Arc GIS による流域診断のためのバランスツールボックスの試作

Arc GIS による流域診断のためのバランスツールボックスの試作
○ 原 雄一 1 ・佐藤 祐一1 ・加藤 健一郎1 ・五味 克彦 2 ・大塚 和久 2
Development of Balance Tool Box for Basin Diagnosis using Arc GIS
Yuichi HARA Yuichi SATO Kenichiro KATO Katsuhiko GOMI Kazuhisa OTSUKA
Abstract:In studies of watershed management, model developing has been main interest for researchers to solve natural
phenomenon in detail. But, during this decade, environment, natural resource and wild life in the watershed has been deteriorating.
We need to tackle to solve present watershed problems in each river basin or lake basin. Balance Tool Box has a role to do it using
GIS. Especially, this tool will be useful to do basin diagnosis, public participation and public agreement in basins.
Keywords : 流域管理(watershed management)
,流域診断(diagnosis of basins)
,バランスツールボックス(balance tool box)
1.バランスツールボックスの目 的
流 域 診 断 のためのバランスツールボックス(以 下 、
バランスツールボックスと称 する)は、流 域 管 理
GIS が今 後 発 展 し、流 域 でのさまざまな課 題 、た
とえば、水 争 いに代 表 されるコンフリクトをどのよう
に検 討 していくのか、その解 消 をどのような手 順 で
図 -1 バランスツールボックス(プルダウンメニュー)
進 めていくことができるかを、GIS を用 いて可 能 な
限 り 実 効 性 のあるものとして構 築 す るこ とを 目 標 と
バランスツールボックスはプルダウンメニューと
なっており、表 1のメニューから成 り立 っている。
している。
GIS を流 域 管 理 に役 立 たせる有 効 性 は既 に多
くの場 面 で指 摘 されてきている(霞 ヶ浦 、手 賀 沼 、
印 旛 沼 、琵 琶 湖 など)が、現 時 点 での GIS の機 能
表 -1 バランスツールボックスのメニュー
①シェープファイル変 換
②マ ルチポリゴン操 作 自 由 自 在
は、コンフリクトの検 討 やその先 の合 意 形 成 を進 め
アメダス気 象 データ
フィールド値 の吸 い上 げ
ていくまでには、十 分 に成 熟 していない。本 研 究
人 口 統 計 3 次 メッシュ
フィールド値 の変 更
は、実 効 性 のある合 意 形 成 を目 的 とした流 域 管
工 業 統 計 3 次 メッシュ
マルチクリッ ピング
理 GIS モデル構 築 に向 けて、流 域 診 断 に着 目 し、
エクセルデータ結 合
合 計 ・平 均 ・ 最 小 ・最 大 等
流 域 相 互 の比 較 などを行 うことができるツールを
エクセ ルポ イントデータ
メッシュ数 ・ポ イント数 カウ ント
試 作 したものである。
試 作 となったバランスツールボックス(Ver1.0)は、
③フィールド操 作
④マ ルチデータ・アプリ
自由自在
登 録 ・更 新 ・ 削 除 と 起 動
現 在 、ARCGIS9.0 で の動 作 を確 認 している。 シ
フィールド四 則 計 算
データ・ アプリ登 録 ・更 新 ・ 削 除
ス テ ム を 登 録 す る と 次 の 画 面 の よ う に ARCMAP
フィールド指 標 化
データ・ アプリ起 動
のメニュー欄 に「バランスツールボックス」が現 れ
フィールド指 数 化
る。
1
2
パシフィックコンサルタンツ株式会社
株式会社エクシード
流域計画部
ーからなる。対 象 流 域 が 1 つの場 合 は、
2. シェープファイルへの変 換
ARCGIS のデフォルトの機 能 で操 作 を行 うこと
が可 能 であるが、複 数 の流 域 での操 作 (マルチ
アメダスの気 象 データ CD‐ROM や市 販 の統 計
ポリゴン)は困 難 であり、このようなマルチポリゴン
データ(人 口 や工 業 統 計 など)を ARCGIS のシェ
での操 作 を自 由 に行 うことを本 ツールは可 能 と
ープファイルに変 換 するツールである。また、
している。
ARCGIS ではエクセルファイルの結 合 はダイレクト
に行 うことができない。一 旦 、dBase のファイル(拡
3.1 フィールド値 の吸 い上 げ
張 子 が dbf)に変 換 する必 要 がある。「エクセルデ
ータ結 合 」ツールは直 接 エクセルデータを既 存 の
標 準 3 次 メッシュのようなメッシュポリゴンデー
タと流 域 ポリゴンデータの 2 つのシェープがあっ
シェープに結 合 する。
た場 合 、流 域 ポリゴンの中 の指 定 されたフィー
2.1 ア メ ダ ス 気 象 デ ー タ ・ 人 口 統 計 ・ 工 業
統計
ルド値 をメッシュポリゴンの属 性 として追 加 (吸 い
上 げ)するツールである。
たとえば、アメダスポイントデータを基 にティー
アメダスの気 象 データ CD-ROM や市 販 の統 計
セ ン 分 割 さ れたポ リ ゴ ン の 気 象 デ ー タ ( フ ィ ー ル
デ ー タ ( 人 口 や 工 業 統 計 な ど ) を 直 接 CD-ROM
ド値 に年 間 降 水 量 や気 温 などが含 まれる)を、
から ARCGIS のシェープファイルに変 換 すること
別 レイヤーの 3 次 メッシュのポリゴンのフィールド
ができる。
値 に吸 い上 げる。
2.2 エクセルデータ結 合
3.2 フィールド値 の変 更
ARCGIS(シェープファイル)は dBase で作 成 さ
多 数 の レ コー ド を 持 つ ポ リ ゴ ン 、 ポ イ ン ト 、 ラ イ
れたファイルをデータベースファイルとして使 用 して
ンの各 シェープの中 で、特 定 のフィールドのみを
いるため、通 常 我 々が使 っている多 くのエクセルフ
対 象 としてフィールド値 を変 更 (定 数 倍 あるいは
ァイルを直 接 活 用 することができない(エクセルから
定 数 値 を入 力 )することができる。特 定 のフィー
dBase に一 旦 変 更 する必 要 がある)。本 ツールは
ルドの指 定 (選 択 )は別 のポリゴンによって行 う。
このような煩 雑 な操 作 をスキップして直 接 エクセル
このポリゴンが元 のポリゴンを分 割 する場 合 には、
ファイルをシェープファイルに結 合 することを可 能 と
分 割 する面 積 の割 合 に応 じて変 化 量 を按 分 す
する。
る。
たとえば、汚 濁 負 荷 量 が記 載 されたメッシュポ
2.3 エクセルポイントデータ
リゴンに下 水 処 理 区 域 のポリゴンを重 ね、その
重 なった範 囲 のメッシュポリゴンの汚 濁 負 荷 量
エ ク セ ル に緯 度 ・ 経 度 を 数 値 とし て 整 理 し 、 こ の
のフィールド値 を変 更 する(20%削 減 など)場 合
エクセルファイルからポイントシェープを作 成 するツ
である。メッシュがポリゴンで分 断 される境 界 上
ールである。緯 度 ・経 度 の表 現 方 法 は以 下 の 2 通
のメッシュは、その重 なっている面 積 の割 合 に応
りが可 能 である。
じてそのメッシュの削 減 量 を面 積 按 分 によって
・緯 度 北 緯 38 度 40 分 25 秒
計 算 する。
→ 384025 or 39.08333
・経 度 東 経 140 度 12 分 50 秒
3.3 マルチクリッピング
→ 1401256 or 140.21555
クリッピング操 作 は ARCGIS のデフォルトの機
3. マルチポリゴン操 作 自 由 自 在
能 であるが、1つのポリゴンでクリッピングするとい
う、シングル操 作 であり、ポリゴンが複 数 あって同
マルチポリゴン操 作 自 由 自 在 は、「フィールド値
時 にクリッピングするというマルチ操 作 はできな
の吸 い上 げ」、「フィールド値 の変 更 」、「マルチクリ
い 。 本 ツ ー ル は マ ル チ ク リ ッ ピ ン グに よ り 複 数 流
ッピング」、「合 計 ・平 均 ・最 小 ・最 大 ・サンプル数 」、
域 を同 時 にクリッピングすることができる。また、
「メッシュ数 ・ポイント数 カウント」の 5 つのサブメニュ
ポリゴンでクリッピングすると境 界 線 によってメッ
シュが分 断 さ れるが、 本 ツールは分 断 するこ となく、
4.2 フィールド指 標 化
より大 きな分 割 面 積 となるポリゴンの方 にそのメッ
シュ全 体 が含 まれる。
た と え ば 、 3 次 メ ッシ ュの上 に 流 域 界 ポ リ ゴン を
フィールド指 標 化 はフィールド演 算 として次 の
ような演 算 を行 うときに活 用 する
重 ね、この流 域 ポリゴンごとに 3 次 メッシュをマルチ
a1 x1 + a 2 x 2 + … + a n x n
b1 y1 + b2 y 2 + …+bn y n
クリッピングする。流 域 ポ リゴンの境 界 上 に位 置 す
る 3 次 メッシュは、最 も面 積 が大 きい流 域 界 ポリゴ
ンの側 にクリッピングされる。
3.4 合 計 ・平 均 ・最 小 ・最 大 サンプル数
a 1 x1 + a 2 x 2 + … + a n x n
定数
メッシュポリゴンと流 域 ポリゴンがあった場 合 に、
流 域 ポリゴン毎 にその範 囲 に相 当 するメッシュポリ
ゴンの指 定 する属 性 地 の合 計 、平 均 、最 小 、最 大 、
a1 x1 + a2 x2 + … + an xn
他のポリゴンのフィー ルド値
件 数 (メッシュ数 など)を計 算 する。
たとえば、3 次 メッシュやポイントデータのフィー
ル ド 値 ( 人 口 や 降 水 量 な ど ) を 流 域 ポ リ ゴ ン ご とに
図-2
合 計 ・平 均 ・最 小 ・最 大 を算 出 する。また、これら
フィールド指標化のための計算式
のフィールド値 を統 計 処 理 する上 でのサンプル数
(メッシュ数 やポイント数 )を計 算 する。
3.5 メッシュ数 ・ポイント数 カウント
こ こ で 、 a1 , a 2・・・a n、b1b2・・・bn は 重 み を 意 味 す る
(自 由 に設 定 できる)。
x1 , x 2・・・x n 、y1 y 2・・・y n は フ ィ ー ル ド の 値 を 意 味 す
る。
メ ッ シ ュポ リ ゴ ン と 流 域 ポリ ゴ ンが あ っ た 場 合 、 各
ポリゴンの範 囲 に相 当 するメッシュのあるフィールド
4.3 フィールド指 数 化
になんらかの数 値 が入 力 されているメッシュの数 を
件 数 としてカウントする。ポイントデータではメッシュ
と同 じく件 数 をカウントすることができる。
フィールドの指 数 化 は、メッシュポゴンと流 域 ポ
リゴンがあった場 合 に、流 域 ポリゴン毎 にその中
たとえば、複 数 の流 域 内 にある生 物 の生 息 場
に含 まれるメッシュポリゴンの全 体 を 0~1 に指
所 を示 す 3 次 メッシュのフィールド値 (生 物 が生 息
数 化 するツールである。欠 測 値 は指 定 した 0~1
し て い る場 合 には そのフ ィー ル ド値 に 数 値 か 文 字
の指 数 化 計 算 からスキップされる。
が記 入 されている。生 息 していない場 合 は空 白 )
を 検 索 し 、 流 域 内 に そ の生 物 が 確 認 さ れて い るメ
ッシュ数 やポイント数 を流 域 ごとに件 数 としてその
5. マ ル チ デ ー タ ・ ア プ リ の 登 録 と
起動
合 計 を計 算 する。
マルチデータ・アプリの登 録 と起 動 ツールは、
4. フィールド操 作 自 由 自 在
これまでの GIS がポイント、ライン、ポリゴンなど
のベクターデータ、衛 星 画 像 などのラスターデー
4.1 フィールドの四 則 計 算
タ を 中 心 とし た解 析 で あ っ た。 流 域 で の 合 意 形
成 を今 後 進 めていくためには、これらの GIS の
流 域 ポリゴンに格 納 されたフィールド値 に対 して
オ リ ジ ナル の デ ー タ 以 外 の さま ざまな デ ー タ・ 情
さまざまな演 算 を行 い、流 域 での指 標 の作 成 や指
報 を活 用 し、総 合 的 な状 況 判 断 を可 能 とする
数 の作 成 を行 うことを可 能 とするツールである。とく
必 要 がある。以 下 のデータ及 び情 報 が今 後
に ARCGIS のデフォルトのフィールド演 算 では、
GIS の中 で自 由 にポリゴン、ポイント、ラインの上
観 測 データにかならず存 在 する欠 測 値 (999 など
に複 数 登 録 管 理 され、その情 報 が必 要 なときに
の数 値 が当 てはめられる)を除 外 することが困 難 で
起 動 できるシステムが合 意 形 成 の場 では必 要 と
ある。この ような点 を 本 ツ ールでは 可 能 とす る点 が
考 えられる。
特 徴 である。
表 -2 GIS データ以 外 の画 像 などの活 用 例
6. 今 後 の展 開
美 しいと 思 う場 所 の風 景 を写 したデジカメ静 止 画
(JPEG など)
バランスツールボックスの中 の最 後 の項 目 、
現 地 観 測 の状 況 を移 した ビデオカメラの動 画 ( MPEG、
「マルチデータ・アプリの登 録 と起 動 」では、
AVI、Divx など)
EXE 形 式 のアプリケーションソフトウェア等 が起
テレビ・ 映 画 などの動 画 (MPEG、AVI、Divx など)
動 できる。このアプリケーションの機 能 を活 用 し
DEM から作 成 した GIS の3 D 機 能 で作 成 した アニメー
て、プログラミング構 築 ソフトの Stella を活 用 し
ション(AVI など)
て、流 域 でのコンフリクトの検 討 のための流 域 診
新 聞 情 報 などの情 報 (doc、txt、tiff など)
断 を行 う。流 域 でのコンフリクトの例 としては、以
パワーポ イントで作 成 されたプレ ゼン資 料 (スライドショー
下 の よ うな 事 項 が 挙 げられる。 こ れらは 必 ず しも
など)
コンフリクトという概 念 とは異 なるものも含 まれる
エクセ ルで作 成 した グラフやファイル( jpg、bmp など)
が 、 流 域 での 課 題 検 討 を 進 め るに あたっ て 、 両
魚 が跳 ねる音 や水 車 の音 などの音 声 データ(wav など)
者 を踏 まえた検 討 が必 要 ということで取 り上 げて
社 寺 の由 来 が記 載 された 古 文 書 のスキャンデータ(tiff
いる。
表-3
など)
Stella で 構 築 予 定 の モ デ ル
市 町 村 のホームページなど関 連 するインターネッ トなど
農 業 用 水 路 と しての機 能 vs 生 物 生 息 空 間 と しての機 能
URL(htm など)
農 業 生 産 高 の向 上 のた めの肥 料 等 の投 下 vs 肥 料 などに
VB や C で構 築 した 水 物 質 循 環 のプログラミング(exe な
よる湖 沼 の富 栄 養 化
ど)
建 設 資 材 と しての砂 利 などを河 川 から採 取 vs 河 川 断 面
Stella で構 築 したプログラミング(stm)
の変 化 による河 川 環 境 の劣 化
注 )Stella は時 系 列 的 に変 化 する変 数 に対 して要 因 間 の関 連 性 を記 述 できる
モ デ ル w w w. v a r s i t y w a v e . c o . j p / p r o d u c t s / s t e l l a / h t m l / s t e l l a - t o p . h t m l
逆 水 灌 漑 による水 資 源 の大 量 使 用 vs 田 越 しの水 配 分 に
よる水 の利 用
表 - 2 のデー タ や 情 報 は 、 GIS のデフォルト の
治 水 のた めの湖 護 岸 の整 備 vs 湖 岸 帯 の植 生 帯 (ヨシ帯
機 能 では表 現 力 が限 定 されるため、実 際 的 な関
など) の消 滅
連 付 けとその管 理 は困 難 と考 えられる。このマル
栽 培 漁 業 による肥 料 の投 下 vs 湖 沼 の富 栄 養 化
チデータ・アプリの登 録 と起 動 は以 下 に示 すように、
減 反 政 策 による農 地 の消 滅 vs 内 湖 の干 拓 に農 地 の創
さまざまなデータを GIS の画 面 上 のポイント、ライ
出
ン、ポリゴンごとに複 数 関 連 付 けを行 い、登 録 や
農 業 人 口 の減 少 と 高 齢 化 vs 都 市 住 民 の農 地 への関 心
削 除 な ど の 管 理 や 起 動 を 容 易 に 行 う こ とが で きる
有 機 農 業 の広 がりと コスト高 vs 有 機 野 菜 への関 心 の高 ま
ツールである。
り
住 民 が保 全 した いと思 う場 所 と 県 の景 観 保 全 区 域 (ギャッ
プ分 析 )
以 上 のようなコンフリクトを検 討 するためには、
一 つ の ア プ ロ ー チ と し て 、 さ ま ざま な 観 点 か ら の
流 域 診 断 を行 い、基 礎 的 な情 報 を共 有 すること
が必 要 である。流 域 診 断 の基 本 的 な手 法 として、
たとえば流 域 単 位 で、「存 在 量 の現 状 把 握 」、
「存 在 量 の流 域 間 比 較 」、「その変 化 特 性 (時
間 的 変 化 )」、「順 位 づけ」、「重 みづけ」、「総 合
的 評 価 のためのレーダーチャート作 成 」などが
挙 げられる。これらの操 作 をすべて GIS の機 能
でまかなうことは困 難 であり、Stella などのモデ
ルツール等 を今 後 補 足 して活 用 する必 要 があ
る。
図 -3 データ・アプリ登 録 ・更 新 ・削 除 画 面
以上