「単刀直入にものを言う」と聞くと、どんなイメージが浮か びますか? 相手の気持ちをムシしてズバッとものを言うことは、思いや りがない、やさしくない……? もし、そんなイメージが浮 かぶとしたら、やさしいあなたは相手の気持ちを考えて言い たいことも言えなかったり、なかなか本音を切り出せないと いう体験をしょっちゅうしているかもしれませんね。 『単刀直入』(たんとうちょくにゅう)は禅語です。 いきなり本題に入る、という意味ですが、私はこう解釈して います。 16 17 単刀直入にものを言って核心に触れることは、相手に対する “思いやり”と。 単刀直入にものを言う勇気を持ってください。 そこで大切なことは、けして胸に一物を持たないこと。万が たとえば、 「こう言ったらイヤがられるかな。もしかしたら 一にも、相手に対してイジメたいとか、仕返ししたいという 相手を傷つけてしまうかも……。いや、自分が憎まれるかも ネガティブな感情があると、相手をズケズケ批判して、つい ……」とあれこれ考えて“遠回し”に言ったとします。 つい攻撃してしまうからです。 すると、今度は相手にも「本当は何が言いたいんだろう?」 本来、単刀直入にものを言う人には、そうしたよこしまな心 とあれこれ考えさせることになってしまうんです。 がまったくないから潔い。それどころか、相手を思いやる気 そんなふうに余計な心労を与えることは、かえって不親切だ 持ちにあふれているから正直さが際立つのです。 と思いませんか。あなたが最初から本音を言えば、相手は気 を回さなくてすむからです。 自分が単刀直入であろうとすると、ほかの人がズバッと発言 したとき、心に曇りがあるかないかがすぐにわかります。 ただ世間には、単刀直入にものを言うことを避けようとする それをよーく見極めて、友だちやパートナーには、真に正直 人たちが多いのも事実ですよね。 で誠実な人を選んでくださいね。 あなたもそのひとりで、ズバッと本音を言うことに抵抗があ 「ハッキリ言ってくれて、ありがとう!」と伝え合える関係 るとしたら、それで相手を怒らせたり、逆ギレされて自分が は素敵です。そこには、強い信頼関係と向上心があるから。 傷ついた経験があるのかもしれません。 ぜひそれを目指しましょう。 だからと言って、いつも本音をはぐらかしていたら、本音を はぐらかす人しか寄ってこなくなって、結果、上辺の付き合 いしかできなくなってしまいますよ。 18 19 あなたはどんなときにイライラしますか? 自分が不快な目に遭うと、それが許せなくていきどおり、ほ かの人や環境のせいにして責めたくなるかもしれません。 みんな自分のことがかわいいから、とっさに「私は悪くない」 「私は責められたくない」と思ってしまうんです。 でも、イヤなことをほかの人や環境のせいにしたところで、 問題は何も解決しませんよね。 なぜなら、すべての答えは自分の内側にあるからです。 ──外に向かって助けを求める心を内側に向けたとき、自分 の真実に出会うことができる。 これを『回光返照』 (えこうへんしょう)と言います。 20 苦しみに放り込まれると、私たちはすぐ人を頼りたくなりま ようにしてみてください。あなたが心をやさしく扱えば、心 すが、その前に自分の内側を見つめてみましょう。 はみるみる元気を回復します。 胸の奥をひたすら探っていくと、どうしてそんなことになっ 不快なときは、まっさきに自分を振り返っていきどおる心を たのか……、そこに至る思考のクセや、深い心の傷にきっと 整えるようにすると、もっと気持ちよく生きていけますよ。 気づくことができると思います。 整えるなかで、無事に生かされていることに感謝できれば、 たとえば、なんかムカつく人が隣に移ってきて、仕事に集中 あなたはどこにいてもけして不幸にはなりません。 できなくなったとします。そのとき、 「なんでこの人は」と 差した指を自分の胸に向けるんです。 ムカついたときは、自分の外側にある物事を変えるより、内 原因はここにあるかも……と思って探ると、 「動作がゆっく 側にある感情を変えるほうがずっと簡単、と覚えておいてく り過ぎてイライラする」とか「面影が苦手な人を連想させる」 ださいね。 など、なにか思い当たることが出てきます。それをさらに掘 降る雨は止められなくても、雨をうらめしく思う気持ちは、 り下げると、 「そういえば、幼いときはモタモタしてて母親 その場で変えられるのです。 によく叱られたな」とか「あの人からいじめられた心の傷が そして、雨にいいも悪いもなくなったら、 「今ごろ、恵みの雨 まだ癒えてなかったんだ」と納得できるでしょう。 だと喜んでる人もいるんだろうな」と温かい気持ちになれる 原因が腑に落ちれば、その人はもう関係なくなって心は落ち でしょう。 着きを取り戻します。 そのときあなたは、とってもいい顔をしていますよ。 目の前の現象は、しばしば心の傷を浮き彫りにするけれど、 イヤな感じから目をそらさないで、痛みをそっと抱きとめる 22 23 以前、「毎日を誕生日のような気持ちで過ごしましょう」と 言ったら、「誕生日にはいい思い出がない」と言われてショ ックを受けたことがあります。 しかしそのひと言で、私が誕生日を特別視して、だれにとっ ても誕生日は“いい日”にちがいないと思っていたことに気 づかされました。 誕生日に限らずとも、私たちはラッキーなことがあると「今 日は“いい日”だ!」と思いますよね。 でも、そんな心のなかをよく見てみると、 「自分に悪いこと が起こる“悪い日”もある」と思っていることに気づきませ んか? 24 25 「人生には必ず悪い日もやってくる」と心のなかで恐れてい れば、毎日を静かな気持ちで迎えることは、とてもハードル が高くなってしまいます。 それは、私たちが「いい」 「悪い」でなんでも判断して、 「悪 自分が「いい」「悪い」という判断を放棄すれば、人生には はじめから“いい日”しかありません。 『日々是好日』 (にちにちこれこうにち)。 くる日もくる日も、ありがたい、うれしい日々なのです。 い」と思えば怒るか落ち込み、 「いい」と思えば喜んで執着 するためです。 ありがたいわけは、あなたが日々遭遇する出来事は、いい悪 いいことがあったとき、その場で喜んでオワリにできれば問 いを超えた出来事だからです。 題ないのですが、 「この喜びをなくしたくない。もっとほしい」 感動することも、落ち込むことも、頭にくることも、全部、 と欲ばりはじめると、執着が起こります。 あなたという人間が大成するのに欠かせない体験ばかり。 この執着と、怒りと、なげきが、心を苦しめる三大要素です。 そのときは悪いとしか思えない出来事も、のちのち、きっと これに心を取られないようにしましょう。 いいことに変わるでしょう。あれを乗り越えたおかげで今の 自分がある、と思えるようになるからです。 生きていくということは、毎日さまざまな出来事に出会うと それが人生の仕組みなのです。だから出来事を差別せず、す いうこと。不測の事態に陥ったり、親しい人とケンカしたり べてありがたい体験として受け入れていきましょう。 ……、うれしいことも悲しいことも起こるでしょう。 すると、いちいち感情をかき乱されなくなって、泣いても、 そんなとき、もしもあなたが、今日の出来事をほかの日の出 笑っても、毎日がきっといい日になりますよ。 来事といっさい比べなかったらどうなるでしょうか? ほかの日と比べて「今日はツイてない、最悪!」と思わなけ れば、投げやりになることがなくなると思いませんか? 26 27 ひとつ屋根の下に暮らす家族や、顔と顔を突き合わせて仕事 する仲間は、あなたにはとても親しい間柄でしょう。 それでも「えーっ、私のこと全然わかってない!」とショッ クを受けたこと、ありませんか? そんなときはあなたのなかに、 「言わなくたってわかるはず」 という慢心があるのかもしれません。そのせいで大切な関係 にヒビが入ったら、それはとても残念ですよね。 『白馬入蘆花』 (はくばろかにいる)という禅語があります。 ──真っ白な蘆の花が咲き乱れる場所に、白馬が入り込めば 見分けがつかなくなる。しかし、白一色のなかにあっても、 28
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