手品における認知的方略が行動に及ぼす影響

手品における認知的方略が行動に及ぼす影響
―リハーサルと本番の比較―
18090129
主担当教員
阪田真己子准教授 副担当教員 宿久洋教授
1. はじめに
本研究ではトランプマジックによるパフォーマ
ンスを行う。実験は友人同士 3 名 1 組(男女問わ
ず)で行った。3 名の中から 1 名をパフォーマー
として指名し、残りの 2 名を見学者とした。パフ
ォーマーは計 10 名(男性 3 名、女性 7 名)であり、
手品のリハーサルと本番の様子を 1 台のビデオカ
メラとワイヤレスマイクで収録した。
3. ビデオコーディング
撮影した映像から、パフォーマーの発話および
身体動作を抽出するためにアノテーションソフト
ELAN を用い、発話時間/間/身体動作のタグ付けを
行った。得られたデータを集計し、生起時間の比
較分析を行った。
4. 分析対象
実験では同じ手品をリハーサルと本番で行うた
め、パフォーマーは本番において、ある程度緊張
を強いられる。また一連の手品の中にも、手品の
成功/失敗に関わるフェーズが数カ所ある。つまり
パフォーマーはそのフェーズでの発話において心
理的負荷を感じることになる。本研究では、これ
らの心理的要因がパフォーマーの発話や身体動作
に及ぼす影響を検討する。
5. 分析結果
全てのパフォーマーがリハーサル時より本番の
方が手品に要する時間が長かった。また、見学者
2 名は親しい友人であるにも関わらず、10 名中 7
名のパフォーマーが敬語を使用していた。このこ
とは、緊張状態という心理的要因が会話スタイル
を変化させていることを示唆するものである。
手品の成否に関わるフェーズにおける間(無声
休止)を従属変数とし、「リハーサル/本番(2)」×
「心理状態(2)」の混合計画による 2 要因分散分
リハーサル
本番
2
1.5
秒
]
2. 実験方法
2.5
[
本研究の目的は、手品における認知的方略が行
動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする
ことである。リハーサルと本番を比較し具体的な
発話、身体動作の変化を分析する。
松尾 成
1
0.5
0
緊張
リラックス
図 1 間の比較
析を行った。その結果、交互作用はなく
(F(1)=0.106 p=0.752)、リハーサル/本番の違い
に よ る 主 効 果 も み ら れ な か っ た ( F(1)=0.149
p=0.709)。一方、心理状態(緊張/リラックス)に
おいて主効果がみられた(F(1)=7.903 p<0.05)。
図 1 に各水準における間の平均生起時間を図示す
る。
6. 考察
リハーサルと本番に関わらず、それぞれの一連
のパフォーマンス中においても、発話時間や間が
変化することがわかった。手品の成功/失敗に関わ
る場面の発話や間は、全く関わっていない場面よ
り、それぞれ生起時間が長くなった。それは発話
時間の場合は、より丁寧に説明しなければいけな
いという心理的負荷が働いているためと考えられ
る。
また、説明開始前の「じゃあ」や「それでは」
などといった接続詞の長さをリハーサルと本番で
比較した。その結果、接続詞そのものの音声発話
の長さには変化はなかったが、接続詞から説明開
始までの間(無声休止)がリハーサルよりも本番
の方が長くなっていた。これは心理的負荷がかか
った状態での認知的方略が間(無声休止)にお
いて立てられていることを指し示すものと考え
られる。
「間」は次の方略を立てるために必要な
時間であることがわかった。
参考文献
・田中美吏:心理的プレッシャー下における運動行動の
運動学的・神経生理学的特徴;日本体育学会予稿集
(61),pp.35,(2010)