「アジアの時代と日中関係」講義概要 第1回(平成 24 年 9 月 4 日)勃興するアジアと中国 神戸大学名誉教授 野尻 武敏 このところ BRICs,VISTA と、新興諸国の台頭が相次ぎ、地域的には東・南アジアの 勃興が著しい。幾世紀にも渡った欧米支配の世界体制のこの変容の先鞭をつけたのは、 ほかでもない日本である。明治維新はアジア人のアジアの主張とも結ぶものだったから である。本講では、明治維新(1868 年)、辛亥革命(1911~1912 年)、対支 21 カ条要求 (1915 年)、日中戦争(1937~45 年)、共産中国の建国(1949 年)と今日のその躍進と 進む日中関係の歩みを概観する。 第2回(平成 24 年 9 月 11 日)チベット問題にみる中国の危機 ―日中のより良き未来 に向けて― 作家、現代中国文学者 劉 燕子 中国は 56 民族を抱える多民族国家だが、民族問題が深刻化し、危機的な状況を呈して いる。特にチベットでは、今年に入り抗議焼身自殺は 30 名を越えた。緊密な日中関係に おいて、民族問題を抱えた中国の危機は、日本にとっても決して対岸の火事ではない。 国交正常化 40 周年にあたり、チベット女流詩人オーセル氏の作品を通して、危機の本質 を考え、真実と大義と節操のある日中のよりよい未来とは何かと問い直す。 第3回(平成 24 年 9 月 18 日)ロシア・欧州から見たアジア―特に日中の姿と心― 桜美林大学北東アジア総合研究所所長 川西 重忠 世界のトレンドは、欧米からアジアへ、農村化から都市化へ、中央集権から個人間ネ ットワーク化へ、男性中心社会から女性の躍進社会へと、ほぼパラレルな変動が見られ る。しかし個々に見ればこれらの地域はそれぞれ固有の特徴を有している。ロシアと欧 州も同一の社会、文化を共有しているわけではない。今回は主にロシアから見たアジア の(特に日中の)心象イメージと姿を、精神面、現実のビジネス面などからフォーカス を当ててみたい。長大な国境を接する中露の地政学的な現実と幾多の諸問題を同時に抱 える日露、中露、日中のトライアングルの行方を追いかけてみたい。 第4回(平成 24 年 9 月 25 日)現代中国の言論空間 桜美林大学北東アジア総合研究所客員研究員 及川 淳子 現在、中国の言論空間は、自由化と規制化が拮抗する混沌とした状況にある。特に、 民主化をめぐる言論は当局による厳しい統制のもとにあるが、インターネットの発展に よって人々の意識は確実に変化しており、中国社会の変化を読み解くためには言論空間 の動態を詳細に観察する必要がある。 この講義では、公害問題や高速鉄道事故など具体的な事例を取り上げながら、漸進的 な民主化と市民社会の形成をめぐる言論事情について解説する。 第5回(平成 24 年 10 月 2 日)中国の食料問題と日本への影響 同志社大学大学院教授 厳 善平 中国は、2001 年の WTO(世界貿易機関)加盟を契機に農業構造調整を積極的に進め ている。この間、農業政策の大転換を受けて、米・小麦・トウモロコシなど食糧の大増 産が実現された一方、大豆、食用植物油の大量輸入も同時進行している。本講義ではこ うした実態を踏まえながら、誰が中国を養うか、誰が日本を養うかを考える。 第6回(平成 24 年 10 月 9 日)人口老齢化の厳しい関門 帝塚山大学名誉教授 伊原 吉之助 発展途上国が経済成長を重ねて豊かな国になるには、種々の関門があります。 今回は、その中で人口の変動がもたらす厳しい関門の問題を取り上げます。 (1)経済成長と人口変動demography:富士山型→ピラミッド型→砲弾型→頭でっかち型 「貧乏人の子沢山」から「少子高齢化」への人口変動です。 (2)「豊かな国」への関門:人口ボーナス期の利用の仕方 上記の変動の途中に一度だけ出現する黄金期があります。それが、生産年齢人口 の比率が高まる「人口ボーナス期」です。働く者が多くて養わねばならぬ子供と 老人が少ない時期ですから、富の蓄積が一挙に進みます。 21 世紀は、中国を含む「アジアの時代」か? 少子高齢化時代が目前に迫るアジア 諸国 (中国を含む) は世界経済を牽引できるか? 第7回(平成 24 年 10 月 16 日)日中関係と孫文 神戸大学名誉教授 安井 三吉 孫文(1866-1925)は、中国大陸では「中国民主革命の先駆者」、台湾では「国父」と 呼ばれて尊敬されています。孫文は生涯のうち約 9 年を日本で過ごし、日本を基地とし て活動を続けました。日本での孫文の生活と活動は、多くの日本人との交流のなかで展 開されました。それだけに孫文の言葉、人柄は多くの日本人の間に広く、深い思い出を 残しています。これはこれからの日中関係にとっても貴重な財産です。具体例に即して 考えてみたいと思います。 第8回(平成 24 年 10 月 23 日)中国発グローバル企業の実像-ハイアール、レノボ、 華為を事例に- 近畿大学経営学部教授 徐 方啓 近年、日本の電気メーカーの衰退が目立っている。一方中国一家電メーカーのハイア ールの三洋電機白物家電の買収、中国一パソコンメーカーのレノボは NEC パソコン事 業を統合、中国一通信機器メーカーの華為(ファーウェイ)の日本上陸とシェア拡大な ど、中国メーカーはこれまでにない勢いでビジネスを展開している。それはどんな原因 であろうか。本講義は長年にわたる研究調査をベースにして、中国発グローバル企業の 実像を明らかにする。 第9回(平成 24 年 10 月 30 日)台湾海峡両岸の現状 ジャーナリスト 本田 善彦 2012 年 1 月に馬英九総統が再選されたことで、台湾海峡両岸関係は拡大と多元化がさ らに進みそうです。一方、同年秋の中国共産党第十八期全国代表大会(十八大)を通じ て習近平体制が発足する見通しで、山積した課題への取り組みに注目が集まっています。 転換期を迎えた台湾海峡両岸双方の現状と相互関係について、両岸双方での取材に基づ き、主に台北からの視点を軸にお話します。 第 10 回(平成 24 年 11 月 6 日)成熟期に入った中国経済と今後の課題-日中の分業と 競合の構図- 大阪商業大学総合経営学部教授 安室 憲一 中国経済は新しい局面を迎えた。改革開放後の成長エンジンであった「鄧小平モデル」 が有効期限を過ぎ、構造不況に突入している。過去の成長モデルが成功しすぎたため、 構造改革は一層困難になった。ルイスの転換点(農村からの労働力供給の限界)を越え たため、労働力不足から労賃が高騰している。中国製品は急速に国際競争力を失いつつ ある。他方、それに替わる知識集約型産業が伸びないため、大学新卒者の失業が急増し ている。こうした構造的ミスマッチをどう乗り越えるのか、中国新体制の真価が問われ る。同時に、この構造不況に日系企業はどう取り組むのか、新たな戦略的思考が求めら れている。
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