「バイナリー地熱発電」

H25 JCM 実現可能性調査(FS)
最終報告書(概要版)
「バイナリー地熱発電」
(調査実施団体:日本工営株式会社)
調査協力機関
調査対象国・地域
対象技術分野
プロジェクトの概要
JCM 方法論
Hen Linn San Co., Ltd (HLS)
ミャンマー・タチレイ市
再生可能エネルギー
東シャン州タチレイ市は、タイ国との国境に位置し、交通の要所として市
街化が急速に進んでいる。同市の現在の人口約 10 万人は、数年以内
に倍増すると考えられている。こうした急速な発展により、深刻な電力不
足を生じており、頻繁な停電発生を余儀なくされており、緊急の電力イン
フラ開発が望まれている。本プロジェクトは、周辺の豊富な地熱資源を
利用して、タチレイ市の近郊にパイロットとして 200kW 規模の地熱発電
施設の建設を検討するものである。現在、プロジェクト周辺地域の電力
は、100%タイ国からの輸入で賄われているが、今後の電力不足を補うた
めには、発電コストが高いディーゼル発電に頼らざるを得ないと推定さ
れる。したがって、その一部を地産の再生可能エネルギーである地熱発
電に置き換えることにより、電力供給の安定化や売電価格の低減が図
れ、ミャンマー国内で排出される GHG の排出削減に大いに貢献できる
ものと期待される。
適格性要件 本方法論では、以下に示す 4 つの適格性要件を設定した。
【適格性要件 1】バイナリー方式の地熱発電設備の設置であること
【適格性要件 2】発生蒸気中に含まれる CO2 及び CH4 濃度の定期モニ
タリング契約を、分析会社と交わしていること。ただし、新たに生産井を
掘り蒸気を二次媒体の加熱に使う場合にのみ本要件を適用する
【適格性要件 3】二次媒体として IPCC 評価報告書で示す GHG を使う
場合、その充填量を最低年 1 回モニタリングする計画があること
【適格性要件 4】バイナリー地熱発電設備メーカー、もしくはエンジニアリ
ング会社から最低 1 年間以上の保証サービスを受け、かつバイナリー
地熱発電設備の本体及び付帯設備について年次メンテナンスサービス
を受ける計画があること
デフォルト値 本方法論において設定するデフォルト値は以下の通りである。
ミャンマー国の系統電力排出係数 : 0.371[tCO2/MWh]
の設定
ディーゼル発電機(中型)システムの排出係数 : 0.56[kg CO2/MWh]
ディーゼル発電機(小型)システムの排出係数 : 0.7 6[kg CO2/MWh]
二次媒体の地球温暖化係数 (tCO2e/tHFC-245fa) : 1,030
リ フ ァ レ ン ス 本 JCM 方法論では以下の 3 つのリファレンスシナリオを提案している。
排 出 量 の 算 【シナリオ 1】ミャンマー国のグリッドが延伸され、電力が供給される
【シナリオ 2】中型(出力 1,000 kW 程度)のディーゼル発電機が導入さ
定
れ、分散型電源として電力が供給される
【シナリオ 3】各世帯に小型のディーゼル発電機が導入され、自家発電
で電力が供給される
モニタリング ◆リファレンス排出量に係るモニタリング : 全てのシナリオにて、バイ
手法
ナリー地熱発電設備の送電量[MWh/y]をモニタリングする。
1
◆プロジェクト排出量に係るモニタリング : プロジェクト排出に係るモ
ニタリングとして、(1) 蒸気中に含まれる CO2 濃度と CH4 濃度、(2) 発
生蒸気量、(3) 二次媒体の充填量、を確認する。
リファレンスシナリオ 1(グリッド延伸の代替)に関して、GHG 排出削減
GHG 排出量及び削減量
量 を 算 定 し た 場 合 、 発 電 量 1,261[MWh/y] が グ リ ッ ド 排 出 係 数
0.371[tCO2/MWh] の 代 替 と な る こ と か ら 、 GHG 排 出 削 減 量 は
468[tCO2/y]となる。
本プロジェクトはディーゼル発電の代替となり、SOx や NOx 等の大気汚
環境影響等
染物質の削減に寄与する。本プロジェクトで採用するバイナリー方式
は、基本的に閉鎖系であるので、大気・水質汚染物質の汚染等はほと
んどないとが考えられる。負の影響として、騒音、排熱、景観の影響を
考慮する必要がある。しかしながら、本プロジェクトの候補地点 Loc.2 で
は、約 2 km 以内には民家はないため、騒音の住民生活への影響はほ
とんどないと考えられる。また、排熱に関して、発電によって得られる余
熱を利用して、サウナや穀物の乾燥施設として活用し、環境への負荷を
下げることも可能である。景観の多少の変化は避けられないが、樹木の
伐採を最小化する等、環境に配慮した建設は可能である。
タチレイ市中心部から約 8.2km 北東、San Lue 村から約 2 km 北方
事業計画
に、200 kW 規模のバイナリー地熱発電所を建設するものである。
2015 年工事着工、2017 年から操業開始を予定している。調査費を
含めた総建設額は約 535 百万円。本プロジェクトは、ミャンマー国
初の地熱発電プロジェクトである。
日本製のバイナリー地熱発電設備は、近年、ようやく製品販売が始まっ
日本技術の導入可能性
たところである。国外における日本製バイナリー地熱発電設備の展開
も、海外メーカーに比べて後れを取っている。このため、性能と価格にお
いて他国製品に対する優位性を示すことは難しいが、一つのセールス
ポイントとなるのが保守点検サービスと手厚い保証サービスである。事
業者に配慮した保守点検と保証サービスは、バイナリー地熱発電設備
に限らず日本のメーカー全般に共通している優位性でもある。また、ミャ
ンマーでは初めての地熱発電事業であり、進出先鞭をつけることによっ
て、世界の中でも数少ない未開拓市場であるミャンマーでの今後展開
が期待できる。
ホスト国における持続可能 近年の民主化に伴う経済成長により、急増する電力需要に対し、ミャン
マー政府は、水力発電の増強に加え、ガス、石油、石炭などの電源多
な開発への寄与
様化、地熱を含めた再生可能エネルギーの開発促進を、緊急の課題と
して打ち出している。ミャンマー国内では 98 の温泉が確認されている
(Myanmar Engineering Society 資料)。また、タチレイ市を含む東シャン
州一帯には、地熱源となる花崗岩が広く分布し、シャン州では 17 の温泉
が確認されている(Geology of Buruma(1934))。しかしながら、大きな地
熱ポテンシャルが予想されるものの、これまでミャンマー地熱開発は詳
細な調査を含め、未だ実施されていない。したがって、本プロジェクトに
より、我が国技術を用いた地熱開発促進され、化石燃料よる発電の代
替手段として、全国の地熱発電開発への波及効果が高く期待される。ま
た、本プロジェクトによって得られる地熱開発の経験は、今後のミャンマ
ー国地熱開発の手法を確立し、他地域への地熱技術展開を行う上で、
多大な貢献となる。
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
調査名:二国間クレジット制度(JCM)実現可能性調査(FS)
「バイナリー地熱発電」
(ホスト国:ミャンマー連邦共和国)
調査実施団体:日本工営株式会社
1.調査実施体制:
弊社以外で調査実施に関与した団体およびその役割を以下に示す。
国名
ミャンマー
日本
日本
ミャンマー
タイ
調査実施に関与した団体名
Hein Linn San Co., Ltd.
富士電機株式会社
地熱エンジニアリング株式会社
Electrum Services Co., Ltd.
SGS Thailand
役割
事業主体
地熱発電所概念設計・積算
地熱貯留層解析
地熱資源調査(電気探査)
地熱資源調査(地化学調査)
2.プロジェクトの概要:
(1)プロジェクトの内容:
本プロジェクトは、タチレイ市周辺の豊富な地熱資源を利用して、タチレイ市の近郊にパイロットと
して 200kW 規模の地熱発電施設の建設を検討するものである。現在、プロジェクト周辺地域の電
力は、100%タイ国からの輸入で賄われているが、今後の電力不足を補うためには、発電コストが高
いディーゼル発電に頼らざるを得ないと推定される。したがって、その一部を地産の再生可能エネ
ルギーである地熱発電に置き換えることにより、電力供給の安定化や売電価格の低減が図れ、ミ
ャンマー国内で排出される GHG の排出削減に大いに貢献できるものと期待される。事業概要を
下表にまとめる。
事業概要
プロジェクト地点
発電規模
カウンターパート及びオーナー
事業概要
東シャン州タチレイ市
バイナリー地熱発電所 200kW 規模
民間 (HEIN LIEN SAN Co., Ltd) 以下、HLS 社と記す。
タチレイ市中心部から約 8.2km 北東、San Lue 村から約 2 km 北方
に、バイナリー地熱発電所を建設するものである。2015 年工事着工、
2017 年から操業開始を予定している。調査費を含めた総建設額は約
535 百万円。本プロジェクトは、ミャンマー国初の地熱発電プロジェクト
である。
出典:調査団作成
(2)ホスト国の状況:
ミャンマーの電力需要は、この 10 年間、GDP の成長に伴って堅調に増加しており、供給力の増
強が図られたものの需給バランスは逼迫した状態が続き、ヤンゴン市をはじめ、タチレイ等の主要
地方都市においても、停電が頻発発生している状況にある。近年の民主化に伴う経済成長により、
今後急速に増えていくと予想される電力需要に対し、如何に電力インフラを増強していくのかが電
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
力セクターの重要課題となっている。ミャンマー政府は、今後の電力需要の増加に対応するため
に、エネルギー政策に基づいた短期・長期のエネルギー計画など電力セクターに係る事項を統
括する国家エネルギー管理委員会を立ち上げ緊急電力供給プログラムを早急に策定する計画で
ある。安定した電力供給のためには、現在主流である水力に加え、天然ガス、ディーゼル、石炭、
自然エネルギー(太陽光、風力、バイオマス)など電源の多様化と再生可能エネルギーなど利用
可能なエネルギーの効率的開発が基本的な方針となっている。エネルギー開発計画では 2020 年
までに、総電力の 15%~20%を再生可能エネルギーで賄うこととしている。
3. 調査の内容及び結果
(1)JCM 方法論作成に関する調査
①適格性要件
a. 明らかにすべき課題と実施した調査
-
明らかにすべき課題
バイナリー地熱発電設備の市場と国内外メーカーの動向
日本及び海外の技術や機能、メンテナンスサービスの差異
バイナリー地熱発電設備における非凝縮性ガス(NCG:
non-condensable gas)や二次媒体の取り扱い
実施した調査
文献調査、メーカーやエンジニアリング会社へのヒアリ
ング
バイナリー地熱発電設備における日本及び海外の技
術や機能、メンテナンスサービスの情報収集と比較
CDM 登録プロジェクトや国内外のバイナリー地熱発電
設備の事例確認
稼働しているバイナリー地熱発電設備における NCG や
二次媒体の取り扱いの確認
出典:調査団作成
-
b. 解決した内容、課題解決の方向性
上記の調査の結果、以下の適格性要件を提案する。
適格性要件
1. 適格性要件 1:バイナリー方
式の地熱発電設備の設置であ
ること(JCM 登録のための要求
事項)
2. 発生蒸気中に含まれる CO2
及び CH4 濃度の定期モニタリ
ング契約を、分析会社と交わし
ていること。ただし、新たに生
産井を掘り蒸気を二次媒体の
加熱に使う場合にのみ本要件
を適用する(方法論適用のため
の要求事項)
3. 適格性要件 3:二次媒体とし
て IPCC 評価報告書で示す
GHG を使う場合、その充填量
を最低年 1 回モニタリングする
計画があること(方法論適用の
ための要求事項)
適格と考える理由等
地熱発電設備にはいくつかの発電方式があるが、本 JCM 方法論ではバイナリー方式のみ
を対象とするため、本要件を設定する。
ミャンマー国における 2012 年時点の電化率は約 27%(MOEP のデータ)であり、グリッドに
接続していない地域がまだ多く残る。今後、オフグリッド地域への地熱発電施設の導入を検
討する可能性も十分あるため、本 JCM 方法論では特にグリッド接続を前提としない。
地熱蒸気には、CO2 や塩化物、硫酸塩、硫化水素(H2S)、CH4 等、様々な化学物質が含ま
れる。蒸気はバイナリー地熱発電設備の蒸発器で二次媒体を加熱した後、凝縮されて温水
になるが、NCG と呼ばれる H2S や CO2、CH4 等は、凝縮されず蒸発器内に滞留する。このま
ま充満すると蒸発性能が低下するため、NCG は蒸発器の上部から内圧で大気に放出され
る。NCG は通常、地熱蒸気に数%含まれる程度であるが、CO2 と CH4 は GHG であり、本 JCM
方法論では保守的に考え、この 2 つのパラメータをモニタリングしプロジェクト排出量として算
定する。
プロジェクト実施者には地熱蒸気中の CO2 や CH4 濃度の分析能力がなく、分析会社へ発
注する必要があるため本要件を設定する。
また、新たに生産井を掘らず自噴の熱源を利用する場合は、プロジェクト実施前と後で発
生蒸気量に変化がないため、本要件を適用しない。また、温水中には NCG が含まれないた
め、二次媒体の加熱に温水を使う場合も本要件を適用する必要はない。
バイナリー地熱発電設備では、二次媒体は密閉構造のクローズドサイクルで循環し、基本
的に漏れはないと考えられる。ただし、日本製品に関しては稼働実績がほとんどなく、稼働中
の漏れの有無は現時点で明確に判断できない。実際、海外製品で若干古い設備ではある
が、タイ国の Fang にあるバイナリー地熱発電設備(オーマット製)では、二次媒体であるイソ
ペンタンを年間 200 L 充填している。また、メンテナンスの際にも若干ではあるが漏れが想定
される。そのため、本 JCM 方法論では保守的に考え、プロジェクト実施者がバイナリー地熱
発電設備メーカーやエンジニアリング会社を通し、最低年 1 回、充填量をモニタリングする計
画であることを適格性要件とする。
5-1 収集データ:適格性要件「バイナリー地熱発電設備(出力数百 kW)で使われる主な
4
H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
4. 適格性要件 4:バイナリー地
熱発電設備メーカー、もしくは
エンジニアリング会社から最低
1 年間以上の保証サービスを
受け、かつバイナリー地熱発電
設備の本体及び付帯設備につ
いて年次メンテナンスサービス
を受ける計画があること(方法
論適用のための要求事項)
二次媒体」に示した通り、出力数百 kW のバイナリー地熱発電設備において、国内外の多く
のメーカーがハイドロフルオロカーボン HFC-245fa を二次媒体として使っている。一方、オー
マットのように GHG とされていない炭化水素系の二次媒体を使うメーカーもあるが、その数は
少ないのが現状である。このように各社が使う二次媒体にほとんど違いがないため、その種
類や地球温暖化係数を基にした適格性要件は難しいと判断した。
数百 kW 程度の小型バイナリー地熱発電設備では、タービン発電機や蒸発器をパッケー
ジ化した本体ユニットのみを販売するメーカーが多く、周辺の冷却塔や配管等の付帯設備は
エンジニアリング会社が設計し調達する。そのため、バイナリー地熱発電設備メーカー自身
による保証やメンテナンスサービスは本体パッケージユニットだけを対象とするケースがほと
んどで、付帯設備を含んだシステム全体の点検はエンジニアリング会社が実施することにな
る。
温泉地域での地熱利用では、本体パッケージユニット外に設置することの多い蒸発器がス
ケールや腐食等の影響を最も受けやすく、設備効率を維持するためには、その保守点検が
重要となる。この保守点検はバイナリー地熱発電設備メーカーの対象外であることが多いた
め、エンジニアリング会社からの適切なメンテナンスサービスが必要となる。
5-1 収集データ:適格性要件「バイナリー地熱発電設備(出力数百 kW)の保守点検サー
ビス」にまとめたように、日本のメーカーには設備の稼働実績がほとんどなく、具体的な保守
点検内容や実施体制が確定していないところが多い。とはいえ、メーカーの中には年次点検
に加えて 2 年次と 4 年次、8 年次の点検とパーツ交換、4 年次と 8 年次のタービンと液化ガス
設備、電気品の点検といった具体的な案を作成しているところもあり、設備の稼働に合わせ
保守点検の実績も出てくると思われる。
一方、日本のエンジニアリング会社としては第一実業や JFE エンジニアリング等があり、米
国メーカーが製造した本体パッケージユニットの国内代理店となっている場合が多い。これら
のエンジニアリング会社は国内で稼働する設備の保守点検を行うが、例えば第一実業では、
3 年間、計 100 万円のスペアパーツ(電気ヒューズや循環器等)点検交換といった具体的な
内容を設定している。
保証に関しては 1 年間とするメーカーとエンジニアリング会社が多いが、第一実業では本
体ユニット価格に含まれる保証に加え、他の重要機器に対する 5 年間、計 500 万円の追加保
証サービスも提供している。これは、本体パッケージユニットだけでなく、他の重要機器につ
いても保証が欲しいという事業者の声に対応したものである。
一方、海外のバイナリー地熱発電設備メーカーやエンジニアリング会社では、こうした保守
点検サービスや保証についてあまり聞くことがない。若干古い施設ではあるが、タイ国の Fang
にあるバイナリー地熱発電設備(オーマット製)でのヒアリングによると、メーカーからのアフタ
ーサービスはなく、タイ国の Electricity Generating Authority of Thailand(EGAT)の現場職員
が対応している状況である。
小型バイナリー地熱発電設備に関し、現時点では海外展開を具体的に予定する日本のメ
ーカーやエンジニアリング会社はない。だた、海外展開の可能性を全否定するものではな
く、第一実業やホット・アース等では、海外展開の可能性も視野に入れている。
本要件を設定することで、今後、日本のメーカーやエンジニアリング会社の事業者に対す
るきめ細やかな保守点検サービスと保証の展開を促進でき、バイナリー地熱発電設備の効
率的な操業と効果的な GHG 削減が実現できると考えられる。
出典:調査団作成
②プロジェクト実施前の設定値
a. 明らかにすべき課題と実施した調査
-
明らかにすべき課題
実施した調査
算定方法の検討と必要なパラメータの特定
算定方法の検討と並行した、算定に必要なパラメータの CDM 登録プロジェクトにおける、CO2 濃度と CH4 濃度の
検討
発生蒸気中に含まれる CO2 濃度と CH4 濃度の事前設定
モニタリング結果の確認
値化の検討
ミャンマー国の系統電力排出係数の試算
ミャンマー国の系統電力排出係数の検討
出典:調査団作成
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
b. 解決した内容、課題解決の方向性
b-1. デフォルト値の設定
ミャンマー国の系統電力排出係数
ミャンマー国系統電力排出係数をデフォルト値として設定し、その値は 0.371 tCO2/MWh とする。
以下「③排出削減量の算定(リファレンス排出量・プロジェクト排出量の算定)」で述べるように、本
JCM 方法論では、抑圧された需要下でのリファレンスシナリオを提案している。抑圧された需要下
での系統電力排出係数については、人為的排出量の将来的な増加が予測されるシナリオに基づ
いて試算するのが妥当である。
グリッド排出係数は、通常、コンバインドマージン(CM)を使用する。CM 排出係数は、オペレー
ティングマージン(OM)排出係数、及びビルドマージン(BM)排出係数を用いて下記 2 つのオプ
ションから相応しいものを選択、CM を算定する。
a.
加重平均 CM
b.
簡易 CM
簡易 CM の適用には、①プロジェクトが後発開発途上国(Least Developed Country:LDC)であ
ること、CDM 登録件数が 10 件以下、又は島嶼国であること、加えて、②BM 算定方法の要求が満
たせないことが条件となっている。
グリッド排出係数の算定に係り、当該国ミャンマーは、LDC 国に該当する。そのため、上記①に
該当する。また、既存発電所のデータについて、ミャンマー電力省より入手したミャンマー国内の
発電所の発電量、自己消費量等のデータは、かろうじて OM が算定できるものの、BM が算定でき
るまでの情報は収集できていない。そのため、上記②に相当する状況である。以上より、ミャンマ
ーにおけるグリッド排出係数の算定では、b. 簡易 CM を算定した。
なお、CM 排出係数の算定は、OM 排出係数(下表)より、以下のように求める。
= WOM × EFOM,y + WBM × EFBM,y
EFCM,y
= 1 × EFOM,y + 0 × EFBM,y
= EFOM,y
OM 排出係数計算結果
年
平均値
2010
2011
2012
CO2 排出量 (tCO2)
2,426,383
3,351,111
3,644,442
EG y (MWh)
6,873,000
8,839,862
9,537,685
0.353
0.379
0.382
EFOM, y (tCO2/MWh)
(2010-2012)
0.371
出典:平成 25 年度 CDM 実現可能性調査「小規模流れ込み式水力発電所」
以上より、ミャンマー国における既存発電所データ等の情報を基に設定したグリッド排出係数は、
0.371 [tCO2/MWh]と算定した。
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
CH4 の地球温暖化係数(100 年値)
CH4 の地球温暖化係数(100 年値)をデフォルト値として設定し、その値は 25 tCO2e/tCH4 とする。
出典は IPCC AR4(Fourth Assessment Report)である。
b-2. 事前設定値
二次媒体の地球温暖化係数(100 年値)を事前設定値として設定する。本プロジェクトでは二次
媒体として HFC-245fa を想定しており、その地球温暖化係数は 1030 tCO2e/tHFC-245fa である。
出典は IPCC AR4(Fourth Assessment Report)である。
③排出削減量の算定(リファレンス排出量・プロジェクト排出量の算定)
a. 明らかにすべき課題と実施した調査
-
明らかにすべき課題
ミャンマー国における抑圧された需要に関する検討
ミャンマー国及びプロジェクトエリアにおける電化状況と
今後の電化計画の検討
ミャンマー国の電化計画を考慮した上での、BaU とリファ
レンス排出量の検討
算定式での NCG と二次媒体の取り扱いの検討
実施した調査
抑圧された需要に関する調査やその UNFCCC における
協議内容の確認
ミャンマー国とプロジェクトエリアにおける電化状況と今後
の電化計画の調査
ミャンマーの電化計画を考慮した上での、BaU 及びリファ
レンスシナリオの設定及びその排出量の算定式の設定
NCG と二次媒体の取り扱いの検討に基づいた、プロジェ
クト排出量の算定式の設定
出典:調査団作成
-
b. 解決した内容、課題解決の方向性
本プロジェクトでは、設置するバイナリー地熱発電設備がタイ国のグリッドに繋がり、タイ国側で
排出量の削減効果が発生する可能性がある。ただし、JCM 制度上ではこうした状況に対する取り
扱いはまだ明確でなく、本調査ではこの状況を特に考慮しないことを前提に検討を行う。
b-1. リファレンスシナリオの設定
「抑圧された需要」に関する UNFCCC ガイドラインや平成 23 年度と平成 24 年度に行われた JCM
実現可能性調査での検討を基にすると、プロジェクトエリアでは抑圧された需要が存在すると考え
るのが妥当である。
ミャンマー国において、家庭での電力利用に関する具体的なベンチマーク等はない。一方、プ
ロジェクトエリアでの聞き取りでは、電気を利用できる世帯がまず使うのが照明、そしてテレビであ
る。さらに電力の余裕があれば、DVD プレイヤーや冷蔵庫を使うようになる。こうした現地でのニ
ーズを考えると、プロジェクトエリアにおける人間の基本的ニーズとして、照明やテレビの使用を挙
げることが可能と思われる。そして、最低サービス水準はこのニーズに応えられる安定的な電力を
供給することと考えることができる。しかし、プロジェクトエリアである Tachileik Township の人口のう
ち、タイ国グリッド電力を利用できるのは 25%のみである。残りの 75%はガソリンやディーゼル発電
機による自家発電、もしくはローソクに頼っている状況である。発電機の使用も 1 日 2~3 時間に限
られ、大多数のユーザーにとって、人間の基本的ニーズを満たしているとは言えない状態であり、
抑圧された需要が存在すると考えるのが適当である。
最低サービス水準である「各世帯が安定的に照明やテレビを使うことができる電力の供給」を満
たす技術や方策としては、「プロジェクトエリアにミャンマー国のグリッドが延伸され、電力が供給さ
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
れる」が考えられる。ミャンマー国の政策では、将来的に Tachileik Township へグリッドが延伸され
る予定である(5-2 収集データ:リファレンス排出量設定参照)。延伸時期は 2015 年以降とされて
おり詳細な情報はないものの、レファレンスシナリオの一つとして考えることは可能と思われる。
b-2. リファレンス排出量の算定
以下の算定式でリファレンス排出量を算定する。
RE = EFgrid * EGPJ
RE:リファレンス排出量 (tCO2/y)
EFgrid:ミャンマー国の系統電力排出係数 (tCO2/MWh)
EGPJ:プロジェクトによる送電量 (MWh)
b-3. プロジェクト排出量の算定
以下の算定式でプロジェクト排出量を算定する。
PE = PENCG + PEBM = (Ws,CO2 + Ws,CH4 * GWPCH4) * Ms + MBM * GWPBM
PE:プロジェクト排出量 (tCO2e/y)
PENCG:NCG の放出に伴う排出量 (tCO2e/y)
PEBM:二次媒体の漏洩に伴う排出量 (tCO2e/y)
Ws,CO2:発生蒸気中に含まれる CO2 濃度 (tCO2/t steam)
Ws,CH4 :発生蒸気中に含まれる CH4 濃度 (tCH4/t steam)
GWPCH4:CH4 の地球温暖化係数 (tCO2e/tCH4)
Ms:発生蒸気量 (t steam/y)
MBM:二次媒体の充填量 (t/y)
GWPBM:二次媒体の地球温暖化係数 (tCO2e/tBM)
*新たに生産井を掘らずに自噴蒸気を使う場合や温水を利用する場合:PENCG = 0
b-4. 排出削減量の推計値
本プロジェクトのバイナリー地熱発電設備が稼働する 2017 年の排出削減量の推計値は以下の
通りである。
リファレンス排出量(tCO2/y)
プロジェクト排出量((tCO2e/y)
排出削減量(tCO2e/y)
1,059
0
1,059
注:本プロジェクトでは二次媒体の加熱に温水を使うため、PENCG(NCG の放出に伴う排出量)は 0。現時点で二次媒体の充填
量の予測は難しいため、PEBM(二次媒体の漏洩に伴う排出量)を 0 と想定
出典:調査団作成
(2)JCM プロジェクト設計書(PDD)の作成に関する調査
a. モニタリング計画
本プロジェクトのモニタリング計画は以下の通りである。
パラメータ
プロジェクトによる発電量 (MWh/y)
手法
手法:送電端の電力量を、常時、自動的にデジタル測定
データ保管方法:送電量のデータは 24 時間ごとにログとしてパソコンに保管し、
最低でも 1 カ月ごとの送電量として取りまとめ
二次媒体の充填量 (t/y)
手法:メンテナンス業者が行う年次点検の際の充填量データを取得。充填が必要
な場合には本プロジェクトの実施者も立ち会い、充填量をダブルチェック
データ保管方法:データ取得後、エクセルファイルに入力
注:本プロジェクトでは二次媒体の加熱に温水を使うため、Ws,CO2(発生蒸気中に含まれる CO2 濃度)と Ws,CH4(発生蒸気中に含
まれる CH4 濃度)、Ms(発生蒸気量)のモニタリングは必要なし
出典:調査団作成
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
本プロジェクトのモニタリング体制は以下の通りである。
プロジェクト実施者
- モニタリングデータ
はエクセルで管理
プロジェクトによる発電量
- 送電端の電力量を、常時、
自動的にデジタル測定
二次媒体の充填量
- メンテナンス業者よりプロ
ジェクト実施者がデータ取得
モニタリング体制図
出典:調査団作成
(3)プロジェクト実現に向けた調査
①プロジェクト計画
地熱発電計画において、プロジェクト諸元、特に発電出力を定めるためには、地質調査、物理探
査、地化学調査に加えて、試験井戸掘削によって、開発可能な地熱ポテンシャルを確認する必要
がある。このため、現時点では、本調査で発電規模を精度良く決めることはできないが、地質調査
結果および近傍の地熱発電所(Fang Geothermal Plant)を参考に、以下のように地熱リザーバーの
条件を推定し、概念設計を実施した。バイナリー地熱発電設備の諸元を下表に示す。
バイナリー発電設備設置予定地
熱源熱水条件
供給圧力
供給温度
流量
pH
SiO2
バイナリー出口熱水
温度
冷却水条件
冷却方式
温度
流量
補給水量
バイナリー発電設備
発電端出力
所内動力
送電端出力
概算建設コスト
バイナリー発電設備諸元
Loc.2
備考
[barg]
1.5
[deg.C]
130
[L/min]
2000 Fang・タイを参考に推定・生産井3抗
[-]
9.13
[mg/L]
607
[deg.C]
95
水冷
[deg.C
25
[t/h]
300
[t/h]
11
[kW]
295 5台x59kw
[kW]
115
[kW]
180
[百万¥]
300 (土建やその他付帯除く)
出典:調査団作成
上記諸元は、試験井を掘削後に再検討する必要がある。また、一般に地熱発電開発事業では、
施設を運用・運転しながら、生産井戸・還元緯度の状況をモニタリングするとともに、並行して周辺
の地質状況を追加確認しつつ、徐々に発電規模を拡大していくことで、過大な初期投資にならな
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
いようにするアプローチが採用される。
事業主体である HLS 社の資本に加え、本プロジェクトは、再生可能エネルギー源の発電で有り、
インフラの成長を促し、貧困削減、また GHG 削減による気候変動対策になることから、JICA の海
外投融資や JBIC のバイヤーズクレジットの対象となると考えられる。今後、試掘井調査を行い、地
熱発電の可能性を評価するとともに、本プロジェクトへの融資の可能性を検討して、事業性を評価
する計画である。
次年次以降の実施スケジュールを下表に示す。
実施スケジュール
出典:調査団作成
②MRV 体制
2013 年 11 月 29 日に現地にてプロジェクト実施者と協議を行い、測定(M)と報告書作成(R)は基
本的にプロジェクト実施者が行うことを確認した。しかしながら、プロジェクト事業者にはバイナリー
地熱発電所の運用経験がなく、測定と報告書作成について十分な能力を有するとは言い難い。
そのため、プロジェクト事業者には、発電開始から 1 年間は日本工営から技術支援を行うことを提
案している。また、報告書の検証(V)は現地にて第三者検証機関に依頼し、「Joint Crediting
Mechanism Guidelines for Validation and Verification」に則り実施する。これらの MRV 体制の概要
を次図にまとめる。
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Verification
Reporting
Measurement
H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
主体:プロジェクト
実施者
- プロジェクトによる発電量
(送電端の電力量を、常時、
自動的にデジタル測定)
自身でモニ - 二次媒体の充填量(メンテ
タリング
ナンス業者よりデータ取得)
主体:プロジェクト
実施者
主体:プロジェクト
実施者
技術支援
発注
第三者機関
技術
支援
日本工営
日本工営
技術支援
日本工営
MRV 実施体制図
出典:調査団作成
③プロジェクト許認可取得
発電・送配電等の電力セクターは、電力省(MOEP)が管轄している。地熱発電に関しては、ミャン
マー国内では実施された経験が無いため、法令等は整備されておらず、また、どの部署の所轄と
なるか等、役割は未だ明確にはなっていない。本プロジェクトを含めた地熱プロジェクトの規模や
進捗等に合わせ、整理されていくものと予想される。現時点では、本プロジェクトの調査実施に関
しては、電力省本局が対応して許可認可を行っている。今後、本件のように小規模で地方電化と
なる場合、ミャンマー電力公社(MEPE)が、監督官庁となるものと予想される。
発電事業について、新外国投資法が 2012 年に制定され、外資にとって投資の自由化と規制の大
枠が規定された。また、2013 年ミャンマー投資委員会は、施行細則を公表し、外国投資が禁止さ
れる 21 分野、ミャンマー企業との合弁のみ許可される 42 分野、特定の条件化のみ参加可能とな
る 27 分野、そして EIA が認可の条件となる 34 分野を公表した。発電 IPP 事業に関し、民間資本
の導入が認められ、近年、タイ、中国、インドへの電力輸出を前提とした水力発電の IPP プロジェ
クトが進行している。しかしながら、運用に関しては、ミャンマー投資委員会(MIC)の許認可に依
存する部分が多く、不透明な状態である。MIC が投資事業や外国企業の業態などから個別に判
断し、政府の承認を得て決定している。ミャンマー政府としては、IPP 投資を拡大したい意向がある
ようであるが、投資法が確立されていないため、リスクが大きい。今後、新外国投資法に基づく、許
認可取得、最低資本額、資本額の持ち込み方法のルールの明確化が必要とされる。
輸出入許可については商業省貿易局が管轄しており、①輸出入業者登録をし、②輸入ライセン
ス(輸出入のつど必要)を取得する必要がある。発電機器に関し、HLS 社が輸入業者となることが
想定される。
④日本の貢献
日本製のバイナリー地熱発電設備は、近年、ようやく製品販売が始まったところである。さらに、国
外における日本製バイナリー地熱発電設備の展開も、海外メーカーに比べて後れを取っている。
そのため、性能と価格において他国製品に対する優位性を示すことは難しいが、一つのセールス
ポイントとなるのが保守点検サービスと手厚い保証サービスである。事業者に配慮した保守点検と
保証サービスは、バイナリー地熱発電設備に限らず日本のメーカー全般に共通している優位性で
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
もある。
日本のバイナリー地熱発電設備メーカーでは、保守点検や保証サービスの内容についてまだ検
討しているところが多いが、いち早く内容を固めながら海外進出の準備も進めることで、世界の中
でも数少ない未開拓市場である本プロジェクトエリアを含むミャンマーでの展開が期待できる。
当該地域は、ミャンマーでも最貧地域であり、かつて、所謂ゴールデントライアングルと呼ばれ麻
薬の密造地帯であった。近年政府主導により、他の産業への転換を図りつつあるものの、高い電
気料や頻発する電力不足により、新たな産業振興が妨げられており、新規の電源開発は住民の
切実な願いである。本プロジェクト実施によって、周辺地域が電化されるとともに、貧困削減、地域
発展に大きく寄与できると考えられる。
⑤環境十全性の確保
本プロジェクトはディーゼル発電の代替となり、SOx や NOx 等の大気汚染物質の削減に寄与する。
本プロジェクトで採用するバイナリー方式は、基本的に閉鎖系であるので、大気・水質汚染物質の
汚染等はほとんどないとが考えられる。
ただし、負の影響としては、民家が近くにある場合は騒音の影響を考慮する必要がある。また、景
観変化や排熱に関して影響は大きくないものの、避けられないものとして挙げられる。ただし、排
熱に関しては、発電によって得られる余熱を利用して、サウナや穀物の乾燥施設として活用し、環
境への負荷を下げることも可能である。
本調査において、噴出ガスを測定したところ、二酸化炭素濃度が 155-166ppm、メタンが 1ppm 以
下程度検出された。これらは自然噴出であり、事業の前後において変わるものではない。新規の
井戸掘削によって、噴出量は変化する可能性はあるが、基本的には還元井によって地下に戻さ
れることを基本としている。井戸掘削後の噴気については、今後、試験井戸を掘削する時点で、
噴出ガスの成分を分析し、影響を評価する。また、こうした現地調査結果を踏まえ、概略設計を実
施する中で検討し、必要に応じ対策を講じていく。
一般に、地熱発電所稼動中に発生する騒音は、60dBA~75dBA 程度と考えられている(平成 24
年度小規模地熱発電及び地熱水の多段階利用事業の導入課題調査 手引書から)。これは、日
常経験する騒音レベルに相当する程度であり、本プロジェクトの候補地点 Loc.2 は、地点からおよ
そ 2 km 以内には民家はないため、住民生活への影響はほとんどないと考えられる。ただし、もう一
つの候補地点 Loc.4 は住宅地の中心に有るため、この開発には住民への影響を考慮する必要が
ある。
⑥ホスト国の持続可能な開発への寄与
近年の民主化に伴う経済成長により、急増する電力需要に対し、ミャンマー政府は、水力発電の
増強に加え、ガス、石油、石炭などの電源多様化、地熱を含めた再生可能エネルギーの開発促
進を、緊急の課題として打ち出している。
ミャンマー国内では 98 の温泉が確認されている(Myanmar Engineering Society 資料)。また、タ
チレイ市を含む東シャン州一帯には、地熱源となる花崗岩が広く分布し、シャン州では 17 の温泉
が確認されている(Geology of Buruma (1934))。しかしながら、大きな地熱ポテンシャルが予想さ
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H25 JCM FS 最終報告書(概要版)
れるものの、これまでミャンマー地熱開発は詳細な調査を含め、未だ実施されていない。
したがって、本プロジェクトにより、我が国技術を用いた地熱開発促進され、化石燃料よる発電の
代替手段として、全国の地熱発電開発への波及効果が高く期待される。また、本プロジェクトによ
って得られる地熱開発の経験は、今後のミャンマー国地熱開発の手法を確立し、他地域への地
熱技術展開を行う上で、多大な貢献となる。
⑦今後の予定及び課題
地熱発電は初期投資の規模が大きく、また、生産井・還元井のための井戸掘削のリスクを伴う。物
理探査によって、有る程度推定はできるものの、実際には掘削によって、地下の状況を確認する
まで、発電規模が確定しない。地熱発電発において、こうしたリスクを避けることはできないが、段
階的な調査を進めることによってリスクを出来る限り回避し、投資コストの合理化を図ることは可能
である。地熱開発には以上の大きな井戸リスクを伴うことから、本プロジェクトの開発は以下が必要
と考えられる。
段階的な調査および事業性評価
事業実施までのフローを次図に示す。今後、試掘井戸を行い、地熱発電の可能性を評価するとと
もに、経済性評価を実施し、事業性を評価する。
既存源泉の
ポテンシャル
試掘井戸による資源量調査
温泉成分分析
試験井(slim hole)径3inch、延長200 m程度
3孔掘削およびボーリング孔を利用した検層
発電可能出力、発電可能熱
水量・温度の見積もり
発電の可能性評価
可能性無し 他の熱水利用
の可能性検討
可能性有り
周辺環境調査・モニ
タリング
経済性評価
周辺条件評価
事業性無し
事業性評価
他の熱水利用
の可能性検討
事業性有り
事業設計
発電所施設建設
バイナリー地熱発電事業実施までのフロー
出典:平成 24 年度小規模地熱発電及び地熱水の多段階利用事業の導入課題調査 手引書を参考に調査団作成
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段階的な開発計画
現時点では 200kW 規模の地熱発電所の 2017 年事業開始を目指しており、発電を行いながら、
井戸の状況(地熱ポテンシャルやスケール状況等)を確認し、運転のデータを蓄積するとともに、
並行して周辺の地質状況を追加確認し、徐々に発電規模を拡大していくことが望ましい。地元の
地熱発電に対する期待は大きく、地熱のポテンシャルや事業性を見極めながら徐々に規模拡大
を行い、2024 年頃までに 2MW 程度の発電実施を想定している。
以上
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