福山大学社会連携研究推進事業 「人間力」に支えられた「活力ある地域づくり」 連携に関する開発研究 プロジェクト2(PJ2) 産官学連携 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ 1 「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理 の原理と実際」 集団学習会 講義資料 平成 20 年 8 月 2 日 1-a-1 目次 テーマ1「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」 集団学習会 1-a-1~1-a-88 1.テーマ1“食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実 際”の概要 1-a-3~1-a-9 2.講義1“農薬のリスクとベネフィットの考え方” 福山大学 大川秀郎 1-a-10~1-a-47 3.講義2“農薬のリスク評価と管理の実際” 大塚化学ホールディングス㈱ 梅津憲治 1-a-48~1-a-81 4.参加者名簿 1-a-82~1-a-83 5.講師・実習指導者一覧 1-a-84 6.質問・意見・感想票 1-a-85 1-a-2 平成 20 年 8 月 4 日 産官学連携(PJ2) 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ 1 “食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際” 概要 1. 背景 殺虫剤 DDT が発見されたのは 1939 年のことである。やがて、DDT が大量生 産されて、衛生害虫や農業害虫の防除に多大な貢献をした。そのことにより、 発見者のガイギー社ポール・ミューラー博士はノーベル賞を受賞した。 ところが、1962 年にレイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング』の 出版を契機に、DDT などの大量使用に伴う環境への残留や生態系に及ぼす深刻 な影響について警鐘が鳴らされ、それらの使用についてさまざまな議論がたた かわされた。その結果、米国では 1970 年に環境保護庁(EPA)が設立された。 また、日本では 1971 年に農薬取締法が改正され、農薬の登録に関する安全性の 評価の制度やその手法が大幅に見直され、DDT は農薬として使用できなくなっ た。現在の農薬はこの規制に適合しており、生産者への曝露、環境や生産物に おける残留などが監視され、生産物に基準を超えた残留農薬が検出された場合 には廃棄される。しかしながら、依然として農薬の目的以外の使用、違法農薬 の使用、輸入農作物における基準を超えた農薬の残留などの諸問題が起こり、 それらに対処すべく、新たなポジティブリスト制が導入された。それでも、オ ーストラリア産の小麦に基準を超える残留農薬が検出されたり、中国産のギョ ウザにメタミドホスが混入して、それを食べた人々が中毒を起こす事件が起き ている。従って、食品の原材料はもとより、加工食品についてもトレーサビリ ティーを確立して、それを基に、農薬などを検査する必要がある。なお、WHO は発展途上国におけるマラリヤ対策のために DDT を屋内で使用することを推 奨している。 こうした社会的諸課題に応えて、例えば、 「化学と生物の総合管理学」あるい は「リスクの評価・管理・コミュニケーション」といったこれまで大学で体系 的には教育・研究を行ってこなかった学際分野について、人材を育成すること 1 1-a-3 が急務である。本研修では地域における社会人の再教育を目指している。(1)“集 団学習会”では、農薬などを対象に、リスクの評価・管理の考え方の基本とリ スク管理の実際を学ぶ。それと共に、(2)“集団実験実習”では新しい測定技術 として、免疫化学測定方法を体験実習する。(3)“リスク管理マニュアルの作成” では研修成果を職場で実践することを目的に、トレーサビリティーの確立にも とづくリスク管理マニュアルを作成する。 本研修により、科学データを基に論理的に思考し、リスク管理の徹底実施に よって、偽装などの起こらない健全な社会の持続的な発展に貢献することを目 指している。 2. -集団学習会-(8 月 2 日(土)、13:00~17:00、定員:約 16 名) 場所:福山大学生命工学部 講義 1(13:00~15:00):農薬のリスクとベネフィットの考え方 (福山大学 大川秀郎) 講義 2(15:00~17:00):農薬のリスク評価と管理の実際 (大塚化学ホールディングス(株) 梅津憲治) 化学物質のなかで、農薬はリスク評価と管理及びモニタリング並びにそれら の制度が最もよく整備されている。その概要を図 1 に示す。 上市前に各々の農薬について実験動物などを用いた各種毒性試験を行い、慢性 毒性試験などの結果から最大無作用量(NOEL または NOAEL)を求め、その 値からヒトの 1 日最大摂取許容量(ADI)を定める。ADI 値を基に、作物各に 残留基準を定め、食物から接種するそれらの総和が ADI を超えないように設定 する。実際に、栽培した農作物の残留量を測定し、また、市場の農水畜産物、 食品について残留量を測定して消費者が食物を介して摂取する量を推定すると 共に、摂取量が ADI を超えないように総合的に管理・監視する(図 1)。 本学習会では大学と企業の専門家による講義によって、農薬などを対象に、 リスク評価・管理の考え方の基本と実際について、とりわけトレーサビリティ ーの確立に基づくリスク管理の実際について理解を深める。 2 1-a-4 実験動物を用いた慢性毒性試験 Chronic Toxicity 最大無作用量 No-Observed Adverse Effect Level NOAEL(mg/kg b.w./day) 1/100 × 不確実係数(種差、個人差) Uncertainty Factor ヒトの許容一日摂取量 Acceptable Daily Intake ADI:(mg/kg b.w./day) 食品安全委員会(Cabinet Office) = Risk Assessment 残留農薬基準(mg/kg) Maximum Residue Limit 中央薬事審議会 (The Ministry of Health, Labor and Welfare) 農薬使用基準 Pesticide Use Standard 農業資材審議会 (The Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries) 農薬登録保留基準 Registration Reservation Level 中央環境審議会 (The Ministry of Environment) Residue Analysis Monitoring, Inspection Risk Management 図 1.日本における農薬のリスク評価と管理 Risk Assessment and Management for Pesticides in Japan 3. -集団実験実習-(8 月 25 日(月)~29 日(金)、10:00~12:00 及び 13:00~16:00、定員:8 名) 場所:福山大学グリーンサイエンス研究センター 実習 1(8 月 25 日):抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理 (神戸大学 乾 秀之) 実習 2(8 月 26 日~27 日):農薬等の ELISA 測定とデータ処理 ((株)堀場製作所 三宅司郎) 実習 3(8 月 28 日~29 日):Cd などの ELISA 測定とデータ処理 ((株)住化分析センター 山科 清) 実験実習補助者(8 月 25 日~29 日):嶋津小百合 農薬の使用に先立ち、農薬への直接の曝露と散布農薬の農作物や環境におけ る残留(残留農薬)、それらの環境挙動や生態系への影響、並びに、それらの食 物を介した摂取による人の健康への影響のリスクについて、総合的な管理を確 立する(図 2)。一方、農家・生産者は農薬の購入量、使用量、廃棄量などを記 3 1-a-5 録するトレーサビリティーを確立している。また、収穫物の貯蔵、出荷、輸送、 加工、製品出荷、廃棄物のリサイクルに伴う残留農薬の監視を実施する。 これまで、残留農薬の分析のためには多くの試料を採取して、それらについ て抽出・クリーンアップなどの前処理を行い、ガスクロマトグラフィー(GC)、 ガスクロマトグラフィー/質量分析計(GC/MS)などを用いた機器分析を行って きた。機器分析は精度・感度に優れており、極微量な残留農薬の分析には適し た方法である。しかしながら、分析に熟練を要し、時間が掛かり、経費が掛か ることから、多くの試料について、長期間、広範囲に測定することが難しい。 農薬製造 “作業者”(曝露、影響) 作業環境(挙動、残留) “作業者”(曝露、影響) 農薬散布 環境(大気、土壌、水) (挙動、残留) “生態系”(曝露、影響) 農作物(残留) (残留) 食料 (残留) 飼料 (残留) 肥料 “消費者” (摂取、影響) 加工食品(残留) 畜産物(残留) 水産物(残留) 図 2.残留農薬のモニタリング “ ”:評価対象 :残留農薬の流れ 一方、生物機能に基づくバイオアッセイ方法を用いて、簡単に安価に感度よ く多数の試料についてスクリーニングを行うことが求められている。 すでに、抗原・抗体反応の特異性に基づく免疫化学測定(ELISA)の試薬キッ トが市販されている。また、これらのバイオアッセイ方法について JIS 通則が 公示され、公定方法として使用することを推奨している。 本実験実習では、新しい技術である抗体アフィニティーカラムを用いた試料 前処理、ELISA を用いた農薬や Cd 等の測定とデータ処理のやり方について体 験実習する。これらの新技術を自ら開発した大学、企業の専門家から直接に指 4 1-a-6 導を受ける。 4. -リスク管理マニュアルの作成-(10 月 4 日(土)及び 10 月 11 日(土) 、 13:00-15:00、定員:8 名) 場所:福山大学生命工学部または福山駅前学舎 実習 1(10 月 4 日(土):農薬のリスク管理とマニュアル作成の考え方 (日本植物防疫協会 上路雅子) 実習 2(10 月 11 日(土):農薬の測定方法とマニュアル作成の実際 (福山大学 大川秀郎) 集団学習会や集団実験実習での体験学習などを基に、農薬の測定方法につい て、現場での使用、技術普及などを目指して、それに適したマニュアルを作成 する。また、それを職場でのリスク管理に活用するためのプランを作成する。 農家・生産者は農薬の購入、使用、廃棄などを記録している。また、圃場で の生産物、出荷前、あるいは、市場に入荷した農産物や輸入農産物における残 留農薬を検査する体制は整っている。一方、例えば、食品加工業では、農産物 原材料の入荷・検証から製造・加工、製品出荷、保管、廃棄物のリサイクルま でを記録するトレーサビリティーを確立する。それと共に、原材料の入口と出 口で残留農薬などを測定することが求められる。それらの目的に適うマニュア ルを作成して、職場でのリスク管理の実践に役立てることを目標とする。なお、 企業秘密には十分に配慮する。 5. “公開講座”(予定:平成 21 年 1 月-2 月) 集団学習会や集団実験実習に基づいて作成したリスク管理マニュアルとその 活用プランについて公開講座で発表する。 6. “フォローアップ” 本研修に関するホームページを開設した。 http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ それを介して、研修員の活用プランの職場での実施に関する意見交換、情報 などの支援、についてフォローアップを行う。 また、公開講座の実施内容と日程並びに場所が決まり次第、連絡する。 次年度のテーマと研修員の募集、関連情報の提供などを行う。 5 1-a-7 7. 参考書 1. 危険は予測できるか -化学物質の毒性とヒューマンリスク- J.V.ロドリックス著、宮本純之訳、化学同人、1994 2. 残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ 改訂 2 版 2005、日本農薬学会 3. 土壌のダイオキシン類簡易測定法マニュアル (独)土木研究所編、鹿島出版会、2006 8. 本研修テーマに関する問い合わせ先: 福山大学グリーンサイエンス研究センター 大川秀郎・嶋津小百合 電話:084-936-2112(内線 4674) e-mail:[email protected] 本研修に関するホームページ:http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ 6 1-a-8 7 1-a-9 平成20年8月2日 講義 1 「農薬のリスクとベネフィットの考え方」 福山大学生命工学部・ グリーンサイエンス研究センター 大川 秀郎 1-a-10 目次 1.環境毒性学のはじまり 1 2.DDT物語 2 3 農薬の環境毒性学上の問題 3.農薬の環境毒性学上の問題 14 4.農薬の用途 15 5.リスクの評価・管理・コミュニケーション 23 6.トレーサビリティー 34 1-a-11 1.環境毒性学のはじまり 16世紀、スイスの医師、パラケルスス “すべての化学物質は有害である。ヒトに有害であるか無害・有益であるかは、その量による。” 毒性学とは、 すべての化学物質について、有害性を確認する。 (1)1962 Rachel Carson “Silent Spring” 青樹 簗一 訳 “沈黙の春” 新潮社 (2)1970 米国、環境保護庁(EPA)設立 米国 環境保護庁(EPA)設立 (3)1971 日本、農薬取締法改正(DDTなどは農薬として使用できなくなった) (4)1997 Theo Colborn,Dianne Dumanoski and John Peterson Myers “Our Stolen Future” 長尾 力 訳 “奪われし未来” 翔泳社 (5)2002 日本、農薬取締法改正 日本 農薬取締法改正 (6)2006 日本、農薬などのポジティブリスト制度 表1 化学物質に関する主な出来事 パラチオン中毒(1887人)、死(70人) ( ) ( ) ヒ素ミルク事件 ペニシリン・ショック死 水俣病(有機水銀中毒) サリドマイド事件 イタイイタイ病(Cd) カネミ油症(PCB) 水銀剤製造中止 1969 牛乳中BHC 1970 スモン症(キノホルム) 1971 BHC、DDT、ドリン剤製造中止 1974 ポストハーベスト剤OPP、TBZ使用輸入柑橘 1986 クロルデン、パラコート24%剤製造中止 1988 ゴルフ場農薬登録制度 1990-1 30農薬の水質目標値 1954 1955 1956 1959 1962 1966 1968 :農薬等 (注);農薬とは作物保護を目的にした殺虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調整剤などを言う。 1 1-a-12 2. DDT物語 DDTは、1874年に化学の学生ツァイドラーが合成した。速効性睡眠薬のクロラールという物質を硫 酸中でクロロベンゼンと混ぜてできた白い結晶がDDTだった。ツァイドラーはそれを論文に書いただ けで、抜群の殺虫効果には気付いていなかった。 1939年、スイス・ガイギーー社のパウル・ミュラーがDDTを再発見する。新しい殺虫剤を探していた 彼は ごく少量でいろんな昆虫を殺すDDTの威力にびっくり仰天 たちまち商業生産になって30年 彼は、ごく少量でいろんな昆虫を殺すDDTの威力にびっくり仰天。たちまち商業生産になって30年 間で300万トンがつくられ、ミュラーは1948年のノーベル医学生理学賞に輝く。 DDT分子は細胞膜にあるナトリウムイオン(Na+)のチャネル(通り穴)を開けっぱなしにするため、神 経が興奮しどおしになって昆虫は消耗して天に召される(高等動物の神経はやられない)。「すばらし い白い粉」はシラミ・ノミ・蚊を根絶してチフスやマラリア、黄熱病を追い払い、おびただしい人命を 救った。農作物に使っても、ヒ素・鉛・水銀などの毒物を利用するそれまでの農薬よりはるかに安全 で効き目も高い だが 昨今はDDTを危ない毒だと思っている人がたいへん多い で効き目も高い。だが、昨今はDDTを危ない毒だと思っている人がたいへん多い。 DDTの威力はすごかった。ミュラーがノーベル賞をもらった1948年、イギリスの植民地だったセイロ ン島(現スリランカ)でマラリア根絶活動が始まる。それまでは年に250万人もマラリアにかかってい た。島内の全住宅にDDTを定期散布したところ、1962年には発症数がなんと31人にまで激減。古 代以来の災いがすっかり影をひそめたのである。 だがちょうどその年、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』が世に出て環境運動家のバイブルとなる。 女史は 女史はDDTを「死の仙薬」と呼んだ。たちまち多くの人たちが、DDTは野生動物(とりわけ鳥類)を殺 を「 仙薬 と呼んだ たちまち多く 人たちが は野生動物 とりわけ鳥類 を殺 す、人間にがんを引き起こす、環境に残留する、と叫んで当局に使用禁止をせまった。分析化学者 たちは感度のいい検出器を用いて、土にも水にも食品にも人体にも・・・・・・いたるところにDDTが存 在することを証明した。 そうこうするうち、DDTに耐える(塩素原子を外して解毒する酵素を持つ)昆虫も現れて、使用禁止運 動がますます加熱。DDT耐性の生物は今500種ほど知られ、過剰使用のもの言わぬ証人となって いる インドあたりではまだ殺虫剤に使うが(ただし年間使用量は1万トンに制限) アメリカが1972年 いる。インドあたりではまだ殺虫剤に使うが(ただし年間使用量は1万トンに制限)、アメリカが1972年 に禁止して他の先進国も右にならい、セイロンのDDT散布も、1964年に打ち切られた。だが以後5 年で島内のマラリア患者は250万人に戻っている。 アメリカ科学・衛生協議会議長のウィーラン女史が著書『毒の恐怖』でDDTの得失をこまかく論じ、 安価で効き目の高いこの殺虫剤の禁止に疑問を投げかけている。救った人命は他のどんな化学物 質より多く、少なくともヒトに発がん性はないのです、と。 「環境残留性」の根拠は、土にDDTを普通の10倍もまき、その土を乾いた暗所に保存する実験だっ た。なるほどそんな環境なら分解するはずもない。現実の畑では、土壌微生物がDDTを消化するか ら2週間で消え、海水中でも1ヶ月以内に9割が分解する。たしかに人体蓄積性はあって、禁止当時 の平均濃度は7ppmだったし、1960年代の食品は0.2ppmほど含んでいた。DDTは脂肪組織にたま り、排泄はゆっくりとしか進まないので体内の半減期は16週間にもなる。 だが7ppm(体重70キログラムで総量0.5グラム)なら健康被害はない。世界保健機構(WHO)が推奨 pp ( ) ( ) する年摂取量255ミリグラムは、1960年代の人体に入った平均量の10倍だ。消毒用のDDT液をコッ プ一杯(DDT4グラム)飲んでも害はない。致死量は30グラムである。 DDT物語の教訓はまことに重い。現在、WHOはマラリア予防の目的にDDTを屋内で使用すること を推奨している。 2 1-a-13 2-1 毒性 図1 DDTおよびその分解生成物(残留DDT、総DDT) 残留DDT:図1の3化合物をひっくるめて残留DDTとしている。DDTが殺虫剤本体であ り、DDEやDDDには殺虫力はない。ただし、DDTが環境中に散布されると、各種の生 物による代謝や土壌中・水中などでの生物的・非生物的反応により徐々に脱塩化水素 反応でDDEや還元反応でDDDなどに変換される。これらはDDT本体よりもそのままの 形で長期に残留しやすい(残留性)。さらにたとえば鳥類の卵の殻を薄くするような作 用(カルシウム沈着に関係する炭酸脱水素酵素の阻害など)があることがわかってき て、野生動物保護の観点から大きな問題になった。 表2 化合物 各種農薬のラット(雄)における急性毒性 毒性値 LD50 mg/kg 化合物 殺虫剤 毒性値 LD50 mg/kg 殺菌剤 アルドリン DDT(p、p’-) クロルデン リンデン(γ-BHC) ダイアジノン ジクロルボス フェニトロチオン フェンチオン マラチオン プロボキスル カルバリル ペルメトリン ジペルメトリン フェンバレレート ジネブ キントゼン ベノミル チアベンダゾール 39 113 335 88 108 80 740 125 1,375 83 850 251 430 451 > 5,000 1,200~1,650 >10,000 3,100 除草剤 パラコート PCP モニュロン シマジン トリフルラリン アミトロール アイオキシニル 100 146 >3,000 > 1,000 > 10,000 15,000 110 出典:各種文献より引用 毒物:LD50値が30mg/kg以下のもの 劇物: LD50値が30mg/kgを超え、 300mg/kg以下のもの 普通物: LD50値が300mg/kgを超えるもの (注):「毒物及び劇物取締法」には「普通物」という定義はなく、「普通物」は便宜上使用されている定義である。 いずれにせよ、化学物質の毒性の側面について分類したものである。 (注):LD50;半数致死量(化合物mg/体重kg 3 1-a-14 表3 鳥類とミツバチに対する農薬の急性毒性 まがも 農薬 うずら 経口LD50 mg/kg ミツバチ まがも 農薬 接触LD50 μg/ハチ うずら 経口LD50 経 mg/kg ミツバチ 接触LD50 接触 μg/ハチ 殺菌剤 殺虫剤 DDT エンドリン アルドリン フェニトロチオン フェンチオン カルバリル プロボキスル フェンバレレート 2,240 5.6 520 2,550 5.94 > 2,000 2 000 11.9 > 4,000 841 - 55.6* 23 17.8* 2 290 2,290 20* > 4,000 5.4 - - 0.38 - 13 1.3 - 0.23 クロロタロニル キャプタン ジネブ > 2,000 > 2,000 > 2,000 > 2,000 - - > 2,000 >2 2,000 000 > 2,000 > 2,000 - 668 - > 2,000* 14 9.8 - 除草剤 アラクロール 2,4-D アトラジン トリフルラリン 0.41 3.7 3 4.8 - * きじの値 出典:各種文献より引用 表4 水生生物に対する農薬の急性毒性 急性毒性(mg/L) 農薬 LC50*1 魚 ミジンコ EC50*2 カニ タニシ 藻類 殺虫剤 DDT フェニトロチオン カリバリル フェンバレレート 0.01~0.3 3~8 3~13 0.001~0.1 > 10 0.05 0.05 0.001 0.2~0.4 0.002~0.02 0.03 0.0001 2~7 3~9 > 10 >1 0.0001 ~ > 1 4~ > 100 1~2 >1 除草剤 アラクロール 2,4-D , アトラジン 5~6 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 > 10 4~5 > 10 > 10 > 10 > 10 0.003~0.1 殺菌剤 クロロタロニル キャプタン ジネブ 0.1~0.2 > 10 0.04~0.3 8~ > 10 > 10 1~7 > 10 > 10 > 10 9~37 > 10 > 10 - 0.01~ > 50 >1 *1 50%致死濃度、 致 濃度、 *2 50%生長阻害を示す濃度。 長 害 す濃度。 DDTは藻類に対する毒性が高いので魚介類の餌に影響する可能性がある。 4 1-a-15 2-2 生物濃縮 図 2 生態系の“食物連鎖”による濃縮(“生物濃縮”) 表5 5 1-a-16 埋積した遺体など 底地 沼地 水草 巻貝 湿地植物 茎 根 図3 野外環境におけるDDTの生体濃縮1) (米国ロングアイランド:全身湿重量当たり、ppm) 1)宮本純之:農業のリスク評価 1992年 1)宮本純之:農業のリスク評価、1992年 肉食性 雑食性 植食性 魚食性 植食性 その他の有機 塩素系殺虫剤 陸生鳥類 図4 水生鳥類 鳥類胸筋における有機塩素系殺虫剤残留量 2) DDTのように極めて“脂溶性が高く”、しかも、環境において“安定な化学物質” は水系の食物連鎖を通じ ヒトを含む最上位の生物種に生物濃縮され 高濃 は水系の食物連鎖を通じてヒトを含む最上位の生物種に生物濃縮されて高濃 度に蓄積する。 6 1-a-17 図5 図6 7 1-a-18 図7 図8 残留DDTは大気、海洋を介して長距離を移動する“バッタ効果”に よって汚染が地球全体に拡大する。 8 1-a-19 2-3 環境ホルモン作用 図9 ハイタカの卵殻の厚さの変化 表6 生物種/影響 外因性内分泌攪乱作用の生態学的意義 原因物質 鳥類/卵異常 アリゲータ(フロリダ)/ 雌性化 貝(巻貝)/ インポセックス 魚(ローチ)/雌性化 (英国 1870~1980年) (英国、1870~1980年) DDT/DDE DDT ジコホル DDT、ジコホル TBT ノニルフェノール、 女性ホルモン 発生範囲 生態学的意義 再発可能性 広域 局限 有 有 中 小(無) やや広域 有 中~小 局限 不明 中~小 内分泌撹乱化学物質 内分泌撹乱化学物質 (ビスフェノールA、ノニルフェ ノールフタル酸、DDTなど) 蛋白質合成 蛋白質合成抑制 内分泌撹乱化学物質がアンタゴニストとしてER(エスト ロゲンレセプター)と結合することによってエストロゲン と類似の作用を示す。 内分泌撹乱化学物質がアンタゴニストとしてAR(アンドロ ゲンレセプター)と結合し、アンドロゲン作用を阻害する (注):受容体に結合するリガンドにはアゴニストとアンタゴニストがある。 図10 環境ホルモン作用の機構 残留DDTには環境ホルモン作用が認められる。 9 1-a-20 2-4 人の摂取量 図 11 総DDT(残留DDT)は体内蓄積して、母乳 移行する。 総DDT(残留DDT)は体内蓄積して、母乳へ移行する。 10 1-a-21 PCB ディルドリン 総DDT 総HCH カドミウム 鉛 1. 米 2. 穀物 3. 甘味料 ケーキ類 4. 油脂類 5. 豆類 6. 果実 7. 葉菜類 8. 根菜類 果実類 9. 調味料 嗜好品 10.魚介類 11.肉類 卵 12.牛乳 乳製品 13.調理・ 調理加工品 14.水 点線は異常値 1件を含む μg/人/日 摂取量 μg/人 (平均) 図 12 日常食由来食品汚染物摂取量 出典:厚生省食品汚染物質研究班、食品汚染物質モニタリングデータ(1971-1980)、1982 食品を介して、重金属を穀物から摂取、脂溶性化合物を魚介類から摂取している。 表7 日常食からの摂取汚染物の由来食品 -魚介類の関与率- 11 1-a-22 表8 日本人の脂肪組織の農薬などによる最近の汚染状態 脂肪組織の濃度 (ng/gまたはppb) 化学物質 BHC DDT ディルドリン ヘプタクロールエポキシド ヘキサクロロベンゼン クロルデン PCB ダイオキシン類 (2,3,7,8-TCDDとして) 1,400 , 1,900 20 30 30 270 600 0 05 0.05 (Kashimoto T. et al. : Chemosphere 19, 921, 1989, Hirakawa H. et al. : Organohalogen Conpounds 10, 93, 1992をもとに作成) 表9 乳児が母乳から摂取する農薬などの1日推定摂取量と1日 摂取許容量(ADI)との比較 母乳の濃度 (mg/gまたはppb) 化学物質 BHC DDT ディルドリン ヘプタクロールエポキシド ヘキサクロロベンゼン クロルデン PCB ダイオキシン類 48 76 0.8 0.4 1.2 6 12 0.0015 1日の推定摂取量 (μg/日) 28.8 45.6 0.48 0.24 0.72 3.6 72 7.2 0.0009 (2,3,7,8-TCDDとして) 1日の許容量推 定 ( /日) (μg/日) 1日の推定摂取量 1日の推定許容量 - 100 0.5 2.5 3 2.5 25 0.000005 ~0.0005 注) 1日の推定摂取量は乳児の体重を5kgと仮定し、乳児は1日に体重 1kg当たり120mlあるいは120gの母乳を飲むと考えて計算しました。 (長山淳哉:「九大学報」P.15、1993年11月号、論文として発表準備中) 12 1-a-23 - 0.5 1.0 0.1 0.2 1.4 03 0.3 18~180 表10 IARCによって人間に発がん性がありとされた化学物質、および、 環境的職業的曝露条件等 ・化学物質 アフラトキシン、4-アミノビフェニル、ヒ素およびヒ素化合物、 ベンゼン、アスベスト、ベンジジン、カドミウムおよびカドミ ウム化合物、ジエチルスチルベストロール(DES)、エチレン オキシド、2-ナフチルアミン、ニッケルおよびニッケル化合物、 塩化ビニル、TCDD ・化学物質の混合物 タバコ、アルコール飲料、スス、コールタール、フェナセチン 含有鎮痛剤 含有鎮痛 ・職業的条件下の曝露 長靴・靴製造、ゴム工業、家具製造(木のホコリ)、オーラミ ン製造 ・その他 ラジウム、ラドン、X線、太陽光 ヒトパビ ヒトパビローマウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、 ウイ B型肝炎ウイ C型肝炎ウイ ヘリコバクター・ピロリ、経口避妊薬、塩蔵魚製品 (注); DDTなどの農薬はヒトでの発ガン性は認められていない。 13 1-a-24 3.農薬の環境毒物学上の問題 表11 毒性環境面の問題点を指摘された農薬の例 パラチオン、TEPP DDT BHC シクロジエン類 (アルドリン、ディルドリン、クロルデン、 ヘプタクロル等) レプトホス、EPN トホ 、 DBCP シヘキサチン チオカーバメイト(殺菌剤) カプタホール ベノミル クロルジメホルム 2,4-D 2,4,5-T アトラジン カルボフラン 哺乳動物に対する急性毒性 残留性、水生生物に対する毒性 残留性、発癌性 残留性、発癌性 遅延 神経毒性 遅延生神経毒性 雄性不妊性 催奇形性 不純物の毒性(ETU-発癌性) 発癌性 変異原性、催奇形性 発癌性 不純物の毒性(TCDD-催奇性など) 不純物の毒性(TCDD-催奇性など) 地下水汚染 鳥類に対する影響、地下水汚染 (注):多くは実験動物における毒性試験の結果に基づいている。 = S Cl O Cl H2N-C-NH2 Cl O Cl (ETU) (2,3,7,8-TCDD) 14 1-a-25 4.農薬の用途 1. 防疫薬:ベクター・コントロール (病気媒介昆虫の防除) 2. 作物保護:殺虫剤,殺菌剤,除草剤 15 1-a-26 1-a-27 H2O 雑草 病原菌 O2 hν 16 CO2 雑草 “作物保護” 図13 農 農薬の用途 Cd,As C H2O BSE Cd,As PO OPs 植調剤 殺虫剤, 殺 殺菌剤, 除草剤 剤 ウィルス H2O O2 病原菌 害虫 澱粉 油脂 蛋白質 繊維 化学物質 化 N P K 無機 機塩類 害虫 CO O2 hν ν hν hν hν “防疫” POPs 食物 O-157 空気 H2O ベクター 飲料水 4-1. ベクター・コントロール 図 11 主な風土病の世界分布 図 14 四つの主な熱帯病発生地域に居住する住民数(患者を含む)合計16億人 以上、これは全人類の1/3以上にあたる 図 15 世界におけるマラリア発生地域 a) 17 1-a-28 表 13 表 16 図 16 ベクター防除用殺虫剤の消費量(103ヶ国、1981~1984年 (a) 18 1-a-29 図 17 マラリア蚊の防除用フェニトロチオン(スミチオンR )使用地域(1987~1988) 19 1-a-30 3-2. 作物保護 図 18 世界の平均寿命と低栄養状態にある人口 図 19 世界の農作物の損失 【潜在収量=100(FAO、1978)】 20 1-a-31 図 20 農薬非使用の場合の日本における病虫害による作物被害(日本農薬工業会、1987) 図 21 日本における雑草による作物被害(日本農薬工業会、1987) 21 1-a-32 表 13 日本における水田の雑草防除のための労働力 年 労働費用、人/10a 1949 1965 1975 1983 6.32 2.18 1 05 1.05 0.66 日本農薬工業会(1987) 表 14 日本の米作における農薬使用の経済性(1986)* 米生産高 農薬使用の効果(A) 病害虫による被害 雑草防除のための人件費 3,591.9 1,718~2,102.4 898~1,077.6 820~1,024.8 農薬施用のために要する支出(B) 農薬の費用 その他費用(人件費、機械類等) 経済効率(A/B) 296.2 296 2 206.6 89.6 ×5.8~×7.1 *単位10億円 表 15 日本農薬工業会(1987) 米国農業における農薬、肥料使用中止の影響(1991~1995) 損 失 トウモロコシ 大豆 大 小麦 稲 棉花 果樹、野菜b) 家畜、家禽 a) b) 45% 38 ((*))a) 43 68 (*) 37 (*) 2%(果樹)b) 21%(野菜)b) 68%(ピーナツ)b) - 影 響 価格上昇(2年度に32%、輸出減(年60%減) 価格上昇(平均51%)、輸出減 価格 昇(平均 )、輸出減 価格平均43%上昇、輸出減 価格平均35%上昇、輸出できず 輸出実質ゼロ、輸入の要 いずれも価格上昇 豚肉価格35%上昇、 牛肉の消費量増加するも 鶏肉価格18%上昇 全食用肉合しても減少。 (*) ;農薬の影響の方が大きいもの 殺虫剤の影響だけでこれだけ低下する。 22 1-a-33 23 1-a-34 図 22 リス スクの評価とリスクマ マネジメントに関連 連する要因(Nation nal Academy of S Science, 1983より) 図 21 リスク(危険率)評価 リ 5.リスク(危 危険率)の評価・管理 理・コミュニケーション 4. リスクの評価・管理・コミュニケーション 5-1.農薬のリスク評価・管理 化学物質のなかで、農薬はリスク評価と管理の技術と制度について最もよく整備されて いる。 表16 農薬登録に必要な毒性試験項目 図23 農薬登録の仕組み (注)GLP;検査のプロセス、データ、 試料などを保障する。 (注)慢性毒性試験は発ガン性試験 とほぼ同等。 (注)感受性の高い動物種を2種類以上 使用する。 検査項目は過去の諸課題、現在の 科学技術で対処できる項目を全て 包含する。 24 1-a-35 登録に際して、各々の農薬について各種毒性試験を行い、慢性毒性試験などの結果か ら最大無作用量(NOELまたはNOAEL)を求め、その値から1日最大摂取許容量(ADI)を 定める。ADI値を越えないように作物各に作物残留基準を定める。実際に、栽培した農作 物の残留量を測定し、また、市場の農水畜産物、食品について残留量を測定して、消費 者が食物を介して摂取する量を推定すると共に、摂取量の総和がADIを超えないように総 合的に管理・監視する(図24)。 リスク評価は農薬の研究・開発の一環であり、リスク管理は行政が担当する。また、モニ タリング(監視)は行政が行うが、消費者の立場でも行う。リスクコミュニケーションは研究・ 開発、行政、並びに、作業者、消費者が一体となって安全使用について理解を深めること あ 。 にある。 実験動物を用いた慢性毒性試験 Chronic Toxicity 最大無作用量 No-Observed Adverse Effect Level NOAEL(mg/kg b.w./day) × 1/100 不確実係数(種差、個人差) Uncertainty Factor 許容一日摂取量 Acceptable Daily Intake ADI:(mg/kg b.w./day) 食品安全委員会(Cabinet Office) = Risk Assessment 残留農薬基準(mg/kg) Maximum Residue Limit 中央薬事審議会 (The Ministry of Health, Labor and Welfare) 厚生労働省 農薬使用基準 Pesticide Use Standard 農業資材審議会 (The Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries) 農林水産省 登録保留基準 Registration Reservation Level 中央環境審議会 (The Ministry of Environment) 環境省 Residue Analysis Monitoring, Inspection Risk Management 図 24 . 日 本 に お け る 農 薬 の リ ス ク 評 価 と 管 理 Management for Pesticides in Japan Risk Assessment and (注)リスク:危険率 リスクアセスメント;有害性の検査・診断、一生涯摂取し続けても影響の無いレベル(ADI)を求める。 リスクマネージメント;リスクの予防措置、一生涯摂取し続けても影響の無いレベル(ADI)以下に保 つ使用方法を護る。 25 1-a-36 農薬製造 “作業者”(曝露、影響) 作業環境(挙動、残留) “作業者”(曝露、影響) 農薬散布 環境(大気、土壌、水)(挙動、残留) “生態系”(曝露、影響) 農作物(残留) ( 残留) 食料 ( 残留) 飼料 ( 残留) 肥料 “消費者”(摂取、影響) 畜産物( 残留) 水産物( 残留) 図25.残留農薬のモニタリング(監視) “ ”:評価対象 :残留農薬の流れ 農薬のように一旦環境に放出されるとリスク管理は極めて難しくなる。従って、使用前に 潜在的なリスクを予測し リスクの管理とモニタリング技術を確立しておくこと 即ち 新規 潜在的なリスクを予測し、リスクの管理とモニタリング技術を確立しておくこと。即ち、新規 農薬開発において、使用前に農薬への直接の曝露と散布された農薬の農作物や環境に おける残留(残留農薬)やそれらの生態系への影響、並びに、それらの食物を介した摂取 による人の健康への影響のリスクを評価して、それに基づくリスクを総合的に管理する。ま た、モニタリング(監視)のための残留分析技術を確立する(図25) 。 (1)作業者への曝露とその影響に関するリスクの評価と管理 (2)消費者の食物からの摂取とその影響に関するリスクの評価と管理 (3)環境における残留・挙動と生態系への曝露とその影響に関するリスクの評価と管理 (4)曝露と挙動、残留などを監視するための分析技術などを確立する。 (注)残留分析;残留農薬を分析する。試料抽出、クリーンアップ、 機器分析 定性 定量などから成る 機器分析、定性・定量などから成る。 26 1-a-37 図26 残留農薬の減少曲線(例) 図27 農作物における残留農薬基準設定の考え方 27 1-a-38 収穫時期の目安は精籾が九〇%黄変したとき。 秋ウンカに注意 開花が終われば間断灌水の水管理をする 酒米 穂いもち病、穂枯れ、ウンカ類、ツマグロヨコバイ、カメムシ 穂いもち病、穂枯れ いもち病、穂枯れ、ウンカ類、ツマグロヨコバイ、カメムシ 穂肥(出穂一〇日前後)施肥設計参照 幼穂(二ミリ) 穂肥(出穂二三日前後)施肥設計参照 稲の体づくり 中干し ツトムシ、ウンカ類、ツマグロヨコバイ、コブノメイガ、もんがれ病 根の活力を高め、茎葉を硬くして、でん粉の蓄積を高める。 肥効は下り坂にする(穂ごしらえが順調に行われるため) 中干しはこの頃からほ場に合わせて七月末頃まで実施。 PK化成施用(出穂三五日~四〇日前) 排水の悪いほ場はこの頃に堀上をする。 この時期頃までに必要な有効茎を確保する。 時々排水して土壌中に酸素の供給を高める。 時々排水して土壌中に酸素の供給を高める しまはがれ病、いしゅく病の予防 追肥(個条施肥の場合は施用しない) 第二葉の分けつ 第四葉 第二葉 鞘葉 種子根 第三葉 第一葉 第一葉の分けつ 冠根 第五葉 第二葉 第三葉 第一葉 不完全葉 不完全葉 種子根 酒米は、しまはがれ病、いしゅく病の予防 (酒米の元肥は田植え後五~一〇日頃に表面均一施用もよい) 小粒でLP肥料使用の場合は田植え後五日頃に表面均一施用(一回施肥) 測条施肥の場合は元肥と追い肥の合計量の七〇%程度。 田植え~植えつけは三cm程度の浅植えにする (一株三~四本の細植) 田植え~植えつけは三cm程度の浅植えにする。(一株三~四本の細植) イネミズゾウリムシ、 しまはがれ病、いしゅく病、いもち病 代かきはあまり練らない 元肥(代かき前に均一施用) いまはがれ病、いしゅく病の予防(播種後一二日頃から) 田植え前日に育苗箱に薬剤施用 播種~うす播にして健苗をつくる。 正しいハ ハトに胸状態 播種に最適 鞘葉 浸種 浸種は日陰で行う。 乾籾 中苗一箱当り一二〇g 稚苗一箱当り一五〇g 播種の三~四日間(浸種場所により日数は異なる) 種子消毒~種モミ消毒の手順参照 塩水選後水で洗い塩分をとる。 水洗いをしてから塩水につける。 共同で必ず実施する。 選種と被害籾の除去。 播種の四~五日前に実施 種子消毒~種モミ消毒の手順参照 播種五日頃に育苗上の消毒と肥料混合(自家で採土した場合)くり返し 一〇アール当り 中苗一二〇L程 稚苗八〇~九〇L 覆土用も含む 育苗土の準備(PH四.五~五.五砂壌土~壌土) 荒起し、深耕 土づくりの資材の施用(土づくりの資材設計基準参照) 28 1-a-39 図28 良質 質米栽培こよみ み (兵庫県加 加西農業改良普 普及所で作成し したものを改訂 訂した。) 収穫するまで土壌水分を保つようにする。 表17 図29 29 1-a-40 図30 食品に残留した農薬等の安全性確保 図31 ポジティブリスト制度導入前後における規制の違い 30 1-a-41 表18 平成3~15年度食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果 31 1-a-42 表19 食品の安全性に係わる不安要因 食品添加物 遺伝子組換え食品 内分泌攪乱化学物質 残留農薬 有害微生物による中毒 輸入食品 動物用医薬品 63.5% 52.5% 47.3% 44.3% 28.7% 23.8% 19.8% ケミカルハザード>>バイオハザード* *感染症が主で、十分に管理されているとの理解によ ると思われる。 東京都の調査、2001年 表20 食中毒の原因 細菌 サルモネラ菌 腸炎ビブリオ菌 大腸菌 カンピロバクター ウイルス 化学物質 61% (1/3) (1/5) 29% 1%未満 患者数 26 000人 内 死者4人(フグ毒3人 きのこ1人) 患者数:26,000人、内、死者4人(フグ毒3人、きのこ1人) 厚生労働省 2001年 表20 ケミカルハザード 食品添加物(指定添加物) 天然添加物 (既存添加物) 天然香料 農薬(残留基準) 366 451 600 250 食品添加物の摂取量は許容1日摂取量(ADI)の1% 以下 残留農薬の検出はADIの0.1~5.4% 食品衛生学会誌40(1), 98-110, 1999 32 1-a-43 図32 33 1-a-44 5-2.食品におけるトレーサビリティー 図33 トレーサビリティーと識別 (注)トレーサビリティーとは、生産、処理、加工、流通、販売などの段階で、食品 の仕入れ先、販売先、生産・製造方法などの記録をとり、保管し、食品とそ の情報を追跡し、さかのぼることができることを言います。 そのための「識別」、「データの作成」、「データの保管」、「データの照合」を 行う一連の仕組みです。なお、廃棄物についてもトレースする。 (注)食品におけるトレ サビリティ について (注)食品におけるトレーサビリティーについて、 例えば、米におけるCd 魚類におけるDDT、PCB などについて、標準測定方法を確立し、データを取得する。 (注)環境におけるトレーサビリティーについて、 例えば、底質におけるDDT、PCB、Cdなどについて、標準測定方法を確立 して データを取得する して、デ タを取得する。 34 1-a-45 図34 組織内部トレーサビリティと組織間トレーサビリティ 35 1-a-46 図35 フードセーフティーチェーン 36 1-a-47 平成20年8月2日 講義 2 「農薬のリスク評価と管理の実際」 大塚化学ホールディングス株式会社 東京農業大学(客員教授) 梅津 憲治 1-a-48 福山大学社会連携研究推進事業 化学・生物総合管理学の社会連携教育研究 -食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際- 講義2:農薬のリスク評価と管理の実際 2008年8月2日 梅津憲治 大塚化学ホールディングス株式会社 東京農業大学(客員教授) 1 農薬のリスク評価と管理の実際 昨今、食の安全に対する関心の高まりとともに、農薬、特に日頃摂取する作物に残留する農薬の 健康影響に関する懸念が増大している。農薬のリスクとベネフィットについて、農薬の研究者の みならず農薬の散布者や、農薬を使用して栽培・生産される農作物を摂取する消費者にも正しく 理解していただくことは、農薬を普及するうえで、また、農薬技術を活用し食料生産を効率化す るうえで、かつ安全な食糧を確保するうえで極めて重要である。 一般に、農薬などの当該化学物質について、種々のデータ・情報に基づきそのリスクを判定する 般に、農薬などの当該化学物質に いて、種 のデ タ 情報に基 きそのリ クを判定する のがリスク評価である。食品あるいは作物の安全性評価においては、食品中に潜在的に危害因子 が存在しているとの前提で、定められた条件下で、人におよぼす有害な作用とその強度を科学的 知見に基づき評価するというプロセスを経る。リスク評価で判明したリスクを受け入れるべきか、 低減化を図るべきかを検討するのが、リスク管理であり、農薬の製造あるいは散布作業従事者、 並びに農薬が散布された作物を摂取する消費者に対する安全を担保するための仕組みの構築が行 なわれる。 農薬のリスク評価は、国の各方面の専門家が「農薬の研究・開発に携わる企業や研究機関が作成 する膨大な数と量の安全性試験データ」を審査することにより行なわれる。一方、リスク管理は 主に国や地方自治体などの行政が担当するが 農家 農業団体あるいは生協 消費者団体なども 主に国や地方自治体などの行政が担当するが、農家・農業団体あるいは生協・消費者団体なども それぞれの立場から参画する。 本講義においては、「農薬の製造、流通並びに農薬散布作業に従事する者(農家)に対する健康 影響(リスク)評価 」、「食物や飲み水に含まれる残留農薬を摂取する消費者に対する健康影響 (リスク)評価価 」、「人一日摂取許容量、残留基準、安全使用基準の設定」などのリスク評価 について概説する。そのうえで、「行政(国・地方自治体)による農薬のリスク管理」、その一 環として実施される「作物における農薬残留検査や農薬摂取量調査」、「農家、農業団体、生協、 2 消費者団体などによるリスク管理」について解説する。 1-a-49 “農薬のリスク評価と管理の実際”:講義項目 (1)農薬や化学物質のリスク評価とリスク管理とは! (2)農薬のリスク評価 (2)-1 農薬の定義と安全性評価との関係 (2)-2 農薬の安全性評価の特徴、分類、手順、試験項目 (2)-3 「農薬の製造、流通並びに農薬散布作業(農家)に従事する者」に対する健康 影響評価 (評価Ⅰ)と試験項目 (2)-4 「食物や飲み水に含まれる残留農薬を摂取する消費者」に対する健康影響評 価 (評価Ⅱ )の手順と試験項目 (2)-5 農薬の代謝試験と安全性評価との関係 (2)-6 安全性試験並びに健康影響評価(リスク評価)の流れ (2)-7 人一日摂取許容量、残留基準、安全使用基準の決定プロセス (2)-8 残留農薬のポジティブリスト制度と食の安全 (3)農薬のリスク管理 (3)-1 行政(国・地方自治体)によるリスク管理 (3)-2 作物における農薬残留検査:消費者の健康リスク管理 (3)-3 日本人の農薬摂取量調査:消費者の健康リスク管理 (3)-4 生産者並びに関連団体によるリスク管理 3 (3)-5 消費者並びに関連団体(消費者団体、生協等)によるリスク管理 (1)農薬や化学物質のリスク評価とリスク管理とは! リスク評価 有害性確認 用量作用評価 リスク 管理 リスク 判 定 リスク コミュニ ミ ケーション 暴露評価 当該化学物質について、種々のデー タ・情報に基づきそのリスクを判定する。 「すべてのものは毒である。それが有 「すべてのものは毒である それが有 害か無害かは,量で決まる」 食品の安全性評価は,食品中に潜在 的に危害因子が存在しているとの前提 で、定められた条件下で、人間におよ ぼす有害な作用とその強度を科学的 知見に基づき評価する。 リスク評価で判明したリスクを受け入れ るべきか,低減化を図るべきかを検討。 ゼロリスク(絶対安全)はあり得ない! 農薬の場合は、「農薬取締法」、「食品 衛生法」、「環境基本法」に基づき,残留 農薬の基準が定められる。新しい知見 が得られれば,それに基づいて再検討 がなされ、3年毎に見直して再登録を行 う。 1-a-50 4 江戸時代の害虫防除法と人に対する安全性 -寛文年間(江戸時代)における害虫防除法- 被害が起こらないように、ひたすら神仏に害虫や悪疫の 退散を祈る集団呪い法(江戸時代中期以降に全盛を迎 えた)、「虫送り」の様子 大蔵永常:除蝗録 1826 寛文10年、1670年に鯨油や菜種油を水稲のウンカ類の防除に 5 使用。油を水田に注いで水面に油の皮膜をつくり、その上に害 虫を払い落とし、害虫の気門をふさいで窒息死させる (2) 農薬の安全性評価 (2)-1 農薬の定義と安全性評価との関係 ・「農薬とは」、農薬取締法で規定されている殺虫・殺菌・除草・生育調節活性などを 有する薬剤で、薬効・薬害・安全性等の膨大な試験を実施し、厳密な審査(安全性評 価:人に対する健康影響評価や環境影響評価)を受け、合格し、国の登録を取得した 薬剤(農薬登録番号を有する薬剤) ・フェロモン剤、生物農薬(有用昆虫、有用微生物)、ゴルフ場で使用される薬剤も フ ロモン剤 生物農薬(有用昆虫 有用微生物) ゴルフ場で使用される薬剤も 農薬に含まれる “農薬登録”を有しない薬剤は農薬ではない。安全性評価の対象外である。 「例」 1.一般家庭、畜舎等でカ、ハエ、ゴキブリ、シロアリなどの駆除に用いられる “農薬と同じ有効成分を含む” 薬剤 2.収穫後に農作物に散布される“農薬と同じ成分を有効成分とする薬剤” (いわゆる“ポストハーベスト農薬”→ 食品添加物) 3.いわゆる“無登録農薬”→ “無 録農薬” 農薬を有効成分に含む薬剤 農薬 有 成分 含 薬剤 農薬の安全性評価の範囲: ・農薬登録のある薬剤については、厳密な安全性試験が実施されており、登録範囲内で 使用される限り安全性が保証される。 ・農薬登録を有しない薬剤;農薬の代替資材(天然物、植物抽出物、漢方農薬、無機 物)、無登録農薬などについては、厳密な安全性試験が実施されておらず、安全か否か 6 不明である(安全性の保証がない)。 1-a-51 (2)-2 農薬の安全性評価の特徴、分類、手順、試験項目 農薬の安全性(人に対する影響)評価の特徴 天然毒素等の化学物質の評価 ・食品中に存在する「天然の毒性物質」や「カビ等が生成する毒性物質」、「食品の貯蔵・調理の過程で 生成する毒性物質」などの人に対する影響評価は、中毒事故や死亡事件が顕在化した時点で、専門 家により検討が行われる。既に存在する毒性データの検証や新たに実施される毒性試験に基づき影 デ づ 響評価が行われる。 《食品中や世の中に、 “既に存在する” 化学物質の評価》 農薬の安全性評価 ・ 農薬の安全性(人に対する影響)評価は、農薬の開発・登録の過程で実施される膨大な安全性(毒性) 試験データに基づいて行われ、最終的に登録を認可する国の専門家による評価が実施される。 農薬の開発者(登録申請者)が実施した安全性データに問題 (例えば、人に対する重篤な悪影響)が ある場合には、その化合物の農薬としの開発を中止され、農薬とはならない。農薬として、使用される ある場合 は、そ 化合物 農薬 し 開発を中 され、農薬 はならな 。農薬 し 、使用される 以前に評価が実施される。 ・ したがって、現在使用されているすべての既登録農薬は、安全性評価が既に実施された化合物である。 《食品中や世の中に、農薬として“まだ存在しない” 時点での化学物質の評価》 ・ 既登録農薬については、安全性や毒性に関する新たな知見や問題の発生に対応すべく、3年ごとの見直 しが行われる。必要に応じ、追加試験の実施とデータ提出が求められ、安全性に関する追加の評価が 実施される。 7 農薬の安全性評価の分類 農薬の安全性評価は、以下の3つに分類される (1) 農薬の製造、流通並びに農薬散布作業(農家)に従事する者に対する健康 影響を対象にした試験 ⇒ 人に対する健康影響評価Ⅰ 急性毒性 (経口、経皮、吸入) (経口 経皮 吸入) 、刺激性、アレルギー性、神経毒性、亜急性毒性、 刺激性 アレルギ 性 神経毒性 亜急性毒性 催奇形性、変異原性、生体機能影響 《毒物、劇物、普通物への分類》 (2) 残留農薬に関するもの:微量の農薬を作物や飲み水を通じ摂取する可能性の ある消費者への健康影響を対象にした試験 ⇒ 人に対する健康影響評価Ⅱ 慢性毒性、発がん性、繁殖毒性、催奇形性、遺伝毒性、代謝試験、(急性毒性) ⇒1日摂取許容量の設定 摂 許容量 設定 ⇒ 作物/水における農薬の残留基準の設定 作物 水 おける農薬 残留基準 設定 (3) 環境保全に関係するもの⇒ 環境に対する影響評価 人に対する健康影響評価 水質汚濁性、作物残留性、土壌残留性、野生生物に対する影響 8 1-a-52 農薬の人に対する健康影響評価の手順 ・ 農薬を開発し登録販売しようとする企業・研究機関は、国の指針に従い「人に対する 影響評価」に関する各種の試験*を実施する。試験は優良試験機関規範(GLP = good、 laboratory practice)に基づき、試験に直接関与しない品質保証を行う者:QAU = quality assurance unit)のもとに実施される。 * 急性毒性、短期(亜急性)毒性、長期毒性、生殖毒性、遺伝毒性、特殊毒性、動物代謝などに 急性毒性、短期( 急性)毒性、長期毒性、 殖毒性、遺伝毒性、特殊毒性、動物代謝な 関する23項目以上の試験 ・ 安全性試験は、多くの場合、専門の安全性試験実施機関に委託される。 ・ 農薬登録申請者(開発企業・研究機関)が提出するデータに基づき、厚生労働省、環境 省、並びに内閣府食品安全委員会の専門家(科学者)が評価を実施する。 ・ 急性毒性試験、代謝試験、環境科学試験の結果に基づき、使用上の注意事項を決定 する。農薬に直接暴露する可能性がある農薬散布者(農家)や農薬製造者に対して 注意を喚起する。 ・長期毒性試験、代謝試験等の結果に基づき、動物に対する無毒性量、続いて人に対す る安全な量(人体1日摂取許容量)を決定する。次いで、作物別残留量並びに作物別摂 取量データを勘案し、作物別残留許容量を決定する。微量の農薬を作物を通じて摂取 する可能性を有する消費者への健康影響を対象とした対応である。飲料水についての 9 同様の対応を行う. 農薬の 「人に対する健康影響評価」に必要とされる試験項目 急性毒性 長期毒性 (14) 1年間反復経口投与試験(ラット,犬) (15) 発ガがん性試験(ラット,マウス) (1) 経口毒性試験(ラット,マウス,犬) (2) 経皮毒性試験(ラット) (3) 吸入毒性試験(ラット) 吸入毒性試験(ラ ト) (4) 眼刺激性試験(ウサギ) (5) 皮膚刺激性試験(ウサギ) (6) 皮膚感作性試験(モルモット) (7) 急性神経毒性試験(ラット) (8) 急性遅発性神経毒性試験(ニワトリ) 生殖毒性 (16) 2世代繁殖毒性試験(ラット) (17) 催奇形性試験(ラット,ウサギ) 遺伝毒性(変異原性) (18) 復帰変異原性試験(細菌) (19) 染色体異常試験(ほ乳類培養細胞) (20) 小核試験(ラット,マウス) 短期毒性(亜急性毒性) (9) 90日間反復経口投与試験(ラット,マウス,犬) (10) 21日間反復経皮毒性試験(ラット) (11) 90日間反復吸入毒性試験(ラット) (12) 反復経口投与神経毒性試験(ラット) (13) 28日間反復経口投与遅発性神経毒性試験 (ニワトリ) (ニワトリ) 特殊毒性 (21) 生体機能影響試験(ラット,マウス,犬, モルモット) (22) 解毒・治療に関する試験(ラット,犬) 動物代謝試験 (23) 動物体内運命に関する試験(ラット) 10 1-a-53 農薬の環境中における挙動、運命と人の健康に対する影響 農薬の散布者: 農薬に直接に暴露 一般消費者:作物や飲み 般消費者 作物や飲み 水を介して農薬に暴露 * 農薬の環境に対する影響評価は、同時に人に対する影響評価でもある。 (2)-3 農薬の製造、流通並びに農薬散布作業に従事する 者に対する健康影響評価(評価Ⅰ)と試験項目 11 主に急性毒性が対象 ・ 安全性評価の第一歩は急性毒性である。 ・ すべての化学物質は有機合成品であれ天然由来であれ、その物質特有の毒性を有する。 ・ それぞれの化学物質のも それぞれの化学物質のもつ毒性は様々であり、人に対する影響の度合いは、暴露量(摂取量) 毒性は様々であり、人に対する影響の度合いは、暴露量(摂取量) と暴露の持続時間によって決まる。 ・ 急性毒性とは、1回の暴露(摂取)で発現する毒性を指し、通常は半数致死量(LD50、動物にある 物質を与えた場合に、その半数が死亡する薬量)を意味する LD50値(mg/kg)で比較される。動物の体重1kg当りの薬物のmg数で表します。 値が小さいほど毒性が強い。 * LD50:50% lethal dose ・ 急性毒性は、その暴露の経路から経口、経皮、吸入の3種類に分類される。 急性毒性は その暴露の経路から経口 経皮 吸入の3種類に分類される。 ・ 日本では毒物劇物取締法に従い、それぞれの急性毒性の程度により化学物質を「毒物」、「劇物」、 「普通物」に分類する。 * 法律上「普通物」という分類はなく、便宜上用いられている。 ・ 急性毒性が弱く、農薬としての活性(殺虫、殺菌、除草活性など)が高い薬剤、すなわち選択 毒性に優れた化合物の選抜が現在の農薬開発の一つの目標である。 12 1-a-54 急性毒性試験の種類と使用される実験動物:農薬の場合 (1)経口毒性試験:ラット,マウス,犬 (2)経皮毒性試験:ラット (3)吸入毒性試験:ラット (4)眼刺激性試験:ウサギ (6)皮膚感作性試験:モルモット (7)急性神経毒性試験:ラット (8)急性遅発性神経毒性試験:ニワトリ 13 マウス:経口毒性試験等に用いられる ラット 経口毒性,経皮毒性、吸入毒性、 神経毒性試験等に用いられる モルモット ウサギ:眼あるいは皮膚刺激性試験 皮膚感作性試験 に用いられる 14 1-a-55 毒物・劇物の判定基準 ・毒物劇物の判定は、動物における知見又はヒトにおける知見に基づき、当該物質の物性、化学製品 としての特質等をも勘案して行うものとし、その基準は、原則として次のとおりである。 動物における知見-急性毒性 ・原則として、得られる限りの多様な暴露経路の急性毒性情報を評価し、どれか一つの暴露経路でも 毒物と判定される場合には毒物に 毒物と判定される場合には毒物に、一つも毒物と判定される暴露経路がなく、どれか一つの暴露経路 つも毒物と判定される暴露経路がなく どれか つの暴露経路 で劇物と判定される場合には劇物と判定する。 試 験 項 目 毒 物 劇 物 経口LD 5 0 30mg/kg以下のもの 30mg/kgを超え、300mg/kg以下のもの 経皮LD 5 0 100mg/kg以下のもの 100mg/kgを超え、1,000mg/kg以下のもの 吸入4時間LC 5 0 (ガス) 500ppm以下のもの 500ppmを超え、2,500ppm以下のもの (蒸気) 2.0mg/L以下のもの 2.0mg/Lを超え、10mg/L以下のもの (ダスト、ミスト) 0.5mg/L以下のもの 0.5mg/Lを超え、1.0mg/L以下のもの * 日本における標準体重は50kg 普通物: 毒物及び劇物毒物取締法で毒物・劇物に指定された以外のもの 特定毒物: 毒物のうちで毒性が極めて強く、当該物質が広く一般に使用されるか、又は使用 されると考えられるものなどで、危害発生の恐れが著しいもの。 15 眼・皮膚刺激性・皮膚感作性試験の実施概要 これらの試験は農薬散布者などの使用者安全を目的とし、農薬が人の眼や皮膚に暴露したときに起こる 可能性のある刺激性と、皮膚に繰り返し暴露したときに起こる可能性のある皮膚感作性の情報を得るた めの試験方法である。 眼刺激性 ・ 本試験は、農薬の眼及び眼粘膜への刺激性/腐食性に関する科学的知見を得ることにより、農薬使用 時の安全な取扱方法を確立することを目的とする。3匹以上の白色ウサギの若齢成獣を用いる。 ・ 液状の被験物質は希釈しないで0.1ml、固体又はペースト状のものは容量で0.1ml又は重量で0.1gを適用 ・ する。被験物質の投与後1時間、24時間、48時間及び72時間における眼の一般状態(角膜、虹彩及び結 膜)について観察し、定められた評価基準に基づき、眼の反応性(刺激性/腐食性)を記録する。 刺激性の評価は、(a) 刺激性反応の種類、(b) 反応の強さ、(c) 反応が可逆的または非可逆的であるか、 (d) 反応が見られた動物の割合、を総合的に検討して行う。判定基準は、「無刺激性」、「軽度の刺激性」、 「中等度の刺激性」(角膜の混濁が投与後7日目以内に消失するが、その他の陽性の刺激性変化は7日 目も持続している)、「重度の刺激性」に分けられる。 皮膚刺激性 ・ 本試験は、農薬の皮膚刺激性/腐食性に関する科学的知見を得ることにより、農薬使用時の安全な取扱 方法を確立することを目的とする。3匹以上の白色ウサギの若齢成獣を用いる。 被験物質が液状の場合は希釈せずに 固体の場合は粉砕し 水又は溶媒を用いて十分に湿らせ 皮膚と ・ 被験物質が液状の場合は希釈せずに、固体の場合は粉砕し、水又は溶媒を用いて十分に湿らせ、皮膚と よく接触させる。液状の被験物質は0.5ml、固体又はペースト状の被験物質は0.5gを試験局所に適用する。 被験物質は、皮膚の小範囲(約6㎠)に適用し、投与(適用)期間中、ガーゼパッチで覆い、非刺激性テープ で止める。暴露時間は通常4時間とし、暴露期間終了時に、皮膚に付着している被験物質を水や適当な溶 媒等を用いて除去する。 ・ 動物は被験物質除去30分(又は60分)、24時間、48時間及び72時間後に紅斑と浮腫の徴候について観察 し、皮膚反応を採点する。皮膚刺激性/腐食性は、定められた評価基準に基づき採点し記録する。なお、 可逆性を明確にさせるために必要な場合には、さらにその後の観察を行う。 ・ 判定基準は、「無刺激性」、「軽度の刺激性」、「中等度の刺激性」(72時間目以内の観察で軽度あるいは中 16 等度の刺激性変化が認められる)、「重度の刺激性」に分けられる。 1-a-56 皮膚感作性 ・ 本試験は、農薬の皮膚感作性(農薬に繰り返し接触した際にアレルギー性皮膚炎・接触性皮膚炎)に関す る科学的知見を得ることにより、農薬使用時の安全な取扱方法を確立することを目的とする。モルモット若 齢成獣を用いる。比較的実施頻度の高い試験方法は、Guinea-pig Maximization Test(GPM法)及び Buehler Testである。 ・ 各試験とも、被験物質処置群(感作および惹起投与とも被検物質を用いる)、陰性対照群(惹起投与でのみ 被検物質を用いる)、及び陽性対照群を設ける。 法 、感作皮 投与を 回、そ 後 時間 感作経皮投与貼付を 回実施す 。感作皮 ・ GPM法では、感作皮内投与を1回、その7日後に48時間の感作経皮投与貼付を1回実施する。感作皮内 投与後21日に惹起貼付を行う。惹起貼付除去後24および48時間後に皮膚反応を観察する。採点基準は、 以下の通り:0=肉眼的変化なし、1=散在性または軽度の紅斑、2=中等度の紅斑、3=強度の紅斑お よび浮腫。以上の結果より、皮膚感作率を算出する。 17 神経毒性試験 ・ 本試験は、農薬の単回または反復暴露による神経系への毒性の特徴を明確にし、その毒性変化の認めら れない最高投与量(無毒性量)に関する科学的知見を得ることにより、農薬使用時の安全な取扱方法を確 立することを目的とする。げっ歯類(通常、ラット)を用いる。被験物質の投与は、必要に応じて投与経路(経 口、経皮又は吸入)を選択して行う。 ・ 対照群の他に少なくとも3段階に用量を設定した投与群を設ける。用量段階は被験物質の毒性の徴候を明 らかにし、無毒性量を推定できるように設定する。最高用量は多数例の死亡を引き起こすことなく毒性影響 が認められる用量、最低用量は何ら毒性影響が認められない用量とし、かつ、用量反応関係がみられるよ うに各用量段階を設定する。 うに各用量段階を設定する ・ 観察及び検査は次の(1)~(4)の項目について実施する。 (1)一般状態の観察 観察は全身状態、異常行動の有無及び死亡の有無を観察する。 (2)詳細な状態の観察 以下の項目毎に明確な判断基準と尺度基準を定めた採点法を用い、標準化された手順に従って行う。 外観(皮膚、被毛、眼・眼球及び粘膜等の変化、分泌物の有無等)、体位、姿勢(円背位等)、自律神経系 機能(流涙、立毛、瞳孔径、呼吸状態、排泄状態等)、運動協調性、歩行の異常、動物の取扱操作及び環 境刺激に対する反応、神経系(振戦、痙攣、筋収縮性等)、探索行動の変化、常同行動(身づくろいの変化、 くびふり、旋回等)、異常行動(自咬、後ずさり、異常発声等)、攻撃性等 (3)機能検査 種々の刺激(聴覚刺激、視覚刺激、固有受容器刺激等)に対する感覚運動反応、握力及び自発運動量 (自動記録装置を用いる)。他の毒性試験等で神経毒性が疑われた場合、疑われた神経毒性の精査に適 した感覚機能、運動機能、学習・記憶に関する試験を実施する。 (4)病理学的検査 以下の臓器組織の神経病理組織学的所見は、他の毒性試験及び行動学的影響と関連付けて評価する。 前脳、海馬を含む大脳中心部、中脳、小脳、橋、延髄、視神経と網膜を含む眼球、脊髄の頚膨大と腰膨大、 脊髄神経節、神経線維の前根及び後根、近位の坐骨神経、近位の脛骨神経(膝部)と脛骨神経の腓腹筋 18 分岐部、骨格筋(特に腓腹筋) 1-a-57 (2)-4 「食物や飲み水に含まれる残留農薬を摂取する消費者」に 対する健康影響評価(評価Ⅱ)の手順と試験項目 手順 ・ 農薬を開発し登録販売しようとする企業・研究機関が、GLP に基づいて実施した長期 毒性試験データ等*に関し、国の専門家の評価を受ける。 * 急性毒性、短期(亜急性)毒性、長期(慢性)毒性、発がん性、生殖毒性、毒性メカニズム解明、 動物代謝などに関する試験目 ・ 安全性試験は、多くの場合、専門の安全性試験実施機関に委託される。 ・ 農薬登録申請者(開発企業・研究機関)が提出するデータに基づき、厚生労働省、環境 省、並びに内閣府食品安全委員会の専門家(科学者)が評価を実施する。 ・慢性毒性試験、発がん性試験、代謝試験等の結果に基づき、動物に対する無毒性量、 慢性毒性試験 発がん性試験 代謝試験等の結果に基づき 動物に対する無毒性量 続いて人に対する安全な量(人体1日摂取許容量:ADI)を決定する。次いで、作物別 残留量と作物別摂取量データを勘案し、作物別残留許容量を決定する。 飲料水についての同様の対応を行う。 ・残留農薬の摂取・暴露経路を考慮し、人体1日摂取許容量は作物に80%、水に10%、 空気に10%を割り当てる。 19 「食物や飲み水に含まれる“残留農薬”を摂取する消費者の健康影響評価」 に主に必要とされる試験項目 急性毒性 長期毒性 (14)1年間反復経口投与試験(ラット,犬) (15)発ガン性試験(ラット,犬) (1)経口毒性試験(ラット,マウス,犬) (2)経皮毒性試験(ラット) (3)吸入毒性試験(ラ ト) (3)吸入毒性試験(ラット) (4)眼刺激性試験(ウサギ) (5)皮膚刺激性試験(ウサギ) (6)皮膚感作性試験(モルモット) (7)急性神経毒性試験(ラット) (8)急性遅発性神経毒性試験(ニワトリ) 生殖毒性 (16) 2世代繁殖毒性試験(ラット) (17)催奇形性試験(ラット,ウサギ) 遺伝毒性(変異原性) (18)復帰変異原性試験(細菌) (19)染色体異常試験(ほ乳類培養細胞) (20)小核試験(ラット,マウス) 短期毒性(亜急性毒性) (9) 90日間反復経口投与試験(ラット,マウス,犬) (10) 21日間反復経皮毒性試験(ラット) (11) 90日間反復吸入毒性試験(ラット) (12)反復経口投与神経毒性試験(ラット) (13) 28日間反復経口投与遅発性神経毒性試験 (ニワトリ) (ニワトリ) 特殊毒性 (21)生体機能影響試験(ラット,マウス,犬, モルモット) (22)解毒・治療に関する試験(ラット,犬) 動物代謝試験 (23)動物体内運命に関する試験(ラット) 20 1-a-58 新しい農薬が誕生するまでのプロセスと安全性評価との関係 デザイン・合成 スクリーニング 分析研究 安全性研究 有効性研究 製剤研究 作物・土壌 残留試験 安 全 性 評価試験 薬効薬害 委託試験 原体製造研究 農薬登録申請 工場建設 安全性評価 安全性評価 農薬登録認可 製造・販売 21 慢性毒性試験 ・薬物を長期間にわたり繰り返し投与した際の変化を検査する試験で、農薬の一日摂取許容量 (ADI、acceptable daily intake)の基準設定の根幹をなす試験である。亜急性試験により、 あらかじめ投与量を設定する。 ・試験動物数:ラットで各群各性20匹、イヌの場合は各群各性4匹を用意。対照群と3群の投与群 を設定する。 を設定する ・投与群の設定においては、「最高投与群」で何らかの毒性徴候が得られ、「最低投与群」で何ら の影響も認められない無毒性量(NOAEL、no adverse effect level)が得られることが要求さ れる。 ・投与期間は1年間で、げっ歯類では6ヶ月ごとに、イヌでは3ヶ月ごとに血液学的検査、血液 生化学的検査および尿検査を実施する。また、眼検査を投与開始前と終了時に行う。投与期間 終了後全動物を剖検し、肝臓、腎臓、副腎、精巣、卵巣,脾臓、心臓、脳、前立腺(イヌ)、甲状 腺・上皮小体(イヌ) 下垂体(イヌ)の重量を測定する この測定は イヌでは全数 ラットでは 腺・上皮小体(イヌ)、下垂体(イヌ)の重量を測定する。この測定は、イヌでは全数、ラットでは 各群各性について少なくとも10匹ずつで行う。 ・病理組織学的検査は、イヌについては全動物の全臓器で行う。ラットでは、死亡例と対照群およ び最高投与群の全臓器について行う。その他の投与群については、少なくとも標的臓器の検査 を実施する。 22 1-a-59 薬物の投与量と動物の反応との関係 強 致死域 最大耐量 反 応 閾値: “ある系で反応を起こさせるに 必要とする強度の最小値” があり、 閾値を下回ると反応が起きず、閾値 を超えてから反応が現れれる。 中毒域 弱 無毒性域 無毒性量 少 無毒性量: 中毒量 : 最大耐量: 致死量 : 中毒量 致死量 投与量 多 実験動物が毎日一生涯にわたって摂取しても、何の毒性影響も現れない薬量 実験動物に毒性影響が認められる薬量 実験動物が耐えられる最大薬量 実験動物が死亡する薬量 23 発がん性試験 ・薬物を長期間にわたり繰り返し投与した際にがんが発現するか否かを調べる試験である。 ・正常細胞ががん細胞に変化する過程の第一歩である遺伝子変異はIn Vitroの試験系である 「変異原性試験」により評価されるが、遺伝子の直接的損傷なしに結果的に腫瘍を形成させる 物質も存在し、非変異原性物質と呼ばれる。 ・新規農薬の開発において、変異原性試験が陽性の場合には開発を断念することが多い。 そのため、発がん性試験では、非変異原性のメカニズムによる腫瘍発生を調べるとともに、動物 (whole body)を用いたIn Vitroの系で「変異原性試験で示唆された発ガン性の可能性」の確認 を行う。変異原性試験で陽性でも、発ガン性試験で陰性の場合もある。 ・実験動物数:2種類のげっ歯類(通常、マウスとラット)、各群各性について最低50匹を用い、 対照群と3群以上の投与群を設ける。 ・薬物は通常餌に混ぜて、経口投与する。投与期間は、マウスで18~24ヶ月、ラットで24~30ヶ月。 ・最高投与量は、腫瘍以外の原因で対照群に比して有意な死亡率の増加が認められず、 かつ何らかの毒性影響が認められるように設定する。以下、公比2から3で投与群を設定する。 最低投与量が最高投与量の10%以内にすることが推奨されている 最低投与量が最高投与量の10%以内にすることが推奨されている。 ・試験途中の瀕死動物ならびに試験終了時の生存動物について血液塗抹標本を作製し、造血 器腫瘍が疑われる場合には、血液像を観察する。試験途中の死亡・瀕死屠殺動物、試験終了 後の生存動物のうち、対照群と最高投与群の動物について肉眼的異常部位を含む詳細な病 理学的検査を実施する。 ・対照群と最高投与群の腫瘍発生率に差が認められる器官・組織については、他の投与群に 24 おいても全動物の検査を実施する。 1-a-60 繁殖毒性試験 ・薬物摂取によるホルモン異常や生体内活性物質の生成不全に起因する妊娠率低下、流産 増加、分娩障害、児動物の行動・機能障害や成熟障害を検査する試験である。 ・哺育中の母獣の情緒に異常が生じると子育てを放棄したり、哺乳児を食べてしまうことがある。 これらの行動の観察により、検出困難な“情緒へ与える影響”をある程度評価できる。 ・実験動物として通常ラットを用いる。親、子、孫の3世代にわたり薬物を混餌投与し、孫の離乳時 まで観察する ・試験群には対照群と3群以上の投与群を設ける。最高投与群は何らかの毒性徴候が現れる量 を、最低投与群は毒性量が判定できる量とする。 ・親および子世代について妊娠雌を最低20匹ずつ用意し、母獣の体重変化、妊娠率、分娩率、 出産率、哺育行動を調べ、児動物の出生率、生存率、体重変化、行動、発育、生殖器発達、 精子の形態異常・運動性などを詳細に観察し、母獣および児動物の一部について解剖し、 病理学的検査を実施する。 近年、種々の化学物質について内分泌撹乱作用(環境ホルモン作用)が疑われているが、 農薬ではその作用を検出する高次試験である繁殖性試験が実施されている。 25 (2)-5 農薬の代謝試験と安全性評価との関係 -殺虫剤の場合- 植物代謝試験 (作物残留試験) 人に対する健康影響評価 動物代謝試験 土壌代謝試験 環境に対する影響評価 昆虫代謝試験 作用機作に関する評価 水中運命試験 (水質汚濁性試験) 非生物的分解試験 26 1-a-61 植物、動物、昆虫における代謝試験 (ベンフラカルブの場合) Labeled Compound: [Ring-u-14C]benfuracarb (12.3 mCi/mmol) [Carbonyl-14C]benfuracarb (10.0 mCi/mmol) Material and Methods T yp e o f s t ud y P l ant m e t abo l i s m M at e r i al us e d t r e at m e nt m e tho d Cotton Inje c t i o n (St e m ) Corn P ai nt i ng (L e af) D o se H i gh ~ l o w d o se Te st pe rio d 1, 3, 6, 10 (d ays) B us h be an Rice An im aal m e tabo liss m R at O r al 6 .7 , 4 0 1~8 (mg/kg) (d ays) 5 .0 ( μ / g ) 0 .5 , 2 , 4 , 2 4 G o at I n s e c t m e tabo lis m H o use fl y T o pic al ( h o u rs ) Plan t h o ppe rs 27 動物における薬物の吸収・分布・代謝・排泄 ⇒ 動物代謝試験 動物が摂取した薬物は、体内に吸収された後に、体内に分布し、代謝・解毒され、 さらに糞尿へ排泄される。 この吸収・代謝・解毒・排泄の速度と程度によりその 薬物の動物に対する影響(毒性:急性毒性、慢性毒性)が大きく左右される。 ・ 薬物の解毒あるいは活性化を知るため、摂取された薬物がいかなる経路で吸収され体内に入 り、いかなる臓器・組織にどの程度の濃度で分布し、いかなる代謝物に変換され、いかなる速 度で排泄されるかを調べる。 急性毒性並びに慢性毒性の発現との関係を知るうえで、極めて 重要。 ・ その薬物の毒性を評価するための基礎的データを得て、安全性評価とヒトに対する安全性へ の外挿 への精度を高める。 ○○mg/kg体重で毒性を発現(急性毒性) g g体 発 ○○mg/kg体重/日で毒性を発現しない(慢性毒性) ・ 吸収されにくい(作用部位に到達しない)、速やかに解毒される、速やかに糞尿に排泄される 薬物の毒性は低い。 ・ 動物代謝試験では、「無作用量」と「何らかの毒性を発現する高用量」での吸収率を把握し、 毒性発現に至る過程を理解する。 28 1-a-62 吸収試験 被験物質の吸収の程度と速度を明確にするために行う。放射性同位元素で標識した被験物質を投与後、 経時的に採血を行い、得られた血液中あるいは血漿中の放射能濃度を測定する。得られた濃度-時間 曲線を表現するパラメータから吸収の程度、速度を測定する。経口投与と静脈内投与による実験を平行 して行えば、バイオアベイラビリティーが算出できる。 分布試験 生体内に吸収された物質は体内での代謝を受けつつ、血流によって循環し各臓器・組織へと分布する。 分布試験は一般には経時的な動物の屠殺・解剖による試料採取により行われる 分布試験は 般には経時的な動物の屠殺・解剖による試料採取により行われる。通常、被験物質の投与 通常 被験物質の投与 後、Tmax(血中濃度が最大に達する時間)の前後数時点で動物の臓器・組織を採取し、それぞれの試料中 の放射能濃度および分布(投与量に対する割合)を算出する。 なお、全身ARGによる方法もあるが、定量性に乏しく、補助的に用いられる。 排泄試験 薬物を投与すると体内において代謝を受け、あるいは未変化のまま主に尿および糞中へ排泄される。薬物 によっては、呼気や汗、乳汁などにも排泄される場合もある。この尿、糞および呼気中への排泄の投与量に 対する割合を求めるために排泄試験が行われる。 被検物質の投与後、動物を「尿、糞および呼気が分離・採取あるいはトラップできる閉鎖系の代謝ケージ」に 収容し 投与後7日あるいは90 95%以上の回収率が得られるまで排泄物の測定を続ける 糞中 の排泄 収容し、投与後7日あるいは90~95%以上の回収率が得られるまで排泄物の測定を続ける。糞中への排泄 率が高い場合には胆汁排泄試験を行うことにより、体内への吸収量を見積もることができる。動物の腹部を 開き胆管にカニューレを挿入し、分泌される胆汁を経時的に採取し、排泄率を求める。 代謝試験 被験物質がいかなる代謝(生体内変換)を受けるかを明らかにするため、排泄試験で得られた尿および糞や、 場合によっては分布試験で得られた臓器中の放射能を種々の手法により、抽出・精製し、各代謝物の分別 定量を行う。分別定量には2次元TLCとARGあるいは放射性同位元素検出器(RI検出器)を備えたHPLC 29 などが用いられる。投与量の5%以上を占める代謝物について同定する。 動物代謝試験ケージ 給水瓶 給餌器 尿試料回収 糞尿分離 糞試料回収 冷却装置 * 試料中の代謝物の分解を 防ぐため回収した尿糞試料 を4℃に冷却 30 1-a-63 ラットへの経口投与後の放射能収支 (ベンフラカルブの場合) -吸収・分布・排泄データ- 投与:1回投与、 投与量:6.7mg/kg、 放射能量:76μCi/kg 性別 単位 投 与 後 経 過 時 間(日) 検査組織 0~12 時間 排泄率 (投与量%) 12~24 24~48 48~72 72~96 96~120 120~144 時間 時間 時間 時間 時間 時間 尿 46.9 12.3 7.6 1.8 0.4 0.2 0.2 糞 8.9 2.5 1.2 0.9 0.2 0.1 0.1 1.7 尿糞累計 55.8 70.6 79.4 82.1 82.7 83.0 83.3 85.1 0.1 0~7日 ケージ付着 雄 144~168 時間 1.6 排泄率(%)合計(0~7日) 86.7 7日目 分布率 (投与量%) 血漿 <0.002 肝臓 <0 002 <0.002 腎臓 <0.002 脾臓 <0.002 その他器官 0 カルカス 1.0 注1)予備試験において、投与24時間目までに排出された呼気中の放射能は投与量の0.12%であった。 注2)雌ラットを用いた実験においてもほぼ同様の結果が得られた。 注3)実験は低薬量1回投与、高薬量1回投与、15回連続投与の条件下で行われた。 31 (2)-6 安全性試験並びに健康影響評価(リスク評価)の流れ -殺菌剤オキスポコナゾールフマル酸塩の事例- 物理化学性 類似化合物の情報検索 O N 急性経口毒性 変異原性 OH Cl O 1994年:評価 1 O 1995~1996年:評価 2 O N HO N 2 短期毒性(亜急性毒性) 催奇形性 1)普通物相当 2)変異原性:陰性 3)短期毒性試験の用量定 1996~1998年:評価 3 急性毒性(刺激性,感作性 等) 長期毒性(慢性・発がん性) 代謝試験 繁殖毒性 環境科学 毒性メカニズム解明 1)催奇形性:陰性 2)刺激性:陰性 3)アレルギー性:陰性 4)代謝経路の推定 5)長期毒性試験の用量設定 1)発がん性:陰性 2)繁殖毒性:陰性 3)無毒性量の設定 32 1-a-64 農薬の登録申請時に提出する データ一式 殺ダニ剤シフルメトフェンの 登録申請書類 ↓ 農薬登録申請書類(ダンボール40箱) ↓ 33 (2)-7 人一日摂取許容量、残留基準、安全使用基準の決定プロセス 長期毒性試験 短期毒性試験 (動物実験) (動植物実験) 無毒性量 有用動物への影響試験 代謝試験 環境科学試験 安全係数 × (NOAEL) 1/100~1/500 人間に対する安全な量 (人体1日当り摂取許容量=ADI) 作物 摂 量 作物別摂取量 作物別残留試験 作物別残留許容量 安全使用基準 残留農薬基準 (使用時期、回数など) 登録保留基準 ⇒ ポジティブリスト制に移行 1-a-65 + 注意事項 34 日本人一人1日当りの農産物摂取量 1日摂取量 (g) 農産物 米 201 麦・雑穀 90 果実 130 野菜 256 いも類 67 茶 72 てんさい・さとうきび 3 その他 12 0.4 計 831.4 (平成元年国民栄養調査成績、厚生省より) 35 残留農薬基準値の設定の考え方と手順 国際基準、登録保留基準、諸外国基準、作物残留試験結果等 から基準値を作成 国民平均、乳幼児、妊婦、高齢者について:「理論一日最大摂取量」(TMDI)を試算 すべてで TMDI ≦ ADI×体重×80%* いずれかで TMDI ≧ ADI×体重×80%* 平均体重:53.3kg 平均体重 53 3k 乳幼児:15.8kg 妊婦:55.6kg 高齢者:54.2kg *ADI:人一日摂取許容量 国民平均、乳幼児、妊婦、高齢者に ついて推定一日摂取量(EDI)を試算 すべてで EDI ≦ ADI×体重×80%* すべてで EDI ≧ADI×体重×80%* *ADIの残りの20% は水と空気に割り 当てる 基準値案の再検討 基準値案を採用して基準設定 36 出典:残留農薬分析 知っておきたい問答あれこれ、改定2版、日本農薬学会 (2005年) 1-a-66 (2)-8 残留農薬のポジティブリスト制度と食の安全 ポジティブリスト制度:2006年5月より施行 何故、残留農薬のポジティブ制度を導入するの? ・BSE、トリインフルエンザなど“食の安全・安心に対する国民の関心の高まり → 食品衛生法の改正、食品安全基準の制定、内閣府食品安全委員会の新設 ・昨今の作物に残留する農薬への漫然とした懸念の広がりや、外国産農産物の輸入 増大にともない、国内で使用されている残留基準が設定されている農薬のみならず、 世界中で使用されている“全ての農薬と作物の組み合わせ”に対して残留基準を 設定すべきという考え方が広がりをみせたこと。 ・当時における作物に残留する農薬の規制は、「残留農薬基準」と「農薬登録保留 基準」が存在する国内登録を有する農薬のみが対象。 ・外国のみで使用され、輸入農産物に残留して国内に入る、国民が摂取する可能性が ある農薬については、規定が曖昧 ・理想論として、すべての農薬(約700)とすべての作物の組み合わせについて規制を する? 37 残留農薬のポジティブリスト制度とは! ・ 食品衛生法に基づく残留農薬基準が設定されていない農薬が 『一定量』 を超えて 残留する食品の販売等を原則禁止する制度 ・ 基準の存在しない“すべての農薬並びに作物の組み合わせ”について、国内外で 科学的な根拠に基づいて定められている基準等* を参考に暫定基準を設定する。 ・ それ以外のものに対しては、 0.01ppmという一律基準(科学的見地から “人の健康に 影響がない量“ とみなされる量: 『一定量』 )を適用する制度 ・ 法の建前上、国内で使用されている“すべての農薬と作物の組み合わせ”に対しても 残留基準を設定する。国内で農薬登録が存在しても、その農薬の適用のない多くの 作物についても、0.01ppmという残留基準(一律基準)が適用されることになる。 *コ コーデックス基準(国際基準) デックス基準(国際基準)、「農薬登録保留基準」(約350農薬について設定)、 「農薬登録保留基準」(約350農薬について設定) 海外基準(米国、EU、カナダ等の基準) 注1) 国際的に食用農産物に使用が認められている農薬数は、約700である。そのうち 国内で食品衛生法による「残留農薬基準」が設定されている農薬数は、250である。 注2) 国内で使用可能な農薬は、「残留農薬基準」、「農薬登録保留基準」を有する農薬の 38 みである 1-a-67 農薬、飼料添加物及び動物用医薬品に関するポジティブリスト 規格(残留基準)が 定められている物質 農薬取締法に基づく基準、国 際基準、欧米の基準等を踏ま えた基準を暫定的に設定 規格(残留基準)が 定められていない物質 人の健康を損なうおそれ のない量として厚生労働 大臣が一定量を告示 (一律基準) (暫定基準) 厚生労働大臣が 指定する物質 人の健康を損なうおそ れのないことが明らか であるものを告示 (特定農薬等) 農薬取締法に基づく登録等と 同時の残留基準設定など、 残留基準設定の促進 残留基準を超えて農薬等 が残留する食品の販売等 を禁止 一定量を超えて農薬等が 残留する食品の販売等を 禁止 ポジティブリスト制度 の対象外 39 残留農薬等のポジティブリスト制度の導入における 食品安全委員会の役割について 食品安全委員会では、2006年5月29日から導入された農薬等のポジティブリスト制度に対応した食品健康 影響評価(リスク評価)の実施手順等を定めました。ここではその主なポイントを紹介します。 詳しくはホームページ資料をご参照下さい。http://www.fsc.go.jp/senmon/nouyaku/hyouka_tejyun.pdf ポジティブリスト制度導入時の 農薬等の審査手順 一般的な農薬等の審査手順 食品安全委員会(リスク評価機関) 厚生労働省(リスク管理機関) 食品健康影響評価の実施 暫定的残留基準値等の設定 食品安全委員会(リスク評価機関) 厚生労働省(リスク管理機関) 食品健康影響評価の実施 食品健康影響評価 実施 ・ 758農薬等の評価* ・ 一律基準の評価 ・ 対象外物質の評価 残留基準値等の設定 * このうち農薬は516、動物用医薬品が192 厚生労働省(リスク管理機関) 出典:The Front Line 食の安全・最前線2 残留基準値等の設定 1-a-68 40 農薬の安全性(リスク)評価 と農 薬 登 録 の し く み 内閣府食品安全委員会 人に関するリスクを評価/ADI の設定 評価結果の 通知,勧告 評価結果の 通知,勧告 評価の要請 評価の要請 厚生労働省 農林水産省 農薬製造者 または 農薬輸入業者 申請 登録票の 交付 〔農業資材審議会〕 農薬としての有効性の評価 /使用方法と遵守事項の 設定 【農薬取締法】 諮問 答申 〔食品安全部〕 食品中の残留基準 の設定 【食品衛生法】 環境省 委任 答申 〔中央環境審議会〕 水産動植物,土壌, 水への影響評価/ 登録保留基準設定 厚生労働省 販 売 【食品安全基本法】 〔中央薬事審議会〕 毒物及び劇物取締 法に基づき,審査 【農薬取締法】 新規登録農薬については、農薬 登録時に農薬残留基準が設定さ 41 れる仕組みに変更 【毒物及び劇物取締法】 加工食品への残留農薬基準値の適用 残留基準 (ポジティブリスト制度) 農産物 加工製造 茹でる、煮る、乾燥する 水による希釈 他の材料との混合 加工食品 ポジティブリスト制度の対象 しかし、すべてに個別基準は 困難 (原材料) 原材料の比率、加工の方法 により残留農薬量が変化 減少 ・ 増加 《例》 使用された農産物の基準値 が判断材料 * 原料農産物と加工食品の関係:乾燥などによる濃縮、水による希釈などの加工を行なった 食品では、加工食品中の原材料の割合を計算し、原材料での違反の可能性を推定する。 りんご 果汁を水で希釈 基準値 クロルピリホス 1.0 ppm りんごジュース 10%果汁入り 違反蓋然性 クロルピリホス0.08 ppm検出 なし 判断基準 1.0 ppm× 10% = 0.10 ppm クロルピリホス 0.2 ppm検出 あり 42 出典:残留農薬分析 知っておきたい問答あれこれ、改定2版、日本農薬学会 (2005年) 1-a-69 (3)農薬のリスク管理 ・ 行政(国・地方自治体)によるリスク管理 行政(国 地方自治体)によるリスク管理 ・ 生産者並びに関連団体によるリスク管理 ・ 消費者並びに関連団体(消費者団体、生協等)に よるリスク管理 43 (3)-1 行政(国・地方自治体)によるリスク管理 -農薬行政におけるポジティブリスト制度の位置づけ- 農薬取締法など 食品衛生法など 農薬使用基準 残留農薬基準 (農林水産省) ポジティブリスト制度 (厚生労働省) 農 薬 環境基本法など 食品安全基本法 (環境省) (内閣府) *農薬は各種法律・基準等によってリスク管理されている 出典:上路雅子、“農薬取締法と規制”、化学物質総合管理学特論 、お茶の水大学(2007年) 1-a-70 44 行政によるリスク管理の実際 ★ 農薬取締法、食品衛生法、環境基本法、食品安全基本法などに基づく農薬のリスク 管理並び に食品安全に関する法令順守の徹底 ★ 散布者(農家)の農薬の適正な使用に関する指導 ・ 防護具(カッパ、長袖、手袋、メガネ、帽子)の着用 《散布者の健康被害防止》 ・ 安全使用基準(登録農薬の使用、使用薬量・回数、散布方法・ドリフト防止等)の 指導 作物中の当該農薬の残留量が基準を超えないようにする措置 《消費者の健康被害防止》 ・ 登録農薬の使用、無登録農薬の使用がないように監視 《消費者の健康被害防止》 無登録農薬の摘発、農薬の不適切使用に関する行政指導 ・ 水産動物の被害防止に関する安全使用基準に関する指導 《環境影響防止》 ・ 適用病虫害の範囲及び使用方法に関する指導 ★ 作物・食品中の残留農薬調査(国産品及び輸入品) 《消費者の健康被害防止》 必要に応じ基準を超える農薬を含む作物・食品の回収命令、製造・販売禁止 必要に応じ基準を超える農薬を含む輸入作物・食品の廃棄・返却 *国民が摂取する作物・食品中の残留農薬が基準を超えないように管理する ★ 国民の残留農薬摂取実態調査の実施 摂取状況に問題がないことを確認 45 農薬の散布者の 健康被害防止 -安全な製剤施用法の徹底- 農薬の散布者(人)への暴露度合い 農薬の散布者(人)への暴露度合い、 安全性は、製剤の施用法に大きく 左右される。 施用法の工夫により、農薬の人に対 する安全性の向上が可能となる。 農薬の使用に際し、散布者に対する 種々の使用上の注意事項が付けら れる。 農薬の吸入や暴露防止のため、 ネガネ(ゴーグル)やマスク、手袋、 帽子、長袖シャツ、長靴の着用等 46 1-a-71 無登録農薬の摘発 日本経済新聞剤 2007年11月22日 47 食品安全管理組織 国立医薬品食品 衛生研究所 National Institute of Pharmaceutical and Food Safety 厚生労働省 食品衛生局 医薬分野・食品衛生 審議会 検疫所 Pharmaceutical Affairs and Food Sanitation Council 都道府県研究所 都道府県 地域健康 福祉局 食品安全検査員 (全国総数:314人) 輸入届出:180万件 認定分析機関 食品安全検査員 (全国総数:7,911人) 保健所 Registered Laboratory 食品事業所(レストラン、小売店、スーパー、輸入業者等) 食品関連事業所:425万箇所 出典: Shoji Miyagawa , “Implementation of Japan Positive MRL System”, 4th Pan Pacific Conference on Pesticide Science, Honolulu, June 2008 1-a-72 48 As of 2006 Fiscal Year 空海港における食品検査体制 検疫所(全国31 箇所) 書類審査 輸入届出 積荷の到着 検査不要 モニタリング・ 行政検査 命令検査 積み戻し 却下 検査終了 (適法確認) 合格 廃棄 通関手続き 49 出典: Shoji Miyagawa , “Implementation of Japan Positive MRL System”, 4th Pan Pacific Conference on Pesticide Science, Honolulu, June 2008 (3)-2 作物における農薬残留検査:消費者の健康リスク管理 -“国内産の野菜と果実“に含まれている農薬の実態調査結果- 検査対象農薬と国内産野菜果実(慣行栽培)の検体数および検出 農薬名 総BHC 総DDT ディルドリン エンドリン キャプタン カプタホール PCNB TPN α-ベンゾエピン β-ベンゾエピン ジコホール プロシミドン 用途 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 土壌殺菌剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 検体数 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 30 EPN ク ルピリホス クロルピリホス 総クロルフェンビンホス ジクロルボス ジメトエート ダイアジノン パラチオン その他 カルバリル の農薬 BPMC 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 殺虫剤 30 30 30 30 30 30 30 30 30 有 機 塩 素 系 農 薬 有 機 リ ン 系 農 薬 検出数 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 1(▲1) 6(▲2) ○ 2 1(●1) (●)の数は食品衛生法違反のもの,(▲)の数は検出数のうち農薬登録保留基準を越えたもの 食:食品衛生法に基づく基準の対象農薬、登:農薬登録保留基準対象農薬 ※東京都立衛生研究所による国内産の野菜と果実に残留している農薬の実体調査(平成2年) 出典:農薬が変わった;栄養と料理,1992年7月号 P.49 1-a-73 食 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 登 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 50 農産物中の残留農薬検査結果(平成13年度) 平成13年度に実施された農産物中の残留農薬検査結果をとりまとめることとし、地方 公共団体における検査結果(92団体より資料提供の協力を得た。)、検疫所における検 査結果及び基準未設定農薬を対象に厚生労働省の依頼により地方衛生研究所等が実 施した調査結果を併せて集計した。その概要は次のとおりである。 1 検査数 2 検査対象農薬数 3 農薬検出数 国産品 4 基準値を超えた数 国産品 532,765 件 320 農薬 2,676 件(0.50%) 917 件(0.41%)、輸入品 1,759 件(0.57 %) 29 件(0.01%) 8 件(0.01%)、輸入品 件(0 01%) 輸入品 21 件(0.02%) 件(0 02%) 本集計結果は平成12年度の集計結果とほぼ同様の傾向を示しており、農薬が検出さ れた割合、基準値を超えた割合のいずれも極めて低いことから、我が国で流通している 農産物における農薬の残留レベルは低いものと考えられる。 「平成16年(2004年)6月21日 厚生労働省医薬食品局 食品安全部基準審査課」発表 51 平成14年度(2002年度)農産物中の残留農薬検査結果について 平成18年4月18日 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課 平成14年度に実施された農産物中の残留農薬検査結果を取りまとめることとし、地方公共団体に おける検査結果(91団体より資料提供を得た。)、検疫所における検査結果及び基準未設定農薬 を対象に厚生労働省の依頼により地方衛生研究所等が実施した調査結果を併せて集計した。 象 省 頼 究 等が 施 結 併 集 その概要は次の通りである。 本集計結果は平成13年度の集計結果とほぼ同様の傾向を示しており、農薬が検出された割合、 基準値を超えた割合のいずれも極めて低いことから、我が国で流通している農産物における農 薬の残留レベルは低いものと判断される。 52 1-a-74 ポジティブリスト制度施行後の違反事例 (国内農産物) (平成18年12月15日現在) 違反発生 月日 生産県 6月14日 兵庫県 8月27日 対象農産物 検出農薬成分 検出値 基準値 しゅんぎく カルベンダジン (殺菌剤) 7.8ppm 3.0ppm 回収命令 公表 農薬の適用外 使用 長野県 パセリ イプロベンホス (殺菌剤) 0.052ppm 0.01ppm 回収命令 回収情報公表 大雨による農薬 の流失 9月 5日 北海道 かぼちゃ ヘプタクロロ (殺菌剤) 0.07ppm 0.03ppm 回収命令公表 原因究明中 9月14日 長崎県 小ねぎ EPN (殺菌剤) 1.8ppm 0.10ppm 回収命令公表 農薬の適用外 使用 10月16日 長崎県 さやいんげん 回収命令公表 散布器具の 洗浄不足 回収命令公表 防除器具の 洗浄不足 アセフェート (殺虫剤) 5.6ppm 3.0ppm メタミドホス 1.2ppm 0.5ppm 対応措置 原因 10月27日 長野県 レタス ホサロン (殺虫剤) 1.1ppm 0.5ppm 11月10日 石川県 金時草 シアノホス (殺虫剤) 0.1ppm 0.05ppm 防除器具の 洗浄不足 11月14日 山形県 食用ぎく フェンバレレート (殺虫剤) 5.6ppm 0.5ppm 農薬の適用外 使用 出典:関東農政局:平成18年度埼玉県農薬適正使用アドバイザー・農薬指導マスター認定研修会 テキスト、p18 (2007)、埼玉県農林部農産物安全課 他資料 53 注)06年5月29日から07年5月28日までの1年間の違反事例は14件 (日本農業新聞、2007年5月28日) ポジティブリスト制度施行後の輸入農産物(残留農薬)違反事例(抜粋) 違反発生年月日 輸入国 対 象 農産物 検出農薬成分 検出 量 (ppm) 基準値 (ppm) 対応 措置 検査 機関 2006年 7月 4日 台湾 マンゴー シフルトリン 0.07 0.02 積み 戻し 福岡 空港 2006年 7月24日 ガーナ カカオ豆 クロルピリホス 0.22 0.05 全量 保管 横浜 0.01 積み 戻し 神戸 成田 空港 2006年 8月14日 中国 にんにく ピリメタニル 0.04 2006年 8月15日 タイ シカク豆 EPN 0.52 0.01 積み 戻し 2006年 8月30日 エクアドル カカオ豆 2,4-D 0.03 0.01 全量 保管 神戸 0.3 0.1 全量 廃棄 福岡 2006年 9月11日 台湾 ウーロン茶 ブロモプロピ レート 2006年10月 6日 中国 ねぎ テブフェノジド 0.05 0.01 積み 戻し 神戸 2課 2006年11月13日 中国 そば メタミドホス 0.02 0.01 全量 保管 横浜 2006年11月16日 中国 シソの葉 ヘキサフルムロ ン 0.05 0.02 全量 廃棄 成田 成 空港 2006年11月28日 中国 しょうが BHC 0.10 0.01 全量 保管 神戸 2課 出典:中村幸二、残留農薬に係るポジティブリスト制度の適用と生物化学的測定の活用、生物化学的究会年報、 2007年 注1) 輸入農産物の違反事例は厚生労働省のホムページで公開 厚生労働省:http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/tp0130-1.html (輸入食品監視業務ホームページ) 54 注2) 日本農業新聞記事 「ポジティブリスト施行1年、 輸入農産物の違反増加」(2007年5月28日)参照 注3) 違反事例総数(06年12月15日現在):364件、中国:112件、ベトナム:68件、エクアドル:59件、ガーナ:54件 1-a-75 出典:朝日新聞 (夕刊) 2008年2月12日 55 56 1-a-76 散布された農薬の環境中での挙動 57 洗浄・調理による残留農薬の減少(減少%) 洗浄・調理による残留農薬の減少(減少%) 農薬名 DDVA DMTP ESP PAP PCNB TPN イプロジオン キノキサリン系 ジメトエート スルフェン酸系 ピンクロゾリン プロシミドン メソミル 水 洗 67 46 50 37 63 77 81 45 93 18 48 煮 る いためる 焼 く 蒸す 21 65 71 51 37 31 99 15 89 19 51 47 56 15 b) 11 12 66 漬ける 50 a) 78 17 0 80 a) 注:供試作物は、a) が白菜、b) がキャベツ、そのほかは果菜類(トマト、なす、ピーマン、きゅうり) 58 1-a-77 (3)-3 日本人の農薬摂取量調査:消費者の健康リスク管理 日本人の一人1日当りの農薬摂取量調査結果集計表(1991~1998年(平成3~10年度)) ~ いずれかの食品群において残留農薬が検出された17農薬 ~ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 農薬名 .DDT .EPN EPN .ア ジ ン ホ ス メ チ ル .ア セ フ ェ ー ト .エ ン ド ル ス フ ァ ン .ク ロ ル ピ リ ホ ス .ク ロ ル ピ リ ホ ス メ チ ル .シ ペ ル メ ト リ ン .ジ メ ト エ ー ト .臭 素 .バ ミ ド チ オ ン .フ ェ ニ ト ロ チ オ ン .フ ェ ン ト エ ー ト .フ ェ ン バ レ レ ー ト .プ ロ チ オ ホ ス .マ ラ チ オ ン .メ タ ミ ド ホ ス 平均1日摂取量(μg) 2.97 2 25~ 2.82 2.25~ 2 82 3.21 6.99~ 21.93 3.46 1.07~ 2.16 0.95~ 2.17 2.59~ 21.62 1.60~ 3.04 6,037.50~ 8,150.28 20.89 0.77~ 7.12 1.26~ 4.06 45.07 2.16~ 2.35 1.03~ 2.16 2.84~ 3.72 対 ADI比 ( % ) 1.19 1 96~ 22.46 1.96~ 46 1.28 0.46~ 1.46 1.15 0.21~ 0.43 0.19~ 0.43 0.10~ 0.86 0.16~ 0.3 12.8~ 16.30 5.22 0.31~ 2.85 1.67~ 5.41 4.51 2.88~ 3.13 0.10~ 0.22 1.42~ 1.86 59 (「食品中の残留農薬」,2001年版,社団法人日本食品衛生協会,p.20~22をもとに作成) 日本人の一人1日当りの農薬摂取量調査結果集計表(1991~1998年(平成3~10年度)) ~ いずれの食品群においても検出されなかった77農薬 ~ 農薬名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # # . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 ,4 ,5 -T B HC C NP D CI P アミトラズ アミトロール イソフェンホス イソプロカルブ イプロジオン エチオフェンカルブ エチオン エディフェンホス エトプロホス エトリムホス エンドリン オキサミル カプタホール カルバリル カルベンダジム キナルホス キノメチオネート キャプタン グルホシネート クロルフェンビンホス クロルプロファム クロルベンジレート クロロタロニル 酸化フェンブタスズ ジエトフェンカルブ ジクロルボス ジコホール シハロトリン ジフェノコナゾール ダイアジノン チオベンカルブ チオメトン ディルドリン テクロフタラム テニルクロール 平均1日摂取量(μg) 2 .4 2 6 .7 1 6 .8 5 0. 83 ~3 .3 4 3 .3 4 1 .9 92 4 .4 8 1 .1 2 2. 16 ~3 .0 1 2 .4 2 0. 83 ~2 .4 2 0. 40 ~2 .4 2 4 .4 8 2. 42 ~4 .4 8 5 .4 1 0. 72 ~2 .4 2 3 .5 5 0 .2 6 3 .6 1~11. 36 1. 05 ~2 .1 6 1. 3 9. 2 4 32 ~4 4. 4 .7 74 4 .0 4 3 .3 4 0. 64 ~2 .1 6 2 .4 2 3 .3 4 4 .5 5 0. 64 ~2 .1 6 3 .3 4~22. 46 2. 26 ~2 .4 2 0. 40 ~2 .4 2 0. 5 3 .5 5 対AD I比 (%) 0. 39 0. 1 1 1. 42 3. 33 ~1 3. 37 1. 67 0 03 0. 0. 09 4. 48 1. 73~2 .41 1 9. 39 0. 55~1 .62 3. 99 ~2 4. 24 0. 45 0. 24~0 .45 0. 36 1 3. 15~4 4.0 8 1. 18 0 .0 05 2 0. 72~2 .27 1. 40~2 .88 0. 03 0. 92 0 29~0 0. 29 0 .32 32 0. 27 0. 05 0. 39~1 .31 0. 19 0. 79 0. 95 0. 64~2 .16 0. 74~4 .99 4. 11~4 .41 7. 97 ~4 8. 49 0. 02 0. 1 農薬名 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 デルタメトリン テルブホス トリアジメノール トリクロホスメチル トリクロルホン トリシクラゾール トリフルミゾール バクロブトラゾール パラチオン パラチオンメチル ビテルタノール ビフェントリン ピリフェノックス ピリミカーブ ピリミホスメチル フィプロニル フェナリモル フェノブカルブ フラメトピル フェンスルホチオン フェンチオン ブタミホス フルトラニル プレチラクロール プロシミドン プロピコナゾール ペルメトリン ベンダゾン ペンディメタリン ホキシム ホサロン ホスメット ホルペット メチダチオン メトリブジン メフェナセット メプロニル レナシル 平均1日摂取量(μg) 3 .3 4 0 .7 4~2. 42 3 .5 5 0 .7 4~3. 34 2 .4 2~3. 20 3 .5 6 17 .1 7 3 .5 5 2 .4 42 1 .0 5~2. 16 5. 71~22 .4 6 1 .4 6 3 .5 1 4 .2 0 .6 3~2. 16 0 .5 3 4 .1 8 4. 80~22 .4 6 4 .9 5 2 .4 2 1 .0 6~2. 42 0 .8 3 3 .3 4 3 .3 4 3 .8 7 3 .2 3 1 92~21 1. 92 21 .6 62 3 .4 1 3 .3 4 18 .9 2 2 .4 2~2. 57 3 .6 8 2 .9 2 1 .1 6 4 .9 1 4 .5 6 4 .5 6 11 .2 3 対AD I比 (%) 0 .6 7 9 .2 1~30 .3 0 .1 4 0. 02 ~0 .1 0 .4 8~0. 64 0 .2 4 1 .8 6 0 .1 5 0 .9 97 0 .1 4~0. 29 7 .6 1~29 .9 5 0 .3 9 0 .0 7 0 .4 7 0 .0 5~0. 17 5 .3 2 0 .8 4 0 .8 0~3. 74 1 .4 1 16. 16 4 .2 6~9. 70 0 .3 3 0 .0 8 0 .4 5 0 .2 2 0. 4 0 .0 0 88~0. 0 92 0 .0 8 0 .1 6 31. 53 0 .8 1~0. 86 0 .7 4 0 .0 6 1 .5 5 0 .7 9 2 .5 4 0 .1 8 0 .1 9 注) -: 全ての食品群で未検出であり,食品衛生調査会又は残留農薬安全性評価委員会において,ADIが設定できないとしているため,摂取量の 60 推計及び対ADI比を求めていない。 (「食品中の残留農薬」,2001年版,社団法人日本食品衛生協会,p.20~22をもとに作成) 1-a-78 (3)-4 生産者並びに関連団体によるリスク管理 -作物に残留する農薬量が残留基準以下になるための取組みー (1) 使用基準の遵守:農薬のラベルの記載事項の確認・遵守 -適用作物、使用量ならびに濃度、使用時期、総使用回数、使用方法- (2) 散布器具の洗浄 (タンク、ホース、ノズル等) (3) 農薬散布時の飛散(ドリフト)防止対策 (4) 農薬使用時の注意点 ・水田に除草剤や粒剤を散布した後、7日間止水 → 環境保全と薬効の安定化 ・育苗箱への散布は注意:こぼれ落ちないように → 後作物への影響防止 ・水系への農薬流出注意:下流のシジミから残留基準(0/01ppm)超過検出事例あり (5) 農薬使用記録の記帳(トレーサビリティー対応) ビ (6) 地域生産者連携によるリスク管理対応 《一部の人の不注意や違反が地域全体に影響を及ぼす》 → 地域農業の崩壊の恐れ -地域共同の飛散防止対策、問題発生時の対応手順の決定、問題発生時の公表、 必要に応じ出荷停止・回収- 61 出典:平成19年度「緑の安全管理士会」支部大会研修資料、(社)緑の安全推進協会 農家・栽培者の安全管理 作物栽培・農薬散布 現場の最大の関心事 農薬のドリフト問題 基準を超え て残留 残留 ドリフト防止の 各種対策 生産物の出荷停止・ 回収 62 1-a-79 (3)-5 消費者並びに関連団体(消費者団体、生協等) によるリスク管理 (1) スーパー、生協などの栽培農家・団体との連携 農薬取締法による安全使用基準(農薬残留に関する安全使用基準、水産動物 の被害防止に関する安全使用基準)、並びに適正使用基準(適用病害虫の範 囲及び使用方法)の遵守の徹底 (2) 生協による産直産地と共同の農薬作物残留や有機栽培の課題に関する 取組み ・産地、生産者、生産・流通を明確にし、記録・点検・検査による検証手法の確立 (使用した農薬の種類、散布時期、散布量などの栽培履歴の確認) ・持続可能な生産と環境に配慮 持続可能な生産と環境に配慮 (3) コープネット商品検査センター等の独自の検査機関による残留農薬検査、 公表 (4) 消費者団体による国・地方自治体、農家のリスク管理体制の確認 63 コープネット商品検査センターによる残留農薬検査結果 (2000.3.21〜2001.3.20) 農薬名 (Page 1) 検出濃度 (ppm) 用途 検体数 検出数 検出率 (%) 2,4-D 除草剤 67 5 0.01-0.02 カルベンダジム 殺菌剤 44 2 0.07-0.16 4.55 チオファネートメチル 殺菌剤 44 2 0.16-0.38 4.55 7.46 メチダチオン 殺虫剤 610 24 0.01-0.80 3.93 ジコホール 殺虫剤 610 21 0.01-2.25 3.44 クロルピリホス 殺虫剤 610 21 0.01-0.45 3.44 イプロジオン 殺菌剤 610 20 0.02-1.09 3.28 プロシミドン 殺虫剤 610 18 0.01-0.34 2.95 クロルフェナピル 殺虫剤 610 17 0.01-0.44 2.78 メソミル 殺虫剤 54 1 0.03 1.85 TPN 殺虫剤 610 10 0.01-0.31 1.64 フルジオキソニル 殺虫剤 610 10 0.02-0.17 1.64 アゾキシストロビン 殺虫剤 610 9 0.02-0.42 1.48 クロルピリホスメチル 殺虫剤 610 9 0.01-0.14 1.48 ジエトフェンカルブ 殺虫剤 610 9 0.01-0.14 1.48 ビテルタノール 殺菌剤 610 9 0.01-0.32 1.48 殺ダニ剤 610 9 0.01-0.21 1.48 フルフェノックスロン フェニトロチオン 殺虫剤 610 8 0.02-1.21 1.31 キナルホス 殺虫剤 610 7 0.01-0.84 1.15 キャプタン 殺虫剤 610 6 0.03-0.26 0.98 出典:第24回農薬残留分析研究会 講演要旨集 p.26 (2001年) 1-a-80 64 農薬名 検出濃度 (ppm) 検出率 (%) 用途 検体数 検出数 エスフェンバレレート 殺虫剤 610 2 0.03-0.05 0.33 テブフェンピラド 殺虫剤 610 2 0.02-0.05 0.33 トラロメトリン 殺虫剤 610 2 0.03-0.16 0.33 トリフルラリン 殺虫剤 610 2 0.05-0.09 0.33 トルクロホスメチル 殺菌剤 610 2 0.04-0.37 0.33 パラチオン 殺虫剤 610 2 0.02-0.03 0.33 ピリダベン 殺虫剤 610 2 0.04-0.13 0.33 ペンディメタリン 除草剤 610 2 0.01-0.03 0.33 クロルフェンビンホス 殺虫剤 610 2 0.01-0.02 0.33 ピリミホスメチル 殺虫剤 610 2 0.02-0.05 0.33 ホスチアゼート 殺虫剤 610 2 0.02-0.04 0.33 DDT 殺虫剤 610 1 0.01 0.16 β−CVP 殺虫剤 610 1 0.01 0.16 ジクロフルアニド 殺虫剤 610 1 0.03 0.16 シフルトリン 殺虫剤 610 1 0.06 0.16 ダイアジノン 殺虫剤 610 1 0.02 0.16 フェナリモル 殺虫剤 610 1 0.01 0.16 フェニソブロモレート フェニソブロモレ ト 殺虫剤 610 1 0 15 0.15 0 16 0.16 プロピコナゾール 殺菌剤 610 1 0.05 0.16 テトラジホン 殺虫剤 610 1 0.03 0.16 トリアジメ ホン 殺菌剤 610 1 0.02 0.16 シアノホス 殺虫剤 610 1 0.19 0.16 シプロコナゾール 殺菌剤 610 1 0.09 0.16 合計 37,210 *2 349 0.93 *2 * 1:原表中の各農薬の用途の誤記載を訂正した。 *2:データを基に演者計算(単純加算、割算) 注:残留農薬基準ならびに登録保留基準を超えたものはそれぞれ4品目 おしまい! 65 See you later ! ご清聴有難う ございました (カ ムサハムニダ) (カームサハムニダ) Merci Beaucoup .ًش ْك ًرا َج ِزيال ُ 発音:シュクラン ジャズィーラン 意味:大いに感謝しています 謝謝! Thank you very much Gracias Obrigado 66 1-a-81 参加者名簿 氏 名 門田 一治 所 属 ㈲勉強堂 連 絡 先 Tel: 084-959-0025 Fax: 084-959-0024 e-mail: 小林 秀司 横掘 大介 山本 章夫 河村 将和 原田 和俊 宮嶋 暁 太田 雅也 丸山 益資 山本 拓朗 橘高 実智 山田 篤志 参加項目 集団学習会と 公開講座 Tel: 0847-45-3479 Fax: 0847-45-5211 e-mail: [email protected] Tel: 084-957-3416 Fax: 084-957-3423 e-mail: [email protected] Tel: 0848-23-2332 ㈹ Fax: 0848-20-0006 e-mail: [email protected] Tel: 0848-20-5155 ㈹ Fax: 0848-20-5171 e-mail: [email protected] Tel: 0866-62-0824 Fax: 0866-63-1552 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 0845-24-2933 生命工学専攻 Fax: 0845-24-3449 博士後期課程 1 年 e-mail: ヤスハラケミカル㈱ 池田食研㈱ 丸善製薬㈱ 尾道西工場 丸善製薬㈱ 新尾道工場 井原市水道部 上水道課工務係 福山大学生命工学部 生物工学科 Tel: 084-936-2111 内線 4616 Fax: 084-936-2023 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 084-934-0143 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 1 年 e-mail: [email protected] マナック㈱ Tel: 084-954-3330 事業開発部 Fax: 084-954-3360 新事業研究所 e-mail: [email protected] 全プログラム 集団学習会と 公開講座 全プログラム 全プログラム 集団学習会と 公開講座 全プログラム 集団学習会と 公開講座 全プログラム [email protected] 全プログラム 全プログラム 1 1-a-82 全プログラム 氏 名 瀧川 滋雄 縄稚 典孝 谷脇 雅俊 所 属 連 絡 先 福山市役所 Tel: 084-928-1031 経済部 Fax: 084-927-7021 農政課 e-mail: [email protected] Tel: 084-981-0181 Fax: 084-957-0693 e-mail: [email protected] Tel: 084-981-0181 Fax: 084-957-0693 ㈱日本総合科学 ㈱日本総合科学 e-mail: 吉岡 昭裕 吉岡園芸 Tel: 084-934-1122 Fax: 084-934-1123 e-mail: 嶋津 小百合 福山大学 Tel: 084-936-2111 内線 4674 グリーンサイエンス Fax: 084-936-2023 研究センター e-mail: [email protected] 2 1-a-83 参加項目 集団学習会と 公開講座 集団学習会と 公開講座 集団学習会と 公開講座 集団学習会と 公開講座 全プログラム 講師・実習指導者一覧 集団学習会講師 大川 秀郎 福山大学生命工学部 e-mail:[email protected] 梅津 憲治 大塚化学ホールディングス㈱ e-mail:[email protected] 集団実験実習 乾 秀之 神戸大学遺伝子実験センター e-mail:[email protected] 三宅 司郎 ㈱堀場製作所 e-mail:[email protected] 山科 清 ㈱住化分析センター e-mail:[email protected] リスク管理マニュアル作成 上路 雅子 日本植物防疫協会 e-mail:[email protected] 大川 秀郎 福山大学生命工学部 e-mail:[email protected] 1-a-84 “質問・意見・感想”票 〔PJ2・テーマ 1〕 日付 氏名 質問・その他 内容 連絡先:e-mail/Fax (注)返答の必要な方は質問に○を付け連絡先を記入して下さい。 1-a-85 正誤表 講義 1 「農薬のリスクとベネフィットの考え方」 p1 p.1 上5行 有害性を確認する → 有害性とその用量を確認する p.3 下1行 (化合物mg/体重kg → (化合物mg/体重kg) p.5 上3行 水系環境 土壌 → 水系環境 底質 p.18 上1行 表13 → 表12 p.20 上1行 3‐2 作物保護 → 4‐2 作物保護 p.32 下10行 表20 → 表21 p.37 右側 DMSO → 有機溶媒 Triton X‐100 → 界面活性剤 ( (MEL) ) → 削除 1-a-86 1-a-87 PJ2・テーマ1に関する問い合わせ先: 福山大学グリーンサイエンス研究センター 大川秀郎・嶋津小百合 〒729-0292 〒729 0292 広島県福山市学園町1番地三蔵 電話:084-936-2112(内線4674) Fax:084-936-2023 e-mail:[email protected] PJ2に関するホームページ:http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ 1-a-88 福山大学社会連携研究推進事業 「人間力」に支えられた「活力ある地域づくり」 連携に関する開発研究 プロジェクト2(PJ2) 産官学連携 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ1 「食品の残留農薬とリスク評価・管理の 原理と実際」 集団実験実習 実験実習資料 平成 20 年 8 月 25 日~29 日 1-b-1 目次 テーマ1「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」 集団実験・実習 1-b-1~1-b-66 1.「残留農薬分析の概要」 福山大学 大川秀郎 1-b-3~1-b-12 2.実習1 抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理 神戸大学 乾 秀之 1-b-13~1-b-22 3.実習2 農薬等の ELISA 測定とデータ処理 ㈱堀場製作所 三宅司郎 1-b-23~1-b-40 4.実習3 Cd などの ELISA 測定とデータ処理 ㈱住化分析センター 山科 清 1-b-41~1-b-62 5.参加者名簿 1-b-63 6.実習指導者一覧 1-b-64 7.その他 質問・意見・感想票 1-b-65 1-b-2 テーマ 1“食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際” 集団実験実習 1.「残留農薬分析の概要」 福山大学 大川秀郎 (1)はじめに 農薬の使用に伴うヒトへの直接の曝露と散布農薬の農作物や環境における残留、即ち、 残留農薬は親化合物と代謝分解物を含み、それらの環境挙動や生態系への影響、並びに、 それらの食物を介した摂取による人の健康への影響のリスクについて、総合的に管理する (図 1)。農家・生産者は農薬の購入量、使用量、廃棄量などを記録するトレーサビリティ ーを実施している。また、収穫物の貯蔵、出荷、輸送、加工、製品出荷、廃棄物のリサイ クルに伴う残留農薬の検査を実施する。 農家・生産者(農薬の購入量、使用量、廃棄量などの記録) “作業者”(曝露、影響) 農薬散布 環境(大気、土壌、水)(挙動、残留) “生態系”(曝露、影響) 農作物(残留) (残留) 食料 (残留) 飼料 (残留) 肥料 調理 “消費者”(摂取、影響) 加工食品(残留) 畜産物(残留) 水産物(残留) 廃棄物リサイクル(残留) 図 1.残留農薬のモニタリング(監視) (2)残留分析の実際 残留農薬の検査、即ち、残留分析では基本的には全ての毒性残留物質について分析すべ きである。つまり、親化合物及び毒性学上注意すべきその分解生成物、代謝物(遊離及び 不溶性)、および、不純物などの全てにわたり分析しなければならない。けれども、どの物 質を分析すべきかについては、実用上の基準、例えば、最小検出量、また、哺乳動物への 毒性が親化合物の毒性より低くないことなどによる。哺乳動物における代謝では見いださ 1-b-3 れていない代謝物の場合は、その毒性如何によっては、残留消長に関して詳しく調べる。 残留分析の手順は、試料抽出、精製(クリーンアップ)、そして定量などから成り立ってい る。ピレスロイド系殺虫剤フェンバレレートとフェンプロパトリンの残留分析の手順の概 要を図 2 に示す。クリーンアップ用に各種のアフィニティーカラムが市販されている。生 物試料中の微量の残留性有機汚染物質に関するクリーンアップの例を図 3 に示す。ガスク ロマトグラフィー(GC)の検出器に関しては、表 1 に示すように、通常 ECD が高感度を 示すので使われる。これに対して、分子中にリンや窒素を持つ化合物には FTD はより選択 的に反応し、FPD はリンやイオウを含む化合物の微量分析においては日常的な検出器であ る。また、表 2 に 2,3,7,8-TCDD の生物試料中の微量分析の例を示す。図 4 に示すように、 親化合物や代謝分解物の同定にはガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー (GC/MS)が使われる。分析機器の進歩は著しく、しばしば ppt レベルの残留農薬も試料 如何によっては測定可能である。しかしながら、液体クロマトグラフィー(LC)/MS、MS/MS のような高感度の検出器を備えた機器は年間数百ないし数千点に及ぶ試料の日常の残留分 析にはなじまない。さらに、開発途上国への技術移転を考えると、確実でしかも簡単な実 用的残留分析方法の開発を行うべきであろう。たとえば、後に述べるように、免疫化学測 定(イムノアッセイ)の適用などを検討すべきである。 図 2.フェンバレレートとフェンプロパトリンの残留分析方法 1-b-4 図 3.生物試料中の微量の残留性有機汚染物質のクリーンアップ 残渣は 3 フラクションに分画して、GC/ECD または GC/MS で分析。 “Chemical Ecotoxicology”, J. Paasivirta, Lewis Publishers, 1991 1-b-5 表 1.GC 検出器の選択性 検出器 選択性 初発報告年 Electron-capture (EC) ハロゲン 1959 Microcoulometric (MC) Cl, Br, N, S 1961 P, N 1964 P, N 1974 Coulson (CECD) Cl, Br, N, S 1965 Hall (HECD) Cl, Br, N, S 1974 Flame photometric (FPD) P, S 1966 Thermal energy analyzer (TEA) NO 1975 Photoionization (PID) ハロゲン, S, 芳香環 1978 Ion trap detector (ITD) 特徴的イオン 1983 Mass selective detector (MSD) 特徴的イオン 1984 元素 1988 Alkali-flame ionization (thermionic) (AFID) NP-Thermionic selective detector (ND-TSD) Electrolytic conductivity GC-MS (bench top) Atomic emission detector (AED) “Pesticide Residues and Food Safety” Ed. by B.G. Tweedy, H.J. Dishburger, L.G. Ballantine and J. McCarthy, ACS Symposium Series 446, 1991 1-b-6 表 2. 2,3,7,8-TCDD の生物試料中の微量分析 試料 検出限界 方法 参考文献 鳥 50 ppb 化学処理、 Woolson et al. カラムクロマトグラフィー、 (1973) EC/GLC 牛肉(肝臓) 20 ppt 魚と甲殻類 マス 10 ppt 化学処理、調製用 GLC、 HRMS Baughman and 化学処理、 Meselson (1973) カラムクロマトグラフィー Lamparski and (多重)、HPLC 牛乳 脂肪組織 1 ppt 1 ppt GC/MS Nestrick (1980) 化学処理、 カラムクロマトグラフィー Langhorst and (多重)、HPLC(2)、GC/MS Shadoff(1980) カラムクロマトグラフィー (多重 5)、GC/HRMS Patterson et al. (1986) “Regulation of Agrochemicals” Ed. by G.J. Marco, R.H. Hollingworth and J.R, Plimmer, American Chemical Society, Washington, DC, 1991 2,3,7,8-TCDD 1-b-7 (A)フェンバレレートのマススペクトラム (B)濃度 0.05 ppm を添加した試料 図 4.フェンバレレートのマスフラグメントグラフ (3)免疫化学測定方法 機器分析は精度・感度に優れており、極微量な残留農薬の分析には適した方法である。 しかしながら、分析に熟練を要し、時間が掛かり、経費が掛かることから、多種・多数の 試料について、長期間、広範囲に測定することが難しい。 一方、生物機能に基づくバイオアッセイ方法を用いて、簡単に安価に感度よく多種・多 数の試料について残留農薬のスクリーニングを行うことが求められている。例えば、抗原・ 抗体反応の特異性に基づく免疫化学測定(イムノアッセイ)の試薬キットが市販されてい る。それと共に、クリーンアップ用に抗原・抗体反応に基づくイムノアフィニティーカラ ムが用いられている。 残留農薬はppt~ppmまたはそれ以下で環境試料や農水畜産物・食品などに検出される。 こうした極低濃度の残留農薬を生物機能に基づいて測定する方法として、抗原・抗体反応 の特異性を用いた免疫化学測定がある。免疫化学測定は臨床検査でホルモンなどの測定に 1-b-8 広く用いられているが、最近、環境分野での残留農薬、PCB、ダイオキシン、などの測定 に応用されるようになった。本方法は高感度であり、目的の化学物質を試料から抽出・精 製することなく、あるいは最小限の前処理によって迅速かつ簡便に測定できる。また、高 価な機器を必要としないため、現場で測定するキットなども市販されている。ここでは ELISA(Enzyme-linked Immunosorbent Assay)の原理と方法の概要を説明する。 (3.1) 抗体の調製 ELISA では標的化学物質に特異的な抗体を用いる。一般に、哺乳動物は分子量が 1 万以 下の低分子化合物に対しては免疫応答を起こさない。即ち、農薬の多くは、低分子化合物 であるため、これらを哺乳動物に直接免疫してもそれに対する特異的抗体は得られない。 そこで標的化学物質についてカルボキシル(COOH)基などを導入した誘導体(ハプテン) を合成し、それをアルブミンなどの担体タンパク質のアミノ(NH2)基と結合させて免疫 原または抗原とする。これを哺乳動物に摂取すると免疫反応が惹起され、ハプテンに特異 的な抗体(ハプテン抗体)を得ることが出来る。ウサギなどを免役して得られる抗血清は 免疫原の様々な部位に特異的な複数の抗体の混合物が得られ、これをポリクローナル抗体 と呼ぶ。一方、単一の脾臓細胞(B リンパ球)が産生する抗体はモノクローナル抗体と呼び、 単一の抗原決定基(エピトープ)を認識する。モノクローナル抗体の作製技術がマウスの 系で確立されており、比較的容易にモノクローナル抗体を調製できるようになった。なお、 ダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)及びそれに対する抗体の模式図(図 5)を示す。 図 5.ダイオキシン、ダイオキシンハプテン及びダイオキ シンに対する抗体の模式図 1-b-9 検体特異的抗体をビーズなどに固定したイムノアフィニティーカラムがクリーンアップに 用いられている。環境ホルモン・ビスフェノール A に対するイムノアフィニティーカラム の使用例を図 6 に示す。 淀川河川水の HPLC-FLD によるビスフェノール A の分析 図 6.イムノアフィニティーカラムの淀川河川水中ビスフェノール A への適用 (3.2)測定の原理 一般に、農薬などの低分子化合物は抗体との結合が可能な箇所が限定されるため、これ らに対する ELISA は主に競合阻害 ELISA 方法が用いられる。競合阻害 ELISA 方法は直接 競合方法と間接競合方法に分類できる。直接競合 ELISA 方法では、あらかじめ 96 穴マイ クロタイタープレートのウェル、あるいは、チューブ、磁性ビーズなどの表面に抗体を固 相化し、それらに試料と一定量の酵素標識抗原を加えると、試料の検体と標識抗原が競合 的に抗体と結合する。未反応物を洗浄した後、酵素の基質を加え、酵素反応生成物の発色 の吸光度をマイクロプレートリーダー等で測定する。その測定値は試料の検体量に反比例 する。そのため、標準品の検量線と比較し、吸光度に基づいて検体濃度を決定する。間接 競合 ELISA 方法では抗原を支持体に固相化し、試料と一定量の抗体を加えると試料の検体 と固相化抗原が競合的に抗体と結合する。洗浄後、酵素標識二次抗体を加えて支持体上の 抗原抗体複合体を追跡する。再度洗浄を行った後、酵素の基質を加え、上記と同様にして 試料の検体量を測定する(図 7)。 8 1-b-10 図 7.酵素免疫測定方法(ELISA)の原理 農薬に特異的に反応する抗体を用いた免疫化学測定のうち、水試料について測定する ELISA キットなどが市販されている。また、土壌、農産物などを測定するためには、試料 に由来するミセルやマトリックスの効果に基づく測定の精度の確保、標準化合物の代謝物 や同族体に対する交叉反応性の回避などを克服することが求められる(図 8)。図 9 に除草 剤パラコートなどに関する ELISA 標準曲線を示す。 図 8.ミセルとマトリックス 1-b-11 図 9.除草剤パラコートと関連化合物の ELISA 標準曲線 結果は 3 回測定、変動巾 5%以下。 Van Emon, J.M, et al., Anal. Chem. 58, 1866-1873, (1986) なお、農薬に対する ELISA キットに関して、日本国内で発売されている環境分野関連の ELISA キット等が生物化学的測定研究会のウェブサイトにリストアップされている (http://wwwsoc.nii.ac.jp/icsj/)。 (3.3)免疫化学測定方法の標準化 ELISA の普及には JIS 規格や ISO などに適合した公定法として認定されることが必要で ある。競合免疫測定方法通則「JIS K0461」は平成 18 年 1 月 20 日の官報に公示された。 また、非競合免疫測定方法(サンドイッチ法)通則「JIS K0462」が平成 20 年 3 月 20 日 の官報に公示されている。 なお、ISO 15089: 2000 水質、作物保護剤の検査のための選択的イムノアッセイのガイド ラインがある。 (4)おわりに 残留農薬分析の基本については“農薬の環境科学最前線”p.76-p.94、日本農薬学会編集 2004、ソフトサイエンス社、がある。また、残留分析の実際については“残留農薬分析知 っておきたい問答あれこれ”改訂 2 版、2005、日本農薬学会、が詳しい。なお、ELISA に ついては生物化学的測定研究会のウェブサイト(http://wwwsoc.nii.ac.jp/icsj/)が参考にな る。その他、 “土壌のダイオキシン類簡易測定マニュアル” 、 (独)土木研究所編、2006、鹿 島出版会、がある。 10 1-b-12 2.実習 1 抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理 神戸大学遺伝子実験センター 乾 秀之 1-b-13 はじめに 環境負荷化学物質、即ち、環境において安定で長期にわたって残留し生態系や人の健康に影響を与える ことが懸念される化学物質には、ダイオキシン類、内分泌攪乱化学物質、ある種の残留農薬等がある。 内 分泌攪乱化学物質、いわゆる環境ホルモンは、人や野生生物の内分泌作用を攪乱し、生殖機能障害、悪性 腫瘍等を引き起こす可能性がある物質の総称で あ る 。 環境汚染の実態や生体内での作用機序については 科学的に未解明な点が多いものの、生物の世代を超えた影響をもたらす恐れの指摘もあり、環境中での分 布や動態を把握することは生態系への影響及び人の健康に関するリスク評価を行う上で極めて重要である。 現在、環境負荷化学物質のモニタリングには広範囲にわたる多数のサンプリングとそれらの機器分析に よって実施されている。機器分析は感度・精度が優れており、環境化学物質のように極低濃度で、土壌、水 実施 れ 機 析 感度 精度が優れ 境 学物 う 極 濃度 壌 水 系、大気、生物、農産物などの広範囲にわたって分布している化学物質の測定には優れた方法である。し かしながら、設備と熟練を必要とし、分析機関が限られていて、経費が高いという問題点がある。そこで、よ り簡便で安価な方法として酵素免疫化学測定法(ELISA)やレポータージーンアッセイ等のバイオアッセイ法 が近年利用されるようになっている。いずれにしても、環境負荷化学物質を分析するにおいて、試料中に含 まれる夾雑物を除去し目的化学物質を濃縮する「前処理」を行う必要があり、安価で迅速、かつ高回収率の 前処理技術が求められている。 本実習では 内分泌攪乱作用が疑われているビスフェノールAを水試料から抗体アフィニティーカラムを用 本実習では、内分泌攪乱作用が疑われているビスフェノ ルAを水試料から抗体アフィニティ カラムを用 いて精製・濃縮をおこない、簡便な試料前処理方法について取り上げる。 環境負荷化学物質による汚染 大気 水系 土壌 生物 農産物 モニタリング リスク評価 : 環境負荷化学物質 食物連鎖を通して人に 生物濃縮 例) 残留性有機汚染物質(POPs) 内分泌攪乱化学物質 ダイオキシン類 ある種の残留農薬 図1 環境負荷化学物質 -11-b-14 ビスフェノールA ビスフェノールAは、1891年にロシアの化学者ディアニン (A. P. Dianin) によって発見され1)、1905年にド イツのジンケ(T. Zincke)によって初めて合成された2)。1923年にドイツで樹脂のコーティング用途のために 生産が開始し、1945年頃エポキシ樹脂、1950年代にはポリカーボネート樹脂が開発され、それに伴いビス フ ノ ルAの大量生産が始まった。現在ではポリカ ボネ ト製のプラスチックを製造する際のモノマ や、 フェノールAの大量生産が始まった。現在ではポリカーボネート製のプラスチックを製造する際のモノマーや、 エポキシ樹脂の原料として利用されている。また、抗酸化剤、あるいは重合禁止剤としてポリ塩化ビニルの 可塑剤にも添加されている。ポリカーボネートは透明で熱に強く丈夫なため、その用途は幅広く、CD等の ディスク、携帯電話、窓ガラス、食器や哺乳瓶、歯科用シーラント(密閉剤)にも使われている3)。エポキシ樹 脂は、自動車用塗料、ゴルフクラブやテニスラケット等のスポーツ用品、食品や飲料の缶の内面塗装樹脂な ど数多く商業用に利用されている4)。ビスフェノールAの生産量は、2004年には世界中で約320万トン/年、 国内では約59万トン/年となった5)。 ポリカーボネートやエポキシ樹脂のようなビスフェノールAを原料とする合成樹脂では、強力な洗剤で洗浄 したり 酸 高温 液体に接触させた場合にビ したり、酸・高温の液体に接触させた場合にビスフェノールA成分が溶け出すことが知られている。東京都が ノ 成分が溶け出す とが知られ る 東京都が 1998年にポリカーボネート製学校給食用食器と哺乳瓶からビスフェノールAが溶け出すことを報告している。 また、学校給食用食器は使用期間が長くなると溶け出す量も増えることが知られている。検出された濃度は 0.3~120.4ppbの範囲であった 6) 。また、ビスフェノールAの環境中への放出が起こり得るのは、ビスフェ ノールAを含む物質または製品の製造、加工、使用、または廃棄のときである。環境省の平成10年から15 年までの環境実態調査では、水質および底質においてそれぞれ最大19 μg/L、350 μg/g乾燥重を検出して いる7) 。 ビスフェノールAは ビスフェノ ルAは、女性ホルモンであるエストロゲンに類似した生理作用を示すことが1930年代にドッズ 女性ホルモンであるエストロゲンに類似した生理作用を示すことが1930年代にドッズ (E. C. Dodds)とローソン(W. Lawson)らによって初めて明らかにされ8,9) 、内分泌攪乱化学物質、いわゆ る環境ホルモンとして疑われている。国立医薬品食品衛生研究所によると「性周期の異常は、ビスフェノー ルAが中枢神経に影響を与えたためと考えられている。大人は影響を打ち消すが、発達段階にある胎児や 子供には微量でも中枢神経や免疫系などに影響が残り、後になって異常が表れる可能性がある」(2008年5 月14日)とされている。また、厚生労働省は、「成人への影響は現時点では確認できない」としながらも、「公 衆衛生上の見地から、ビスフェノールAの摂取をできるだけ減らすことが適当」と報道発表(2008年7月8日) した10)。さらに、同日に一般消費者向けの「ビスフェノールAについてのQ&A」が公表されてる。 参考文献: 1) Dianin, A. P. (1891). Zhurnal russkogo fiziko-khimicheskogo obshchestva 23: 4922) Zincke, T. (1905). Justus Liebigs Ann. Chem. 343: 75-99 3) ポリカーボネート樹脂技術研究会のホームページ(http://www.polycarbo.gr.jp/index.html) 4) エポキシ樹脂工業会ホームページ(http://www.epoxy.gr.jp/) 5) ビスフェノールA安全性研究会ホームページ(http://www.bisphenol-a.gr.jp/index.html) 6) 東京都衛生局 (1998) 「給食用ポリカーボネート製食器の実態調査結果」 「給食用ポリカ ボネ ト製食器の実態調査結果」 7) 環境省 (2003) 「平成15年度内分泌攪乱化学物質における環境実態調査結果のまとめ」 8) Dodds, E. C.; Lawson, W. (1936). Nature 137: 996 9) Dodds, E. C.; Lawson, W. (1938). Proc. R. Soc. Lond., B, Biol. Sci. 125: 222-232 10) 環境省 (2008) 「食品安全委員会への食品健康影響評価の依頼について―ビスフェノールAがヒトの健 康に与える影響について―」(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/h0708-2.html) H3C CH3 HO IUPAC名 4 4'-ジヒドロキシ-2,2 4,4 ジヒドロキシ 2 2'-ジフェニルプロパン ジフェニルプロパン 分子式 C15H16O2 分子量 228.29 CAS登録番号 80-05-7 形状 淡いベージュ色の固体 融点 157 °C 沸点 220 °C OH 図2 ビスフェノールA -21-b-15 ビスフェノールAの前処理と分析方法 ビスフェノールAの分析試料は、水、土壌、農作物、食品、生物など多様である。これらに含まれるビスフェ ノールAを分析するには、まず、試料中の夾雑物を除いてビスフェノールAを抽出・精製する「前処理」と呼ば ノ ルAを分析するには まず 試料中の夾雑物を除いてビスフェノ ルAを抽出 精製する「前処理」と呼ば れる操作を行う必要がある。 一般に、水試料は液/液抽出法あるいは固相抽出法の2種類の方法を用いて前処理を行う(図3)。液/ 液抽出法は、試料と混じり合わない溶媒を用いてそれぞれに対する溶解度の差を利用する方法である。固 相抽出法とは、化学結合型シリカゲル、ポーラスポリマー、アルミナ、活性炭等の固定相(固相)を用いなが ら複雑な組成を示す試料中から特定の目的成分のみを選択的に抽出し、分離・精製を行っていく手法のこと をいう。 ビスフェノールAの液/液抽出法では、 ル の液 液抽出法では、 水試料(1L)をろ過した後、塩酸でpH3 液/液抽出法 固相抽出法 ~3.5に調整し、50 mLのジクロロメタ ンを添加して、10分間の振とう抽出を2 水試料 水試料 回行う。ジクロロメタン層を回収した後、 無水硫酸ナトリウムにて脱水し、ロータ ろ過 ろ過 リーエバポレータおよび窒素ガス気流 にて1 mLまで濃縮する。濃縮液をシリ カゲ カラムに添加し 100 mLのヘキ カゲルカラムに添加し、100 Lの キ 液/液振とう抽出 固相抽出注) サンで洗浄した後に100 mLのアセトン (溶媒:ジクロロメタン) ジクロロメタン溶出液 にて溶出する。このクリーンアップ操作 は夾雑物が少ない場合は省略すること も可能である。溶出液をエバポレータ 濃縮 濃縮 および窒素ガス気流にて約0.5 mLまで 濃縮する。一方、固相抽出法は、溶媒 クリーンアップ クリ ンアップ 誘導体化 抽出法と同様に水試料をろ過してpHを (シリカゲルカラム) 調整した後、あらかじめコンディショニ アセトン溶出液 ングをしたSep-Pack SP-2、 OasisTM 濃縮 HLB カートリッジまたはエムポアSDBRPSディスクに通水する。精製水で洗 濃縮 浄後、窒素ガス気流にて乾燥させ、10 GC/MS測定 mLジクロロメタンで溶出する。得られ た溶出液を無水硫酸ナトリウムで脱水 誘導体化 注)S P k SP 注)Sep-Pack SP-2、 2 OasisTMHLB O i TMHLB カート カ ト 後、窒素ガス気流を吹き付けて約0.5 リッジまたはエムポアSDB-RPSディスク等 mLまで濃縮して前処理液とする。 濃縮 機器分析は、JIS規格(K 0450-1010)としてガスクロマトグラフィー/質量 分析器(GC/MS)を用いることが規定さ GC/MS測定 れている。高速液体クロマトグラフィー にて検出することも可能である。衛生 試験法ではUV検出器を使 て測定す 試験法ではUV検出器を使って測定す 図3 ビスフェノールAの抽出・精製フローチャート ることになっているが、蛍光検出器を 使用するほうが高感度である。UV検 出に比べて約一桁感度向上が望める。 また、酵素免疫化学測定法(ELISA)を用いる方法も簡便に分析することができる。BPA (ビスフェノールA ) ELISAキット(チューブタイプ)並びに高感度BPA ELISAキット(マイクロプレートタイプ)が和光純薬から市販 されている。 参考文献: 環境庁水質保全局水質管理課 (1998) 「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(水質、底質、水 生生物)III フェノール類の分析法 ii ビスフェノールAとクロロフェノール類の分析法 」 -31-b-16 抗体とその食品リスク管理への利用 抗体は、特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して結合する働きをもつ。脊椎動物の感染防御機構 において、体内に侵入してきた細菌・ウイルスなどを抗原として認識して結合すると、その抗原と抗体の複 合体を白血球やマクロファージといった食細胞が認識・貪食して体内から除去するように働いたり、リンパ 球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。抗体は、免疫グロブリン(Ig)と呼ばれる物質 で、分子量5~7万のペプチド鎖からなる重鎖(H鎖)と2~3万の軽鎖(L鎖)がジスルフィルド結合(SS結合) プ ド鎖 鎖 鎖 軽鎖 鎖 がジ ド結 結 を介して結合し、それがさらに2本のSS結合で結合してY字型の構造をしている(図4)。様々な抗原と結合 できるようにY字型の先端のアミノ酸配列は多様な変化がみられる。この領域を可変領域と呼ぶ。それに対 し、あまり変化のない領域を定常領域という。 目的物質の抗体を取得するには、その物質をマウス、ウサギ、ヤギなどの動物に投与して、感染防御機 構を引き起こす。動物体内で作製された抗体産生細胞(脾臓細胞)を骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)と融合 し、増殖能をもったハイブリドーマ細胞を作製する。その中から目的物質に結合する抗体を産生する細胞を 選抜(スクリーニング)して その細胞から分泌される抗体を精製することにより単一な抗体(モノクローナル 選抜(スクリーニング)して、その細胞から分泌される抗体を精製することにより単一な抗体(モノクローナル 抗体)を得ることができる(図5)。一方、目的物質を投与した動物の血清として回収して、様々な抗体分子 が含まれている状態のものをポリクローナル抗体という。 抗体は、その物質に特異的に結合する性質から、様々な分野において利用さ 抗原 れている。食品のリスク管理においては、残留農薬、アレルゲン、牛海綿状脳 症(BSE)や大腸菌O157の検査を目的とした酵素免疫化学測定法(ELISA)キッ トが普及している。遺伝子組換え作物(GMO)の検査にもELISAが用いられる 場合がある。また、機器分析の前処理に抗体アフィニティーカラムを用いる方法 場合がある。また、機器分析の前処理に抗体アフィ ティ カラムを用いる方法 がある。食品分析分野において、現在市販されている抗体アフィニティーカラム には、天然カビ毒素(マイコトキシン)を精製・濃縮するためのものがある(表1)。 H鎖 L鎖 SS結合 可変領域 免疫 定常領域 図4 抗体の構造 + 表1 市販されているマイコトキシン用抗体アフィニティーカラム 商品名 目的物質 製造会社 アフラキング アフラトキシン B1/B2/G1/G2/M 堀場製作所 EASI-EXTRACT アフラトキシ アフラトキシン B1/B2/G1/G2 R-Biopharm Rhône アフラプレップ アフラトキシン B1/B2/G1/G2 R-Biopharm Rhône アフラプレップM アフラトキシンM1 R-Biopharm Rhône DONプレップ デオキシニバレノール R-Biopharm Rhône オクラプレップ オクラトキシンA R-Biopharm Rhône フモニプレップ フモニシン R-Biopharm Rhône EASI-EXTRACT ゼアラレノン ゼアラレノン R-Biopharm Rhône ミエローマ細胞 脾臓細胞 細胞融合 スクリーニング リ 細胞培養 抗体精製 図5 モノクローナル抗体の作製手順 -41-b-17 抗体アフィニティーカラムとその原理 複雑な組成を示す試料中から目的物質のみを抽出する方法とし て従来から液/液抽出法が利用されてきたが、この方法は、(1) エ マルジョンを形成してしまう、(2) 分離操作が複雑なため時間が掛か る、(3) 熟練を要するため再現性の良いデータが得られ難い等の問 題がある。また、最近では、 (4)多量の溶媒を使用するため作業環 ( ) 境上の問題も指摘されるようになった。一方固相抽出法では、この ような問題を解決するばかりでなく、多検体の迅速処理、固相抽出 装置による自動化、高い濃縮率と回収率といった効果が期待できる。 抗体アフィニティーカラムは、目的物質に特異的に結合するポリク ローナルまたはモノクローナル抗体を用いて、試料中の目的物質を 精製・濃縮するための固相抽出カラムである。一般の固相抽出カラ ムと比較して、抗体を使用するため目的物質の選択性が優れ、高 い回収効率が期待できる 市販には至 ていないが 農薬(アトラジ い回収効率が期待できる。市販には至っていないが、農薬(アトラジ ン1) 、ジウロン2)、クロリムロンエチル3)等)、ダイオキシン類4) 、ビス フェノールA 5)の抗体アフィニティーカラムの報告がある。 抗体アフィニティーカラムは、ガラスあるいはプラスチックシリンジ に、抗体を結合した担体(シリカゲル、セファロース、ガラスビーズ 等)を充填したものである。あらかじめコンディショニングをおこなっ たカラムに試料を通過させると、試料中の目的物質は抗体と結合す るが 他の夾雑物は結合できないため 洗浄するとカラム中には目 るが、他の夾雑物は結合できないため、洗浄するとカラム中には目 的物質のみが残る。これを適当な溶媒を通過させて、目的物質を抗 体から脱離させ、溶出することで、目的物質の精製・濃縮をおこなう ことができる(図6)。 洗浄 参考文献: 1) Chuang, J. C. et al. (2007) Anal Chim Acta. 583(1): 32-39 2) Zhang, Zhang X. X et al. al (2006) J Chromatogr A. A 1133(1 1133(1-2): 2): 112 112-118 118 3) Sheedy, C. and Hall, J. C. (2001) J Agric Food Chem. 49(3): 1151-1157 4) Concejero, M. A. et al. (2004) J Sep Sci. 27(13): 1093-1101 5) Zhao, M. et al (2003) J. Chromatogr. B. 783 : 401-410 水試料 :抗原(目的物質) :夾雑物 抗体アフィニティーカラム :担体 :抗体 図6 抗体アフィニティーカラムの原理 -51-b-18 溶 溶出 ビスフェノールA抽出・精製用抗体アフィニティーカラム 本実習では、水試料中のビスフェノールAを抗体アフィニティーカラムを用いて抽出・精製をおこなう。用 いる抗体アフィニティーカラムは、0.2 g(約0.8 mL)のProtein A Sepharose CL-4B(GEヘルスケア、 cat#17-0780-01)に抗ビスフェノールAモノクローナル抗体BBA2187を結合させ、ピメルイミド酸ジメチル 二塩酸塩(DPM)によって架橋したもの充填している(図7)。Protein Aは、免疫グロブリンGの定常領域 に結合する黄色ブドウ球菌の細胞壁由来タンパク質である。カラムは0.01%チメロサール(防腐剤)を含 むPBSを充填し、4℃で長期保存が可能である。 抗ビスフェノールA抗体BBA2187 本抗体は、ビスフェノールAハプテン(図8)を用いてマウスから調製したモノクローナル抗体である。ビ スフェノールAに対して極めて高い結合親和性と特異性を示すのが特徴である(表2)。 セファロース Protein A 表2 抗ビスフェノールA抗体BBA2187を用いたELISAにおける 交差反応性 + Protein A結合 セフ ロ ス セファロース IC50 (ng/mL) 化合物 抗体 交差反応性 (%) ビスフェノールA H3C CH3 HO -Cl +H2N 0.32 100 OH NH2+ Cl- ビスフェノールE C(CH2)5C H3CO OCH3 H 5.0 CH3 6.5 DPM HO HN HN C(CH2)5C OH NH NH ビスフェノールF H 図7 Protein A結合セファロースと抗体の結合 HO H 35 0.9 89 0.4 OH ジエチルスチルベストロール H3C HO H3CH2C CH3 O COOH HO 図8 ビスフェノールAハプテン -61-b-19 CH2CH3 OH 試薬調製 4人分を調製し、それぞれ1人分ずつ分注しておく。 1. PBS (pH 7.2) 約150 mL 10 mM NaH2PO4 / 0.9% NaCl を 100mLの10 mM Na2HPO4/ 0.9% NaClにpH 7.2になるまで 添加する。 10mM Na2HPO4/0.9% NaCl 終濃度 Na2HPO4·12H2O NaCl 分⼦量 使⽤量 10 mM 358.14 0.36 g/100 mL 0.9% 58.44 0.9 g/100 mL 10mM NaH2PO4/0.9% NaCl 終濃度 NaH2PO4·2H2O NaCl 分⼦量 使⽤量 10 mM 156.01 0.16 g/100 mL 0.9% 58.44 0.9 g/100 mL 4つのビーカーに30 mLずつ分注する。 2. 5%メタノール 50 mL 5% メタノール 終濃度. 分⼦量 使⽤量 メタノール 5% - 2.5 mL 脱イオン⽔ - - 47.5 mL 4つのビーカーに10 mLずつ分注する。 -71-b-20 ビスフェノールA抽出・精製フローチャート ビスフェノールA用抗体アフィニティーカラム 5 mL L PBS コンディショニング 5 mL 脱イオン水 50 mL 水試料 5 mL PBS 5 mL 脱イオン水 5 mL 脱イオン水 3 mL 5%メタノール 3 mL 100%メタノール 抗体アフィニティーカラム 溶出物 硫酸ナトリウムにて脱水 2000 rpm、5分間遠心分離 エバポレータにて乾固 バポ タ 乾固 1 mL 100%メタノールに溶解 20 μL 溶解物をHPLCに供試 -81-b-21 洗浄 溶出 実験操作 1) 抗体アフィニティーカラム(以下、カラム)をスタンドに固定し、カラム 下に溶媒トラップ用のビーカーを置く(図9)。 2) キャップを取り、カラム中のPBSを自然落下にて除く。 3) 5 mL PBSを添加し、自然落下にて通過させる。 4) 5 mL脱イオン水を添加し、自然落下にて通過させる。 図9 5) 50 mL水試料を適当量ずつ添加し、自然落下にて通過させる。 6) 5 mL脱イオン水を添加し、自然落下にて通過させる。 脱イオン水を添加し、自然落下にて通過させる。 7) 3 mL 5%メタノールを添加し、自然落下にて通過させる。 8) カラム下に新しい50mLビーカーを置く。3 mL 100%メタノールを添 加し、自然落下にて通過させ、溶出液をビーカーに回収する。 9) ロートにガラスウールを詰め、硫酸ナトリウムを入れ、15 mL 100% メタノールで洗浄する。新しい50 mLビーカーを下に置き、溶出液を 通過させて、さらに5 mLの100%メタノールで洗浄して、通過溶液を 回収する(図10)。 硫酸ナトリウム ガラスウール 10) 溶出液をガラス試験管に移し、2000 rpm、5分間遠心分離する。上 清を50 mLナス型フラスコに移す。 図10 11) 溶出液をロータリーエバポレータにて乾固する。 12) 1 mL 100%メタノールに溶解する。 13) 20 μLをHPLCに供試する。 HPLC条件: カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II 4.6mmI.D.x150mm (ナカライ) 移動相:アセトニトリル:水:酢酸=40:60:0.1, v/v/v 検出 励起波長275 nm、検出波長300 検出:励起波長275 検出波長300 nm -91-b-22 3.実習 2 農薬等のELISA測定とデータ処理 ㈱堀場製作所 三宅司郎 1-b-23 2008 年 8 月 26 日‐27 日 実習 2: 残留農薬等の ELISA 測定とデータ処理 [実習の概要と目的] 本実習では、堀場製作所製 残留農薬測定用 ELISA キットの内「殺虫剤ジノテ フラン測定キット*」を利用して、ELISA キットの基本的な操作方法と農産物中 の残留農薬測定の実際(添加回収試験)について、トマト**を例に実習する。 1 日目 10:00-12:00:ELISA 測定の基礎(同時再現性) 1 日目 13:00-16:00:ELISA 測定の基礎(検量線の作成と農産物(トマト) マトリックスの影響確認) 2 日目 10:00-16:00: 残留農薬測定(トマトを用いた添加回収試験) 2 日間の実習を通して残留農薬 ELISA 測定の基礎と実際を経験すると共に、 ELISA で測定可能な農薬の種類と農産物の組合せ、さらに農産物トレーサビリテ ィーの中での本測定法の有効性を理解することを目的としている。 * 殺虫剤ジノテフランの概要 ジノテフランは、三井化学によって開発されたネオニコチノイド系殺虫剤で、 その分子内にハロゲンを含まないユニークな構造を持つ。2002 年農薬登録。 一般名: ジノテフラン 化学名: (RS)-1-methyl-2-nitro-3-(tetrahydro-3-furylmethyl)guanidine NO2 化学式: N O N H N H 適用: カメムシ類などの半翅目に対して高い効果を示す他、双翅目、鱗翅 目、甲虫目など広範な害虫へ殺虫スペクトラムを示す。一方で、哺乳類、魚類、 鳥類への毒性が低いため、稲作用、園芸作物用、果樹用、茶用と広範囲な農業 現場で使用されている。 ** 実習にトマトを使用する理由 農産物には、後述の表4の「ジノテフランの食品中残留農薬基準値」に記載 されているように多くの種類がある。残留農薬を測定する際は、農産物ごとの 性質の違いから以下の3点に留意する必要がある。 1-b-24 ① 試料(農産物)のサンプリング: 食品衛生法では、農産物の可食部を測る ことになっているため、例えばトマトではへたを除く必要がある ② 磨砕均一化: 果菜類や果物は磨砕均一化しやすいが、葉菜類は繊維が多い ので使用するホモジェナイザーによっては磨砕に工夫が必要になる。また穀類 は予め水で膨潤させるなど、農産物により処理の異なる場合がある。 ③ 抽出: メタノールにより残留農薬を抽出するが、同時に農産物マトリック スも抽出されてくる。農産物によっては、マトリックスが測定に影響を与える。 トマトは、マトリックス影響が無く、且つサンプリングと磨砕均一化が容易 なことから、試料として最も扱いやすい農産物の一つである。本実習では、こ れらの理由から、トマトを測定対象に選択した。 添加 混合 + 検体溶液 混合物溶液 農薬酵素標識物溶液 固相化抗体 洗浄 競合反応 :抗体 :農薬 酵素(発色)反応 :農薬酵素標識物 : 基質(発色剤) 図1.直接競合 ELISA による残留農薬測定フロー [ELISA による残留農薬測定原理] 実習に用いるキットは、直接競合 Enzyme‐Linked Immunosorbent Assay (ELISA)を測定原理としている(図1参照)。農薬と特異的に反応するモノク ローナル抗体を96ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルの底面に固相 化し、農薬(標準溶液または試料溶液)と農薬酵素標識物の等量混合液を加え 1-b-25 て競合反応させる。反応終了後、未反応物を洗浄除去し発色試薬を加えると、 固相化抗体に結合した酵素標識物の酵素反応によって発色試薬中のテトラメチ ルベンジジンが酸化され、発色する。発色反応を発色停止試薬で停止させた後、 マイクロプレートリーダーで 450 nm の吸光度を測定する。標準溶液または試料 溶液中の残留農薬濃度が高いほど、競合する酵素標識物と抗体との結合量が減 るので、生じる吸光度は低くなる。標準溶液の農薬濃度とその吸光度から検量 線を作成し、試料中の残留農薬濃度を求める。 [測定対象] 農産物(野菜・果実類)が主な測定対象 穀類・環境水・土壌も測定可能: 穀類は乾物のため、まず粉砕均一化した後、 等量の水を加えて 30 分間静置し、膨潤した後測定に供する。環境水は、濾過し た試料を直接測定することが可能。その際、農薬標準試薬の溶解は、10%メタノ ールではなく、精製水を用いる。土壌も基本的に測定可能だが、測定対象の残 留農薬の抽出効率とマトリックス影響を予め確かめる必要がある。 [農産物中の残留農薬測定に必要な材料・装置類] 1.残留農薬測定キット キットの代表的な構成を、表1に記載する。 表1. キットの構成 構成品名 ① 農薬抗体プレート 容 量 8 ウェル×12 ストリ ップ(96 ウェル) 剤 型 数 量 乾燥品 1 枚 ② 農薬標準試薬 L 1 mL 凍結乾燥品 2 本 ③ 農薬標準試薬 H 1 mL 凍結乾燥品 2 本 ④ 農薬酵素標識物試薬 6 mL 凍結乾燥品 2 本 ⑤ 洗浄試薬(10 倍濃縮) 50 mL 液状品 1 本 ⑥ 発色試薬 13 mL 液状品 1 本 ⑦ 発色停止試薬 13 mL 液状品 1 本 ⑧ プレートシール 1 枚 2.キット以外に必要な試薬類 ①メタノール(試薬特級)、② 精製水、③ 10%メタノール 1-b-26 3.器具類 ①農産物(野菜・果実類)からの残留農薬抽出: 包丁、まな板、可変式マイ クロピペット(100μL 及び 1000μL)および各専用チップ、遠沈管(自立型; 50 mL)、メスシリンダー(50 mL)、天秤(5.0 g を正確に量れること) ②抽出液の濾過: 試験管(15 mL 容)、ロート、2 号濾紙、試験管たて ③濾液の希釈: 共栓試験管(10 mL 容)、マイクロピペット(100μL、1000μL) および専用チップ、 ④ELISA: 可変式マイクロピペット(100μL 及び 1000μL)および各専用チッ プ、試験管(5 mL 容)、メスシリンダー(500 mL) 4.装置類 ①ホモジェナイザー(ミキサーやフードプロセッサーでも良い) ②振とう機: 50 mL 遠沈管を振とう可能なもの ③マイクロプレート洗浄機: 96 ウェルマイクロタイター用 8 連洗浄機 ④マイクロプレートリーダー: 96 ウェルマイクロプレート用分光光度計(450 nm) [農産物中の残留農薬測定] 1.キット構成試薬の溶解・希釈 ①農薬標準試薬:試薬 L および H に 10%メタノール1mL を加えて溶解し、農薬 標準溶液 L および H とする。 ②農薬酵素標識物試薬:試薬に精製水 6 mL を加えて溶解し、農薬酵素標識物溶 液とする。 ③洗浄試薬:洗浄試薬全量(50 mL)に精製水 450 mL を加えて希釈し、洗浄液 とする。 2.測定試料の調製 野菜・果実 ↓所定量の試料を包丁で細切する。 ↓ホモジェナイザーで約 1 分間磨砕し、試料を均一化する。 ↓遠沈管に 5 g を量り取る。 ↓メタノール 25 mL を遠沈管に添加する。 ↓密栓後、振とう機で 30 分間振とう抽出する(120 回/分)。 ↓振とう抽出した液を、2号濾紙で濾過する。 ↓予め精製水 7.5 mL を入れた共栓試験管に、濾液 1 mL を加え、混合する。 測定試料(10%メタノール相当) 1-b-27 3.測定 農薬酵素標識物溶液 ↓150 μL ずつ必要数の試験管に分注する。 ↓150 μL の測定試料あるいは農薬標準溶液を添加し、混合する。 ↓抗体プレートの各ウェルに、上記混合液(100μL/ウェル)を分注する。 ↓プレートシールを貼り、15~30℃で1時間反応させる。 ↓マイクロプレート洗浄機(300μL/ウェル)で 3 回洗浄する。 ↓洗浄後、液がウェルに残っていないことを確認する。 ↓発色試薬(100μL/ウェル)を加えて 15~30℃で 10 分間反応させる。 ↓発色停止試薬(100μL/ウェル)を添加し、発色反応を停止させる。 ↓15 分以内に吸光度(450 nm)を、マイクロプレートリーダーにより測定する。 4.測定試料中の残留農薬濃度の計算 標準溶液における吸光度 ↓片対数方眼紙の横軸に農薬濃度を、縦軸に吸光度をプロットする。 ↓L&H 間で直線を引き、検量線を作成する。 ↓測定試料の吸光度をあてはめ、農薬濃度を読み取る。 ↓51 倍することにより、元の農産物中での農薬残留濃度を算出する。 [測定に際しての注意事項] ① キットは、使用 30 分程前に冷蔵庫から取出し、室温(15~30℃)に戻して から使用する。 ② 異なるロットの試薬を組合せて使用しない。 ③ 農薬抗体プレートは、8 ウェルのストリップタイプになっている。不使用の ストリップはラミネート袋に戻し、密封して冷蔵保存(2~8℃)する。 ④ 検量線は、測定ごとに作成する。本操作は、測定間差異を解消するため重要 である。 ⑤ 測定は、少なくとも 2 重測定で行う。本操作は、同一測定内差異を解消する ため重要である。 ⑥ 検量線範囲を超える高濃度の測定試料の場合は、10%メタノールで追加希釈 した後測定する。 ⑧ 発色開始から発色停止までの各ウェルの反応時間が何れも 10 分になるよう に正確に操作する。本操作は、発色が酵素反応のため重要である。 ⑨ 農薬を含む廃液、発色反応停止後の液(希硫酸を含む)は回収し、環境中に 廃棄しない。 ⑩測定対象の農産物によっては、マトリックス影響により擬陽性が生じる。擬 1-b-28 陽性が生じる代表的な農産物には、ホウレンソウやキュウリが知られている。 これらのマトリックスの本体は脂溶性物質で、メタノール抽出後水で希釈する ことでミセルを形成し、これが抗原抗体反応を物理的に阻害するために生じる と考えられている。このマトリックス影響は、水で希釈した試料後の試料を限 外濾過(分子量 10,000 でカット)することによって消失することが多い。また、 キットの感度が高く追加希釈できる場合も、マトリックス影響が消失する。実 際の残留農薬測定の場では、マトリックス影響のない条件を予め予備検討によ り確認することが重要である。 [堀場製作所製 残留農薬測定キットの種類] キットのリストを、表2に記載する。 表2.残留農薬測定キットのリスト 試薬キット名 対象農薬 剤 測定範囲 (ng/mL) アセタミプリド測定キット モスピラン 殺虫剤 0.3 - 4 イミダクロプリド測定キット アドマイヤー 殺虫剤 2 - 100 高感度フェニトロチオン測定キット スミチオン 殺虫剤 0.15 - 2 イソキサチオン測定キット カルホス 殺虫剤 1 - 20 クロルフェナピル測定キット コテツ 殺虫剤 2 - 10 マラチオン測定キット マラソン 殺虫剤 15 - 250 カルバリル測定キット デナポン 殺虫剤 1.5 - 30 クロチアニジン測定キット ダントツ 殺虫剤 1.5 - 15 ジノテフラン測定キット スタークル 殺虫剤 1.5 - 30 1-b-29 エマメクチン測定キット アファーム 殺虫剤 0.3 - 3 チアメトキサム測定キット アクタラ 殺虫剤 0.3 - 3 イプロジオン測定キット ロブラール 殺菌剤 1.5 - 30 イソプロチオラン測定キット フジワン 殺菌剤 6 - 100 ミクロブタニル測定キット ラリー 殺菌剤 0.2 - 2 殺菌剤 5 - 50 イマザリル測定キット - フルトラニル測定キット モンカット 殺菌剤 1 - 8 ビテルタノール測定キット バイコラール 殺菌剤 9 - 50 トリフルミゾール測定キット トリフミン 殺菌剤 2 - 20 クロロタロニル測定キット ダコニール 殺菌剤 0.15 - 1.5 ニテンピラム測定キット ベストガード 殺虫剤 5 - 100 [実習に使用するジノテフラン測定キットの交差反応性と残留農薬基準値] キットは、使用している抗体の反応特性に伴う特有の交差反応性を持つ。キ ットの使用に際しては、交差反応性を考慮して測定結果を判断する必要がある。 一方、残留農薬基準値が農産物ごとに設定されていることも、重要な考慮対象 である。キットによっては、その測定範囲の濃度が高く、基準値に対して測定 不能な農産物が生じる。 以下に、実習に用いるジノテフラン測定キットについて、キットの交差反応 性とジノテフランの残留農薬基準値を例示した。 1.ジノテフラン測定キットの交差反応性 ジノテフラン測定キットでは、表3のように同じネオニコチノイド系殺虫剤 クロチアニジンと高い交差反応性を示す。その他のネオニコチノイド系殺虫剤 1-b-30 や、混合剤として使用されている成分とは交差反応性が無いので、本測定キッ トで残留農薬を測定した場合、ジノテフランもしくはクロチアニジンがジノテ フラン換算濃度として表される。農薬を特定するためには、さらに GC や HPLC 等の化学分析を行う必要がある。 表3.ジノテフラン測定キットの交差反応性 化合物名 交差反応性(%) 化合物名 交差反応性(%) ジノテフラン 100 ピリフェノックス <0.1 クロチアニジン 154 カルプロパミド <0.1 アセタミプリド <0.1 フサライド <0.1 イミダクロプリド <0.1 プロベナゾール <0.1 チアクロプリド <0.1 テブフェノジド <0.1 ニテンピラム <0.1 トリシクラゾール <0.1 チアメトキサム <0.1 エトフェンプロックス <0.1 硫酸ニコチン <0.1 2.ジノテフランの農産物中残留農薬基準値 食品衛生法に基づき、各残留農薬は各農産物に対して基準値が設定されてい る。個別の基準値が設定されていないものは、ポジティブリスト制度により一 律基準(0.01 ppm)が適用される。表4に、ジノテフランの残留農薬基準値を 示した。ジノテフラン測定キットの測定範囲は、上述のプロトコールに準拠す ると 0.08 – 1.5 ppm となる。従って、本キットでは一律基準が適用される食品 へは、感度的に使用が困難である。実際には、ジノテフランが施用される食品 を中心に基準値が設定されているので、ほとんどの場合で使用することができ る。 表4.ジノテフランの食品中残留農薬基準値 食品名 米(玄米) 基準値 (ppm) 食品名 2 かぼちや(スカッシュを含む) 基準値 (ppm) 0.5 大豆 0.1 しろうり 2 ばれいしよ 0.2 すいか 0.5 てんさい 0.2 メロン類果実 だいこん類(ラディッシュを含む)の根 0.5 まくわうり だいこん類(ラディッシュを含む)の葉 3 その他のうり科野菜 1-b-31 1 0.5 2 かぶ類の根 0.5 ほうれんそう 15 かぶ類の葉 5 オクラ 2 クレソン 5 未成熟えんどう 5 はくさい キャベツ 芽キャベツ 1.4 えだまめ 2 その他の野菜 1.4 みかん 2 5 2 ケール 5 なつみかんの果実全体 1 こまつな 5 レモン 3 きような 5 オレンジ(ネーブルオレンジを含む) 3 チンゲンサイ 10 グレープフルーツ 3 カリフラワー 2 ライム 3 ブロッコリー 2 その他のかんきつ類果実 3 その他のあぶらな科野菜 5 りんご アーティチョーク 5 日本なし 1 チコリ 5 西洋なし 1 エンダイブ 5 もも 3 しゆんぎく 20 ネクタリン レタス(サラダ菜及びちしやを含む) 5 あんず(アプリコットを含む) その他のきく科野菜 5 すもも(プルーンを含む) ねぎ(リーキを含む) 5 うめ 0.7 2 5 10 5 その他のゆり科野菜 0.7 おうとう(チェリーを含む) にんじん 0.7 いちご 2 パセリ 5 ぶどう 10 セロリ 5 かき 2 みつば 5 マンゴー 1 その他のせり科野菜 5 綿実 0.4 トマト 2 茶 25 ピーマン 3 みかんの果皮 10 なす 2 その他のスパイス 5 その他のなす科野菜 5 その他のハーブ 5 きゆうり(ガーキンを含む) 2 1-b-32 10 [実習内容] 8月26日午前 10:00-12:00 課題: ELISA 測定の基礎(同時再現性) 目的: ELISA にて残留農薬を分析する場合、ピペット操作のバラツキによって 各ウェルの吸光度に差異が生じる。そこで、キットのストリップ1本を用い、 同時再現性試験(n=8)を行い、各人のピペット操作技術を確認すると共に、バ ラツキが大きいときは改善する。 材料: 持参するもの: 筆記用具、関数電卓 ジノテフラン測定キット: ジノテフラン抗体プレート: 1ストリップ プレートフレーム: 1枠 ジノテフラン酵素標識物試薬: 1本 洗浄試薬(10 倍濃縮)、発色試薬、及び発色停止試薬: 2名で1本 プレートシール: 適宜ハサミで裁断し使用 試薬類: 精製水: 10 mL 10%メタノール: 1 mL 器具類: 可変式マイクロピペット(100μL 及び 1000μL): 各1本 マイクロピペット専用チップ: 試験管(5mL 容): 8本 ストップウォッチ: 1 個 装置類: マイクロプレート洗浄機:4 名/台 マイクロプレートリーダー:実習/台 方法: ジノテフラン酵素標識物試薬 ↓蓋を開け、可変式マイクロピペット(1000μL)を用いて精製水 6 mL 加えて 蓋を閉める。ゆっくりと3-5回転倒混和し、液を溶解均一化する。 ↓試験管を8本用意し、可変式マイクロピペット(100μL)を用いて溶解した ジノテフラン酵素標識物試薬を 100 μL ずつ分注する。 ↓酵素標識物試薬を分注した試験管に 10%メタノールを 100 μL ずつ分注し、 1-b-33 撹拌混合する。 ↓混合した液を、可変式マイクロピペット(100μL)を用いてストリップ上の 各ウェルへ 100 μL ずつ分注する。 ↓プレートシールを1ストリップ分だけ切り取り、ストリップへ貼る。 ↓室温にて 30 分間静置する。この間、洗浄試薬(10 倍濃縮)を精製水で希釈し、 マイクロプレート洗浄機にセットする。 ↓マイクロプレート洗浄機で 3 回洗浄し、ウェル中の液を十分に吸い取る。 ↓発色試薬を 100 μL ずつ分注し、正確に 10 分間静置する。 ↓10 分後、直ちに発色停止試薬を分注し、発色を停止させる。この際、発色停 止試薬はピペットから強い目に押し出し(跳ねない程度)、分注と撹拌を兼ねる。 ↓発色停止後 15 分以内に、マイクロプレートリーダーにより 450 nm の吸光度 を測定する。 ↓得られた各ウェルの吸光度を集計し、平均値、SD、CV%を算出する。目安とし て、CV%が 10%以下なら許容範囲内、5%以下なら精度の高い操作が出来ている といえる(10%を超える方は、ピペット技術を改善します)。 結果 吸光度 平均値、SD、CV%: 1-b-34 課題: 8月26日午後 13:00-16:00 ELISA 測定の基礎(検量線の作製と農産物マトリックスの影響確認) 目的: ELISA は、検量線との比較により試料中の残留農薬濃度を求める。しか し、農産物によっては、抽出されたマトリックスが測定に影響を与える場合が ある。ここでは、キットに添付している標準試薬と各自調製した標準溶液、及 びトマト抽出液を用いて、検量線を描くとともに、トマトマトリックスの影響 を確認する。 材料: 持参するもの: 筆記用具、片対数グラフ用紙、関数電卓、定規 ジノテフラン測定キット: ジノテフラン抗体プレート: 3ストリップ プレートフレーム: 1枠 ジノテフラン標準試薬 L および H: 各 10%メタノール 1mL で溶解 ジノテフラン酵素標識物試薬: 1本 洗浄試薬(10 倍濃縮)、発色試薬、及び発色停止試薬: 2名で1本 プレートシール: 適宜ハサミで裁断し使用 試薬類: 精製水: 6 mL 10%メタノール: 7 mL トマト調製液(5 g のトマトに 25 mL のメタノールを加えて撹拌し 2 号濾紙で濾 過後、精製水にて 8.5 倍希釈したもの): 5 mL ジノテフラン標準溶液(300 ppb;10%メタノール): 100 μL 器具類: 可変式マイクロピペット(100μL 及び 1000μL): 各1本 マイクロピペット専用チップ: 試験管(5mL 容): 22 本 ストップウォッチ: 1 個 装置類: マイクロプレート洗浄機:4 名/台 マイクロプレートリーダー:実習/台 方法: 10%メタノール及びトマト調製液 ↓試験管①;900 μL、試験管②‐⑤;1000 μL ずつ分注する。 1-b-35 ↓ジノテフラン標準溶液を試験管①に 100μL 加えて、混合する。以下 500 μL ずつ次の試験管に移し、希釈列を調製する。5 本目の試験管は、ジノテフランを 加えない(ブランク)。 ↓ジノテフラン酵素標識物試薬を別の試験管 12 本に 150 μL ずつ分注する。 ↓キットに付属のジノテフラン標準試薬と各自調製した希釈列溶液を、酵素標 識物試薬を分注した試験管に 150 μL ずつ分注し、撹拌混合する。 ↓混合液を、以下の配置の通りストリップ上の各ウェルへ 100 μL ずつ分注す る(二重測定)。 ↓プレートシールを 3 ストリップ分だけ切り取り、ストリップへ貼る。 ↓室温にて 30 分間(通常は 1 時間)静置する。この間、洗浄試薬を精製水で希 釈し、マイクロプレート洗浄機にセットする。 ↓マイクロプレート洗浄機で 3 回洗浄し、ウェル中の液を十分に吸い取る。 ↓発色試薬を 100 μL ずつ分注し、正確に 10 分間静置する。 ↓10 分後、直ちに発色停止試薬を分注し、発色を停止させる。この際、発色停 止試薬はピペットから強い目に押し出し(跳ねない程度)、分注と撹拌を兼ねる。 ↓発色停止後 15 分以内に、マイクロプレートリーダーにより 450 nm の吸光度 を測定する。 ↓得られた各ウェルの平均吸光度を計算し、片対数グラフにプロットする。キ ットに添付のジノテフラン標準試薬による検量線と自作の多点検量線が重なれ ば、正しく測定できたことが判る。 一方、自作の多点検量線とトマト試料溶液による曲線が重なれば、トマト由 来のマトリックス影響はないといえる。一般に、マトリックス影響があった場 合は、10%メタノールによる検量線に比べて吸光度が低下することが知られて いる。 1 2 3 A 標準試薬 L 標準試薬 L MeOH 10 ng/mL B 標準試薬 H 標準試薬 H MeOH 10 ng/mL C MeOH ブランク MeOH ブランク トマト 10 ng/mL D トマト ブランク トマト ブランク トマト 10 ng/mL E MeOH 1.1 ng/mL MeOH 1.1 ng/mL MeOH 30 ng/mL F トマト 1.1 ng/mL トマト 1.1 ng/mL MeOH 30 ng/mL G MeOH 3.3 ng/mL MeOH 3.3 ng/mL トマト 30 ng/mL H トマト 3.3 ng/mL トマト 3.3 ng/mL トマト 30 ng/mL 1-b-36 結果 1 2 3 A B C D E F G H 標準試薬 L MeOH 1.1 ng/mL トマト 1.1 ng/mL 標準試薬 H MeOH 3.3 ng/mL トマト 3.3 ng/mL MeOH 10 ng/mL トマト 10 ng/mL MeOH 30 ng/mL トマト 30 ng/mL MeOH ブランク トマト ブランク 1-b-37 課題: 8月27日 10:00-16:00 残留農薬測定(トマトを用いた添加回収試験) 目的: ジノテフランを添加したトマトを対象に、ジノテフラン測定キットを 用いてその濃度を測定し、回収率を算出する。この組み合わせにおいて、回収 率が 70%-120%に収まることを確認する。 材料: 持参するもの: 筆記用具、片対数グラフ用紙、関数電卓、定規 ジノテフラン測定キット: ジノテフラン抗体プレート: 2ストリップ プレートフレーム: 1枠 ジノテフラン酵素標識物試薬: 1本 洗浄試薬(10 倍濃縮)、発色試薬、及び発色停止試薬: 2名で1本 プレートシール: 適宜ハサミで裁断し使用 試薬類: 精製水: 50 mL メタノール:150 mL トマト磨砕物: 30 g ジノテフラン標準溶液( 100 ppb;メタノール): 2 mL ジノテフラン標準溶液( 500 ppb;メタノール): 2 mL ジノテフラン標準溶液(1000 ppb;メタノール): 2 mL 器具類: 可変式マイクロピペット(100μL 及び 1000μL): 各1本 マイクロピペット専用チップ: 試験管(5 mL 容): 8本、試験管(15 mL 容): 6 本 共栓試験管(10 mL 容): 6 本 ストップウォッチ: 1 個 装置類: マイクロプレート洗浄機:4 名/台 マイクロプレートリーダー:実習/台 方法: 測定試料の調製(磨砕均一化したトマト) ↓遠沈管(6 本)に各 5 g を量り取る。 ↓メタノール 24 mL を遠沈管に添加する。 1-b-38 ↓ジノテフラン標準溶液を 1 mL ずつ添加する(3 濃度 2 本ずつ)。 ↓密栓後、振とう機で 15 分間振とう抽出する(120 回/分)。 ↓振とう抽出した液を、2号濾紙で濾過する(15 mL 容試験管)。 ↓精製水 7.5 mL を入れた共栓試験管に、濾液 1 mL を加えて 10%メタノール相当 の抽出液を調製し、これを測定試料とする。 測定試料のキットへの適用 ↓ジノテフラン酵素標識物溶液を試験管(5 mL 容)8 本に 150 μL ずつ分注す る。 ↓キットに付属のジノテフラン標準溶液と各自調製した測定試料を、酵素標識 物溶液を分注した試験管に 150 μL ずつ分注し、撹拌混合する。 ↓混合液を、以下の配置の通りストリップ上の各ウェルへ 100 μL ずつ分注す る(二重測定)。 ↓プレートシールを 2 ストリップ分だけ切り取り、ストリップへ貼る。 ↓室温にて 30 分間静置する。この間、洗浄試薬を精製水で希釈し、マイクロプ レート洗浄機にセットする。 ↓マイクロプレート洗浄機で 3 回洗浄し、ウェル中の液を十分に吸い取る。 ↓発色試薬を 100 μL ずつ分注し、正確に 10 分間静置する。 ↓10 分後、直ちに発色停止試薬を分注し、発色を停止させる。この際、発色停 止試薬はピペットから強い目に押し出し(跳ねない程度)、分注と撹拌を兼ねる。 ↓発色停止後 15 分以内に、マイクロプレートリーダーにより 450 nm の吸光度 を測定する。 ↓得られた各ウェルの平均吸光度を計算し、ジノテフラン標準試薬の結果を片 対数グラフにプロットし検量線を作成する。測定試料の吸光度を検量線に重ね、 対応する濃度を求める。得られた濃度を 51 倍し、トマト中のジノテフラン濃度 を算出する。添加した濃度で割り、回収率(%)を求める。トマトは、マトリ ックス影響が無いか極めて小さい農産物として知られており、回収率として 100%-120%に収まることが見込まれる。 1-b-39 1 2 A 標準試薬 L 標準試薬 L B 標準試薬 H 標準試薬 H C トマト1( 100 ppb) トマト1( 100 ppb) D トマト2( 100 ppb) トマト2( 100 ppb) E トマト3( 500 ppb) トマト3( 500 ppb) F トマト4( 500 ppb) トマト4( 500 ppb) G トマト5(1000 ppb) トマト5(1000 ppb) H トマト6(1000 ppb) トマト6(1000 ppb) 結果: 1 2 A B C D E F G H 回収率: トマト1、 トマト2、 トマト3 トマト4、 トマト5、 トマト6 以上 1-b-40 4.実習 3 CdなどのELISA測定とデータ処理 ㈱住化分析センター 山科 清 1-b-41 カドミエール説明資料 おコメ中Cdの迅速測定法について (商品名:カドミエールTM) 試験発売:2007年8月 1.おコメ中Cd問題と規制 2.Cd測定結果 3.測定技術と展開 住化分析センター 営業本部 食品科学営業部 おコメ中Cdの汚染問題とは 昭和35年頃神通川流域でのイタイイタイ病が発端 原因;鉱山から排出したCdが水田の土壌を汚染した おコメを長期にわたり体内摂取したため発病した。 ・水田中のCd汚染 Cdは、鉱物や土壌などの中に天然に存在する重金属元素。 日本には、全国各地に鉛、銅、亜鉛の鉱山や鉱床が多数存在。 鉱山や精錬所など人の活動によって環境中へ排出されたものや いろいろな原因により河川の底に蓄積されたものなどが、水田 の土壌に蓄積してきた。 ・鉱山廃水以外のCd汚染は、Cd-Ni電池、顔料、合金等でCdを 使用した工場やゴミ焼却場等からの土壌汚染がある。 1-b-42 1 国の動向(規制)について •昭和45年(1970)7月からCdの安全基準の設定 (玄米1.0ppm、 精米0.9ppm) ・リスク管理:農林水産省(全国米麦改良協会H16年~ ) 0.4ppm以上の玄米については、農家から買い上げ、 0.4ppm~1.0ppm未満のものは非食用(工業用糊等) に、1.0ppm以上のものは焼却処理している。 ・H19年以降もお米中のCd含有実態の把握を継続: Cd含有の抑制(農用地の客土等の対策、農作物のCd 吸収抑制技術等)、農用地の浄化技術や野菜等の品目 別Cd濃度の解明とCd吸収抑制技術の研究開発を実 施することになっている •食品中Cdの国際基準(コーデックス委員会);2006年7月 精米中のCdは0.4mg/Kg以下、小麦は0.2mg/Kg以下 カドミウム簡易測定前処理法開発 既にコーデックス委員会で採択されたカドミウムの国際基準値 既にコーデックス委員会で採択されたカドミウムの国際基準値 食品群 穀類(そばを除く) 基準値 (mg/kg) 0.1 備考 小麦、米を除く ふすま、胚芽を除く 小麦 0.2 根菜、茎菜 0.1 セロリアック、ばれいしょを除く ばれいしょ 0.1 皮を剥いだもの 豆類 0.1 大豆(乾燥したもの)を除く 葉菜 0.2 その他の野菜 (鱗茎類、アブラナ科野菜、 ウリ科果菜、その他果菜) 精米 0.05 食用キノコ、トマトを除く 0.4 海産二枚貝 2 カキ、ホタテガイを除く 頭足類 2 内蔵を除去したもの 1-b-43 2 外国産のコメのカドミウムの含有量(農林水産省資料) 各国において50点以上のコメのカドミウムを分析した結果(文献情報から調査)。 外国産のコメは、1 kg当たり平均して0.01~0.2 mgのカドミウムを含有。 3位:5200万トン 6位:2600万トン 2位:インド 一億万トン 1位:一億万トン以上 9位:1100万トン 注)アメリカ、インドネシア、中国で、2つの平均値があるのは、異なる文献に由来しているため。 表2 平成17年度産国内米のCd調査結果(農林水産省) (1)重点調査 1909分析点数 H18年度調査結果:白馬村3点のみ 1-b-44 3 食品由来のカドミウム摂取量 厚生労働省国立医薬品食品衛生研究所は、1977~2004年度にわたって日常食の汚染物質の 摂取量調査を実施。 2004年度の調査結果によれば、日本人の日常食からのカドミウムの1日摂取量は、21.4μgで、 この10年間はほとんど変わっていない。 また、このカドミウムの摂取量をFAO/WHO合同食品添加物専門家会議が定めたカドミウムの 暫定耐容摂取量(人の体重1 kg当たり 1週間7μgまで) と比較すると、 カドミウムの食品からの摂取量は、暫定耐容摂取量の約4割に相当。 食品由来のカドミウム1日摂取量21.4μg×7日÷50 kg = 43% 人の体重1 kg当たり1週間当たりのカドミウムの暫定耐容摂取量7μg/kg コメからのカドミウム摂取が 食品由来の全Cd摂取量の約1/2 Cd濃度の高い食品ランク お米・米製品>野菜・海藻> 魚介類>穀類>大豆 農用地土壌汚染対策地域位置図 (H17.12 環境省水・大気環境局資料) ・・・図中○印がCd関連を表示 1-b-45 4 コメ中カドミウムの開発背景 国内流通米に含まれるカドミウム(Cd)濃度 :0.4ppm以下 規制値を超えているコメが0.2% →政府による買い上げ 現状の分析法は、機器分析(AA,ICP法など)が主流であるが、 ● 現場での分析が困難 ● 分析精度は高いが、時間がかかる(約5時間/1検体) ● 分析費用が高い(初期投資と委託料) 短時間で多量に流通する米の測定には対応できない オンサイトでの簡易分析技術のニーズ ・特定重金属(Cd)と選択的に結合するモノクローナル抗体を開発 ・米中のCdを迅速かつ簡便に検出・定量する測定キットを開発。 ・コメのCd測定のための前処理法の開発 ・コメ(玄米)溶出液の分析結果 サンプル1 (ppm) サンプル2 (ppm) サンプル3 (ppm) サンプル4 (ppm) Ave (ppm) 交差反応性 (%) Ave×交差反応性 Cd 0.0007 0.0054 0.0030 0.0849 0.0235 100 2.35 Mn 1.17 2.26 2.12 1.75 1.825 0.724 1.32 Fe 0.063 0.055 0.061 0.088 0.067 0.031 0.002 Cu 0.063 0.100 0.067 0.076 0.077 1.354 0.104 Mg 166.90 156.10 176.00 170.00 167.25 0.006 1.00 Zn 2.905 2.299 2.543 2.327 2.519 0.568 1.43 Cdに対して;Mgは7千倍、Znは100倍、Mnは80倍存在 Cd抗体に対してCu,Mn,Znの順に影響 技術開発のポイント; Mg、Zn、Mnの含有量が多いため前処理にて取り除く必 要がある。(またはCdを選択的に抽出する方法の開発) 1-b-46 5 前処理カラム開発と精製メカニズム 玄米の 希塩酸抽出液 Mg Cd Fe Mn Cu Zn Mn Cd Fe 希塩酸 (洗浄) 希硝酸 (回収) Cd Cd Zn Cd Cu Cd ①コメの粉砕 ②希塩酸によるCdの抽出 ③希塩酸による洗浄 ④希によるCdの溶出 Cd シリカゲル Cd Cd Mg 分離カラム Mg Mn Fe Fe Cu Mg Mn Cu Zn Zn Cd Cd Cd Cd ポイント:Cd選択性(分離精製)カラムの開発 ・Cdのみをカラムに吸着させ、他の重金属が除去できること! ・5~10倍程度の濃縮が可能なこと ・短時間に多検体の処理が可能なこと 抗重金属(Cd)モノクローナル抗体の開発 ・抗原及び抗体とは 抗原 Y 体に入ると、それに対して抗体が作られたり、リンパ球が増える反応を起こしたり する物質。物質の代表はタンパク質。 特徴 1.異質:生体にとって異物 2.分子が大きい:通常はタンパク質や多糖類 3.分子の形が複雑 4.個体差 特定の相手(抗原)とだけ1対1の反応性を持って結合するタンパク質 抗体 ・抗原抗体反応とは 人間及び高等動物には外部からの異物である「抗原」に対して防衛機能があり、体内 に「抗原」が侵入すると「抗原」に対する「抗体」が作られる。このような反応を「抗原抗 体反応」という。 1-b-47 6 抗重金属抗体作製用重金属抗原の作製 従来の常識 抗体生産 タンパク質 タンパク質 薬物(環境 ホルモン、 等)のような 小さな分子 タンパク質 大きな分子を付けて 免疫する 可能 金属イオン タンパク質 分子が小さすぎ、大 きな分子に付ける適 当な方法がない 不可能 可能 (抗体はできない) 新しい技術 接着用分子 (キレート剤) 接着用分子を介して 金属イオンを大きな 分子につけた。 タンパク質 抗体生産 が可能 ポイント:小さな重金属をキレート試薬で錯体とし、タンパク質に結合させて抗体を作成した イムノクロマトの測定メカニズム 試料 抗体 Y (カドミウム) Y Y 混合 抗原抗体反応 Y Y + → カドミウム 抗体 複合体 カドミウム 濃度 滴下 浸透 (3) 低 (0) テストライン 抗体が通過 テストライン Y Y Y 膜 高 Y Y Y 膜固定 カドミウム テストライン 抗体が結合 (発色) 1-b-48 7 3 カドミウム濃度と発色の関係 赤色が濃いものはCdが少なく、白に近いほどCd濃度高い! 色が濃い 100 カドミウム濃度 relative signal (%) 80 0ppb 30ppb 60 40 20 100ppb 0 テストライン 色が薄い 10-4 10-3 10-2 10-1 100 Cd conc. in sample solution (mg L-1) カドミウム濃度 クロマトリーダー カドミエールによる汚染米の実証試験 ・実試料の測定結果(相関性) ImC法とICP&AA法との相関 ICP&AA法(ppm) 1.4 y = 1 .0 0 45 x R 2 = 0.9 62 2 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 ImC法(ppm) 1-b-49 8 カドミエールのモニター試験結果 試料 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 本法 AA法 差 試料 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.11 <0.1 0.11 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.13 <0.1 <0.1 <0.1 0.09 0.12 0.11 0.07 0.08 0.08 0.10 0.09 0.12 0.07 0.05 0.08 0.07 0.06 0.06 0.09 0.12 0.06 0.07 0.08 - - - - - - 0.01 - 0.01 - - - - - - - 0.01 - - - 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 測定場所:県研究機関 本法 AA法 差 試料 本法 AA法 差 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.11 <0.1 0.10 0.14 <0.1 0.13 0.28 <0.1 <0.1 0.11 0.07 0.12 0.09 0.06 0.07 0.08 0.09 0.07 0.08 0.10 0.12 0.11 0.10 0.13 0.10 0.12 0.24 0.08 0.08 0.12 - - - - - - - - - - 0.01 - 0.00 0.01 - 0.01 0.04 - - 0.01 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 <0.1 <0.1 <0.1 0.10 <0.1 <0.1 <0.1 0.11 <0.1 <0.1 <0.1 0.12 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.06 0.08 0.11 0.10 0.10 0.09 0.06 0.10 0.10 0.08 0.07 0.11 0.08 0.07 0.06 0.08 0.08 0.09 0.06 0.07 - - - 0.00 - - - 0.01 - - - 0.01 - - - - - - - - 実試料60検体の測定において、本法とICP法の結果が良く一致し、誰でも測定可能 カドミエールの特徴 •高い技術力: 世界初の金属抗体を用いた測定 •迅速測定: 100検体/日(AA法;10検体/日) •安価: 測定キット定価(2千円/本) •高精度: 機器分析との相関性大(R2=0.96) カラム精製&抗原抗体反応によるW選択性 •簡単測定: 特別な習熟不用(誰でも測定可能) (AA法&ICP法は習熟が必要) •測定室: 特別な実験室は不要。 (AA法は専用測定室が必要) •測定形態: キット販売と受託測定。 (AA法は受託測定のみ5千円~/本) 1-b-50 9 カドミエール製品の展開 特徴: ①世界初の重金属測定バイオセンサー ②迅速測定(100検体/日)、③安価、④簡単測定 環 医 血液検査用 ・血中重金属汚染 食 土壌汚染調査用 ・汚染の判定 ・汚染範囲の特定 ・浄化効果の確認 水質汚染調査用 ・工場廃水検査 ・飲料水、下水検査 住 食品汚染調査用 ・農作物、果物、茶 ・魚介類、海藻、 ・生物濃縮の把握 ・作物の抜取り検査 ・食品土壌相関 住環境調査用 ・アレルギー検査 住化分析センターとは; 住友化学100%子会社、国内最大の総合分析評価会社 事業所;千葉、筑波、大阪、愛媛、岡山、大分 営業所;東京、大阪、名古屋、千葉、筑波、愛媛、岡山、大分、福岡 経営理念;すべては分析に始まる。輝かしい未来の設計のために 最高の分析技術を通じて人類と社会に貢献します。 SCAS 電子分野 環境分野 医薬分野 工業支援 ・分析受託&分析法開発 ・研究開発受託 ・コンサルティング 行動基準 Speedy Cost-conscious Accurate Service 詳細はホームページを参照願います:http://www.scas.co.jp 1-b-51 10 カドミエール測定操作マニュアル 1/4 2008.08.27~28 住化分析センター 工程1:前処理 Step1-1:試料(コメ)粉砕 ①スプーンを用いてコメ約10gを上皿天秤で秤量する。 ②秤量したコメをラボミルサーの容器内に入れ、蓋をする。 ③タイマーを60秒にセットし、60秒間粉砕する。 ④粉砕コメをポリ袋に入れる。 ⑤ラボミルサーの回転羽とスプーンは、刷毛または紙で付着したコメを取り除く。 ラボミルサー 粉砕コメ 天秤 コメ試料 試料 上皿電子天秤 ラボミルサー タイマー ポリ袋 スプーン 3~5 コメA 共通2個 共通2個 共通4個 3~5枚 コメA 各自1個 コメB 持参コメC 麦E ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF Step1-2:希塩酸によるCd抽出 ①PPボトルの蓋を開け上皿天秤の上に置く、表示が安定したら風袋をゼロにする。 ②天秤の表示が2.00gになるまで、スプーンで粉砕コメをPPボトルに入れる。 ③ピペットに10mLチップを装着し、PPボトルに0.1M塩酸を2回採取する。 ④採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑤PPボトルの蓋をし、60秒間、手で振とうしてCdを抽出する。(5分間静置する) ⑥別のPPボトルの蓋を開け、円形ろ紙を四折りしたものを入れる。 注)濾紙をセットする際には濾紙がPPボトルから外れないようご注意ください ⑦上のCd抽出液をゆっくりろ紙の上に注ぎろ過する。 ⑧ろ過が終了したら、PPボトルの蓋をし、ろ紙は廃棄物入れのポリ袋に入れる。 チップ 塩酸 ろ紙 ろ過 天秤 PPボトル ピペット 粉砕試料 電子天秤 PPボトル-小 ピペット(10mL用) チップ(10mL用) 0.1M塩酸 円形ろ紙 スプーン 3~5 コメA 共通2個 3~5 コメA 各自1個 3~5個 コメA 各自200mL 3~5個 コメA 各自1個 コメB 持参コメC 麦E ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF 1-b-52 2/4 Step1-3:分離カラムによるCd吸着 ①PPボトル(大)の蓋を開けて分離カラムを入れ、蓋に分離カラムを引っ掛ける。 ②ピペットに新しい1mLチップを装着し、上記コメ抽出ろ液1mLを採取する。 ③採取液1mLを分離カラムの中心に入れ、通液(自然落下)する。 ④採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑤分離カラムからの液滴が落下しなくなるまで待つ。 Cd吸着 ピペット チップ PPボトル(大:廃液用) 分離カラム PPボトル-大(試験管) 分離カラム ピペット(1mL用) チップ(1mL用) 3~5 コメA 3~5 コメA 各自1個 3~5個 コメA コメB コメB 持参コメC 麦E 持参コメC 麦E ソバF ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF Step1-4:分離カラムの希塩酸洗浄 ①ピペットに新しい1mLチップを装着し、0.1M塩酸1mLを採取する。 ②採取液を分離カラムの中心に入れ、通液して洗浄する。 ③採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ④スポイトを分離カラムに圧着し、残存液を押し出す。 ⑤PPボトル(大)の中の廃液は、廃液瓶に入れて処分する。 ⑥PPボトル(大)は、水で洗浄して廃棄物入れのポリ袋の中に廃棄する ピペット チップ 塩酸 Cd洗浄 0.1M塩酸 ピペット(1mL用) チップ(1mL用) スポイト 廃液瓶 各自200mL 各自1個 3~5個 コメA 1~2個 共通2個 コメB 持参コメC 麦E ソバF Step1-5:分離カラムからのCd溶出回収 ①密栓付きPP試験管を分離カラムの下に取り付ける。 ②ピペットに新しい1mLチップを装着し、純水1mLを採取する。 ③採取液を分離カラムの中心に入れ、通液してCdを溶出回収(コメ測定液)する。 ④採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑤スポイトを分離カラムに圧着し、残存液を押し出す。 ⑥密栓付きPP試験管の栓をし、Cd測定用試料とする。 ⑦処理後の分離カラムは、廃棄物入れのポリ袋の中へ廃棄します。 ピペット チップ 純水 Cd溶出 PPボトル-大 密栓付きPP試験管 純水 ピペット(1mL用) チップ(1mL用) スポイト 3~5個 コメA 3~5個 コメA 各自200mL 各自1個 3~5個 コメA 1~2個 コメB コメB 持参コメC 麦E 持参コメC 麦E ソバF ソバF コメB 持参コメC 麦E ソバF 1-b-53 3/4 工程2:イムノクロマト測定 注1)測定は室温環境下(15℃~25℃)で行ってください 注2)測定時の温度や湿度条件の変化によって測定結果に影響が生じることがありますので 測定中に急激な温度・湿度変化が起こらないようにしてください。 注3)冷暖房の風が当たる場所や直射日光の当たる場所で行わないで下さい Step2-1:混合溶液の調製 ①チューブ立てに必要本数のチューブを準備し、試料名と標準液濃度を記載する。 ②ピペットに新しい200μLチップを装着し、各標準試料液(10,30,60ppb)を採取する。 ③採取した各標準試料液を、同じ標準液名の各チューブの中に入れる。 ④採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑤ピペットに新しい200μLチップを装着し、各々のチューブに緩衝液380μLを 200μLと180μLを二回に分けて採取して加える。 ・まず、ピペットの数字を200にセットし、200μLを採取し、すべてのチップに加える。 ・次に、ピペットの数字を180にセットし、すべてのチップに180μLを採取する。 ⑥採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑦ピペットに新しい200μLチップを装着し、各コメ測定液20μLを採取する。 ⑧採取したコメ測定液を、同じ試料名の各チューブの中に入れる。 ⑨採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑩ミキサーですべてのチップを、順次5~10秒程度振動混合を二回実施する。 チューブ 緩衝液 チューブ立て チューブ ピペット(20~200μL用) チップ(2~200μL用) Cd標準液 Cd測定用試料 緩衝液 ミキサー チューブ立て 1個 6~8個 各自1個 6~8個 共通 3~5 共通 共通 ピペット チップ ミキサー コメA コメA コメA コメA コメB コメB コメB コメB 持参コメC 持参コメC 持参コメC 持参コメC 麦E 麦E 麦E 麦E ソバF ソバF ソバF ソバF コメA コメB 持参コメC 麦E ソバF 標準用3個 標準用3個 標準用3個 標準用3個 Step2-2:抗原抗体反応 ①必要本数の抗体入りバイアル瓶を準備し、試料名と標準液濃度を記載する。 ②バイアル瓶を蓋をした状態で、底面を下にして実験台上で強く叩きつける。 注)ごく稀に、試薬が蓋や壁面に付着している場合があります。本操作で、試薬を底面に落して下さい ③ピペットに新しい200μLチップを装着し、上記、各混合溶液100μLを採取する。 注)バイアル底部の内容物が完全に溶解していることを確認して下さい ④採取した各混合溶液を、同じ表示名の各バイアル瓶の中に入れる。 ⑤採取後、ピペットのチップを廃棄物入れのポリ袋の中で脱着する。 ⑥ミキサーですべてのバイアルを、順次5~10秒程度振動混合を二回実施する。 ピペット チップ 混合液 ミキサー 抗体入りバイアル瓶 チューブ バイアル瓶 ピペット(20~200μL用) チップ(2~200μL用) ミキサー 6~8 6~8 各自1個 6~8 共通 コメA コメA コメA コメA コメB コメB コメB コメB 1-b-54 持参コメC 持参コメC 持参コメC 持参コメC 麦E 麦E 麦E 麦E ソバF ソバF ソバF ソバF 標準用3個 標準用3個 標準用3個 標準用3個 4/4(完) Step2-3:クロマト展開・読み取り ①必要本数のイムノクロマトデバイスを準備、試料名と標準液濃度を記載する。 注)アルミ袋を開封した後、残りのカドミウム抗体入りバイアルは密封し、湿気を避けて保存する。 ②ピペットに新しい200μLチップを装着し、各バイアル瓶から75μLを採取する。 注)マイクロピペットで混合液を採取する際に、2~3回チップ内で溶液を混合してから採取する。 ③イムノクロマトデバイスの円形部分の中心にピペット内の液をゆっくり滴下する。 注)試料を滴下する際デバイスとチップの先が直接触れない様にして下さい ④タイマーを40分に設定し、滴下40分間展開する。 注)試料を滴下してから測定するまでの時間は、必ず40分から50分の間で行って下さい ⑤クロマトリーダーでデータ(数値)を読み取る。 クロマトデバイス ピペット チップ クロマトデバイス ピペット(20~100μL用) チップ(20~100μL用) タイマー クロマトリーダー 6~8 コメA 各自1個 コメA 6~8 コメA 共通4個 共通2個 展開後デバイス コメB コメB コメB 持参コメC 持参コメC 持参コメC クロマトリーダー 麦E 麦E 麦E ソバF ソバF ソバF 標準用3個 標準用3個 標準用3個 Step2-4:測定値計算 ①パソコンを立ち上げ、イムノクロマト計算ソフト(Excel)を開く。 ②エクセルシート等の必要箇所(標準液、試料コメ等)に上記吸光度を入力し、 コメ中カドミウムを計算する。 パソコン プリンター パソコン 共通1~2個 共通1~2個 1-b-55 プリンター マイクロピペットの取り扱いのポイント 1.マイクロピペットの精度確認 (1)1mL用マイクロピペットの精度確認 ①電子天秤を開け、皿の上に蓋の開いたPPボトルを置き閉める。風袋ゼロボタンを押す。 ②マイクロピペットにチップを取り付け、垂直に保って純水中に浸して吸引、放出を2回繰り返す。 ③純水1mLを採取し、電子天秤を開け、ppボトル内に純水を入れ、扉を閉め、その重量を求める。 ④電子天秤を開け、風袋ゼロボタンを押す。 ②~④の操作をくり返し10回のデータを採取し、再現精度(変動係数%)を求める。 測定数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均値 標準偏差 変動係数% 精度% 平均値+2σ 平均値-2σ 重量 使用器材 ①電子天秤;最小計量単位0.0001g ②1mL用マイクロピペット ③1mL用チップ ④純水 ⑤PPボトル 1台 1個 1個 1個 メーカー精度:±0.4% メーカー再現性:0.2%以下 (2)20または100μL用マイクロピペットの精度確認 ①電子天秤を開け、皿の上に蓋の開いたPPボトルを置き閉める。風袋ゼロボタンを押す。 ②マイクロピペットにチップを取り付け、垂直に保って純水中に浸して吸引、放出を2回繰り返す。 ③純水1mLを採取し、電子天秤を開け、ppボトル内に純水を入れ、扉を閉め、その重量を求める。 ④電子天秤を開け、風袋ゼロボタンを押す。 ②~④の操作をくり返し10回のデータを採取し、再現精度(変動係数%)を求める。 測定数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 精度% 平均値+2σ 平均値-2σ 重量 使用器材 ①電子天秤;最小計量単位0.0001g ②20または100μL用マイクロピペット ③20または100μL用チップ ④純水 ⑤PPボトル 1-b-56 1台 1個 1個 1個 (3)各人によるマイクロピペットの採取バラツキ確認(各自採取データのまとめ) ①100μL用マイクロピペットの精度確認 測定者 1 2 3 4 5 6 7 8 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 精度% 平均値+2σ 平均値-2σ 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 最小値 最大値 メーカー精度:±1.0%(99.0~101.0μL) メーカー再現性:0.6%以下 ②20μL用マイクロピペットの精度確認 測定者 1 2 3 4 5 6 7 8 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 精度% 平均値+2σ 平均値-2σ 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 最小値 最大値 メーカー精度:±2.0%(19.6~0.04μL) メーカー再現性:1.0%以下 ③1mL用マイクロピペットの精度確認 測定者 1 2 3 4 5 6 7 8 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 精度% 平均値+2σ 平均値-2σ 平均値 標準偏差(σ) 変動係数% 最小値 最大値 メーカー精度:±0.7%(993~1007) メーカー再現性:0.5%以下 1-b-57 コメ中カドミウムの分析計算シート 住化分析センター 基本情報 測定日: 測定者: 試料情報: 室温: ℃ 操作手順 1.標準試料の測定結果を入力してください。 2.米試料の測定結果を入力してください。 3.必要に応じて、汚染米判定基準を入力してください。:初期値0.3ppm ※分離カラムにコメ試料&Cd各濃度標準液1mL吸着、0.1M塩酸1mL洗浄、純水1mL回収。 ※吸着・洗浄・回収上澄み液のImC測定を行う。デバイスの反応時間は40minに固定。 標準試料 Cd濃度 リーダー 読取値 (ppm) 0.1 447 0.1 456 0.3 354 0.3 363 0.6 303 0.6 295 米試料 試料番号 測定番号 (お客様用) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 0.01-① 0.01-② 0.01-③ 0.03-① 0.03-② 0.03-③ 0.05-① 0.05-② 0.05-③ 0.1-① 0.1-② 0.1-③ リーダー 読取値 503 535 475 488 474 458 408 471 438 450 370 383 判定基準 0.30 ppm Cd濃度 判定 (ppm) < 0.1 陰性 < 0.1 陰性 < 0.1 陰性 < 0.1 陰性 < 0.1 陰性 < 0.1 陰性 0.17 陰性 < 0.1 陰性 0.12 陰性 0.10 陰性 0.26 陰性 0.22 陰性 分析シート Ver 2.0 1-b-58 ImC ICP 濃度算出方法 標準試料の測定値と試料の測定値を用いて、コメ中のカドミウム濃度を算出します。 必要に応じて別添のマイクロソフトエクセルのファイルを利用ください。 なお、本キットを用いた測定法は公定法ではありません。得られた結果の評価及び 利用は、お客様の責任と判断によって行って下さい。 1.計算例 -1 -1 -1 (1)標準試料(0.01mg・L 、0.03mg・L 、0.06mg・L 各2回測定)の 6点の測定値を用いて、対数回帰式を求めます。 350 Y = A × ln(X) + B X:カドミウム濃度 Y:判定値(リーダー読取 値) A:傾き B:切片 判定値(リーダー読取値) 対数回帰 300 250 200 150 100 50 0 0.0 Y = -57.99Ln(X) + 152.8 0.2 0.4 0.6 0.8 カドミウム濃度(ppm) 変 形 X = EXP((Y-152.8)/(-57.99) (2)変形した回帰式に、試料の測定値を代入してコメ中のカドミウム濃度として 算出します。 <例> 試料1の測定値:255 → X = EXP((255-152.8)/(-57.99) = 0.17 ppm 試料2の測定値:195 → X = EXP((195-152.8)/(-57.99) = 0.48 ppm 2.添付のエクセルファイル使用法(コメ中カドミウム分析シートVer.2.0) (1)1.の計算を、エクセルファイルにクロマトリーダーの読み取り数値を入力 するだけで、自動で測定値を算出します。 (2)必要に応じてワークシートをコピーしてご使用下さい。その場合、エクセルの 数式もコピーするために全コピー&貼付を行ってください。 1-b-59 コメ中カドミウムの分析計算シート 住化分析センター 基本情報 測定日: 測定者: 試料情報: 室温: ℃ 操作手順 1.標準試料の測定結果を入力してください。 2.米試料の測定結果を入力してください。 3.必要に応じて、汚染米判定基準を入力してください。:初期値0.3ppm ※分離カラムにコメ試料&Cd各濃度標準液1mL吸着、0.1M塩酸1mL洗浄、純水1mL回収。 ※吸着・洗浄・回収上澄み液のImC測定を行う。デバイスの反応時間は40minに固定。 標準試料 Cd濃度 リーダー 読取値 (ppm) 0.1 0.1 0.3 0.3 0.6 0.6 米試料 試料番号 測定番号 (お客様用) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 リーダー 読取値 判定基準 0.30 ppm Cd濃度 判定 (ppm) コメA コメB 持参コメC 持参コメD 麦E ソバF 分析シート Ver 2.0 1-b-60 ImC ICP Ⅸ.使用上の注意 1.取り扱い上の注意 (1)検査は清潔な場所で行い、異物により汚染しないよう十分ご注意下さい。異物が 混入すると、カドミウム濃度の測定が行うことが出来なくなります。 (2)イムノクロマトデバイスの滴下部及び測定部を手で触れないで下さい。 (3)イムノクロマトデバイスを水、親水性溶媒等で濡らさないよう注意して下さい。 2.保存上の注意 (1)イムノクロマトデバイス及び乾燥金コロイド標識抗体バイアルは開封後、残った キットは袋のジッパーを締めて密封し、湿気を避け、室温で保存して下さい。開封 後は30日以内に使用して下さい。 (2)使用期限の過ぎた製品は使用しないで下さい。 3.廃棄方法 関連法規等に従って、次のように廃棄して下さい。 (1)イムノクロマトデバイス、乾燥金コロイド標識抗体バイアルの蓋、チューブ 廃棄方法1: 廃液の付着がない様十分にすすぎ、プラスチック廃棄物として廃棄して下さい。 廃棄方法2: 産業廃棄物として廃棄業者に依頼して廃棄してください。 (2)乾燥金コロイド標識抗体バイアル 廃棄方法1:廃液の付着がない様十分にすすぎ、ガラス廃棄物として廃棄して下さい。 廃棄方法2:産業廃棄物として廃棄業者に依頼して廃棄してください。 (3)試料 産業廃棄物として廃棄業者に依頼して廃棄してください。 (4) 前処理キット 廃棄方法1:廃液の付着がない様十分にすすぎ、廃液プラスチック類はプラスチック廃棄物 として廃棄、濾紙及びコメの濾過残渣は可燃物として廃棄してください。 廃棄方法2:産業廃棄物として廃棄業者に依頼して廃棄してください。 (5)ろ過液、0.1M塩酸、0.1M硝酸 産業廃棄物として廃棄業者に依頼して廃棄してください。 注意! 各廃棄物の洗浄液は(5)と同様に処置してください。 Ⅹ.保証 1.本キットによる測定は公定法ではありません。得られた結果の評価及び利用は、 お客様の責任と判断によって行って下さい。 2.検査結果を利用した結果により発生した損害及び損失については、当社は一切責任 を負いません。 3.本キット以外の試薬等を使用して得られた結果については、当社は保証致しません。 ⅩⅠ.有効期間 各キット構成材の使用期限は未開封時の値を外箱に記載しております。 1-b-61 ⅩⅡ.トラブルシューティング 1.測定キットの精度、再現性が良くない (1)測定時の温度が室温条件下(15~25℃)からずれていないか確認して下さい。 また、測定中に温度・湿度の急激な変化がないことを確認してください。 (2)各段階でのマイクロピペットで規定量の採取が出来ていることを確認して下さい。 (3)混合液の調整の際にバイアル中の乾燥金コロイド標識抗体が溶けるまで、十分 混合を行ったかを確認して下さい。 (4)混合液をイムノクロマトデバイスに滴下してから測定するまでの静置時間を40分 から50分で行っているかを確認して下さい。 ⅩⅢ.関連商品 以下に本キットを使用した操作を行う上で、使いやすさなどを十分に考慮して設計した 関連機材をご紹介いたします。 Table.07:関連商品 商品名 商品番号 1 イムノクロマトリーダー ⅩⅣ.お問合せ 1.総製造元 :株式会社 住化分析センター 営業本部 営業業務部 東京都千代田区神田駿河台3-4-3 TEL:(03)3257-7201 FAX:(03)3257-7220 大阪事業所 合成化学チーム 大阪府大阪市此花区春日出中3丁目1-135 TEL:(06)6466-5248 FAX:(06)6466-5232 1-b-62 5.参加者名簿 氏 名 小林 秀司 山本 章夫 河村 将和 宮嶋 暁 丸山 益資 山本 拓朗 橘高 実智 山田 篤志 嶋津 小百合 所 属 連 絡 先 Tel: 0847-45-3479 Fax: 0847-45-5211 e-mail: [email protected] Tel: 0848-23-2332 ㈹ Fax: 0848-20-0006 e-mail: [email protected] Tel: 0848-20-5155 ㈹ Fax: 0848-20-5171 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 0845-24-2933 生命工学専攻 Fax: 0845-24-3449 博士後期課程 1 年 e-mail: 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 084-934-0143 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 1 年 e-mail: [email protected] マナック㈱ Tel: 084-954-3330 事業開発部 Fax: 084-954-3360 新事業研究所 e-mail: [email protected] 福山大学 Tel: 084-936-2111 内線 4674 グリーンサイエンス Fax: 084-936-2023 研究センター e-mail: [email protected] ヤスハラケミカル㈱ 丸善製薬㈱ 尾道西工場 丸善製薬㈱ 新尾道工場 参加項目 全プログラム 全プログラム 全プログラム 全プログラム 全プログラム [email protected] 全プログラム 全プログラム 1-b-63 全プログラム 全プログラム 6.実習指導者一覧 集団実験実習 乾 秀之 神戸大学遺伝子実験センター e-mail:[email protected] 三宅 司郎 ㈱堀場製作所 e-mail:[email protected] 山科 清 ㈱住化分析センター e-mail:[email protected] 1-b-64 “質問・意見・感想”票 〔PJ2・テーマ 1〕 日付 氏名 質問・その他 内容 連絡先:e-mail/Fax (注)返答の必要な方は質問に○を付け連絡先を記入して下さい。 1-b-65 PJ2・テーマ1に関する問い合わせ先: 福山大学グリーンサイエンス研究センター 大川秀郎・嶋津小百合 〒729-0292 〒729 0292 広島県福山市学園町1番地三蔵 電話:084-936-2112(内線4674) Fax:084-936-2023 e-mail:[email protected] PJ2に関するホームページ:http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ 1-b-66 福山大学社会連携研究推進事業 「人間力」に支えられた「活力ある地域づくり」 連携に関する開発研究 プロジェクト2(PJ2) 産官学連携 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ1 「食品の残留農薬とリスク評価・管理の 原理と実際」 リスク管理マニュアルの作成 実習資料 平成 20 年 10 月 4 日及び 11 日 1-c-1 目次 テーマ1「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」 リスク管理マニュアル作成 1-c-1~1-c-84 1.実習1 農薬のリスク管理とマニュアル作成の考え方 日本植物防疫協会 上路雅子 1-c-3~1-c-48 2.実習2-1 農薬の測定方法とマニュアル作成の実際 福山大学 大川秀郎 1-c-49~1-c-59 実習2-2 免疫化学測定の実際とマニュアル作成 福山大学 嶋津小百合、大川秀郎 神戸大学 乾 秀之、㈱堀場製作所 三宅司郎 ㈱住化分析センター 山科 清 1-c-60~1-c-80 3.参加者名簿 1-c-81 4.講師・実習指導者一覧 1-c-82 5.その他 質問・意見・感想票 1-c-83 1-c-2 1.実習 1 農薬のリスク管理とマニュアル作成の考え方 日本植物防疫協会 1-c-3 上路 雅子 (2008.10.4) 福山大学社会連携研究推進事業 化学・生物総合管理学の社会連携教育研究 4 4.-リスク管理マニュアルの作成- リスク管理マニ アルの作成 実習1 農薬のリスク管理とマニュアル作成の考え方 (社)日本植物防疫協会 上路 雅子 講義の項目 1.農薬のリスク管理 ①農薬の役割 ②農薬登録のための試験と各種基準の設定 ●各種動物試験とNOAEL ●各種動物試験と NOAEL(無毒性量) (無毒性量) ●ADI(1日摂取許容量) ●残留基準 ●使用基準 ③ポジティブリスト制度の導入 2.「食の安全」を確保するための取り組み 3.残留農薬分析の概要 1-c-4 <農薬の役割> 農薬による防除を全く実施しなかった場合の 病害虫による減収率 0 20 減 収 率 (% ) 40 60 80 100 35 20 23 35 28 40 34 水稲 小麦 か んしょ ば れ いしょ 大豆 てんさい みかん 90 94 85 41 35 りん ご きゅうり (施 設 ) きゅうり (露 地 ) キャベツ だいこん 虫害 病害 (森田利夫:農林水産省植物防疫課資料,農薬工業会:農薬の役割と安全性 pp20) 作物における除草経費と労力 栽培面積 現状の防除(2005) 除草剤を使用しない場合 作物 (万ha) 除草経費 (億円) 労力 (万人) 除草経費 (億円) 水稲 170.2 1,004 334 13,099 10,765 小麦 21.4 58 17 1,071 827 大豆 13.4 97 63 445 375 除草経費:除草剤+労働費 労力 (万人) 労力:1日8時間として計算 (横山:2007.9) 1-c-5 農薬使用回数の削減などによる経済的損失 (社)日本植物防疫協会調査2004~ ①もも 防除回数 慣行防除区 11回 無農薬区 販売(出荷)価格 比率 639,595 円/10a 100 163 490 163,490 1 26 ②かき 慣行防除区 5 無農薬区 0 16,687 円/樹 100 7,753 46 ③なす 慣行防除区 6 648,120 円/10a 無農薬区 0 151 340 151,340 慣行防除区 4 164,993 円/10a 無農薬区 0 135,951 100 23 ④水稲* 100 82 *:いもち病抵抗性品種イネを使用 農薬のリスク 人の健康に対して 人・畜産物 ●急性毒性:作業者への影響 ●慢性毒性:消費者(国民)への影響(残留毒性) 農 農 薬薬 大気 生物 土壌・底質 水系 生態系に対して ●急性毒性・慢性毒性 1-c-6 農薬に関係する法律・基準 農薬取締法 植物防疫法・種苗法 植物防疫法 種苗法 食品衛生法 毒物及び劇物取締法 農薬使用基準など 残留農薬基準など(厚労省) (農林水産省) ポジティブリスト制度 <農薬> リスク評価・管理 環境基本法など 環境基本法な リスク ミ ケ シ ン リスクコミュニケーション (環境省) 食品安全基本法 (内閣府:食品安全委員会) 化審法・消防法・水道法・・・ 農薬は各種法律・基準等によってリスク管理されている 農薬登録のための試験項目 1)品質:各種の性状,有効成分の含有量,品質の安定性, 引火性,爆発性など 2)薬効・薬害:病害虫・雑草の防除効果,対象作物・周辺農 作物・後作物に対する影響 3)毒性:作業者(急性毒性),消費者(慢性毒性) 4)残留性:農作物 土壌 水系での残留性 4)残留性:農作物・土壌・水系での残留性 5)環境生物に対する影響:魚類・甲殻類・藻類・天敵等 1-c-7 農薬の登録申請に必要な毒性に関する試験 (人に対する健康影響など) ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ 急性毒性(経口・経皮・吸入・神経・遅発性神経毒性) 刺激性(皮膚・眼) 反復投与毒性(経口・経皮・吸入・発性神経毒性など) 発ガン性 繁殖毒性 催奇形性 変異原性(復帰突然変異、染色体異常など) 生体機能影響 動物・植物体内運命(代謝経路、分解物の構造など) 土壌中・水中運命、水産動植物への影響、水産動植物以外への有用生物 への影響(ミツバチ、カイコなど)、有効成分の性状・安定性・分解性等、 水質汚濁性、環境中予測濃度 <リスク管理:残留毒性> 毒性試験に基づく農薬のリスク管理 慢性毒性試験(動物実験、生涯試験)(農薬取締法) 最大無毒性量(NOAEL) 最大無毒性量(NOAEL) ×不確実係数 (通常 1/100) 1日摂取許容量(ADI) (食品安全委員会) ×人体重(53.3kg) 人1日摂取許容量 作物別摂取量 作物別残留試験 作物別残留許容量 → 残留農薬基準 (食品衛生法) 使用時期・回数 → 農薬使用基準 (農薬取締法) 1-c-8 NOAELの求め方(例:農薬Aの場合) 動物種 試 験 の 種 類 無毒性量 (mg/kg体重/日) 90日間亜急性毒性試験 ラット 2年間発ガン性試験 発生毒性試験 雄 45.3 雄 15.3 雌 雌 51.2 28.9 母動物 250 胎児 250 102 マウス 90日間亜急性毒性試験 雄 100 雌 イヌ 18ヶ月発ガン性 90日間亜急性毒性試験 急 毒 1年間慢性毒性試験 雄 雄 雄 60.6 74.3 32.5 雌 雌 雌 ウサギ 発生毒性試験 母動物 75 胎児 55.3 80.9 15.3 75 NOAEL: 無毒性量 no-observed adverse effect level 1日摂取許容量(ADI)の設定 ★ADI:acceptable daily intake 長期毒性 動物試験 反 応 出 現 率 % A試験 B試験 キーワードは… 「一生」 「毎日」 「食べ続けて」 「悪い影響が出ない量」 「100の安全係数」 C試験 無毒性量 悪影響がない範囲 毎日投与する農薬の量 動物に毎日長期に与えても悪影響がない 量が確認できない農薬は登録されない。 1-c-9 動物に毎日長期に与えても 悪影響がないことが確認された 響がな が確 れ 量の最大値(無毒性量) を安全係数で割ったものを、 ヒトの許容一日摂取量(ADI★) (mg/ 体重1kg・日)とする。 安全係数:1/100 ADIの設定事例 (食品安全委員会にて決定) <A農薬の場合> (ADI設定根拠資料) 慢性毒性/発がん性併合試験 (動物種) ラット (期間) 104週間 (投与方法) 混餌投与 (無毒性量) 7 32mg/kg体重/日 7.32mg/kg体重/日 (安全係数) 100 ADI 0.073mk/kg体重/日 残留農薬基準設定の考え方 一日摂取許容量の80%(mg/kg体重) ↑ 積算して,総摂取量(理論最大摂取量) ← 精密な日本型推定一日摂取量方式 が安全レベル(ADI)を超えない. による摂取量の試算値が,国民平均, ↓ 幼小児 妊婦 高齢者について安全 幼小児,妊婦,高齢者について安全 理論最大摂取量(mg) レベルを超えない. ∥ ・適正使用に基づく最大残留量 米からの摂取量 ・可食部からの摂取量 (基準値×米の喫食量=摂取量) ・調理加工後の摂取量 + 小麦からの摂取量 + 大根からの摂取量 + ミカンからの摂取量 + その他の農産物からの摂取量 ADIの10%は水、残りの10%は空気、土など環境から摂取されると設定 1-c-10 作物への残留基準の決め方 農薬 B の推定摂取量の計算法1) 作物種 使用方法 大 豆 散布 小豆類 散布 かんしょ 散布 てんさい 散布 キャベツ 散布 たまねぎ 散布 にんじん 散布 未成熟いんげん 散布 えだまめ 散布 いちご 散布 合 最大作物 基準値 (仮置き) 残留量2) 0.97 0.87 0.47 0.31 0.82 0.33 0.46 0 38 0.38 0.16 0.5 フードファクター (g) 2 2 1 1 2 1 1 1 0.5 0.5 56.1 1.4 15.7 4.5 22.8 30.3 24.6 19 1.9 0.1 0.3 計 推定摂取量 (mg) 日本人の許容 摂取量(ADI x 53.3) 0.1122 0.0028 0.0157 0.0045 0.0456 0.0303 0.0246 0 0019 0.0019 0.00005 0.00015 0.2378 4.4184mg/人/日 1)「農薬概説(2006)」(日本植物防疫協会)、2)単位:ppm 設定摂取量(mg:各適用作物「基準値(ppm)×フードファクター(g)」の合計≦ADI(mg/kg)×53.3(kg)×0.8 <設定摂取量が許容摂取量の8割以内であり、適用作物の基準値は妥当> <作物中の残留性> 作物中の残留農薬の変動 1-c-11 農薬の残留性 ・ 農作物に直接散布する殺虫剤、殺菌剤、当該作物を枯らさない除草剤(選 択性除草剤)は残留する可能性が高い。 ・ 当該作物を枯らす除草剤(非選択性除草剤)は残留の可能性が低い。 当該作物を枯らす除草剤(非選択性除草剤)は残留の可能性が低い (除草剤耐性の遺伝子組み換え作物は例外) ・ 農作物に付着した農薬は経時的に分解、減少する。 ・ 農薬量に変化が無くても、農作物の肥大で濃度が低下する。 ・ 同じような形状の農作物でも、 表面の状態で付着量が異なる。 ⇒ なし > りんご 中身の入り方で濃度が異なる ⇒ ピーマン 中身の入り方で濃度が異なる。 ピ マン > トマト ・ 土壌中の農薬が根から吸収されると、農作物中の濃度が徐々に増加する場 合がある。 ・ 根から吸収された農薬は内部からも検出されやすい。 ・ 農薬以外の用途(防疫用等)で使用されて汚染される場合がある。 農薬の作物残留試験設計 1-c-12 mg/kg その使用方法の最高残留量 ● ● ● 7日後 3日後 14日後 mg/kg 残留量 作物残留性試験結果 ● 1日後 毎日、一生涯食べ続けても影響の 出ない濃度 残留量 残留基準値 その使用方法の最高残留量 ● ● ● 残留基準値 ● 1日後 3日後 7日後 14日後 散布後の経時的なサンプリング 残留基準と使用基準の関係 試験成績より余裕を持った残留基準値 病害虫防除に必要な条件で 行った作物残留試験 残留基準 : 0.5ppm 残留濃度(ppm m) 希釈倍数:2500倍 使用回数:3回 余裕のある関係 0.15 (例えば) 使用基準 希釈倍数:2500倍 使用回数:3回以内 使用時期:収穫前日まで 0.1 0.05 0 1日 3日 7日 経過日数 1-c-13 製造者及び輸入者の農薬の表示 農薬登録票に記載されている主な項目 • • • • • • • • 登録番号 有効期間(=3年) 一般名(=有効成分=原体) 種類名、物理化学的性状 農薬の名称(=商品名) 製造業者 注意事項 最終有効年月 • • • • • 適用表 使用時期 使用回数 総使用回数 使用方法 正しいラベルの表示 ラベル内容の遵守 作物の種まき から収穫まで 1-c-14 平成14年度農産物中の残留農薬検査結果 (平成18年 厚労省発表) 1. 検査数 910,989 件 2. 検査対象農薬数 320 農薬 3. 検出数 国産品 輸入品 3,282 件(0.36%) 868 件(0.44%) 2,414 件(0.34%) 国産品 輸入品 110 件(0.03%) 27 件(0.02%) 83 件(0.03%) 4. 基準値超過 平成3~15年度 食品中の残留農薬の一日摂取量調査結果(厚労省) 農薬名 平均一日摂取量 (μg) DDT 1.49~2.97 EPN 1.26~2.82 1.26 2.82 アジンホスメチル 1.71~3.21 アセフェート 1.37~21.93 エンドスルファン 2.35~3.46 カルバリル 2.09~4.48 クロルデン 1.91 クロルピリホス 1.07~2.16 クロルピリホスメチル クロルヒ リホスメチル 0.95 0 95~2 2.17 17 クロルプロファム 2.14~4.22 ジクロラン 1.89 ジコホール 1.17~2.42 シペルメトリン 2.59~21.62 ジメトエート 1.60~3.04 対ADI 比 農薬名 平均一日摂取量 対ADI 比 (%) (μg) (%) 0.59~1.19 臭素 6038~8150 12.08~16.30 1.10~2.46 1.10 2.46 バミドチオン ハ ミト チオン 20.89 5.22 0.68~1.28 フェナミホス 1.52 3.81 0.09~1.46 フェニトロチオン 0.77~7.12 0.31~2.85 0.78~1.15 フェントエイト 1.26~4.06 1.67~5.41 0.21~0.45 フェンバレレート 2.13~45.07 0.21~4.51 7.62 フルフェノクスロン 4.17~5.02 0.23~0.27 0.21~0.43 プロパルギッド 1.71 0.34 0 19~0 0.19 0.43 43 プロチオホス フ ロチオホス 1 26~2 1.26 2.35 35 1 69~3 1.69 3.13 13 0.04~0.08 ヘプタクロル 1.37 27.31 0.38 マラチオン 1.03~2.16 0.10~0.22 0.09~0.19 メタミドホス 1.37~3.72 0.69~1.86 0.10~0.86 メチダチオン 1.06~1.16 1.52~2.12 0.16~0.30 メトプレン 9.41 0.07 1-c-15 <ポジティブリスト制度の導入> 食品衛生法改正(2003.5) 目的:食品の安全確保、国民の健康保護 (1) 残留基準が定められていない農薬を含む食品の流通を禁 じる(ポジティブリスト制度の導入、平成18年5月より) (2) 使用が認められている「既存添加物」も安全性に問題があ るものは販売禁止できる規定を入れる(健康食品:ダイ エット食品への規制強化) ((3)) 輸入食品における命令検査の対象拡大 (4) 自治体による食品関連施設監視の強化 ポジティブリスト制度のイメージ 厚生労働省 食品衛生法 残留農薬基準 *:動物用医薬品と飼料添 加物が追加された これまでの規制対象 残留基準が設定されて いる農薬と食品のみ ポジティブリスト制度 ポジテ ブリスト制度 (平成18年5月より) 全ての農薬と全ての食品* 1-c-16 残留基準の設定 (農薬Aの場合) 基準値(ppm) 参考基準 小麦 0.5 残留農薬基準(現行) みかん 0.1 登録保留基準(現行) 茶 該当なし 牛肉(筋肉) 一律基準の対象 (0.01ppm) 0.05 牛の乳 0.02 海外(オーストラリア) Codex 食品規格違反の措置 ◎これまでの制 度 農作物 食品規格(残留農薬基準) キャベツ キ 1mg/kg g g ダイコン 無 超えた時 違反=作物廃棄 違反 作物廃棄 違反ではない ◎ポジティブリスト制施行後(平成18年5月以降) 農作物 食品規格(残留農薬基準) キャベツ 1mg/kg ダイコン 無 超えた時 違反=作物廃棄 検出されたら違反*:廃棄 廃棄 (0.01ppm以上の場合) *:基準が設定されていない場合は一律基準(0.01ppm)が適用される。 <高精度の残留分析が求められる> 1-c-17 ポジティブリスト制度導入によって発生した問題 シジミからの違反事例(滋賀県、島根県、鳥取県、茨城県) 残留基準未設定の場合(一律基準0.01ppmの適用) 検出濃度 ク クミルロン ~0.09 ppm チオベンカルブ ~0.07 シラフルオフェン 0.02 ペンディメタリン 0.02 魚介類での残留基 準値を急遽設定 (参考)チオベンカルブの作物等での(暫定)残留基準値(単位:ppm) 0.2 コメ 小麦・大麦 0.1 ばれいしょ 0.05 牛肉 0.2 はくさい 豚肉 0.2 0.2 トウモロコシ 0.1 キャベツ 鶏肉 0.2 大豆 0.2 0.2 鶏卵 0.2 乳 0.05 解決方法:残留基準値の設定 加工食品への残留農薬基準値の適用 残留基準 (ポジティブリスト制度) 農作物 (原材料) 加工製造 茹でる、煮る、乾燥する 水による希釈 他の材料との混合 原材料の比率、加工の方法 により残留農薬量が変化 減少 ・ 増加 【例】 りんご 果汁を水で希釈 基準値 クロルピリホス 1.0ppm 加工食品 ポジティブリスト制度の対象 しかし、すべてに個別基準は困難 使用された農産物の基準値が判断基準 りんごジュース 10%果汁入り 違反蓋然性 クロルピリホス0.08ppm検出 判断基準 1.0ppm×10%=0.10ppm なし クロルピリホス0.2ppm検出 あり 1-c-18 <ここまでの 「まとめ」に代えて> 農薬が登録されるまで 探索・化学合成 実験室レベルで薬効・薬害のスクリーニング 候補化合物を選抜(数万に1個) 薬効・薬害の圃場試験 毒性試験適正実施基準(GLP)を満たす試験施 設で行われる。 GLP (Good Laboratory Practice) 試験の質と 信頼性を確保するための基準(施設,機器類, 試験従事者など),3年ごとに査察 農林水産省が定める試験法指針(ガイドライン) に準拠して行われる。 毒性試験, 環境試験,残留性試験 農薬を製造、加工、輸入するには農林水産大 臣に登録しなければならない。 登録があり、規定による表示のある農薬及び 特定農薬以外の農薬を販売してはならない。 農林水産大臣に登録申請 登録の有効期間は3年 登録 有効期間 年 試験成績の審査(農薬検査所) 公的機関による審議 一日摂取許容量(食品安全委員会-内閣府) 使用基準(農業資材審議会-農林水産省) 残留基準(薬事・食品衛生審議会-厚生労働 省) 登録(開発開始から10-15年) 登録保留基準(中央環境審議会ー環境省) <山本広基:農薬学会分析セミナー(2007.10)> 講義の項目 1.農薬のリスク管理 2.「食の安全」を確保するための取組み 「食 安全 を確保するため 組 ①HACCPシステム HACCPシステム ②GAP(適正農業規範) GAP(適正農業規範) ●GAP手法導入マニュアル GAP手法導入マニュアル ●管理(点検)項目(農薬を中心に) ③トレーサビリティの導入 ●トレーサビリティとは ビ とは ●トレーサビリティとしての農薬の残留検査 3.残留農薬分析の概要 1-c-19 食品の安全性の観点からより不安を感じているもの 0.0% 農薬 農業 輸入食品 添加物 汚染物質 遺伝子組 換え食品 遺伝子組み換え食品 いわゆる健康食品 微生物 飼料 プリオン 器具・容器包装 ウイルス かび毒・自然毒 放射線照射 新開発食品 動物用医薬品 肥料 異物混入 その他 無回答 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 80.0% 67.7% 66.4% 64.4% 60.7% 49.0% 48.6% 46.8% 45.1% 42.6% 35.4% 34.3% 34.3% 29.7% 27 3% 27.3% 26.4% 23.5% 23.3% 12.3% 0.4% 食品安全委員会 食品安全モニター・アンケート調査、2003年9月 <HACCP> HACCPシステム (Hazard Analysis and Critical Control Point) 「食品の危害分析・重要管理点(監視)」方式 食品の原材料の生産から最終製品の消費までの各段階を監視 出荷 箱詰め 冷却 熱処理 包装 充填 調合 原材料 1996年5月施行:総合衛生管理製造過程にHACCPシステムを導入 年 月施行 総合衛 管理製造過程 シ テ を導入 ①各過程における危害の予測 ②危害防止の重要管理点(CCP)の特定 ③管理点を継続的に監視・記録(モニタリング) ④解決方策→不良製品出荷の未然防止 1-c-20 HACCPプラン(12手順) 手順1:HACCPチームの編成 手順2:製品の特徴の確認 →製品特性、製造加工法、保存流通方式 手順3:用途の確認と使用法 →誰が使用するか? 特別の用途あるか? 手順4:製造作業工程の確認 →原材料受け入れから出荷まで 手順5:現場確認 →作業中に確認 手順6(原則1):危害分析 →危害原因物質、防止措置のリストアップ 手順7(原則2):重要管理点の決定 →作業段階のCCPはできるだけ少なく 手順8(原則3):管理基準の確立 →温度・時間、水分活性、pH、食塩濃度など 手順9(原則4) モニタリング法の確立 →許容範囲内での測定、観察方法の設定 手順9(原則4):モニタリング法の確立 許容範囲内での測定 観察方法の設定 手順10(原則5):改善措置の設定 →誰が、どのように措置するのか、処置方法 手順11(原則6):検証方法の設定 →計画通り、有効に機能しているか? 手順12(原則7):記録の維持管理 →文書化、保管 HACCPで対象とする危害 (微)生物学的危害 ◎食水系感染症 消化器系伝染病細菌(赤痢菌、チフス菌、A型肝炎ウイルス、ノロウイルスなど) 食中毒細菌(腸炎ビブリオ、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌など) 人畜共通伝染病(リステリア 炭疽菌 連鎖球菌など) 人畜共通伝染病(リステリア、炭疽菌、連鎖球菌など) マイコトキシンと産生菌 ヒスタミンと産生菌 寄生虫とクリプトスポリジウムなど原虫 ◎腐敗細菌 ◎高度のカビ・酵母汚染 化学的危害 ◎化学物質(重金属、残留農薬、残留抗生物質、PCBなど) ◎自然毒(毒草、毒キノコなど) 物理的危害 ◎危険な異物(金属片、ガラス片など) 1-c-21 HACCP手法の導入による効果 導入の効果 (%) 品質・安全性の向上 94.0 従業員の意識の向上 77.8 企業の信用度、イメージの向上 73.2 製品イメージの向上 54.7 事故対策コストの削減 39.3 製品ロスの削減 24.0 取引の増加 20.0 製品価格の上昇 6.8 製品の輸出が可能(有利) 4.8 (複数回答) (農林水産省平成18年度食品安全産業動向調査) GAP(適正農業規範)とは 食料安全政策の一環として、農業生産者が実施 すべき「農業生産のための工程管理手法」の基準 GAP導入の背景:「食の安全性に関する意識調査:食品安全委員会(2003.9) <消費者の不安> 79.6% 生産段階 58.9% 製造・加工段階 自然環境 然環 (水・土など) 33 4% 33.4% 流通段階 販売段階 家庭(保存・調理) 外食(保存・調理) 11.4% 5.5% 4.4% 2.4% 1-c-22 「工程管理」:栽培工程ごとに管理内容をチェックし、 製品の安全性を100%保証する 土壌改良・施肥 土壌改良 施肥 播 チェック 肥料は適量? 種 チェック 種は健全? 農 薬 散 布 収 水 チェック 農薬は使用基準を守っている? 穫 洗 チ ク チェック 異物混入はない? い チェック 水は汚染されていない? 一 時 保 管 (埼玉県農林部農産物安全課) チェックシートの点検項目の事例(露地野菜)① 農水省GAP手法導入マニュアル(2008.1) ①準備:●栽培マニュアル、栽培基準を読みましたか。 ●たい肥等の有機物の施用による土作りを行いましたか。 ●土壌のCd、ヒ素等の有害物質による土壌汚染がないか、生産履歴やほ 場 の周辺環境を確認しましたか ●用水の水源は何か知ってしますか(河川、地下水、ため池など) ②育苗:●種子証明書・購入伝票を保管していますか。 ●農薬は栽培マニュアルや農薬ラベルに記載されている薬剤、使用量を守って 使用しましたか。 ③栽培管理:●肥料は栽培マニュアルによる施肥基準に基づいて施用しましたか。 防除 発 予察情報を活用 ま 。 ●防除には発生予察情報を活用しましたか。 ●飛散低減ノズルへの交換や強風時に散布を行わないなど、農薬の飛散低 減対策を行いましたか。 ●農薬は栽培マニュアルや農薬ラベルに記載されている薬剤、使用量を守って 使用しましたか。 ●IPM(総合的病害虫雑草管理)実践指標の管理ポイントをチェックしましたか。 1-c-23 チェックシートの点検項目の事例(露地野菜)② 農水省GAP手法導入マニュアル(2008.1) ④収穫・調製・出荷:●農薬使用の収穫前日数を確認し、適期収穫を行いましたか。 ●選別・調製作業前に作業者の健康状態を確認しましたか。 ●収穫コンテナの洗浄等収穫物の病原性微生物等による汚染予 防対策を行いましたか。 ⑤全般:●作業機械等は定期的な点検・整備を実施しましたか。 ●野菜の残渣等をたい肥や飼料として利用したり、鋤き込んだりして適正な 処理をしましたか。 ●肥料や農薬の使用状況など栽培履歴の記帳を行い、購入伝票とともに保 管しましたか。 ●マルチや肥料袋などは業者委託などにより適正に廃棄しましたか。 ●肥料や農薬の使用状況など栽培履歴の記帳を行い、購入伝票とともに保 管しましたか。 GAP(Good Agricultural Practice):適正農業規範 農作業の計画を立て、実践した結果をチェックし、 記録を残し、記録をもとに作業の改善などを行う ①計画(Plan) ② ②実践(Do) 農作業の計画を立て、点検項目 (チェック項目)を定める チェックシートを確認し、農作 業を行い、記録する PDCAサイクルの繰り返し ④見直し・改善(Action) ③点検・評価(Check) 改善点を見直し、次回の作付け 改善点を見直し 次回の作付け に役立てる 記録を点検して、改善点を見 記録を点検して 改善点を見 つける 農業生産の方法は、農作物の種類や生産地域等によって大きく異なるため、各 農作業の工程ごとに点検項目を洗い出し改善点を見いだす 1-c-24 GAP手法の導入手順(長野県GAP手法推進マニュアル) ①「ステップ1:Plan 計画をたてましょう」 ●産地の体制整備(生産者、営農指導員、普及指導員など) ●産地の合意形成(GAP手法の講習会参加、モデル農家での試行) ●対象農作物の確認と圃場や生産施設の立地条件の把握 ●生産工程の確認(圃場の準備から出荷まで、作物・品種ごとに) ●危害要因等の確認 ●対策方法や管理方法の検討 (危害要因の発生や汚染等を抑えるために必要な対策方法、管理方 法の検討) ●チェックシートの作成 (法律・農業環境規範・GAP・県の実態等に基づく。各作物ごとに生産 工程と危害要因を整理) 農業で管理すべきもの(危害要因) 圃場関連 収穫・洗浄等関連 病原微生物1)、昆虫、寄生虫など する病原微生物など 水の汚染、不適切な取り扱い(温度等)に起因 環境由来の化学的汚染物質2) 水の汚染 農薬、動物用医薬品 収穫後の農薬、薫蒸剤など 飼料、肥料、自然毒3)、カビ毒4) 自然毒、カビ毒 金属片、ガラス片、石、糸など 金属片、ガラス片、石、糸など 1)病原微生物:O-157、サルモネラ属菌、セレウス菌、ボツリヌス菌、リステリアなど ) 感染源:未処理の糞便、排尿、未熟成な堆肥、汚染された農業用水 2)有害化学物質:カドミウム、水銀、亜鉛、鉛など 3)自然毒:ソラニン(ジャガイモの芽) 4)カビ毒:小麦の赤カビ病、リンゴの腐敗菌など (埼玉県GAP導入マニュアル) 1-c-25 GAP手法の導入手順(長野県GAP手法推進マニュアル) ②「ステップ2:Do 実践しましょう」 ●チェックシートへの記録(生産者が自らの作業工程を確認するもの) 目的(安全・環境・品質・労働)、作業工程、チェック項目とその必要性、 実行区分、管理頻度(毎作業時、年1回、○○時) ●チェック欄への記入(生産者自身が○△×など) ●備考欄(実践できなかった項目についての理由、天気など) ●チェックシートの使い方 ・栽培履歴や農薬散布履歴、作業日誌として確認 ・欄生産工程の確認(圃場の準備から出荷まで、作物・品種ごとに) ③「ステップ3:Check 点検評価しましょう」 ●チェックシートの点検・評価(「来年にむけて」の反省点、改善点・・) 検 「来 省 善 ●改善点の見出し(意見交換会等の開催、優先度の高いものから対応) ④「ステップ4:Action 見直し・改善しましょう) ●チェックシートの見直し、PDCAサイクルの繰り返し(品質向上、異物混 入防止、輸出目的などに応じて、取り組み内容のレベルアップ JGAP(NPO法人日本GAP協会)による管理点 農薬に関係する事項① ●土壌くん蒸剤の使用を減らす努力をしていますか ●栽培する品種を選択する際、農薬や肥料の使用量を考慮しましたか ●種苗に対する農薬の使用を記録していますか(重要) ●農薬散布を減らすために、何か工夫をしていますか ●耐性が生じないような防除計画になっていますか ●農薬散布を減らすために、講習や外部からの助言を通じて情報収集をしてい ますか ●農薬散布を判断する責任者が決まっていますか。その責任者は農薬に関する 十分な知識を持っていますか(必須) ●作物の生産国で許可された農薬だけを散布していますか ●今後散布する予定の農薬のリストがありますか ●輸出用の作物は、輸出先で使用禁止の農薬が定められている場合には、そ れに従っていますか ●農薬の準備と散布は、ラベルの指示に従っていますか 1-c-26 JGAP(NPO法人日本GAP協会)による管理点 農薬に関係する事項② ●農薬を正確に希釈していますか(重要) ●農薬散布を準備する場所は、農産物や環境に危害の無い状態ですか ●農薬散布機の使用前点検を毎回行い、正確に散布できることを確認してい ますか ●農薬散布機を年1回以上整備し、使用直前での故障発見を回避しています か ●農薬の使用時期(収穫前日数)と使用回数は守られていますか ●自分の圃場を含む周辺の圃場からの農薬のドリフト(飛散)の危険性につい て把握していますか(必須) ●自分の圃場を含む周辺の圃場からの農薬のドリフト(飛散)の危険性を減ら すための対策を行っていますか ●周辺地への農薬のドリフト(飛散)がないように対策を採っていますか ●農薬の使用後に残った農薬は、適切に処理していますか ●使用後に散布機を洗浄していますか ●散布機を洗浄した排水を適切に処理していますか ●農薬の空容器は適切に保管されていますか(重要) JGAP(NPO法人日本GAP協会)による管理点 農薬に関係する事項③ ●農薬の空容器は、適切に処分されていますか ●最終有効年月を過ぎた農薬や使用禁止となった農薬は、安全に保管・識別さ れ、公認のルートで処分されていますか ●作業者は農薬のラベルの指示に従って適切な防護服を着用していますか(必 須) ●防護服を使用した後に、洗浄をしていますか ●防護服と防護装備を、農薬と離して保管していますか ●農薬を扱った作業者は、毎年健康診断を受けていますか ●農場内で使用した農薬の残留分析を年1回以上行っていますか ●周辺圃場からのドリフト(飛散)の危険性がある農薬について、残留分析を年 1回以上行っていますか ●残留農薬分析を行った検査機関は、厚生労働省登録機関、国際標準化機構 (ISO17025)の認定を取得した機関、もしくはこれらと同等とみなされる機関で すか ●適切なサンプリングが行われましたか 1-c-27 JGAP(NPO法人日本GAP協会)による管理点 農薬に関係する事項④ ●農産物が取引される国の残留農薬基準に従っていますか(必須) ●残留基準値を超えてしまった場合の対策がありますか ●農薬散布を適切に記録していますか ●農薬は、国や地域の規則に従って保管されていますか(重要) ●農薬の在庫は、台帳で管理されていますか ●農薬保管庫には危険性を警告する表示があり、鍵がかかっていますか。また、 鍵の管理責任者が決まっていますか ●農薬は、適切な場所に保管されていますか ●農薬は、購入時に入っていた容器のままで保管されていますか ●農薬が ぼれな ようにな て ますか ●農薬がこぼれないようになっていますか ●農薬どうしが、こぼれた際に混ざらないようになっていますか ●容器からの農薬流出に対処する設備がありますか ●作物に使用する農薬と、作物以外に使用する農薬を分けて保管し、間違えた り、混ざったりしないようになっていますか ●使用した農薬や肥料が、地下水や河川水などの水源を汚染しないように工夫 していますか 「トレ-サビリティ」? Traceability → trace(追跡)+ability(可能) 「食品のトレーサビリティ」 生産、加工及び流通の特定の一つ又は複数の段階を 通じて、食品の移動を把握できること」(Codex委員会) <関係HP> 農林水産省:http://www.maff.go.jp/trace/top.htm (社)食品需給研究センター:http://www.fmric.or.jp/trace/ (社)農協流通研究所:http://www.nrk-net.org/tre.htm 1-c-28 トレーサビリティ 農産物 製造・ 生産段階 加工段階 農産物生 産記録 仕入れ記録 製造加工記録 出荷記録 出荷記録 流通段階 小売段階 仕入れ製 品記録 仕入れ製 品記録 取扱記録 販売記録 消費者 情報提供 出荷記録 食品の原材料生産現場から最終消費者に連なる一連の流れ(フー ドチェーン)の中で、食品自体とその関連情報が追跡、遡及できる ●対象商品を特定した迅速な回収が可能 ●問題の原因の速やかな特定が可能 ●安全な他の流通ルートの確保が可能 トレーサビリティ導入の目的 ●情報の信頼性の向上:経路の透明性、情報提供、取引の公正化など ●食品の安全性向上への寄与:事故原因の探索、迅速な回収・撤去、 事業者の責任の明確化など ●経営管理の効率化:在庫管理 製品管理 品質管理の効率化など ●経営管理の効率化:在庫管理・製品管理・品質管理の効率化など 企業におけるトレーサビリティ・システムの導入状況(%) (H17食品産業動向調査:農水省) 全ての製品に導入 一部の製品に導入 H15 H16 H17 H15 H16 H17 食品製造業 12.1 17.1 17.2 13.8 17.3 20.7 食品小売業 6.4 11.2 14.8 6.2 17.3 21.0 1-c-29 「埼玉県 農畜産物 トレーサビリティ事例集」より ① <JAふかやのホウレンソウ・ネギ> 「安全結束テープ」の赤 い色が消費者に好評 ①商品や情報の流れ 収穫作業→出荷先日までに残留農薬検査を実施→生産履歴情報と検査 結果をJAふかやに送付→基準クリア野菜に専用結束テープを巻く→集荷 結果をJAふかやに送付→基準クリア野菜に専用結束テ プを巻く→集荷 センターから市場・小売店・消費者に:<JAふかやHPの生産履歴情報確 認可能> 生産者 ②取組の特徴 公開している主な情報 ・生産者氏名 イムノアッセイ を行い残 留農薬を 検査 ・品種 品種 ・栽培状況(播種、収穫など) ・肥料・農薬の使用状況 ・残留農薬検査結果 JAふかやのHPで生産 履歴情報などを確認 JAふかや 検査結果 データを送 付状に添 付して市場 に集荷 市場 商品 消費者 小売店 生産履歴情報 「埼玉県 農畜産物 トレーサビリティ事例集」より ② <新井園本店のお茶> エコファーマー認定。安 全・安心の茶生産に自信 ①商品や情報の流れ 茶摘み→茶葉を製茶工場に→茶葉を揉んで、全体の水分を均一、形を整 える→茶葉を針状に→各店舗及び通信販売:<生産履歴情報問い合わ せへの対応> 生産者 ②取組の特徴 追跡できる情報 ・生産者氏名 複数工程によ り製品化、残 留農薬の分析 製茶工場 ・生産農場名 生産農場名 ・肥料・農薬の使用状況 ・残留農薬検査結果 HPによる通 信販売、各店 舗で販売 新井園本店への問い 合わせで生産履歴情 報などを確認 新井園本店 商品 1-c-30 消費者 生産履歴情報 カゴメ(株)での取り組み 使用する農薬についての「農薬自主基準」 1.お客様視点 ●栽培に使用可能な農薬の絞り込み (約30%) 2.環境保護視点 環 護視 ●国内外拠点への自主基準導入と現 地訪問による直接確認 3.生産者視点 4.対象病虫害への防除効果が高いこと 5.一斉分析法で分析可能な農薬を極力使用すること・・・など 「農薬管理」:農薬使用を必要最低限に抑え、プロセス管理の高度化を図る ●生原料の栽培管理体制 ●サプライヤーへの農薬指導体制 ●原料のトレーサビリティ 「残留分析」:高精度分析法の開発 ●GC/MS, LC/MSの使用による一斉分析法を基本とする (http://www.kagome.co.jp/kankyo/shoku/b08.html) <「まとめ」として> トレーサビリティシステム 流通経路履歴 生産者 輸送・流通業者 生産履歴 輸送・保管履歴 加工メーカー 輸送業者 小売業者 輸送履歴 陳列履歴 + GAP 加工履歴(HACCP) 原料→製品 識別して関連付ける 安全履歴 =工場内トレーサビリティ 「食の安全とトレーサビリティ」(横山理雄監修:幸書房)より 1-c-31 講義の項目 1.農薬のリスク管理 2.「食の安全」を確保するための取組み 2. 食の安全」を確保するための取組み 3.残留農薬分析の概要 「日本農薬学会残留分析セミナー」より ①残留分析の基本 ●試料調製、前処理 ●精製(液・液分配、カラムクロマト等) 製 ●定量(GC ●定量( GC、 、LC) LC) ②公定分析法(農産物等一斉分析法) (日本農薬学会環境委員会残留農薬分析検討委員会) 残留分析の目的と分析法 ○ 流通食品の検査 使用農薬等が不明である。 不明 ある。 → 使用農薬等 → できる限り多くの農薬を検査したい。 ( 多成分同時分析法 告示試験法(個別分析) ○ 農作物の出荷時検査 → 使用履歴から対象農薬を選定 個別 多成分同時分析法 個別、多成分同時分析法 ( イムノアッセイ法 ○ 研究開発、登録申請 当該農薬を対象とした個別分析法 1-c-32 残留 農薬 分析対象 農薬 非効率的、非効果的検査 残留 農薬 分析対象 農薬 効率的、効果的検査 個別試験法と一斉試験法 個別試験法 ・信頼性の高い分析が可能 ・数多くの物質の分析を行うのに手間がかかる ・分析対象物質の性質に合わせた分析操作、定量機器の選択が可能 一斉試験法 ・分析対象物質数が多い場合に効率的に分析ができる ・定量限界は個別試験法よりも高くなる(定量機器の選択による) ・性質の異なる物質を同時測定するため 精製が不十分 ⇒ 分析機器の負担大 測定条件の最適化が困難 ⇒ 定量性の低下 ・選択性と汎用性を兼ね合わせた定量機器が必要 ⇒ 高額機器 ⇒ GC/MS(/MS)、LC/MS(/MS) ・代謝分解物も規制対象となっている場合、代謝分解物が親化合物 と同時に分析できない場合がある 残留農薬分析の基本操作 試 料 作物、土壌、水、(昆虫、魚等) 前処理 分析対象物質に合わせて分解等の無いよう 添加物を加えることも必要 抽 出 作物残留試験: 主に有機溶媒、その他、 超臨界流体抽出等 環境分析: 有機溶媒を基本に固相抽出や SPME、 ソックスレー抽出、 超臨界流体抽出等 精 製 固相抽出ミニカラム, 液液分配等 定 量 GC, GC/MS(/MS), HPLC, LC/MS(/MS) 等 11 1-c-33 試料採取 (1) 穀類,豆類,種実類:425µmの標準網ふるいを通るように粉砕 (2) 果実,野菜,ハーブ:検体約1kgを細切 (必要に応じて適量の水を加える) (3) 茶,ホップ: 検体を425µm標準網ふるいを通るように粉砕 (4) スパイス: 形状に応じて,種実類又は果実に準拠 (5) 筋肉: 可能な限り脂肪層を除いて細切 (6) 脂肪: 可能な限り筋肉層を除いて細切 (7) 肝臓,腎臓他: 細切 (8) 乳,はちみつ: よく混合 (9) 魚類: 魚類 可食部を細切 (10)貝類: 殻を除去して細切 (11)甲殻類: 小型は全部位を細切 大型は外側の殻を除去して細切 (12)卵: 殻を除去してよく混合 市販農産物中の残留農薬分析 分析試料 : 対象となる食品のロットを代表する試料 (ロット:同じ生産者や出荷日などが同じひとかたまり) 分析部位 析部位 :告示に示された規定に従う。 告 され 規定 従う 例 米…玄米 りんご、なし…しんを取り皮ごと バナナ、パイナップル…皮ごと もも、びわ…種と皮を取る 葉菜…傷んだ葉は除く 根菜 泥を軽く落とす 根菜…泥を軽く落とす 基準の遵守は、測定対象全体を代表する試料 の法律で規定された測定部位を、洗わずに検 査したときの結果で判断される (泥は落とす)。 1-c-34 試料調製(前処理:作物の種類ごと異なる) 試料の入手 前処理 採取部位 総重量、個体数 分析部位の確保 均一化 状態(写真:登録) 環境省告示 厚労省告示 分析対象農薬と無関係 試料調製に関する資料 ぶどう 果実 (果梗を 除去) 1 kg (2 kg) 前処理: 受領した試料は重量を量り,果梗を除去する。調製 試料の適量(約 800 g)を無作為に取り,これを均 一化用試料として密閉容器に入れ冷凍保存する。残 りの試料も同様に冷凍保存する。 均一化: ミキサー(果皮や種子も均一になるように処理) ①残留農薬研究所HP http://www.iet.or.jp p jp ②JPPネットHP http://www.ippn.ne.jp/ sikenhou/zanru.pdf (残留農薬研究所ホームページより抜粋) 前処理((試料調製) 前処理 試料調製)の注意点 ●分析部位、採取量は試験の目的を考慮する ●農作物への農薬の残留にばらつきがあることを留意する 果皮や外葉には高濃度に残留(付着)している可能性大 ●調製用具(まな板、包丁、ミキサー等)や「手」を介したコンタミ ネーションに注意する ●農薬によっては磨砕により分解するものがある カプタホール、キャプタン、クロロタロニル、ジチアノンなど ●高揮発性農薬の磨砕、粉砕時の揮散に注意する ジクロルボスなど ⇒ ドライアイスと ドライアイスと一緒に粉砕する 緒に粉砕する ●コンニャクイモ、ヤマノイモなど磨砕によりゲル化する試料は磨 砕せず、みじん切りの状態で抽出溶媒を加えてホモジナイズする ●磨砕後、時間の経過とともに妨害成分が増加する場合がある ●磨砕試料を放置すると果皮が分離し、均一な採取が困難になる ブドウ、トマトなど ⇒ 磨砕後速やかに試料を採取する 1-c-35 抽 磨砕均一化試料 出 コンセントレーター 拡大 (通常5-20g) より細かく磨砕する 必要がある際には 内刃式高速回転ミ キサーを用いる 1. 有機溶媒を加える 1-1. 磨砕抽出 主に使用する固相 C18(カートリッジタイプ) PS2(カートリッジタイプ) 利用 用頻度 2. 振とう30分間 0 抽出時主に使用される 有機溶媒 多 アセトン 一定流量で固相に水を流して分析対象物質を 吸着させ水から抽出する装置 1. 試料量が100ml以上の場合 アセトニトリル 主に使用する固相 多孔性ケイソウ土 メタノール C18、PS2(カートリッジタイプ) 少 酢酸エチル PS2(カートリッジタイプ) 3.濾過 2. 試料量が100ml以下の場合 有機溶媒による抽出 採用基準 固相による抽出 抽 出 法 既存剤 : 公定法に準拠 新規開発 : 代謝試験(RI)参考に、抽出効率と精製の容易さを考慮 方 法 振とう法 (30分間)(16時間放置後、抽出する方法もある) ブレンド法 (ポリトロンホモジナイザー等で1~3分間ホモジナイズ) (ポリトロンホモジナイザ 等で1 3分間ホモジナイズ) 蒸留抽出法 (Dean & Stark、水蒸気蒸留) ソックスレー法 (抱合体の抽出、吸着の強い物質に対応) 高速溶媒抽出法 (ASE)、超臨界流体抽出法 (SFE) 溶 媒 アセトン(厚労省法)、アセトニトリル(一斉分析法)、メタノール等 試 料 (試料採取量の3 5~7 5倍量を2回に分ける) (試料採取量の3.5~7.5倍量を2回に分ける) 乾燥試料 (穀類、豆類等)は2倍量の水を添加し、2時間放置が基本 ゲル状試料(ヤマノイモ、ニンニク等): セライト、ドリセラーゼを使用 抽出効率 試料の均一化状態、溶媒の種類、抽出時間、抽出温度が大きく関与 代謝試験(RI)や実残留試料で評価。添加回収では評価不能 1-c-36 精製方法① ●液-液分配(転溶) 水と混じらない溶媒を加えて振り混ぜ分配する操作 ⇒ ヘキサン,酢酸エチル,エーテル ヘキサン/アセトニトリル分配(脂溶性成分除去) エマルジョンの形成により2層の分離が不十分になる場合がある。 ⇒ ケイソウ土CCへの置き換え ⇒ アセトンやメタノールの少量添加、遠心分離、ろ過、 界面活性剤添加、加温、放置 ●凝固法 凝固液を加えて沈殿を生成 ろ別 凝固液を加えて沈殿を生成,ろ別 リン酸+塩化アンモニウム 塩化カルシウム 酢酸鉛処理 → 除タンニン 回収率が低い場合 ⇒ アセトンを加えてから凝固処理を行う (目的物質は溶解,夾雑物は凝固) 精製方法②(クロマトグラフィー) ●オープンカラム 負荷量が多くても精製効果が低下しづらい フロリジル、シリカゲル、アルミナ 吸着力 : アルミナ>フロリジル>シリカゲル ●ミニカラム SPEカラム 吸着クロマトグラフィー: シリカゲル、フロリジル、グラファイトカーボン シリカゲル、フロリジル、グラファイトカ ボン ENVI ENVI-Carb Carb 分配クロマトグラフィー: オクタデシル C18、アミノプロピル NH2 イオン交換クロマトグラフィー: SAX、PSA GPC (迅速分析法、畜水産物一斉分析法:脂質の除去) 1-c-37 夾雑物の種類と精製手法 夾雑物の種類 精製手法 極性 非極性 夾雑物 液々分配、多孔性ケイソウ土カラム、C18、PS2 極性、非極性・夾雑物 液々分配 多孔性ケイソウ土カラム C18 PS2 酸性、塩基性・夾雑物 液々分配(水層のpHを酸性又は塩基性にして溶媒転 溶) 脂質(油脂類) アセトニトリル-ヘキサン分配、多孔性ケイソウ土カラム、 C18、GPC 色素(葉緑素等) グラファイトカーボン(GCB)、活性炭、C18、GPC タン ン(ポリフェノール) タンニン ポ 酢酸鉛処理 含硫化合物 硝酸銀処理、冷凍(シャーベット状)や細切磨砕 色素、たん白質等 凝固処理(リン酸+塩化アンモニウム、塩化カルシウム) その他の微量夾雑物 シリカゲル、フロリジル、アルミナ、NH2、C18、PS2 固相カラムの分類(単層カラム) 分離モード 順相吸着 (極性相互) 吸着 順相吸着 (無極性相互) 充填剤 (シリカ系) シリカ、フロリジル 、 アルミナ カーボン系 CARBOGRAPH(GCB) ENVI-Carb(GCB) ( ) AC-2 (活性炭) 逆相吸着 (無極性相互) 分配 イオン 保持/溶出に用いる溶媒 非極性溶媒 →極性溶媒 ヘキサン→酢酸エ チル→アセトン 非極性溶媒 →極性溶媒 ヘキサン→アセトン →アセトン+トルエン 極性溶媒→ 非極性溶媒 水→ACN→ ACN+トルエン 逆相吸着 (無極性相互) ポリマー系 (SDVB+α) PS-1,-2、SDB、PLS-2 ENVI-Chrom P PLS-3、HLB (+親水基) 極性溶媒→ 非極性溶媒 水→水+ACN →ACN 順相分配 (極性相互) シリカ系 (+親水性基) 2OH、NH2、CN、 (多孔性ケイソウ土カラム) 非極性溶媒 →極性溶媒 ヘキサン→酢酸エ チル→アセトン 逆相分配 (無極性相互) シリカ系 (+疎水性基) C18、C8、C4、C2、C1 C18 C8 C4 C2 C1 CH、PH 極性溶媒→ 非極性溶媒 水→水+ACN →ACN アニオン交換 (イオン交換相互) シリカ系 SAX、PSA、DEA、QMA、 イオン強度 NH2 の低い溶媒 → MAX イオン強度 SCX、PRS、CBA の高い溶媒 MCX 水→MeOH→ MeOH+酸 交換 ポリマー系 カチオン交換 (イオン交換相互) シリカ系 ポリマー系 水→MeOH→ MeOH+塩基 GL-Science、Waters及びSupelcoのカタログより引用 1-c-38 カラム溶出の変動要因 ●展開溶媒の流下速度 溶出試験と実試料分析における流速はできるだけ同一に設定 ●試料夾雑物の影響 標準のみの場合と試料共存下における溶出のズレに注意 前方にシフトする場合 ⇒ 試料夾雑物の過負荷 吸着剤の失活(負荷溶液中の微量水分) 後方にシフトする場合 ⇒ 試料夾雑物との相互作用 ●ロット間差の影響 一連の分析においては同一ロットの製品を使用 分析途中でロットが変わる場合は、そのロットでの溶出を確認 ●保持力の変動 固相の変質(長期保管した場合 ← イオン交換系ミニカラム等) 吸湿(開封後に長期間放置した場合 ← 吸着系充てん剤) 定性・定量 選択性の高い方法で 誤認や誤差のないように 正確に測定する 標準品の管理も定量の 重要なポイント 1-c-39 定量時の問題点 GC/MSでのマトリックス効果例 GC/MS でのマトリックス効果例 添加回収試験結果(%) ミズナ 濃縮果汁 小麦 白米 ジクロフルアニド 102 119 129 149 キノメチオネートト キノメチオネ 98 6 98.6 112 115 111 クロロタロニル 101 125 159 145 ホルペット 98.3 116 124 157 GC/MS測定におけるマトリックス効果 試料中に含まれる脂質などの不揮発性成分等により,分析 対象化合物のピーク形状や面積が大幅に変動する現象 ・添加回収率が100%< ・試料のピーク形状が標準品のピークと比較して 試料 ピ ク形状が標準品 ピ クと比較し シャープあるいはブロードになったり,非対称になったり, 頂点が2本以上に割れるような形状を示したり,保持時間がずれ たりする。 ・ピーク形状が改善された場合は,見かけの定量値が過大に なる場合もあり,正確な定量を妨げる。 (見かけの定量値が過小になる場合もある。) <対策> ●徹底的な精製 ●安定同位体添加による定量値の補正 ●擬似試料標準液(試料溶液に目的化合物を添加)の作成 1-c-40 LC/MS測定の問題点等 測定物質ごとにイオン化の至適条件が異なる 至適条件の自動検索システムを活用(多成分に有効) 夾雑物によるイオン化阻害により部分的な感度低下の発生 無処理試験溶液に標準品を添加して確認 LCの分離条件の変更や精製追加 感度変動の問題 メンテナンス等に注意して良好な状態を維持する ナトリウム付加イオン(Naアダクト)の問題 移動相の影響によって生成される擬分子イオン 高純度試薬の使用、イオン源の洗浄などで防止 法律・基準に基づく残留農薬分析 ① 農薬取締法に基づく農薬登録のための残留試験 農薬登録 目 的 : 作物、土壌、水中における残留濃度や減衰速度等を評価 実施基準: 農薬の登録申請に係る試験ガイドラインに準拠 分析成分 農薬本体及び代謝物 (未登録の農薬も対象とする) 分析成分: 分析法: 既存剤は環境省や厚労省の試験法、新規剤は分析法を開発 成 果 : 登録保留基準、残留基準及び環境省、厚労省公示試験法の策定 ② 食品衛生法に基づく残留農薬検査 食品規格 目 的 : 食品衛生に係る監視指導 (基準値への適合性の監視) 実施基準: 食品衛生法に基づく食品規格に準拠 分析成分: 試験法に規定された農薬(代謝物を含む、通知法:「分析対象化合物」) 分析法: 厚労省公示試験法 (告示・通知試験法 [個別、グループ別、一斉]) 成 果 : 製造販売の規制、廃棄、罰則等 ③ その他 水道法、水質汚濁防止法、環境基準法 等に係わる農薬の残留検査 分析試料 : 水道水、河川水、ゴルフ場排出水、工場排水、土壌、家畜飼料 等の分析 1-c-41 厚生労働省公示試験法 ○ 告示試験法 官報で告示された試験法 ・ 変更不可 (豆類、種実類に係るダミノジッドを除く) ・ 「不検出」の基準が設定されている場合に実施する。 (検出限界が規定されている。) ○ 通知試験法 医薬食品局食品安全部長から通知された試験法 「食品に残留する農薬 飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法 」 「食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/siken.html ・ 同等以上の試験法への変更可 (試験法の妥当性評価ガイドラインが示されている。) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu3/dl/071115-1.pdf ・ 一斉試験法と個別試験法 農産物中の残留農薬通知試験法 GC/MSによ る一斉試験 法 250 農薬 既存の個別及 び農薬グループ 別の試験法 LC/MSによ る一斉試験 法 162 農薬 新規の個別試験法 (検討中及び予定) 2007年8月現在 1-c-42 一斉試験法(農産物)の分析フロー 試 料 アセトニトリル抽出 100 mL定容 定容 20 mL 20 mL 塩 析 (中性下) 20 mL 塩 析 (酸性下) [穀類、豆類、種実類] C18ミニカラム グラファイトカーボン/NH2積層ミニカラム シリカゲルミニカラム アセトン/ヘキサン定容 メタノール定容 メタノール定容 GC/MS LC/MS(Ⅰ) LC/MS(Ⅱ) GC/MS,LC/MS(Ⅰ)一斉試験法(農産物) <穀類,豆類,種実類の場合> 試料10g+膨潤操作 ・水20mL添加,15分放置 アセトニトリル抽出 塩析(中性下) C18ミニカラム [アセトニトリル10mLで前処理] ・抽出液負荷,アセトニトリル2mLで溶出 ・脱水(Na2SO4),ろ過,濃縮乾固 GCB/NH2積層カラム 試験溶液 GC/MS,LC/MS 1-c-43 GC/MS,LC/MS(Ⅰ)一斉試験法(農産物) 試料20g <野菜,果実の場合> アセトニトリル抽出 ・アセトニトリル50mL(ホモジナイズ), 吸引ろ過 ・アセトニトリル20mL(ホモジナイズ),吸引ろ過 ・ろ液を合わせアセトニトリルで100mL定容 塩析(中性下) ・抽出液20mL(試料4g相当)を分取 ・NaCl 10g, 0.5mol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)20mL ・10分振とう,アセトニトリル層分取 ・脱水(Na2SO4),ろ過,濃縮乾固 GCB/NH2積層カラム [トルエン/アセトニトリル(1:3)10mLで前処理] [ト / セト トリ ( ) 前処理] ・残留物をトルエン/アセトニトリル(1:3)2mLに溶解,負荷 ・トルエン/アセトニトリル(1:3)20mLで溶出,濃縮乾固 試験溶液 ・GC/MS測定用⇒アセトン/ヘキサン(1/1) 溶液 GC/MS,LC/MS ・LC/MS測定用⇒メタノール溶液 LC/MS(Ⅱ)一斉試験法(農産物) 試 料 アセトニトリル抽出 塩析(塩酸酸性 ) 塩析(塩酸酸性下) ・抽出液20mL(試料4g相当)を分取 ・NaCl 10g, 0.01mol/L塩酸20mL ・10分振とう,脱水(Na2SO4),ろ過,濃縮乾固 シリカゲルミニカラム [メタノール,アセトン各5mL及びヘキサン10mLで前処理] ・残留物をアセトン/ヘキサン/トリエチルアミン(20:80:0.5)2mLに溶解,負荷 ・アセトン/ヘキサン/トリエチルアミン(20:80:0.5)10mL洗浄 試験溶液 ・アセトン/メタノール(1:1)2mLで容器の洗い込み,溶出 ・アセトン/メタノール(1:1)18mLで溶出,濃縮乾固 LC/MS 1-c-44 2 - (1 - ナフ チ ル )ア セ タ ミド ア サ ゙メ チ ホ ス ア ラク ロー ル イソフ ェンホ ス インドキ サ カル フ ゙ エ トキ シ ス ル フロン オキ サ ヘ ゙トリ ニ ル カル プロパミド ク レソキ シ ム メ チ ル ク ロル スル フ ロン ク ロロク ス ロン シ ゙ク ロシ メ ッ ト シ ゙ク ロル ミド シ ゙フェノコ ナ ゾー ル シ ゙メ チ ヒ ゚ン ス ヒ ゚ロキ サ ミン チ ア シ ゙ニ ル テ トラシ ゙ホ ン テ ル ブホ ス トリ フ ル ミゾー ル ナプロパミド ハ ロキ シ ホ ッ フ ゚ ヒ ゚ラゾス ル フ ロンエ チ ル ヒ ゚リ ミノバッ ク メ チ ル フ ェノキ シ カル フ ゙ フェンブコ ナ ゾー ル フラム フ ゚ロッ プメ チ ル フル ス ル ファ ミド プロク ロラズ プロヒ ゚サ ゙ミド ブロモ ホ スエ チ ル ヘ ゚ンコ ナ ゾー ル ホキ シ ム メ カル バム メ トス ラム モ ノリ ニ ュ ロン 回収率 生野菜の回収率変動 生野菜からの回収率 200.0 180.0 160.0 原料人参(生) 回収率 (%) 140.0 120.0 原料キャベツ(生) 回収率 (%) 100.0 原料白菜(生) 回収率 (%) 80.0 60.0 40.0 原料小松菜 (生) 回収率 (%) なす(生鮮、 中国産) 回収率 (%) 20.0 0.0 農薬429項目 個別試験法と一斉試験法の抽出効率 個別試験法と 一斉試験法の抽出効率 第27回農薬残留分析研究会発表 1-c-45 定量時の問題点:GC GCでの保持時間ずれ での保持時間ずれ 標準溶液 各0.2 ng コーヒー豆 pp 添 0.1ppm添加 GC/MS GC/MS一斉試験法の加工食品等への 一斉試験法の加工食品等への 適用結果 1-c-46 GC/MS(LC/MS)による残留農薬一斉試験法(畜水産物) 筋肉,脂肪,肝臓,腎臓及び魚介類 乳,卵及び蜂蜜 油層 試 料 試 料 アセトン/ヘキサン抽出 アセトニトリル抽出 塩 析 蜂 蜜 ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC) 筋肉,脂肪,魚介類, ゴマ油の抽出例 肝臓及び腎臓の場合 2画分に分けて溶出 PSAカラム シリカゲルカラム 乳,卵の場合 1画分で溶出 画分で溶出 PSAカラム アセトン/ヘキサン(メタノール)溶液 アセトン/ヘキサン(メタノール)溶液 GC/MS (LC/MS) GC/MS (LC/MS) 分析法の妥当性確認(添加回収試験等) 頻 度 農薬登録 食品規格 試験/作物/圃場ごと 週1回以上/月1回以上 不検出基準 基準値設定 定量限界濃度 基準値 添加濃度 実残留濃度付近 基準値×1/5以下 検出限界値×2 基準値と定量限界 値の中点値*) 回収率 変動係数 実施指針 70~120% ≦20% 70~120% ≦10% (≦20%)**) 農薬登録に係る試験ガイドライン 食品衛生検査施設等における検査等 における精度管理の一般ガイドライン (H17.3.16通知) (平成9年4月1日、衛食第117号) *) (a+b)/2 a:基準値、b:定量限界値 **) Zスコアによる評価 ・・・z = |xi–x|/s < 2 xi:検出値、 s :標準偏差 回収率: >100% ⇒ マトリックス効果、夾雑物によるかさ上げ、濃縮等 回収率: <70% ⇒ 抽出不良、精製によるロス、測定妨害(精製不良)等 1-c-47 食品中多成分残留農薬分析の難しさ 名前は農薬、中身は全有機化合物 極性、水溶性~無極性、脂溶性 酸性物質~塩基性物質 圧倒的な夾雑物の中から微量の化合物を検出する。 分析途中で分解する不安定な化合物もある。 分析機器 + 分析担当者(技術力) + 経験 ご静聴有り難うございました 1-c-48 2.実習 2‐1 農薬の測定方法とマニュアル作成の実際 福山大学 大川 秀郎 実習 2‐2 免疫化学測定の実際とマニュアル作成 福山大学 嶋津小百合、大川 秀郎 神戸大学 乾 秀之 (株)堀場製作所 三宅司郎 (株)住化分析センター 山科 清 1-c-49 実習 2-1 「農薬の測定方法とマニュアル作成の実際」 福山大学 大川秀郎 1. はじめに 農薬の使用に伴う散布農薬の農作物や環境における残留量、即ち、親化合物と代謝分解 物を含む(残留農薬)、それらの食物を介した人での摂取量の推定と人の健康への影響のリ スクを総合的に管理する(図 1)。農家・生産者は農薬の購入量、使用量、廃棄量などを記 録して、トレーサビリティーを確保する。また、収穫物の貯蔵、出荷、輸送、調理、食品 加工、製品出荷、廃棄物のリサイクルに伴う残留農薬の検査を行う(図 1)。 農家・生産者(農薬の購入量、使用量、廃棄量などの記録) 農薬散布 農作物(残留) (残留) 食料 (残留) 飼料 (残留) 肥料 調理 “消費者” (摂取、影響) 加工食品(残留) 畜産物(残留) 水産物(残留) 廃棄物リサイクル(残留) 図 1.残留農薬のモニタリング(監視) 2. 残留分析の実際 残留農薬の検査、即ち、残留分析では基本的には全ての毒性残留物質について分析すべ きである。つまり、親化合物及び毒性学上注意すべきその分解生成物、代謝物(遊離及び 不溶性)、および、不純物などの全てにわたり分析しなければならない。けれども、どの物 質を分析すべきかについては、実用上の基準、例えば、最小検出限界、また、哺乳動物へ の毒性が親化合物の毒性より低くないことなどがある。哺乳動物における代謝では見いだ されていない代謝物の場合は、その毒性如何によっては、残留消長に関して詳しく調べる。 残留分析の手順は、試料抽出、精製(クリーンアップ)、そして定量などから成り立ってい る。ピレスロイド系殺虫剤フェンバレレートの代謝物とそれらの抱合体のヒト尿における 分析の手法を図 2 に示す。また、ヒト尿におけるフェンバレレート代謝物の添加回収率の 1-c-50 試験結果を表 1 に示す。抽出物のクリーンアップ用には各種のアフィニティーカラムが市 販されている。ガスクロマトグラフィー(GC)の検出器に関しては、通常 ECD が高感度 を示すので広く使われている。これに対して、分子中にリンや窒素を持つ化合物には FTD はより選択的に反応し、FPD はリンやイオウを含む化合物の微量分析においては日常的な 検出器である。また、親化合物や代謝物の同定にはガスクロマトグラフィー/マススペクト ロメトリー(GC/MS)が使われる。リンゴにおけるフェンバレレート分解生成物の分析方 法を図 3 に示す。最近では光学異性体のラセミ体混合物が農薬として使われている。フェ ンバレレートとエスフェンバレレートについて、ナシに散布した後の残留について、異性 体成分の分離、分析を図 4 に示す。 重水素標識 HPBA(内部標準) 図 2.ヒト尿中のフェンバレレート代謝物とその抱合体の分析方法 1-c-51 表 1.ヒト尿におけるフェンバレレート代謝物の添加回収率 代謝物 CPIA PBA HPBA 測定 GC-MS (MF) GC-MS (MF) GC-MS (MF) MDA (ng) 0.2 MDC (ppm) 0.002 0.002 0.2 2 0.02 添加量 (ppm) 0.02 回収率 (%) 107 0.2 89 2 90 0.02 93 0.2 88 2 100 0.2 100 2 MF:マスフラグメントグラフィー MDA:最小検出量 MDC:最大検出濃度 図 3.リンゴにおけるフェンバレレート分解生成物の分析方法 1-c-52 99 図 4.ナシでのフェンバレレート(400g ai/ha)とエスフェンバレレート(100g ai/ha) の散布後の残留 収穫時の残留量は、貯蔵、加工、調理を通して変化・減少していく。すぐ口にする状態 にある食物に含まれる残留量が食品の安全にとって最も重要である。従って、これらの過 程は詳しく辿らなければならない。このような条件のもとで、より反応性に富む生成物が 新たに生成していないかどうか、その量は増えていないかどうかを明らかにする必要があ る。 図 5.コムギにおけるフェニトロチオンの残留 1-c-53 フェニトロオキソン フェニトロチオン チオール体 図 6.貯蔵穀類でのフェニトロチオンの分解経路(フェノール側) 収穫した農作物については病害虫から保護し、品質の低下を防ぐためにいくつかの農薬 が収穫後の処理に使われている(いわゆるポストハーベスト処理)。有機リン殺虫剤フェニ トロチオン(コムギ)、フェンバレレート(コムギ)、有機リン殺虫剤マラチオン(コムギ、 トウモロコシ、オオムギ、ピーナツ)、OPP(柑橘類)などがある。図 5 に示したように、 一般的には時間の経過につれて最初の付着量は明らかに減少していく。ここでは、大陸間 輸送中における害虫による被害から守るために、小麦穀粒にフェニトロチオンが処理され ている。この残留の減少原因となる 1 つの要因は、揮散を除けばその作物の酵素による分 解である。図 6 に米と小麦穀粒での分解経路を示す。フェニトロチオンは、本質的に生育 している植物におけるとほぼ同じ経路で穀粒の中でも分解される。即ち、主として O-脱メ チル化、P-O-アリル結合の開裂、フェニトロオキソンへの酸化的脱硫反応などであるが、 その他に微量の分解物も検出される。加工や調理により、表 2 に示すように、フェニトロ チオンは(揮散とともに)分解されて減少する。フェニトロチオンは穀物の表面に処理す るために、大部分は糠や麩の中に残留し、小麦粉の中の残留量はこの場合は小麦穀粒の 1/10 以下となり、有意に少ない。そして、パンとして焼いた後は残留フェニトロチオンは更に 減少している。米の中及び表面のフェニトロチオン残留も、小麦の場合と同様に精米や調 理で減少する。すなわち玄米に表面処理したフェニトロチオンは精白によって白米中には 1/5 弱となり、さらに炊飯によってそれはさらに 1/2 以下に減少する。減少分のいくらかは 炊飯時の蒸散によることも確かめられている。フェノール側の分解物の中にも同じように 蒸散によって消失するものもあった。これらの知見は、加工や調理にともなう残留農薬の トレースの重要性を示している。 1-c-54 表 2.製粉・調理におけるコムギのフェニトロチオン残留の変化 3. 免疫化学測定方法 分析機器の進歩は著しく、しばしば ppt レベルの残留農薬も試料如何によっては測定可 能である。しかしながら、液体クロマトグラフィー(LC)/MS、MS/MS のような高感度の 検出器を備えた機器は年間数百ないし数千点に及ぶ試料の日常の残留分析になじまない。 さらに、開発途上国への技術移転を考えると、確実でしかも簡単な実用的残留分析方法の 開発を行うべきであろう。 即ち、生物機能に基づくバイオアッセイ方法を用いて、簡単に安価に感度よく多種・多 数の試料について残留農薬のスクリーニングを行うことが求められている。例えば、抗原・ 抗体反応の特異性に基づく免疫化学測定(イムノアッセイ)の試薬キットが市販されてい る。本方法は高感度であり、目的の化学物質を試料から抽出・精製することなく、あるい は最小限の前処理によって迅速かつ簡便に測定できる。また、高価な機器を必要としない た め 、 現 場 で 測 定 す る キ ッ ト な ど も 市 販 さ れ て い る 。 こ こ で は ELISA (Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)の概要を説明する。また、検体特異的抗体を ビーズなどに固相化したイムノアフィニティーカラムがクリーンアップに用いられている。 3.1. 抗体アフィニティーカラムを用いたクリーンアップ 環境ホルモン・ビスフェノール A の単鎖抗体(scFv)をガラスビーズに固定化し、それ をガラスカラムに充めたイムノアフィニティーカラムの調製を図 7 に示す。また、本アフ ィニティーカラムを用いて河川水のビスフェノール A を精製した例を図 8 に示す。 また、イムノアフィニティーカラムとオアシス HLB カラムのビスフェノール A の回収率 の比較を表 3 に示す。このようにビスフェノール A に特異的な単鎖抗体を用いたイムノア フィニティーカラムは 15 回の繰り返し使用が可能であった。 1-c-55 図 7.ガラスビーズを用いたビスフェノール A に対するイムノアフィニティーカラム 淀川河川水の HPLC-FLD によるビスフェノール A の分析 図 8.イムノアフィニティーカラムの淀川河川水におけるビスフェノール A への適用 表 3.オアシス HLB カラムとイムノアフィニティーカラムを用いたビスフェノール A の回収率 3.2. ELISA の実際 一般に、農薬などの低分子化合物は抗体との結合が可能な箇所(エピトープ)が 1 ヶ所 に限定されるため、これらに対する ELISA は主に競合阻害 ELISA 方法が用いられる。本 1-c-56 方法は直接競合方法と間接競合方法に分類できる。直接競合 ELISA 方法では、あらかじめ 96 穴マイクロタイタープレートのウェル、あるいは、チューブ、磁性ビーズなどの表面に 抗体を固相化し、それらに試料と一定量の酵素標識抗原を加えると、試料中の検体と標識 抗原が競合的に抗体と結合する。未反応物を洗浄した後、酵素の基質を加え、酵素反応生 成物の発色の吸光度をマイクロプレートリーダー等で測定する。その測定値は試料中の検 体量に反比例する。そのため、標準品の検量線と比較し、吸光度に基づいて検体濃度を決 定する。間接競合 ELISA 方法では抗原を支持体に固相化し、試料と一定量の抗体を加える と試料の検体と固相化抗原が競合的に抗体と結合する。洗浄後、酵素標識二次抗体を加え て支持体上の抗原抗体複合体を追跡する。再度洗浄を行った後、酵素の基質を加え、上記 と同様にして試料の検体量を測定する。抗 PCB80 モノクローナル抗体を用いた間接 ELISA の例を表 4 に示す。また、PCB80 関連化合物に対する交叉反応性を表 5 に示す。 農薬に特異的に反応する抗体を用いた免疫化学測定のうち、水試料について測定する ELISA キットなどが実用化されている。また、土壌、農産物などの試料を測定するために は、試料に由来するミセルやマトリックスの効果に基づく測定の精度の確保、標準化合物 の代謝物や同族体に対する交叉反応性の回避などを克服することが求められる。なお、農 薬及び環境ホルモン類に対する ELISA 測定の例を表 6 に示す。 表 4.抗 PCB80 モノクローナル抗体を用いた間接 ELISA における最適条件とこ れまでの報告との比較 文献: 1-c-57 表 5.抗 PCB80 モノクローナル抗体を用いた間接 ELISA における交叉反応性 表 6.農薬及び環境ホルモン類に対する ELISA 測定 1-c-58 4. おわりに 残留農薬分析は ppt~ppm の微量分析であり、農薬の種類は多く、しかも、食品試料は 多様であり、それぞれに含まれる成分は多種・多様である。 従って、実試料の分析においてこれまでに例に示した方法や条件がそのまま最適ではな いと思われる。従って、試料ごとに測定対象ごとに前処理、クリーンアップ方法などを最 適化する、また、測定方法や条件を最適化する。そのための条件検討などの予備試験が必 要になる。原理・原則、機構などをしっかりと理解し、それを基に応用、改良、最適化す ることが求められる。 それと共に、精度管理を確立する。 農薬に対する ELISA キットに関して、日本国内で発売されている環境分野関連の ELISA キット等が生物化学的測定研究会のウェブサイトにリストアップされている (http://wwwsoc.nii.ac.jp/icsj/)。 競合免疫測定方法通則「JIS K0461」は平成 18 年 1 月 20 日の官報に公示された。また、 非競合免疫測定方法(サンドイッチ法)通則「JIS K0462」が平成 20 年 3 月 20 日の官報 に公示されている。 参考資料:「残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ」改訂 2 版 2005、日本農薬学会 その他に、ISO 15089: 2000 水質、「作物保護剤の検査のための選択的イムノアッセイの ガイドライン」がある。 ポジティブリスト制度の導入に伴った残留分析法は厚生労働省 HP に提案されている。 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/positivelist/040806-1.html 10 1-c-59 実習 2-2 免疫化学測定の実際とマニュアル作成 福山大学グリーンサイエンス研究センター 嶋津小百合、大川秀郎、 神戸大学遺伝子実験センター 乾 秀之、(株)堀場製作所 三宅司郎、 (株)住化分析センター 山科 清 1.はじめに 2006 年 5 月に残留農薬のポジティブリスト制度が施行され、分析・検査対象の農薬や作 物の種類・量が増大した。そのため、多種多数の農薬を対象とする多成分分析、分析・検 査の効率化のための簡便なスクリーニング方法の導入、多種多数の農薬を対象に簡易抽 出・精製方法、などが必要になった。また、対象農薬には、分解しやすく、極性が非常に 高く、揮発しやすいなどの機器分析に適さないものが存在する。それと共に、効率的に分 析・検査を行うためには、作物の種類や生産地における農薬の販売・使用量、諸外国のモ ニタリングデータ等の情報に基づき使用の可能性が高い農薬や検出頻度の高い農薬を選択 して分析する。 通常、残留農薬分析は GC、GC/MS などを用いた機器分析が主である。しかし、最近、 免疫化学測定方法をスクリーニングに用いることが可能になった。 ここで言う免疫化学測定とは、抗原・抗体反応の特異性を利用して、ppt~ppm の低濃度 の残留農薬、環境ホルモン、重金属などの低分子量の環境負荷物質を測定する方法である。 現 在 市 販 さ れ て い る 測 定 キ ッ ト は 酵 素 免 疫 測 定 方 法 ( ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay) が 主 で 、 生 物 化 学 的 測 定 研 究 会 の ホ ー ム ペ ー ジ (http://wwwsoc.nii.ac.jp/icsj/)にリストが掲載されている。 農薬の場合、その誘導体であるハプテンを合成し、それを担体タンパク質に結合するこ とにより免疫原(抗原)を作製する。それを哺乳類に免疫すると、おのおの異なるエピト ープ(抗体認識部位)を認識する抗体の混合物ができ、それらを含む血清をポリクローナ ル抗体という。一方、免疫動物の脾臓細胞からハイブリドーマを調製して、それをクロー ン化することにより生産する単一抗体をモノクローナル抗体という。抗体は例えば IgG の 場合、2 本の同一 H 鎖(Heavy chain)と 2 本の同一 L 鎖(Light chain)の計 4 本のポリ ペプチドが互いにジスルフィド結合している。4 本のポリペプチドにはアミノ酸配列の類似 性が高い定常領域(Constant region)とアミノ酸配列の類似性が低い可変領域(Variable region)があり、可変領域には抗原結合部位(パラトープ)が存在する。抗原は分子量数百、 または、4~5 アミノ酸残基の大きさが必要で、通常、低分子量の抗原には 1 つのエピトー プが存在する。また、抗体の H 鎖と L 鎖の可変領域を連結した単鎖抗体(Single chain Fv : scFv 抗体)を遺伝子組換え技術などを用いて作製することができる。 ELISA では測定対象(抗原)に対する特異抗体をマイクロプレートのウェルに固相化し、 測定対象と酵素標識抗原を加えると両者が抗体との結合において競合し、余分を洗浄した 1 1-c-60 後に、酵素の基質を加えて酵素反応後に生成物の発色の吸光度を測定することで測定対象 の濃度を測定する(直接競合 ELISA)。使用する抗体はハプテン抗体であり、抗原類似化合 物に対する交差反応性がある。また、試料成分に由来するミセルやマトリックスの効果、 色素などの阻害物質などをいかに回避するかが重要になる。最近では重金属を測定するキ ットが販売されている。これらの方法は簡単な試料の前処理で、短時間に多数の検体を測 定することができ、主に、スクリーニングに用いられている。また、現場で使用すること のできる簡易測定キットもある。 一方、抗原・抗体反応の特異性を利用した試料前処理用の抗体アフィニティーカラムを 作製し、それを ELISA と組み合わせて測定に用いることができる。 本集団実験実習では実習 1“抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理” (環境ホル モン・ビスフェノール A)、実習 2“農薬等の ELISA 測定とデータ処理”(殺虫剤ジノテフ ラン)および実習 3“Cd などの ELISA 測定とデータ処理” (コメの Cd)を実施した。そ れらの実験実習の実際と課題並びにマニュアル作成とその活用策についてまとめた。 2.実習 1:抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理(環境ホルモン・ビスフェノー ル A) 食品中の残留農薬の分析では多種多数の農薬を対象として、多種多様な食品の試料につ いて、効率的に分析・検査を行うためには、各種情報を基に可能性の高い農薬を選定し、 対象となる食品について、適切な抽出、クリーンアップなどの前処理方法を確立する。通 常、機器分析用試料の抽出物のクリーンアップにはカラムクロマトグラフィーを行うが、 抗原・抗体反応の特異性を利用した抗体アフィニティーカラムを作製・使用することがで きる。測定対象化合物に特異的な抗体を用いることにより、対象化合物を高度に精製・濃 縮することができる。処理試料は機器分析や ELISA などに供する。 現在、各種マイコトキシン用抗体アフィニティーカラムが市販されている。本実習では 抗ビスフェノール A(BPA)モノクローナル抗体を使用した抗体アフィニティーカラムを 作製し、それを用いて水試料中の BPA の精製・濃縮を試みた。図 1 に操作マニュアルと注 意事項を示す。 2-1 抗体アフィニティーカラムの調製 BPA はプラスチックの原料であり、洗剤や酸に溶け出し、水質、底質に検出される。ま た、BPA は女性ホルモン・エストロゲン類似作用を示す。 抗 BPA モノクローナル抗体アフィニティーカラムの作製は次のとおりである。担体であ る 0.2 g(約 0.8 ml)の Protein A Sepharose CL-4B(GE ヘルスケア、cat#17-0780-01) に抗 BPA モノクローナル抗体 BBA2187 を結合し、ピメルイミド酸ジメチル 2 塩酸塩 (DPM)によって架橋したものを直径 1.5 cm 長さ 10 cm のガラスシリンジに充填した。 防腐剤として 3 ml の 0.01%チロメサールを含む PBS(phosphate buffered saline、注 1) を添加し、4℃で保存した。 2 1-c-61 抗BPAモノクローナル抗体アフィニティーカラムをスタンドに固定。 ←カラムは垂直に固定する。 カラムの下に液トラップ用200 ml ビーカーを置く。 コンディショニング ←キャップは上部、次に底部の キャップを取り、カラムのPBS*を自然落下で除く。 順に取る。底部から空気が入 :夾雑物 5 ml PBS*を添加し、自然落下で通液した。 ってしまった場合は、シリンジ を用いて吸引し、空気を除く。 :担体 :抗体 5 ml 脱イオン水を添加した。 :抗原(BPA) ↑カラム中の液がなくなったら直ちに添加する。 試料添加 カラムの中心にゆっくり添加していく。 50 ml 水試料を添加し、BPAをカラムに結合させた。 水試料 ↑カラム中の液がなくなったら直ちに添加する。 洗浄 カラムの中心にゆっくり添加していく。 5 ml 脱イオン水を添加した。 ←カラム中の液がなくなったら直ちに添加する。 カラムの中心にゆっくり添加していく。 3 ml 5%メタノールを添加した。 溶出 抗体アフィニティーカラム カラムの下のビーカーを10 ml試験管に交換した。 3 ml 100%メタノールを添加し、自然落下で溶出した。 ←カラム中の液がなくなったら 直ちに添加する。 抗BPAモノクローナル抗体アフィニティーカラムの再生 カラムの中心にゆっくり添加 していく。 BPA溶出液(10 ml 試験管) 約10 gの硫酸ナトリウムをガラスウールを詰めた漏斗に入れた。 15 ml 100%メタノールで洗浄した後、新しい10 ml試験管を下に置く。 ←試料は、硫酸ナトリウムの中心にゆっくり BPA溶出液を添加した。 5 ml 100%メタノールを添加した。 添加していく。 ←メタノールは、ゆっくりと一気に添加し、 硫酸ナトリウムが浸るようにする。 回収BPA溶液(10 ml 試験管) 2000 rpm、5分間遠心分離した。 上清を50 mlナシ型フラスコに移した。 エバポレータで乾固した。 残渣を1 ml 100%メタノールに溶解した。 ←マイクロピペットで正確に分取する。 ←パスツールピペットでナス型フラスコの内部を メタノールで洗うように溶解する。 20 μl 溶解液をHPLCに供試した。 HPLC条件: HPLC:TOSOH社製 SC-8101、CO-8101、FS-8101、PP-8101、CCPM カラム:COSMOSIL 5C18-AR-II 4.6mmI.D.x150mm (ナカライテスク) 移動相:アセトニトリル:水:酢酸=40:60:0.1, v/v/v 図 1 抗 BPA モノクローナル抗体を用いたアフィニティーカラム クロマトグラフィーの操作マニュアルと注意事項 3 1-c-62 (注 1)組成:10 mM リン酸ナトリウム、150 mM 塩化ナトリウム、pH 7.2 10 mM NaH2PO4 / 0.9% NaCl を 100mLの10 mM Na2HPO4/ 0.9% NaClにpH 7.2になる まで添加して調製した。 抗 BPA モノクローナル抗体 BBA2187 は BPA ハプテンを用いて作製した免疫原をマウス に投与して調製した。本抗体は BPA に高い結合親和性を示し、類似化合物のビスフェノー ル E、ビスフェノール F、および、ジエチルスチルベステロールに対する交叉反応性が低く、 しかも、安定で使用し易い。 2-2 抗体アフィニティーカラムのコンディショニング 抗 BPA モノクローナル抗体アフィニティーカラムをスタンドに固定し、キャップを取り、 カラムの下に溶媒トラップ用の 200 ml ビーカーを置いた。その後、カラムの PBS を自然 落下で除いた。 使用する前に 5 ml の PBS と 5ml の脱イオン水を順次カラムに添加して自然落下でコン ディショニングを行った。 2-3 試料添加とクロマトグラフィー 200 ppb BPA 水試料の 50 ml をコンディショニングしたカラムに添加し、自然落下で含 まれる BPA をカラムに結合させた。その後、5 ml の脱イオン水と 3 ml の 5%メタノール で順次カラムを洗浄し、不要な夾雑物などを洗い流した。 2-4 ビスフェノール A の溶出 カラムの下に 10 ml の試験管を置き、3 ml の 100%メタノールを洗浄したカラムに添加 して自然落下で BPA を溶出し、溶出液を回収した。 2-5 溶出液の脱水 約 10 g の硫酸ナトリウムをガラスウールを詰めた漏斗に入れて 15 ml の 100%メタノー ルで洗浄した後、溶出液を加えて自然落下で通過させて溶出液の脱水を行った(図 1)。さ らに 5 ml の 100%メタノールを通過させ、この洗浄液と先の溶出液を合わせて回収 BPA 溶 液とした。 2-6 溶出液の濃縮 回収 BPA 溶液を 10 ml ガラス試験管に移し、軽く撹拌後、2000 rpm、5 分間の遠心分離 を行い、上清を 50 ml ナシ型フラスコに移して、ロータリーエバポレーターで溶媒を溜去 して乾固した。 2-7 HPLC による測定 用いた 50 ml ナシ型フラスコに 1 ml の 100%メタノールを加えて BPA 残渣を溶解し、溶 解液を HPLC 分析に供した。HPLC 装置(TOSOH 社、SC-8101、CO-8101、FS-8101、 PP-8101、CCPM)を用い、カラムは COSMOSIL 5C18-AR-II 4.6mml.D.x150mm(ナカ ライテスク)を使用した。20 μl の試料を注入して移動層はアセトニトリル:水:酢酸= 40:60:0.1(v/v/v)を用いて展開した。励起波長 275 nm で検出波長 300 nm の条件で測定 した。その結果、溶出時間 8 分に BPA の単一ピークを認めた(図 2)。周辺に重複するピー 4 1-c-63 クがないことから、精製度は高いと思われる。 BPA 図 2 抗体アフィニティーカラムを用いて水試料から精製した BPA の HPLC クロマトグラム 2-8 後始末 廃液はメタノール廃液として処理した。 5 1-c-64 3.実習 2:農薬等の ELISA 測定とデータ処理(殺虫剤ジノテフラン) 殺虫剤ジノテフランは三井化学(株)によって開発され、ネオニコチノイド系で、主に半翅 目害虫などの防除に用いられ、野菜や果実を対象とする。 一般名: ジノテフラン 化学名: (RS)-1-methyl-2-nitro-3-(tetrahydro-3-furylmethyl)guanidine 化学式: N O N H NO2 N H クロチアニジン 一般に、残留農薬を測定する際、農産物の種類ごとの性質の違いから以下の 3 点に留意 する必要がある。 ① 試料(農産物)のサンプリング:食品衛生法では、農産物の可食部を測ることになって いるため、例えば、トマトではへたを除く必要がある。 ② 磨砕均一化:果菜類や果物は磨砕均一化しやすいが、葉菜類は繊維が多いので使用する ホモジェナイザーによっては磨砕に工夫が必要になる。また、穀類は予め水で膨潤させ るなど、農産物の種類により処理の異なる場合がある。 ③ 抽出:メタノールを用いて残留農薬を抽出するが、同時に農産物由来のマトリックスも 抽出されてくる。農産物の種類によっては、マトリックスが測定に影響を与える。 トマトはマトリックスの影響が少なく、且つサンプリングと磨砕均一化の操作が容易な ことから、試料として最も扱いやすい農産物の 1 つである。よって、本実習では、トマ トを測定対象にし、(株)堀場製作所製のジノテフラン測定キットを使用した(写真 1)。 本測定キットに用いた抗ジノテフラン・モノクローナル抗体は、ネオニコチノイド系殺 虫剤に属するクロチアニジンと高い交差反応性を示す。その他、ネオニコチノイド系殺虫 剤アセタミプリドや混合剤として使用されているピリフェノックスなどの成分とは交差反 応性がない。従って、本測定キットで測定した場合、ジノテフランもしくはクロチアニジ ンをジノテフラン換算濃度として表わすことになる。図 3 にジノテフラン測定の原理を示 す。 写真 1 ジノテフラン測定キット 6 1-c-65 添加 混合 + 検体溶液 ジノテフラン・ハプテン 酵素標識物溶液 固相化抗体 混合溶液 酵素反応 洗浄 酵素反応 生成物の発色 競合反応 :抗体 :ジノテフラン (検体) :ジノテフラン・ハプテン酵素標識物 : 基質(発色試薬) 図 3 直接競合 ELISA によるジノテフラン測定の原理 3-1 トマト中のジノテフランの測定 図 4-1 と 4-2 にジノテフラン測定キット使用マニュアルと注意事項を示す。 3-1-1 試薬の溶解・希釈 ジノテフラン標準試薬:ジノテフラン標準試薬 L および H に 10%メタノールの 1 ml を加 えて溶解し、検量線作成用ジノテフラン標準溶液 L(1.5 ppb)およびジノテフラン標準溶 液 H(30 ppb)とした。 ジノテフラン・ハプテン酵素標識物試薬:ジノテフラン・ハプテン酵素標識物試薬に 6 ml の超純水を加えて溶解し、ジノテフラン・ハプテン酵素標識物溶液とした。 洗浄試薬:洗浄試薬全量(50 ml)に超純水 450 ml を加えて希釈し、洗浄液とした。 3-1-2 トマト試料の調製 トマト 1 個(約 200 g)のヘタを除き、包丁で細切し、ホモジェナイザーに入れて約 1 分間 磨砕し、試料を均一化した。 6 本の遠沈管のそれぞれに 5 g の磨砕均一化したトマトを量り取り、メタノール 24 ml を添 加した。 1 ml のジノテフラン標準溶液(100 ppb、500 ppb、1000 ppb;メタノール溶液)を各濃度 2 本ずつ上記の遠沈管に添加した。 密栓後、振とう機にセットして 120 回/分の条件で 30 分間振とう抽出した。 抽出した液を濾紙で濾過した。 7 1-c-66 工程1: 測定試料の調製 農産物(野菜・果実)の磨砕均一化 トマト 1 個(約 200g)のヘタを除 ●サンプリングの 測定目的に応じて決める。 き、細切し、ホモジェナイザーに入 量と部位の選択 例トマト:可食部(へたを取る) 100 g ●秤量 正確に秤量する。 許容範囲:4.9 g – 5.1 g ●分注 メスシリンダーを使用する。 れて 1 分間磨砕した。 メタノール抽出 50 ml 容遠沈管に磨砕物 5.0 g を秤 量した。 メタノール 24 ml とジノテフラン標 準溶液(100、500、1000 ppb)1 ml を加えて 30 分間振とう抽出した。 抽出液を 2 号濾紙で濾過した。 希釈 濾液は液だれしやすいので、マ 濾液 1.0 ml を精製水 7.5 ml で希釈 ●希釈 し、検体溶液とした。 工程2: ELISA による測定 ●キット温度 イクロピペッターですばやく分 注する。 キットは使用する 30 分前に冷 蔵庫から出し、室温に戻す 検体溶液とジノテフラン・ハプテン酵素標識物の混合 検体溶液 150 μl とジノテフラン・ハ ●試料分注量 プテン酵素標識物溶液 150 μl を試 験管中で等量混合した。 正確に等量混合する。 量比が変わると結果に影響す ●標識物分注量 る。 ●分注量 液がウェル上部や周辺のウェル に跳ねないようにする。 ●反応時間・温度 通常は 1 時間反応する。 反応時間は±5 分を目安 反応温度は 15℃-30℃ 競合反応 各抗体固相化ウェルに混合液 100 μl /ウェル、分注した。 30 分間室温放置して、競合反応に 供した。 図 4-1 ジノテフラン測定キット使用マニュアルと注意事項 8 1-c-67 洗浄 ●液量 洗浄液はウェルの上端まで 吸引除去は、液残りが無いよう確認 タッピングは、避ける。 ●分注量 正確な反応時間が必要なので、一定リ ズムで分注する。 10 分間室温放置して発色反応した。 ●反応時間・温度 反応時間は±10 秒以内を目安にする。 反応温度は 15℃-30℃ 発色停止試薬を 100 μl/ウェル、分 ●分注順・スピード 発色時間の精度が重要なので、発色試 薬分注と同じ順番、同じリズムで分注 する。 ●ウェル自体の吸収 通常ウェルの底面が目に見えて汚れ ていなければ問題にならない。 ●検出器のノイズ バリデーションの取れている検出器 なら問題にならない。 ●片対数グラフ 対数軸をジノテフラン濃度、真数軸を 吸光度でプロットする。 プレート洗浄機を用いてウェルを 3 回洗浄した。 発色 発色試薬を 100 μl/ウェル、分注し た。 注した。 吸光度測定 マイクロプレートリーダーを用い て各ウェルの吸光度を測定した。 反応停止後、15 分以内に測定する。 工程3: 測定結果 検量線のプロット p.9 図 4 を参照 検体溶液中ジノテフラン濃度の読取り 検体溶液の吸光度を検量線に重ね、ジノテフラン濃度を読み 取った。 トマト中ジノテフラン濃度の算出 トマト中ジノテフラン濃度 (ppb=ng/ml) 農産物の水分含量を 100%と仮定して 計算する。 =ジノテフラン濃度×6(トマト 5 g →メタノール 25 ml) ×8.5(抽出液 1 ml →超純水 7.5 ml) =測定試料中ジノテフラン濃度×51 回収率の計算(ジノテフラン既知濃度添加時) 回収率(%) =実測したトマト中ジノテフラン濃度/添加濃度×100 図 4-2 ジノテフラン測定キット使用マニュアルと注意事項 予め精製水 7.5 ml を入れた共栓試験管に 1 ml の濾液を加え、混合して検体溶液(10%メ 9 1-c-68 タノール相当)とした。 3-1-3 測定 ジノテフラン・ハプテン酵素標識物溶液を 150 μl ずつ 8 本の 5 ml ガラス試験管に分注し、 150 μl の検体溶液あるいは検量線作成用ジノテフラン標準溶液 L と H を添加して混合した。 上記混合溶液を抗体固相化プレートの各ウェルに 100 μl ずつ分注した。各サンプルにつき 2 重測定した。 プレートシールを貼り、室温で 30 分間反応した。 マイクロプレート洗浄機に洗浄液をセットし、1 ウェルあたり 300 μl の条件で洗浄を 3 回 繰り返し、ウェルに液が残っていないことを確認した。 各々のウェルに 100 μl の発色試薬を加えて室温で正確に 10 分間静置した。 直ちに 100 μl の発色停止試薬を添加し、発色反応を停止した。この時、ピペットから跳ね ない程度に強く押し出し、分注と攪拌を兼ねた。 発色停止後 15 分以内に 450 nm の吸光度をマイクロプレートリーダー(コロナ社、 MPT-300)により測定した。 3-1-4 トマト中のジノテフラン濃度の計算 得られた各ウェルの平均吸光度を測定し(表 1)、検量線用ジノテフラン標準溶液 L (1.5 ppb) およびジノテフラン標準溶液 H(30 ppb)の結果を片対数方眼紙の横軸にジノテフラン濃 度を、縦軸に吸光度をプロットして検量線を作成した(図 5)。 検体溶液の吸光度を検量線に重ね、ジノテフラン濃度を読み取った。得られた濃度を 51 倍 することにより、トマトにおけるジノテフラン濃度を算出した。さらに、ジノテフランの 添加濃度で割ることにより回収率(%)を求めた。 表 1 各測定試料の吸光度 測定、吸光度(450 nm) 試料名 1回 2回 平均値 ジノテフラン標準溶液 L(1.5 ppb) 1.142 1.213 1.178 ジノテフラン標準溶液 H(30 ppb) 0.251 0.264 0.258 トマト 1(添加量 100 ppb) 1.371 1.303 1.337 トマト 2(添加量 100 ppb) 1.277 1.278 1.278 トマト 3(添加量 500 ppb) 0.925 1.057 0.991 トマト 4(添加量 500 ppb) 1.040 1.123 1.082 トマト 5(添加量 1000 ppb) 0.786 0.848 0.817 トマト 6(添加量 1000 ppb) 0.848 0.889 0.869 10 1-c-69 1.0 0.5 0 1 10 ジノテフラン濃度(ppb) 100 図 5 ジノテフランの検量線 ジノテフラン測定濃度と回収率 トマト 1 検量線外 トマト 2 検量線外 トマト 3 2.7 ppb 137.7% トマト 4 2.6 ppb 132.6% トマト 5 5.0 ppb 127.5% トマト 6 4.1 ppb 104.6% 3-2 後始末 トマト抽出液はメタノール廃液、発色停止後の試料は硫酸廃液として処理した。 3-3 測定に際しての注意事項 ① キットは、使用 30 分程前に冷蔵庫から取出し、室温(15~30℃)に戻してから使用す る。 ② 異なるロットの試薬を組合せて使用しない。 ③ 使用した抗体プレートは、8 ウェルのストリップタイプになっている。使用しないスト リップはラミネート袋に戻し、密封して冷蔵保存(2~8℃)する。 ④ 検量線は、測定ごとに作成する。本操作は、測定間差異を解消するため重要である。 ⑤ 測定は、少なくとも 2 重測定で行う。本操作は、同一測定内差異を解消するため重要で ある。 ⑥ 検量線範囲を超える高濃度の測定試料の場合は、10%メタノールで追加希釈した後測定 する。 ⑧ 発色開始から発色停止までの各ウェルの反応時間は何れも 10 分になるように正確に操 作する。本操作は、発色が酵素反応のため重要である。 11 1-c-70 ⑨測定対象の農産物の種類によっては、その成分に由来するマトリックス効果により擬陽 性が生じる。擬陽性が生じる代表的な農産物には、ホウレンソウやキュウリが知られてい る。これらのマトリックスの本体は脂溶性物質で、メタノール抽出後、水で希釈すること でミセルを形成し、これが抗原抗体反応を物理的に阻害するために生じると考えられてい る。このマトリックス効果は、水で希釈した後の試料を限外濾過(分子量 10,000 でカット) することによって消失することが多い。また、キットの感度によっては、追加希釈しても 測定できる場合があり、希釈することによってマトリックス効果が消失する。実際の残留 農薬測定の場では、マトリックス効果のない条件を予め予備検討により確認しておくこと が重要である。 ⑪抽出時の遠沈管はプラスチック製で良いが、その後の試験管はガラス製を使用する。プ ラスチック製を使用すると、メタノール濃度が低い溶媒中では農薬がプラスチックに吸着 してしまう場合がある。 12 1-c-71 4.実習 3:Cd などの ELISA 測定とデータ処理(コメの Cd) カドミウム(Cd)は昭和 40 年頃に富山県神通川下流地域で発生したイタイイタイ病の原 因物質である。Cd は主にコメから摂取され、Cd が 0.4 ppm 以上の玄米は農林水産省が農 家から買い上げ、0.4 ppm~1.0 ppm 未満の玄米は非食用(工業用糊等)に、1.0 ppm 以上 のものは焼却処理している。一方、食品中の Cd の国際基準値はコーデックス委員会で精米 中の濃度が 0.4 ppm である。 現在、Cd の分析は原子吸光方法(公定法)などの機器分析が一般的である。しかし、こ の方法は精度は高いが 1 検体あたり約 5 時間かかり、分析装置の導入コストが高い、など の問題点があり、簡便かつ安価な測定方法の開発が求められていた。従来、Cd(112.4)な どの重金属を免疫化学的に測定することは難しいとされていた。最近、Cd と選択的に結合 するモノクローナル抗体が得られ、それを用いて、コメの Cd を迅速かつ簡便に検出・定量 する測定キットが開発された。 コメには Mg、Zn、Mn などが高濃度に含まれているため、抗 Cd モノクローナル抗体の それらに対する交差反応性が低くてもそれらの影響が出る。そこで、カラムを用いた前処 理によって Cd を選択的に吸着・溶出し(図 6) 、次いで、抗原・抗体反応の特異性により 高精度に測定することが可能になった(図 7)。さらには、簡便なイムノクロマトデバイス とクロマトリーダーを用いて、現場で測定することが可能になった。本実習では(株)住化分 析センターの簡易迅速測定キット“カドミエール TM”を用いてコメの た。同時に古代米、ダッタンソバについても測定した。 写真 2、3 カドミエール TM 13 1-c-72 Cd の測定を実施し Mg Fe Cu Mn Zn 希塩酸 純水 (洗浄) (溶出) Fe 分離カラム Cu Mn Cd Cd Cd Mg Fe Cu Mn Cd Cd Zn Mg Cd Mn Fe Zn Cd Cu Cd Cd Zn Cd Mg Cd 図 6 Cd の抽出と分離カラムによる精製メカニズム 検体 EDTA (Cd) 抗原抗体反応 抗体 Y Y + Y Cd-EDTA Y Y 抗体 複合体 Cd濃度 抗体が通過 混合 浸透 高 (3) テストライン テストライン 抗体が結合(発色) 低 (0) Y Y Y 滴下 Y 膜 Y Y 膜固定Cd-EDTA テストライン イムノクロマトデバイス 図 7 イムノクロマトの測定メカニズム 14 1-c-73 4-1 実習内容 図 8 にカドミエール測定操作マニュアルと注意事項を示した。 4-1-1 前処理 4-1-1-1 コメの粉砕 持参したコメを約 10g 量り取り、ラボミルサーを用いて 60 秒間粉砕した。 粉砕したコメを 20 ml の PP ボトルに 2.0 g 量りとった。 4-1-2 希塩酸による Cd 抽出 流通米 A 0.2 ppm、No.2、古代米、および、ダッタンソバの粉末を各々20 ml の PP ボトル に 2.0 g ずつ量りとった。 各々の PP ボトルに 0.1M 塩酸を 20 ml 加え、ふたを閉めて 60 秒間手に持って振とうして Cd を抽出した後、PP ボトルを 5 分間静置した。 別の 20 ml の PP ボトルのふたを開けて四つ折した直径 10 cm の円形ろ紙を入れた。 ろ紙が PP ボトルから外れないように注意しながらデカンテーションで抽出液をゆっくり 注いでろ過した。 4-1-2 分離カラムによる Cd の吸着 分離カラム容廃液瓶のふたを開けて分離カラムを引っ掛けてセットし、5 セット用意した。 マイクロピペットを用いてコメ抽出ろ液またはダッタンソバ抽出ろ液の 1 ml を採取し、分 離カラムの中心にゆっくりと加えて、自然落下により通液し、分離カラムからの液滴が落 下しなくなるまで続けた。 4-1-3 分離カラムの希塩酸洗浄 1 ml の 0.1M 塩酸を分離カラムの中心にゆっくりと加えて、通液して洗浄した。 スポイトを分離カラムに圧着し、残存液を押し出した。希塩酸がカラムに残っていると Cd の溶出効率が低下する。それと、押し出しすぎてカラムに空気が入らないように注意する。 4-1-4 分離カラムからの Cd の溶出回収 各分離カラムの下に PP 試験管を取り付け、試料名を記入した。 1 ml の純水を分離カラムの中心にゆっくりと加え、通液して Cd を溶出回収した。 その後、注射筒シリンジを用いて残存液を押し出した。Cd を全部出し切るよう注意する。 PP 試験管にふたをして Cd 測定用試料とした。 4-1-5 イムノクロマト測定 測定は室温(15~25℃)で行い、測定時の温度や湿度変化に注意する。また、冷暖房の風 が直接当たる場所や直射日光の当たる場所で行わない。 4-1-5-1 混合溶液の調製 チューブ立てに 8 本(標準液用 3 本と試料 5 本)の 1.5 ml チューブを準備し、試料名と標 準液濃度を記載した。 10、30、60 ppb の各濃度の Cd 標準液をマイクロピペットを用いて 20 μl 採取し、濃度を 記載した 1.5 ml チューブに入れた。 15 1-c-74 工程1:前処理(精米、麦、蕎麦) Step1:試料(コメ、麦、蕎麦)約 10 g を秤量し、ミルを 用いて粉砕した。 <正確な測定結果を得るための注意> ←ミルの壁面付着試料も採取する 抽出 Step2:希塩酸抽出 上記、粉砕試料 2.00 g を PP ボトルに秤量し、0.1M 塩 酸 20 ml を加えて 1~2 分間、手で振とう抽出した後、 定性用ろ紙でろ過した。 ←上皿天秤に風があたらないように ←試料採取量は 2.00±0.02 の範囲で ←早くろ過するため 5 分以上静置する Cd 吸着 Step3:分離カラムによる Cd 吸着 上記抽出液 1 ml を分離カラムにチャージし、自然ろ過し ←カラムの中心にゆっくりチャージする た。 Cd洗浄 Step4:分離カラムの希塩酸洗浄 分離カラムに 0.1M 塩酸 1 ml を通液して洗浄した。 ←カラムの中心にゆっくりチャージする ←残液をスポイト等を用いて確実に押出す Cd 溶出 Step5:分離カラムからの Cd 溶出回収 ←カラムの中心にゆっくりチャージする 分離カラムにイオン交換水 1 ml を通液して Cd を溶出し ←残液をスポイト等を用いて確実に押出す た。上記溶出液をイムノクロマト測定用コメ試料液とした。 ←一定室温(15~25℃)で測定する 工程2:イムノクロマト測定 Step1:混合液の調製 チューブに緩衝液 380 μl を入れ、コメ試料液および各標準試 料液(10,30,60ppb)20 μl を添加して混合した。 ←ピペットで正確に分取する ←ミキサーで十分撹拌する ←使用容器の識別を確実に行う 抗体反応 Step2:抗原抗体反応 抗体入りバイアル瓶に混合液 100 μl を添加し、混合した。 ←ピペットで正確に分取する ←ミキサーで十分撹拌する 展開 Step3:クロマト展開・読み取り ←ピペットで正確に分取する イムノクロマトデバイスに抗体反応液の 75 μl を滴下した。 ←タイマーで時間を正確に計測する 滴下 30 分後、イムノクロマトリーダーで数値を読み取った。 ←リーダーの電池が十分かを確認する 測定計算 Step4:測定値計算 パソコンの専用ソフト(Excel)に数値を入れ、Cd 濃度を計算 した。 ←数値の入力ミスをしない 図 8 カドミエール測定操作マニュアルと注意事項 16 1-c-75 Cd 測定用試料をマイクロピペットを用いて 20µl 採取し、1.5 ml チューブに入れた。 上記の 1.5 ml チューブに各々380 μl の緩衝液を加え、試験管ミキサーで十分に振動混合し た。 4-1-5-2 抗原抗体反応 8 本の乾燥金コロイド標識抗体入りバイアル瓶を準備し、試料名と標準液濃度を記載した。 ふたをした状態で、底面を下にして実験台上で叩きつけて試薬をふたや壁面についている 試薬を底面に落とした。 4-1-5-1 の各標準溶液をマイクロピペットで 100 μl 採取し、同じ表示名の各バイアル瓶に入 れた。バイアル瓶の内容物が完全に溶解してピンク色になることを確認した。 試験管ミキサーで全てのバイアル瓶を振動混合した。 4-1-5-3 クロマト展開・データの読み取り 必要数のイムノクロマトデバイスを準備し、試料名と標準液濃度を記載した。 マイクロピペットを用いて 2~3 回ピペッティングした後、各バイアル瓶から 75 μl を採取 し、イムノクロマトデバイスの円形部分の中心にゆっくり滴下した。このとき、デバイス とチップの先が直接触れないように注意する。 滴下 40 分間展開し、その後、クロマトリーダーでデータを読み取った。 イムノクロマトデバイス及び乾燥金コロイド標識抗体バイアルは開封後、残ったキットは 袋のジッパーを閉めて密封し、湿気を避け、室温で保存する。開封後は 30 日以内に使用す る。 4-1-5-4 測定値計算 パソコンを立ち上げ、イムノクロマト計算ソフト(エクセル)を開き、必要箇所に各測定 値を入力し、コメ中の Cd を計算した(表 2、3)。 なお、手計算で求める場合、標準液の測定値を用いて対数回帰式を求める。 Y=A×In(X)+B X:Cd 濃度 Y:測定値 A:傾き B:切片 対数回帰式に試料の測定値を代入してコメの Cd を算出する。 表 2 標準試料測定 表 3 実試料測定 Cd 濃度(ppm) リーダー読取値 試料名 リーダー読取値 Cd 濃度(ppm) 0.1 382 流通米 A 0.2 ppm 331 0.21 0.3 316 No.2 291 0.34 0.6 237 古代米 393 0.09 ダッタンソバ 427 0.06 持参コメ 453 0.04 17 1-c-76 4-2 後始末 抽出とカラムの洗浄に用いた 0.1M 塩酸は塩酸廃液として回収した。 4-3 測定に際しての注意事項 ①検査は清潔な場所で行い、異物により汚染しないように注意する。 ②イムノクロマトデバイスの滴下部および測定部を手で触れない。 ③イムノクロマトデバイスを水、親水性溶媒等で濡らさないように注意する。 5.課題 免疫化学測定方法に関する今回の実験・実習に基づいていくつかの課題が明らかになっ た。 (1)今回、抗体アフィニティーカラムはビスフェノール A を対象にしたが、直接競合 ELISA では殺虫剤ジノテフランを対象とした。抗ジノテフラン・モノクローナル抗体を用いたア フィニティーカラムを作製し、それとジノテフラン用 ELISA を組み合わせることで、クリ ーンアップと測定を一体化することができる。さらには、scFv 抗体を用いるとクリーンア ップの効率が高くなることが期待できる。 (2)多種・多様な測定試料に対応するには、また、技術基盤や実績の乏しいところで使用で きるようにするためには、できるだけ多くの種類の試料に適用できる前処理マニュアルを 充実することが求められる。 (3)ELISA の精度管理について、1)ピペット操作によるばらつき、2)マトリックス効果の検 定、などに加え、3)サンプリング方法、4)対象化合物の参加、水解、光分解などの影響など を予備検討することが求められる。 (4)実習において、1)標準品を用いた基本実験、2)実試料を用いた本実験、さらに、3)失敗実 験についての追加実験を行うことを、全ての実習で実施することにより習熟度を上げるこ とができる。 6.マニュアル作成とその活用策 ヒトは主に魚介類から POPs(ダイオキシン、PCB)を摂取している。また、重金属(Cd、 Hg)は主に穀物から摂取しているが、それに次いで、魚介類から摂取している。養殖魚の 場合、主に、餌からこれらを摂取するので、餌並びに養殖魚の POPs と重金属を測定する ことによりトレーサビリティーと安全を確保することが重要である(図 9)。そこで、POPs と重金属の測定にカドミエール TM とその改良方法を用いることを計画した。カドミエール は迅速・簡便に、しかも、現場で測定できる。しかしながら、Hg の測定並びにダイオキシ ン、PCB の測定には改良が必要である。特に、(1)餌のフィッシュミールは脂質などの含量 が高く、それらが測定を妨害する可能性がある。例えば、ヘキサン-メタノール分配抽出 による脱脂、あるいは、アルカリ分解抽出などによってそれらを除去することが大切であ る。(2)Cd と Hg を分別測定するためには分離カラムからの溶出条件について検討が必要で 18 1-c-77 ある。また、(3)ダイオキシン、PCB などの測定については使用する抗体を置き換えるなど の大きな改良が必要になる。 そこで、カドミエール TM について作成したマニュアルを基に、改良型測定方法のマニュ アル案を作成し(図 10)、その使用条件を検討する。 なお、ポジティブリスト制度に係わる残留農薬の分析方法案があり、これに基づき前処 理方法などの検討を試みる。 図 9 トレーサビリティーと安全の確保 検査項目 1)有害金属(Cd、Hg など) 2)POPs(ダイオキシン、PCB など) 19 1-c-78 <操作の改良点> 工程1:前処理 Step1:試料約 10 g を秤量し、ホモジナイズする。 ヘキサン-メタノール分配抽出(脱脂)する。 ←試料は餌(フィッシュミール) または養殖魚を用いる。 抽出 Step2:希塩酸抽出 上記、 抽出液 10 ml を PP ボトルに入れ、0.1M 塩酸 10 ml を加えて 1~2 分間、手で振とう抽出した後、定性用ろ 紙でろ過する。 ←抽出液、塩酸の量を検討する。 Cd 吸着 Step3:分離カラムによる Cd 吸着 ←分離カラムによる Cd、Hg の吸着。 上記抽出液 1 ml を分離カラムにチャージし、自然ろ過す る。 ←Cd、Hg の分別洗浄。 Cd洗浄 Step4:分離カラムの希塩酸洗浄 分離カラムに 0.1M 塩酸 1 ml を通液して洗浄する。 ←Cd、Hg の分別溶出。 Cd 溶出 Step5:分離カラムからの Cd 溶出回収 ←溶出条件の検討を行う。 分離カラムにイオン交換水 1 ml を通液して Cd を溶出す 溶媒の種類、量、など。 る。上記溶出液をイムノクロマト測定用コメ試料液とする。 工程2:イムノクロマト測定 Step1:混合液の調製 チューブに緩衝液 380 μl を入れ、コメ試料液および各標準試 料液(10,30,60ppb)20 μl を添加して混合する。 抗体反応 Step2:抗原抗体反応 抗体入りバイアル瓶に混合液 100 μl を添加し、混合する。 展開 Step3:クロマト展開・読み取り イムノクロマトデバイスに抗体反応液の 75 μl を滴下する。 滴下 30 分後、イムノクロマトリーダーで数値を読み取る。 測定計算 Step4:測定値計算 パソコンの専用ソフト(Excel)に数値を入れ、Cd 濃度を計算 する。 図 10 カドミエールに基づく改良型測定操作マニュアル案 20 1-c-79 7.おわりに 引用文献として下記を記載しておく。 残留農薬に係わるポジティブリスト制度の適用と生物化学的測定の活用、生物化学的測定 研究会年報、第 11 号、p51-60、2007 残留農薬分析知っておきたい問答あれこれ、改訂 2 版 2005、日本農薬学会 21 1-c-80 3.参加者名簿 氏 名 小林 秀司 横掘 大介 山本 章夫 河村 将和 宮嶋 暁 太田 雅也 丸山 益資 山本 拓朗 橘高 実智 山田 篤志 嶋津 小百合 所 属 連 絡 先 参加項目 Tel: 0847-45-3479 Fax: 0847-45-5211 e-mail: [email protected] Tel: 084-957-3416 集団学習会 Fax: 084-957-3423 マニュアル作成 e-mail: [email protected] 公開講座 Tel: 0848-23-2332 ㈹ Fax: 0848-20-0006 e-mail: [email protected] Tel: 0848-20-5155 ㈹ Fax: 0848-20-5171 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 0845-24-2933 生命工学専攻 Fax: 0845-24-3449 博士後期課程 1 年 e-mail: ヤスハラケミカル㈱ 池田食研㈱ 丸善製薬㈱ 尾道西工場 丸善製薬㈱ 新尾道工場 福山大学生命工学部 生物工学科 全プログラム 全プログラム 全プログラム 全プログラム Tel: 084-936-2111 内線 4616 集団学習会 Fax: 084-936-2023 マニュアル作成 e-mail: [email protected] 公開講座 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: 福山大学大学院 Tel: 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 2 年 e-mail: [email protected] 福山大学大学院 Tel: 084-934-0143 生命工学専攻 Fax: 博士前期課程 1 年 e-mail: [email protected] マナック㈱ Tel: 084-954-3330 事業開発部 Fax: 084-954-3360 新事業研究所 e-mail: [email protected] 福山大学 Tel: 084-936-2111 内線 4674 グリーンサイエンス Fax: 084-936-2023 研究センター e-mail: [email protected] 全プログラム [email protected] 全プログラム 全プログラム 1-c-81 全プログラム 全プログラム 4.講師・実習指導者一覧 リスク管理マニュアル作成 上路 雅子 日本植物防疫協会 e-mail:[email protected] 大川 秀郎 福山大学生命工学部 e-mail:[email protected] 嶋津 小百合 福山大学グリーンサイエンス研究センター e-mail:[email protected] 乾 秀之 神戸大学遺伝子実験センター e-mail:[email protected] 三宅 司郎 ㈱堀場製作所 e-mail:[email protected] 山科 清 ㈱住化分析センター e-mail:[email protected] 1-c-82 “質問・意見・感想”票 〔PJ2・テーマ 1〕 日付 氏名 質問・その他 内容 連絡先:e-mail/Fax (注)返答の必要な方は質問に○を付け連絡先を記入して下さい。 1-c-83 PJ2・テーマ1に関する問い合わせ先: 福山大学グリーンサイエンス研究センター 大川秀郎・嶋津小百合 〒729-0292 〒729 0292 広島県福山市学園町1番地三蔵 電話:084-936-2112(内線4674) Fax:084-936-2023 e-mail:[email protected] PJ2に関するホームページ:http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ 1-c-84 福山大学社会連携研究推進事業 「人間力」に支えられた「活力ある地域づくり」 連携に関する開発研究 プロジェクト2(PJ2) 産官学連携 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ 1 公開講座 資料 平成 21 年 2 月 7 日 1-d-1 目次 テーマ1「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」 公開講座 1-d-1~1-d-22 1.化学・生物総合管理学の社会連携教育研究 福山大学 菊田安至 1-d-3~1-d-6 2.テーマ1「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実 際」のリスク管理マニュアルと成果報告 1-d-7~1-d-8 ・「食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」概要 福山大学 大川秀郎 1-d-9~1-d-10 ・免疫化学測定の実際と課題 ―カドミエール TM を用いた水試料 カドミウム測定の ISO 技術検討課題提案― 福山大学 嶋津小百合 1-d-11~1-d-19 3.平成21年度の活動の紹介 福山大学 菊田安至 1-d-20 4.質問・意見・感想票 1-d-21 1-d-2 化学・生物総合管理学の社会連携教育研究 本プロジェクト(PJ2:産官学連携)は、福山大学の社会連携研究推進事業の一環として、 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」を目的に平成20年7月から活動を開始し ました。この活動では、産官学連携の取組において、化学・生物総合管理学の基に、 「食品 の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際」 、「機能性成分のベネフィットとリスク 及びリスク評価・管理の実際」、 「魚の病原微生物のリスク評価・管理」、 「鳥インフルエン ザウイルスの実際」の4テーマについて、講座を開講しました。 このプロジェクトは、これまで大学などの教育機関において不足していた化学物質や生 物のリスクに関する体系的な教育・研究を行う取り組みを充実させることで、食や環境につ いてのリスクを正確に説明し、それらの評価と管理を実践することができる人材の育成を 目指します。 ダイオキシン汚染や狂牛病(BSE)といった事例で代表されるように、現在の社会では、 食品や環境に強い関心が向けられています。ところが、食品や環境中に存在する危険性(リ スク)を正確に理解することは容易ではないため、混乱が生じています。たとえば、ダイオ キシンでも、猛毒であると主張する科学者と、毒性は認めるが猛毒とは言えないとする人々 がいます。どちらの説が正しいのかは、人間でのデータが限られているため、判断が分か れています。また、農薬は常に悪役の代表として扱われていますが、日本における農薬の 基準はとても厳しく、使用方法を守っている限り人や環境への影響はほとんどないことが 科学的に証明されています。逆に、天然物の中にも人への毒性が認められるものがたくさ ん存在しますが、農薬のような注意は払われていません。化学物質や生物のリスク評価と 管理を実践することができる人材の不足は、このような問題に社会が適切に対応できない 危険性を生み出します。 本講座では4つのテーマについて、それぞれ①集団学習会、②集団実験・実習、③リス ク管理マニュアルの作成、及び④公開講演会を実施しました。①集団学習会では、テーマ の導入として、講義で各課題の概要や問題点などを学びました。次に、各テーマのリスク 要因を検出・評価するための分析方法などを②集団実験・実習で体験的に学習しました。 ③リスク管理マニュアルの作成では、ここまでの学習の成果をそれぞれの受講者が現場で 活用するための方策を具体的にまとめました。これらの取り組みの成果を本日の④公開講 演会で一般向けに発表します。また、学習した内容を現場で活用するに当たって生じた問 題等の解決に役立てるため、研修終了後も講師と受講者が密接に連絡できる体制を維持し ています。以上の活動は、福山バイオビジネス交流会を中心とした地域の団体や企業のご 支援の下、福山大学の教員をはじめとする産官学の幅広い分野の講師陣によって行われま した。 このプロジェクトは、お茶の水大学ライフワールドウォッチセンターで実施されている 「化学・生物総合管理の再教育講座」と連携しています。この講座が平成21年度から「知 の市場」 (http://www.chinoichiba.org/)へと発展的に継承されるのに合わせ、PJ2 も「知 の市場」の共催講座として更なる連携を図ります。 1-d-3 社会連携研究推進センター ・社会連携研究推進事業 「人間力」に支えられた「活力ある地域づくり」連携に関する開発研究 お茶の水女子大学 ライフワールド・ウオッチ ライフワ ルド ウオッチ センター 「化学・生物総合管理の 再教育講座」 PJ1 PJ2 PJ3 からだづくり 産官学連携 こころづくり PJ4 PJ5 国際文化交流 地域の文化の 再発見 PJ6 中止 PJ7 PJ8 メディア 理科離れ対策 コミュニケーション 連携 化学・生物学総合管理学の社会連携教育研究 (1)地域における社会人を対象に、研修生を募集する (2)食品・化学品などに係わる化学物質、生体成分、生物種などに由来するリスクの 評価・管理及びコミュニケーションの原理と実際に関する集団学習会 人材・情報・技術の交流 (3)化学物質・生体成分及び生物種に由来するリスクの管理技術に関する集団実験 実習 (4)企業・団体等におけるリスク管理のマニュアルとその活用プランに関する集団実習 連携機関 (5)公開講座の実施 福山バイオ ビジネス交流会 ・公開講座 ・地域との人材・情報・技術交流 ・産官学連携プロジェクト等の企画・実施 ・社会人再教育のための大学院の設置 1 産官学連携(PJ2) 化学・生物学総合管理学の社会連携教育研究 地域における社会人を対象に、化学物質及び生物に由来する リスクの評価・管理を担う人材を育成する 連携機関 人材育成 人材 情報 技術交流 ・ 福山バイオ ビジネス交流会 ・ 地域企業、行政、 大学、研究機関 などとの交流 (1)集団学習会 講演等を通じて、食品・化学品などに係わる化学物質、生体成分、生物種などに由 来するリスクの評価・管理及びコミュニケーションの原理と実際について学習する (生命工学部の講義室・会議室) (2)集団実験実習 化学物質・生体成分及び生物種に由来するリスクを評価・管理するための技術につ いて、実験・実習を通して学習する (グリーンサイエンス研究センター及び生命工 学部の実験・実習室) (3)リスク管理のマニュアル作成 (1)(2)の成果を基に、研修員が職場での実践を目指したリスク管理マニュアルと その活用プランを作成する (社会連携研究推進センター) ((4)公開講座 )公開講座 上記の取り組みによる成果発表を公開で実施する (社会連携研究推進センター) (5)評価 (3)のリスク管理マニュアルとその活用プランを作成・提出し、それらに基づき指導 者が達成度を評価する (6)フォローアップ HP等を通じて、研修員のリスク管理マニュアルとその職場での活用について意見 交換を行い、関連情報を提供する 2 1-d-4 平成20年度スケジュール 平成20年 テーマ ・魚の病原微生物のリスク評価・管理 (河原栄二郎) ・鳥インフルエンザウイルスの実際 (菊田安至) 8 各テーマ 4コマ 9 平成21年 10 各テーマ 6コマ 11 12 1 2 各テーマ 3コマ 公開講座 ・機能性成分のベネフィットとリスク 及びリスク評価・管理の実際 (里内清、原口博行) 7 その活用プランの作成 リスク管理マニュアルと 計 画 書 の 提 出 二 十 年 度 計 画 ・ 研 修 員 募 集 ・食品の残留農薬とそのリスク評価・ 管理の原理と実際 (大川秀郎) 6 集団実験実習 5 集団学習会 4 3 二 十 年 度 報 告 書 の 作 成 2コマ 3 20年度テーマ ・食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際 大川秀郎 ・機能性成分のベネフィットとリスク及びリスク評価・管理の実際 里内清、原口博行 ・魚の病原微生物のリスク評価・管理 河原栄二郎 ・鳥インフルエンザウイルスの実際 菊田安至 ①集団学習会 12.5時間 参加者99名 ②集団実験・実習 68時間 参加者26名 ③リスク管理マニュアルの作成 18時間 参加者29名 ④公開講演会 合 計 3時間 参加者70名(予定) 101.5時間 参加 224名 1-d-5 4 お茶の水女子大学 ライフワールド・ウオッチセンターにおける 「知の市場」 「知の市場」は、前身である「化学・生物総合管理の再教育講 座」を発展的に継承し、より広範な地域 テ マ 人材を対象とし 座」を発展的に継承し、より広範な地域・テーマ・人材を対象とし て新しく展開する。 化学物質や生物の総合管理、医療と保健、社会変革と技術革 新、環境と労働、危険管理とコミュニケーションなど、現代社会 を理解するための幅広い分野の公開講座を、学生・院生を含む 広範な分野の多様な社会人に広く開放します。強い学習動機と 積極的な参加意思を有する者が、自己責任により自由に受講 科目を選択して受講する学びの場です。 平成21年度は全国14拠点で63科目を開講します。 「知の市場」に参加している14の拠点 名古屋大学医学部、東京工業大学社会人教育院、早稲田大学規範科学総合研究所、 福山大学宮地茂記念館(社会連携研究推進センター)、産業医科大学、明治大学、 お茶の水大学ライフワールドウオッチセンター、労働科学研究所、製品評価技術基盤機構、 物質・材料研究機構、NEDO、産業技術総合研究所、農業生物資源研究所、 食品薬品安全センター 1-d-6 5 (1)食品の残留農薬とそのリスク評価・管理の原理と実際 概要 殺虫剤 DDT が発見されたのは 1939 年のことである。やがて、DDT が大量生産されて、衛生害 虫や農業害虫の防除に多大な貢献をした。そのことにより、発見者のガイギー社ポール・ミュ ーラー博士はノーベル賞を受賞した。 ところが、1962 年にレイチェル・カーソン著『サイレント・スプリング』が出版されたのを 契機に、DDT などの大量使用に伴う環境への残留や生態系に及ぼす深刻な影響について警鐘が 鳴らされた。そして、農薬の登録に関する安全性の評価の制度やその手法が大幅に見直された。 現在の農薬はその基準に適合している。しかしながら、違法農薬の使用、輸入農作物における 基準を超えた農薬の残留などの問題が起こり、それらに対処すべく、2006 年 5 月にポジティブ リスト制が導入された。それでも、中国産ギョウザにメタミドホスが混入するなどの事件が続 発している。従って、食品加工の原材料はもとより、加工食品についても農薬などを検査する 必要がある。それと共に、トレーサビリティーを確保することが求められる。一方、WHO は発 展途上国におけるマラリヤ対策のために DDT を屋内で使用することを推奨している。 こうした社会的諸課題に対応するには、例えば、「化学と生物の総合管理学」あるいは「リ スクの評価・管理・コミュニケーション」といったこれまでに大学で体系的に教育・研究をし てこなかった学際領域について、人材を育成することが急務である。そこで、本研修では地域 における社会人と大学院生を対象に再教育を実施した。農薬などを対象にリスクの評価・管理 の考え方の理解を深め、リスク管理技術としての新しい残留農薬測定方法(免疫化学測定方法) を体験実習し、その研修成果を職場で実践することを目的にリスク管理マニュアルを作成する。 それと共に、科学的手法に基づいてデータを取得し、それを基に論理的に思考し、理解を深め ると共に、偽装などの起こらない健全な社会の持続的な発展に貢献することを目標とする。 (a)集団学習会 日時:8 月 2 日(土) 13:00~17:00 場所:福山大学 28 号館 28101 講義室 参加者数:16 名(定員約 16 名) テキスト:集団学習会 講義資料 講義 1(13:00~15:00) 農薬のリスクとベネフィットの考え方 大川秀郎 福山大学生命工学部 講義 2(15:00~17:00) 農薬のリスク評価と管理の実際 梅津憲治 大塚化学ホールディングス(株) (b)集団実験・実習 日時:8 月 25 日(月)~29 日(金) 10:00~16:00 場所:福山大学 33 号館 産官学連携実験室(33207) 参加者数:9 名(定員 8 名) テキスト:集団実験実習 実験実習資料 実習1(8 月 25 日) 抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理 乾秀之 神戸大学 実習 2(8 月 26、27 日) 農薬等の ELISA 測定とデータ処理 三宅司郎 (株)堀場製作所 実習 3(8 月 28、29 日) カドミウムなどの ELISA 測定とデータ処理 山科清 (株)住化分析センター (c)リスク管理マニュアルの作成 日時:10 月 4 日(土)及び 10 月 11 日(土) 13:00-15:00 場所:福山大学 28 号館 28102 講義室 1-d-7 参加者数:10 名(定員 8 名) テキスト:リスク管理マニュアルの作成 実習資料 実習 1(10 月 4 日)農薬のリスク管理マニュアル作成の考え方 上路雅子 日本植物防疫協会 実習 2-1(10 月 11 日)農薬の測定方法とマニュアル作成の実際 大川秀郎 福山大学生命工学部 実習 2-2(10 月 11 日)免疫化学測定の実際とマニュアル作成 嶋津小百合、大川秀郎 福山大学 乾秀之 神戸大学 三宅司郎 (株)堀場製作所 及び 山科清 (株)住化分析センター (d)公開講座 日時:2009 年 2 月 7 日(土) 13:30-16:00 場所:福山大学宮地茂記念館 903 プレゼンテーションルーム テキスト:成果報告 発表 1 概要 大川秀郎 福山大学生命工学部 発表 2 免疫化学測定の実際と課題 -カドミエール TM を用いた水試料のカドミウム測定の ISO 技術検討課題提案- 嶋津小百合 福山大学グリーンサイエンス研究センター 1-d-8 平成21年2月7日 産官学連携(PJ2) 「化学・生物総合管理学の社会連携教育研究」 テーマ1“食品の残留農薬とそのリスク 評価・管理の原理と実際” 成果報告 福山大学生命工学部 大川秀郎 1 「概要」-1 1.集団学習会 参加者16名(定員約16名) テキスト:集団学習会 講義資料 参加者は質問票を記入・提出し、それぞれに講師から回答・コメントなどを記入し てもらうことなどにより、理解度を把握した。 2.集団実験・実習 参加者9名(定員8名) テキスト:集団実験実習 実験実習資料 毎日、質問票に記入・提出して、指導者から解答・コメントをもらい、習熟度を確認 した。 3.リスク管理マニュアルの作成・提出(9名) (定員8名) テキスト:リスク管理マニュアル 実習資料 (1)横掘大介 池田食研㈱ (2)山本章夫 丸善製薬㈱尾道西工場 (3)河村将和 丸善製薬㈱新尾道工場 (4)山田篤志 マナック㈱事業開発部 (5)太田雅也 福山大学生命工学部生物工学科 (6)丸山益資 福山大学大学院生命工学専攻博士前期課程2年 (7)山本拓朗 福山大学大学院生命工学専攻博士前期課程2年 (8)橘高実智 福山大学大学院生命工学専攻博士前期課程1年 (9)嶋津小百合 福山大学グリーンサイエンス研究センター 講師のコメント等に基づき、改訂した。 1-d-9 2 「概要」-2 4.成果の学会発表 大川秀郎・嶋津小百合 “免疫化学測定の実際と課題” 生物化学的測定研究会 第13回(2008年)学術シンポジウム 福岡、2008年10月31日(金) 3 1-d-10 平成21年2月7日 成果報告 免疫化学測定の実際と課題 -カドミエール カドミエ ルTMを用いた水試料のカドミウム測定の ISO技術検討課題提案- 福山大学グリーンサイエンス研究センター 嶋津小百合 協力者 福山大学生命工学部 大川秀郎 神戸大学遺伝子実験センター 乾 秀之 株式会社堀場製作所 三宅司郎 株式会社住化分析センター 山科 清 1 1.はじめに-1 2006年5月に残留農薬のポジティブリスト制度が施行され、分析・検査対象 の農薬や作物の種類・量が増大した。そのため、多種類の農薬を対象とす る多成分分析、分析・検査の効率化のための簡便なスクリーニング方法の 導入、多様な試料の農薬を対象にした簡易抽出・精製方法、などが必要に なった。それと共に、効率的に分析を行うためには、作物の種類や生産地 における農薬の販売・使用量、諸外国のモニタリングデータ等の情報に基 づき使用の可能性が高い農薬の種類や検出頻度の高い農薬の種類を選 択して分析・検査する必要がある。 その他に、過去に使用した有機塩素系殺虫剤などを含む残留性有機汚 染物質(POPs)や有害金属(Cd、Hg、Asなど)の汚染も拡大している。 通常、残留農薬などの分析はGC、GC/MSなどを用いた機器分析が主で ある。最近、免疫化学測定方法をスクリーニングに用いることが可能にな った。 2 1-d-11 1.はじめに-2 酵素免疫測定方法(ELISA:Enzyme-Linked Immunosorbent Assay) は 抗原・抗体反応の特異性に基づいており、その原理や特徴を理解し、基本 操作に習熟することが不可欠である。 操作に習熟する とが不可欠である。 通常、直接競合ELISAでは、例えば、96穴マイクロタイタープレートを用い て微量の液体をピペット操作するので、その操作を正確に行うことが求め られる。また、酵素反応で測定するので、温度、時間、容量、などの正確な 管理、さらには、試料のマトリックス効果や抗体の交差反応性に関する注 意が必要である。 そこで、福山大学では平成20年8月25日-29日に、地域の社会人と大学院 生を対象に (1)抗体アフィニティーカラムを用いた試料前処理 生を対象に、(1)抗体アフィニティ カラムを用いた試料前処理、(2)農薬等 (2)農薬等 のELISA測定とデータ処理(トマトの殺虫剤ジノテフラン測定)及び(3)Cdな どのELISA測定とデータ処理(コメのCd測定)に関する実験・実習を実施し た。その実際に基づき、手順書を整備すると共に課題のまとめを行った。 それらを基に、JIS K 0461競合免疫測定方法通則に則り、国際標準化を 目指して、ISO技術検討課題の提案を行った。 3 2.殺虫剤ジノテフラン測定キット 殺虫剤ジノテフランは三井化学(株)によって開発されたネオニコチノイド系で、主 殺虫剤ジノテフランは三井化学(株)によって開発されたネオニコチノイド系で 主 に、稲、野菜、果実などの半翅目害虫の防除に用いられている 。 本測定キットに用いた抗ジノテフラン・モノクローナル抗体は、ネオニコチノイド系 殺虫剤のクロチアニジンと高い交差反応性を示す。その他のネオニコチノイド系 殺虫剤アセタミプリドや混合剤・ピリフェノックスなどの成分とは交差反応性がな い。従って、本測定キットで測定した場合、ジノテフランもしくはクロチアニジンをジ ノテフラン換算濃度として表わす。 4 1-d-12 直接競合ELISAによる殺虫剤ジノテフランの測定原理 添加 混合 + 検体溶液 ジノテフラン・ハプテン 酵素標識体溶液 固相化抗体 混合溶液 酵素反応 洗浄 競合反応 :抗体 :ジノテフラン (検体、抗原) 酵素反応 生成物の発色 :ジノテフラン・ハプテン 酵素標識体 :基質(発色試薬) 5 ジノテフラン測定キットの使用マニュアルと注意事項-1 予備検討;同時再現性、検量線及びマトリックス影響 工程1: 測定試料の調製 農産物(野菜・果実)の磨砕均一化 トマト1個(約200g)のヘタを除き、細切し、 ト ト 個(約 )の タを除き 細切し ホモジェナイザーに入れて1分間磨砕。 ●サンプリングの量 と部位の選択 測定目的に応じて決める。 例:トマト可食部(へたを取る)100 g。 50 ml容遠沈管に磨砕物5.0 gを秤量。 ●秤量 正確に秤量する。 許容範囲:4.9 g – 5.1 g。 メタノール24 mlとジノテフラン標準溶液 (100、500、1000 ppb)1 mlを加えて30分間 振とう抽出。 ●分注 メスシリンダーを使用する。 ●希釈 濾液は液だれしやすいので、マイク ロピペッターですばやく分注する。 メタノール抽出 抽出液を2号濾紙で濾過。 希釈 濾液1.0 mlを精製水7.5 mlで希釈し、検体 溶液とする。 6 1-d-13 ジノテフラン測定キットの使用マニュアルと注意事項-2 工程2: ELISAによる測定 ●キットの温度 キットは使用する30分前に冷蔵 庫から出し、室温に戻す。 検体溶液とジノテフラン・ハプテン酵素標識体の混合 検体溶液又はジノテフラン標準試薬(1.5、 30ppb)150 μlとジノテフラン・ハプテン酵素 標識体溶液150 μlを試験管中で等量混合。 ●試料の分注量 ●標識体の分注量 正確に等量混合する。 量比が変わると結果に影響する。 競合反応 各抗体固相化ウェルに混合液 100 μl /ウェル、分注。 ●分注量 30分間室温放置して、競合反応に供す。 ●反応時間・温度 通常は1時間反応する。 反応時間は±5分を目安。 反応温度は15℃-30℃。 プレート洗浄機を用いてウェルを3回洗浄。 ●液量 洗浄液はウェルの上端まで。 吸引除去は液残りが無いよう確認。 タッピングは避ける。 発色試薬を100 μl/ウェル分注。 ●分注量 正確な反応時間が必要なので、 一定リズムで分注する。 10分間室温放置して発色反応。 ●反応時間・温度 反応時間は±10秒以内を目安にする。 反応温度は15℃-30℃。 発色停止試薬を100 μl/ウェル分注。 ●分注順・スピード 発色時間の精度が重要なので、 発色試薬分注と同じ順番、同じリ ズムで分注する。 ●ウェル自体の吸収 通常ウェルの底面が目に見えて汚れ ていなければ問題にならない。 ●検出器のノイズ バリデーションの取れている 検出器なら問題にならない。 洗浄 発色 吸光度測定 反応停止後、15分以内に測定する。 マイクロプレートリーダーを用いて各ウェ ルの吸光度を測定。 7 ジノテフラン測定キットの使用マニュアルと注意事項-3 工程3: 測定結果 検量線のプロット ●片対数グラフ 対数軸をジノテフラン濃度、真 数軸を吸光度でプロットする。 検体溶液中ジノテフラン濃度の読取り 検体溶液中ジ テフラン濃度の読取り 検体溶液の吸光度を検量線に重ね、ジノテフラン濃度を読み取る。 トマトのジノテフラン濃度の算出 トマトのジノテフラン濃度 (ppb=ng/ml) =ジノテフラン濃度×6(トマト5 g →メタノール25 ml) ×8.5(抽出液1 ml →超純水7.5 ml) =測定試料中ジノテフラン濃度×51 農産物の水分含量を100%と仮 定して計算する。 回収率の計算(ジノテフラン既知濃度添加時) 回収率(%)=実測したトマトのジノテフラン濃度/添加濃度×100 測定結果 ①トマトにおける20 ppb、100 ppbおよび200 ppbのジノテフランの添加で、回収 率はそれぞれ検出限界以下、135%および116%であった。 ②従って、200 ppbの測定が可能であった。 1-d-14 8 3.カドミエールTMキットとクロマトリーダー Cdはイタイイタイ病の原因物質である。 Cdの分析は原子吸光測定(公定法)などの機器分析が一般的である Cdの分析は原子吸光測定(公定法)などの機器分析が 般的である。こ こ の方法は精度は高いが1検体あたり約5時間かかり、分析装置の導入コス トが高い。そこで、簡便かつ安価な測定方法の開発が求められていた。従 来、Cd(原子量112.4)などの重金属を免疫化学的に測定することは困難 であった。最近、Cdと選択的に結合するモノクローナル抗体が得られ、コメ のCdを迅速かつ簡便に検出・定量する測定キットカドミエールTMが開発さ れた。 9 Cdの抽出と分離カラムによる精製の原理 Mg Fe Mn Zn Fe Mn Cd 分離カラム Cu Cd Fe Cu Cd Cd Mg Zn Cd Zn Fe Mn Mg 純水 (溶出) 希塩酸 (洗浄) Cu Cu Cd Cd Mn Mg Zn Cd Cd Cd Cd コメにはMg、Zn、Mnなどが高濃度に含まれているため、抗Cdモノ クローナル抗体の交差反応性が低くてもそれらの影響を受ける。カ ラムを用いた前処理によってCdを選択的に吸着・溶出する。 10 1-d-15 イムノクロマトの測定原理 抗原抗体反応 抗体 Y Y + Y Cd-EDTA (抗原) 混合 Y 滴下 Y Y 膜 浸透 Y Y 抗体 Y EDTA 複合体 Y Y 検体 (Cd) YYY 膜固定Cd-EDTA 抗マウスIgG抗体 テストライン 確認ライン イムノクロマトデバイス 抗原・抗体反応の特異性により高感度測定が可能になった。また、簡便なイ ムノクロマトデバイスと携帯用クロマトリーダーを用いて、現場で測定できる。 11 カドミエールの測定操作マニュアルと注意事項-1 予備検討;マイクロピペットの精度確認 工程1:前処理(精米、麦、蕎麦) Step1:試料(コメ、麦、蕎麦)約10 gを秤量し、ミルを用いて粉砕。 ←ミルの壁面付着試料を採取する。 抽出 Step2:希塩酸抽出 ←←上皿天秤に風があたらないように。 上記、粉砕試料2.00 gをPPボトルに秤量し、0.1M塩酸20 mlを加え ←試料採取量は2.00±0.02の範囲。 ←早くろ過するため5分以上静置する。 て1~2分間、手で振とう抽出した後、定性用ろ紙でろ過。 Cd吸着 Step3:分離カラムによるCd吸着 上記抽出液1 mlを分離カラムにチャージし、自然ろ過。 ←←カラムの中心にゆっくりチャージする。 Cd洗浄 ←←カラムの中心にゆっくりチャージする。 ←残液をスポイト等を用いて確実に押出す。 Step4:分離カラムの希塩酸洗浄 分離カラムに0 1M塩酸1 mlを通液して洗浄。 分離カラムに0.1M塩酸1 mlを通液して洗浄 Cd溶出 Step5:分離カラムからのCd溶出回収 分離カラムにイオン交換水1 mlを通液してCdを溶出。本溶出液をイ ムノクロマト測定用コメ試料液とする。 ←←カラムの中心にゆっくりチャージする。 ←残液をスポイト等を用いて確実に押出す。 12 1-d-16 カドミエールの測定操作マニュアルと注意事項-2 工程2:イムノクロマト測定 ←←一定室温(15~25℃)で測定する。 Cd溶出液 Step1:混合液の調製 チューブに緩衝液380 ブ μlを入れ、コメ試料液又は各標準試料液 (10,30,60ppb)20 μlを添加して混合。 ←←ピペットで正確に分取する。 ←ミキサーで十分撹拌する。 ミキサ で十分撹拌する ←使用容器の識別を確実に行う。 抗体反応 Step2:抗原抗体反応 抗体入りバイアル瓶に混合液100 μlを添加し、混合。 ←←ピペットで正確に分取する。 ←ミキサーで十分撹拌する。 展開 Step3:クロマト展開・読み取り イムノクロマトデバイスに抗体反応液の75 μlを徐々に滴下。滴下 30分後、イムノクロマトリーダーで数値を読み取る。 ←←ピペットで正確に分取する。 ←タイマーで時間を正確に計測する。 ←リーダーの電池が十分かを確認する。 測定値計算 Step4:測定値計算 パソコンの専用ソフト(Excel)に数値を入れ、Cd濃度を計算。 ←←数値の入力ミスをしない。 測定結果 ①既知濃度0.2 ppmを含む流通米Aは0.21 ppm、未知試料の持参米は0.04 ppm で、基準値(0.4 ppm)の1/10の測定が可能であった。 13 ②古代米、ソバ粉についても測定が可能。 4.免疫化学測定の課題 免疫化学測定に関する今回の実験・実習に基づいて、い くつかの課題を示す くつかの課題を示す。 (1) 多様な試料についてサンプリングや前処理方法などを 整備する。 (2) 微量の正確な取り扱い、ピペット操作、反応の温度、時 間、容量の正確な取り扱い、などを管理する。 (3)ELISAに関して 1) 試料成分のマトリックスの影響、2) (3)ELISAに関して、1) 試料成分のマトリ クスの影響 2) 測定対象の直接確認、3)抗体の交差反応性などに関 する予備検討を行う。 (4)アフィニティーカラムと直接競合ELISAを組み合わせる。 14 1-d-17 5.アクションプラン ISO技術検討課題の提案 国際標準化重点テーマ: 対象(環境・エネルギー分野での環境測定に関す る国際標準化)環境標準化は、化学物質による大気、水質、土壌などの地球 規模の汚染の測定、それに基づく排出規制、浄化、資源再利用に資する。と りわけ、有害金属などの汚染は地球全体に及んでおり、国際標準化の重点的 課題である。そこで、「水質のCdの免疫測定に関する国際標準化」のISO技術 提案書を作成して、ISO TC147/SC2に提案し、審議を経て国際標準化を達成 する。 JIS通則に基づく 手順書 不確実性要因の 抽出 技術開発 実証評価試験 精度管理 ISO技術提案 原案作成 15 6.共同開発計画 JIS K 0461競合免疫測定方法通則に 従って、下記項目等を見直しする。 水試料のサンプリング 試料の前処理、 試料の前処理 試料のマトリックス効果、抗体の交差反応性 測定操作の正確さ、データ処理 不確実性要因の抽出 技術開発 実証評価試験 精度管理 ISO技術提案書の原案作成 分担 技術開発:(株)住化分析センター 実証評価試験:福山大学グリーンサイエンス研究センター 16 1-d-18 7.ISO提案・審議 作成した技術提案書はISO TC147(水質)/SC2へ提出して、 審議する。 ISO TC146(大気) TC147(水質) SC2 議長 エキスパート WG 国内審議団体:(社)産業環境管理協会 幹事国 :ドイツ 議長国 :ドイツ 17 8.おわりに 免疫化学測定を精度・効率よく実施するには多くの技術的課題がある。 (1)多種・多様な試料について適切な抽出・クリーンアップ方法を開発する。とりわ け、汎用性のあるアフィニティーカラムを開発し、それをELISAと組み合わせて一体 化して、効率よく測定する。 (2)ELISAでは測定対象を間接的に測定しており、測定対象の存在を直接確認する 過程を導入することによって精度の向上を図る。 (3)擬陽性や擬陰性の率を下げ、精度管理を確立する。 18 1-d-19 平成21年度の活動の紹介 プロジェクト(PJ2)の2年目は、初年度の目的やコンセプトをそのまま受け継ぎ、さらに 地域のより広い分野の方々の参加を促すために、下に示した6テーマについて活動します。 20年度のテーマから3つを継続して、さらに新テーマを3つ立ち上げます。化学を基礎 とする分野(テーマ1~3)では、機能性食品や一般の食品・化学製品、さらには米など の食糧の生産や加工、流通などで発生するリスクを取り上げます。特に、2つの新テーマ では、主に身近な現場で発生しているリスクについて学習します。生物を基礎とするテー マ4~5では、20年度から引き続いて鳥インフルエンザと魚の病気についての講座をそ れぞれ開講します。さらに、新テーマとして水産資源と海洋生物の多様性の問題を取り上 げます。 21年度の活動では、新規のテーマはもちろん、継続のテーマも今年度の経験と反省を 生かして、新たな分野へとチャレンジします。一方で、集団学習会、集団実験・実習、リ スク管理マニュアルの作成及び公開講演会で構成する活動のスタイルはそのまま継続し、 学習した内容を実際に活用できるレベルにまで到達することを目指します。ただし、そこ までの深化を必要とせずより広範な知識の習得を望む方のために、それぞれのテーマの一 部分だけの聴講を受け付けております。それぞれの要望に合わせて、この活動をご利用く ださい。 なお、21年度の活動から、どれか一つのテーマを修了した場合、所定の手続きにより 福山大学大学院博士前期課程の単位(化学・生物総合管理学 2単位)が認定されます。 福山大学 社会連携研究推進事業 プロジェクト2:産官学連携 “化学・生物総合管理学の社会連携教育研究” 平成21年度テーマ 「食と環境の安全科学講座」 テーマ1. 機能性成分のベネフィットとリスク及びリスク評価・管理の実際 継続 テーマ2. 食品・化学製品に含まれる化学物質等の分析と管理の実際 新規 テーマ3. 食糧の安全とトレーサビリティー 新規 テーマ4. 鳥インフルエンザウイルスの実際 継続 テーマ5. 魚の病原微生物のリスク評価・管理 継続 テーマ6. 水産増殖における遺伝的多様性に関するリスク管理の理論と実際 新規 1-d-20 “質問・意見・感想”票 〔PJ2・公開講座〕 日付 氏名 質問・その他 内容 連絡先:e-mail/Fax (注)返答の必要な方は質問に○を付け連絡先を記入して下さい。 1-d-21 この社会連携プロジェクト(PJ2)に関する問い合わせ先: 福山大学グリーンサイエンス研究センター 菊田安至 〒729-0292 広島県福山市学園町一番地三蔵 電話:084-936-2112(内線 4671) ファックス:084-936-2023 E-mail:[email protected] PJ2 に関するホームページ:http://www.fukuyama-u.ac.jp/life/pj2/ 1-d-22
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