米国ホームエンターテインメントあるいはビデオ業界は今大きな変革期を

米国ホームエンターテインメントあるいはビデオ業界は今大きな変革期を迎えている。
1980 年前後ベータやVHSの誕生とともに生まれた業界はブロックバスターやハリウッド
ビデオといった大手チェーンを輩出し、これらの企業は超優良企業であった。また町のシ
ョッピングセンターやメインストリートにおいてビデオレンタル店は優良テナントとして
歓迎された時代があった。
映画メーカーにとって、製作した作品が映画館で上映された後もビデオというパイプライ
ンからの収入が入るため大量のビデオをいかにリリースと同時に市場に出荷できるかが大
きな課題にもなった。レベニューシェアリングはこういったビデオチェーンを大きくした
要因でもある。今でもビデオは映画メーカーの収入源の大半を占めている。
しかしながらこの 2 年でビデオ市場は縮小している。特にセル、セルスルーと呼ばれるビ
デオ購入市場は今年前半期で対前年同時期比 13.5%も下がっている。不景気も手伝って消
費者は新作映画で 15−20 ドルに及ぶ出費を抑えようとしている。ブロックバスターやハリ
ウッドの独壇場であったレンタル市場は前年比で 8.3%伸びているものの、その伸びは両社
の貢献によるものではなく、ネットフリックス社やレッドバックス社といった新規参入企
業によるところが大きい。
ネットフリックス社は日本のポスレンと同様郵送型定期利用方式といわれるビジネスモデ
ルで、これはオンラインで同社ホームページに入り会員登録を行う際に好みの支払いプラ
ンを決め、月額一定額を支払うと、一時期に最大レンタル枚数を超えなければ月間何枚で
も借りられる方式で、予約が入ると通常 1−2 日でDVDが郵送され、見た後あらかじめ郵
送料が支払われた封筒にDVDを入れて返却するシステムである。当初サンフランシスコ
近辺でスタートしたネットフリックスは 1200 万人を越えるメンバーを獲得している。
一方のレッドボックス社はキオスクと呼ばれる自販機でDVDをレンタルするサービスで
ある。ユーザーにとっての魅力はなんと言っても 1 日 1 ドルという低価格で、マクドナル
ド、ウォルマート、大手スーパー、ドラッグストアなど全米 18000 箇所に設置され、コン
ビニ性と低価格が消費者にヒットした。支払いはクレジットカードのみで、業者にとって
店舗を構えるのにかかるレント、人件費などが大きく削減でき、しかも1日ごとにクレジ
ットカードにチャージされ 25 日間たつと自動的に借り手のものとして所有権が移るため基
本的に返却に関する問題が発生しない。
ネットフリックス、レッドボックス両方ともインターネットストリーミングによるVOD
に移行するための、中間的存在といえる。業界アナリストの多くは家のテレビ、パソコン
や携帯電話を使っていつでもどこでも気軽に何万作品に及ぶ映画を選べるVODこそホー
ムエンターテインメントの究極であると見ている。VODは現在ようやくパソコンのみの
形態からテレビや携帯電話や携帯デバイスを利用したサービスが可能になってきたが、技
術的な使いにくさや新作に関して限られた作品数しかないため、本格化するのはまだ当分
先になりそうである。
その間ネットフリックスやレッドボックスは、ブルックバスターやハリウッドビデオの不
調を横目に急成長を続けている。しかし映画メーカーは 1 回のレンタルで 1 ドルしか売り
上げない可能性のあるレッドボックスに対して強い危機感を感じている。このままだと消
費者にとってメリットはあっても、映画会社にもたらされる収入はブロックバスターやネ
ットフリックスに比べても何分の一に満たないのではないかという危惧である。
実際 20 世紀フォックス、ユニバーサル、ワーナーブラザーズ各社はレッドボックスに対し
て他のDVD発売リリース日より 1 ヶ月以上の期間をおいてから出荷することを決めてお
り、これを不服としたレッドボックス社は 3 社に対して提訴している。
一方ソニー、ライオンズゲート、パラマウント社は基本的にレッドボックスに対して他の
DVDリリースと同日リリースを認める内容の 5 年契約を締結している。
映画メーカー側の対応に二極化がみられる背景として、収入の多くを占めるビデオビジネ
スからの売り上げが激減して今後制作費の確保も含めた映画メーカーの経営が維持できる
のかという不安と同時に、レッドボックスの市場への影響力が大きくなっているため今か
ら他社に先駆けてレッドボックスを収入モデルに取り込んでおこうという2つの相反する
意図が上げられる。
ブロックバスター社は店舗ビジネスを残しながらも徐々に店舗数や売り場面積の縮小を図
っている。
また新たな取り組みとしてVODを扱うブロックバスターオンラインやキオ
スクを扱うブロックバスターエキスプレスを誕生させ、新たな脅威に対抗しようとしてい
る。
ネットフリックス社もテスト市場を兼ねてロクと呼ばれるプレーヤーや専用テレビ、ブル
ーレイプレーヤーを使ってテレビで見られるVODレンタルをメンバーに対する無料サー
ビスとして提供している。
VODビジネスでは従来ケーブルテレビ会社や直接衛星放送会社が先頭を走っていたが、
最近になってIT企業の参入が目立つ。アップル社は iTunes を使ってミュージック業界に
次ぐ圧倒的シェア確保を目指している。Eコマースナンバー1のアマゾン社はアマゾンT
V、HULU社は広告収入に依存した無料ダウンロードサービス、ユーチューブは有料、
無料両方の映画やテレビ番組を提供し始めている。
米国ホームエンターテインメント市場は今後も目が離せない。