SPIRIT21 №24 大腸菌自動測定装置 株式会社 明電舎 第 1 反応終了後,酵素を標識した抗体(第 2 抗体) を添加し,抗原抗体反応を行う。 [D]洗浄 抗原抗体反応終了後,洗浄を行い,上澄み液中に 残留した酵素標識抗体を除去する。 このように,抗原が固相化抗体と酵素標識抗体には さまれた形となっているため,この測定法はサンド イッチ法と呼ばれている。 [E]化学発光反応 第 2 反応終了後,化学発光試薬を加えると,標識 酵素量に比例した発光反応が起こる。 [F]発光量測定 発光量は,標識酵素量に比例し,標識酵素量は抗 原量(大腸菌群数)に比例するので,発光量から間 接的に大腸菌群数を求めることができる。よって, 予め既知濃度の大腸菌群数に対する発光量を計測し て,標準曲線(図−2)の作成を行うことで,未知 濃度の大腸菌群を含む試料の発光計測値から未知濃 度の大腸菌群数を求めることができる。 1.技術概要 本技術は,従来の下水道法(下水の水質の検定方 法に関する省令)で定められている寒天培養後,生 成したコロニーを計数するデソキシコール酸塩培地 による平板培養法(以下,「デソ法」という)とは全 く異なる原理に基づいた方法を採用しており,蛋白 質などの測定法として知られている酵素免疫測定法 (Enzyme Immuno Assay 法,以下「EIA 法」)と,近 年高感度の測定法として注目されている生物発光・ 化学発光法を応用して大腸菌群数を短時間で測定す る方法である。本装置の測定原理を図−1に示す。 ポリスチレン製試験管 (φ11xL70mm) 第 1抗体 抗原 (超音波破砕大腸菌群) 酵素 第2抗体 発光 試薬 洗浄 [A] 抗原・抗体反応 (第1反 応) 抗原・抗体反応 ( 第2反応) [B] [C] 図−1 光 [D] [E] [F] 大腸菌群の測定原理 108 発光量[counts/30s] [A]固相調製 ポリスチレン製の試験管(φ11mm×70mmL)に,第 1 抗体を入れて固相化する。 [B]第 1 反応 固相化した試験管に,予め超音波破砕した試料(抗 原:大腸菌群)を加えると特異的な反応(抗原抗体 反応)が起こり,固相化抗体に抗原が結合する。 [C]第 2 反応 107 106 105 104 103 102 103 104 105 106 大腸菌群数[個/cm3 ] 図−2 ‑1‑ 標準曲線 107 108 2.開発研究 2.1 必要性能と開発目標 【募集要領に記載された開発目標(必要性能)】 「合流式下水道改善に関する技術開発 募集要領」 に記載された開発目標(以下,「必要性能」)は,合 流式下水道において,日常の維持管理が比較的容易 で,雨天時に下水の水質を連続的かつ正確に測定記 録できる技術である。これを表−1に示す。 槽から流入水と流出水を 1 時間毎に交互に調整槽か ら本装置にサンプリングして大腸菌群を測定した。 表−3に実験対象水と期間を示す。 表−3 表−1 募集要領に記載された開発目標(必要性能) 開発研究課題 計測・制御に関する開発研究 開発目標 合流式下水道の自然吐き口における 水量・水質を測定できる技術 適用範囲 吐き口からの下水※の水質 測定項目:BOD,SS,COD,T‐N, T‐P,濁度,等 【技術提案者が提示した開発目標】 技術提案者が提示した開発目標(以下,「開発目 標」という)を表−2に示す。開発目標は,表−1 の適用範囲の内,下水の種類と測定項目の内訳およ び必要性能は技術提案者が自ら設定するものである。 開発目標 最初沈殿池流入水 最初沈殿池流出水 平成 15 年 10 月 〜平成 16 年 8 月 項 流入水を含む。 適用範囲 実験期間 表−4 ※)吐き口からの下水には,スクリーン,沈砂池を経た最初沈殿池 表−2 実験対象水 3.2 実験装置 装置の仕様を表−4に示す。図−3に千葉市中央 浄化センターにおけるシステム構成図を示す。また, 装置外観写真を写真−1,測定部の写真を写真−2 に示す。 連続的にかつ正確に測定記録できる 技術 必要性能 技術提案者が提示した開発目標 測定時間:30 分 検出範囲:500〜5,000,000 個/cm3 測定精度:CV≦10% ※)吐き口からの下水には,スクリーン,沈砂池を経た最初沈殿池 大腸菌自動測定装置の仕様 目 仕 様 測定方法 化学発光法による酵素免疫測定法 測定時間 30 分(30〜120 分から選択可能) 検出範囲 測定時間により異なる 測定精度 変動係数(CV)≦10%(目標値) 電 AC100V±10%,7A 源 測定系列数 1または2系列選択 データ出力 DC4〜20mA 警報出力 故障警報 1点 接点出力 測定中 測定完了 2点 2点 接点入力 測定指令 2点 入 出 力 信 号 終末処理場の最初沈殿池流入水※ 終末処理場の最初沈殿池流出水 測定項目:大腸菌群 実験対象水と期間 外形寸法 装置本体: 1240mmW×748mmD×1255mmH サンプリング部: 470mmW×740mmD×2249mmH 質 装置本体+付帯設備:約 600kg 流入水を含む。 [CV:Coefficient of Variation(変動係数)] 3.開発研究方法 3.1 実験場所と期間 実験は,千葉市中央浄化センターにユニットハウ スを設置し,ユニットハウス内に大腸菌自動測定装 置を据え付けて実施した。 試料水は,最初沈殿池の流入水と流出水を採水ポ ンプにより揚水し,塩ビ製の配管(65A)を経由し て,本装置の横に設置した調整槽へ送水した。調整 量 使用環境 ‑2‑ 屋内,温度:20℃,湿度:65%以 下(エアコンの設定温度を 20℃ で運転し,使用環境を保持する) ユニット ハウス 携帯電話 【試料水の採取,保存および検定方法】 「下水の水質の検定方法に関する省令(最終改 正:平成一六年三月一二日国土交通省・環境省令 第一号)」に基づいて行った。 ×:手分析用 サンプリングポイント テレコン オートサンプラ‑ (24サンプル) オートサンプラ‑ (24サンプル) 始動指令 検出器 大腸菌自動測定装置 サンプリング装置 サンプリング装置 × × 【装置の測定試料の確認】 デソ法は,各希釈操作の時に試験管ミキサーで 撹拌を行い,SS に吸着された大腸菌群を SS から 脱着させているが,EIA 法は超音波破砕を行うた め,測定試料の確認として懸濁物質(SS)の影響 について SS の濃度が異なる大腸菌群数について 調査をした。その結果,同じ SS 濃度において EIA 法は,デソ法より大腸菌群数が高くなる結果とな った。大腸菌群をデソ法よりも分離させる効果が あるためと考えられる。 また,ポンプによる採水を行っているため,デ ソ法の採水箇所と装置の採水箇所である調整槽で 大腸菌群数について調査し,差異がないことを確 認した。 調整槽 オーバーフロー VP65A VP65A P 曝気槽へ 処理の流れ P 分水槽から 最初沈殿池 流出水サンプリングポンプ 図−3 写真−1 写真−2 流入水サンプリングポンプ システム構成図 【装置の検出範囲】 検出範囲の検証において,開発目標の最大値と 最小値については,理化学研究所微生物系統保存 施設(JCM)から標準大腸菌株を分譲してもらい, 培養して調製した標準大腸菌を用いて行った。 検出限界は,大腸菌群 0 個/cm3(ブランク値) に対する発光量(N)と大腸菌群を含む試料水の 発光量(S)との比率(S/N)が 1.5 を検出限 界と定義した。 検出範囲の最小値の 500 個/cm3 の検証は,最終 沈殿池の流出水でも実現できないので,標準大腸 菌を最初沈殿池の流入水のろ過水で希釈して検証 した。 高濃度域の上限は,大腸菌群数と発光量の関係 を下記に示す多項式で表し,段階希釈した標準大 腸菌を表−5に示す全測定時間で EIA 法を測定し, 係数a,b,cを求め,多項式が直線から 10%外 れる濃度を上限値とした。 y=ax 2 + bx + c ・・・(1) y:30 秒間の発光量 x:標準大腸菌数 大腸菌自動測定装置外観 大腸菌自動測定装置測定部 【測定値の信頼性検証】 デソ法による手分析値との相関性試験を行い, 大腸菌自動測定装置の測定値の信頼性について調 査する。相関性については,相関係数(r)が r≧0.8 を目標とする。 3.3 評価方法 本技術に関して,必要性能と開発目標が達成さ れたことを確認するにあたって,以下に示す項目 に留意した。 ‑3‑ 【雨天時の計測値の精度検証】 実験対象とする降雨は総量,最大強度,降雨時 間を明示して,数パターン,複数回測定し,大腸 菌自動測定装置が,雨天時の流入水に対して,精 度良く計測できるかを評価する。 350,000 発光量(counts/30s) 300,000 4.開発研究結果 4.1 検出限界 検出限界は以下のようにして求めた。 まず,標準大腸菌を最初沈殿池の流入水のろ過水 で希釈した試料を,第 1 反応時間:10 分,第 2 反応 時間:5 分,その他時間:20 分を合計した全測定時 間 35 分で測定した。発光量(counts/30sec)はブ ランクを含めて全ての希釈倍率の標準大腸菌を 2 回 測定して得られた発光量の平均値とする。 次にデソ法にて,希釈倍率 80,000 倍の標準大腸 菌,20,000 倍の標準大腸菌,5,000 倍の標準大腸菌 およびブランクを測定する。その他の希釈倍率 (160,000 倍,40,000 倍,10,000 倍,2,000 倍)の 標準大腸菌数はデソ法の測定値から推定した値であ る。 その結果を表−5および図−4に示す。表−5に おいて,希釈倍率は,標準大腸菌を最初沈殿池流入 水のろ過水で希釈した希釈倍率である。 表−5 希釈倍率 ブランク 11,200 160,000 倍 8,500 11,400 80,000 倍 17,000 13,200 40,000 倍 34,000 15,400 20,000 倍 73,000 25,300 10,000 倍 146,000 56,150 5,000 倍 260,000 130,500 2,000 倍 650,000 326,500 150,000 100,000 0 10 3 10 4 10 5 10 6 標準大腸菌数(個/cm3) 図−4 全測定時間 35 分の測定結果 以上の結果から大腸菌数と発光量の関係を多項式 (1)から係数a,b,cを求めると多項式(2)式と なる。 y=1.17×10‑7 x 2+4.25×10‑1 x+1.79×103 ・・・(2) それぞれの測定時間において,各ブランク値に対 する発光量(N)の 1.5 倍に相当する大腸菌群数を 対応する多項式のyの値に代入して検出下限(x) を算出した。 発光量 (counts/30sec) 0 200,000 50,000 全測定時間 35 分の測定結果 大腸菌数 (個/cm3) [デソ法] 250,000 4.2 検出範囲 EIA 法で測定した結果を多項式(2)にて,測定時間 (全測定時間)について求めた検出範囲の検証結果 を,表−6に示す。 その結果,検出範囲の測定下限は,達成できなか ったが,検出範囲の測定上限は,今回検証した全て の測定時間において,5,000,000 個/cm3 以上の測定 が可能であった。 ‑4‑ 検出範囲の検証結果 第 1 反応 時間 (分) 第 2 反応 時間 (分) その他 時間 (分) 全測定 時間 (分) 5 5 20 30 66,410 〜 8,750,000 10 5 20 35 34,980 〜 9,200,000 検出範囲 <大腸菌群数> (個/cm3) 5 20 45 14,700 〜 6,620,000 30 5 20 55 12,610 〜 7,810,000 70 11,830 〜 7,080,000 5 20 60 5 20 85 11,350 〜 7,090,000 20 10 20 50 11,740 〜 8,770,000 30 10 20 60 9,550 〜 7,820,000 45 10 20 75 8,110 〜 6,570,000 60 10 20 90 6,230 〜 6,060,000 CV=1.4 (n=4) 大腸菌群数[装置]( 個/cm3) 20 45 107 CV=2.1 (n=4) 106 CV=4.5 (n=4) 105 104 104 105 106 107 大腸菌群数[デソ法](個/cm3) 図−5 4.3 測定精度 最初沈殿池流入水に標準大腸菌を添加した試料 (高濃度:大腸菌群数=1,044,000 個/cm3),最初沈 殿池流入水(中濃度:大腸菌群数=508,000 個/cm3) および最初沈殿池流入水を蒸留水で 10 倍希釈した 試料(低濃度:大腸菌群数=49,400 個/cm3)の 3 段 階の濃度になるように調製した試料を繰り返し 4 回 測定して大腸菌自動測定装置の測定精度について検 証した。 4 回連続して測定した変動係数(CV)の結果を図 −5に示す。 大腸菌自動測定装置による高濃度,中濃度および 低濃度における大腸菌群数の測定値の CV は, CV≦10%で,測定精度に問題ないことを示してい る。 測定精度検証結果(n=4) 4.4 装置とデソ法による測定値の相関関係 大腸菌自動測定装置とデソ法による測定値の相関 性試験結果を図−6に示す。 図中,●は晴天日,■は雨天日のデータである。 図−6において,手分析の測定値と装置の測定値 の相関係数(r)は,r=0.94 で,良好な関係にあり, 絶対値についても破線で示すとおり,y=xに対し て±0.35Log の範囲に入っており,装置と手分析の 大腸菌群数に相違がないことを示している。また, 晴天日,雨天日にかかわらず高い相関関係があった。 Log[大腸菌群数(個/cm3)装置] 表−6 y = 0.9953x r = 0.94(n=44) 5.5 5.0 ●:晴天日 ■:雨天日 4.5 ●晴天時 ■雨天時 4.0 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 3 Log[大腸菌群数(個/cm )手分析] 図−6 ‑5‑ 装置(EIA 法)と手分析(デソ法)の相関関係 5.技術評価 【募集要領に記載された開発目標(必要性能)結果】 募集要項に記載された開発目標(必要性能)に対 する評価結果を表−5に示す。 表−8 技術提案者が提示した開発目標と評価 適用範囲 終末処理場の最初沈殿池流入水 終末処理場の最初沈殿池流出水 測定項目:大腸菌群 ・技術評価 【募集要領に記載された開発目標(必要性能)結果】 募集要項に記載された開発目標(必要性能)に対 する評価結果を表−7に示す。 開発目標 測定時間:30 分 検出範囲:500〜5,000,000 個/cm3 測定精度:CV≦10% 表−7 募集要領に記載された開発目標(必要性能) 評価結果 測定時間:30 分での測定は可能である。 検出範囲:30 分の測定時間では 66,410 〜8,750,000 個/cm3 で,上限は達成で きたが,下限は達成できなかった。 測定精度:CV≦5%(n=3)で目標を達 成した。 以上の結果から,検出範囲の下限値以外 の開発目標は,達成したと認められる 開発研究課題 計測・制御に関する開発研究 開発目標 合流式下水道の自然吐き口における 水量・水質を測定できる技術 適用範囲 吐き口からの下水※の水質 測定項目:BOD,SS,COD,T‐N, T‐P,濁度,等 必要性能 連続的にかつ正確に測定記録できる技術 評価結果 大腸菌群数の装置計測値と手分析値との 相関関係は,下記に示すとおり良好であ り,最初沈殿池の流入水および流出水を 1 時間毎に交互に連続して 1 週間,無保 守で正確に測定記録できたことから,必 要性能を有すると認められる。 (図−7 参照) r=0.94(n=44) 6.留意事項 ・共存物質の影響も受け易いため導入する際には, 予め各処理場の下水中の大腸菌群を測定して,処 理場の大腸菌群と大腸菌群の抗体がきちんと反応 するか(特異性があるか)を調査し,特異性が得 られない場合には,前処理などを行う必要がある。 ※)吐き口からの下水には,スクリーン,沈砂池を経た最初沈殿池 流入水を含む。 【技術提案者が提示した開発目標結果】 技術提案者が提示した開発目標に対する評価結果 を表−8に示す。 ●このプロジェクトに関するお問い合わせは 研究第三部長 研究第三部技術課長 研究第三部研究員 研究第三部研究員 ‑6‑ 照沼 鳥海 津島 前田 誠 弘 勲 充
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