橡 BTS-

【目 的】
Blue Toe Syndrome (BTS)は足尖の疼痛と
チアノーゼを主徴とする疾患で、中枢側の動
脈内腔より動脈硬化粥腫が散乱して生じる下
肢の微小塞栓症である。我々は冠動脈バイパ
ス(CABG)術後に発症したBTSを3例経験した
ので報告する。
【対 象】
1993年から1998年までに当院
で経験したCABG 術後に発症し
たBTS 3例を対象とした。
【症例 2】
【患者】71歳、男性。
【主訴】労作性胸痛
【既往症】糖尿病、心房細動
【経過】S63年4月労作性狭心発作を自覚し、精査にて
LMTを含む3枝病変を認め、3月6日術前に
IABPを挿入し、CABG術(LITA-#8, SVG-# 3,
SVG-#14)を施行した。術後経過は良好で、術
後CAGにてグラフト開存を確認したが、術後 4
週から両足趾尖部の安静時疼痛とチアノーゼを
認めた。さらに腎不全(Cre 4.4, BUN 58.4)を
併発していた。
【理学所見】両側足背動脈と両側後脛骨動脈の拍動触
知良好。
【胸部CT】ArchとDescending Aortaに軽度の点
状の壁石灰化を認めた。
【治療】抗血小板剤(aspirin 81mg, dipiridamole 300
mg)と血管拡張剤(prostaglandin E1 40μg)の
投与を10日間行ったが、症状の改善は認めな
かった。腎不全進行のため透析導入、右大腿切
断、左下腿切断となったが、投薬継続にて症状
の消失を認めた。
【症例 3】
【患者】61歳、男性。
【主訴】前胸部痛
【既往症】糖尿病、高血圧
【経過】H8年7月から前胸部痛を自覚し、H9年9月か
ら発作頻回となり、緊急CAG精査にてLMTを含
む3枝病変を認め、切迫心筋梗塞と診断され、
IABPを挿入し、CABG術(LITA-#8, SVG-#9,
SVG-#4AV)を施行した。術後経過は良好で、
術後CAGにてグラフト開存を確認したが、術後
3週から両足趾尖部の安静時疼痛とチアノー
ゼ、左下腿潰瘍を認めた。さらに腎不全(Cre
4.4, BUN 58.4)を併発していた。
【理学所見】右側の足背動脈と後脛骨動脈の拍動触知
良好で、左側はドップラー血流計にて血
流を確認した。
【腹部CT】腹部大動脈は腎動脈分岐部下部から壁
在血栓を認め、両総腸骨動脈分岐部に
石灰化を認め、両総腸骨動脈に壁在血
栓や石灰化を認め、特に左側が著明で
あった。
【血管造影】腹部大動脈の壁不整を認め、IMAの描出認
めず、左外腸骨動脈は完全閉塞をきた
し、ASOの診断であった。
【治療】抗血小板剤(aspirin 81mg, dipiridamole 300
mg)と血管拡張剤(prostaglandin E1 40μg)の
投与を7日間行ったが、症状の改善を認めなか
ったので、腹部大動脈の動脈硬化性粥腫散乱に
伴うdistal embolismと診断し、人工血管置換
術を施行した。術後に症状の消失を得た。
【症例3のCT】
【症例1写真】
【症例1写真】
【症例 1】
【患者】75歳、女性。
【主訴】胸痛発作
【既往症】高血圧
【経過】H6年1月に胸痛が頻発し、当院受診した。緊
急CAGにより2枝病変を認め、IABP駆動開始6
日目に、2枝CABGを施行した(SVG-#3, LITA#9)。術後経過は良好で術後CAGにてグラフト
開存を確認したが、術後2週目より両足趾尖部
の安静時疼痛とチアノーゼを認めた。
【理学所見】両側足背動脈と両側後脛骨動脈の拍動触
知良好。
【血管造影】総腸骨動脈以下の動脈硬化性の変化
は認めず、thromboarteritic
obstruction (TAO)の所見であった。
【治療】抗血小板剤(aspirin 81mg, dipiridamole 300
mg)と血管拡張剤(prostaglandin E1 10μg)
の投与を10日間行い、疼痛は寛解した。
【結 果】
1. 2症例は、術前術後心臓カテーテル操作が大腿動脈
からのアプローチであった。
2. 3症例とも術前からIABPが駆動された。
3. 患肢の足背、後脛骨動脈は良好に触知されたが、術
後2週∼4週の潜伏期間後にBTSを発症した。
4. 症例1は、約2週間の 薬物療法[抗血小板剤(aspirin、
dipyridamole)、血管拡張剤(prostaglandinE1)]のみ
で症状が寛解したが、右前足切断は避けられなかっ
た。
5. 症例2は薬物療法による症状の改善がみられず、腎不
全の進行により血行再建が不可能となり、両下腿切
断に至ったが、薬物療法持続によりBTS症状は改善し
た。
6. 症例3は約2週間の薬物投与を行ったが、症状が進行
したので、腹部大動脈の壁在血栓に対して、腹部大
動脈人工血管置換術を施行したところ、症状の寛解
を認めた。
【まとめ】
1. CABG症例では、人工心肺操作、術前術後CAGカ
テーテル操作に加え、IABP駆動という条件が大動
脈内腔への侵襲を高め、動脈硬化粥腫の散乱の機
会を与えるので、BTSを生じる危険を念頭におく
必要がある。
2. BTS予防には、術前CTや超音波検査等による大動
脈壁性状の把握、心カテ検査や術中における血管
の愛護的操作に注意することが大切と思われた。
3. BTS発症の際は、迅速な薬剤投与を施行し、血行
再建が重要と思われた。
BTSの治療
治療は、実際に塞栓を起こしている局所の治
療と塞栓源の治療の二つに分けて考える必要
がある。
1. 薬物治療
抗凝固剤、抗血小板剤、線溶剤、プロス
タグランジン。
2. 外科的治療
塞栓源血栓内膜摘除術、人工血管置換術。
【症例2写真】
【症例2写真】
【症例3写真】
【症例3の血管造影】
症例1
心カテ穿刺部
術前IABP駆動
IABP駆動期間(日)
BTS発症の時期(週間)
足背動脈触知
後脛骨動脈触知
薬物療法
薬物治療効果
血管造影所見
大腿動脈
+
1
2
+
+
抗血小板剤
血管拡張剤
あり
TAO
腎合併症
外科的治療
なし
右前足部切断
術後BTS症状
消失
症例2
大腿動脈
+
6
4
+
+
抗血小板剤
血管拡張剤
あり
下行大動脈壁 石灰化
あり
右大腿切断
左下腿切断
消失
症例3
上腕動脈
+
1
3
+
+
抗血小板剤
血管拡張剤
なし
腹部大動脈
壁在血栓
なし
腹部人工血
管置換術
消失