ファシリティマネジメント

ファシリティマネジメント特集
日本アイ・ビー・エムのFM手法
日本におけるFMの先進企業に見る
オフィス戦略のケーススタディ
日本アイ・ビー・エムといえば、早くから先進的なFM戦略を展開していた企業です。
米国のIBMを中心とする国際企業の日本法人として、これまでどのようなオフィスづくりを進め、
現在ではどんな取り組みを行っているのか。
不動産建設のマネジメントをされている小橋さんと平田さんにFM戦略の全体像を伺うとともに、
モバイルオフィスの導入の経緯について、担当の渡辺さんから詳しく教えていただきました。
日本アイ・ビー・エム株式会社
管理 不動産建設
施設企画担当 副部長
日本アイ・ビー・エム株式会社
管理 不動産建設
施設企画担当 課長
小橋英世 氏
平田大亮 氏
日本のオフィス環境に合わせた
独自のFM戦略を展開
全世界で守らなければいけないルールをいち早く決めましたから、
私たちもそれに沿ってオフィスづくりを進めます。つまりいい意味で
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米国の進んだ考え方を採り入れ、
といって決して海外からの押しつ
……日本アイ・ビー・エムといえば、
早くから先進的なFM戦略を展開し
けではなく日本の事情にあったオフィス戦略を進めてきたところが、
ていた企業として、
多くのオフィス担当者から注目されてきましたね。
いろいろな面で注目されてきた理由かもしれません」
小橋「そのように評価していただけるのは、
とてもうれしいですね。
……オフィスコストの削減については、
かなり厳しくなっているので
私たちは米国IBMのオフィス戦略のルールをそのまま持ってくるの
すか?
ではなく、
日本の企業としてこの 国の土壌に合ったいろいろな手
小橋「FMは経営の一部ですから、当然、
オフィスコストの削減は恒
法を考えてきた歴史があります。それだけに、他の多くの企業に参
常的なテーマになっています。やはり人件費の次に抑制していかな
考にしていただけたのは光栄です」
ければならないのは施設運営費ですからね。ただIBMの場合、単純
……米国と日本の法人で、
オフィス戦略はずいぶん異なるのですか?
にオフィスコストを減らすのではなく、同時に働きやすさの向上を実
小橋「企業経営の重要なファクターの一つとしてオフィス戦略を
現することが求められますから、合理的なFM手法を用いなければ
考える姿勢は共通していますが、具体的にどんなビルにどんなオフィ
なりません」
スをつくるかといった手法は、やはりそれぞれの国の事情に合わせ
平田「米国でも日本でも景気がいい時代には、Good Design is
て工夫しなければなりません。したがって、FM戦略自体は日本アイ・
Good Businessを基本に施設づくりを行なってきており、
オフィス
ビー・エム独自のものです」
コストに関してもあまり重要な経営指標とは考えていなかったかも
平田「純粋な日本企業と違いがあるとすれば、
オフィスの環境やワー
しれません。しかし先に米国の景気が後退したことで、世界ベース
カーの安全・健康面に関する基準が明確な点でしょうね。アスベ
でオフィスコストや働きやすさを比較するようになり、
このことがFM
スト対策や耐震構造、働きやすさなどについては国際企業として
的な評価手法のより積極的な推進につながったと考えています」
ファシリティマネジメント特集
在席率が50%以下の社員は
モバイル系としてフリーアドレスに
ように数字を下げていきました。このようなルールは決してロジック
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とが必要でしょう」
日本アイ・ビー・エムのFM手法
日本におけるFMの先進企業に見る
オフィス戦略のケーススタディ
だけで決められるものではないので、様子を見ながら進めていくこ
……オフィスづくりの具体的な話を伺いたいのですが、
たとえばフリー
……そういえば、新聞に「日本アイ・ビー・エムでは社員500人を対象
アドレスの導入はいつごろからだったのですか?
に在宅勤務を導 入する」という記事が出ていましたが。
平田「10年ほど前でした。当時はグループアドレスと呼んでいて、
小橋「あれは、
e-ワーク制度のことだと思います。日本アイ・ビー・エ
営業などのセクション単位で個人用の固定デスクをなくしていっ
ムとしては、
より働きやすい仕事環境を模索しているのです」
たのです。その後、
シェアドオフィスとなって適用範囲を広げ、今で
平田「在宅勤務の導入というレベルになると、
これはもうFM担当
は営業系の拠点である箱崎事業所の社員の約半数がモバイル系
者の領域を超え、経営者マターになると思います。そこで方針が決
のワーカーとして、共有のデスクとノートパソコンで仕事をしていま
まれば、私たちがFMという観点で最適ソリューションを実現すると
す」
いう流れになるのではないでしょうか」
……モバイル系と固定席のワーカーを決める基準はあるのですか?
小橋「ただ、
ワークスタイルを個人の裁量の中で選んでいく時代に
小橋「基本的には、
オフィスに50%以上在席していない社員は、固
なるのは確かでしょうね。
『自分の仕事は終わっているのに上司が残っ
定席にせずにシェアドデスク
(共有席)にする。また、役職者の個
ているから帰れない』なんていう職場では効率はかえって悪くなっ
室をオープン化することによって、社員全体のコミュニケーション
てしまいますから
(笑)」
の円滑化をはかることを目的としたガイドラインがあります。一方で、
平田「オフィス担当としては、
ワーカーが選択できるオプションを増
ミーティングルームやチームルームの充実をはかる必要があると
やしていく努力はするべきでしょう。もっとも在宅勤務については、
考えます。これらの対応は、全世界のIBMで一斉に実施されてい
たとえ米国で積極的に導入されていったとしても、
日本の一般家庭
ます」
の住宅事情を考えれば必ずしもベストではないかもしれない。そう
平田「モバイル化する社員の配席率の基準も、最初は75%だった
いう意味では、
これまで通り日本式のFMにこだわることも大切だと
のが、部門によってばらつきはありますが、徐々に60%、50%という
思います」
●新規リースビル チェックリスト
●日本アイ・ビー・エムの施設構築の歩み
《自社/準自社施設建設プロジェクト》
‘65 ‘66 ‘67 ‘68 ‘69 ‘70 ‘71 ‘72 ‘73 ‘74 ‘75 ‘76 ‘77 ‘78 ‘79 ‘80 ‘81 ‘82 ‘83 ‘84 ‘85 ‘86 ‘87 ‘88 ‘89 ‘90 ‘91 ‘92 ‘93 ‘94 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99
●川崎`82
●天城`68
オ
フ
ィ
ス
/
研
修
●大阪南港`90
●大和研究所`85
●本社`71
●幕張`91
●築地`86
●六本木`73
●北海道sc`92
●箱崎`89
●大阪`74
●幕張`93
●幕張P-2`99
●川崎東`89
●飯倉`78
●大和-2`89
●藤沢工場`67
製
造
・
物
流
●野洲`71
●厚木倉庫`81
●東京物流センター`86
●町田グランド`66
福
利
厚
生
/
他
●館山ビーチハウス`72
●千石ロッジ`66
●熱海ユトリウム`94
●賢島パールハウス`76
●大阪万博 `76
●ポートピア`80
●関西グランド`72
●筑波博`85
不動産・建設 安全・衛生
新規リースビル チェックリスト
承認
(本項目に合致しない建物は原則新規の賃借は禁止とする)
調査対象ビル名
調査日
施設データ
延べ床面積
基準床面積
構造種別
造
階建て 地下 階
階数
賃借予定階
賃借予定面積
敷地が接する道路の数
●IBM環境ポリシーの推移
調査員
ビルオーナー担当者
TEL:
/FAX
ビル所在地
予定の賃借期間
予定入居者
添付の有無
1967年
安全で健康的な職場の確保
安全な製品の提供
(ポリシー#127)
検査項目
1
2
3
4
5
6
1990年
1971年
環境保全
(ポリシー#129)
環境
(ポリシー#139)
1974年
エネルギーと天然資源の保全
(ポリシー#131)
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
OK
判定
NO
複合用途(事務所、店舗、営業用倉庫)が防火シャッター、防火壁等で防火区画されているか
内装制限は難燃材以上であるか(但し、火気使用室は淳不燃材以上)
建物は淳耐火構造以上であるか(4階建て以上は耐火構造)
各階の階段、避難階(通常1階)の出口への2方向避難が確保されているか
直通階段が2ヶ所以上あるか
階段室が建築基準法でいう避難階段(特別避難階段)
または、屋外避難階段であるか最低でも不燃区画であること
建物内の階段で再入室が自由にできるか(少なくとも5層ごとに非常時には入室可能)
新築は200㎡、既存は400㎡の事務所は2ヶ所以上の出口があるか
避難廊下と居室は不燃材で区画され、
かつ区画の扉は自閉式であるか
避難距離が60m以下で、2つの別々の階段への重複距離が1/2以内であるか
廊下に30mを超える行き止まり部分がないか(原則は15m以下)
危険物置場が避難通路に面していないか(防火区画で区分されていれば良い)
防火区画が建築基準法の面積区画基準(1500㎡)で完備されているか
排煙設備があるか(自然排煙または機械排煙)
非常照明が完備されているか
消防隊の非常用進入口が外壁に設置されているか(3階以上で31m以下の場所)
31m以上の建物には非常用エレベーターが設置されているか
非常用エレベーターは火災管制がついているか
消火器が歩行距離20m以内に設置されているか(共用部分)
事務室に煙感知器が設置されているか
煙感知器が自動火災報知設備に連動されているか
各階のエレベーターロビーに煙感知設備が設けられているか
非常放送設備が設置されているか
誘導灯または誘導標識が設置されているか
最上階の床面が23m以上の建物には部分的にはスプリンクラーが存在するか
地下室を借りる場合は、
その部分にスプリンクラーが設けられているか
竪穴区画が存在する場合、区画貫通部には煙感知連動防火ダンパーがあるか
耐火、吸音材に吹付けのアスベスト材が使用されていないか
「事務所衛生基準規則」を満たす運用がなされているか
1981年以前に建設されたビルであるが耐震診断で安全性が確認されているか
備考
社内安全調査に必要な図面
入居対象階平面図、断面図、避難階配置図、仕上げ表、構造概要、防災設備系統図、防災設備システム概要
NA
用意しましたが、
それだとやはり不必要な書類が溜まっていってしま
モバイル系のオフィスを
運用していくための課題とは……
う。今は個人単位で最小限のキャビネットを使うようにしているので
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
以前よりは整理するようにはなったものの、
まだまだ無駄なスペー
……モバイルオフィスを実現するには、
やはり情報通信のシステム
スはあるはずです」
を完成させることが重要だと思いますが、
自社でシステム構築できる
……しかし、
モバイル化によってオフィススペースの効率化はかなり
という点は有利ですか?
進んだみたいですね。
平田「それはどこの企業でも同じではないでしょうか。当社ではノー
小橋「確かにそうですね。ここ箱崎オフィスでも、竣工当時の1989
トパソコンのThinkPadと、通信にはPHSを使っていますが、
このよ
年には約8万5000m のスペースに5600人のワーカーしか置くこと
うなシステムなら専門の会社に依 頼すればすぐに構築が可能です。
ができませんでしたが、現在では8500人と、スペース効率は1.5倍
ただ、
日本の場合は機器やシステムはあるものの、通信コストが海
以上になっています」
外に比べて高いなど、
まだまだインフラ面では遅れている。その点
……今後の課題としては、
どんな点がありますか?
2
が解消されれば、
もっとオフィスのモバイル化は進むでしょう」
平田「環境や健康面を含めて、働きやすいオフィスの追求は続けて
……日本の企業でも最近は多くがフリーアドレスを採用していますが、
いかなければならないでしょう。この点については全IBMで重要な
「書類の置き場が足りなくなる」とか、
「共有席にしても、結局、座る
経営課題の一つとなっていますから、
これからも先進的な取り組み
場所が決まってしまう」といった現象が起き、見直しの議論も起きて
を進めていきたいと思っています」
います。
この点で先進的な日本アイ・ビー・エムの対策をお聞きした
小橋「オフィスづくりは決してゴールのない仕事です。私たちは国
いのですが。
内のオフィスを順次リニューアルしていますから、現在でもいくつも
小橋「書類の置き場は確かに悩みの種でしょうね。電子化しても
のプロジェクトが進行しています。単に新しいオフィスをつくるだけ
完全にペーパーレスが実現できるわけではありませんから。私たち
でなく、現有のファシリティをいかに効率的に運用していくかという
の場合も、
グループアドレス時代はセクション単位でキャビネットを
ことも、重要なファシリティ戦略の一つなのです」
ファシリティマネジメント特集
スペース削減のためだけの
「フリーアドレス」ではなく
生産性を高める
「モバイルオフィス」の導入が必要だ
日本アイ・ビー・エム株式会社
セールスプロモーション
副部長
渡辺和雄 氏
Point 1
●1989年から試行を重ねたモバイルオフィス ●ITの活用がスペース削減と生産性向上を実現
渡辺さんたちが目指していたのは、決してスペースを減らすこと
デスクシェアだけではなく
ワークプレイスの拡大が目的だった
だけではありません。それ以上にワークプレイスの多様化を図り、
「車
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
の中や電車の中、
あるいはホテルや喫茶店でもオフィスにいると同
日本アイ・ビー・エムがフリーアドレスと呼ぶデスクシェアのオフィ
じように仕事ができ、時間を効率的に使える環境をつくること」が目
スを導入したのは箱崎のビルが竣工した1989年のことです。
標で、
その結果としてオフィスコストが下がれば経営上の効果もあ
「当時はノートパソコンや携帯電話といったモバイル機器がなかっ
ると考えたのです。しかし89年の段階ではそこまでITのシステムが揃っ
たため、在席率の少ない営業の一部門をモデルケースとして、デ
ていなかったため、
「実験的な試みだった」と振り返ります。
スクトップマシンや通常の電話を複数の社員で共用する方法の実
そして本格的なモバイルオフィスの実現に向けて次の試行が始まっ
験を始めたのです」
(平田さん)
たのは95年のことです。
新しいオフィスでは個々の社員をカードで管理し、デスクを使う
「ノートパソコンと携帯電話(後にPHS)が普及してきたこともきっ
ときはサーバーでカードを読みとって「何番のデスクを誰が使用す
かけの一つですが、同時にロータスノーツのようなデータベース・シ
る」という情報を処理することにより、通常の個人デスクと同じよう
ステムの登場は大きな導入動機になりましたね。ネットワークで個々
に利用できる環境を整えたそうです。
人のコンピュータをつないでも、共通に利用できるデータベースがな
「もともと外回りの社員が多いセクションだったため、スペースの
ければ外では仕事ができない。つまり情報通信システムの発達により、
削減は実現できましたが、
この段階ではオフィスの生産性が向上
オフィスは新しい時代を迎えることになったのです」
(渡辺さん)
するまでには至っていません」
Point 2
●ノートパソコンとPHSをモバイル社員に貸与 ●ワークプレイスを多様化するための試み
考え、
ワーカーにとって最適な具体案をつくらなければなりません。
ファシリティの担当者と
協力して進めたオフィスづくり
したがって、ITであればその専門家、安全や健康、
ファシリティ、経
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
営管理など、
それぞれのプロが一つの目標を実現するためにアイ
社内で渡辺さんたちがITによるモバイル化の計画を進めるのに
デアを出し合っていくのです」
(小橋さん)
合わせて、
ファシリティマネジメントを担当する小橋さん、平田さん
もちろんモバイル化は日本アイ・ビー・エムの全社的なプロジェク
たちも新しいオフィスづくりの試行を続けました。
トだったのですが、ITの進歩を受けて、渡辺さんたちは翌96年、箱崎
「ITの導入とオフィスレイアウトの改革は同時に進めなければいけ
のビルの114名ほどの営業部門で 第二回目の試行を始めました。
ないのですが、
どちらも試行錯誤を進めて様子を見ながら、最適な
「計画段階で米国のオフィスを調査したのですが、向こうは非常に
形を模索していくことが大事ですね。たとえば、デスクシェアの初
進んでいて、週のうち1日しか出社せず、
あとは顧客のところや自宅
期段階で私たちは十字型のデスクを導入したのですが、
この形で
で仕事をしている社員までいた。もちろん日本との住宅環境の差を
は結局は座る場所が固定化してしまう。その後、
H型やI型のデス
考えれば、すぐに同じにはできませんが、モバイルオフィスの可能性
クに変えていくことで、本当の意味でノンテリトリアルなオフィスが
は実感しましたね」
(渡辺さん)
実現したのです」
(平田さん)
日本で試行を始めたのは在席率が50%以下のセクションでした。
日本アイ・ビー・エムの場合、
このような協力態勢をつくってプロ
ノートパソコンと、
それに接続できる携帯端末、
さらに新宿や池袋な
ジェクトを進められたことがその後の成功につながったのです。
どのターミナル駅近くにモバイルサテライトと呼ぶ立ち寄り可能な
「オフィススペースの効率化という目標は全世界のIBMで共通に
オフィスもつくったそうです。
決められるものの、
それを可能にするには、国や地域ごとの特性を
「モバイルというからには、多くのワークプレイスを用意することも
日本アイ・ビー・エムのFM手法
日本におけるFMの先進企業に見る
オフィス戦略のケーススタディ
大事なので、不動産建設の部署と相談して、新たにサテライトを設
同じような目的から、希望者には自宅の電話をISDN化し、通信費
置しました。最終的には、
オフィスコストの削減もはかれましたが、
そ
も会社で負担するような制度を導入しました。
の前段階としての投資は必要でしょう。もっともモバイルサテライト
「自宅でも仕事ができるようにと始めたのですが、
その後、全社的
の多くは既存のオフィススペースに設置しましたから、
それほど多く
にモバイルオフィスを導入した段階では、対象社員の80%がISDN
のコストがかかったわけではありません」
(渡辺さん)
化を望み、
この試みは成功だったと思います」
(渡辺さん)
Point 3
●箱崎では8000人中4500人がモバイル社員に ●オフィスの生産性は平均15%向上
社員の声に耳を傾けることで
機能的なオフィス環境を実現する
それで社員に不便を感じさせては、生産性がダウンして本当の意味
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
から見ても、非常に有効な戦略になるのです」
の効果は得られません。ITの導入は、私たちファシリティの専門家
2回の試行を経てモバイルオフィスは97年より本格的に導入され、
モバイルオフィスの実現後、渡辺さんたちはいろいろな方法でそ
箱崎ビルだけでも約8000人のワーカーの内4500人が個人デスク
の効果を調べています。
を持たずに仕事をするようになりました。そしてワークプレイスの拡
「オフィス改革の効果は必ずしも売上の数字とリアルタイムに連動
大は、社員の評判も上々だそうです。
するわけではないので、基本的には社員にアンケートをとるしかあり
「もちろん、自分でパソコンの設定をしたりする部分もあり、
それを
ません。その結果、約7割のワーカーが『モバイル化によって仕事
不満とする声もありましたが、私たちはすべての社員の声に耳を傾
の効率はあがった』と答えています」
(渡辺さん)
けて試行錯誤を繰り返すことにより、満足度を高めていくように常
詳細なアンケート結果は別表にまとめましたので参考にしてくだ
に工夫しているのです」
(渡辺さん)
さい。
「モバイルオフィスの原型はこれで完成しましたが、今後はさ
このような姿勢は日本アイ・ビー・エムがさまざまなファシリティ
らにワークスタイルの進歩を考えて新しい試みを続けていきたい。
戦略を成功させてきた重要なポイントの一つで、不動産建設の小
そのことが生産性の向上につながるとともに、人材確保などの点で
橋さんも次のように話しています。
も成果をあげると信じています」
(渡辺さん)
「経営的に見ればオフィスコストの削減は長期にわたる課題ですが、
●モバイルオフィス満足度サーベイ
(98年9月実施 回答者数:モバイル者1,270人/ライン管理者100人)
0
10
20
30
生産性の向上
情報入手への支障
ワークエリアの使い勝手
通勤負担
個人的時間
家族への影響
40
50
60
70
80
90
78
総合満足度
お客様満足度への寄与
チーム・関連部門への影響
コミュニケーション
モバイルの利便性
PHSの利便性
貸与PCの使い勝手
電源/コネクタの使い勝手
55
63
93
87
73
65
100
85
84
33
●実施結果 本格展開後
(98年9月)
お客様訪問時間
・パイロット-1 20%UP
・パイロット-2 17∼30%
・本格展開
0∼20%
(部門/職種で差異)
業務効率
・パイロット-2:72%が向上
・本格展開時:67%が向上(98年9月)
平均生産性UP率:15%
*本格展開後の声
95
88
70
60
60
61
モバイル者
管理者
67
81
20
スペース効率
34
・25%-50%
*平均30%)
22
14
●生産性の向上(98年9月アンケート結果)
質問:業務効率にどのような変化がありましたか?
1または2と答えた方は、どのくらい生産性が向上しましたか?
4または5と答えた方は、どのくらい生産性が低下しましたか?
●生産性に関するアンケート結果
各自回答者が何パーセント向上(低下)したかを記入した
数値を平均したもの
生産性が向上したと回答した人の数値の平均
1.2の選択者
3の選択者
4.5の選択者
1.かなり向上 23%
2.やや向上 44%
3.維持 25%
4.やや低下 7%
5.かなり低下 1%
計
67%
821人
25%
306人
8%
111人
100%
1238人
25%
生産性が低下したと回答した人の数値の平均
22%
全国平均の生産性向上の数値
15%