2014 年度事業報告書 2015 年 6 月 特定非営利活動法人クリエイティブサポートレッツ <2014 年度の活動> 2014 年度を振り返ると、2000 年より始まったクリエイティブサポートレッツ(以下、レッツ)の活動新しい方向性が、固まった年でもあ った。2015 年 2 月には、浜松市で 2 番目の認定 NPO 法人として認証され、新たなスタートを切ることができた。 2014 年 3 月に終了した「たけし文化センターINFOLOUNGE」に代わり、2014 年 6 月よりレッツが運営する障害福祉サービス事業 所アルス・ノヴァ近くに「たけし文化センターのヴぁ公民館」をオープンした。これによって、障害福祉事業と文化事業が一体化した。 文化事業に関しては、2002 年の「トヨタエイブルアートフォーラム」、2006 年ゆりの木通り商店街で行った「商展」、鴨江別館保存活 動でもあった「浜松アートフォーラム 2008」、ゆりの木通りの空店舗で行った「たけし文化センターBUNSENDO」(2008~2009)、「たけ し文化センターINFOLOUNGE」(2011~2014)など、これまで試行錯誤を行ってきた。 2014 年度「障害福祉を軸に据えながら文化事業を行っていく」といった方向性が明確にできたのは、2013 年~2014 年に行った 「福祉施設製品等調査研究事業」(浜松市)の成果が大きい。レッツの強みを「利用者とスタッフが渾然一体となり、常に何かを生み 出し続けている現場」「革新的な価値は、利用者とスタッフの日常にある」とし、「肯定し受容する強さとしての『寛容さ』」と整理され た。 このことで我々の現場で展開されている、利用者やスタッフ、その他関係者の織り成す「関係性」にこそレッツの核心があることが明 確になった。これは今後の事業を考えていく指針となると同時に、この魅力をどのように発信していくかが今後の課題となる。 浜松市障害保健福祉課から事業を受託して刊行した「ほとんど知らなかったグッズと人に出会える本」は、障害福祉を多面的に社 会に伝える本として制作した。 2015 年 3 月に行った「全国アート NPO フォーラム IN 浜松」は、「外交的」発信事業であった。静岡県副知事、浜松市長の挨拶から 始まり、3 日間、アクセスの良い場所とはいえない会場(アルス・ノヴァ,のヴぁ公民館)に、全国から 3 日間でのべ 314 人が参集し、 議論を重ねた。福祉、アート、創造都市、等が議題として上がり、社会の多様性、寛容性を育む事業が必要なこと、それをアートを通 して実現可能ではあるが、なかなかそうしたことに取り組んでいる団体、事例は少ないことなどが浮き彫りとなった。 アルス・ノヴァは、重度から軽度の知的障害者・児、精神障害を抱える人など様々な程度の利用者が通っている。精神障害、中度・ 軽度の知的障害の利用者は、自立訓練(2年)と就労移行支援(2年)の利用期限のあるサービスを利用してきたが、その期限の迫 ってきた利用者が複数名見込まれた。そこで、その後の受け入れ先として就労継続支援 B 型事業の準備を本格的に進め,2015 年 4 月から事業を開始した。また、その就労メニューとしてレッツの文化事業の「のヴぁ公民館の運営」が承認されたことは、画期的なこ とであった。アルス・ノヴァは「障害のある人たちの新しい生き方」を模索しているが、「障害のある人が働くこと」という根源的なテーマ を掲げながら、今後このように様々な「実験」を試みていきたい。 前述の新しくオープンした「のヴぁ公民館」は、障害の有無にかかわらず誰でも利用できる。そこで開催される講座は、プロの講師 が行う講座、持ち寄りの講座(スタッフも含めて部活動的な講座)、当事者が講師を務める講座(レッツ利用者が講師となる)と、3つ に分類されている。特に、設立以来 10 年間レッツの根幹を支えていたレッツ・アート(高木淑子講師)が5年ぶりに復活できたのは、 感慨深い。雄踏街道に面し、バスの便は良いが、駐車場等が完備されていないこの場所で、今後周辺と関係を築きつつ、地域の拠 点としてどう育てていくかが課題である。 1 <障害者福祉支援法に基づく障害福祉サービス事業> 【生活介護(定員 10 名)/自立訓練(定員 6 名)/就労移行支援(定員 6 名)/日中一時支援】 登録者は生活介護 14 名、自立訓練 5 名、就労移行支援 3 名、日中一時支援 10 名から始まり、年度終わりには、生活介護 16 名、 自立訓練 5 名、就労移行支援 3 名、日中一時支援 11 名と、生活介護利用者が増加した。平均利用数は、生活介護 8 名、自立訓 練 2 名、就労移行支援 3 名。年間延べ利用者数 3958 人。自立訓練 2 年修了者 3 名は、4 月より就労移行支援 2 名、就労継続支 援 B 型に 1 名移動した。 設立より 4 年アルス・ノヴァに通った関口しのぶが制作した自变伝「障症」は、5 月に完成し(1000 部)、その後、各種イベント等に参 加し、本人とともに販売を行っている。こうした実績が自信になり、10 月より就職活動を始め、2015 年 4 月より一般企業にパートの職 を得た。 自立訓練、就労移行支援を通して、自らの表現活動(詩作、即興ポエトリーリーディング)を見出したムラキングは、様々なイベント やライブに参加してきた。3 月に行われた全国アート NPO フォーラム in 浜松において、「ムラキング支援会議」を実施した。この中で、 障害は「障害」ではなく、むしろ個性、特徴であるといった議論は、多くの示唆があった。 アルス・ノヴァ 2 階では、毎日音楽セッションを行っている。主に生活介護利用者を中心に、外部からアーティスト(ドラマー:梶原徹 也氏、ミュージシャン:マッスル NTT、音楽家:松岡江利子)も招きながら即興性の高い音楽パフォーマンスを繰り広げた。 アルス・ノヴァでは毎日スタッフが映像を撮っている。こうした膨大なデーターは、「動画会」(年 6 回実施)を行い、共有を図るととも に、3 月に行われた展覧会「お手軽佐藤スーリストききっこ」にも反映され、支援の方向性を模索するとともに、障害のある人のあり方 や、仕事、生き方を考察する材料としても活用されている。 ① 地域とのかかわり ZAZA CITY 前で行われた路上演劇祭(5 月 25 日)や、「ちっちゃな文化展」(10 月 24 日、25 日)に参加した。 ② 畑 農作業を通して仕事に対する利用者のモチベーションが上がった。また新たな居場所としての活用や収穫したものの調理など、就 労につながるメニューも期待される。2015 年 2 月よりアルス・ノヴァから徒歩圏内に畑を借りることができ、畑に行くことで毎日の運動 メニューとしても機能している。 ④ 音楽ワークショップ ドラマーの梶原徹也氏を招いた「梶さんワークショップ」(隔月1回)、根洗学園でも音楽ワークショップをしている松岡江利子主催の 「小さな音のワークショップ」(月1回)、マッスル NTT による、月 1 回ワークショップを実施。 ⑤ 家庭訪問 利用者全員を対象に 2014 年 12 月より家庭訪問を行った。10 月に行われた宿泊訓練の成果も踏まえて、アルス・ノヴァでの日中 活動では見られない夜間の様子や家庭での過ごし方、家庭環境等、一歩踏み込んだ関わり等をご家族とともに共有した。 2 ①地域とのかかわり(路上演劇祭) ②物販(イオンでの販売会) ③畑 ③畑(作業の様子) ④音楽ワークショップ(梶さんワークショップ) ④音楽ワークショップ(小さな音の WS) 3 <児童福祉法に基づく障害児通所支援事業> 【放課後等デイサービス(定員 10 名)】 登録者は 26 名、日中一時支援 10 名。平均利用人数は 9 名、年間のべ利用者数は 3137 人。昨今の放課後等デイサービス事業 所増加に伴い、定員をオーバーして申し込みがあった依然と比べ、通常的に利用する層が増えた。週 3 日以上の利用を促し、毎日 の定員も 10 名程度(日中一時利用も入れて)に調整し、ゆったりと、丁寧に支援する体制を強化した。全体の傾向として、行動障害 を伴う重い障害の子ども、自閉傾向の強い利用者が多く、そのため、大人と同様プログラムも個別性を重視している。 突発的に起こる案件(事故、調子、体調など)に対応するために、スタッフは、家族や他支援施設、相談支援事業所、学校との連 携強化に力を入れ、自分たちだけで抱え込まない体制づくりを行った。 ① 外出 公園やドライブに行き気分転換を図った。外出するメンバーが偏らないように配慮し、多くの利用者が外出することができた。卒業 を控えた利用者と念願の競艇場に行くこともできた。 ② ボランティア・見学 長期休暇期間などに学生数名がボランティアで来所し、交流してもらうことができた。人手が確保できたことで手厚い支援になると ともに、外部の人との関わりの中で、名刺づくりや特大紙やぶり大会など普段と違う遊びをして過ごすことができた。 ③ 音楽ワークショップ ドラマーの梶原徹也氏を招いての音楽ワークショップに参加した。たいこを叩く人、音に合わせて動く人など各々好きなように楽し んでいた。イベントとして開催することで普段とは違う音楽遊びになった。 ④ アート NPO フォーラムにおける展示 アート NPO フォーラムの開催に合わせて、スタッフ山下が利用者 3 名との関係性から生まれたものや出来事の記録をのヴぁ公民 館で展示した。 4 ①外出(のんほいパーク) 特大紙やぶり大会の様子 ②音楽ワークショップ 屋上プールの様子 特大お絵かき クリスマスケーキ 5 <文化センター事業> のヴぁ公民館事業 <設立の目的> ① 障害を持つ人“も”利用できるスペースとして のヴぁ公民館は施設ではなく、障がいの有無を問わず自由に利用できる開かれたスペースとして開設した。また、生きづらさを抱 える人が気軽に過ごせる第 3 の居場所になることも目指している。 ② アルス・ノヴァの利用者が落ち着いて過ごせる居場所として アルス・ノヴァ設立から 4 年経ち、利用者数が増え活気のある施設になってきた一方、精神に障害を持つ方など騒がしい場所が苦 手な利用者が落ち着いて過ごせる場所が少ないという問題を抱えていた。そこで、静かな場所で過ごしたい利用者の居場所として のヴァ公民館を活用した。 <のヴぁ公民館の活動> ① スペースの解放 ② 講座の開催 ③ 自主企画の開催 ④ 持ち込み企画の受け入れ ⑤ 工房の運営 <実施事業> ① むつ祭り 7 月上旬、プレオープン前後の 3 日間に関西を中心に活動する観光家/コモンズデザイナーの陸奥賢さんを招きし、陸奥さんが 考案したあそびを体験するイベントとトークイベントを開催した。 ・7月4日(金) 直観讀みブックマーカー ・7月5日(土) まわしよみ新聞、陸奥賢おしゃべり会「ぼくの公民館構想」 ・7月7日(月) ゆっくり、まったり、アルス・ノヴァ。 ② オープニングイベント 7 月のプレオープンから 3 ヶ月の実験期間を経て、10 月 4 日にグランドオープンした。オープニングイベントとして「学生かたりのヴ ぁ~キラキラ学生のヴぁ滞在記★~」、ライブイベント「不思議な国とアルス」、投げ餅を開催。併せて、公民館で活動しているイベン ト・講座・部活のパネル展示を含めた内覧会を開催した。 ③ 通常講座 (1)アーティストや研究者などの専門家を招いての講座 アーティストに講師になってもらう講座を開催した。障がいの有無に関わらず参加可能。「レッツ・アート」や「アートインコミュニ 6 ティ3」、「淳子さんの銅版画講座」など。 (2)アルス・ノヴァの利用者が講師を務める講座 アルス・ノヴァの利用者が各々の特性を活かして講師を務めた。村木さんの「詩の講座」、佐々木さんの「モヒカン書道」など。 (3)来館者が講師を務める講座 来館者が講師となり、それぞれの特性や、やりたいことを活かした講座を開催した。「村木さんのダジャレと詩の講座」、「アロマ 講座」など。 ④ 部活動 来館者が発起人(言いだしっぺ)となり、のヴぁ公民館で様々な部活動が活動している。互いの部活で連絡をとり合い共同開催さ れることもある。部活の例:大人の写真術、グレー部、げーむ部、手芸部、ドキュメンタリー同好会、雑(ノイズ)研究会、プラ板を作ろ う会、rec(カセット録音文化研究会) <総括> のヴぁ公民館では、「かたりのヴぁ」や「レッツ―アート」といった自主企画イベント以外にも、ZINE づくり講座から「昆虫食倶楽部」ま で、多種多様な講座やイベントが展開された。その中で、これまで「たけし文化センター」で扱っていた「やりたいことをやりきる熱意」 だけでなく、「理由はないけれど、なぜかやっている」といった「癖」のようなことも扱う場であると、活動を通して明らかになってきた。 それは、ともすると「無価値」だとされやすい、ささやかで極私的なことを受け入れるという寛容性を持つ場であり、レッツが掲げるソ ーシャル・インクルージョンを体現する場所として、今後の可能性がこの1年でわずかながら見えてきた。このようなあり方は、障害福 祉施設が運営する「場所」としての特徴ではないかと考えられる。 来館者の方々は、次第に生活の一部としてのヴぁ公民館を利用してもらえるようになった。一方、今後公民館の新陳代謝を図る意 味で、新規利用者の獲得が必要だと感じている。 7 「レッツ・アート」の様子 文化権についてのトークイベント様子 定期開催「健康麻雀」の様子 部活動の様子(rec(カセット録音文化研究会)) 部活動の様子(プラ板つくろう会) 工房利用の様子 8 福祉施設製品等調査研究事業 昨年度から引き続き、地域課題の解決と地域資源の活用から収益を得るコミュニティビジネスの可能性を調査した。営利/非営利、 私的/公的の両側面を有しているコミュニティビジネスへの注目は高いが、手法として場当たり的に取り入られている例も多い。本事 業では障害福祉 NPO としての長年の経験から障害のある人の新しい仕事のあり方としての「コミュニティビジネス」の可能性を掘り下 げた。一例として「授産商品」の作り手と、それを売り出す人、それぞれが持つモチベーションや特性に適した仕事のあり方、就労の 形を問い直すことから始め、従来のマーケティングやブランディングを越えたビジネスモデルの構築に向けた調査・実験を行った。 (1) 全国アート NPO フォーラム in 浜松の誘致 (2) 企業研修プログラムの設立準備 (3) ホームページ、WEB ショップの制作 <事業効果> レッツの活動の指針を作ることができた。明確な目的を設定して事業を行う計画的アプローチと、その場の課題を解決するために 実験的に行う実践的アプローチの 2 つの手法に整理して事業を行うことが定義づけられた。レッツの強みとは「知的障害者」あるい は「知的障害者支援」という社会的課題に取り組むことにある。さらに、知的障害者支援を社会に開く試みを行なう上で、マーケティ ングやブランディングといった他者の視点になじまない、むしろ「自分たちが見出していく価値」を「社会に何を発信するか」「特定の 誰かに何を発信していくのか」といったことを、外部の目線も入れながら内部で評価・測定していくことが必要であることがわかった。 タレント事務所事業 障害のある人のタレント性をどの様に開発していくか。さらに、そうしたことを「アートプロジェクト」として捉えることができるのかとい った考察を行った。「全国規模の芸術祭参加」といった仮説を立て、アルス・ノヴァといった障害福祉施設全体をアートプロジェクトと して参加できるかどうかの実験を行った(合宿の実施)。 全体性を持って参加するというのは非常に難しく、むしろ個々の良さ SNS 等を使って発信する、あるいは来訪者に確実に伝える実 験として「お手軽ツーリストききっこ」の開発を試みた。 最後にこうした成果を外部の有識者とも議論を行ない(障害・芸術祭・インクルージョン)、障害のある人個人のタレント性もさること ながら、利用者とスタッフの関係性や場の作り方にこそ、特異性があるといった示唆があった。 ① 合宿 例年参加している芸術祭「遠州横須賀街道ちっちゃな文化展」。今回は合宿も兼ねて参加した。利用者の夜間の様子にはじめて 接するため、事前に保護者の方とのやりとりを密に行い、朋薬のポイントや就寝時の様子などを改めて確認した。 <状況・効果> 日中活動、宿泊、夜間就寝などを通してアルス・ノヴァでは見られない利用者の姿を知ることができた。利用者は、普段施設で一 緒に過ごすスタッフや利用者と共に過ごすこともあり、想定していたよりリラックスして過ごしている様子だった。保護者の方々にも好 評で、合宿が定期的に行われることを望む声も聞かれた。今回の合宿で、遠方での宿泊を伴う活動に参加できる見込みが持てた。 9 ② トークイベント「芸術祭・福祉・インクルージョン 」 今年度レッツで行った障害福祉施設の芸術祭参加に向けた取り組みの中で見えてきたこと、そしてゲストそれぞれの取り組みを紹 介し、マイノリティーな人々とアートの結び付きが社会にどう影響を与えているのかなどを議論した。特にソーシャル・インクルージョン というテーマについては、活動は異なるが、ゲスト4者が取り組むにあたり柱に据えているテーマであり、対社会へのアプローチの難 しさや、現代の抱える様々な社会問題への思いが出てきた。参加者にはやまなみ工房を始め、県外からの参加者も見られ、今回の テーマが全国的に注目を集めているテーマであったこと、また障害と芸術を考える上で重要なテーマであったことがわかった。 <開催概要> 日時:2015 年 2 月 10 日(火) 18:30〜20:30 ゲスト:上田假奈代/栗栖良依/アサダワタル 司会:久保田翠 参加者数:50 名 トークイベントの様子 トークイベントの様子 ③ アルス・ノヴァ博覧会「おてがる佐藤ツーリストききっこ」 障害福祉事業所アルス・ノヴァを博物館に見立て、携帯端末から利用、編集可能な音声ガイドを設置する試みを行った。他に関 連企画として、貴重な蔵出し映像と、過去の展覧会「佐藤は見た!!!!!!プラス」の映像を上映する「ききっこシアター」をのヴぁ公民館3 階に設置した。 <開催概要> 開催期間:2015 年 3 月 1 日〜31 日 会場:障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ/のヴぁ公民館 体験者数:300 名以上 10 <企画趣旨> 佐藤は見た!!!!!!展の続編、もしくは番外編の位置づけで、成果物ではなく、直接障害のある方に関わってもらいたいという想いと、 日常の営みそのものを発信する試みとして実施した。また、閉じ易い場所を開いていく為のツールとして、音声や映像を用いたガイ ドツアーにはどのような展開の可能性があるのか、実際的に検討した。 <実施の状況> 開催に向け、前年の 9 月から美術家で元レッツスタッフの深澤孝史氏をディレクションに迎え展覧会の方向性や射程についてミー ティングを繰り返し、検討を重ねた。観客としては、全国アート NPO フォーラムの開催にあわせ訪れた方々約 300 名が滞在中に体験 したほか、3 月中に施設見学に来られた方に体験して頂いた。展覧会としては会期を終えたが、日常のアーカイブ手段として、広報 媒体として、研修メニューとして等、様々な可能性を持つものとして捉えており、今後も様々な展開が可能であると考える。 音声ガイド画面 ききっこシアターの様子 障害福祉施設ガイドマップ製作 ① 『ほとんど知らなかったグッズと人に出会える本』製作 2014 年 12 月、浜松市障害保健福祉課の委託を受け、障害者福祉施設ガイドブック「ほとんど知らなかったグッズと人に出会える 本」を刊行した。 <企画趣旨> ふだん障害のある人と関わることの少ない人たちにとって、障害福祉施設で行われていることや、障害のある人たちのようを知る機 会はほとんどない。また施設紹介の冊子があったとしても、明るいイメージで紹介しているものは少ない。そこで福祉の世界にあふれ るユニークなヒト・モノ・コトをあえて楽しく伝えるガイドブックを通して、読者が障害のある人たちの魅力を「知る」ことを目指した。 11 <概要> 仕様:A5 版 88 ページ 印刷部数:8000 部 配布方法:無料配布(市役所等にて配布) スタッフ:写真/ヨシダダイスケ、コピー/永野香里、デザイン/(有)キーウエストクリエイティブ 植田朊美、企画・編集/NPO 法人 クリエイティブサポートレッツ <実施の状況> 2014 年 4 月 外部スタッフとともに編集チームを編成し、プロポーザルを提出し、5 月受託 2014 年 6 月 市内の障害福祉施設(相談支援事業所を除く)にアンケートを送付・回収 2014 年 7 月 アンケートをもとに、アルス・ノヴァのスタッフで事前調査を開始 2014 年 9 月 事前調査をもとに取材へ。スタッフの取材報告から、原稿&デザインが進行 2014 年 12 月 完成・発行 2015 年 2 月 刊行記念トークイベント「どいいら障害」開催 <読者の反応> ・ 行政の名前での発行なのに、良い意味で偏りがあり、良い意味で変で、これはすごいっ!と思いました。(富士市の男性) ・ この本は製品や取り組みの紹介だけでなく、障がいのあるひとの趣味やエピソードなど障がいのあるひとの「 生活 」も紹介して いるところがとくにいいなぁと 思いました。(中略)全国47都道府県ごとに 1冊。あれば、いいなぁ。(京都市・女性) ・ 2015 年 4 月、この本を読んだ静岡市の一般読者の方によって「障害者を面白いって言っていいの?」というテーマで読書会が開 催され、14 名が参加。今後も対話型の会を開く予定とのこと。 ② 『ほとんど知らなかったグッズと人に出会える本』出版記念トークイベント「どいいら障害 」 浜松市の委託を受けて作成した、授産製品、作業所のガイドブック「ほとんど知らなかったグッズと人に出会う本」の出版記念イベ ントとして開催。取材する中で見えてきた、障害を持った人のユニークさや面白さをどう捉えればいいのかについて、普段から関わり のあるレッツスタッフ、これまでほとんど関わりのなかった外部スタッフ、そしてこのガイドブックを初めて手にしたゲストという三者のト ークの中から見出す機会となった。ガイドブック自体の評判もあり、予想以上の来場者があり、質疑応答も含め熱い議論が交わされ た。 <開催概要> 日時:2015 年 2 月 10 日(火) 17:00〜18:00 ゲスト:永野香里/植田朊美/ヨシダダイスケ/アサダワタル 司会:水越雅人 参加者数:42 名 12 トークイベントの様子 ガイドブックを見る参加者 アート NPO フォーラム IN 浜松「生きるためのアート」 アート NPO リンクが、これまで全国各地でその地域で活動する NPO との協働で開催してきたアート NPO フォーラムを浜松で開催 した。アートのみならず様々な領域の NPO や市民らが集い、討論する場で、全国的な課題と共に地域固有の課題についても検討 し、課題の共有と解決を目標としている。今回は、多様性・寛容性のある社会の実現を目指す「社会包摂」をキーワードに、多様なゲ ストを招いて、対話の場を実現した。また、アルス・ノヴァの体験・見学企画も同時に開催し、全国から集まった多くの人に現場を体 感してもらう機会となった。 <開催概要> 開催日:2015 年 3 月 6 日(金)・7 日(土)・8 日(日) 会場:障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ/のヴぁ公民館 参加者数:314 名 主催:NPO 法人クリエイティブサポートレッツ/NPO 法人アート NPO リンク 共催:静岡県/浜松市 助成:公益財団法人福武財団 協賛:アサヒビール株式会社/トヨタ自動車株式会社 後援:静岡新聞社・静岡放送/中日新聞東海本社/浜松市社会福祉協議会/浜松市商工会議所 <実施プログラム> ① シンポジウム「生きるためのアート」 第一部で「現場から」と題して、理事長・久保田から家族を中心とした話、アルス・ノヴァの職員から現場の話、そしてレッツがこれま で展開してきた文化センター事業の報告を行った。その後、第二部では、アート・福祉・多文化共生・都市など様々な分野、また第 一線の現場で活躍する方から研究者まで集まっていただき「多様性・寛容性のある社会を目指して」と題して、シンポジウムを実施し た。まず、NPO 法人ゆめ・まち・ねっと代表・渡辺達也さん、NPO 法人こえとことばとこことの部屋代表・上田假奈代さんに話題提供と して各々の活動を紹介していただいた後、パネリストとして静岡文化芸術大学文化政策学部教授・池上重弘さん、音楽家・大友良 英さん、同志社大学経済学部特別客員教授・佐々木雅幸さん、浜松協働学舎根洗寮施設長・高木誠一さんを加えてパネルディス 13 カッションを行った。異なるフィールドから社会包摂に関わる各パネリストの活動から共通項を探ることで、寛容性・多様性のある社会 の実現のヒントを探った。 ② 1日施設体験「スタッフ or 利用者、あなたはどっち?」 アルス・ノヴァを通常通り営業し、施設の日常を参加者に見学していただいた。同時開催のアルス・ノヴァ博覧会「おてがる佐藤ツ ーリストききっこ」を活用しながら案内ツアーを実施したほか、希望者には、アルス・ノヴァのスタッフや利用者になって 1 日体験できる 機会を提供した。 ③ アイデアフォーラム「社会包摂と創造都市」 2014 年 12 月、浜松市がユネスコ「創造都市ネットワーク」に加盟を果たした。市民の自発的な創造活動を通じて、現代社会がもた らすさまざまな課題に対し、柔軟で創造的なアプローチで解決を図るとはどういうことか。今回は、格差社会における孤立や孤独、あ るいは不当な差別といった排除のないコミュニティをつくる実践である「社会包摂」をキーワードにアイデアフォーラムを開催した。合 同会社 teco LLC 代表・立木祥一郎さん、ニッセイ基礎研究所研究理事・吉本光宏さん、静岡文化芸術大学文化政策学部長・根本 敏行さんを招き、創造都市研究者でもあるレッツのスタッフ・山森達也の進行で、来場者の方々にもマイクを渡しながら自由に意見 交換した。 ④ 投げ銭ライブ「不思議の国とアルス Vol.2」 アルス・ノヴァの2階では。毎日のようにドラムやギターの爆音が奏でられ、音楽が溢れ出ている。そんな日々の活動の延長線上で 音楽ライブを開催した。 ⑤ かたりのヴァ「人として生きる場所」 2014 年度一年を通じて、話すこと、聞くこと、そしてなによりも共にいることを大切に開催してきた哲学カフェ「かたりのヴぁ」。その最 終回をアート NPO フォーラムの中で実施した。全国から集まった来場者と「人として生きる場所」をテーマに2時間かけて語り合っ た。 ⑥ 支援会議 福祉施設において、施設利用者の支援方針を決めるために行われる支援会議。今回は、アルス・ノヴァ利用者で詩人になりたい 村木さん(ムラキング)の支援について考える会議を公開で実施した。彼の課題や生き方を通じて、障害・アート・社会のあり方を問 い直す機会となった。 ⑦ 振り返りと全体フォーラム「アート NPO フォーラムは、なにを可能にするか」 「アート NPO フォーラムは、なにを可能とするか」というテーマを掲げたが、最終的な結論や提言は目指さず、3日間のアート NPO フォーラムを振り返り、各々の感想を共有し合う場となった。 14 シンポジウムの様子 シンポジウム休憩中の会場の様子 アイデアフォーラムの様子 かたりのヴぁの様子 支援会議の様子 振り返りの様子 15 かたりのヴぁ <開催期間・回数> 2014 年 5 月〜2015 年 3 月 10 テーマ 各 2 回、全 21 回(最終回のみ 1 回) かたりのヴぁの様子 <「かたりのヴぁ」のはじまり> レッツのこれまでの活動を振り返り、また、これからの活動を考えるうえで、「様々な人たちと、ちゃんと対話すること」が大事なので は?と考え、以前からお世話になっている鷲田清一先生のお弟子さんでもある西川勝先生をファシリテーターに迎え、色々な人が 集まって語り合える「哲学カフェ」の形態を取り入れたレッツ流「哲学カフェ」、『かたりのヴぁ』を始めることにした。 <「かたりのヴぁ」の歩み> レッツの活動に以前から協力・共感して下さっている方々や、今まで関わりが薄かった LGBT(性的マイノリティーの総称)の活動家 の方をお招きし、アルス・ノヴァの利用者も参加するなか、「はなすこと、きくこと、ともにいること」をテーマに、オリエンテーションする ことから始めた。オリエンテーションでは他者と本当に語り合うことの難しさや、「まず共に居る」ということの重要性についてなど、 様々な意見が飛び交いながらも、みんなで共通の「問い」に向き合う「場」が形成された。 かたりのヴぁでは、各回同じテーマで午前・午後と2回行い、途中会場を変えたり、参加者にファシリテートしていただいたりもした。 重い障害を持つ人や、人見知りの人、働かなくても多額の収入がある人など、様々な人たちが参加し、参加する人や場所、天候、時 間が変わると同じテーマでも雰囲気や「問い」の方向性が全く違うこと、日常では話せないようなテーマを知らない人たちと忌憚なく 深く話し合うことのできる「場」の不思議さと面白さ、また大切さに気付かされると同時に、これらのことをどう残していくのかという課題 が浮かび上がってきた。 <「かたりのヴぁ」のこれから> 「様々な人達が共に居ること」の土台作りのために、「かたりのヴぁ」の活動継続と浜松各所での展開が大事だと考え、回の当初か ら新しいファシリテーターの育成方法や記録の仕方などを議論した。 記録方法として3回ごとに数名集まって座談会を行い、会話を記録することにした。継続の可否や方法について「かたりのヴぁ」全 体の振り返りを常連の方に集まってもらい話し合った。ファシリテーターやテーマ決定方法が主な課題となった。課題はあるものの、 参加された方のなかから「哲学カフェ」始める人が出てきたり、持ち回りでファシリテーターを行ってみたりなどの意見が多く出てくる ようになりました。「かたりのヴぁ」で生まれた種の確かな芽吹きを感じ、大事に育てていきたいと思います。 16 学生のヴぁ合宿・学生かたりのヴぁ 経済、教育、美術など福祉分野とは異なる専攻をしている大学生総勢7人が、福祉施設(アルス・ノヴァ、のヴぁ公民館)にて7日間 ほどの滞在・宿泊をし、現場で感じとったこと、考えたことを最終日に発表。その後「かたりのヴぁ」という形式で公開トークセッションを 行った。日を追うごとに学生たちの「障害者」と「健常者」の境界線は揺らぎ、今まで持ちえなかった視座から語りが生まれてくる様は、 学生たちにとっても福祉側の人間にとっても貴重な体験であった。また学生たちが発する純粋な問いかけは施設職員にとっても大 きな気付きの機会となった。 <開催概要> ① 学生のヴぁ合宿 第一弾 2014 年 9 月 15 日(月)〜9 月 19 日(金) 第二弾 2014 年 9 月 24 日(水)〜9 月 17 日(土) ② 最終ミーティング 日時 2014 年 9 月 28 日(日) 場所 慶応大学 ③ 学生かたりのヴぁ(発表) 日時 2014 年 10 月 4 日(日) 場所 のヴぁ公民館 参加学生 慶応大学学部生 6 名/東京大学修士 1 名 合宿中の様子 学生かたりのヴぁ参加メンバー 17 <その他> 「仮認定」から「認定」NPO 法人へ <認定制度とは> 特定非営利活動促進法が施行されて以来、NPO の数は年々増え、今では5万もの NPO が活動している。なかでも特に運営が適 正に行われ、公益性が認められた NPO については、団体および寄付者に対する税金の優遇措置が受けられるようになったのが、 「認定 NPO」制度である。ちなみに 6 月 5 日現在、全国の認定 NPO の数は約 500 団体。全体の 0.1 割程度である。 <認定に向けた取り組み> レッツでは、2013 年度から認定申請のための準備を進めており、2014 年 3 月には、前段階である「仮認定」を受けることができた。 続く 2014 年度においては、多くの方にご協力いただき、認定を受けるために必要な寄付者数(前2か年度の寄付者数が年平均 100 名以上)を超えることができたため、12 月に認定申請を行った。申請後、所轄庁である浜松市によって、会員の管理方法や帳簿関 係、従業員の雇用関係など、様々な観点からの実地調査が行われた。仮認定の際に続き、レッツとしては2度目の調査である。調査 の結果、翌月3月5日、晴れて認定 NPO にとして認められ、浜松市内2番目の認定 NPO となった。 <認定をうけて> 今回、レッツは年度内に認定を受けることができたため、さっそく 2014 年度決算から、税制優遇を受けられることとなった。改めて、 協力いただいた皆様に感謝したい。さて、認定の有効期間は5年間。その間にも応援して下さる寄付者・賛助会員の数を 100 名以 上に保つこと、そして適正な運営を行うことが不可欠である。身の引き締まる思いを胸に、新たな5年をスタートしたい。 ゲストハウス「のヴぁはうす」の開設・管理 2014 年度から 2015 年度にかけて行った「福祉施設製品等調査研究事業」では、事業の成果のひとつとして、アルス・ノヴァという 「場」のあり方こそがレッツの強みであるという提言がなされた。そこで、来訪者がアルス・ノヴァに長く滞在して、利用者やスタッフと過 ごすなかで、様々な物語を体験し、社会における寛容性のあり方やソーシャル・インクルージョンについて思索を深められるような仕 組みが必要と考え、2014 年 8 月より、浜松市西区入野町にゲストハウス「のヴぁはうす」を開設した。スタッフが管理人として住み、ゲ ストの利用をサポートしている。 <のヴぁはうす概要> 住所:浜松市西区入野町・アルス・ノヴァより徒歩10分 管理:NPO 法人クリエイティブサポートレッツ 利用料:一般 1000 円/学生 500 円 18
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