科学ジャーナリストが教育界に架ける橋

44
No.
2007.9
科学ジャーナリストが教育界に架ける橋
畑 祥 雄
教育は誰にでもどの家族にも等しく関係する分野
このような現状を踏まえると、科学ジャーナリス
であるが、これまで教師という専門家にまかせがち
トには最先端科学者と学校の教師をつなぐ役割が期
であった。特に理系の分野では最先端の科学技術を
待されていると考えたい。もちろん科学ジャーナリ
正確に小学校・中学校などの教師に伝える方法もな
ストには最先端科学を監視・検証する大切な役割が
く、一部の熱心な教師が新聞・テレビ・書籍から独
あることは前提であり、これまでも新聞・雑誌で子
学で仕入れた文字・図形・映像などの情報を手作り
ども向け記事としてアプローチはされてきたが、ジ
で副読本化して子どもたちに伝えていく。一方、
子ど
ャーナリストと現場の教師の協力関係をより親密な
もたちはゲームの中でサイエンス・フィクションと
ものにしていくことが社会の潜在的な期待であると
して断片的な科学情報をスピード感あふれるCG・
感じる。
アニメを駆使したハイテク映像で疑似科学情報を体
このたびJASTJのホームページ(4 ページ参照)を
得していく。これでは竹やりと最新鋭ミサイルの競
大きくリニューアルしたが、公開性が高く、投稿者
争であり、感動を伴う科学教育は無理であろう。
や他機関などと協働で作り上げていく愛称「サイエ
映像大国といわれ、プロが使うビデオカメラはす
ンス・オアシス」は、ジャーナリストと学校の教師
べて日本製という圧倒的なシェアを持つ我が国であ
が出会える広場であればと願っている。また、独自
るが、教育現場の映像化は実に貧困である。因果は
事業の「サイエンス図書館・書評センター」はジャ
不確かだが、バーチャル映像に浸かり現実世界との
ーナリストによる科学本の百科事典に発展、「サイ
区別がつかない最近の少年犯罪の増加は何を警告し
エンス・オアシス・テレビ」(SO-TV)は映像教材
ているのか。もし、ゲームの豊かな表現技法を使っ
チャンネルとなり、インターネットから学校の各教
た楽しくワクワクと学べる映像教材が学校の教師の
室で使えるようになれば教育環境は大きく変わる。
手に届けば、教師への信頼感も増し、理科好きな子
さらに、学校の先生や子どもたちから感動した観察
どもが増えるだろう。
映像がこの「SO-TV」に届き、他の学校の先生がそ
これに対して、ほとんどの学校にブロードバンド
の映像を使って授業をする。同時に科学の質問をブ
の回線がつながり、環境整備はできているという反
ログに集め、それに科学ジャーナリストが答えてい
論もある。確かに鍵のかかった視聴覚教室だけには
く。ジャーナリストと教師は正義感と向上心の志が
ネット回線がつながるが、多くの教室のテレビモニ
似ているように思えるが、これまでは出会える機会
ターとはつながっていない。これまでの教育政策は
や場が少なかったのではないか。JASTJが先導する
ハード優先であり、学校で視聴できる映像教材など
「サイエンス・オアシス」が教育界への架け橋にな
ソフトの充実は大きく遅れている。
ればと願っている。
(本会議理事、関西学院大学教授)
巻頭言 科学ジャーナリストが教育界に架ける橋 .....1
第6期科学ジャーナリスト塾が開講 ............................5
例会報告 補助金には頂点と底辺を支える二つが必要 ....2
第3回科学ジャーナリスト賞/賛助会員との懇談会 .....6
科学報道シンポジウムを早稲田大学と共催 ................3
会員だより コンピューターと人類の進歩 ................7
大改革したJASTJのホームページ ...............................4
事務局だより/新入会員の自己紹介/会員のBOOKSほか...8
1
例会報告
補助金には頂点と底辺を支える二つが必要
石井紫郎・日本学術振興会学術システム研究センター副所長
6月28日の例会は、石井紫郎・独立行政法人日
本学術振興会学術システム研究センター副所長を
科研費に頼るしかない大学の研究者
迎え、科学研究費補助金(科研費)についてサイ
エンス・カフェ風に議論をした。競争的研究資金
平成19年度の科研費は総額約1913億円。政府全
である科研費の主旨や特性、審査の妥当性、課題、
体の科学技術関係経費(約3.5兆円)の約5%、政
さらには大学が賄う基礎的な研究資金が減りつつ
府の競争的資金(4766億円)の約40%を占める。
ある深刻な問題点も浮かび上がるなど充実した内
国が発行する研究者番号をもっていれば、自然・
容となった。
人文・社会の分野にかかわらず申請可能で、「大
魚になりそうな大型研究から、生まれたばかりの
天然魚を釣ろうとする研究者を支援
小規模研究まで、成長過程に応じて適切に学術的
な可能性を審査しなければならず、量的にも質的
科研費を使って進められる研究は、新規・継続
にも汗をかく仕事」という。
あわせて毎年約4万5千件にも及ぶ。科学研究を経
審査は、延べ約5000人の研究者による評価(ピ
済的に支える公的な資金は国内にはいくつかある
アレビュー)で行われ、採択率は約22%。約2万
が、科研費はその一つだ。
件の採択数で5人に1人しか配分できないが、新規
その配分先の選定で実務を担っているのが日本
応募は増える一方で、平成19年度は約9万件の応
学術振興会。石井さんは漁業を引き合いに出し、
募があった。石井さんによれば、大学は基盤的な
「大きな天然魚を釣る猟師を支援するのが科研費。
研究経費を減らす方向にあり、不足分を競争的資
その天然魚の生態が分かり、養殖などの応用技術
金で補う流れが出ているという。このような風潮
が生まれることもあるが、その応用技術の支援は
を、石井さんは「科研費が別の目的に使われる危
別の資金によって支えられる」と説明。科研費は、
険性がある」と懸念した。
あくまでも研究者の学術的な自由な発想にもとづ
議論の一部を紹介すると―
く研究を支援するための補助金であり、テクノロ
会員
旧帝大が偏重されているのでは?
ジーを支える資金ではないと述べた。仮に “大
石井
確かに配分額の割合は高いが、採択率が特
魚”が釣れなくても、その過程で養殖魚を育てる
に高いわけではない。1人あたりの応募件数は私
ための環境や道具を作るきっかけができれば、科
立大より国立大のほうが多く、国立大は理系研究
研費の意味はあると強調した。
の申請が多いので配分が多くなる。
会員
科研費を獲得できない大学は没落するので
はないか?
石井
大学は、競争的な資金を獲得できなくても
健全に研究できる基盤的な経費をきちんと用意す
るべきだと思う。競争的資金は頂点を高くし、基
盤的資金は裾野を広げる。どちらも大切だ。
会員
若手の研究を的確に評価できるか?
石井
応募できる種目を多様に用意して工夫をし
ている。37歳以下の研究者が応募できる「若手研
究」という種目や、年齢に関係なく独創性の高い
ものを評価する「萌芽研究」という種目もある。
さまざまな土俵を用意している。
▲質問に答える石井さん
2
(宇津木聡史)
科学報道シンポジウムを早稲田大学と共催
「限界を考える当事者」たれ
第8回MAJESTyセミナー
未来を語るために過去を知る。日本を語るため
の視点を挙げた。①「複眼」でものをみる②疑わ
に世界を知る。ジャーナリストとして生きるさま
しきは報じる③定量的な吟味を忘れない④密室で
ざまな人の意見を耳にする。この3つを同時に経
決めてはいけない、である。これらを忘れたとき
験できる、そんな贅沢な試みが行われた。7月28
に科学報道の失敗が起こる、と分析した。
日、早稲田大学小野梓記念講堂で開催された第8
回MAJESTyセミナーである。
この50年間を振り返ると、科学ジャーナリスト
の役割は、初めの20年は科学の解説者だった。次
今回のセミナーはJASTJとMAJESTy(早稲田大
の30年で批判者、監視者となった。遺伝子技術な
学科学技術ジャーナリスト養成プログラム)の共
ど急速に進む科学技術、それをどこまで利用して
催というかたちで行われた。前半の基調講演者と
いいのか、その線引きを深く考え、発信する「限
して、科学ジャーナリストの柴田鉄治氏(元朝日
界を考える当事者」、それが今後の科学ジャーナ
新聞記者)とアラブ圏のフリージャーナリスト、
リストの役割であると柴田氏は語った。
サラメ・ウィサム氏を招聘。後半にはTBS報道部
長の桶田敦氏、朝日新聞科学エディターの高橋真
アラブの科学報道―知られざる真の姿
理子氏、小林宏一・早稲田大学教授を加えて5名
でパネルディスカッションが行われた。
当日の天気は快晴。真夏の到来を告げるかのよ
うな暑さのなか、講堂内ではそれに勝るとも劣ら
ない熱い議論が交わされた。
基調講演2人目のサラメ氏が語ったのは、普段
ほとんど目に触れることのないアラブにおける科
学ジャーナリズムの姿だった。
当局の規制が厳しいために、欧米の情報の翻訳
に終始してしまう科学記者と、科学報道にほとん
科学報道の50年史は失敗の歴史
ど関心を示さない大多数の視聴者たち。しかし、
いまカタールではその状況に風穴を開けるよう
科学報道が誕生してから50年。原子力を生みの
に、「科学の革命」ともいえる変化が起こってい
親、宇宙開発を育ての親として発展してきたこの
るという。この流れを後押しするためにも日本の
分野は、科学技術の急激な発展に追いつけず「失
協力を期待したい、とサラメ氏は要望した。
敗」を繰り返してきた。柴田氏の基調講演は、科
学報道の50年史を「失敗」という切り口から考察
議論は熱く、深く
したもの。水俣病や心臓移植などの事例から学ぶ
べき教訓として、柴田氏は科学報道に重要な4つ
後半のパネルディスカッションでは、90分ほど
の時間のなかで、「アラブにおける報道の様子」
「情報の受け手の存在とその『エンタメ嗜好』に
ついて」、さらには「近代文明教=科学教の邪教
化」など、さまざまなテーマについて熱い議論が
交わされた。
2時間半という短い時間ではあったが、そこか
ら得られたものは非常に大きかったように思う。
次の50年、日本とアラブの科学ジャーナリズムは
どう変わっていくのか。それは科学報道に携わる
一人ひとりが、いかに当事者となるべく考え、動
くかにかかっているのだろう。
▲パネルディスカッションの様子
(田中 亮・早稲田大学MAJESTy修士1年)
3
大改革したJASTJのホームページ
ホームページは内を映すミラー効果と
社会貢献度で評価が決まる
1978年、ニューヨーク近代美術館で写真企画展
「鏡と窓」が開かれた。50年代にテレビが普及し、
写真の役割が変容した時代に、写真は人間の内面性
料サーバの提供競争が始まった。現在、約50の動画
投稿サイトが存在し、半ば公共機関の様相を呈し、
この傾向はもはや後戻りすることはない。
と社会の出来事の本質を探る二つの潮流になったと
定義づけた。現在、ホームページ(HP)がようや
書評の図書館は百科事典に化ける
く社会に定着した時代に、HPの役割を企画展化す
ると主観的評価やアクセス数に翻弄され、役割が定
かでない姿が浮き彫りになる。
JASTJのHPは、動画を事前にYouTubeやグーグル
動画に投稿し、それらのサーバに蓄積を依存、アド
このたび、JASTJのHPは新しい評価基準が明確化
レスをJASTJのHPにリンクを張り瞬時につなぐ。こ
する転換期に合わせて改革を断行した。その過程で、
れによりJASTJは投稿動画の蓄積サイトを持たなく
昨年の夏には不可能だったことが、ポストYouTube
ても推薦する科学映像のネット放送局を開局でき
時代の現在では、驚異的に可能性が広がり、HPの
た。この方法は個人的サイト以外では初の試みで、
役割の変容をあらためて実感した。今後のHPは動
ローコストで実現できるリナックス的な公共財思考
画投稿の欄がないと情報発信の効果も減少してい
の賜物であった。
く。デザイン上でいかに美しくても、マーケティング
ここから「サイエンス図書館の書評センター」が
に結びつかないHPは失格というITバブル時代から、
生まれた。JASTJの独自の企画になる科学書の書評
現在では、動画投稿やブログ欄もあり、それにコメ
をホームページ上に集めて科学知識の上級版ウィキ
ントする往還がHPには求められる時代になった。
ぺディアを創る。あとで書評者の目利き検索も可能
になる。この書評ページはアマゾンのネット販売と
著名投稿サイトは半公共機関になる
繋がり本代の約3%の紹介料がJASTJや各会員の新
たな収入源にもなる。また、次の企画にはJASTJが
しかし、投稿動画をどのサーバに蓄積するかの問
推薦する「ホームページセンター」も開設を予定し、
題は、画質や時間によるメモリー容量の予測を求め
科学知識のネット上のデジタルアーカイブも構築で
られ、NPO活動などのミニマルな予算では対応に苦
きる。さらには、会員一覧では各自の活動や研究情
しく、企業ではセキュリティを第一優先にした高い
報が集積され、ホームページからより細分化された
サーバが求められる。前者は何百万円単位の制作予
専門情報の暦年的な保管場にもなる。ホームページ
算であり、後者は何千万円単位の予算になる。しか
がない人には、これを機会にJASTJ企画のブログホ
し、JASTJのようにNPO的であるが先端科学を批評
ームページを学生アルバイトに依頼し、そのアドレ
的に検証する団体がサーバトラブルを引き起すこと
スを名刺に記入いただければJASTJの広報にもなり、
は社会的責任上からも問題があり、この難題に直面
HPへのアクセス数が必ず倍増する。その結果、協
したJASTJのHP制作は立ち往生をしてしまった。
賛企業のバナー効果もより明確に表れて、参加要請
このジレンマで悩んでいたが、2007年の春には解
もしやすくなる。また、会員同士のブログ上での対
決の光明が見えてきた。設立して2年に満たない
話も頻度を増し、小学生などへの科学相談室を設け
YouTubeが2006年10月にグーグル本社に約2000億円
て、科学ジャーナリストがやさしく答えてあげる。
で買収されてその傘下に入り、2社合わせての動画
「サイエンス・オアシス」には、科研費の研究成果
投稿サイトはいっきに世界中の約55%のシェアを確
を映像報告したビデオが蓄積され、その評価を書評
保した。ここから状
4
的に書き込んでいける。
況が大きく動き、後
新しいJASTJのホームページは、会員同士の活動
を追いかけたヤフー
力を映す「鏡」と、社会貢献の「窓」の役割を担う
動画などはYouTube
ように設計しており、「科学版の文字・映像ネット
以上の好条件を出さ
百科事典」でエンサイクロペディアやウィキペディ
ないと投稿動画を集
アを凌ぐ科学情報の公共広場に成長し、会員のみな
められなく、企業広
さんの多くの参加により、先端を走り続けるホーム
告も減少するため無
ページになることを念願している。
(畑 祥雄)
第6期科学ジャーナリスト塾が開講
カリキュラムを大幅に改革
さらに大きな飛躍を
今年の科学ジャーナリスト塾は、9月10日(月)
にスタートした。各期の反省点を次期に反映させ、
活動を継続してきた塾であるが、第6期の塾を一
つのターニングポイントと考え、カリキュラムな
どを大幅に変更し、大きく飛躍しようとしている。
塾生のために、より充実した内容を
科学ジャーナリスト塾は、塾生の高い志を受け
月 日 曜
テ ー マ
9 10 月 *オリエンテーション・グループ演習
10 1 月 新聞記事の書き方①・演習
15 月 新聞記事の書き方②・演習
29 月 新聞記事の書き方③・演習
11 12 月 科学番組の制作①・演習
26 月 科学番組の制作②・演習
12 10 月 インターネット放送①・演習
25 火 インターネット放送②・演習
1 8 火 映像で明らかになる最新の宇宙の姿・演習
21 月 科学ジャーナリストになる君たちへ・演習
2 4 月 グループごとによる演習のまとめ
23 土 発表・検討会、修了式 打ち上げ
講師
林 勝彦
引野 肇
引野 肇
引野 肇
林 勝彦
林 勝彦
畑 祥雄
畑 祥雄
藤田貢崇
柴田鉄治
JASTJ講師
JASTJ講師
て、さまざまな工夫を凝らした講義や実習を展開
はどこまでわかっているのか(林 勝彦・
してきたが、より充実した内容を提供するため、
NHKOB / 小倉正恒・東京電力)
今期は以下のような改善を行う。
*塾生全員に対する記事の添削指導など、これま
でよりもさらに細やかな指導を行う。
さらに、塾生は「志望動機」をレポートとして
提出し、レポート審査を通過した「選ばれた」塾
生である。
*実践的な内容(記事の書き方、映像のつくり方
准講師として協力してくれる人びとのほか、グ
など)をカリキュラムに組み込み、すぐに役に
ループの塾生と講師を支え、全体を見渡してくれ
立つ内容を盛り込む。
るサポーター(馬来由理子)は、塾生同士の交流
* JASTJの出版物『科学ジャーナリストの世界』
に十分に気を配っている。
と『科学ジャーナリストの手法』をテキストと
して使用する。
JASTJとの連携を深める
実習に関しては、これまでの塾生からの「作品
制作の実習にかけられる時間が少ない」との声か
科学ジャーナリスト塾は、JASTJの主要な事業
ら、各回に実習時間を明確に設け、作品の完成ま
の一つであり、将来のわれらの仲間となる科学ジ
で無理なく作業を進められるようにした。
ャーナリストを養成する場でもある。これまでも、
また、塾生が応募の段階から、塾で学ぶ意欲を
JASTJが主催する月例会へは意欲ある塾生が参加
高められ、目的意識が明確となるように、事前に
し、例会報告を執筆する機会を得ていた。今期か
以下のテーマと担当講師/准講師を公開した。
らは、塾生の月例会への参加を必須とした。これ
1.里山を守る―足もとから見る環境問題(引野
は、ジャーナリストとして避けて通ることのでき
肇・東京新聞 / 宇津木聡史・フリージャーナ
ないコミュニケーションのとり方など、具体的に
リスト)
は質問の仕方、インタビュー、記事執筆を経験す
2.ポストYouTube―ネット時代に望まれる映像
創造力(畑祥雄・関西学院大学 / 赤塩公嗣・
東京工科大学)
る場を大幅に増やすための工夫である。
今期はさまざまな点で改革を行ったが、科学ジ
ャーナリスト塾の創設以来の精神である『塾は
3.明らかになる宇宙の姿―学校で教わらない天
JASTJにとっての野心的な企画、そしてチャレン
文の世界(藤田貢崇・JST / 漆原次郎・フリ
ジ』である点は、何も変わらない。私たち塾のス
ージャーナリスト)
タッフ、そして38名の塾生は、新しい世代の「科
4.エネルギー利用―脱地球温暖化は可能か
学ジャーナリスト」を目指し、それぞれのゴール
(柴田鉄治・科学ジャーナリスト / 楠見春
へ向かって、果敢に挑戦する。今期もさまざまな
美・日本科学未来館)
5.認知症とアルツハイマー―原因・治療・予防
面で会員諸氏のご協力をお願いしたい。
(藤田貢崇・林勝彦)
5
第3回科学ジャーナリスト賞/賛助会員との懇談会
「科学ジャーナリスト賞2008」の候補を募集します
優れた科学ジャーナリストの仕事を顕彰する日本
を問いません。締め切りは来年2月末ですが、3月以
科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ=小出五郎会長)
降に公表された作品は3月末まで受け付けることとい
の第3回「科学ジャーナリスト賞2008」の候補を、以
たします。推薦された候補の中から4月の選考委員会
下の通り募集します。締め切りにはまだ半年余の時
で授賞者を決め、5月に表彰式をおこないます。
間はありますが、いまから候補作品をマークしてお
「大賞」を1件、「優秀賞」を数件と予定していま
す。表彰は正賞のみで、副賞(賞金など)はありま
いてください。
授賞対象は、日本の新聞、テレビ、雑誌、書籍な
どで2007年4月から2008年3月末までに広く一般に公
表された成果(記事、著作、映像、展示など)とい
せん。
(柴田鉄治)
◆選考委員は第1回、第2回と同じ、下記の10人です。
(50音順、敬称略)
たします。WEBや博物館・科学館の展示なども含め、
広い意味での科学技術ジャーナリズム活動全般を対
●外部委員
象とします。顕彰するのは、原則として個人とし、
ジャーナリストのほか優れた啓蒙書を著した科学者
や科学コミュニケーターなども含みます。すでに他
の賞を受賞している人でもかまいません。ただし、
海外作品を翻訳したケースなどは除きます。
候補の推薦は、すべての人に開かれ、自薦、他薦
北澤宏一(科学技術振興機構理事)、
黒川清(前日本学術会議会長)、白川
英樹(ノーベル賞受賞者)、村上陽一
郎(国際基督教大学教授)、米澤富美
子(慶大名誉教授)
●JASTJ委員 小出五郎、柴田鉄治、高木靭生、武部
俊一、牧野賢治
賛助会員も参加と創造を!
8月30日、プレスセンターで賛助会員との懇談会を
開催した。
話し合いの中では、
企業としては広報とジ
JASTJ運営のうえで賛助会員は欠かせない力となっ
ャーナリズムの橋渡し
ているが、これまで双方向のコミュニケーションが
に関心がある、学生の
緊密であったとはいえない。その点を改めてゆこう
進路としても、そうし
ということで、初めて設けた席である。
た分野に可能性があ
懇談会には、賛助会員から味の素、松下電工、早
る、という点が話題に
稲田大学MAJESTy、東芝、新技術振興渡辺記念会、
なった。塾長から、塾
JASTJから会長、事務局長ほか6人の理事、2人の事務
で取り上げるテーマと
局員が参加した。
して考えたいという話
参加者全員が自己紹介のあと、さっそく話し合い
に入る。最初の話題は、新ホームページだった。
発信力強化は今年度のJASTJの最優先課題である。
そのひとつとして、9月からスタートする新しいホー
ムページのサンプルを投影しながら、畑理事がプレ
ゼンテーションを行った。
▲賛助会員の方々
があった。
懇談会は、およそ2時間、和やかな雰囲気で行われ
た。さまざまな話題が飛び交った。これからもタイ
ミングをとらえて開催して行きたい。
正直なところ、JASTJの賛助会員はまだ少ない。で
きるだけ多数のさまざまな分野の賛助会員のいるこ
新しいホームページは、メディア型かつ参加型と
とが望ましい。多種多様で多数の賛助会員のいるこ
いうことで、賛助会員からも、一般向けに公開した
とが、JASTJが何事にも制約されることのなく自由に
い映像などの各種の投稿が可能である。JASTJとして
活動し、社会に貢献できる力の源になる。
は、賛助会員も、これまでの「賛助」だけではなく、
JASTJをいわば利用するようなつもりで、双方向の発
信力強化のために創造的に参加してくれるように要
請をした。
また、第6期の科学ジャーナリスト塾については、
林塾長が説明した。
6
その意味で、現在の会員と賛助会員のみなさんに、
新しい賛助会員候補をぜひ推薦して欲しい。
そして前提になるのは、JASTJが社会的に評価され
る活動をすることである。すべての会員のみなさん
の、JASTJ活動への積極的な「参加と創造」をお願い
したい。
(小出五郎)
会員だより
コンピューターと人類の進歩
人口が世界で66億人を突破し、この100年間で3
高速計算が中心で
倍以上増加している。このような伸び方は人類史
あったが、やがて
上かつてなかったことだ。人口爆発と同期するよ
プログラムやデー
うに科学や技術が爆発的な成長を遂げている。戦
タを内蔵する必要
争を通して新たに開発・実用化されてきたロケッ
性から記憶装置が
ト、核エネルギー、コンピューターなどは科学技
発達し、処理速度
術の発展とあいまっている。このまま人口が増え
と記憶容量がとも
続け、数百億人となることは、地球の資源では不
に爆発的な勢いで
可能だ。いつ飽和するのか、もしくは減衰してい
伸張している。現
くのかが気になる。将来人口が激減しても、今の
在では1秒間に
ように科学技術は発展し続けるのだろうか。
1,000兆回という
地球上の多くの生物は、大繁殖の後には絶滅を
▲ENIAC
処理速度のスーパーコンピューターが開発されて
迎えている。人類もかつての生物のようにやがて
いる。なんとENIACの1兆倍(10の12乗倍)
地球から姿を消してしまう運命にあるのだろう
に相当する。コンピューターは半導体をベースに
か。それとも科学技術が人類を永遠の生物へ変身
進化しているが、やがて分子コンピューターや量
させるのか、非常に興味のあるところだ。
子コンピューターなどへ進化していくと、さらに
人類は、これまでの地球上の生物ができなかっ
高性能になる。人間に欠けている運動能力を道具
たこと、例えば、移動する、楽をする、学ぶ、記
に置き換えるには機械的限界があるが、脳を道具
すなどに関係した道具を作ってきた。これからも
に置き換えることには限界がない。アメリカの未
おそらく人類が消えるまで継続していくのだろ
来学者レイ・カールツワイルは、著書『ポスト・
う。有限の化石燃料と地球資源を消費し、環境破
ヒューマン誕生』(NHK出版)の中で、コンピュ
壊を続け、快楽や利便性の追求に明け暮れている
ーティング能力は20年以内に廉価なコンピュータ
のが人類だ。これを進化というのだろうか。自然
ーで人間の知能レベルに、そして今世紀中ごろに
や敵に打ち勝つために体を堅固に発達させてきた
は世界中の人間の脳の総和に達すると大胆に予測
これまでの生物たちと比較すると、道具に依存す
している。さらに新たな科学技術のパラダイム・
る人間の体は退化しているのだろう。
シフトが起きれば、宇宙スケールのコンピューテ
ィングも可能になると論じている。
進化するコンピューター
どこへ行く人類
人間が他の生物に劣っている部分を補填する道
具として、早く走るための車や空を飛ぶ飛行機が
このままコンピューターをはじめとする道具が
代表的だ。その他にも衣服、空調機、家屋など身
発展し続けたとき、道具は人類をどこまで退化さ
を守る装備や設備など多くある。そして究極の道
せるのか心配だ。特に脳の代用となるコンピュー
具が人間の脳よりも情報を早く処理し、多く記憶
ターの発達は、本来の人間らしさを失ってしまう
するコンピューターだ。60年前、軍事目的に開発
のではないだろうか。やがて遺伝子操作により人
したENIACという世界初のコンピューターが
類自身の進化も制御し、その結果、自然の摂理を
登場した。当時は真空管1万8,000本をはじめとす
改造し続ける人類は極めて奇異な生物に変化する
る部品を160平方メートルの広さに並べ、重量も
かもしれない。人類が本来もっている、やさしさ
30トンに達していた。計算処理速度も1秒間に
のような感情を育てる道具の発明もこれからは必
1,000回程度であった。初期のコンピューターは
要なのだろう。
(山本威一郎)
7
事務局だより
●鈴木 陸昭(情報・システム研究機構知的財産室)
■ 新役員の追加就任
5月の総会で、役員の定員を20人から25人に増員する規約
改正を行ったのを受けて、役員の追加選任について理事会に
一任されていましたが、7 月20日の理事会で、以下の2人を
選任しましたので報告します。これで理事は22人になりまし
た。
内山 幸男(朝日学生新聞社副社長、元朝日新聞科学部長)
山本威一郎(科学ジャーナリスト、アイテクノロジー株式会社取締役)
■ HPが大きく変わりました
9月1日より、JASTJのホームページが新しくなりました。
URLはいままでと同じhttp : //www.jastj.jpです。刷新の考え方
は、畑理事が本会報で詳細を伝えていますが、映像を含めて
発信力を飛躍的に向上させました。会員とのつながりも密接
になるような仕掛けが出来ています。皆様の参加と協力によ
って今後どんどんと充実させてきたいと考えます。
■ 会員へのメール
国立遺伝学研究所にて広報活動をしています。特に基礎科学の
あり方とそれを進めるための科学政策などに興味があります。研
究より生まれる多種多様の情報をどのような形で、何を伝えるこ
とが重要かを学びたいと思っています。
●佐川 琢麻(高輝度光科学研究センター バイオソフトマテリアル
グループ協力研究員)
抗原抗体反応を中心に生物物理学の分野で研究中。どのような
表現で論文や記事を書くことで、広く一般の方々にも最先端の研
究内容を理解していただけるのだろうかということに関心を持つ
ようになりました。どうぞよろしくお願いします。
●初田 竜也(㈱シーエムシー出版 編集部)
エレクトロニクスやバイオ、環境といった分野の書籍編集者で
す。このまま技術が発展していくことで起きるブラックボックス
化に問題意識があります。会を通じて、科学技術が社会に与える
影響を、今後の人生、追っていきたい。
〈賛助会員の入会〉
会員同士の連絡を行うためのメーリングリストをこれまで
のものから改めて、以下のアドレスにいたしましたので活用
ください。[email protected]
松下電工(株)
(広報部長・宮野尾哲司)
財団法人・新技術振興渡辺記念会(理事長・武安義光)
NPO法人・彩都メディア図書館(ディレクター・有田泰子)
〈退会〉
■ 新入会員の自己紹介
個人=西村尚子、染谷和美
賛助会員=社団法人・日本発明協会知的財産研究センター
〈個人会員の入会〉
●佐々木 幸枝(日本モンサント㈱バイオ作物情報部課長)
以前は消費者問題の専門紙記者として食や環境の安全に関する
問題を取材していました。科学に基づく安全とは何かを提言する
のが一貫したテーマです。依然としてサイエンスリテラシーが注
目される一方で、不安をあおるだけの運動や報道も多く、どう取
り組むべきか、一個人として非常に関心を持っています。
●江本 三男(大塚食品㈱生産本部部長補佐)
就職して以来「食品と医薬品」の商品開発を担当。「工場生産」
から「市場でのプロモーション」を行い、消費者の購買につなが
る機能を保有する商品展開を担当してきました。科学全般に関す
るジャーナリストになるための情報が入手できそうで、入会いた
しました。
●瀧澤 美奈子(科学ジャーナリスト)
一般書を8冊執筆し、講演も行っています。一昨年に潜水調査
船「しんかい6500」に乗って相模湾の海底を見てきました。目下、
宇宙や深海などをテーマに心に残る作品を書こうと奮闘中。志を
同じくする仲間との出会いが楽しみです。
●鈴木 徹(安全都市調査会 事務局次長)
正確さを旨とする科学技術の世界で、「環境ホルモン」や「認知
症」ということばは国語的にやや違和感があります。多数の分野
の専門用語が交錯する先端領域では、言葉の誤謬は技術融合の妨
げにもなるはずです。科学技術を伝える“ことば”のあり方を見
つめたいと思います。
新刊紹介
BOOKS
会員の
『知の遊びコレクション 天文』
イアン・リドパス著、山本威一郎訳(新樹社・2940円・
07年6月刊)
文明の初期から今日にいたるまでの天文学の歴史と最新の宇
宙論や宇宙探査機が撮影した驚異的なの宇宙の写真を紹介して
いている。図や写真が多く、見ているだけでも楽しくなる本だ。
また肉眼、双眼鏡、望遠鏡を使ったアマチュア向けの星空の観
測方法も紹介し、2020年までの天体の暦や世界中のどの場所で
も使える星座図も書かれていて便利。(Y)
『宇宙開発の50年
――スプートニクからはやぶさまで』
武部俊一著(朝日選書・1365円・07年8月刊)
1957年10月に打ち上げられて、世界中を驚かせた人類初の人
工衛星スプートニク1号。米ソの宇宙開発競争は、このとき幕
を開けた。以来50年、毎年100前後の人工衛星や宇宙船が打ち
上げられている。惑星探査・気象観測・GPS・軍事・通信など、
目的は多様だ。この中から重要な役割を果たした約90を選び、
宇宙開発の世界史を大づかみにたどる。(赤)
・酷暑の8月をやり過ごし、9月に入ってからバタバタと編集作業をしました。途中、PCの不調が発生、自力で
解決を試みましたがギブアップ。エンジニアの有償サポートを利用することに。PCは便利だが、依然手ごわい。
・秋到来。読書よし、スポーツよし、ハイキングよし。そしてもちろん、酒を酌み交わして科学報道を論じる
のも、これまたよし。
・会報は原稿量に応じて8、12、16ページで発行しています。月例会報告や事業・行事案内など決まりものが
多いですが、「会員だより」は常時原稿を受け付けていますので、ふるって投稿してください。
(賢)
編集
後記
写真撮影者 (数字は掲載ページ)
戸田知礼
(2)
、田中亮
(3)
、中野薫
(6)
、U.S.Army
(7)
編集・発行
日本科学技術ジャーナリスト会議
Japanese Association of Science
& Technology Journalists (JASTJ)
ホームページ
8
〒107-0061 東京都港区北青山3-5-12 青山クリスタルビル7F
(株)
ジェイ・ピーアール内 電話・FAX:03-5414-1002
会 長 小出五郎 [email protected]
事務局長 佐藤年緒 [email protected]
編 集 長 牧野賢治 [email protected]
http://www.jastj.jp