2 になる マレーシアがもっと好き ライフスタイルマガジン セニョーム 毎月 行 5 日発 FREE FEBRUARY 2013 NO.42 マレー 伝統芸能の世界 特 集 Food Review 茶王之家 特製の「マグロ刺⾝イーサン」 Food Review 極楽らーめん 全メニューをリニューアル。宇都宮餃⼦も登場 Food Review POCO HOMEMADE cafe & atelier ほっこり幸せな気分になる隠れカフェ タウンガイド ペナン編 新コーナー「ぺなんのーと」 街で⾒つけたステキなもの、旬なものをお届けします 2013 年 2 月 5 日発行 42 号 ( 毎月1回 5 日発行)KDN No. PP 16491/06/2013 (032264) フードレビュー マレー伝統芸能の世界 ときにはコミカルに、ときにはロマンティックに演じられるマレー伝統芸能。インドネ シアやタイ、 アラブやポルトガルなどさまざまな異国文化の影響を受けて発展してきた、 その成り立ちや意味を少しでも知っていると、理解が深まりより楽しめます。最近では、 影絵芝居の物語に携帯電話が登場したり、ポップソングが使われたりという新しい流れ も。さあ、奥深いマレー伝統芸能の世界に出かけましょう。 ワヤン・クリッ Wayang Kulit 一人で 役を演じる 人形遣いが織り成す影絵芝居 ソンケット ・ レストラン 4. (Sarawak Cultural Village) 2.(Songket Restaurant) サラワク州の代表的な7つの民族の住居や文化を紹介するテーマ パーク。各民族の伝統工芸や生活様式、伝統楽器や踊りを観たり、体 験したりできる。一日2回、民族舞踊ショーを上演している。 Pantai Damai, Santubong, 93752 Kuching, Sarawak 入場料:大人RM60、 こども(6∼12歳)RM30 Tel: 082-846 108 店名のとおりソンケット織りの布をふんだんに使ったセンスのよ い雰囲気の店内で、料理と伝統芸能を楽しめる。ディナー時には、マ レーだけでなく、インドや中国などの伝統的なダンスも鑑賞できる (日曜を除く)。 No. 29, Jalan Yap Kwan Seng, 50450 KL Tel:03-2161 3331 サラワク・カルチュラル・ビレッジ 写真 ③ ② 昼間の暑い太陽を忘れるような夜が幕を開け ると、スクリーンの明かりが点くのは今かと心 待ちにするこどもたちがザワザワと集まってき ま す。 ス ク リ ー ン の 裏 側 で は、 ﹁ダラン﹂と呼 ばれる人形遣いが今宵登場する人形を確認しな がら並べたり、楽器の調子を整えたりする一座 のおじさんたちがタバコの煙を燻らせながら談 笑しています。太鼓が打ち鳴らされ、ひとたび スクリーンに人形の影が映し出されると、一瞬 にして光と影の世界に引き込まれるのです。 ﹁ ワ ヤ ン・ ク リ ッ﹂ と は、 マ レ ー シ ア、 イ ン ドネシア地域で広く発達した影絵芝居。水牛や ヤギの皮で作られた人形には繊細な透かし彫り と彩色が施され、白い幕に投影された影は観る ものを魅了します。地域ごとに特色があり、人 形の姿も異なります。 かつて、マレーシアのワヤンは農村の生活に 密着し、儀礼や結婚式での上演のほか、娯楽と して農閑期には連夜物語が続いたといいます。 そこで、こどもたちは道徳的なことを学び、大 人たちもユーモアと風刺を交えて語られる社会 情勢についての話を楽しみにしたそうです。 しかし、テレビや映画、インターネットが生 活の中心になった今となっては、それも昔のこ と。 ワ ヤ ン を 演 じ る グ ル ー プ も 減 り、 現 在 は、 主に文化的なイベントや政府主催の観光キャン ペーンなどで演じられています。 上演の際は、白い大きなスクリーンの後ろに 一人のダラン︵人形遣い︶が座り、物語に登場 する人形 から 体ほどを一人で操ります。ダ ランは、神々、王子と姫、従者である道化たち、 動物など、それぞれのキャラクターに合わせて 声色を変えながら、即興でセリフを語り、物語 を展開します。ダランの後ろには、人形の動き やシーンに合わせて音楽を演奏する7∼8名か ら成る楽団が座っています。 公演を見られる施設 12 13 コタバル市の中心部にあり、影絵芝居「ワヤン・クリッ」や、大きく色 彩豊かなマレー凧「ワウ・ブラン」 、巨大な太鼓「レバナ・ウビ」など、 クランタン州の伝統文化に触れることができる。影絵や伝統音楽の Jalan Mahmud, Kota Bharu, 15000 Kelantan Tel: 09-748 5534 入場料:無料 公演は、月・水・土曜のみ 30 年間を通して、週4回、マレーシアの音楽や伝統舞踊などの「カル チャーショー」を鑑賞することができる。45分ほどのステージで見 応えもあるので、日本から来馬中のお友達を案内するのにも最適。 109, Jalan Ampang, 50450 KL Tel: 03-9235 4848 入場料:大人RM5、 こども(12歳以下)無料 ① 3.(Gelanggan Seni, Kelantan) マレーシア・ツーリズムセンター (上)Wayang Kulit Gedek:マレーシアのイスラム社会に合わせてデザインされた人形。色鮮やかな影が特徴。 (右下)Wayang Kulit Gedek:道化エトンとパッタムがカラオケを歌うシーン。 (左下)神々の一人、道化アイトとスニマン・ヌヌイ、マレーの衣装クバヤを着たムスリム女性。 Wayang Kulit Seri Asun の小さな芝居小屋の中の様子。人形遣いを囲むように左右と頭上に人形が並べられます。 (左下)一人のダランがスクリーン前に座り、 物語に登場する全ての人形を操ります。ダランの後ろに楽団が座ります。 30 20 クランタン文化センター 写真 ① ② 1. Malaysia Tourism Centre (MTC) ポップソングも登場 社会に合わせ変容するワヤン 2 マレーシアには、 種類のワヤンがありました が、現在でも演じられているのは、タイ南部とク ランタン州で発展した﹁ワヤン・クリッ・シアム ︶ ﹂ ︵ ﹁ワヤン・クリッ・クランタン﹂と言わ ︵ Siam れることもあります。表紙写真参照︶と、ケダ州 ︶ ﹂の 種類 の﹁ワヤン・クリッ・ゲデッ︵ Gedek です。マレーシアでワヤンというと、前者を指す ことが多いのですが、今回は、ワヤン・クリッ・ ゲデッについて少しお話ししましょう。 ﹁ふぉわっはっはっはっは∼﹂。 一度観たことがある人は、この道化の笑い声を 聞けば、ワヤン・クリッ・ゲデッで唯一活動を続 ︶﹂のダラン、 ける一座﹁スリ・アスン︵ Seri Asun マジッドさんだとすぐに分かるでしょう。 このワヤンは、タイ南部のナン・タルン︵ Nang ︶ と い う 影 絵 芝 居 に 由 来 し、 か つ て は イ Talung ンドの叙事詩ラーマヤナを基にした物語や、宮廷 を舞台とした伝説などが演じられました。今日マ レーシアでは、社会問題や流行のポップソングな どを取り入れながら、当地に伝わる物語が描かれ ます。 色鮮やかな影がスクリーンに投影される人形の 特徴を残しつつ、マレーシアのイスラム社会に合 わせて、頭にスカーフを巻いた女の子の人形を作 るなど、人形のデザインも、キャラクターも少し ずつ変化してきました。 お話の中心は、道化のエトンとパッタム。彼ら はハーレーに乗ってスピード違反で捕まり、警官 に﹁おい、お前たちどこから来て、どこへ行くん だ?﹂ と 聞 か れ れ ば、 ﹁ 後 ろ か ら 来 て、 前 に 行 く んだ!﹂と答えてみたり、二人でボケとツッコミ を繰り返しながら物語が進みます。現代風に、携 帯電話を片手に相方を呼び出したり、二人でカラ オケを歌ったりするたびに、会場のこどもたちも、 大人たちも大笑い。みんなその世界に飲み込まれ てしまいます。 そんなワヤン・クリッが演じられる機会は、と て も 限 ら れ て い ま す が、 チ ャ ン ス が あ れ ば、 ぜ ひのぞいてみてください。息を吹き込まれた人形 の姿に、ふと時間を忘れて魅入ってしまうことで しょう。 4 文 ・ 写真 上原亜季 ③ マッヨン Mak Yong 理解できなくても、注目する点はたく さんあります。特徴的な道化たちの表 情やコミカルな動きを見ているだけで 思わず笑い出してしまいます。 ガムラン・ムラユ 19 ユネスコ無形文化遺産の 華やかな歌謡劇 Gamelan Melayu 宮廷音楽として発達した 雅な響き ガ ム ラ ン の 演 奏 を 間 近 で 見 る と、 ビリビリと空気の震えが伝わってき ます。大きな銅鑼︵ゴング︶の音は、 地面を張ってお腹に響くような重み のあるものです。ガムランは、 ﹁日本 の音﹂とはまったく異なる世界観を も ち な が ら、 そ の メ ロ デ ィ ー に ど こ か 懐 か し さ も 感 じ ら れ ま す。 大 小 さ まざまな大きさの青銅のゴングや鍵 盤 楽 器、 木 琴 そ し て 太 鼓 な ど の 楽 器 か ら 成 る マ レ ー シ ア の ガ ム ラ ン は、 甘 く、 ゆ っ た り と し た 響 き が 特 徴 で す。 現 在 で は、 踊 り と 一 緒 に 演 じ ら れ る 機 会 が 少 な く な り ま し た が、 元 々 は、 宮 廷 の 娯 楽 と し て 擁 護 さ れ、 ガ ムラン演奏に合わせて女性たちが踊 るものでした。 世 紀 初 頭、 マ レ ー 半 島 南 部 沖 合 に位置したリアウ・リンガ王国︵現・ インドネシア領︶の王家とパハン 王家に仕える臣下の間で婚姻関係が 結 ば れ た 際 に、 踊 り 子 と 共 に ガ ム ラ ンの楽器がパハンの王宮に持ち込ま れ ま し た。 世 紀 初 頭 に は、 パ ハ ン の王宮からトレンガヌの王宮へと伝 わ り、 宮 廷 音 楽 と し て 発 展。 そ の 間、 少 し ず つ 楽 器 編 成 や 音 階、 メ ロ デ ィ ー、 そ し て 踊 り の 動 き や 衣 装 な どがマレー特有の形に変化し、 ﹁ガム ラン・ムラユ﹂あるいは﹁ジョゲッ・ ガムラン﹂と呼ばれるようになりま した。 思わず、こちらも胸が高鳴ります。 楽 に 合 わ せ て 笑 顔 で ス テ ッ プ を 踏 む。 明るいカラフルな衣装を着た男女 が、 ア コ ー デ ィ オ ン や バ イ オ リ ン の 音 西洋やアラブの影響を 受けた陽気な舞踊 Muzik Asli マレー民謡ムジクアスリ 当 時 の 楽 器 の 一 部 は、 現 在、 パ ハ ン 州 プ カ ン に あ る ス ル タ ン・ ア ブ・ 20 マレーの舞踊とその伴奏の音楽であ る マ レ ー 民 謡︵ Muzik Asli ︶ は、 マ レ ー シ ア の 歴 史 の な か で、 ア ラ ブ や ポルトガルなど多様な文化の影響を 受 け、 そ れ ら を 融 合 さ せ な が ら 形 づ く ら れ て き ま し た。 舞 踊 と そ の 音 楽 に は、 大 き く 分 け て﹁ ザ ピ ン ︶ ﹂ 、 ﹁ジョゲッ︵ Joget ︶ ﹂ 、 ﹁イ ︵ Zapin ︶ ﹂ 、 ﹁ ア ス リ︵ Asli ︶ ﹂の ナ ン︵ Inang 種 類 あ り ま す。 そ れ ぞ れ 決 ま っ た 太 鼓 の リ ズ ム が あ り、 踊 り の ス テ ッ プ も 異 な り ま す。 今 に 残 る マ レ ー 民 謡 の 曲 の 数 々 は、 世 紀 の 終 わ り か ら 世 紀 初 頭 に か け て、 西 洋 の 影 響 を 受 け て 盛 ん に 演 じ ら れ た マ レ ー・ ︶ ﹂ オ ペ ラ﹁ バ ン サ ワ ン︵ Bangsawan の劇中で演奏されたものです。 例えば、 ﹁ザピン﹂はメロディーを 聞 く と、 そ の 音 階 か ら ア ラ ブ の 影 響 を強く受けていることがよく分かり ま す。 ザ ピ ン は、 マ レ ー 半 島 南 部 の ジ ョ ホ ー ル 州 で と て も 人 気 が あ り、 学校や大学対抗のコンテストも開催 されています。 マ レ ー 民 謡 は、 ア コ ー デ ィ オ ン や バ イ オ リ ン、 フ ル ー ト な ど の 西 洋 楽 器 と、 マ レ ー の フ レ ー ム ド ラ ム﹁ ル バ ナ ﹂ や 銅 鑼︵ ゴ ン グ ︶ が 用 い ら れ る こ と で、 日 本 人 に と っ て も 慣 れ 親 し ん だ 音 で あ り な が ら、 マ レ ー の メ ロディーやリズムが独特の音楽をつ くり出しています。 マ レ ー の 舞 踊 は、 日 常 の 儀 礼 な ど と 結 び つ く こ と は ほ と ん ど な く、 鑑 賞を目的に踊られることが多いた め、 と て も 明 る く、 華 や か で あ る こ とが特徴です。 4 マレーシアの文化紹介などで、きら びやかな衣装に頭飾りをした 名ほど の女性たちが一方向を向いて踊ってい る写真を見たことがあるかもしれませ ん。 年にユネスコの無形文化 遺産に登録されたマレーシアの歌舞劇 ﹁ Mak Yong ︵マッヨン︶ ﹂ です。 これは、 歌、踊り、音楽やセリフ、そして儀礼な ど、さまざまなマレー文化の要素が凝 縮された伝統芸能の一つです。 かつて、マッヨンは大衆芸能として クランタン州を中心にトレンガヌ州、 そして南部タイのパタニ地方の農村で 娯楽や治療行為を目的に演じられて クランタンの王 いました。 世紀初頭、 宮で擁護された時期もありましたが、 長くは続きませんでした。 その当時は、 衣装も今ほど華美ではなく、村人の生 活に根ざした芸能でした。 しかし、 社会 的、宗教的理由でクランタン州でも演 じるグループが減り、クアラルンプー ルのような都会で保存継承のために演 じられるようになると、よりモダンな 要素も取り込まれ、今日のような華や かな衣装を身にまとう、様式的な歌舞 劇へと変化してきました。 物語は、クランタンやパタニ地方の マレーの伝説や神話に基づき、神々や 宮廷人、 伝説上の王子、 道化などが登場 します。 ︶ 王様パッヨン︵ Pakyung 主役の一人、 と踊り子たちが、この歌舞劇でとても 大切なマレーの伝統的な弦楽器﹁ルバ ブ﹂に向かって敬意を表しながら歌う 独特な掛け合いの歌と象徴的な踊り ︶ 。 マレーの太鼓﹁グ ︵ Menghadap Rebab ンダン﹂ や、 銅鑼﹁トゥタワッ﹂ 。 劇中に 登場するパッヨンと道化たちの非常に 強いクランタンの方言でテンポよく語 られるセリフ。インド舞踊に由来する とも言われる踊りの手の動き。言葉が 19 20 15 バ カ ー 博 物 館 に 展 示 さ れ て い ま す。 年代から 年代のマレー映 画黄金期の作品のなかに登場する宮 廷 の シ ー ン な ど で も、 そ の 踊 り の 様 子とガムラン演奏を観ることができ ます。 第 二 次 世 界 大 戦 中、 ガ ム ラ ン も 一 時衰退しますが、 年代以降 は、 宮 廷 で は な く、 大 学 や 国 立 芸 術 アカデミーなどの教育機関や文化施 設 で 演 奏 さ れ る よ う に な り ま し た。 大 学 の キ ャ ン パ ス を 歩 い て い る と、 遠くからガムランの音が聴こえてく る こ と が あ り ま す。 様 々 な イ ベ ン ト やマレーの結婚式などで演奏をみか けた方もいるかもしれませんね。 多民族国家マレーシアを象徴する よ う に、 中 華 系 の 太 鼓 や イ ン ド 系 の 太 鼓・ タ ブ ラ を 取 り 入 れ る な ど、 コ ンテンポラリーな楽曲を多く演奏す ︵ リ ズ ム・ イ る﹁ Rhythm in Bronze ン・ブロンズ︶ ﹂のような、エンター テイメント性に富んだステージを展 開するガムラングループも出てきて い ま す。 生 演 奏 を み ら れ る 機 会 は 少 な い か も し れ ま せ ん が、 チ ャ ン ス が あ れ ば、 そ の 独 特 な 楽 器 の 響 き に 耳 を傾けてみてください。 Universiti Sains Malaysia が所有する ガムラン・ムラユのセット 60 1 9 6 0 Mak Yongの最初に踊られる大切な踊り Menghadap Rebab の様子。 現在、マッヨンの役者のなかで最も 注目されているRosnan Rahman氏 (写真中央)がパッヨンを演じている。 (写真:Zamree Salleh) ムティアラ ・ アーツ・プロダクション代表。 Universiti Sains Malaysia にてマレーシアの伝 統芸能について 研究後、東南アジア芸能コー ディネーターとして活動。マレー 語通訳 ・ 翻 訳家兼ガムラン奏者。 20 14 15 亜季 ●上原 2 0 0 5 1 9 5 0 Mak Yong:籐のお仕置き棒 (Rotan berai) を手にしたパッヨンが、 2 人の道化 Peran Tua と Peran Muda を制する。 (写真:Zamree Salleh) マレー舞踊の一つ「ザピン」を踊るこどもたち。 Mak Yongのなかで最も重要な楽器「ルバブ」。 超自然的な意味をもつともいわれ、 人の声にも似た魅惑的な音が役者たちの歌をリードします。
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