アジア - 「科学技術振興調整費」等 データベース

「我が国の国際的リーダーシップの確保」プログラム
科学技術政策に必要な調査研究
「アジアにおける科学技術の振興と成果の活用」
中核機関名:独立行政法人科学技術振興機構
研究代表名:高橋 文明
研究期間:平成17年度~平成19年度
目次
Ⅰ.調査研究概要
1.調査研究の趣旨
2.調査研究の概要
3.調査研究の全体像
4.調査研究の体制
Ⅱ.経費
1. 所要経費
2. 使用区分
Ⅲ.調査研究成果
1.調査研究成果の総括
2.調査研究の本文
3.調査研究成果の発表状況
Ⅰ.調査研究概要
■プログラム名:我が国の国際的リーダーシップの確保
■課題名:アジアにおける科学技術の振興と成果の活用
■中核機関名:独立行政法人 科学技術振興機構
■研究代表名(役職):高橋 文明(審議役)
■調査研究実施期間:3年間
■調査研究総経費(調整費充当分):総額 127.7 百万円 (間接経費込み)
1.調査研究の趣旨
(1) 我が国が「科学技術・学術審議会国際化推進委員会」等の議論を踏まえ、アジアの環境・エネルギー
問題や感染症、自然災害等の地域共通課題に対し、アジア諸国等と連携・協働して積極的に対処す
ることは、我が国の持続的成長・安定のためにも不可欠である。我が国の高度な科学技術力による積
極的国際貢献への期待も大きい。
(2) 本課題では、地域課題の解決、科学技術レベル向上等に向けた課題と対策、提言等を検討する国
際シンポジウム等を開催する。以て、我が国の国際的リーダーシップ確保と、アジア諸国等とのパート
ナーシップ強化を図るとともに、中・長期的には我が国を含むアジア地域の持続的・安定的成長へと
つなげていくことを目的とする。
2.調査研究の概要
(1) H17-19年度:アジア共通の諸課題の科学技術による解決のための課題と方策、アジアの科学技術レ
ベル向上のための課題と対応策を検討する国際フォーラム等を開催する。
(2) H19年度:前2年度までの成果を踏まえつつ、最終年度においては、既存の枠組みの活用と新たな枠
組みの提案を含む具体的な方策につき提言を行う。
(3) 本課題により、多様なアジア地域での共通課題への対応策や科学技術レベル向上の方策を探り、今
後の具体的な協力事業や支援の枠組みの形成につなげることで、我が国とアジア諸国とのパートナ
ーシップ強化に資するものと期待される。
(4) 本課題では、アジアにおける科学技術政策、或いは防災対策といった幅広いテーマを扱うため、豊
富な知見と内外のネットワークを有する科学技術政策研究所、防災科学技術研究所、理化学研究所
と連携し実施することが有効である。
1
3.調査研究の全体像
アジアにおける科学技術の振興と成果の活用
アジア地域の特性
急速に発展する経済
(生産地・市場としての重要性)
様々な矛盾、自然
の影響等
多種多様な民族・文化
(文化的共通性)
地理的、地形的特色
(地理的近接性)
更なる発展へ
アジアの持続的・安定的な発展に寄与
(国境を越えた共通の課題が発生)
アジア共通課題
の解決
・環境・エネルギー問題
(社会および経済の活性化)
アジア科学技術
アジア科学技術
フォーラム
フォーラム
科学技術
科学技術
成果の活用
の振興
アジア科学
アジア科学
技術セミナー
セミナー
技術
技術セミナー
アジアの科学技
術レベルの向上
・科学技術政策
・自然災害
・人材育成
・感染症
・科学技術情報の流通発信
2
1
4.調査研究の体制
実施体制一覧
研 究 項 目
担当機関等
1. 研究統括
研究担当者
(独)科学技術振興機構
平成 19 年 8 月 1 日~平成 20 年 3 月 31 日
◎高橋 文明(審議役)
平成 17 年 10 月 1 日~平成 19 年 7 月 31 日
◎永野 博(理事)
平成 17 年 4 月 1 日~平成 17 年 9 月 30 日
◎佐藤 征夫(審議役)
2. 科学技術政策分科会
文部科学省 科学技術
○桑原 輝隆(総務研究官)
政策研究所
3. 環境・エネルギー分科会
(独)科学技術振興機構
○井上 孝太郎(上席フェロー)
研究開発戦略センター
4. 自然災害対策分科会
東京電機大学
○片山 恒雄(教授)
5. 感染症対策分科会
(独)科学技術振興機構
○江口 吾朗(上席フェロー)
研究開発戦略センター
◎ 代表者
○ サブテーマ責任者
推進委員会
氏
名
◎高橋 文明
所
属
(独)科学技術振興機構 審議役
桑原 輝隆
文部科学省 科学技術政策研究所 総務研究官
井上 孝太郎
(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー
片山 恒雄
東京電機大学 教授
江口 吾朗
(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー
◎ 推進委員長
3
Ⅱ.経費
1.所要経費
(直接経費のみ)
(単位:百万円)
所要経費
研 究
研 究 項 目
担当部署等
1. 研究統括
(独)科学技 高橋 文明
2. 科学技術政
術振興機構
担当者
H17年度
H18年度
H19年度
42.3
33.0
40.9
合計
116.2
策分科会
3. 環境・エネ
ルギー分科会
4. 自然災害対
策分科会
5. 感染症対策
分科会
所要経費
(合 計)
42.3
33.0
40.9
116.2
2.使用区分
(単位:百万円)
(独)科学技術振興機構
計
設備備品費
0
0
試作品費
0
0
消耗品費
1.8
1.8
人件費
0
0
その他
114.3
114.3
11.6
11.6
127.7
127.7
間接経費
計
4
Ⅲ.調査研究成果
1. 調査研究成果の総括
平成 17 年度~平成 19 年度にかけて、「アジア科学技術フォーラム」を 3 回、「アジア科学技術セミナー」
を 6 回開催し、アジア地域の共通課題である「科学技術政策」「環境・エネルギー問題」「自然災害対策」
「感染症対策」の 4 つのテーマについて、掘り下げて議論を行った。そして、3 年間の総括として、「第 3 回
アジア科学技術フォーラム」にて以下の声明を社会に向けて発信した。
アジア科学技術フォーラム 声明(2007年10月5日、東京)
「アジア科学技術フォーラム」は 2005 年から 2007 年の 3 カ年に渡り、「アジアの持続的発展に向けた科
学技術の挑戦」を全体テーマとして開催された。本フォーラムでは「アジアが抱える様々な地域共通の社
会的課題の科学技術による解決」及び「アジアの躍進を将来ともに支える域内の科学技術レベルの向上
(サイエンス・パワー・アジアの形成)」を目標に、アジア各国の政治家や研究者が活発な議論・意見交換
を行った。
アジアにおける急激な人口増加や工業化に伴う環境・エネルギー問題、地震・津波・洪水等の自然災
害、そして鳥インフルエンザやSARS等の感染症問題など、アジアの地域共通課題は近年ますます顕在
化している。こうした現状を重くとらえ、本フォーラムは科学技術政策、環境・エネルギー問題、自然災害
対策、感染症対策の4つの分科会に分かれ、それぞれの分野における一流の専門家が今後のアジア諸
国間の連携について議論し、主に以下の通りの提言を行った。
(1)
本フォーラムを通じて獲得した認識をそれぞれの国における科学技術政策に反映させるべく努力を
行う。また、この目的のために、本フォーラムを通じて培われたネットワークを積極的に利用し、情報
交換を行うとともにそのいっそうの発展に努める。
(2)
今後も科学技術政策研究者の相互交流を行うために、本フォーラムのような枠組みはぜひとも必要
である。本フォーラムで議論された「持続的発展」に引き続き、今後は発展を牽引する「イノベーショ
ン政策」について取り上げ、継続的な議論を行いながらアジア諸国の共通認識を醸造する場が必要
である。
(3)
「持続的発展」の最大の障害である環境・エネルギー問題について、アジア各国が問題意識を共有
し、科学技術によって解決していくことが必要である。そのために研究者及び科学技術政策関係者
が意見交換を継続的に行うとともに、アジア諸国間の戦略的な多国間共同研究とその成果の蓄積・
普及、関連分野の人材育成を具体的に推進する機構の構築につき真剣な検討が望まれる。
(4)
防災に携わる専門家間における自然災害対策に係わる知識や具体的手法の共有はきわめて重要
であり、災害やリスクに関する情報データベース・ネットワークを構築すべく努力を行う。また、アジア
の途上国における 被災者の経済的復旧を支援するために重要な意味を持つであろう マイクロ・イ
ンシュランスは、単に概念にとどまらず、民間を巻き込んだパイロット・プロジェクトを早急に発足させ
5
るべく真剣な検討が望まれる。
(5)
感染症研究においては海外研究拠点ネットワークが重要であり、研究拠点受入国との長期的な信
頼関係を構築することによって初めて成果を挙げうる。より長期に渡る政策的展望にたったアプロー
チのさらなる拡大が望まれる。
(6)
アジア各国の感染症研究者が定期的に会合を開き、意見交換や情報共有を行う場が必要である。
アジアにおいてより強固な感染症研究のネットワークが構築されるべく、努力を行う。また、ネットワー
クを持続させるためには企業・公的機関等の関与及び資金提供が不可欠であるので、今後、企業等
の理解を得るべく努力を行う。
フォーラム参加者一同は、本フォーラムを通じて培われたネットワークをさらに発展させ、関係機関同士
の協力をさらに深化させていく必要があるとの確固たる共有された認識の下、提言の実現に向けて取り組
んでいく。
6
2. 調査研究成果の本文
(本文中の肩書きは全て当時のもの)
目次
ページ
(1) フォーラムの開催
1) 第 1 回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
10
(ii)
開催場所
10
(iii)
概要
10
(iv)
プログラム
11
(v)
講演者リスト
11
(vi)
詳細
12
i)
開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 沖村 憲樹
12
ii)
来賓挨拶 文部科学大臣政務官 小泉 顕雄
13
iii)
趣旨説明 (独)科学技術振興機構 審議役 佐藤 征夫
13
iv)
基調講演 (財)日本科学技術振興財団 理事長 有馬 朗人
15
v)
第 1 分科会「科学技術政策」
27
vi)
第2分科会「環境・エネルギー問題」
47
vii)
第3分科会「自然災害対策」
67
2) 第2回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
92
(ii)
開催場所
92
(iii)
概要
92
(iv)
プログラム
93
(v)
講演者リスト
94
(vi)
詳細
94
開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 沖村 憲樹
94
i)
ii) 来賓挨拶 文部科学省 副大臣 河本 三郎
95
iii) 趣旨説明 (独)科学技術振興機構 理事 永野 博
96
iv) 基調講演 岩手県立大学 学長 谷口 誠
97
v) 第 1 分科会「科学技術政策」
104
vi) 第2分科会「環境・エネルギー問題」
125
vii) 第3分科会「自然災害対策」
146
viii) 第4分科会「感染症対策」
158
3) 第3回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
167
7
(ii)
開催場所
167
(iii)
概要
167
(iv)
プログラム
168
(v)
講演者リスト
168
(vi)
詳細
170
開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 北澤 宏一
170
i)
ii) 来賓挨拶 文部科学省 副大臣 松浪 健四郎
170
iii) 基調講演 (独)科学技術振興機構 顧問 阿部 博之
171
iv) 第 1 分科会「科学技術政策」
172
v) 第2分科会「環境・エネルギー問題」
178
vi) 第3分科会「自然災害対策」
185
vii) 第4分科会「感染症対策」
192
(2) セミナーの開催
1) 「生態系の保全と利用」(第 2 分科会「環境・エネルギー問題」)
(i)
日程
203
(ii)
開催場所
203
(iii)
概要
203
(iv)
プログラム
203
2) 「アジアに適した知的財産権制度及び知的財産権の利用のための実施体制」(第 1 分科会「科
学技術政策」)
(i)
日程
206
(ii)
開催場所
206
(iii)
概要
206
(iv)
発信された提言
206
(v)
プログラム
208
3) 「モンゴルにおける地震災害軽減」(第 3 分科会「自然災害対策」)
(i)
日程
211
(ii)
開催場所
211
(iii)
概要
211
(iv)
詳細
i)
(v)
3 月 6 日(月)15:00~18:40 ハイ・レベル・ミーティング
212
ii) 3 月 7 日(火)9:30~17:40 セミナー
212
iii) 3 月 8 日(水)10:00~13:30 エキスパート・ミーティング
213
視察
213
8
4) 「再生可能エネルギー、特にバイオマスエネルギーについて」(第 2 分科会「環境・エネルギー問
題」)
(i)
日程
214
(ii)
開催場所
214
(iii)
概要
i)
必要な研究開発課題
214
ii) 研究協力方法
(iv)
215
プログラム
215
5) 「防災情報基盤に関する国際ワークショップ」(第 3 分科会「自然災害対策」)
(i)
日程
217
(ii)
開催場所
217
(iii)
概要
217
(iv)
プログラム
218
6) 「アジアにおける持続的な水循環に向けた適正かつ信頼のおける技術」(第 2 分科会「環境・エ
ネルギー問題」)
(i)
日程
220
(ii)
開催場所
220
(iii)
開催趣旨
220
(iv)
詳細
220
9
(1) フォーラムの開催
平成 17 年~19 年にかけて、アジア各国及び関連する機関より閣僚級を含む政策立案者や一線級の
研究者を集め、3 回にわたり「アジア科学技術フォーラム」を開催した。のべ 92 名の講演者を含む合
計 786 名が本フォーラムに参加し、科学技術政策、環境・エネルギー問題、自然災害対策、感染症
対策に関し 3 年間にわたり議論を深めた。「第 3 回アジア科学技術フォーラム」では参加者の賛同を
得た声明(上記3.「調査研究成果の総括」を参照)を発信し、3 年間の総括とした。
1) 第 1 回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
平成17年9月9日(金) 10:00~17:30
(ii) 開催場所
六本木アカデミーヒルズ 49 タワーホール
(iii) 概要
「第1回アジア科学技術フォーラム」においては、アジアンプロブレムの相互理解を中心として、
「第1分科会:科学技術政策」、「第2分科会:環境エネルギー問題」、「第3分科会:自然災害対
策」の三つの課題について、分科会を設けて意見発表、意見交換等を行った。講演者 23 名(内
訳:中国 2 名、韓国 1 名、タイ 2 名、ベトナム 2 名、インド 3 名、ミャンマー1 名、バングラデシュ 1
名、アメリカ 1 名、日本 10 名)を含む 269 名が参加し、活発な議論が行われた。
基調講演で(財)日本科学技術振興財団の有馬朗人会長が「科学技術におけるアジア一極の
確立のために」と題する講演を行った後、分科会毎に分かれた。
第1分科会「科学技術政策」では「アジアの持続的発展に資する科学技術政策の在り方」をテ
ーマとし、
1.
1990 年代以降、各国がどのような科学技術の重点化政策をとってきているか、
2.
重点化政策の中で持続的発展はどのように位置づけられてきたか、
3.
そしてこれらはどのようなプロセスで決定されてきたか、
について議論を行った。
第2分科会「環境・エネルギー問題」では、「アジアの持続的発展に資する環境・エネルギー
分野の研究開発」をテーマとし、環境・エネルギー分野のうち主に環境面での地域共通課題を
把握し、科学技術による解決の方向性を探るとともに、アジアの科学技術レベルの向上策、協
働方策について議論を行った。
第3分科会「自然災害対策」では、「自然災害と社会、開発、そして科学技術-アジアにおけ
るパートナーシップの構築」をテーマとし、「災害の認識」「災害と社会」「災害と科学」の3つの側
面から、地域共通課題を明らかにし、アジアにおける自然災害軽減に関する取り組みについて、
現状と問題点について議論を行った。
10
(iv) プログラム
10:00 ~ 10:30
・開会挨拶・来賓挨拶・概要説明
10:30 ~ 11:30
・基調講演
11:30 ~ 13:00
・昼食
13:00 ~ 16:50
・分科会
17:00 ~ 17:30
・全体総括(各分科会の報告を中心に)
・閉会挨拶
(v) 講演者リスト
役割
開会挨拶
所属
(独)科学技術振興
役職
氏名
国名
理事長
沖村 憲樹
日本
機構
来賓挨拶
文部科学省
政務官
小泉 顕雄
日本
概要説明
(独)科学技術振興
審議役
佐藤 征夫
日本
会長
有馬 朗人
日本
機構
基調講演
(財)日本科学技術
振興財団
第 1 分科会
総合科学技術会議
議員
阿部 博之(座長)
日本
(科学技術政策)
中国科学技術促進
副所長
Qiquan Yang
中国
理事長
Youngrak Choi
韓国
副大臣
Pairash
タイ
発展研究中心
公共科学技術研究
会議
科学技術省
Thajchayapong
科学技術省
副大臣
Le Dinh Tien
ベトナム
科学技術開発研究
所長
Rajesh Kumar
インド
所
文部科学省 科学
Kochhar
所長
小中 元秀
日本
理事長
大塚 柳太郎(座
日本
技術政策研究所
第 2 分科会
(独)国立環境研究
(環境・エネルギ
所
ー問題)
(独)科学技術振興
上席フェ
機構 研究開発戦
ロー
長)
井上 孝太郎
日本
所長
Jiyuan Liu
中国
議長
Rajendra K.
インド
略センター
中国科学院 地理
学自然資源研究所
気候変動に関する
政府間パネル
Pachauri
11
自然資源環境省
監査長
Monthip Sriratana
タイ
Tabucanon
アンジャン大学
学長
Vo-Tong Xuan
ベトナム
第 3 分科会
(独)防災科学技術
理事長
片山 恒雄(座長)
日本
(自然災害対策)
研究所
社長
渡辺 正幸
日本
工学会
会長
U Than Myint
ミャンマー
BRAC 大学
副学長
Jamilur R.
バングラデシュ
国際社会開発協力
研究所
Choudhury
グジャラート災害管
理事
V. Thiruppugazh
インド
名誉教授
Haresh C. Shah
アメリカ
理局
スタンフォード大学
(vi) 詳細
i) 開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 沖村 憲樹
本フォーラムは私ども科学技術振興機構が中核となり、科学技術政策研究所、そして防災
科学技術研究所との共催により開催するものです。主催者を代表して、ここに御参加いただ
いた皆さんに歓迎のあいさつを申し上げます。
最近では、アジアにおける科学技術の発展はアジアに世界経済を牽引するほどの経済成
長をもたらし、アジアの人々に対して豊かな生活を提供するに至りました。しかし、このような
急激な経済発展の陰で、経済のグローバル化と地域開発に伴う環境破壊や資源エネルギー
問題といったマイナスの影響が出ています。
それに加えて、ひとつだけの国、あるいはひとつの地域では解決できない共通の課題があ
ります。自然災害、SARSやその他の感染症を初めとするいろいろな感染症の流行もありま
す。こうした課題に効果的に対応していくためには、アジアに特有の条件を十分に考慮しつ
つ、地域の特性を踏まえた独自の取り組みが求められています。
我々は国、地域の域を超えて力を合わせる必要があります。特に、科学技術の成果を十
分に活用して対処することが必要不可欠です。このような認識の下、アジアが抱えるさまざま
な課題を解決することをめざし、アジアの科学技術レベルの向上をめざして本フォーラムを毎
年1回、3年間にわたり開催することとしました。
本フォーラムがアジア諸国に積極的に連携し、協働し、科学技術の力により地域共通の課
題に対処する場を形成することができればと思います。本フォーラムの副題である「アジアの
持続的発展に向けた科学技術の挑戦」ということは、このような考えを反映して設定しました。
本日は多くのプレゼン、ディスカッションがあります。参加者の皆さんがこの機会を十分に
活用され、情報交換、意見交換することを期待しています。また、今回のフォーラムを契機と
して、今後持続的なアジアの活動に結びつくことを希望します。
12
ii) 来賓挨拶 文部科学大臣政務官 小泉 顕雄
本日はアジア各国から、あるいは国内各地から各界の指導的な立場の皆さんにお集まり
いただいています。このような場において来賓としてあいさつをさせていただく機会を設けて
いただき、誠に光栄です。
本フォーラムについては、文部科学省の科学技術振興調整費により開催を支援させてい
ただいていますが、この際、文部科学省として本フォーラムに期待している点をいくつか申し
上げて、私のごあいさつとさせていただきたいと思います。
日本政府においては現在、今後5年間の科学技術政策の基本的な方向性を定める第3期
科学技術基本計画の策定作業を進めているところです。この作業の中で、特に国際関係に
ついては、科学技術水準の成長が著しいアジア諸国との間で連携を強化していくことが、今
後の我が国の大きな課題であると指摘されているところです。
したがって、平成 18 年度から始まる第3期科学技術基本計画期間中の5年間においては、
文部科学省としてもアジア諸国との間の科学技術協力の強化を図る必要があり、本フォーラ
ムから具体的な協力活動に結びつく成果が生まれることを期待しています。
アジア諸国との間の科学技術協力の重要性に鑑み、その具体的な進め方については文
部科学省の科学技術学術審議会国際委員会においても議論され、本年1月には報告書もと
りまとめられています。この報告書によると、アジア諸国との間の科学技術協力の進め方とし
て、2つの点が重要であると指摘されています。
第1の点は、研究者交流の活発化です。あらゆる科学技術協力は人的なネットワークから
生まれてくるものであり、研究者間の交流を引き続き促進していくことが重要であると指摘され
ています。そして第2の点は、地域共通課題の解決に向けた共同研究の取り組みです。あら
ゆる研究分野において協力を進めていくこともひとつの案ではありますが、協力強化の第一
歩として、地域の国々が共通して抱えるような課題に対して、科学技術力を駆使しながら解決
を図っていくような国際共同研究の取り組みを進めることが、効果的であると指摘されていま
す。
このアジア科学技術フォーラムは、アジアが抱えるさまざまな地域共通の社会的課題、い
わゆるアジアンプロブレムの科学技術による解決を目標のひとつとして掲げています。これは、
先ほど指摘した2つ目の点と重なり合うものであり、今後の我が国とアジア諸国との間の科学
技術協力を考えていく上で、このフォーラムは非常に重要な意義を持つものだと考えていま
す。
このフォーラムを通じてアジア諸国が手を携えて解決していくべき地域共通課題が抽出さ
れ、今後の国際共同研究につながっていくことを心から期待しています。フォーラムを通じて
活発な議論が行われ、意義深いフォーラムとなることを心よりお祈りして、私のあいさつとさせ
ていただきます。
iii) 趣旨説明 (独)科学技術振興機構 審議役 佐藤 征夫
基調講演に入る前に、今回のアジア科学技術フォーラムの簡単な概要を説明させていた
だきます。
アジア科学技術フォーラムは、1回だけのプロジェクトではありません。実は3カ年計画とい
13
うことで、今年から3年間にわたって行われるプロジェクトになっています。2005~2007 年まで
続きます。
今回のフォーラムのテーマですが、「アジアの持続的発展に向けた科学技術の挑戦」とい
うことを掲げています。今回このテーマになった理由ですが、先ほど沖村理事長、そして小泉
政務官から説明がありましたので、ここで私はもう一度繰り返す必要はないと思います。
3つの組織が機構として関係しています。私のJST、それから科学技術政策研究所、そし
て防災科学技術研究所の3機関が共催で今回のプロジェクトを立ち上げ、このフォーラムを
開催しています。
このプロジェクトは文部科学省から資金援助を受けています。そして、このプロジェクトには
2つの大きな目的があります。第1の目的は、アジアが直面している課題、問題を科学技術を
通じて解決するということ。第2の目的は、アジアの科学技術のレベルの向上を図るということ
です。
こちらが科学技術プロジェクトの構成です。大きな柱として2つ用意しています。第1がアジ
ア科学技術フォーラムで、こちらは政策担当者を交えながら研究者の方々によるフォーラム。
そしてもうひとつの柱は科学技術セミナーで、こちらは専門家、行政担当者に関わっていた
だく予定です。フォーラムは毎年日本で開催する予定になっています。そして、先ほど説明し
たようなテーマを掲げ、目的を持って開催します。
セミナーも毎年開催したいと思っています。日本以外のアジアの国々で年に2~3回開催
していただいて、このフォーラムであがってきたさまざまな課題、特別な課題について話合っ
ていただこうと思っています。
この二本立てのシステムを立ち上げることによって、アジアにあるさまざまな国々に共通の
課題に対しての計画、あるいは対策を立てていきたいと思っています。さらには、アジア諸国
のパートナーシップの助長につながると思っています。そして、研究者の交流がさらに拡充さ
れて、何らかのプラットフォームができればよいと望んでいます。そのプラットフォームでは、
例えばさまざまな階層の情報や人の交流が進められればと思っています。
この図は、実際の実施体制です。3つの機関、JST、科学技術政策研究所、防災科学技
術研究所の3機関が今回のプロジェクトについては共催していきます。もちろんそれぞれの
機関はそれぞれの独立した役割を持っています。JSTは、実行するさまざまな科学技術を国
家の政策に合わせた形で促進していくために実施していく。そしてこのフォーラム全体の調
整役を果たします。さらにJSTは特定の課題について、例えば環境、エネルギー、感染症に
も対応していきます。
科学技術政策研究所は、科学技術政策の一元化された研究所ですが、このフォーラムプ
ロジェクトに科学技術政策の分野で貢献していきます。防災科学技術研究所は防災関係の
機関です。特にアジアの防災に関するさまざまな対策を担当していくことになります。これが3
つの機関についての説明です。
次に、本日のフォーラムですが、午前中のセッションは全体会議ということになりますが、有
馬先生から基調講演をいただきます。「科学技術におけるアジア一極の確立のために」という
タイトルで基調講演をいただきます。
午後には、3つのセッションが同時進行で進められることになります。セッション1は科学技
14
術政策、セッション2は環境・エネルギー問題、セッション3は自然災害対策ということでお話
ししていただきたいと思います。それぞれの分科会にはサブテーマがついています。ここに
書いてあるとおりです。最終的に、分科会の最後に全体会合を行って、今日のフォーラム全
体のまとめをしていきたいと思います。
3カ年のプロジェクトになるわけですが、このような成果を期待したいと思っています。第1
に、アジアの共通課題を特定していくこと。そして、その対応策を提言していくこと。さらには、
アジアの地域内で協力を構築できるような枠組みを提言していきたい。そして、具体的な取り
組み、例えば国際プロジェクトを立ち上げるといった提言に反映させたいと思います。これに
ついては、先ほど小泉さんからも提案がありました。そして最終的には、アジアにおける科学
技術政策への提言。アジア全体への提言というところまでもっていきたいと思います。
最後に、このフォーラムに参加された皆さんにお願いがあります。ぜひ活発な意見をいた
だきたいと思いますし、ディスカッションをしていただきたいと思います。例えばアジアにおけ
るさまざまな問題解決のために、科学技術は何ができるのか。そして、アジアにおける科学技
術の強みをさらに強めるためには何ができるのか。そして、持続可能な発展をしていくために
はどうしたらよいのかということ。こういったことを話していただきたいと思います。
iv) 基調講演 (財)日本科学技術振興財団 理事長 有馬 朗人
「科学技術におけるアジア一極の確立のために」
この機会に私が提案させていただきたいことは、政治や文化、宗教などの違いを越えて、科
学技術という普遍的な立場からアジアを一極化して協力し合おうではないかということです。
ヨーロッパは近年、一極化が急激に進み、EUとしてまとまりつつあります。もちろんその憲法
を巡る問題や、EUの確立のためにはまだ多くの困難を抱えていることは事実です。
しかし、これは単に科学技術だけではなくて、政治や経済を含んだ統合です。中世以来、
ごく最近の 60 年前までヨーロッパ各地、特にドイツ、フランス、イギリス等の諸国間の激しい戦
争のことを考えると、深い感慨に襲われます。
ヨーロッパでは高エネルギー物理学研究所のセルン研究所、中性子を用いる科学技術研
究のためのラウエ・ランジュバン研究所など、ヨーロッパ諸国共同の研究所があります。また、
熱核融合についてはITAがフランスのカデラッシュに建設され、世界の中心になる予定で
す。
アメリカは南北を通じてひとつの共同体を形成しており、経済や科学技術で密接に協働し
ています。既に南北アメリカは一極を形成していると言ってよいと思います。
アジアには、政治形態も経済の段階も、そして宗教も文化もお互いに大きく異なる国々があ
ります。その違いのために、なかなか一極を形成しにくいことは事実です。しかし、科学や技
術にはそのような差はありません。しかも、いま申し上げるように、既に多くの共通の問題があ
り、それを解決するためには科学技術が必要です。したがって、まず科学技術でアジア諸国
の協力を進め、一極を形成しようではありませんか。
ここで具体的に、アジアの国々が直面している5つの問題について考えてみましょう。それ
は第1にエネルギー、第2に公害と環境破壊、第3に地球温暖化問題、第4に食料並びに自
然災害、そして第5に教育の問題です。医学の問題は、余りにも私が専門から離れているの
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で、今回は準備しませんでした。
まずエネルギーについて、お話ししてみたいと思います。世界の人口は現在 60 億人です。
2050 年には 80 億人に達すると言われています。かつて 100 億人に達するであろうという予測
がありましたが、それに比べてやや増加の速度が低くなったようですが、油断はできません。
これだけの人間が生きていく上で、多量のエネルギーを必要とし、多量の食料を必要とし、エ
ネルギー消費、食料消費が今後さらにふえることは明らかでしょう。
この図は、世界の地域別人口と1人当たりエネルギー消費量です。今後もエネルギー消費
は増大し続けるでしょう。OECD諸国はそもそもエネルギーを消費し過ぎているのですが、な
るべくふやさないよう努力を始めました。それにしても1人当たりの消費量を見ると、アメリカは
発展途上国の約 16 倍、OECD諸国は約8倍、日本も約8倍です。
このことから、発展国に変わった中国、韓国、インド、シンガポール等の消費量が今後、アメ
リカまでとは言わないまでも、OECD諸国並みに達することは十分予測されます。例えば中
国などでの工業化、そして自動車の台数の急激な増加を考えてみれば、エネルギー消費は
アジア諸国で急激に増大すると推測されます。
そこで問題は、化石燃料がどのくらいの年月、継続して使用できるだろうかということです。
この表が示すように、現在確認されている化石燃料を現在の年間使用量で割ると、よく知られ
ているように、石油は約 40 年、天然ガスはせいぜい 60 年、ウラン 235 ですら 60 年です。石
炭は幸い 200 余年近くもつようです。
しかし、このことはかなり昔から言われていて、何 10 年かたったいまでも余り変わりありませ
ん。それは、採掘の技術が改良され、いまでは使えなかった場所から取り出せるようになり、
新しい油田などが発見されたことによります。
こう考えてくると、今後確認された資源がどのくらいあるか、未確認のものがどのくらいあるか
ということが問題になります。そしてまた、メタンハイドレードのように将来エネルギー源として
考えられるものはどのくらい埋蔵されているかが関心の的になります。
そこで、現在入手できるデータに今後何年、天然ガスや石油が使用可能かを高度成長、中
庸シナリオなどで予測を立てています。どれをとっても、今後 100 年くらいしかもたないだろう
と言えます。化石燃料の中で石炭は 200 年以上もつようですので、近い将来は主として石炭
に頼らざるを得なくなるでしょう。
ここで、冗談をひとつ申し上げます。いまのうちに廃炭鉱をお買いになっておいた方がよい。
孫子の代になると、廃炭鉱は極めて高度な技術で再び炭鉱を掘るということで、大変重要な
ことになるかもしれない。そういう冗談を申し上げておきましょう。
しかし、後に申し上げるように、石炭を燃やす場合に特に重要な問題は二酸化炭素の放出、
空気公害の元になるということです。そういう意味で、化石燃料は石炭のみならず、石油、天
然ガス、特に石炭の利用は極力抑えていかなければなりません。最も採掘可能な埋蔵量は、
原油で約 60 年、オイルサンドで約 50 年、オリノコ重油で約 40 年、オイルシェールで約 130
年残っているという説もあります。合わせて、約 7.5 兆バレル、約 280 年分残っているという説
もあります。
ここで、オリノコ重油とはベネズエラのオリノコ川付近に存在する超重質油です。問題は、こ
れを掘るのに大変な技術が要りますし、値段が極めて高くなるでしょう。それにしても有限で
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ある。そしてまた、二酸化炭素公害の問題は同じです。
化石燃料は化学製品の材料としても大変に重要なものです。どんどん燃やして消費してし
まい、希少なものにしてしまうことは、まさに後世の人類に対して負の遺産を残すことになると
私は思っています。また、後に論じますが、化石燃料を燃やすことによって空気公害を引き起
こします。それは、窒素化合物、硫黄化合物のように人体に有害なものを発生し、さらに地球
の温暖化を引き起こす二酸化炭素を発生します。この2点から、できるだけ化石燃料はできる
だけ使わないように努力が必要です。
そこで、空気汚染も起こさないし、二酸化炭素も発生しない再生可能なエネルギーが注目
されてきました。現に電力で見ると、スウェーデンでは 50%、日本でも 10%が再生可能なエネ
ルギーによっています。また、1次エネルギー総供給に占める割合で見ると、スウェーデンが
30%弱、日本は5%強です。
それでは安心ではないかとお考えの方もおられるでしょう。しかし、ちょっと待っていただき
たい。これは主に水力発電とバイオマスによるものです。太陽光発電や風力は極めてまだパ
ーセンテージが少ない。ですから、さらに水力発電を伸ばせばよいのですが、日本などでは
既にダムを容易に建設できる場所がなく、水力発電は日本では最大限に達していると言って
よいと思います。
それでは純粋な新エネルギー、太陽光や風力などはどうでしょうか。2000 年には日本では
総合1次エネルギー中に占める新エネルギーは、バイオマスを含めてもわずかに 1.2%に過
ぎません。2010 年までに新エネルギーを大幅に伸ばそうと努力していますが、その計画では
10 年間に太陽光発電を 15 倍に、風力発電を 23 倍にしようとしています。そのごく初期の段
階である 2003 年にその効果が既に現れ、新エネルギーの1次エネルギーに占める割合は
1.6%まで増加しました。
しかし、この計画が予想とおりにいっても、2010 年に新エネルギーの割合は3%に過ぎませ
ん。イギリスでも現在3%程度だということを聞いたことがあります。この割合を例えば 30%ま
で伸ばすためには、この 10 年ごとに2%を増す速さで進めない限り、150 年近くかかるわけで
す。
ここでバイオマスが発生する熱の利用が重要視されていることに、注意していただきたいと
思います。新エネルギーと言うと、太陽電池や風力発電の話題が中心になりがちです。バイ
オマスの利用をもっと積極的に考えるべきであろうと思います。ブラジルでは 20 年ほど前に始
めて、既にトウモロコシやサトウキビからエタノールを発生させ、それをガソリンの代わりとして
使っていました。
そのときに聞いたことですが、自動車を始動するときにやや問題があると言っていました。し
かし、いまはその欠点も克服できたようです。現在アメリカ、ブラジルはそれぞれ 1400 万 kl 及
び 1500 万 kl のエタノールを製造しています。バイオマスの利用可能エネルギー総量は 2000
年の世界の総エネルギー需要の半分くらいを賄う程度であるとされ、水力よりはるかに大きな
可能性を持っています。ただし、現在の技術ではコスト高や熱効率の低さから、そのポテンシ
ャルを生かしきっていません。そこに科学技術のさらなる研究が必要です。
次に、水素を燃料とする燃料電池が有望です。現在は水素をメタノールや天然ガスから取
り出す方式が中心ですが、将来は太陽がふんだんに注ぐ広い地域、例えばゴビ砂漠などで
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太陽電池や風力を使い、発電した電力を用いて水を分解して水素を発生させ、その水素を
用いればよいでしょう。しかし、水素を安全に遠いところに運ぶ技術がまだ十分ではありませ
ん。一方、鉄鋼産業のコークス炉から副産物の水素も出ていて、これも有力です。さらに原子
炉や、バイオマスで発生する電力を用いて水素を製造することも考えられます。
ここで、アジア諸国が協力して新エネルギー技術の開発、例えばバイオマス熱利用やバイ
オマス発電、太陽電池、燃料電池、水素を安全に運搬する技術を研究開発したらどうでしょう
か。そしてまた、原子力を安全に使っていくということも、一緒に開発したらどうでしょうか。また、
そういうことの目的のために、私は新エネルギー国際研究所をアジア諸国のどこかにつくった
らどうかと考えています。
化石燃料を燃やすと、窒素化合物や硫黄化合物、そして粒子状物質(SPM)が空気中に
放出されます。これらのガスやSPMは喘息などを引き起こし、人間の健康を損ねます。また、
酸性雨により植物、動物、魚類などに大きな悪影響を生じます。特に自動車の、その中でも
ディーゼル車の排気ガスによるSPMが健康に悪影響を与えることも確かめられ、この問題は
日本の大都市、東京、大阪、神戸やその周辺で起こっていますし、中国、特に蘭州や北京で
大気汚染が深刻です。同じくインドのニューデリー、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコク、
フィリピンのマニラといった巨大都市も同じ問題を抱えています。
ここで、中国における大気汚染の元凶は、石炭の燃焼による煤煙が引き起こす大気汚染が
主です。石炭中の硫黄分の含有量と、燃やした後の灰分がかなり高く、また石炭を燃やすと
きの脱硫と集塵が不十分であることによっています。その上に中国の大都市では、煤煙によ
る大気汚染に自動車排気ガスによるものが加わり、複合型になってきました。
日本の電力会社は努力を重ね、石油から硫黄を取り除くことに成功しました。硫黄は鉱山
から取ってこなくてもよいほどです。このような努力によって、日本では硫黄化合物による大気
汚染はかなり減りました。しかし、窒素化合物や粒子状物質による健康への悪影響は依然と
して大きな問題です。中国でも石炭の脱硫技術の発展が望まれています。
すなわち化石燃料、特に石炭の燃焼によって生じる硫黄化合物、窒素化合物、粒子状物
質等による空気公害、それによって生じる光化学オキシダント対策や、酸性雨を止める技術
の開発が必要です。酸性雨の原因物質は、発生源からときには 1000km も離れたところまで
到着し、その場で雨に溶け込んで酸性雨として森林や農作物に悪影響を与えます。
酸性雨の原因物質はこのように遠くまで、そして国境を越えて他国まで楽々と到着します。
そこで例えばアメリカの工業の影響がカナダに、中国が韓国に、そして多分日本に、中国の
東南地区から東南アジアに、インドがバングラデシュに影響を与える可能性が指摘されてい
ます。そこで欧州は、長距離越境大気汚染防止条約を締結しました。アジア諸国でも、このよ
うな問題を協力して解決するための努力をすべきでしょう。
また、より工業化が進み、大量消費社会の出現によって産業廃棄物、生活廃棄物が大量に
発生し、多くの都市で大きな問題になってきています。日本では 1950 年代から 1960 年代に
かけて、住民に大変な被害を引き起こした工業排水中の水銀による水俣病のようなものを発
生させないように、工業化にあたっては十分な注意を払っていかなければなりません。
最近、日本では建設で便利な材料として用いられたアスベストによる病気が大きな問題に
なっています。これは 1980 年代に解決した問題だと私は思っていたのに、まだ十分に解決さ
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れていませんでした。このような問題を解決するためには、アジア諸国が協力して対策を立て、
工業を先に進めた国の経験を、工業化を図りつつある国々で役立て、新たに発生した困難
を解決していくべきでしょう。そのためにもアジア諸国が協力すべきです。それを実行する研
究機関や計画を国際的に構築すべきであると考えます。
もう少し詳しく廃棄物の問題について検討してみます。まず水の汚染ですが、工業排水に
よるもの、家庭からの排水、市街地や農地、特に化学肥料によるものがあります。家庭からの
排水は台所、水洗便所、風呂、洗濯などによる排水です。この中には様々な有機物や栄養
塩類が含まれています。この家庭からの排水によって、美しかった湖や川の水質が著しく悪
化し、広い海も巨大都市の周りで汚染が進んでいます。
また、工場の周りや跡地で、有機溶媒や重金属による土壌、地下水の汚染が大きな問題に
しばしばなっています。このような地下水汚染、土壌汚染も、それを経験した国々がこれから
工業を発展させようという国々と協力して、この危険を避ける方策を立てるべきだと思います。
次に、大量の廃棄物、ごみをどうするか。私が初めてアメリカに行ったのは 1959 年でした。
シカゴに住みましたが、郊外に行くとところどころに古い自動車が山のように捨てられていまし
た。しかし、これは現在の日本の姿です。自動車、テレビ、パーソナルコンピューター、洗濯
機、炊事道具等が大量生産され、安くなり、一般家庭に大幅に出回りました。その結果、多量
に廃棄されるようになりました。
このような大型器具だけではありません。大量の紙の消費、食料の食べ残し、ポリエステル、
ビニール等や紙の容器、包装類などの廃棄物の量は大変なものです。2000 年のデータでは
全体で 5000 万t、1人1日当たり1kg に達するという報告があります。日本の食べ残しを集める
と、アフリカの飢えの問題がほとんど解決するとすら言われています。
さらに産業廃棄物は年間4億tほどあります。幸いこれはほぼ一定の状況で、急激な増加は
ないようです。このような産業廃棄物は建築廃材が大きな割合を占め、工場からの汚水と汚
泥、下水処理場の汚泥、さらに畜産業からの動物糞尿などです。このような大量のごみをど
のように処理するのか、大いに工夫を要することです。
この中には汚泥や糞尿の肥料化なども可能です。また、多くの廃棄物は再利用が可能であ
り、それを実行すべきでしょう。工業化により大量生産が行われるようになれば、この問題にい
かなる国も直面します。どのように大量のごみを処理するのか。各国共通の問題として解決す
ることが望まれます。
ごみ処理の技術的解決も望まれますが、もっと緊急にとるべき対策は3R、すなわちレデュ
ース、リユース、リサイクルでしょう。これとマータイさんが提案している「もったいない運動」で
す。ともかく消費を減らすことが一番大切で、できる限り再活用し、材料として再利用すること
が大切です。ここでもごみの量を減らすこと、リサイクルの技術の開発、再使用のための協力
等、アジア諸国の協力が重要だと思います。
化石燃料を燃焼することによって発生する最も大きな問題は、二酸化炭素による地球温暖
化の問題です。19 世紀後半から 20 世紀、そして今日にかけて地球上で起こっているたくさん
の現象のうち、明らかな現象が2つあります。ひとつは 1760 年にイギリスで始まり、1830 年ころ
にヨーロッパ諸国に普及した産業革命以来、人間の活動によって空気中の二酸化炭素が急
激にふえていることです。
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南極の氷床コアをボーリングすることによって、その氷に含まれている二酸化炭素の量は
1000 年遡って調べることができます。その結果を図に示しておきます。産業革命の前、1800
年ころまではほぼ一定で 280ppm であったものが、現在は 350ppm に急上昇していることが分
かります。また、最近 50 年間の二酸化炭素濃度の経年変化も極めて明確に調べられていま
すし、明らかに上昇しています。
次に、1880 年から 2000 年までの地球温暖化の測定値を図に示します。この 100 年ほどの
間に、地球は明らかに約1℃弱気温が上昇しています。現在、地球物理学者の大半はこの
温度の上昇を、空気中の二酸化炭素の量の上昇に伴う地球温暖化によると考えています。
ひとつの根拠は、地球シミュレーターなどを駆使した気象モデル計算の結果です。この研究
に従事している研究者は現在のところ、二酸化炭素の量の増大以外に、現在の地球の急激
な温度上昇の説明はつかないと言っています。
もちろん 100%この説明が正しいという確証はないのですが、極めて大きな確率で正しいと
世界中の気象研究者が言っています。一方で、100 年でたった1℃の上昇ではないか、1日
のうちにも夜と昼の温度差ははるかに大きいではないかと言う人がいます。
現在は約 200 万年前に始まった第4期氷河期時代にあります。地球は過去に氷期と間氷期
を繰り返しています。この図は、先ほど示した南極のボーリングで調べた氷の中の二酸化炭
素とメタンの割合です。南極の過去の気温は、氷点下で降った雪を構成している炭素同位体
から推定します。
酸素原子には重い原子 18 と軽い原子 16 があります。気温が高いと重い酸素原子も蒸発し
やすくなり、大気中の水蒸気には重い酸素原子が増加し、その結果、水蒸気からつくられる
雪にも重い酸素原子が多く含まれるようになります。気温が低ければ、軽い酸素原子が多く
なります。
この比率、O18 対O16 を調べると、その雪が降ったころの気温が推測されます。その結果か
ら分かるように、氷期から次の氷期の間の周期は8ないし 10 万年です。すなわち、氷期から
間氷期までは約4万年の周期です。そして、大陸氷河付近では間氷期には、氷期に比べて
約 10℃上昇したと考えられています。また、氷河期の南極の気温は現在より約8℃低かった
と推定されています。
このような推測を合わせて、氷期と間氷期の地球の温度差は6℃ないし8℃であった。そし
てその変化は約4万年かけて起こっていたと考えられます。一番最近の氷期は約1万 2000 年
前に終わり、現在は間氷期にあります。ですから、あと 10 万年もすれば地球はまた氷期に入
り、6℃ないし8℃温度が下がる。そのことが明らかなのに、1℃くらいの上昇は単なるふらつき
であると考える楽観主義もありえます。
しかし、これは何万年も先のことです。それ以上に注意しなければいけないことは、氷期と
間氷期の温度差は6℃ないし8℃です。また、氷期と間氷期の周期は4万年で、その間の気
温の上昇速度は大きく見積もっても8℃。すなわち、1℃上昇するのに 5000 年かけているわ
けです。100 年では 0.02℃しか上がりません。それに比べて現在の気温上昇は、100 年に
0.6℃といういわば超高速で温度が上がっているわけです。
このような温暖化の影響は顕在化しています。それをICPP、第3次評価報告書で見てみま
しょう。平均気温は 20 世紀の 100 年間に約 0.6℃上昇しています。平均海面の水位は 10 ㎝
20
ないし 20 ㎝上昇したと言われています。暑い日がふえ、寒い日が減った。寒い日が減って雪
が少なくなったことは、日本の北陸、東北、北海道などで我々が実感しているところです。大
雨が北半球の中高緯度で増加している。一部の地域では、逆に旱魃の頻度が増加している。
あちこちの氷河が後退している。積雪面積は 1960 年以降、10%も減少している。このように
世界的に地球温暖化の影響がはっきりしてきました。
このような温暖化が今後も続けば、海面の水位はさらに上がり、島々の水没すら予想されま
す。夏はさらに暑くなり、2100 年ころには日本も熱帯に仲間入りしそうです。そしてマラリア患
者がふえ、コレラなどの感染症もふえることでしょう。このような気温の上昇は、もちろん自然
生態系に大きな影響を与えるでしょう。
例えば日本のブナ林への影響です。現在はこの図の中で紫で示してあるように、ブナ林が
たくさんあります。もう少し詳しく分布確率を見ると、50%が赤の部分、黄色が 10~50%の部
分です。次にCに示すように、これが 2090 年になるとブナ林はほとんどなくなってしまうという
予測があります。
このように現在予想される温暖化の影響は、自然環境に大きな影響を与え、我々人間の生
活にも多大な影響と被害を与えることになります。水不足などが起こり、一方で洪水がしばし
ば起こるようになるでしょう。
ここで、20 世紀 100 年間の温度上昇を 0.6℃ないし 1.0 度、及び人為的に起こった急激な
二酸化炭素の空気中の濃度の増大は、どちらも厳然たる測定値です。これは疑いようがあり
ません。一方で予想は様々なこと、例えば海水に溶ける二酸化炭素の量等をパラメータにし
て、複雑な方程式をスーパーコンピューターで解いていきます。この点で日本も地球シミュレ
ーターで大きく努力していることは、既に申し上げたとおりです。
少し前までは地球物理学者の間でも、このモデル計算による計算に疑問を持つ人もいまし
たが、現在はほぼ確実とみなす人が大勢を占めるようになりました。疑った人々の一部には、
例えば海水の役割、海水に溶ける二酸化炭素の量に対して疑問を持っていましたが、これも
かなり測定値がはっきりしてきました。
このような状況で 1997 年、京都議定書がつくられました。これは 1997 年に日本の京都で開
催された国際気候変動枠組条約第3回締結会議(COP3)の議論の総括です。そこでは、工
業国と発展途上国の間の公平性、利害関係、力関係の問題が絡み合って、結論を出すのが
大変であったと聞いています。しかし、世界の地球物理学者を中心にしたIPCCの結論と警
告を無視するわけにはいきません。
アメリカの当時のゴア副大統領たちが大変に努力され、妥協案をまとめたわけですが、その
結果が京都議定書です。その後、なかなか発効にまで至りませんでした。そのひとつの理由
は、アメリカのブッシュ大統領に代表される根強い反対があったからです。そして、ブッシュ政
権は不幸にして京都議定書から離脱してしまいました。
しかし、ロシアが 2004 年批准した結果、25 条に定められている①条約の締結国 55 カ国以
上の締結、②1990 年における先進国の二酸化炭素排出量の 55%を占める先進国の締結」と
いう2つの発効条件を満たし、その 90 日後の 2005 年2月 16 日に国際法として発効したわけ
です。私はこのことを心から喜んでいます。しかし、アメリカ、オーストラリアなどがまだ不賛成
なことを大変に残念に思っています。
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まだ疑うべきところはありますが、科学者として本当に 100%二酸化炭素が温暖化の原因で
あるということは申し上げられませんが、ほとんどの科学者はこれを信じているわけです。しか
しそれ以上に、明らかに二酸化炭素の増加によって地球の温暖化が起こるということがはっき
りしたときでは遅すぎる。確実になったときには、もう取り返しがつかないことになっているでし
ょう。したがって、いまのうちに早く対処しなければならないわけです。
京都議定書によると、1990 年を基準にして、発生する二酸化炭素とフロンガスなどの温室
効果ガスの排出量を 2012 年までに日本は6%、アメリカは7%、EUは8%等に減少させなけ
ればなりません。この締結に至るまでの間、日本では減らすどころではありません。8.3%も二
酸化炭素をふやしてしまいました。すなわち、6%削減どころか 14.3%削減しなければならな
いわけです。
日本政府は、3.9%は森林によって吸収対策を図る、1.6%は京都メカニズムによる国際協
力によって排出枠を獲得することで解決しようという方針を立てています。そこで、14.3%から
この分を差し引いてみます。8.8%の二酸化炭素を、今後日本においては減らさなければな
らないわけです。このため今後、大変な努力をしていかなければなりません。
根本的には、地球温暖化問題を解決するために二酸化炭素の発生をいかに減らすかとい
うことについて、科学技術を大いに推進することが必要です。その出発点のひとつとして、地
球科学、特に気象や海洋の研究。例えば温度などの気象観測、海洋による二酸化炭素吸収
の研究、そして熱帯雨林の酸素収支をはじめ地球環境における森の研究、そして温暖化の
仕組みの研究などを協力して行うべきです。
そして、温暖化による被害を予想して防止する研究など、大いに国際協力を進めなければ
なりません。今日お集まりの方々、科学技術に携わる方々の一層の尽力とアジア諸国の強力
な結束を期待しています。
次に、食料問題について考えます。まず、アジア諸国の穀物の自給率を示します。タイ、ミ
ャンマー、ベトナム、ラオス、カンボジア、インドは 100%以上自給しています。しかし、韓国、
日本の自給率は非常に低い。私が驚いたことは、農業の盛んな中国が経済成長のために自
給率が 100%を切り、95%であることです。すなわち、中国は穀物輸入国になりはじめたという
ことです。
そこで、中国の食料消費が世界全体に占める割合を見てみましょう。この図が示すように、
人口はほぼ一定です。豚、野菜、水産物等の生産や消費は急に上昇し、50%近くなりました。
これは驚くべきことです。中国の国力は工業、農業ともに躍進しています。ところが、イモ類、
穀物の消費の対世界シェアは減っています。これは、中国の経済成長の反映であろうかと思
います。
また、中国の食料生産は 1996 年から 1998 年ころを頂点として、現在下降し始めました。こ
れも工業化の影響でしょうか。そして、中国は大豆の最大の輸入国になっています。レスタ
ー・ブラウンの予想によると、穀物の生産と消費に関して、2030 年にはアメリカは依然として生
産が上回る輸出国ですが、人口の極めて多い中国とインド、特に中国は消費が大幅に生産
を上回ることになります。中国では、既にその兆候が現れていることをお示ししました。
ブラウンによると、インドも同じだというわけです。しかも、2030 年と言えばもうすぐです。一方、
アジアの人口は 1994 年の国連の予測によれば、2050 年には 57 億人になると思われます。
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1995 年には 35 億人弱でしたから、20 億人の増加です。そのうち東アジアは4億人、東南アジ
アは3億人、インドを含めた中央~南アジアが 13 億人と大幅に増加することが予測されてい
ます。
ただし、中国の人口政策などのおかげで 2050 年の世界人口の予想は 100 億人から 80 億
人へと縮小しました。世界の持続的発展の立場からは、喜ぶべきことです。それにしても、ア
ジアの人口は 2050 年までに 10 億ないし 15 億人。特にインドなどの中央アジア、南部地区で
増加する予想になっています。10 億人というのは、現在の中国の総人口と同じ程度です。そ
れだけの人口がさらに増加していくとき、エネルギー資源そして食料資源をどうしたらよいで
しょうか。
そこで、この人口増加に備えて 2025 年には、かんがい農地を 30%近くふやす必要があると
言われています。そのためには水が多量に要ります。ここでまた中国を例として考えてみるこ
とにしましょう。この図は中国の総給水量を示したものです。そもそも総給水量はこの 15 年の
間に5%も減っているわけです。その上、急激な経済成長によって工業及び生活用水の需要
は急上昇しています。
そこで農業用水は逼迫し、この 15 年で 400 億立方m、すなわち 12%も減少しました。中国
では現在、盛んに山腹の緑地化、砂漠の緑地化が行われていることはよく知られているとおり
です。このような水不足のため、黄河の下流ではしばしば断流が起こっています。あの水流が
豊かな大黄河の断水です。これを解決するために、長江に日本のダム全体の4倍を超える貯
水量を持つ三峡ダムを建設して、黄河に注入する大計画「南水北チョウ」が急がれています。
この水不足の結果、地下水が低下し、井戸枯れがインドのパンジャブ州でも起こっています。
この理由の少なくとも一部は、地球の温暖化によるものと考えられます。水不足に加えて、イ
ンドではかんがいが不完全な地方があり、そのために毎年 100 万 ha の農地が減少していると
いう話があります。
その隣のパキスタンでは塩害が起こって、1400 万 ha のうち 600 万 ha、すなわち6万平方 km
の農地での耕作が放棄されました。この塩害は長期間にわたる用水路かんがいの結果、地
下水の水位が上昇して引き起こされたものです。パキスタンの総面積は 80 万平方 km ですか
ら、約 7.5%が農地として喪失されてしまったわけです。ただし、1992、93 年のパキスタン政府
の統計によると、その当時では4%の量ですから、7.5%は少しオーバーエスティメートかもし
れませんが、それにしても深刻な事態です。
さらに中国では、農作に加えて牧畜が盛んですが、青海省東部にある共和県の 370 万tの
羊を養う力を持つ草原では、その能力を超えて羊が多くなり過ぎ、1998 年末までに 550 万頭
に達しました。その結果として、急激に草地が劣化して砂漠化が起こっています。
また、焼畑農業による二酸化炭素発生も地球温暖化の観点から避けなければいけません。
このためには、人類に安全で、地質を悪化させない、しかも安い肥料が必要です。現状をそ
のまま続ければ、人口が増加することは明らかです。2050 年までに中国の人口と同じ程度の
増加がアジア地帯、特にインドを中心に予想されています。この人口の増加に対して、2025
年までにはかんがい農地を 29%ふやさなければならないと言われています。
現実には、既に水不足。不完全なかんがい、塩害、牧草地の過度の利用などによって砂漠
化が起こり、農業に危機が迫っています。このような農業危機は、さらなる地球温暖化で加速
23
されることでしょう。それを救うためにかんがいを改善するなど、国の努力に加えて国際協力
で解決できるものもありますし、塩害などによって大変な被害を被っている問題に対して、農
業の科学的な研究とその利用によって解決が期待されるところです。
アジアの科学技術に関係する方々が先端科学技術だけでなく、農業のような古くからの問
題にも関心を持っていただき、アジアの農業研究者が結集して農業の危機を救い、食料不
足を解決していただきたいと思います。
同時に、いま述べたように農地が減少しつつありますが、その状況を克服して生産性を持
続的に向上させるため、農業への先端科学技術の開発も急がなければなりません。塩害に
耐え、今後の気温の上昇に耐えるなど、環境ストレスに耐性を持つように植物を改良する技
術の開発です。
そのごく一例を挙げれば、国際農林水産研究センターと理化学研究所が協力して行ってい
るシノザキ・カズコ東大教授たちの研究です。この研究で植物の乾燥や塩害、凍結等に対す
る耐性機構で働く遺伝子群を調節する遺伝子を突き止めました。この遺伝子を導入した植物
では、これまでにない高いレベルの乾燥、塩、凍結耐性が示されています。このような農業へ
の先端科学技術の開発研究においても、アジアの研究者が結束する必要があります。
ここで一言つけ加えると、遺伝子の導入や組みかえなどを植物で行ったとき、その産物とし
ての食品の人間への安全性をまず確認しなければなりません。一方、安全性が確認された
にもかかわらず、遺伝子操作に対する過度の拒否反応を是正する必要があります。中国で
は既に、遺伝子を組み替えた食品を多く使っていますが、日本ではこれに対する抵抗が非
常に激しい。安全性について十分に研究した上で、安全であることの教育が必要であると思
います。
かつて、ベータ線などを使って発芽を抑えたジャガイモの不買運動が日本でありました。ベ
ータ線などの放射線の影響は、ずっと続いていると信じていた市民がいたわけです。さすが
に現在はそう思う人はいなくなりました。教育が必要であると思います。
2004 年にスマトラで発生した地震による津波は、インドネシア、マレーシア、タイ、インドなど
の南太平洋沿岸諸国に大災害を引き起こしました。日本語の「津波」は既に国際語になって
いましたが、この不幸な大災害により国際語として定着しました。この津波は、地震で発生し
ます。その地震は日本をはじめアジア諸国で頻繁に発生し、大きな災害を起こしています。
特に日本は地震国と言われるくらい地震がたびたび発生します。
アジア地域で 1990 年以降に起こった大きな地震と津波は、この図で示すように4回以上起
こっており、死者 1000 人以上の津波は過去 100 年間に多数回起こっています。ごく最近、
1000~2003 年に起こった世界の自然災害ではアジアが 40%近くを占め、しかも死者は被災
者の割合ではアジア地域が 80~90%を占めています。
そこで、アジア地区で地震の科学的な研究、特に予知の研究、地震が起こったときの建物・
橋・ダムなどの破壊による災害を最小限にするため、また火災による被害を食い止めるため
の建設工学的研究を促進しなければなりません。
東南アジアには台風、インド洋にはサイクロンが発生し、風雨による建築物などの破壊や洪
水を引き起こします。その被害を食い止めるために、台風・サイクロンなどを含めた気象の研
究、そして災害を防ぐ技術開発が必要です。先日、ハリケーンによって引き起こされたアメリ
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カ・ニューオーリンズの大災害は、防災の必要性をまざまざと再認識させてくれました。これこ
そ、防げた災害でした。
もうひとつ、自然災害についての教育と情報の普及が必要です。例えば地震や津波につい
て、まだ地震の完全な予知には至っていませんが、我々はかなりの知識を積み上げています。
津波などは、十分な精度で予知できます。台風、サイクロン、ハリケーン等による風水害の予
測・予知は極めて高い精度で行われるようになりました。
そこで、自然災害について科学的な知識の教育、それに基づく災害の防御教育を急ぐべき
でしょう。また、国として危険情報の伝達手段の普及を図らなければなりません。自然災害に
ついて、もっと地球科学の研究を進め、その予知能力を高めることが第一に必要です。プレ
ートテクトニクスの発見には注目すべきものがあり、地震学、気象学の発展も大変にすばらし
いものだと思います。予知能力もかなり高まってきました。
それは、研究者の献身的努力と、測定手段と計算機の急速な発展によるものです。そこで
アジア諸国の研究者が協力して地球科学をさらに進め、災害の予知が可能になることを切望
しています。しかし、地震の予知が完全に可能になるまでには、まだ時間がかかることでしょう。
私はかねがね、特に日本の阪神淡路大震災以後、地震の予知研究の促進とともに、災害予
防のための防災工学の必要性を痛感しています。
関係研究者の獅子奮迅の努力により、防災工学は随分発展してきました。例えばある一定
の基準を満たせば、相当の地震に耐えられることが実証されています。防災工学の発展は高
度科学技術が発展すればするほど、逆に必要性が増大しています。都市化が一層進み、高
層化が一層進み、交通手段が巨大になり、かつ複雑化する。こういうことから、より一層防災
工学の発展が必要です。アジアの科学技術者が協力して、一日も早く自然災害を防ぐ技術
の開発を進めなければなりません。
最後に、教育について申し上げたいと思います。人間が幸せで健全な生活を送るために、
教育ほど重要なものはありません。これは申し上げるまでもないことです。今日のように科学
技術の社会への影響が大きい時代、科学や技術について基本的教育の重要性は、これを
指摘する必要もないことです。
しかし、科学技術の教育をどうすべきかは先進国、特に日本では大きな問題になっていま
す。一例は、若者の科学技術離れです。国際教育到達度調査研究会の 1999 年の調査によ
れば、この表のように中学2年生の理科の学力は、シンガポール、韓国、台湾、日本、中国と
アジア諸国が極めて高く、世界の上位を占めています。ところが好き嫌いとなると、シンガポ
ールを除いて日本、韓国、台湾の生徒は、成績は非常によいのに、好きな割合が世界で最
低です。
ここにおもしろい国際研究協力のテーマがあります。すなわち、なぜシンガポールではこの
問題がなく、インドネシア、マレーシア、フィリピン等で理科好きの子供が多いのか。一方、日
本、台湾、中国で理科好きが少ないのはなぜか。教育の仕方に何か問題があるのではない
かと思います。
数学についても全く同様です。考えられるひとつの理由は、日本、台湾、中国、韓国では知
識を教え込むことに重点があり、そのため瞬間的学力は非常に高いが、独創性が育ちにくい、
学ぶことがおもしろくない、将来役に立つと思っていない子供が多いといった共通の問題が
25
ありはしないでしょうか。
一方、シンガポールはこの 10 年ほどの教育改革で独創性の教育を推進し、そのため 30%
ほど教育内容を減らしました。その結果かどうか分かりませんが、理科や数学の成績はよいし、
好きな子供たちのパーセンテージも極めて高いのです。そこで、理科教育についてアジアに
おける国際協力、共同研究が必要であると私は思っています。
今年から国連では「持続的発展のための教育 10 カ年」を発足しました。アジアの子供たち
が地球環境を守るためにどうしたらよいか、現在直面する問題は何か、どう解決していったら
よいかなど、この 10 年間に大いに学んでほしいものです。一方、一般市民もマータイさんの
提唱する「もったいない運動」、そして日本もその活動の主張国のひとつである3R運動を理
解し、参画していただきたいと思います。それによって大量消費生活からの脱却を推進する
ための教育が必要であると思います。
将来の科学や技術を背負う若い人たちの大学における教育が極めて重要なことも、論をま
ちません。高等教育では、高度の科学技術の教育、社会で活躍するための普遍性や、科学・
技術そしてモノづくりで必要な技術や技能の教育が必要です。このような点でアジア諸国の
大学間の国際協力が必要です。
現にヨーロッパでは「エラスムス計画」が行われており、どの国のどの大学の学生も長短期
で他国の大学で自由に学べるようになっており、異文化理解や人的交流、ネットワークの形
成、そして留学先の大学の得意とする分野の学問の習得で成功しています。アジアでもこの
10 年、「UMAP(ユニバーシティ・モビリティ・エイジアン・パシフィック)計画」が実行されてい
ます。このような高等教育のアジア諸国間における交流計画を、関係諸国が本腰を入れて推
進してほしいと私は希望しています。
科学技術の高度な教育となると、アジア諸国の若者は欧米、特にアメリカ志向が強いことも
明らかです。そしてまた、その理由もよく理解できます。しかし、ここでお話したような問題には
アジア特有のものもあり、将来それを解決するために各国の大学で3カ月程度の短期から、
数年に及ぶセミナーや講義をそれぞれの国や大学が得意とする分野について開催してはど
うでしょうか。
現在、日本では 10 万人ほどの外国人学生を受け入れています。その中でアジア諸国、特
に中国、韓国からの学生が大きな割合を占めています。一方、日本人の学生は約8万人が
外国に留学していますが、その8割が欧米諸国に行っています。しかし、最近中国などに行く
日本人留学生がふえており、喜ぶべき傾向だと思います。しかし、もっと積極的に大勢の日
本の若者がアジア諸国に行き、その国の文化を学び、交流を深め、問題の解決のために協
力すべきであると私は思っています。
また、どの国であろうと、大学や研究所の研究者は欧米諸国にのみ目を向けず、近隣のア
ジア諸国の研究者との共同研究を進めなければなりません。その中には、大きな研究費を要
する天文学、高エネルギー、原子核や核融合のような巨大科学技術、医学、特にアジア風土
病の研究、そして今日お話したような地球の直面している多くの問題を、アジアの研究者が
協力して研究開発し、解決に導くべきではないでしょうか。
そのために、いくつかのアジア太平洋地区中心の研究所をいろいろな国に創設し、研究を
国際的に進めようではありませんか。そのためにも、冒頭に提案したアジア一極を科学技術
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の立場からつくっていきましょう。そして、アジアに平和を確立し、それを世界に及ぼしていっ
たらいかがでしょうか。
私は今回出発するアジア科学技術フォーラムが、アジアの持続的発展に向けた科学技術
の朝鮮の旗印の下に、ただいまお話したような問題を解く大きな一歩を進めようとしておられ
ることに、心からの賛意を表します。このシンポジウムが今回の第1回だけでなく、第2回、第3
回、そしてできれば第 10 回と回を重ねられ、大いなる成果を得られることを祈念します。
v) 第 1 分科会「科学技術政策」
「趣旨説明」 総合科学技術会議 議員 阿部 博之
第1セッションのテーマは、「持続的発展のための科学技術政策」です。総合科学技術会
議(CSTP)は総理大臣を議長として毎月、科学技術政策について議論をしておりますが、特
にことしは第3期基本計画の準備、来年、2005 年会計年度からの5年間のための第3基本計
画の議論をしておりまして、その中で特にアジアとの科学技術の交流を盛んにしたいというこ
と、あわせて科学技術政策についても、もっと緊密な連絡をとっていくべきではないかという
方向になりつつあるところです。
Sustainable Development(持続可能な発展)につきましては、私の記憶では 1992 年の地球
サミットのときから一般的に知られてきたのではないかと思います。2002 年のヨハネスブルク
のワールドサミットにおきまして、600 に上る実行計画が出されましたが、大きな項目としては、
水であるとか衛生、エネルギー、健康、農業、生物多様性、生態系といったものについて、こ
ういうものが取り上げられてきているわけです。
これを科学技術という面から見ましたときに、こういった持続可能な発展に資する科学技術
というものをどう推進していくかということが横の大きな課題になると思いますし、あわせてその
ための人材育成が大きな課題になるわけです。
あわせて 2002 年のアナン事務総長のリクエストについて書かせていただいておりますけれ
ども、持続可能な発展に対して各国がそれぞれ戦略を打ち立てていくということ、そして国際
協調をしていくということですが、国を越えた地域レベルでこういった持続可能な発展に対す
るさまざまな施策を実行していくことが大切だということを言っているわけですし、また市民の
参加というものも非常に大きな要素となります。
これは事務局に用意していただきましたウイリアム・C・クラーク氏の分類です。どういうことを
言っているかといいますと、Sustainable Development といいましても、持続すべきものは何か
ということ、そして発展をさせていくべきものは何かということです。それらにはいろいろにつな
がりがあると同時に時間軸があります。
今回のフォーラムのねらいですが、21 世紀における科学技術こそが持続可能な発展のまさ
に重要課題であるということは、多分、異論のないところではないかと思いますけれども、その
ためにはいろいろな分野において学際的なアプローチであるとか、国際協力がどうしても必
要です。そのためにアジア各国について言えば、まずこういったことについてお互いにどう理
解をしていくか、そしてどう協力をしていくかということについて議論することが、このフォーラ
ムのまず大きな目的ではないかと思います。
3年計画のフォーラムになっておりますが、まずことしの場合はどういうことかということを一
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応ピックアップいたしました。参加各国が科学技術政策の意思決定をどうしていくか、これは
科学技術政策に限らない面がありますが、そういう意思決定のプロセスについて、そして当然、
科学技術に対しては、何を大事に考えていくかという重点化をとらざるを得ないわけですが、
その重点化の政策がどういうものであるか、さらにそうした重点化の中で実行計画をどうして
いくかということについて、このほかにもあると思いますけれども、今日各国からいろいろな実
情を御説明いただけるものと期待しております。
これは来年以降のことですが、後ほど御議論をいただくためのひとつのたたき台ですが、ア
ジアにおけるこれからの持続可能な発展の課題として、まずこの持続可能な発展に影響を与
えるところのかぎとなる因子は何であるかということ、そしてそのかぎとなる因子を抽出したとい
たしまして、それに対して我々それぞれの国がアジアとしてどういう共通の課題をピックアップ
していけばいいか。さらにそのための協力をどうしていったらいいかということについて、後ほ
どのパネル討論会でもいろいろ御意見をいただくということを考えているところです。
御案内のように科学には国境がございません。科学技術になると若干国境が出てまいりま
すし、特に科学技術政策には国境がございますけれども、科学あるいは科学技術の大部分
が国境がない以上、我々地域として子孫のために、あるいは現在のためにどうやっていくかと
いうことは、非常に大きく問われているところです。御参加の先生方には、いろいろ示唆に富
んだプレゼンテーションをしていただけることを楽しみにしております。
“Sustainable Development S&T Projects and Policy in China”
中国科学技術促進発展研究中心 副所長 Qiquan Yang(中国)
1992 年以来、中国政府は多くのアクションをアジェンダ 21 の実行に関連して行ってきました。
それ以来、持続可能な戦略がとられてきております。1994 年、中国政府は中国版のアジェン
ダ 21 を発表しました。中国の実行環境、そして 21 世紀における発展の白書です。
この白書の中で中国の経済社会発展、環境が詳細に説明されておりました。また、包括的、
長期的、かつ新規的な持続可能な開発戦略が提起されています。持続可能な開発を可能に
するための法制度が整えられました。2001 年末に中国政府は人口と家族計画に関する法律
を1つ発効しました。また環境保護に関しては6つの法律、天然資源の管理に関しては 13 の
法律、防災に関しては3つの法律を導入し、発効しました。
同時に、教育や法律の執行のモニタリング、すなわち持続可能な発展に関する法律のモニ
タリングなども強化されました。国の審議会が 100 の行政規則を設けて、人口、資源、環境、
天災に関する規則が設けられております。この規制のおかげで法執行が実行可能になって
おります。
環境資源保護委員会が中国人民会議の常設委員会の下に設立されました。この委員会は
法案の策定、そして実行の監視において大きな役割を担っています。国はさらなる努力をつ
ぎ込み、資源、環境、防災などに関する法を執行しておりますし、また法律違反を厳しく取り
締まっています。法の重要性をこのような形で立証しています。
持続可能な開発戦略は、国家開発計画のもとに実行されています。第9次5カ年計画(95
年~2000 年)の中で、持続可能な開発のコンセプトは、中国がさらに近代化するための必須
事項としてとらえられています。また、生態系の構築、環境保護の投資が 3,800 億元にも上っ
28
ております。これはその前の5カ年計画に比べて 2.75 倍の増加です。
第 10 次5カ年計画(2001 年~2005 年)は、具体的な目標を持続可能な各分野で設定して
います。重要な生態系構築及び環境保護プロジェクトとして実行計画が示されています。こ
のコンセプトは、経済社会的な分野の計画にも盛り込まれています。コーディネートをするた
めの組織が設けられて、これによって持続可能な開発戦略を押し進めています。
1992 年に中国政府は国家企画委員会、科学技術委員会という部署を越えたチームをつく
り、中国のアジェンダ 21 の草案づくりを任せました。2000 年、このリーディンググループのオ
フィスが、持続可能な開発戦略を遂行する機関として名を変えて、SPCとSCSGになりまし
た。
中国における科学技術プログラムの主要なものを御紹介します。国家ハイテクR&Dプログ
ラムが 863 あります。このプログラムの中で、環境保護、資源保護、エネルギー開発といった
重要な分野の技術で画期的なものを導入していく努力をしています。
2つ目は主要な技術のR&Dプログラムです。この重要な開発プログラムは、都市部の環境
汚染管理、合理的水資源利用、生態系環境を改善するためのプログラム、また石油、ガス田
の探索や開発を集中させるためのプログラムです。さらに鉱物資源の利用、技術的なサポー
トシステムを設けて防災を行うプログラムもあります。適用可能な技術をさらに前進させること
によって中国の持続可能な社会開発を推進し、中国国民の生活水準を向上させようという目
的を持って忌ます。
次が国のプログラムで、主要な基本研究開発プロジェクトが 973 あります。これらのプログラ
ムは国の戦略と合致したもので、細かく言いますと、農業、エネルギー、情報、資源、環境、
人口、健康、材料といったような分野の基本的な研究を含めています。
もう1つ、国レベルの基本的な研究プログラムがあります。まず優先順位を決めます。中国
ではほとんどのプロジェクトが持続可能な開発にかかわるものとしては、中国のアジェンダ 21
の範疇にあります。これまでの作業によって基礎づくりがされてきましたので、既に 500 以上
のプロジェクトの提案が国家審議会にかかわる省庁から出されていますし、また産官学以外
の組織からも提案されています。地球レベルの変化にかかわる課題、そして国際社会全体で
取り組むべき問題は、中国の持続可能な開発にとっても重要な問題です。
プロジェクトの選定基準の話をしたいと思います。特に注意を払っているのが環境に優しい
技術です。農業、工業、エネルギー開発に関する実証プロジェクトとなっています。これらは
従来どおりの伝統的な開発モデルを変えるものとして、その基礎となっています。優先順位が
高いプロジェクトとしては、環境汚染管理、天然資源の保護、持続可能な利用に関するプロ
グラム、家族計画、健康にかかわるプログラムです。科学技術のプログラムとして特に優先順
位が高いのは、貧困軽減のプロジェクトです。
それでは科学技術の重点分野のプロジェクトをいくつか御紹介します。まず第1番目の例が
人口・健康関係のプロジェクトです。中国政府は国家の家族計画政策は継続して導入してい
ます。その結果、人口は 1992 年の 11.6%の成長率から 2000 年の 6.95%の成長率と、かなり
の改善がされています。これは医療費の軽減にも貢献しています。女性、子供はこれまでより
もよく保護されており、年金制度も医療制度もこれまでより改善されてきています。
人口と医療の科学技術プロジェクトの分野の中には、防災、家族計画、医療のプロジェクト
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が含まれています。主たるものとしては、避妊ワクチンの研究開発です。いくつか例を御紹介
します。もう1つは、中国の漢方に使われている危機に瀕する種の保護に関するプロジェクト
です。エイズ、ガン、薬物乱用に対して漢方を使った予防や治療を行うというプロジェクトです。
また、鉱工業の労働環境を改善し、疾病予防をするというプロジェクトもあります。
次は都市化と人の生活環境ですけれども、1992 年と 2000 年の間に中国の都市化のレベル
が 27%から 39%に高まりました。加速された都市のインフラ建設、そして包括的な措置によっ
て都市化の環境が整ってきております。人の生活環境は都市部でも地方でも向上しています。
この分野に関する主たるプロジェクトとしては、包括的な人の定住地域の建設と持続可能な
開発というパイロット・プロジェクトがあります。
典型的な地域を選び、科学技術プロジェクトを適用し、それをパイロット・プロジェクトとして
います。例えば持続可能な開発を工業移転、そしてクリーンな生産で行うというプロジェクトが
中国北東部のベンシ市で行われています。また、中国の江南省では女性の地位を高めるた
めのプロジェクトを行っています。
3つ目の重要な分野は、農業、そして地方開発のプロジェクトです。中国は世界最大の開
発途上国です。13 億の人口の食料は中国の持続可能な開発の非常に大きな課題となって
います。その結果、何年も努力してきておりまして、穀物やそれ以外の農産品は持続可能な
レベルです。大々的に生産をふやしてきておりますし、作況のいい年には生産量が消費を上
回っています。政府は環境に優しく、そして水を節約する形の農業を進めています。
また、経済と農業の生態系環境を保護しながらの調和のとれた開発を進めています。
持続可能な農業のプロジェクト、農業用の水管理プロジェクトもあります。今朝、ある先生が
おっしゃっていましたが、ほとんどの中国の水は農業用に使われているという話でした。微生
物を使った殺虫剤、クリーンな作物をつくるというプロジェクトもあります。持続可能な農業、そ
して環境を保護していくということを、南部で非常に推進的に進めています。
4番目に重要な分野は、持続可能な工業です。中国は工業汚染処理について大きく変革
を行い、クリーンな生産を行い、リソースの効率を高め、環境へのプレッシャーを軽減しようと
してきました。何か起こった後で、あるいはそれを予防するという戦略から抜け出し、クリーン
なプロダクション、クリーンな生産ということを中心に据えるようになりました。そしてリソースの
利用、効率性を高め、環境に対するプレッシャーが軽減されるようにということをしてまいりま
した。これがクリーン生産のいくつかのプロジェクトです。
5番目は、知識を使ってエネルギーを使っていくということです。安全なエネルギーを使うこ
とで、省エネを中心として経済的な政策あるいは規制、法律ということを考え、実行してきまし
た。そしてクリーンな石炭をより広く進め、石炭の使用についても複数の使い方をしていくクリ
ーンエネルギー、クリーンな車というアクションプランを進めております。再利用可能なエネル
ギー、新しいエネルギー源についても努力が行われています。クリーンなエネルギー、運輸
については、クリーンな石炭技術、またエネルギー効率を高める再利用可能なエネルギー源、
また近代的な交通手段についてのパイロット研究も進めています。
6番目に大事な分野としては、エコ環境の建設、汚染のコントロール、防止ということです。
この分野でもやはりいくつか重要な技術プロジェクトが行われていますが、ここでは詳細には
触れません。
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7番目に重要な分野は持続可能な天然資源の使用、そして保護です。この中には土壌の
保護、浸蝕の保護、湿地帯の保護、天然資源を保護し、モニターあるいは管理のシステムを
設定して環境を見守っていくということです。埋め立て、あるいはマインテイルムなどもここの
範疇に入るかと思います。
最後はグローバルな気候変動、生物多様性にかかわる部分です。この分野では中国の科
学者は気候変動、生物多様性、そして砂漠化を予防していくということに対して努力しており
ます。例えば典型的なプロジェクトとしては、気候変動についての東アジアのセンターを設定
し、国立の気候変動のセンターを設定していく、気候変動についての国としての研究をまとめ
ていく、生物多様性ネットワークを設定し、絶滅危機のある種の保護をしていく、また熱帯性
の南部の森林の保護、回復、また砂漠化を予防していくということが含まれています。
“Sustainable Development Strategy and Coordination of National R&D Program in Korea”
公共科学技術研究会議 理事長 Youngrak Choi (韓国)
今日の話は、「韓国における持続可能な発展のための戦略と調整及び協調」ということで、
国の研究開発のプログラムについてお話ししたいと思います。今日の私のお話は、まず科学
技術政策を決めるプロセスと国の研究開発プログラムの協調、さらには持続可能な発展のた
めのプログラムということでお話をしていきます。
まず政策を決定する上でのプロセスについてお話しさせてください。政策決定のプロセスを
お話しする前に、簡単にキーとなる数字、つまり経済指標についてお話ししていきたいと思い
ます。これは特に科学技術に特化したお話です。例えば1人当たりのGDPは昔は8ドルでし
たが、現在は 15,000 ドルになっております。この 40 年間で 180 倍になったということです。
もう1つは輸出量ですけれども、320 万であったものが現在は 2,500 億ドルになっております。
これも非常に大きな伸びであると言えます。もう1つ、GDPの大きさですけれども、現在は世
界でも 10 位に位置しております。80 年代には 29 位ですから、かなり大きな飛躍と言えるでし
ょう。
韓国では科学技術の分野は非常に急速に伸びております。例えばGRDはトータルでのR
&Dへの支出ですが、前は 400 万であったものが、現在は 193 億にふえております。政府と
民間の割合は、97%から 25%になっております。GDPあたりのR&Dとしては、2.85 ということ
で非常に大きな数字になっております。研究者の数はフルタイムで 156,000 ということで、既
に計画の 84%になっています。
いろいろな数字を挙げましたけれども、次に私たちのキーとなる特徴をお話ししたいと思い
ます。まず技術エリート官僚科学者の閉ざされた中で立案されているということが、非常に大
きな特徴です。公的分野中心の政策決定になっています。言ってみれば基本はトップダウン
で、中央寄りの政策立案のアプローチになっています。さらには政策立案に対する科学者の
関与が増大してきているという特徴もあります。まだ政策に対する対策はそれほどうまくできて
おりません。非公式チャネルの影響が非常に大きくなってきているということ、さらには現在、
政策決定者と科学者間の観点にギャップが存在しているという状態です。
もう1つ、全体の組織のお話をしていきたいと思います。ここで一番のキーとなりますのがこ
の科学技術省ですけれども、それ以外にも重要な省庁はたくさんあります。R&Dのプログラ
31
ム、あるいは予算を決めるようなところもあります。さらにそこの調整役を仰せつかっている省
がありまして、省庁での調整をする団体もあります。2つの団体が大統領のレベルであり、これ
も非常に重要な役割を果たしています。現在の大統領は科学技術の発展にかなり積極的に
関与しています。
主な方々のお話をしたいと思います。まず第1番目が国立科学技術委員会です。これは大
統領が直接議長を務め、政策決定の最高機関になっております。国全体の科学技術政策及
び計画の調整を行い、さらに全体の科学技術のR&Dの予算を割り当てています。現在、14
人の大臣と民間から9人のエキスパートが参画して、1年間に3回から4回の会議を開催して
います。
次が科学技術省です。ここの大臣は昨年 2004 年に副首相のレベルに昇格し、さらにはNS
TC、PACST、これは大統領府ですけれども、こちらの方の副首相あるいは副議長も務めて
います。さらには 16 名の閣僚から構成される科学技術に関与する閣僚委員会の議長も務め、
科学技術発展のための国の政策及び計画を立案し、特に各省庁間での科学技術政策の調
整もしています。
ここで新しく設立された科学技術及び革新局についてお話ししたいと思います。これは副
首相のさまざまな活動を支援するために昨年設立されました。言ってみればNSTCの事務
及び管理団体としての機能を果たしておりますし、また科学技術に関する閣僚委員会の事務
局も務めております。特に全体のコーディネーション、科学技術政策及び国家R&Dプロジェ
クトの調整役をしております。R&Dの国家予算作成及び調整を行っている機関です。
次に国の研究開発プログラムの調整についてお話ししていきたいと思います。この目的は、
R&Dの生産性をパフォーマンス評価することによってさらに進めていく、そしてR&Dの予算
を戦略的かつ効率的に割り当てることです。
もう1つ、調整のプロセスについてお話しさせてください。現在、科学技術省の中に調整委
員会があります。この中では国のR&Dプロジェクトの優先順位づけ、さらにはR&Dプロジェ
クトの調整に関するガイドラインを策定しております。さらには前年のR&Dの成果の分析及
び評価するという作業も行い、それに伴って翌年のR&Dのプログラム予算が各省庁及び組
織レベルで、このコーディネーション・コミッティーに提出されます。そこで次の年のR&Dの
プログラムの予算をレビューするという作業が入り、国の科学技術委員会に報告されます。最
終的には大統領のところまでいって、この計画及び予算委員会で最終的な決めが行われて、
国会に提出されることになります。
ここで全体のR&Dのバジェットのトレンドを見たいと思います。最近の数字では、R&Dの
バジェットは大体年平均 15%ぐらいで伸びております。全体の国家予算は平均8%で推移し
ておりますので、かなり大きな割合で推移していると言えると思います。特別勘定を含めると
年 13.5%ぐらいで推移しています。
ここで分野ごとの予算を見たいと思います。例えば産業技術、R&Dのインフラが一番大き
な部分を占めているわけですが、福祉テクノロジー、公共技術もかなりふえているというのが
現状です。このバジェッタルケーションを社会経済の側面から予算配分を見たいと思います。
かなり着実に大体 30%ぐらいが産業促進のために割り当てられ、環境保護には大体4%が
当てられています。
32
次に韓国における持続可能な開発の戦略について触れたいと思います。まず自然環境は
非常によくないです。というのは、ほとんど総人口の半分がソウル首都圏に集中しているから
です。また、韓国は人口密度の高さで世界第3位となっています。単位面積あたりの環境負
荷はOECD諸国の間で最大となっています。
経済状態ですが、韓国はエネルギー消費国トップ 10 に入っています。しかし、社会状態を
考えますと、プラス、マイナス両面があります。プラスの面は、よりよい、またより楽しい生活へ
の需要が高まっているということですが、地域間の環境に関する問題や対立がふえてきてい
るという点が挙げられます。その結果、環境の状態、また持続可能性が、韓国では非常に低
くなっています。ESI環境指標を見ますと、韓国は最低レベルです。
これに関連して、環境省のとっている政策計画についてお話ししたいと思います。彼らはよ
り健康な国の環境をつくろうということを行っています。環境管理制度を構築し、より健康な生
活が送れるような環境政策、また安全性にかかわるもの、よりよい生活環境のための政策など
を導入しています。川の河口にかかわる措置などを強化しています。また、中核となる環境技
術を開発するためのプロジェクトを実行し、環境に優しい産業の推進、さらには環境問題に
積極的な取り組みを行うための開発を行っています。
韓国の大統領府下に置いてある持続可能な開発委員会は、大きな進歩を遂げています。
かなり議論はされていますが、政策的な措置ということに関してはまだ遅々として進んでおり
ません。これは環境省が設定をした環境改善目標です。ごらんのように主要な要素として韓
国はほかの先進国と比べてかなり遅れている分野がありますので、韓国政府はこのような目
標を掲げています。これから数年あるいは 10 年先の目標となっています。これらは目標値で
すが、必ずこれを達成できるという保障は全くありません。韓国は今までもほかの先進国と比
べるとまだまだ低いレベルです。
こちらは環境改善のための投資計画です。最優先事項は、まず水供給、下水処理に対す
る投資、その次が大気汚染管理、次が廃棄物処理となっています。
これまで持続可能な開発に関する韓国の経験についてお話ししてきましたが、技術予測に
ついて触れたいと思います。第3回目の技術予測がデルフィー法という標準的な方法で行わ
れました。技術サブジェクトとしては 761 が使われていました。3点御紹介したいと思います。
まずニーズがどれだけ強いか、将来の社会にとってどれだけこのニーズが必要かということ
ですが、健康な生活、クリーンで心地よい環境、持続可能な経済成長の3つが高位置につけ
ています。韓国国民のほとんど、あるいはエキスパートが、持続可能な開発がいかに重要かと
いうことを認識しているということになります。
2点目は、技術サブジェクトが現実化するまでの時間です。韓国人の専門家は、ほとんどの
トピックに関してこれから 10 年以内に現実化できるであろうと考えています。
もう1点、エネルギー環境、生活環境、持続可能な開発、社会インフラが技術サブジェクトの
主要な部分を占めていましたが、ごらんのように今の研究開発の水準は、全般的に言って、
特に持続可能な開発にかかわる生活、健康、エネルギー環境、社会インフラなどの分野の技
術は、まだまだほかの先進国に比べると低くなっています。すなわち韓国はそれらの分野の
研究開発投資を増加していかなければなりません。
ここで今までお話ししたことをまとめたいと思います。1点目が、科学技術庁は 2004 年 12 月
33
に副首相レベルまで昇格され、これによって省庁間のR&Dプロジェクトが実行しやすくなりま
した。そのR&Dプロジェクトを実行するために、科学技術革新局というものが設置されました。
国の安全プログラムの調整メカニズムが 1999 年に設置されましたけれども、韓国はまだまだ
公正な委員会、そして方法論の調整に関しては、改善の余地があります。
1990 年以来、国のR&Dの予算は 14.5%の成長率で伸びてきましたが、まだまだ持続可能
な発展に関しては不足しています。開発に偏っています。環境の状況はまだ望ましいレベル
ではありませんが、韓国は社会工業能力に関しては非常に高い位置につけておりますし、環
境状態も改善しようと努力しています。
第3回の技術予測の中で、健康な生活、心地よい環境が高いニーズのある分野であるとい
う結果が出ました。大々的な技術サブジェクトとして、トップ 100 の中の5割が生活、健康、エ
ネルギー環境、社会インフラ関連であることがわかりました。韓国は持続可能な開発のために
環境状況をさらに高め、ほかの先進国に追いつこうとしています。
“Thailand: Science and Technology for Sustainable Development”
科学技術省 副大臣 Pairash Thajchayapong(タイ)
今日の私の話の内容は4つあります。まず、どういう形で科学技術の政策の枠組みをつくっ
ているか、そして戦略を練っているか。2番目に、どうやって優先順位をつけ、戦略を練って
実施へと持っていくか。そして、我々自身が考える地域の協力、コラボレーションということで
話をしたいと思います。
この中に4つの箱があります。右側はNESDV、ナショナル・エコノミック・ソーシャル・ディベ
ロップメント・ボードということで、トップの経済、社会、開発ということを考えています。5年ごと
にプランニングをやりますが、現在は5年計画の9年目ということですから、2006 年目までで
す。
右側はナショナル・S&Tコミティー、首相自身が議長となっています。現在は長期的な国
家S&Tの戦略プランということで、今後 10 年を考えます。方向性について、リバイズを3、4
年ごとにかけます。
左側にキャビネットがあります。閣僚です。これは4年ごとの選挙で変わります。新しい政府
ができて、ことし3月に閣僚の新しい戦略を発表し、これを議会に提出しました。3月にはさら
に具体的な科学技術の分野での戦略アクションプランを、今後4年について策定いたしまし
た。
さらに詳細を見てみましょう。NSDVです。経済、科学、開発のための会議ということで、タイ
の社会、開発をどう考えるかということです。現在、リバイズをかけているところです。左側に5
つのパラメータとなる変革のための決定要素があります。世界の経済、金融システムを見て、
タイを世界の経済、金融システムの中でどう位置づけているかを見ます。また、余り頻繁では
ありませんけれども技術も見ます。
しかしこちらの方、今回はもっと技術について見ます。資源、社会、消費者の行動を見ます。
右側にはいわゆる持続可能な繁栄、そしてよりよい分布、よりバランスのとれた構造ということ
で安定性、持続可能制を見ます。そしてバリューの創造、グローバルなポジショニング、アク
ティブな社会政策を設定してよりポジティブな概念性を設定していきます。
34
なぜ経済的な再編成、リストラが必要か。今、非常によく話されていることで、GDPは伸びて
おりますが、同時にかなりの貿易赤字があります。左側のグラフの上の方、輸出額をごらんに
なって貿易赤字ということを見ると、わかると思います。赤いラインは貿易赤字があるということ
を示しています。その理由は右側にあります。輸出による売上、歳入はありますが、この材料、
コンテンツは輸入しており、その比率が高いというわけです。例えばICは 82%、車のパーツ
は 66%です。4番目のゴムは 8.4%の輸入のコンテンツということで低目です。
政府が科学技術について議会で出した声明から、いくつかのキーワードを拾ってみましょう。
政府としては、タイの経済がそれによってサポートされるように、もっと国内のSNTの刷新の
能力を求めたい、さらに産業界の競争力を高めたい、人材を高めていきたい、大学、政府、
民間がどうやって協力をしていくかを考えていきたい、ということを、“クラスター”という言葉を
使って表明しています。
クラスターをどうつくっていくか。例えば農業、エレクトロニクス、そのほかの分野でどうやって
いくかということです。政府としては、バンコク以外の地域でもいろいろな地域経済を強めてい
きたい。それについて技術、ヘルシーな環境を考えています。これは少し複雑ですけれども、
具体的な戦略、行動計画、政府が出したものです。上には9つあります。国家の戦略というこ
とです。
例えば政府は1.貧困撲滅、人的資材・社会の質の改善、2.経済の再編成、3.効率の高い
天然資源、4.環境管理、5.国際的なつながりを強くする、6.法律制度の整備、グッドガバナン
ス、7.民主主義を進め、大衆参加を呼びかける、8.国家安全保障を維持する、9.国内の能力
を高め、より効果的にグローバルな気候変動に対応していくということです。
その中で、下の方でSNTの関連するイシューというものがあります。3番です。人的資源の
開発と経済的な構造を中心としています。SNTに関連したところ、1についてはR&Dの改善、
イノベーションシステムを主要分野、バイオテクノロジー、ICT、ナノテクノロジーなので高めて
いく。
2番目は、SNTのインフラ、そして人的資源の開発ということで、もっと科学パークを強めた
い。いろいろな大学で卓越性のあるセンターをつくっていきたい。インキュベーターをさらに
進めていきたい。3番目は、サイエンステクノロジーをさらに改善し、タイ国内の知識を高め、
商業化につなげていきたい。
4番、知的財産のシステムをより推進していく。IPの価値をさらにどう高めていくかということ
です。5番目には、環境を設定し、R&D、イノベーションがさらに進むように。6番、SNTの開
発管理システム。7番、天然資源、そして環境管理のシステムの開発、そして生物多様性の
利用、その保護。8番、科学技術を使って貧困軽減、そして各コミュニティーの経済性を高め
ていく。
この実際のフレームワークを見てみましょう。これはナショナルSNT委員会の方、首相自身
が議長を務めている組織が設定しているものです。経済も含めてタイがより強くなるように、経
済知識が強くなり、社会福祉が高まるようにということを考えています。そして競争力が高く、
維持できる、質を高めていく環境を高めていくということです。
右側の方、KBSというのはナレッジベースソサエティー、知識を中心とした社会ということで、
国家のイノベーションシステム、これはつまりクラスターということです。人的資源、コアテクノロ
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ジー、法整備を含めてもっと能力が高い環境をつくる、いくつかのICT、バイオテクノロジー、
素材技術、ナノテクノロジーなどがコアのテクノロジーとなっています。
ゴールとして、タイの企業のイノベーションを 35%高めていきたい。そして知識ベースの製
品の価値を高めていきたい。これがOECDの平均に到達するようにしたい。コミュニティーの
経済をより強くし、人々の生活の質を高めていきたい。またタイの科学技術のランキングがIM
Dのランキングの中で真ん中にきてほしい。インターナショナル・イースティチュート・オブ・マ
ネジメント・ディベロップメントというのがAMDで、SNTについてのランキングを毎年発表して
います。
このような政策フレームワークの中で優先順位をつけています。我々は政策重視、戦略とい
うことです。まず1番目にクラスターの開発、コミュニティー経済の強化、QOLの強化です。左
側には食品、自動車、ソフト、マイクロチップ、繊維、観光などがあり、右側には社会ということ
で、環境、若者、そして恵まれない人たちです。
我々としては4つのコアテクノロジーがこの中にきちんと埋め込まれるように、上のところにき
ちんとあてはまるようにと考えています。同時に科学的な知識によってこのコアテクノロジーを
サポートしていきたい。そのために必要なことは人的資源、これが2番目です。3番目はインフ
ラ、制度、機関が必要です。4番目にはSNTの一般の認識を高め、人々がきちとん理解でき
るようにサイエンス、科学技術の重要性を認識させていきたい。5番目はSNTの管理システム
を改善していきたい。これは今、やっているということを、後ほど例を挙げてお話しいたしま
す。
現在、コミッティー委員会、SNT、ポリシーコミティーというものがあり、首相が議長を務め、
閣僚、大学に対して発表していきます。政策を設定し、それを実行していきます。MOST、科
学技術省が事務局を努めます。その中にはいろいろな戦略についての小委員会があります。
このような小委員会は各省から、あるいは民間からオフィサーという形で、あるいは学者の参
加もあります。この小委員会がR&Dユニットということで民間大学とのリエゾンを務め、政府と
の連絡調整役も行っていきます。
それではここでインフレメンテーションという話にしたいと思います。ストラテジーとしては、ま
ずクラスターをつくっていくということです。例えばこれは現在我々がいくつかのキークラスタ
ーとして開発中のものです。エビノクラスター、自動車及びパーツのクラスター、RFID、ディ
スクドライブ、観光、ソフト、繊維、ファッション・クラスターなどです。右側で管理する機関、省
庁がわかります。いろいろな省庁がここにかかわってきていますが、科学技術省が事務局とし
てコーディネーションを行っています。
例えばオートマティブ、パーツ、自動車については、工業省に附属するタイの自動車研究
所がリードをとっています。これについては詳細には触れませんが、いろいろなところをつな
げて、民間企業・大学・政府が一緒になって推進しているところを見てください。真ん中、サプ
ライチェーンということでエビをたくさん輸出していますが、問題があります。汚染の問題、エビ
の種親をどう調達するか、そしてそれをどう養殖していくか、いろいろな関連省庁がいろいろ
なレベルでかかわってきます。
例えばバイオテックということで種親、孵化、養殖場については農業水産省がかかわってき
ます。右側では、その結果としてどういうことを期待しているかということ、左の方では、科学技
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術でどういう形で努力をしているかという形でクラスターを形成しています。
これはRFIDの方のクラスターです。皆さん御存じだと思いますけれども、RFIDは日本でも
非常に人気があり、民間企業はトップのアクターということで、シリコン、チップ、カートを開発
します。右のAはアプリケーションのソフトの開発、下がT(ターミナル)、そしてリーダー、NE
CECというのが左側にありますが、これはナショナル・エレクトロリック&コンピュータ・エレクト
ロニクスセンターという科学技術省に属するセンターです。ここで示しているのは、民間と協
力しているということです。民間企業と協力して製品開発に臨んでいるということです。
2番目の戦略です。人的資源の開発を科学技術で高めていきたい。十分なPHD、博士号
を持った人、あるいは技術を持った人材がいません。このチャートを見るとわかりますように、
我々として期待することが書かれています。どうやって研究開発で私たちの人材育成をして
いくのかということを考えています。現在はR&Dで 18,000 名をふやそうとしています。博士号
を持った人間 16,000 人を8年間でふやしていこうと思っています。現在はそれに対して 23 億
ドルの投資をしています。これについては詳細には触れませんけれども、このような計画で
す。
3番目の戦略が、インフラと機関を開発していくということですが、こちらは私も非常にうれし
いことですけれども、初めてのサイエンスパークです。タイランド・サイエンスパークということで、
2002 年2年に設立されて以来、創業をしています。完全なる科学技術のR&Dのための統合
されたハブで 17,500 万ドルの投資をしています。
こちらですが、やはり民間における革新及び研究開発を進めていくということ、そしてタイに
おけるR&Dの人的資源の強化をさらに進めていくということで、300 名のPHD取得者――奨
学金で留学していた人間――が、現在はオードテック、ナノテクノロジーの分野で働いていま
す。現在、36 社がこのサイエンスパークで操業をしております。
サポートということで、このサイエンスパークにやってくる企業について、私どもも財務上の支
援をしています。例えば助成金、共同出資、さらには人的資源のサービス、エンジニアの提
供、テクノロジー及びテクニカルに関するサービスの提供もしています。ビジネス及びホーム
上のサービスも提供しています。外国のエキスパートとともに、そういったところで働くというサ
ービスも行っています。
機関のインフラも、やはりサイエンスパークの一部になっております。これはやはりセンター
オデクセン(?)としての確立をしていかなければいけないということで、よりたくさんのIP、つ
まり知財のシステムをつくっていきたい、知財をオウリツしていきたいと思っています。
4番目は、一般の認知を上げていくということです。こちらは非常に重要なことだと思います。
科学技術の重要性についてもっと一般の人に認知してもらいたいということで、現在、科学メ
ディアの開発を進めています。例えばテレビで科学技術の特集を放映したり、あるいは雑誌
に出していくということも行っています。科学及び技術の教育活動も開発しています。これは
言ってみれば可動型、移動型のS&T教育単位ということで、テクノロジーのロードショーもし
ています。
最後の戦略は科学技術の管理システムを改善するというお話です。こちらはあくまでも暫定
的な提言で、今、私たちは再編をしようとしています。左側にはポリシーボードということで政
策委員会があります。エグゼクティブボードは科学技術省の大臣が議長を務めています。こ
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れはあくまでも契約ということで、終身雇用ということではありません。一番下にありますのは、
タイの中でも科学技術というのは完全に自立型の省になっていくということです。
最後に、私どもは科学技術で人的資源をもっと高めていこうということ、クラスター及び技術
のサイエンスパークを開発していく、そして科学技術の管理システム、政策です。エネルギー
と環境については、現在エネルギー省と私たちは、国家資源及び環境の部分、例えば太陽
電池などもかなり進歩しています。さらにはさまざまな資源に対してITの活用も行っておりま
す。
“Science and Technology Policy for Sustainable Development in Vietonam”
科学技術省 副大臣 Le Dinh Tien(ベトナム)
私のプレゼンテーションは3部構成になっています。まず第1点目は開発という背景そして
99 年以降、どのような課題があり、どういうことを達成したかお話しします。2点目は、持続可
能な開発に関しての政府政策です。3点目は科学技術政策、特に持続可能な開発に関する
科学技術政策に関して申し上げます。この中ではさらに細かく科学技術政策の意思決定プ
ロセス、持続可能な開発のための科学技術政策の変遷についてお話しします。
本題に入る前に、ベトナムの特徴を御紹介します。こちらに地図が出ていますが、人口は
8,322,000 人(?)(2005 年現在)です。都市部の人口が約 20%、地方が 80%という割合にな
っています。面積はここに書いてあります。地域は 64 の省に分かれています。気候はほかの
アジア諸国と同じように、熱帯と温帯地域から構成されています。地理的な特色としては、レッ
トリバーとメコン川という2つの大きな川、そして海岸線が 3,000 キロに及んでいます。人です
が、54 の民族からなり、主な民族はキン民族で、約 87%を占めています。残りの 53 の民族は
少数派で、13%が都市部、90%が地方に住んでいます。
それではベトナムにおける開発の経緯を話したいと思います。ベトナムはいろいろな変遷を
遂げてきました。1986 年、ベトナム政府は“ドイモイ”と呼ぶ経済改革を導入しました。ドイモイ
政策を通じて国の経済が中央計画経済から市場経済へと変わりました。門戸開放政策で世
界経済に徐々に統合されていくという道のりを経てきました。
1990 年、10 年政策が策定されました。 これは 1991 年から 2000 年という期間の社会経済
安定化開発政策でした。この間、ドイモイ政策がさらに強化されて大々的な変化がベトナムに
起こり、経済の分野でいろいろな変化が見られました。1996 年、工業化と近代化に焦点が当
てられ、2020 年までに工業国であるというステータスを得ようということを目的に、さまざまな活
動が行われ、WTO加盟の準備が始まりました。2001 年に社会経済開発の 10 年戦略が、
2001 年から 2010 年の期間をカバーするものとして策定されました。
これまでの業績ですが、過去 15 年間、ドイモイ政策が導入され、その間、GDPの成長率は
96 年から 2000 年の間、年率 6.9%でした。2001 年から 2005 年の年間のGDP成長率は 7.5%
でした。15 年間の平均は 7.5%となっています。産業の成長率は年間 12.9%です。工業の割
合を、1990 年の 22.7%から 2003 年の 40.5%へと引き上げています。これはGDPに対しての
比率です。
一方で農業のGDPに占める割合が、同じ時期に 38%から 21.7%と減っています。農業の
持続可能な成長が 4.2%ですが、この数字をもってベトナムはタイに続き世界第2の米の輸出
38
国となっています。コーヒーに関しては世界最大の輸出国となっています。国の輸出製品の
30%が農産品です。
輸出の伸びは 2001 年から 2005 年にかけて年間 16.2%で伸びてきています。FDIは門戸
開放政策をとり、2001 年から 2005 年のシェアは全体の投資の 16.8%を占めています。日本
もベトナムにかなりの投資をしてくださっています。FDI投資家の中で、対ベトナム投資に関
しては、日本は第3位です。
貧困率は低下しています。ベトナムの標準に照らし合わせて、1990 年時点で全世帯のうち
3割が貧困世帯でしたが、2000 年には 10%、そして 2005 年には7%に低下してきました。ベ
トナムの貧困標準というのは、世界の標準よりも低めの設定になっています。森林面積です
が、1990 年代初頭は 23%でした。2001 年には 34.5%、2004 年には 37%になっています。こ
れは平均のGDP成長率のグラフです。1995 年から 2003 年まで、アジアの金融危機の期間
に、ベトナムのGDPも影響を受けました。
次に主要な開発課題についてお話ししたいと思いますが、1点目は天然資源を使った急激
な経済成長のせいで、天然資源の疲弊が見られます。また、天然資源の非効率的な利用の
ために資源が疲弊しています。ベトナムは目に見えた形で成長してきましたが、その経済成
長の質は低いものとなっています。人口が増大し、土地資源は限られています。人口はことし
8,200 万以上となっています。1人当たりの農地は 0.1 ヘクタールと、非常に面積が小さくなっ
ています。
工業開発では、特に地方では陳腐化した技術を使っているため、公害が起きています。経
済開発の質を高めるために、科学技術は経済セクターに適用されています。地方では古い
技術が使われています。殺虫剤など化学的な肥料の過剰な使用が課題となっています。天
災も問題です。ベトナムでは、洪水、台風、エルニーニョ、ラニーニャ、地震等々たくさんの天
災を経験しています。ベトナムの開発の障害となっているのが、このような天災です。
これは土地面積を示しています。35 年間に森林の3分の1が消失してしまいました。森林が
どんどん減っていることがこれでおわかりになると思います。1970 年代、このグリーンが森林
ですが、1990 年にはグリーンの森林分布が少なくなっています。同じような傾向が多くの地域
で見られます。
こちらは天然資源のベースを示しています。1人当たりの農地を示したものです。ベトナムの
1人当たりの農地は 10 分の1ヘクタールとなっていて、フィリピン、タイ、インドネシア、マレー
シアに比べても非常に狭くなっています。
次に皆様にお話ししたいのは、持続可能な開発に関するベトナム政府の政策です。持続可
能な開発の政府政策に関して、いくつか重要なポイントがあります。1991 年、政府は初めて
ベトナム環境及び持続可能な開発国家計画を通過させました。これは 91 年から 2000 年をカ
バーする計画となっています。
この計画の中で、社会経済開発の中に環境的な要素を盛り込むことの重要性が認識され
ています。この国家計画の結果、1992 年、科学技術及び環境省が設立されました。1994 年、
国会が環境保護法を通過させました。2002 年、政府は環境保護国家戦略を承認しました。こ
れは 2010 年までの期間をカバーするもので、2020 年向けのビジョンも準備されました。この
戦略は国の社会経済開発戦略の一環として、持続可能な開発があるとみなしています。
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2004 年、政府はベトナムにおける持続可能な戦略方向を承認し、“ベトナムのアジェンダ
21”と呼んでいます。21 世紀に向けて、ベトナムの持続可能な存続を担保するための枠組み
政策となっています。ベトナムにおける持続的発展ということについて、科学及び技術の役割
を認め、科学及び技術が持続的発展の政策の文書における重要な役割を果たすことが認識
されました。ベトナムアジェンダ 21 にもそれがあらわれています。
8つの原則に基づいてベトナムの持続的発展を行うということで、その中に科学技術を当て
はめていくわけですが、特に近代的でクリーンで環境に優しいテクノロジーでつくっていく、そ
して研究能力を環境保護というところで高めていくニードが示されています。政府としては、そ
ういう研究能力を高め、環境保護を推進していこうと考えているわけです。
それではここで持続的発展に向けた科学技術政策という話をしたいと思います。これは科
学技術政策の意思決定プロセス、そして持続的発展に向けた科学技術政策の転換という内
容が含まれます。これはベトナム国家の組織ということで、共産党が左上にあり、国会があり、
政府、省庁、州の組織、そして研究開発機関、大学が下にあります。これが科学技術の国家
的システムということでとらえられています。
これが意思決定のプロセスということで、こういう過程を経て科学技術政策がベトナムで結成
されています。これは 2010 年までの科学技術戦略のプロセスです。御存じのように、10 年の
社会経済開発戦略(2001 年~2010 年)が全国の党大会で可決されました。左の上の方です。
このような科学技術というものが戦略の1つの要素となっています。一般的な社会経済の戦略
に基づいて科学技術の開発戦略というものが準備され、そして省がこれを承認しています。
このプロセスは次のような意思決定の形となっています。まず、首相が科学技術省に対して
いろいろなことを要求していきます。国としての国家技術政策の委員会の中でワーキンググ
ループ(作業部会)がありますが、ミストパーストというところがコーディネーションしています。
これは国立科学技術政策及び戦略研究所という組織です。この作業部会の原案策定を支援
するために、ミストパーストの方でリサーチチームを提供してサポートしていき、科学技術の戦
略の原案を作成いたします。真ん中の一番下のところになります。
これをワークショップあるいはセミナーに提供し、そこからコメントを引き出そうとします。関連
するステークホルダー、関係者に意見を問います。科学者、いろいろな民間の機関、NGO、
国際的な専門家に話を聞くという形でのサイクルとなります。
これに対するコメントが原案作成のワーキンググループ(作業部会)に返ってきて、これでよ
いということになりましたら、これを国の委員会に出します。委員会がこれを承認しましたら、首
相に提出して承認を求めます。そうでないという場合、承認されない場合には、再びワーキン
ググループにこの案が戻り、検討を行うという形になります。
科学技術政策の転換ということで、持続的発展に向けてどういう転換があったか。アジェン
ダあるいはプライオリティーが変わり、いろいろな統合を重視するようになりました。経済、社
会、環境の側面を開発プランの中に織り込み、科学技術の国内での能力を高め、持続的発
展のニードに答えるようにということを考えています。いろいろな利害関係者、ステークホルダ
ーが広くこの政策策定のプロセスにかかわるようになっています。
まずアジェンダの変更ということで、1990 年以来、科学技術政策は経済的な側面に注視し
てきました。商業科、テクノロジー、研究の強化、民間のイノベーションということを重視してき
40
たわけです。最近ではこの科学技術戦略に示されているように、科学技術の政策は開発の
質を確保するように、そして持続可能な発展を達成するようにということを強調しています。
2001 年から 2010 年の戦略もそうです。戦略が重視するのは3つのグループの目標の達成
です。最初は科学的な根拠を示す、工業化プロセスの短縮、持続可能な開発、世界経済へ
の統合において成功を果たしていくということです。2番目に、経済的な成長の質を高めてい
く、そして国家経済の競争性を高める貢献をしていく上で、非常に重要な決定的な要素とな
ります。3番目、科学技術の能力を構築し、開発し、そして地域の全体的な平均レベルを高め
ていく、これは国内の能力ということで、科学技術の分野における全体的な能力を上げていく
ということです。
持続的発展に関連した研究開発プログラムの国のプライオリティーとして、96 年から 2000 年
にはこういう形で示されました。全体のプログラム数は 11、そのうち5つは高度技術及び環境
保護です。これは国家的なものです。ICT、バイオテクノロジー、素材、自動化、天然資源の
合理的な利用プログラム、そして環境保護のためのプログラムです。自然資源、天然資源の
合理的な利用ということもここにうたわれています。
こちらの方は 2001 年から 2005 年の期間についての優先重点分野です。全体のプログラム
数は 10、そのうち6は高度な技術、環境保護及びヘルスケアとなります。ICT、新しい素材の
開発、自動化、バイオテック、環境保護及び災害対策、一番下がコミュニティーのヘルスケア
についてのプログラムです。
これは政策のプロセスです。より広い利害関係者の参加が見られます。この期間、我々はセ
クターベースのアプローチからセクター間の協調をしていくということで、関連するセクターが
政策設計にかかり、セクター間の問題にも対応できるようにということをやってまいりました。科
学技術戦略の形成においてこういうことが行われたわけで、中央集権、そして政策立案者だ
けの話し合いから、より広い形で関連する人が関与し、オープンな形で話し合うようになって
います。
これがSDストラテジーということで、先ほどのスライドで示しましたようにセミナーあるいはワ
ークショップをやって、この原案について多くの人が検討することができます。また、政策形成
プロセスにより広い参加という意味で、“戦略 2010”の中にはいろいろなグループがかかわっ
て、予測技術を使って関係者が重点分野を見きわめることができるようにしています。そういう
意味で、投資をし、TFはテクノロジー・フォーサイトということですが、食品加工及びお茶につ
いては去年の会議(於:日本)で発表いたしました。
結論です。ベトナムはめざましい経済成長をドイモイ刷新の中で 1986 年、達成してまいりま
した。しかし、いくつかの開発上の挑戦、問題も出てきました。政府は持続可能な発展のニー
ズを認識し、いくつかの政策、戦略を実施し、持続的な開発を可能にしようとしてきました。科
学技術というものがキーとなることによって、持続可能な開発がベトナムで達成しうると考えて
おり、政策を設定して重点分野を見きわめることを意思決定のプロセスの中でも行ってきまし
た。
41
“Development through S&T: Indian Initiatives and concerns”
科学技術開発研究所 所長 Rajesh Kochhar(インド)
今日はアジアという観点から科学技術の発展についてお話ししたいと思います。今日は特
に個々の国というよりは、むしろ「アジア」ということでお話を進めさせていただきたいと思いま
す。
最初のポイントですが、これは多分、インドがどのように機能しているかということを理解した
いと思っていらっしゃる方にとっては非常に重要だと思います。日本、韓国あるいは中国とは
違い、通常、私たちが政策を決めるときは、話し合いを重ねます。国というのはそういった道
筋を決めると思いますけれども、インドの場合はそうではなく、大体の方向性だけを決めてお
くということが特徴です。政策はかなり柔軟性を含んでいます。例えば交渉の余地、改善の余
地を残しております。そして場合によっては後退する、脱却するという可能性も残しています。
したがって皆さんがインドの政策を読まれるときには、法律の側面ではなく、実際の経験か
らどういったパターンが読みとれるのかということを重要に考えて読んでいただきたいと思いま
す。要するに今、何をやろうと言っているのかということが重要ではなく、何が実際に行われた
のかということが重要です。
47 年に独立いたしまして、混合経済を経て 90 年からグローバル化が始まりました。ここでは
科学技術に明らかなるフォーカスを当てたのです。その場合にキーとなったのが、まず私た
ちは科学を通して国家を確立していこうと考えました。200 年間にわたって植民地でしたので、
そこから独立していく上で、やはり科学を非常に重視しておりました。
科学というときには、例えば技術、テクノロジー、エンジニアリング両方が含まれます。戦略
科学、例えば原子力、宇宙、ミサイルといったプログラムにも重きが置かれました。さらには食
料の生産、リバースエンジニアリング、輸入の代用、教育といったところに重きが置かれまし
た。
この 50 年間にわたり、私たちが非常に大きく進んだと思うのは、教育の拡大です。これまで
は全く教育にアクセスすることができなかったたくさんの人々が教育を受けることができるよう
になりました。さらにはインドへ参入してくる外資系は、グローバル化のお金でインド人の能力
を育成するために来るということで、これまでは入ってきて利益を上げて出ていきましたが、特
にインドではそういったことをしようとしていましたが、混合経済によって、今はもうそういったこ
とはできなくなりました。
ここで非常に重要な質問が出てくると思います。これは多分、インドでもほかの国でも言える
と思います。国家の科学というお話をしていましたが、グローバル化といったときに、この国家
の科学だけを進めることだけが果たして重要でしょうか。
もちろん私たちはたくさんのサクセスストーリーがあります。この科学の産業はもう 100 年以
上にわたる歴史を持っています。特に製材産業においてはリバースエンジニアリングを行うこ
とによって繁栄してきました。しかし、実際にはその生産に対してパテントを取ることができな
かったということで、インドは新しい分子を発見し、標準のセイザイをつくる上では非常にロー
コストで行うことができました。
特に外資とのコラボレーションで発展をした例を1つお話ししたいと思います。インドの自動
車産業はスズキ自動車とコラボレーションを進めることで、かなり成功を収めてきました。これ
42
によってインドの自動車部品業界がかなり繁栄いたしました。
1つの例ですけれども、1950 年代にメルセデスベンツがインドの自動車会社であるタタ自動
車とコラボレーションを始めました。ドイツのメルセデスベンツはより高級化、洗練化することに
重きを置きましたが、インドはもっと堅牢にすることに重きを置きました。インドはそれによって
アフリカの市場を取り込むことができました。ただし今、この数年間は、中国の価格攻勢にあ
っています。タタモータースは現在、新しい車のデザイン、生産を行っています。トラディショ
ナルなトラックにおいては既にうまくいっています。
ソフトウエアの分野についても少しお話ししたいと思います。これはここでは少しマイナスの
お話になりますが、ソフトウエアについては余り付加価値の部分がありません。インドのソフト
ウエア分野は、安価な仕事をほとんどアメリカの企業に向けて行っているというのが現状です。
優秀な人たちが自分で実際に持っている知能よりも下回る賃金で、大体1カ月 800 ドルぐらい
で働いています。全くインドに人材が育っていかないということです。サービスの分野ももちろ
ん成長すると言われています。しかし、非常にハイエンドのマニュファクチャラーのところに寄
ってくると思います。
皆さん、お話しされたと思いますけれども、アメリカは超大国ですが、超大国になるには当
然それに伴って製品が必要です。必要なのはやはりアジアの合衆国が必要になってくると思
うのです。例えば日本は非常に革新、ハイエンドのコンピュータの革新は進んでいます。しか
し、それだけの規模は持っていません。すべてのことをする専門性はありません。なぜならば
日本は小さな国だからです。ハイレベルのソフトウエアの開発はコラボレーションで十分に行
えると思います。私が“アジア合衆国”の建設をぜひ進めたいと思うゆえんです。
こういった混合経済のエリアではロシアがモデルですけれども、実際には成長が社会正義
の犠牲になってしまっています。グローバルの後、実際にはプラスの経済指標は続かなくな
ってしまいました。例えば教育やヘルスケアから退却し、ミドルクラスが非常に大きくなってき
ました。非常に大きなファクターとしては、サービス分野は本当に中流階級の人たちしか雇用
しないのです。実際には郊外あるいは地方での雇用が望まれています。
政府は製薬セクター、自動車部品、テキスタイルのセクターを支援しようと考えています。こ
のセクターは3年計画の1年目ですけれども、来年以降どういう予測がされているかというと、
この3つのセクターは既にダイナミックですから、さらに繁栄します。インドだけではなく、どこ
の国でも同じだと思いますけれども、政府にとって既に動き出しているセクターをさらに加速さ
せることは簡単です。しかし、最初から始めることはなかなか難しいのです。この3つのセクタ
ーは既にダイナミックで活気があるので、政府はさらにそれを支持しようとしています。
インドは中国とテキスタイル産業で競っています。インドはテキスタイル産業をさらにアップ
グレードするとすれば、機械を使っていかなければなりません。その機械は中国製です。イン
ドのテキスタイル産業は中国の製造業を助け、競争するということになっています。
政府はもう1つ、リスクを負って革新していこうという政策を持っています。インド人はなかな
かリスクを負わない民族でした。独自のデザインで製造するというやり方をこれまでしていませ
んでした。日本のデザインや製造の仕方とは違っていたのです。IPRを使ってヘルスケアの
産業を育てて、医療の分野で伝統的な知識を使っていこうという政策もあります。政府は基本
的な科学研究を行うことを推薦しています。
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今、国の科学教育は非常に弱化しています。政府は、例えば食品加工産業を通じて地方
での雇用創出を試みています。またICTを使ってプログラムのモニタリング、資金の流出防止
などを推進しようとしています。地方での汚職がないようにICTを活用するという政策もありま
す。ICTは非常に強力な手段となっています。人に権限移譲するツールとなり得ています。
ほとんどの人々は政府から得られるメリットを享受できていませんでした。しかし、インターネッ
トやコンピュータを使うことによって、国民がより権限を得ることができるようになってきていま
す。
政府はバイオテクノロジーを推進しています。アグロケミカルで地下水の過剰な利用がされ
ているのではないかということが懸念されています。深刻な問題になっているのが遺伝子組
み替え作物です。遺伝子組み替え作物に関してはいろいろな見解があって、意見が 180 度
違っていますので、政府の決定がなかなか下されません。庭や作物に過剰に殺虫剤が使わ
れていることが懸念されていますので、それに取ってかわるものとして遺伝子組み替え作物
がありますが、まだまだ決定が下されていません。
オーストラリアは非常に明確です。遺伝子組み替え作物の実験をしたくないということでは
ありますが、その作物を食することに関しては反対していませんから、遺伝子組み替え作物に
関しては非常に冒険的な国です。インドは遺伝子組み替え作物に関しては非常に保守的で
す。その理由は、40 年前にグリーン改革が起きたとき、国連がメキシコの小麦などを導入しま
した。政府はそのハイブリット品種を導入し、農家を教育しました。国連が撤退したとき、国も
その事業から撤退し、デュポンなどの化学殺虫剤だけが残りました。
伝統的な薬品ですけれども、中国が薬草から 50 億の売上を出しています。インドもそれを
考えています。現時点で、伝統的なハーブというのは薬品ではなく食品として売られています。
パテントが切れるので、他国籍の医薬品メーカーはこれから2年間の間に 50~100 億のロイ
ヤリティーの収入を失うと言われています。
化学も疲弊しているため、薬草といったようなことがもう一度見直されています。医薬品メー
カーに対するロイヤリティーの支払いが減ってきているので、また薬草が注目されています。
もしアメリカが伝統的な薬草を薬品としてみなすことになれば、中国の 100 億の漢方の市場は
崩壊するでしょう。伝統医療は主流になってはいけないのです。
私は6週間前に中国を訪問しました。ポリシーマネジメント研究所で若い男性に会いました
が、これから先 20 年間、中国の伝統医療はどうなるかということを予測するように言われたの
です。そのとき私の見解を述べましたが、これが問題点です。インドでもそうですけれども、中
国の 38%の労働力が赤字の国営企業に使われています。輸出志向の企業で働くのは、労
働人口のほんの2%ですから、人は非常に非効率なマシーンであると言えるでしょう。
これらが我々が直面している問題点です。森林に住む部族がいますが、森林や野生動物
を維持したい場合、どうすればいいのか、森林資源に依存している部族はどうすべきなのか、
経済対生態系はどうするのか。インドのグリーン改革の中で、水資源や殺虫剤の過剰使用に
ついて問題視されてきました。食料安保、土壌や水の健全性も問題です。経済が食料生産
に依存していた場合、どうすればいいのでしょうか。土壌を使い続けるしかありません。
また、グローバルに競争力を維持した場合、人は不要になります。そして上流のダム対下流
の地下水の伏水といった問題もあります。ダムができることによって上流に住む人々はそのメ
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リットを享受することができますが、メコン川の下流に住む人たちは、それによって悪影響を受
けてしまうのです。
これも大きな問題ですけれども、中産階級の期待が非常に高まっているのに対して、貧困
層のニーズは非常に基本的なニーズです。中産階級は高消費傾向があります。しかし、国に
は資源が不足しています。インドの自動車部品のセクターはグローバル化によってかなり高
度化されるでしょう。一方で電子部品のセクターは崩壊しています。また、同じセクターの中で
も淘汰が進んでいます。
私が強調したい意見ですけれども、持続可能な開発について話してきましたが、この持続
可能な開発の定義をさらに拡大したいと思います。持続可能な開発というのは、生態的にも
維持できるものでなければなりませんが、同時に社会的にも持続可能でなければなりません。
中国、インド、ブラジル、南ア、開発のレベルは違いますが、経済の急成長を持続可能な開
発として見たときに、社会的にも生態的にもそのスピードと合っていない場合、それではよくあ
りません。経済成長が社会的な緊張を生み出すことも望ましくありません。これらは共存でき
るのでしょうか。可能だと思いますけれども、その方法論については検討が必要になります。
“The policy prioritization for the next S&T Basic Plan in Japan –From the latest S&T
Foresight Survey and Its Policy Implication-“
文部科学省 科学技術政策研究所 所長 小中 元秀
私の講演は科学技術政策が決まる過程のところを少し御説明して、それにからんで科学技
術の技術予測がどうなっているか、そして最後に今現在、進められている基本計画にそれが
どういう影響を与えているかということで、3部策で御説明したいと思います。
まず、これは阿部先生から縷々御説明のあったところですので余り触れませんが、真ん中
にありますCSTPというところが、今現在の科学技術の基本計画の第3期です。これを今、つ
くっているというところです。そういう科学技術政策全体のところを調整しているのがCSTで、
その下に各省がついています。その一番大きなセクターとしては文部科学省があり、この中
に科学技術政策研究所もあるということです。その下に国立の大学、あるいは国立の研究機
関なりパブリックセクターがあります。
これが第1期、第2期の基本計画がどういう流れできているかということと、我々の方でやりま
したアウトカムなどのレビューがどうなっているかということを1つの表にしたものです。実は
1992 年に日本政府として科学技術予算を倍増しようということを1つ決めています。そういう大
きな流れがあって、1995 年に議員立法で「科学技術基本計画」ができました。それにしたがっ
て第1期の基本計画、今現在は第2期基本計画の最後の年にいるということです。
この第2期あるいは第1期の基本的計画のアウトカムをレビューしたということと、近未来にな
りますが、今後技術がどうなっていくかということを技術予測したというのが、我々の過去2年
間の仕事です。これが第3期の基本計画にどういう影響があるかということを、次以降、御説
明したいと思います。
科学技術の予測は 30 年以上前の 1971 年、第1回目をやりまして、最近のものを入れると8
回やっております。いろいろな経験を踏まえながらよりよいものにしてきたということです。最後
のところが 2003 年から 2004 年にかけてやったということです。今、どういうことをやるかという
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のは、CSTと相談しながらやってきました。ことしの5月、やっとその全体的な報告をやりまし
た。
これがフォーサイト全体の構造です。4つの大きな分野で、横軸がソサエティーあるいはサ
イエンス、こういう分野の拡がりです。縦軸は主観的あるいは客観的なものさしではかってい
ます。今日御説明いたしますのは、真ん中のデルファイ法について御説明したいと思ってい
ます。
これがデルファイ法 13 分野で、かつどういうフィールドがあったかということを一覧表にした
ものです。青い色がいわゆるサステナブルデベロップメントに関係するところです。水色の部
分は、アジアなどの協力に関係する基盤的なところのものを示しています。
今回のデルファイ法では新しいアプローチが1つあります。今までは一番上のフィールドと
一番下のトピックスの2つで 4,000 人以上の専門家の方から聞きましたが、今回はトピックスを
束ねるという形でエリアをつくり、より構造を持った調査をやりました。
例えば分野として「環境」ですと、エリアはグローバルウォーミング、温暖化、トピックスとして
はCO2の分離、貯蔵といったことが何個か入っているということで調べてみました。環境関係
の1つの例です。真ん中にある専門家の御意見ですが、2027 年には遺伝子組み替えの植物
なり細菌がノックスを取り除くことが予想されています。ほかは省略させていただきます。
次は災害・安全安心がどうなるかということを示しています。これも省略いたします。
これは専門家の方々に1番から 100 番までのトピックスのレベルの中でどういう問題が一番
大事かということを選んでいただいた結果です。過去、4回ほどありますが、やはり環境関係
がかなり皆さんの注目が高いということがわかります。ただ、ナチュラルジザスターが少しふえ
ておりますのは、日本の場合、去年は地震があったり、アジアでは津波があったりということが
原因です。専門家に聞いた、周りの環境の影響があるということの1つの調査です。
これは日本の研究開発のレベルを欧米との比較で示したものです。右上の方にいると、ど
ちらに対しても優位にあるということです。環境関係はブルーですが、大体真ん中ぐらいにあ
ります。エネルギーは少し上の方にあるということが示されています。電子技術、ディスプレー、
デジタル関係の家電製品については、かなり高位にあることがおわかりになるかと思います。
これはそれぞれの領域の関係といいますか、一種の相関関係を示したものです。今から 10
年ぐらいはどういうものがそれぞれ一番関係しますかという質問に対して、15 年ぐらいまではI
Tが一番関係が深いと皆さん言っておられますが、それよりさらに 10 年ぐらいたちますと、ライ
フサイエンスなりエンバイロンメントに関係が深くなっているということです。ただ、ITは 25 年ぐ
らいするとなくなるという意味ではなく、「基盤として定着する」ととっていただければ幸いで
す。
最後は、第3期にかけてどういうふうになっているかということです。特に環境関係について
御説明したいと思いますが、技術レベルでは日本はかなり強いと結論づけられています。た
だ、いわゆる基礎科学では生態学については少し弱いということが言えるかと思います。この
ためにはファンディングをふやすなど、補助を大いにやっていく必要があるということが、1つ
の対応策としてあるかと思います。
結論ですが、フォーサイトといいますのは、いわゆるベンチマーキング、比較、あるいはどう
いうふうに影響を与えるかというものが大事だと言われます。いろいろな情報を集めてある種
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の結論を出していくことが必要かと思われます。
第3期の計画についての話ですが、今回はかなり実証的に4つの分野が大事であるというこ
とを示させていただきました。すなわちIT、ライフサイエンス、エンバイロンメント、ナノテクノロ
ジーが前回第2期でも重要分野として示しましたが、第3期においてもやはり重要ではないか
という実証的なデータが得られたということです。
最後に、今現在CSTPで議論されている基本計画の大きな構造です。真ん中が理念、アイ
デアですが、知をつくる、国力を高める、あるいは国民の安全・安心をより高めるというところ
が1つの理念ですが、これに向かってそれぞれのゴールがあります。その中で特に国力を高
めるという中で、ゴールの3としてはサステナブルデベロップメントが大きなゴールになってい
ます。すなわち今までもいろいろ議論がありましたが、エコノミックグロースとエンバイロンメン
ト・プロテクションをどうバランスしていくかということが大事であるということです。
こういう形で我々の調査といいますか、レビュー、フォーサイトにつきましては、今現在行わ
れている第3期計画に大きく寄与しているということを強調させていただきまして、私のお話と
させていただきます。
vi) 第 2 分科会「環境・エネルギー問題」
「趣旨説明」 (独)国立環境研究所 理事長 大塚 柳太郎
このフォーラムは第1回アジア科学技術フォーラムと称して、アジアが抱える多くの問題、環
境、エネルギーあるいは自然災害、感染症対策等の多くの地域に共通する問題に対して、
特に科学技術の面からアジア諸国が連携、協働して積極的に対処していくという目的を持っ
てつくられたもので、主催者である独立行政法人科学技術振興機構がプログラムしてきたも
のです。
もう少し具体的に言うと、地域共通の社会的課題を科学技術によって解決していこう、そし
てアジアの将来の躍進のために、アジアの地域内での科学技術のレベルの向上をめざそうと
いうことです。改めて後で申し上げますが、このプログラムは3年を予定して、今年はその第1
回目ということになります。
本日は5名のスピーカーに来ていただいていますが、それぞれの方のお話を伺う前に、私
からごく簡単なイントロダクションをさせていただきます。ここに書いてあるように午後は3つの
セッションに分かれていますが、第2セッションで扱うのは環境とエネルギー問題です。
先ほど申し上げたように、持続的開発に到達するためには、もう少し具体的に言うとこのよう
な3つのことがあるのではないかと思います。第2セッションで特に焦点を当てている環境とエ
ネルギーの分野における問題を明確にすること。そして、科学技術がこれらの問題を解決し
ていく上での方法を私たちが見つけ出していくこと。そして、アジアの国々が協働するフレー
ムワークを確立していくためにどのようなアイデアがあり、どのように具体的なステップを見出
していけるか。このようなことになるのではないかと思っています。
非常に簡単なことですが、アジアの地域におけるいくつかのポイントをお示しします。まず、
人口密度が非常に高い。世界全体の平均は 46 人。これは一昨年くらいのデータですが、そ
れに対してアジアは1平方キロメートルに 120 人と非常に人口が稠密なところです。これは一
言で言えば、それまでの農業を含めた技術革新が非常に進んだ結果でもあるわけです。
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2番目に、経済発展が非常に進んでいる地域です。それに伴っていわゆる工業化、都市化、
自動車利用の急増、さらには森林の減少等、非常に多くの環境やエネルギーに関わる問題
が起きているのも、御承知のとおりです。
3番目には、いわゆる温室効果ガスをひとつとっても、世界での予測値を見ると、いまから
35 年後の 2040 年には、アジアから出る温室効果ガス、CO2やメタンなどをCO2換算すると、
世界の約半分になるだろうという予測が出されています。
そのようなアジアの特徴を私たちは十分に勘案しながら、このプログラムを進めていければ
と思っているところです。それでは、やや具体的な話に移りますが、このフォーラムは3年をベ
ースに計画されていて、本年度は特により環境にウエイトを置いたディスカッションをする。そ
して来年は、よりエネルギーにウエイトを置いたディスカッションをし、最終年度にはその両方
を統合するような形で研究のフレームワーク、特に協力していくための研究のフレームワーク、
さらには具体的なポイントを明らかにして、どのような方策をとるかということをディスカッション
する。このような順番で進めたいと思っています。
“Solution of Environment and Energy Problems by Cooperation of Asian Countries”
(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー 井上 孝太郎
私のプレゼンテーションでは、持続可能な発展、具体的に言えば経済発展と環境・エネル
ギー問題の解決に向けてのアジア諸国の包括的な共同研究について、私たちが検討してき
たことについて紹介させていただきます。
まず簡単に、私たちのセンター、CRDSについて紹介させていただきます。私たちのセンタ
ーのめざすところは、社会ニーズを充足するための科学技術、社会ビジョンを実現するため
の科学技術の開発に寄与することです。
より具体的には、科学技術についての政策担当者と研究者のコミュニティーを形成する。そ
れから、科学技術の分野について広く俯瞰していくこと。そして、これらの中から、今後我々
が国として特に重要と思われる研究開発の分野、領域、課題及びその推進策を明らかにして
いくこと。それから、世界の状況についてもよく調べて、これらの結果を元に研究開発戦略を
つくりあげ、それを国の研究開発の推進に役立てるということです。これらの成果はJST、文
部科学省、総合科学技術会議、あるいはその他の省庁、学会、大学、企業あるいは社会に
広く発信するということを考えています。
組織は総勢 50 人ほどの小さなものですが、現在こういうふうにグループ分けをしていて、グ
ループで運営しています。私のグループは持続可能な社会に資する科学技術戦略をつくる
ということで、主にエネルギーや環境問題を扱っているわけです。
先ほど分野を俯瞰すると申し上げましたが、これはそのためにつくったマップのひとつです。
左側に人間の世界、右側に自然界を示しています。人間の活動によっていろいろな影響が
出てきます。これを我々は環境影響因子と呼んでいますが、これらが直接人体、あるいは社
会生活への障害、活動の制約といった影響を及ぼすものがあります。それから、自然界に影
響を与え、それがかなり短絡的に人間界に戻ってくるもの。それから、自然界の中で複雑な
連鎖をして、最終的に人間界に影響を及ぼしてくるもの。今後特にどういうところが重要にな
ってくるのか、我々がまだ理解していない点はどこなのかということを私たちは検討していま
48
す。
もうひとつ重要なマップがこれです。これは研究活動の内容、あるいは研究のターゲット、目
的と言ってよいかもしれませんが、それを5つにまとめています。まず観測、評価・分析、理解、
そして環境関連分野では特に予測ということが重要です。さらに、これらをベースとした対策、
保全、利用。こういった研究が一体になって初めて意義がある。どれが欠けてもうまくいかな
いと考えています。我々は先ほどのマップやこのマップを使って、今後重点的に進めるべき
点は何かということを明らかにしていきます。
同じようにエネルギー分野についても、マップをつくっています。これがそのひとつです。左
側にエネルギー源、右側に利用側を示しています。エネルギーの問題は、コストや効率の向
上という話もありますが、長期的に考えると重要なことは、有害な化学物質を減らすということ。
そしてさらには、地球温暖化に大きな影響を与えるCO2を減らしていくこと。さらには、石油に
代表される化石燃料の枯渇対策、あるいは価格の高騰や需要の逼迫に対して対処していく
こと。そのための節約ということを考えていかなければいけない。我々は、こういうものが非常
に重要な課題であるという観点から、エネルギー問題を扱っています。
エネルギー源について言うと、いろいろな解があります。原子力、あるいはバイオマスエネ
ルギーに代表される再生可能エネルギーにシフトしていくこと。あるいは、中間段階のエネル
ギーの輸送、転換、貯蔵の効率を上げていくこと。あるいは利用側について言うと、最大限高
度に利用していくことが重要であると考え、研究開発課題を決めているわけです。
私たちの活動の概略をここに示しています。環境エネルギーの分野の研究分野を俯瞰して
研究戦略を立てていくわけですが、こういうワークショップをいくつか進めてきました。最初の
ワークショップは昨年1月に開催したもので、環境分野を広く見てみようということで、人体に
与える影響、社会活動に与える影響、自然界への影響、それから国として推進すべきものは
何なのかということを議論しました。
昨年5月には「持続可能な発展」というタイトルでワークショップを開きました。ここでは、持続
可能な社会を考えていくときに重要な生物の多様性、あるいは生態系の保全、食料・水の確
保、エネルギー・自然の確保あるいはリサイクルの問題。それから、特に我々が重要だと思っ
ているのは、発展途上国との関係をどうしていくのか。持続可能な発展をどういうふうに関係
を保ちながら進めていったらよいのか。こういった観点から議論したわけです。
さらに今年7月の初めには、「アジアの経済発展と環境保全の両立」と称するワークショップ
を開きました。さらにその後、グローバル・テクノロジー・コンパリゾンという海外調査ですが、
中国に1チーム、タイに1チーム、インドネシアとマレーシアに1チームの計3つの調査団を派
遣し、それぞれの国の環境・エネルギー問題についての研究状況と、アジアでの共同研究の
可能性について調査と意見交換をさせていただきました。
そして、今日の科学技術フォーラムに至っているわけです。この他の課題についても、それ
ぞれ深掘りのワークショップを行い、例えばエコシステムの問題、バイオマスエネルギー、水
素エネルギーなどのワークショップを開き、これらをベースにしてここに示すような国として推
進すべき研究課題は何なのか、重要な課題は何なのかということを、我々はこれを推進すべ
く提案しているわけです。
今日はこの2つのワークショップと調査の結果をベースに我々が検討してきた内容について、
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お話したいと思います。まず、持続可能な社会ということですが、これは昨年5月にワークショ
ップを開催しました。このワークショップでは、2050 年ころを想定して持続可能な社会のビジョ
ンと、そこに至るシナリオを描いてみるということを試みました。そして、そのビジョンやシナリオ
を実現するためには何が必要か、どういう技術が必要なのか、その推進方法はどうしたらよい
かということを議論しました。
このワークショップでの主要な仮定をここに示します。ひとつは人口です。2050 年ころには
現在の 1.4 倍の 90 億と想定しました。それから、経済活動が非常に重要ですが、貧困の撲滅
ということも含めて世界全体ではGDPで現在の 4.7 倍、1人平均では 3.3 倍くらいが必要であ
ろうと。これはひとつの目標になるわけですが、そういう目標を定めました。もうひとつ大きな制
約になるのは、二酸化炭素の排出です。今世紀中の温度上昇を2℃以内に抑えるという想定
から、こういう値を決めました。これは現在の 1.3 倍。1人平均ではむしろ 10%減という値を決
めたわけです。
これは二酸化炭素の想定したカーブです。IPCCのb1シナリオから選んだのですが、私た
ちはこのようなカーブを想定しました。二酸化炭素の問題の解決が非常に難しいのは、これ
が経済活動と非常に密接に関係しているということです。横軸に各国の1人当たりの年間のG
DPを示し、縦軸には各国の1人当たりの年間CO2排出量を示しています。このように右肩上
がりの強い相関を持っているわけです。
現在、世界の平均はGDPと二酸化炭素の排出ではここにあります。2050 年には、この値を
下げながらここに至るということです。二酸化炭素を削減するためには、工業先進国と言われ
る国々の排出量を大幅に下げる必要があります。また、この赤く書いてあるところがアジアの
国々を示しているわけですが、右肩上がりの傾向をできるだけ横ばいに、上昇させずに所得、
生産を上げていくという、一種のトンネルモデルのようなものを考えていく必要があるのではな
いかと考えています。
アジアの国々についてもう少し見てみます。これは横軸に人口、縦軸にその国の1人当たり
の年間CO2排出量を示しています。この面積がそれぞれの国の総排出量になるわけですが、
このような傾向を示しています。世界平均はここで、これが先ほどの目標では 2050 年には
10%程度下げるということです。ただ、現在のアジアの平均は世界平均に比べれば低いけれ
ど、現実にはこれが相当に各国とも、特に中国、インド、インドネシアといった国々は1人当た
りの排出量という観点から見ても大きくなっている。
ただ、人口が非常に多く、人口の増加も非常に多いので、これが世界に与える影響は非常
に大きいということになるわけです。これらをどうやっていくのかというのが、これから非常に大
きな課題になるわけです。
簡単に、このワークショップでの議論の結果を説明すると、ビジョンとしてはこういうものを
我々は策定していったわけです。エネルギーや資源の確保、あるいはリサイクルについての
ビジョン。それから、食料や水の確保をどうしていくか。それから生態系、生物多様性の保全・
利用。それから、発展途上国との関係をどうしていくかということです。
このワークショップ及び次のアジアの持続可能な発展についてのワークショップ等を元にし
て、そのビジョンとそこに至るシナリオをどうしていったらよいのかということを具体的に書き出
してみました。ここではタイトルだけを示していますが、大まかに言うとこの8つを考えたわけで
50
す。
これは、持続可能ということについての概念の確立から始まり、各国の状況を把握する、あ
るいは地域ごとのモデルを研究していくことから始まり、最終的には環境調和型の産業の育
成まで含めて、こういうことをやっていかなければ、こういう問題は解決できないのではないか
ということを考えているわけです。
もう少し、我々を取り巻く環境問題について細かく見ていくと、ここに示すように人口増加、
経済発展からいろいろな問題が既に顕在化してきています。アジア地域を含めてこのような
課題があります。地球温暖化、あるいはそれによる異常気象の発生、遺伝子資源の喪失、い
ろいろな汚染の問題、廃棄物の問題、エネルギーや資源の枯渇の問題、感染症の問題。こ
のような非常に幅広い多種多様な課題が既に顕在化しているわけです。これらについてどの
ように取り組んでいくかということを、我々は検討しているわけです。
我々は、アジアの国々が協力する何らかの機構が必要なのではないかと思い至ったわけで
す。それは大きく言うと3つの観点からです。ひとつは、地球規模の課題の解決のためには協
力・協働が必要であり、それが有効であると考えます。もうひとつは、アジア地域共通の利益、
あるいはアジア地域共通の問題解決のために協力すべきなのではないか。3つ目に、各国
の存続、あるいは安全保障、繁栄のためにアジア各国の協力が有効であるし、不可欠である
と考えるわけです。
共同の研究開発の中身ですが、大きく2つにくくってみました。ひとつは、持続可能な発展
のためのシナリオの研究。あるいは、省エネ型の環境技術の開発、育成ということで、ここに
書いたような内容です。もうひとつは、直接環境問題に解決に関わる課題です。環境のアセ
スメント技術から始まり、最終的に保全する技術、利用する技術、メガシティの問題や汚染と
いった個々の問題を片付けていくような課題。こうした大きく分けて2つの種類の課題を、一
緒にやっていったらどうかと考えているわけです。
繰り返しになりますが、解決方法を私たちもずいぶん検討して、結局こういうような考え。こ
れは基調講演で有馬先生も言っていましたが、研究開発、あるいはそれをマネジメントするセ
ンター的なものが必要なのではないかと考えているわけです。このセンターでやるべきことは、
モデルやシナリオ。これはいろいろな地域や国の事情を考慮したモデルの研究をしていく。
どういう社会モデル、社会シナリオがありえるかということを研究していくということ。
もうひとつ重要だと思ったのは、アジアンスタンダードと言われるもの。これは安全基準、あ
るいは環境基準、工業規格等に関係するものですが、こういうものを一緒につくっていったら
どうかということで、これはそれぞれの地域住民の安全確保、あるいは政府、地方自治体、産
業を進める企業体にとってもリスク軽減、負担軽減につながるのではないかと考えるわけで
す。
それから、その他に情報あるいは観測のネットワークをつくる。あるいは、共同の研究設備を
持つということ。それから、人材の育成や教育をやっていってはどうかと考えるわけです。
このフォーラムは、私も開催の起案者でもあるわけですが、こういうことをこのセッションでは
特に期待しています。ひとつは、環境・エネルギーについての認識を共有したいということ。
それから、それを解決するための方策についてのコンセンサスを得ていくということです。
3回のフォーラムを予定しています。もうひとつ、このフォーラムと並行してアジアの科学技
51
術についてのセミナーを開催したいと考えています。これは毎年1回くらいのペースで3回、
あるいはそれ以上開くことを予定していますが、その第1回を来年の早い時期に開催し、その
具体的なテーマや場所についてはこれから相談していきたいと。このフォーラムでの意見を
受けて、セミナーを開く。そのセミナーの結果をフォーラムに反映するということをやってはどう
かと考えています。
また、こういう議論だけをしていてもだめなので、こういう共同研究の準備を進めたらどうか。
それから、少し踏み込んで言うと、アジア・インスティチュート・オブ・エナジー&エンバイロメン
トリサーチというような共同の研究機構をつくる準備をしていったらどうか。あるいは、そういう
相談をさせていただきたい。こういうコミティーをつくって具体的に動いてはどうかと思ってい
ます。
“Monitoring, Assessment and Protection of Ecosystems in China”
中国科学院 地理学自然資源研究所 所長 Jiyuan Li (中国)
中国の環境問題について今朝のセッションでも話が出ましたので、私からは最新の情報を
お話したいと思います。私のプレゼンの内容ですが、まず初めに経済の急成長について。そ
して、その結果様々な深刻な環境の問題が起きました。それから、中国のエコシステムのモニ
タリングと評価について。それから、どのような対策があるのか。また、将来どのようなコラボレ
ーションの可能性があるのかについて、お話しします。
まず、簡単に経済の急成長について。そして、その結果どのような環境問題があるのかに
ついてお話します。中国では世界でも最も速く経済成長しています。GDPの毎年の伸び率
は約9%です。実質GDPは 20 年前と比べて 6.37 倍になっています。
しかしながら、この経済成長はよいことばかりではないわけで、様々な環境問題が起きてい
ます。例えば、この 20 年間のGDPの推移を示したグラフですが、この 25 年間国全体で伸び
ています。6~7倍伸びています。しかしながらその結果、中国全体に生態学的な脆弱な環
境があるため、様々な深刻な環境問題に直面しています。
この図ですが、広大な部分が中国では持続的な成長をするのは難しいと考えられます。例
えばここは乾燥地域、半乾燥地域です。国土の 52%を占めています。ここは高度高原です。
南部では、岩の砂漠化があり、約 100 万平方キロメートルになります。ですから、環境の背景
としてはよいところではありません。深刻な環境問題としては、土壌の侵食と砂漠化がありま
す。
これは非常に有名な 2000 年初めに起きた砂塵嵐です。中国の北西部、北京も影響を受け
ました。これは衛星写真です。中国本土から韓国、日本にまで影響を及ぼしました。私たちは
リモートセンシングの衛星写真のデータを使って調査を行いました。この部分は中国の中心
部ですが、砂漠が西から東に動いています。これは風の方向によるものです。この部分は、
人口の伸びとGDPの伸びに伴って非常に深刻な問題に直面しています。
また、水資源の問題、水質汚染、バイオダイバーシティの損失、外国種の問題もあります。
様々な省、様々な地域で様々な問題があります。例えば、最も発展している中国の東部では、
水質汚染が最も深刻な問題です。これが開発を制約しています。中国は発展途上国で、ま
だ工業化の過程にあります。そこで、こういった現象が起きるわけです。GDPにおける農業の
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割合は下がってきて、工業やサービス業が伸びてきています。
ということは、人口がふえて工業化が起きており、その結果、人口に関しては世界では最も
人口が多い国で、人口密度もとても高いのです。各地域間でよいバランスがとれていません。
人口密度が高いのは、非常に限られた地域に集中しているからです。労働力の大半は農業
に従事しています。農業に従事している人たちは、家族を都市部に連れていきます。その結
果、地方では人口が減少しており、都市部ではさらに人口が増加していくわけです。今後 50
年間、この状態は続くと考えられています。農業人口は今後も下がっていくでしょう。
こういった深刻な問題を抱えているわけですが、我々としては中国のエコシステムのモニタ
リングと評価をする必要があります。人口の伸びと経済の伸びが環境に非常に深刻な影響を
与えているからです。では、どのようなエコシステムが悪化しているのでしょうか。どのようなモ
ニタリングと評価をするべきでしょうか。そして、意思決定者にとってはどのような政策のオプ
ションがあるのでしょうか。こういったことを考える必要があります。
まず中国には、CASのサポートにより 1988 年に中国エコシステム・リサーチ・ネットワークが
形成されました。5つの専門分野のセンターとひとつの総合研究所があります。36 のエコロジ
ーの研究所がリンクしています。このような研究所で中国全体のリモートセンシングをしていま
す。約 1000 以上のセンターがこの活動に関わっています。
このようなネットワークを使ってモニタリング、リサーチ、デモンストレーションを行っています。
エコシステムの様々な面を見ています。今世紀の初めに新しいネットワークを構築しました。
これはチャイナ・フラックス・ステーション&オブザベーションと呼んでいます。チャイナ・フラッ
クスでは新しい技術を使い、水、エネルギー、炭素を観察していくものです。これは、その器
具の写真です。そして、これは水質、熱、CO2のフラックスの毎年の測定の結果です。
日本政府が非常に大きな予算で私どものリサーチワークを支援してくださって、感謝してい
ます。リモートセンシングのモニタリングのネットワークには日本政府、中国だけでなくシンガ
ポール、オーストラリアの人たちも参加しています。そして、APSもサポートしてくれていて、5
つのフラックスステーションがチャイナ・フラックスに参加しています。ですから、これは既に国
際的なモニタリング活動になっているわけです。
この環境モニタリングのために、データ・プロセシング・アルゴリズムを構築しました。例えば
これは、東アジア全体のモニタリングで、こちらは植生の状況を見ているもの、こちらはリーフ
エリア・インデックスです。こちらのデータサイトはネットワークで検証していきます。こちらは高
解像度のNDVIです。こちらは様々な季節での地表の温度変化を見ています。これは季節
ごとのヨウ面積指数を見ているものです。
こちらは、モーリスデータによるランドカバーのマッピングです。毎年こういったことをやって
いき、都市の成長、土壌の侵食、そして砂漠化等にどのような影響があるかを見ています。こ
の活動をリモートセンシングの観測データとリンクして、私たちはモデルを開発しました。例え
ばCEVSはハウ教授の開発されたものです。
これはNEPですが、過去 20 年間の温暖化が深刻になってきています。同時に、私どもはさ
らに、中国における陸地のエコシステムの二酸化炭素吸収量の時間・空間の変化を見ていま
す。NPPは、カーボン・シンカニ・ソースはほとんど変わっていません。地球の温暖化が起き
ていますが、土壌の活動も活発に起きています。ですから、NEPと土壌が新しいバランスを
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つくりだしています。
私たちはこのような新しいキャパシティビルディングをし、国全体のエコシステムの状況の観
測をしています。この設備を使って、統合されたエコシステムの評価を行っています。これが
非常に必要なことです。
4年前、国連のアナン事務総長は、ミレニアム・エコシステム・アセスメントというものを発表し
ました。これは国連の傘下で行われる活動ですが、世界各国のエコシステムの研究者が一緒
になり、ミレニアム・エコシステム・アセスメントの下にフレームワークを構築しました。人の福祉、
エコシステムの改善を行っていくというものです。そして、何がコントロールできて、何がコント
ロールできないのかということを見ていくというものです。
調査を4つの部分に分けています。人の社会はこちら側で、そのリンクを見ていきます。非
常に顕著な関係があります。評価をしていく上でも、これは非常に有益なものになっています。
それでは私たちの評価のプロセスですが、まず中国西部が非常に発展しているのですが、そ
の結果非常に大きな問題を抱えています。ですから、私たちは中国西部でこの研究にフォー
カスしています。
中国西部の問題を解決するために、国際諮問委員会を設置しました。例えばワタナベ教授
もそのメンバーです。これは私たちのシュウ・ワンガン大臣です。さまざまな調査が行われて
いて、アメリカン・テクノロジー・カイル・ソサエティーの教授の下で、様々な活動が行われてい
ます。
この情報を使って、完全に統合されたエコシステムの評価システムを構築しました。情報ソ
ース、データウェアハウス、モデリングシステム、そして意思決定をするためのナレッジベース
といったものが構築されています。このデータベースは中国西部のためのものですが、統合
されたプラットフォームを使ってデータベースを作成しました。そして、このデータベースを使
って評価をします。
特別なモデルを構築しました。その中には様々なモデルが入っています。私たちがフォー
カスしているのは、高精度のサーフェスモデリング。これは、マルチスケールの問題を解決す
るためのものです。このエコシステムの評価で中国西部の状況とトレンドを調査しました。過去
50 年にこのように変わってきています。この結果、過去 40 年間のトレンドを見ていくことができ
ます。だんだん温暖化しています。
降雨量はこのようになっていて、一部の地域では降雨量がふえています。中国西部の中心
部では、降雨量は大幅に下がってきています。次に蒸発量は、この 10 年間でこのように推移
しています。これは、何らかのエコシステムの調査をするためのデータになっています。中国
西部のエコシステムが変わっていることがわかります。
また、森林、草地、湿地帯などの様々なところでも評価を行いました。土地の表面、土地利
用がどのように過去 20 年間で変わっているのかというトレンドを見ていきました。赤いところが
都市で成長しているところ、緑のところは植林が行われているところです。こちらは伐採が行
われているところです。ここは耕作が行われているところです。様々な草地で、農地にするた
めに耕作が行われています。この図は、人が環境の変化に影響を及ぼしていることを示して
います。
また、私たちのモデルを使ってNPPとNEPのシミュレーションを行うことができます。また、
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エコシステムの食料供給サービスプログラムも行っています。中国西部のエコシステムの食料
供給サービスです。また、30 年代から 2000 年までの人口の伸びもこれでわかります。人口の
伸びに関しても、地域ごとの違いがあります。人口は主に中国東部に集中しています。
次に、エコシステムサービスと人の福祉について考えます。いくつかの調査地域において、
対立分析を行いました。例えばシンジャン省ですが、山脈部にありますが、エコシステムのオ
アシス、エコシステムを測定しました。そして、非常に成功しているモデルを水資源の利用に
関して開発しました。
また塩田ですが、人が土地利用のモデルを変えているため、塩田だったところが草地に変
わっています。また、チンジャンではこういったダムが構築されています。これは水、土壌の浸
食が深刻であるため、それをコントロールするためのダムです。新しい農地を構築しました。
そして傾斜地を保全するためのものです。目覚しい活動です。
これは揚子江の上流地域ですが、また別の例です。現在の土地リソースのエコシステムの
収容力を見たものです。2つの図に相反するものがあります。いくつかの調査結果が出てきま
した。状況について、エコシステムの収容力について、エコシステムの変化について。そして、
いくつかの対策を政府に提言しました。
私たちはMAシナリオを使いました。すなわち、気候の変化とプランニングによってどのよう
な変化があるのかということです。今後の 20 年、そして今後 50 年間の需要のシナリオをつくり
ました。中国西部の開発の重要シナリオです。この2つの要因の間で、政府に対して対策を
提言しました。
私たちの提言した対策ですが、この7つの点について政府に対して提言しました。一部の
作業は私たちがやっています。そのためのエコシステムの評価ですが、その結果、国際的な
ミレニアム・アセスメントの下でのフレームワークにもつながっているので、既に成果も出てい
ますし、基準も構築されています。近い将来、私たちはこのようなフレームワークを使って、さ
らに多くの評価、研究をしていきたいと思っています。
コラボレーションということに関してフォーラムに私からの提言ですが、最新の開発のペース
を保ちながら、地域的、国際的にこのペースを保っていくことが重要です。さらに、様々なニ
ーズがあります。いくつかの注目点があると思います。まず初めに、環境モニタリングの能力
を改善するということ。そして、私たちはデータ共有のメカニズムを構築する必要があります。
データソースをアジア地域内でオープンにし、これは持続発展のためですが、このエコシステ
ム評価においてお互いに取り組むために、コミュニケーションをさらに促進する必要があると
思います。
最後に、この図をお示しします。私たちの提案としては、こういったプロジェクトを促進するた
めのアジアリサーチセンターを設置したいと思っています。これは自然科学者、社会科学者
が一緒になって、アジア全体でのモニタリング・リサーチ・ネットワークを構築し、一緒に取り組
んでいきたいと思っています。
また、アジア諸国のための統合モデルを応用し、それらの研究成果を使ってさらに成長を
促し、国際的な協調を図っていきたいと思います。そして最終的な目標は、アジア諸国の持
続的な発展のためのシナリオを作成することです。
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“Environment and Energy Issues in the 21st Century”
気候変動に関する政府間パネル 議長 Rajendra K. Pachauri (インド)
今日は、私の話の中でもフォーカスを絞ってお話したいと思います。環境やエネルギー問
題の全部をカバーしてお話しようとすると、若干無理がありますし、時間もかかってしまいます。
今回いただいた時間も限られていますので、なるべく焦点を絞って話を進めていきたいと思
います。
まず、OECDの国々においては、それぞれの国のローカルレベルでの汚染は比較的低い。
その一方で、発展途上国から先進国に移行している国々や途上国などでは、非常に汚染の
レベルも高いということになります。では、国民1人当たりの使用エネルギーを見ると、OECD
加盟国と移行期にある国々のエネルギー消費も非常に高いのです。世界的な汚染への累積
的な貢献を考えると、OECD各国と移行期にある国々は非常に高いレベルを維持していま
す。
その一方で開発途上国においては、ローカル・ポリューションは非常に高いレベルであるの
ですが、エネルギーの消費量や世界的汚染への累積貢献という意味では、非常に控えめで
あるということが言えます。
ここで非常に重要なポイントとしてぜひ紹介したいのは、環境クズネッツカーブというカーブ
があります。クズネッツというのは経済学者の名前ですが、こちらは人口1人当たりの収入と環
境の劣化の関係を示したグラフです。1人当たりの収入が上がると、非常に環境が悪くなると
きがあり、そしてピークを経るとターニングポイント、環境が多少改善されるという傾向がありま
す。
科学技術に対しては、何かこのカーブ、あるいはこの現実を打ち破る解決策がないだろうか
ということを、ひとつの課題として提示してみたいと思います。もちろん、ここでコストがいくらか
かってもよいかというと、そういうことはないのですが。
もうひとつの図を見てください。エネルギー・インテンシティ対時間の相関関係についてで
す。これも、先進国と開発途上国ではずいぶん違います。こちらのグラフではイギリス、アメリ
カ、旧西ドイツ、フランス、日本といった国の状況です。それら先進国に対して途上国はどうか
というと、右下に入っています。
エネルギーの効率的な使用が望まれますし、それから例えば国内総生産で 1000 ドルにな
るために消費するエネルギー量はどうなのか、これがまさにエネルギー・インテンシティです
が、それをもっと少なくとどめていくことが重要かと思います。
有馬先生が先ほど、気候変動に関する課題は何なのかということをおっしゃっていました。
私の話の中では、気候変動が環境やエネルギーといった分野においてどのような影響を及
ぼしているかということをお話ししたいと思います。気候変動といってもどういう範囲、どの程度
のことなのかと考える方もいるでしょうから、若干説明します。
1990 年代では世界的に最も温暖な 10 年で、98 年が一番暖かい年でした。地球レベルで
地表の温度は 1990 年から 2100 年の間に平均で 1.4~5.8℃上がると言われています。世界
の平均海面は、1990 年から 2100 年の間に 0.09~0.88 メートル上昇すると言われています。
さらに、気候の変動性と非常に極端な気候のあり方というのは、これからも目にすることになる
であろうと言われています。
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次に、では人間に対して、あるいは人間の行為によって環境にどのような影響があるかとい
うことをグラフにしたものです。縦軸に温度の変化、横軸に時間(年)を示しています。自然の
状態では、このようなカーブになります。人為的に何か手を加えると、温度の変化は右上のよ
うになります。さらに場合によっては、下のようなグラフにもなりうるということです。
では、気候変動と持続可能な開発を組み合わせて考えてみたいと思います。例えば気候
変動は、既に環境問題を悪化させることが明らかになっています。生物多様性が失われたり、
大気汚染がひどくなったり、砂漠化が進んだりしています。
気候変動によって、これからのそれぞれの国の開発によって何が起こるかということもいろい
ろと示唆されていますが、例えば病気が蔓延するということもあるかもしれません。また、各国
のいろいろな意味でのインフラにも影響が及ぶかもしれません。当然、自然資源の劣化や減
少もあるかと思います。
特にアジアの国々では、農業が非常に重要なポジションを占めています。中国、インドとい
った国々では、それぞれ 76%、57%の人口が農業によって生活を営んでいます。彼らの生
活の糧である農業から、GDPの相当に大きな部分が発生しているわけです。ですから、アジ
ア、アフリカもそうですが、農業経済国ではこれを無視することはできません。ということは、気
候変動は農業にも影響を及ぼします。例えば収穫量、収穫パターンが変わってくるかもしれ
ない。さらには、間接的にも土壌中の水分や害虫や病害の分布や頻度にも影響があるかもし
れないと言われています。
農業が非常に脅かされるということになれば当然、食料の確保、ひいては人間の健康に対
する影響が出てくると言えるわけです。例えば旱魃、異常に高い気温がもっと頻繁に起きてく
るでしょう。余りにも高い気温などの極端な事象が起きれば、自然環境にもストレスを及ぼし、
例えば家畜の死亡がふえるといった問題にもつながるわけです。
既にアジア地域で起きている影響のいくつかを、こちらに書いています。土や水資源へのス
トレスが既に見られています。それから、エコシステムや生物多様性が脅かされている例も
多々あります。また、特に中国の主要な農産物の収穫量が減りつつあると言われています。
それから、温暖化が進んでいるために、例えばモンゴルや中国では動植物の南限が北に動
き、南半球では南極に近づいていることが既に起こっています。
では、これらの気候変動に大きな影響を及ぼしていると言われる二酸化炭素の濃度につい
て考えてみましょう。二酸化炭素濃度、温度、海水面の高さは、二酸化炭素の排出が非常に
多く、また非常に長期に続いているために大きな影響が見られています。これはいまや一国
だけ、あるいはアジアだけの問題ではなく、世界のエネルギー問題にとってどういう問いが投
げかけられているのか、将来どうしたらよいのかということを考えてみましょう。
まずは、なぜそういった事象が起きていて、その事象によって最終的にどういう結果が出て
くるかということについてよく理解することが重要だと思います。それから、事実を理解した上
で、必要な投資を行わなくてはいけないと思います。現在の試算では 16 兆ドル、2030 年まで
に1年当たり 5680 億ドルの投資をしないと、いまの状況が改善されないという試算もあります。
その額の半分は途上国に向けるべきであるという考えもあります。
エネルギーの面において、非常に貧困層が被害を被っている。そのような貧困層を減らし
ていくことも望まれています。そして、エネルギーの安全保障については、それぞれの社会の
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政治的な力を蓄えていくことも必要だと思います。また、需要と供給の2つの側がありますが、
それぞれのニーズを満たせるようなイニシアチブをとっていくことも重要でしょう。
世界レベルで言うと、主要エネルギー供給のトータルは毎年 1.7%ずつ伸びると言われてい
ます。2030 年には、エネルギーの供給量が1万 6487MTOEになると言われています。これ
は既に 2002 年には1万 345MTOEなのですが、大変なペースでふえていくという見方があり
ます。さらに 2030 年には、二酸化炭素の排出量は3万 8214mtになるだろうという試算も出て
います。
この二酸化炭素の排出については、規制などで若干抑えることができるにしても、まだ伸び
続ける傾向があるということです。そういう状況の中で、私たちは世界的にどのような政策をシ
ナリオとして描いていけばよいのでしょうか。2030 年の仮定をここにあげていますが、まずは
主要エネルギー需要をいまより 10%減らせないだろうか。それから、二酸化炭素の排出もい
まより 16%削減することはできないだろうかということを、私たちは訴えています。
実際のデータを見てみましょう。1970 年代から 2001 年のデータをまとめたものです。IEA加
盟国の中で、R&Dの予算がどれだけ充てられたかということを表しているのですが、特に
1973、74 年にオイルショックがありました。そのために 70 年代後半から 80 年代においては、
R&Dの予算も一気に上がりました。その後は残念ながら多少下降気味であったのですが、
最近再びこれが持ち直していく傾向があるようです。
貧困がいまは世界的な問題として出ているので、エネルギーや科学技術の予算を必要以
上に削ってこれ以上貧困層をふやしてはいけないという思いが、各国にはあるのではないで
しょうか。
政策をいま現在の政策から今後の政策に変えるために必要なこととしては、こちらを見てい
ただきたいと思います。例えば、非常に進んだ発電技術の削減もひとつだと思います。ここに
書いてあるIGCCというのは、インテグレーテッド・ガシフィケーション・コンバイン・サイクルの
頭文字です。それから、原子力のよりよい活用というのもひとつはあると思いますし、コジェネ
レーションに対するインセンティブを導入するということも必要かもしれません。
そして、輸送については、いろいろな乗り物の効率を改善すること。これは乗り物だけでは
なく、価格や規制についても言えます。それから各産業界に対しては、例えばエネルギー関
係の監査を行う。あるいは、こういった分野での報告をきちんと行うような規制を実施する。そ
して、基準をきちんと満たしている企業に対しては、インセンティブを付与するといったことも
重要かもしれません。
私たちが何か改善していくためには、国レベルでの政策が変わっていかなければいけない
と思います。科学技術は、政治家が政策のためのニーズをまず理解しなければいけない。そ
の意味では、政治家や政府に対しての啓蒙も重要になろうかと思います。
グローバルなエネルギーシステムを再構築するということを考えると、次のようなことが言える
かと思います。マーケット主導型あるいはマーケットベースのメカニズムにおいて、関係機関、
団体、人々がもっと参加するべきだと思います。例えばこのようなフォーラムもそのひとつだと
思いますが、いろいろな技術を、その技術が既に使われている国からまだ使われていない国
にどんどん移転していくことも提案したいと思います。先進国と途上国との間で、ジョイントで
技術開発プログラムなどをどんどん行っていくのがよいと思います。
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これまでにいろいろなイニシアチブやアイデアがあったとしても、それは時として持てる者が
持たない者に対する援助的なプログラムが多かったわけです。したがって、根本的な貧困の
問題は解決されない。今後は、そこになんとかストップをかけないといけないと思います。言っ
てみれば、技術のエンパワーメント、権限委譲。貧しい人々も情報技術を駆使する能力を手
に入れ、トレーニングをし、再生可能なエネルギー技術や農業のバイオテクノロジーなどを学
び、それを自分たちで消化して活用していく方向にもっていかなければいけないと思います。
気候変動についてのアプローチですが、緩和あるいは軽減が重要になろうかと思います。
私の友人でもある茅陽一先生が先ほどお見せした方程式をつくりました。これで例えばエネ
ルギー・インテンシティを減少させるとか、二酸化炭素の排出を減らすためにどうしたらよいか
ということも少し見えてきます。
それから、技術介入ですが、ここに書いてあるようなことが言えるかと思います。例えば、排
出された二酸化炭素を何かで封じ込めてしまう。あるいは、生物学的に二酸化炭素を吸収し、
何かに吸い込ませて大気中に排出しないようにするといった技術も開発されているので、ア
ジアというこの地域でどんどん導入されるべきだと思います。農業面での介入も必要に応じて
行うべきでしょうし、自然資源の管理をよりよく行うべきだと思います。水資源の保護や雨水の
活用というのも、これからのチャンスにつながるかもしれません。
農村部におけるエネルギー介入では、例えば再生可能なエネルギー、つまりクリーンで効
率的なエネルギーの導入やバイオマスプラント、バイオマスを利用した発電所。もっと一般的
な話としては、料理用のレンジを改良型にするといったこともあるかもしれません。
これまでに私たちはいくつかのサクセスストーリーも聞きました。そういったこともベースにし
ていまスタートしているのが「インステップ」、新しい持続可能な技術を統合し、それによって
貧困を撲滅するイニシアチブがスタートしています。このインステップは国、地域だけではなく
グローバルなレベルで活動を進めています。統合型の解決策アプローチをとらないと、問題
は解決しないと思っています。
ひとつの例としては、バイオマスシステムの近代化です。例えば生物燃料もありますが、薪
などを直接燃やしてエネルギーにするのではなく、それに代わるものといった方策やアイデア
を活用する余地はまだあると思います。
私たちが直面している課題は、グローバルビジョン、コミットメント。いままでにないほどのビ
ジョンとコミットメントを掲げるべきであると。そして、その中で技術はキーとなりますが、その一
方で社会的、経済的な側面も併せて考えていかなければいけない。また、グローバルフレー
ムワークの中で、プライオリティーをベースにして技術を再定義する必要があるとも考えてい
ます。
“Environment and Energy Issues: Roles of Science and Technology to Promote Sustainable
Development in Thailand” 自然資源環境省 監査長 Monthip Siratana Tabucanon (タイ)
タイの過去 20 年間の経済成長は他の途上国と同じですが、産業化があります。81 年以来、
製造業が 10%以上伸びています。GDPを見ると、製造部門は 81 年が 23%でしたが、2005
年は 29%にまでふえています。製造の構造も大きく変わりました。企業の数は、例えば組立
金属製品、機械、輸送器具等の企業の数が大きくふえています。
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こういったところでの付加価値の割合も、2003 年の価格を使ったものですが、エネルギー消
費が非常に伸びています。そして生産コスト、エネルギーの価値。こういった製造業は汚染度
が高いわけです。特に有害廃棄物、有毒廃棄物です。
国内のエネルギー生産を見ると、タイはエネルギーの大半をまだ輸入に依存しています。こ
の表は 2000 年から 2004 年にかけてのエネルギーの需給を表したものです。需要は毎年伸
びています。そして、輸入も伸びています。
こちらはタイにおけるエネルギー生産の割合です。天然ガスが 57%で一番大きくなってい
ます。天然ガスはバスやタクシーで主に使われています。
こちらは 2000 年から 2004 年の商用エネルギーの伸びを表しています。国内で生産された
石油は、全体容量のわずか7%です。これは生産後は国内の製油所に送られます。これはタ
イにおける輸入されたエネルギー量のコストですが、原油、ガソリン、そして天然ガスが伸び
ています。2003 年から 2004 年にかけて、タイの平均のエネルギー消費は年間 10%以上伸び
ました。これは今後さらに需要が伸びることを見越して、電力の拡大が進行中です。
このグラフもタイのエネルギー消費を表しています。地域的な協力が行われています。グレ
ーター・メコン・サブリージョンとしてタイ、中国、ラオス、ベトナム、ミャンマー、カンボジアがあ
りますが、我々はMOUを交わしました。ラオスからの 3000Mw の電力の輸入に関するもので、
これは 2006 年まで。そしてミャンマーとは、2010 年までに 1500Mw の電力の輸入のMOEを
交わしました。さらに、中国のヨンニャンの水力発電プロジェクトから、7500Mw の電力の輸入
をするための契約を締結しています。
ラオスからタイへ。そしてミャンマーからタイへは、ミャンマーからガスを買って、ラオスからの
火力発電所です。こういったものが様々なプロジェクトです。これは将来のプロジェクトです。
石油、天然ガス、石炭、そして褐炭が 2004 年のエネルギー使用の大半を占めています。再
利用可能なエネルギーは、燃料炭、そして稲からなのですが、これは全部のエネルギーの
26%を占めています。これが様々なソースからのエネルギー消費です。産業と農業が主なも
のです。
バンコクにおける環境の状況ですが、大気について話したいと思います。バンコクはタイの
首都で経済の中心であり、社会活動の中心地でもあります。人口は 1000 万人以上です。車
の数は 500 万台以上です。この図はダストの問題を表しています。この粒子はトラックやバス
などの車から出るものですが、非常に高い値を示しています。
もうひとつの大気汚染の問題は、火葬場の問題です。バンコク全体に 300 以上の火葬場が
ありますが、そのうち 112 がまだ標準以下でした。悪臭と大気汚染を示した図ですが、こちら
が火葬場の基準です。この基準の結果、排出がどのくらい削減できるかということです。
もうひとつの汚染源は建築工事です。現在政府はダスト対策のための立法化をしています。
道路側に様々な観測所があります。多くの場合は pm10 以上のものを観測しています。こちら
が大気質の観測所です。こちらでも pm10 を超えているものがあります。また、オゾンも基準値
を超えている場合があります。沿道での大気質も私たちは観測しています。pm10 が基準値を
超えている場合があります。10μ以下の微粒子が現れるときもあります。
大気汚染から生じる国民の健康問題ですが、主に呼吸器関係の疾病が顕著になっていま
す。これは、呼吸器官系の疾病と pm10 の相関関係です。pm10 に暴露が多い場合には、子
60
供は9%、成人では 26%で pm10 が上昇します。立方メートル当たりに 30 マイクログラム。入
院が 5.3%から 17%にふえています。こちらは呼吸器疾患のピークと外来患者の数を表して
います。また、交通整理をしている警官もマスクをしなければいけないことがあります。
健康状況ですが、6つの都市で調査を行いました。6億 4300 万米ドルの影響が出ています。
6つの主な都市で見たところ、バンコクは他の都市よりも影響が大きいことがわかりました。
pm10 による医療コストが毎年伸びています。
こちらは地表水の汚染ですが、様々な大きなものがありますが、処理施設はあるのですが
十分にカバーすることはできません。そして、下水がそのまま放流されています。これはバン
コク首都圏における排水の質を表しています。排水の量は毎年伸びています。処理施設のB
ODのローディングも高まっています。こちらは現在運行中の施設と、建設中のものです。地
下水汚染も大きな問題です。
一部の世帯では、水洗トイレではないものを使っています。その結果、アンモニアや悪臭の
問題が出ています。800 立方メートルの飲料水がバンコクで消費されています。それから、固
形廃棄物、有害廃棄物も問題です。
タイでは平均で1日当たり1人当たり 0.65 の廃棄物を出しています。これはタイ全体の平均
ですが、一方でバンコクでは 1.3 です。政府は現在、ごみを減らしてリサイクルをふやそうとし
ています。例えばバンコクと東京を比べると、東京に近づいてきているわけです。こちらが固
形廃棄物の内訳ですが、固形廃棄物の量が伸びていますが、内訳は主に生ごみです。これ
は廃棄物の種類です。次にリサイクルですが、バンコクでの廃棄物のリサイクル率はわずか
15%です。
科学技術に対する政府の政策ですが、あらゆるレベルでの人材開発を行っていきます。そ
して、新しい経済に入るために、国自体の発展を急ぎます。そして、R&Dにおいて科学技術
を促進していきます。これは中小企業の発展を促進します。科学技術を使って経済、社会、
環境問題を解決したいと考えています。
また、この国の経済の発展、社会の発展においても様々な科学技術を使っていく。それか
ら、科学技術に対する法律の改正を行うこと。それから私が所属している省ですが、現在この
面で活発に活動しています。人、ローカルコミュニティの参加を促すということです。人、コミュ
ニティーが廃棄物のコントロール、廃棄物の減量に積極的に関わっていくこと。環境を管理し
保全するための研究開発を進めていくということ。そして、国としての環境基準を設置すると
いうこと。
また、これはタイの天然ガスをさらに活用するための科学技術を開発する。そして、代替エ
ネルギー資源を探していくということ、そしてエネルギー管理を行っていくということ。エネルギ
ー価格を適切な金融政策によって探っていきます。
科学技術の役割ですが、いろいろな調査を行っているのでそれを紹介します。最初は需給
に関する調査です。この目的は、需給を見ていくということです。そして、リーシュトコストの開
発戦略を立てていきます。また、これまでの過去の経済発展を見ていきます。そして、長期的
な発展を見ていきます。そして、需給を見ていきます。最も実行可能なエネルギー・サプライ・
オプションを見ていきます。
次はエネルギー保全計画です。これは、エネルギー政策をエネルギー資源という観点から
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見ていくものです。どのようなオプションがあるのか。そして、エネルギー保全計画を実行して
いきます。そして、ステークホルダーの態度と信念、政府と民間のリーダーのポリシーに関し
て。これは電力、建物、業界、そして輸送部門における発展をめざしたものです。
リサイクルとエネルギー保全計画に関してですが、廃棄物がふえているのでリサイクルをさ
らに進めていかなければいけません。したがって、エネルギー保全計画が必要になり、その
中にリサイクル戦略を盛り込んでいく必要があります。既存のリサイクルのインフラを構築し、
様々なリサイクルアプローチのケーススタディを開発していきます。そして、リサイクルに関し
ての様々なアプローチのケーススタディを分析していきます。
もうひとつの調査は、産業、都市、交通におけるエネルギー利用の管理をして、温室効果ガ
スと大気汚染をコントロールしようと考えています。主な目的としては、温室効果ガスを削減す
るということです。都市の様々なセクターで見ていきます。これは乗客の移動性と貨物輸送の
需要を特定します。そして、自動車の数を評価していきます。エネルギーシナリオ、二酸化炭
素を特定していきます。持続的な発展を促進するためにも、総合的なアクション戦略を考えて
いきます。そして、様々な都市部の状況に基づいた排出削減をしていきます。
もうひとつの調査は、再生可能エネルギープログラムの環境的な外的要因と社会的メリット
の評価です。ここでは、どのような特定のエネルギーの利用によって社会的なメリット、そして
外的なコストが発生するかを見ていきます。政策立案者に対して、持続的発展という観点から
再生可能エネルギーの利用を促進する上で必要な情報を提供していきます。また、どのよう
な外的要因があるかを見ていきます。
バイオマスに基づいた電力発電の状況の評価です。再生可能なエネルギーの利用を促進
するためにどのようなリソースがあるのかを見ていきます。財政的、経済的、そして環境影響
的にどのような意味があるのかということを見ていきます。バイオマスの利用を普及するために
どのような障壁があるかを見ていきます。
次の調査は、都市部における健全なエネルギー管理です。都市部の温暖化、温室効果ガ
スの排出削減に取り組むための施策を考えていきます。温室効果ガス削減について、都市
部での大気汚染に関しての戦略について。そして、法人部門における排出権取引、強制的
な削減についてです。エネルギー・環境管理における国家、地方自治体のキャパシティビル
ディングです。
これまで主にエネルギー関係の意思決定は国レベルで行われてきたので、地方自治体は
あまり注力してきませんでした。また、地方自治体レベルでは総合的なポリシーがありません。
エネルギー、環境の管理に関するキャパシティビルディングについては、現在においても総
合的な政策フレームがあり、それを細分化しています。したがって、二酸化炭素を削減するた
めの取り組みとしては、科学的な情報ベースを改善する必要があります。国レベル、地方自
治体レベルでの統合化した方策が必要です。影響に関してのポリシーの統合が必要です。
全体的な都市レベルでの計画を立案するためのセクター別の計画の方向付けをします。ポ
リシーを統合するための国際機関の役割をふやしていきます。また、地方レベルでの地域の
協力に関しては、ひとつは貧困の撲滅のための、そしてアジアの持続的な発展のための代
替可能エネルギーのパートナーシップです。これは「パートナーズ・フォー・アジア」と呼んで
います。パートナーシップを通して貧困の撲滅を実現するために、再利用可能なエネルギー
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の役割を探っていきます。
これは「ミレニアム・デベロップメント・ゴール」とリンクしています。アジアのエネルギーの貧
困の問題に対応するものです。パートナーシップというのは、再生可能なエネルギーと持続
的なリソース管理です。ポリシー・パートナーシップとしては、燃料利用における政府の政策、
コジェネレーションに関するガバメント・ポリシーです。アクション・パートナーシップはバイオエ
ネルギー、そして小規模水力発電はアクセスしたエネルギーサービスを改善するためのもの。
プログラム・パートナーシップは、貧しい家庭における屋内での大気汚染の削減です。
アクション・パートナーシップは水と公衆衛生。ポリシー・パートナーシップは総合的な再利
用可能なエネルギーのポリシーの方策です。アクション・パートナーシップは地方の電化のた
めのエネルギーサービスです。
もうひとつが、アジアにおける共同の酸性化の調査です。酸性化はエアマスとして地域レベ
ルで輸送されています。この調査では、様々な大気汚染物質の排出を見ていきます。毎年更
新していくためのコスト効果のある方法におけるキャパシティビルディングを通して、持続的な
排出のデータベースを構築していきます。クリティカルロールに関して、それから統合された
評価方法に関してです。
最後に結論です。現時点で日本政府は、アジア諸国をサポートしています。例えばタイで
は、日本政府は 14 年前に 2000 万米ドルの支援をしてくれました。その結果、研究所やトレー
ニング制度を設置しました。これが日本からの最初の環境分野における支援です。タイの次
に、2番目のセンターがインドネシアに、3番目に北京が設置されました。それからメキシコ、
エジプトでも同様のことが行われています。JICAや日本政府がアジア諸国の支援をしてくれ
ています。こういった日本の支援の下にアジアで構築された研究ネットワークを活用して、科
学技術の役割をさらに高めていきたいと思っています。
また、都市部での経済が伸びていて、需給のギャップも大きくなってきています。今後さらに
経済成長が続けば都市への集積もさらに大きくなるので、それが環境の悪影響を及ぼします。
エネルギー・環境に関するR&Dにおいては、制度取り決め、政策技術、パートナーシップと
いった要因が持続的な発展に大きな影響を及ぼします。
“The Natural Resource Management Approach: A Sustainable Way in Agricultural and Rural
Development” アンジャン大学 学長 Vo-Tong Xuan(ベトナム)
統合型自然資源管理、農業と農村部の開発にとっての持続可能な方法というタイトルでお
話したいと思います。8月 31 日に、国連からこういったニュースレターが出ました。「世界の資
源」というニュースレターが出て、このときの特集は「貧しい人たちの富」というタイトルでした。
ここでも示唆されているように、エネルギーや環境は極限状態というか、非常に貧しい人たち
にとって何を意味しているのか、どういう影響を持っているかということについて触れたいと思
います。
人里離れた農村部に住んでいる人たちは、本当に情け容赦なく自然資源を、例えば燃料と
して必要、食べ物として必要、家畜の餌として必要だということで、どんどん使ってしまってい
るわけです。ところが、それによって彼らの貧困が改善されるかというと、そんなことはないの
です。
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いま環境に対して脅威が迫っている中、これが貧困にどう関係してくるのかということを考え
てみてください。国連の開発計画によると、毎日 10 億人以上がお腹をすかせたままで床に入
るという数字が出ています。さらに、何 10 億ドルもの資金が農業などのリサーチなどに毎年使
われているのですが、それなのに貧困という問題は解決されていない。
さらにベトナムや中国では、人の収入自体はふえないのに、食物の全体はとりあえずふえ
ているという状況もあります。ですから、モノはあっても、収入がふえていないために国民ある
いは市民は結局それを買うことはできない。これはこの 20、30 年非常に顕著になっています。
食べ物はより多く収穫されているのに、それが手が届かないという非常につらいジレンマがあ
ります。ですから、とにかく収入を上げていくしかないわけです。
ここで、ある報告書の一部を引用したいと思います。世銀と国連開発計画がまとめた「世界
の資源 2005 年」というものですが、先ほど表紙をお見せしたニュースレターの中から引用して
います。この中で、極限状態の貧困に悩んでいる 11 億人にとって、自然というのはライフライ
ンであると言っています。そして森林、海や川、畑でとれる収穫物は、農村部に住んでいる人
たちの直接の収入にはなる。しかし、自分たちの働く場所、例えば勤め先がなくなってしまえ
ば、自分たちのライフラインとして、万一のときに頼りになるものとしてとられていると言ってい
ます。
さらに、貧困を軽減するための様々なプログラムがあるものの、環境と農村貧困層との重要
なつながりを無視しているために、なかなかそれらのプログラムが機能していないと言ってい
ます。したがって、いまはもっとホリスティックな、あるいは全人的な、全体論的なアプローチが
必要だということを言っているわけです。
もうひとつ引用します。これはマハトマ・ガンジーの言った言葉です。「彼のことを忘れるなか
れ。彼のことを忘れるなかれ。彼は夜明けから日暮れまで、貧しさと汚れを背負いながら畑を
耕している。そんな彼を忘れるなかれ、そんな彼を忘れるなかれ」という言葉を彼は言ってい
ます。
そういう状況に対して、何が解決策となるでしょうか。貧困の軽減のためには、もちろんその
人たちの生活を向上しなければいけないということは当然、彼らの収入をアップさせなければ
いけない。一方で、彼らが安全な食料を必要最低限手に入れることができるようにしなければ
いけない。そのためにも、自分たちでも、食べ物をつくってくれる自然資源を守っていかなけ
ればいけないわけです。
そこで考えられるアプローチとしては、いくつかあります。まずひとつは、トップダウンのプロ
グラムを導入するということ。政府主導で、寄付などをしてくれるスポンサー団体の援助を入
れてやっていく。これがおそらく世界で最初にとられたアプローチではないかと思います。とこ
ろが、50 年経ったいまでも多くの人たちが貧しさにあえぎ、その一方で自然環境も劣化して
いるという状況があります。
次に出てきたアプローチは、参加型のアプローチです。これはもっと多くの利害関係者を取
り込んだものです。ただ、残念ながら初期の参加型プログラムというのは、よりローカルという
か地元密着型で、投資にしても額が少なく、それを監督する分野が単一の分野であるという
こと。あるいは、ひとつのものに対してひとつの見方でしか対応してこなかったという事実があ
ります。
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それはどういうことかというと、それに参加している人たちは、「私たちはこの見方でこういう
観点で貧困を軽減しようとしているのだ」ということで、他の分野からの意見や他の分野から来
る教訓などはあまり目を向けないという形だったわけです。
ところが、いま貧困問題は待ったなしで、1992 年のリオの会議で採択されたアジェンダ 21 に
もありますが、農業と環境とマクロ経済的な政策において、国あるいは国際レベルで大幅に
調整を加えるべきであるということが言われました。さらに、人を教育していくこと、経済的なイ
ンセンティブをもっと有効に活用し、適切かつ新しい技術もどんどん導入するべきだという意
見も採択されています。
その後、ヨハネスブルクサミットで採択されたアジェンダの中には、こういうことが書いてあり
ます。これは持続可能な開発に関する世界サミットでしたが、この中で持続可能な農業を再
定義しました。この中では、貧しい人たちはよりよい暮らしをするために援助を得られるべきで
あると。しかしその一方で、彼ら自身も自分たちの環境を守るべきであると言っています。
さて、持続可能性ということがよく言われますが、このコンセプトは次のようなことを示してい
ます。土地や水、生物多様性を保全するということ。それから、環境を劣化させないということ。
そして、技術的に適切であるということ。経済的に可能であるということ。社会的に受け入れら
れるものであるということ。この5つは、まさに持続可能性のクライテリアともなるものです。
多くの科学技術の進歩の中で、このようなことも言われています。外的なインプットのレベル
が低いパターンと、レベルが高いパターンということで違いが出てきています。それぞれにメリ
ット、デメリットはあるわけですが、いずれにしても単一分野、あるいは単一の見方や方向性だ
けで科学技術を導入しようとすることには、マイナスの部分があると思います。
コメを生産するにしても、今日はコメの専門家が来てコメの話をして、あすは家畜の専門家
が来て家畜の話をして、次の日は水産の専門家が来て水産の観点から「こうしなければいけ
ない、ああしなければいけない」という話をして帰ってしまう。このようなアプローチ、あるいは
開発の仕方では、近視眼的なものになってしまうし、なかなかいままで知識や経験を積めな
かった農民にとっては混乱が広がるばかりです。ですから持続可能というより、持続不可能な
非全体論的なアプローチになってしまいます。
そういう状況を鑑みて設立されたのがINRMグループです。これは統合型自然資源管理グ
ループと訳すことができますが、毎年様々な地方から関係者が集まり、2001 年から毎年会議
を行っています。科学者も参加しています。コロンビアのカリという町にあるシアットという組織
が、事務局を引き受けてくれています。話し合いはずっと継続していますが、あくまでも単一
分野の人たちが集まるのではなく、学際的な集まりとなっています。まだ科学技術については
この方向性で行くべきだというコンセンサスには至っていないのですが、様々な考えが寄せら
れています。
一方で、国連のFAOからもあるイニシアチブが発表されています。例えば、基本的な栄養
要件を人々が満たせるようにということ。それから、環境を劣化させることなく、あるいは環境に
悪影響を及ぼさない中で、生産的な人のキャパシティをアップさせるということ。それから、農
業セクターの脆弱性を軽減していこうといったことをFAOはうたっています。
何年にもわたってこういうことを訴えてきた人たちもいるものの、ようやくグループとして組織
化されたことは非常に喜ばしいことだと思います。統合型自然資源管理グループは、この 10
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年くらいベトナムでも非常にプラスに捉えられていて、このアプローチはベトナムだけでなく、
その他の国々でも採用されつつあります。そして、皆の思いはひとつで、貧困を軽減し、持続
可能な農業開発を可能にしたいと皆が思っています。そして、そういった人たちに採択されて
いる非常に革新的なアプローチです。
ここで私たちがターゲットとしているのは、まだ非常に貧しい暮らしをしている貧困層の農民
たちが問題点をきちんと理解し、そして自分たちの人的資源、それから自然資源を上手に管
理できるようにするということです。このターゲットを達成するためには、先ほどから言っている
ように学際的な人たちから成るチームが手伝うべきであると考えます。
ジャカスという団体からの援助というか協力ももらっています。ただ残念ながら、ベトナム側
の技術者、科学者は自分の分野にこだわりがちであるということがあって、例えば水産養殖や
農業などがばらばらになりがちなのです。ですから、これからはもっと科学者たちにもINRM
の考え方に賛同してもらえるよう、努力していきたいと思います。
21 世紀になりました。最適な農業生産システムのクライテリアとしては、次のようなことが言え
ると思います。まずは、それぞれの地域によって相対的な強みがあると思います。これを大い
に活用して、競争力を持ちながらバイオマスを生産していく。そしてそれを例えば食べ物に変
換していく、家畜の飼料に変換していくといった工夫が必要だと思います。
午前中に有馬先生もおっしゃっていましたが、少なくともまず地元の、現地あるいはローカ
ルなレベルのいろいろな特色などの持っているものをまず活用すべきであろうと。そして、次
にその地域に適切な持続可能かつ経済的かつ生態学的かつ社会学的かつ倫理上適切な
システムを選んで、それを使っていくということも重要です。
そして、そのことを考えつつINRMとしては、ステップを踏んでだんだんとこういった方向に
もっていこうと考えています。ステップ1として、それぞれのローカルの問題点を明らかにして、
資源がどれだけ劣化しているのか、どれだけ影響を受けているかを明らかにする。そのため
には、例えば物理的また社会経済的にどのようなデータがあるのかをつかみ、相対的な長所
を明らかにし、そのままいくとどういう選択肢があるのかということを予見する。さらには、それ
をすればどのような恩恵があり、どれだけ効率が上がるのかということがわかってきます。
次のステップでは、ステップ1で集めたデータを分析します。そして、どの農産物、どの家畜、
どの水産物が適しているかを選ぶ。もちろん、それに対して他の選択肢も考えます。そしてそ
れぞれの分野に専門家がいますから、それぞれの専門家がリサーチにとりかかるということで
す。
そしてステップ3では、集合的なリサーチ活動を行うことを提案したいと思います。ここでも科
学者だけではなく、現地の農民も一緒に資源管理ガイドラインを考えるべきでしょう。さらに農
民だけではなく、政策決定者の参加もここでとても重要になってきます。
そしてステップ4では、政策ガイドラインをつくって、同様のアグロエコシステムに及ぼす結
果を推定していく。そして、実際に先ほど言った持続可能性の5つのクライテリアに基づいて、
影響評価をする。そして必要に応じてさらに工夫を加える、改善するということです。
今言ったことを図にしてみると、こんなふうになります。右側にはいろいろな家畜、例えばア
ヒル、豚、水牛などがあります。真ん中には人と市場があります。そして、下にはバイオダイジ
ェスターがあります。バイオダイジェスターからは、人や家畜の排泄物を栄養分として、例えば
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池などに戻す。そしてそこから、栄養分がコメや根菜、油ヤシ、砂糖ヤシ、サトウキビといった
ところに回る。統合型のファーミングシステムの中では、すべてが一方通行ではなくてサイク
ルのように回っていくわけです。そして、システム上はこのような流れになります。
さらには、リサーチのパラダイム自体にも変化が必要ではないかと思います。左側は古いア
プローチ、右側がINRMのとっている新しいアプローチです。農業もより多様になり、システ
マチックなアプローチをとる。こういったことも本当に重要になってきていると思います。
統合型ということを私は何度も繰り返して言っていますが、このアプローチは私たちは必ず
きちんと採択して利用できると思います。それによって、貧困という問題がより軽減されると信
じています。私たちのプロジェクトは非常に革新的なものです。また、様々なアジアの国々か
ら科学者たちが参加し、JSTの協力もいただいています。ともに仕事をすることによって、貧
困ぎりぎりのところであえいでいる人たちの助けになると思っています。学際的なアプローチ
がいまは何よりも望まれていると思います。
これによって貧困を早く軽減し、同時にアジアの貧しい人たちの生活をより向上させる。一
方で、環境の健全性を保っていくことができると確信しています。
vii) 第 3 分科会「自然災害対策」
「趣旨説明」 (独)防災科学技術研究所 理事長 片山 恒雄
アジアにおける最も深刻な問題の1つは、特に大都市、そこに暮らす貧困層の問題だと思
います。実際に 500 万人以上の人口を抱える大都市というのが世界じゅうでは 39 あります。
その 39 のうち 21 の大都市はアジアにあります。その一部といいますか、かなりの部分が実は
大変多くの貧困層を抱えています。今日の人口の成長が見られる地域というのはほとんどが
都市部です。特にその都市部の中のスラムの人口が今ふえています。
災害に対する脆弱性、弱さというのは貧困とかかわりがあるというふうによく言われます。確
かにその点はあると思います。ただ、この貧困の原因というのは単純ではありません。貧困、
そして人権侵害、環境的なハザード、そういったことがすべて合わさって災害が起こったとき
の脆弱性(vulnerability)につながっているというふうに考えます。
技術的な進展が進み、警報システムが開発をされ、そしてよりよいコミュニケーションシステ
ムも構築され、またサイクロンが起こったときのシェルターもつくられ、そういうこともありまして、
この 20 年間の間の自然災害による死亡者の数は減りました。これはアジアで減ったんです。
しかし、それでもやはり人権の問題が残っておりますし、また経済的なチャンスが特にスラム
に住んでいる人たちにとっては提供されないという問題もあります。そしてまた自由貿易協定
のあおりを受けているのがまさに弱者あるいは貧困層と呼ばれるような人たちです。特に元植
民地だったような国々でそれが見られます。
また大変激しい内部の紛争あるいは政治的な不安定といったものが社会的な脆弱性の主
な原因になっております。そして、そのような国内での紛争は特に貧困国で起こっており、貧
富の差が広がる傾向に拍車をかけています。また、この貧富の差というものが災害によってさ
らに広まっていき、それが例えば汚職とかの起こりやすさをより高めてしまっているというもの
があります。激しい紛争があることによって例えば復旧支援ですとか救援の提供にも影響を
及ぼしかねない状況にあります。これはどれだけの影響があるのかということはなかなか定量
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的に把握できないところもありますけれども、例えばスマトラの津波のとき、その後の復旧作業
等にも多かれ少なかれ影響があったというふうに考えられます。
またリスクの軽減をこういった災害について行う際には、開発の問題は避けては通れない問
題だというふうに考えられます。多くの自然災害というのは、都市計画が不十分、不適切であ
ったがゆえ、あるいは建築基準がきちんと整備されていないとかスラムがどんどん広がってい
るといったことによって起こっています。このようなリスクは本来ですと避けることができるもの
です。もしもこういった状況を直すことができれば、そしてそれを国レベルでやっていくことが
できれば、本来は避けられるリスクであると思います。地元の自治体とか政府省庁、支援機関
の間のパートナーシップを構築することが、このような災害の被害を軽減する、特に都市部に
ついて脆弱性を減らすためには大変重要であるというふうに考えております。
1995 年に神戸の阪神淡路大震災がありましたけれども、それからの 10 周年に開かれます
神戸会議が1月にありました。
その前にISDRとかUNDP、その他さまざまな専門家の方々が世界各地から集まりまして、
特に 12 の分野について選んで議論するということになりました。具体的にはこちらに挙げて
おりますけれども、政治的なコミットメント、制度的な側面、リスク評価、インパクトアセスメント、
予測、早期警報システム等、教育トレーニング、人々の認識、リサーチ、環境及び天然資源
の管理、社会経済開発の取り組み、そしてテクニカルメジャーというようなところが挙げられて
おります。今挙げましたような分野を検討しますと、お気づきかと思いますが、災害の軽減と
いうのがいかに重要かがわかると思います。開発のプロセスの中核を成す部分であるべきだ
ということにお気づきになるでしょう。
神戸会議は、その中で災害と開発の関係というものを見出しまして、それを 10 カ年計画、こ
れは 2005 年~2015 年に関してですけれども、その中にまとめました。4つこちらに挙げてある
ものがそれです。
災害というものは開発計画と関連があるというもの。2番目、優れた開発をすることによって
好ましくない災害は減る、しかし逆に悪い開発は災害をふやしてしまう。3番目は知識とデー
タが優れていることによって災害を減らすことができる。4番目、パートナーシップと多角的な
取り組みというものが効果を発揮することができる。個人の取り組みよりもやはり連携すること
が重要である。この4つが神戸会議のまとめとしてまとめられました。
冒頭で言いましたように、今回のセッションで何か確固たる結論を導き出そうということでは
ありません。しかし、1つはっきり言えることがあるとすれば、やはり課題はこれからも残るので、
取り組みはずっと続けていかなければならないということ。これははっきり言えると思います。
“Natural Disasters in Asia-Their Historical and Ecological Aspects”
国際社会開発協力研究所 社長 渡辺 正幸
今回はアジアにおける自然災害ということで、歴史的、生態的な観点からお話しします。リ
ーダーシップやキャパシティが、発展途上国における社会経済的、そして環境的なセクター
の変化に追いついていけないのです。しかし、格差ということについていえば、リーダーシッ
プと行政の慣行のギャップというのは先進国でも同じことが言えると思います。発展途上国と
ほぼ状況は似ていると思うのです。
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手短に私の方から強調したい点を皆様にお伝えします。まず災害に関連する問題の核とい
うのは、その原因が自然のものであっても技術的なものであっても、基本人権になるものであ
ります。社会における防災や災害対策能力というものは、普遍的な社会の権利として認識さ
れれば大きな力となり得ます。科学的また工学的な災害の側面について詳細にわたってお
話ししても、社会における基本人権についてないがしろにされていれば、それは意味がない
ものになってしまいます。
我々は人の命よりも尊いものはないということを明確にしなければなりません。このグローバ
ルな社会において、人の命には著しいギャップがあります。アジアの津波やニューオーリンズ
のケースでも災害においてはその影響が非常に大きなものになります。脆弱な人々がすべて
乗ることができるような船が必要であります。しかしながら非常に困難であり、また多くの不足
した資源があります。そして資金や技術、管理のスキル、建築材料、リーダーシップなどのよう
な不足を考えると戦争でむだにするような資源はないはずです。
4点目。我々は協力することによってギャップを充足していかなくてはなりません。たまたま
我々は同じ船に乗り合わせた乗客であります。同じ船というのは青い惑星、そして地球であり
ます。これまで具体的な協力の仕組みを設置することができましたが、これは救急事態にお
いてです。しかしながら、その後の段階においての災害に対する能力というのは、必要なレベ
ルをはるかに下回っています。
5点目。協力や支援には2つのタイプがあります。まず切り花タイプ、2つ目は樹木というタイ
プであります。大きな色鮮やかな花の花束はぜいたくで美しいものであります。しかしながら、
しおれ枯れてしまうものです。一方、しっかりと肥沃な土壌に根をおろした花を見ますと、ワシ
ントンGCのポトマック湾の沿岸の桜のように繁栄します。切り花タイプの支援をやめて、樹木
タイプの支援をしていきましょうというのが私からの提案です。
コミュニティーに力を与えるというプロジェクトは自助努力に基づくことが必要であります。早
期の警告システム。これは地域でも、また全国レベルでも災害対応能力を高めるためにとて
も重要であり、またそれをすることによって災害に弱いコミュニティーの力を高めることができ
るでしょう。
それではスライドに入ります。「ノアの箱舟」というとても有名な絵を示しています。すべての
脆弱な人たちが必要としているのは、このような船です。そのような船に脆弱な人がすべて乗
船できるようにしなくてはなりませんけれども、ニューオーリンズのケースで明確になっている
ように、このような船はまだ不足しています。
マニラでの 1945 年の大破壊です。ここで 1940 年来から日本人たちが学んできたことは、人
の権利を上回る重要性を持つものはないということは認識されているものの、戦争によってす
べてが全壊しました。そして、我々の地域社会は大変自然災害の影響に脆弱になってきまし
た。
1946 年、東京の中心の写真です。非常に壊滅的な状況です。5年後には、そしてたった1
年後であっても、このようなひどい状況が変わってくるということがわかります。戦争がこのよう
にひどい影響をその後の年数まで及ぼすということが明確になっています。またここでは片山
先生がおっしゃったことを非常に明確に示しています。脆弱な人々は非常に重い荷物を背負
って生きていかなくてはなりません。その荷物の一つが自然災害です。どのように、このような
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重荷を一つ一つ肩から取り除くことができるのでしょうか。
この一対のグラフを見ますと、明確に軍事予算の支出との対比を見ることができます。そし
て、台風の災害に対して日本の地域社会がとても脆弱性が高いということがわかります。左側
を見ますと、犠牲者数のピークを示しています。1941 年から 60 年代、これが戦争によるマイ
ナスの影響となります。戦争の支出によるマイナスの影響がここにあらわれています。右側の
グラフを見ますと、全壊家屋の件数であります。台風の規模にかかわらずピークを見ますと、
第二次世界大戦の戦中・直後でありますので、その甚大なマイナスの影響ということが如実に
わかります。
防災専門家は戦争時に防災セクターの雇用を見つけることはできません。この点を強調し
たいと思います。防災専門家は平和が再建され、そして繁栄が実現しているときに生計を立
てることができます。ですので、防災専門家は平和の配当の最大の享受者であるということで
す。
こちらはメトロの中心街です。人口が爆発的に増加し、貧困層は非常に脆弱な立地に住む
ことを余儀なくされました。川沿いなどの地域です。また電線の直下に生活をしています。
これはアジアではありません。ベネズエラの写真です。貧困層は人口増により、このようにひ
どい、そして危険のレベルの高い地域への居住を余儀なくされています。
また、森林地と裸地化の顕著な違いを見ることができます。裸地化されると、いろいろな力
の浸食に脆弱になります。そして、デブリーの流れ、このような巨礫によりまして、多くの人が
命を失います。
インドネシアの山火事です。
また貧困のために、このような森林の伐採をして生計を立てています。樹木を伐採するしか
生活のすべがないのです。ということで、これによって地域が全域的に裸地化されました。どう
すればよい職の提供ができるのでしょうか。そうすれば彼らは生計を立てることができるはず
です。
こちらはタイです。不法伐採が行われています。そしてこれは水域においての不法伐採で
す。不正の伐採が行われ、これまでに例のないような洪水となりました。洪水にはこれまで巨
礫はありませんでしたけれども、さまざまな巨礫や沈積物、土砂などが洪水に含まれるように
なってきました。また能力不足。開発部局においてはそれは管理、インフラの立案、調整の能
力の低さとしてあらわれています。
こちらは河川計画や道路の計画の不備をあらわしています。この調査のまずさというのは、
土地の使用計画、また河川の管理計画にもあらわれています。
こちらはタイです。プーケット近くのタイでありますけれども、プーケットというのは観光業が
盛んであり、その開発が行われています。そして、道路網が張りめぐらされています。このよう
な道路の配備というのは、水利的な条件を全く無視しています。
また、土地利用計画・管理の不備によって、このような脆弱な別荘が建設されています。地
理的な、また地形学的な条件を無視しての建設です。
土地利用のまずさによる災害が水域で見られます。既にこれは神戸でも経験済みです。呉、
横浜、そのほかの地域に日本でも散在します。1950 年代初頭にこのような経験をしました。し
かしながら、その教訓は完全に伝達されているわけではありません。
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こちらも考えられないような状況です。非常に脆弱な丘に高層の構造物が建築されていま
す。これはプーケットの後ろ側の地域になります。
途上国、先進国においても人口の爆発的な伸びにより災害のリスクが高まっています。また
環境的に、また人口統計学的な状況を見ることができます。
マニラです。人口が河川地域で急増しています。
また管理に関連する問題。日本政府はインドネシアに対し、膨大な予算に基づく鉄砲水の
災害対策を行っています。しかしながら、それを施行する能力がおぼつかないのです。また
建材が収集されています。我々の協力のたまものがないがしろにされてしまいます。
ピナツボ山のふもとです。上の写真は小さなダムでありますけれども、沈積が行われ、これら
は取り除かれています。
技術協力の一例です。フィリピンで実行された技術協力、維持能力が不足しており、またそ
れによりまして、かんがい網が破断しています。
大きな花束モデルの協力というのは、セミナーとかシンポジウム、トレーニング、または意識
向上や技術移転を含みます。そして、それをリスクの高い地域の人々にも適用しています。し
かしながら、市場性を欠いた産業発展が行われており、また予算のつかない開発研究が行
われています。また、大規模な構造的な対策や資金不足、維持能力の低さが検討されてい
ません。また、先進的なマッピングやゾーニングをしたとしても、しっかりとした意思がなけれ
ば、また自立的な精神がなければ相互支援の仕組みはうまく働くことができませんし、またリ
ーダーシップが必要になります。災害に対して注意していくことの認識が希薄であるということ
が重要であります。また、共通性の濃いコミュニティーというのは、オランダや日本などにあり
ます洪水対策の技術の長い伝統があります。しかしながらそれが希薄な地域もあります。新
たな綿花農場とか、またタジキスタンの例がありますし、アフガニスタンの移民のコミュニティ
ーなどを挙げることができます。
こちらはオランダの例でありますけれども、すべて貿易により地域の資材を使った建設物で
あります。タジキスタンの洪水予防の風土が希薄であるという例を示しています。
こちらの方は日本における洪水防災活動であります。JICAでは所得創出プロジェクトをアフ
ガニスタンのアルカイダ地域で行いました。そして、このような武装解除に成功しました。悪循
環を断ち切ることができました。貧困とそれに関連する環境の悪化であります。所得の創出と
いうことが成功のかぎとなり、危険のない環境、そして防災へとつながります。農村の事業を
促進するということも成功のかぎであります。それに対して協力することによって災害の低減を
図ることができます。
また政治家の影響も考えなければなりません。タイのニュースの最近の記事です。票を獲得
することに躍起になっている政治家たち、そして行政により自分たちのふところに入るものを
重視しています。Peter.Winchester はこのように言っています。人命を救うことは、インドにお
いて政治的な重要性が高く、また経済的な重要性は低いのです。人件費が安いからです。こ
れはインドに限らず脆弱な地域にいることです。人命を救うことに対してここでは利害が貧困
者と政府間の間でピタリと一致しています。貧困者はほとんど守るものがないからです。脆弱
な人たちに守るべき何かを提供することが必要なのです。
切り花の花束です。肥沃な土壌の樹木の花がこちらです。このような支援こそが持続可能な
71
支援と言えるでしょう。
“The Natural Disasters, like The Sumatra Tsunami had taught us before – BUT”
工学会 会長 UThan Myint(ミャンマー)
ミャンマーのエンジニアリング・ソサエティーを私は率いておりますけれども、そこの話を少
ししたいと思います。
このミャンマー・エンジニアリング・ソサエティーというのは、いわゆる新規的な、つまりこれま
でないような新しい取り組みをしております。これは民間企業及びその他、公的な組織、国際
機関とも連携をしながらエンジニアリングの水準を高めていこうということをしてきました。日本
のいろいろな組織にはその点において大変大きな御支援をいただいて感謝しています。
私どもがやっております活動を大ざっぱに説明をしましたけれども、そういったことが背景に
ありまして、今回私個人の意見として思うところを述べさせていただきたいと思って参りまし
た。
今日の私の内容ですけれども、自然災害、例えばスマトラの津波によって教訓を学んだけ
れども……という、そういう話です。皆さんよく御存じだと思いますけれども、これはこの地域の
地殻構造、特に東南アジアはこうなっていますということです。インド洋をめぐる地域というの
は、これまでにもそれこそ 1762 年以降、2004 年の津波までいろいろと地震も起こり、津波も起
こってきました。こういう経験をもとに自然から学ぶ教訓というものがこれまであったわけです。
これはインド洋をあらわしたもので、こちらの地図は、それこそこういったところでこれまで教訓
を学んできましたということが書いてあります。こちらはミャンマーにいかにたくさんの断層があ
るか、そして活動を行っているかということがあらわされています。まさにたくさん断層が走って
います。つまりミャンマーは大変このような地震が起こりやすい地域である。だけれどもほとん
ど手を打っていないというのが現状です。とにかく断層があるなと、それだけなんです。何も行
動につながっていない。で、いろいろ教訓をこれまで学んだはずなのに、何もそこから生まれ
ていないということです。
ミャンマーの歴史をちょっと振り返ってみたいのですけれども、今お見せしたように断層がた
くさんあって、地震構造プロセスというものが大変複雑なものになっております。特に横ずれと
いうのがインドと東南アジアの間の地域にはありまして、また 1762 年にアラカンの大地震とい
うものがあったのですけれども、それ以降マグニチュード7を超えるような地震が少なくとも 19
回もありました。そしてミャンマーが影響を受けております。それからまた 1878 年には当時の
名前でラムリー島の西岸がこれによって6メートルも隆起するということが起こっておりますし、
消えてしまった島もありました。そして 1843 年にはまた別の地震が泥火山の噴火によって起
こったということで、これだけいろいろな経験をこれまで地震についてはしてきたという背景が
ミャンマーにはあります。
そしてまた 20 を超える大変大規模な地震を過去 200 年の間に経験してきた。けれども、そ
れに関連する取り組みというのはまだまだ始まったばかりという状況です。もちろん先進国は
たくさん、それこそ地震観測所などを持っていらっしゃいますけれども、我々の国には4カ所し
かありません。さらにつくる計画はありますけれども、強震観測所は日本からの御支援でつく
ったものが 10 カ所、中国からの支援があって2つのデジタル地震計を備えた観測所もありま
72
す。ですので、こういった形での取り組み。また耐震設計の建物等についても今取り組みが
必要とされております。そして、いろいろな地震ハザードのマップもあるんですけれども、そう
いった取り組みはまだまだこれから必要であるということです。
こちらの写真は、タグワンジー(Taungdwingyi)の地震が 2003 年の9月にあったということで、
確かに遠隔地ではありましたので余り人口は多くないのですけれども、例えば下の写真は小
学校の被害の状況をあらわしています。夜中に起こった地震だったので、それほど被害者は
いませんでした。死者の数も限られていました。そして私どものソサエティーの方で現地に赴
きまして、いろいろな助言等もさせていただいたわけです。
こちらの写真をごらんいただくと、これは日本からいろいろな地質学者ですとかエンジニア
の方々がいらっしゃって、スマトラの津波のときの調査をしていただきましたけれども、写真に
一部その方も載せております。このような訪問を計画をしまして来ていただきまして、津波の
影響を受けたミャンマーの地域を見て回っていただきました。
これが影響を受けた村の写真です。こんな感じになってしまったというのが見てとれます。こ
ちらをごらんいただくと島が写っておりますが、津波の影響を受けた島です。こちらも同じく影
響を受けた地域ということで、これは特にミャンマーの南側です。これがエーヤワジーデルタ
(Ayeyarwaddy Deltaic)と呼ばれる三角州です。こういったところが津波によって影響を受けま
した。昨年の 12 月のあの津波のときです。
そういう形でこれまでにもいろいろと自然災害の教訓は学んできたはずなのに、「のど元過
ぎれば熱さ忘れる」ということがあるようです。ですから、やはり教育をすることが必要ですし、
また例えば地震ですとか津波に関する恐ろしさ、その認識を高めることも必要だと思います。
そしてまた技術についても必要だというふうに考えられます。
では、主な原因あるいは問題は何なのかということで、先ほど既に渡辺先生もおっしゃった
ように貧困の問題があります。結局貧困があって、ほかにたくさんの問題を抱えているので、
地震対策にまで手が回らないということがあります。それからもう1つ教育及び社会経済的な
発展という問題もあります。もちろん教育がよくはなっているけれども、その一方でいろいろな
原因があって、なかなかそれが思うように進まないという側面もありますし、また社会経済的な
発展というのもまだまだ足りない。足りないものといえば、技術の発展、そしてインフラの改善
も求められます。地震及び関連の災害の影響を軽減するためにはやらなければならないこと
がたくさんあります。それから津波の警報システムは、例えばインドには1カ所ありますけれど
も、私たちはこれまでいろいろと経験をしてきたにもかかわらず、なかなかその教訓を生かせ
ていないという状況です。ですから、これからはその部分をぜひ強化させていけたらというふう
に考えております。先ほど教訓は得たはずなのに、しかし……だけど……、この but の部分を
何とかしていきたいというふうに考えております。
では、我々途上国は何を必要としているかということなのですが、まさにミャンマーはそういう
意味で途上国の一員ですので、必要としている点をここで述べたいと思います。
科学技術というのはやはりこのような災害の軽減のためには重要であるということを考えてお
ります。また社会経済的な開発も必要です。そして科学技術の発展、人々の認識の高まりと
いうものも重要です。またいろいろなこれまでの教訓を生かしていく。そして、先進国からの協
力も特に科学技術の分野では必要ではありますが、やはり自助努力といったものも必要だと
73
思います。自分自身でこのような災害を防いでいく、あるいは軽減していく取り組みを必要と
していますし、その能力を高めていく必要があります。それからまた、それに対応できるような
準備態勢を整えていく、教育をしていくことが必要でしょう。そして日本においてやっておりま
すように準備を進め、ふだんから災害ということを意識していくカルチャー、そういう風土をつく
っていくことが必要だと思います。
それが大事だということはわかってきているんだけれども、まだまだできていないところがあ
るので、それを改善していかなければなりません。とにかく今認識を高めるとか教育ということ
を申しましたけれども、それを行っていくためには、まずは政府、つまりミャンマーの政府がそ
この部分をきちんと把握をして、認識を高めていくことが必要だと思います。やはり大半の取り
組みは政府が主導でやっていかなければならないので、まずは政府のレベルでそこの部分
をしっかりと認識をした上で進めていくことが必要だというふうに考えております。
途上国の場合は、やはりまずは科学技術、そういったこと1つをとっても、扇を広げるようにま
ずは中心にある政府の部分、中核のところがしっかりした上で、それを一般の人のところまで
広げていくことができると思います。それをしなければならないと思いますので、まずはそこの
部分の認識を高めていき、そして一般の人たちの認識も高めていくということが必要でしょう。
政府とその他いろいろな組織との連携、民間との連携といったことをどんどん進めていく必要
があると思います。とにかくそういったことを認識しながら、我々ミャンマーのエンジニアリング・
ソサエティーとしてもできる限りのことをしていく所存です。
ですので、これからのミャンマーにおける自然災害に対する影響軽減ということで戦略を考
えてみました。やはりまずは自然災害インデックスマップというものが必要であるということで、
それを今つくっております。建築基準についてもそれをつくって施行していく必要があると考
えております。また、緊急時対応の計画を立て、それを実践していくことも必要でしょう。これ
は政府についても認識をしているところなんですけれども、いろいろな委員会なども設置され
まして、緊急時対応を計画していこうということで今動きつつあります。
もう1つやろうとしていることは、研究、そして教育トレーニングのプログラムを設定していこう
ということです。これらを今計画中なわけですけれども、やはりそれと並行して人々の意識を
高めていくという取り組みもしておりまして、委員会もそれに関してつくられました。そして、こ
れからどのように進めていったらいいのかといったことの検討をしているところです。
もう1回言いますけれども、たくさんのこれまでの自然災害から学んだ教訓があったにもかか
わらず、しかしというところでなかなかそれを生かすことができていなかったわけです。ですか
ら、それを阻んでいる制約要因があるわけですけれども、それをどう乗り越えていったらいい
かということを考えなければなりません。
ミャンマーというのはいろいろと制約を抱えておりますので、それを何とか乗り越えて国際的
な機関とも協力をしながら、地震観測所等のネットワークを構築していく必要があるでしょう。
また地震マップ、ハザードマップのようなもの、津波についてもそのような地図をつくっていく
ことが必要だと思います。それから耐震設計の基準をつくっていくことが特に必要だと考えて
おります。そして、インド洋に面している地域は特に影響を受けやすいということでトレーニン
グが必要だと思います。また国際機関その他の友好的な機関との協力も進めていく必要があ
ります。とりわけ地震ですとか津波の危険を軽減するためのプログラムについての協力が必
74
要です。
自然がいろいろと教えてくれた。しかし、まだまだ残っている取り組みがある。この取り組み
課題というのは自然そのものではないということです。私たちは自然に対抗しようとしているわ
けではなくて、やはり私たちは自然の中で住まわせてもらっているということです。自然は何も
どこに人間が住んでいるかなんてことは知らないわけです。ですから、そこから私たちがくみ
取って学んでいかなければならない。しかし、それができていないというのが今の問題だと思
います。やはりそれをきちんとするためには協力をしなければならない。
今日の私たちが目指しているのは「一つのアジア( Asia One)」という目標を掲げているわ
けですので、それを実践することが、ひいては私たちそれぞれの国、特に途上国にとっては
プラスに働くと思います。
“Bangladesh Floods – How to Live with Them”
BRAC 大学 副学長 Jamilur R. Choudhury (バングラデシュ)
洪水について、その管理についてお話をします。また、サイクロンや高潮などが関連する災
害についても話をしたいと思います。
まず、バングラデシュにおける自然危険の概要、洪水、科学技術が脆弱性の低減に貢献をし
ているということ、サイクロンや高潮について、また脆弱性の低減のための対策についてお話を
した後に結論を幾つか申し上げます。
皆様御存じだと思いますけれども、バングラデシュというのは最も災害を受けやすい国の1つ
であります。さまざまな自然災害危険にさらされています。洪水やサイクロンや高潮、河岸の浸
食、地震、雷雨や竜巻もしかり、干ばつ、そして地滑りなども多発しています。津波については
触れませんでした。しかしながら、200 年、300 年前まで歴史をひもときますと、U Than 先生が
おっしゃいましたように、1762 年には津波、地震によりバングラデシュの沿岸が被災しました。
バングラデシュはミャンマーとインドの隣にあります。世界じゅうで最も大きなデルタ地域であり
ます。また河川系としても最も大きなものの1つです。ヒマラヤを水源としています。そしてブラマ
プトラまで来ています。そしてベンガル湾にまで通っています。そしてバングラデシュを通ってい
るのです。このような水がすべてバングラデシュ国内を流れているということ自体が問題となりま
す。国外から入ってきて、そして水域がバングラデシュの 11 倍の大きさになっています。というこ
とで、それを制御するのは極めて困難です。洪水はほかの国に緒を発しているからなんです。
これは年間のカレンダーになっています。地震は年間いつでも発生し得るものでありますけれ
ども、ほかの災害を見ますと期間が限定されています。自然災害ということで、その発生頻度が
高い期間があります。洪水はモンスーンの時期から始まります。5月、6月、そして最悪なのは7
月から8月となります。そして9月以降、洪水はほとんどありません。また干ばつについても似た
ようなことが言えます。浸食、そしてサイクロンについてもそうです。サイクロンの確率が高いのは
5月、そしてモンスーン直後の9月、10 月という時期になります。だからといって、サイクロンが7
月、8月に発生しないというわけではありませんけれども、頻度が極めて低いのです。最大のサ
イクロン、ハリケーンや台風というのは4月の下旬、または 10 月の下旬に起こります。
洪水は日常沙汰です。毎年国の4分の1が浸水しています。ということで国民たちは学んでい
ます。もう何世紀もかけて洪水と共存するということを学習しています。自分たちの地域が浸水
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するということは毎年もう当たり前と考えられています。これが通常レベルの洪水であり、そうであ
れば心配しません。しかし、非常に大きな洪水の年もあります。98 年には 68%の地域が浸水し
ました。14 万 8000 平方キロという非常に小さな国です。そして、4000 万人という人口で、非常に
人口密度が高いのです。1000 人が1平方キロの地域に住んでいます。また 2004 年には 40%が
浸水しました。これは国土に占める割合です。1988 年、2373 人の死者が洪水によって発生しま
した。そして 98 年には 1050 人、そして 2004 年には 500 人が死亡しました。それほど大きな数
字ではないでしょう。
そのほかの災害の犠牲者に比べると人の命の数は少ないのですけれども、そうした経済的な
損失は大きな数値になっています。20 億とか 33 億といった金額になっています。GDPが非常
に低いということを考えますと、33 億という数値は大きなものであります。GDPの5%に当たりま
す。これは大きな経済的な影響であります。最近のハリケーンでは、ルイジアナでのハリケーン
です。0.1~0.2%のGDPによります数百万ドルの被害と言われておりますけれども、ここでは
5%のGDPに当たる損害が1回の洪水で生まれてしまいます。ということで洪水は経済に打撃を
与えています。
さまざまな理由があります。バングラデシュに洪水が多いのは、降雨による鉄砲水、また河川
の洪水があります。3つの水系が同時に水域のレベルが高くなるというピークを迎えるときに最も
大きな影響が起こります。ブラマプトラ川、メグナ川、そしてジャムナ川であります。また高潮、都
市の洪水も非常に多くなっています。これは最近の傾向であります。これまでは排水が自然に
働きました。雨もそのまま流れていったのですけれども、しかしながら非常に浸食が行われ、ま
た住宅がふえることによって都市部での洪水がふえていきました。
主な原因は、国境をまたがる河川からの水量が短期間に増加するということ。ほかの国からの
河川の影響を受けます。水域は 170 万平方キロということになりまして、すべての水が我が国で
排水されるのです。また、流れの 80%が年間の5カ月間に集中しています。
また地形を見てみましょう。海抜は平均3~4メートルです。モンスーンの期間には海抜水域が
高くなり、そして洪水のピークを迎えるということが大きな影響になります。また、洪水防止の堤
防を水位が上回ることもあります。それによって河川の護岸が決壊します。また維持がうまくいっ
ていないために橋が水域よりも低くなり、それによって洪水が毎年生まれます。また人による介
入、また河川やはんらん原が浸食されています。このような地域に住宅が建築されるようになっ
たからです。
都市部の洪水でありますけれども、ダッカ市で最悪の洪水を去年迎えました。最高裁の敷地も
浸水しています。また市長の事務局、政府機関の中枢になりますけれども、こちらも浸水しまし
た。また、目抜き道路もこのように浸水しています。ダッカ市の中心がすべて浸水しました。これ
は異例なことでした。
片山先生からメガシティという言葉がありましたけれども、これを比較してみたいと思います。ダ
ッカがどのように急成長しているか。東京がここです。現在の人口は 1300 万ですけれども、2015
年には 2700 万いるでしょう。アジアでは第2に人口が多いのはダッカになると言われています。
1250 万の人口でありますが、2015 年には 2280 万人になると言われています。最も急成長をし
ている都市であります。多く農村部から都市へ人口が流れているからです。
これはすべて見積でありますけれども、ムンバイも僅差です。2260 万。そのほかにもメガシティ
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が多くあります。2000 万以上の人口を迎える国も多く生まれています。また洪水の期間も長くな
っています。このような 1988 年では 242 平方キロメートルが浸水しました。98 年には 168 平方キ
ロ、そして 2004 年には 98 平方キロの地域が浸水しています。我々が護岸をダッカシティの周り
に張りめぐらし、堤防を築いたからなんです。赤い線で示しているのが堤防であります。これを
1988 年の洪水以降に建築しました。これによって雨を維持することができます。そして、それを
ポンプで抜くことができるのです。ニューオーリンズなどもダイナマイト効果が見られます。
これまでは多くの人がこのようなプロジェクトはうまくいかないと言いました。しかしながら、JICA
からの支援を受けて、このような堤防を張りめぐらせました。長期的な環境、その影響を考えると、
まだ適切に研究はされていません。そして、堤防を築いても、その保守がうまくいかなければうま
くいきません。ここは洪水がない地域もあります。しかしながら、それが決壊するという状況を考
えると、それはさらに堤防がない状態よりも増悪します。また、右側にも堤防を築き、163 平方キ
ロの地域を守るようにしています。今、この堤防を築くべきか否かということは議論の対象となっ
ています。
信頼性の高い洪水予測システムを開発してきました。そして先進的な技術を多く使っています。
自動的な水域測定装置、数学的に計算をすることによって洪水を予測することができます。そ
れぞれの地域でのレベルをはかります。91 のステーションがあり、そこから数学的な演算が行わ
れています。SMSのメッセージを使って、あるいは携帯電話の技術を駆使して、かなり開発され
ています。地域レベルにおいても警告を発信することができるのです。
また水が引き起こした災害のもう1つをお話しします。これは貧困層に大きな影響を及ぼしま
す。彼らは河岸水域に住んでいるからです。100 万人の人が影響を受けました。過去 30 年の中
でそれだけの犠牲者が生まれています。変動はありますけれども、500 メートル高くなり、また洪
水によって土手が浸食しています。そのように土手を安定化させるということは技術的には可能
であっても、非常に大きな予算を伴いますので予算が通常は追いつきません。しかしながら資
産を守るために住民の自由によって土手を建設しているところもあります。
それでは、そのほかの自然の災害、サイクロン、ハリケーン、台風についてもお話ししましょう。
国の約7%が沿岸地域にあり、サイクロンや高潮の被害を受けやすい地域であります。
1970 年 11 月 12 日、6時間で 50 万人の人が命を失ったんです。これは 20 世紀で最も大きな
災害と言われています。30 万人の人命というのが正式な数字でありますけれども、実際の数字
は 50 万人と言われています。
91 年には 13 万 9000 人の人が1回の災害で死亡しました。1月 29 日です。その後多くのプロ
ジェクトが立ち上がりました。またこのような 1970 年、1991 年の災害の繰り返しがあったとしても
死者は格段に減少できるでしょう。サイクロンはこの後もありましたけれども、それほど多くの死者
は生まれませんでした。
91 年のサイクロン以降、政府の施策により複数のサイクロン、そして自然災害に対するシェル
ターを設定しました。私もチームリーダーとして参加しました。浸水地域をまず特定しました。浸
水地域ということで映っているでしょうか。この部分ですね。これがリスクの高い地域であります。
浸水が1メートル以上になると言われているところです。この地域に住む人はすべて避難令を受
けることになりました。地域のシェルターに避難しなくてはなりません。
沿岸地域でありますけれども、700 キロという距離にわたっています。700 万人の人がここに住
77
んでいます。このように島、そして沿岸地域のところにシェルターを設定しました。1.5 キロ圏内
にすべて設置しています。すべて徒歩で移動することができるようにです。すべてこれが地域の
シェルターです。
計画システムもしっかりと開発したものがあります。衛星の画像、レーダー画像を使っています。
それを使ってサイクロンの地域、そして上陸地域を予測しています。そのレベルまでは予測する
ことはできません。その精度はまだ高くありませんけれども、しかしながら警告のシステムとして
はかなり高いレベルであります。子どもであっても高リスクエリアであれば、無線による発信があ
ればどのようにシェルターに移動するかということがわかっています。
さらに3万 4000 人のボランティアに研修が行われ、警告を伝達するように、そして人々をシェ
ルターに避難させるように協力を受けています。既に 2500 のシェルターが設置され、それは小
学校として通常は使われています。子どもたちはそのシェルターへの行き方はよく知っています。
平時には小学校でありますし、夜間にも地域センターとして活用されています。
また、地域の太陽電池を使ったコンピュータセンターなども使っています。電力網にアクセス
できない人たちに対しての太陽電池の施設もコンピュータセンターで提供されています。このよ
うなパワーを使ってコンピュータなどを使うことができます。これは2階建てまたは3階建てのもの
があります。この設計の原理というのは、高潮があっても、それに勝つことができるように、このビ
ルの中を通ることができるように、そしてまた水の流れを阻害しないということです。ということで、
すべて鉄筋コンクリートであります。そして支柱によって形成されています。2500 件が既に建築
済みであり、さらに 1000 件が必要になっており、計画済みのものもあります。
またバングラデシュというのは、世界でも初めて災害管理のための省を設定した地域でありま
す。フット氏が今、長となっています。そして、マニュアルが既に設定されています。こちらはスタ
ンディングオーダーと言われる運営マニュアルです。公務員、そして幹部はすべてこのようなマ
ニュアルを持っており、警告が発生したときには何をしなくてはならないのかということがわかっ
ています。サイクロンや洪水。どのような行動を率先してするべきなのかということがわかってい
ます。そしてこれは閣僚レベルから地域災害対策レベルまでわたっています、既に多くの公務
員、官僚たちが災害対策のトレーニングを受けています。またNGOの協力も多く行われていま
す。災害管理に関しては彼らも非常に協力的であります。警告が発生されれば準備を始めるこ
とができます。まず注力すべき地域を特定することが行われます。そのようなマニュアルが既に
開発されています。
これは自然災害に対する影響を減少させることを目的としています。そしてバングラデシュは
比較的うまくこれに対応することができるようになってまいりました。脆弱性の高い災害に対する
地域に対応するということができていますし、マスタープランに基づいて最近の技術、数学モデ
ルや航空画像を使っています。そしてSMTを使って脆弱性を低減しています。予測、警告のシ
ステムもさらに精度を高めています。また死者の数も著しく低減しています。繰り返しメガサイク
ロンがあったとしても、91 年、また 1970 年代のような繰り返しがあったとしても死者の数は格段に
減少するでしょう。このような取り組みがされてきました。
バングラデシュというのは最貧国の1つであっても、サイクロンについては何をするのかというよ
うな紹介をほかの国から受けることもよくあります。非常に人々は災害に対して強く通常の生活
を速やかに立ち直すことができます。それだけ強い力を持つ国民。というのは、バングラデシュ
78
がこれまで災害と共存してきたという歴史に負うところが大きいのです。
“What has changed after Gujarat Earthquake 2001?”
グジャラート災害管理局 理事 V. Thiruppugazh(インド)
2001 年1月 26 日の地震から我々は時間を考えるべきであります。そして、この震災から何を
学び、そしてそこから何が変わったかということを見ていきましょう。多くのことが変化しました。
2001 年1月 26 日の地震から物理的な大きな変化がありました。家屋が再建されました。また精
神的な大きな変化もありました。態度も変わってきました。変化というのは時間によって起こるも
のです。そしてまた変化を時間で見ていきます。経時的な時計ではかるだけの時間ではなく、
精神的な時間もあります。どちらの扉の前で待っているかということによっても時間というのはま
た違いますよね。ということで、時計ではかる時間と精神的な時間とあります。短期間と思ってい
ても、国の時間として見ますと、また痛手を持つ人々にとっては非常に大きな時間かもしれませ
ん。グジャラートの住民にとってはとても長い期間があったかもしれません。この痛み、そして再
建の努力を見ますと、非常に長い期間だったというふうに考えられています。ということで地震が
起きてから、2001 年から多くの時間がたったように考えています。
ここではどのくらいの大惨事であったのかということを見てみたいと思います。こちらはグジャラ
ートであります。18 万 3000 平方キロメートルであります。ベルギーを2倍にしたよりも大きなもの
であります。赤いところが最も打撃を受けた地域であります。70%の建物が全壊しています。ま
た、緑色の地域は中程度の影響を受けた地域であります。30~40%の建物がこちらの地域で
は全壊しています。この程度を見ますと地域的に広く差が出ます。7633 の村が重度または中程
度の影響を受けました。180 年の間でもとても大きな地震であります。そして 1000 万人以上の人
がこちらの地域で影響をこうむっています。また経済的な影響を見てみましょう。220 億ドルが直
接的な損失であります。また、間接的、三次的な損失は 70 億ドルという規模になります。
そして、大きな再建・復興計画が立ち上がりました。グジャラートで何が変わってきたか。これ
は目標・目的を考えてみたいと思います。多くのプロジェクトが行われましたけれども、持続的な
回復を被災地で促進する活動が行われました。再建だけではありません。構造物を前と同じよう
に復元するだけではなく持続的な回復が必要でありました。また持続可能な災害管理能力の基
盤をグジャラートで設置しました。私どもの教訓は、最近のプログラムの中では基盤を設置する
ことが重要であるということが明確になりました。
プロジェクトの期待される成果であります。持続可能な回復、脆弱性の低減、そして最も重要
な成果は、このプログラムの設計者いわく地域社会のリスク認識、そして準備レベルを高めるこ
とであります。災害管理というのは政府ベースのものであると成功しません。ということで、地域
社会のレベルで災害管理プログラムを行い、そしてまた非常時の準備態勢を高めるプログラム
が必要であります。
こちらの方が災害管理公団であります。私はこちらで仕事をしています。
これは大規模な再建・復興プログラムであり、地震後すぐに立ち上がりました。これが災害管
理のサイクルであります。グジャラート州はどのように政府当局がそれぞれの段階で関与してい
るかということを示しています。
再建プログラムでありますけれども、これは全体的なプログラムであります。すべての重要な側
79
面を見ています。受益者のニーズに対応します。教育や健康、生計を立て直す社会経済的なリ
ハビリ、社会的・物理的なインフラ、そしてキャパシティビルディング、そして物理的なインフラや
住宅の再建もあります。28 以上のパッケージが交付されています。パッケージというのは支援の
ためのプログラムであります。支援をすることによって住宅の再建をすることができます。先進国
の人々ですと自分たちで再建はしないでしょう。しかしながら、インドのような貧国においては融
資を受けるのが非常に重要であります。しかし、担保がありませんので容易に融資を受けること
ができません。ですので、支援をし、そして助成金を提供することによって家の再建をすることが
できます。
また、そのほかにも被災を受けた人たちに対し復興政策があります。まず生計や経済、社会
資本、また重要なインフラの再建などが含まれています。再建のプログラムでありますけれども、
18 億ドルぐらいになります。これはルピーで示していますけれども、1000 万ルピーが1クロール
ルピーという単位になります。さまざまなセクターに分配されています。これが合計 18 億ドルに
なります。
どういう任務があるのでしょうか。地理的に広い地域、都市部と農村部も影響を受けました。91
万 7000 件の修理が必要でありました。9000 の公共建物の修理が必要でありました。4万 2678
の教室の修理が必要でした。また 22 万 2000 軒の家の再建が必要でした。これは一般の住宅で
す。全壊しているからです。3377 の公共の建物が再建を必要としていました。1万 2750 の教室
の再建も必要でした。また、8903 キロの送電・配電線の強化が必要でした。4973 キロの私道や
一般道路の修復や再建が必要でした。3975 キロの上水道の布設が必要でした。再建です。ま
た 20 万人の世帯が生活のすべを失いましたので、その支援も必要でした。
また、どのような物理的な変化が生まれたでしょうか。住宅の再建が行われました。99%の住
宅が修復しました。1%残っています。ボンベイやデリーやそのほかの地域に住んでいる人たち
もいますので、その分の1%が除かれています。家の修復は 100%完了したと言えるでしょう。ま
た再建の方は、22 万軒の再建が必要でありましたけれども、19 万 7000 軒が既に再建されていま
す。89%です。今後の災害を招かないような建設をしていきたい。今後の災害に対応し、この地
震を1つの機会として新しい町の計画を行っています。
4万 2000 件の教室が修理され、1万の教室が再建されました。3391 の公共の建物が修理され、
1245 の公共の建物が再建され、さらに 562 の建物が工事中であります。5223 キロの送電・配電
線が強化されています。20 万人の生計が立て直されるということ、そして再建・復興が行われて
いるということが重要なのです。
物理的にこのような再建が達成されています。これは、再建や修理だけではありません。これ
はすべて建物の基準法に基づき厳しい規則に基づき、またガイドラインに基づき再建されてい
るのです。その建築基準は厳密に施行されているのです。
この成果をモニタリングする調査を行っていました。本当にこのメリットが貧困層、脆弱な人に
届いているのか、また6つの地区すべてに届いているのかということを調査したところ、届いてい
るということがわかりました。このような調査を行いました。まず地震前。プッカ(pucca)というのは、
インド語でセメントの堅固な住宅であります。農村地域では堅固な住宅、そして泥の家がありま
す。漆喰として泥を使っているものがプッカハウスでないもので、プッカハウスというのはセメント
の堅固なものであります。66%が堅固な住宅でありましたけれども、そのプッカハウスが地震後
80
は 100%になりまして、助成金が払われ、それによってこのプッカの家が建設されました。
32%から 53%の家が、トイレが独立したつくりの家屋に住んでいます。また再建住宅の保険加
入率が6%から 49%になりました。これは意識向上プログラムが奏功したのです。また、災害の
前、災害中、災害後何をするかわかっているという認知を持った人がゼロから 80%になりました。
グジャラート地域における教育プログラムがこのような意識向上に貢献しました。また就業レベ
ルが、女性は 42%から 92%になりました。また住宅における上水道の布設は 30%から 34%に
なりました。このような生活インデックスは、地震前を1とすると 1.143 になります。生活水準が非
常に高くなったということがわかります。
このような表に基づいて何がわかるでしょうか。39%の受益者が4つの町に住んでおり、より広
い住宅に今では住んでいます。ほかの地域に比べますと、4つの地域に住む受益者の 39%が
より広い住宅に住んでいます。また調査対象になった受益者の真水の供給を受けている人は
10%ふえています。こちらの方はより衛生的な水を受けている人であります。またG5レベルの
受益者が堅固なつくりのプッカハウスに住んでいます。G1というのが軽微な影響、G5というの
が全壊であります。そして、G5の受益者が今では堅固なつくりの家に住んでいます。
また貧困ラインというものがインドではあります。特定の所得を下回る水準、その所得では賄う
ことができない場合は貧困ライン以下が 23%であります。しかし、その 23%が堅固な家に住み、
また貧困層レベルを上回る家族の数が 14%ふえました。また 90%以上の初等・中等教育を退
学した生徒が復学しています。また調査された女性の 70%の所得がふえています。そのように
認識できる変化、そして物理的な変化があります。
しかしながら最も重要な変化というのは、グジャラート地震の後の人々の態度です。また政府
の災害に対する姿勢です。パラダイムのシフトが見られます。政府の中でもアプローチの仕方
が変わっています。救援や人道援助を災害後に行うということがこれまでの常でした。資金や食
糧、衣料品などであります。また捜索、救済をするということがこれまで災害後に行われ、それが
受け入れられていました。しかし、パラダイムが変わっています。これは、災害前の予防、そして
影響軽減のための努力であります。
グジャラートにおいての政策は、2002 年に方針が決まりました。これは包括的なグジャラートの
州レベルの災害管理の法的な枠組みであります。そして、2003 年3月におきましては、法規制と
してグジャラート州の災害管理法が施行されました。インドにおいてもリーダー的なものでありま
す。またグジャラートの州政府として法規制に基づき、また議会においても予防・軽減の取り組
みが行われています。
また、この政策の主な内容を見てみましょう。ここでは救援中心のアプローチから災害軽減、リ
スク軽減へとアプローチが変わっています。キャパシティビルディング、脆弱性の低下、危険性
の低下、開発計画と災害管理の統合を中心にしています。災害後の救援は中心ではありませ
ん。また、地域における利害関係者を明確にし、その役割を明確にしています。また法規制に
基づく枠組みの規制でありますので、それぞれの官庁のタスクも明確になっています。また、こ
れが法規制になっておりますので、災害としての条項も明確になっています。災害というのはこ
れまでは法的な定義がありませんでした。また、災害と認識がされたときにこれが宣言をされ、そ
して地域州政府のさらなる権限がふやされています。
なぜ、このように州レベル、また地域レベルでの権限が増大されたかと言いますと、効果的に
81
救援や救済を災害直後に行うことができるようにするためです。
また政府の家屋修復プログラムにおいても大きな変化が行われています。これまでは住宅の
建設を委託し、それを住民に受け渡していました。しかしながら、さらに持ち主による再建を促し
ました。技術的、債務的に、また建材を提供するという支援をし、そして持ち主主導で再建を促
しました。持ち主が再建すれば、これは地域レベルでの予防プログラムにつながります。
グジャラートの農村地域を見ますと、女性でも子どもでも何をすべきかということがわかります。
なぜ、丘に住宅を建ててはならないのか、また何を建材として使うべきなのか、どういう地域に使
うべきなのかということがわかります。建築学を学んだ人でもわからないこともあるわけです。しか
しながら、ジャラートに住んでいる人であれば、文盲の者であってもそれがわかります。これは地
震を経験したからであります。
また、多くの人たちを教育するようになりました。2万 9679 人の石職人らに対しての耐震設計
の教育がされています。そして 6500 人が地震工学の耐震設計基準の教育を受けています。
政策が制定され、災害の計画立案がされ、準備態勢が整えられ、キャパシティビルディングが
行われています。また、影響軽減対策、コミュニティーにおける準備態勢が制定されています。
25 のグジャラートの地域において複数タイプの災害危険に対する管理計画が立案されていま
す。また州レベルの対応計画が立案されています。サイクロンや洪水、化学、核の危険に対す
るものであります。また石油化学産業が集中しています。70%~80%のこれらの産業はインドの
中でもグジャラートに集中しています。化学工業の工場すべてに災害に対するオフサイト、オン
サイトの計画があります。また準備態勢ということは非常に重要なところであります。最近も米国
のハリケーンでその重要性が明確になりました。予防、防災、そして軽減ということが重要であり
ます。そして非常時に対する対応がとても重要であります。
また農村地域においても特殊な要望の研究を受け、これまではフェリーを使っていたのです
けれども、フェリーの船員に対して何をすべきかということを知りました。自分の知識が米国の修
士学のレベルであっても、自分の村のリスクマネジメントの地図について指図をしても、船員は
理解できないでしょう。フェリーの船員でありますので。ということで、このように基本的なマップが
なければ知識があっても、それはむだになってしまいます。
構造物の軽減措置や建築基準法について話をしましたけれども、船員はわからないと言いま
した。このような知識があっても、それが実施されなければなくなってしまいます。少なくともこの
ような措置をとり、そして公共の認知を高めるプログラムが必要になります。フェリーの船員は
「100%災害に対応できない。水が入ってきてしまったら、もうどうしようもない」と言いました。この
ように予防や軽減の話をしても、非常時の対応こそが重要である。それを無視することはできま
せん。
ということで準備態勢を整え、そして非常時という重要なときに対応できるような訓練が必要で
あります。トレーニングをまずそれなりに行い、そしてほかの人たちにトレーニングするように、あ
らゆる州のボランティアに対してのトレーニングを行います。特に洪水の多い地域においてはボ
ランティア、また湾岸警備隊そのほか救済対応者に対してトレーニングが行われています。特
別に最新の捜索救援活動に対するトレーニングがグジャラートの地方自治体に対して提供され
ています。
また、工科大学の時間割の中に地震工学が組み入れられています。土木工学の大学を卒業
82
しても地震工学の講義を受けることが必須になっています。トレーニングも教授に対して提供さ
れています。災害管理は学校のカリキュラムの基礎になっています。また小学校の教師に対し
てのトレーニングが行われています。学校の安全に対する 150 のパイロットプログラムが学校で
使われています。そしてそれが大規模に州全体に展開することになっています。また地域ベー
スのリスク低減プログラムを 4000 の村に対して提供されています。多くの教師に対し、ボランティ
アに対し、学生に対してトレーニングが提供されています。
またインドで初めて認定に基づく石職人のプログラムがあります。また技師に対するプログラム
も提供されています。しかしながら、設計をグジャラートで行っているのは石職人であります。石
職人に対し教育を行い、認定プログラムを提供することによって能力をさらに高めることができま
す。地震に対する最低限の安全性を組み込んだ家屋の建築ができるようになります。また、イン
ドにおいては特に民間の建築の認定はありませんでしたけれども、技師免許制度の法案の準
備がされています。
また消防隊員に対する救援のトレーニングも行っています。さらに女性を意識した、また子ども
に対する災害対策が必要であります。非常時の対応、人道援助、救済においても特に女性、子
どもを意識するトレーニングが必要であります。このような男女差を意識したトレーニングを行っ
ています。これによって、公務員や議員、そして地域リーダーに対して、災害管理における男女
の問題について認識を高めています。
先ほど話をしましたけれども、グジャラートの地震後、家の再建のために持ち主に助成金を提
供しました。また、技術的にガイダンスやマニュアル、そして建材を提供しました。持ち主はどの
ようにすれば家の再建ができるかということがわかりました。多くのマニュアルやガイドラインなど
さまざまなタイプの構造物の建設の仕方を提供しました。家の持ち主だけではなく、石職人や
設計者に対して提供しています。
また、地震災害のあったところにおいて、砂漠地帯や半砂漠地帯において従来は泥を圧縮し
たものを建材とし壁にしています。そのような泥壁に対しての適切なガイドラインも提供していま
す。またガイドラインに基づき地域の建材を使ったものを使うようにということを励行しています。
レンガがなければ、その地域にある石を使うということ。レンガがなければ 200 キロ、あるいは 250
キロも離れたところから運ぶということは非常に高いコストになります。そして、貧困者がレンガを
使って家を再建するということは非現実的であります。ですので、そのほかの廉価な建材、そし
て地元でとれる石を使った建築を励行しています。
家の基準も恒久的に変わっています。また、火災、建築などの基準を改定しています。もともと
建築基準はありましたけれども、必須ではありませんでした。これを建設に使うか否かということ
はエンジニアなどに任されていました。しかしながら建築基準の施行が必須となっており、すべ
て耐震設計になり、そして建築基準に基づくということ。耐震であるだけではなく、そのほかのサ
イクロン、また風、火災に対しての基準もあります。
また、既存の建築法も刷新されました。これはインドの最新の技術に基づき、既存の建築基準
を見直し、そのほかの国の建築基準を見て提案をしました。そして、それが使える形のハンドブ
ックにしました。このハンドブックやガイドラインはだれでも無償で提供しています。
また多くの研究が行われ、委託されています。これは災害軽減のものであります。まず地震の
マイクロゾーン化。これは実現可能性のプロジェクトのフェーズを受けて本格的な段階になって
83
います。また建築基準の見直しが行われました。また、早期警告、伝達システムも委託研究され
ています。また、災害リスク、脆弱性の評価が行われています。これは初めて、より細かな地区
に切り分けて評価したものであります。また損害や損失の評価はこれまで数学的に行われてき
ませんでした。しかしながら、今はそれが数学的に計算できるようになってきています。また、緊
急対応センターが設置されています。またグジャラートのトレーニングを行うための地震工学再
建プログラムが設定されています。また、22 の観測地帯、そして 40 の強震加速度記録計が設置
されています。
グジャラートの経験というのは、ほかの国の再建プログラムでもモデルとして使われています。
ここでよいモデルを学ぶということが必要になります。スリランカそのほかの地域でもグジャラート
の再建を使ってモデルとしています。災害があった場合には、認知を高めるプログラムに基づき、
コンティンジェンシーなプログラムを実施することが重要であります。切迫感を持つことも必要で
ありますけれども、計画どおり対応することがコミュニティーでは必要ではあります。そして、しっ
かりとした予防と災害対策が行われていれば構造物破壊はわずかで済みます。そして、リスク移
転プログラムもありますので、死者数も限られます。
また、グジャラートの取り組みは国連の笹川賞を受けることができました。災害低減プログラム
が受賞になりました。また 2004 年においてはGSDMAのプログラムが表彰を受けました。また、
世銀のグリーン・アワードをグジャラート地震工学再建プログラムが受けています。
“Seeking Real International Partnership in Natural Disaster Mitigation”
スタンフォード大学 名誉教授 Haresh C. Shah(アメリカ)
本当に有能なとか科学者、何でもそろっているはずのアメリカなのに、「カトリーナ」が来たら、
もうすべて崩壊してしまったという状況でした。
大変興味深いのは、紙上で幾ら計画を立てたとしても、結局それは意味がない。つまり、全員
が、それこそ農民一人一人に至るところまで、あるいはニューオーリンズの最も貧困層の人たち
にそれが浸透しないと結局意味がないということです。FEMAが幾ら把握していても、結局そう
いう一人一人がちゃんとわかっていないとどうしようもない。計画は紙切れであるということです。
特にボンベイ、今はムンバイと呼ばれていますけれども、そこでの災害計画に携わってきまし
た。ムンバイは洪水の問題、それから大規模な降雨の問題とか地震の問題もありますし、日々
の生活そのものも大変悲劇的な状況ということも言えます。そういった中で大変込み入った災害
管理計画というものをつくりました。
警察庁あるいは消防庁のトップの人たち、いろんなところのトップの人と同じ部屋にいて、私は
インド人として1人だけだったのですけれども、その会議の席で私は聞いてみました。どうやって
コーディネーションを図っていくのだ、連携はどうなっているのだということで、まず警察庁の長
官に、「この災害計画全体を読みましたか」と聞いたら、「いや、読んでない」と。「では、自分に
かかわりがあるところは読みましたか」と聞いたら、「はい、私の関係のところは読みました。でも、
正直いってどうやってコラボレーションをしていったらいいか、あるいは消防との連携については
よくわからん」と言いました。アメリカでは郡という、厳密には郡ではないですけれども、何か災害
時に助けに来てくれるようなグループがいるわけですけれども、そことの連携がわからない。消
防庁の長官にも聞いても同じ答えでした。
84
大変すばらしい計画なのです。計画自体はすばらしい。でも、それにかかわっている当事者
たちがサポートしていない、あるいは意味するところを理解していないという状況で、これは5年
ぐらい前の話なのですけれども、果たして本当に災害が起こったときにこの計画はうまく機能す
るのだろうか、しないのではないか、きっと無理だろうと私は思ったものでした。
今日の私の話は、片山先生に依頼も受けまして、本当の意味でのパートナーシップをどうやっ
てつくったらいいのかということを申し上げたいのですが、これは大変難しいです。国際的なパ
ートナーシップをどうつくったらいいのでしょうか。
まずお話をしたいのは、これまで何をしてきたかという部分です。こういう会議で皆さん一堂に
会して専門家と話し合いをしてきた。興味を持っている人たち同士だけの間の話し合い。セミナ
ーを開き、お金もいっぱい使って出張して、ということをこれまで 35 年ぐらいやってきたわけです。
でも、明らかなのは、毎回災害が起こるたびに、あっ、また同じことの繰り返しだと思うわけです。
つまり、災害の後に行われるのは幾つかのこと。直後には何かします。だけれども、また別の地
域で災害が起こってという繰り返しなのです。例えば神戸の地震、あるいはほかの災害でもいい
のですけれども、どれ1つとっても結局同じような話がゴロゴロしている。だから、これまで何をし
てきたんだろうということをまず考えてみても、どうもこれは効果を上げていないようだと思うわけ
です。
最近大変興味深い発言を耳にしました。国連の代表、ある国の国連大使がこうおっしゃったの
です。引用です。マッドネス、つまり狂気の1つの定義はこうだと。同じことを何度も何度も繰り返
す。これが狂気の1つのテーマである。同じことをするけれども、結果が異なることを期待するこ
とがそもそもおかしいと言います。実際私たちはそれをやっているわけです。同じことを何度も
何度も繰り返す。災害の後これをやってみたり、あれをやってみたり、専門家を呼んでみたりと
いうことでいろいろやってみるのだけれども、結局最後は同じことの繰り返しをして、それが 10 年、
20 年、30 年と続いてしまっている。そして、今日のところ少なくとも何も変わらない。つまり災害
が社会に与える影響というのは全く何も以前と変わっていない。だから、私たちはおかしいので
はないかということなのですね。同じことを繰り返しながら結果が異なることを期待する。それを
期待しても無理ですよね。
バングラデシュのケースは、それこそ本当にすばらしいことをやりました。それによって人命が
失われる数が減りました。ですから、そういう大変少ないケースもあります。いいケースもあった。
ですけれども、それは本当に少数派です。
ということで、何枚かスライドを見せながら、私たちが進もうとしている方向が間違っているのだ
よ、物事はよくなっていない、悪化しているということを説明したいと思います。
その上で、では、今までの殻を破って、今までの考え方にとらわれない考え方をするべきでは
ないかということを話したいと思います。過去 20 年~30 年の間に例えば 20 あるいはそれ以上の
大きな災害がありました。で、私たちは計画を立てて、人々の経済的な被害、その他人的被害、
そういったものすべてを削減しようとしたのに、手を打ってきたにもかかわらず功を奏していない。
そうではないと異論があれば、ぜひおっしゃってください。もちろんある程度の数えられるほどの
例外はあるかもしれないけれども、本当にそれこそ少ないわけですね。
半分水が入ったグラスを見て、半分残っていると見るか、あるいは半分なくなったと見るかとい
うのは見方の違いですけれども、私はまだ半分足りない、なくなったなと思う方なのですね。い
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ずれにしましても半分水がなくなってしまって、半分しか水が残っていないという見方をいていき
たい。つまり今やっていることではだめなのだということを提言したいわけです。そこにはやはり
アジア、それからグローバルな国際的なパートナーシップが必要であるということで、その観点
から物事を今までと違う方向で考える必要があるのではないかと思います。
片山先生が、時間を少し多めにくださるということなのですが、今ニューオーリンズで大変ひど
いことになっております。そして「カトリーナ」でどういうことが起こったかというと、被害額とか、私
も幾つか数字を持っておりますので、それを御紹介していきたいと思います。
では、最初にデータを幾つかお見せしたいのですが、Jamilur さん、その他、データをお見せ
いただいたプレゼンテーションがありましたけれども、ここでは人口動態的な変化ということを見
ていきたいと思います。世界で人口の移動が起こっています。出所は複数ありまして、Jamilur さ
んのおっしゃったものと全く合致するわけではありませんけれども、トレンドとしては同じです。
特に、これはミュンヘンをベースにしているところから出てきたデータをメインで使っていますけ
れども、2015 年に最も人口の高い都市を 10 選んでおりまして、東京がトップです。それからソウ
ル、ニューヨークと続き、ムンバイ、デリー、メキシコシティ、サンパウロという形で続いております
けれども、これらのうち9の都市がアジアの都市です。そして、2つを除いて途上国です。ですの
で、都市化の波が今大変大きく押し寄せているということが1つ。特に災害に脆弱な土地に集ま
っているということ。
もう1つは、人類の歴史が始まって以来ということなのですけれども、都市部に住む人の方が
農村部よりもふえているということです。それこそもう大変動という感じです。こんなことは全く今
まで人類がかつてなかったようなことですが、とにかくこれからは逆転現象が起こってくる。つま
り都市部対農村部ということで、どっちに人が住んでいるかということで、ある線を超えて都市部
の方が上回ってしまう。特にイマージングエコノミーと呼ばれるような台頭している市場におきま
しては、農村部よりも都市部に住む人口の方が上回ってしまうということです。これはリスクという
意味でも大変大きな変化です。というのも、私たちがこれからどういう建造物をつくっていくのか、
それによってはリスクが高まってしまうからです。
もう1つのデータです。これも議論に使いたいのですが、10 年ごとに見ていった場合に経済的
な損害を見ていきます。これはドルで見ています。インフレを取り除いたコンスタントダラーという
形で見ています。1998 年の率に合わせています。そうすると、被害額トータルで見た場合こんな
にふえています。グラフからも明らかです。
ですけれども、ここで興味深いのは、保険のかかっている損害、つまりリスクを保険会社に転
嫁しているところが上がっている。でも、その上がっているスピードというのは、税金を払っている
私たちが払っているお金を上回るスピードであるということです。つまり、この茶色の部分と黄色
の部分がありますけれども、茶色の部分のスピードの方が速いということです。つまり保険がか
かっていない部分が多いということ。
では、その借りの部分はどこから来るのかという話になるわけですね。分析をするような人であ
れば、それこそ指数関数的にこれは伸びている。もうどんどん伸びる一方である。では、どこまで
いくのだろう、という感じです。ですから、これは余り好ましいトレンドとは言えない。で、この 30 年
適切なことをしていれば、例えば 35 年前の地震工学的なところで適切な取り組みをしていれば、
もしかしたら横ばいだったかもしれない。では、下がったかというと、そうではなかったわけです
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ね。むしろこれは上がってしまっている。だから、余りこれは喜ばしいことではない。今までやっ
てきたことが効果を上げていないということのあかしではないかと思います。
それから統計的な数字をもう少しお見せしたいのですが、我々が今どれぐらいの点数を稼い
でいるか、どれぐらいうまくやっているのかということですが、これは最近あった地震。
例えばトルコのコチャイリ(Kcaeli)の地震では1万 7000 人が亡くなって、被害額はドルで大体
150 億から 200 億、GDPに対しては7~10%の率ということですけれども、それこそ本当に大変、
けがも悲惨なものでした。台湾のチチ(ChiChi)地震では 2400 人が亡くなって、そして 100 億か
ら 120 億、GDP比で3~4%。インドのブチ(Bhuj)の場合も、これは丸めた数字で全部示してい
ますけれども、1万 4000 人が亡くなって、大体最大でも 100 億ドルぐらい、対GDP比で言いま
すと1%。アルジェリアのブーマーデス(Boumerdes)では 2300 人亡くなって、50 億の被害額、G
DP比 10%ということになります。
このような最近の例ですけれども、最近になって起こった地震を見た場合も、これだけ科学が
進んで技術が発達して、それこそどこで何をつくってもいいような、それだけの知識と技術があ
る。でも、このような被害が出ているということです。ですから、知識と実際のそれの活用の部分
にどうも大きなギャップがある。つながっていないのではないかということです。
あるとき私はブラジルに代表団の一員として行きました。ESEEというところで行きました。ブラ
ジルにみんなでこぞって行ったわけです。それで、これだけ建築技術が進みましたというのを見
たわけですね。で、ある建物に連れて行かれました。これはダウンタウンにありまして、ちょうど 30
階建てか 40 階建てぐらいの高層ビルをつくっている最中の建設現場でした。それこそコンクリー
トのトラックとかが 30 台ぐらいつながっているような状態で建設が進んでいました。そして必死に
なって縦方向だけではなくて、鉄筋コンクリートをつくろうとしていたわけです。で、コンクリートを
流し込むわけですね。まず1階のところ。本当は 40 階建てということですけれども、円形の周辺
方向への鉄筋の強化というものが全くされないわけですね。縦方向だけというような形。だから、
そういう知識があるにもかかわらず、実践に生かされていないということです。ですから、知識の
レベルと実践の場との間に大きなギャップがあって、そこがつながっていないという問題がありま
す。
もう1つ途上国に対して今まで何度も言ってきたことがあります。目標をはっきり理解して、目指
すべきところをわかった上で好ましい建築基準を実践しなければならないですよと言うばかりで、
実践の部分を手伝わないというのがこれまでの問題だと思います。それこそ災害時にこうむる1
人当たりの被害というのは、先進国よりも途上国は大変大きいわけです。「カトリーナ」の被害額
はドルで言いますとそれこそ1億ドルぐらいでしょうか。GDPで考えると大変小さいかもしれない。
けれども、どこかほかのところで起こっていたら、とんでもなく大きな相対的な被害になるわけで
す。
とにかくだれがその被害額を背負うのかということです。バングラデシュで 1998 年に洪水が起
こったときどうだったかという、この一番左を見ていただきますと、経済的な被害額というのはトー
タルで大体 50 億ぐらいだったのですけれども、それの 0.3%しか保険がかかっていなかったとい
うことです。つまり 99.7%は地元の経済あるいは世界銀行が負担したり、あるいはお金を借りたり
という形で賄われなければならなかった損害額なわけです。
その一方で、一番右端をごらんください。フランスで「ロザール」という大きな嵐が 99 年にありま
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した。やはり被害額というのがトータルで見ますと同じぐらいですね。45 億ぐらいだったわけです
けれども、100%保険でカバーされていたということです。ですから、リスクトランスファーというコ
ンセプトがきちんと途上国では意識されていない、理解されていないという問題があります。で
すから、ほかにできることがあるのではないかということを特に途上国については考える必要が
あると思います。
こちらのグラフは、しばらく前から同僚の皆さんにお見せして、だれも気をとめてくださっていな
いので改めてお見せしたいのですけれども、この上の部分をごらんいただきたいのは、これはま
ず大がかりな災害が何件あったかというのを 10 年ごとに区切って見ています。一番右端は忘れ
てくださって結構です。というのも、まだ 10 年終わっていませんから。しかし、ここを見ていただき
ますと、件数で見ると最初 50 年代は 20 件だったのが、90 年代には 91 までふえています。これ
は1番目の横を見ております。そして、このような被害額も高まっています。これは都市化のなせ
るわざです。より多くの人が都市部に住むようになってきた。で、渡辺先生の話にもありましたよ
うに、それこそ住むべきではない場所に住むようになっているということです。まず件数がふえて
いるということで、20 から 91 にふえました。被害額は 420 億から 6590 億までふえたということで、
これはインフレ部分を除いたドルです。それから非保険部分はゼロだったのから 1240 億までふ
えました。
ですので、この表をごらんいただいて、そこの意味するところを分析すると、件数の率、それこ
そ 70 年代、60 年代というのは大体 74%ふえたのですけれども、60 年代から 90 年代まで見ま
すと、60 年代よりも大体2倍ぐらい件数がふえている状況というのがわかります。まあ、3倍とか4
倍ぐらいだったものが、それに対して経済的な被害というのは9倍になっております。それから、
保険でカバーされている部分の率の伸びはそれほどでもないということです。ですから、これを
見ると余りうれしくないという数字なわけですね。というのも、進む方向が間違っている、物事が
悪化しているではないか、よくなっていないじゃないかということがここから見てとれるからです。
そこでわかるのは何かと言うと、まず被害額がふえているということがわかります。ニューオーリ
ンズでさえ何千人という人が亡くなっているようですし、ですから死者の数も減っていないわけで
すね。もちろん死者の数については多少抑えぎみになってきている部分もありますけれども、そ
れこそ被害額というのは全く抑えられていないし、それは先進国の話であって、途上国の場合
は死者もふえているし、被害額もふえているということで、どちらにおいても成功することができ
ていないという状況です。
ですから、データから私が今言ったようなことが読み取れるのであれば、なぜこうなっちゃった
のだろう、どこがいけなかったのだろうということを考えなければいけないと思います。では、何が
できるのか、何をすべきかということを考えなければなりません。片山さんともこの話をよくしてき
ましたけれども、やはり「カトリーナ」のことを考えても、政策の方ばかりに人が集まっていて、実
際に災害に対して何か行動を起こす部分に割かれている人員の数が少ないということです。こう
いう方針をつくろう、こういう規制をつくろうというふうに、法律とか規制をつくる方に一生懸命に
なって、実践の部分の方が手薄になっているということです。
だから、先ほどの国連大使がおっしゃっていた「狂気」の定義ですけれども、私たちはまさにや
っていることがおかしい。同じことを繰り返して、その結果がいい方向に行くわけがない。じゃあ、
どうしたらいいのかということです。それこそ何百万ドルぐらいの価値のある問題になると思うの
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ですけれども、それについて考えてみる必要があると思います。それこそ答えがわかれば、もう
すぐにみんなはそれについて話をすると思うのですけれども、なかなか答えが見出せない。私
自身、全部を把握しているわけではありません。知らないことの方が知っていることよりも多い。
だけれども、人間の振る舞いというものを私はわかっているつもりです。
ですので、これまでの問題というのは、やはり知識を生み出す人、例えば私たちみたいな人と
いうことですけれども、知識を生み出す人は必ずしも知識を活用する立場にないということです。
例えば、それこそ先ほどの話にもあったように、大学で勉強した人よりもよほど現地で村人がど
れだけ知っているかという方が大事だったりするわけです。ですから、知識を生み出す人と知識
を活用して行動につなげる人の間のギャップがあるということ。また、専門家同士で話をしても情
報伝達のループは完成しないということです。それも重要です。例えば中国のある村があったと
します。やはりそこにきちんと話が伝わらないと意味がないわけですね。
もう1つ知識を生み出すような人というのは、実践の現場でだれに話をすべきなのかという、そ
この部分がわかっていない。物事を先に進めるためには何をしなければならないかという現場
のことがわかっていない。また実践のところにつなげていくというところの理解がエンジニアの方
でも専門家の方でもなかなかないということがあります。そういう専門家というのは似たような専門
家と話をしたり、セミナーでプレゼンテーションをしたり議論をしたり、報告書を書いたり、委員会
に名を連ねたりということは大好きなのだけれども、実際の現場の人、本当にその人たちが行動
を起こせば物事が変わるという、その人たちと話をしないわけです。本当に意味のある行動につ
なげることができる人と専門家の間の橋渡しができていない。そこの部分が途切れている。
なぜこういうふうにうまくいっていないのかといったことがちゃんとわかっていない。エンジニアリ
ングが悪いのか、政策が悪いのか、何がいけないのか。そこを把握しなければならない。本来こ
うあるべきというところがうまく機能していない理由は何でしょうか。それをちゃんと理解しなけれ
ばなりません。
そこで幾つか提案があります。皆さんの中でこの本を読んだことがある方がいらっしゃるかもわ
かりません。デビッドという経済学者が書いた本です。シカゴ大学の若い先生ですけれども、「経
済のメカニズム」ということで書いていらっしゃいますけれども、ここで扱っているテーマというの
は、人間の振る舞いを研究した上で、人間にとってインセンティブというものがどういうふうに働く
のかということ、つまり人々を興奮させるのは何なのか、これをしたいなあと人に思わせるものは
何なのかということを研究しています。つまり、人間というのは、あっ、これをやりたいなあと思わ
せる何かがないものについては行動を起こさない、インセンティブがないとだめだという、それこ
そDNAレベルの人の振る舞いを研究した本です。
ですから、そこをまず理解しなければいけない。グジャラートの村であっても、あるいはバング
ラデシュの町でもいいです。ニューオーリンズでもいいです。いずれにしてもここに住んでいる
人たちを突き動かす、つまり避難しようと思わせるインセンティブは何が考えられたのだろうかと
いうことです。単に「避難しよう」と一方的に言われても、「あっちへ行け」という感じになってしまう
と思うのですね。そこにはインセンティブがなかったから。少なくともそこを住民は理解していな
かったから避難しなかったわけです。ですから、きちんとリスク軽減のためのインセンティブをわ
かるように説明していかなければならなかったわけです。
ですから、まずはエンジニアの人たちが、このような人の行動を勉強している行動学者とか心
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理学者とか、そういう人たちと話をするべきです。例えば「これがソリューションです」といったこと
で一方的に押しつけるのではなくて、それではうまくいきませんので、ちゃんと人間の心理に訴
えるようなやり方をしなければならない。そのためにはまずインセンティブというものを理解しなけ
ればならない。そして、人の振る舞い、行動に結びつけていくことが必要です。それこそソリュー
ションが幾つあっても、それを実際に実践する人がいなければ意味がないわけです。
そしてまたメディアの活用も必要です。インセンティブ、そしてコストについて伝える役割を担っ
ていただけるからです。ですけれども、そこがきちんと活用できていない。余りそこの部分がしっ
かりできていないわけです。テレビとかそういうものをもっとうまく活用すればいいのに、それがで
きていないということがあります。
それからまた金融機関とのパートナーシップも重要です。やはりここにもインセンティブ、そし
てお金という問題がかかわってきます。つまり金融機関とパートナーシップを構築することによっ
て、そのようなインセンティブですとか、そのコストというものを伝えていくことができると思いま
す。
保険及び再保険業界とのパートナーシップも重要です。リスクの軽減、リスクトランスファーを
そのために行っていくということです。例えば「私があなたのリスクの肩がわりをしてあげますよ」
と言ったら、本当に喜んでもらえるわけですよね。これはインセンティブになるわけです。自分か
らリスクを取り除いて、ほかの人に担ってもらうというんですからインセンティブです。それこそこ
れは保険そのもののことなのですが、例えば保険は高すぎて、だれも買ってくれない。例えばマ
イクロクレジットなんていうのがありますね。そうすると、そういう新しい商品、マイクロインシュアラ
ンス、マイクロ保険商品という新しい商品も開発されている。それが当たればいいわけです。そう
すると、いろんな形で支払いができるはずです。それこそ災害が起こる前に保険料を払ってい
ただくことができる。実際にいろいろ村人レベルでも保険を買うようになってきていることに驚きま
したけれども、いいことだと思います。世界銀行でも、その他いろんなところでプールでお金を
集めて、そして自前で保険料を払えないような人たちに振り向けるということをすることができる
わけです。ですから、今までの考え方を打ち破って別のアプローチをとるということ、固定観念か
ら開放されることが重要だと思います。
まとめますと、人口動態的な変化があります。それによって国際的なパートナーシップが必要
になってきます。それをしなければ、それこそこういう会議を開いてペーパーの発表をして、それ
で終わりということになってしまう。そうではないんです。もっと考え方を変えなければなりません。
物事のやり方を変えなければならない。
今日においてだれかが、例えばミャンマーの人が 100 階建ての構造物の工学的な部分がわ
からないというのであれば、その人はインターネットにアクセスさえすれば、その辺は幾らでもイ
ンターネットに載っています。イギリス、アメリカといったところだけではなくて、もう世界各地どこ
でもインターネットを使えばそういった知識へのアクセスはある。
でも、それだけでは十分ではない。つまり、情報だけではだめなんで、それをどうインセンティ
ブに結びつけて、人々の行動につなげていくのかということ。そこが重要なのにもかかわらずで
きていない。だからこそ同じことの繰り返しに陥ってしまっている。でも、同じことなのに結果を期
待するというのはやはり間違っているということです。
そして、やはりコスト・ベネフィットの部分をきちんと社会が理解しなければ意味がない。リスク
90
の軽減の戦略をきちんと理解をする必要があります。そして、個人、会社、また社会的なインセ
ンティブがなければ前には進むことができないということが言えると思います。そのためにも本当
の意味でのパートナーシップが必要になります。ありがとうございました(拍手)。
「カトリーナ」について、もう一言申し上げたいと思います。皆さん、関心ありますか。それともコ
ーヒーの方がいいですか。何分間かいただけたら、「カトリーナ」について申し上げましょう。す
みません。私の個人のコンピュータはあっちですが、ごめんなさい。私の個人のコンピュータに
入っています。画面はなしでスライドはお見せしませんが、とりあえず話だけにしましょう。
今回の「カトリーナ」のハリケーンですが、政治家に話を聞くと、「これは驚きだった」と言うでし
ょう。でも、驚きなんて、うそです。そんなことはない。というのも、この 10 年間少なくとも 10 の研
究が行われています。つまり最悪のシナリオとしてアメリカが直面する可能性があるものを取り上
げております。ニューオーリンズというのは必ず被災地としてそこに含まれていたのです。という
のも、ニューオーリンズのかなりの部分というのは海抜よりも下ですね。海よりも低いです。で、40
年、50 年、60 年ぐらい前にそれこそ堤防等をつくりました。そして水が入ってこないようにしたわ
けです。ですから、言ったら、ミシシッピ川のところに築いたのですけれども、それこそ海より低い
ところにあるわけです。ですから、自分よりも高いところをボートが航行している。自分は道の上
に立っているけれども、自分よりも高いところに海の境界線があり、ボートが走っているということ
を見るとゾッとします。
最近行われた研究がありまして、これはニューオーリンズの新聞がやった調査結果なんです
けれども、その記者の2人がシナリオを開発しました。つまり、このシナリオというのは、仮に大き
なハリケーンがやってきて、その堤防を破ったらどうなるかということを検討しました。そうすると、
驚くことに実際今回目にしたものと大変似ているんです。数年前に行われた調査ですけれども、
大体人口全体の3割から4割はあまりにも貧しくて車も持っていない。だから、「避難をしろ」と言
っても避難のしようがない。どこに行ったらいいかもわからないし手段もない。ですから、「避難し
なさい」と言うのは簡単だけれども、実際の避難のさせ方というのは別問題であるということを、そ
の中で言っています。そしてまた一部の堤防は決壊してしまうだろう。そうすると浸水が起こると
いうことも言っています。それこそ「堤防のことは知らなかった」なんて今ごろになって言われても、
それはおかしい。それはあなたの無知がなせるわざだと言わざるを得ません。
幾つか数字を申し上げたいのですが、その前にもう1つ興味深い点は、アメリカにおいては国
の洪水保険プログラムFMIPというものがあります。National Flood Insurance Program というもの
ですが、私の家が被災しました。そして、人が死んだのも洪水のせいだと言えば、政府から保険
料が支払われます。これは国の政府がスポンサーです。でも、洪水ではなくてハリケーンのせい
だと言えば、そうすると国ではなくて保険会社が払うことになる。
ですから、皆さん、新聞を読んでいらっしゃるかわからないですけれども、ハリケーン「カトリー
ナ」というふうに最初言って、その関連の被害額という言い方がされていたのですが、この3~4
日になりますと、ハリケーン「カトリーナ」プラス・グレートニューオーリンズ・フラッド、つまり「ニュ
ーオーリンズ地域の洪水」というのがつけ加わったのですね。つまり保険会社に対してこれは別
物だ、イベントとして別だと。ハリケーンとニューオーリンズの洪水は別だという大変デリケートな
部分がありまして、そういう書き方を新聞はこの3~4日するようになってきました。
それから、風とそれに伴う高潮による被害というのは大体額で言いますと 250~300 億ドルぐら
91
いになるだろう。これは保険がかかっていた部分です。しかし、ハイウェイですとかビジネスが途
絶してしまったとか、いろんなほかの被害額を勘案しますとその倍ぐらいになると思います。これ
はあくまでも風と高潮オンリーです。
では、例えば堤防が決壊して町が浸水して、ニューオーリンズ地域全体の洪水ということを考
えると、それこそ被害額の洪水による部分というのは大体 1000 億ドルぐらいです。そのうちの半
分ぐらいが政府なのか、あるいは保険会社なのかわかりませんが、何らかの補填があるというこ
とになります。半分です。ですから、神戸淡路の大震災ぐらいの大きな額と言えると思います。
プラスマイナスは多少あるかもしれませんけれども、被害額としては大変大きな数字になります。
ただ、まだわからないのは、ビジネスが途絶してしまったことに対する被害額です。例えば石
油業界は大変大きな業界ですよね。この地域は大変盛んで、それこそいろんな損害が出ており
ます。精油所もとまっていて、ビジネスが完全にとまってしまって、これがどれまで続くのかという
のもわからない。ですから、定量化するのは、今は大変難しいわけです。ですけれども、とにかく
最悪クラスの、アメリカの歴史上類を見ないぐらいの被害であったということが言えます。
2) 第 2 回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
平成18年9月8日(金)10:00~17:30
(ii)
開催場所
東京コンファレンスセンター品川
(iii)
概要
第1回アジア科学技術フォーラム」における議論を継続するとともに、新たに「感染症分科会」
を発足させ、アジアンプロブレムの相互理解を中心として意見発表、意見交換等を行った。講演
者 30 名(内訳:中国 4 名、韓国 2 名、タイ 3 名、ベトナム 2 名、インド 2 名、インドネシア 2 名、モ
ンゴル 1 名、スリランカ 1 名、日本 13 名)を含む 276 名が参加し、活発な議論が行われた。
基調講演で岩手県立大学の谷口誠学長が「アジアの持続的発展と科学技術-日本の貢献
-」と題する講演を行った後、分科会毎に分かれた。
第1分科会「科学技術政策」では「アジアの持続的発展に資する科学技術政策の在り方」をテ
ーマとし、アジア各国が持続的発展のためにとってきた科学技術政策、経済、環境、感染症、災
害などの共通の問題へのアジア各国の協力体制構築の重要性について議論を行った。
第2分科会「環境・エネルギー問題」では、「アジアの持続的発展に資する環境・エネルギー
分野の研究開発」をテーマとし、主にエネルギー分野での共通課題・解決方法について議論を
深め、「原子力利用」「石炭利用」「バイオマス利用」を共通課題として抽出した。
第3分科会「自然災害対策」では、「自然災害と社会、開発、そして科学技術-アジアにおけ
るパートナーシップの構築」をテーマとし、アジア地域における自然災害の現状を明らかにする
ため、「第1回アジア科学技術フォーラム」に引き続き、「災害の認識」「災害と社会」「災害と科
学」の3つの側面から議論を深めた。
第4分科会「感染症対策」では、「アジアの持続的発展に資する感染症対策-二国間・多国
92
間協力及びネットワークの構築-」をテーマとし、主にアジア各国における感染症対策の現状を
報告しあうとともに、今後の対策について議論を行った。
(iv)
プログラム
10:00 ~ 10:30
・開会挨拶・来賓挨拶・概要説明
10:30 ~ 11:30
・基調講演
11:30 ~ 13:00
・昼食
13:00 ~ 16:50
・分科会
17:00 ~ 17:30
(v)
・全体総括(各分科会の報告を中心に)
・閉会挨拶
講演者リスト
役割
開会挨拶
所属
(独)科学技術振興
役職
氏名
国名
理事長
沖村 憲樹
日本
機構
来賓挨拶
文部科学省
副大臣
河本 三郎
日本
概要説明
(独)科学技術振興
理事
永野 博
日本
機構
基調講演
岩手県立大学
学長
谷口 誠
日本
第 1 分科会
総合科学技術会議
議員
阿部 博之(座長)
日本
(科学技術政
科技促進発展研究
副所長
Zhou Yuan
中国
策)
中心
院長
Sungchul Chung
韓国
長官
Sakarindr
タイ
科学技術政策研究
院
科学技術開発庁
Bhumiratana
国立科学技術政策
所長代理
Bach Tan Sinh
ベトナム
国際連合大学高等
評議会委
Manju Sharma
インド
研究所
員
文部科学省 科学
所長
國谷 実
日本
副理事長
茅 陽一(座長)
日本
理事
Rangsan
タイ
戦略研究所
技術政策研究所
第 2 分科会
(財)地球環境産業
(環境・エネル
技術研究機構
ギー問題)
エネルギー省 代
替エネルギー開発
Sarochawikasit
効率局
天然資源・環境省
所長
93
Tran Thuc
ベトナム
気象水文研究所
中国科学院 工程
副所長
Yunhan Xiao
中国
学長
Zuhal
インドネシア
(独)科学技術振興
上席フェ
井上 孝太郎
日本
機構 研究開発戦
ロー
片山 恒雄(座長)
日本
処長
高 玉成
中国
民主党
党首
Elbegdorj Tsakhia
モンゴル
科学技術省
大臣
Tissa Vitarana
スリランカ
研究技術省
副大臣
Idwan Suhardi
インドネシア
(独)防災科学技術
客員研究
亀田 弘行
日本
研究所
員
第 4 分科会
(独)理化学研究所
センター
永井 美之(座長)
日本
(感染症対策)
感染症研究ネットワ
長
熱物理研究所
アル・アザール・イン
ドネシア大学
略センター
第 3 分科会
東京電機大学
(自然災害対
策)
特別客員
教授
中国国家災害軽減
センター民生部救
災救済局救災処
ーク支援センター
国立感染症研究所
所長
宮村 達男(座長)
日本
株式会社シネ・サイ
所長
竹田 美文(コー
日本
エンス研究所
マヒドール大学シリ
ディネーター)
教授
Prida Malasit
タイ
国際ワクチン機構
総裁
John D. Clemens
韓国
医療研究審議会
局長
N. K. Ganguly
インド
北京工業大学生命
院長
曽 毅
中国
ラ病院
科学与生物工程学
院
(vi)
詳細
i) 開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 沖村 憲樹
本日はご多忙の中、第 2 回アジア科学技術フォーラムにご参加を賜り、心よりお礼申し上げま
す。特に、Elbegdorj モンゴル前首相、Vitarana スリランカ科学技術大臣、Sakarindr タイ科学技
術開発庁長官はじめ、遠く海外からわざわざお越し頂いたスピーカーの先生方には心より感謝
申し上げます。また主催者を代表し、ここにご参加いただいたすべての皆様に歓迎のご挨拶を
94
申し上げます。
今回のフォーラムは、私ども科学技術振興機構が中核となり、科学技術政策研究所、防災科
学技術研究所との共催により、アジアが抱える様々な地域共通課題を科学技術の力により解決
すること、およびアジアの科学技術レベルの向上を目指して平成 17 年度から 19 年度にわたり
毎年開催する企画の第 2 回目の年に当たります。
平成 17 年度の第 1 回フォーラムにおいては、全体テーマである「アジアの持続的発展に向け
た科学技術の挑戦」のテーマのもとに「科学技術政策」、「環境・エネルギー問題」、「自然災害
対策」の 3 つの分科会を設けて、それぞれアジア各国の科学技術政策における立案プロセスや
重点化状況の相互理解、アジア地域の急激な工業化および人口増加がもたらす環境破壊や
資源・エネルギー開発問題に対しての認識の共有化、またスマトラ島沖地震による津波や大洪
水、地震といった自然災害被害を軽減するための各国の取り組みについて相互の認識と問題
点の明確化を図って議論してまいりました。
今回の第 2 回フォーラムにおいては第 1 回で得られたアジア各国の様々の問題点の共通性、
差異に対する深い認識のもとに、一国、一地域では解決できない共通の課題に対してアジア地
域として連携、共同しつつ如何に人類共通の財産である科学技術の成果を十分に活用しなが
ら、効果的に対応すべきかについて議論を深めていきたいと考えています。また今回からはこ
れもアジア地域で連携して取り組むべき最も重要な共通の課題の一つとして、「感染症問題」に
ついて扱う分科会を新た設置致しました。
本日は基調講演、4 つの分科会で多数の発表やディスカッションが予定されております。ご参
加の皆さまが十分に情報交換、意見交換を行い、アジアの持続的発展、繁栄のために活発な
議論が生まれることを期待いたします。そして、本日のフォーラムを契機としてこれらの議論が、
今後持続的な活動に結びついていくことを希望します。
ii) 来賓挨拶 文部科学省 副大臣 河本 三郎
このフォーラムは日本とアジア諸国の科学技術協力の発展のため文部科学省の事業として
昨年より開催されているものであり、今回は第 2 回目の会合となります。本日は各国の大臣をは
じめとしてアジア諸国の科学技術関係の各界の指導者の方々にご参加いただいたことに文部
科学省を代表して感謝申し上げます。
私はアジア諸国との科学技術協力の重要性という点につきましては、以前より注目をしてまい
りました。昨年、文部科学副大臣に就任した直後および今年 3 月にはタイの感染症研究拠点を、
また 7 月にはシンガポールのバイオポリスの第一線の研究機関をそれぞれ視察してまいりまし
た。また両国においては日本と現地の研究者の皆様が出席するセミナーにおいてスピーチする
機会があり、アジア諸国との科学技術協力の強化に関する私の持論を述べさせていただきまし
た。
本日、ご出席のタイの Sakarindr 科学技術開発庁長官とは、その際にバンコクでお会いしまし
た。こうした訪問を通して先端的な研究施設の集積などをつぶさに拝見し、アジア諸国の研究
水準の高まりを実感しております。またわが国からも多数の研究機関、研究員がアジア諸国に
おいて活動しており、日本の研究者と現地の研究者が共に研究を行っている姿が印象的でし
た。研究現場レベルで着実にアジア諸国との連携が進んでいると感じています。
95
本フォーラム開催の背景となっているわが国の科学技術政策について一言申し上げます。
わが国では今後 5 ヵ年の科学技術政策の方向を定める第 3 期科学技術基本計画を今年 3 月
に閣議決定しました。この基本計画においては、先程述べましたようなアジア諸国の科学技術
水準の急速な向上を踏まえて、わが国とアジア諸国との科学技術連携の強化が大きな柱として
位置づけられています。今後、オープンで対等なパートナーシップを構築することが求められて
います。この基本計画を受けてわが国の政府研究開発費の約 70%に責任を有する文部科学
省としても、科学技術を鍵としてアジアとの連携強化に積極的に取り組んでまいります。地理的、
自然環境的な近接性、経済環境の緊密化等を踏まえ、日本とアジア諸国とが共同し、アジア地
域の可能性を最大限に引き出すことを通じ、アジアから世界に貢献できることを期待していま
す。
アジアではスマトラ沖大地震および津波を始めとする自然災害、鳥インフルエンザ等の感染
症問題、そして工業化の進展に伴う環境問題等が生じています。これらの課題は地域的な広が
りや、共通性を持つものであり、本フォーラムにおいてはこのような地域共通課題を具体的に注
視し、今後の科学技術協力の推進方策に対して提言を頂ければ幸いです。アジア地域共通課
題に取り組むには研究者のみならず政治、行政等広範な分野でアジア諸国間の緊密なネット
ワークが必要であり、アジアの指導的立場にある皆様が一堂に会する本フォーラムを通して最
新の情報を紹介、交換し、議論することにより今後のアジア諸国間における科学技術協力がさ
らに発展することを期待し、私の挨拶と致します。
iii) 趣旨説明 (独)科学技術振興機構 理事 永野 博
本日で 2 回目となる本フォーラムですが、昨年第 1 回を 9 月に開催しました。毎年日本で 1
回ずつ開催していく計画です。ちなみに昨年 9 月は、文部科学省の有馬前大臣から、英語
で ”Towards Establishing an Asian Science and Technology Axis”、日本語で「科学技術におけ
るアジア一極の確立のために」という内容でエネルギーから教育に至るまでアジアが直面する
課題について広範な講演をいただき感銘を受けました。昨年は 3 つの分科会を構成し、1 つが
「科学技術政策」、もう1つが「環境・エネルギー問題」、それから「自然災害対策」で、アジア地
域を中心に 9 カ国から 16 名のスピーカーに来ていただき、約 300 名の参加者があり、大変活発
に行われました。
またアジア科学技術セミナーを日本以外で開催し、日本のアジア科学技術フォーラムで議論
されたトピックにかかわる課題を取り上げ、具体的な解決を考えていくため、昨年度、カレンダー
では今年の春先ですが、「環境・エネルギー」について「生態系の保存と利用」というテーマのセ
ミナーがマレーシアで開催されました。また「科学技術政策」関連では「知的財産権」に関する
セミナーをタイで開催し、その節は Sakarindr 科学技術開発庁長官に大変お世話になりました。
マレーシアにおけるセミナーでは、生態系についての環境アセスメント技術、生態系生物資
源の持続可能な利用技術、生態系サービス維持技術の 3 つのセッションで共有すべき課題に
ついて議論しました。共同プロジェクトにおける連携、新しい組織についての議論の必要性が
提議されました。
タイでは私も出席しましたが、アジア諸国における知的財産権制度、公共・民間部門におけ
る知的所有権に関する連携などについて、アジアにおける共通点、相違点、問題点を明らかに
96
し、意見集約としては「産学連携の経験の共有」、「知財政策に関する共同研究」「知財におけ
る人材開発」「知財に関するデータベース」についての提言がまとめられました。
これらのプロジェクトを通じて、アジアの国々の間でのパートナーシップが強化されることを期
待しています。また、研究者相互の交流、いろいろな意味でのプラットフォームができていくこと
を希望しています。
フォーラムの実施体制ですが、理事長からも述べたように科学技術振興機構(JST)、科学技
術政策研究所、防災科学研究所が共催しており、JST は全体の総括と共に「環境・エネルギー」、
「感染症」といった分野も担当しています。フォーラムの予算は文部科学省の科学技術振興調
整費からいただいています。
本日のフォーラムのプログラムについて簡単に説明いたします。全体テーマとしては昨年か
ら 3 年間継続し、「アジアの持続的発展に向けた科学技術の挑戦」となっています。今日の午前
中には岩手県立大学学長、元国連大使の谷口先生から「アジア経済の持続的発展と科学技術
-日本の貢献-」ということで基調講演を頂くことになっており、大変期待しております。
次に分科会1では「科学技術政策」をテーマに「アジアの持続的発展に資する科学技術政策
のあり方」をサブテーマとして議論していただきます。ちなみに昨年はこの第1セッションにおい
ては「科学技術政策立案プロセスの相互理解」、「各国の科学技術政策における重点化の状
況」などを中心に議論がなされました。
分科会 2 は、「環境・エネルギー問題」で「アジアの持続的な発展に資する環境・エネルギー
分野の研究開発」がサブテーマです。これについて昨年は主に「環境の面からの方向性と課
題」が議論され、参加各国の認識の共有化を図ることに努力しました。
第 3 分科会ですが「自然災害対策」で「自然災害と社会、開発、そして科学技術-アジアに
おけるパートナーシップの構築」をサブテーマとして議論します。昨年は「災害の認識」、「災害
と社会」、「災害と科学」の 3 つの側面から現状と問題点について議論が行われ、問題点の明確
化等が行われました。
今回は、もう 1 つ「感染症問題」ということで新しい分科会が発足し、この分野における展望な
ども議論していただく予定です。最終的には今日の夕方には各分科会の議論を総括的に取り
まとめることも行われます。
最後になりますが、3 年間にわたるこのプロジェクトで期待される成果は、以下の通りです。
・ アジアの共通課題抽出と対応策の提言
・ アジア域内協力の枠組み構築へ向けた提言
・ プロジェクト等具体的アクションにつなげていく
・ アジアにおける科学技術政策への貢献
以上が本日のフォーラムの概要です。今日一日長くなりますが、本日の議論を通してアジア
において今後真にどのようなことを行っていくべきかについて議論が高まり、かつ実行につなが
っていくことを期待しています。
iv) 基調講演「アジア経済の持続的発展と科学技術-日本の貢献-」
岩手県立大学 学長 谷口 誠
私はサイエンティストではないことを最初に告白しておきます。外務省で一生を送った人間で
97
すが、結構勝手なことをやらせていただきました。国連では 1979 から 81 年まで、それほどランク
は高くな かったのです が、国連 の 新再生エ ネルギー会 議 ( UN Conference on New and
Renewable Sources of Energy)で 3 年ほどいろいろ科学技術関係の方々に助けていただき議長
をつとめ、1981 年にはナイロビで大きな会議を行いました。ただそのフォローアップが良く行わ
れていないことを非常に残念に思っています。
1986 年から 89 年にかけては International Decade for Natural Disaster Reduction (IDNDR)
に非常に情熱を燃やして行いました。しかし、非常に残念に思うのは、我々は自然災害の被害
を減少させるために、インフォメーション・ネットワークを作る提案をしましたが、国連ではお金が
かかる等の理由で実現されませんでした。開発途上国の被害を減少させるために、たとえば津
波のインフォメーションを直ちに流すネットワークシステムを構築しようとし、しかもわずかな金額
なのですが、それを達成できませんでした。先のインドネシアで発生した地震、津波、これはイ
ンドネシアだけでなくタイ、インド、スリランカ等も大変な被害を受けました。それを考えますと国
連はもっとやるべきだったと反省しています。この計画のために日本政府はいろいろな学者を
送り出し、自然災害低減計画に大いに協力しましたが、結果的に国際的なコンセンサスが十分
得られませんでした。
本題に入りますが、本日は「アジア経済の持続的発展と科学技術―日本の貢献―」について
お話しします。私は国連で 1960 年から 89 年までの約 30 年間、開発問題、環境問題等の業務
に携わりました。
90 年からは国際機関でパリに本部のある OECD で 7 年間、アジアからは最初の事務次長と
して仕事を行いました。そのとき情熱を傾けたのは ”The World in 2020-Towards a New Global
Age”という報告書でした。2020 年の世界はどうなるか、グローバル時代で変化する世界経済の
構造変化について、OECD がイニシアチブをとり、OECD の全能力をあげてこのレポートを作成
し、1979 末に発表しました。
これは一種のシナリオで、21 世紀の世界経済の変化を描いたものです。その中のもっとも大
きな特徴で、かつ我々が関心を持ったのは、グローバル化時代においても世界経済は 3 極構
造化していくということです。今までの 3 極構造は、北米、日本、欧州/EU でしたが、21 世紀は
新しい 3 極構造になると確信を持っていました。今まさに新しい 3 極構造が実現しつつあります。
拡大 EU(25 カ国)ができ、これに対抗する形で米、カナダ、メキシコが北米自由貿易協定
(NAFTA)を締結し、これを更にラテンアメリカに拡大しようとしています。その中で、アジアには
ASEAN10 カ国はありますが、日本、そして最も躍進する中国、韓国の間には何もありません。世
界の新しい構造の中でポッカリ穴が開いていると感じ、1997 年頃からアジアにも地域統合が必
要であると思ってきました。今までアジアを代表するのは日本でしたが、これからの 3 極構造に
おいてはアジア全体が地域連携を行うことだと思っていました。当時、そのようなことは夢のまた
夢でアジアではそのような地域統合は進まないということで私は落胆していましたが、今、まさに
ASEAN プラス 3(日本、中国、韓国)で地域統合へ進む動きが出てきています。これは私にとっ
て嬉しいことで、この 3 つが世界経済のグローバル化の中でも 3 極構造の中心になってくるとい
う OECD が予想したシナリオが実現しつつあると見ています。
人口で見ると東アジア経済圏(ASEAN10 カ国プラス 3(日本、中国、韓国))が 20 億人、拡大
する EU が 4.5 億人、NAFTA が 4.2 億人で、東アジアが飛びぬけています。更に東アジアサミ
98
ット(ASEAN10 カ国プラス 3(日本、中国、韓国)プラス 3(インド、豪州、NZ))では 31 億人となり
ます。
経済規模を名目の国民総所得(GNI)でみると、東アジア経済圏で 7.8 兆米ドルと NAFTA の
13 兆、EU の 11 兆に比べるとまだ少ない状況です。しかし、購買力平価で見るとすでに EU の
11.8 兆、NAFTA の 13.6 兆を抜いており、ASEAN プラス 3 で 14.2 兆、ASEAN プラス 6 で 18.2
兆と明らかに経済規模では大きくなっています。
私は ASEAN プラス 3、あるいは ASEAN プラス 6 が経済規模で 3 極構造の中で最も大きくな
と思います。さらに成長力について見ると、現在のアジアの躍進の中心となっている中国の成
長率は、過去 20 年間で 9.5%という驚異的な数字を示しています。さらにインドも 6.1%程度から
現在は 8%へ、さらに今後数年間は 10%を目指すというのがインドの方針です。したがって経済
成長率も含めれば、東アジア経済圏の、さらに東アジアサミットが拡大されるとさらに大きな経済
圏ができますので、経済的潜在力は十分にあります。
「21 世紀はアジアの世紀である」という見方もありますが、真に 3 極構造の中で最も躍進する、
あるいは世界に貢献する地域に発展するためには、経済規模が大きいだけでは十分ではあり
ません。より組織化され、より国際的に貢献できることが必要で、ただ経済規模が大きくなるだけ
では様々な問題を生じます。21 世紀にアジアがその経済的潜在力を生かして世界に貢献でき
る地域として発展する中に「環境問題」と「科学技術」における発展があり、本日はそこに焦点を
合わせてお話したいと思います。
アジアが持続的に発展し、教育、技術、環境の面で世界に信頼され、尊敬される地域となる
ためには、アジアが克服すべき課題は多々あります。その第 1 は環境問題です。アジアの急成
長を支えるために人口が急増します。人口の急増は経済規模拡大においてプラスに働いた面
もあります。
第 2 は、アジアが急速な工業化を遂げ、資源、エネルギーを使い、先進国から科学技術を導
入してきたことです。特に、アジアのエネルギー、天然資源の大量消費がもたらす環境問題、人
口増による食糧増産がもたらす自然破壊を見ていますと、グローバル化の波に乗って躍進する
このアジアの経済発展は経済的には良いが、逆にアジアの経済をこれまで支えてきた良い要
因が、今後はおそらくマイナス要因に変化してゆくと思います。
OECD の IEA World Energy Outlook 2004 から引用したものです。たとえば 1971 年ではアジ
アは世界のエネルギー需要の中でわずか 19%、一方 OECD が 56%です。それが 2002 年にな
るとアジアが 30%に上昇します。2010 年は 37%、2020 年は 34%、2030 年 36%となっています。
これは各国政府が現行のエネルギー政策を継続した場合のリファレンスシナリオです。再生エ
ネルギーに切り替える、エネルギー節約技術を使うといったアルタネイティイブシナリオではこれ
よりも低くなりますが、このリファレンスシナリオはエネルギー問題について警告を発するもので
した。
OECD 先進国では「最初に経済成長ありき」で、経済成長があれば技術進歩、技術移転があ
り環境問題を克服できるという政策でした。これは先進国には当てはまりますが、アジアが本当
に OECD の政策で良いのか、私は大きな疑問を持ちました。一方、途上国もまず経済成長した
いと思っています。「先進国はすでに工業化し、世界の資源、エネルギーを使い、地球を汚染し
てきた、これから我々がやるのだ」と。しかし、私は途上国の代表者にたえず「日本が行った失
99
敗は繰り返さないように」と言い続けてきました。一旦傷ついた地球は戻ってきません。
私が早稲田大学にいた時、まずやったことは、夏休みに中国人も含めた大学院の学生を連
れて、中国の良いところのみ見るのではなく、最も貧しい地域、貴州省などに行きました。そこで
は石灰石の山を切り取り、山の上が真っ白になっていました。石炭もどんどん掘られていました。
経済的には効率の良いセメントができ、経済的な利点もあるでしょう。しかし、一旦削った山は元
に戻せません。
こういった状況を見ていますと中国も考えてほしいと思います。勿論、中国は大気汚染防止
法等でいろいろ努力していますが、二酸化炭素 CO2、二酸化硫黄 SO2 の排出が物凄いスピー
ドで増えています。1995 年、私は当時の李鵬首相と会い、いろいろやりあいました。その時、李
鵬首相が「世界銀行はお金を持ってくるが、OECD は理屈ばかりでお金を持ってこない。それ
ではだめだ」と述べ、落胆したことがあります。しかし、実は OECD は日本政府の後援で環境問
題のいろいろな論文、本を中国語に翻訳していました。中国の専門家は非常によく勉強してく
れました。1996 年には李鵬首相が「汚染者負担の原則:PPP(Polluters Pay Principle)」を中国
の政策に生かされ、大いにうれし思いました。
「21 世紀はアジアの世紀」と言われています。しかし、本当にアジアが成長するためには、何
が必要でしょうか。OECD のリファレンスシナリオのようになったら、成長の限界はまず第 1 に環
境からくるのではないでしょうか。また、人口増も経済拡大の要因ですが、そのための食料量産、
エネルギー、天然資源の大量消費につながります。成長の限界はこれらからくるのではないで
しょうか。これらはアジアにとって克服すべき課題です。
米国の著名なエコノミストであるポール・クルッグマン(Paul Krugman)が、1994 年の Foreign
Affairs 誌に「東アジアの奇跡の神話(The Myth of East Asia Miracle)」という論文を書きました。
これは世界銀行が 1993 年に出版した「東アジアの奇跡(East Asia Miracle)」を皮肉ったもので
すが、この論文の中で彼は「アジアの経済はマッシブ(massive)な労働とマッシブ(massive)な資
本を使って発展している。これは簡単である。しかし、全要素生産性(Total Factor Productivity:
TFP)の点から限界が来る。つまり、労働、資本以外の部分、教育、文化、科学技術、マネジメン
トといった要素が経済発展には必要である。しかし、アジアにはそれがない。」と述べました。
OECD のエコノミストの中にも「アジアの世紀」ということを快く思っていない者もおり、ポール・
クルッグマンの論文が、非常に評価されました。それに対して私は、「そうではなくアジアは持続
的な発展を続ければ伸びるのだ」という意味で、「2020 年の世界(The World in 2020: Toward a
New Global Age)」という報告書を OECD で 4 年ほどかかりまとめました。これはポール・クルッグ
マンの説に対する挑戦でもありました。
確かにその後アジアの TFP は上がってきました。シンガポール、香港、中国、インド、ASEAN
も科学技術水準を上げるために大変な努力をしています。これはポール・クルッグマンに指摘さ
れたからではなく、アジアが本来そういう能力を有していたと信じています。先進国は経済発展
によって科学技術を進め、環境問題に取り組んできました。アジアも経済成長とともに科学技術
を平行的に高めていかなければ、21 世紀はアジアの世紀になりません。私はナショナリストでは
ありませんが、3 極構造の中でアジアが十分な役割を果たして欲しいと思います。そのために環
境問題をいかに克服し、科学技術の水準をいかに高めるか、を今日の主題としています。
アジアはアジア的な形で環境と経済成長のバランスをとる政策を採るべきだと考えています。
100
経済成長ありきではなく、アジアは環境とバランスをとっていけると思います。現在アジアの中で
最も科学技術水準の高い日本、OECD に 1996 年末に加盟した韓国、さらにシンガポール、香
港、中国、インド、マレーシアも科学技術水準を上げてきましので、これらの国々が結束すれば
環境問題、科学技術の向上に貢献できると思います。
ところで、アジアの科学技術は一般的に、日本もそうですが、基本的な科学技術のブレーク
スルーは先進国からの導入であるという傾向があります。一方、最近減ってきましたが日本の国
内貯蓄率は高く、他のアジア諸国も欧米に比べ群を抜いています。中国は 40%以上、シンガポ
ールも 50%に達したことがあります。ただフィリピンはラテンの国民性もあり、率が低くなっていま
す。この国内の貯蓄を投資に向けることができます。また、労働の質が良いということも確かです。
しかし、科学技術の面で先進国から技術を導入しており、このレベルをいかに高めていくかが
課題です。応用の技術には優れているが、ベーシックな技術は OECD(先進国)から来ていま
す。
2001 年の UNDP(国連開発計画)の”Human Development Report 2001”の「新技術と人間開
発(MAKING NEW TECHNOLOGIES WORK FOR HUMAN DEVELOPMENT)」の中に、少し
データは古いのですが、アジアの技術達成指数(Technology Achievement Index : TAI)が載っ
ています。これは「ネットワーク時代の恩恵を受ける上で重要な技術能力の4つの側面(技術の
創造、最新の技術革新の普及、旧来の技術革新の普及、人々の技能)から技術水準を指数化
したもの」です。
これを見るとアジアの国で技術先進国に入っているのは日本、韓国、シンガポールで、潜在
的な技術先進国は香港、マレーシア、新技術を活発に採用している国はタイ、フィリピン、中国、
インドネシア、インドとなっています。残念ながら技術の恩恵から取り残されている国がパキスタ
ン、ネパールです。
理系高等教育就学率(1995-1997 年)、100 万人当たりの特許取得件数を見るとフィンランド
がトップで米国、スウェーデン、日本、韓国も席を並べています。また、シンガポール、香港、マ
レーシアなど他の主要国も上位に入っていますので、アジアが科学技術水準をあげていく可能
性は十分あるといえます。そのために東アジア共同体ができればベターであると私は思います
が、地道な努力を進めていくことも重要で、本日の JST が主催するこの会議もすばらしいものだ
と思います。
UNDP の Human Development Report は科学技術だけに焦点を当てたものではありませんが、
この表をみてこれらの国々が協力すればアジアも決して科学技術水準でも劣ることはないと確
信します。これは教育次第だと思います。今まで世界銀行の報告書が最高のものだと思ってい
ましたが、1990 年から作成されている Human Development Report は素晴らしい研究で、もっと
評価を与えるべきだと思います。
次に私の具体的提案に入ります。環境問題がアジアにとって今後最も大きな問題となります。
その克服のために地域協力、具体的には「東アジア環境協力機構」を提案したいと考えていま
す。特に深刻化する中国の環境問題改善のために、日本、韓国、中国、香港、台湾、モンゴル
が地域的な連携・協力機構を作ることが必要です。私は東アジア共同体、ASEAN プラス 3(ある
いはプラス 3 プラス 3)の推進者ですが、現状を見ると政治的な空回りしています。私の考えてい
た東アジア共同体からは程遠い状況です。特に日本と中国の政治的な軋轢をみると、簡単に
101
は実現しないと思います。それならば、まず、環境問題からお互いに協力しあう必要がありま
す。
日本は ODA などで多大な援助を行ってきましたが、ほとんど箱モノでした。それに対し、米国
は ODA で金は使わなかったが、北京大学、精華大学など有力な大学に学者を派遣し、また交
換留学生システムを整備するなど人材養成、教育面で尽力してきました。日本はもっと環境問
題、人材養成を進めるべきでした。それによって相互信頼が生まれます。それがなければ、共
同体のような組織はできません。そこで、国益に合う環境問題、人材養成を進めるべきです。歴
史問題でいがみ合っていても、何の進歩もありません。
OECD、国連で長く働いてきましたが、アングロサクソンがすべてアジアより進んだ文化、文明
を持っているとは思いません。アジアも頑張ればキャッチアップでき、越えていく能力を持ってい
ると思います。アジア通貨危機を克服したアジアのバイタリティは ASEAN が持っている英知でし
た。今後の第1の課題は環境で、共同体等の形で地域連携していくべきだと思います。
環境に関して国連には UNEF(国連環境計画:UN Environmental Program)というのがナイロ
ビにありますが極めて弱体です。国連は WHO(医療)、FAO(食料)、UNESCO(文化・教育)な
どの国連から独立した専門機関を持っています。しかし、環境に関しては専門機関がありませ
ん。なぜ国連は環境に真正面から取り組まないのかと疑問を持っているのですが、専門機関が
増える、お金がかかるという意見も多くあるのも事実です。1992 年、リオでの環境会議には 5 万
人くらい集まりました。大きな会議でしたが、一種のお祭りで、その後のフォローがあまりなされ
ていません。京都議定書は一つの進歩でしたが、米国が脱退しました。現ブッシュ大統領の父
は、OECD に環境問題をしっかりやるように言っていましたが、米国が脱退したのは本当に残念
なことです。まずアジアで環境問題に取り組むことで、日中韓、そしてアジアの共同体意識が生
まれてくると思います。
2003 年から 2030 年の OECD の増加率は、科学技術を持っていますから 0.7%です。しかし、
開発途上国は 2.7%増え、そのうち中国が 2.4%、インドが 2.9%、その他アジアが 3.2%となって
います。北米は 0.9%、欧州が 0.4%で、特に欧州は北欧をはじめ環境に大きな配慮を払って
おり、その結果が現れています。
また中国は、今の政策を続ければ 2030 年に 71.7 億トンの CO2 を出すことになり、インドが
22.8 億トン、その他アジアが 30.5 億トンとなります。このようにアジアの比重が次第に大きくなっ
てきます。たとえば中国の 71.7 億トンに対して、EU は 42.1 億トンですから、中国はそれを越え
ます。また米国(北米)は 83.8 億トンでトップですが、中国はそれに近づきます。中国は人口も
多く、大きな努力をしていますが、これは警戒すべき数字だと思います。
SO2 排出の場合、中国が世界でトップです。中国の大きな努力でその排出量は 1995 年まで
減少してきたのですが、その後また増加しはじめ 2005 年で 2,500 万トンを超えています。日本
は 1999 年で SO2 の排出は 87 万トンで、排出抑制に大きな努力をしています。一方、中国の重
慶市 1 市で 85 万トンとなり、中国全体で日本の 23 倍となります。このように CO2 も重要ですが、
SO2 がより中国にとって重要です。中国が CO2、SO2 の世界で最悪の排出国になって欲しくな
いというのが私の強い希望です。そのために東アジア環境協力機構を作って協力して欲しいと
願っています。有害物を含んだ黄砂が降ってきますので、お互いの防衛のために協力が必要
です。
102
では具体的に日本が何をするかですが、まず第 1 に環境問題を担う人材養成が必要です。
学術交流、交換留学生の制度を拡充していくために、日本は ODA を十分に活用すべきだと思
います。人材養成が最も重要です。私は早稲田大学においても、現在の岩手県立大学におい
ても、アジアの学生と日本の学生がともに共同生活を送り、互いの問題を話し合う場を作ってき
ました。これによって互いの問題を理解しあえると思います。いがみ合っている状態では、環境
問題も解決できません。先週、大連および韓国の大学を訪れ、互いに協力するための協定を
締結してきました。互いに学びあうことが最も大切なことで、これなしではアジアの世紀はありま
せん。学者、科学者はこの点に重点を置いて教育を進めて欲しいというのが、私の第 1 の願い
です。
2 点目ですが、環境問題における科学技術の促進で、たとえば脱硫技術の支援です。日本
は脱硫技術を持っていますが、実際の技術移転になると事が進まなくなります。OECD でも「技
術移転(Transfer of technology)」という言葉を使わない人がいます。「技術を無償で移転するの
か」という議論になります。有償であることも重要ですが、互いの生存のために環境協力機構の
中では互いに持っている技術を交換し、相互信頼を高めていく必要があります。”Diffusion of
Technology” という人もおり、これも必要かもしりません。しかし技術移転を国連でも ODA の中
で進めていくべき課題だと思います。
石炭からの脱却に関連してですが、石油の備蓄を進めるべきだと考えます。これは OECD の
IEA が推進しています。日本は 160日余り、韓国も備蓄が進んでいますが、中国は遅れていま
す。日本は備蓄の技術が進んでいますから、協力すべきだと思います。
省エネルギーの日本の持っている技術をいかに普及していくも重要です。さらに、新しいクリ
ーンエネルギー、再生エネルギーもあります。しかし、これらは経済的にペイしなければ、国連
でたとえ大きな会議を行ったとしても、フォローアップがまったくなされません。経済的に合えば
民間企業が、たとえばオイルシェール・サンドを掘ります。経済的に合わない事を行うのは政府
の役割です。
CDM(Clean Development Mechanism)も必要です。排出権取引制度にはちょっと疑問を感じ
ます。先進国が編み出した、現実的な一石二鳥の有効な政策だと思います。事実それによって
日本のハイテク技術の移転が行えます。しかし、そうだからといって先進国が CO2 を排出する
権利を買い取り、成長するのはイージー(安易)であると思います。一方、途上国もこの制度によ
って助かる面がありますが、これだけに頼らず、まず CO2 を減らす技術を開発すべきだと思いま
す。
最後に中国、インドが 2002 年のヨハネスブルグ環境サミットのとき、京都議定書に入ってくれ
たことは評価すべきことです。これは素晴らしいイニシアチブだったのですが、CO2 を抑制する
義務を負わない形で入っています。もし、両国が私の提案している東アジア環境協力機構に入
り、CO2 の抑制に加わってくれれば、アジアの評価が非常に高まります。米国が京都議定書に
入っていない理由のひとつは、「中国やインドが入っていないのに何故か」ということです。中国
やインドが「CO2 削減に努めます、その代わり科学技術の交流を行いましょう」という雰囲気が出
てくれば、米国も京都議定書の CO2 削減の義務に加わってくると思います。
繰り返しとなりますが、「東アジア共同体」というのが私の夢でありますが、政治的に空回りして
いる今の状態では容易にできません。そこでやることは地道な科学技術を使った東アジア、将
103
来は ASEAN、インドも加わってもらう開かれた環境共同体です。これによって東アジア共同体
への大きな道が開けてくると思います。
私はこの夢の実現のためにまもなく上海、パリを訪問するなど様々な活動を行うつもりです。
一方、若い技術者、科学者の交流も重要です。我々の世代の義務は、そういう若い世代をいか
に教育していくかだと思います。今のように歴史認識でもめて、空回りしているようでは、信頼さ
れ、尊敬される 21 世紀のアジアにはなれません。
Let’s make creation of the East Asia environmental cooperation system!
v) 第 1 分科会「科学技術政策」
「趣旨説明」 総合科学技術会議 議員 阿部 博之
持続的発展ということで、昨年来、6 カ国で議論を重ねてきたわけですが、ちょうど 1 年前、日本
でいいますと第 3 期基本計画の議論が盛んに行われておりました。その中で、国際協力、特にア
ジアとの連携を強化していこうと、今日の基調講演にもありましたが、そういう議論を盛んにやって
いたときに、この第 1 回が行われまして、たいへんうまく連動したように、私は思います。もちろん、
第 3 期基本計画の中に、特にアジアとの連携を科学技術政策の中で重視すべきだということが明
記されています。
持続的発展というのはまさに科学技術政策なしにはありえないわけですし、21 世紀を見据えた
ときの最も重要な柱であります。そのために、いろいろな面からのアプローチと国際協働が必要な
わけであります。そこで、アジアとしてどのように相互理解しつつ協力していくかということについて
さまざまな観点から議論していこうという 3 年計画です。
昨年は、6 カ国それぞれ国情や政策決定も異なる中、持続的発展に資する意思決定の過程が
それぞれどのようなものであるかをご紹介いただきました。さらに、それぞれの国で、科学技術は
大切だと言いながらも、限られた国家財政の中で、どのような重点政策を持っていくかについても
話題にしていただきましたし、同時に、実行プランについても議論をさせていただきました。
ここに、6 カ国の講演のタイトルを掲げてありますが、非常に多面的にお話を伺ったわけです。
一つ一つタイトルをご紹介することは時間の関係で割愛しますが、全体を眺めたときに、持続的発
展というのは別に科学技術政策ではなく経済政策でとらえるべきだという焦点の絞り方がしばしば
見受けられるわけですが、あるいは経済政策を含めた国家政策として捉えると。しかし、やはり科
学技術は基盤であるということは共通であったように思います。それから、日本でも科学技術政策
研究所が主になっていろいろな科学技術予測をしてきたわけですが、そういったことについてもご
紹介いただいた国もありました。
ところで、今年 2006 年はどういうことを中心にご議論いただき、あるいはプレゼンテーションして
いただくか、ということになりますが、まず、持続的発展に向けていろいろなことをやっていくわけで
すが、それに影響を与えるカギとなる因子は何であるかということ、またそのための共通課題、特に
アジア全体の共通の利害のためにどのような共通の課題があるか、そのための共同作業はどのよ
うにすれば可能か、協調ができるか、というようなことについて、今年はプレゼンテーションをお願
いしたいと思いますし、またご議論をお願いしたいと思います。
104
「中国企業における独自のイノベーションシステム-その骨子および事例」
科技促進発展研究中心 副所長 Zhou Yuan(中国)
「独自のイノベーションシステム」ということを、中国の企業の例を引いてお話したいと思います。内
容は主として 4 つの部分からなっています。まずは背景説明、次に、どのような観点から見ているかと
いうことについて述べ、さらにいくつかの事例をご紹介し、最後にまとめを行います。
今年の初め、中国は新しい戦略開発ということで、イノベーション主導の経済ということを打ち出し
ました。これは新しい戦略の一つであり、長期的な影響を中国にもたらすことになるものです。この戦
略の重点分野の一つは、「国家としてのイノベーションシステム」です。国家的なイノベーションシステ
ムの中で、共通の要素となるのは企業【起業】レベルにおけるイノベーションシステムです。従って、
起業イノベーションを開発できるかどうかということが持続的な発展を考える上でのカギとなります。今
日はこのテーマに沿ってお話いたします。
まず、中国の状況は複雑であるということを申し上げておきます。中国には企業が 22 万社あり、そ
れが 50 以上のセクターに分かれているため非常に複雑であり、これをすべて一元的な枠組に収める
ことは困難です。しかし我々としては、そうした中でも共通な部分を見出し、そこを中心に開発してい
く、という取組みを行なっています。従って、このプレゼンテーションでは、独自のイノベーションシス
テムを「共通の部分」に絞ってご紹介します。
中国の企業を考える上での観点としては戦略的方向性、事業運営システム、そして重要なものと
して、独自のシステムの研究開発やファイナンスなどを企業内でサポートしていくためのサブシステ
ムなどがあります。また、テクノロジー面をサポートする外部のネットワークも考えられます。
事業運営システムにはテクニカルレベルと非テクニカルレベルがあり、下にはそれをサポートする
システムがあります。そして外部のシステムも影響してきます。独自のイノベーションシステムは、こう
したさまざまな角度から考えることができるわけです。
以上について大企業、小企業の事例をご紹介していきます。まずは大企業ですが、これにもさま
ざまなタイプがありますが、その一例として、中国で非常に有名なハイアールという家電企業を取り上
げます。中国で行なった評価では、昨年は世界的中国企業トップ 10 の第 1 位にランクされており、
その製品の輸出先は 160 カ国を超えています。このハイアール社を戦略的方向性という観点から見
ると、過去に何度か転換期がありました。最初は製品やデザインの開発に関するブランド戦略があり、
90 年代の後半にかけては戦略の多様化へと進み、20 世紀の終わりには国際化へと進んできました。
事業運営システムを見ると、同社はネットワーク・ベースの構造を持っています。研究開発、製造、マ
ーケティングの相互関係に重点を置き、また、工程の再編成にも注力し、国際市場の変化に応じて
会社の形態を変えてきました。研究開発組織もまた、この 20 年間に 3 つの段階を経て大きく進化し
てきました。最初は単一のテクノロジー部門しかなかった段階で、扱い製品は冷蔵庫 1 種類のみでし
た。第 2 段階では電子レンジと洗濯機が加わり、テクノロジーは 3 部門に分かれていきました。第 3
は国際化の段階で、生産規模の拡大に応じてテクノロジー部門も複雑化し、IPR やその他のテクノロ
ジー部門を備えるようになりました。ハイアールの研究開発戦略は、現在はある世代の製品を製造し
つつ、近い将来に向けての別の製品の研究開発を行い、さらに先の将来に向けて、また別の世代の
製品を開発・考案していく、というように、将来を見据えた研究開発を行うというものです。
ハイアールの研究開発システムは水平と垂直の 2 つの形が統合したものになっています。水平的
なシステムでは、基礎研究部門に対し、研究開発センター、テクノロジーセンター、エンジニアリング
105
センターがさまざまな形で関っています。こちらの部分【P.16 の図の左側】は現在的な問題に対応す
る部分で、例えば新製品を出した段階で顧客から情報を得て、さらに技術を開発、改善するという活
動を行います。これには基礎研究部門からも、技術改善に資するアイデアが提供されます。従ってこ
の Core parts と呼ぶ部分に対し、R&D、テクノロジー、エンジニアリングなど、さまざまな技術研究的
側面や環境保護その他の基準が反映されていきます。
垂直的なシステムは、ハイアールの製品に共通の核をなすテクノロジーの研究があり、それを基準
としたテストその他、すべての製品を共通にサポートする研究開発システムです。財務面について言
えば、ハイアールは他企業に比べ、研究開発への投資を優先させています。
97 年以降のハイアール社の売上高に対する研究開発費の割合を%で示したものですが、大体
6%を研究開発に費やしていることがわかります。これは中国としては非常に高い比率です。ハイア
ールは社内の技術だけでなく、外部の技術を国内外から採り入れています。ネットワークセンターは
外国の 15 ヶ所を含め各所にあります。9 つのデザインセンターもほとんど中国にあります。
その結果、ハイアールはこのような形で進んでいきます。第一にアイデアがあります。アイデアのイ
ノベーションは基本であり源泉でもあり、多くの努力がイノベーションに費やされ、これをジャンプ台と
して次の段階に進むことができます。
そこで、ここにハイアール社の特許の数を示しました。薄い黄色の部分が発明件数ですが、これが
大きく増えています。これによってハイアールは、中国でも世界でも、最も競争力があり、繁栄してい
る企業の一つとなっています。
2 番目の事例は中国の電気通信分野では最も有名な大手企業、フアウェイ・テクノロジーという会
社です。会社概要はこちらに示すとおりです。
R&D のマネジメントシステムが IPD(統合製品開発)としてまとまっています。R&D が製品に非常に
近いところに位置づけられているので、製品開発が短期間で製品生産へとつながる構造になってお
り、R&D が迅速かつ効率的に製品に反映されます。
フアウェイは人材構成面も他社とは異なり、R&D スタッフが約半分を占めており、深圳に非常に大
きな R&D センターがあります。R&D の活動がオープンであることも特徴です。また 3G 技術において
もフアウェイは力を発揮しています。さらに、外国企業との共同研究機関を海外に持っています。
左が国外にある研究機関で、右側が中国内の研究機関です。このように、国際的なリソースを求
めていくところにフアウェイの特色があります。
3 番目の事例は小規模企業で、食品業界とネットゲームを結びつけた会社です。食品とネットゲー
ムはまったく異なる分野ですが、これを結びつけることで win-win の状況を創出しようということなので
す。牛肉を扱うルーシェンという会社があります。一方、ティアンチャンという、インターネット上で行う
3D ゲームの会社があります。このまったく無関連とも思える両社が提携し、このように牛肉製品のパ
ッケージにゲームの絵を載せました。左下には First Chinese Netfood と書いてあります。インターネッ
トゲームをしながらお腹が空けば「そうだ、これを食べながらゲームをしよう」ということになるという、統
合的イノベーションです。これが両社に大きなメリットをもたらしました。ルーシェンはこの提携の最初
の月に 2700 万元の売上を達成し、ティアンチャンもゲームの売上が非常に伸びており、すでに多く
のベンチャーキャピタルから資金提供を受けるようになりました。
もう一つの事例は、シー・ゴーゴー(Cgogo)という、小企業ながら大成功を納めている会社です。
2002 年設立の新しい会社ですが、R&D に注力し、設立の 1 年後には最初の R&D センターを開設し、
106
その後も国内各所に R&D センターを開設しています。Cgogo は検索エンジンの会社です。中国では
多くの人が携帯電話からインターネットにアクセスし、検索するので、この分野は非常に可能性のあ
るマーケットだと考えたわけです。Cgogo はアメリカのベンチャーキャピタルの JAFCO 社からも出資を
受け、またヨーロッパにも Cgogo の R&D センターを開設するなど、国内外の市場開拓に注力してい
ます。
少なくとも中国では多くの人が、検索エンジンは Yahoo から Google、そして Cgogo へと、3 世代の
進化を遂げてきた、と考えているようです。
ではまとめに入ります。独自のイノベーションシステムについて、いくつかの事例を見てきました。こ
れらの企業に共通しているのは、まず、いずれも独自の R&D に対して非常に力を注いでいるというこ
とです。2 つ目はリソースの統合です。これも重要なことで、国内外のリソースを統合することにより統
合的なイノベーションを実現しているということです。3 つ目はグローバルなイノベーションを活用して
いることです。独自のイノベーションというものは、決して閉鎖的なものではありません。かつては対外
的に門戸を閉ざす政策をとっていた時代もありますが、今はオープンに、世界に門戸を広げ、国際
協調を目指しています。
「持続可能な発展のための科学技術-韓国の科学技術政策」
科学技術政策研究院 院長 Sungchul Chung(韓国)
今朝の基調講演で、科学の持続性について世界的にまた地域的にどのようなことが問題にされて
いるかがわかりました。また、そこで述べられた、持続的な発展のためにアジア各国の協力が必要な
理由は非常に説得力がありました。本日、私からは、科学技術および持続性のための韓国の取組み
についてお話いたします。
環境の持続性というものは社会経済的な変化に関係するものであるため、まず韓国における、こ
の 40~50 年間の社会経済的な発展、科学技術の発展、さらに、それが環境面にどのような結果をも
たらしたかについてお話します。そして、持続可能性のための科学技術政策について述べ、最後に、
そうした政策上の課題についてお話いたします。
まず経済成長に関して言えば、非常に大きな変容を遂げました。50 年代初頭、つまり朝鮮戦争直
後の GDP は 14 億ドル程度でしたが、現在はその 700 倍の 7870 億ドルに増えています。1 人当たり
の GDP は、1953 年には 67 ドルにすぎなかったのが、現在では 1 万 6000 ドルを超えています。輸出
は、かつては 1 億 2200 万ドルでしたが、2005 年は 2840 億ドルと、世界でも有数の輸出国となって
います。韓国は石油消費国でもあり、2004 年には 8 億 2600 万バレルの石油を輸入していますが、60
年代にはわずか 584 万バレルにすぎませんでした。この大きな差異は、韓国の工業化が進んだこと
を意味します。これによって現在、韓国は非常に大きな原油消費国となっています。50~60 年代に
は最貧国の一つであった韓国は、いまや世界第 12 位の経済国へと発展しました。また世界の輸出
入に占める韓国の割合は、1960 年と 2005 年を比較すると、輸出は 0.3%から 2.8%に、輸入は
0.27%から 2.4%へとそれぞれ伸びています。
工業の発展は目覚しいものがあります。産業構造で見ると、農業は 1963 年には 60%以上を占め
ていましたが、現在はわずか 7.9%にすぎません。製造業は 1963 年には 7.9%にすぎなかったもの
が現在では 18.5%となっています。サービス業は、1963 年には 63%だったのが 2004 年には 74%に
なっています。このように、かつては貧しい農業国であった韓国は工業国へと発展してきたわけです。
107
そして現在の主要製品ですが、韓国は現在、鉄鋼業が非常に盛んであり、また自動車、造船、さら
にはエレクトロニクス分野も非常に盛んです。きわめて短い期間に、貧しい農業社会から産業経済社
会へと発展してきたわけです。
こうした発展は社会的変化にも現れています。人口を見ると、1949 年には約 2200 万人だった人口
は現在では 4830 万人へと増えています。人口構成もかなり変化しており、1955 年には 0~15 歳まで
が約 41%を占めていたのが、現在では 20%未満に減っています。つまり、人口が短期間にかなり高
齢化している、ということが言え、韓国の人口は今、急速な高齢化を迎えています。平均寿命も急速
に伸びており、1971 年と 2005 年で比較すると、男性は 59 歳から 75 歳へ、女性は 66 歳から 82 歳
へと変化しています。世帯数は 1955 年には 380 万世帯であったのが 2005 年には 1600 万世帯にな
っています。これは、1世帯あたりの人数が減ってきたことを意味し、1955 年には 5.5 人だったのが、
現在では 2.9 人になっています。つまり 1 世帯が、夫婦および 1 人未満の子供で構成されていること
になります。現在、登録自動車台数は 1500 万台、携帯電話の登録数は 3660 万台と、韓国はたいへ
んな変化を遂げています。現在では高齢化を迎え、出生率が低下し、平均寿命の延長が見られま
す。最近の報告によれば、現在、韓国の出生率は 1.1 未満で、世界で最も出生率の低い国の一つ
になっています。
こうした社会経済的変化と共に、科学技術はどう変化してきたでしょうか。韓国では、60~70 年代
に軽工業や重化学工業が輸入代用品の製造から輸出拡大用の製品製造へと発展する中で、国内
では調達できない技術への需要が増大し、その部分については外資の参入を得ながら、そうした技
術の国内移転が奨励されました。
同時に、科学技術の基礎を築いていくためのさまざまな機関を法制化していきました。例えば、化
学技術院や科学技術省などがそうです。科学技術省は政府の中でコーディネーター的な役割を持
った機関で、政策の立案や省庁間の調整を行なっています。70 年代になると、工業発展をさらに奨
励するためにさまざまな研究所を作りました。例えば、韓国機械研究院、韓国化学技術研究所、韓
国電子通信研究院、韓国標準研究所、韓国エネルギー研究所、韓国海洋研究院などです。
80 年代になり、韓国経済がかなりの成長を遂げてくると、外国企業は韓国企業への技術移転を敬
遠するようになりました。そこで政府としてはさまざまな独自の研究開発システムをスタートさせました。
その一つが工業の研究開発をさらに促進するための国家研究開発プログラムです。
韓国では研究開発への投資が急速に伸びてきており、この 20 年の間に研究開発への投資額は
OECD 諸国の中で第 6 位になっています。
研究開発の総投資額の構成比を見ると、80 年代では政府部分が 64%、民間部分が 36%でした
が、現在では政府が 25%未満、民間が 75%以上と変わってきました。現在では GDP の約 3%が R&D
に費やされていることになります。また、R&D の実行者別比率は、企業が 75%、大学が 11%、政府
が 12%となっています。韓国の非常に特徴的な点は、研究開発に占める大学の重要性が他の国に
比べて低いということです。また、R&D の性格としては、工業技術に関するものが全体の R&D 投資
の 85%以上を占めています。
次に、R&D の成果ですが、これは韓国の特許庁から付与された特許件数です。これに加えて韓
国は世界でも有数の発明国で、米国における特許取得件数の多さでは世界で第 7 位になっており、
また SCI の出版物も第 15 位となっています。さらに、液晶ディスプレー、半導体、プラズマディスプレ
イ、携帯電話といった分野の製造においても世界的な重要度が高まっています。
108
次に、韓国のイノベーションシステムの全体的な特徴についてお話します。そもそもは政府がシス
テムを開始したため、初期の段階ではかなり政府の介入がありました。韓国は経済をはじめさまざま
な分野において急速に成長を遂げてきました。韓国はテクノロジーにおいては未開の地ではなく、
先ほどお話したように、R&D への投資額が 20 年間に OECD 諸国の中で第 6 位になっています。ま
た、研究における大学の役割が比較的小さく、政府系研究機関の役割のほうが大きいという点で他
の国と異なります。さらに、R&D のシステムの 85%以上が応用研究や開発に重点を置いて運用されて
います。また、国際的なやりとりが苦手である点も特徴的です。韓国のイノベーションシステムは産業
主体のシステムであると言えます。こうした発展が示唆していることを、特に環境持続性の観点からお
話したいと思います。
これは、政府の R&D を社会経済の目的別に見た内訳です。医療と環境の 2 つが持続性に関連す
る分野だと思いますが、この 2 つを合わせても 13%に満たない状況です。産業部門は 27%という非
常に大きな比率を占めています。この構成比率は他の先進国のものとかなり異なるのではないかと
思います。他の先進国では 40~50%が医療等に費やされていますが、韓国はまだそのレベルまで
達しておらず、いまだ産業開発に多額の投資がなされています。その結果、環境持続性はどうなる
でしょうか。
これは環境持続指数と呼ばれるもので、横軸は競争力指数を表しています。この指数 ESI はコロ
ンビア大学が他の大学と協力し、統計分析に基づいて作ったものです。ESI を競争力指数に対比さ
せる形で示しています。これが韓国、これが中国です。このラインの下にある国は、競争力と対比し
て持続性に問題がある国です。韓国はかなり下にあります。
次は、ESI と国民 1 人当たりの GDP を対比したものですが、ここでもやはり韓国はかなり下のほうに
あります。ということは、韓国は持続性という面がまだうまくいっていないということです。韓国は確かに
科学技術および経済においては成長を遂げてきましたが、環境持続性に関してはまだまだ改善の
余地があるということです。
コロンビア大学などが作った環境パフォーマンス指数(EPI)と呼ばれるものです。この評価によれ
ば、韓国は、2002 年では 23 ヶ国中 15 位、2006 年では 133 ヶ国中 42 位になっています。このように、
環境持続性という意味で、韓国の環境パフォーマンスは非常に下位にある、ということです。
このグラフの赤い線はニュージーランドです。世界で一番良い形を示しています。例えば、大気と
いう項目で韓国は非常に悪い値を示し、さらに生物多様性、天然資源の分野においても持続性を
確保するために、韓国はまだまだ改善が必要であるということが表われています。
持続性のための韓国の科学技術政策をまとめた図です。時代と共に政策も変わってきました。70
~80 年代は汚染処理に焦点が当たっていました。これを第 1 世代の環境技術と呼んでいます。90
年代になると、汚染の予防にも注力されるようになり、これを第 2 世代の環境技術と呼んでいます。そ
して、2000 年初頭からはもっと先進的な分野、つまり生態系を保全し、回復することへの注力が行わ
れています。これが第 3 世代の環境技術です。つまり、韓国における科学技術に対する見方は、特
に環境持続性という観点においてはかなり変化してきたと思います。
これが持続性のための韓国の政策的な科学技術プログラムです。現在、包括的な環境技術開発
計画が行われており、MOE はじめ 16 の省庁が関与しています。これは、言うなれば非常に大きな、
包括的な傘の下で行われるプログラムです。
そして、これらが環境部を中心としたこのプログラムの主要メンバーです。科学技術部は CO2 の削
109
減およびそのためのテクノロジーを担当するほか、水や資源の再循環を担当し、農林部は環境に優
しい技術の開発を担当するなど、さまざまな省庁がそれぞれの関連の技術開発を担当しています。
まとめとして、我々が抱えている課題をこのフォーラムへの提言として述べさせていただきます。ま
ず、経済活動のエネルギー集約度をどう下げていくかということが韓国にとって重要な問題となりま
す。世界的に見て、韓国の産業はエネルギーや資源の集約度がかなり高く、これを、経済活動を続
ける中で下げていくことが重要な課題です。さらに、密度の濃い経済活動を行う中、産業発展と環境
持続性をどう実現していくかということも非常に重要な側面です。また、科学技術政策に対し、どのよ
うに環境的側面を盛り込むかということ、また国境を越えた環境問題に対し、どのようにグローバルな、
あるいは地域的な協力を進めていくかということも重要です。韓国、中国、日本は汚染という国境を
越えた共通問題を抱えています。例えば、モンゴルから飛来する黄砂や東南アジアから来る台風は
我々が共有している問題です。さらに我々は海洋も漁場も環境資源も共有しています。従って、
我々が地域としての環境持続性を担保するためにできることはたくさんあると思います。そして最も重
要なことは、経済発展を環境の劣化からどう切り離すか、つまり現在の経済発展を続けながら、環境
の質を衰えさせないようにするにはどうすればよいか、ということです。
有難うございました。
「タイの実情に即した持続可能な発展の意義」
科学技術開発庁 長官 Sakarindr Bhumiratana(タイ)
「タイの実情に即した持続可能な発展の解釈」をテーマに話してまいりますが、これは、持続可能
な発展ということを考える上で、それをいかにタイの実情に即したものにしていき、タイの政策にいか
に適用していくかということであります。タイにおいては、いったん政策はできても、それをいかに実行
していくかが難しいわけです。将来への夢、希望、発展、成長に向けては「実行」が一番重要なわけ
で、本日はその点について話してまいります。
持続可能性ということについては、国ごとに意味が異なるものであり、社会経済的な状況や発展に
おける国家目標を考慮した上で語る必要があると思います。そして、国家目標を達成するための主
要因もまた持続可能な発展に関して考えていく必要があります。
タイには科学技術の国家戦略プランがありますが、この中に”Dual Track”つまり「同時並行」という、
発展開発を進める上での原則があります。タイは科学技術のインフラ面ではいまだ十分な成功は収
めていませんが、いまだ農村人口が多く、我々の製品の輸出競争力を維持することが重要になって
います。具体的なプロジェクトについては時間があれば、最後のほうでいくつかご紹介します。
持続可能な発展は国によって異なると言いましたが、それでも共通の定義はあると思います。それ
は、我々の共通の未来は、現在の世代のニーズを満たしつつ、将来の世代のニーズを損なわないこ
とである、というものです。これは国を超えた定義であると思います。
資源の消費が特定の場所に偏ると、社会にマイナス要因が生じますが、これは発展を考える上で
我々全員が直面する最も重要な課題の一つです。従って、社会経済と環境のバランスを考えていく
こと、また、各国が自国のことだけを考えるのではなくグローバルな視点を持つことが必要だと思いま
す。
タイの場合、実は石油の消費量の対 GDP 比率が非常に高く、天然ガスをわずかに産出しているも
のの、化石燃料の 95%は輸入に依存しています。
110
また、タイは面積当たりの生物多様性に世界で最も恵まれた地域といわれています。世界の生物
多様性の 7~10%をこの、フランスやカリフォルニアと同等、あるいはテキサスよりやや小さい面積の
国土が占めています。ヒマラヤ山脈とマレー半島が交わり場所にあり、森林も多いことが、タイが生物
多様性に恵まれている理由です。ここ 10 年ほどで状況は多少改善されてきてはいますが、この地域
の世界遺産や生物多様性をいかに維持していくかということも、やはり重要なことであり、開発、発展
による森林破壊は大きな問題となっています。
これらのこと、およびタイの人口の大部分が地方に住んでいること、さらに国民の上から 2 割は裕
福だが残りはまだまだ苦しい生活を強いられている新興国であること、などを考え合わせると、やはり
国家目標と社会経済状況の合致が必要であることがわかります。
並行戦略での発展とは、経済発展と平和・調和に満ちた社会を両立させようという試みであります。
社会が分断してはいけない。政治的な分断はすでに発生していますが、経済的面においてまで社
会を分断させてはならない。そこで、社会的一貫性が持続可能な成長の重要なカギとなります。
GDP だけでは測れない幸せな社会を作ることが大きな目標なのです。
来年は、第 10 次国家経済・社会発展プロジェクトが始動します。ここでも「持続可能な発展」と「環
境に優しい幸福な社会」が重視されています。このプランは、経済改革を進める中で、現在の農村を
主体とした経済社会に強力な地域社会を構築していこうというものです。また持続可能な天然資源
の利用、自然環境の保護もまた、きちんとしたガバナンスの下に行われる必要があります。
これを達成していく上での因子として、「十分な知識」があり、それが全国に普及していることが必
要になります。そこで科学技術の重要性が意味を持ってきます。今のところはまだ、物理的にも政策
的にも科学技術のインフラは整っていません。研究機関の数も研究者の数も足りず、また大学にお
ける研究活動もいまだ力量不足です。こうした問題の解決には優秀な科学技術関係者の人材育成
が必要です。そのためには科学技術の重要性を国民に認識してもらうことも必要です。こうしたことが
将来、国が科学技術によって持続可能な発展を遂げるためのインパクトになると考えています。
それでは国家的な科学技術戦略プランを見てみましょう。現在、この 9 年計画の第 2 年目に突入
していますが、情報通信技術、バイオテクノロジー、材料技術、ナノテクノロジーを中心に競争力を強
化しながら、持続可能な競争力、地域社会の経済、学習する社会、そして生活の質(クオリティ・オ
ブ・ライフ)を目指していく、つまり、バランスのとれた社会を創り上げていこうという試みです。知識に
基づいた社会、これを KBS(Knowledge-based Society)と呼んでいますが、そういう社会を創出する
ためにはイノベーションシステムをクラスター方式で構築すること、コアテクノロジーや環境に適用す
る科学技術を発展させること、そして同時に人材育成も重要視しています。
経済と社会のバランスをとっていくというこの国家計画においては 5 つの主要なプログラムがありま
す。その 1 つがクラスターの育成と地域社会経済の強化です。例えば食品、自動車などの業界でク
ラスターを形成していますが、タイにおいてはこの分野が非常に強く、またソフトウエアも主要な業界
の一つです。繊維業界は少し弱くなっているものの、その重要性は変わりません。また、今後は医療
が重要になってきますし、農業、生物多様性プログラムなども加わってくるでしょう。OTOP と書いてあ
るのは「一村一品」プログラムのことで、一村一品運動を通じて地方経済の強化を図り、農村地帯が
科学技術の進歩に取り残されないようにしよう、というものです。他の主要プログラムについては特に
説明の必要はないと思いますが、研究機関を増やしていく、大学の研究所を強化していく、国民の
意識の向上を図っていく、さらには科学技術の管理システムの強化ということも含まれています。
111
並行的に実行していきますので、生産性を上げ、競争力を高め、イノベーションを図っていくという
ことと同時に、基本的な問題を解決する必要があります。例えば、貧困を削減し自己充足できる経済
を実現することも重要です。また、国王のリーダーシップの下で環境保全や生物多様性の保護も進
められています。化石燃料から再生可能なエネルギーへの移行も行われており、現在は再生可能な
エネルギーの使用率はまだ 1%未満ですが、これを 10%に上げていこうという計画です。もちろん国
民の健康の改善も主要な項目になっています。
このように、このプランは科学技術のインフラの構築、革新的クラスターの形成、科学技術の人材
育成を十分な臨界質量にまで高めることにより、個々のクラスター―これは業界のクラスターのみな
らず社会のグループでもありますが―こうしたクラスターを社会福祉のしっかりした、かつ競争力に満
ちた存在に、2004 年から 2013 年にかけてしていこうという計画です。
革新的クラスターとしては、例えばエビのクラスターがあります。タイはエビの輸出が世界でも上位
に数えられるほど多く、特に日本向けの輸出が大きな比率を占めています。自動車および自動車部
品は日本との関連もあると思います。ハードディスクドライブもタイが強い分野です。現在、付加価値
としては 15~20%程度なので、これを例えば 60%位にまで上げていきたいと思っています。ほかに
もいくつか例が挙がっていますが、これらを分析し、鎖の環の弱い部分を特定し、個々のクラスター
をサポートする仕組みを考えていくわけです。現在 40~50 のクラスターを構築中ですが、詳細説明
は割愛いたします。
科学技術的アプローチがやはりカギなるわけですが、国家計画では、研究者の数を増やすため、
教育相とも緊密に協力しながら科学技術の高等教育の強化にも努めています。また民間企業に対
しては R&D の投資を促進するよう啓蒙しています。このようにして、研究者向けのキャリアパスを作っ
ていきたいと考えています。国家計画に基づき、科学技術の人材育成プランを策定しています。ハイ
ライトしてあるプログラム 4 とプログラム 7 がそうです。これは政府と民間が協力して人材育成を行うも
のです。いくつか例をお話します。
まず、産学の壁を壊そうというもので、Practice School(実践学習)というシステムをとっています。こ
れは、企業側が自分たちの設備を開放して、大学の学生や院生、研究者がそこへ行き、企業環境
の中で勉強できるようにするものです。こうしたプログラムを化学工学、食品工学その他で行なってい
ます。同時に、大学を利用して工場や企業側の人材の能力強化、技術的スキルを向上するという技
術者育成システムもあります。こうした実践学習プログラムはある程度の成功を収めていますが、これ
をさらに積み重ね、拡大していく方針です。
産学協力体制の一環として中核研究拠点(COE)を設け、インフラを強化しています。現在は国立
の COE が 4 ヶ所ほどありますが、将来的には少なくともこの 10 倍は必要だと思います。さまざまなモ
デルがありますが、いずれも産学が力を合わせて人材を育成しようというものです。そのためのプログ
ラムを産学が協力して作成し、時間をかけて、十分な人材を育成し、同時に現状での技術的問題を
改善していかなければなりません。そういう意味で持続可能な発展へとつなげるためには、現在の問
題を解決することと、将来の人材を育成することの二つの側面があるわけです。現在、国内の大学と
は協力体制ができていますが、世界各国の大学にも提携先を求めているところです。
サイエンスパークはバンコクに 1 ヶ所あり、非常に成功しています。数校の大学とのネットワークに
よってサイエンスパークの優れたモデルを形成し、50~60 のリサーチ企業が関わっています。これを
さらに東北部、北部、東南部の各県にも広げ、あと 5 ヶ所サイエンスパークを建設する予定です。
112
こ れ は NASDA も 本 部 を 置 い て い る サ イ エ ン ス パ ー ク で 、 NECTEC 、 BIOTEC 、 MTEC 、
NANOTEC などが入っています。
研究活動のインフラ推進プランについてですが、COE を設置するために法の改正を行うなど、研
究開発への投資を促進する環境が醸成されており、また知的財産の管理システムの強化も行われ
ています。
国民の意識の向上も非常に重要で、科学技術をゲームで学ぶ TV 番組も数多く放送しており、ド
イツのテレビ局による青少年向けの科学番組も人気があります。こういうものをもっと増やしていく必
要があります。
それでは、主要なプロジェクトの事例を簡単にご紹介してまいります。
エビのバイオテクノロジー・プログラム。これは対の水産業を強化していくための成功因子の一つ
です。エビの種類はブラックタイガーです。
マイクロエレクトロニックス・プログラム。ハードディスクドライブや RFID の業界を支援するためのプ
ログラムです。
オープンソース・ソフトについても強力に推進し、多くの国際協力活動にも参加しています。
バイオガスのシステム。タイでは農業が大きな産業であり、農業廃棄物をエネルギーに変換してい
く努力をしています。大きな試みですが比較的成功しており、持続可能な発展のために科学技術を
エネルギーや環境に応用している実例です。また、バイオディーゼル・プログラムでは、バイオ脂肪
酸変換という技術を使ってバイオディーゼル油を生産し、ディーゼル油の輸入に代える試みを行な
っています。
クリーン技術に関しても協力に推進しており、製造業におけるエネルギーや材料消費量の削減を
目指しています。
また、「恵まれない人たちのためのテクノロジー」というプログラムもあります。恵まれない人たちも
科学技術の恩恵を享受できるようにしよう、というものです。スライドの写真は、地方にこのプログラム
を適用した例で、こうしたことも持続可能な発展には重要です。国民が科学技術の重要性を理解し
ないと、国としても科学技術、すなわちタイの未来のための投資ができないからです。
「ベトナムにおける持続可能な発展に対するインスティテューショナルな観点」
国立科学技術政策戦略研究所 所長代理 Bach Tan Sinh(ベトナム)
皆様にベトナムの状況をご紹介し、持続的な発展に向けての差異や共通点などを共にお話した
いと思います。
朝の基調講演で谷口先生から、この地域の国々が持続的な発展を遂げるためにはどのように協
調していけばよいかを考えてほしいというお話がありました。私は、ベトナムにとっての持続可能な発
展における課題は何か、またそれに対し政府、実業界、市民社会はどう対応すべきかを、3 つの観
点から考えていきたいと思います。
まず、持続可能な発展に向けての制度的な要因。これについては「意思決定における統合アプロ
ーチ」と「意思決定における市民の参加」という 2 つのポイントについてお話します。
「意思決定における統合アプローチ」。ここでは、持続可能な発展に関し、ベトナムにおける発展
過程の概要、制度的アプローチの概念的なフレームワーク、そして政府・実業界・市民社会のそれ
ぞれの実践についてお話します。
113
最初に少し歴史を振り返ってみます。80 年代は環境問題を確認するという段階でした。1980 年代
の初め、最初の国家プログラムとして、資源の合理的活用の研究が始まりました。その一環として
1986 年、ベトナムの保全区域の戦略が科学者によってまとめられましたが承認されませんでした。政
府の参加が少なかったためで、これはまだ科学者の活動というレベルでした。
2 番目の段階、90 年代になると意識も高まり、持続可能な発展に向けての制度的な構築が行われ
ました。1991 年、初めての「環境および持続的発展のための国家計画」が承認され、環境省の設立
および環境保護法の制定が行われ、さらに計画投資省の下に環境部門が設けられました。つまり、
政府が環境を重点分野として認識したのは 90 年代初めということになります。その後、計画投資省
が「ベトナムキャパシティ 21」を策定しました。これは環境問題を国家の投資決定要因に統合できる
よう、国としての力を高めていくという試みです。
3 番目の段階では、2000 年代における持続的発展に向けての進歩ということが命題になりました。
2002 年、ベトナムは、国の持続可能な発展を目標とする戦略オリエンテーション「ベトナムアジェンダ
21」を承認し、それをヨハネスブルク会議でも報告しました。またその際の報告は市民社会が用意し
たもので、市民社会の見解が示されていました。2003 年、環境保護を目的とする 2010 年までの国家
戦略および 2020 年までのビジョンがまとめられました。また、最近では環境保護法が改正され、天然
資源環境省に関する計画が可決され、さらに「持続可能な発展のための国家委員会」も設立されま
した。
それでは、制度的アプローチの概念的なフレームワークを見てみます。この表は持続可能な発展
に向けて社会的、制度的にどのようなアプローチをしていくかを示したものです。ここには、政府、産
業界、市民社会の 3 つのセクターがどう対応し、どう位置づけられるか、さらには「概念」をどう実施に
結び付けていくかを示しています。
「概念」の中でも「宇宙論的または包括的」概念とも言うべき次元では、3 つのセクターの間では環
境や発展に対する観念およびその関係について異なり、持続可能な発展という新ドクトリンの解釈も
異なります。そこで、さまざまな主張が本や論説などで戦わされます。例えば、政府や実業界は、水
力発電による電力は石炭を燃やさないため、環境を汚染しないクリーンなエネルギーだと言う。しか
し市民社会の見方では、水力発電はそのプロジェクトにより、森林や立ち退きを余儀なくされた住民
に対してエコロジカルな影響を与えていると言います。
そのため、持続的発展を実践に移す上で、政府、産業界、市民社会の 3 つのセクターはそれぞれ
次のような概念を持っています。政府は持続的経済発展を支援するために、環境的・社会的影響を
総合的に評価していく。実業界はクリーンな生産により産業界の持続的な発展を維持する、つまり環
境近代化論の推進です。しかし市民社会、地域社会は、持続可能な生活およびコミュニティーの発
展が大事であり、タイの講演者の方も話しておられたように、競争だけを云々するのではなくコミュニ
ティレベルでの生活をどう維持するか、さまざまなリソースを自由に利用できるようにするにはどうする
のか、などといった市民社会の懸念に対応することが大事である、としています。
そこで、理論と実践との間をどう縮めるかということが重要になります。持続可能な発展についての
さまざまな議論を実践に移すには組織的な次元が必要になります。これは、各セクターがそれぞれ
の戦略を持って、包括的レベルで議論される概念を技術レベルでの実践活動へと変換していく段階
です。初期には、政府の各組織間に、持続的な発展という概念の実践的プログラム化の方法をめぐ
って緊張が見られました。しかし最近は、政府の努力によりベトナムキャパシティ 21 のプロジェクト化
114
が進んでおり、また持続可能発展のための国家委員会の設立により、環境省、産業省、農業省など
の利害の相違といった省庁間の緊張を解消し調和を図っていく動きが見られます。また、実業界に
おいても持続可能な発展のための実業評議会を設立する動きがありますが、まだ実現はしていませ
ん。
それでは、政府が持続可能な発展のための政策をどのように実施してきたかを見てみます。すで
に述べたように、政府機関は「統合」という概念を用い、環境問題を経済・社会発展に統合させてい
こうという考え方をとっています。つまり、環境の劣化は「エクスターナリティ」(経済の外部性)であり、
それを経済・社会発展に統合することがそうした問題の概念的解決策であり、エコロジカルな合理性
は経済活動における意思決定要因の一つなのだ、という考え方であります。そして、環境問題をプロ
ジェクト、プログラム、計画などのレベルで(経済・社会発展に)統合させる方法として環境影響評価
があるのだと考えるわけです。つまり、これは制度的な学習成果であり、持続可能な発展という概念
が政府に徐々に受け入れられるようになってきており、環境問題とそれ以外の発展課題は統合が可
能なのだという考えが政府の中に広まってきています。
例えば天然資源環境省が奨励している EIA(環境影響評価)という概念を見てみましょう。ベトナム
では、EIA は当局による評価の手段であると考えられています。ただし、これには執行力や監視能力
が弱いという限界があります。つまり、評価はしても、その後をフォローするまでに至らないわけです。
EIA が示す要件や課題の遵守を執行させる機関がないということです。また、EIA はプロジェクト改善
の意思決定における統合手段とも考えられています。この EIA を、例えば戦略的環境アセスメントな
どのより高いレベルにおける意思決定に使用しようという考えがあります。プロジェクト単位だけでは
なく、産業開発地域や地域開発にも応用しようということです。
ベトナムにおける EIA は段階を経て発展してきました。1990 年以前には EIA は主に学者の間で学
術的な教育や訓練に用いられていました。また、発展プランとは関わりのないアドホックなものでした。
この期間はベトナムにとっては EIA の使い方を体験する、いわば学習の期間でした。1990 年以降は
第 2 段階で、政府機関が徐々に EIA を取り上げていき、環境保護法や EIA 規定が制定されると、EIA
は発展プランの実施手段として正式に位置づけられました。これに伴い、EIA 評価の全国ネットワー
クが設立されました。さらに計画投資省が、すでに述べましたように、環境問題を国家的な投資決定
要因に統合していくためのプロジェクトであるキャパシティ 21 を策定しました。
キャパシティ 21 は 1996 年から 2000 年までのプロジェクトで、その実施主体である計画投資省は
ベトナムで最も有力な省と考えられています。というのも同省はベトナムの発展に直接関与している
からであります。この段階で、ベトナムは環境問題に関する認識を高めたと思います。計画投資省は
発展ということに関するベトナムの考え方に絶大な影響力を持っています。
このプロジェクトは発展と環境とを統合していく能力を高めることが目的で、そのプロセスはこの図
のとおりです。見てお分かりのように、社会・経済発展計画がどのように作成されたかを示しています。
計画の策定段階では環境スタディが行われ、環境ガイドラインや環境コントロールなどの環境行動
計画が立案されました。この環境ガイドラインや環境コントロールは、計画策定から投資プログラムや
投資プロジェクトの見直しまで、すべての段階で活用されました。こうした過程を経て、発展計画、投
資プログラム、投資プロジェクトに環境関連事項がしっかり統合されているかどうかが、さまざまな利
害関係者を含む参加者によって確認されていきます。
もう一つ最近の動きとして、天然資源環境省の進めている、「持続可能な発展に向けての政策と
115
計画における貧困の改善と環境目標の調和」というプロジェクトがあります。このプロジェクトの目的は、
環境に関する政策作りや開発、法規のための制度的能力を高めていこうというものです。持続可能
な発展および環境の法的枠組みを、多くの参加者や利害関係者を含めて開発、実施していくことが
第一のねらいです。第二のねらいは、制度的なメカニズムを改善し、貧困の改善や環境関連問題を
開発政策や計画の枠組みに統合していく力を高めることです。このプロジェクトの成果として、環境
保護、資源の合理的活用による貧困の改善を考慮した経済成長が行われるようになる、ということで
す。すなわち、政府は持続可能な発展を追求するにあたり、環境影響評価を用いることによって、環
境関連事項をベトナムの国家的意思決定要因に統合していこうとしているのです。
実業界の対応の仕方を見てみましょう。実業界では、環境近代化論的アプローチが経済成長と環
境保護とを両立させる方法だと考えています。すなわち、既存のビジネスシステムに環境要素を取り
入れることによって実業界の再構築を目指すということです。これはまた、実業界の技術を動員して
天然資源の合理的に活用を行えば経済的利益を最大限に引き出すことができ、実業界の再生にも
つながる方法であると考えられています。
その一例として、VINACOAL(ベトナム石炭公社)の事例をご紹介します。同社は環境保護をその
ビジネス戦略に取り入れています。
この企業が環境保護という、コンプライアンス重視の「守り」の戦略をとっているのはこの業界は環
境リスクの大きいため、環境保護によって市場機会が狭まっていることが理由です。そこで、法律遵
守を中心に据えた「守り」の戦略をとることになるわけです。
同社はこれまでに、社内に環境管理センターを設け、環境監視から環境政策の実施まで含む総
合的環境管理を行い、さらに持続可能な発展のための諸指標を設定しています。
では、なぜ政府や実業界はこうした「統合アプローチ」的原理を取り入れるのでしょうか。ベトナム
の発展にはもう一つ、市民社会から見た側面があります。ベトナムには、その中心的な発展への歩
みに対する強い批判勢力があります。それは主に批判的なジャーナリズト、作家、科学者、地方のコ
ミュニティリーダーなどです。彼らは別の形による経済発展を模索しています。このように、発展につ
いて別の考え方をもつ人々が市民社会にいるということは非常に大事なことです。
次に、制度的な要素が持続可能な発展に与える影響を見てみます。これまでお話してきたのは
「意思決定における統合アプローチ」という観点です。もう一つの観点 は「意思決定における市民
の参加」です。
ハロン市の開発プロジェクトに対し地元住民が反対したケースを紹介します。ハロン市はハロンワ
ンのそばにあるたいへん素晴らしい街です。このハロンに地元の石炭会社の石炭洗浄プラントがあり
ましたが、老朽化が進み、会社は新しい洗浄プラントを建てたいと考えました。建設にはオーストラリ
アの技術を使うことになり、オーストラリアからは資金援助もありました。プロジェクトが承認される前に
会社は EIA を実施していました。しかし同社は、中央の政府が下した EIA の評価についてハロン市
当局、特に環境監査当局と協議をせずに済ませてしまいました。その結果、1992 年に開始されたこ
のプロジェクトは地元の地域社会や市当局の強い反対にあい、2 年後には中止せざるを得なくなりま
した。批判の内容は、一つには洗浄プラントを市の中心部に建設することにありました。洗浄した石
炭は街の中心を通って港へ運ばれることになります。街の人たちの反対は、技術に対してではなく
場所の選択に対するものでした。ハロン市長が反対運動の先頭に立ち、14,000 人の署名が集まりま
した。プロジェクトは長期間中断され、最終的に首相の仲介により、洗浄プラントは街の外に建設す
116
ることになりました。このときまでに会社はすでに 100 万ドルの損失をこうむっていました。このプロジ
ェクトには、その計画段階で地元当局や住民との話し合いが行われていませんでした。このことの教
訓は、プロジェクトは、その実施間際に紛争が起きないよう、計画の初期段階で利害関係者と協議、
交渉しておくことが必要であること、また、地元の参加を求め、地元の声をきちんと聞くことが必要で
ある、ということです。持続可能な発展を達成するためには人々の参加が必要です。我々はこのこと
をよく考える必要があります。
まとめに入ります。持続可能な発展に影響を与える制度的要素。最初に「意思決定における統合
アプローチ」についてお話しました。これは、計画投資省や天然資源環境省などの政府機関が非常
に力を入れている部分で、「キャパシティ 21」や「持続可能な発展に向けての貧困の改善と環境目標
の調和」などのプロジェクトにそれが表れています。この統合アプローチに対しては実業界も、環境と
ビジネスの統合を通して後押ししています。また意思決定においては市民の参加も非常に重要です。
これは市民社会の諸機構によって推進されています。
「持続可能な発展に向けたバイオテクノロジーの応用」
国際連合大学高等研究所 評議会委員 Manju Sharma(インド)
私の講演では 2 つの側面に焦点を当ててまいります。1 番目は、生物多様性と今非常に強力なツ
ールとなっているバイオテクノロジー、そして持続可能な発展の間の一般的な相関関係を、特にアジ
ア各国について見ていきます。2 番目として、インドにおける成功についてみていきたいと思います。
DNA は最も美しい生物分子であると言えます。それが、この素晴らしい美しい生物の多様性に関
係している、ということを表したスライドです。
現在、世界は持続可能な経済成長という大きな難題に直面しています。さらに、世界人口が毎年
2%の勢いで増えている中、環境破壊をいかに回避するかということが求められます。そのために、
特に世界の食糧生産の倍増、貧困の軽減、栄養失調との戦い、さらには非常に恐ろしい病気の治
療、雇用の創出などが緊急の課題となっています。
今千年紀に国連の掲げた目標としては、2015 年までに貧困層の人々を半減させるということです。
現在、貧困層の人々は世界で 13 億人いると言われます。そしてその中でも 8 億人が十分な食糧を
得られず、5 億人が栄養失調に苦しんでいます。こうした数字は本当に大きな課題に我々、科学界
が直面していることを表しています。
たぶん覚えておられると思いますが、世界で初めて環境について話し合われた会議である 1974
年のストックホルム環境発展会議の中で、「貧困こそが最大の汚染物質であり、早急に解決しなけれ
ばならない環境汚染の原因である」ということが語られています。
これが問題であるということならば、我々に与えられた課題は何でしょうか。人々の基本的な最小
限のニーズを満たすための持続可能な成長を遂げていく、それこそが最大の課題です。問題はきわ
めて大きいものではありますが、決して乗り越えられないものではないと思います。
持続可能な発展についてはすでに皆さんからお話がありましたので、私のほうから深く述べること
はしませんが、砕いて言えば、持続可能な発展というのは、「将来の世代の発展する力を損なうこと
なく、ある世代が発展できること」、これが政策に関連していちばん考えなくてはならないことだと思い
ます。
ここでいくつか環境について話をしていきたいと思います。もちろん詳細については時間の関係
117
でお話できませんが、問題について簡単に見ていきたいと思います。我々が大きな懸念を抱いてい
るのが気候変動の問題です。これまでに、気候変動に関する政府間パネルは 2001 年の報告書の中
で、2100 年までに地球温暖化は 1.4~5.8℃ぐらい進むと言っています。予測では、これが地球という
惑星の歴史の中で最も温かい期間となり、しかもその状態が 10 万年以上続くかもしれないと言われ
ています。
地球温暖化により、非常に深刻な影響が生じています。言うなれば、これこそが大量破壊兵器とな
りうるものです。海面上昇、洪水、干ばつ、そしてハリケーンなどです。2005 年、ご存知のようにカトリ
ーナがアメリカで被害を及ぼしました。被害総額はアメリカの GDP の 1.7%に達したと言われていま
す。これが気候変動という側面です。
そしてもう一つは生物多様性というものです。これは我々にとって最も重要な問題だと思います。
環境的に持続可能な発展を遂げるためには生物多様性が必要です。生物多様性とは、ある地域の
遺伝子、種、生態系の総体を意味し、規模的な多様性や流動性として定義することもできます。農業
の多様性は、文化の多様性とは切っても切れない関係にあります。というのも、民族というのは植物
の多様性に重要な役割を果たしていくからです。例えば、湿地帯のような重要な生態系が失われて
しまうと、洪水のコントロール、魚の生育、汚染物質の吸収といったことが行われなくなります。また、
我々にとってリクリエーションや自然観光の機会も減ってしまいますし、それに伴い経済的な損失も
発生します。
1995 年の世界生物多様性評価により、種の数は 13~14 百万種あると推定されています。しかし、
これまでに解明されている種はわずか 175 万種のみです。この科学文明の時代にあっては、地球に
とって大切な生物の種をすべてきちんと解明できるようになることが必要です。
2002 年にヨハネスブルクで行われた持続可能な発展のための世界サミットで、188 カ国が生物多
様性条約に調印しました。2010 年までに現在の多様性喪失のスピードを弱めなくてはならない、とい
うことが合意されたわけです。そのためには非常な努力が必要で、これこそが大きな政策課題となり
ます。我々は現在の生物多様性の喪失の速度を弛めなければなりません。このことをピーター・レイ
ヴンとジョンソンが見事に説明しています。
我々はこの惑星に住む貧困層の人々についても考えなければなりません。生物多様性の喪失は
深刻な経済および社会コストを伴います。現在の生物多様性の分布あるいは規模は、35 億年以上
をかけたさまざまな種の進化、形成、移動、絶滅の結果としてここにあるのです。
生物多様性というものは農業、工業、医療における直接的な消費価値であります。人類はその歴
史の中で、およそ 8 万種類の可食植物を何らかの形で口にしてきました。そのうち、大規模に栽培さ
れているものはわずか 150 種にすぎません。これを考えていただくと、我々の自然への依存度は、わ
ずか 150 種を栽培の対象としている程度のものだということになります。インドには全地球の植物種の
12%を占める約 45,000 種の植物があります。そうしたことから、インドでは生物多様性を保全するとい
うことが大きな政策課題となっています。
遺伝的な多様性が喪失されることは農業にも大きな損失をもたらします。例えばブラジルでは史上
最悪のかんきつ類の潰瘍病、旧ソ連では小麦の凶作、フロリダでもかんきつ類の潰瘍病などを引き
起こしました。これは直接、経済に影響を及ぼす問題です。
居住地の喪失や断片化によって小人口の孤立した集団となった人たちは生活に大きな障害を抱
えることになります。森林の構成や自生種の変化は野生生物の主食を減少させてしまいます。
118
これは生態系の評価の中で言われている重要な事柄ですが、我々は人間の価値と生態系をきっ
ちりと結び付けて考えていく必要があります。
我々は生物多様性をどのように担保し、目的を達成していかなくてはならないでしょうか。我々す
べてにとって言えることは、科学技術的に介入していくことが重要だということです。バイオテクノロジ
ー、さらには学際的な努力、例えばゲノム技術や遺伝子工学、蛋白質工学、その他さまざまな分野
において製品、プロセス、技術を改善していくことに重要な意義があります。さらに、環境に優しいテ
クノロジーもバイオテクノロジーと言えます。バイオテクノロジーと生物多様性の間には強いつながり
があるのです。
バイオテクノロジーは非常に優れた革新性と適合性を持っており、バイオ資源の開発および応用
の最も強力なツールとなりえます。ジェームズ・ワトソンはインタビューに答えて、「我々の運命は運勢
にあると思っていたが、今では、我々の運命はむしろ遺伝子にあるということがわかった」と言ってい
ます。バイオテクノロジーという新しい分野がいかに重要であるかがわかると思います。
バイオテクノロジーは世界の経済、社会のシナリオに大きな影響を及ぼすものであり、その利用は
農業、医療、環境、エネルギー、生活の分野で成功を収めてきました。
バイオテクノロジーの利用がどういうところで成功してきたかを、いくつかの例でご紹介します。
まず生物多様性を利用した生物資源開発です。これは自然界への科学的な介入とともに始まりま
す。物やサービスは、経済便益を野生に戻す前に生産されます。つまり、植物などの生物分子はす
べて経済的な価値を持っているため、植物およびその遺伝物質は「グリーンゴールド」と呼ばれてい
ます。
グリーンゴールドを収穫するための基礎となるバイオテクノロジーとしてはまず培養技術があります。
これは細胞レベルで機能するもので、原形質、単細胞、組織、胚芽などから植物を再生する技術で
す。もう一つは遺伝子導入技術です。これは細胞内で機能するもので、利用したい形質を持ってい
ることが判明している有用な遺伝子をさまざまな種の細胞間に移し変える技術です。これが遺伝子
工学と呼ばれるものです。
次に農業を見ていきます。農作物の持続可能性は、種内での遺伝子多様性、土壌管理、栽培種
を適用させる農慣習に大きく依存しています。しかし、繁殖のための遺伝子資源の利用率はまだま
だ低いのが実状です。農業バイオテクノロジーは、まだ実験段階にあります。現在、遺伝子組み換え
を実施している耕地面積は全世界で 8,100 万ヘクタール強です。米国、カナダ、中国、インドその他
に広がりつつあります。
遺伝子の生物資源開発こそが農業における遺伝子組み換え食品に最も寄与するものであり、革
新的な技術開発でもあります。
それに加え、生物肥料というものがあり、これは持続可能な発展に適した肥料です。化学肥料は、
長期間使うことによって危険性が増していくので注意が必要です。有機肥料の使用度を高めること。
特にバチルス菌やシュードモナス菌の自生在来種の特殊使用が有機農業に広く応用されていま
す。
次は医療です。1940 年までは、医療用ステロイドは動物からのみ採られていました。ブタの卵巣、
ウシの精巣、妊娠しているウマの尿などを大量に処理することでごくわずかな量のステロイドを作って
いましたが、市場の要求が高まるにつれ、原材料の代替資源を探す必要が生じてきました。現在、
世界人口の 75%が病気の治療を植物に依存しています。特に中国が植物の医療への利用に優れ
119
ており、タイ、ベトナム、インド、また日本でも行われています。植物をベースとした医療システムへの
依存度は高まりつつあります。現在の米国の製薬市場では、最先端のタキソールも含めて 25%が植
物由来化合物となっています。現在、25 万種類近い植物のうち、わずか 2%が医療効果を認められ
たにすぎません。複雑で新しい分子構造の素晴らしい多様性がこれまでの研究でわかってきまし
た。
SCOPE 誌によると、生物多様性、医療、環境の間には密接な相関関係があり、そこには 3 つの重
要な側面があるといいます。まず、生物多様性は、きれいな水、食物、解毒作用、栄養の再循環とい
ったサービスを提供する生態系の力と関わっており、これが人間の健康や病気への抵抗力に影響し
ます。2 つ目。生物多様性は、野生あるいは人間の住む環境における感染症の蔓延または感染の
速度に影響します。3 つ目。生物多様性は、生態系が新薬や新しい治療法を提供し、すでに使用し
ている薬を供給し続ける能力に影響を及ぼします。最後に、人間の健康状態や幸せの度合いが変
化したときに、それに伴い、生態系の作用や生物多様性への影響がどう変わることになるかを見てみ
ましょう。
栄養補助食品についてお話します。医薬品と栄養素の間に差がなくなり、栄養補助食品として売
られるようになるかもしれません。例えば、スーパーでいろいろな種類のトウモロコシを見つけ、それ
を摂取することで骨粗しょう症を予防する、妊娠を予防する、あるいはビタミン補給するという時代が
来るようになると思います。
次は微生物資源の話です。現在ではいろいろなところで利用されています。鉛や亜鉛の工場、皮
なめし工場、醸造所、製紙工場、ガス工場、鉱山などから流出する多くの廃棄物が大きな問題となっ
ています。しかし、これに対しては生体感知装置を開発することができましたし、分子診断キットも実
用化されています。また、バイオレメディエーション(微生物利用による環境浄化)という言葉をお聞き
になったことがあると思いますが、このための合弁企業が数多く設立されており、米国ではかなり活
発な投資対象となっています。これらはバイオテクノロジーに関する成功例です。さらに生物資源や
新しい遺伝子技術の開発も進められています。
インドでは植物を植え直すなどの処置を行い、完全に不毛地帯だった所に植物がかなり再生され
ています。
銅鉱山も 3 年間の処置を経て生まれ変わりました。
水の安全のためにもバイオテクノロジーの利用は非常に重要です。我々の生存のためには水は
非常に重要です。国際水管理研究所によると、2025 年までに世界の人口の 3 分の 1 近くが深刻な
水不足に直面し、インドでは人口の 3 分の 1 が、水がまったく枯渇した地域に暮らすことになる、とい
われています。
水の専門家によると、2025 年には水の供給が世界的に、今より 22%増えていないと、水の一次需
要を満たすことができなくなり、世界の食糧供給のための灌漑用水については 17%増えていなけれ
ばならないということです。
現在、国際条約が 2 つあります。「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS)と「生物
多様性条約」(CBD)です。
まとめになります。現在、10~20 種ほどの植物が世界の 8~9 割の食糧を供給しています。インド
では、特に地方の部族が食糧の大半を野生の植物から採取しています。かつては、ほとんどすべて
の薬が生物資源から作られていました。発展途上国ではおよそ 2 万種の植物が薬に利用できると考
120
えられています。農業、医療において生物多様性を持続的に利用するのに最も重要なことは、生物
資源を特定して文書化していくということです。我々はまず、協力してこれを実施していくことが重要
です。ここがまさに分子分類学者が力を発揮するところです。植物組織培養もまた「金」のテクノロジ
ーです。これによって選択された生産性の高い種を大量に作り、保存するために、このテクノロジー
が重要です。現在、予測では、新しく開発され、世界で保存されている植物原種 250 万種のうち、お
よそ 2%しか効果的に利用されていません。これは、十分な理解がなされていないことが原因である
と思われます。この地域にバイオテクノロジーによる革命を起こしていくためには、バイオテクノロジー
の基礎的な研究を支援していく必要があります。このバイオテクノロジーを進歩させ、さらに素晴らし
い発見をしていくこと、これによって我々は多くの環境問題に対応していくことができ、人間の最小限
のニーズを満たすことができるのです。バイオテクノロジーを応用していくことが環境の持続が可能な
発展につながっていくのだと思います。科学技術によって持続可能な発展を目指していく上では、
特に自然との調和が非常に重要です。これが我々の食物、栄養、健康、生態系、さらに生きていく上
での安全を担保してくれると思います。
上の写真は非常に豊かな生物多様性を示しています。下の写真は生物多様性を利用して幸せに
なった農夫の姿です。この地域の科学者、政策立案者、行政担当者、社会の参画者などすべての
人々が持続可能な環境を担保していかねばなりません。そして、中でも、バイオテクノロジーが非常
に重要になりつつあります。
「日本の第三期科学技術基本計画の概要-イノベーションと持続可能な発展に資する政策の位置
づけ」 文部科学省 科学技術政策研究所 所長 國谷 実
5 人の外国の先生方のお話の最後に、日本の状況を簡単に説明させていただきます。2006 年の
4 月に開始された第 3 期基本計画のご紹介、特にイノベーションと持続的発展についての事項があり
ますので、それを政策研の研究成果も含めながら邯鄲にご説明させていただきたいと思います。阿
部先生に決めていただいた 3 つのアイテムの中の「持続可能な発展となるカギ」について多く触れる
ことになるだろうと思います。
まず科学技術基本計画がどのようにしてできるかということをご紹介したいと思います。内閣総理
大臣の諮問機関として総合科学技術会議があります。これは経済と並んで非常に重要な会議という
ことになっておりまして、その構成が特に変わっておりまして、この会議自体に総理大臣および主要
閣僚も入られて議論していただく。その学識経験者の中に阿部先生いらっしゃるわけです。ここの仕
事は主に基本的な計画を作ることと、適宜、的確な調整をするということでございます。これを受けて、
各省庁が具体的な施策を実施することになるわけですが、その中でも特に MEXT(文部科学省)は
70%近い国の予算を持っておりますので、最も主要な役所ということになります。MEXT の中に
NISTEP(科学技術政策研究所)も存在して、MEXT に対する提言、それから MEXT を通じて CSTP
(科学技術政策委員会)にもいろいろな資料を提出させていただいております。MEXT の下には大
学やたくさんの各種研究所がありまして、これが実際に研究を行う機関になります。この全体の仕事
の中で特に大事なのが基本計画で、5 年に一度この計画が作成されているわけです。これが簡単な
流れです。
1995 年に基本法という法律が制定され、それに基づいて第 1 期、2 期、3 期という計画ができてま
いりました。
121
いろいろ特色がありましたが、対照表にしますとこのようになります。第 1 期、第 2 期、第 3 期と 3
つの計画が順次作成されましたが、この部分が政府答申に関する対比、この部分がその中の特に
重点化、集中化に関する部分、この部分が科学技術システムに関する部分、というようにご覧いただ
きたいと思います。この部分は後ほど詳細に申し上げますので略してあります。一番大事な政府の
総投資については、第 1 期で 17 兆円、第 2 期で 24 兆円、第 3 期で 25 兆円。5 年間の数字ですが、
着実に数字が増えています。括弧の中が実績ですが、計画を上回る確定が行われております。第 2
期については景気の低迷があり、未達となったわけですが、これをベースに今回の第 3 期計画の 25
兆が定められています。
基本的には投資額は政府全体の計画に則っていますので、財政当局もこれを尊重せざるを得ない
ということで、このように計画と実績というのが、非常に努力された結果、実効性のある計画になって
いるということです。
このような輪郭の基本計画はどのような構造か、ということがここに示してあります。大きく、理念、
集中化、選択の考え方、システムの更改、それから国民の理解と関心とか、あるいは総合科学技術
会議自体の在りかたみたいなものもここで定められています。今回お話したいのは、理念、集中化、
システムの中でも特にイノベーションと科学に関する部分について簡単にお話したいと思っておりま
す。
まず、理念ですが、今度の基本計画では全体で 6 つのゴールが示されています。飛躍知の発明・
発見、それから科学技術の限界突破、3 番目に持続可能な発展、これは環境と経済の両立ということ
でゴールがはっきり定められているものです。
この目標に向けて具体的にどうするかということが今回いちばん大事なもので、集中のメカニズム
が前期の計画に比べ非常に具体的に書かれております。8 つの分野が定められていまして、ライフ、
情報通信、環境、ナノ材料、エネルギー、物づくり、社会基盤、フロンティア。基本的にはここでは第
2 期の分野を踏襲してはいますが、この分野についていろいろな調査研究を踏まえ、273 のアイテム
が重要な研究開発課題として挙げられています。これは、国全体として見て重要だという純粋な判断
なのですが、これにどう投資をしたらいいのかということがもう一段、総合学術会議の判断として加わ
りまして、ここに挙がっております、戦略重点科学技術 62 項目が今度の基本計画では書かれていま
す。従いまして、ここはお金の話が現実に動き出す科学技術の課題ということになっています。なお、
この中で特に 5 つの項目はキーテクノロジーとして、国家基幹技術という名称をつけ、長期的な戦略
の下で、国主導で取り組む大きなプロジェクトだという位置づけで挙げられています。
これを分野別に対照しますと、ここに先ほどの 8 分野。273 アイテムをこの 8 つの分野に割り振ると
このようになります。それから、これを??あるいは統合などをいたしまして 62 の科学技術ができた、
ということです。ここにはいろいろなもののうち、念のため 1 課題だけ例を取り上げてありますが、この
中にも国家基幹技術にあたる代表的なものがいくつか表れています。このように、今回の科学技術
計画は非常にシャープに重点化されているのが特徴だといえます。
先ほど 6 つの目標ということを申し上げましたが、第 3 番目の経済と環境の両立という、まさに持続
可能な発展というこの目標が具体的にはこの 2 つの目標に分割されています。1 つは地球温暖化、
エネルギー問題の克服。それから環境と調和する環境社会の実現。この目標の中に先ほどの具体
的な研究開発課題が、課題そのものではありませんが、そこの課題で目標とされているものが掲げら
れているわけです。こ先ほど 5 つの国でいろいろな課題を挙げられましたが、の目標の中にもかなり
122
各国と共通するものがあるようですし、また日本独自のものもいくつかあります。これから協力を進め
るという意味でも、ここに掲げてあるアイテムを前提にしながら協力のヒントを探っていくことも可能だ
ろうと思っております。
時間もありませんので、簡単な例で、これは地球観測の例でございます。宇宙航空研究開発機構
(JAXA)と海洋研究開発機構(JAMSTEC)が一緒に行っております、空と海からの地球観測プロジェ
クトです。
これはスーパーコンピューターを使ったシミュレーターです。スーパーコンピューターは地球シミュ
レーターという名称で 1997 年から 2002 年まで開発が行われました。これを使ってのシミュレーション
が行われているということで、これは JAMSTEC 海洋センターのほうで進められてきたプロジェクトです。
なお、本年度からは、コンピュータの開発を技研が引き継ぎまして、新しい次世代のコンピュータ開
発が進められているところです。
ここからは個別の課題ではなく、今申しましたようないろいろな課題につきましても当然のことなが
ら、研究開発は実現しないといけないということになるわけです。
その意味ではイノベーション、これが非常に重要になってまいります。イノベーションというのは得
てして経済、特に競争で使われる言葉のようですが、環境関係の課題につきましても、まさに、非常
に基礎的な研究をスタートさせて、それを社会に還元する、そのプロセスが必要になるということでこ
ういう言葉になっています。これは先ほど紹介しましたイノベーションに関する項目の具体的な記述
ですが、イノベーションを資力的に進めるための競争的な環境を作らなければならないとか、特に大
学がそういう競争力を強化しなければいけない。それは現在の総合科学技術会議でも非常に重要
な議論になっています。あるいは、イノベーションを作り出すシステムというものもまた強化しなければ
ならない。あるいは、地域だとか国際だとか、そういういろいろなものについて特に、こういった政策を
重点的に進める必要があるといった…。ちなみに 2006 年 6 月に、総合科学技術会議では、特にこの
イノベーションを重点化した新しい総合戦略が出されまして、まずイノベーションの源をちゃんと創り
出すこと、それを種から実へ引き継ぐこと、それをイノベーションとして結実させること、そういう方針が
出されまして、今、その方針に従って各省庁が具体的な予算要求を進めているところです。例えば、
切れ目のないいろいろな資金を用意しないといけないとか、あるいは戦略重点的な科学技術に特に
資金を潤沢に供与するとか、そういうことがこの一連の基本的な考え方を受けた格好で進めていると
ころです。その予算は 12 月にならないと最終的にはわかりませんので、今日はその背景を簡単に説
明させていただきます。
これは総合科学技術会議のほうで検討される前に文部科学省などで議論した時のペーパーです。
どのようなことを言っているかというと、イノベーションを一種のリニアモデルのように捉えておりますが、
その中で政策がどのように展開されなければいけないか、ということを述べています。具体的には、
大学で行われる、いわゆる経常的な経費で行われる研究と、それから、競争的な資金で行われる研
究によって非常に萌芽的な研究の源ができあがる。この競争的資金は、日本の競争的資金の中で
は、単一のものとしては今いちばん大きい、科学研究費補助金と呼ばれる資金ですが、それは自然
科学だけでなく、人文科学や社会科学にも供与される資金で、非常に萌芽的な研究を豊かにするも
のです。これがより強化され、あるいはグループなどにより研究を進める必要があるものはそれで進
めていくことによって、非常に卓越した科学として結実する。また一方で、こういったものから社会に
ちゃんと還元されるイノベーションというものを創りだしていく、というストーリーで各種の政策を展開し
123
ていく。大まかに言いますと、萌芽的な研究も、まだ基礎研究が十分ではないということで、目的性を
持った基礎研究をまず進めるという、こういう施策が今、いくつかあるわけですが、こういうものが必要
であると。また、具体的なイノベーションの直前の、出口の開発も必要である、ということもいわれてい
ます。ただ、昨今の議論では、この 2 つをさらにつなぐ、不連続な要素のある、出口指向の研究という
のもなかなか進まないところがあり、公的な資金で援助していく必要があるだろう、ということがいわれ
ています。いずれにしてもこの辺はすべて公的資金が何らかの形で供与されて初めて民間の研究
へつながるという、こういうシナリオを考えているところです。
あまり詳しい説明をする時間はありませんが、その一つの事例でありまして、酸化チタンを使った
光触媒が、どのようにして研究が次々に積み重ねられていって実用化したかと。現在では、ここでは
250 億ぐらいですが、実際は 400 億ぐらいの売上が出ている。日本で始まった非常に基礎的な研究
が、いくつかのプロセスを経ていく中で商業的にも結実していったわけですが、ぜひご覧いただきた
いのは、こういうのを進めるにあたって、公的支援が非常に効果的に使われている。ここではもちろん
成功例を拾ったために、「効果的だった」ということもありますが、こういう公的支援制度がうまく働かな
いと、イノベーションへと結実するのは難しい、ということを示しております。
これは太陽光発電の例です。これは先ほどの例とは異なりまして非常に息の長い、「サンシャイン
計画」「新サンシャイン計画」の両方を合わせて 40 年近いプロジェクトが続いております。その中でい
ろいろな吟味が行われた末、現在では最終的に 4000 億近い売上になるのではないかと思われる商
品が出るようになっています。ただこれは、社会環境がどのように変わったかということで、例えば余
剰電力の購入方式が新しくできたとか、電力を買い取る新しい方式ができたとか、あるいは、省エネ
の観念から新エネを義務付ける法律ができたとかいった、制度的、社会的な要素が変わったことによ
って、この技術が受け入れられる方向にどんどん進んでいった、ということを示しています。
たった 2 例ですが、政策研では 32 の事例についてこういう分析をしました結果、技術ごとに多種多
様な表れ方がある、ということがわかりました。
これはまとめですが、公的な支援にはどのようなものがあるかということで、非常に基礎的な研究、
応用開発に近い研究への支援、基盤とかインフラに寄与する支援、それから、直接お金ではありま
せんが、規制とかもっと大掛かりな政策に類するもの、こういうものをここに分類できると考えています。
すべてが、これが必要というわけではなく、技術によっては A と B だけで良いもの、あるいは A も B も
C も D も必要なもの、あるいは C と D だけで良いものと、公的支援の在りかたというのはかなり、いろ
いろ種類が違うのではないか。先ほどの例にありました酸化チタンの光触媒は基礎研究と応用研究
に公的支援が非常に顕著な効果を上げたものである、と政策研では分析しています。ところが太陽
光発電については、どちらかというと応用開発研究あるいは政策的な部分での支援によって、あれ
ほどの大きなものになったのではないかと思います。いずれにしましても、これは日本の国情に即し
ての分析でしたので、技術ごと、国ごと、時期ごとによって非常に違いは出てくるものと思いますが、
こうした分析をすることによって、国がなにをしなければいけないかというのがだんだん見えてくるだ
ろうと思っています。先ほどから 5 カ国のお話を聞きましたが、日本に当てはめればこれかな、という
ように、日本なりの公的支援のやり方のようなものも何となくイメージが湧いてきたところがございます。
いずれにしましても、政策研はあくまで研究をして、その成果を総合科学技術会議や文部科学省に
反映するということですので、これも一例ですが、このほかに、成功した企業ごとのイノベーションの
分析、あるいは IT、バイオといった産業ごとのイノベーションの分析ですとか、あるいはもっと大きくマ
124
クロ的なイノベーションの分析、例えば全要素生産性(TFP)といわれるようなものの分析とか、さまざ
まな研究を逐次行なっております。最終的にはそれらを提供させていただいて、総合科学技術会議
や文部科学省などが政策を実施していくにあたって、どのような政策がどのような効果を得るかという
のを予測するとか、そういうことに役立てていく、ということにしています。
第 3 期基本計画は非常に特徴的な計画として立ち上がりました。そのポイントは集中化、特に 62
の分野に集中的に投資が行われるということで特徴です。特にまた、イノベーションという言葉がこの
基本計画の中で非常に特徴的に表れており、政策研はそのイノベーションに関しても、従来の実績
を踏まえて、いろいろ必要な提言、あるいは情報の提供、調査などを進めさせていただくつもりでい
る、ということです。
vi) 第 2 分科会「環境・エネルギー問題」
「趣旨説明」 (財)地球環境産業技術研究機構 副理事長 茅 陽一
本フォーラムの目的は、アジアの「Sustainable Development:環境維持開発」を議論することで、い
かにしてこれらの問題を解決するかが最終目標です。
本フォーラムの主催者である科学技術振興機構(JST)がこれらの問題を解決するために、「科学
技術がどのような力を発揮できるか」、「そのためには各国間にどのような協力が可能か」をこれから
議論して行きます。
このフォーラムは 3 年計画で、昨年の第 1 回フォーラムでは全体的な議論が行われました。第 2
回目の今年は主に「エネルギー」という側面に焦点を当て、エネルギーと密接な関係を持つ「環境」
について議論して行きます。次回 2007 年は、具体的な協力の方向について具体的な議論をする予
定です。
アジアのエネルギー、環境問題について考えたときに、谷口先生の方から環境の問題について
指摘されたとおり、アジアの諸国は先進国と比較して「Primary Energy:一次エネルギー」の利用が急
激的に伸びています。一番多く利用しているエネルギー源は「石炭」、次に同じぐらいに「石油」が使
用されているのが現状です。将来伸びると期待している「原子力」および「New renewable energy:新
しい再生可能エネルギー」はまだ量としては少ないことが分かります。
今回の 4 人のプレゼンターにより、各国のこのような状況の中でこれらの問題に対してどのように取
り組んでいるか、またはどのような改善策が実施されているか報告される予定です。その後のパネル
ディスカッションでは、「エネルギーと環境」に関わるいくつかの問題点について議論して行く予定で
す。
3 つの側面を提案してみます。
最初の問題は「原子力」です。日本、韓国、中国、インドと言った諸国で既に利用されていますが、
今後さらに他のアジア諸国に広がっていくことが考えられます。具体的な計画がいろいろと出てきて
います。その中で問題になるのが、「パブリックアクセプタンス」の問題です。この「アクセプタンス」は
現段階で可能なのか。原子力利用をきちんと国民に「アクセプト」してもうためにはどういうことが必要
か考えなければなりません。
次に、原子力を利用する場合、「安全性」は重要なファクターとなります。そのため携わる技術者、
オペレーターの教育/訓練の方法が問題になります。「安全性」を解決するためには必要です。当
然、原子力利用の経験を持つ先進諸国との協力の進め方も問題になります。
125
最後に、石炭を中心とした火力発電の技術が問題になります。特に中国は石炭利用が盛んです
が環境やコストを考慮した効率の良い燃焼方法が課題となります。この効率の向上をどのような形で
果たすのか、将来は IGCC への移行が考えられますが、その流れをどのように推し進めて行くか、課
題として残ります。それと同時に、石炭だけでなく天然ガスの利用をどのように拡大していくかがポイ
ントで、この場合天然ガスの輸送、天然ガスの開発に問題があります。さらにコンバインドサイクルに
するための課題もあります。天然ガスの利用を拡大していく場合、ボトルネックはどこにあるか、そして、
その拡大の協力をどこの先進国に要請するのかといった点の議論も行いたいと考えています。
さらに 4 人のプレゼンターに共通して関心が高いのが「Renewable Energy:再生可能エネルギー」
の問題です。この再生可能エネルギーは将来のアジアのエネルギー問題の解決の 1 つのキーにな
り得ますが、様々な問題を抱えています。その中の 1 つの問題として、現在非商用の形で使用して
いる再生可能エネルギー、例えば、「牛糞を燃す」という利用方法を今後どのように処理して行くのか
という問題が浮上してきます。効率の低さを問題視する意見もありますが、逆に従来のように再生可
能エネルギーを利用するという考え方にはそれなりに重要な意味があるという意見もあります。各国
がこれらをどのように維持していくか、新しいタイプの再生可能エネルギーにどのように移行するかが
1 つの大きなポリシーの分かれ目になると思います。
どの新しい再生可能エネルギーが望ましいのか、バイオ燃料なのか、あるいは太陽光エネルギー
なのか、風力エネルギーなのか、また別の形なのか。これらを踏まえて再生可能エネルギーの利用
を促進して行くには、先進国、あるいはアジア諸国間での協力をどのように行うのか、様々な問題を
我々は抱えています。
「タイの再生可能エネルギーの開発および環境について」
エネルギー省 代替エネルギー開発効率局 理事 Rangsan Sarochawikasit(タイ)
1.
タイの国家的エネルギー政策
タクシン政権は、現在国家のエネルギー政策を策定しており、エネルギー利用の高効率化を促進
させるような政策を盛り込もうとしています。国内のエネルギー資源開発と再生可能エネルギーのバ
ランスをとり、エネルギー輸入依存度の低減を図りたいと思っています。そのため国内エネルギー資
源開発を加速したいと考えています。政府のエネルギー政策の目的は以下の通りです。
¾
エネルギーの安全保障を確保しながら国内経済の競争力を強化する事
¾
クリーンな燃料供給を継続的に確保することによって環境の改善を行う事
¾
タイ国民の生活水準を向上させる事
¾
東南アジア地域においてエネルギーハブとして活動する事
2.
タイのエネルギー戦略
エネルギー省によって提案されている 4 つの主要なエネルギー戦略は以下の通りです。
¾
エネルギー高効率化のための戦略
•
国の競争力を強化するために、エネルギー弾力値の低減化(GDP に占めるエネルギー消
費の伸び率)を図ります。現在 1.4:1 となっていますが、2007 年までには 1.1 に低減したい
と考えています。
•
10 年のうちにエネルギー消費が最高 31 億バーツ分、節約可能だと考えています。
126
¾
エネルギーの安全保障のための戦略
•
少なくとも 30 年に亘ってエネルギー供給を十分に確保し、その信頼性を確保しなければな
りません。
•
エネルギー供給の安定性を向上させるために特に天然ガスを今後 50 年間、重点的に開発
していきます。
¾
タイのエネルギーシステムの戦略(地域センターとしてのタイ)
•
税制システムを変更して、様々な税の二重課税、あるいは重複する部分を削除していきま
す。
•
中東から東南アジア、そして東アジアに渡って石油製品などの輸送を効率的に行うために
「エネルギー・ランド・ブリッジ・プロジェクト」を進めています。
¾
再生可能エネルギー開発戦略
•
エネルギー省では、2003 年の再生可能エネルギーのシェアを 0.5%から今後 10 年で、すな
わち 2011 年までに 8%(エネルギー需要)まで上昇させる計画を持っています。
エネルギーの高効率利用を達成してエネルギー安全保障を確保するためにエネルギー省では情
報技術を利用します。エネルギーセンターが国内外の情報を統合化して、最新のそして正確な情報
を利害関係者(ステークホルダー)全てに提供します。
特に大切なことは、国民参加、および環境問題です。エタノール、バイオディーゼル、天然ガスを
輸送関連セクターで使用して行き、クリーンな燃料の使用を押し進めて行きます。さらにファンド基金
を設立してエネルギー施設の周りに地元コミュニティーを開発していきます。
3.
タイのエネルギー事情
この 10 年間、エネルギー消費は継続的に平均 4%の率で伸びています(例外として、1997 年から
1998 年までの経済危機のときに少し減少しています)。2004 年には最終エネルギー需要は、約 100
万トン(石油換算トン)に達していました。
総エネルギー消費量の状況は以下の通りです。
¾
輸送部門が主要消費部門であり、総エネルギー需要の 37%以上を占めています。
¾
2 番目が工業部門で全体の消費量の 36%、その次が住居や商業など民生部門です。
エネルギー需要は高まり、2004 年には石油輸入が 250 億ドルあまりになっています。石油輸入コ
ストおよび外貨の流動負債に対処するために、エネルギー省では政府に対して再生可能エネルギ
ーの戦略を提案しています。2003 年 9 月 2 日に内閣において承認されています。
再生可能エネルギー政策の目標は以下の通りです。
•
民生部門での再生可能エネルギーの利用を増加させます。
•
2011 年までに 0.5%から 8%まで再生可能エネルギーの利用を増加させます。
.2003 年の総エネルギー消費の 83%以上を商用エネルギーでまかないます。
•
16.5%を従来のエネルギー(木炭や薪)でまかないます。
•
残りの 0.5%は再生可能エネルギーでまかないます。
これらの政策を実施するために、再生可能エネルギー戦略の計画が立案されました。これらの戦
略は発電、暖房(熱)およびバイオ燃料の 3 つのカテゴリに分類することができます。
♦ 熱での利用は、目標の主要な部分であり、目標の半分以上を占めています。
127
再生可能エネルギーの目標を達成するために、いくつかの戦略がすでに策定されています。
♦ RPS(再生可能ポートフォリオスタンダート)
新たに建設する発電所(石炭や石油など化石エネルギーを使用する)には、設備容
量の約 5%を再生可能エネルギー発電に投資しなければなりません。
♦ インセンティブ
政府は、「フィードインタリフ」のような税制的な支援を行います。これによってグリット
接続する売電価格を補填します。
♦ 研究開発
非経済的な再生可能エネルギー利用技術の使用をできるだけ縮小し、現地の供給
量を増加させます。さらにはそれを実現するために原料などの供給の確保を図りま
す。
♦ ファシリテーター
これが役目を果たすことにより円滑な協力関係が可能になり、民間部門(企業)、投資
家、外資系企業がともに調和が取れるようになります。私が所属する局(Department
of Alternative Energy Development and Efficiency(DEDE))がファシリテーター役を果
たすということになります。
研究開発により再生可能エネルギー技術に関するタイ国内のナレッジベースを強化するという試
みがあります。そして再生可能エネルギー技術をモデルプロジェクトの実証を通して普及させたいと
考えています。官民の連携により協力関係を促進していきます。
地域社会と民間企業にこれらを促して、それぞれの地域で使用できる再生可能エネルギーのリソ
ースに適した再生可能エネルギー技術を利用していきます。
政府による再生可能エネルギーの利用を高めるために以下のようなインセンティブを設定します。
♦ 投資家のためにインセンティブを提供し、従来のエネルギー技術による再生可能エネ
ルギーに対して競争力を提供します。
♦ 不確実性や投資リスクの回避
♦ 再生可能エネルギーの普及のために市場機会の創出
再生可能エネルギーの利用促進および普及のためにタイ政府は戦略的な奨励策をすでに立ち
上げています。インセンティブ措置の主な目的は以下のとおりです。
♦ 再生可能エネルギー市場を商業的にもっと活発化します。
♦ 再生可能エネルギー技術の財政的な負担を軽減します。
♦ 再生可能エネルギーを有効なエネルギー源として利用の促進を図ります。
♦ 輸入エネルギーを削減します。
♦ エネルギーの活用により環境負荷を低減します。
税制優遇策として、タイ政府は再生可能エネルギー投資プロジェクトに BOI 特権スキームを与えま
す。
♦ BOI 特権に従って、再生可能エネルギープロジェクトの投資家は機器類を輸入したと
きに輸入関税が免除され、また約 8 年にわたって法人税が免除されます。
♦ ソフトローンが適用され、再生可能エネルギープロジェクトには低金利ローンが適用さ
れます。ただし 5 千万バーツまでという条件を付けます。
128
♦ 再生可能エネルギーの投資の促進において、タイの再生可能エネルギー推進を補足
するために政府としてはカーボンクレジットの CBM のプログラムを提供しています。
ガソホール戦略の計画
エネルギー省は内閣にそれを既に提案をしており、2003 年 12 月 9 日に承認されています。計画
の目標は、バイオマスから精製したエタノールを 10%混合したガソリン(E10)の利用を促進することに
あります。2006 年までに 1 日 100 万リットルを最高に、2011 年までにこれをさらに 1 日あたり 300 万リ
ットルまで増やして行く予定です。このロードマップは以下のとおりです。
•
タイ政府はガソホール(エタノールを混ぜたガソリン)のスペックをオクタン 95(E10)と 91
(E10)の 2 つで公示しています。
•
タイ政府は、政府が運用する車両に関してはこのガスホーのみを使用します。
•
今年の終わりから来年の始めにかけてガソリンオクタン 95 の全国販売を中止します。
•
現在 24 のエタノールプラントの営業権(トータルで 480 万リットル/日)が承認されてい
ます。
•
5 つのエタノールプラントがすでに存在しており、トータルで 1 日あたり 60 万リットル生
産しています。残りの 4 つエタノールプラントが建設中でそのキャパは 1 日あたり 60 万
リットルです。年末までにはこれらが完成する予定です。
•
エタノールの生産には、十分な量が確保できるモラスとカッサバが主要な原料として使
用されています。
•
2006 年 6 月現在、9 つの石油会社が 3,200 のガスホールを売っているガソリンスタンド
を所有しています。その販売量は平均で 360 万リットル/日です。
バイオディーゼル戦略の計画(2 段階)は以下の通りです。
♦ 2004 年 - 2006 年
この間は研究実証期間で、第 2 段階で使用する技術情報の収集期間です。
主な活動は原材料の供給管理が中心です。農業協力省は地域の土地造成、さらに
パーム油、やし油の生産量を上げバイオディーゼルの生産に十分な量の確保に責任
を持ちます。その他の油のプランテーション研究開発として、例えばジャトロファなども
対象となっています。
♦ 2007 年 - 2011 年
「バイオディーゼルの促進」
•
ディーゼル軽油では、5%のバイオディーゼル混合「B5」が既にチェンマイやバンコ
クで販売されています。
•
バイオディーゼル市場はさらに拡大し、2011 年には全国に広がると見られており、
1 日当りの生産量が 400 万リットルという容量になっています。
•
これらの目標を達成するために、原料に関する研究開発活動が積極的に行われ
ています。
♦ このバイオディーゼルプラントの設立を推進するために、タイ政府はバイオディーゼル
生産プラントを含む再生可能エネルギーの民間投資を対象に BOI 権のスキームを立
ち上げています。
♦ SVP(Special Purpose Vehicle Program:特別な用途のための車両プログラム)が財務
129
省の管轄で始まっており、これはパーム油のプランテーションおよびバイオディーゼル
プラント向けに設けられています。
4.
エネルギーおよび環境に関連する問題(エネルギー利用とそれに関わる環境問題)
エネルギー部門の CDM 実施のフレームワークおよびガイドラインによると、2004 年の 12 月の段階
で温室効果ガスの排出量は約 3 億 4,400 万トンで、その中でエネルギー部門がもっとも排出量が多く、
トータルのうち 56%を占めており、次に農協部門でした。
エネルギー需要は増加傾向にあり、その 70%以上が化石燃料です。その結果、エネルギー部門の
温室効果ガスの排出量も増加しています。
しかし、石油換算トンあたりの二酸化炭素の排出量を比較すると OECD、アジア、その他中国、日
本、韓国、マレーシアなどアジア諸国はこのようになっており、タイは好ましい状況です。
もう 1 つの温室効果ガス排出問題の対策として、タイでは CDM プロジェクトの検討をしています。
最も有望なのは再生可能エネルギーを推進するということです。その次がバイオ燃料ということになり
ます。
2006 年 8 月 15 日、タイ政府は CDM を監視する組織を発足させました。資源環境省は CDM 組
織を内閣に提案して承認されました。同内閣決議に従って、気候変動国内委員会が設立されました。
この委員会は首相、あるいは副首相が委員長を務めることになっています。そして天然資源環境省
が事務局を果たすことになり、おそらく来年までにはこの事務局が活動を始めるものと考えていま
す。
♦ CDM プロジェクトの承認審査方式:
•
事務局は民間部門から提出された文書の審査を行い、関係省庁にこれを提出し
てプロジェクトドキュメントを専門家がさらにレビューしてコメントを提出します。
•
専門家グループからの意見(例えば、エネルギープロジェクトの DEDE が意見書
を作成)を受け、当該省庁が事務局に送り返して国内委員会に承認の提案を行
います。
•
承認後、国内委員会は内閣に通知し、内閣は、承認を行います。
•
その後 CDM プロジェクトがこの事務局に対して書簡を作成して、登録のために国
連の UNFCCC にその書簡を送付します。
5.
再生可能エネルギーの分野では、どのような研究開発活動が行われているのか、さらに近隣諸
国との協力関係
タイの再生可能エネルギーの障壁について
♦ 再生可能エネルギーの技術開発には、高い投資コストがかかります。
♦ 再生可能エネルギーの継続的な政策と対策が問題になりますが、タイ政府は既に長
期再生可能エネルギー政策(2011 年まで)を実施しており、現在では解決済みです。
♦ 低品質および不安定な供給に関して、エネルギー省は農業協力省と協力して農業産
品などの生産を改善させるための研究開発に重点を置いています。
♦ Unattractiveness of existing development models:これらのモデルを模範として、民間
投資家からの出資を募っています。
130
•
これには高い投資コストと運用コストがかかりますので、各省庁レベルで話し合い、
規制をもっと簡素化していきたいと考えています。
•
PR 活動を行い、民間投資家に対して成功例を示していきます。
省エネルギーファンドが再生可能エネルギーの利用や省エネルギーを促進させるために発足し、
1 リットル当り 0.1 セントくらいの基金を募ってファンドに当てます。
再生可能エネルギーに関する多数の研究開発活動が行われています。
♦ バイオ燃料の利用については、バイオディーゼルの生産計画が 1 つのモデルとして研
究開発されています。
•
バイオディーゼルを使用した自動車エンジンの性能テストが実行され、この情報
はユーザに提供されています。
•
バイオ燃料のバリューチェーン開発も行っており、提案されたバイオ燃料だけで
なく、バイオディーゼル開発も同時に行っています。
将来の動向としてバイオ燃料の使用は増加を示しています。その理由は以下のとおりです。
♦ 環境問題とオイル価格の高騰
♦ バイオ燃料に関する技術開発の進展
♦ 温室効果ガス増加への対策に伴うバイオ燃料市場の拡大
バイオエネルギーの利用先
♦ 将来、バイオ燃料(エタノール)から生産した水素の利用を検討しています。
♦ 新たなバイオマスの融合やガス化技術が市場に登場しています。
地域協力に関して
♦ バイオ燃料開発あるいは水力発電の開発において、タイはラオス、ミャンマー、カンボ
ジアなどの近隣諸国との間で開発協力が進んでいます。
♦ タイと近隣諸国との間で、バイオ燃料プログラムのサプライヤを確保するために「コンタ
クトファーミング:Contact farming」が発足しています。
結論は以下の通りです。
„
再生可能エネルギーを促進するための政策や措置を明確に提示して、それらを目標にし
ていく必要があります。
„
研究開発を進めて国内の知識基盤を整理する必要があります。
政府だけでなく金融機関、あるいは学界、民間投資家などすべての利害関係者を巻き込んで
いくことが必要です。
「ベトナムのエネルギー現状について」
天然資源・環境省 気象水文研究所 所長 Tran Thuc (ベトナム)
1.
概要
„
東南アジアに位置する、縦長の国で海岸線も特に長い
„
面積:約 330,000km2、人工:約 8300 万人
„
気候と地形:南部は熱帯、北部は亜熱帯、首都:ハノイ、気温:平均の最低気温は 16℃、
最高気温は平均で 29℃
„
GDP: 2,270 億ドル(US$)、成長率:7.2%(2003 年)、7.7%(2004 年)
131
„
経済:工業;40%、農業;22%、サービス業;38%、人口の 30%が法定貧困レベル以下
エネルギー部門(2000 年)は以下のような割合を占めます。
•
2.
GDP の 12%、政府歳入の 25%、輸出の 25%、輸入の 13%
ベトナムのエネルギー部門の現状
„
需要と供給
2002 年の一次エネルギーの内訳
•
可燃物:54%(再生可能エネルギーおよび廃棄物)、石油:24%、石炭:13%、水力:
4%
総エネルギー需要
„
•
22,080 万トン(石油換算トン)
•
予想需要:2010 年には 3,230 万トン、2020 年には 6,030 万トンになる見込み
エネルギー資源
—
石炭:38 億 8,000 万トン、石油:23 億トン、ガス:1 兆 2,070 億 m3、水力:1,200 億 KWh
—
その他のエネルギー資源:地熱、風力、太陽エネルギー、バイオマス、波力(潮力)お
よび原子力
—
石炭
•
埋蔵量:1 億 5,000 万トン
•
生産
¾
¾
—
—
2002 年
—
1,100 万トン
—
年間成長率:25%/年
2005 年
—
2,700 万トン
—
3 分の 1 が輸出向け
•
輸出国:日本、中国、タイ、ヨーロッパ、メキシコ、ブラジル
•
2010 年の石炭年間生産は 1,000 万トン、国の総電力生産の 25%を占めています。
石油
•
確認埋蔵量:6 億バレル
•
2004 年:
¾
原油生産:40 万バレル以上
¾
ネットオイル輸出:1 日当り 19 万 3,000 バレル
•
石油製品は石油精製所が不足しているため輸入に頼っています。
•
ベトナム政府は将来石油精製所を設立する計画を立案しています。
¾
2007 年 - ドゥン・クワット(ベトナム中部)
¾
2010 年 - タインホア
¾
2016 年 - Vung Ro Phu Yen(ベトナム中南部)
ガス
•
確認埋蔵量:2,000 億 m3
132
•
利用予定:2,800 億 m3
•
2002 年に 1 日当り 1 億 3,000 万 m3 を供給する協定を締結しました。
¾
—
資源フィールド:Nam Con Son Basin
再生可能エネルギー資源
•
地熱資源:200〜400 MW
•
バイオマスエネルギー:
¾
潜在量:400 MW
¾
主要資源:もみ殻、木材、動物の糞、農業廃棄物
¾
生産性:1 年当り 5,000 万トン
—
•
—
発電に使用される量はわずか 30〜40%
ウランの埋蔵量:3,000 億トン
風力
•
風力発電ポテンシャルは東アジアでは中程度レベルで、世界的には比較的弱い
と言えます。
•
主に島々や沿岸域が有効です。
•
400 MW の容量が期待されています。
•
今ではバクロンビー、プーコックといった島々で風力利用が考えられており、容量
としては 850KWh です。
—
太陽エネルギー
•
特にベトナムの中部および南部には高い潜在能力があります。
•
太陽熱の入射:
冬:3〜4.5 KWh/m2/日、夏:4.5〜6.5 KWh/m2/日、日照時間:1600〜000 時
間/年
„
•
太陽エネルギーは送電線(グリッド)がないような辺ぴな地域に適しています。
•
ベトナム南部では太陽光発電システムが設置されています。
発電
—
平均成長率は 1 年当り 13.7%
•
1995 年:1,560 億 KWh
•
2002 年:3,500 億 KWh(そのうち 60%は水力発電)
—
1996 年から現在までサービスを受けている世帯が 50%から 87%に増加しました。
—
農村部に関しては提供されるサービスの質が低く、信頼性に欠けるものでした。
—
2005 年には中国から 1 億 KWh の電力を購入しています
—
発電源(2002 年)
—
•
水力が総量の 51%を占めています。
•
石油:約 12%、石炭:約 14%、ガス:約 23%
部門別のエネルギー消費
•
工業、住居、商業/公共サービス、農業、輸送部門の順で工業部門がエネルギ
ーを圧倒的に消費しています。
—
水力発電
133
•
高いポテンシャルがあります。
•
5 箇所に新しい水力発電所を建設しています。
¾
例えば、Son La 水力発電ダムは 2012 年までに 2400 MW を期待されていま
す。
•
小規模水力発電ダムは辺境地に適しており、貧しい人たちに低価格の電力を提
供できますが、品質面、安全面に問題があります。
„
2006 年から 2010 年の電力開発計画
—
電力需要の上昇
•
—
2008 年にはラオスから電力を購入する計画があります。
—
2010 年の目標:
•
32 の電力発電所を新設予定
•
電力供給世帯:80%
•
16 箇所の水力発電所の委託
•
石炭火力発電能力の向上
•
8 箇所の新石炭火力発電所の建設
•
ハノイ周辺の送電網の性能向上
—
2006 年から 2010 年までの電力消費の 1 年当りの 12%の上昇率を示しています。
—
投資:
•
•
3.
2010 年までに 1 年当り 15%〜20% の割合で上昇していくと予想
発電機
¾
EVN(Electricity Authority of Vietnam)プロジェクト:約 8,000 MW
¾
その他:約 2,000MW
送電線網
¾
新たに高電圧線を 9,300 マイル敷設
¾
その他では低電圧線を敷設
政策、プロジェクトおよび計画に関して
„
ベトナム政府の政策
—
再生可能エネルギーの行動計画の立案
•
10 年の枠組みで考えて、最初の 5 年間は国際協力を得て開発に取り組み、再生
可能エネルギーまたは発電に使用して行きます。
•
„
ベトナム電力庁と世界銀行が協力をしながら開発を行っていく予定
再生可能エネルギープロジェクトを実施する場合の障壁:
—
立法上の問題
•
再生可能エネルギー利用の奨励に関する現在の政策および立法上の枠組みで
は、ベトナムの再生可能エネルギー開発の加速化には不十分です。
—
技術的な問題
•
有効な技術の認識不足
•
費用とパフォーマンス
134
—
•
バイオマスエネルギー源に関する信頼性の高いデータの不足
•
高度な技術の不足
•
バイオマスの技術普及に高い費用がかかる
金融上の問題
•
再生可能電力装置およびサービスの提供のために商用的なビジネスやインフラ
の不足
•
バイオマスの技術普及にかかる費用およびバイオマスからエネルギー生成するた
めにかかる費用が高い
•
—
„
顧客やプロジェクト開発者への金融支援の制限
インフラの問題
ベトナムは国際組織や様々な国の支援のもとで多数のプロジェクトを進行しています。
—
日本政府や日本の新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)による新エネルギ
ーおよび工業技術開発を支援するための実証プロジェクトを実施しています。
—
国際金融公社(IFC)とデンマークのコンサルタント信託基金の協力により、ベトナムの
農業電化のマスタープランのためのリソースが提供されます。
—
オランダの支援を得て風力マッピングにも取り組んでいます。
—
ニュージーランドの支援による小規模水力投資プロジェクト - 小型水力発電所用の
パイプラインの準備を支援しています。
—
エネルギー部門の世界銀行の支援は、総投資額 10 億ドルで 4 つのチームに重点を
おいて取り組んでいます。
—
VN-GEF-Rural Energy II
—
再生可能エネルギーの促進、エネルギー効率および温室効果ガスの低減に取り組ん
でいます。
—
グローバルビレッジエネルギーパートナーシップへの参加
—
国連開発計画(UNDP)の支援によるエネルギー効率パブリックライティング(Energy
Efficient Public Lighting)
—
4.
ベトナム政府の資金援助による大規模水力発電プロジェクトを計画しています。
結論
„
ベトナムおよび世界の再生可能エネルギー以外のエネルギー資源は数十年で尽きてしま
うと考えています。
„
エネルギー安全保障を確保するために、エネルギー調査や協力を推し進める必要があり
ます。
„
再生可能エネルギーの開発はベトナムでも実現できます。
„
しかし、電力生産には高いコストがかかってしまうことが予想されます。
„
ベトナム政府は国のエネルギー目標に合うように細かく検討し投資を促す必要がありま
す。
135
「中国の統合ガス化複合サイクルおよび共同生産システムの発展および展望」
中国科学院 工程熱物理研究所 副所長 Yunhan Xiao(中国)
„ 本プレゼンの内容です。
„
z
中国のエネルギーおよび環境問題の背景
z
課題
z
2020 年までの中国のエネルギー技術のビジョン
z
ケーススタディ:IGCC や共同生産システムにおける展開とビジョン – 研究開発の歴史
z
共同研究に関心のある分野
背景
z
中国の社会経済の開発目標
z
•
2020 年までに 2000 年と比べ GDP レベルを 4 倍に上げます。
•
2050 年までに 1 人当りの GDP を 1 万ドルに到達させます。
2020 年までに中国の年間エネルギー需要は、25 億から 33 億 tce の範囲で約 29 億 tce(石
炭換算トン)ぐらいになる予定です。
•
これらの数字は他の団体では以下のように見られています。
2004 年の IEA の予測では 27 億 tce という数字が提出されています。
DOE/EIA も同様の数字を予測しています。
z
2020 年までに、そのために以下の量のエネルギーが必要になると見込んでいます。
•
30 億 tce のエネルギーが中国では必要になります。
つまり、21 億から 29 億トンの 石炭を産出する必要があります。
石油は 4.5 億から 6.1 億トン
天然ガスは 1,400 億から 1,600 億 m3
そして発電容量は 860 から 950GW まで伸びる必要があります。
z
2004 年の一次エネルギー消費を比較したものです。(スライド 4 参照)
•
世界のほとんどの国で一次エネルギー源として石油と天然ガスが使用されています。
•
しかし、中国では石炭が主要な燃料として使用されていることが分かります。
これは一次エネルギーの効率的な使用およびクリーンな使用にはそれ相当の費用が
かかると言うことを意味してします。
2025 年で石炭の燃料利用が 58.2%を占めており、2050 年でさえ石炭は 50%強を占め
ています。
„
課題
z
エネルギー供給の課題には石油、電力、石炭が挙げられます。
•
中国の 1 人当りのエネルギー利用は約 1 tce(石油換算)です。
世界平均は 2.1tce です。
•
中国の主要エネルギー資源の 1 人当りの埋蔵量は世界平均を大きく下回っています。
これは石油、天然ガス、石炭も同じで世界平均のちょうど半分です。
z
石油価格は近年戦争により左右されています。
•
z
戦争中および戦争後はこの石油価格は高騰すると見込んでいます。
エネルギー安全保障について
136
•
中国の石油の年間需要は 2020 年までに 5 億トンまで伸びますが、国内生産量は約 2
億トンしか供給能力を持っていません。
これは商用での代替燃料が見出せなければ、中国の石油供給の 60%以上を輸入に
頼らなければならないことを意味しています。
z
環境問題
•
今朝、中国の環境問題が取り上げられましたが、そこには 2 つの問題があります。
二酸化炭素(CO2)、酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)の粒子物質の問題
¾
これは石炭を利用することに起因しています。
¾
現在では新しく建設する発電所には最新の高度技術を採用しています。
それらの排出に対して環境許容力に限界があること
¾
我々が通常のビジネスを続けると、酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx )の
環境許容力を超えてしまうでしょう。
•
また、水力発電所の建設により炭塵の浮遊や重金属の格納、生態学的環境への影響
に関することが社会的関心事になっています。
z
„
中国の将来のエネルギーシステムが直面する課題に二酸化炭素の問題があります。
これらの背景や課題を考慮して、中国のエネルギー開発向けのソリューションに貢献するため
に、中国はエネルギー技術の研究開発を実施しています。
„
エネルギー技術のビジョン
z
最初に注目することは省エネルギーや高効率化技術です。
•
工業部門、輸送分門、建設部門を含めた省エネや高効率化です。
2020 年までに中国は以下のことを実施します。
¾
高度なエネルギーの節約対策、処理方法、技術を駆使して 1 億 5,000 万か
ら 2 億 tce を節約します。
¾
先進的な技術を利用して 7,000 万 tce の石油を節約します。
¾
建設部門では、新たな建材や省エネルギー技術の使用やイノベーションに
より 1 億 6,000 万 tce の石油を節約します。
z
2 番目はクリーンコール技術(環境に悪影響を及ぼさない石炭利用技術)です。
•
高度で安全な石炭探査および採鉱技術を開発しており、石炭採掘企業は躍進してい
ます。
•
短中期的には、スーパークリティカル(超臨界)およびウルトラスーパークリティカル技
術、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)、炭塵などの効率の高い発電技術を開発
します。
•
中長期的には、石炭のガス化をベースにしたコプロダクション技術開発が中国では戦
略的な意味で選択されます。
z
3 番目は以下のような石油安全保障に関する技術が対象になります。
•
中国は石油や天然ガスの探鉱技術に関する理論や技術にイノベーションを与えてい
きます。
•
石油や天然ガスの採収技術に関する研究開発が進められています。
•
代替燃料や石炭液化技術、水素や燃料電池技術の開発も推し進めます。
137
•
戦略的予備、生産容量のバックアップ、代替エネルギー、警告容量などを含む石油供
給のセーフガードシステムを確立します。
z
4 番目は高度な原子力エネルギー技術です。
•
中国は 2020 年までに 40GW の能力を持つ原子力発電所を建設する予定です。
•
短中期的には、中国は第三世代型の加圧水炉技術を開発して主力原子炉として採用
します。
•
安全性、経済性および核廃棄物の低減などの改善するような第四世代型の原子炉を
研究開発します。
z
また、以下のような計画もあります。
•
大規模水力発電技術
•
高度で信頼性の高い送電および配電システム
中国は、西から東へ 100GW の電力を送電する必要性から、超伝導技術を含め長距
離大容量電力の送電技術を研究開発しています。
z
再生可能エネルギー技術に関して、中国は特に一次エネルギーの小型コンポーネントの
製作からこれらの種類の技術の追求を行っています。
•
再生可能エネルギーは中国が持続可能なエネルギーシステムを向上させる唯一の方
法です。
•
短期的には中国は風力、バイオマス、PV、太陽熱発電および太陽エネルギーの統合
技術を優先して開発します。
•
中国は約 1000GW の風力資源を持っており、2020 年までに風力エネルギー容量は
20GW に到達し、総電力容量の 1%までまかないます。
•
また中国は 4.5 億 tce のバイオマスエネルギー資源を持っています。中国の目標はバ
イオマス電力、バイオマスの液化、バイオ燃料から 5,000 万 tce を生産することです。
•
2008 年までにメガワットクラスの風力発電を商用化します。2MW の風力発電技術が開
発されており、2010 年までに海岸近くに風力の試験発電所を完成させます。
z
中国にはまた、巨大太陽エネルギー資源もあります
•
太陽光発電にゴビ砂漠地帯を利用することが可能です。2010 年までにメガワットクラス
の発電所を 3 箇所建設する予定です。
•
2010 年までにメガワットクラスのタワー型の太陽熱発電(実証プラント)を建設して、
2020 年以内に 100MW の実証プラントを建設する予定です。
z
水素および燃料電池技術に関して
•
中国では水素はクリーンエネルギーキャリアとして認識されており、中国の石油への依
存の低減や二酸化炭素の排出の削減を行うための基本的な措置だと考えています。
•
この地域には以下のようなことを適用します。
水素製造および貯蔵技術
SOFC、MCFC、PMFC、DMFC の変換技術
•
„
中国は燃料電池技術が 2020 年に輸送部門で商用化されることを期待しています。
中国が工業利用にエネルギー資源をどのように利用するかを示すケーススタディとして 1 つの
技術を紹介します。
138
„
この例はクリーンコール技術(CCT)で、以下に説明します。
z
中長期的には石炭のガス化をベースにしたコプロダクション技術は中国の戦略的選択の 1
つです。
•
この種の技術では、燃料や化学製品の生産システムを複合サイクル発電で使用され
る液体燃料および水素などの化学製品や燃料と統合します。
•
石炭のガス化が最初に優先されます。
•
これは石炭の単一利用から包括的な利用に変更することで、高効率化、費用効果の
改善、単一産業の排出コントロールを阻害している問題に対して何らかの打開策にな
ることでしょう。
•
これは現在中国が直面している石炭、電力、石油の問題そして輸送部門の問題の解
決策になることは間違いないでしょう。
z
リアクタからの排ガスをガスタービンに送り再利用するとコストの削減や効率の向上につな
がります。
z
1979 年に中国は IGCC に着手しましたが、議論の段階で止まっています。
z
10 年後の 1996 年から、中国は IGCC 電力発電プロジェクトの開発に着手しました。
•
正式に開始したのが 1999 年ですが、電力コストが高価なためまだ建設に至っていま
せん。
z
IET は 1998 年から液体燃料および電力でコプロダクションを推し進めています。
—
z
最初の実証プラントは 2006 年 4 月から商用運転しています。
中国には 973 プログラムと呼ばれる重要な基幹プログラムを持っており、またハイテク研究
開発には 863 プログラムがあり、石炭のガス化をベースにしたコプロダクションに重点的に
取り組んでいます。
z
いくつかの進歩がこの 5 年間で見られます。
•
ガス化
中国では独自のガス化石炭スラリー技術を開発してきました。
¾
規模は 1 日当たり 1,150 トンです。
¾
累積運転時間は 5,130 時間を超えています。
乾燥粉炭石炭加圧ガス化のパイロットテストは既に完了しています。
•
合成作用による石炭から液化への 2 つのパイロットテストも完了しています。
1 つは 1 年当り約 750 トンです。
もう 1 つは 1 年当り 5,000 トンです。
•
ガスタービン
110MW ガスタービンが既に開発されています。
また 100kW のマイクロタービンもエネルギー供給用に開発済みです。
また、国際協力を通じて、F クラスのハイウェイガスタービンが以下の都市で建設され
ています。
¾
z
ドンファン(三菱)、ヘルビン(GE)、上海(シーメンス)、南京(GE)
このシステム(スライド 29 を参照)は 60MW の電力および年間 240,000 トンのメタノールを
生産する最初の商用システムです。
139
•
大きな進歩は 2 種類のシステムを統合しているところにあります。
中国の現在の市場では、このモデルは非常に経済的で競争力を持っています。
„
z
我々は中国のコプロダクションシステムの課題とオプションについて検討しました。
z
私はこの技術の開発のロードマップを担当しています。
z
2010 年、2015 年、2020 年に向けての目標は以下のとおりです。
•
2020 年は実際の容量を 5GW に到達させること
•
F-T 液体を年間 4 千万トンの石油容量にすること
•
2020 年までに水素と電力のコプロダクトを実証すること
アジア諸国の共同研究課題について提案します。
z
エネルギー技術政策と戦略の立案
z
エネルギー技術の先見性、イノベーションおよび導入
z
IGCC およびコプロダクト技術の開発
z
農村地域のエネルギー問題
z
再生可能エネルギー技術の開発
z
自動車用の代替燃料の開発
z
水素、CCS の研究
「インドネシアの持続可能開発に対するエネルギー政策」
アル・アザール・インドネシア大学 学長 Zuhal(インドネシア)
„ 背景
♦ 世界のこれからの経済成長は、エネルギーと電力の利用をどのように取り入れていくかによ
り今後大きな影響を受けます。
♦ 埋蔵量が枯渇しつつあり、石油の価格が高騰していることで、石油がエネルギーミックスに
おいて果たす役割にも大きな影響を及ぼします。
♦ 2020 年まで、エネルギーミックスはまだ化石燃料に偏っています。よって環境問題は今後も
大きな問題として直面していかなければならないでしょう。
•
谷口先生が今朝言われた事と関連しますが、京都議定書(1997 年)に従って、排
出量を 1990 年レベルの 5%減にしなければなりません。
„ 今後の一次エネルギー需要の構造
♦ 従来のビジネスが継続されると、2020 年までに燃料の 90%が化石燃料で占めるようになま
す。
♦ インドネシアでは、まだ化石燃料に依存しています。特に石油です。
•
インドネシアは、世界の化石燃料(石油、ガス、石炭)の依存率と比べると高い数
字になっているのが現状です。世界が 90%ならばインドネシアは 97%になるってい
るはずです。
♦ 何か方策を立てない限り、インドネシアや世界は同じパターンが継続していくことになりま
す。
•
これは科学技術が責任を負う必要があります。また科学技術がこの戦略的な役割
を果たすことができるのです。
140
„ 話を進める前に申し上げたいのは、私は以前政府の役人(電力エネルギー開発の事務局長な
らびに科学技術の大臣)でした。近年また大学にもどり研究をしています。いまは役人というより
研究者の立場です。今回は国の公式な見解をお話ししていくわけではありません。インドネシア
政府を代表して話すのではないということを申し上げておきたいと思います。
„ インドネシアのエネルギーのジレンマ
♦ インドネシアは幸運にも石油、天然ガス、石炭などエネルギー資源を豊富に有しています。
♦ これらのエネルギー資源の一部を外貨獲得(輸出用)のために使用する必要があります。
•
インドネシアは LNG の産出国としては最大ですが、大半は日本向けに輸出され
ています。
•
石炭の輸出国としても第 2 位です。
•
石油の埋蔵量には限りがあります。数年前からインドネシアは石油の純輸入国と
なっています。
♦ 国内需要に対して何を使用し、輸出用に何を使用するかというジレンマに直面しています。
„
このジレンマを乗り越えるために、インドネシア政府はエネルギー政策を打ち立て、国内ニーズ
に対応した信頼性のある安全なエネルギーを確保しています。
„
インドネシア政府の目標
♦ エネルギーの国内ニーズを満たすこと
♦ 質の高いサービスの提供
♦ エネルギー供給の長期的な確保
♦ 輸出用のエネルギーの確保
♦ 環境の保護と保存
„
インドネシア政府のエネルギー政策の 4 本柱
♦ エネルギーの多様化
•
これが目標達成の重要な鍵です。
♦ 省エネルギー(エネルギーの節約)
•
効率的なエネルギーの利用
♦ エネルギー価格政策
•
インドネシアのエネルギーは社会的な機能を持っており、エネルギー価格政策は
エネルギーミックスのバランスを取るためにとても重要です。
♦ 環境問題
„
本プレゼンでは電力部門および輸送部門でのエネルギーの多様化に焦点を当てたいと思いま
す。そしてそれらが環境問題にどのように影響するかについても触れます。
„
輸送部門のエネルギーの多様化
♦ 輸送部門はとても重要です。
•
2010 年以降、輸送部門のエネルギー需要が占める割合が増加しています。
•
これは 2020 年から深刻な問題になってくるでしょう。
♦ 運輸技術は石油ベースの技術を利用しています。
♦ 輸送部門で何も措置が講じられなければ、石油依存は将来も高い状態が続いてしまいま
す。
141
♦ 従って、以下のような努力を行わなければなりません。
•
自動車で CNG や LPG の使用
•
鉄道網での電化
•
再生可能エネルギーの利用、例えば、キャスターオイル(政府により現在押し勧
めているプログラム)
♦ 農業とエネルギー作物との競合。将来的には土地利用も重要になってきます。
„
電力部門のエネルギーの多様化
♦ 過去 15 年間を見ると、インドネシアは以下のことにより 1980 年の 77%から 1998 年の 21%ま
で電力部門での石油利用の削減を実現しました。
•
石炭発電所の建設
•
天然ガス発電所の建設(コンバインドサイクル技術を含む)
•
地熱発電所の建設
•
ガソリンを基本燃料として使用しないという取り組みがなされました。
♦ 1997 年の経済危機以降、ジャワ島へガスを運ぶためのインフラ(パイプライン)がないため
石油利用率が再度上がりました。
♦ 現在石油の利用率は 30%です。インドネシア政府は、これらの発電所が一貫して体系的に
実施できれば 2010 年には 5%まで石油利用を削減できるという自信があります。
♦ しかし、それで環境問題を打開することはできません。というのは石油の代わりに石炭を主
に使用していくことになるからです。
♦ インドネシアは 11,000 もの島々で構成された海洋国です。
•
ジャワ島は人口の 75%を占めており、インドネシアの全エネルギーの 80%を消費し
ています。
•
しかし、エネルギー資源はジャワ島以外に散在しています。
à
水力発電は電力需要のあるジャワ島から遠く離れた場所にあります。
à
天然ガスは北スマトラ島やカリマンタン島にあり、ジャワから遠く離れていま
す。
♦ 私が電力エネルギー開発の事務局長を務めていたころ、ASEAN Grid プログラムがジャワ島
から天然ガスを運ぶために有効でした(今でも続いているかどうか定かではありません)。
♦ ジャワ島の環境問題を打開するために、1980 年代初頭からインドネシアはこの地域に原子
力発電所を建設する計画がありました。
•
国際原子力機関と実現可能性を検討した結果、この地域が適切な場所であると
結論付けられました。しかしこの計画の社会的な受入れの問題などにより 2016 年
までずれ込むことになるでしょう。
♦ 電力生産はまだ石炭に依存しています。その次にガスに依存しています。再生可能エネル
ギーや新しいタイプのエネルギーはまだ些細な部分を占めているに過ぎないというのが現
状です。
„
インドネシアのエネルギー問題を考えてみると、ジャワ島に汚染を引き起こすエネルギー源が大
量にあります。
♦ これを念頭において、インドネシアの将来のエネルギー開発に 2 つのアプローチを考慮す
142
べきだと考えています。1 つはジャワ、もう 1 つはジャワ以外というように考えるのです。エネ
ルギー供給と需要の問題や環境問題を同時に対処していきます。
♦ ジャワ島での将来のガス排出をシミュレートした結果、何も対策を講じなければ、2021 年ま
でに深刻な問題を発生させます。
•
科学技術はインドネシアが京都議定書に準拠するために重要な役割を担ってい
ます。そして諸国間の協力も必要です。
„
1 つはジャワ-バリ島、もう 1 つはそれ以外の島々です。これら 2 つの異なったアプローチが必
要になります。
♦ ジャワ-バリ島:新しいアプローチ
•
低硫黄炭を供給して利用していく。
•
熱効率の高いプロセスを適用していく。
•
汚染対策が講じられている装置の使用
•
電気集塵装置の使用
•
流動床ボイラー技術およびその他のハイテクボイラーの使用
•
インドネシアは地震の多い国で地震の問題がありますが、原子力の選択というア
プローチもあり得ます。
•
スマトラ島では質の低い石炭を燃焼させて、AC/DC ケーブルで電力をジャワ-
バリ島に送電しています。
♦ ジャワ島以外
•
ジャワ島以外の電力需要は低い
•
農村の電化は重要
•
新しいエネルギーおよび再生可能エネルギー源の使用を増やす必要がありま
す。
à
それぞれの島にはそれぞれの資源があります。新しい再生可能エネルギー
をジャワ島以外に利用していくことは新しい雇用機会を生み出すことができ
ます。
„
研究開発活動(特に日本の NEDO との協力関係において)
♦ 海洋波エネルギー
♦ バイオディーゼルエネルギー
♦ ハイブリッド
•
ジャワ島以外の遠隔地域ではエネルギーは照明やテレビ観賞に主に使用されま
す。これらのケースでは、昼間は太陽エネルギー、夜間は従来の電力発電を利
用します。
♦ バイオマス
♦ エネルギーガーデン
♦ 水素(しかし、これは遠い未来の話で、まだまだ価格が高い)
„
再生可能エネルギーの問題として、電力価格が従来のエネルギーと比較してまだまだ高いとい
うことです。
♦ 再生可能エネルギー利用していくには、長期にわたっての研究開発と政策が必要です。
143
•
これらの方針が政情や経済要因で頓挫する可能性もあります。
•
よって協力関係が必要であると考えます。特に工業部門の参画が必要です。エ
ネルギーを工業製品と見なすとインドネシアの政策の目標にはなかなか到達しな
いでしょう。
•
発展途上国へ補助金を提供するという国連の役割がありますが、低コストのハイ
テクを提供することも 1 つの考え方で重要です。途上国の手の届くような費用でな
ければ、より良い研究開発ができません。
„
結論
♦ インドネシアのエネルギー部門は、エネルギー源として再生不能な化石燃料や天然ガスに
依存するところが大きいのが現状です。
♦ これら再生不能な燃料は有限で徐々に枯渇しており、さらに温室効果ガスの排出の原因に
もなっています。
♦ インドネシア政府は様々な政策や取り組みを実施しており、持続可能なエネルギーシステ
ムにおいて再生可能エネルギーが果たす役割の重要性が認識されるようになってきまし
た。
♦ インドネシアの群島に関して、エネルギーソリューションは地理的位置や天然資源がどうい
う状況にあるかにより異なっています。
「アジア諸国の協力による環境およびエネルギー問題のソリューション」
(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー 井上 孝太郎
私達のセンター、Research and Development Strategy の目標は、「社会のビジョンを達成する」、
「社会のニーズを充足する」、「そのための研究開発の提案」を実行していくことです。具体的には国
で推進すべき研究開発、戦略を作り上げてそれを政府や社会の皆様に伝えていくことを使命として
おります。
研究者の立場から今世紀最大の課題を取り上げるとすれば、「持続可能な発展」と「持続可能な
社会の構築」の 2 つになると考えます。そのための科学技術が非常に重要であると認識しています。
1 年半ほど前に、国内の有識者に集まってもらい、戦略に関するワークショップを開催しました。そ
のワークショップの中で 2050 年ごろの持続可能な社会のビジョンを作り上げ、そこに至るシナリオ、そ
のシナリオを実現するための研究開発課題を列挙する作業を行いました。
そこには大きな仮定や制約条件があります。その 1 つは人口の問題です。2050 年時点で現在の
1.4 倍の 90 億人程度に達する見込みで、これをベースにして、GDP は世界全体では現在の 4.7 倍、
1 人平均 3.3 倍増加すると予測しています。
さらに様々な制約条件が考えられます。議論をするときに非常に大きな枠組みとして必要な条件、
これは制約条件の 1 つになりますが、二酸化炭素の発生量です。地球温暖化の抑制という観点から
これに制限を加える必要があります。2050 年時点で現在の 1.3 倍以内、1 人当たりで現在より 10%く
らい低い値にしなければならないということです。
このような条件の中でエネルギー資源の問題、水や食料の問題、あるいは生態系の保全の問題、
さらに視点を変えて特にアジア諸国との共同研究をいかにすべきか、共同作業をいかに進めるべき
かを議論したいと考えています。
次に二酸化炭素の問題です。各国には様々な主張がありますが、私達は、今世紀の末 2100 年に
144
気温の上昇を 2 度以内に抑えるという IPCC の B1 シナリオをベースに検討しました。
そのためにこのような 1 つの排出量の推移を考えたわけです。ここが 2050 年時点です。(スライド 5
を参照)
二酸化炭素の排出は非常にやっかいな問題で、これは経済発展と非常に密接な関係があります。
横軸に 1 人当たりの GDP(経済の 1 つの指標)、縦軸に 1 人当たりの二酸化炭素の排出量を示して
います。これを国ごとに作成してみると、あきらかに右上がりの傾向があります。
現在の世界平均がここですが、これを 2050 年までに GDP を増加させるわけですからここに持って
いくわけです。しかも二酸化炭素の排出量は現在よりも 10%下げなければなりません。赤で示したとこ
ろがアジアの国々です。現在猛烈な勢いで右上がりの傾向を示しています。
この辺の国々は下げる必要がありますし、この辺の国はできるだけ二酸化炭素の排出量を増やさ
ずに豊かになっていくというシナリオを取る必要があります。これは石油価格の高騰などの資源的な
問題も関わってきますが、環境問題から非常に大きな制約になってくるということです。
石油価格の高騰に代表されるように、エネルギー資源の問題は今非常に深刻化しています。それ
と併せて環境問題を考えると、エネルギーシステムとしては以下のようにしていかざるを得ないと考え
ます。
1 つはエネルギーの高度利用、すなわち需要、供給双方で効率よく利用していかなければならな
いということです。省エネ対策を実行する、効率を上げると言うことです。
もう 1 つは、原子力あるいは再生可能エネルギーと呼ばれる環境に負荷の少ないエネルギー源の
開発および実用化を達成するということです。私達は再生可能エネルギーに注目しています。再生
可能エネルギーの中でバイオマスに大きなポテンシャルがあると考えています。
これは茅先生のところの RITE で 2000 年に作成されたものです。どれくらいのバイオマスのポテン
シャルがあるかということです(スライド 7 を参照)。各地域別にそのポテンシャルが示されていますが、
世界全体から見ると現在の一次エネルギーの約 70%位のエネルギー量を代替できる可能性がありま
す。年間の生育量の 10%程度が使えれば、現在の一次エネルギーの 70%くらいに相当するエネルギ
ーがまかなえるのではないかといことです。2050 年時点で見てもこれは、必要な一次エネルギーの
50%位のポテンシャルがあるということになります。ただし、現在のバイオマスは先ほど説明がありまし
たが、ほとんど使用されていないのが現状で、使用しづらいものであることとも確かです。現在のバイ
オマスの利用率が向上しない理由はこれらが原因です。バイオマスは効率が低い使い方しかできて
いないので、これを高める必要があります。
効率が低い、使いにくい、コストが高い、利用するとなると非常にコスト高になるということで普及が
進まないのが現状です。これは利用率を示していますが、上記のような理由から利用率が非常に低
いということです。この効率を上げる、あるいはコストなどの改善をして、利用率を得る必要がありま
す。
もう 1 つ、資源量を増やすような工夫、土地の有効利用、育種等もあるかもしれませんが、そのよう
な方策により資源量を増やしていかなければなりません。これが非常に重要な研究開発課題になる
かと思います。それでこういうことも含めて、アジアの共同研究は今一例を示しましたが、非常に重要
だと考えています。
地球規模の課題の解決のため、アジア各国の共通の利益、共通の課題の解決をしていくため、ア
ジア各国が安全で安定した繁栄を継続するためにアジア各国の共同研究作業がいるのではないか
145
と考えています。
私達はこういうことを提案して、日本が二国間の共同研究、あるいは多国間の共同研究の枠組み
を増やしていくように働きかけているわけです。それと同時に新しい枠組み、エネルギー環境を中心
とした共同研究機構が考えられないかと検討しています。
従来の共同研究は各研究で個別になりがちで非常に効率が悪く、情報が蓄積されないというのが
現状です。中核となる機能を持った 1 つの機構が必要ではないかと考えています。
ここでやるものは主に社会モデル、発展シナリオの研究を一緒にやったらどうか。様々な安全基準、
環境基準、工業規格というものを共同で策定したらどうか。私達はこれをアジアンスタンダードと呼ん
でおりますが、こういうスタンダードを策定してグローバルスタンダードに育てていければと考えていま
す。
情報/観測網の共有、あるいは共同研究の設備を共同で使用できないか、さらに人材の育成/
教育などの機能を持った組織を設立できないか提案書をまとめています。
今日、4 カ国の方々が現状と研究開発の状況、あるいは将来の展望について貴重なお話がありま
したが、これらエネルギー、環境についての課題、共通の課題、あるいは解決方法について議論し
ていきたいと考えています。もう 1 つそれをどのように解決していくのか議論できれば非常に有意義
だと思います。今回で終わりではなく、昨年から始めて今年が 2 年目です。来年もう 1 回ありますがそ
の間に少しずつでもこのようなことが積み上がっていけばよいと思います。
vii) 第 3 分科会「自然災害対策」
「趣旨説明」 東京電機大学 特別客員教授 片山 恒雄
最初にこのセッションで何を行い、何を目指すのか簡単に述べたいと思います。このアジア科学技
術フォーラムは今回で 2 回目となります。第 1 回は、昨年、同時期に東京で開催されました。そのとき
もこの自然災害に関するセッションの議長として、その目的を簡単に述べました。
ご承知の通り、アジアは世界でも自然災害に対して非常に脆弱な地域です。災害には様々の種
類があります。地震、台風、火山噴火、水害、地すべりなどです。これらの災害が、昨年の第 1 回フォ
ーラム以降も多くの国で発生し、繰り返されています。インドネシア、パキスタン、フィリピン、中国で
災害が起き、多くの人命と財産を奪っています。2004 年 12 月の破壊的津波に対して多くの国がイン
ドネシアに援助の手を差し伸べましたが、その後も津波や地震災害が繰り返し発生しています。
自然災害の最近の傾向を観察しますと、時と共に経済的損失が大きくなっています。先進国では
人的被害の減少に前進がみられますが、経済的損失に関しての進展はありません。開発途上国で
は被害数および経済的損失の両方において何の進展もありません。要約で示しましたが技術は進
歩していますが、貧困に陥る機会は変わっていません。さらに、グローバル化の進行により、より小さ
な国で進歩がなく、より多くの災害にあっているという状況があります。
昨年、強調しましたが、これから非常に重要になってくるのはアジア固有の問題およびアジアでの
連携に焦点を合わせ、さらに、アジアで最も工業化が進んだ国として日本が災害軽減分野において
その責任を厳しく問い直すことです。他の先進国に比べて、日本は、人、もの、制度が外部から入っ
てくることに対しては強い抵抗があることで知られています。しかし、日本は、開放性を通じてのみ、
自然災害の軽減および持続的発展においてアジアの人々と素晴らしい連携を持てることを、私は今
年も再度強調したいと思います。
146
しかし、昨年のセッションでは、途上国の自然災害に関するより一般的な議論がなされました。こ
れは、昨年が 3 年計画の 1 年目だったためです。前回は 5 カ国から、私も含め 6 人のスピーカーが
参加しました。
この 2 年目のセッションにおいては、スライドに示してありますように、災害、開発、科学技術さらに
パートナーシップが、互いに緊密な関係を持つことを理解しておく必要があります。それらのすべて
において共通なことがあります。つまり、災害は開発計画に緊密に関係し、良い開発は災害を軽減し、
当然ですが悪い開発は災害を引き起こします。そして、適切な知識と良いデータが、まさに効果的な
災害低減の基礎となります。パートナーシップと多角的な活動が重要です。個々に活動するよりも、
よほど効果があります。ですので、我々はその方向に進んで行きたいと思います。
今回は、3 カ年計画の 2 年目です。昨年 5 カ国、バングラディッシュ、インド、インドネシア、米国、
日本から 6 人の人々をお招きしました。今年は、残念ながらフィリピンからの参加がなくなりましたので、
5 カ国、中国、インドネシア、モンゴル、スリランカそして日本からの代表者で昨年同様 6 人の方々で
す。第 1 回、第 2 回のフォーラムを合わせ 8 カ国から 12 人のスピーカーが参加しています。これによ
って、自然災害の多いアジアの国々について適切な範囲を網羅する発表がなされると思います。
2007 年に計画していることですが、科学技術はどのように自然災害の軽減に寄与できるかを議論
したいと思います。また提言をまとめようと思います。提言が採択されれば、日本政府に対し必要な
予算計上を求めます。
災害、開発、科学技術、およびパートナーシップの関係について簡単にまとめたいと思います。
(スライドの)青字の部分が重要です。適切な知識と良いデータ、これは我々が追求していく科学技
術とパートナーシップを意味しています。その目的のために、このようなチャレンジがあります。アジア
における持続可能な開発を達成するため、科学技術に関して多くの課題があります。そして我々の
最終目的は、真のパートナーシップをアジアで構築していくことだと思います。ですので、来年度は
科学技術を通じて、どのようにアジアにおける真のパートナーシップを構築していくかを検討したいと
思います。
“Disaster Reduction in China: Practices and Prospects”
中国国家災害軽減センター民生部 救済局 救済処 所長 高 玉成(中国)
今日は中国における災害軽減の施策と将来の展望について紹介いたします。
中国は、非常に多くの自然災害を受けている国の一つです。多種多様な災害が、広範囲にわた
って起きます。洪水、旱魃、地震による被害が多く、損失の 80%~90%に相当します。また国土の 3
分の 2 は洪水の脅威にさらされています。そして都市部の半分以上は地震の多い地帯にあります。
90 年代以降、地球温暖化の影響を中国もまぎれもなく受けています。その分、今まで以上に自然災
害の発生率が高まっています。
そこで中国政府として、自然災害をいかに軽減していけるか、また国家的な経済、社会開発にこ
の軽減策をどのように組み入れられるかといった指針を打ち出しています。中国は現在急速な経済
発展をしていますが、経済のみならず環境負荷などを削減して、自然災害の発生を抑えようとしてい
ます。自然災害は誰でも直面する問題であり、国際社会との連携の必要性を感じています。
次に中国の災害に対する施策について簡単に紹介いたします。
まず第 1 は、国家的な開発計画、社会政策において災害軽減のための施策を盛り込むという戦略
147
です。1998 年中国政府は、1998 年から 2010 年までの指針をまとめました。この中には自然災害の
削減に関する戦略的目標が盛り込まれています。したがって各政府機関は、災害軽減の目標を盛り
込むことが義務付けられています。また、同時に社会的、経済的発展と環境とのバランスを保つこと
も求められています。
さらに、総合的な緊急管理能力を強化するために 25 の特別、そして 80 の省庁レベル対応計画が
示されました。さらに 30 以上の法令も公布されました。そしてこの数年間で、災害軽減のための法律
的な枠組みができました。
2 点目ですが、我々は緊急救済ネットワークを改善するという目標を掲げています。災害被害の削
減を行うために、政府は国家的な災害削減委員会を立ち上げました。各省庁がそれぞれ災害管理
を担うことになりました。さらに災害に迅速に対応するために、法の制定も行われました。その内容を
紹介しますと、まず「監視システムの強化」です。ここでは様々な専門家の力を借り、コンサルティング、
分析、予測を行います。24 時間中国全土をこの災害監視チームがモニタリングをしています。2 つめ
は互いの政府機関が協力しあうことです。そして 3 つ目は、災害が起きたあとは救援物資の迅速な
補給するための仕組みを設けました。現在、すでに 10 の都市部でこういったセンターが設けられて
います。4 点目ですが、中国では軍も救済活動で大きく寄与しています。5 点目ですが、救済資金の
割り当てが迅速に行われるように中国政府が指針を定めました。災害が起きた場合、3 日以内に資
金が割り当てられるように、また、救援物資が 24 時間以内に届くようにしました。6 点目は募金、寄付
金の仕組みを導入したことです。
3 つ目の国家としての戦略ですが、そもそも災害を防ぐためのインフラを整えつつあります。政府
は、洪水、旱魃、植物病害、害虫、地震、地質的災害、嵐などに見舞われやすい地域でインフラの
強化を行っています。ここ数年間、こういった大きな工事が進んでいます。その典型的な例が三峡ダ
ムの建設です。このような建設は、国の社会的、経済的利益を促進しています。
4 つ目の戦略は、科学技術を災害軽減に応用することです。先ほど述べた包括的な災害監視活
動システムを導入し、また科学技術を応用して気候、海洋の変動、地震、水災害、山火事などの監
視活動を実施しています。いま、小規模の衛星監視システムの開発を行っています。このシステムが
完成したときには、より正確な予測を行うことができ、また、災害警報、評価もより適切に行われます。
また、科学技術の導入によって、警戒システム、緊急管理、対応策の決定と指令、統制も大きく改善
されるものと期待しています。このように科学技術の浸透、応用に力を注いでいます。
5 つ目は、国民の災害に対する意識を高めていくことです。教育、コミュニティーの中で災害に関
する知識を普及させなければなりません。そのために、例えばリスク管理をどのようにすればよいの
かを国民に呼びかける政府の専任スタッフを育成しています。また、自助救済、相互救済、災害発
生の後の地域横断的な援助システムを通して災害軽減への参加を進めています。被災者が多く出
た地域では、チャリティ活動も大きな役割を担うものと考えています。これに関して、やはり体制作り
が重要だと政府は考えています。社会が一丸となって災害対策に取り組める体制作りに取り組んで
います。
最後は国際協力です。災害は国境を越えて発生します。中国政府は情報交換、国際協力の重要
性をここ数年間痛感しています。そこで各国との、さらに国際組織、地域組織、NGO といった各種機
関との対話、協力を深めています。数年間、このような施策を進めてきましたが、ここにきてある程度
の関係作りに成功したのではないかと自負しています。中国は確かに経済的、社会的発展を誇って
148
いますが、同時に防災に関する非常に大きな課題にも直面しています。今後数年間かけて、我々
は ”Hyogo Framework for Action 2005-2015” の優先課題に積極的に取り組むことを確約します。
国をあげて包括的な防災対策を講じ、究極的には非常に安全で協調的な社会作りに寄与していき
たいと考えています。
今後についてですが、中国政府として以下の事項に継続的に取り組んで行きます。まず包括的な
災害リスク管理計画です。これは第 11 次国家開発 5 ヵ年計画(11th Five Year National Plan for
Development)に盛り込まれています。これは中央政府のみならず、各自治政府においても計画を作
成することになります。さらに全国的な災害低減に関する能力の調査も行い、現状を把握することに
よって、今現在の防災対策がどうなっているか、また地域間のバラツキがないかを確認をします。そし
て、現状を踏まえた上で各自治政府、国が必要な経済、社会開発政策および指針を打ち出すことが
できます。
2 つ目の約束ですが、包括的な災害軽減のためのさらなる能力強化です。これには、科学、技術
の応用、導入が不可欠だと思います。早期の警告システム、予報システムの強化、小型衛星コンス
テレーションシステムの構築などに務めていきます。また、災害対策プロジェクトを推進し、特に、災
害が多く発生する地域の能力を強化します。また、緊急対応システムの建設にも努めていきます。こ
こでも包括的な調和、情報共有、技術支援が必要です。結果として全体的な災害対応および管理
能力を高めていきます。
3つめにはコミュニティレベルにおける災害削減です。ここでは教育が大切だと思っています。啓
蒙活動によって、国民の意識が高まっていきます。災害対策の専門スタッフを育成する場も提供して
いくことになります。ボランティアも含め、ネットワーク作りも必要と思います。
4 つ目ですが、国際社会での中国の貢献度を高めていきます。他国、国際機関等との連携を進め、
現実的、実現可能な活動に取り組みます。また、アジア地域での情報共有のためのプラットフォーム
作りにも貢献します。
アジアは広大な地域、非常に多くの人口、複雑な気候、地質、地理的な条件を持っています。大
きな災害がおきれば多くの人命が失われます。災害リスク対応能力を高め、災害損失を削減すること
は、すべての政府、人々の共通の願いです。手を取り合い、交流と協力を強化し、効果的な自然災
害軽減そして持続的な経済、社会の発展のために貢献しましょう。
“Zud Natural Disaster, Prevention and Recovery” 民政党 党首 Elbegdorj Tsakhia(モンゴル)
私は科学者であり、また政治家でもあります。パワーポイントのプレゼンを用意してこなかったので
すが、このセッションに来たのは皆様から私が学びたいと思ったからです。皆様が、この分野の専門
家です。
議長からモンゴルの国について話すよう依頼されました。「あなたの国について教えていただけま
すか」と尋ねられた場合、私は 3 の部分に分けて答えます。今年はモンゴル帝国成立から 800 周年
です。地球に存在したもっとも大きな国でした。2 番目は 1920 年から共産党による政権下が 70 年間
続きました。1990 年の初めから政治改革、経済改革を同時に行ってきました。そして、わたし自身モ
ンゴルの民主化のための組織をつくりました。民主化運動が起きたときは様々な混乱がありましたが、
多くのことを達成してきました。今は 2 つの大きな政党があります。
経済改革に関して 17 年前はすべて国有の土地でした。しかし、現在 GDP の 90%以上は民間企
149
業によるものです。今まで 2 度首相を務めましたが、前回 2005 年の政権のとき予算で黒字とすること
ができました。また 10%の経済成長を達成しました。
今日のトピックは自然災害ですので、準備してまいりました。私の話は簡単なことです。かつてチン
ギス・ハーンが言いました「馬の背に乗って世界を征服することは簡単である。大変なのは実際に治
めていくことである」と。これは、今でも当てはまります。私自身も遊牧民の息子です。モンゴルでは
40%以上の人々が、現在も遊牧民です。車、ファーストフード、高速インターネットアクセスといったも
のがない世界は想像が難しいかもしれません。しかし、私たちのモンゴルでは、今でも馬、そして家
畜に依存しています。
モンゴルには固有の自然災害があります。Zud と言います。これに相当する適切な英語がありませ
んので、このまま Zud と使います。20 年に一度くらい起こります。しかし、最近、自然災害の頻度が上
がり、Zud も 5 年から 6 年に一度起こっています。そして悲惨な状況が生じています。
Zud には 3 種類あります。冬の大雪のときを「白い(White)Zud」と呼びます。2 番目は草原が厚い
氷で覆われ、動物が餌を食べられなくなることがあります。3 つ目は、夏の旱魃に続いて長い厳しい
冬に牧草がなくなる「黒い(Black)Zud 」と呼ばれるものでます。そして、これらが組み合わさった Zud
が、1999 年か 2003 年にかけて 3 年間連続して起こりました。モンゴルの人口は 270 万人ですが、そ
れに対し 2,000 万の家畜がいます。そのうち 1,000 万を 3 年間で失ってしまいました。遊牧民は家畜
に依存しています。食糧にもなり、輸送手段にもなります。家畜を失うことは、生きてゆく手段を失うこ
とを意味します。
そしてもう一つの大きな問題は、モンゴルの伝統的なライフスタイルです。通常、モンゴルの家族
は、生活するために広い土地が必要なため、互いに離れた場所に住みます。また、常に移動して生
活するため、通信が困難となります。
今のモンゴルの人々は不運だと思います。過去 5 年間で、モンゴルでは 800 の湖と河川が失われ
ました。自然災害は、自然の問題ではなく、社会問題でもあります。人々がすべてを失い、貧困にな
ると自然に戻り、狩をしようとし、木を切ろうとします。そうすることにより、状況がさらに悪くなります。
また、モンゴルは現在、鉱山のブームを迎えています。投資をすることは良いことです。多くの企
業がモンゴルに来ています。しかし、いろいろなものを掘削してしまうと、自然が破壊され、河川や湖
が失われていきます。それによって気候が変わり、乾いて旱魃になります。
モンゴルの黄砂も有名です。チンギス・ハーンは日本を占領することはできませんでしたが、黄砂
は日本まで来て、問題となっています。友人によく言うのですが、こういう自然災害は国境を知りませ
ん。共通の問題です。今日のセッションのテーマはタイムリーなものだと思います。多国間でパートナ
ーシップを組んで物事にあたることは、一国で行うより効果的です。このような会議を通して、お互い
に助け合うという機運が高まってくるのではないでしょうか。
我々は幸運な世代だと思います。今まで想像もしないような技術があり、また新技術がどんどん登
場してきています。私が子供のころ、父は Zud がきたことを地域コミュニティーや政府などに連絡する
のに馬に乗って二日間かかりました。しかし、現在のモンゴルでは数千キロはなれたところと携帯電
話で通信し、馬上からカシミアの価格を毎朝知ることができます。2 分間で災害があることを知らせる
ことができます。
技術の素晴らしいところです。しかし、技術はお金がかかります。たとえば携帯電話は馬 3 頭から 4
頭に値します。発展途上国のリーダーは、低開発国に目を向ける必要があると思います。お互いに
150
協力しあう必要があります。人々に技術発展の恩恵を受け、技術をどのように使うかを教えるために
は資金が必要です。我々の地域に何らかの基金を設けるべきだと思います。
モンゴルは小さな国です。しかし、災害は大規模に起こります。すべてが災害の犠牲となります。
災害を克服することは我々の挑戦です。このようなフォーラムは、何故自然災害が起きるのかを学べ
る意義ある場だと思います。モンゴルはより多くの努力をし、自然災害について学び、そして他国と
の協力も深めていきたいと考えています。
最後に繰り返しとなりますが、本日、私は皆様に何かを教えるために来たのではなく、皆様に学ぶ
ために来ました。そして皆様と一緒に活動していきたいと思います。
“Sri Lanka after the Indian Ocean Tsunami” 科学技術省 大臣 Tissa Vitarana(スリランカ)
スリランカは、今まで大きな災害に襲われたことはありませんでした。小さな洪水、旱魃、地震、落
雷などは確かにあり、また、時折、台風が上陸することもありました。小さな被害は受けましたが、大き
な災害になることはありませんでした。これは自然災害だと、誰もが納得したものです。スリランカは仏
教国です。したがって国民の多くは、哲学的な姿勢でこれらの災害を受け止めてきました。
それが突如、2004 年 12 月 26 日、大津波が我々の国を襲いました。あれだけ大きな津波がスリラ
ンカを襲ったのは、われわれの歴史で初めてです。このプレゼンテーションでは、どのような被害が
あったのか、その後の状況、科学技術省のイニシアチブ、また、多くの寄付金を頂きましたが、これに
ついてもお話したいと思います。
これがわが国の概要です(スライド:3)。インドの東海岸の突端に位置している島で、人口は 2 千万
です。沿岸部の 3 分の 2 が何らかの津波の被害を受けました。ジャフナからトリンコマリー、旧都であ
るコロンボにかけて津波が襲いました。右の写真は、スリランカの伝統的な漁法の、たとえば木に登
って釣りをする、風景を撮ったものです。
これは津波の発生を示したものです(スライド:4)。インド、ブルネイ、オーストラリア、サンダの海底
プレートが交差する北部スマトラの西海岸沖で地震が発生しました。1,000km にわたって海底が影響
を受け、大津波を引き起こしました。これは津波の衛星写真です(スライド:5)。何が起きたのか分か
ると思います。実は津波が来たとき、人々は何が起きたのだろうと沿岸部に走りました。そこで多くの
人が第 2 の津波に襲われました。
具体的にどういう被害があったのか見ていきたいと思います。スリランカにおいては、過去最大の
自然災害で、人々には津波に対する備えは全くありませんでした。そして沿岸部の約 70%が襲われ
ました。そこには、スリランカの人口の 5 分の 1 が住んでいます。死者の数は 30,959 人、ケガを負っ
た人が 16,665 人、いまだに行方不明の人、今は死亡していると言った方が良いかもしれませんが、
5,240 人です。家を失った人が 80 万人以上、世帯数で 8 万以上です。破壊された家屋が 8 万件以
上、被災キャンプが 798 ヶ所でした。インドネシアも大きな被害を受けたと思いますが、スリランカの人
口は 2,000 万人ですから、それを考慮すれば、どれほど大きな災害だったかが分かると思います。
次に災害後の教訓、科学技術省の挑戦とイニシアチブ、そして寄付金に関して起こったことにつ
いて話したいと思います。女性と子供が多くの被害を受け、実に死者の 3 分の 1 は子供でした。多く
の病院、学校も失われました。またボートなどの財産と生活の糧を失った人たちもたくさんいます。ま
た観光業も宿泊施設を失うなどダメージを受けました。突如として津波が襲い、家族、資産などすべ
てを失いましたので、なにより精神的なトラウマに苦しむ人々が現在もたくさんいます。どこに住むか
151
という問題も数多く起きました。多くの家畜が逃げてしまい、これも大きな問題でした。また、野生動物
も多く沿岸地帯から離れていきました。これも生態系に影響を与えています。どうも動物たちは事前
に津波を察知したようで、山岳地帯へと逃れていきました。動物たちが逃げていくのを見た観光客の
中には後を追い、難を逃れた者もいます。
経済的打撃ですが、25 万人の国民が貧困と背中合わせになっています。特に、漁船や漁具を流
された漁民が大きな打撃を受けました。実は以前、私は神戸の会議に参加する機会があり、その折
に漁船の不足について報告しました。それがきっかけとなり日本を始め多くの国々から船を送ってい
ただくなどの支援を頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。さらに中小企業の多くがダメ
ージを受けました。結果として 52 億ルピーという巨額の復興費用が必要となりました。
言うまでもなく復興は国にとって大きな課題でした。災害の中で人々が互いに助け合う精神に感
銘を受けました。寺院も積極的に被災者に場所を開放してくれました。被災地で私がまず行ったこと
はきれいな水の確保です。各地域の厚生担当者が即座に被災地域に派遣され、被災キャンプの面
倒を見ました。そのおかげで赤痢などの感染症が勃発することなく、切り抜けられました。津波から 1
週間目に電気、通信設備、道路などの復旧が始まり、数週間で復興することができました。海外から
来た方は、鉄道の復興には半年はかかると予想していましたが、我々は 2 ヵ月半で復興させました。
この津波を受けてスリランカで大きな変化が起こりました。まず、社会が災害を意識するようになり
ました。94%の識字率を持つ教育においても小学校から大学に至るまで災害に関するカリキュラムが
組み込まれるようになりました。議会も災害管理法を成立させました。さらに、災害に強い建物、およ
び災害時の報道の基準も制定されました。但し、津波によって地下水の塩分レベルは高いままで、
飲料水に影響を与えています。
津波の早期警戒センターが気象庁内にでき、24 時間、週 7 日、日本の気象庁および太平洋津波
警戒センター(PTWC)と接続されています。私は国際会議などで PTWC のような組織を立ち上げる
ことを推奨してきましたが、ひとつだけ合意できないことがあります。いま 5 つの国、インド、インドネシ
ア、マレーシア、タイ、オーストラリアが早期警戒システムに貢献していて、リアルタイムの接続がこの
5 カ国と PTWC のハワイセンター、日本の気象庁間に確立されています。これは満足のいくものでは
ありません。すべてのインド洋諸国を守って欲しいと思います。津波のあと災害は 1 つの重要な問題
として浮上し、政策立案者、政治家、政府職員が関心を向けています。
次に科学技術の必要性、挑戦、イニシアチブについてですが、将来の災害に向けての早期警戒
システム、一般国民の意識の向上、緊急時に人々とコンタクトがとれる通信システムなどがあります。
現在、浸水地図の作成が進んでいます。さらに日本、カナダの協力を得て数学的なモデリングの改
良などの作業も行っています。イタリア、英国の協力を得て、深浅測量に関する作業も進んでいます。
沿岸地帯の生態系の復興もすすんでいます。また、米国立科学財団から 50 万ドルの資金を学際的
研究プロジェクトのために頂きました。海外の科学者による調査を十分に活用することに関しては、あ
まりうまくいきませんでした。
さらに科学技術関係の必要性と挑戦ですが、地下水の塩分量の調査、ゴミの取り除き作業、建設
材料、特に砂の確保などがあります。海岸から 100m 以内の住宅をどうするかについて議会で大きな
論争となっています。その他にも健康の問題、海岸の維持の問題などもあります。
次に家の復興の進捗状況ですが 8.2 万の家が被害を受け、家を失った家族が 3.5 万ですが、今
現在、1.1 万軒しか建設されていません。いま工事中なのが 6,900 軒余りです。ざっと言うと必要数の
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38%の家しか、まだ建てられていません。
もう 1 つだけこの場をお借りして、お話ししておきたい側面があります。楽しい話ではありません。
国内および海外から 400 億ルピー(4 億米ドル)の寄付金が集まり、これらを 256 の NGO が受け取り
ました。30 の NGO が海外からの送金の 73%を受け取っています。しかし、2005 年の段階でその資
金のうち 85%がすでに引き落とされていました。23 の NGO は 6 万 6 千軒の家を建てると約束し、政
府が土地、電気、道路を提供してインフラを整えました。しかし、半年たっても建設は始まらず、最終
的に建てると約束したのは 1 万 6 千軒でした。しかも、2005 年末までに実際に建てられたのは 1,232
戸です。
また、スリランカ特有の政治状況の問題があります。「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」が掌握す
る地域がスリランカの北東部にあります。しかし、こういう地域に対しても政府は、医療、教育などの日
常的な支援を行っています。このような事態に対応して、この占領地域に政府が暫定的に資金を支
援することに合意しました。しかし、議会でこれが追求され、現在、さらに大きな政治問題へと発展し、
裁判が行われています。
最後になりますが、津波は多くの被害をもたらしました。しかし、わが国の国民が多くのことを学ん
だのも事実です。この体験を通してスリランカが、さらに自然災害の被害軽減対策を取っていくことを
願っています。また、将来、こういう災害が起きた場合、よりうまく対応できるものと思います。最善の
科学、最善の技術、最善の機器を導入して、スリランカのみならず全ての国々が災害に備えるべきだ
と強く感じています。地球の環境が変わりつつあります。我々が想像もしなかったような災害、たとえ
ば水害などが起きています。地球温暖化が影響しているものです。地球温暖化の影響を最小にする
ため、京都議定書をすべての国が遵守することが何よりも求められていると思います。
“Disaster Mitigation Efforts in Indonesia” 研究技術省 副大臣 Idwan Suhardi(インドネシア)
今日はわが国が行っている自然災害の軽減についてお話したいと思います。インドネシアではさ
まざまな自然災害がいつも発生します。地震、地滑り、洪水、津波などです。インドネシア政府が、特
にどのように予測し、防災対策を行っているか説明したいと思います。
今日のプレゼンテーションの内容は以下の通りです。
1)最近の自然災害
2)津波に関する早期警報システムの状況
3)2004 年の大津波の1周年にあたる 2005 年 12 月 26 日に行われたパダン市での総合的な津波シ
ミュレーションの結果
インドネシアはさまざまなプレートが交差するところに位置しています。また、インドネシアでは火山
噴火もよくあります。
1900 年から 2004 年にマグニチュード 7 以上の地震が 212 回発生しています。海中で起きたもの
が 182(86%)回で、津波を引き起こした地震が 86(40%)回ありました。またスライドの下に地震、噴
火、地滑りの発生割合を示しました。地震が 91%と非常に多いことがお分かり頂けると思います。
1900 年から 2004 年の間に世界でマグニチュード 7 以上の地震が 1,968 回発生しています。そのう
ちインドネシアが 212 回(11%)を占め、インドネシアが地震の起こりやすい国であることを示していま
す。
2004 年の大津波の後も多くの自然災害がインドネシアで発生しています。メラピ火山の噴火、ジャ
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ワ島地震、パンガンダラン津波などです。2004 年 12 月 26 日のスマトラ大地震で、何が起きたか。13
万 2 千人の死亡が確認されました。3 万 7 千人が行方不明です。57 万 2 千人が避難を余儀なくされ
ました。130 万の家屋、ビルが破壊されました。全体の損失額は 45 億米ドルとなります。これはアチェ
地方の GDP の 97%、インドネシア全体の GDP の 2.2%に当たります。多くの地域で非常に強い地面
の揺れを 4 分間にわたり感じ、多くの人々が恐怖で家から飛び出しました。このスライドはアチェで破
壊されなかった建物を示しています。これらの建物が何故残っているかは、科学技術的見地から興
味深いものです。
今年 7 月のメラピ火山噴火の様子です。火山はジャワ島の中央に位置しています。メラピ山は
1006 年から 2001 年の間に 82 回、短い周期で 2~5 年、やや長い周期で 5~7 年で噴火を繰り返し
ています。今年の噴火では 2 名死傷しました。
また、今年 5 月 27 日、ジャワ島のジョギアで地震が発生しました。マグニチュード 5.9 で、6,234 人
が死亡し、歴史的景観地域も含め 7 千以上の家屋が倒壊しました。ジョギア空港も数日間閉鎖され
ました。損失総額は 30 億米ドルと推定されています。
今年 7 月 17 日の地震と津波の様子および震源地を示しています。650 名が亡くなりました。最大 7
mの波が海岸に押し寄せました。
次にインドネシアの津波早期警報システム(TEWS)の現状を紹介いたします。アチェの津波に対
応して、われわれ研究技術省では、さまざまな省庁と調整しながらどのような TEWS を作るか検討し
ました。科学技術の力、国の力を結集しようとしました。このシステムには少なくとも 14 から 15 の組織
が関与します。我々は、このシステムをなるべくシンプルにしようとしました。まず、システムを構造す
る部分、文化の部分に分割しました。
構造部分は検知センサー、データ送信、情報処理、情報伝達などからなります。科学技術の観点
からみると構造の部分は比較的容易ですが、人々に情報をどう伝え、周知させていくかは文化がか
かわり難しいところです。
このスライドは、TEWS のシステムダイアグラムを示しています。次のスライドは理想的な TEWS の
アーキテクチャーを示しています。潜在的な地震を海底圧力ゲージ、潮位計などで検知し、実際地
震が起こったときは地震計のデータが衛星を使ってセンターに送られ、震源地等を特定し、人々に
情報を伝えます。
システム要素ですが、地震検知(地震計、加速度計)、津波モデリングデータベース、海水位モニ
タリング(DART-BUOY、潮位計)、情報通信技術などが含まれます。その他に GPS を使って地殻変
形をモニタリングします。重要なのは、衛星画像、地形図などによる地理空間情報です。さらに、コミ
ュニティーにどれだけ備えがあるか、そして能力構築も必要です。
我々は過去インドネシアで起きた 109 の津波のうち 16 をシミュレーションしてみました。比較的早く
インドネシアに到達していることが分かりました。2004 年 12 月の津波のシミュレーションも行いました。
スリランカには 1 時間から 1 時間半後に到達したことが分かりました。このスライドは、津波の遡上を示
しています。これは 2006 年 7 月の津波の数値モデリングで、20 分から 40 分でジャワ島に到達しまし
た。
次は、パダン市で 2005 年 12 月 26 日に行われた総合的なシミュレーションについてです。この日
付は、2004 年の大津波を忘れないためです。科学的に調べるとパダンは世界的にも津波の起こりや
すい地域であることが分かりました。またスマトラの西海岸では今までにも大きな地震が発生し、津波
154
を起こしていることが記録されています。パダンの町の人口は 901 万人です。沿岸の長さは 84km で
す。
資料の作成、住民に対するメディアによるキャンペーン等を行いました。これは配布資料、および
パダンでの訓練の様子です(スライド)。またパダンの津波モデル、およびどこが危険でどこが安全な
地域かを示す地図も作りました。避難ルートを地図、標識で示し、また地元の人々が避難すべき建
物も特定しました。
また津波情報が、インドネシア気象庁(BMG)のセンターからパダンにスムーズに伝わるか確認す
るためのシミュレーションも行われました。これがリアルタイムの地震モニタリング、水位モニタリングで、
直接 BMG に接続されています。これが SMS(short message service)を通して人々に送られたメッセ
ージの例です。これは地域の人々、赤十字社、NGO などが参加し、高いところに避難する訓練の様
子を示しています。
パダン市の長期的開発の課題として、空間計画の必要性があります。スリランカからの方のプレゼ
ンテーションにもありましたが、海岸から 100mの区域には住居を認めないといったような計画が必要
です。
結論ですが、まず津波警報システムは 1 国では運用できないということです。この協力は、主に構
造(センサの配備など)および文化(災害に強いコミュニティを作るなど)の 2 つに分けられると思いま
す。また、科学技術も重要な要素となってきます。単に地震のメカニズムを理解するだけでなく、日本
やインドネシアなどの教訓を生かし、どのように効果的なシステムを作り上げるか、また能力をどう高
めていくかが重要です。
“Database-How useful?” (独)防災科学技術研究所 客員研究員 亀田 弘行
今日のトピックは、現在、私がかかわっているプロジェクトについてです。但し、それだけではありま
せん。災害情報データを扱っている他の情報イニシアチブについてもみていきたいと思います。そ
の後、災害情報イニシアチブのワークショップの提案の 1 つとなるある活動を提案したいと思います。
本日の発表者のすべての方が、情報普及の重要性を強調していました。これに関しては多くの側面
があります。片山先生は、最初の説明で適切な知識と良いデータの重要性を強調されました。本日
は、このテーマに焦点を当てたいと思います。
最初に私の経験から始めたいと思います。それは非常に重要な経験で、大きな問題を提起するも
のです。その例は、2004 年 12 月 26 日のインド洋津波のときのものです。そのとき多くの課題が提起
されました。早期警戒システムについては本日も多くの情報が発表され、また、多くの政府間協力、
これも非常に重要ですが、も行われています。また、同時に我々は災害軽減対策も重要であることを
認識すべきです。早期警報は多くの命を救うことができますが、それが全てではありません。軽減施
策も必要です。これは草の根的な、そして統合された努力を必要とします。本日の講演ではここに焦
点を当てたいと思います。
大津波の 1 週間後、電子メールによる問い合わせがありました。津波時におけるマングローブの効
果についての情報を求めるものです。これはアチェ近くの家屋を写したものです(スライド)。見ての
通り、上の写真の家はそのまま残り、家の前には海岸林があります。しかし、下の方の家は全て押し
流されています。それらの家は海岸に直接面しています。多くのものがこのような形で残されました。
電子メールの問い合わせは、マレーシアのある環境研究センターからのもので、質問者はどうしたわ
155
けか EqTAP と呼ばれるプロジェクトについて知っていました。ジャカルタの Coastal Dynamic
Research Center と日本の港湾空港技術研究所による共同研究の結果、このような技術の設計ガイド
ラインについて我々はすでにある程度の成果を出していました。この活動に私は関係者として携わ
っていましたので、質問に関するすべての情報をその質問者に送ることができました。この経験で、
良い技術にはデータベースおよび情報メカニズムが必要なことを痛感しました。
その時、我々は災害軽減に関する国連世界会議を開催するところでした。スマトラの出来事はそ
の会議の 1 ヶ月前でした。その時、私が座長を務めていた文部科学省(MEXT)のワーキンググルー
プによる「防災技術リスト」という本の編集をほぼ終えるところでした。このプロジェクトは、後に私がか
かわる「DRH アジア」の前段階のものです。いずれにせよこの経験で、このような本をまとめることやウ
ェブサイトの情報システムが重要であると実感しました。
以上が本日の講演の基本的な動機です。しかし、ウェブサイト上には多くの災害管理に関するプ
ラットフォームがあります。たとえば、「ProVention Cosortium」、「UN-ISDR」、「アジア防災センター
(Asian Disaster Reduction Center)」、「世界気象機関(World Meteorological Organization)」、
「World AgroMeteorological Information Service」、「NIED K-NET & KiK-Net」、「Hotspot(世界銀行
とコロンビア大学によるプロジェクト)」、「NEDIES(EC の Joint Research Center が提供)」、保険会社
の「Swiss Re」、「GOLFRE」、そして現在進行中の「DRH アジア」などです。
そのサンプルを見ていきたいと思います。全てではなく、そのうちのいくつかです。たとえば、この
「ProVention Consortium」(スライド)ですが、これは注目に値する活動を行っています。どのような情
報が提供されているでしょうか?「Mainstreaming」のような「Resources」や「Risk Analysis」は、リスク解
析に関する優れたガイドラインを提供しています。さらに「Recovery」ガイドラインがあります。「Risk
Transfer and Private Sector」および「Research and Learning」キュメントも提供さ れています。
「ProVention」コンソーシアム自身、資料の出版も行っています。それらはここですべて提供されてい
ます。他には「Partner Libraries and Resources Centers」、「Other Resources」などがあります。
国連の防災国際戦略は、ご承知の通り、非常に優れています。防災に関する世界会議も開催しま
した。このウェブでは、統計情報の一種「Country Information」のような「Data Resources」、グローバ
ルデータの「Disaster statistics」、「Library on Disaster Reduction」ドキュメント、「Risk Transfer &
Private Sector」などがあります。さらに、防災リスク削減に関する「Terminology」、「Link」情報、
「Other resources」も提供しています。
神戸にあるアジア防災センター(ADRC)でも、いくつかのユニークな活動があります。優れた実践
を集めた「Total Disaster Reduction Management (TDRM) Good Practices」、「Glossary on Natural
Disasters 」 、 「 Technical Information Database 」 、 「 Disaster Information of Member Countries
Archives」、そして「Great Hanshin-Awaji」です。これは 1995 年の神戸の災害を忘れないための日本
的方法の 1 つです。この災害に関する特別なデータベースリソーシズがあります。そして「ADIC
Accident and Disaster Database」です。
NIED は研究機関として、「strong motion record download」サイトを提供しています。ここでは、日
本の約 1,000 ヶ所の地震計観測地のネットワークを通してすべて利用可能です。
「Hotspot」は、世界銀行とコロンビア大学による新しい活動です。このウェブは、危険種類別で最
もリスクの高い災害ホットスポットに焦点を当てています。例えばライトブルーの部分は、水関係の災
害が突出している地域です。こういった地域では、水を最優先にした防災管理が必要です。このよう
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な分類が提供されております。非常に理解しやすいものです。他にもいろいろな分類があります。
「NEDIES」は主に EC の共同研究センター(JRC)によって作成されており、欧州の災害に焦点を
おいて「Disasters DB」、「Lessons Learning」、「Publications」、「Glossary」、「Links」などを提供してい
ます。
最後に私がかかわっています「DRH-Asia」プロジェクトについて若干お話したいと思います。これ
は文部科学省(MEXT)の資金によるプロジェクトで、その期間は 2006 年 7 月から 2009 年 3 月まで
です。このプロジェクトで我々は、「Disaster Reduction Hyperbase with Asian Application」と呼ばれる
ものを開発します。その主たる構成は「DRH Database」、「DRH Forum」、および「DRH Links」からな
ります。またこのプロジェクトは、UN-WCDR 2005 で採択された HFA(Hyogo Framework for Action)
実施のための 1 つの活動とみなされています。
良い技術のためのデータ、情報メカニズムはどのようなものでしょうか。我々は、移転可能な固有
知識に加え実践指向の技術を組み込んだ、防災のための知識と知恵のベースを確立することを目
指します。我々は「Implementation Strategies」に準拠します。この正確な意味については、話せる機
会があれば詳細に述べたいと思います。また、我々は、製品タイプの技術ばかりでなく、プロセスタイ
プの技術にも目を向けます。製品だけでなく手順が、このプロジェクト技術の中で重要な位置を占め
ます。また、先進国から途上国への一方的な流れではない双方向の知識ベースでもあります。我々
は固有知識に目を向けていきます。これは、このコンポーネントにおいて重要なものだと思っていま
す。「Disaster Reduction Hyperbase (DRH)」とはこのようなものです。
「Proposed DRH Attributes」は、オープンで双方向のアクセス、参加、そして実践志向技術、プロ
セス技術、移転可能な固有知識などの試験済みの実践技術データベースにアクセスするものとなり
ます。さらに、情報の照合、試験、および軽減モデルの普及促進のためのフォーラムを開催します。
また関連サイトとのリンクを持ちます。
このプロジェクトに至るまで長い道のりがありました。最初は EqTAP プロジェクトで、神戸の震災が
主な動機となり、1999 年の 4 月に始まりました。その 5 年のプロジェクトを終了したあと、防災に関す
る国連の世界会議がありました。そこで我々は成果の重要性、つまり研究開発における実行戦略の
重要性について議論しました。DRH フェーズ 1 に 1 年を費やしたあと、我々は今年から 3 年計画の
フェーズ 2 を開始しました。DRH についての説明はこれで終わりにしますが、皆様の積極的な参加、
貢献を歓迎いたします。
災害情報データベースのいくつかの特徴について駆け足で見てきました。これらの情報プラットフ
ォームは、以下のカテゴリの情報を我々に提供していると言えるでしょう。1 つはデータ(災害記録、
観察記録)、2 つ目は情報(危険・リスク評価結果、あるいは出版物)、3 つ目は知識で、これはほとん
ど研究開発の結果です。これは研究のショーケースと言っても良いかもしれません。4 つ目は知恵
(実践志向技術、移転可能な固有知識)です。これは研究界の相互作用によってのみ提供可能なも
のです。まさにこれが DRH の目指しているものです。
これらすべてのカテゴリが非常に重要だと思います。これらは互いに補完しあいます。しかし、現
状はばらばらの状態で存在しています。そこで、私は防災の情報プラットフォームに関するワークショ
ップを提案し、計画したいと思っています。来年 2007 年にこのフォーラムの活動の枠で実施したいと
思います。そのワークショップでは、各プラットフォームの特徴や役割の識別、役割の補完の強化、
協力の仕組みを作るためのライブリンクを話し合います。
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最後に、災害低減実施における実行戦略は非常に重要です。関係者の参加が不可欠です。この
ワークショップを通して、このデータベースがよりユーザーフレンドリーに、より体系的に作られること
を希望します。「データベースはどのように役立つか」という質問に、私は残念ながらこの場で答える
ことができませんでした。しかし、この質問に答えるためのこういった努力をすべきだということを私は
提案したいと思います。
ご参考までに、アジアの災害に関する図を示します。左端に人口密度を示しています。アジアは
高い人口密度を有しています。GDP 格差による南北問題、そして地震、火山、津波、台風、洪水、山
崩れ、旱魃といったあらゆる種類の災害もあります。本日の発表者全員がこのことを強調していまし
た。災害を減らすために行うべきことは多々あります。しかし、情報に関する課題が非常に重要であ
ることを強調したいと思います。そしてこれからも努力を続けて参ります。
viii) 第 4 分科会「感染症対策」
“Although Pretty Much Belatedly, Japan’s New Program Has Now Got a Start”
(独)理化学研究所 感染症研究ネットワーク支援センター センター長 永井 美之
日本ではようやく新しい感染症対策プログラムが立ち上げられました。これは新興感染症研究を
支援するための拠点形成プログラムであります。本日は、この枠組みについてお話します。
1900 年から 2000 年までの日本人の死亡率と死因の推移を見ますと、1950 年以降に劇的な変化
があることがわかります。主な死因が肺炎、気管支炎、胃腸炎、結核といった感染症から悪性腫瘍
(癌)、血管疾患等に移りました。感染症による死亡が激減したことから、日本では「人類は感染症を
克服した」といった認識が広まりました。その結果、日本では感染症対策およびそれに携わる人材が
激減し、公衆衛生面での非常事態への対応能力が著しく減少しました。その後、世界はエボラ出血
熱や SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ等、非常に感染力の高いウイルスの脅威に
直面しました。中でも SARS や鳥インフルエンザは世界各地に伝播しています。そこで世界は感染症
対策の緊急性を改めて認識しました。日本でも感染症対策に関する再検討が行なわれました。現在、
我々は感染症が国境を越えた問題であると認識しています。従来型ウイルス感染症であるエイズや
マラリアなども人類の脅威となっています。問題解決には緊密な国際協力体制、とりわけアジア域内
での協力体制構築が求められます。
このような背景に基づき、日本では 2005 年に感染症研究拠点形成プログラムが立ち上げられまし
た。文部科学省が同プログラムを主導しています。国内の有力研究機関を拠点に、新興感染症発生
地域(または発生が予測される地域)の研究機関と提携を推進するのが目的です。プログラムに基づ
く二国間研究の促進が期待されます。同プログラムの下、すでに 3 つの提携が進行しています。(1)
大阪大学研究機関とタイ(バンコク)の National Institute of Health との提携には、タイ(バンコク)の
National Institute of Animal Health とつくばの動物衛生研究所との提携が伴います。(2)長崎大学
の熱帯医学研究所とベトナム(ハノイ)の National Institute of Hygiene and Epistemology(NIHE)との
提携には、Bach Mai 病院と日本の国立国際医療センターとの連携が含まれます。(3)東京大学医
科学研究所と中国科学院 2 機関(微生物研究所、生物物理研究所)との提携には、ハルビンの獣医
研究所も加わっています。これらは二国間協調ネットワークの中心となっています。また、北海道大
学の人獣共通感染症リサーチセンターもこのプログラムに協力しています。このセンターは野生動物
のウイルスの研究に尽力を尽くし、経験豊かで、世界中に多数のサイトを持っております。理研の感
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染症研究ネットワーク支援センター(CRNID)がこれら参画機関の調整を行なっており、私がセンター
長を務めさせていただいております。
オックスフォード大学の熱帯医学ネットワークは、1979 年に協力研究拠点をタイに設置し、その後、
14 機関を統合する国際ネットワークを構築しました。特にベトナム支部では、1991 年からベトナム(ホ
ーチミン市)の熱帯疾患病院との連携の下、マラリア、結核、腸チフス、デング熱といった各種熱帯病、
狂犬病などの研究を進めてきました。その後、同ネットワークは 2003 年の鳥インフルエンザ H5N1 集
団感染に際し迅速な対応をとりました。当時の対応グループのリーダーが本分科会に参加する予定
であった Jeremy Farrar 氏であります。本日、Farrar 氏が欠席されたため、先生の活動について私が
知ることを少し紹介します。
例えば鳥インフルエンザには、胸部の X 線異常、急性呼吸促迫症候群、下痢といった症状が見ら
れるなど、通常のインフルエンザにはない特徴があります。特に子どもの致死率が高い感染症です。
ウイルスは糞便、血液、脳髄等から検出されます。そのことから鳥インフルエンザは全身性感染とい
えます。呼吸器症状を伴わず下痢に発し脳炎で死亡したケースもあります。さらに決められた処方に
従ってもオセルタミビル耐性が出現する、ということです。これらの成果は世界保健機関(WHO)の
対策にも貢献しました。
緊急時の対応能力を強化するには、長期的視点に基づく取り組みが不可欠でしょう。文部科学省の
拠点形成プログラムには、2005 年は 23 億円が充てられましたし、本年度は 26 億円の予算が充てら
れます。これはライフサイエンス分野の枠組みでの予算配分となりました。同プログラムは 5 年間継続
します。現在、感染症に関する海外の研究拠点はベトナム、タイ、中国の 3 カ国のみです。長期的に
は更なる研究拠点が必要となります。そのための資金調達が重要です。日本政府としては、JICA や
ODA プログラムを通して開発途上国の自助努力を支援していく方針です。文部科学省としては、平
等のパートナーシップを原則とした協力を行ないます。それは ODA ベースの一方通行的援助プログ
ラムとは異なるものです。文部科学省の他にも、JICA を管轄する外務省をはじめ、厚生労働省、農
林水産省など幾多の省庁が感染症対策に関わっています。各省庁の連携を強化した上で国際ネッ
トワークを構築することが重要です。そこで資金調達のさらなる充実が鍵となります。
“Dengue Hemorrhagic Fever Research: A Model for International Collaboration”
マヒドール大学 シリラ病院 教授 Prida Malasit(タイ)
本日はタイ特有の感染症経験についてお話します。同時にタイとしての国際ネットワーク参画の在
り方についてもお話したいと思います。デング出血熱は現在、タイの公衆衛生面で最も問題となって
いる感染症のひとつです。開発途上国がいかに国際研究ネットワークの下で感染症問題を解決す
べきか、特にライフサイエンス研究をいかに進めるべきか―タイのデング出血熱研究をモデルにお
話したいと思います。
デング出血熱の原因となるフラビウィルスには 4 つの血清型が確認されています。1950 年代にデ
ング熱が発生した東南アジアでは、熱帯シマカ(蚊)による媒介が確認されています。症状としては、
急劇なショック状態や血漿漏出および出血が見られます。デング出血熱は通常 2 回目の感染により
発症します。これは大変奇妙な特徴です。従ってウイルスが直接原因ではないといえます。
タイにおけるデング出血熱は重要な問題ですが、その発生率は低下していません。しかし、これま
でデング熱に対処してきた私どもの経験が実を結び、死亡率はかなり低下しました。この死亡率低下
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に貢献した我々のアプローチは、海外のパートナーと協力して得られたものです。デング熱はインド、
アメリカ大陸にも広がり、国際的問題となってきました。人口 3 億人の東南アジアでは年間 100 万件
以上の発症が見られ、約 3000 人が死亡しています。なぜ特定のひとのみ発症するのか理解すること
が重要です。
解決すべき問題は第一に、(1)ショック状態や血漿漏出など、病状が急変するメカニズムを把握
すること。第二に(2)公衆衛生面では、たとえば発生箇所、蚊のコントロール、発生予測および制御
に向けた研究を進める必要があります。
タイには 50 年間に及ぶデング出血熱研究の経験があります。この病気に関しては、1960 年代から
同国の公衆衛生省が活発に関与しており、全国的な監視制度を築いてきました。マヒドール大学は
20 年前からワクチン開発に携わっています。ワクチンのプロトタイプは既にパスツールに売られ、
Phase 3 試験まで進んでいます。タイ国内では基礎的な臨床研究なども依然強い関心を集め、この
分野での博士、修士課程、理学士プログラムが新設されております。タイには、T2プログラムという国
内資金援助システムがあります。これはWHOのTDRプログラムとタイの資金提供組織が協力してい
るものです。このT2プログラムはデング研究に焦点を当てており、以下の活動に対する支援を行っ
てきています。(1)タイ国内における臨床データベースの構築、(2)ワクチン開発、(3)全国的サー
ベイランスシステムの確立。この中で、臨床的データベースの構築という分野を強調したいと思いま
す。まずしたことは、デング出血熱患者が訪れるサイトを標準化することでした。患者がサイトに訪れ
れば、すべてのデータが得られ、検査サンプルを採取できます。そしてリファレンスラボを作ることが
できるのです。これは病態生理学を学ぶために、デング熱の生物医学研究の核となります。国内で
は 2 つの臨床研究センターがすでに着手して、救急分野を中心に血液を集めます。広範囲に渡り、
高品質を誇っております。タイではバンコクのシリラ大学、チェンマイ大学、国立 BIOTEC センターが
国内研究ネットワークを形成しています。この 3 機関が様々なプロジェクトの土台となっています。
さらにタイ政府としては、ドイツのマインツ大学、パリのパスツール研究所、ロンドンのインペリアル
カレッジ、米ワシントン大学など世界各地に研究者を派遣しています。様々なネットワークを通じた国
際協力体制を構築することにより、国内研究の広領域化、効率化を図る方針です。施設の共有化も
研究の加速化・効率化にとって重要となります。その一環として、これまでに蓄積された検体や標本
を、国内だけでなく、国外にも提供することにより、世界全体の研究推進に貢献していく所存です。
それでは手短に、三年間努力してきた結果をお話します。オックスフォード大学で研究している、バ
ンコクをベースにしたタイ人のグループが、T 細胞がショック状態や血漿漏出の発症に関わっている
という物議をかもすような仮説を立てました。「Journal of Immunology」に記載された論文のタイトルは
「The original antigenic sin」といい、T 細胞が異常なふるまいをして、ウイルスを死滅させることはでき
ないが、炎症性のシトキンを作り出し、それがホストに害を及ぼすという論旨です。パリのパスツール
研究所や国立遺伝子型センターと協力して、「Nature Genetics」誌にも発表しました。重篤なデング
出血熱と関係するプロモーター部位を特定することとは別に、私たちが断言したのは、デング熱とデ
ング出血熱のゲノムのプロファイルは、遺伝子プロファイルを使っているように見える別個の個体だと
信じていることです。このデータベースを使うことにより、病気の発症に寄与するゲノムをさらに特定
できるようになっていくはずです。少なくとも、データベース化された DNA が現代のゲノミクス研究に
十分役立つという自信がつきました。またパリのパスツール研究所、国立遺伝子型センターといった
大きな機関と、いかに協力していくかも学びました。
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マインツ大学と協力して、自国とドイツからの資金により学生を派遣して、論文の発表に成功しまし
た。この論文は実際、デング熱にはこれまで効かなかった診断ツールを作る大きな可能性を示しまし
た。デング熱の診断ツールのほとんどは抗体をベースにしたもので、初期の段階で熱が出た急性患
児には使えませんでした。しかしこの研究のおかげで、ウィルスタンパクをベースにした診断ツール
の可能性が出てきました。ここでいかに国際協力を活用したかお話しましょう。学生や研究者を海外
に送りますが、学位を授与されるのはマヒドール大学ですが、オックスフォードやパスツールとも共同
に研究しております。
タイでは、オックスフォード大学やパスツール研究所との協力を通じて、これまで 6 人の博士号取
得者と 19 人の修士号取得者が誕生しています。現在は、21 人の修士課程学生と 12 人の博士課程
学生がいます。また博士号取得後も研究を続けている者が 2 人います。タイでは高度集束型の研究
が推進されていますが、その実現には優秀な人材と十分な助成金を確保する必要があります。もう
一度強調しますが、国内の資金は非常に重要です。そして良い臨床データベースを作ること。これ
が我々にとってのキーファクターです。インターナショナルな面でのキーファクターは何でしょうか?う
れしいことに、我々のパートナーは全て知的財産を共有しています。同時に全てのステップ、全ての
変化、全ての活動を確認するための良いマネジメントが重要であること、同時にこのような共同研究
ではブレインストーミングセッションの繰り返しとも言えるのです。
こういったことに対する努力は我々にとっても良いことなのです。全ての活動は透明性、資料、技
術、人材そして国内および海外の資金、これらを全て共有することを基本としています。研究資金、
個人間のパートナーシップ、そしてインフラのパートナーシップが非常に重要です。永井先生も先ほ
どそのように言っていました。実際、ここ三年で得たデングの共同研究の前には、5~10年にわたる
コラボレーションの歴史があるのです。
我々はこのミーティングで、そして私のこの発表で、感染症研究分野で活動する基礎研究者が何
らかのスタートとなる情報を得てもらえるといいと願っています。
“Old wine in a New Bottle: Collaborative Research in Asia to Accelerate the Introduction of Killed,
Oral Cholera Vaccines” 国際ワクチン機構 総裁 John D. Clemens(韓国)
韓国ソウルに所在する IVI は、次世代ワクチンの開発および開発国への新ワクチン供給を任務と
する唯一の国際研究開発機関です。その目的の実現には国際的な協力体制が不可欠です。本日
は、国際的コラボレーションの成功例として、コレラに関する実績をご紹介します。コレラは世界にお
ける主要な疾患のひとつです。WHO 報告によると毎年 14 万以上の症例があり、アフリカ諸国を中心
に 4500 人以上の死者が出ています。しかし、ほとんどの国は経済的影響の懸念からコレラの発生に
関する情報を積極的に公開していません。より現実に近い推計では毎年 550 万人の患者および 10
万から 13 万人の死者が出ていると言われています。現在、コレラ予防のための次世代ワクチンとして
経口投与による不活化ワクチンおよび生ワクチンの研究が進められています。本日はその経緯につ
いてお話します。
バングラデシュの下痢疾患機関にて、大規模ワクチンフィールドトライアルが行われました。1980
年代にランダムに選択された2~15歳の小児および成人女性に対して、以下の様なワクチンが3回
投与されました。全菌体(WC=Whole Cell)とコレラ毒素 B サブユニットを組み合わせた不活化ワク
チン(以下、WC-SB ワクチン)、全菌体のみ(WC-only)の不活化ワクチン(以下、WC-only ワクチン)、
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E-Coli 経口ワクチン、プラシーボです。その結果、短期的(6 カ月)には WC-SB ワクチンの方が
WC-only ワクチンより優れた予防効果があることが判明しましたが(85%対 58%予防率)、3 年後の
予防率はいずれも 50%となりました。しかし、いずれも第一世代注射型ワクチンよりも遙かに良い結
果です。また、2 回投与と 3 回投与の効果に変わりがないことも判明しました。現在、同様の試験が南
米でも行なわれており、同地では現地法人により遺伝子組み換え WC-SB ワクチンの開発も進められ
ています。ほぼ同時に、アジアでもベトナムでワクチンの開発が始まりました。今は亡きNIHEの副所
長であった Da Duc Trach 教授がリーダーとなり行われたものです。Trach 教授は不活化経口ワクチ
ンのテクノロジーを Jan Holmgren 教授のところから持ち帰ったのですが、ベトナムではBサブユニット
ワクチンよりも全菌体ワクチンに集中することを選びました。知的財産権の制約があったことと、より安
価で製造できるWCワクチンの方がベトナム国内のニーズに合うと考えられたからです。
ただし、上記のワクチンを供給するにはいくつか制約があります。WC-SB、WC-only のいずれも開
発途上国では実用化されておらず、特に遺伝子組み換え WC-SB ワクチンに関しては現在、旅行者
のみを対象に投与されています。より安価な WC-only ワクチンを製造できるベトナムはWHOから認
可を受けていないため、他の国がそのワクチンを使用することが出来ません。
そのような背景から、IVI は 5-6 年前に財団ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金から赤痢菌、コレラ、
チフスなどに対する新ワクチンの開発を目的とする DOMI(Diseases of the Most Impoverished)プロ
グラムを発足させました。DOMIはこのワクチンについていくつかのキーとなるぎもんを投げかけまし
た。まず、現実の生活においてワクチンは実施可能なのか?この答えを出すための一つとして、IVI,
NIHおよび Gothenburg 大学が 10 年以上共同で大規模プロジェクトを続けています。これはベトナム
フエ市で 300,000 人を対象に行われました。これにより、ベトナム産のワクチンを 2 回投与することに
より一度に多くの人がコレラに対して免疫を付けることが可能であると分かりました。しかも一人あたり
の費用はわずか 80 セントなので、住民が購入できる額であるということです。モザンビーク・ベイラ市
のスラム地区にて 5 万人を対象に実施したフィージビリティスタディでは、スウェーデンのWC-SB不
活化経口ワクチンが使用されました。ここでは、実際コレラの感染率がバングラデシュより高く、政府
はワクチン接種に非常に興味を持っています。IVI,モザンビーク保健省、MSFそしてWHOが協力
してスウェーデンワクチンの投与実験を行いました。人口密度の高い sub-saharan スラム地区 50,
000 人を対象に行ったこの実験においても、ワクチンの実効性が示されました。
もう一つの疑問は、ベトナム製のワクチンの安全性についてです。この疑問に答えるために再びN
IHEと Gothenburg 大学との共同により、同じくモザンビーク・ベイラ市にて、head to head 臨床試験を
実施し、ベトナム製 WC-only ワクチンとスウェーデン製 WC-SB ワクチンおよびプラセボ間で比較しま
した。この結果、成人、子供どちらにおいても、ベトナム製 WC-only ワクチンとスウェーデン製
WC-SB ワクチンに対するレスポンスに違いは見られず安全性は確認されました。
不活化経口ワクチンはHIV感染者に対しても安全であるといわれていますが、流行数が多い地区
に対しての効果に疑問があります。この件に関してもモザンビークの sub-saharan 地区でケースコント
ロールスタディを行いました。投与後 1 年目で有病率 30 から 35%という成人女性に対して、80%の
効果が認められました。
もう一つの疑問は、このワクチンは集団免疫も誘導するかということです。つまり、高レベルワクチン
を受けた集団の周辺にいる、ワクチン非接種群にも免疫が誘導されるか、ということです。この答えを
得るために、また、バングラデシュではワクチン投与率を高めることで集団予防(間接予防)効果が得
162
られるか実験してみました。すなわち、隔離された 5 つの層別にワクチン投与率を調整した実験を行
ないました。その結果、投与率とコレラリスクの間には明確な逆相関が見られました。高度にワクチン
を接種された地域の隣でプラセボを投与された集団に80%の予防効果が見られました。低レベル
でワクチンを受けた地域の隣では、1000 人に 2.7 人が感染を受け、高レベル地域の隣ではその数
字が 1.3 人に落ちました。今後はワクチンの直接効果だけでなく、公衆衛生面での集団効果を見る
必要があります。
ベトナム産ワクチンの素晴らしい点は明らかですが、これが実際に手にはいるようにしなくてはなり
ません。問題は如何にベトナム産の安価なワクチンが WHO から認可を受けるかということです。この
目的のために、IVIとDOMIプログラムはワクチン製造コラボレーションを構築しました。まず
VABIOTECH-NIHE からインドネシアの BioFarma およびインドの Shantha Biotechnics に技術を移転
します。両国はすでに WHO の認可を受けていることから、そこで生産されたワクチンは国際的に供
給されることが可能です。すなわち、2 機関を通すことで開発途上国へのベトナム NIHE によるワクチ
ン供給が可能になるわけです。現在、そのような南南協力のパイロット・プロジェクトとして、コルカタ
特定地区へのワクチン供給・投与を行なっています。このプロジェクトは今後数年間にわたりフォロー
アップされる計画です。
“Emerging and Reemerging Infectious Diseases and Surveillance-ICMR Initiatives”
医療研究審議会 局長 N.K. Ganguly(インド)
これまで本日のスピーカーは、感染症との戦い方についてお話をされてきました。その中で、研究
者・研究機関同士の協力の重要性が強調されました。新興感染症は国境を越えた問題です。インド
でも地球温暖化の影響からこれまでにない感染症が発生しています。米国でもいくつかの州でナイ
ル熱、マラリアが発生しました。そのことを考えると、日本でもこのような感染症が顕在化する可能性
は否定できません。
現在、NICEDでは 5-6 の協力体制の下、新興感染症に関する研究が進められています。研究に
は日本の科学者および日本で訓練を受けた研究者も多く参加しています。これまでは基礎的研究
が中心でしたが、トランスレーショナルリサーチに関しても協議が進められています。以前は 30%程
度しか解明されなかった下痢の原因に関しても、7-8 割まで解明されるようになりました。また、サー
ベイランスの面でもかなりの進展が見られます。ワクチンに関しては、様々な国際機関が協力し研究
を進めてきました。日印間では現在、国立ワクチン研究所と三菱との間で新しい建物を建設中です。
これによってさらに日本とインドの研究者が共同研究できる機会が増えることになります。日、タイ、韓
の協力も我々にとって重要な意味を持ちます。感染症に限らず、多くの疾病は共通であるからです。
ICMR が結んでいるこのほかの大規模コラボレーションとしては、は米国疾病予防管理センター
(CDC=Center for Disease Control and Prevention)と、新興感染症およびその他の感染症につい
て行っているものが挙げられます。また、独ヘルフォース基金とでは、新たな感染症研究所の設立を
進めています。他にもワクチンに関する協力関係がいくつかあります。
インドでは、多くの疾患別研究施設があり、それぞれが独立した建物と研究室を持っています。こ
れに加えて 100 あまりのフィールドを持っています
バングラデシュ国境近くのシリグリ市では 2001 年に成人が発熱、知覚異常の症状を訴え得るケー
スが出現しました。その多くは病院で発生し、死亡率は 73.8%でした。感染の伝播の様子が全く異
163
なっていたため、当初は Nipah とは思いませんでした。しかし、米 CDC との協力の下、最終的には
Nipah ウイルスが特定されました。インドでの流行の直後バングラディッシュでも Nipah ウイルス感染症
が発生しました。このウイルスの同定はタイで行われました。
次に Saharanpur で発生した感染症についてお話します。15 歳以下の極めて低栄養状態の子ども
を中心に発熱や知覚異常(首が硬くなるなど)を示すケースが見られました。死亡率は 60%でした。
とりわけ、衛生状態の悪い地区に住む栄養状態の悪い子供の感染が目立ちます。何年にも渡って
サンプルを米 CDC に送りましたが、まだ診断はついていません。SARS
アウトブレークの時は 3 日以内に診断用試薬は入手できていました。しかし確定したのは 1 件だけ
です。
次にランセット誌により発見された Chandipura ウイルスについてお話します。これは、アンドラプラ
デシュ州で確認されました。当初はこの地域で毎年発生する日本脳炎と考えられていました。しかし
地方の貧困層の 14 歳以下の子供を中心に 319 件が報告され、174 人が死亡したこと、また、入院か
ら 24 時間以内に死亡するケースが 85%と多いことなど、日本脳炎と比べて死亡率が著しく大きいこ
とから別の病気も考えられました。電子顕微鏡で調べることにより、ラブドウィルスが発見されました。
一度同定できると、このウイルスがインドで非常に強いことが分かり、1965 年にも小規模アウトブレー
クが発生していたこともわかりました。現在ではPCRや蛍光抗体顕微鏡などを用いた診断が可能と
なっています。このウイルスはその後、グジャラートに移り、より多くの死者を出しました。変異野心家
を続けており、ハエやコウモリの間を行き来しています。動物の中でサイクルしていることが重要な点
ですが、このことは論文で発表されない限り人々がこれを知ることが出来ません。適切な情報交換・
ネットワークの構築が緊急の課題でしょう。
鳥インフルエンザが今年我々を襲いました。現在 48 株のウィルスを分離しています。家禽産業は
麻痺し、経済的損失は絶大です。人のサンプルは数多く調べていますが今のところ人への感染は見
られていません。現在、BSL3とBSL4施設の建設を計画しています。
インドでは現在、一部地域でポリオが発生しています。現在、ボンベイではポリオは報告されてい
ませんが、同氏の汚水にはポリオウィルスの存在が確認されています。今後の気候次第で人間感染
および流行につながる可能性は十分あります。ポリオウィルスは世界各地に存在します。それによる
経済的損失を回避するためにも今後、国際的な協力体制の構築が求められるでしょう。それに際し
ては、米国の CDC や日本政府のノウハウが大いに求められるでしょう。
“Infectious Diseases in China” 北京工業大学生命科学与生物工程学院 院長 曽 毅(中国)
本日は、中国における感染症についてお話します。中国では 3000 年前から流行疾患の発生が記
録されています。古代ではあらゆる疾患において高い死亡率が見られます。これらに対する効果的
な治療法がなかったからです。しかし、1949 年の中華人民共和国建国以降、中国政府は重度流行
疾患の対策を推進するようになり、その後 10 年間に主要な疾患がコントロールされるようになりました。
しかし、文化大革命時には、特に過疎地の公衆衛生がないがしろにされました。その後も政府は経
済成長を重視する一方、公衆衛生を軽視してきました。その間に世界は再び新興、再興感染症の
脅威にさらされるようになりました。薬物耐性を持つマラリアや結核の菌株が世界に蔓延するようにな
ったのです。また、AIDS や SARS、鳥インフルエンザといった新興感染症が発生しました。そのひとつ
である SARS は、2002 年 11 月に中国で発生し、その後、世界 30 カ国に伝播しました。これまで、合
164
計 8000 人以上が感染し、死亡率は約 10%となっています。SARS はまた経済発展にも深刻な影響を
与えました。中国政府は現在、SARS に関し公衆衛生面での対策を強化しています。例えば、中国
の疾患予防組織には SARS 発生をきっかけに公的資金が提供されるようになりました。このように、中
国では新興感染症の発生をきっかけに政府の感染症対策に大きな進展が見られるようになりまし
た。
その一例として、中国における AIDS 対策について説明します。中国初の AIDS 患者が発見された
のは 1982 年です。感染は 1983 年に確認されました。これは米国の第 8 因子(血液凝固)製剤から
の伝播でした。1983 年から 85 年にかけて、米製薬会社 2 社が販売する第 8 因子製剤が 18 人の血
友病患者に投与されました。そのうち 4 人が HIV ウィルスに感染しました。そして 1985 年に初めて米
国の AIDS 患者が中国を訪れ、訪問中に北京の病院で死亡しました。そして 1986 年には中国人
AIDS 患者が米国から中国にわたり、同地で死亡しました。そして 1989 年には薬物使用者の HIV 感
染が雲南で発見されました。また 1994 年には、献血者への感染が華南で確認されました。2005 年ま
でに報告されている患者・感染数は累積で 14 万 4000 人超となっています。うち 3 万 2000 人が AIDS
患者です。これまで AIDS 約 8000 人が死亡しています。推定される HIV 感染者および AIDS 患者は
65 万人です。また、推定される新感染者数は年間で 6-7 万人に上ります。患者・感染者のうち、薬
物使用者が 28 万人超(約 44%)を占めているとされています。献血、輸血、血液製剤による感染者・
患者は 6 万人強です。また最近では性交による感染が増えており、深刻な問題となっています。昨
年は 12 万 7000 人の性交による感染者・患者が確認されています。AIDS は 1998 年までにほぼ中国
全土で蔓延するようになりました。とはいえ、感染者・患者は特定の地域に集中する傾向があります。
例えば、雲南、華南、新疆など、薬物使用者が多い地域で発生率が高くなっています。中国ではイ
ンドやミャンマーなど異なる感染ルートを持つ B 型、C 型、B/C 組み換え型、E 型など異なるタイプの
HIV ウイルスによる感染が見られます。そのことからもアジア域内の協力が重要であることがわかりま
す。中国において AIDS 患者は依然増加傾向にあり、死者も増え続けています。最近では感染が薬
物使用者などの「高リスク群」に限らず、一般人にも多く感染するようになりました。中国政府はあらゆ
るレベルで HIV/AIDS 対策を強化しています。その一環として、貧困者には無償でエイズ治療を提
供しています。とはいえ、政府全体が AIDS への危機感を共有するまでには至っていません。今後は
一層の予算充実などが重要と考えます。
次に鳥インフルエンザについてお話します。中国では鳥インフルエンザにより何百万羽の鳥が失
われ、地域・国内の経済に深刻な打撃を与えています。中国では 2004 年に 50 件の鳥の集団発生
が 16 の省で確認されました。また 2005 年には 37 件の集団発生が 14 の省で確認されました。中国
では現在、198 の監視病院が 31 の省に設置されています。また、鳥インフルエンザの研究に関し 63
のラボが全土に設置されています。中国は様々な機関を通じて鳥インフルエンザに対する監視体制
(サーベイランス)を強化しています。最近では PCR などによる遡及診断も進められており、2003 年
にヒトへの鳥インフルエンザウィルスの感染が 1 件あったことが判明しています。
“Toward Robust Network for Infectious Disease Control in Asia”
国立感染症研究所 所長 宮村 達男
アジアでは今後、感染症対策に向けた強固な研究者ネットワークの構築が求められます。本日は
そのことについてお話します。
165
1996 年から 2005 年にかけて、感染症がグローバルな問題として大変重要視されるようになりまし
た。国立感染症研究所(NIID)は、国内外の様々な機関を支援しており、厚生労働省に対し建設的
な提案を行なっています。また、公衆衛生面の対策にも関与しています。NIID はインド、タイ、バング
ラデシュなど様々な国と強固な関係を築いており、これらの国の研究機関に対し JICA や WHO を通
して支援を行なっています。また研究者間個人ベースでも強固な協力関係が存在しています。さら
に、多国間ネットワークとして大変重要な位置を占める APEC 研究組織 Pulse-net Asia とも提携して
います。また中国とも、ポリオ撲滅プログラムで提携を進めています。
ポリオ撲滅プログラムに関して説明します。ポリオはグローバルな感染症コントロールの重要な成
功例とされています。効果的なワクチンが開発され、国際的な監視体制も確立されています。このよ
うにポリオ撲滅に関しても、グローバル規模で取り組むことが重要と考えます。ポリオ撲滅のための研
究者ネットワークは 3 つのレベル、(1)国(国立研究所など)、(2)地域(WHO 地域のレファレンス・ラ
ボ)、(3)専門的レファレンス・ラボ(米 CDC、その他ロンドン、パリ、オランダ、ヘルシンキ、東京、イン
ドで設置)で形成されています。ポリオの感染が疑われる患者が発生すると、まずサンプルが国立研
究所に送られます。そこで分離・検出されたウイルスが地域のレファレンス・ラボに送られます。ここで、
ウイルスがワイルドタイプなのかワクチンタイプなのかを調べます。ワイルドポリオと判明された場合、
専門的レファレンス・ラボおよび WHO 本部にサンプルおよび付随情報が送られます。重篤なケース
の場合、新たなワクチン接種が行われることになります。ポリオ撲滅のためには、この研究所ネットワ
ークを確立することが重要です。日本はポリオの専門的なレファレンス・ラボを有しており、それを通
じて中国、韓国の関連機関との連携・協力を進めています。
特に最近では、NIID と中国疾病対策予防センターの間に強固な関係が生まれています。この協
力関係はポリオ以外の疾病も対象に含まれます。同時にそのための人材育成と情報交換が課題と
なっています。人材に関しては、JICA や WHO、および大学を通して交流が進められています。また
定期的なシンポジウムを開催するなど、感染症に関する正確かつ迅速な情報の共有を目指していま
す。そして最も重要なのはこれら情報の分析結果の共有です。このようなプロセスが各国の公衆衛
生分野での政策決定につながっていきます。今年 8 月 22 日、東京の NIID では中国 CDC との覚書
の調印が行なわれました。これまでも数多くの協力がありましたが、覚書を交換することにより日中両
政府の資金提供、人材交流が容易になりました。この調印はマスコミでも大きく取り上げられました。
感染症対策は重要な二国間協力のひとつであるからです。また、今年 4 月 28 日には上述と同様の
覚書が NIID と韓国 CDC との間で交換されました。中国、韓国の CDC は中国、日本の NIID と同様、
様々な機関を統合していますが、同じ任務を共有しています。かくして現在では 3 国間の協力体制
が整っています。中国側からは 3 カ国間のシンポジウムを北京で開催する提案が出されています。
昨日は、韓国 CDC から下痢関連疾患のシンポジウムを開催する提案が出されました。今後はインド
など他のアジア諸国の参加も期待されます。そこで初めて包括的な感染症対策が可能となると考え
ます。
166
3) 第 3 回アジア科学技術フォーラムの開催
(i)
日時
平成19年10月5日(金)9:30~17:30
(ii)
開催場所
東京コンファレンスセンター品川
(iii)
概要
「第1回アジア科学技術フォーラム」「第 2 回アジア科学技術フォーラム」における議論を継続し、
アジアンプロブレムの相互理解を中心として意見発表、意見交換等を行った。講演者 39 名(内
訳:中国 2 名、ベトナム 2 名、インド 2 名、韓国 1 名、タイ 5 名、インドネシア 1 名、マレーシア 1
名、国際連合 3 名、欧州連合 1 名、アメリカ 2 名、スリランカ 1 名、ネパール 1 名、ラオス 1 名、日
本 16 名)を含む 241 名が参加し、活発な議論が行われた。また、3回にわたって行われた「アジア
科学技術フォーラム」の成果として、参加者の賛同を得たうえで、声明(上記3.「調査研究成果
の総括」を参照)を発信した。
基調講演で(独)科学技術振興機構の阿部博之顧問が「アジアの中の日本へ-『日本とアジ
ア』から『アジアの中の日本』へ-」と題する講演を行った後、分科会毎に分かれた。
第1分科会「科学技術政策」では「アジアの持続的発展に向けて」というテーマの下、
i)
アジア全体の持続可能な発展に資する科学技術政策上の鍵となる要因、
ii)
各国の科学技術政策上の課題の所在及び取り組み方、
iii)
政策実施のための協力の在り方、
等について議論を行った。その上で、本フォーラムの議論を各国の科学技術政策に反映させ
るべき努力をはらっていくとともに、今後一層のネットワークの強化と情報交換の必要性が確認
された。また、発展を牽引するイノベーション政策について、アジア諸国の共通認識を醸造して
いく必要性も確認された。
第2分科会「環境・エネルギー問題」では、アジアにおける環境・エネルギー問題の解決のた
めには多国間スキームが必要であるという認識の下、地球規模及びアジア共通の環境・エネル
ギー問題についての認識の共有が図られた。さらに、環境・エネルギー問題の科学技術による
解決、人材の育成、さらには科学技術イノベーションの誘発に向けたアジア諸国のより緊密な
連携の必要性について議論され、今後も関係機関での緊密な意見交換・協力が重要であるこ
とが確認された。
第3分科会「自然災害対策」では、自然災害対策について科学技術の観点から議論が行わ
れた。自然災害による被害を縮小するためには専門家同士の継続的な情報共有が重要である
こと、官民双方を巻き込んだ社会的弱者を救済するマイクロ保険のような枠組みの構築が必要
であること、等が確認された。
第4分科会「感染症対策」では、感染症がアジアの持続的発展を妨げる大きな問題になって
いるという認識に立ちつつ、日本がイニシアチブをとって持続的な感染症研究プログラムを運
営すべきであること、海外の主要な感染症研究機関との協力が必要であること、そして研究活
動を促進するために資金制度を見直す必要があること、が確認された。
167
(iv)
プログラム
9:30 ~ 10:10
・開会挨拶・来賓挨拶・基調講演
10:30 ~ 16:20
・分科会(間に昼食を挟む)
16:30 ~ 17:30
(v)
・全体総括(各分科会の報告を中心に)
・閉会挨拶
講演者リスト
役割
開会挨拶
所属
(独)科学技術振興
役職
氏名
国名
理事長
北澤 宏一
日本
機構
来賓挨拶
文部科学省
副大臣
松浪 健四郎
日本
基調講演
(独)科学技術振興
顧問
阿部 博之
日本
顧問
阿部 博之(座長)
日本
機構
第 1 分科会
(独)科学技術振興
(科学技術政
機構
策)
山東科学技術大学
教授
Wu Zongjie
中国
科学技術省
副大臣
Le Dinh Tien
ベトナム
科学・工業研究評
局長
Naresh Kumar
インド
院長
Sungchul Chung
韓国
長官
Sakarindr
タイ
議会 R&D 計画局
科学技術政策研究
院
科学技術開発庁
Bhumiraratana
文部科学省 科学
所長
木村 良
日本
技術政策研究所
第 2 分科会
岩手県立大学
学長
谷口 誠(座長)
日本
(環境・エネル
中国科学院大気物
副事務局
Ai Likun
中国
ギー問題)
理研究所モンスー
長
ンアジア統合地域
研究国際プログラム
ベトナム
事務局
国際連合大学高等
所長
A. H. Zakri
国際連合
アジア工科大学院
学長
Said Irandoust
タイ
インドネシア科学院
副院長
Jan Sopaheluwakan
インドネシア
欧州委員会研究総
課長
Aires Soares
欧州連合
研究所
局エネルギー局
168
国際連合大学
特別学術
鈴木 基之
国際連合
井上 孝太郎
日本
顧問
(独)科学技術振興
上席フェ
機構 研究開発戦
ロー
略センター
第 3 分科会
東京電機大学
教授
片山 恒雄(座長)
日本
(自然災害対
スタンフォード大学
名誉教授
Haresh Shah
アメリカ
策)
工学研究科
部長
David Piesse
アメリカ
科学技術省
大臣
Tissa Vitarana
スリランカ
(独)防災科学技術
客員研究
亀田 弘行
日本
研究所
員
内閣府
参事官
鳥巣 英司
日本
国際連合 国際防
局長
Craig Duncan
国際連合
シニアアド
R. Kuberan
インド
サンマイクロシステ
ム社
災戦略 情報管理
ユニット
GOLFRE
バイザー
地震技術学会
理事
Amod Mani Dixit
ネパール
第 4 分科会
(独)理化学研究所
センター
永井 美之(座長)
日本
(感染症対策)
感染症研究ネットワ
長
ーク支援センター
国立感染症研究所
所長
宮村 達男
日本
岡山大学インド感染
センター
竹田 美文
日本
症共同研究センタ
長
Paul Brey
ラオス
Nicholas J. White
タイ
所長
Nicholas Day
タイ
センター
西宗 義武
日本
ー
パスツール研究所
地域責任
国際ネットワークア
者
ジア
オックスフォード大
統括責任
学ウエルカムトラスト
者
東南アジア熱帯医
学研究所
マヒドン大学-オッ
クスフォード大学熱
帯医学研究所
日本-タイ新興・再
169
興感染症共同研究
長
センター
長崎大学
教授
森田 公一
日本
国立衛生研究所
所長
Pathom Sawanpanyalert
タイ
Hasan bin Abdul
全体総括
保健省疾病管理局
局長
Rahman
マレーシア
(独)科学技術振興
審議役
高橋 文明
日本
機構
(vi)
i)
詳細
開会挨拶 (独)科学技術振興機構 理事長 北澤 宏一
「第 3 回アジア科学技術フォーラム」参加いただき、ありがとうございます。特に海外からお越し
のスピーカーの皆様方には、厚くお礼申し上げます。本フォーラムは、私ども科学技術振興機構
が中心となり、文部科学省科学技術政策研究所、防災科学技術研究所、そして理化学研究所と
の共催により、平成 17 年度から毎年開催されてきたものです。今回が第 3 回となります。
本フォーラムの主旨は、アジア諸国の持続的発展のために「アジアが抱える環境・エネルギー
問題、自然災害対策、感染症対策等の地域共通課題の科学技術による解決」そして「アジアの科
学技術レベルの向上」、この 2 点です。
平成 17 年度の第1回フォーラムでは、「科学技術政策」、「環境・エネルギー問題」、「自然災害
対策」の 3 つの分科会に分かれて、科学技術政策という観点からの各国の情報交換や課題の紹
介、環境・エネルギー問題における共有認識の重要性、自然災害被害の軽減に向けた各国の取
り組みなどについて、それぞれ議論をおこないました。昨年の第 2 回フォーラムにおいては、この 3
つの分科会に加え、同じくアジアが共通に抱える地域の社会的課題として「感染症対策」につい
て議論する分科会が新たに加わりました。フォーラムの内容としては第 1 回のそれぞれの議論を
踏まえて、人類共通の財産である科学技術の成果を十分に活用しアジア諸国・地域の繁栄に資
するため、社会的課題への対応策についてさらに議論を深めていただきました。
本日は、基調講演と 4 つの分科会で多くの発表とディスカッションが予定されています。本日の
フォーラムが、ご参加の皆様にとって十分な情報や意見の交換の場となることを期待しています。
本年がこのシリーズでは最終年度となることから、本日の議論、また、この 3 年間の議論の総まとめ
といたしまして、各分科会の提言、フォーラムとしての声明を本日、発表したいと考えています。
最後になりますが、基調講演をしていただく阿部先生、発表をしていただくスピーカーの皆様、
各分科会をとりまとめていただく座長の方々、松浪文部科学副大臣、共催者であります文部科学
省科学技術政策研究所、防災科学技術研究所、理化学研究所、本日ご参加いただいております
皆様方、ならびに本フォーラムの開催にご尽力いただいた多くの関係機関、関係者の皆様のご支
援に深く感謝を申し上げ、私の挨拶とします。
ii)
来賓挨拶 文部科学副大臣 松浪 健四郎
現在、アジア地域におきましては大地震や津波を始めとする自然災害、鳥インフルエンザ等の
170
感染症問題、そして工業化の進展等に伴う環境、エネルギー問題などが、大きな共通の課題とな
っています。科学技術を用いてこれらの諸課題に取り組んでいくためには、各国間において研究
者のみならず政治家、行政官等さまざまな人々の間での緊密なネットワークとパートナーシップの
構築が必要です。
本日はアジアを中心とする 14 カ国 2 機関から科学技術の推進にかかわっている研究者、政府
関係者等多くの関係者にお集まりいただき、先ほど申し上げましたような地域共通の問題への協
力と、そのために必要な科学技術レベルの向上について議論がなされると承知しています。アジ
ア地域の持続的発展を持続していく上で大変貴重な会議であると考えます。
我が国では昨年の 3 月に 5 ヵ年の科学技術政策の方向を定める第 3 期科学技術基本計画を
閣議決定しました。この基本計画において我が国は、アジア諸国との科学技術連携の強化を大き
な柱に位置付けています。この基本計画を受けて文部科学省では 2006 年度から振興調整費約 8
億円を充当し、アジア科学技術協力の戦略的推進プログラムを新たに設け、アジア諸国と現在防
災、感染症、環境等の分野において 21 件の共同研究を推進してきておるところです。また、これと
は別に新興・再興感染症のために 2005 年度から「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を
設け、アジアを中心とした国々に海外拠点を設置しているところです。アジアにおきましては、本
年度は既存のタイ、ベトナム、中国に加え、新たにインドネシア、インドに拠点を開設することとして
おり、共同研究を通じて基礎的知見の集積と人材育成を図っていく予定です。
さらに我が国の陸域観測技術衛星「だいち」等による災害情報をアジア地域で共有するための
「センティネル・アジア」プロジェクトを 2006 年 10 月に立ち上げるなど、我が国の宇宙技術を活用し
た防災の分野などで協力を進めているところです。
なお、本日午後、本フォーラムと平行してこれらの協力を深め、さらに新たな協力プロジェクトを
推し進めていくため、「ASEAN COST プラス 3」会合が各国科学技術担当省、庁代表の方々出席
のもと、このホールで行われる予定です。本会合では、参加国が相互に利益と関心のある分野に
おける協力の可能性について議論されると伺っており、多くの成果が上がることを念願していま
す。
終わりに本フォーラムの活動を通し、関係者の間での情報交換、議論が促進され、アジア地域
の抱える諸問題に関する科学技術協力が一層強く推進されることを強く期待しています。今回、
本フォーラムにおける 3 ヵ年の議論を取りまとめ、提言がなされると伺っており、この提言を基に日
本としてもアジアの科学技術プログラムの充実に一層努めることを申し上げて冒頭の挨拶と致しま
す。
iii)
基調講演 「アジアの中の日本へ-『日本とアジア』から『アジアの中の日本』へ-」(独)
科学技術振興機構 顧問 阿部 博之
日本の科学技術政策はこれまで欧米を向きがちでしたが、今後は日本も他の国と同様に、アジ
ア地域共通の問題について、あるいは地球全体の問題について汗を流していかなければなりま
せん。大切なのは、各国の文化や伝統を踏まえつつ、アジア地域が持続的発展をしていくことで
す。第 3 期科学技術基本計画では、アジア諸国を重視した科学技術政策を謳っています。今回
の発表の副題を「『日本とアジア』から『アジアの中の日本』」としたのは、日本もこれからはアジア
の中に入って一緒に考えようという思いからです。
171
今年 5 月に総理大臣のもとでまとめられた「アジア・ゲートウエイ構想」には、大学をもっと開けた
ものにするとか、アジア共通の問題に対する研究、協力を日本が主体的に行うにはどうすれば良
いか、といったことも含まれています。「アジア・ゲートウエイ構想」に先立ち、私たちのフォーラムは
科学技術政策という観点から 3 年間議論をしてきました。重要なことは、科学技術の交流というの
は、さまざまなレベル、チャンネルで行われているという点です。リーダーの方々が参加する本日
のフォーラムは、非常に意義があると考えます。またフォーラムとは別に、実務者レベルのセミナー
も開かれてきましたが、その一つで知的財産権(IPR)についてのセミナーに私は関与しました。知
的財産権をどう活用していくかにより科学技術は影響を受けます。IPR は必ずしも世界人類全体に
平等にプラスになるかというとそうではありませんので、アジア全体のさまざまな国の実情を踏まえ
ながら、どうバランスをとっていくかが大きい課題となります。今後アジアとしての共通理解を探って
いく必要があるでしょう。
さて、日本と諸外国の大学間交流の多くがアジア地域との交流です。交流協定を日本と一番結
んでいる国が中国である点は特筆すべきです。さらに日本の大学が海外に設置したセンターは、
アジア地域に設置したものが半分を超えています。以上から分かるように、日本の大学はアジアを
向いています。一方、先日文部科学省から“World-Top-Level Research Center (WTL)”という新し
いプログラムが発表されました。日本の大学には優秀な研究者が多くいるものの、そのほとんどが
日本人です。日本の大学は必ずしも世界に開かれているわけではありません。そこで、日本の大
学をもっと開かれたものにしようという目論みのもと、トップレベル・リサーチセンターを作ることにな
りました。日本の大学が諸外国、特にアジアに対す貢献、連携できることが強く期待されています。
また、日本学術会議では 2000 年からアジア学術会議を毎年開いており、11 カ国からの研究者の
代表がさまざまな意見交換をし、アジアの科学の進歩に貢献しています。
科学には国境がありません。一方、科学技術政策になると、国によって違いが出てきます。この
フォーラムで取り上げている環境問題、感染症、あるいは防災の問題等はもちろんですが、その
他に医療の問題、研究開発、産業、ビジネスなどあらゆる分野に対して科学技術が地域として、あ
るいは地球規模で解決すべき問題がたくさんあります。その時に、各国の伝統や文化を踏まえな
がら、アジアとしての持続的発展を図っていくことが問われています。このフォーラムは今年が 3 年
目で最終年度となりますが、3 年間の成果を踏まえてこれからどうすべきでしょうか。アジアの持続
的発展のシナリオが簡単に決まるわけはありません。これらを考慮し、こういった集まりを今後も持
っていく必要性があるのではないでしょうか。
iv)
第 1 分科会「科学技術政策」
“Circular Economy: Policies and practices of Local Governments in China”
山東科学技術大学 教授 Wu Zongjie(中国)
中国では国家の持続的発展に向けての長期的戦略として「循環型経済と環境配慮型社会の構
築」を掲げている。再利用(Reuse)削減(Reduce)リサイクル(Recycle)の3R主義のもと、資源のリサイ
クルと効率的な利用を通じて、資源の消費を抑え有害物質の排出量を削減し利益の増大を目指
すこと、またそれを現在の経済発展の状況に即した形で実施することが求められている。2004年
の共産党中央委員会の総会において、循環型経済の開発と省資源社会の構築が決定されたの
を皮切りに、中国では循環型経済に関する様々な国レベルの会議がおこなわれており、例えば国
172
務院では、その承認のもと6つの政府部門が共同で循環型経済のための試験的プログラムを発表
している。水質・土質の保護、再生可能な資源、無公害生産の促進に関連する多くの法令も施行
されている。
国家レベルで取り組んでいる「循環型経済」の実践だが、その促進という意味において地方行政
区の果たす役割は大きい。各地方行政区では、その地方の状況に即した様々な短期計画を作成
しその実践に取り組んでいる。具体的な目標や課題としては、省エネルギー、資源利用の高効率
化、無公害生産の推進、廃棄物や使用済み資源の回収・再利用の高効率化、環境配慮型消費
の推進、環境保護地域の設定などがあげられる。
地方行政区の中から、国内第2位の経済地域である山東省を例としてその取り組みについて説
明する。山東省では、リサイクル指向の企業、産業団地、地区の構築を目指し、地域の経済状況
との調和を図りながら「省政府レベル」「企業レベル」「地域レベル」各レベルの先進的な取り組み
によって循環型経済を発展させている。さらに今年からは「循環型経済に向けてのパイロット・プロ
ジェクト」を発表し省内のほぼ全都市にプロジェクトの実施を義務づけ、循環型経済の促進に一役
買っている。
もう一つ例をあげたい。山東省を代表する工業都市、畄博(ツーポー)市では主要エネルギーの
備蓄があと2、3年分しかなく深刻なエネルギー不足が懸念されている。そこで省政府は、エネル
ギー消費量および汚染物質排出量の多い企業に監査を義務づける一方、無公害生産導入を奨
励するシステムの導入や汚染物質排出量の上限を設定して旧来型の工業都市から循環経済型
都市への移行を目指している。畄博(ツーポー)市のさらなる持続的発展に向けては、①資源およ
び環境の保全システム、②産業システム、③再生可能なエネルギーリサイクルシステム、④持続可
能な消費システム、以上4つのシステムの構築をはじめとして、3R主義の追求や各産業の質の向
上と産業構造の最適化などが課題となってくる。
“Science and Technology Policy toward Achieving Sustainable Development in Vietonam”
科学技術省 副大臣 Le Dinh Tien(ベトナム)
1986 年に「ドイモイ」という経済刷新を開始してからおよそ 20 年が経過した。特にGDPは 1995
年から 2005 年まで年7.6%の成長率を示し、工業比率も 2006 年には41.6%まで高まるなどベト
ナムは大きな経済発展を遂げた。しかしその一方で、急速な経済発展と天然資源の非効率的な
利用によりベトナムの天然資源は枯渇し、また人口増加に対し一人当たりの土地耕作面積も減少
の一途をたどっている。遅れた工業技術、殺虫剤、肥料の過剰使用は土地の汚染を招き、河川の
氾濫や台風などの自然災害もさらなる発展の支障をなっている。
科学技術政策はこうした障害を乗り越え持続的発展を可能にするために必要不可欠である。特
に、社会アセスメントを取り入れ広範な利害関係者の参加を求める市民参加型の科学技術政策
の実施が鍵を握っており、分野横断的に多くの関係者を政策立案過程に参加させることがより広
範な問題に対処する力をなるのである。実際、2001 年から 2010 年までの 10 カ年に関する科学技
術政策の立案には、官僚・経済・学問・市民それぞれの代表グループが参加しています。
我が国の科学技術政策の課題だが、1990 年以降は科学技術に関する研究や技術の商業化や
企業のイノベーションなど主に経済的側面に焦点をあててきた。それに対し近年では「発展の質
的側面の保証」や「持続的発展の達成の必要性」を強調するようになってきている。また科学技術
173
政策における問題点としては、①産業・貿易・環境など他の政策との調整がまだとれていないこと、
②イノベーションに関する国家制度が十分ではないことなどがあげられる。これらを解決する意味
でも、NSI(National system of innovation)に社会資本を導入することや弾力的で対応力に富んだ
教育システムの構築が求められている。
最後に協力分野に関する提言をいくつか述べたい。一つめは科学技術およびイノベーションと
持続可能性に関する研究との統合である。これには研究者サイドの能力向上や研究者と政策立
案者・行政担当者との対話が含まれる。二つめはアジア諸国のイノベーション制度に関する比較
研究の推進である。そして三つ目に相互補完的な協力体制の構築があげられる。これは、科学技
術における研究と政策立案過程との連携やその実現方法の議論が不可欠となってくる。こうした
提言を踏まえて、アジア諸国が互いの持続的発展に向けて協力していくことが望ましい。
“Sustainable development in Asia”
科学・工業研究評議会 R&D計画局 局長 Naresh Kumar(インド)
インドの科学技術における発展は、ここ50年の間に出された3つの主な科学技術政策と深い関
係がある。1958 年に出された科学政策決議では、科学の発展には基礎・応用・教育すべての要
素と科学技術に関わる人材の開発が必要であることに言及している。1983 年の技術政策決議で
は、バイオ資源の持続的使用や廃棄物リサイクルの必要性にも触れており、この頃からすでに持
続的発展に必要な科学技術の要素について議論が交わされていた。また 2003 年の出された政
策には、イノベーションの促進や技術の発展、移転、普及などに取り組むことが明記されている。
インドの科学技術政策の要となるのが 5 カ年計画で 2007 年 4 月には第 11 次がスタートしたが、
農業は重点的に取り上げられる中心課題となっている。12 億を超える人口を抱えるインドでは、過
度な人口増加とそれに伴う食糧自給率の低下など持続的発展の妨げとなり得る問題があり、その
解決の為に農業の強化が急務である。またイノベーションも持続的発展のための重要な要素で、
科学とイノベーションを推進し育てるシステムや公的な科学インフラストラクチャー、優秀な人材を
通してはじめて持続可能で公平な発展が達成されるのである。
ここでインドが製薬産業を生産・消費の両面で持続的なものにできた理由、また情報技術産業
が中核的セクターに成長したいきさつについて例を挙げて説明したい。まず製薬産業だが、2005
年の薬剤製造特許の取得により業界全体の成長が促進されたが、その成長率や輸出の伸びを支
えているのが政府の一貫した持続的発展のための政策なのである。情報技術産業においてもソフ
トウェアパークの設立や標準化体系の設定などを通して政府の目指すe社会(情報技術を手軽に
利用できる社会)の設立に貢献し、さらに良好なR&Dベースを構築することで政府のeガバナン
ス計画(情報技術による管理計画)が推進されている。このeガバナンス計画こそ、広大な国土に
12 億強の人口を抱えるインドが「持続的かつ公平な発展」をするために重要な役割を担うのである。
中央政府の実施業務である所得税の申告や旅券、国民ID、年金に銀行利用、保険、また州政府
の実施業務である農業、土地登記があるが、これらの業務がすべてコンピュータ化されすべての
人がその居住地にいながらにして基本的ニーズを満たせること、それがeガバナンスのビジョンで
ある。
インドだけに限らず、アジアの途上国にとっても持続的かつ公平な発展が望まれる。そのために
は農業の再生、健康と衛生、バイオ資源の持続的利用などに重点を置き、全アジアに向けた科学
174
技術政策をアジア諸国自ら作り上げることが肝要なのである。
“Regional Science and Technology Cooperation for Sustainable Development in East Asia”
科学技術政策研究院 院長 Sungchul Chung(韓国)
韓国および朝鮮半島をめぐる地域の問題として、韓国の発展そして北東アジアの経済的活力
は持続的なものか、そしてそれをさらに持続的なものにするにはどうすべきかについて話したい。
まず韓国の発展についてだがこれまで科学技術の発展に国をあげて取り組んできた結果、特に
工業・R&D投資・特許件数などの分野の成長が著しい。しかし一方で高齢化、基礎科学力の弱
さ、所得格差、また環境面では大気汚染や資源不足など多くの問題を抱え韓国の成長の持続性
には疑問符が打たれている。韓国としては、持続可能な経済、社会、環境という目標を単独で達
成するのは困難であり、その意味でも朝鮮半島周辺地域の現状を考察する必要性を感じている。
北東アジア特に中国、日本、韓国の 3 カ国は世界のGDPの 20%、世界の貿易額の 15%を占め
ており、まさに世界経済の中心になりつつある。科学技術においては 3 カ国あわせて 130 万人のR
&Dに関わる人的資源を抱え、特許においてもその案件数はこの 3 カ国に集中しているといえる。
しかし、北東アジアが今後も持続的に成長できるのかといえば様々な問題が山積しているのであ
る。特に越境資源の管理に伴う政治的摩擦、大気汚染、水質汚染などは深刻である。またエネル
ギー供給の問題も地域の経済的持続性の障害となっており、鳥インフルエンザなどの感染症や自
然災害の問題も対策が十分にとられていないのが現状である。
北東アジアの経済的活力を持続的なものにするためには、まずそれぞれの国が自国の科学力
を高めることが求められる。これまで北東アジア諸国の国際科学技術協力は欧米中心の傾向にあ
ったが、自国の科学力を高めつつ北東アジア諸国間の相互協力を促進し、持続的発展の妨げる
諸問題について共同で対処することこそ、北東アジア全体の持続的発展に必要なのである。
こうした相互協力のためには、何より「コンセンサスの構築」が重要な役割を果たすと思われる。
まずは地域諸国間に政治的コンセンサスを作り上げ、トップリーダー同士の対話と協力を実現させ
ること。そして地域内の科学者同士のコンセンサスも同時に構築することが必要である。科学者や
技術者の交流によって開発が可能な、地域協力の必要な分野での共同研究プログラムに対して、
地域諸国間の政治的コンセンサスがその実施を容易にしていく役割を果たすことが望まれる。こ
れらの流れからもわかるように、「コンセンサスの構築」を相互協力に関する提言として、発表を締
めくくることにする。
“Thailand and toward Achieving Sustainable Development”
科学技術開発庁 長官 Sakarindr Bhumiratana(タイ)
まずはタイの持続的発展に向けてのコンセプトである”Sufficiency Economy”(足るを知る経済-
97 年の経済危機を契機にプミポン国王が提唱した経済開発・成長の適度さを重視した概念)につ
いて説明したい。過去 20 年間経済的に大きな成長を遂げたタイだが、97 年の経済危機を機にそ
の成長を見直した結果、多くの格差が生じていたことが判明した。科学技術、教育、保険衛生面、
ITなど様々な分野での格差が続けば、持続的発展に暗い影を落とすであろう。そこで必要なの
が”Sufficiency Economy”の考え方で、これは成長を急ぎすぎず、また資源の理にかなった持続可
能性を追求し、科学的根拠に基づき地域社会に必要な決断をすることを意味する。このことにより、
175
生活と経済・社会のバランスが取れ持続可能な成長へつながるのである。
2006 年にスタートした第 10 次経済社会開発計画は、この”Sufficiency Economy”のコンセプトに
基づいた人材育成に主眼を置き、GDP中心の市場経済ではなく、国民中心の発展を目的にして
いる。人・知識の整備、地域社会の強化、バランスと競争力の経済への改革などを通して、より中
道的で社会的な発展の中で経済発展を目指すことが重要なのである。また技術開発にも力を入
れ十分な科学技術インフラストラクチャーを整備することで、高齢化などの社会変革にも対応して
いく考えである。
国がまとめた科学技術戦略計画では、①産業の集合化による地域経済と生活の質の強化、②
科学技術人材の育成、③科学技術インフラの整備、④科学技術への認識の向上、⑤科学技術管
理システムの向上、という5つの分野の開発を通じて環境との調和や経済競争力とより良い社会生
活の両立など、バランス成長を目指すことにしている。具体的には、産業の集合化においては国
の科学技術政策のもと産業毎に大学・研究機関と民間セクターを結びつける科学技術インフラを
創り、競争力維持に反映させることが狙いである。産業の集合化には科学技術の人材開発も重要
な要素で、政府は人材開発を基礎科学や大学のみに依存することを見直し、生産業分野の発展
に役立つ人材を職業学校や科学系の工業学校にも求めることにした。
企業と大学の産学協同の推進をすすめる一方、将来の知識形成の為に海外の大学と提携しタ
イの大学のレベルアップも図っている。またサイエンスパークの開発にも力を入れており、従来の
「企業団地」という捉え方ではなく「研究共同体」「民間企業が研究活動を行う場」として民間セクタ
ーが科学技術やそのインフラの必要性を感じられるきっかけの一つとしたい。タイ政府としては、こ
のように独自の科学技術インフラを整備し、その十分な科学技術インフラによって持続的発展に
不可欠なコンセブトである”Sufficiency Economy”を目指していきたい。
“Innovation and Sustainable Development in Japan’s Science and Technology Policy”
文部科学省 科学技術政策研究所 所長 木村 良
2001 年の中央省庁再編により、現在の科学技術政策の体制が出来上がった。各スピーカーの
発表には科学技術政策と他の政策との調整があまりうまく進んでいないといった話もあったが、日
本の科学技術政策の体制においては総理大臣が議長を務める総合科学技術会議があり、そこに
は関係各省庁の大臣が出席しているので体制的には調整できるシステムとなっている。科学技術
政策の中心的役割を担っているのは文部科学省で、日本政府の科学技術費予算の 65%を所管
している省である。科学技術政策研究所はその文部科学省に付属した国立研究機関で、53 名の
定員に加え他機関からの客員研究員や 2000 名に及ぶ専門家ネットワーク(研究者などを科学技
術専門調査員に委嘱し、国内外の研究開発の最新動向および科学技術全般の動向等に関する
情報や見解等を収集するシステム「科学技術専門家ネットワーク」-科学技術研究所ホームペー
ジより抜粋)を活用して日々の業務をこなしている。
2006 年 3 月に閣議決定された第 3 期科学技術基本計画では、第 2 期で示されたライフサイエ
ンス、IT、環境、ナノテクノロジー及び材料という 4 つの重点分野にさらに優先順位をつけようとい
う動きがみられ、またR&D分野に対し厳しい査定が行われている。また6つの主な目的の中には
持続的発展が含まれ、地球温暖化とエネルギー問題、環境との調和を目指した循環型社会の創
設が盛り込まれている。これらに基づき各省庁では持続的発展に向けた取り組みがなされている
176
のである。
日本における新しい動きとしては、昨年 9 月に就任した安倍前総理のイニシアチブによる「イノベ
ーション25」が挙げられる。それに基づき科学技術政策研究所で調査した 2025 年にあるべき日本
の姿としては、エネルギー問題、地方都市の過疎化、交通事故の拡大や地震災害などに対しあら
ゆる技術開発と社会制度のシステム改革を連動させ、環境に優しく住みやすい都市の構築を提
案している。さらにこの調査結果に日本学術会議の報告や国民からの意見を集約すると、最終的
には安全・安心な社会、環境問題の解決に貢献できる社会というものが日本の目指すべき姿だと
いえる。
現在の日本の科学技術政策は、第 3 期科学技術基本計画やイノベーション 25 戦略からも読み
取れるように、持続的発展のために地球環境問題の解決や環境循環型社会の構築を強く意識し
たプロジェクトとなっている。アジア諸国においては経済発展も重要な課題ではあるが、持続的発
展という観点からすれば省資源、省エネルギー、環境重視型の技術開発や産業構造の変革など
がより重要なテーマだと考える。
3 カ年のまとめと提言
・提言内容
今後我々は、会議を通じて獲得した認識を夫々の国における科学技術政策に反映させるべく
努力を行う。また、この目的のために会議を通じて培われた研究者間のネットワークを積極的に利
用し、情報交換を行うとともにその一層の発展に努める。
今後も科学技術政策研究者の相互交流を行うために、本会議のような枠組みは是非必要であ
る。特に、今回議論された持続的発展に引き続き、発展を牽引するべきイノベーション政策につい
て取り上げ、継続的な議論を行いながらアジア諸国の共通認識を醸造する場が是非必要である。
・バックグラウンドについて
持続的発展は、昨今の環境問題への世界的な関心の高まりの中で、科学技術政策の中で最
重要課題の一つである。
例えば、2002 年にヨハネスブルグにおいて国連が開催した持続的発展に関する世界サミットで
は、「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」において水と衛生、エネルギー、健康、農業、
生物多様性とエコシステムに関する行動指針が示されている。科学技術政策は、これらの関連す
る科学技術の多様な分野を総合的に取り扱うことができる。
参加各国にとっても、持続的発展は科学技術政策上の重要課題とされてきた。例えば、日本の
第3期科学技術基本計画においては、「国際競争力があり持続的発展が出来る国」というのが、目
指すべき国の姿を示す3つの基本理念の1つとされている。
特に、アジア諸国においては、持続的発展に資する科学技術政策に関して共通の課題を多く
有する。このため、アジア諸国の科学技術政策研究に携わる関係者が、これらの課題を共有し、
討論することの意義は大変大きい。
・3 カ年の討議内容・結論について
アジア科学技術フォーラム第一分科会では、3 年間継続してアジアの主要国からの代表者が集
い、持続的発展(Sustainable Development)を中心として科学技術政策全体に関する議論を行い、
177
参加諸国の相互理解を深めてきた。3 年間の議論を通じて、我々は、アジアにおける各国の抱え
る問題、それに対する各国の取り組みを相互により深く理解することができた。
まず、平成 17 年 9 月に開催された第1回会議では、「持続可能な発展に係る各国のこれまでの
科学技術政策形成」と題して、
①90年代以降、各国はどのような科学技術の重点化政策を採ってきているか。
②重点化政策の中で持続可能な発展は、どのように位置付けられてきたか。
③これら①②は、どのようなプロセスで決定されてきたか。
について議論した。
さらに、平成 18 年 9 月に開催された第 2 回会議では、「各国の今後の持続可能な発展に関す
る展望」と題して、
①各国において、持続可能な発展の鍵となる要因は何か。
②①の要因に関連する科学技術の展望。
③各国の持続可能な発展に関する科学技術政策についての相互協力の可能性。
について議論した。
平成 19 年 10 月に開催した第 3 回会議では、「アジアの持続可能な発展に向けて」と題して、
①アジア全体の持続可能な発展に資する科学技術政策上の鍵となる要因、
相互協力して取り組むべき課題は何か。
②そのために、各国の科学技術政策上の課題は何か。どう取り組むか。
③政策の実施のために、協働すべきことは何か。相互補完体制をどう築くか。
を議論した。
またこの間、平成 18 年3月にはタイ・バンコクにおいて、「アジアに適した知的財産権制度及び
知的財産権の利用のための実施体制」に関するセミナー(下記(2)セミナーの開催 2)「アジアに
適した知的財産権制度及び知的財産権の利用のための実施体制」参照)を開催した。このセミナ
ーでは 科学技術政策の観点から知的財産権について活発な議論がおこなわれ、
①技術移転経験やIP資源の共有化
②知的財産に関する共同政策研究や人材開発の促進の必要性
を盛り込んだ具体的な提言を発表するなど成果を残すことができた。
v)
第 2 分科会「環境・エネルギー」
「趣旨説明」 岩手県立大学 学長 谷口 誠
私はアジアの経済問題に長く取り組んできたが、OECD 時代の経験から、アジアの高度成長は
環境問題から限界がくるのではないかと危機感を抱いている。アジアはよりエネルギー消費型の
経済に移行し、域内の CO2、SO2 の排出量もより増加していくであろう。アジアが成長と環境のバラ
ンスをいかに維持していくか、本日参加されている皆様に知恵を出して頂きたいと思う。
アジアの環境問題に対処するスタンダードを創出し、アジアの様々な環境研究機関のノウハウ
をネットワークで結び、協力し合っていくことが必要。いかに情報をお互いに共有し、ネットワークの
創出を促進していくかが重要である。研究のネットワークを構築することにより、共同研究を実現し、
アジア諸国が共に利用できる技術の開発を進め、そうした技術に関する情報を共有することが必
要である。目指す方向は、各分野の人材養成、環境問題の解決や技術協力の手法の開発、環境
178
に関する協力機関を立ち上げることだと思う。
“Global Change and Sustainable Development of Monsoon Asia”
中国科学院 大気物理研究所 モンスーンアジア統合地域研究 国際プログラム 事務局 副事
務局長 Ai Likun(中国)
この 100 年間に発生した地球規模の変化として、世界の人口が 4 倍に増加したこと、エネルギー
消費量が 6 倍に増加したこと、世界の GDP が 40 倍になったことなどが挙げられる。
一方で今年配布された IPCC 報告を見ると地球温暖化はさらに加速していることが分かる。海面上
昇も進み、氷河がどんどん溶け始めている。この報告の注目すべき点は、干ばつ、暴風雨、洪水
が頻発していること。これらの異常気象が頻繁に発生すると自然災害を誘発する。これは重大な
問題に直面しているといえる。
ここ 100 年の地球温暖化の主要な要因は、人間の活動であると考えられる。
アジアモンスーン地域は、持続可能な発展にとって重要な地域であり、独特な特徴のある地域
である。
モンスーン気候は、社会経済活動に大きな影響を与える。気候に関連した災害を発生させたり、
農業へ影響を与えたりする。
この地域には地球の人口の 60%がいる。地域の工業化や都市化によって温室効果ガス排出や大
気汚染が進んでいる。土地の劣化や土地の被覆率の変化が最も顕著に現れている地域である。
東アジアの土地劣化が夏季モンスーンの威力を弱くしてしまうという結果を示しているこの調査は、
モデリングしたものから導き出したもの。持続可能な発展戦略をサポートするために、アジアモンス
ーン地域の環境で人間・自然要素と全地球システムの間で働く相互作用がどのようなものかを深く
理解することの研究が開始されている。
MAIRS サイエンスプランでは、モンスーン地帯の沿岸地域、山岳地域、半乾燥地域、都市部の 4
つの脆弱な地域に焦点を当てている。昨年、サイエンスプランは終了し解散した。現在は、プラニ
ングから実行へと段階を移そうとしている最中。地域の地球システムモデルを開発したいと考えて
いる。物理的なプロセス、社会経済的なプロセスを含む複雑な地球システムモデルの構築を試み
ている。
“Environmental Sustainability for Future Sustainability for Future Generations”
国際連合大学 高等研究所 所長 A. H. Zakri(国際連合)
ミレニアム生態系評価の調査結果について報告したい。私は共同議長を務めたが、同調査は、
世界 95 カ国 1,360 名の専門家がかかわった地球規模の生態系の健全性に関する大規模なアセ
スメントだった。生態系サービスが妨げられると人間の健康、さらに安全、快適な生活のための基
本資財、健康、社会的な関係、選択や行動の自由に良くない影響を与える。主な調査結果は以
下の4点。
第1に、過去 50 年で、人間は人類史上の中で比較可能な期間に最も急速かつ広範囲に生態
系を変化させた。これは全く恐ろしいこと。地球上の生命の多様性を回復不能にまで破壊してしま
った。第2に、生態系にもたらされてきた変化は経済成長や人間の快適な暮らしを実現させたが、
このまま問題が解決されない場合、代償として将来の世代が生態系から受ける利益を減少させて
179
しまうであろうということ。第3に、生態系サービス(人間が生態系から受ける恩恵)の劣化が続くとミ
レニアム開発目標の達成の大きな障害となってしまうこと。第4に、政策、制度、慣行を大幅に変え
ていく必要があるが、将来的に、生態系に与えるネガティブな影響を部分的に軽減することは出
来うる。期待かつ実行可能な対処としては、生態系サービスの過剰消費を促進する補助金の廃止、
悪影響を及ぼさないで収穫を増加させる技術・エネルギー効率を上げる技術等による対処などが
ある。経済面・技術面等で、様々な機関が取り組むべきことがある。
環境問題を政策立案の場、国民の意識の場で主流にしていき、生態系サービスや環境をマイ
ナーな問題にしないことが必要。教育や情報を通してこの問題に対する意識を変革させることが
できる。ミレニアム生態評価の結果から判明したことは、将来が私達の手の中にあるということ。こ
の先 50 年で、多くの生態系サービスの劣化を元に戻すことが可能。しかしそのためには必要な政
策や慣行を変えること、および今、未決の取り組みを推し進めることが必要。私達には政治的な強
い意思が必要。
“Addressing Asian Energy and Environmental Issues: Role of Regional Cooperatoin”
アジア工科大学院 学長 Said Irandoust(タイ)
アジアのエネルギー利用は増大しており、化石燃料にまだまだ依存している状態と言える。アジ
アで温室効果ガスの排出が増大すると大気汚染、水質汚染、固形廃棄物などの環境問題を引き
起こす。これらの問題は分野を越えて取り組むべき問題。地域研究やネットワークはこれらの問題
に取り組むためには不可欠なもの。AIT はここ数年エネルギーおよび環境の地域研究プロジェクト
に関わっている。AIT の関与する研究プロジェクトは、パートナー機関やその他の組織と連携して
行われている。幾つかのプロジェクトを紹介し、地域協力の効果について説明したい。
まずアジアの再生可能エネルギー技術に関する RETs(Renewable Energy Technologies)プロジ
ェクトがある。プロジェクトの目標は、実用段階または実用段階に近い再生可能エネルギー技術を
普及させていくこと。積極的に地域研究プロジェクトに参加している国はバングラディッシュ、カン
ボジア、ラオス、中華人民共和国、ネパール、フィリピン、ベトナム。取り組みの範囲は、各国に適
した再生可能エネルギー源やポテンシャルのある技術を特定すること。
次に ARRPEEC(Asian Regional Research Program on Energy, Environment and Climate)がある。
目的は、環境面における持続可能エネルギー戦略を作成し、地域のネットワークとの共同研究を
通して、エネルギー・環境・気候の変化に関連する新しい問題を軽減していくこと。輸送部門、電
力部門、産業部門が主な GHG(温室効果ガス)の排出源。各部門で再生可能エネルギーの利用
シェアを増やしていくことがプロジェクトの重要課題。この重要なプロジェクトに数々の国を巻き込
むために AIT が中心的な役割を果たし、中国、インド、インドネシア、フィリピン、スリランカ、ベトナ
ム、タイなど 21 の研究機関が参加した。
また都市環境管理アプリケーションプロジェクトがあり、今も継続されている。この目標は東南ア
ジア地域の都市環境状況を改善していくもの。優れた都市環境管理政策の共有などを行う。これ
には大学院教育やネットワーキングも含まれる。このプロジェクトに参加した国は、ラオス、タイ、ベ
トナム、フィリピン、カンボジア、インドネシア、東ティモール。
さらに湿地帯アライアンスがある。これは持続可能な湿地帯の管理に関する地域能力を構築す
ることで、水産資源の重要性、地域管理能力および緩和、施設の方針転換などに焦点を当ててい
180
る。それには教育、研修、研究、保護、開発なども含む。啓発はこのプログラムの大切な部分。メコ
ン川流域の湿地帯が対象になっている。
地域協力の効果としては、①参加機関の研究能力の強化②政策立案プロセスへの貢献③技
術支援の強化(インドの工場のエネルギー効率の改善によりCO2 の排出を減らした例など)があり、
パートナーシップを通じて一つのプロジェクトでこれら全ての問題を解決し得るという点が重要。ま
た④技術移転による効果も挙げられる。
“Towards a Secure and Sustainable Asian Energy and Environment Regime through Innovative
R&D Cooperation: Indonesian Perspective”
インドネシア科学院 副院長 Jan Sopaheluwakan(インドネシア)
インドネシア政府は、石炭、石油、天然ガスへの依存を軽減すべく、再生可能エネルギーの利
用を今より増やすことにより、一次エネルギーの利用の偏りを是正するように取り組んでいる。
まずインドネシア国内での研究開発の状況を述べる。我々は研究開発のポテンシャルを十分備え
ているが、エネルギー価格が低く、補助金が適用されているため、再生可能エネルギーの研究開
発が推進されてこなかった。近年、政府は電力不足という問題に直面してきており、石炭、バイオ
燃料、その他の再生可能エネルギー、さらに水素の利用にも力を入れてきている。
次にインドネシアの海外協力について見る。再生可能エネルギー分野では真に有効な 2 国間
協力または多国間協力は行われなかった。UNEP(United Nations Environment Programme)など
のスキームを使用して、大規模な共同研究スキームを探さなければならないと思っている。
将来に向けてどのような対策を講じるべきかが問題。木材燃料から水素への移行という脱炭素
化のシナリオを推し進めていく必要があると考えている。
LIPI は生産から応用、社会認識、経済およびこれらの問題に関連する R&D をカバーする統合
プログラムを今年立ち上げた。その目的は R&D を促進し、インドネシアの後発発展分野の研究を
加速させること。光電池や風力タービンを使用して風力や太陽光など過剰資源を利用できるが、
それを直接電気に転換しない。それを燃料電池に利用できる水素の生成に使用する。それから
電力を生成する。これは僻地向けのソリューション。バイオマスの利用も可能で、水素へ再転換し
てから家庭や輸送部門で使用する。
これをどのように開発プロセスに乗せていくかが問題。インドネシア全体に国家レベルの水素ハ
ブや水素用の準地域的なセンターを設立している。基本的に地域を循環させる。既存の国際海
上輸送路につながっているので、生産した水素はアジア諸国に輸出できる。この戦略によってイン
ドネシア東部にエネルギー提供ができるだけでなく、余剰なエネルギーを輸出に回すことができ
る。
我々は、クリーンコールテクノロジーや水素などの炭素を含まない再生可能エネルギーに重点
をおいた、エネルギーや環境のためのアジアにおけるCOEのようなネットワークが必要だと考えて
いる。インドネシアはこのネットワークにぜひ参加したいと考えている。
我々は 2 つの戦略を提案する。1 つ目は低品位の石炭を使用するクリーンコール R&D テクノロ
ジーを共同で開発すること。インドネシアにはこの低品位の石炭資源が大量にある。
2 つ目の戦略は、僻地や離島などを対象とした、水素ベースの、分散型のシステムによる再生可
能エネルギーの開発。
181
我々はこのネットワークを通じて、Win-Win の協力関係、および R&D の交流や移転など相互に
有益な能力構築を実現させる。インドネシアはアジアのハブとしての役割を果たして行きたいと考
えている。低品位の石炭を使用するクリーンコールテクノロジー、水素技術に重点的に取り組んで
いきたいと思っている。アジアのエネルギーおよび発展を維持し、持続可能なものにできると信じ
ている。
“The EU Research Framework Programme: A Proponent of the European Research Area”
欧州委員会 研究総局 エネルギー局 課長 Aires Soares(欧州連合)
ヨーロッパの研究の主な分野についてお話しする。主な手段は、フレームワークプログラムである。
またヨーロッパリサーチエリア(ERA)がある。ERA の目的はフレームワークプログラムと平行して共
同研究ができる新しい方法を見つけ出すことである。
欧州でこのような協力を実施するに当たり、EU が採用したものが補完性の原理(加盟国によって
は十分に達成することができない問題に限り、欧州連合が自己に与えられた権限及び設定された
目的の範囲で行動することをいう)。この意味は例えば、研究に関して国家レベルで実施できるも
のはすべて各加盟国で行うということ。また欧州レベルで研究する価値があると判断した場合、欧
州レベルで研究を行うということ。プロジェクトの資金調達はこの補完性原理に基づいて行われ
る。
ERA について少しお話しする。ERAには、研究、イノベーションおよび教育を三角形として捕らえ
た「トライアングル」いう概念がある。ERA のコンセプトを導入した主な理由としてグローバル化とい
うものが背景にある。科学や技術において新興国が台頭してきたことも理由の 1 つ。地球温暖化
やエネルギー安全保障など主要な課題に世界レベルで取り組まなければならない。
またERAのビジョンとして、研究者の社会保障や移動性の問題など今ある障害を取り除くこと、研
究インフラや研究機関の強化、知識の共有(知財権。知識保護と知識移転の解放のバランスの維
持)、資金調達、国際協力の推進がある。
第 7 次フレームワークプログラム(FP7)、2 つの部分に分割された。原子力部門(別の条約に従っ
て活動する)と原子力以外の部門(4 つのプログラムを持つ)。協力プログラムが最も大きく 60%を占
めている。また、欧州研究会議(ERC)が運営するアイデアプログラムもある。人材プログラムでは、
特に若い人だけでなく上級科学者の育成も目指している。キャパシティプログラムは、インフラ整
備に関連するもの。
FP7 のエネルギーに関するテーマには、水素や燃料電池、省エネ、CO2 貯蔵技術、クリーンコー
ルテクノロジー、スマートエネルギーネットワーク(さまざまな都市や町でエネルギー効率を高める
ための取り組み)などがある。再生可能技術に関連するすべての技術に投資を行うこと、および研
究開発することは重要なこと。FP7 で気候変動に関連することで実施された新しい試みは、再生可
能エネルギーへの取り組みを強化したこと。
国際協力は、欧州の競争力を高めること、また ERA の世界への開放-世界の安定性、安全性、
繁栄に効果的に貢献する国際科学技術協力の実現を目的にしている。
2 国間レベルでの協力は、科学技術協定に基づいて実施される。多国間レベルの協力は国際協
定に基づいて行われる。
我々は難問に果敢に取り組むことが必要。研究活動は世界の成長および持続性に対して重要な
182
要素である。
“Cooperation for Achieving Sustainability in Asia”
国際連合大学 特別学術顧問 鈴木 基之(国際連合)
2 つのポイントを指摘したい。第1に、地球の能力は有限であること。CO2 は地球温暖化の原因
である。HFC や化学物質の排出によってオゾン層が少しずつ破壊されてきた。地球システムは脆
弱である。地球の表面温度は継続的に上昇し、将来限界に達するときがくるのは目に見えてい
る。
第 2 に、人間の活動は有限である地球システムの枠の中で行わなければならないこと。水、食
料、エネルギー、その他の天然資源が限界にきて紛争対立が起きるのではないか、また、文明、
道義、宗教上での価値判断の違いから紛争が起きるのではないかと思う。
アジア全体の人口を見ると増加傾向が続き、2050 年には人口の半分以上はアジアが占めること
が予想されている。アジア諸国の経済は急成長を遂げている。人口増大に伴って近い将来何が
起こるか誰も予測できない。北東アジア諸国に ASEAN 諸国を加えると経済規模は NAFTA より大
きくなる。これは限られた地域で膨大な人間活動が営まれていることを示している。都市化、大量
生産などがエネルギー消費の増大を引き起こした。産業公害、都市公害、農村劣化がアジアで同
時に起こっている。
日本は奇跡的な経済成長を遂げ、さまざまな環境問題を経験した。日本の場合、これらの問題
を個別に分けて解決することができた。しかしアジアの場合、産業公害、都市環境、地球気候に
関する 3 つの問題が同時に起こったため、日本の経験や手法を適用してもアジアの問題を解決で
きない状態になっている。
アジア地域の環境問題は次の通り。まず水資源の問題。食料生産や工業開発に伴う水需要は
急激な増加傾向を示し、水資源の欠乏問題に直面している。水環境の劣化も大きな問題である。
WEPA(Water Environment Partnership in Asia)などの取り組みが始まっている。また大気汚染の
問題。越境砂塵嵐(黄土)、オキシダントなどは東南アジアにおいては大変深刻な問題。生態系の
劣化に関していうと、森林火災、違法伐採、生物多様性の喪失は言うまでもなく重要な問題。地球
規模の気候変動や固形廃棄物の問題についても言うまでもない。
以下のトピックをアジアの共通認識として共有するべき。アジア域内で環境を共有しているという
認識(アジア域内の経済活動に於ける相互交流の増加、モンスーンなどの共通の気象条件等)。
人材や社会基盤の開発(政策的なシステムの設立などによる環境管理の向上、人的能力開発等)。
複合的な問題に対処するための科学技術。
“Cooperative Research Schemes for the Environment and Energy Issues in Asia”
(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー 井上 孝太郎
第 1 回フォーラム(環境)の結論は、次の 4 つ。①戦略的な R&D プロジェクトが必要。②戦略的
かつ継続的に、多国間で共同研究を進めていくための枠組み、さまざまな設備を持てるような仕
組み、センターという機能が必要。③この ASTF に関連した研究開発ネットワークが必要④ASTF
の議論の結果を広く発信して、政策担当者、研究者、あるいは産業界に意識を共有してもらい、
共に行動できることが必要。
183
第 2 回フォーラム(エネルギー)の結論は、次の 4 つ。①アジアの多くの国々では、エネルギー
消費の急速な増大が起こっている。エネルギーの高度利用や省エネが非常に重要。②アジアの
国々では、この数十年間は石炭がかなり消費されるだろうと予測されている。クリーンコールテクノ
ロジーが重要。有害物質を排出しないだけでなくエネルギー効率を上げて CO2 の排出を減らすこ
とができる。③輸送部門のエネルギー消費が非常に増えてきている。公共輸送機関の効率的な運
用やそのデザイン、高効率自動車の開発などを促進する必要がある。④特にアジア地域では、バ
イオマスなどの再生可能エネルギーがかなり大きなウエイトを占めるのではないかと思われる。
今回のフォーラムの第 2 分科会の目的、パネルディスカッションに対する期待は、アジア諸国間
でどのような共同研究を行っていくのかなど、さまざまな課題を再確認することにある。6 名のパネリ
ストのプレゼンテーションで扱うべき問題がでてきたと思う。多国間協力スキームが必要ではない
かと思う。新しいスキームを作成する場合、現行の国際的な研究プログラムとリンケージすることが
重要。また研究開発によるアジアの科学技術のレベルアップについても議論したい。本日は、戦
略的に組織的に継続的にかつ多国間で効率よく共同研究ができる、そしてその成果が活かせる
ような枠組みについて議論してもらえれば大変有難いと思う。
3 カ年のまとめと提言
・提言
地球規模及びアジア共通の環境・エネルギー問題についての認識の共有、それらの問題の科
学技術による解決、人材の育成、さらには科学技術イノベーションの誘発に向け、アジア諸国の
緊密な連携がますます重要になっている。この連携を継続的かつ効率よく推進するために、「アジ
ア環境・エネルギーイノベーション共同研究センター」を構築することを期待する。本共同研究セ
ンターにおいて、取り組むべき主な課題は以下の通りである。
-アジア共通課題の解決(地球温暖化、生態系破壊、汚染拡大、自然災害の増加、安全な食料・
水の確保、エネルギー・資源の需給逼迫、感染症の拡大)の認識と解決に向けた研究開発
-発展シナリオの研究(各国の発展とグローバルな整合性)
-生物資源の利用拡大
-安全基準、環境基準、工業規格などのアジアスタンダードの創出と、世界スタンダードへの育成
-以上の研究開発成果についてのリアルタイムなデータやノウハウの蓄積と利用の促進
-共同研究を通じての人材育成(先端科学を学ぶ場の創設)
なお、当該センターは、関係する他のプロジェクトと連携しつつこれらの課題に取り組むべきで
ある。
以上を早急に実現するため、このフォーラム終了後も引き続き関係者間で意見交換できる場を
維持すべきである。
・バックグラウンドについて
アジアにおいては、多くの国々が急成長を続けているが、資源大量消費・環境高負荷型の発展
形態をたどっており、工業化と都市部への人口集中による自然破壊、CO2 排出量の増大、有害物
質等による大気・海洋汚染、食料・水の汚染・不足、廃棄物の大量発生、化石資源の価格の急上
昇など、様々な問題が生じてきている。これらは、当該国のみならず近隣諸国、さらには世界全体
184
の環境、経済発展にも大きな影響をおよぼしつつある。このような問題に対処するためには、従来
とは異なる発展シナリオと、それを実現する基盤技術が必要である。
他方、アジア地域は、地域的に繋がりが強く共通の課題を有すると共に、優秀且つ、多様な人
材を有し、生物多様性・生物資源の宝庫でもある。よって、各国の知識を活用し、最新の技術を共
有することにより、生物・生態系の機能・機構の解明やアセスメント技術の開発、新しい生化学プロ
セスの開発、有用資源の発見・利用技術などイノベーションにつながる科学技術上の発見と技術
創出が期待できる。
また、世界的に見てもアジア諸国は、生産地としても市場としてもその重要性が増している。よっ
て、アジアの状況を考慮した安全・環境基準、工業規格などをアジアンスタンダードとして共有し、
アジア発のグローバルスタンダードに育てていくことは、各国政府、地域住民はもとより関連する企
業にとっても、大きな価値がある。
・3 カ年の討議内容・結論について
平成17年9月に行われた第1回アジア科学技術フォーラム(ASTF)では、(独)国立環境研究
所 大塚 柳太郎 理事長を座長とし、特に環境に関する課題を中心とした議論がなされた。その
中で、アジア諸国が注目し、且つ取り組むべき課題として、地球温暖化、生態系破壊、汚染拡大、
食料・水の安全性が抽出された。ここでの議論を受け、平成18年3月に「生態系の保全と利用」に
ついて必要なブレークスルー技術の抽出、およびアジアで進めるべき研究協力の具体策につい
て検討を行うことを目的に、これらの課題を担当する各国の研究者・政策担当者を集め、アジア科
学技術セミナー(ASTS)をマレーシアで開催した。
平成18年9月に行われた第2回 ASTF では、 (財) 地球環境産業技術研究機構 茅 陽一 副
理事長を座長とし、特にエネルギーに関する課題を中心とした議論がなされた。その中で、再生
可能エネルギー、とりわけバイオマス資源のエネルギー利用が共同で取り組むべき課題として抽
出された。ここでの議論を受け、平成19年3月に「再生可能エネルギー」をテーマとした ASTS を、
ユネスコ及びインドネシア技術評価応用庁(BPPT)と共催にて開催した。
以上、一連の ASTF および ASTS での各国代表者との議論を通じて、各国が抱える多種多様な
環境・エネルギー問題の科学的な解決のためには、アジア各国とのマルチラテラルな共同研究の
推進が不可欠であり、「アジア共同研究機構(Sustainable Asia Research Organization; SARO)」構
築の必要性が提案された。
vi)
第 3 分科会「自然災害対策」
「趣旨説明」 東京電機大学 教授 片山 恒雄
今回でアジア科学技術フォーラムは第 3 回目を迎えることになり、今回が最後のフォーラムとな
る。本分科会では自然災害における様々な問題を、アジアからの視点ということだけでなく、世界
共通のものとして考えていきたいと思う。
過去 2 年間にわたり、自然災害の軽減に係わる様々な問題を討論してきたが、多くの利害関係
者に共通する問題点を特定することはかなり難しかった。
その理由は、第 1 に、この分野が非常に広範囲にわたり、それぞれで特性も発生場所も異なる
数多くの災害を取り上げなければならないことである。第 2 に、主要な課題が単に科学技術の問
185
題だけでなく、社会経済的領域にも強く関わるにもかかわらず、科学者、エンジニアと社会経済学
者間の協力関係が十分でない点がある。このような現状を踏まえた上で、今回の第 3 回分科会で
は、「自然災害のデータベースを結ぶネットワークの構築」、「アジアの農村部におけるマイクロイン
シュアランスによる自然災害リスクの移転」の 2 テーマに絞って討論を行う。
私のスピーチの後、内閣府の鳥巣参事官から、アジアの災害軽減における日本の国際政策に
ついて話して頂く。そして、亀田先生が座長を務めるデータベースに関するセッションと、Shah 先
生と私(片山)が共同座長を務めるマイクロインシュアランスに関連するセッションを行う。各セッシ
ョンの後、簡単な討論を行い、提案や提言を簡潔にまとめたいと考えている。
“Japan’s Contribution to Asia Regarding Disaster Management”
内閣府 参事官 鳥巣 英司
災害軽減はこれまで日本が蓄積してきた無形の財産を目に見える形で生かすことのできる分野
の 1 つだと思う。日本の災害軽減への基本的な取り組み、および日本がアジアの他の地域に知識
の輪をどのように広げていったかについて説明したい。
本講演は、①日本の災害政策の現状、②日本の防災知識の提供とそれに伴う貢献、③被災地
への貢献の実例の 3 つの部分からなる。
災害のデパートと呼ばれる日本において、災害管理または災害軽減は政策のなかでも比較的
優位性の高い分野であり、地震を含め大災害が発生する可能性があることを国民に認識させるこ
とは、政府の大きな責任である。
災害を軽減するためには、中央政府または地方自治体が実施する政府の公式の対策、いわゆ
るオフィシャル・ヘルプ(行政支援)、セルフ・ヘルプ(自己支援)そしてコミュニティー・ヘルプ(地
域社会支援)の概念が不可欠である。
日本の防災政策の立案は、古くは江戸時代から PDCA サイクルの上に築かれている。過去の
大きな地震等の災害を評価した上で新しい法律制定を行い、新しい対策が取り入れられてきた。
このような長期にわたる日本の学習プロセスの成果を、アジアの防災にどのように貢献できるだ
ろうか。社会的、経済的な問題などいろいろな問題がある中で、今回は災害軽減に関連する問題
に絞って話したい。
継続的に都市化が進む中で、災害軽減への取り組みは様々な影響を受け変更を余儀なくされ
ている。都市化の進行に対して、初期段階からの耐災害性の高い都市の構築や、中央政府と自
治体間の効果的な水平的および垂直的連携、コミュニティー能力の強化が必要である。また、ア
ジア経済の特徴である内部地域統合により、災害軽減において経済面の重要性が高まることも考
えられる。
アジア諸国の多様な災害に対して、各国が一体となりアジア諸国のすべてで大規模な PDCA
サイクルを回すことが重要だと考えている。日本は、アジア諸国に対し日本の PDCA サイクルを示
し、政策立案に貢献ができるのではないだろうか。インフラ整備、政策立案、情報共有、さらに能
力構築の中で、本日の分科会では情報共有について議論が行われる。そして日本は将来この 4
つの問題に貢献できると考えている。
186
“Collaboration of Worldwide Information Platforms for Disaster Reduction”
(独)防災科学技術研究所 客員研究員 亀田 弘行
2006 年の第 2 回 ASTF では、片山先生から提案された「データベースがどれだけ利用価値があ
るのか」というテーマでプレゼンテーションを行った。そこでは、災害管理において情報を共有する
ことの重要性を強調し、この考え方に基づいて、いくつかの取り組みの実例を紹介した。
昨年の段階では災害データベースの機能が統一されておらず、インフォメーションハザードが起こ
っていることを指摘した。防災に対してそれぞれのプラットフォームが持つ特定の機能や役割の認
識、相補的役割や共同リンクの強化、協力体制の確立、実施戦略、そして、特に参加者間の利害
について話し合うことを目指し、防災に必要な実行プラットフォームに関するセミナーを 2007 年度
に開催するよう提案した。
防災プラットフォームの 1 つで、私が係わっている DRH-Asia(Disaster Reduction Hyperbase–
Asian Application:アジア防災科学技術情報基盤)は、適切な防災技術情報を普及させ、アジア
諸国の防災政策を支援するためのウェブベースのツールである。しかし、1 つの Disaster
Reduction Hyperbase (以下、DRH)だけでは全てを解決できない。そこで、関連するその他既存
の防災の情報プラットフォーム間の相補的ネットワークを形成する必要があると考え、ASTF 第 3 分
科会のテーマの 1 つとしてセミナーを開催した。
セミナーには、この分野で主導的な役割を果たしている機関やプロジェクトの代表者が参加した。
アジアの問題をカバーする世界的な取り組みを行っている方々に参加をお願いし、情報のプロバ
イダー(提供者)とユーザー(使用者)の両方に討論をお願いした。その後、全体討論を行い、「つ
くば IPDR レポート」、「IPDR リンクの強化」、そして「つくば IPDR Resolution」が確認・採択された。
この内、つくば IPDR Resolution では、情報プラットフォームが総合的な災害リスク管理に必要不
可欠であり、そして兵庫アクションプランの目標に寄与することを確認した。プロバイダー(提供者)
は、このプラットフォームを構築、発展、ネットワーク化し、ユーザー(使用者)もまた、定例会議等
のコミュニケーションによってサービスの提供をサポートしていくことが重要だと考える。
資金調達面などで困難があるが、どうかこの問題を真剣に取り上げて頂きたい。これらの活動が、
アジアの災害の諸問題の解決に貢献できることを期待している。
“Use of an Information Platform for Disaster Reduction”
スリランカ科学技術省 大臣 Tissa Viatarana (スリランカ)
つくばのワークショップからアジアの国々すべてに恩恵をもたらすような具体的な成果が出てき
たが、焦点を絞って私の考えを述べたい。
自然災害を考える場合、日本は資金が豊かな国だが、残念なことにスリランカは資金が乏しい
国である。2004 年に、スリランカは津波の大災害を受けた。他にも、台風や洪水、干ばつ、モンス
ーンなどが定期的に発生し、経済、人命両面であらゆる問題を引き起こしている。これらの状況を
踏まえて、つくばワークショップは情報交換の意味でも大変価値があると考えるが、問題は、このプ
ラットフォームが、私たちのような小さな国の狭い領域において、どれほど適用可能な情報を有し
ているかということだ。例えば、衛星情報などに基づく世界規模の情報を、災害を受けた狭い領域
で適用可能な情報として精査しなくてはならない。情報を世界レベル、国家レベル、さらに地域レ
ベルに対して有効に使える仕組みを整える必要があり、各国毎にプラットフォームを構築する必要
187
性を感じている。そしてグローバルデータと各国プラットフォームのデータを関連付ける必要があり、
それらは絶えず更新されなければならない。これを効果的に実行できる仕組みを作り上げることが
重要だと考える。
それぞれの国で効果的な情報交換機能を構築し、関連データを収集できる装置と、それらを有
効に利用できる人材が必要である。このための訓練も必要であろう。スリランカのような小さく貧しい
国では、人材と訓練能力に限界がある。従って、日本のような国が中心となってトレーニングを主
催するシステムをアジア全域で構築、運用することが望まれる。日本がアジアの災害の影響を最
小限に抑えられるように、主導的に取り組んで頂きたいと思っている。
最後に、私は科学者として「貧困からの脱出」に取り組んでいる。貧困からの脱出には数多くの
問題が内在しており、具体的には災害や伝染病、さらにはエネルギーの確保という問題に直面し
ている。しかし、それらの解決のためには、科学技術をもって国々が助け合い、国家を貧困から脱
却させることが必要である。本フォーラムでこのような問題が取り上げられ、検討されていることを嬉
しく思う。
“The Five C’s of Information Design”
国際連合 国際防災戦略 情報管理ユニット 局長 Craig Duncan(国際連合)
「兵庫行動枠組 2005-2015」(※注1)では、プライオリティー3 の中で、情報管理および情報交
換が重要な役割を果たすことが示されている。先日のセミナーは、このテーマに関する初めての
国際会議であった。私たちは、この兵庫行動枠組をサポートするこの取り組みを強く支持してい
る。
本日のプレゼンテーションでは、情報デザインの 5 つの C(Content:コンテンツ、Continuity:連
続性、Cut to the chase:本題に入る、Context:前後関係、Community:コミュニティー)の構成につ
いてお話する。また、セミナーで成立したネットワークをあらゆる領域で役立てる方法についても説
明したい。
情報システムの目的は災害リスク軽減の実現であるが、これには基本情報に関する問題、例え
ば、インターネットの発展に伴うセルフサービス方式の情報経済への変化や、情報への新しいゲ
ートウェイの問題がある。様々な方法で、的確な防災情報を検索出来る仕組みを構築できるかどう
かがポイントであろう。
それには、まずコンテンツ作りから始める必要がある。情報は、兵庫行動枠組や国や地域の情
報など、多岐に分類されている。そして、災害リスク軽減のプロバイダー(提供者)はユーザー(使
用者)でもある。情報交換がユーザーレベル行われる事が重要である。
また、Continuity:連続性の C においては、情報の連続性を確保するため、ビジュアルアーキテ
クチャを効果的に作成することが重要な要素になる。セミナーにおいて、お互いのデザイン支援に
よる相互協力が可能な状態となったことで、相乗効果を得られると思う。
次に、「Cut to the Chase:本題に入る」である。一般的に、インターネットのページでは、検索エン
ジンで検索に引っかり易いサイトデザインと、相互リンクが重要なポイントになる。これを、災害リス
ク軽減ネットワークに適用する事は、容易に理解してもらえると思う。
4 つ目の C は Context:前後関係である。検索エンジンによって引き出される表示ページが、本
当は何を意味するかを考えなければならない。
188
そして、最後の C である Community:コミュニティーは最も重要な部分である。例えば、情報共
有化、レビュー、オンライン討論などを可能にする、最近話題のソーシャルネットワーキングは、情
報プラットフォームとして理解すべきである。
また、コンテンツシンジケートという新しい概念がある。ウェブサイト間で自動的に情報を共有し
ていくというもので、インターネット上の極めて有用な技術である。これにより、協力関係にある
IPDR 情報プラットフォーム間でコンテンツを共有し、アイデアを融合することが可能である。
これら 5 つの C は非常に単純な構成であるが、いくつかの問題がある。しかし、一方では、得ら
れるものも多く、情報プラットフォームの新しいネットワークとして、このワークショップからのどのよう
な結果が生まれるのかを楽しみにしている。
“Main Isssues of DPR Activities, Types of Information Resources Needed and Specific Roles of
Disaster Information Initiatives” 地震技術学会 理事 Amod Mani Dixit(ネパール)
私たちの組織 NSET ネパールは、地方自治体のリスク管理や訓練などのプログラムを実施する
活動を行っているが、今回は災害リスクの軽減活動を実施する上で、情報や研究の役割や、実際
に利用できる情報源について説明したい。
まず基本コンセプトだが、発展途上国においては、人々や政府が災害対策を実行できるように
なるまで時間がかかる。しかし、災害およびリスク軽減を行うことは可能である。優先度に鑑みて災
害対策の実施方法を知り、災害リスク軽減の意識を浸透させていくにはどうしたらよいのか。
Vitarana 大臣も強調していたが、どれだけの努力で実際に達成できるかは、個々の国によって異
なる。実際の取り組みでは、導入方法や知識の普及方法を見つけ出し、災害リスクの一部分でも
軽減できれば、ということから始めた。
また、知識だけではなく、その運用、改善を行わなければならない。その後、問題解決のなかで
政策を立て、実践していく必要がある。現実には、この過程でアプローチが多様化し、さらに多く
の問題が出てくる。また、知識の伝達が十分でないこともある。
例えば、地震予知の研究を行う場合、どのように実行していくかで、混乱するのではないか。ここで
必要な情報とは「What to:何をするか」より「How to:どのように実行するか」であると考える。知識
に対する欲求をくみ取れる個々への特別な対処が必要であろう。
私たちは地震に対する病院の準備態勢についてのプロセスを開発し、地域で訓練を行ってい
る。地震だけでなく様々な災害に対する準備態勢の方向付けを再検証したいと思っており、さらに
多くことを達成できると思う。
この様な取り組みを実行するため、私は Prevention Web という防災情報総合サイトや DRH に大
きな期待を持っている。私が思うに、技術だけではなく、コミュニティー以外の関係者や重要人物
を説得できるだけの何かが必要で、外部関係者や重要人物に対し、現実や必要性を理解してもら
う国内フォーラムや国際レベルのフォーラムを行う必要があると思っている。
災害情報の取り組みに関して、グッドプラックティスの推奨と現実レベルでの検証、技術監査に
よって裏付けされた正当性を得る必要があると考えている。
189
“Micro-Insurance for Natural Disasters-Concepts, Present and Future Outlook”
スタンフォード大学 名誉教授 Haresh Shah(アメリカ)
本フォーラムの参加は、今回で 2 回目になる。今回はマイクロインシュアランスの基礎的な考え
方について話したい。
裕福な者や権力者は、自らの資産を守るために保険に入っており、災害が発生しても苦しまな
い。一方、様々な災害によって子供、高齢者、そして貧しい人々は甚大な被害を受ける。マイクロ
インシュアランスは、災害で被害を受けた人々に手を差し伸べ、再び立ち上がれるようにすること
が目的であり、世界規模で協力し合い、取り組むことが必要であろう。
現在、貧困層を対象にした保険には表裏一体の 2 つの問題がある。所有資産がとても小額で、
リスク移転のための支払い能力が非常に低いことと、保険会社やリスク移転ビジネスを行っている
会社が貧困層に保険を提供する意思がないということである。しかし、提供者、受給者そして仲介
者の誰もが勝ち組になれるようなシステムを開発すべきでないだろうか。災害発生率、被災率が世
界で一番高いアジアの、特に貧困層を大量に抱えている国にこそ、マイクロインシュアランスを必
要としている。
マイクロインシュアランスによって、助けが必要な貧しい人々、支援したいところへ我々が直接手
を差し伸べることができる。知識を持つ人たち、保険業、投資銀行、政府など、当事者すべてが協
力し合うことで、より効率的に機能を発揮できる。私たちがやらなければならないことは、貧困層に
適した金融商品を提供することだ。私の後で講演する David Piesse 氏は私を啓発してくれた。
問題を提起、分析し、セッション2の質疑の際に述べた 7 つの連鎖の中の弱いところを強化する解
決策が必要になる。リスク管理はリスク評価だけではないことを示さなければならない。収集した情
報を処理して、問題点を特定すること。そして問題解決を図り、起こっている影響を低減することが
必要だ。
“Micro Finance and Disaster Risk Management”
サンマイクロシステム社 部長 David Piesse(アメリカ)
現在実施しようとしているマイクロ・ファイナンスの実用的な取り組みについてお話しする。
本年度の保険業界学会では、マイクロ・ファイナンスまたはマイクロインシュアランスが主要なテー
マとして選ばれるという、非常に重要な動向を示した。そして、マイクロ・ファイナンスの 63%はアジ
アで発生しており、私達の市場は拡大し続けている。例えば、中国やバングラデシュでマイクロ・フ
ァイナンスのプロジェクトを行っている。
また、マイクロ・ファイナンスには、規制が必要である。資金は多くの場合、海外にあり、新興成
長市場は、保険会社にとって魅力的な機会であると同時に、Win-Win 状態を作ることが可能であ
る。幸い、多くは新興国の規制により管理されており、実用的な取り組みが可能である。
では、マイクロインシュアランスについてはどうだろうか。
ポイントは、誰が実際に資金を管理し、誰が保険に入るかであり、今後より多くの保険業者が代
替的リスク移転に参加することになるだろう。この際、マイクロインシュアランスは、保険料を資本市
場に投入し資本市場を利用することによって、事業として成り立つことになる。
カトリーナおよび 9.11 後、サイド・カーと呼ばれる単独の大災害を対象とした投資が成長してき
た。サイド・カーは今後アジアに導入されることになり、資本市場にとって重要な仕組みになってく
190
ると思う。また、中国やイスラム経済とマイクロ・ファイナンスも非常に深く関係している。
今日、フラット化している世界で、テクノロジーがマイクロ・ファイナンスを可能にできるだろうか。
貧しい人々や資金提供を受ける人々に手を差し伸べ、持続可能性を与え、Shah 先生が述べたトラ
イアングルに結びつける必要がある。私達サンマイクロシステムズが達成しようとしているのは、実
際のピラミッド・モデルでの技術的均等である。
私たちはウェブを中心としたライフスタイルやソーシャル・コンピューティングと呼ばれる新しい概
念に移行しようとしている。新しいウェブ、携帯電話網を取り込み、最大の価値を得ることになるで
あろう。これら全て組み合わせることで、マイクロ・ファイナンスの価値を最大限に向上させることが
できる。
“Micro-Insurance for Post-Tsunami Scenario in Andaman & Nicobar Islands”
GOLFRE シニアアドバイザー R. Kuberan(インド)
マイクロ・ファイナンスに関する事例として、インド洋津波が発生した際の私たちの組織の援助活
動を説明する。
私たちは、津波で経済的に打撃を受けた人たちに対し、小額の融資を行うプロジェクトを行った。
ローン提供のプロセスは、商売、生産活動に対する申請者からの提案を受け、査定後、銀行を通
して最低約 100 ドル程度のローンを支払った。
プロジェクト関係者がローンの支払い及びプロジェクト活動を監視し、申請者がローンによる収
入を最初に得た後(ローン開始から約 18 ヶ月後)に返済が開始される。この際、受益者は小額の
利子を支払うが、 支払完了後の最終段階で蓄積された利息がインセンティブとして返金される様
なマイクロ・ファイナンスの要素(マイクロセイビング)を含んでいた。
また、返金すべきローンであることを被災者に受け入れさせること、異なる活動組織のキャパシ
ティに違いがあった場合など、マイクロ・ファイナンスの保険原理を実行する上で直面している問題
がいくつもあるが、それぞれに解決策を考え、ピラミッドの底辺にいる人々のリスクを保証、または
移転できるようにしなければならない。
3カ年のまとめと提言
これまでの議論を踏まえて、以下の 2 つの提言を行った。
提言 1
「自然災害対策に関する知識とこれに関する技術を災害軽減に携わる専門家が共有することが極
めて重要である。すでにアクセス可能であり、エンドユーザーが使える災害リスク軽減に関する情
報データベースのネットワークの確立に取り組まなければならない」
提言2
「一方、アジアの開発途上国において、マイクロインシュアランスは被災者の生活の再建と向上を
支援する重要な役割を果たすものであり、単に概念に終わらせることなく、民間や政府を巻き込ん
だパイロット・プロジェクトの早期実施を真剣に検討すべきである」
191
vii)
第 4 分科会「感染症対策」
「世界各国での公衆衛生研究と教育活動」 パスツール研究所 Paul Brey (ラオス)
永井先生には、感染症に関わる各種ネットワークとの交流に一役を買って頂き、特別に感謝の意
を述べたい。東南アジアやアジア全般は新しい感染症の「ホットスポット」と呼ばれ、感染症がとても
多い地域であるが、パスツール研究所は 117 年の歴史をこの地域に築いてきた。
まず、パスツール研究所の起源について説明したい。パスツール研究所は狂犬病ワクチンの開発
の成功に伴って、ルイ・パスツールにより 1887 年にフランスのパリで設立された。パスツール研究所
は当時 19 世紀の終わり頃の試みとしては非常に珍しい国際的な資金調達プログラムに基づいて運
営されてきた。ロシア、ブラジル、日本、フランスなど世界の数多くの国々から寄付が寄せられた。
2007 年のパスツール研究所の現状を見ると、国際ネットワークでは研究、公衆衛生、教育や研修
に焦点が当てられている。これらはルイ・パスツールが 1887 年に確立した基本テーマと同じである。
この研究分野では、感染症、免疫疾患、遺伝、神経疾患などの予防および治療の研究が重点に行
われている。公衆衛生分野では、レファレンスセンター、WHO 協力センターおよび外来患者用のセ
ンターがあり、公衆衛生の普及に取り組んでいる。教育および研修分野では 1,100 名の学生に教育
の場を提供している。世界 63 カ国から学生や研修員が参加しており、5 大陸で 30 もの研究所を設置
し、国際ネットワークを結んで活動している。
パスツール研究所はフランス政府の管轄下にあるものではなく、私立財団である。これは研究対
象を自分達で決定できるようにするためにルイ・パスツールが希望したことである。フランスの政府部
門からの資金援助は 32%で、寄付や彼の遺産などの運用により賄われている部分が 33%、そして
35%はビジネス開発から得ている。
パスツール研究所の研究の半分以上は感染症を対象にしている。ウイルス、細菌、寄生虫、真菌
性の疾患の研究に取り組んでいるが、行政担当者はこれらの病気は既に消滅、またはほとんど無く
なったと思っている。しかし、これらの病気は再出現する恐れがあるため常に注意を払わなければな
らない。
次に公衆衛生およびサービスの分野での活動について説明したい。パリのパスツール研究所は、
20 のレファレンスセンターおよび 8 つの WHO 共同センターを持っており、伝染病の監視を行ったり、
国家や国際レベルで技術アドバイスを行ったりしている。また、CIBU と呼ばれる緊急介入部署では
24 時間 365 日待機して世界中のチームと緊密に連携を取って、未知の病原体に対応している。
パスツール研究所の海外ネットワークはパリで設立されてから 3 年後にできたもので、ルイ・パスツー
ル自身のアイデアに基づいている。ルイ・パスツールは、常に科学は人間を救うべきであると考えて
いた。私はこの教えが世界のパスツール研究所の成功を導いた要因だと思う。何故ならば、数多くの
国がこのような科学的な取り組みを重要だと認識しており、パスツール研究所は政治的に独立した
立場にあり、公衆衛生や研究課題に積極的に取り組み人々を救ってきたからである。1891 年から現
在まで世界で 30 のパスツール研究所が設立されてきたが、同じ地域の研究所は共通プロジェクトや
地域プロジェクトにおいて協力し合っている。例えばアジアでの共通プロジェクトは、鳥インフルエン
ザを重点として新しい感染症の研究を行うことである。
パスツール研究所はラオス政府から要請を受け、現在ラオスに研究所を建設しているところで、
2009 年には完成する予定である。新しいウイルス、生物媒介による感染症、人の疾患に影響する環
境に関する研究に取り組む予定で、ここに BSL3 施設を将来設立することを強く希望している。アジ
192
アのパスツール研究所のほとんどは、BSL3 設備を持っている。研究所の内部のスタッフだけでなく
研究所の外部の人々の安全のために、さらに危険な病原菌の特定および調査を行うために、バイオ
セキュリティーを備えた設備を持つことは必要不可欠なことである。
最後に、世界で実施している教育と研修トレーニングについて話をする。これはパスツール研究
所とネットワークの大変重要な分野である。パスツール研究所は科学的専門分野の教育のパイオニ
アと自負している。パリでは毎年 12 のマスターコースを設けており、60 カ国から来た 800 名の学生と
インターンが在籍し、毎年パリのパスツール研究所で勉強している。
「東南アジアでの熱帯医学研究」オックスフォード大学 Nicholas White (タイ)
オックスフォード大学・ウェルカムトラストの国際協力における長い経験をお話ししたい。私達のネ
ットワークは計画されたものではなく、自然に育っていったネットワークということが言える。私が英国
を拠点に活動していたときのオックスフォード大学と東南アジアの研究所との間で学術的なパートナ
ーシップが結ばれ、現在ではアフリカでも研究を行っている。今日はアジアでの活動についてお話
する。
私達は 1979 年にマヒドン大学の熱帯医学の教授陣と共同研究拠点の開設に着手した。マヒドン
大学はタイの一流の総合科学大学でウエルカムトラストが主な資金援助を行っている。ウエルカムト
ラストは英国に拠点を置く慈善基金団体である。今まで幸いに学術活動においてあまり干渉を受け
ていない。私達は非常に実践的であり、5 年 10 年という適切な時間枠で医療に改善をもたらすような
研究を行うことを目的にしている。
最初にタイに到着したときはベトナム軍がカンボジアの国境の向こう側にいる頃で、規模はとても
小さく、3 人の外国人研究者が参加しており、チームのほとんどはタイ人だった。私達は、熱帯性マラ
リア、狂犬病、蛇咬症の 3 つの病気の研究を行った。このマラリアへの着手は正解であった。世界の
感染症による死亡数は減少傾向にあるが、HIV やマラリアは増加傾向にある。マラリアの増加傾向は
医療制度の問題だけを理由にすることはできなく、薬剤耐性が主な理由ではないかと考えている。
現在、タイではほとんどマラリアはないが、国境付近および隣国のカンボジアには、世界で最も強い
薬剤耐性を持つマラリア原虫がいる。この原虫を分子遺伝学的に調べてみると、この地域を発生源
とする原虫がアジア全体に、さらにはイタリア、アフリカにまで広がっていることが分かった。これは再
び繰り返されてはならない。
私達が取り組んでいた研究は病院だけではなく、コミュニティー、難民キャンプの診療所でも行わ
れ、今日まで続く長期的な共同研究に発展した。今でもミャンマーから 15 万人の難民がタイ-ミャン
マー国境のキャンプに流れ込んで来る。タイのマラリア発生はほとんどがここで起こっており、私達は
その治療に当たっている。このユニットは世界の他のユニットのどこよりも多く抗マラリア薬剤の研究を
行ってきた。公開された抗マラリア薬剤の臨床試験の約 6 分の 1 をこのユニットが実施してきた。その
中の重要な取り組みとして、アルテミシニン(artemisinin)による治療の導入がある。この研究はこの後
アフリカでも行われ、その結果世界中でアルテミシニン併用療法が第一選択治療法として熱帯マラリ
アに適用されている。
1991 年に私達はベトナムの熱帯病センターと共同研究を始めた。このユニットは今、鳥インフルエ
ンザの臨床試験を行う主要な研究センターである。さらにここではマラリア、腸チフス、デング熱、化
膿および結核性髄膜炎の研究も行い、その結果これらは今ベトナムでは著しく減っている。日本脳
193
炎の研究では大阪大学から効果の高いワクチンが提供されている。また当初より、ポリオおよび、急
性弛緩性麻痺の研究も行っている。
2000 年にラオスで共同研究が始まった。Paul Brey さんも言われたように貧しい国で、そこでマラリ
ア、敗血症の原因解明や、腸チフスについても研究を行っている。幸いにも発生率は比較的下がっ
ている。リケッチア症の取り組みも増えている。
私達の取り組みを例えで表現するとイチゴの栽培と言うことができる。小さく始めることが重要なの
だ。私達は壮大な計画や東南アジア全体のネットワークの壮大なビジョンを最初に立てない。簡単な
取り組みから始め、関連する臨床治療の問題に挑戦し、答えが出せることから始める。あらゆるプロ
グラムには長い間投資し続ける必要があるということをお伝えして、終わりにしたい。
「東南アジアでの熱帯医学研究」
マヒドン大学-オックスフォード大学熱帯医学研究所 Nicholas Day (タイ)
既に私達の研究所の経緯については説明されたが、タイユニットについて少しだけ説明を追加し
たい。いわゆる、マヒドン大学-オックスフォード大学熱帯医学研究ユニットおよびベトナムユニットは
30 年以上受け継がれてきた。
私達の目的は、東南アジアをはじめとする人口の多い農村部における、罹患率や死亡率の高い
感染症の効果的かつ実用的な診断手法および治療手法を開発することである。私達のいるバンコク
はミッションを遂行する拠点としてはとても好都合な場所である。バンコクから 2,000 マイル以内には
中国やインドがあり、世界の人口の半分が居住している。
まず、私達が農村に住む人を調査する場合、その地域にどの疾病が存在するかを調べるところか
ら開始する。これは臨床疫学であり、我々の研究の非常に重要な位置を占める。疾病が確認された
ら、病原体の病態生理と病理生物学を研究し、新しい診断テスト方法の開発と検証を行う。こういっ
た作業を終えると、啓発に取り組む。
私達の組織はハブアンドスポーク方式で、ハブはバンコクであり、研究室であり、本部で後方支援
をしてくれる事務局である。そしてこれらが共同研究や研究室、病院、そして末端の臨床研究所とい
ったところと有機的に結びつき、スポークとなる。これが現在の私達の姿であるが、Nick 教授が言わ
れたように最初からこのように計画されていたわけではなく、20 年の間に育ってきた研究の現場や協
力体制なのである。臨床研究施設はアジアの他、モザンビークなどのアフリカ地域にもたくさんある。
設立当初のテーマは White 教授が話したとおりだが、最近私達はすべての研究施設でいっせいに
蛇咬症や狂犬病研究を中止し、非マラリア病原体の微生物学的研究に力を入れるようにした。現在
重症マラリアの研究はアフリカで行っている。重症マラリアの小児患者に対するアーテスネートとキニ
ーネの比較研究をアフリカ全土にわたる多施設調査としてコーディネートしている。これは近い将来、
重症マラリアに関する最大の調査となるだろう。
我々は、バンコクとラオス(これは現在建設中)にある BSL3 実験室を含む非常にアクティブな微生
物研究施設のネットワークを持っている。これは私達の行っている熱病の臨床疫学のなかで最も重
要な要素で、私達が対象とする地域すべてを網羅している。このネットワークを使った臨床疫学研究
の結果、現在タイで熱病を起こす原因として、ツツガムシ病や草原熱など、リケッチア菌によって引き
起こされているものが多いことが明らかになった。現在タイのユニットではデング熱など共に、鼻疽症
やリケッチア菌による疾病も重要テーマとして取り組んでいる。
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タイでは現在1年間を通じて 5 日に一報、ベトナムのユニットでは 2.5 日に一報論文発表をしてい
る。ウエルカムトラストは草分け時代から活動チェック(評価と査定)を行っており、1979 年に始まった
当初、5 年ぐらいまでは論文もあまりでなかったが、閉鎖するようなことはなかった。評価・査定者はコ
ラボレーターや病院で数多くの病気に取り組んでいることが分かると、高く評価してくれ、私達は取り
組みを継続することが出来た。
我々のユニットの成功には、組織的に展開していったこと同時に、関連する大学からの長期的な
サポート、ウエルカムトラストからの継続した資金援助が必要であった。そして対象国を変えたり、医
師をローテンションしたりしないということも重要である。協力関係を成功させるには長期的なサポート
が不可欠である。
本研究所 27 名のゲストスタッフの内、半数以上が医師である。臨床研究を行う研究機関には医師
と科学者の両方が存在することが非常に重要である。日本でそれだけ多くの医師を集めるのは難し
いと聞くが、それは日本と英国の社会の違いということではないと思う。ウエルカムトラストも、以前は
これほど寛大な姿勢をとっていたわけではなかった。英国や北米の他の資金調達機関も普通 3、4
年で評価を下す方針を持っている。どんな取り組みを始めるにしても、協力関係を築く上で複雑な問
題が予測されるので、始める前に文化を越えた、能力の構築が必要だと思う。
「感染症の国際研究ネットワークづくりのための日本の新しいプログラムについて」
(独)理化学研究所 感染症研究ネットワーク支援センター センター長 永井 美之
感染症研究のための国際ネットワークづくりの新しいプログラムを紹介したい。このプログラム誕生
の背景として日本における主要死因の死亡率傾向の変化がある。1950 年以前の 3 大死亡原因はす
べて肺炎、気管支炎、胃腸炎、結核といった感染症であったが、50 年代半ばに劇的な変化があり悪
性新生物、脳血管疾患、心疾患と全く別のものに完全に塗り替えられた。日本人は感染症を克服し
たのだと思い、感染症研究を続ける人材にも翳りが見えるようになったため、感染症を起因とする公
共衛生の緊急事態への対策が滞ることとなった。しかし、最近みられた SARS の発生や高病原性鳥
インフルエンザの猛威など、新興感染症が最も緊急性を有した医学的課題であり、日本における感
染症対策を真剣に考えなければならない事態になっていることが、再確認された。このような背景に
対し、文部科学省は 2005 年度に、この研究分野における研究の再活性化と人材育成の重要性を強
調し、感染症のための研究センターを設立した。このプログラムには、日本の大学と研究機関が新
興・再興感染症が発生している、もしくは発生の危険性のある国々で二ヵ国共同研究拠点を設立し、
それらをネットワーク化するというアウトラインが盛り込まれている。2005 年に東京大学は中国に 3 つ
の研究拠点を、長崎大学、国立国際医療センター(IMCJ)はベトナムに研究拠点を設立した。また大
阪大学と動物衛生研究所(NIAH)は共同でバンコクのタイ国立衛生研究所内(NIH)と NIAH 内に研
究拠点を設置した。私達の二ヵ国間協力の目的は、対等なパートナーシップを基盤として、第 1 に地
域的、世界的影響力を持つ感染症の解明、第 2 に診断・治療・予防の技術革新、第 3 に本分野にお
ける人材育成などを促進することで、私達自身と他の国の安心と安全に寄与することである。
このプログラムは 2004 年の事前評価に基づいて 2005 年に 5 年の短期プログラムとして開始され、
2007 年に中間評価が行われ良い評価を得た。引き続き 2009 年から 2014 年までの第 2 次計画まで
継続できることを願っているところである。このプロジェクトは、開始時は資金調達計画が非常に厳し
かったこともあり、5 年という短期プロジェクトとしてスタートしたが、このプログラムは長期計画で行わ
195
れるべきであり、短期的視点に基づいたものであってはならないことが開始にあたって強調された。
アメリカ合衆国と日本の医学と公衆衛生分野に対する民間からの資金拠出を比較すると 3 桁の差が
ある。日本で民間からこれだけの援助を得ることはまったく不可能である。この差は、調査した限りで
は、税額控除額の差などではなく、おそらく個人や企業の社会への貢献に対する社会的風潮(寄付
文化)の違いに帰する部分が大きい。プログラムの延長に必要な資金の大部分は政府を頼らざるを
得ないが、プログラムに対する一般社会の認知度を高め、政府のみならず民間からの支援を得ようと
する努力はなされなければならない。私達はプログラムを社会にもっと認知してもらえるように一層の
努力をする必要があるが、税に対する方針、そして寄付に対する民間への理解は政府レベルから変
える努力をして欲しいと思う。
「日本-タイ 新興・再興感染症共同研究センターの設立と活動」
新興・再興感染症共同研究センター センター長 西宗 義武
日本・タイ新興再興感染症共同研究センター(RCC-ERI)設立の背景については先の発表で既
にご紹介があったが、SARS の発生と最近の鳥インフルエンザの流行、こういった種類の新興疾病や
これに限らず、従来型感染症の脅威がある。国境を持たないこれらの新興・再興感染症を克服する
ため、大阪大学とタイ保健省医科学局との学術および技術交流協定書に基づいた共同センターを
タイに設立することになった。これは当初海外新興・再興感染症研究センター設置のプログラムに基
づいて文部科学省の後援で開始した。この連携はもちろん新興・再興感染症への備えのためであり、
最終のゴールは、言うまでもないが、新興・再興感染症を予防し制御することである。
このセンターは、BSL 3 の研究室が中心となっており、プロジェクトは細菌、ウイルス、バイオインフ
ォマティクス研究の 3 本の柱に分けられ、感染症の様々な分野でタイ国立衛生研究所(NIH)と協力
連携して行われている。また若い科学者を育成することも非常に重要な目的のひとつである。
細菌部の研究として腸内細菌感染や呼吸器細菌感染の研究のほか、ヘリコバクターピロリ菌と胃
癌との関連性に関する研究がある。ウイルス部では HIV ウイルスやインフルエンザ、デング熱、E型
肝炎ウイルスやその他のノロ、ロタ、サポなどの腸内ウイルス感染の研究をしている。バイオインフォ
マティクス部では関連研究や 2 部門のデータを活用して発展させた研究が行われている。
人材育成については、例えばタイ-日本間で若手研究者を留学させて人材育成を行う、国際科学
会議や大会に参加して手伝いをすることを奨励する、また、毎月開く進捗報告会において RCC-
ERI のメンバーに加え、2 ヶ月に 1 度くらいの割合で専門家を日本からも多く招いて講座やセミナーな
どを行っている。
RCC-ERI では全体で 20 名のメンバーがおり NIH の研究グループとともに連携して、ワーキンググ
ループを組織し、その会議およびタイ保健省で承認された研究テーマに沿って研究している。勿論、
この共同研究は両者のメリット、対等なパートナーシップ、タイ王国のメリットに基づいて行われており、
日本もその恩恵に預かっている。
解決しなければならない問題としては永井先生がすでにお話されたように、資金援助を得る重要
な時点にあり、持続的な資金援助が政府だけではなく、民間からも必要であることである。これは単
に RCC-ERI だけの抱える問題ではなく、現在海外で実施されているすべてのプロジェクトの抱える
問題でもある。
最後にタイ保健省ならびに NIH の人たち、特にタイ保健省医科学局次長であるパイジット教授や
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本日お見えになっている NIH 所長であるパトム教授のご尽力なしでは、RCC-ERI の設置と活動は実
現することができなかった。深く感謝したい。
「ベトナムにおける新興・再興感染症に関する共同研究」 長崎大学 教授 森田 公一
簡単に長崎大学とベトナムの共同研究の歴史、特にベトナム国立衛生疫学研究所(NIHE)につい
て説明したい。私達の共同研究は 1980 年代半ば、熱帯医学研究所の前所長であった五十嵐教授
が WHO の交流プログラムを通じて、日本脳炎ワクチンの製造に関する技術交流を始められたことか
らスタートした。2000 年には日本学術振興会(JSPS)後援による別のプログラムがスタートし、また、
2003 年から 2007 年にかけて、長崎大学とベトナム NIHE の共同研究をサポートする、新しい文科省
プロジェクト、21 世紀 COE プログラムが実施された。これらの事業は短期の共同研究であるが、2005
年からこの感染症研究ネットワークのプロジェクトが開始され、長期にわたる共同研究ができることと
なった。
このプロジェクトの目的は最先端の研究が可能になるだけの設備を整えた研究センターの設置と
そこで行われる研究を通して、臨床的、疫学的研究を推進するとともに、これらの研究から得られた
情報を分析、推進、活用、そして普及させることにある。このプロジェクトの構造を簡単に説明すると、
長崎大学が日本側の中心的実施機関で、長崎大学のカウンターパートが NIHE となる。また、国立
国際医療センター (IMCJ)もこのプロジェクトに参画しており、こちらのカウンターパートはハノイにあ
るバクマイ病院である。その他ベトナムのその他の機関もこのプロジェクトの共同研究に参加している。
長崎大学チームの主な研究分野は動物由来感染症、ベクター媒介疾病、特に地域密着型の、食品
ならびに空気を媒介とする感染症で、IMCJ*5バクマイ病院グループは病院ベースの研究と HIV と結
核の研究を行っている。このプロジェクトは国立感染症研究所(NIID)が後援する JICA プロジェクトと
密接な関係がある。この JICA プロジェクトは BSL3 実験室と可動式 BSL3 実験室を NIHE に提供する
ので、私達の研究活動は今後強化されることになる。
最近と過去のプロジェクトの結果を簡単にご説明したい。ご存じのように最初に SARS が報告され
たのは 2003 年ベトナムで、続いて香港では感染者が約 40 名確認され、6 人が SARS で死亡してい
る。私達はベトナムにおいて、効果的な SARS の抑制方法を示すことができた。この SARS 発生の間、
私達は速やかにランプ法を利用して遺伝子増幅法を開発し、これはその後日本で商品化されその
技術が NIHE*8にフィードバックされた。つまりこの方法を SARS の確認に利用することが可能になり、
ひいては疾病発生の抑制が実際にできるようになった。またベトナムでの成果を利用して血清診断
法が開発され、この方法についても NIHE にフィードバックを行い、生きたウイルスを使わなくても血
清診断ができるようになった。私達の活動は新興感染症や熱帯疾病の調査に寄与し、それは次に
現存する新興・再興感染症の警戒メカニズムの開発と維持に役立つものだと信じている。また、私達
の活動はベトナムやアジア、さらには世界中の新興感染症のリスク評価に寄与するもので、このよう
な活動は診断ワクチンや抗ウイルスバクテリア薬などのツール開発のトランスレーショナルリサーチに
大きく寄与するものである。
「岡山大学インド感染症共同研究センターについて」
岡山大学 インド感染症共同研究センター 竹田 美文
岡山大学インド感染症共同研究センターは、コルカタにあるインド国立コレラ・腸管感染症研究所
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(NICED)に先月の 9 月 1 日に設置されたばかりである。私と所長を含めて 3 名の研究者が NICED の
研究者と共に研究を始めている。今日は私達の NICED の研究者との連携協力の歴史をご紹介した
い。
25 年前、1982 年に私が初めて NICED を訪れたときを機に私は NICED とコレラを中心とした下痢
症の共同研究に取り組むようになった。共同研究はその後私が国内の所属を変えても変わりなく継
続され、2007年まで続いた。その成果は約 200 報の下痢症に関する共著論文として、インド、日本、
そして国際的な学術雑誌で発表された。最も大きな業績は 1993 年 3 月の NICED*11 グループ、国立
医薬品食品衛生研究所、国立成育医療センターと私のグループである京都大学医学部微生物学
科の共同研究である新型コレラ菌 O-139 の発見である。WHO からの反応は迅速で、同じ年の 5 月、
WHO は血清型 O-1 と O-139 の両グループを原因とするコレラの発生を宣言した。1997 年に WHO
は新興・再興感染症を定義したが、コレラの中でもコレラ菌 O-139 によるものは、重要なバクテリア新
興感染症とされている。新興下痢症の重要性も国際協力機構(JICA)によって認められている。新興
下痢症の制御に関する JICA・NICED プロジェクトが 1998 年にスタートし、総額 74 億円が 1998 年か
ら 2008 年の間に拠出されている。新興下痢症制御に関する JICA・NICED プロジェクトは JICA に高
く評価され、2005 年度・2006 年度には新研究棟のために 160 億 7 千万円、設備のために 52 億 7
千万円の無償資金協力を受けている。
最近では、ソウルの国際ワクチン研究所と NICED が共同で、経口ワクチン候補のコレラワクチンの
トライアルを行った。
バングラデシュ国際下痢症疾病研究 センターに副所長として 7 年間勤務された GB Nair 博士が、
8 月 23 日に NICED の所長に就任された。私と GB Nair 博士は本プロジェクトに関して、深く協議し
て、3 つの組織プロジェクトを提案した。我々は最も重要な課題を、下痢症専門病院における下痢症
調査とし、次に便標本から直接、腸内病原菌を特定する新技術の開発とした。本プロジェクトのため
に 16 名のインド人研究員を雇用した。本プロジェクトを成功に導くため、GB Nair 博士と私は、インド
誕生の父であるジャワーハルラール ネルーが示した「餓えと貧困、衛生と文盲、迷信と伝統・風習の
撲滅、膨大な資源の浪費、飢餓状態の貧民が住む裕福な国…これらの問題を解決するのは科学だ
けである」という哲学を共有している。
「アジアの感染症制御において国立感染症研究所が果たす役割」
国立感染症研究所 所長 宮村 達男
アジア圏の感染症制御において、私どもの国立感染症研究所(NIID)の現状と私どもが果たす
べき役割とその理念をご紹介したい。
昨今、新興・再興感染症が世界中で発生しており、世界的な脅威となっている。次々と下痢症
やウイルス性疾患が新興、再興している。1996 年に WHO が感染症の危険性は、世界レベルで、
危機的状況にあり、感染症から安全な国は 1 つもないと警告したが、これは日を追うごとに真実と
なっている。昨年、このような話をしたので、今日はこの 2 年間の状態をお話ししたい。
最初に、状況と理念、日本と世界における研究所の役割をご説明したい。私達の研究所は国
立機関であり、パスツール研究所とはまったく別個のものである。アメリカにはアメリカ疾病予防管
理センター(CDC)、アメリカ食品医薬品局(FDA)、そしてアメリカ国立衛生研究所(NIH)所管のアメ
リカ国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID)があり、それらすべてはそれぞれ異なった機能を持
198
つ国際的研究所によって構成されている。機能が重複することもあるが、NIID ではすべて国際レ
ベルに基づいた 3 つの機能を持っている。NIID は疫学および感染症制御の任を世界レベルで負
っていると同時に、国立研究所としてワクチンやその他の生物学的危機管理研究室として機能し
ており、日本人に対して大きな責任を負っている。研究所には 20 部門と 3 つのセンターがあり利点
は、例えば SARS 発生の場合、生物学部、免疫学部、病理学部の混合というような、部門を超えた
プロジェクトチームが組めることである。
今年は私達の研究所の開所 60 周年にあたるが、私達の研究所の重要な役割の 1 つに国際的
な共同研究がある。現在、2 つの大きな JICA プロジェクトが進行中でその 1 つが、森田先生と Brey
氏からもお話があった、ベトナムに対する可動式 BSL3 施設の JICA からの提供である。JICA とし
ては初めての提供で、これはハードだけでなくソフトも移行すべきであるとの考えのもと、バイオセ
イフティの理念や技術移転も含めての提供であった。このプロジェクトは来年終了し、別のプロジ
ェクトに引き継がれる予定である。その他 JICA 以外にも複数のプロジェクトが進行中で、モンゴル、
中国、韓国、タイと覚書を交わしている。
感染症制御のための国際協力の緊急課題の一つは、インフルエンザネットワークである。WHO
がこの国際ネットワークを組織し、共同研究センターを 4 ヵ所設置した。NIID の方針はこういったす
べての共同研究を WHO の元で行うことである。しかしながら二ヵ国間協力は多くの政治的、経済
的側面に影響があるので、WHO の下、国際的レベルで協力して純粋な科学分析を推し進めるこ
とはむしろ難しいかもしれない。これが国際的レベルで協力する上でのデリケートな状況だと思わ
れる。流行性ウイルスはいつ発生してもおかしくなく、その予防と対策、連携協力が極めて重要で
ある。
「タイー日本 新興再興感染症の共同研究」
タイ国立衛生研究所 所長 Pathom Sawanpanyalert (タイ)
すでに西宗教授より連携協力についてはお話があったので、政策的課題に加えて、タイ保健
省、そして大阪大学の間の連携協力の特徴について詳しくご紹介したい。
新興・再興感染症の重要性は言うまでもないことである。これは国内だけの問題に留まらず、ほ
とんどのものが地域的、世界的な問題となる可能性を持っている。独自に解決できる国は一国も
ない。したがって国際的協力は不可欠で、まだまだ力を合わせて解決しなければならない課題も
多くある。国立機関の視点から、タイ保健省が医科学局(MSC)を設置した経緯を説明したい。MSC
はタイ保健省の 6 つの部門のなかでメインの部門で、新興・再興感染症の研究と研究室レベルで
の調査を任されている。機能の面からいえば、MSC には 2 つの機能があり、1 つは国立のリファレ
ンスセンターとして機能することで、もう 1 つは研究室として研究室主体の研究を行うことである。つ
まり、手法や検査キットの開発、そしてワクチンの開発などで、そのほとんどは共同研究を行ってい
る国際的なパートナーがいる。過去の日本とタイの共同研究は、主に医科学局で行っており、医
学分野で多くのプロジェクトを行った。JICA との協力もあったが、少なくともタイについては終了し
た。
また、JST と協力しているワクチン候補に関する特別プロジェクトがある。そして文部科学省とタ
イ保健省によるプロジェクトが始まり、実施機関として日本側は大阪大学微生物研究所が、タイ側
は MSC とタイ国立衛生研究所(NIH)*7が指定された。インフルエンザ、デング熱、HIV といったウイ
199
ルスが今のところ、主な研究対象となっている。
MSC の経験から国際共同研究に関して3つのポイントを述べたい。まず資金面に関してである
が、多くの共同研究の経験の中で、今回のタイと日本の共同研究は政府が非常に注目した。政府
は新興・再興感染症の予防と制御に有効な情報と技術をどのようにして生み出すのかを知りたい
と思っている。私達はスポンサーであるタイ保健省にはこういった共同研究を通して、新興・再興
感染症に対する予防・対策をどのように行うかなど示せば、タイ側として政府は資金を提供するで
あろうと思う。
2 番目のポイントはこの連帯協力の重要な目的の 1 つの若手の人材育成であるが、私が見る限
り、もう少し注意深く行う必要があるのではないかと思う。日本人研究者は今も昔も研究熱心である
が、以前来ていた日本人研究者は今よりもっとタイの社会的、文化的、人間的な特徴を理解しよう
としていたような気がする。長年にわたって継続する連携協力を望むのであれば、こういった連携
も重視すべきである。
3 つめのポイントは新興・再興感染症に関して研究という面から見るとき、1 つ欠けているのは危
機管理対策だと思う。タイのプロジェクトに関しては研究志向が強く、よい意味では科学とテクノロ
ジーの発展になるだろうが、同時に科学とテクノロジーはしっかりした危機管理システムの上に構
築されなければならない。日本の国立感染症研究所のような機関をループに組み込み、危機管
理対策全般に力点が置くことが、長年にわたって継続可能な、特に新興・再興感染症の予防と制
御の分野での連携協力の本質的な要素となると思われる。
「アジアの持続可能な発展のための二国間・多国間感染症共同協力及びネットワーク」
マレーシア保健省 疾病管理局 局長 Hasan bin Abdul Rahman(マレーシア)
本日の話にあったように人の移動、薬剤耐性の問題など感染症の伝染に寄与する要因はたくさ
んある。また感染症の発生に寄与する要因も、薬物使用者にみられる HIV の流行は静脈注射を
介しておりこのような新たな感染媒介物や、古い感染症の新しい地域への飛び火など多くある。
この状況を打破するために、私達は研究能力の向上に優先順位を高くおいて、アメリカ疾病予
防管理センターと WHO の指導を受け、疫病専門家プログラムを確立した。また、効果的な産学官
の連携協力の視点からも対策を立て、これらを他の国特に ASEAN 諸国と共有したいと思っている。
そして、同様に情報や専門家の経験を共有も重要である。データベース共有、疫学的な研究能
力の強化、ウェブサイトでの加盟国間の情報共有、教育制度の確立を目指している。
日本に関して言えば、2003 年の SARS 発生後に発足した ASEAN プラス 3 新興感染症プログラ
ムのなかで関与しており、これは研究、教育、情報共有の 3 つのプロジェクトからなる。結論として、
感染症は存在し、国境は関係なく拡散する。したがって、加盟国の研究施設で何ができるのかを
特定し研究を効率的に行うこと、日本のような経験のある国が専門家を派遣して教育を行うこと、さ
らに情報を共有して危機管理に備えることを目的としている。ガイドラインと標準対策手順も、特に
加盟国共通の疾病に関しては、共有できるであろう。教育は他の加盟国にも門戸が開かれるべき
で、人材を地域レベル、また世界レベルで最適化することができる。そして、親密な友好関係を築
くことも重要である。これは ASEAN 諸国と ASEAN プラス 3 では実行されており、さらに良好に、ま
た強化されることを願っている。
200
2 カ年のまとめと提言
・提言内容
(1)持続的な感染症研究プログラムの運営
文部科学省は、2005 年度より「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を開始した。これは、
日本側がイニシアチブをとって、アジア各国の国情にあわせつつ感染症と闘うための海外研究拠
点の設置とそのネットワーク化を進めるものである。同様なミッションを共有すると見られるフランス・
パスツール研究所海外ネットワーク及びイギリス・オクスフォード大学のウエルカムトラスト熱帯病研
究ネットワークの経験は、国外拠点ベースの感染症研究は長期にわたりカウンターパートとの信頼
関係を構築することにより初めて成果を挙げうることを教えている。日本のプログラムもそれに見習
い、長期にわたって維持する必要がある。現在の 5 年間という短期プログラムを 20 年~30 年ある
いはそれ以上先を見越したものへと進化させ、恒久的アジア研究ネットワークの確立を目指すべ
きである。
(2)パスツールおよびオクスフォードネットワークとの連携
パスツール研究所ネットワークは、アジアやアフリカ等に30箇所の研究拠点を有している。これ
らの設置は相手国から感染症研究への協力を要請されることから始まる場合が多く、その国の感
染症問題の実情にあった研究テーマがトップダウン的に決定されている。その使命はパスツール
憲章(最高レベルの研究、公衆衛生への貢献、教育・人材育成)としてまとめられている。一方、オ
ックスフォード熱帯病研究ネットワークは、東南アジア、アフリカなどで流行している感染症を最先
端科学技術で解明し、臨床に結びつけることを目的としており、主に研究者同士の信頼関係で運
営され、現地の感染症対策や公衆衛生ポリシー決定への直接的関与という側面は比較的希薄で
ある。
日本の感染症ネットワークプログラムは、こういった両者の哲学、歴史、活動実績から学ぶべき
点を取り入れ、運営を続けていかなくてはならない。両ネットワークからの助言は非常に有益であ
ろう。そのために、両者の代表を日本の感染症プログラムのアドバイザリーボードに招くことも一案
である。また、パスツール、オックスフォード、日本の3ネットワークの研究者間の定期的な交流も重
要であることから、しかるべき近い将来に合同シンポジウムを開催し、その後、定期化することを考
えて行きたい。シンポジウムは、アジア各国の感染症研究者も交えたものとし、アジア各国の感染
症研究所と 3 ネットワークの日常的連携へと結びつけていく。
(3)研究活動促進のための資金制度の見直し
日本感染症研究ネットワークを継続するためには、日本国内での協力体制を整えることが重要
である。今後支援センターと参加大学・研究機関が中心となり企業や個人からの民間資金を得る
努力をする。そのためには活動の社会への普及を積極的に行い、社会の理解を得なくてはならな
い。資金提供者への説明責任として、入り口の課題設定から出口の期待しうるアウトカムまでの5
年毎の具体的なロードマップ等の作成も必要となろう。しかし調査を行ったところ、日本では”寄付
文化“が育っていないことから、民間からの寄付はいくつかの個別プロジェクトへの研究費という範
囲に止まり、プログラム全体を動かすようなウエルカムトラスト的な大規模なものは、望み薄であると
いう結果が得られた。したがって、プログラム資金の主要部分は政府資金に依存することになる。
日本政府には、この点を踏まえて、本プログラムへの事業費の長期的支出の枠組みを早期に提
示することが求められる。
201
・バックグラウンドについて
SARSやトリインフルエンザの流行が世界を震撼させたように、感染症の克服は国境を越えて
広がる人類共通の大課題である。肝炎、下痢症、結核、エイズや地域固有の各種風土病なども深
く潜在しており、それらは社会的条件及び自然環境に強く依存しつつ、いつ顕在化しても不思議
でない状況にある。それにも関わらず1950年以降、感染症死亡率の激減などから日本では感染
症に対する危機管理意識が薄くなり、人材も極度に不足している。第4分科会ではこの現状を重く
とらえ、21 世紀のアジアにおける共通の克服課題として感染症に係る議論を積み重ねてきた。
・2カ年の討議内容・結論について
昨年開催された「第2回アジア科学技術フォーラム」において、第4分科会ではアジア各国の政
策担当者、研究者及び国際機関関係者を招き、各国の現状を報告してもらった。タイ・マヒドン大
学シリラ病院の Dr. Prida Malasit は、海外の研究機関との連携がデング出血熱による死亡率を低
下させた経緯を語り、情報・施設・人材等全てを共有するという国際協力体制により、極めて高度
な研究成果が挙がっているという実例を述べた。インド・医療研究審議会の Dr. N. K. Ganguly はイ
ンドでは毎年未知の感染症発生を経験しており、人的・経済的ダメージの大きさを語り、日本から
の協力への期待を表明した。中国・北京工業大学の Prof. Yi Zeng は中国におけるエイズやトリイン
フルエンザ等の被害を報告し、これまでの日本との共同研究では、制度的に不便な面も経験して
いるという話が出た。
国際機関の立場から、国際ワクチン機構の Dr. John Clemens は多くの人々が入手しやすい安
価なワクチンの供給を可能とするためのプログラムを紹介した。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ基金か
らの支援、インドネシアやインドの製薬会社とベトナムの研究機関との協力・連携の下、このプログ
ラムは着実に進展しており、南南協力を強力に進めていると述べた。日本の国立感染症研究所の
宮村達男所長は、同研究所の国際研究ネットワークについて報告を行うとともに、JICA、WHO 及
び大学と研究交流を通じ人材育成を行っていることを説明した。さらに定期的なシンポジウムの開
催を通して正確かつ迅速な情報の共有を目指し、かかる情報の分析結果を広く共有する必要性
を論じた。
「第 3 回アジア科学技術フォーラム」では昨年度の議論を踏まえ、国際的な研究協力体制の確
立と強固なネットワークの構築が不可欠であるという共通認識の下、長年に渡り世界中に研究ネッ
トワークを築いてきたフランス・パスツール研究所海外ネットワーク及びイギリス・ウエルカムトラスト
熱帯病研究ネットワークの関係者にその経験を語ってもらった。さらに、タイ及びマレーシアの保
健省の政策担当者からは、日本のさらなるリーダーシップに対する期待が表明された。日本は、パ
スツールやウエルカムトラストの経験に学びつつ、アジア各国からの期待に応じ、持続的な感染症
研究ネットワークを構築する要になるべきであることが確認された。国立感染症研究所(NIID)の活
動も紹介された。NIID は日本国内の公衆衛生に携わる研究機関であると同時に、WHO ネットワー
クのキーとなる研究センターの一つとして国際的にも重要な役割を担っている。日本の感染症研
究ネットワークプログラムは、今後さらに NIID との連携を強化していくことが重要であると、改めて
確認された。
202
(2) セミナーの開催
「アジア科学技術フォーラム」での議論を具体化する目的で、アジア各国の政策担当者や研究者
が集まり、平成 17 年~19 年にかけて科学技術政策、環境・エネルギー問題、自然災害対策に係るセ
ミナーを 6 回開催した。
1) 「生態系の保全と利用」(第 2 分科会「環境・エネルギー問題」)
(i)
日程
平成18年3月11日(土)~13日(月)
(ii)
開催場所
ゴールデン・サン・リゾート(マレーシア・ペナン島)
(iii)
概要
「第1回アジア科学技術フォーラム」の第2分科会「環境・エネルギー問題」で展開された議論を
深めるために、アジア各国から19名の講演者を含む約40名が集まった。「生態系についての環
境アセスメント技術」「生態系・生物資源の持続可能な利用技術」「生態系サービス支持技術・手
法」の 3 つのセッションに分かれて議論を行った後に総合討論を実施し、最終日にはテクニカル・
ツアーとしてマタンのマングローブ林を視察した。
本セミナーにおいては、アジア各国が共同で研究開発を推進すべき課題とその具体策につい
て議論した。アセスメント技術として「人間活動による生態系サービス変化の評価・分析・予測技
術(瞬時に検出可能な計測技術など)」、利用技術として「持続可能な生産のための新技術(異種
混合栽培法など)」、「微生物資源利用技術(発酵、生物学的浄化、有益物質抽出など)」、サー
ビス支持技術として「森林再生・回復技術の開発」などが提案された。また、各国の研究リソース
や既存の国際共同研究プロジェクト等の連携、新しい組織・コンソーシアムや、本セミナーのよう
なアジア諸国が継続的に議論する場の必要性も提案された。
(iv)
プログラム
3月11日(土)
オープニングセッション
座長:鈴木 準一郎 (独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター
9:00
~
開会挨拶・趣旨説明
井上 孝太郎
9:15
9:15
~
10:00
(独)科学技術振興機構 研究
開発戦略センター
基調講演 1
“Conservation and Sustainable
Use
of
Ecosystem
in
渡辺 信
Asia-Japan Perspectives-“
203
(独)国立環境研究所
United Nations Environment
基調講演 2
10:00
~10:45
“Greater Mekong Subregion
Ting Aung MOE
Atlas of the Environment”
Programme Regional Resource
Center for Asia and the Pacific
(国際連合)
セッション 1「生態系についての環境アセスメント技術」
座長:奥田 敏統 (独)国立環境研究所
“International
Ecological
11:05
~
11:30
Long-Term
Research
(ILTER)
Network Activities and Evaluating
the
Changes
Structure
of
and
Biodiversity
Ecosystem
Function
and
the
East
in
Eun-Shik Kim
Kookmin University(韓国)
Asia-Pacific Region”
11:30
“Environmental Monitoring and
~
Assessment in the Lower Mekong
11:55
Basin”
13:15
“Conservation
~
13:40
13:40
~
14:05
14:05
~
14:30
14:50
~
15:15
and
Use
Ecosystems:Technology
of
and
Beyond”
“Plant
diversity,
ecosystems
forecasts
Malee
Suwana-Adth
forest
and
of
Wijarn Simachaya
influence
disturbance
in
Min Cao
Environment
Ecosystem
in
the
(ラオス)
Kasetsart University(タイ)
Xishuangbanna
Tropical
Botanical
Chinese
and
Tokyo
堀本 菜穂
東京海洋大学
“Economic Valuation of Forest
Awang Noor Abd.
Universiti Putra Malaysia
Ecosystem Services in Malaysia”
Ghani
(マレーシア)
Bay-Past and Current-“
15:15
~
討論
16:15
3月12日(日)
セッション2「生態系・生物資源の持続可能な利用技術」
座長:中静 透 総合地球環境学研究所
8:45
~
Garden,
Academy of Sciences (中国)
Yunnan, Southwestern China”
“Marine
Mekong River Commission
“Small-scale fishing by farmer in
Kompong
Thom
province,
黒倉 寿
204
東京大学
9:10
Cambodia-Social background of
fisheries by farmers-”
9:10
~
9:35
“Shrimp
Farms
and
the
Environment”
Yont Musig
Kasetsart University (タイ)
“Conservation and Sustainable
9:35
~
10:00
Use of Peat Swamp Forests:
Integrated
Management
Plan
Development
Abdul Rahim Nik
and
Forest
Research
Institute
Malaysia (マレーシア)
Implementation”
10:00
~
10:25
10:45
“Challenge
Science
and
Technology to supply Basic need
Suhardi
Gadjah Mada University
and Save Global and Environment
Mantomulyono
(インドネシア)
Vo-Tong Xuan
Angiang University (ベトナム)
Problems (Indonesian case)”
“Sustainable
utilization
~
technology of ecosystem and
11:10
biological resources in Vietnam“
11:10
“MIRCEN
~
11:35
activities
on
preservation and utilization of
Thailand
Aparat Mahakhant
microbial resources”
Institute
Scientificand
of
Technological
Research (タイ)
11:35
~
討論
12:35
セッション 3 「生態系サービス支持技術・手法」
座長:青木 宙 東京海洋大学
“Myanmar
14:00
~
14:25
Sustainable
Forest
Management: a hidden link in
regional
landscape
conservation
and
level
The Academy of Agricultural,
Aung Thang
ecosystem
Forestry,
Livestock
and
Fishery Sciences (ミャンマー)
development”
14:25
~
14:50
14:50
~
15:15
“Development
of
reforestation
techniques at degraded lands in
East Kalimantan, Indonesia and
丹下 健
東京大学
southern part of Thailand”
“Potential
Management
Impacts
of
Forest
Certification
Schemes on Sustainable Forestry
S.K.
Son Kheong Yap
in Malaysia”
205
Yap
Forestry
and
Landscape Advisory Services
(マレーシア)
15:35
~
16:00
“Selective
Control
of
Toxic
Cyanobacterial Waterblooms in
彼谷 邦光
東北大学
Eutrophic Freshwater”
16:25
~
討論
17:25
クロージングセッション
座長:渡辺 信 (独)国立環境研究所
17:45
~
全体討論・総括
18:45
3月13日(月) テクニカル・ツアー
9:30
9:45
Eco-Educational Forest, Kuala Sepetang
Station 1: “Management of the Matang Mangrove Forest”に関するブリーフィング
Station 2: Charcoal Kilns 訪問
11:00
~
テクニカル・ツアー:マングローブ林視察
夕方
2) 「アジアに適した知的財産権制度及び知的財産権の利用のための実施体制」(第 1 分科会:「科
学技術政策」)
(i)
日程
平成18年3月19日(日)~21日(火)
(ii)
開催場所
パスムワン・プリンセス・ホテル(タイ・バンコク)
(iii)
概要
「第1回アジア科学技術フォーラム」の第1分科会「科学技術政策」で取り上げられた議論を深
めるために、アジア各国から約40名が集まり、科学技術の観点から知的財産権について討議し
た。そして、本セミナーにおける議論の総括として(iv)の提言をまとめ、各国の関係機関に送付し
た。
(iv)
発信された提言
「アジアに適した知的財産権制度及び知的財産権の利用のための実施体制」のテーマのもと、
平成18年3月19日(土)から21日(火)にかけてバンコクにて開催した「アジア科学技術セミナー」
では、13 ヶ国/地域から約 40 名の著名な知的財産権関係の学者、行政官、専門家が参加し、科
206
学技術の観点から知的財産権について熱心な議論を展開した。また、次に述べる事項について、
各国/地域の政府、学会、その他関係各位に提案することとなった。
「総論」
本セミナーを契機に、アジア地域の IPR 実施者(研究者、行政官、政策立案者等)の交流ネットワ
ークを強化し、またアジア地域各国における IPR の情報、経験、専門家を共有し、お互いの長所
短所を補完しつつ「アジアに適した知的財産権制度及び知的財産権の利用のための実施体制」
の構築を目指すべきある。
具体的には、下記各論について具体的施策の実現が図られるべきである。
「各論」
I.
技術移転の経験の共有化
それぞれの国/地域が、アジアにおける技術移転の政策や実践に関する様々な事例について
の経験と情報を研究し、交換することで技術移転(産学連携)の適正な体系を追求することは重要
である。
アジアにおける技術移転の経験、情報の交換をより効率的に実践するために、
・それぞれの国/地域で最適の方法を見つける為に、技術移転実践者の間で経験、情報を
共有する。
・より探求されるべきひとつの可能性として、一種のアジア版 AUTM のようなものを設置し、そ
れぞれの国/地域に経験共有の土台のように機能する各国版 AUTM を設置することを推
奨する。
(*AUTM = Association of University Technology Managers:米国大学技術管理者協会)
II.
共同政策研究
IPR 保護と普及のバランスをとることは重要である。また、各国/地域における経済状況や社会
的開発状況、文化伝統と調和する IPR 体系を構築し実行することもまた重要である。
アジアにおける知的財産に関する共同政策研究をより実りあるものとして強化するために、次の
事項が共同政策研究を行うに値すると思料する。
・産業界と学術界関係の最適な形態(第一優先事項)
・IPR の保護と普及の間の適切なバランスと、IPR 政策と競争(反独占)政策の間のコーディネ
ーション
・一国/地域における研究が、あまり発展していない国/地域へ与える経済インパクト
・協調(多角的制度対統一制度)に関する費用/利益や協調のレベル(最小限かそれを超え
るレベル)等の事項を考慮したアジアにおける IPR 制度の協調可能性
III.
知的財産における人材開発
アジアにおける IPR に関する共通問題の解決を促進するために、より多くの IPR 指向を有した人
材を育てることは重要である。
207
アジアにおける実践者(研究者、政策決定者、行政官等)に対する更なる教育と支援は必須事項
である。
アジアにおける人材開発を促進する為に、
・IP 人材の量及び質を増やす。特にハイレベルな専門家が望まれる。
・IP と技術商業化管理における修士プログラムを推奨する。
・IP 専門家が IP の保護、管理、利用、技術評価、ライセンシング、商業化等についてト
レーニングを受け、教育されるカリキュラムを設立する。・
・ それぞれの国/地域で実施されている効率的な IP 周知・促進戦略について収集し、共有
する。
・ カリキュラムの内容についての地域フォーラム/ワークショップを設定し、大学や R&D 研究
機関、TLO、TTO 及び IP 官庁間で情報を共有するために、事例研究を実施する。
IV.
IP 資源(データベース、専門家)の共有
アジアにける IPR に関するデータベースや専門家等共通の資源を共有するために、協働体制を
構築することは重要であり、それらを共通知識の源泉として利用すべきである。
アジアにおける IP 資源(データベース、専門家)の共有を実現する為に、
・
未使用特許の有効利用や地域の中小企業の利益、利用費用等を考慮して、知識の源泉
としてのアジアにおける IP データベースについて協調を目指す。
・
各国は、各々の情報をアップデートすべきである。
・
各国の IP データベースのウェブサイトにおける英語版要約が推奨される。
・
アジア各国/地域における IPR データベースを将来的に統合し、統一データベースを目
指す。
・
科学技術二国間協定において地域専門家に関する調査と、IP 専門家の共有と交流の協
力の可能性を探る。
(v)
プログラム
3月19日(日)「科学技術とイノベーションを推進する知的財産戦略」
9:30
~
歓迎挨拶
9:40
Pravich
Rattanapian 大臣
科学技術省(タイ)
9:40
~
開催宣言
永野 博
(独)科学技術振興機構
趣旨説明
黒木 慎一
(独)科学技術振興機構
基調講演 1
Kanissorn
「知財制度の戦略的利用」
Navanugrahu
9:45
9:45
~
9:50
9:50
~
208
タイ知的財産局(タイ)
10:20
10:20
~
10:50
11:00
~
11:30
11:30
~
12:00
12:00
~
12:30
基調講演 2
「日本の知的財産戦略」
「科学・技術・イノベーション促進
のための知的財産戦略-ライフ
~
14:30
14:40
~
15:10
15:10
~
15:40
秋本 浩
武田薬品工業株式会社
サイエンス産業を中心に-」
中国の知的財産権制度および企
業独自のイノベーション
韓国の産業発展における知的財
産権(IPR)の役割
中国海洋大学応用経済学研究
Sun Jian
センター(中国)
Keun Lee
国立ソウル大学(韓国)
Rohazar
マレーシアの知的財産体制
Wati
Zuallcobley
14:00
14:00
事務局
基調講演 3
13:30
~
内閣官房 知的財産戦略推進
荒井 寿光
マレーシア知的財産権公社
(マレーシア)
スリランカの技術促進開発活動の
最近の発展における知的財産権
R. M. Wasantha
(IPR)に関する課題-出資機関
Aradasa
国立科学基金(スリランカ)
による施策
ベトナムにおける知的財産権の
保護と並行輸入
Nguen Van Vien
バングラデシュにおける知的財産
Bimal
権(IPR)の現状
Karmaker
Chandra
知的財産・投資コンサルタント
センター(ベトナム)
バングラデシュ科学産業研究
委員会(バングラデシュ)
15:40
~
討論
16:30
3月20日(月)「知的財産に関する官民連携」
9:00
~
基調講演1
「タイにおける技術供与の全般的
9:30
な取り組み」
9:30
基調講演2
~
「日本の大学の知的財産に対す
10:00
る科学技術振興機構の役割の紹
Kitisri Sukhapinda
神田 基
209
国立科学技術開発庁技術管理
センター(タイ)
(独)科学技術振興機構
介-科学技術振興機構による特
許取得支援-」
10:00
~
日本の産学関係と特許の役割
後藤 晃
東京大学
10:30
10:40
~
11:10
11:10
~
11:40
13:00
~
13:30
13:30
~
14:00
14:00
~
14:30
オーストラリアにおける研究の商
業化と知識移転
インドネシアの知的財産における
Suprapedi
官民リンクの強化
Sentra
ニュージーランドの大学における
技術管理と商業化
政府の大学新規事業支援プログ
ラム
台湾の新しいナノテクノロジー開
発における知的財産権の展望
オーストラリア教育科学訓練省
Russel Ayres
(オーストラリア)
Dari
John K. Raine
Maripaz L. Perez
Ren Horng Maa
インドネシア科学協会
(インドネシア)
マッセイ大学
(ニュージーランド)
フィリピン科学技術省
(フィリピン)
国立応用研究所(台湾)
14:40
~
討論
16:00
3月21 日(火)「知的財産に関する将来の協力体制へ向けてのブレインストーミング」
9:00
~
「技術移転の経験共有」「共同制作研究」
10:30
10:40
~
「知財の人材育成」「知財のリソース」「その他」
12:00
午後
テクニカル・ツアー(タイ・サイエンス・パーク)
210
3) 「モンゴルにおける地震災害軽減」(第 3 分科会「自然災害対策」)
(i)
日程
平成19年3月6日(月)~8日(水)
(ii)
開催場所
チンギス・ハーンホテル(モンゴル・ウランバートル)
(iii)
概要
第3分科会では、これまでに「災害の認識」、「災害と社会」および「災害と科学」の3つの側面か
ら、アジア地域における自然災害の現状を明らかにしてきた。また、これを受けて、特にアジア地
域ではどのような災害被害軽減の取組が今後必要であるか議論を行ってきた。
この中で「強力なリーダーシップ」、「文化的な要因」および「国際的な協力」などを考慮し検討を
進めていくことが、科学技術を用いた減災を実現するために必要不可欠であることが指摘された。
そこで、これらも踏まえ最終的な提言をより有益なものとするため、第3分科会ではこれまでのフォ
ーラムで行われた上級レベルの政策担当者による大局的な議論に加え、現地国において実務者
および研究者レベルのセミナー開催や研究交流により、文化の異なる地域における防災対策の
実態を把握するため、モンゴルでセミナーなどを開催することとした。
モンゴルを対象国とした理由は3つある。1つ目は、第2回のフォーラムで講演して頂いたモンゴ
ル国の前首相の Tsakhia Elbegdorj 氏の存在がある。 Elbegdorj 氏をとおしてモンゴルにおける
災害の概要を把握できたが、さらにモンゴルの研究者や行政担当者と交流することにより、具体的
な防災上の課題を把握することができるのではないかと考えたためである。
2つ目は、1957年に発生した「ゴビ・アルタイ地震(M8.3)」など大断層が原因の地震が数十年
間隔で発生しているにも係わらず、モンゴルにおいてどのような研究活動や防災対策が行われて
いるのかがあまり日本で把握されていないことが挙げられる。これを明らかにすることにより、関係
各国および国際的な機関が今後どのような行動をすべきか具体的に判断することができると考え
られる。そこで、できるだけ多くの日本を中心とした専門家や国際的な機関の関係者などを招へい
し、モンゴルの防災行政担当者および研究者などと意見交換を行うとともに、ネットワークの構築を
目指した。
3つ目は、モンゴルにおいて耐震基準の整備を検討している時期であることが挙げられる。モン
ゴルでは巨大地震の可能性があるにも係わらず、耐震基準の整備が進んでいない。歴史的にソ
ビエトとのつながりが強かったことから、街並みや多くの建物の工法はソビエトのものを採用してい
る。しかしながら、ソビエトは比較的地震が少ないことから、レンガを積んだりパネルを組み合わせ
たりするだけで鉄筋が入っていないケースの建物も少なくない。これらの建物は、アフガニスタン
やパキスタンにも多く存在し、巨大地震の度に大きな被害を出す原因となっている。このような状
況において、近年モンゴルにおいても地震による被害を軽減するため、耐震基準を制定しようとす
る動きがある。そこで、地震防災先進国の日本が耐震基準をはじめとした減災対策について貢献
できることが数多く存在すると考えた。
211
(iv)
詳細
i)
3 月 6 日(月)15:00~18:40 ハイ・レベル・ミーティング
ハイ・レベル・ミーティングは、日本側コーディネーターの片山恒雄教授(東京電機大学)およ
び岡田義光理事長(防災科研)をはじめとした 11 名の専門家、モンゴル側からは建設都市開発
省の J.Narantsatsralt 大臣、モンゴル科学アカデミーの B.Chadraa 会長および Ts.Batbayar ウ
ランバートル市長をはじめ、危機管理に関連する様々な要人約 20 名が出席した中で行われ
た。
日本側参加者より、モンゴル側から要望のあった日本における災害対策の概要および耐震
基準に関する説明を行った。また、モンゴル側からは、地震に関する研究の概要紹介および減
災を目指した取り組みなどが紹介された。「日本における災害対策の概要」については、内閣
府が発行した「わが国の災害対策」を用いて片山教授が概要説明を行うとともに、中埜良昭教
授(東京大)が日本における耐震基準などに関するプレゼンテーションを行った。これについて、
日本側出席者から、減災を目指すには科学技術のみならず社会、経済、政治および環境的な
側面も含め議論していくことが重要であるとの補足発言があった。
モンゴルにおける地震研究の現状について説明があった後に、啓蒙活動に利用するため日
本側と共同で作成したパンフレットおよびポスターを、J.Narantsatsralt 大臣に贈呈した。
ii)
3 月 7 日(火)9:30~17:40 セミナー
約 100 名の出席者が集まったセミナーでは、日本側 7 名、モンゴル側 4 名の講演者が、モン
ゴルの地震テクトニクスから地震危険度評価,耐震工法や危機管理手法など多岐にわたる講
演を行った。また、科学技術を用いた減災に関する取り組みについてパネルディスカッションを
実施した。
このセミナーでは、モンゴル西部の山間地域でマグニチュード 7~8 の巨大内陸地震が頻繁
に発生していることに関する講演などがあり、これまであまり知られていなかった地震活動や減
災に関する取り組みが明らかになった。また、それぞれの発表の後に、積極的な質疑応答があ
り、双方の研究内容や周辺事情について一層理解を深めた。
セミナー参加者リスト
役割
氏名
所属
役職
議長
片山 恒雄
東京電機大学
教授
講演者
石川 有三
気象庁
室長
講演者
目黒 公郎
東京大学
教授
講演者
中埜 良昭
東京大学
教授
講演者
Rajib Shaw
京都大学
助教授
パネリスト
岡崎 健二
政策研究大学院大学
教授
パネリスト
佐藤 照子
防災科学技術研究所
研究員
パネリスト
池田 菜穂
防災科学技術研究所
研究員
Haresh C. Shah
スタンフォード大学
名誉教授
講演者
212
(アメリカ)
講演者
Zifa Wang
地震公社(中国)
教授
講演者
Antoine Schulupp
ストラスブルグ大学
教授
(フランス)
講演者
Ulziibat M
科学アカデミー
研究員
(モンゴル)
講演者
Dugarmaa T
科学アカデミー
研究員
(モンゴル)
講演者
Ganzorig E
国立建設都市開発セン
副局長
ター(モンゴル)
講演者
Ganbold T
国立緊急管理庁
副局長
(モンゴル)
パネリスト
Myagmar G
建設都市開発省
局長
パネリスト
Demberel S
科学アカデミー
副局長
(モンゴル)
パネリスト
Ganbat Ts
国家基盤整備サービス
会長
(モンゴル)
パネリスト
藤井 章博
科学技術政策研究所
主任研究官
オブザーバー
岡田 義光
防災科学技術研究所
理事長
iii)
3 月 8 日(水)10:00~13:30 エキスパート・ミーティング
エキスパート・ミーティングでは、前日までの議論や講演内容に基づいて、テーマごとに意見
交換がなされた。そして、「教育啓蒙、能力開発、耐震基準、財政ほか諸部門との協働に関して、
短期・中期・長期の戦略を立てて地震災害軽減に取り組むことが重要」という主旨の提言をモン
ゴル政府に対して発信した。
(v)
視察
・建設現場
耐震構造の実地視察のため、会場近くにあるマンションの建設現場を訪れ、どのような検査が
どの程度行われ、どこが責任を持つのかなど質疑を行った。厳寒期の冬は工事がストップしている
が、沢山の材木が支保工として使われている光景は、日本では見慣れないものであった。現地で
得た情報を元に簡易計算を行った結果、中埜教授から、「現場で見た柱のサイズ、鉄筋の本数な
どから、コンクリートの質に問題が無く、かつジョイントの鉄筋が適切に配置されていれば、ウランバ
ートル市基準の MM 震度7という設計基準を十分満たしている」と報告された。
・Research Center of Astronomy and Geophysics (RCAG) 視察
モンゴルにおける地震観測の現状を視察した。同センターでは、国内の地震観測と CTBTO に
基づく地震観測、微気圧観測なども担当していることなどが紹介された。
213
4) 「再生可能エネルギー、特にバイオマスエネルギーについて」(第2分科会「環境・エネルギー問
題」)
(i)
日程
平成19年3月8日(水)~9日(木)
(ii)
開催場所
インドネシア技術評価応用庁第 2 ビルディング内会議室(インドネシア・ジャカルタ)
(iii)
概要
バイオマスのエネルギー利用を推進するのに必要なブレークスルー技術およびアジア
諸国の研究協力方法に関し、以下の議論を行った。
i)
必要な研究開発課題
①バイオマス資源
・
食料供給と競合せず、かつ生態系を破壊せず、バイオマス資源を効率良く生産す
る技術が必要。そのためのものとして以下の研究課題が考えられる
9
育種・品種改良による耐環境性が高く、かつ生産効率の高いエネルギー作物の
開発(キャッサバ、サトウキビ、オイルパーム、ヤトロファ、エレファントグラスなど)
9
生産効率の向上、および持続的利用に寄与する農業技術の高度化(土壌改良、
アグロフォレスト(AgroForest)など)
9
アジア各地で最適なエネルギー作物の選別(例えば、アジアで広く行なわれて
いる稲作などの農業残渣利用の検討、伝統的知的財産の商業利用の検討)
・
エネルギー作物栽培の社会適合性の分析(生態系を含む環境影響(生態系の価
値の判断を含む)、食料競合など)
・
バイオマス資源量の把握(データベース化)
②バイオ燃料変換技術(BDF、バイオエタノール)
・
BDF 変換、利用についての技術課題
9
触媒プロセスの改善(低圧力、低温度、固体触媒利用など)、精製のための膜技
術の開発
9
中規模プラントの小型化
9
副生成物であるグリセルロースの高付加価値製品変換技術の開発
9
変換残渣の活用(共通課題として記載)
・
エタノール変換技術、利用においての技術課題
9
脱水技術の開発(吸着剤、膜技術)
9
発酵技術の開発(酵母種の改良、C5/C6 糖複合発酵技術など)
9
木質系バイオマスの主成分であるリグノセルロースからエタノールへの変換技術
の開発
・
共通課題
9
オイルパーム産業における、BDF、エタノール、その他付加価値製品の複合生
214
産技術の開発
9
オイルパームから BDF を生産するだけでなく、その残渣である EFB(絞りかす)、
POME(廃液)などをエタノール、メタンガス、ポリマー材料などの製品に複合的に
変換する技術
③ガス化・直接燃焼技術
・
単位発電量あたりのインフラコストの低減技術
・
インフラのメンテナンス、オペレーションコストの低減(腐食の防止技術など)
・
燃料輸送と貯蔵技術の開発
・
季節や気候の影響が少ない燃料供給安定化技術
・
直接燃焼における燃焼技術の高度化
④その他
・
バイオマス利用において付加価値をつけ、競争力をつけることのできる CDM 利用
の検討。
・
ii)
パブリックアクセプタンス(PA)の検討(情報公開などの方法の検討)
研究協力方法
・
持続可能な第一次産業の促進・バイオマスエネルギー新産業創出には、バイオマ
スが豊富に存在する東南アジアなどにおいて参加国にメリットのある相互補完的な
共同研究開発を行う必要がある。
・
特に日本は変換技術を中心とした保有技術、バイオマス資源国はその資源に適し
た農業技術や、収集・輸送などの技術を持ち寄り、それぞれのバイオマス資源が存
在する地域に適したバイオマス利用技術を開発していくことが必要
iv)
プログラム
3月8日(水)「オープニングセッション」
08:30 - 8:35
インドネシア側共催者の挨拶
Unggul Priyanto
08:35 - 8:40
開催にあたって1
横山 伸也
08:40 - 8:45
開催にあたって2
Zuhal
08:45 - 8:50
開催にあたって3
Said D. Jenie,
技術評価応用庁
(インドネシア)
東京大学
University
of
Al
Azhar
Indonesia(インドネシア)
技術評価応用庁
(インドネシア)
(独)科学技術振興機構
08:50 - 9:05
趣旨説明
井上 孝太郎
研究開発戦略センター
上席フェロー(日本)
09:05 - 9:30
基調講演1
横山 伸也
東京大学(日本)
09:30 - 9:55
基調講演2
Said D. Jenie,
技術評価応用庁
215
(インドネシア)
09:55-10:15
プレス発表・コーヒーブレイク
セッション1:UNESCO-JST Session on "Impacts of Renewable Energy Development"
座長:Taco Bottema, 国連アジア太平洋経済社会委員会(国際連合)
10:15-10:20
趣旨説明
Masami Nakata
10:20-10:40
National Policy on Bioenergy
Ratna Ariati
10:40-11:00
Bioenergy and Biodiversity
加藤 浩
11:00-11:20
11:20-11:40
Managing Biomass Resources:
Case of Fuelwood Supply
Bio-resources
UNESCO(国際連合)
エネルギー資源省
(インドネシア)
政策研究大学院大学
Asian
Yonariza
Institute
Technology,
of
Andalas
University(インドネシア)
management
toward 2050
川島 博之
東京大学
Irhan Febiyanto
Researcher, BPPT, Indonesia
白井 義人
九州工業大学
Samai Jai-in
金属資源センター(タイ)
Indonesia Renewable Energy
11:40-12:00
Development and Opportunity
to Implementation of CDM
Shceme
12:00-12:30
討論
セッション2:”Biomass Diesel Fuel”
座長:九州工業大学 白井 義人
Current Status of Bio-fuel and
13:15-13:35
its Future in the South East
Asia and Japan
Biofuel Programs in Thailand:
13:35-13:55
A
Solution
Sufficiency
for
and
Energy
Poverty
Eradication?
13:55-14:15
14:15-14:35
Progress
&
Challenges
in
Shahrakbah
Advanced
Agriecological
Research Sdn. Bhd
Utilization of Palm Biomass
Yacob
Future Biodiesel Research in
Ir. Soni Solistia
技術評価応用庁
Indonesia
Wirawan
(インドネシア)
坂西 欣也
産業技術総合研究所
(マレーシア)
セッション 3:”Biomass Ethanol Fuel”
座長:産業技術総合研究所 坂西 欣也
Bio-Fuels
15:35-15:55
Production
from
Various Biomass Resources in
Asian Countries
216
15:55-16:15
16:15-16:35
New Development of Ethanol
Industry in Indonesia
Research
Actitvities
on
io-Ethanol
Production
from
Petrus Panaka
PT Gikoko Kogyo
(インドネシア)
Tran Dinh Man
ベトナム科学院(ベトナム)
Wahono
技術評価応用庁
Sumaryono
(インドネシア)
Biomass in Vietnam
Technology Development in
16:35-16:55
bioethanol
Production
in
Indonesia
16:55-17:35
討論
3月9日(木)
8:30-8:55
来賓挨拶
Ir. Alhilal Hamdi
Head of National Biofuel
Team (インドネシア)
セッション 4:” Biomass Direct Combustion & Gasificationl”
座長:東京大学 横山 伸也
8:55-9:15
9:15-9:35
16:55-17:35
ROI-ET Green Power Project
Biomass Gasification Solution
for Agro Waste
Pornsak
ROI ET GREEN COMPANY
Pornchanadham
LIMITED(タイ)
Haruo Tarui
株式会社 サタケ
横山 伸也
東京大学
討論
全体会合:
座長:東京大学 横山 伸也
10:30-11:40
討論
「クロージングセッション」
11:40-11:45
閉会挨拶
午後
テクニカル・ツアー:The BDF plant of BPPT in Serpong
5) 「防災情報基盤に関する国際ワークショップ」(第3分科会「自然災害対策」)
(i)
日程
平成19年10月3日(水)~4日(木)
(ii)
開催場所
(独)防災科学技術研究所 研究交流棟和達記念ホール(つくば市)
(iii)
概要
「第 1 回アジア科学技術フォーラム」及び「第 2 回アジア科学技術フォーラム」の中で、「デ
ータベースがどれだけ利用価値があるのか」という問題提起がなされた。本セミナーは、災害
による被害の軽減のための情報基盤の枠組みについて議論を行う場を提供するものである。
217
災害による被害の軽減を目的とする多種多様な情報基盤が立ち上げられている一方で、
それらの情報が互いにリンクしておらず、独立に使われているという問題が指摘されている。
本セミナーは、こうした事態を重くみて、より活発に情報が共有されることを目指す。
具体的には、災害管理において情報を共有することの重要性を強調し、この考え方に基
づいて、いくつかの取り組みの実例を紹介しあい、情報のプロバイダー(提供者)とユーザー
(使用者)の両方から活発な意見が出された。全体討論を行った後、「つくば IPDR*レポート」、
「IPDR リンクの強化」、そして「つくば IPDR Resolution」が参加者によって確認・採択された。
この内、つくば「 IPDR Resolution」では、情報プラットフォームが総合的な災害リスク管理
に必要不可欠であり、そして兵庫アクションプランの目標に寄与することを確認した。プロバイ
ダー(提供者)は、このプラットフォームを構築、発展、ネットワーク化し、ユーザー(使用者)も
また、定例会議等のコミュニケーションによってサービスの提供をサポートしていくことが重要
と認識された。
なお、本セミナー参加者の一部は、本セミナーに引き続いて実施された「第 3 回アジア科
学技術フォーラム」にも参加し、第 3 分科会「自然災害対策」にて議論を継続した。
*IPDR
Information Platforms for Disaster Reduction(防災情報基盤)の略。
(iv)
プログラム
10月3日(水)「オープニングセッション」座長:(独)防災科学技術研究所 東原 紘道
9:00 -9:20
9:20-9:40
開会挨拶
趣旨説明
渡邉 淳
文部科学省
中島 壮一
内閣府
Salvano Briceno
国際防災戦略(国際連合)
岡田 義光
(独)防災科学技術研究所
亀田 弘行
(独)防災科学技術研究所
セッション1「基調講演」
座長:Amod Mani Dixit, NSET-Nepal (ネパール)
9:40-10:10
基調講演
Craig Duncan
国際防災戦略(国際連合)
10:10-10:25
概要報告
池田 菜穂
(独)防災科学技術研究所
セッション2「招待講演1」座長:京都大学 Charles Scawthorn
「情報プロバイダー」
10:25-12:10
招待講演
遅野井 貴子
アジア防災センター
Arthur Lerner-Lam
HOTSPOT(世界銀行)
Guha-Sapir, Debarati
地震災害研究センター(ベルギー)
竹内邦良
水災害・リスクマネジメント国際センター
(国際連合)
「情報利用者」
Jemilah Mahmood
218
アジア防災センター
セッション2「招待講演2」 座長:C. V. R. Murty, World Housing Encyclopedia (インド)
「情報プロバイダー」
Ray Shirkhodai
加藤 照之
13:30-15:15
招待講演
Pacific Disaster Center
(アメリカ)
東京大学
「情報利用者」
R. Kuberan
Global Open Learning
Forum on Risk Education(イ
ンド)
坂田 章吉
(独)国際協力機構
セッション 2「招待講演 3」 座長:コロンビア大学 Arthur Lerner-Lam (アメリカ)
「情報プロバイダー」
斉藤 大樹
(独)建築研究所
C. V. R. Murty
World Housing
Encyclopedia (インド)
15:15-16:45
招待講演
Craig Duncan
国際防災戦略(国際連合)
亀田 弘行
(独)防災科学技術研究所
「情報利用者」
Amod Dixit
NSET-Nepal(ネパール)
橋本 一雄
Regional Network of Local
Authorities for the
Management of Human
Settlement(国際連合)
セッション3「討論」 座長:Mohsen Ghafory-Ashtiany, International Institute of Earthquake
Engineering and Seismology (イラン)、ラパトウール:京都大学 Rajib Shaw
17:00-18:30
討論
10月4日(木) セッション4「総括」 座長:京都大学 寶 馨、ラパトウール: Fang Weihua,
Beijing Normal University(中国)
9:00 -10:30
総括討論
10:30-11:45
提言作成
11:45-12:00
総括
午後
亀田 弘行
(独)防災科学技術研究所 施設見学
219
(独)防災科学技術研究
所
6) 「アジアにおける持続的な水循環に向けた適正かつ信頼のおける技術」(第2分科会「環境・エ
ネルギー問題」)
(i)
日程
平成20年3月10日(月)~11日(火)
(ii)
開催場所
ナイ・ラート・パーク・ソフィテル(タイ・バンコク)
(iii)
開催趣旨
過去2回開催した「環境・エネルギー問題」分科会によるセミナーでは、環境およびエネル
ギー利用に係る諸課題について議論が行われた。本セミナーでは、過去2回のセミナーにお
いて十分に検討がなされておらず、かつアジア地域に於いて今後メガシティ化や気候変動に
よる安定的な確保が危惧されている「水に関する課題」を取り上げた。中でも、水資源利用技
術の中で問題が顕在化しつつある。特に重要な技術である、「有害物質のリスクコントロール
(ヒ素、フッ素、医薬品、その他汚染物質の管理・除去技術)」、「水資源・廃水の生物工学的
処理技術(工業廃水、汚水の高度利用のための微生物ダイナミクス・機能・パフォーマンス・
構造把握)」、「水資源・廃水処理の先進技術(高効率・低コストの MBR システム等)」、「雨
水・地下水管理(気候変動に関連したモニタリング、利用、品質管理技術) 」と、計4セッション
を設け、議論をおこなった。
(iv)
詳細
3 月 10 日
【挨拶】
高橋文明(JST 審議役)
・
ASTF の概要、第3回 ASTF における声明文、および JST の紹介をした
Mr. Prayoon Shiowattana (NSTDA、タイ)
Prof. Chongrak Polprasert (AIT、タイ)
・
アジアにおける水環境問題のレビュー
・
都市化と工業化による水質汚染が深刻化
・
近年、微量物質(医薬品:PPCPs、新たなPOPs:PFOS/PFOA) の汚染がアジアで顕在化
しつつある
・
世界各国で、ナノテクノロジー活用した微量物質の分解・モニタリング技術の研究開発が
なされ、新たなトレンドとなりつつある
・
AITでは、環境低負荷・省資源の視点から廃水からのリン回収研究に取り組んでいる
【趣旨説明】
井上 孝太郎(JST 上席フェロー)
・
第1回~3回 ASTF 第二分科会の概要、および環境・エネルギー分野に係る ASTS の過
220
去の活動を紹介
【SESSION 1】有害物質のリスクコントロール(ヒ素、フッ素、医薬品、その他汚染物質の管理・
除去技術)
S1-1
Microbial transformation of arsenic
福士 謙介(東京大学 助教授)
・
バングラデシュ、タイ、カンボジア、ネパール、メキシコ、ベトナムなど多くの国で、元来土
壌中に含まれるヒ素が、地下水中に溶出することが原因とみられる高濃度ヒ素汚染が問
題となっている。
・
土壌中のヒ素が微生物による変化を受け、ガス態となって土壌から大気へ移動している
可能性が高い。
・
バングラデシュを研究サイトとした汚染地域における自然中のヒ素の動態を解明する研
究およびヒ素を多く含む汚泥や土壌などを浄化するバイオメティレーション/バイオプロ
セス(AIRP)の開発研究について紹介。
S1-2
Arsenic in Vegetables and its Implications on Human Arsenic Exposure
Prof. M Ashraf Ali (Bangladesh Univ. of Engineering and Technology、バングラデシュ)
・
バングラデシュでは、丘陵地帯をのぞく国土の大半(地下水)でヒ素汚染に直面し、3000
万人以上の人々が50ppbのヒ素に曝されている。
・
乾期に農業を行う際、地下水を灌漑用水として利用するため、土壌(根圏土壌、深度を
変えたコアサンプル)、植物(根、茎、葉、食用部)のヒ素汚染分析を行った結果、コメを
はじめとする作物や野菜は、ヒ素を吸収し、高濃度で蓄積していることが分かった。
・
日本との共同研究課題として、低コストの染色産業における廃水処理技術開発等が提案
された。
S1-3
Arsenic Contamination of Groundwater in Cambodia
Dr. Sethy Sour (Royal Univ. of Phnom Penh, カンボジア)
・
2001年、簡易分析による全国規模の飲料水品質評価を行った結果、ヒ素汚染が検出さ
れた。
・
1607の村落を調査した結果、メコン川やトンレサップ湖に隣接した7地域で、最もヒ素汚
染がひどいことが分かった。
・
健康調査によって、約225万人の住民にヒ素中毒症状がみられ、そのうち309人に皮膚の
黒化、角質化等の症状のでていることが明らかになった。
・
ヒ素除去技術、地下水汚染調査など、日本を含めた各国との共同研究提案があった。
S1-4
Strategies for Arsenic Pollution Control in China and Innovative Technologies
Based on In Situ Coating and Embedded Regeneration Processes
Dr. Jiuhui Qu(Chinese Academy of Sciences, 中国)
221
・
中国の開発地域等では、500 万人程度の住民が高濃度(>50ppb)のヒ素に曝露している
(①内モンゴル、②Shanxi、③Qinghai、④Anhui、⑤Jilin)。
・
Shanyin, Shanxi 地域の 42 の村落では、35,000 人もの住民に、皮膚の角質化等の症状
が出ている。ヒ素とフッ素汚染が原因と見られている。
・
ヒ素除去や安全な水の供給に対する政府の資金援助(2007~2012, 32 billion RMB 中央
政府, 27.9 billion RMB 地方政府, 6.5 billion RMB 地域)や NGO の活動が活発化して
いる。
・
CAS では、Fe(II), Mn(II), As(III), As(V)の除去研究に取り組んでおり、酸化鉄-酸化マン
ガンの多孔質体を開発中。
S1-5
Drinking Water Production System for Arsenic Removal: Case Study in Moo 2,
Ronpiboon Sub-district, Ronpiboon District, Nakhon Sri Thamarat
Dr. Porntip Sridang (Prince of Songkla University、タイ)
・
1987 年、タイ南部の Ronpiboon Sub-district, Ronpiboon District, Nakhon Sri Thamarat
地域に於いて、飲料水の高度ヒ素汚染が明らかになった。
・
2003 年、これらの汚染地域に、過般型の濾過システムが MSTRC-PSU(MEMBRANE
SCIENCE AND TECHNOLOGY RESEARCH CENTER, Prince of Songkla University)に
よって導入された。
・
現在、システム導入による飲料水のアセスメントを行っている。
S1-6
Global contamination of Perfluorinated Compounds
- Recognition of their
problems, countermeasures and future
藤井滋穂(京都大学 教授)
・
桂川、淀川やタイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、中国、ベトナムなどのアジ
ア各国の調査流域圏における難分解性有機残留汚染物(POPs)の水環境中での分布・
挙動、浄水場・下水処理場での挙動についての研究報告が為された。
・
現在、人工有機フッ素化合物 PFOS,PFOA の実用的・効率的処理方法に関する検討
中。
S1-7
The Environmental and Health Concerns Associated with Fluoride in Drinking
Water
Prof. Genandrialine L. Peralta (Univ. Philippines、フィリピン)
・
半導体工場における洗浄液廃水や殺虫剤による、土壌・河川のフッ素汚染が顕著。また、
住民の健康被害も報告されている。
・
アジアで、フッ素汚染の研究は活発に行われているが、あまり論文になっていない。日本
などとの共同研究により、学術・技術のレベルアップが必要。
Discussion 1
アジア各国では、高い経済発展の結果、エネルギー消費量が増大し、それに伴う負の部
222
分としての環境負荷の増大が生じている。環境問題の深刻化・多様化は、工場立地の拡大、
都市化の進展、水需要の増大、汚染物質の大気放出量の増大等、様々な面で生じており、
さらに、水処理能力、廃棄物処理能力等の不足があるために、様々な汚染被害が出ている
状況にある。
一方で、ヒ素汚染のような、元来、ヒ素堆積層を流れる地下水を汲み上げることによる汚染
被害も深刻である。
これらの問題に対応するためには、汚染物質の挙動調査、飲料水などの品質アセスメント、
低コスト・省エネ型の汚染物質処理技術の開発が、各国で求められている。
【SESSION 2】水資源・廃水の生物工学的処理技術(工業廃水、汚水の高度利用のための微
生物ダイナミクス・機能・パフォーマンス・構造把握)
S2-1
India-Japan International Collaboration for an Innovative Sewage Treatment
Technology with Cost-effective and Minimum-energy Requirement
原田 秀樹(東北大学 教授)
・
途上国に適用可能なエネルギー最小型の新規下水処理プロセスの国際共同開発として、
インドでの(UASB+DHS)システムの実規模実証テストを行っている。
・
現在、第5世代DHSを開発中。
・
途上国の多くは、基本的に電力不足であり、低コスト(省エネルギー(曝気不要)・創エネ
ルギー(メタンガス回収))で維持管理(メンテナンス)が容易なシステムでなければならな
い。
S2-2
Problem of low-cost ammonium removal in drinking and waste waters in Vietnam
Dr. Cao The Ha (Hanoi Univ. of Science (HUS), ベトナム)
・
ベトナムでは、飲料水の 30%が地下水利用。ハノイでは、100%。半数ちかくの都市では、
汚染水問題が顕著。
・
低コストのアンモニア除去技術、嫌気処理による汚臭制御技術、COD 除去技術 等の共
同研究提案が為された。
S2-3
Sustainable Sanitation System based on the concept: “don’t collect” and “don’t
mix” wastewater
船水 尚行(北海道大学 教授)
・
Millennium Development Goals の達成、2)世界の経済状況、3)流域管理、4)水資源管
理、5)資源回収と農業との関係、6)公衆衛生、7)処理技術と排水再利用、8)医薬品を
はじめとする微量汚染物質管理の観点から、「Don’t mix!」、「Don’t collect!」(「混ぜな
い」、「集めない」)をキーワードとした新規サニテーションシステムに関する研究報告が為
された。
・
「集めない」、「混ぜない」を実現するシステムのキーとして、コンポスト型トイレの研究の最
先端と中国、インドネシアとの共同研究活動の概要が報告された。
223
S2-4
The Application of Biological Processes in Several Industrial Wastewater in
Indonesia
Prof. Tjandra Setiadi (Institut Teknologi Bandung, インドネシア)
・
インドネシアでは、デニム工場などの繊維工業において、反応性アゾ染料を用いる染色
工程の廃水による汚染が問題となっている。
・
現在、染料脱色のプロセス研究を行っており、嫌気性プロセスの主要な要因である温度
および、バクテリアの種類と濃度が脱色速度に及ぼす影響、さらに、異なる炭素源を使用
した場合の脱色能力への影響を検討している。
・
また、白色腐朽菌(が産生する laccase)を利用した廃水脱色の研究を行っている。プロセ
スの時間短縮が当面の課題。
S2-5
HOPE technique for Quantitative and Qualitative Analyses in Environmental
Microbiological Studies
Dr. LIU, WEN-TSO (National Univ. of Singapore, シンガポール)
・
環境水中(汚水)の微生物(Bacteroides spp.等の腸内細菌)を、HOPE 技術(合成オリゴ
ヌクレオチドを鋳型とし、鋳型1分子からオリゴ DT プライマーを用いた PCR を行う)を用
いて同定することで、汚染源がどのような生物(人間、犬、ウシ、ブタなど)を起源とするか
が分かる訂正評価手法を確立した。
・
定性評価の感度を高めるため、RNA, ゲノミック DNA を利用した HOPE 技術の確立が今
後の目標。
3 月 11 日
【SESSION 3】水資源・廃水処理の先進技術(高効率・低コストの MBR システム等)
S3-1
100 Years of Biological Wastewater Treatment: A Perspective
Prof. Chuan-hong XING(Zhengzhou Univ., 中国)
・
膜分離活性汚泥法(MBR)は、膜分離槽の活性汚泥濃度を制御するために引き抜きが
行われており、余剰汚泥の発生も抑えられていないのが問題。
・
汚泥引き抜きをしないMBRの運転を可能とするiPMBR(傾斜板付きMBR)技術に於いて、
嫌気性処理技術は、第4世代の開発段階に来ている(Digester(第1世代)→UASB(第2世
代)→IC(第3世代)→?(第4世代))。好気性処理技術(MBR)は、第3世代にあり、汚泥排
出量を限りなくゼロに近づけ、NPの統合除去技術、濾過時間の短縮化等の課題がある。
S3-2
Development of integrated filtration system for water treatment and wastewater
reclamation in developing countries (Dr. Chart Chiemchaisri
Kassesart Univ., タイ)
・
加温パイロットスケールUASBと固定床型接触曝気槽による都市下水連続処理技術につ
いての紹介。
224
・
医薬品、殺虫剤などの化学物質の上下水道への混入・挙動調査、膜濾過システムの開
発、天然溶存有機物質(NOM )の除去技術改良、バイオ濾過、光酸化を利用した浮体
式浄化装置の開発等、共同研究に対する提案が為された。
S3-3
Dr. Chavalit Ratanatamskul (Chulalongkorn Univ.,タイ)
・
嫌気性条件下でのバイオフィルム利用により、工場廃液の酸化脱色処理を行なう反応器
の開発を行っている。
・
バイオフィルム反応槽と連続式回分反応器を組合せることにより、多量の廃液処理を可
能にし、廃液中の毒性物質に対するバイオフィルムの耐性を持たせる。
・
通常、化学的・生物学的処理では分解困難な染料の含まれている廃液を用いて、システ
ムの性能評価を行っている。
S3-4
New Advancement of Seawater Desalination Reverse Osmosis Membranes (SWRO)
栗原 優(東レ株式会社)
・
東レは 30 年前の膜技術の黎明期に、分離膜の中でも最も難しい RO 膜の研究からスタ
ートし、国内市場で超純水の製造を中心に手がけてきた。海外に目を向けると、海水淡
水化としての RO 膜の利用ニーズがあることが分かり、応用技術の幅を広げてきた。
・
世界的な水資源争奪期に於いて、取水源が多様化し、水の用途も多様化している。この
ような用途の多様化について、膜技術(超純水の製造・海水淡水化にはRO膜、硬水の
軟水化にはNF膜、工業用水の製造にはUF膜、上水の製造にはMF膜等)は柔軟に対
応できる。
・
分離膜の宿命的な欠点は目詰まりであり、それを克服するメンテナンスフリー技術(取り
替え不要など)の開発が重要。
【SESSION 4】 雨水・地下水管理(気候変動に関連したモニタリング、利用、品質管理技術)
S4-1
Groundwater Management in Asian Coastal Cities: A proposal for climate change
impact and adaptation study
Dr. Babel, Mukand Singh(AIT, タイ)
・
メコン河流域における気候変動による淡水資源の脆弱性評価の報告が為された。
S4-2
Groundwater Management Issues in Sri Lanka
Dr. Gemunu Herath (Univ. Peradeniya, スリランカ)
・
スリランカの乾燥地域における、フッ素汚染や肝機能障害をもたらす地下水の汚染が原
因と思われる問題が生じている。
・
地下水の汚染状況の精密な分析評価(質量分析などによる原因物質の特定)、肝機能
障害のマウス等を用いた再現実験など、他分野の研究者との共同研究が望まれる。
225
S4-3
Sustainable Water Supply in Dhaka City: Present & Future
Prof. MD. MAFIZUR RAHMAN (Bangladesh Univ. of Engineering and Technology(バングラ
デシュ)
・
ダッカ市の地下水・水資源管理に関する紹介。
・
都市水循環システム構築のための多面的評価に係る共同研究が必要。
S4-4
Mobile Telemetering: Real-time Weather Station for Thailand Water Resource
Management
Dr. Royol Chitradon (Director of HAII, タイ)
・
欠席
S4-5
Design and operational data for several rainwater harvesting and management
systems in Korea
Prof. Han, Mooyoung (Seoul National Univ., 韓国)
・
ソウル大学のドミトリーに設置された低コスト、低エネルギー型の雨水利用実証研究の紹
介。地下に埋設された200m3のタンクに、屋上から集められた雨水がたまる仕組み。夾雑
物は、遠心分離によって除去されるため、目詰まり等の心配はない。
・
また、ソウル大学Building 39では、リモートコントロールによる雨水利用施設の管理が為さ
れ、「エコキャンパスプロジェクト」に貢献している。
・
大学での成功実績を元に、ソウル市の新しいショッピングエリア(Star City)に、Star City
Projectとして、大学と同様に雨水利用システムの設置を進めている。
S4-6
Management Process for Realization of River Basin Control towards the Creation of
the Urbanized Hydrological System to be Well-Balanced
忌部正博 ((社)雨水貯留浸透技術協会)
・
都市化による水循環系の変化に対応し,健全な水循環系を構築するための施策として
実施されている雨水の貯留・浸透技術の紹介。
・
埼玉県の新河岸川/柳瀬川をはじめとする雨水浸透量の設計事例、集合住宅地域で
の浸透工法導入事例とその効果についての報告。
【まとめ】
大垣眞一郎 教授 (東京大学)
セミナーを通じて各国が抱える様々な次元の問題が参加者間で共有された。また、次の課題
について、各国共同で喫緊に取組む必要があるとの合意に達した。
・
我々は、現場特有の様々なニーズや価値を反映するために、水(量と質)問題における
革新的な技術開発が必要である。
・
水資源/循環についての全体論的な知識蓄積と政策の発展が必要である。
・
水資源政策におけるアジア発の国際規格の設立; 品質規格、モニタリングシステム、あ
226
るいは人材育成も含めた集約的な国際横断型科学ネットワークの樹立が必要である。
・
水資源の国際研究所のアジアへの樹立; イマージング課題、国際紛争問題等の検討
227
調査研究成果の発表状況(全体)
(成果発表の概要)(調整費充当領域分)
1. 原著論文(査読付き)
該当無し
2. 上記論文以外による発表
該当無し
3. 口頭発表
該当無し
4. 特許出願
該当無し
5. 受賞件数
該当無し
1. 原著論文(査読付き)
該当無し
2. 上記論文以外による発表
該当無し
3. 口頭発表
該当無し
4. 特許出願
該当無し
5. 受賞件数
該当無し
5. その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Wwb等)
① Web 公開:「アジア科学技術フォーラム」,Web アドレス, http://www.jst.go.jp/astf/
② Web 公開「第 3 回アジア科学技術フォーラム」, Web アドレス,
http://scienceportal.jp/reports/events/071011/
③「第 1 回アジア科学技術フォーラム」「第 2 回アジア科学技術フォーラム」「第 3 回アジア科学技術
フォーラム」の報告書の配布(関係者、希望者など)
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