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高校生を主体とする IT を使った世界に向けた数学教育 関西学院高等部 数理科学部 代表者 宮寺良平 業務分担者 中田和宏・福井昌則・西村幸一朗 活動理念・目標 関西学院高等部の数理科学部は、IT を活用することで、高校生の潜在的創
造性を引き出し、優れた業績を残せる人材を育成している。我々は、
「誰もや
っていないことを実現する」ことをモットーに活動している。 研究面の活動は、数学研究、プログラミング、アプリケーション開発など
多岐に渡っている。ここで取り扱うテーマは、原則として新規性のあるもの
に限る。実際に多くの結果を残しており、雑誌掲載論文は 40 を超え、多くの
学会で評価を得ている。また多くの科学コンテストでも良い結果を残してい
る。このことだけを見ると、特別な才能の生徒を集めた活動だと思われるこ
とが多いが、方法論や指導を工夫すれば、多くの生徒にとって可能な活動と
なる。これらの実績は、特別な能力の生徒によって成し遂げられたものでは
なく、ごく普通の理系の生徒によって成し遂げられている。つまり、他の学
校でも再現が可能であり、教育的にも意義があると考える。 社会貢献の面でも活動しており、他の学校の生徒を対象とする研究方法の
講習、オンライン雑誌の創立、iTunes U による数学授業配信、教員養成の手
伝いも行っている。このような社会的な活動においても、高校生のアイデア
を最大限に活かしている。 最近では卒業生を中心とした、大学生や大学院生が参加することが多くな
り、高校生を指導しながら、自分達も論文を書き、学会発表をしている。 指導方法・研究方法 「誰もやっていないことを実現する」にあたって、生徒の創造性や自発性
を重視している。例えば、数学研究においては、教員は高校生が興味を持て
る問題を提案するが、その問題をそのまま研究せずに、問題設定を変えるこ
とを求める。場合によっては、全く異なる問題に変わる。その先は生徒たち
にまかせ、証明の仕方や論文の作成など、必要と思われるような事柄につい
て指導するのみにとどめる。生徒が、教員も予想出来ない証明方法を提案す
ることもある。こうした方針は数学研究だけでなく、他の活動においても重
視しており、iTunes U への参加はその一例である。これまで高校の単独参加
は世界でも例がなかったが、生徒の提案によって実現し、現在では 300 以上
の授業動画を配信している。この授業動画は好評であり、それを用いた教員
養成を目的とした授業実習研修会を行っている。 生徒の関心や能力の向上にも努めている。そのために、プログラミングな
ど、IT の積極的な活用も行っている。今までに多くのアプリケーションを開
発しており、我々の研究を多くの人に知ってもらうことも目指している。 1
成果 我々は以下の 4 つの活動を行っており、それぞれの分野で成果を残している。 1. 数学研究 20 年近い歴史を持つ高校生による研究において、新しい数学的事実を多数
発見して、40 以上の論文を専門雑誌で発表し、8 つの国際学会での講演や、
延べ 20 回のコンテストでの入賞もある。 これらの実績は、生徒の独創性と自発性によって生み出されたものである。
新しい数学的事実をごく普通の高校生が数多く発見し証明したことは、数学
教育の歴史では殆どなかったことで、教育的観点から見ても、価値があると
考える。 数学研究に関しては、卒業生を中心とした大学生による研究も盛んになっ
ている。 2. プログラミングおよびアプリケーション開発 数学の研究と関連している数学的ゲームのアプリケーションを 30 作品以
上作ってきた。また 2015 年 3 月に行われたゲーム学会主催のゲームコンペで
は賞を得ることができた。 こうした活動によるプログラミング能力の向上は、数学研究だけでなく、
多くの分野に応用可能であり、現在では心理学の専門家と組んで、臨床心理
に関するアプリケーション開発も行っている。技能の向上によって生徒は自
らが考えたアイデアを形にすることができ、更なる創造性を引き出すことが
可能となっている。 3.4 iTunes U とそれを用いた教員養成 2012 年から始めた iTunes U では 300 以上の数学動画を配信し、視聴回数な
どでは何度も数学分野のトップとなり、わかりやすいという評判を得ること
ができて、常に視聴数上位に位置してきた。視聴者の範囲は日本だけでなく、
海外の日本人学校にも広がっている。 元々は、授業配信のみであったが、動画を見た生徒が、自分でも授業がで
きると真似し始めたことがきっかけとなり、授業実習研修会が開催されるよ
うになった。研修会に参加した学生からは良い評価を得ており、この活動は
意義があるのではないかと考える。似た試みが隣の都市である神戸市で始ま
るのは、今年の 4 月であるが、自治体では日本最初である。 参加している大学生がかなり短期間に授業がうまくなるというような現象
も目撃することができている。 2
結び これまで多くの成果について述べてきたが、これらの活動はすべて数学や
IT が好きな、ごく普通の生徒によって実現してきたものである。「誰もやっ
ていないことを実現する」ことは、難しい思われることが多いが、方法論を
工夫すれば多くの生徒にとって可能な活動であることを、我々は実践を通し
て、そのことを伝えている。 そして、むしろ「世界最初のことのする方が易しい」と私達は考えている。 数学研究では、多くの発見・証明を行ってきたが、この活動を、2014 年 9
月にノルウェーの Danielsen High school の生徒,2014 年 12 月に桃山高校の有
志にワークショップ形式で体験してもらったところ、新たな事実の発見がな
された。このことは、我々の活動が他の学校でも短期間で再現可能であるこ
とを示している。そしてこのような活動を世界に広めていくために、 オース
トラリアの Trinity Grammar School と共同で Journal and Proceeding of Young
Archimedes というオンライン数学研究雑誌を高校生のために創刊した。編集
者としては、Robert Cowen(New York City 大学名誉教授)を初めとした、7
人の内外の数理科学者に引き受けてもらった。高校生用の研究雑誌は世界で
も他にないが、それを高校生が主体になって創刊することに意義があると考
えている。 私達がオンライン雑誌を創刊したもう1つの理由は、数学などの研究の成
果を評価するのは、コンテストよりも、審査員のしっかりした雑誌の形態の
方が望ましいということである。研究の優劣を順位にすることは難しいし、
私達の経験では優れた研究が驚くほど低い評価を受けて、気分を悪くするこ
とがある。審査をするレフリーと投稿者の間でのやり取りがあって、最終的
に評価されたら掲載されるという形態の方がコンテストよりも良いと考える。 プログラミングでは、数学を少し離れるものも考えている。現在作成中で
あるのは、臨床心理に関わるものなどである。多くのアプリケーションでは、
生徒のアイデアを活かしている。さらに、和気藹々とした雰囲気の中で、教
員と生徒が意見を交わし合い、それがアプリケーション開発の促進に繋がっ
ている。こうした環境づくりは意識の仕方一つで変えることができるが、我々
はこのような生徒と教員の関係性を構築することがとても重要なことである
と考えている。 iTunes U とそれを用いた教員養成では、わかりやすいと評判を得ている。
今後は大学の数学領域の授業へと展開していくほか、英語による授業配信も
予定している。隣の神戸市が、教員による模範授業を配信し始める予定であ
るが、我々は 2 年前からこうした授業配信を行っており、その新規性につい
ては我々が先だと考えている。
今まで述べてきたことだけにとどまらず、社会に貢献するチームとしてさら
に活動を広げていきたいと考えている。
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主な成果について 研究成果は、イタリアの Archimede (2005)、イギリスの Mathematical Gazette
(2010)、セルビアの Visual Mathematics (2010), オーストラリアの Mathematica
in Education and Research (2006),韓国の数学教育学会誌 (2011), シンガポー
ルの Journal of Mathematics, Statistics and Operational Research (2012),日本では、
情報処理学会誌特集号(2012)、折り紙学会誌(2011)、アメリカの Mathematica
Journal (2013)、国際誌 Integers (to appear)など 27 の査読付き論文、大学生用の
雑誌では、Rose-Hulman Undergraduate Math において、2008 から 2009 に 4 編
を掲載し、論文に対する直接の審査はないが、数理解析研究所講究録のよう
に学術レベルが認められている雑誌に 8 編出版している。また、8 回の国際
学会を含む、18 回の学会発表をして、Archimedes’ Laboratory や MathPuzzle
などのオンライン雑誌、オンラインの数列百科事典である The On-Line
Encyclopedia of Integer Sequences では 20 個の新しい数列を理論をつけて登録
というような業績を高校生を中心とした研究によって残してきた。 高校生対象の科学コンテストに参加したのは、2007 年以後で、高校生科学
技術チャレンジで 4 回の finalist になり、文部科学大臣賞(2008)、審査員奨励
賞(2013)、優秀賞(2012)を得ている。その他、全国高等学校理科・科学クラブ
研究論文で最優秀賞(2007)、Canada Wide Virtual Science Fair (カナダ全国オ
ンライン科学コンテスト)で 2007 から 2014 まで連続で 1st prize を獲得して
いる。Google Science Fair アジア・オセアニア地区代表(2012)、全国高等学
校総合文化祭物理部門優秀賞(2012)
(2,3 位相当)、国際的な数学論文コンテ
スト The Yau High School Mathematics Awards で、2012(ロサンゼルス)と 2013
(シンガポール)に semi-final 進出を果たし、2014 には semi-final(シンガポ
ール)を突破して北京での決勝に出場して奨励賞を得た。 iTunes U については、300 以上の授業動画および、書道動画、研究動画を配信
しており、数学教育学会 2015 年度春季年会(2015.3.21~23 明治大学)で発表
する予定である。 アプリケーションについては、
「ナイトツアークリエイター・チョコレートゲ
ーム・ヨセフスメーカー」が、ゲーム学会主催の第 12 回ゲームコンペで審査
員特別賞を受賞した。開発したアプリケーションは iOS で 30 作品以上、
Android で 4 作品以上あり、多くの作品がダウンロード可能となっている。 4