ③共同研究契約の内容について (i)知財の取り扱い 海外企業との共同研究における知財の取扱いについて大学として方針を固めていく必要を感じている。他大 学の例を参考にして、ケース毎に柔軟に対忚していくことも想定している。 (ii)既存成果の知的財産の実施許諾について 既存成果の知的財産の実施許諾に関しては、大きく発展しそうなものや日本企業が強い分野などは、まず、日 本企業にアプローチしたうえで、海外企業への実施許諾を検討することになると考えている。 (iii) 安全保障輸出管理 外国の企業の与信調査を行った結果、軍需の仕事がほとんどであることが判明し、研究テーマは軍に直接関係 するものではなかったが、軍事転用の恐れがあるとして共同研究を断ったという事例がある。教員に注意を喚起 するとともに、軍事にかかわりそうな研究テーマの場合は、トップに判断を仰いでいる。外国の研究機関や企業等 との共同研究において、軍事に関連する研究は行わない、また、軍事機関名を冠する機関との共同研究等につ いては、研究課題等の如何にかかわらず受入は行わないとの通知が学内に出されている。外国の軍から研究費 が支出されているテーマについて受入を断った事例がある。共同研究契約書には Export Control に関する条項 を含めている。ひとつの目的は、安全保障輸出管理の手続きが必要となった場合に、手続きについての処理に時 間がかかることを事前に了解させておくことである。 安全保障輸出管理は今のところ貨物の輸出管理を中心にすすめている。技術の提供よりも研究者の理解を得や すく、よって全学の意識向上にも繋がっていると感じる。文科省採択の留学生に対し、外務省から該非判定の問 合せを受け対忚に苦慮したということがあった。 (iv)リスクについて ・与信調査 よく知られている大企業に対して与信調査をすることはない。聞いたことがないような企業はコーディネータが ネット等で調査する。実際に外部機関に委託して企業の与信調査をしたこともある。ライセンス先企業について は事前チェックシートを作成している。 ・大型プロジェクト 知的財産に関する業務については知財本部が支援している。国の資金が入っているプロジェクトに、海外企業 が参加する場合については、プロジェクトの参加範囲・知的財産の取扱いについて明確に切り分けをしてい る。 (v)雛型 九州大学の和文の共同研究雛形知財条項は別途協議としている。英文契約書の雛形は和文の内容そのままの ものを用意しているが、基本的にはそのまま雛形としては開示しない。交渉に用いる契約書の雛形はそれをベー スにして事前に得た情報を挿入し適当な形に整え、案件毎個別に作成している。 ― 66 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (4)京都大学 日 時: 平成 24 年 1 月 27 日(金)10:30~12:00 場 所: 京都大学研究国際部産官学連携課 出席者: 京都大学研究国際部産官学連携課 福元隆支援掛長 京都大学研究国際部産官学連携課 支援掛 松山祐輔氏 訪問者: 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 (ア) 海外企業との共同研究 韓国が多い(これまでの継続案件がほとんど)。欧米もある。新規のものは尐ない。大型の共同研究を期待 したいがなかなか難しい。欧米・米国の主要大学と交流し、産学連携協定を締結することにより大学として の認知度はあがっているとはいえ、京都大学といっても海外での知名度は十分とは言えないと考えている。 (イ) 海外企業と共同研究に至るきっかけ 教員から話が部局事務へ持ち込まれる。部局事務へ持ち込まれるといっても実際の実務の多くを教員が担 っている場合もある。海外での展示会にも参加しており、産官学連携本部の担当者が説明を行う。 (ウ) 共同研究契約の内容について (i)知財の取り扱い 国内についてであるが、京都大学は共同研究先企業に対し、実施料(いわゆる不実施補償)の支払いと出願費 用負担を求めており、浸透してきている。知財関連については産官学連携本部が対忚するが共同研究を行うか どうかは研究者の判断になる。 (ii)共同出願 国内についてであるが、共願の割合が増えてきており、管理業務が増えているため、譲渡についても検討してい る。一部有名企業の中には出願費用負担について理解が得られていないところがある。その場合は有償譲渡を 考える。譲渡対価については教員がよしとすればそれでよいとしている。研究者からのクレームはない。事前に同 意いただくことで後で大化けしても理解が得られると考えている。 (iii)既存知的財産権 Background IP 大学が有する特許を企業側は通常回避しようとするだろう。共同研究に対する既存特許をもっていてもバックグラ ウンド特許としての価値はそれぞれではないかと思われる。 (iv)既存成果の知的財産の実施許諾について 既存成果についてライセンス許諾要請があったというケースは聞いていない。海外への実施許諾については国内 企業と区別することはしていないし、既存成果が国費による研究成果であるかどうかについても区別はしていない。 大学として統一した見解はない。良い相手がいれば発展させればよいのではないかというのが現場の見解である。 しかし、国内企業に紹介したうえで、海外企業に紹介する流れを原則としている。 (v)日本版バイ・ドールの制約への対忚について 譲渡の経験はない。積極的に譲渡することもしていない。 (vi)安全保障輸出管理 共同研究契約の雛形に安全保障輸出管理に関する項目は含まれていなく個別の対忚になる。研究テーマが軍 に関係しそうなときは別途に相談してもらうことになるがあくまで研究者の判断が重要となる。軍にかかわる研究 について特別な規定はない。 研究推進課で担当している。留学生関係が多い。なお、ハンドブックを作成し、配布している。 (vii)リスクについて 信用調査はしていない。海外企業だからといって特にこだわりはない。 (viii)雛型 英文の雛形はあるが学内には開放していない。 ― 67 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (5)広島大学 日 時: 平成 24 年 1 月 31 日(火)13:30~15:30 場 所: 広島大学産学・地域連携センター 国際・産学連携部門 (東広島キャンパス ベンチャービジネスラボラ トリ) 出席者: 広島大学産学・地域連携センター 副センター長 高田忠彦特命教授 広島大学産学・地域連携センター 国際・産学連携部門長 橋本律男教授 訪問者: 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 (ア) 海外企業との共同研究件数としてはアジアが多く、金額的には欧米の方が大きい。欧米のライフサイエ ンス系企業との共同研究には 1000 万円規模のものもある。タイの案件は現為替レートで数十万円規模である が、金銭価値は、日本でいえばその10倍程度、数百万円規模の感覚である。インドネシアでは加工技術や生 産技術について、バンドン工科大学と共同で日系企業との共同研究につなげた。共同研究の形態は教員が現 地に出向いて指導するコンサルタント的なものを含む。データ収集はバンドン工科大学が現地で行うなど分担 をしている。日系企業であるが契約は現地法人と直接行った。現地資本の企業が相手だと契約書をインドネシ ア語に翻訳する必要があり、面倒である。韓国については食品分野のテーマに関し、国内の協力先である食品 メーカーとともに韓国で事業化を考える相手先と協力するという事例がある。中国とは日系企業と 1 件の実績 がある。 (イ) 海外企業と共同研究に至るきっかけ アジアについては、バンコクに 1 名 日本語に堪能なタイ人を駐在させている。また、当時の知人が会社の社 長になっていたりするので、その伝手を頼る等、昔の人脈を活用している。上記、インドネシアの事例では、当 該教員がもともと、バンドン工科大と技術移転に関連する研究を行うなど協力関係にあった。現地にもしばし ば行っていたという背景があり、そのテーマに合わせて仕掛けたところがある。現地の一流大学とセットでアプ ローチすることで現地の優秀な人材を欲しい日系企業と組むことができる。教員の 20%は産学連携に協力的 であり、当該教員も快く行ってくれている。米国については、ニューヨークに 1 名、ノースカロライナに 1 名の駐 在員を配置し、 製薬企業に情報を提供したり、ライフサイエンスの特定の案件に特化して動いてもらっている。 また、欧州については、ジュネーブに 1 名、駐在員を配置、スイスに特化し、月に 2 企業は回って欲しいといっ ている。ライフサイエンス系ではバイオジャパン、バイオヨーロッパ等の展示会をきっかけとして共同研究につ ながった場合もある。欧米ではアジアのように工学系の案件は尐ない。食品分野など、日本で技術移転がうま くいったものを海外に展開している。 (ウ) 共同研究契約の内容について (i)知財の取り扱い 共同研究成果の実施許諾は非独占が基本であるが、テーマ、分野、貢献度等によっては独占もあり得る。 (ii) 既存知的財産権 Background IP Background IP は共同研究先企業にとって必要なはずであるとの認識から、非独占実施のオプションを与えるこ とを共同研究契約書雛形に記載している。 (iii)既存成果の知的財産の実施許諾について 既存成果について実施許諾の申し入れが実際にあった事例があり、共同研究も一緒に行うことになった。国費使 用の有無にかかわらず、独占は与えない方針である。特に、明文化された規定があるわけではないが共同研究の 成果も基本は非独占としている。マウス、試薬等リサーチツール的なものが多いこともあり、非独占で契約する。 (iv)日本版バイ・ドールの制約への対忚について 国内企業に関心をもってもらえなかった案件について、海外企業に紹介しており、問題があるとは認識していない。 汎用的なものを独占で許諾するのは好ましくないので、仮にそのような案件があれば、非独占として日本企業に もチャンスを残すことを考える。 ― 68 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (エ) 安全保障輸出管理 共同研究契約書雛形に安全保障輸出管理についてはそれぞれが責任を持って対処する旨の条項を記載して い る。 外国ユーザーリストにある大学との共同研究提案の事例がある。加工技術の研究用センサーに関する案件であっ たが相手先が外国ユーザーリストに掲載されている大学であるとして中止になった。教員側の意識が高いからこ そ相談があり、中止となったもので、教員から不満はでていない。 安全保障輸出管理に関連して、外務省から留学生に関わる問い合わせを受けることがある。留学生の研究希望 テーマは計測関連で民生用ということであったものの、出身大学が外国ユーザーリストに掲載されている大学であ ること等を含め考慮して断った、という事例がある。 (オ) リスクについて ・共同研究相手先企業 まずは案件を受けるよう努力している。先方企業の信用調査、安全保障輸出管理等は相手が定まったところで考 慮する。日系企業の場合は問題は尐ないと考えている。 ・軍関連研究 軍関連の研究は行わないことになると考える。現在の欧米との共同研究の内容は創薬関係等、軍に関係のある 分野ではない。以前、米国の軍関係の研究所から共同研究の提案があったものの見送りとなった事例がある。 (カ) 雛型 永島孝明弁護士(永島橋本法律事務所)の作成した英文契約書雛形がある。欧米企業に対しては当方の雛形か ら交渉をスタートする方がやり易い。先方企業側から契約書案が送られてくると苦労する。 事前質問リスト 海外企業等との共同研究 1.海外と共同研究を行うときに、どのような点に留意されておられますか? 2.これまで海外企業と共同研究を行うことになったきっかけはどのようなものでしたか? 3.既存成果の知的財産について、ライセンス許諾があったときへの対忚について (1)既存成果の知的財産が国費により獲得した場合 ①どのような対忚策を講じておられますか? ②共同研究契約に、既存の知的財産に関する実施許諾の規定はありますか? ③具体的に海外企業から既存成果の知的財産について実施許諾の申し入れは、ありましたか? (2)既存成果の知的財産が国費とは関係していない場合 ①どのような対忚策を講じておられますか? ②具体的に海外企業から既存成果の知的財産について実施許諾の申し入れは、ありましたか? (3)契約担当者としての立場で、個人的にはどのような対忚を取るのが適当と思いますか? 安全保障輸出管理について 外国企業・機関と連携して共同研究を実施する場合、安全保障輸出管理上、留意すべき点 (1) 外国企業・機関と連携して共同研究を実施する場合に、どのような点に留意しておられますか? (2)共同研究契約の中に、安全保障輸出管理に関する規定は、ありますか? (3)研究テーマが軍に関係しそうなテーマのときは、どのように対忚されておられますか? (4)研究費用が軍関係者から支出されているときは、どのように対忚されていますか? ― 69 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて (6)高麗大学 目的:韓国の大学と企業との共同研究における知財の取扱いの現状及び国費により大学が獲得した知的財産権の 外国企業への実施許諾の取扱いについてヒアリングを行う。 高麗大学 日 時: 平成 24 年 2 月 9 日(木)15:00~17:20 場 所: 高麗大学 Techno Complex Research Center (産学館)2F (韓国、ソウル市) 出席者: Kim, Young-Kyu 氏 General Manager Dept. of Business Support & Dept. of Technology Licensing and Commercialization Research and Business Foundation Hong, Suk-Kyung 氏 Patent Attorney IP Strategy Manager Dept. of Technology Licensing and Commercialization 同上 Kim Kyung Ho 氏 IP Marketing Manager/Research Professor/IP Management Advisor 同上 Dani Jang 氏 Technology Transfer Manager 同上 他1名 訪問者:名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 ①高麗大学(Korea University) 1905 年に専門学校として設立、1946 年、大学として創立。学部生 26,100 人、大学院生 9600 人、学生総数計 35,700 人、教員 3,600 人の私立総合大学。ソウル大学、KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology 韓 国 科 学 技 術 院 。 韓 国 の 科 学 技 術 研 究の 中 心 的 役 割 を 担 う 国立大 学 ) 、 POSTECH ( Pohang University of Science and Technology 浦項工科大学)、延世大学に続く韓国の有力大学である。名古屋大学は高 麗大学と交流協定を結んでいる。 ②高麗大学における技術移転活動 韓国では 2000 年の Technology Transfer Promotion Act により、政府資金による研究成果を大学に帰属させること ができるようになり、大学に TLO が設立された。その後、2003 年の Industry, Education Advancement and Industry-Academia Alliance Promotion Act により、TLO を組み込ませた Industry-Academic Cooperation Foundation (IACF)を各大学に設立させ、法人格をもたせるようにした。2005 年には、18 の TLO を選別して政府が 支援を行う Connect Korea Program が始まり、大学の技術移転活動が促進された。 高麗大学は 2004 年に Research and Business Foundation を設立、2006 年には政府の支援を受けられる TLO に選ばれた。高麗大学 Research and Business Foundation の技術移転部門の要員は 10 名。2011 年の特許出願 は 627 件、登録が 447 件、外国出願、101 件、同登録 40 件と出願、特に韓国国内の出願が多い。特許費用等は財 団の基金から支出されるが、もともと韓国では国の研究費資金の 2%を特許出願費用にあててもよいことになってい るとのこと。 韓国では国の研究機関による技術移転活動が大変積極的にすすめられており、大学の技術移転収入に比較し、金 額的に圧倒的に多い。しかし、韓国の大学 TLO も上記 Connect Korea Program の支援を受けて、ライセンス収入 は右肩あがりになっている。高麗大学の 2011 年の技術移転収入は 25 億ウォン(約 1.8 億円)と名古屋大学を上回 っており、日本のトップ大学と比較しても遜色ない水準である。高麗大学の 2011 年の技術移転収入は韓国の大学で 第 4 位、1 位はソウル大学で約 3 億円だそうである。技術移転収入が多ければより多く国の支援が得られるとのこと で、大学間の競争が激しいという。韓国の大学は国の研究成果について特許収入を上げるように努力している。事 業化を目的とした政府の長期資金では成果を大学が保有することができ、企業は大学からライセンスしなければい けないという仕組みになっているなど、政府の役割が大きい。また、政府の支援の中に企業との共同研究を始める 前から技術を使用した場合についての契約を締結しておくという、技術移転を目的としたプログラムがあり、ライセン ス収入の増加に貢献している。 ― 70 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて 高麗大学のライセンスの分野は IT、半導体、LED などで、ライフサイエンスは尐ない。ライセンス先は韓国の国内企 業に限られ、海外企業にライセンスした経験はない。海外企業へのライセンスは独占/非独占に関わりなく、政府に 申請して許可を得る必要がある。一方、海外企業との共同研究は行っており、米国企業が多い。日本企業との共同 研究も 1 件あるとのこと。 企業との共同研究の成果を出願する場合は共願とし、費用は企業側負担としている。(ただし、下記の崔公雄氏のコ メントにあるように実際にはさまざまな事例があるようである。)共有特許の法的扱いは韓国も日本と同様であり、双 方が自由に実施できることになっている。そのため、企業側に実施料支払いを求めることは大変困難であるとのこと で、日本の事情と同様であった。また、Background IP の無償使用は認めていないとのことである。最近、韓国企業 から共同研究成果の取扱いとして名大に対し提案された、研究成果の企業側への譲渡及び Background IP の無償 使用等、は韓国内でも一般的ではないようであった。 Research and Business Foundation は KU Holding という Holding 会社をもっている。2 年前より、大学がベンチャ ー企業を Holding 会社の傘下に保有することが認められ、その収入が大学に還元されることになっているという。KU Holdings は傘下に現在6社のスタートアップ企業を抱える。 (7)崔達龍国際特許法律事務所 日 時:平成 24 年 2 月 10 日(金)10:30~12:00 場 所:崔達龍国際特許法律事務所 (韓国、ソウル市) 出席者:崔達龍国際特許法律事務所長 弁理士崔達龍氏(Choi, Dall-Ryong) (韓国弁理士会副会長) 韓国産業財産権法学会長 弁護士 崔公雄氏(Choe Kong-Woong) (崔達龍氏の兄、韓国知財裁判所の初代判事長、産学連携に関する 各種審議会委員等を歴任) 他1名 訪問者:名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部長・特任教授 阿部正廣 名古屋大学産学官連携推進本部国際連携部特任講師 道井敏 ①崔達龍国際特許法律事務所 日本企業(ソニー、オムロン、三菱電機等)の韓国出願支援を専門業務としている弁理士事務所。事務所のホーム ページで韓国の特許法、商標法等各種知財関連法や、審査基準等の最新の日本語訳を開示、掲載しており、日本 特許庁の関係者も利用しているという。 ②韓国における産学連携(崔公雄氏) 日本の知財戦略本部を見習って、総理室に国家知識財産委員会が設置されており、産学共同研究成果物の所有 権配分等共同研究成果に対するガイドラインを作成している。標準契約書等を用意しているがさまざまなモデルが あり、難しい。研究成果の共有等の問題がある。最も企業との共同研究が多い、KAIST における企業との共同研究 278 件中、48 件で共有、53 件で企業側保有、86 件で大学(KAIST)保有となっている。産学協力研究のガイドライン について作業中。 ③その他 崔公雄氏は韓国知財裁判所の初代判事長を務められた。韓国知財裁判所は日本の知財高裁をモデルに考えられ たものであり、高裁ではなく最終的な独立した裁判所として確立されたものの、関係者の反対が多く、いまだに審判 のみを扱い、訴訟をあつかうことができていない。訴訟は従来通り、通常の裁判所で扱われている。弁理士に訴訟 の代理権を与えるかどうかで議論が続いているとのこと。 ― 71 ― 外国企業等との共同研究におけるリスクマネジメントについて あとがき 米国関連部分 2012 年1月 11 日、フロリダ大学技術移転局長をインタビューするため、フロリダ州 Gainesville 市を訪問した。その 際、同大学に新たに設置された、Florida Innovation Hub の開所式に参加する機会を得た。 技術移転局、インキュベーション施設が入居し、大学からの技術移転を促進するという試みは別に新しいものではな い。また、Florida Innovation Hub の規模自体は目を見張るものではなく、むしろ米国大学の取り組みとしては標準 的なもののように見受けられた。 しかし、その開会式では圧倒された。新たに設置された Hub の求心力、そしてその期待値の大きさが随所に伺えた。 挨拶をした学長、市長、上院議員、商務省高官全てが、大学発のイノベーションを産業や地元の雇用に結びつけて いくことが大学の大きな使命である、これを実現しなくてはアメリカはアメリカでなくなる、といった趣旨のスピーチの 数々。 小さな市、ひとつの大学が常に国際競争を意識し、端的に言えば「イノベーション」、「雇用創出」という自らに課せら れた大きな使命を、ジーンズからスーツ姿まで 300 人以上の参列者全員が認識しているように見受けられた。要す るに誰もが自分の行っている活動が社会に直接与えるインパクトの大きさを信じ、そして、真剣に取り組んでいるの である。 日米の技術移転を単純に比較することは本意ではないが、日本の産学連携に携わらせていただく1人として、これま で以上により真剣に産学連携に取り組まなければいけないと猛省した次第である。 全体について 上記調査結果のとおり、米国も日本も既存の知的財産成果である知的財産権に関する取扱いは、結果としては、ほ ぼ同じようなものと思われる。ただ、米国では、産学官連携の活動期間が長いこともあり、バイ・ドール法の取扱いが、 比較的詳しく規定されているように感じられる。このため、米国大学の産学連携関係者にとって、実際に発生する頻 度は尐ないが、もし発生したときにどのような判断をすべきかが分かりやすくなっているように思われる。 日本の大学における産学連携は、世界をリードする研究成果を社会にいち早く活用できるように貢献することが求め られている。一方、日本の産学連携は、どちらかといえば、日本の政府機関によるポリシーメーキングの情報発信が 不足しているのではないかと思われる。現場の大学における産学連携関係者が、尐しでも判断に迷うことなく進める ことを期待したい。 文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室には、今回調査をさせていただく機 会を与えていただき、お礼を申しあげます。 ― 72 ― ᖹᡂ 㻞㻟 ᖺᗘ㻌 ᩥ㒊⛉Ꮫ┬㻌 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