15 b.非炎症性角化症 noninflammatory keratosis

278 15 章 角化症
あるが,掌蹠と頭部(日光露出部)は通常侵されない.全身状
態は良好で,軽度の瘙痒を伴う程度である.
病因
不明であるが,遺伝的素因や HHV-6,7 の再活性化の関与が
指摘されている.また,薬剤や化学物質(メトロニダゾール,
砒素など)によって本症に類似した皮疹を呈することがある.
病理所見
表皮肥厚,海綿状態,不全角化および単核球の表皮内浸潤が
認められるが,特異的ではない.
鑑別診断・治療・予後
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表 15.10 にあげた疾患との鑑別が重要である.治療は対症療
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法が中心となり,ステロイド外用薬と抗ヒスタミン薬を用いる.
通常 1 〜 3 か月で自然治癒し,再発はほとんどない.
b.非炎症性角化症 noninflammatory keratosis
15
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けいがん
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1.鶏眼 kclavus,corn
n
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p
症状・病因
鶏眼(いわゆる“うおのめ”)は慢性的な物理的圧迫によって,
反応性に限局性の過角化をきたしたものである(図 15.37)
.
足底に生じやすく,足の変形などで靴が合わなくなることで生
じる場合が多い.肥厚した角質の中心が,芯のように真皮へ深
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図 15.36 Gibert ばら色粃糠疹〔pityriasis rosea
(Gibert)〕
a:クリスマスツリー状.b:粃糠疹.c:初発疹(ヘ
ラルドパッチ)を呈する.
く侵入している〔核(core)
〕ため,
魚の目のような外観を呈し,
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n
o
k
圧痛を伴う(図 15.38)
.
鑑別疾患
足底疣贅(23 章 p.471 参照)との鑑別を要する.足底疣贅で
表 15.10 Gibert ばら色粃糠疹の鑑別疾患
は圧迫部と関係なく生じ多発する傾向にあり,角層を削ってダ
ーモスコピーなどで観察すると点状出血がみられやすい.
治療
原因となる刺激を避ける.フットパッドの使用.スピール膏®
ちょう ふ
の貼付などを行う.
B.後天性角化症 279
角層
表皮
真皮
核(core)
鶏眼
図 15.37 鶏眼(clavus, corn)
胼胝
図 15.38 鶏眼,胼胝の病理模式図
15
図 15.39 胼胝(callus,tylosis)
べん
ち
2.胼胝 callus,tylosis
胼胝(いわゆる“たこ”
)も鶏眼と同じ原因で生じるが,角
質が一様に肥厚しているため,圧痛はほとんどない(図 15.38,
15.39)
.圧迫や摩擦などの機械的刺激が反復している部位,骨
の突起部に一致して好発する.持続すると真皮の線維化も生じ
る.第 2,第 3 指末節骨対向部(筆記具によるペンだこ)
,足
関節背部(正座による座りだこ)などが好発部位となる.
3.毛孔性角化症 keratosis pilaris
図 15.40① 毛孔性角化症(keratosis pilaris)
同義語:毛孔性苔癬(lichen pilaris)
症状・病因・病理所見
上腕や大腿の伸側に,毛孔に一致した正常皮膚色〜淡紅色,
1 〜 3 mm 大の角化性丘疹が多発する(図 15.40)
.軽症も含め
ると 10 歳代の 30 〜 40%に認められる.多くは学童期から発
症し,思春期頃に目立つようになる.丘疹はザラザラした感触
をもち,融合や拡大傾向を示すことはない.自覚症状を伴うこ
指背線維腫症
(dorsal fibromatosis)
280 15 章 角化症
とは通常ない.病理所見では毛孔が開大し,その中に角栓と捻
転毛を認める.遺伝傾向があり,常染色体優性遺伝が推測され
る.また尋常性魚鱗癬やアトピー性皮膚炎を伴う例もある.
治療・予後
思春期を過ぎると自然消退する.対症療法として保湿剤また
はサリチル酸ワセリンなどの外用.
図 15.40② 毛孔性角化症(keratosis pilaris)
4.顔面毛包性紅斑黒皮症 erythromelanosis follicularis faciei
耳前部から頬にかけて対称性に紅斑性局面を形成し,その上
に毛孔一致性の角化性丘疹を認める(図 15.41).若年男子に
好発する.海外では毛孔性角化症の一型ととらえられており,
四肢に毛孔性角化症を合併しやすい.
きょく
5.棘状苔癬 lichen spinulosus
棘状の突起をもった毛孔性丘疹が集簇し,直径 2 〜 5 cm の
15
図 15.41 顔面毛包性紅斑黒皮症(erythromelanosis follicularis faciei)
10 歳代女性.耳前部から頬にかけて毛孔一致性の角
化性丘疹による紅斑性局面を認める.
局面を形成する.若年者の頸部,殿部,腹部などに生じる.病
理組織学的には毛孔性角化症と同一.原因不明であるが AIDS
クローン
や Crohn 病などに続発した報告がある.
6.黒色表皮腫 acanthosis nigricans;AN
●
頸部や腋窩に,ザラザラした表面の黒褐色の局面をきたす疾
患.
●
内臓悪性腫瘍(とくに胃癌)に合併する悪性型,肥満関連型,
内分泌疾患に伴う症候型の 3 型に大別.
●
病理所見では,乳頭腫,過角化,基底層の色素沈着を特徴と
し,基本的に表皮肥厚はない.
症状
項頸部,腋窩,臍窩,鼠径部などに,黒褐色のザラザラした
乳頭状隆起をきたし,ビロード状あるいはおろし金状の外観を
呈する(図 15.42)
.内臓悪性腫瘍(とくに胃癌)を合併する
悪性型(malignant AN),肥満者にみられる肥満関連型(obesityassociated AN,以前は仮性型と呼ばれた),高インスリン血症
や SLE などを背景とする症候型(syndromic AN,良性型と呼
図 15.42① 黒色表皮腫(acanthosis nigricans)
ばれた概念を含む)などに分類される.肥満関連型が最も多い.
B.後天性角化症 281
悪性型では口囲に出現しやすい.
病理所見
乳頭腫,過角化,基底層の色素沈着を 3 主徴とする.acanthosis
nigricans という病名ではあるが,表皮肥厚(acanthosis)はみ
られないことが多い.
診断・治療
臨床症状から診断する.悪性型では,悪性腫瘍に先行ないし
同時発生する場合が 70%以上を占めるため,癌の早期発見に
もつながる.基礎疾患の治療や肥満の改善により皮疹も軽快す
る.
7.融合性細網状乳頭腫症 confluent and reticulated papillomatosis
体幹(とくに乳房間,上腹部)に灰褐色の色素斑〜角化性丘
図 15.42② 黒色表皮腫(acanthosis nigricans)
疹が生じて,それが融合して網目状の局面を形成する(図
15.43).思春期から青年期に多く発生し,慢性に経過する.自
覚症状はない.原因不明であるが Malassezia 属感染の関連が示
15
唆されている.抗真菌薬外用,ミノサイクリン内服などが行わ
れる.
8.腫瘍随伴性先端角化症 paraneoplastic acrokeratosis
バゼー
同義語:Bazex 症候群(Bazex syndrome)
四肢末端,鼻尖,耳介などに対称性に乾癬に類似した紅色局
面が出現し(図 15.44)
,その数か月後に内臓悪性腫瘍が顕在
化するものをいう.40 歳以上の男性に多く,食道,肺,咽頭,
喉頭の扁平上皮癌を背景とすることが多い.角化病変は悪性腫
図 15.43 融合性細網状乳頭腫症(confluent and
reticulated papillomatosis)
瘍の病勢に並行する.
りん
9.鱗状毛包性角化症(土肥) keratosis follicularis squamosa(Dohi)
体幹,とくに腰部,腹部,殿部に毛孔に一致した黒点が左右
対称性に生じ,それを中心に 3 mm 〜 1 cm 大の灰白色,円形
葉状の鱗屑が付着する(図 15.45,15.46)
.自覚症状はない.
青年期に好発する.
図 15.44 腫瘍随伴性先端角化症(paraneoplastic
acrokeratosis)
282 15 章 角化症
10.連圏状粃糠疹(遠山)
pityriasis circinata(Toyama)
腰部,腹部,殿部に生じる後天性角化症.皮疹は直径 1 〜数
cm,正円形あるいは楕円形で境界明瞭な角化性の淡紅色局面
である.褐色〜灰白色のちりめん皺様の落屑を伴う.内臓悪性
腫瘍の合併例がある.
11.固定性扁豆状角化症 hyperkeratosis lenticularis perstans
フレーゲル
同義語:Flegel 病
中高年の四肢,とくに足背や手背に好発.直径 1 〜 5 mm ま
での赤〜茶褐色調の,鱗屑が固着した棘状の扁平隆起性丘疹
で,左右対称性に発症する.原因不明で慢性に経過する.
15
図 15.45 鱗状毛包性角化症(土肥)
〔keratosis
follicularis squamosa(Dohi)〕
図 15.46 鱗状毛包性角化症(土肥)の病理組
織像