―― 実 施 例 ―― 慈恵会宿舎における空調設備 清水建設ñ 広島支店 設備部 清 山 洋一郎 ■キーワード/宿舎施設・空調設備の隠ぺい手法・メンテナンス 延 床 面 積 559.10fl 1.はじめに 構 造 規 模 鉄筋コンクリート造 地下1階,地上5階 日本の女性建築家の魁として常に第一線でご活躍さ れ,数々の作品を手がけ,全国の設計・建築関係者に多 工 期 平成13年4月∼平成14年1月 くの影響を与えた林・山田・中原設計同人の林雅子先生 設 計 監 理 林・山田・中原設計同人 が,昨年ご他界された。 施 工 清水建設ñ 林先生の遺作ともなるこの建物は,ご遺志を引き継が 広島支店 機械設備施工 第一設備工業ñ れた設計監理スタッフと施工スタッフが一体となって, 電気設備施工 ñ金本電業社 空調設備についても,細部のディテールやメンテナンス 家 具 工 事 KIYOñ 性にこだわりながら施工作業を進め,竣工に至った。 システムキッチン工事 だいだ産業ñ 2.建物概要 3.空調設備の概要 建 物 名 称 慈恵会病院宿舎 1階: 所 在 地 広島県広島市西区三篠 建 築 主 医療法人慈恵会 居室 広島支店 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 室内機 ローボーイタイプ 建 築 用 途 宿舎 電気式床暖房設備 敷 地 面 積 252.91fl 和室 建 築 面 積 176.80fl 2階: 居室 個別隠ぺいエアコン 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 室内機 ローボーイタイプ 電気式床暖房設備 暖炉設備 (薪焚き式) ACー1 ACー2 ラウンジ 台所2 居間3 個室 ホール PS 寝室4 ホール PS 浴室3 便所2 化粧室3 P 寝室5 クローゼット4 S 寝室2 ホール PS P 浴室2 化粧室2 家事室1 S 寝室3 クローゼット1 和室 ホール PS 台所1 和室1 ホール PS 食堂1 入口 食堂2 書斎 化粧室1 浴室1 居間1 図−1 空調系統図 写真−1 外観 ― 15 ― ヒートポンプとその応用 2002. 7. No.58 ―― 実 施 例 ―― 上部エアコン吹き出し口(*既成品ガラリ使用) スライドレール(完全スライド) コーナーキャッチ 写真−2 室内機 (ローボーイ隠ぺいタイプ) 既成品吹き出しルーバ ー95×95×19t×8個 グラスウールダウト 写真−3 室内機 (ローボーイ隠ぺいタイプ) エアコン キッチン ロールキャッチ 電気式床暖房設備 ダイニング RA 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) フィルタ 室内機 壁かけ式 電気式床暖房設備 図−3 家具空調機詳細図 3階: 居室 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 室内機 ローボーイタイプ 作業室 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 4.空調設備の設計理念 室内機 壁かけ式 この建物の特徴としては,造作による壁がほとんどな 4階: 居室 作業室 く,壁面を構成しているのは,基本的に造り付の家具に 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) よるものである。これは林先生の基本的な手法であり, 室内機 ローボーイタイプ 壁の厚さについても,遮音上問題がない限り徹底して無 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 駄を省くというスタンスにもとづくものである。 室内機 壁かけ式 空調設備計画についても,自然な空間創作へのこだわ 5階: 居室 作業室 りから,薪を焚く本格的な暖炉を設置し,電気式床暖房 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) とヒートポンプ式空調設備を隠ぺいすることにより,違 室内機 ローボーイタイプ 和感のない自然な居住空間を提供することを主眼として 暖炉設備(薪焚き式) 計画されていた。 空気熱源ヒートポンプエアコン (ビルマルチ) 室内機 壁かけ式 当初,設計段階ではガスヒートポンプ方式の空調で計 画されていたが,メンテナンスフリーであることと,近 隣に対する室外機の騒音の配慮から電気方式に変更され ヒートポンプとその応用 2002.7.No.58 ― 16 ― ―― 実 施 例 ―― 写真−4 室内機 (地袋隠ぺいルームエアコンタイプ) 写真−6 室内機 (壁かけ形ルームエアコンタイプ) このような設置をした場合,ガラリ内部でのショート サーキットが懸念されるため,吹き出し口ガラリの桟の 面取をして乱流を防ぐことと,スポンジシートにてレタ ーンとサプライの縁を切る収まりとした。 5−3 壁かけ形ルームエアコンタイプ (写真−6) 壁かけルームエアコンのメンテナンス性の良さは周知 のことと思う。 今回,物入れなどの欄間部分に機器を設置し,前面に 木製ガラリを配置することで,空調機の存在を目立たな いようにしてある。 写真−5 室内機 (地袋隠ぺいルームエアコンタイプ) 6.おわりに た。 今回の建物は,生活空間を構成するものであるため, また,ビルマルチタイプのヒートポンプパッケージを 採用することで,ビルトインの室内機にローボーイタイ プライバシーの問題を考慮して,全体の平面図などの掲 載については割愛した。 プを選定することが可能となった。 今回のように,空調設備に対して特殊な技術や知識を 持っていない一般の方がフィルタ清掃などのメンテナン 5.室内機の隠ぺい手法 スを行う場合,むやみに天井内隠ぺいなどの機器を選定 5−1 ローボーイ隠ぺいタイプ(写真−2・3) すると,天井内まで身体を入れての作業となるため,高 一般的に居住部分に採用されない機種であるが,腰高 の造作家具への隠ぺいと,ショートサーキットの問題, 所で作業性が悪くなるばかりか,危険を伴う可能性もあ る。 この物件について,空調室内機はすべて天井面より低 メンテナンス性の簡便さを考慮してローボーイタイプの い位置に配置できる機器が選定されており,一般的なフ 室内機が採用された。 室内機と家具の吹き出し口はグラスウールダクトによ ィルタ交換などのメンテナンスについても家具前面で行 る接続とし,リターン部分のフィルタは家具の幅木部分 えるよう考慮されているので,意匠的にも,メンテナン に取り付けとした。このことで,通常のメンテナンスで ス時の作業性・安全性についても配慮された計画となっ あるフィルタの清掃が簡便に行えるようになり,機器下 ている。 林先生のご遺志を引き継がれた設計監理スタッフと施 部のほこりだまりとなる部分が解消できた。 当然,空調機前面の家具の幕板も,機器メンテナンス 工スタッフが,一体となって施工を進めた結果,意匠と メンテナンス機能がマッチした好事例となった。 のため脱着可能となっている。 5−2 地袋隠ぺいルームエアコンタイプ(写真−4・5) このタイプの空調機は,前面の取り外しが困難になる 場合が多い。今回,引き戸にガラリを切ることで,ガラ 最後に,本件の施工にあたり,ご指導・ご協力をいた だいた建築主ならびに関係各位の方々に,深く感謝いた します。 リを取り外すことなくメンテナンスが可能となってい る。 ― 17 ― ヒートポンプとその応用 2002. 7. No.58
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