『相対性理論による 相対性理論による時間 による時間と 時間と宇宙誕生 宇宙誕生』 誕生』 編纂 ’11.3.27 http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2006jiku_design/satou.html ◆ニュートンの ニュートンの運動方程式: 運動方程式: 時間は無限の過去から無限の未来に一様に、物があろうとなかろうと、どこでも一様に流れている何かである。 空間も四方上下どこまでも無限に続いており、物があろうとなかろうと、均質、一様等方であるという言うことであ る。ニュートン的時間と空間「時空」は、物質がその中で演舞する石舞台で、その上で激しくジャンプして、どん とけっても何ら変形しないものだと言うことである。物理学は時空という舞台の中で、物質がどのような規則、法 則に従って演舞するのかを記述している。しかし、この舞台がへこんだり揺らいだら、数学的定式化できない。 ニュートンは、時空を『外界とは何ら関係することない一様なもの』と定義し、絶対時間、絶対空間を前提に論理 展開している。はっきりと時空は物理学の対象ではなく物質の演舞の舞台として、この絶対時空のもとに運動 の法則、ニュートンの運動方程式を記述したことだと言える。 ◆ アインシュタインの アインシュタインの相対論: 相対論: アインシュタインは特殊相対性理論(1905)と 一般相対性理論(1906)を提唱し、時空の概念 を大きく変えた。特殊相対性理論は一般相対 性理論に包含され、あわせて簡単に相対論と 呼ぶ。相対論は「時空」の物理学である。アイ ンシュタインは、時空は固定された石舞台でな く、トランポリンのように、へこむ舞台であることを 示した。そこで物質は床が重みでゆがむことも考慮して演舞する。さらに限度を超えて重いと、舞台の床は抜け てしまう。これがブラックホールである。 光速度不変の原理: 『光の速さは、 さは、どんな速 どんな速さで移動 さで移動する 移動する人 する人から測 から測っても、 っても、同じ』 特殊相対性理論の基本 電車の中で前方に歩く人の速度は、地上から見ると電車と歩く人の速度を加算したものが常識である。すなわち、 電車の前方から発射した光の速度は、地上から見ると電車の速度が加算され、光速度不変の原理は成立しない。 アインシュタインは矛盾した「相対性原理」と「光速度不変の原理」を、電車の中の時間と地上の時間が、各々に 違って良いと解決した。「時間は各々違って良い」のである。この原理から「浦島効果」がうまれた。地球に子供 を残して光速度に近い速度で宇宙旅行にでた若者が、自分の時計で何年か後に地球に帰還すると、子供は自 分より年上の熟年になっている。 この「特殊相対性理論」は、「等速度で運動している座標系の相対性」という限られた座標系の平等性に基づく ものを、アインシュタインは「すべての座標系の相対性原理」に拡張しようとした。その際「重力」が問題になった。 重力は万有引力であり、どんな物質であろうとその質量に働く。 電磁気力のように電荷や磁荷に働くのでなく、 物質の全てに働くため、拡張できない。 しかし、アインシュタインは「下降(落下)するエレベータの中では重力が 消える」ことに着目した。そして重力は、物質の質量エネルギーにより『 『時空がゆがむ 時空がゆがむ』 がゆがむ』ことで引き起こされることを 見抜いた。これから「一般相対性理論」が導かれた。相対論は、座標系の「相対性原理」を貫徹して導かれた。 特殊相対性理論はもう一つ、『物体の 物体の持つエネルギーは エネルギーは、質量と 質量と光速の 光速の二乗をかけあわせたもの 二乗をかけあわせたもの』という有名 な式がある。 1 ◆ ビッグバン理論 ビッグバン理論: 理論: ビックバン理論は、宇宙の構造・進化を相対論に基づいて説明した疑いのない確固としたものである。しかし この理論では、全宇宙が継続して膨張し、その膨張スピードを逆算すると、約 180 億年前に宇宙が始まった。 つまり、宇宙は大爆発(ビッグバン)で始まり、現在も膨 張を続けているのが「ビッグバン理論」である。 宇宙の始まりは、無限エネルギー密度の特異点から生ま れたことになっている。宇宙の昔に遡のぼると、必ずこの 特異点に到達し、時間の果てが明確に存在するのだ。 しかし相対論では時間に果てがあることを理解できない。 多くの研究者が特異点のない宇宙モデルを模索した。 この特異点の存在を、ペンローズとホーキングが特異 点定理で証明した。宇宙は必ず特異点から出発し、また 収縮に転じた宇宙は同じ特異点に必ず帰結するのだ。 宇宙創成は、『神の最初の一撃』で始まった。物理学は、 “神が与えた”初期値のもとに、宇宙の進化を計算するだ けである。1980年以前の多くの研究者が「初期値の解 法は物理法則の対象外」と信じていた。しかし1980年 代には、宇宙創生も『素粒子論』を適用して物理学で解決できることが解ってきたのだ。 ―― 宇宙の 宇宙の創生・ 創生・進化の 進化のパラダイム( パラダイム(シナリオ) シナリオ) ――― 【1】宇宙は 宇宙は“無”の状態から 状態から量子重力的効果 から量子重力的効果によって 量子重力的効果によって生 によって生まれた。 まれた。 【2】誕生直後 誕生直後の 直後のミクロな ミクロな宇宙は 宇宙は、その真空 その真空エネルギー 真空エネルギーの エネルギーの効果で 効果で加速度 加速度的に急激な 急激な膨張を 膨張を始めた。 めた。 その直後 その直後、 直後、真空の 真空の相転移が 相転移が起きて、 きて、真空エネルギー 真空エネルギーは エネルギーは潜熱と 潜熱と化し、宇宙は 宇宙はマクロな マクロな火の玉宇宙になった 玉宇宙になった。 になった。 (火の玉宇宙:宇宙創生のシナリオをインフレーションモデルと称する) 【3】インフレーション中 インフレーション中の物質密度の 物質密度の揺らぎは、 らぎは、次第に 次第に成長し 成長し銀河や 銀河や銀河団など 銀河団など、 など、現在の 現在の宇宙へ 宇宙へ成長し 成長した。 宇宙誕生から10-44秒の極端な初期に(1)、(2)は起きたが直接の検証は不可能である。宇宙論研究者は、こ の理論をシナリオ、またパラダイムと呼んでいる。現在多くの科学者は、パラダイムの中で学術論文を執筆する。 (1)、(2)の確固とした理論が実はない。最先端の研究は、従来理論で解決できないことを模索しながら進展する。 宇宙創生の標準的パラダイムは、シナリオとして説得性があり、観測とも合致している。 ◆ インフレーションモデル インフレーションモデル: モデル: 宇宙創生の研究には、もっとも小さな物質:『素粒子』が不可欠になる。 宇宙創生期に遡ると、宇宙の温度が 極めて高くなり、全ての物質は素粒子に分解されている。 ミクロの極限:素粒子は量子論の範疇である。 すなわち宇宙誕生は量子論で議論される。1980年代、物質世界を統 一理論で定義する研究が進んだ。究極の統一理論は生まれなかった が、基本的概念から「力」が生命進化と同じに進化する示唆が得られた。 『宇宙が誕生した時、1種類の[力]だったが、宇宙が膨張し冷却する過 程で[力]が枝別れし、現在の4種類の力(電磁力・重力・強い力・弱い力)が 生まれた』というシナリオである。“真空”が物質と同じ相転移を起すの は理解し難いが、量子論では、何も無いのでなく揺らぎとしている。物理 学的真空とは電子と陽電子、陽子と反陽子の如く、物質粒子と反物質 粒子がペアで消滅を繰り返す。すなわち、真空は[無]の状態でなく、物 質が最も存在しない基底状態で物理的な実体である。 【ウロボロスの ウロボロスの図:最も大きな極限 きな極限: 極限:宇宙創生の 宇宙創生の理解は 理解は、最も小さな存在 さな存在( 存在(素粒子) 素粒子)が鍵になる】 になる】 2 現在の宇宙は真空のエネルギーは存在しないが、宇宙誕生の頃には、“真空”のエネルギ-が存在した。 “真空のエネルギー”は、アインシュタイン方程式で空間に対して“斥力”として働き宇宙を急激に膨張させる効 果を持つ。真空のエネルギーは、アインシュタインが数学的に導入した宇宙斥力(=宇宙定数)と全く同じになる。 この“真空のエネルギー”による宇宙斥力の強さはアインシュタインの想定より何十桁も強く、これまでのビッグ バンモデルとは比べものにならない急激な速さで宇宙が膨張したことになる。宇宙は“真空のエネルギー”によ り殆ど瞬時に何 10~何 100 桁と大きくなる。“真空のエネルギー”は宇宙の体積がいくら大きくなっても薄まるこ となく密度は一定である。すなわち宇宙全体のエネルギーも何 10~何 100 桁と増える。単に小さな宇宙の空 間的大きさを大きくするだけでなく、その内部にエネルギーを創ることを意味する。 宇宙の急激な膨張はいつまでも続かない。真空の相転移の 終了で、何百桁と増大した真空のエネルギーは熱エネルギ ーとなる。これは水蒸気が水になるとき、また水が氷になると き潜熱が解放されるのと同じである。宇宙はこの潜熱により 熱い火の玉となって膨張することになる。 インフレーションは、ビッグバン宇宙を作る重要なステップで ある。宇宙の膨張は“神の最初の一撃”でなく真空のエネル ギーに働く“宇宙斥力”で引き起きた。インフレーションの過 程は均質でなく凸凹で膨張が起きて早い領域は“子供”宇 宙になり、さらに子宇宙から、“孫”宇宙が作られる。このプロ セスは次から次へと続き無限の宇宙が生まれた。このインフ レーション理論は、宇宙創生の重要なステップだが、観測的 な裏付けがなければ、科学にならない。 COBE 衛星(1992年米国 NASA 打上)が、宇宙誕生から30万年頃の宇宙の姿を描画した。遠くの宇宙を見るこ とは過去を観測することになる。現在の宇宙は透明なので可視光、電波により過去の宇宙を観測できるが、30 万年頃の宇宙は高温ガスが充満して、それ以前の宇宙は不透明で観測できない。COBE 衛星は電磁波で観 測できるもっとも昔の姿を描画した。さらに WMAP 衛星(COBE 後継機、2003年打上)は更に30倍細かな宇宙 初期の地図を発表した。観測結果と、相対理論を組合わせることで宇宙の年齢は137億年を示した。 宇宙は 宇宙は“無”から生 から生まれたのか? まれたのか? ―虚時間からの宇宙創生― インフレーション理論が提唱された後、『宇宙は“無”の状態から生まれた』とビレンケンが提唱した。昔から宗 教神話などが主張したのと同じである。ビレンケンは、それを科学の言葉で語った。『宇宙は物質が満ちた時空 多様体のことである』 ビレンケンのいう“無”は、物質が存在しないという意味でなく、入れ物である時空(時間空 間)も存在しない状態である。ビレンケンはこの“無”の状態から、極めて小さいミニ時空が、トンネル効果により 作られるモデルを示した。トンネル効果は、物質が波の性質を持っているため本来通過できない山の内部をあ たかも自分でトンネルを掘って通過してしまう量子論的効果である。量子宇宙は大きさ“無(ゼロ)”の状態からト ンネルをくぐって出てくるまで虚数の時間で膨張する。トンネルから出ると実時間になり、インフレーション宇宙 に転換する。虚数の時間は元々トンネル効果の確率や経路積分の便宜から導入されたものである。虚数の時 間として宇宙が始まったとすれば、宇宙誕生の特異点が無くなる。虚時間の導入で、時間軸が空間軸と区別が つかないものになったという意味である。 ホーキングの提唱した初期は、『虚時間を使うことは単なる数学的トリックで、実体や時間の本質は何も語っ ていない。数学的モデルを定式化するのに虚時間が役に立つだけかもしれない」とかたっている。 しかし、 1991 年の東京講演で「虚時間の概念は、地球が丸いのと同じで自明と考えられる」と言い切った。虚数の時間 が存在するか否かの議論は不毛だが、存在すると考えると論理展開に便利で研究が進展する。 3 ダークエネルギー( ダークエネルギー(暗黒エネルギー 暗黒エネルギー) エネルギー): 米国の科学雑誌:サイエンスは、1988 年度の大発見のトップは “宇宙斥力の発見”だった。カリフォルニア 大学バークレイ校の超新星宇宙論プロジェクトチームと、オーストラリア マウントストロム天文台の高赤方偏移 超新星探査チームが独立に、真空のエネルギー量は宇宙の物質エネルギーの 70%になることを示した。 きわめて遠方の超新星の明るさからの測定から、宇宙が再び加速度的な膨張を始めていることを発見した。 また、宇宙の年齢を 137 億年と測位した宇宙背景放射観測衛星も、真空のエネルギー量は宇宙の物質エネル ギーの 70%になることを示した。宇宙誕生の頃のインフレーションで、真空のエネルギーは、アインシュタインの 宇宙定数と同等であった。“宇宙斥力の発見”は“第 2 のインフレーション”を意味し、宇宙は再び急激な膨張を 始めたことを意味する。正体不明の物質を『ダークマター:暗黒物質』、また正体不明の真空のエネルギーを 『ダークエネルギー:暗黒エネルギー』と呼ぶ。なぜ我々が第 2 のインフレーションが始まったと宇宙歴史の特 別な時期に生きているのかも謎である。偶然そのようなことが起こる確率は極めて小さい。何らかの必然性があ るはずである。 宇宙論の 宇宙論の進化: 進化: 宇宙論研究は、二つの方向で進んでいる。第 1 は宇宙論の精度を上げ、インフレーション、ビッグバンを含む 宇宙進化の描像を明確に描くことにある。宇宙背景放射観測衛星(WMAP)は、宇宙年齢 137±2 億年と決めた。 PLANCK 衛星(ESA2007:打上)は、宇宙密度や曲率などを精密に測位する。宇宙形成(構造、天体、化学進化) の研究が急速に進んでいる。すばる望遠鏡など巨大望遠鏡(10m 級)が世界で10台以上稼動し、日本のX線 天文衛星(すざく)、赤外線観測衛星(あかり)など宇宙空間から全波長の観測が進んでいる。宇宙論は、“理論” から観測する“天文学”となった。21 世紀前半には、観測により宇宙進化を天文学として描画できるであろう。 21 世紀末には、宇宙誕生 30 万年頃の宇宙地図(COBE)を描いたように、重力波でインフレーションの頃の地図 を描くことも可能にある。しかし従来の理論に矛盾、説明できない天文観測もありえる。実際に、ダークマター/ ダークエネルギーの問題は大きな謎で、我々の宇宙を構成する物質の 99%が何かをまったく未知である。 第 2 は謎へのチャレンジである。ダークマターは、超対称性理論が予言するニュートラリーノなどの素粒子から 構成されると考えられている。実態を直接検出する実験も行われている。『大型ハドロン衝突型加速器 LHC』 が欧州で稼動(‘07 年)している LHC によって何らかの示唆が得られることを期待したい。 東京大学 物理学専攻教授 ビックバン宇宙国際研究センター から http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/top.php 4 宇宙のなぞ ダークマター ダークエネルギー ホワイトホールとワームホール 宇宙の果て 宇宙について考えるときに、もっとも素朴な興味のひとつは宇宙に果てはあるのか否かという問題 です。宇宙をずっとずっと遠くまで旅したときに、古代の宇宙観にあったような壁のようなものは存在 しているのでしょうか。その問題を考える際に重要になってくるのは、宇宙の曲率および時空の概念 です。 宇宙の曲率 曲率という言葉は耳慣れませんが、地球の表面を例にその考え方を見てみましょう。私たちの住む 地球の表面は 2 次元空間ですが、では果てはあるでしょうか?すぐに分かるとおり、地球の表面に は果てがありません。目の前の方向に向かってずっとまっすぐ進むと、地球は丸いため、元々いた 位置にいつかは戻ってきてしまうはずです。このような空間を、閉じた空間と呼び、その曲率は負に なります。逆に曲率が正の場合、あるいはちょうど 0 の場合には、その空間は無限に広がることとな ります。宇宙空間は 3 次元空間ですが、いま説明した 2 次元空間の場合と同じように考えることがで きます。では、宇宙の曲率はいったいどれくらいでしょうか?これまでの観測で、ほぼ 0(おそらくは 0)であることが分かっています。空間としては宇宙は無限大だと言えるでしょう。 宇宙の時空 では、宇宙は無限なのか、といわれると、もうひとつ考えなければいけないことがあります。それは、 宇宙には空間に加えて時間という次元があることです。宇宙は少なくとも、4 つ以上の次元をもった 時空間なのです。したがって、空間が無限大であっても時間方向に果てがあるのか否かを考えねば なりません。そして、その答えは「果てがある」、です。私たちの宇宙は 137 億年前に始まったことが 分かっていますので、それより前の宇宙は存在しません。ただし、将来の方向には果てがあるかど うかはまだよく分かっていません。時間が有限であるということは、光の速さが有限である以上、私 たちに観測できる範囲にも果てがあるということになります。“観測できる宇宙”の果ては、私たちを 中心にして 137 億光年先にあることになります。 宇宙がはじまる前 近年の観測によって、宇宙はおよそ 137 億年前にはじまったことが明らかになりました。しかし、宇 宙が「はじまった」とはいったいなにを意味するのでしょう?はじまったという言葉は、私たちにはじま っていない状態の存在を想起させます。そんな、宇宙がはじまる前の状態について、科学者はどう 考えているのでしょうか。 宇宙が 137 億年前のある瞬間に生まれたとする考えは、科学者にとっていささか気持ち悪いもので す。なぜなら、その生まれた瞬間という特別な瞬間を想定しなければならないからです。宇宙が生ま 5 れた以降は物理学で理解できますが、物理学で理解できないその特別な瞬間―特異点―が存在 すること自体、科学者にとっては気持ち悪いことなのです。このような特異点が生まれないような、よ り包括的な理論があるべきだ、そのように科学者は望むのです。 宇宙の始まりという特異点を回避するための理論はいくつか提唱されています。たとえばイギリスの スティーブン・ホーキングは特異点を回避するための理論を考えていますが、観測では確認されて いません 宇宙の将来 私たちの宇宙は 137 億年前に始まったと考えられていますが、では、この先、宇宙はいったいどのよ うになっていくのでしょうか。 宇宙の枠組み さまざまな観測によって、現在の宇宙は加速的に膨張していると考えられています。過去には膨張 から収縮に転じて最後には閉じる宇宙モデルや、無限の時間をかけて一定サイズに到達していく宇 宙モデルなども考えられたのですが、現在では永遠に膨張を続けるという宇宙モデルがもっとも確 からしいと考えられています。しかし、この膨張を引き起こしているダークエネルギーの正体が未だ に不明であることから、永遠にインフレーションが続くのか、あるいはあるサイズに達した段階で新 たな状態に転移し、永遠の膨張とは違った展開となるのかは分かっていません。 ブラックホールの物理学 アルバート・アインシュタインの一般相対性理論をもとにその存在が考えられたブラックホールです が、私たちはどこまでその正体に迫れたのでしょうか。 ブラックホールの姿 まずはブラックホールについてイメージを固めていきましょう。ブラックホールの巨大な質量は、その 近傍で周りの時空をゆがめ、さまざまな物理現象を引き起こします。周りに物質があれば、それを強 力に引き寄せ、吸い込みます。吸い込まれる物質も運動をしていますので、一般的には降着円盤と 呼ばれるドーナッツ状の構造をブラックホールの周りに形成し、そこから徐々にブラックホールに吸 い込まれていきます。その際、激しく周囲の物質と摩擦することで、強力な電磁波を放射することに なります。 これまでに多くのブラックホール候補天体が見つかっていますが、それらはブラックホールに吸い込 まれつつある物質が放つ強烈な X 線によって同定されています。発見されているブラックホール候 補天体のサイズも、太陽質量の数倍のものから数億倍をも超えるような超巨大なものまでさまざま です。銀河系内に観測される大質量星の数から推測すると、その一生の最後につくられるブラック ホールは、見つかっているよりももっとたくさんあるでしょう。また、銀河系の中心と同様、他の多くの 銀河の中心にも巨大ブラックホールがあるのではないかと考えられています。 6 ブラックホールのまわりからは強烈な X 線が放射される場合があるので、X 線天文衛星で観測する と、ブラックホール候補天体を発見したりそこで起こっている現象を研究したりすることができます。 日本の X 線天文衛星「あすか」は、有名なブラックホール候補天体であるはくちょう座 X-1 を観測し て降着円盤の内側の大きさと温度を測定し、その大きさが理論的予測値と一致していることを確か め、はくちょう座 X-1 が確かに恒星質量のブラックホールを含む連星系であることを示しました。また、 銀河系の中心部から放射されている強烈な X 線を観測しました。これは、銀河系の中心に巨大ブラ ックホールがある証拠だと考えられています。さらに、M82 銀河の観測から、その中心に恒星質量ブ ラックホールと巨大ブラックホールの中間的な存在である、太陽の 1,000 倍程度の質量をもつ中質 量ブラックホールが存在すると考えられる結果を得ました。「あすか」の後継機である「すざく」も、連 星系になっているブラックホール周辺から放射される X 線を捉えてその物理過程に迫ったり、銀河 系やほかの銀河の中心部を X 線で観測して巨大ブラックホールの自転運動や時間変化のようすを 明らかにしたりしています。たとえば、大量の物質にかくされて見えなかった新しいタイプの巨大ブラ ックホールと考えられる天体がごく普通の銀河の中心にある証拠を捉え、これまでに見つかってい ない巨大ブラックホールが宇宙にはたくさん存在しているのではないかと考えられる結果を得ていま す。また、「あすか」や NASA の衛星「チャンドラ」、ESA の衛星「XMM ニュートン」の観測データと「す ざく」のデータを総合し、銀河系中心の巨大ブラックホールが 300 年ほど前に大爆発を起こしたと考 えられる結果も得られています。 X 線だけでなく、電波でブラックホールの周辺を観測すると、ジェットや円盤のようすを研究すること ができます。電波観測衛星「はるか」はジェットの観測で大きな成果をあげ、M87 銀河の中心部から らせん状のジェットが 10 光年にもわたってのびているようすを捉えました。また、「はるか」を用いた VSOP 計画により、巨大ブラックホールが存在すると考えられる M87 銀河中心部の周辺を高解像度 で観測しました。「はるか」の後継機として計画されている衛星「ASTRO-G」による観測も、大いに期 待されています。 巨大な質量を持つブラックホールは、天然の実験場です。日常的には奇異に思えるさまざまな現象 が、当たり前に起きているのです。極限の物理状況にあるブラックホールは、科学者にとっては興味 の尽きない対象だと言えるでしょう。 7
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