公共サービスの再編 公共サービスの再編

公共サービスの再編
1.公共サービスの見直しの背景
日本社会が安定成長期に移行し、基礎的な社会資本がある程度整備されつつある一方、少
子・高齢化、都市部への人口の一極集中現象、長引く景気低迷による産業構造の空洞化が進
展する現状においては、これまでのように行政が一律的に公共サービスを提供するだけでは、
財政的にも限界があり、多様化する市民の価値観に対応することが難しくなってきている。
極めて厳しい財政状況の中で今後の地方自治のあり方を考えた場合、行政からの一方通行
的なサービス提供では、市民の多様なニーズに対応できる地域社会を構築することはできな
い。行政は、地方自治における課題と将来あるべきまちづくりのビジョンを市民に積極的に
提供することが、サービスを提供する側の責任であると認識することで市民と問題意識を共
有し、市民も自らが地域社会運営の一翼を担うという参画意識を醸成させていかなければい
けない。
市民と行政が地域社会におけるパートナーとしての関係を構築し、ともに地域社会運営の
担い手として限りある財源を最大限に有効に使ってより良いまちづくりを発展させていくと
いう協働の意識を持つことが重要となるのである。
そのためには、サービスを提供する側も受ける側も、これまで当たり前のように受け止め
ていた公共サービスを当事者意識をもって抜本的に見直しを図っていかなければならない。
2.当部会の方針
公共サービスは言うまでもなく住民が健全かつ安全で潤いのある、心身ともに豊かな生活
をおくることができるまちづくりを目的としているが、社会情勢、経済環境により住民意識
のあり方、都市風土が変化する以上、その求められる内容も自ずと変質していく。
また、公共サービスの範囲は極めて幅広く、私達の生活の中に深く根ざし、提供する側も
受ける側もどこまでが公共サービスでどれが私的サービスの範疇として分類されるのか明確
となっていなかったのが現実である。行政が提供している公共サービスのすべてをここで取
り上げてその有為性を議論し、具体的な基準そのものを定めることは膨大な時間と労力を要
するものであり現実的ではない。当部会においては、提供すべき公共サービスの内容や、そ
の提供者を誰とすべきか、という具体的な基準そのものをつくることをねらいとするのでは
なく、どのような時代背景であっても的確に住民のニーズに応えることが出来、潤いのある
生活を実現するために可能な限り効率的で経済合理性に依拠した公共サービスが安定的に提
供できるシステム構築にむけた提言を行うことを目的とした。
具体的な基準づくりとその仕訳作業自体は公共サービスに関わるプロフェッショナルで
ある行政を信頼して委ねるべきであり、その結果をチェック・モニタリングするのが市民の
責務であろう。
3.公共サービス再編の枠組み
(1)公共サービス分類のための基準制定
公共サービスの提供システムを検討する場合に取り組まなければならないのは、どの提供
主体に委ねるのが最も適切なのかを決定することである。
現代社会においては行政による直接提供、民間企業による運営、また NPO への委託等様々
な選択肢が想定されるが、限られた財源を有効に活用するためにも、個々の公共サービスの
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特性を吟味して、最も経済的かつ効率的で質の高いサービスを安定して提供でき、住民自治
に資するにはどの形態が良いのか、という観点から仕訳ができる明確な基準を構築すること
が必要となる。
すなわち、地域住民の誰もが求めているサービスを、適切かつ平等に提供するという公平
性の原則に根ざした「公益性」と、地域住民が安全に市民生活をおくるために維持・保護さ
れなければならない生活の安全性・セーフティネットの観点から判断される「必需性」の原
則の両面から判断して公共サービスを分類し、最適な公共サービスの担い手を決定する基準
を定めるべきである。
◎ 判断基準の例示
以下に例示したような判断基準を設定し、公共サービスの特質をその各項目に照らし
てポイント化等による分析を行う。これにより公益性・必需性の強弱を示すことができ、
より客観的かつ明確な分類が可能となる。
○サービスの対象からの切り口:公共性~私益性(公平性の原則)
公益性
・誰でもそのサービスを受けることができる
・そのサービスを提供することで地域の活性化に資する
・サービスを受けることで第三者が結果として利益・恩恵を受ける
・市民の大部分が必要としている
・市民の大部分が利用している
・特定の個人・団体の利益に繋がる
・そのサービスの利用者が減少している
私益性
・そのサービスを受けることが結果として第三者の不利益となる
○市民のセーフティネットからの切り口(安全性の原則)
必需性
・市民生活にとって必要不可欠なもの
・市民の権利保護に資する
・社会保障を目的としているもの
・社会的・経済的弱者に対するもの
・都市機能の維持・拡充に繋がる
・市民生活の更なる利便性向上に繋がる
・一定の条件を満たさなければ享受できない
選択可能
・特定分野の個人的趣味・娯楽に属する
(2)担い手の選定
今後の財政見通しを勘案すれば、行政が直接執り行うべき公共サービスの守備範囲は限定
的とせざるをえない。従ってまず、第一に行政が行うべき公共サービスの守備範囲を公益性・
必需性の高いものから行政が行うべき「コア業務」として「行政が関与する妥当性」
「受益者
負担の妥当性」
「行政が主体となる必要性」といった観点から定める。それ以外の範疇のサー
ビスについて最適な担い手を柔軟な発想と幅広い視野で調達・育成していくことになる。
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・行政が提供者となる場合の基本的な考え方
・行政関与の妥当性~行政が関わることでより効率的・質の高いサービスが提供できる
・行政が主体となる必要性~行政でなければできない・他の妥当な主体が存在しない
・受益者負担~選択性が高いものは料金設定を行い、料金体系の見直しを行う。
・担い手を選定する場合の基本的な考え方
・経済効率性~費用対効果の観点で支出に見合う効果を得るためにはどの担い手が良いか
・競争原理の導入~外部委託することでコスト削減・上質のサービス提供が期待できる
・必需性・公共性が低いサービスは休止・中止することも検討する。
公益性・必需性の二つの基準で公共サービスを分類した場合、公益性・必需性が強いもの
は市場原理にはなじみにくく社会的弱者の保護という観点からも行政による提供が望ましく、
公益性・必需性が低いものは民間への委託にもなじみやすい。また、公益性は高いものの、
必需性がそれほどでもないものは受益者負担による考え方を導入していくことになろう。
ただし、美唄市のような地域社会の現状を考えれば民間企業や NPO への運営委託が望ま
しいサービスであっても担い手が存在しないことが想定される。また地域別・世代別によっ
ては公平にサービスが受けられないこともあり、このようなケースは行政の守備範囲にせざ
るを得ない場合も想定される。
・公共サービス分類の領域
必
需
私益性・個人消費性・必需性
私
性
公益性・必需性・共同消費性
民 間 に 委 託 可 能 だ が セーフティネット
安定した継続維持の観点から
維持の観点から行政での運営
行政による直接関与が必要
も
益
性
公
選択性・私益性・個人消費性
益
性
選択性・公益性・共同消費性
市場原理・効率的運営の概念導
行政の関与必要性低く受益者
入により民間により提供
負担の概念を導入
選
択
性
(3)基準の明示
重要なことは、公共サービス再編に用いる基準を市民に明確に示すことで次の公共サービ
スの担い手となる人材育成をはかることである。公共サービスを分類し、行政及び他の主体
に委ねるべき判断根拠を市民に提供することで、これからのまちづくりに関する市民と行政
との相互理解を図り、真の意味での市民と行政のパートナーシップが醸成できる。このこと
により市民自らが公共サービスの担い手として当事者意識をもってまちづくりに積極的に参
画できる風土が生まれるのである。
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(4)評価システムの導入
この公共サービスの再編はあくまでも「市民満足度の高いまちづくり」がねらいであるこ
とから、サービスの受け手である市民の声は常に反映させていかなければならない。提供し
た当時は必需性が高くとも時代の流れによりその度合いが低下することも十分に想定される。
公共サービスの有為性を絶えず検証し、不必要・不適切と判断されたサービスは中止もしく
は修正する判断を下すことができる評価システムを導入することこそが、限られた資源の最
大限の有効活用へと繋がる。提供しているサービスはその時点での市民ニーズに的確に応え
るものなのか、サービスの質は市民が望んだレベルに達しているのか、アンケートやモニタ
リングの手法を用いて、実施状況を点検することが重要である。
行政・民間・NPO を問わず、公共サービスを提供する側はその時代時代の要請にあったサ
ービスのあり方を検討し続けなければいけない。そしてこのようなたゆまぬ努力こそがより
いっそう住みやすいまちづくりにむけた将来のあるべきビジョン形成へと繋がっていく。
公共サービスに関するフィードバックを行うことは市民にとっても協働意識を持って参
画する第一歩となることから極めて有意義であろう。公共サービスを提供する側と受ける側
のコミュニケーションこそが、真の意味でのまちづくりに必要不可欠なものである。
4.まとめ~ひとづくり・担い手づくりの重要性
4. まとめ~ひとづくり・担い手づくりの重要性
このように、公共サービスの分類~担い手の仕訳~公共サービスの評価とその見直し
を
ひとつのサイクルとして繰り返し行うことでサービスの適切な提供とその効果に関する検証
が行われ、的確な公共サービスが提供できるシステムは構築される。
しかしながら、これからの地方自治に求められるのは、行政と市民との協働意識の醸成と
市民側の積極的な参画が必要であることはこれまでも繰り返し述べてきたところであるが、
美唄市の将来を考えた場合、行政から市民に委ねるべき公共サービスは増加することが想定
される。
そのような観点から、現在の行政に求められるのは、公共サービスの提供者であるととも
に、もう一方の公共サービスの提供者となるべきパートナーたる人材の育成である。その重
要性は公共サービスの提供システムの維持に劣るものではなく、むしろ、そのような人材を
輩出する地域風土を構築することがこれからの美唄市に最も必要なことであろう。
明確な基準による
公共サービス
の分類
適切な担い手の
提供された公共
選定と的確なサ
サービスの公正
ービスの提供
な評価と見直し
公
共
サ
ー
ビ
ス
の
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担
い
手
の
育
成