設備リニューアルにおけるヒートポンプ式空調の 採用と種々の吹き出し

―― 実 施 例 ――
設備リニューアルにおけるヒートポンプ式空調の
採用と種々の吹き出し方式の適用
ñ奥村組 技術研究所 茂 木 正 史
■キーワード/
■キーワード/ヒートポンプ・パッシブリズミング・置換空調・床吹き出し空調
パッケージ方式に変更したことにより,リニューアル前
1.はじめに
に4階に設置されていた45flの空調機械室を研究スペ
奥村組技術研究所の研究管理棟はわが国初の本格的
ースとして利用できるようになった。
免震ビルとして1985年に建設されたが,築後20年間を
経た平成17年6月より,3カ月間のリニューアル工事
3.空調設備概要
以下にリニューアル後の空調設備概要を示す。
を実施した。リニューアルの発端は設備の老朽化であ
ったが,リニューアル項目は,免震ビルの機能維持を
空調システム 個別分散型氷蓄熱ビル用マルチエアコン
空気熱源とヒートポンプ空調機
中心に建物の内装・外装におよび,屋上緑化や熱遮へ
いフィルムの採用など建築的な省エネルギー対策も採
屋外機 13HP
(氷蓄熱)
2台
10HP
(氷蓄熱)
4台
05HP
(非氷蓄熱,外気用)
4台
用した。
本報では,採用した設備システムの概要とその運転
状況,パッジブリズミング空調,階ごとに変えて適用
室内機
1階 天井埋込み(置換空調)
した種々の吹き出し方式について報告する。
3台
置換空調給気ユニット
3台
天井カセット
1台
建物名称 奥村組技術研究所 研究管理棟
2階 天井カセット
9台
所 在 地 茨城県つくば市大砂
3階 下吹きユニット
(床吹き出し)
2台
2.施設の概要
床吹き出しファンユニット
建物構造 RC造(免震構造)
30台
4階 下吹きユニット
(床吹き出し)
階 数 地上4階
2台
床吹き出しファンユニット
敷地面積 27,000fl
30台
建築面積 00,348fl
4.計測制御設備概要
延床面積 01,371fl
写真−1に建物外観,図−1に建物内に配置した設
LonWorksによるオープンネットワークシステムを設
備の概要を示す。空調方式を単一ダクト方式から個別
置し,空調や照明のコントロールと各種計測を行ってい
室外機
氷蓄熱槽
屋上緑化
遮熱フィルム
3,4F
研究室
パッシブリズミング
床吹き出し空調
室内機 高効率照明
機械室→研究スペース
OAフロア
室内機
室内機
高効率照明
2F
事務室
OAフロア
ロビー
室内機
室内機
高効率照明
パッシブリズミング
ホール 置換空調
1F
装直
免震層
ライトアップ
写真−1 建物外観
ヒートポンプとその応用 2006.7.No.70
図−1 設備概要
― 26 ―
女子便所
追加
オープンネット
ワークによるデータ
取得,解析,制御
電力,稼働状況
温度,炭酸ガス濃度
風向風速,日射
緑化温度
―― 実 施 例 ――
(kWh)
30,000
表−1 計測・制御項目一覧
対 象
測定
制御
備 考
1,3,4Fはパッシブリ
ズミング制御
空調機器
○
○
照明機器
○
○
室内温度
○
パッシブ制御に利用
室内CO2
○
パッシブ制御に利用
室内湿度
○
風向風速
○
降雨量
○
日射量
○
外気温湿度
○
緑化表面温度
25,000
リニューアル前
リニューアル後
20,000
電
力 15,000
量
10,000
5,000
0
9
10
11
○
1
2
図−3 リニューアル前後の電力量の比較(空調・照明)
日報,月報,トレンドグラフの表示と出力
(kWh)
12,000
気象観測装置
10,000
パッシブコントローラ
換気ファン
空調電力
電灯電力
8,000
電
力
量 6,000
CO2メータ
温湿度計
空調機器
照明器具
12
月
4,000
電力計
2,000
i.Lon
0
9
10
11
12
1
2
月
中央監視装置
図−4 用途別電力量の推移
図−2 オープンネットワーク模式図
(kWh)
800
平成17年9月∼平成18年2月(休日除く)
700
る。表−1に計測・制御項目の一覧を,図−2にオープ
1
日
の
空
調
用
電
力
量
ンネットワーク模式図を示す。
5.エネルギー測定結果
リニューアル工事が終了した平成17年9月から平成
18年2月までの電力測定結果を以下に示す。
y=1.8768x2−57.711x+558.07
R2=0.8296
600
500
400
300
200
100
図−3はリニューアル前後の電力量の比較である。リ
0
−5
ニューアル前は建物全体の電力のみ測定していた。リニ
ューアルにより25%∼30%の省エネルギーが実現して
0
5
10
15
20
夜間を含む日平均外気温度
25
30
(℃)
図−5 外気温度と空調用電力量
おり,以下の省エネルギー対策が有効に機能していると
考える。
・高効率空調機の採用
15℃付近を下限に冷房領域と暖房領域に分かれており,
・高効率照明の採用
比較的まとまった対応をしている。本来,冬季と夏季と
・空調・照明のスケジュール制御
を別々で近似曲線を求めるべきであろうが,通年を1つ
・単一ダクト方式から個別空調への変更
の2次式で近似してみたところ,R2は0.8程度になった。
・屋上緑化,遮熱フィルムによる建物外皮性能向上
6.パッシブリズミング空調
・パッシブリズミング空調の採用
図−4は用途別電力量の推移を示したものである。換
パッシブリズミング空調は建築研究所,三機工業,奥
気ファン電力と照明電力は通年でほぼ一定であり,空調
村組の共同開発によるものである。その特長は,室内温
電力は季節に応じた変化をしている。
度を一定に保つために空調機を常時運転する従来の空調
図−5は休日を除く日平均外気温度
(夜間を含む)と1
方式とは異なり,温度と二酸化炭素濃度を監視しながら
日の空調用電力量の関係を示したものである。外気温度
空調機を断続的に運転させることにより,空調用エネル
― 27 ―
ヒートポンプとその応用 2006.
7.
No.70
―― 実 施 例 ――
(℃)
30
表−2 パッシブ運転と連続運転の時間帯別電力量
時間帯
25
20
パッシブ運転外気
連続運転外気
パッシブ運転室内
連続運転室内
温 15
度
10
(kWh)
9時∼17時
9時∼11時
11時∼17時
Aパッシブ運転
22.2
13.8
36.0
B連 続 運 転
28.8
22.4
51.2
77
62
70
A/B×100(%)
5
0
給気No3
10:30
12:00
13:30
15:00
16:30
6,500
18:00
時 刻
3,400
B−2 B−1
A−1
図−6 比較日の外気温度と室内温度
天井還気口×10
測定点
A−2
14
15,000
(W)
20,000
パッシブ運転
連続運転
18,000
5,500
9:00
4,500
−5
7:30
パネル展示台
16,000
14,000
空 12,000
調
電 10,000
力 8,000
給気No1
17,400
給気No2
6,000
図−8 置換空調適用室と給気口・測定点位置
(1階)
4,000
2,000
0
7:30 8:30 9:30 10:30 11:30 12:30 13:30 14:30 15:30 16:30 17:30
時 刻
図−7 パッシブ運転と連続運転の空調電力
置換空調給気口
ギーを削減させようとするものである。
1階ロビーの置換空調,3階および4階研究室の床吹
き出し方式においてパッシブリズミング空調を適用して
おり,その制御は次のように行っている。
・パッシブ運転時間帯 9:00∼18:00
・運転パターン 45分運転+15分休止
・制御対象 室外機,室内機,床吹き出しファン
パッシブ運転と連続運転の比較のために外気温度が類
写真−2 置換空調給気口との発煙試験状況
似の日
(暖房)を選定した。図−6に比較日
(ともに晴れ)
の外気温度と室内温度の変化を示す
図−7に比較日におけるパッシブ運転と連続運転の空
調電力の比較を示す。午前11時ごろまでとその後で電
7.各種吹き出し方式
力消費量が大きく変わっている。午前は負荷が大きいな
空調の吹き出し方式は天井カセットのほか,置換空調
かでホットスタート機能が働きつつ,パッシブリズミン
と床吹き出しを採用した。
グによる断続運転が行われている。午前11時以降は負
7−1 置換空調
荷が小さく(日射量が多いため)最低出力運転となってい
図−8に1階のホールに適用した置換空調の給気口位
る。ここでもパッシブリズミングによる断続運転が行わ
置,温度測定点を示す。当室の主な用途は打ち合わせと
れている。
展示である。給気口は南側に2台,北側コーナーに1台
日報から時間帯別の電力量を算出した。起動電力によ
設置した。
りパッシブリズミングの効果が出にくいとの懸念があっ
写真−2に置換空調給気口との発煙試験の状況を示
たが,今回の比較では,負荷が大きい時間帯も小さい時
す。給気風速は0.3m/sec程度であるが,冷気が床部全体
間帯もパッシブリズミングによるエネルギー削減効果が
に広がっている。その後,成層を形成してゆっくりと上
現われている。
昇した。一方,窓面では暖められ急上昇している。
ヒートポンプとその応用 2006.7.No.70
― 28 ―
―― 実 施 例 ――
(m)
2.5
(流速)
9.9
8.9
A-1
A-2
B-1
B-2
2.0
7.9
6.9
高 1.5
さ
1.0
5.9
5.0
4.0
3.0
Y
0.5
2.0
1.0
0.0
0.0
24.0
24.5
25.0
25.5
26.0
26.5
Z
27.0
温 度
(℃)
X
図−11 床下空気の流れ
(解析結果)
図−9 置換空調の上下温度分布(冷房)
(m)
2.5
“○-1”は吹き出しファン近傍
階段室
DS
男子便所
A-1
A-2
B-1
B-2
C-1
C-2
D-1
D-2
2.0
階段室
打ち合わせコーナー
2,350
DS
PS
DN
(3)D−2
UP
コピー兼作業スペース
(3)D−1
1.5
DN
吹出口
高
さ
DS
1.0
空調機
(3)A−2
0.5
(3)C−1
1,500
1,500
(3)B−1
(3)A−1
(3)B−2
(3)C−2
0.0
22.0
空調機
PS
バルコニー
22.5
23.0
23.5
24.0
24.5
25.0
25.5
温 度
PS
26.0
(℃)
図−12 床吹き出し空調の上下温度分布
(冷房)
20,400
図−10 床吹き出し空調適用室と空調機,測定位置
(4階)
図−9に置換空調の上下温度分布を示す。吹き出し口
快適域と評価
5ポイント
床吹き出し空調 (9ポイントデータの平均)
から遠いA−2の方が近いA−1よりも低い温度となっ
快適域
ており,冷気は室内全体に届いていることを示す。窓近
傍
(B−1,B−2)も内部と比べて大きな温度上昇はみ
置換空調 (10ポイントデータの平均)
快適域と評価
2ポイント
天井カセット (12ポイントデータの平均)
快適域と評価
1ポイント
られない。
7−2 床吹き出し空調
図−10に床吹き出しを適用した4階研究室の平面図と
温度測定点を示す。西側の壁に2台の床吹き出し用空調
−3
寒い
機を設置し,高さ100㎜のOAフロア内に給気している。
床吹き出しファンユニットから吹き出した空気は居室内
−2
−1
涼しい やや涼しい
0
1
2
やや暖かい 暖かい
3
暑い
PMV(快適性指標)
図−13 各空調方式の快適性
を通って空調機に還流されている。図−11は床下空気
の流れの解析結果である。渦状の流れがほぼ全域に及ん
た結果を図−13に示す。いずれも許容範囲であり,床
でいる。
吹き出し空調の快適性が最も良く,置換空調,天井カセ
図−12に床吹き出し空調の上下温度分布を示す。い
ットの順となった。
ずれのゾーンでも吹き出しファン近傍の気温が低めにな
っている。空調機に近いAゾーンの吹き出しファン近傍
8.おわりに
は特に低い温度となっているが,その他では水平方向の
リニューアル工事が完了して半年あまり経過したが,
気温のばらつきは1.5℃弱となっている。最も気温が高
省エネルギーの実現が確認できている。種々のデータの
いのはCゾーンであるが,解析結果でも床下の流れの領
測定や機器の運転スケジュールの調整が容易にできる環
域からはずれており,冷気が届きにくいと考えられる。
境が整ったので,今後さらにデータを蓄積してゆくとと
各空調方式の快適性能(PMV:快適性指数)を評価し
もに,省エネルギーのための改良をすすめてゆきたい。
― 29 ―
ヒートポンプとその応用 2006.
7.
No.70