処理1:高速A-Dコンバータ によるFM信号の取り込み

第2部
第
4章
サンプリング / 転送 / 処理…
チップ性能を MAX 引き出す!
リアルタイム信号
処理のキモ!
処理 1:高速 A-D コンバータ
による FM 信号の取り込み
高橋 知宏
いよいよ信号処理の過程を,順を追って解説してい
きます.最初はアンテナから入力された信号を A-D
コンバータでサンプリング(取り込み)してみます.
A-D コンバータによる信号の取り込み
● A-D 変換の基本…取得したい信号の 2 倍以上の
周波数でサンプリングしないといけない
信号をソフトウェアで数値処理するためには,信号
のもつ周波数に対して,2 倍以上のサンプリング周波
数で A-D 変換して取り込む必要があります.これを
サンプリング定理といいます.理論の確立に携わった
ハリー・ナイキストの名前からナイキスト定理ともい
います.サンプリング周波数 fS に対して,表現できる
周波数の上限をナイキスト周波数といいます(図 1).
サンプリングのようすを図 2 に示します.通常のサ
ンプリングであれば,入力信号の周期に比べて,十分
短い周期でサンプリングを行います.この十分短いと
いうのが入力信号に比べて 2 倍以上の速さのサンプリ
ング周波数が必要というのがサンプリング定理の意味
です.
入力信号がナイキスト周波数 fS/2 未満であれば,サ
ンプリングした結果も入力と同じ周波数に信号が得ら
れます.これが通常の A-D コンバータのサンプリン
グです.
今回の目的である FM 放送の RF 信号は,80MHz 近
辺の周波数の信号です.この原理に素直に従えば,
80MHz 付近の信号を取り込むためには,サンプリン
グ周波数が 160MHz 以上である必要があります.この
ように高速な A-D コンバータは,非常に高価である
ことに加え,生成される大量のデータを受信し,処理
するためにも特別なハードウェアを必要とします.
● 低いサンプリング周波数で高い周波数信号を
取り込む方法…アンダーサンプリング
ところが,このように高速な A-D コンバータを使
用しなくても,高い周波数の信号を取り込む方法があ
り,アンダーサンプリングといいます(図 3).アン
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ダーサンプリングは,高速に変化する信号を遅い周期
でサンプリングします.周期は遅いのですが,サンプ
リングはごく短時間に完了していることがポイントで
す.
サンプリングのようすを図 4 に示します.
ナイキスト周波数を超えた場合は,入力した信号よ
りも遅いサンプリングを行うと,元の波形が再現され
ていません.しかし,見た目に同じには再現されては
いないですが入力と出力は関連しています.例えば,
入力が正弦波であれば,出力は周期の長い正弦波とな
ります.実は,入力信号の周波数と,サンプリング周
波数の差の周波数をもつ信号が出力されています.
図 3 に示すように,スペクトラムで見ると,入力信
号が 0 〜 fS/2 の範囲に移ってきています.
● A-D 変換(サンプリング時)の課題…エイリアス
普通 A-D コンバータでアナログ信号を取り込む場
合には,ナイキスト・フィルタを置くことにより,
fS/2 以上の信号が入らないようにします.
もし fS/2 を越える信号があった場合には,fS/2 の整
数倍を周期として折り返されて,fS/2 未満の信号と重
なってしまいます.これがエイリアスというひずみで
す(図 5)
.
逆にいえば,入力信号が fS/2 を超えていたとしても,
その範囲が,
n
f ∼ n + 1 fS
2 S
2
の範囲に限定されているのであれば,fS でサンプリン
グすることにより,出力の周波数範囲が 0 〜 fS/2 に移
されるものの,重なり合うことはありません.元の情
報はすべて保持されており,ひずみを発生せずに取り
込めることになります(図 6)
.
● 実際にアンダーサンプリングを実現するには
通常の使い方では,不要な信号成分が入らないよ
う,A-D コンバータの手前にローパス・フィルタを置
きます.アンチエイリアス・フィルタともいいます
(図 7)
.
2015 年 7 月号