テヘランの生活

現地駐在員だより
テヘランの生活
これから増えるであろう日本人の皆様へ
豊田通商㈱
前 イラン事務所長
大田
治穂
制裁解除に沸くイランの首都テヘラン。人口約7,800万人の約1/7がテヘラン近郊に住ん
でいる。縦横1,500km のひし形のイランの北に位置し,日本と同じ四季があるが,標高
1,200m~1,500m の盆地で,冬は空気がこもりやすく,非常に乾燥している。
日本人駐在員は約100名で,家族も含めると約150名。少ないだけに,非常に仲がいい。
特に奥様ネットワークは非常に親密で,なかなか隠し事もできない。
テヘラン駐在が始まった2011年4月には,駐在員数も家族含めて300名以上いたが,経
済制裁が強まり,あっと言う間に減少。日本人学校の生徒も30数名より最小6名までに減
ったが,ここにきて14名(小・中合わせ)まで復活。多分あっと言う間に30名を超えると
思われる。
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1)環境
中東の生活というと,危険で,暑くて,砂漠だらけで,娯楽もなく,酒も飲めないと誰
もが想像する。
イランも確かにイスラム教国家で,無論それらが当てはまらないこともないが,初めて
イランに来られる方は,皆想像していた以上にいい国だねと口を揃えて言われる。これま
での駐在員が厳しさを強調していた禁忌を破るが,テヘランはいい所です。(駐在の皆さん
ごめんなさい)
無論注意は必要だが,テヘランは多分中東で一番安全な都市かもしれない。南の大きな
バザールあたりではたまにスリ・ひったくりはあるが,北の居住区は非常に少ない。重大
な殺傷事件やテロは今のところ殆どない。
夏は暑いが,乾燥しているので非常にすごし易い。冬はテヘランでも1-2回降雪があ
り,雪帽子を被った山々をみていると,まるでヨーロッパにいるような錯覚に陥る。
お酒は無論禁止で,イランに持ち込むのも,外で飲むのも禁止されている。ただ大抵の
イラン人は家では飲んでいる。密輸のルートがあり,交通事故のトップは飲酒運転であり,
飲酒運転の取締もある。アルコール中毒患者の増加が社会問題となっている非常に矛盾し
た国である。環境面で文句をつけるとしたら,空気の悪さと交通渋滞。
2)娯楽
日本に比べれば確かに娯楽は少ない。イラン人の休日の過ごし方は,大家族での公園散
策(休日の公園で家族でお茶を飲みながらの長時間のおしゃべり),山登りなど。
日本人会の年間行事で,テニス大会・ゴルフ大会・ソフトボール大会等があるため,休
日にはテニスをするグループと,暇人会と称するゴルフグループがあり,冬には毎週のよ
うにスキーに行く人もいる。テヘラン近郊にはディジンなど数多くのスキー場があり,
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2,000m 以上の高度にあるせいか,本当にサラサラのパウダースノーで,スキー好きには
たまらない。スポーツをしない人はもっぱら家に籠り,読書・DVD 鑑賞など。大使館・
日本人学校には書籍・漫画が多くあり,結構楽しめる。
その他歴史のある国だけに,地方にはぺルセポリスなどの遺跡,イスファハン・タブリー
ズ等旅行好きは毎週のように出かけている。近くにもダマバンドのけしの花,温泉など見
どころもあり。(因みにダマバンドは日本人にとっての富士山みたいな山で,日本の千円札
の湖側に写ってる富士山はダマバンドだと主張するイラン人もいる)
3)住環境
テヘラン北部山沿いがもっぱら高級住宅街で,日本人始め外国人が多く住んでいる。
為替の変動(2011年1ドル11,200が現在約35,000リアル)及びハイパーインフレ(1
昨年は30%超)のため,小金持ちは車購入,大金持ちはマンション建築に動いていること
もあり,どこもかしこも建築ラッシュ。おかげで現在はそこそこ新築のきれいなマンショ
ンがたくさんある。
ただ見かけは綺麗だが,水回りが悪かったり,隙間風が入ってきたり,建付けは決して
良くない。夜の騒音も結構ひどい。まわりで建築中のマンションが多く,夜作業していた
り,また休日前にはご近所さんが2時過ぎまでダンスパーティーしていたりするので,子
供のいるところは結構家探しが大変。
4)食事・レストラン
イランの代表料理はやはりケバブ。煮込みのスープなどもあるが,イラン人と食べる時
は,大抵ケバブ屋。ナイアブ・アルボーズなど有名レストランもあるが,日本人が一番好
きなのはラムチョップの有名なシャンディーズ。大抵の駐在員は本帰国の前に最後にもう
一度シャンディーズで食べたいというそうだが,個人的にはバハールシラーズのチキンケ
バブ(焼き鳥)が最高。
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その他にインド料理・イタリア料理店も充実している。10年前には小麦粉の質が悪く,
ブチブチ切れる最低のパスタだったが,今はかなりいける。
また10年前にはコーヒーはお湯しか出てこなく,備え付けのインスタントコーヒーを入
れるのが主流だったが,今はしっかりしたコーヒーが出てくる。
イラン人の主食のナンも何種類もあるが,どれも焼きたてがうまい。夕方にはナン屋に
は行列ができ1枚15円くらいのナンを何十枚も買って帰る人を見かける。残念ながら乾燥
しているせいか,食べ残したナン(バルバリ等)は朝にはバリバリになっており,スープ
にでも入れないと食べられないが,イランの人はこの硬いのがいいという。日本に行って
も食パンの耳しか食べないイラン人もいる。
肉食系なので,内臓・もつ焼きもあるが,どうしても慣れないのが,羊の脳みそ。しか
も朝に食べる。
5)最後に
何年住んでいても,どんなに仲の良いイラン人でも,どうしても最後の一線は越えられ
ない。それが宗教から来るのか,味覚・感覚など習慣から来るものなのかわからない。
片や悠久の時を超え,ガス・石油・鉄鉱石など鉱物を持つ世界有数の資源国であり,片
や資源を輸入に頼る島国の民。分かり合えなくても無理はないし,分かり合う必要もない
かもしれないが,協力することはできると思う。
友人から借りた“下町ロケット”の DVD を見ながら考えた。資源開発に目が行くのは
仕方がないが,イランは川下産業が決定的に遅れている。日本は世界に誇れる技術力があ
り,イラン産業の隙間を埋める技術もノウハウも持っており,この分野での協力が今後不
可欠だと思う。
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