「私のノート」(6)シャンソン

LE TEMPS DES CERIES
さくらんぼの実る頃
秋はシャンソンの季節。ワイングラスを透してマロニエの並木道が見える。
まだラジオの時代だった頃、午後 NHK でポピュラー音楽の時間があった。曜日によっ
てカントリー&ウェスタン、中南米音楽(tango portena =
アルゼンチンタンゴ
のホルヘ的場)、映画音楽、
そしてシャンソン(葦原英了?) などであった。シャンソンの日には、はっとするような、
知らない曲だが懐かしいテーマソングが聞こえてくる。あとになって、それがコラ
ボケール
Cora Vaucaire が歌う「さくらんぼの実る頃」と知った。
Jean Baptiste Clement ジャン
ナール
バチスタ クレマン
の詩をもとに 1866 年 Antoine Renard アントワーヌ
ル
が作曲した古い名曲である。労働者革命によって建てられた政府、パリコミューンの
当時に生まれた歌である。私はシャンソンに詳しくはないが、若者の淡い失恋をさくらん
ぼに投影したこの曲は、聴くほどに味わい深くなった。
多くの歌手がこの曲を歌っているが、やはりコラ ボケールが最高である。緊張感あるビ
ブラートから、情緒ある恋人たちの優しさまで幅広い表現は見事である。YouTube に彼女
の歌は入っていないので、レコードを持っていない人には加藤登紀子をお勧めしたい。錆
のきいた低い声に美しいフランス語がぴったりである。さすがは T 大仏文科出身のお登紀
さん。恋人たちの哀歓を見事に歌っている。宮崎駿の「紅(くれない)の豚」に声で出演した加藤
登紀子が挿入歌にしたものである。
YouTube:
→検索欄に「加藤登紀子
さくらんぼの実る頃」と入力
→「訳詞付」のボタンをクリック、で聴くことができる。
→ついでに、「時には昔の話を」も聴きましょう。
次ページの歌詞のうち、加藤の歌は後半の一部が省略されている。
紅の豚 = 大一次大戦後、世界恐慌時のアドリア海を舞台に飛行艇で飛び回る「空賊」を
相手に賞金稼ぎで生きる「豚」の飛行艇乗りの物語。原案=「宮崎駿の雑草ノート」。宮崎
の実家が航空機産業に関係していた。宮崎自身の夢を描いた作品。
late summer 2009
斗内
弘一
[email protected]
LE TEMPS DES CERISES さくらんぼの実る頃 1866
Antoine Renard: musique
Quand nous chanterons le temps des cerises
Et gai rossignol et merle moqueur
Seront tous en fête
Les belles auront la folie en tête
Et les amoureux du soleil au cœur
Quand nous chanterons le temps des cerises
Sifflera bien mieux le merle moqueur
Mais il est bien court le temps des cerises
Où l'on s'en va deux cueillir en rêvant
Des pendants d'oreilles
Cerises d'amour aux robes pareilles
Tombant sous la feuille en gouttes de sang
Mais il est bien court le temps des cerises
Pendants de corail qu'on cueille en rêvant
Jean Baptiste Clement: paroles
私たちがサクランボの季節を歌い
陽気なナイチンゲールやマネシツグミが
すっかり浮き浮きしているであろう頃
娘たちは頭におかしな思いを抱き
恋人たちは心に太陽を抱くだろう
私たちがサクランボの季節を歌い
マネシツグミがより上手にさえずるであろう頃
でもとても短いんだ、サクランボの季節は
二人で夢見ながら
イヤリングを摘みに行く時期は
揃いのドレスをまとった愛のサクランボ、
血のしずくとなって葉の下に落ちている
でもとても短いんだ、サクランボの季節は
夢見ながら摘むサンゴのイヤリング
Quand vous en serez au temps des cerises
Si vous avez peur des chagrins d'amour
Evitez les belles
Moi qui ne crains pas les peines cruelles
Je ne vivrai pas sans souffrir un jour
Quand vous en serez au temps des cerises
Vous aurez aussi des peines d'amour
サクランボの季節になって
J'aimerai toujours le temps des cerises
C'est de ce temps-là que je garde au cœur
Une plaie ouverte
Et Dame Fortune, en m'étant offerte
Ne saura jamais calmer ma douleur
J'aimerai toujours le temps des cerises
Et le souvenir que je garde au cœur
私は常にサクランボの季節を愛するでしょう
あなたが失恋の悲しみを恐れるのなら
娘たちを避けることです
つらい心痛を恐れない私は
一日として悩み苦しまずには生きていけないでしょう
サクランボの季節になると
あなたも恋でつらい思いをするでしょう
あの時以来、私は心に
開いた傷を秘めているのです
運命の女神が私のところに遣わされてきても
決して私の苦しみを和らげてはくれないでしょう
私は常に、サクランボの季節と
心に秘めた思い出とを愛するでしょう