文化・社会意識(1) 趣味の社会学 漫画とはどういうメディアか? 「漫画化」、漫画の「メディア化」を手掛かりに 東京情報大学 茨木正治 Ⅰ目的 この報告の目的は、漫画作品のアニメ、実写映画、テレビドラマ、演劇といった他メ ディアによる表現や、逆に、小説、ドラマ作品の「漫画化」といった、異なるメディア 変換を通じて、漫画というメディアがどのような特性をもっているかを、明らかにする ことにある。漫画の「他メディア」による表現は、もっぱらメディア産業や比較社会・ 文化論的に語られることが多く、メディア属性に特化した研究はあまり見られなかった。 そのため、本報告では、「漫画化」に焦点を当てて、そこから得られた知見から、漫画 の他メディア表現について研究を進める一助としたい。 Ⅱ方法 この報告では、⑴「報告目的」⑵「漫画化」概念について⑶「乱歩作品の「漫画化」 の経緯⑷作品の内容分析⑸結論と課題という構成からなる。以下では、⑷作品の内容分 析について詳説する。 江戸川乱歩の作品の「漫画化」として、藤子不二雄 A(安孫子素雄)画による「怪人 二十面相」 ( 『少年』1959 年 2 月号~1960 年 5 月号 光文社掲載)を取り上げ、その内 容分析と乱歩の作品との関係、および掲載メディア(『少年』光文社)との関係を通し て、漫画メディアの特性を浮き彫りにする。分析対象は、上記雑誌『少年』は所属図書 館において、欠号が多いため、 「単行本」 (『藤子不二雄Aランド第 20 巻、第 24 巻 怪 人二十面相 1,2』 (ブッキング、2002 年) )と併用した。なお、江戸川乱歩の小説につ いては、『江戸川乱歩全集全 14 巻』(講談社)、同全 30 巻(光文社文庫)を参照した。 分析単位は、「単行本」に分類されている章の内容を単位として、分析カテゴリーは、 ①漫画作品に対応する小説作品、②ストーリー展開、③登場人物の描写(二十面相、小 林少年、明智小五郎、その他)④用いられるレトリックを大筋の基準として設定した。 Ⅲ結果 安孫子が、自著で言及したように、乱歩作品の多くの箇所からの引用と接合がなされ ていることと、連載時と単行本時では漫画作品のストーリー展開に相違がみられること が、乱歩の小説における主要登場人物の関係が、藤子A漫画では変わっていることが登 場人物の出現頻度からも明らかになった。 Ⅳ結論と課題 「漫画化」の経緯において、1950 年代から 60 年代にかけての、乱歩の推理小説の少 年雑誌における位置づけや、少年漫画雑誌の月刊から週刊への変化、および映画とテレ ビ放送の役割変化という、歴史的文脈が色濃く出た結果となった。そのため、メディア 「変換」としての漫画メディアの一般的属性の抽出には至らなかった。「漫画化」それ 自体についても編年的な研究を行なう(70 年代以降、2000 年以降の「漫画化」作品な ど)必要があることが課題ととして残された。 81
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