まな板の上の保険代理業(3)

保険代理店専門 有料電子メールマガジン inswatch ( http://www.inswatch.co.jp/ )から発行されてい
ます Inswatch Solution Report【第7号】2004.04.09、
【第10号】2004.07.09、
【第 16 号】2005.01.14
に連載されましたものを執筆者であります城東支部長小原太史氏および inswatch 関係者のご好意によ
り特別に全文掲載いたしました。
まな板の上の保険代理業(3)
小原 太史
はじめに
前回は ∼「3.他業界について」の「(2)生命保険のCMについて」までを書かせていただ
いた。今回は他業界についての続きから始めさせていただきたいと思うが、まずは、前編の 3.
(2) およびコンプライアンスに関連して、いまや日常生活の光景で「当たり前」となっている、
様々な「売り込み商法」とのやり取りについて思う事を述べさせていただきたいと思う。
私も含め、都心にお住まいの方や中小企業を営んでいる方は、多分、ほぼ毎日ご経験されて
いて「なれっこ」になっているであろうが、電話、FAX、eメール、文書、直接訪問などによる何
らかの「売り込み」、「勧誘」、「身に覚えのない請求」、「一方的な案内や請求」、などが日常茶
飯事となっている。
私の会社は自宅が営業所中の一店舗を兼ねているので、以上の事柄が仕事はおろか、日常
生活に支障をきたす事もあるほどだ。
例えば、一方的な電話料金のサービス案内や特殊機能を備えた電話機取付工事の案内、ま
たはそれに関した営業訪問の予告、事務機器購入や商品先物取引の案内、一方的なFAX
やeメールによる中小企業向け融資の案内や、各種資格取得、金融情報セミナーなどの案内、
PCや携帯電話への、いわゆる『出会い系』(説明は不要だろう)サイトや「恋人募集」などと称し
たサイトの案内、風俗チラシや得体の知れない団体への勧誘文書、身に覚えのないインター
ネット利用料金の請求、直接訪問による各種勧誘や売り込みなど・・・我が家(社)に限らず、私
の友人、知人も含めれば、以上の様な経験を持つ人は多く、その手法も数え上げたらキリが無
いほどだ。
以上行われる全ての『行為』に共通していることは、文書やメールはもちろん、電話や直接の
場合は、案内や勧誘をしてくる人物やその声質、話し方はいかにもいかがわしく、そして、何と
言っても、「コンプライアンス」の理念のかけらも感じられないことだ。
大概は、こちらの質問にはほとんど答えない(答えられない?)上に、一方的に申し込ませよう
とするし、挙句、自分から電話をかけてきておいて、見込みがないと分かると、突然一方的に
電話を切る。といった仕事ぶりをする業者もあり、さしずめこの手の業界は「無礼者の金太郎飴
状態」といったところか。
3.(3)様々な「コンプライアンス」「消費者保護」の現状について
消費者保護法ができたとは言っても、実務レベルでは、架空請求や携帯電話へのいわゆる
「ワン切り」やPCを利用した申し込ませ型(インターネットのページを一方的に案内し、うっか
りアクセスしただけで契約を成立させ、利用金額を請求する方法で、もちろん違法)などの
犯罪が横行し、また、それに簡単にひっかかって、請求された金額を素直に支払ってしまっ
たり、まして「おれおれ詐欺」にだまされてしまう人もいるのだ。そして、それらの犯罪による
全国での被害総額は、年間千億円単位になるという。
前編の繰り返しになるが、消費者自らが意識改革をしなければならない部分も大きいと認識
するべきだろう。
そういえば昔、「オレンジ共済」というのが話題になったが、要は例えば、「100万円を5年間
預けてもらえば200万円になりますよ」ということであり、それを言われて、「ああ・・・詐欺なん
だな・・・」と考える「普通の感覚」を持てば良いだけの事なのだ・・・
「コンプライアンス」「消費者保護」とは言うのは簡単だが、冒頭で述べさせていただいた、そ
れが全くできない業者、やる気がない業者と、確信犯で、犯罪を生業としてやっている業者
は、本来は区分けされるべきなのだろうが、はっきりいって、レベルは一緒という気もする。
また、有名企業の中にも「コンプライアンス」「消費者保護」の理念が無い為に、ここ数年、企
業の代表者が記者会見で社内不正や不祥事をお詫びしているのが日常茶飯事である。
企業名はいちいち挙げなくても、もはや色々な会社名が思い浮かぶであろうが・・・
そして、企業の代表者が行う会見の内容によって、その企業の「コンプライアンス」「消費者
保護」の理念はよく分かるものである。
「私は寝てないんだ!」と叫んだり、「事実を知らなかった」と白を切った(?)社長は論外とし
て、例えば、個人情報の漏洩が問題となった某通信販売会社と某IT企業があったが、通信
販売会社の社長は、自らメディアを通じて不祥事に対する消費者へのお詫びと説明、一定
期間の販売自粛という適切な対応をとったのに対し、IT企業の代表者の方は、個人情報漏
洩の直接原因ではないが、関連業務ではある駅前や街頭などで行っていたPCの付属品の
配布を自粛しない旨(実際に自粛しなかった)と、『これを普及させるのが自身の務め』という
主旨の『開き直り』ともとれる発言をし、挙句は、情報漏洩の対象となった顧客に一人数百円
相当のいわゆる『侘び代』を支払うという主旨まで発表した。はたしてこれは「企業理念」と呼
べるものなのだろうか?
以上の2つの企業がどこかは、既にお分かりであろうが、企業の代表者の「コンプライアン
ス」と「消費者保護」に対する理念と意識がどの程度のものかがよく分かる典型的な一例と言
えるだろう。
我々保険代理店は、どんなに日常業務に最新の注意を払っていても、業務の特殊性もあり、
顧客が理解してくれなければそれまでという面が多々あり、些細な事や誤解からも、思わぬ
業務遂行上のミスとされてしまうことがあるばかりでなく、初めからクレームや難癖をつけるの
が目的と思われる人間とも、当たり前のように関わらなければいけない事もあるのだから、厄
介だが、言わば「宿命」として受け止めるしかない。
私自身も現在、始めからクレーム目的と思われる人間と面倒なやり取りをしている案件があり、
場合によっては私と保険会社とで共同の訴訟もあり得るので、今詳しくは書けないが、「コン
プライアンス」「消費者保護」と、それ以上に、それに付随したクレームへの対応については、
後述する代理店の未来像とも関連する極めて重要な項目だと思う。
が、先述したような箸にも棒にもかからない販売や勧誘、犯罪が横行しているのも事実なの
だからなんとも皮肉な時代である。そして、我々一般的な保険代理店以外の、保険販売をし
ている業者にも、それを何とも思わずにやっているのが多々見受けられるようだが、それに
ついてもまとめて後述したいと思う。
なお、個人情報保護についての余談になるが、既に個人情報を完全に保護するには、ある
意味、手遅れの状況だと思う。
なぜなら過去、我々の日常生活において、例えば、電気・ガス・水道などの公共料金を支払
う際や、各金融機関のカード類を作成したり、保険加入の際はもとより、各種サービス業(家
電製品販売チェーン店をはじめとする各種販売店、飲食店、レンタル業など)の会員カード
やサービスカードなどの発行の際、PCのインターネットも含めた通信販売や、懸賞をはじめ
とする各種応募や、はては街頭アンケートなどにいたるまで、自身の住所・氏名・生年月日・
性別・職業・家族構成などの個人情報を自ら明かす機会がいかに多かったか、数え上げた
らキリが無いわけだし、しかも、個人情報を不正流失した事件は、昔からメディアで度々報道
され、話題となっている。過去、自分自身の個人情報を利用する側全てには、一切何の不
正もミスもなかったとは確信することができない。
ちなみに私は、例えば、採用された場合は高額賞金が提供されるキャラクターグッズのネー
ミング募集や、キャッチフレーズの募集などには、一切応募しないことにしている。私の偏見
と言われればそれまでだが、応募の際、必要以上と思われる個人情報を明記しなければな
らない為、これ以上に上手く個人情報を多く手に入れる方法はない。と思うからだ。
しかも、大概の採用されたネーミングやフレーズは誰でも考えつきそうなものであったりする。
この応募の目的は別のところにあるのではないか?本当に賞金は誰かに支払われているの
か?と勘繰りたくなってしまう(決して過去、一生懸命考えた自分の応募作品が採用されな
かったことを恨んでいるのではない)。
「個人情報保護」とはとどのつまり、一個人が自身の情報を提供する際に、どのような意識を
持っているかも大きく関わってくると思う。
4.保険代理店の未来ついて
(1)我が国における「昔ながら」の「プロ代理店」の「平均像」について
以前、ある保険代理店の大きな会合に参加した際、「日本には『プロ代理店』という言葉があ
りますよね、これってどういうことなのですか?アマチュアもいるのですか?」という業界でも
有名な方の発言があったが、正に「言い得て妙」である。が、しかし、それは日本の保険代
理店制度に明確な「プロフェッショナル」の規定や基準がないからということであり、昔の資
格でいう「特級」や「上級」という代理店資格や集保規模の大きな代理店を便宜上「プロ」とし
て呼んでいたような風潮であったということと、我が国の保険代理店制度の中で育んで来た
日本独特の「風土」とも言えるようになった部分が関係しているだろう。
本来、代理店は保険会社と取り交わしている「委託契約書」以上の仕事はしていないはず
だが、「それなりに」やってきた代理店にとって、それは「建前」であることは周知の事実であ
るし、繰り返し述べてきたことである。
簡単に申し上げれば、日本人は欧米人と根本的に違い、明確な契約上の仕事やサービス
よりも、いわゆる「義理」「人情」や、「心意気」「アフターサービス」の方を重視するという民族
であり、例えば義理・人情でいえば、旧来の生命保険の募集はそれの最たるものと言えるだ
ろう。
例えば私自身、いくつか契約している生命保険の一つは、とある生保会社で数十年セール
スをしている親類縁者から購入したものだし、保険料や保証内容は相手任せで、向こうの希
望を聞いて加入したものである。別の一つは、同じく個人的に世話になった人から購入した
もので、その人達の商品知識やベストなアドバイスについては副次的なものにすぎない。
だが日本人の生命保険購入者の多くは、そのような購入をしているのではないだろうか、で
なければ、セールスレディの実に8割が、わずか2年間の間に退職する事実を説明できな
い。
親類縁者を頼って、契約する人間がいなくなったら、退職するしかないセールスレディが多
いのに、生保会社がそれを是正しようとしないのは、最初から「義理・人情契約」しか取れな
くても会社は十分『ペイ』できるシステムになっているからだということの証明である。
とは言え、損保においても、何は無くともまずは「義理」「人情」だと言える。何しろ、何を隠そ
う私自身がその恩恵を受けてここまできているのだ。
自己紹介で申し上げている通り、私は三代目である。二代目の父は、今の私より年長だった
40代には既に別業種で会社を設立していたが、祖父の設立した保険代理店と合併をして
現在の会社にし、保険代理店としての規模も大きくした。実質的には私の方が二代目のよう
なものである。創業者としての苦しみを知らない事は自覚しているし、「負い目」として感じて
いる部分もある。それを補う努力と苦しみは経験してきたつもりだが、ここでそれを書くつもり
もないし、私は「義理」「人情」を「浪花節」として語るつもりもなく、客観的事実に基づいて述
べたいのだ。
私は、自身のわずかな人脈を除けば、先代と先々代からの人脈がこの仕事の大元である。
先々代の時代から代々顧客となってくれている家族も多い。
本来、他人に仕事を任せるという事からすれば、これはおかしなことである。まして、祖父の
急死による引継ぎをしてから、わずか6年後の父の急病が原因とはいえ、当時、特級資格ま
で持ってはいたが、突然この世界に入り、商品知識も実務経験もまだまだこれからだった20
代前半の私には身分不相応な数の顧客がついてきてくれたということは、顧客の「同情」「哀
れみ」もあっただろうし、私自身は別個人なのに、ひとえに先々代からの信用があったから
に他ならないだろう。
これを「義理」「人情」と言わずに何と言うのか。
「日本人」とは、いや、本来「人」にはそういう心根があるものなのではないだろうか?
そして同業者の跡継ぎは、皆同じ経験をしているだろうし、跡継ぎ代理店自体、この世界で
は少なくないだろう。
昔から続いている保険代理店のほとんどは、いや昔の日本人は、「損して得取れ」という価
値観もあっただろうが、仕事に対する「美意識」として、現在のビジネスライクな価値観からは
「過剰」とも言える、いわゆる「アフターサービス」を「当たり前」のものとしてできたのではない
だろうか?そして顧客も、むしろ「当たり前」としてそれを受け、別の事で返してきたのではな
いだろうか?また、それにより上手く「世間」というものが形成されていたのではないだろう
か?
そしてそれは「良いか悪いかの問題ではない」と思うのだ。
(2)保険代理店の未来の「形態」について
さて、それでは保険代理店は将来、どのような形態となっているだろうか?
改めて言うまでもなく、近年の業界情勢の激変により、システムは一変し、保険代理店の業
務量は増大した。いわゆるアナログ的な仕事よりデジタル的な仕事が中心となり、また、様々
な社会情勢やニーズに対応する為と、業界シェアの一定の割合を占める一般代理店チャネ
ルの発展の為、代理店同士の合併による大型化や、ビジネスモデル代理店の模索と創造
が全国規模で展開されている。
社会や時代には趨勢というものがあるので、システムが変わる事は仕方のない事なのかもし
れないが、我が国の場合、私がこの業界に入った頃の、いわゆる「バブル景気」とその崩壊、
日米保険協議と平成9年の保険業法の改定、そしてその後の業界再編などの流れを見て
いくと、我が国が自ら望んでそうなっていったのではなく、そうなるように「仕向けられ」、「そう
ならざるを得なかった」という印象しか受けない。今更、こんな事を言っても始まらないが・・・
だが、社会と業界の情勢やシステムがどんなに一変しようとも、私の、いや、それなりにやっ
てきた全ての一般的な保険代理店の、アナログ的で大切な仕事は、今後しばらくは変わるこ
とはないだろう。それどころか、むしろそちらの仕事をこれからの時代、どうきちんと構築し、
体系立てをし、矛盾した言い方になるが「システム」として確立していくかが、これから業界を
挙げてやりたがっている一般的な代理店チャネルの確立化、代理店システムの創造で肝心
要な部分となるだろうし、それは、顧客・消費者ニーズへの対応、「コンプライアンス」「消費
者保護」の最重要項目でもあるだろう。
では、先述した「それなりにやってきた一般的な保険代理店の、アナログ的で大切な仕事」
とは何の事なのかと言えば、私が今まで書かせていただいた論文(と言うほどのものでもな
いが)「21世紀にもやり続けるであろう原始時代のお仕事」「保険代理店の実務から分析し
た『バカの壁』」などで再三再四述べさせていただいている事なので、改めて長々と申し上
げるつもりはない。「21世紀にも・・・」では代理店がやらざるを得ない「ただ働き」と分かり易
く書かせていただいたが、もっと具体的で適当な言葉で言えば、現時点では「保険会社へ
のアフターサービス」と呼ぶのが適切だろう。
なぜ「現時点」と申し上げたのかというと、このまま将来、業界の現状に沿った代理店システ
ムが確立された場合、代理店はどうなっているのかといえば、おそらくそれは24時間体制で
365日営業をしている「保険会社支社化」であり、その時代には「ただ働き」ではなくなって
いると思うからだ。
現代人の生活リズムは、もはや、特にこの業界では、朝の9時から夕方5時までの「建前上」
の仕事のリズムでは対応ができなくなってきている。保険会社および代理店は、特に損保系
の契約が増えるにつれ、顧客の保険事故と、その対応リスクも上がることになるが、近年で
は、例えば自動車事故の対応一つをとっても、平日のいわゆる通常の時間帯は、顧客自身
も事故相手も都合が悪く、適切な確認作業さえ困難な為、相手の都合に合わせ、夜の何時
以降の連絡や、土日での対応の方が良かったりする事が多くなってきた。また、夜中に配送
をしている運送業への事故対応は、時間帯の事もあり、より緊急性を要する事もある。
また、顧客の業種によっては、その業種そのものが24時間365日体制のものであった場合、
保険事故が起こった際、当然こちら側もそれに対応する体制でなければならなくなっている。
このような場合、現在のシステムでは、基本的に「会社員」である保険会社の社員では対応
が非常に困難な為、保険代理店がそれを補う仕事をしているのが現状で(やっていない同
業者もいるだろうが・・・)、現在も、保険会社の自動車事故受付サービスは基本的に24時
間体制だが、あくまでも基本的には「受付」業務であり、今後は自動車事故に限らず、他の
保険事故も、その場の状況に即した、もっと専門的で、より実務的な対応も、より求められる
様になるだろうし、実際、代理店サイドでそれをやる機会が多くなるだろう。
しかし、顧客・消費者ニーズへの対応を突き詰めれば、そこには、「クレーム対応」というもう
一つの大きな側面がある。しかも、顧客や一般消費者による通常の「クレーム」と、いわゆる
「クレーマーによる『いちゃもん』『揚げ足取り』」の類とでは、その対応は違う。
今後はその点についても、より具体的な対応策の構築がより必要となるだろう。
以上の様な事を踏まえた場合、今後、保険代理店は、具体的には以下の様な陣容をとる事
が理想となるだろう。もっとも、大手損保系会社は既に取り組んでいるビジネスモデル代理
店システムとも言えるものだが。
*将来の代理店モデルにおける役職名とその主な業務内容
1.経営責任者(社長)・・・基本的に全ての業務に精通し、統括する立場をとる。
2.執行責任者
・・・いわゆるナンバー2、社長の代わりが務まる。
3.事務職従事者
・・・経理・計上・照会応答・見積書や案内書作成など。
4.生保担当社員
・・・募集従事・事務など
5.損保担当社員
・・・募集・更改業務従事・事務など
6.事故対応社員
以上の様な体制だが、いうなれば「スペシャリスト集団」である。できれば3から6については
複数人いた方が良いだろうし、お互いの業務内容が分かっているシステム作りをした方が良
いだろう。場合によっては1と2が3から6までのどれか、または複数を兼務する事もあるだろ
うし、3から6までがお互いの仕事を兼務する事もあるだろう。また、4は代理店の経営面を考
えれば、主要収入元となる事も考えられるので、5とは分けたが、基本的には4と5の連係が
重要となるだろう。6は、考え方によっては、非常に仕事の範囲は広くなるだろう。
また、経営理念の話となるが、経費的経営面を考えたら、生保の取り扱いだけをしたいと考
える経営者は当然いるだろうし、実際それを本音で語る経営者もいた。もっと具体的には、
「自動車保険など、事故があったら面倒でわずらわしいし、できれば扱いたくない」と語る経
営者もいた。確かにそれは本音だろう。だが、多くの保険代理店経営者がそう考えたら、そ
もそも保険代理店とは一体何なのか?という事になってしまうし、企業が持っているもう一つ
の側面「社会貢献」的な部分(自動車保険を扱うことは、社会貢献の一翼を担っているものと
思っている)はどうなるのか?また、もしも自動車事故対応に自信も経験もある人材達が、自
動車保険を中心とした、本当に中身の伴った、システム化された代理店を創造できたら、そ
れはそれで充分商売になると思う。
自動車保険は面倒でわずらわしいというなら、面倒でわずらわしくならない努力をするしか
ないのだし、その分、顧客満足を他の保険種目より多く得る事もできる商品でもあり、生保
以外のとは言わないが、他の保険事故対応商品同様、当然、その特性を生かした代理店
経営戦略にも、役立てることができると思うのだ。
(3)「消費者保護」「顧客満足」の今後について
突然改まって言うが、保険市場においての一般庶民、一消費者の立場は弱い。
前編からも再三申し上げている通り、「情報化社会」と言われているのは、実は「情報過多」
で、消費者が自分にとって肝心の情報を得るにはそれなりの努力が必要であるが、現代の
社会生活そのものが、一見すると消費者側がその必要性を感じなくてもよいシステムが構築
されており、保険市場はある意味、「強者」による一方的な売り手市場といえる。
例えば、住宅ローンと「セット販売」のような形態をとっている銀行による火災保険販売がそ
れにあたる。
銀行は我々一般代理店と違い、火災保険を販売する際は特別な割引を使用できる。
まして、住宅ローンの融資をするという事は、ある意味、融資相手の殺生与奪権の一部を握
る様なもので、消費者側には何の疑問も抱かせる事無く、こちらの売りたいものを売る事だ
ってできるだろう。
また、自動車ディーラーによる自動車保険販売には、一般の保険代理店が自分の顧客の
車両入替時に保険の切り替えをされてしまうという「トラブル」が昔から後を絶たない。色々書
きたいところだが、慎重を期さなければいけない問題なので、とりあえず「トラブル」とだけ表
示しておくが、ただ一つ言える事は、私は、自身の16年のキャリアの中で、千件単位に及ぶ
私なりの、顧客の自動車事故対応をしてきて、その際、事故相手側の保険代理店が事故対
応をしたという事自体少ないのだが、ディーラー代理店が事故対応をしたケースは一件も目
の当たりにしなかった。「事故対応」とは、もちろん事故の「受付」だけを言うのではない。
銀行にしろディーラーにしろ、融資をしたり、特別な保険料割引制度や顧客情報を持ってい
たり、顧客に罹災や事故があっても、対応などしなくてもいいようになっていたりと、その立場
は一般の保険代理店に比べればとても強い。
一方、「消費者保護法」ができたからのみならず、時代の流れと言うべきものなのか、年々
『クレーマー』の様な一般消費者が増加傾向にある。
CS(顧客満足)が叫ばれて久しいが、悪い意味での「お客様は神様です」といった発想も見
受けられ、「権利の前に義務がある」ではないが、まず消費者側にも、「社会人としての節度
ある振る舞い」は「常識」として求めるべきなのでは?と思われる事も多々あり、「啓蒙活動」
とまでは言わないが、今後、この業界のみならず、大きな社会的テーマとして取り組み、方
向性を導き出さなければならないのではないだろうか?
でなければ、今後益々日本中が、客を客とも思わないという商法と、我がまま言いたい放題
の客によるトラブル、という両極端な事例ばかりが突出してしまう事態に、なっていくような気
がする。
私は、「お客様」はあくまで「お客様」であり、それ以上でもそれ以下でもないと思っているが、
どちらにしても現在、一般の保険代理店というのは立場が弱く、それでいて業界シェアは大
きな割合を占めていて、かつ、その未来は大きな岐路に立たされている。正に「まな板」に
乗った状態なのだ。
5.代協活動について
(1)「STATUS BOOK 2003」について
私が日本(東京)損害保険代理業協会に所属していることは申し上げているが、我が国唯
一の損害保険代理店の職業団体であるこの代協も、今、大きな岐路に立たされている。
まず「社団法人」という制度そのものが、国の方針により見直されようとしている現在、別形態
の法人化への道を模索する事が検討されている。
また、保険会社主導による代理店同士の合併、廃業も一段落したのか、ここ数年、減少傾
向にあった会員数は下げ止まりといった印象だが、今後は、先程から述べてきた業界情勢
を踏まえれば、代協会員の過半数を占める一般形態の代理店は、いずれ、一個人が生計
を立てていければそれで良いという組織体ではやっていけなくなる事が想像される為、それ
に対応すべく、自ら、自身の代理店形態の改変を余儀無くされるだろう。
東京代協では今年2月、保険代理店(東京代協会員)の現状と課題と見極め、今後の業界
情勢に役立てる指標とするべく、「STATUS BOOK 2003」を刊行した。
2003年の秋に行った東京代協会員へのアンケート結果を、様々な角度から分析、解説を
した冊子だが、「アンケート」とはいうものの、その内容は「実態調査」ともいえるもので、集保
や損害率、個人法人の顧客数など、本来、聞き出すのは非常に困難な項目にも答えてもら
っていることが分かる。
詳しくは冊子をご覧いただくしかないが、日本全体の業界シェアの一割を占めるといわれて
いる東京の、中核を担う保険代理店の実体が、以下のようになっている事がわかった。
1.開業年数は20年以上という代理店が全体の約8割を占め、代理店チャネルは保険会社
の研修生出身とそれ以外でほぼ半々となっており、専業代理店が約8割、一社専属代理
店は約7割、法人代理店は約7割を占め、個人代理店の約7割の代理店主は「後継者が
いない」と答えている。
2.集保は5千万円までのクラスで全体の約4割を占め、1億円までのクラスで約7割を占め
る。また、その集保1億円クラスまでの代理店の平均的な従業員数は4人まで、保有顧客
人数の平均は、約150人から約1,000人までとなっており、集保の約半分は自動車保
険であり、約6割の保険代理店が、手数料の9割以上が損保手数料であると答えている。
また、実に5割以上の代理店が、前年度と比較し「手数料が減少した」と答えていて、同じ
く5割以上の代理店が、「今後、代理店同士の合併を考えている」と答えている(既に取り
組み中と合併済みの代理店を含む)。
3.東京代協会員の総合計集保金額は、年間約2,800億円である事が推定され、毎年、
日本損害保険協会が発行している「日本の損害保険『FACT BOOK』による日本の損
害保険の年間総売上高約7兆4千億円(2002年)の内、実に約3%以上の売上を東京
代協会員で稼いでいることが予測できる。
また、損害率にしても、「FACT BOOK」による損害保険業界全体の損害率の平均54.
7%(2002年)と比較した場合、東京代協会員全体の損害率の平均は、およそ40%であ
ることが予測できており、東京代協会員は、多くの優良顧客をグリップしていることも予測
できる。
ただし、東京代協の売上の半分は企業代理店群が稼いだものである事も予測されてい
る。
以上の主な事柄が判明し、平均的な一般代理店は、今後の業界情勢の中でどう生き残るか
を模索しなければならない。
手数料率の自由化と業務量の増大、社会情勢の不安化、顧客・消費者ニーズの多様化は
現在の一般的な代理店の平均的形態を4の(2)で述べたような代理店形態にする事を意味
する。
結局は代理店の大型法人化を意味するし、店主とならなかった場合、勤務する個人一人一
人は、ある意味、「己を捨て」なければならないだろう。
独立する為にこの職業を選んだのに何とも矛盾した話だが、この様な代理店形態をとった
場合、その時点で一番己を捨てなければいけないのは、多分、店主になる人間だろう。
代協会員には、既にこのような形態をとっている代理店はいくつもあるが、いずれの代理店
主も、想像を絶するハードワークだ。時代やシステムが変わっても、個人の労働が楽になる
わけでは決してないのだ。
なお、「STATUS BOOK 2003」のコメントは、何を隠そう、ほとんど私が書いたものだ。
(2)代協の今後について
「代協は何の為にあるの?」という質問を会員からされることがある。
私は逆に「職業団体は何の為にあると思いますか?」と質問したくなる。
「古き良き時代」の代協は、ある意味「サロン」だったのだろうが、今の代協活動に携わって
いる幹部は、本業がおろそかになる程、自身と業界の職域を少しでも良くなるように、微力な
がら力を尽くしている。
現在の東京代協の具体的活動をあげたら、保険会社や損害保険協会との交流や意見具申、
申し入れ、金融庁への陳情、各種団体や関連団体、関係者との交流、各種イベントやセミ
ナー、講演会などの開催、会員への情報伝達、機関紙や出版物の発行、認定保険代理士
制度と保険大学、職業賠償共済、提携事業、東京代協ホームページなどの運営、代理店の
合併、乗り合い、経営問題などへの取り組み、職域に関わる問題の精査と取り組み、各種社
会貢献活動など、やるべき事、やらなければいけない事は山積みだ。
しかし、一般の会員の中には、どうもうまくその活動内容が伝わっていない、理解をされてい
ない様子も見受けられ、いわゆる「スリーピング会員」と幹部会員との間に「溝」ができてしま
う問題もある。
それに関連して先程の「STATUS BOOK 2003」の話にもどるが、アンケート項目の中
に会員に好きな事を書いてもらう項目を設けてあり、実は私は、他のデータとなる項目以上
に、この項目に注目していた。
するとやはりというべきか、少なからず、以下の様な意見が挙げられていた。
○代協会費は高い
○代協は会員の為に何もやってくれない
○もっと代協には強くなってほしい
なるほど、私が今まで申し上げてきた「消費者保護」と、逆に「消費者保護」における消費者
側の一社会人として求められる「常識」や「節度ある振る舞い」、「権利の前に義務がある」と
いった概念は感じられない。どんな事を感じようが思おうが、それは個人の自由だが、これ
ではこの業界で、正しい情報を捕らえ、顧客を守り、職域を守り、自分の業界の発展に尽く
すというには心もとない印象を受ける。
東京代協会費は、配偶者との二人体制を敷いている形態までの代理店は年間3万円であり、
会員の約7割がこのいわゆる「3万円会員」だ。医師や弁護士、理髪店経営者など、他の職
業団体の年会費と比較していかに安いかがお分かりいただけるだろうか?しかも代協幹部
は無報酬で活動を行っており、無報酬でなければたちまち代協の経費は底をついてしまう
のが現状だ。会費を上げることは簡単だが、最低会費を3万円にするまでも苦難の道だった
という。いくら千人強の会員がいるといっても、年間4千万強の会費収入では、代協事務局
のスタッフ人件費や家賃、支部活動費などを含めた経費の合計とは、毎年トントンといったと
ころである。せめて総会資料の収支決算書くらい見てから、改善策も含めてものを言ってほ
しいのだが・・・
また、代協が会員の為に何もやってくれないとはどういう事なのか?以上の様な活動は活動
とは呼べないのだろうか?まして自分からは情報を得ようとか、活動に参加しようとか、なん
らかの努力をしようとか思わないのだろうか?代協に強くなれというのと同様、他力本願的な
考えしか見えてこない。
結局のところ、今の日本の一庶民によく見受けられる、ただ体制の批判をし、自身は何の努
力もしていないくせに、不平・不満を言うだけの事なのだ。とは言え、一つの業界の環境を
良くしようと考えたら、要は、この国自体の様々な社会的問題にも取り組まなければならなく
なり、これではまるで「無限回廊」の様なものだが、どちらにしても、誰かが取り組むべき問題
は誰かがやらなければならない事であり、ある世代から発生したと思われる「ニヒリズム」が、
現在の日本の様々な問題の根本だと思っている。
私は「ニヒリズム」が大嫌いなのだ。
終わりに
ということで、3部にも渡りお送りしてきた本論を全て終了させていただく。
ここまでお読みいただいた方には本当に「お疲れ様でした」と申し上げたい。
これまでの私の一連の「作文」をお読みいただいている方々には、「いつも文章が長い」と言
われる事があるが、実はこれでもかなりまとめているつもりなのだ。
また、「本当にあれは君が書いたの?」ともよく言われるのだが、それは良くも悪くも、私が普
段、人前に出しているパッとしない姿からは想像もできない文体だという意味なのだろう。
良い意味にも、今後の反省材料(?)にもしたいと思うが、それもまた「機会」があればという
ことで・・・
それでは改めて、私の駄文にお付き合いいただき、心より感謝している。