平成20年度地域中小企業活性化政策委託事業 国内外からの観光集客人口の増加による 地域経済活性化の可能性調査 事例集 平成 21 年 3 月 九州経済産業局 事 例 集 に つ い て 本事例集は、平成 20 年度地域中小企業活性化政策委託事業「国内外からの観光集客人口の増加 による地域経済活性化の可能性調査」において、観光資源を活用して地域経済の活性化に繋げよ うとしている取組について、ヒアリングを行った九州の主な事例を参考として紹介するものです。 事例の紹介にあたっては、以下の3つの「取組のカギ」の視点で、当該地域の取組の特徴を整 理しました。 1.地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 2.地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 3.受入れ態勢の充実とその「見える化」 個々の事例は、なぜその地域で取組が始まったのか、地域の特性と取組に至る沿革をまとめ、 そして、観光を通じた地域活性化への取組と今後の課題をヒアリングの内容をベースに整理しま した。 これらの事例が、九州各地域において観光を通じた地域活性化へ取組まれている方々の参考に なれば幸いです。 最後に、本調査事業の実施にあたり、ヒアリングに御協力頂きました関係各位に心より感謝申 し上げます。 平成21年3月 九州経済産業局企画課 九州の 9 事例 目 次 事例集について 【事例 1】さらなるアジア人観光客の集客拡大に向けた取組(福岡県福岡市) ...........................................1 【事例 2】異国情緒あふれる街並みを活かしたイベントで観光客増(長崎県長崎市) .............................7 【事例 3】急増する韓国人観光客に対応した地域資源の活用(長崎県対馬市) ....................................... 13 【事例 4】手つかずの自然と島民の暮らしを観光資源に(長崎県小値賀町)............................................ 19 【事例 5】地域資源を活かした米米惣門ツアーによる温泉地の復興(熊本県山鹿市) ......................... 25 【事例 6】中核的推進組織による阿蘇カルデラツーリズムの展開(熊本県阿蘇地域) ......................... 31 【事例 7】オンパク型手法による地域資源の活用と人材育成(大分県別府市) ....................................... 37 【事例 8】スポーツツーリズムによる集客の取組(宮崎県宮崎市など) ..................................................... 45 【事例 9】桜島をまるごと博物館として体験観光をビジネス化(鹿児島県鹿児島市桜島)................ 53 【事例−1】 さらなるアジア人観光客の集客拡大に向けた取組 (福岡県福岡市) 福岡での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・福岡市は玄関口であるがゆえに通過都市となってしまい、多くの集客を地域の消費や産業活 性化に活かしきれていないという課題がある。 ・福岡市では、多くの集客を地域産業の振興に結びつけるため、従来型の観光だけではなく、 幅広い目的で訪れる来訪者を活かした産業振興「ビジターズ・インダストリー(集客産業) 振興」を行っている。 「福岡賑わいのまちづく ・官民協働の組織「ビジターズ・インダストリー推進協議会」では、 り戦略 2011」を策定し、インバウンド観光客数を平成 23 年に 100 万人とすることを目標と して、プロモーション・受入態勢の強化を官民協働で行っている。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・福岡を訪れるアジアからの観光客にとって、ショッピングは大きな魅力の一つとなっており、 上記の受入態勢の充実によって、その魅力を増やそうとする取組が行われている。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・平成 20 年以降、中国人観光客を乗せたクルーズ船が相次いで博多港に寄港している。福岡 市では、クルーズ客の福岡での限られた滞在時間を有効に使ってもらうため、入国手続きの 迅速化に取組んでいる。特例認可を受けるため、入国管理局や国税庁との折衝を図り、実現 に結びつけている。 ・行政・民間ともに言語面での対応の充実に取組んでいる。福岡市では、行政では全国初めて の試みである「外国人向け観光案内コールセンター」を開設。また、キャナルシティ博多・ マリノアシティ福岡ではテレビ電話通訳システムの導入を開始している。 ・商店向けに外国人客の接客マニュアルを作成する動きも増加。福岡市では「指さし会話集」 を発行、新天町商店街では「外国人客接客マニュアル」を作成している。商店街作成のマニ ュアルは、商店街内に留まらず、福岡都心のショッピング施設でも活用が始められている。 ・中国版デビットカードである「銀聯カード」への対応も天神地区を中心に拡大しており、銀 聯カードの取扱い実績も増加している。 《取組の成果》 ・クルーズ誘致は多くの集客効果があり、平成 20 年度において 23 回の寄港、2 万 6 千人の来 訪があった。受入態勢の充実は、外国人観光客の消費活動の活性化にも寄与しているものと 考えられる。 1 1.地域特性と沿革 福岡市は、アジアに近接した地理的優位性から、「アジア の玄関口」として多くのアジアからの観光客を受入れている。 国籍別にみると特に韓国人客が多く、福岡空港と博多港の入 国外国人のうち 70.6%を韓国人が占めている。 平成 7 年以降の福岡空港・博多港への入国韓国人数の推移 をみると、平成 7 年に 13.3 万人であったものが平成 19 年に は 50.9 万人まで急増している。平成 14 年以降は対前年比 10%以上の増加を続けているが、特に平成 18、19 年はウォ ン高の影響もあり増加の勢いに拍車が掛かっている。 図表 福岡を訪れる外国人の国籍 フィリピン 1.6% タイ 香港 1.6% 1.5% 中国 6.7% その他アジア 2.4% その他 4.3% 台湾 11.1% 韓国 70.6% 資料)福岡市「平成 19 年福岡市観光統計」 図表 福岡空港・博多港への入国者数の推移 資料)福岡市「福岡市観光に関するデータ集」 2 しかし、韓国国内の景気後退やウォン安の進行を受け、日本に来る韓国人観光客数は平成 20 年に入って大きく減少しており、特に海外客の 7 割を韓国人客が占めていた福岡市の観光に大き な痛手となるのは間違いない。 また、福岡空港や博多港を利用して入国する韓国人客が多い一方、福岡にはあまり滞在せずに、 東京・大阪や九州内でも別府・湯布院といった温泉地に向かう観光客は多い。福岡が玄関口であ っても目的地ではないため通過都市となってしまい、実際には多くの集客を地域の消費や産業活 性化に活かしきれていないという課題がある。これは、公共空間や公共交通機関での外国語案内 が早くから整備されてきたのに対し、集客施設や商業施設では外国人客への対応を積極的に行っ てこなかったため、韓国人客にとって魅力とならなかったことも一因であろう。 一方、中国からの観光客は平成 19 年の福岡空港・博多港への入国者数をみると 4.8 万人にすぎ ないが、今後の増加が期待されている。平成 20 年より、中国からの観光客を乗せたクルーズ船が 博多港に寄港している。クルーズ船は、もともと福岡市が博多港への寄港を誘致したものではな い。博多港にクルーズ船が寄港するようになった大きな要因は、福岡市内でショッピングを楽し みたいという中国からの観光客のニーズが高いためである。中国でクルーズ旅行が盛んになった 背景には、もともとクルーズ人気の高かった欧米・地中海などで新しい船が投入されるようにな り、それまで使っていた船の新たな活用先としてアジア、特に中国が注目された経緯がある。ク ルーズ船が博多港に停泊する間、中国人観光客は天神地区での買い物や太宰府・九州国立博物館 巡りなどを楽しんでいる。 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)行政の取組 福岡市では、多くの集客を地域産業の振興に結びつけるため、従来型の観光だけではなく、幅 広い目的で訪れる国内外の来訪者を活かした産業振興「ビジターズ・インダストリー(集客産業) 振興」を行っている。福岡市と経済界、関連民間企業などで組織する「ビジターズ・インダスト リー推進協議会」では、平成 20 年 6 月に「福岡賑わいのまちづくり戦略 2011」を策定した。本 戦略は、福岡市がこれまで担ってきた「アジアの玄関口」の役割から、アジアの人々が滞在・交 流する、アジアから一番近い日本の都市「アジアゲートウェイ都市・福岡」へとステップアップ していくことを目指している。 本戦略では、平成 18 年に 62.6 万人だったインバウンド観光客数(福岡空港と博多港の入国者 数)を、平成 23 年に 100 万人にする目標を設定している。特に、中国からの入国者数は、クル ーズ船の誘致・受入や他都市・エリアとの連携により年平均 25.0%増の 14 万 4 千人を目標にし ている。一方、韓国からの入国者数は、近年の大幅増加の実績よりは抑制されるものの、釜山と の観光交流圏の形成により年平均 9.4%増の 64 万 8 千人と設定している。 本戦略を具体化するために実施する 5 つのプロジェクトのうち、 「アジアゲートウェイプロモー ションプロジェクト」と「アジア受入体制プロジェクト」については、特にアジアからの観光客 の集客拡大を図るものである。 3 図表 「福岡賑わいのまちづくり戦略 2011」の重点プロジェクト 福岡賑わいのまちづくり戦略 2011 ①アジアゲートウェイプロモーションプロジェクト ・福岡・釜山の共同事業(共同観光誘致、周遊旅行開発、共同イベント等) ・クルーズ観光の誘致と受入 ・アジア主要都市へのプロモーション企画・実施(アジア主要都市との連携・交流促進等) ②アジア受入体制プロジェクト ・買物、移動のしやすい環境の整備(公共空間の外国人対応を高めるための計画策定等) ・着地型ビジネスの振興(施設・店舗の外国人対応力を向上させるための研修会の実施等) ・アジアからの来訪者へのマーケティング調査 ③人材ネットワーキングプロジェクト ④都市回遊促進プロジェクト ⑤集客拠点活性化プロジェクト 資料)福岡市「福岡賑わいのまちづくり戦略 2011」 クルーズ船「レジェンドオブザシーズ」号 「福岡賑わいのまちづくり戦略 2011」でもターゲットに掲げていると おり、平成 20 年以降、中国人観光客を 乗せたクルーズ船が博多港に寄港して いる。クルーズ客受入れのために実施 された取組として、最も大きなものは 資料)福岡市 HP CIQ(customs, immigration and quarantine;税関、出入国管理、検疫)手続きの迅速化である。 具体的には入国審査を迅速化するため、参加者のパスポートを預かるかわりに「仮上陸許可証」 を渡し上陸させる。前寄港地から職員が乗船し、船内で仮上陸許可証の発行手続きを完了、生体 検査はターミナルで実施しターミナルまではシャトルバスで移送を行う。預かったパスポートは 乗客が上陸中に正規の手続きを済ませ、帰船時に返還するというやり方である。また、外国人旅 行者が市内のショッピングで免税を利用する際にはパスポートの提示が必要になるが、これも仮 上陸許可証の提示で免税が受けられることが認められている。 また、福岡市では平成 20 年 7 月から、外国人旅行者のための外国語による情報提供を充実させ ようと、英語、中国語、韓国語の 3 カ国語で対応する「外国人向け観光案内コールセンター」を 開設している。これは、行政が提供する常設の外国人向け電話観光案内としては全国初の試みで ある。これまでは市内に 3 カ所ある観光案内所で外国人向けの案内も行っていたが、場所が限定 されていること、また外国人観光客が急増したことによって、電話での観光案内を開始すること になった。利用は無料(通話料が必要)で、コールセンターは通訳会社(株)ビーボーン(福岡市) の外国語担当コールセンターが担当している。交通機関や観光施設、宿泊施設の案内だけでなく、 民間の飲食店やショッピング情報も提供している。 4 地下鉄の外国語サポートサービス 同様のサービスは、福岡市交通局でも平成 21 年 4 月から提供を開始する予定である。 同局の外国語サポートサービスは、地下鉄全 線(35 駅 41 窓口)の駅窓口で実施する。駅 窓口の電話を通じて地下鉄職員と外国人客 の間に通訳オペレーターが入り、案内業務の 円滑化を図るものである。 資料)福岡市交通局 HP さらに、増加する外国人観光客に対応する ため、商店向けに外国人客の接客マニュアルを作成する動きが増えている。福岡市では、平成 20 年 3 月に「指さし会話集」を発行し、市内の商業施設に配布している。これは、買い物に必要な 基本会話や物の名称が日本語と韓国語併記で書かれており、店員と外国人客が一緒に見ながら該 当する会話・単語を指さしでコミュニケーションを取るというものである。 (2)民間の取組 アジアからの観光客の集客拡大と消費活動の活発化に向けた取組は民間でも行われている。特 に、中国人富裕層の消費活動に大きく期待を寄せる商業施設では様々な取組が行われている。大 丸福岡天神店では、平成 20 年 3 月から外国人客向けの応対窓口を常設している。また、これまで 土日祝日のみ行っていた外貨両替を全営業日に拡大したほか、外国語案内の強化も進めている。 中国版デビットカードである「銀聯カード」の導入は、大丸福岡天神店のほか岩田屋、福岡三 越、ベスト電器、キャナルシティ博多などで始まっている。銀聯カードの利用可能店舗は天神地 区を中心に拡大しており、銀聯カードの取扱い実績も増加している。岩田屋では、昨年の中国か らの観光客の買い物のうち、6~7 割は銀聯カードでの支払いだったということである。また、市 内で両替業務を行う銀行では、両替時間の拡大なども行われている。 福岡市が「指さし会話集」を作成して以降、民間の商業施設でも独自の指さしマニュアルを作 成する動きが増えている。天神にある新天町商店街では、平成 20 年 4 月に「外国人客接客マニュ 新天町の「外国人客接客マニュアル」 (指さしマニュアル) 資料)新天町商店街 5 アル」を作成、商店街内の各店舗に配布している。このマニュアルは日本語のほかに英語、中国 語、韓国が併記されており、飲食業編と物販業編の 2 冊を合計で 1,000 冊作成した。なお、新天 町ではこのマニュアルを他でも利用してほしいと考えており、新天町も加盟している天神地区の 商業施設の集まりである「都心界」では、ソラリアステージ、天神コア、イムズ、VIORO、ソラ リアプラザの各施設でも指さしマニュアルの活用を始めた。 福岡地所(株)が管理運営する商業施設のマリノアシティ福岡 テレビ電話通訳システム でも独自の指さしマニュアルを作成、同施設及びキャナルシテ ィ博多の各店舗に配布している。 さらに、キャナルシティ博多、マリノアシティ福岡、リバー ウォーク北九州の 3 施設では、平成 21 年 2 月よりテレビ電話通 訳システムの導入を開始した。これは、各施設のインフォメー ションセンターに設置されたテレビ電話を通じて、遠隔地にい る常駐の通訳スタッフと会話することができるシステムである。 英語・韓国語・中国語のほか手話通訳にも対応している。利用 者は無料でこのサービスを使うことができる。このシステムは、 通信システム開発を手がける(株)Loux(山形市)によって提供 されている。サービスは月 10∼20 件の利用があり、利用者の大 部分は韓国人で、内容は館内の案内と落とし物や迷い人などの問 資料)福岡地所(株)HP い合わせが多い。キャナルシティ博多を訪れる中国人も増えており、今後は中国人利用者も増加 することが見込まれる。 3.今後の課題 福岡を訪れるアジアからの観光客にとって、ショッピングは大きな魅力の一つである。ただし、 それらは免税で安く購入できる海外ブランドの洋服であったり、100 円ショップの商品であった り、日本製の電子機器や化粧品である。福岡あるいは九州ならではのお土産を購入するアジアか らの観光客はまだ少ないのが現状である。こうした地域産品の購入が増えない理由として、店舗 での外国語表記の少なさが課題として挙げられる。外国人客が多い福岡市では、英語や韓国語を 中心に商品名に外国語表記を行う店舗が増えているが、商品の特徴や由来、効果など詳細に表記 してあることは少ない。そのため、外国人客はその商品が地域産品であるかどうかを知ることが できないのである。外国語表記する店舗を増やすとともに、表記する内容をさらに充実していく ことが求められる。 また、新天町商店街の中の呉服店では、販売している着物を見るために店内を訪れる外国人客 がいると言われている。しかし、現状では着物に対して興味は持っているものの、購入するまで には至らない。新天町では、上述のとおり指さしマニュアルを各店舗に配布し、外国人客とのコ ミュニケーションを図っているが、着物のような高額商品では指さしマニュアル以上のレベルの コミュニケーションが求められている。百貨店などでは、中国人クルーズ客が訪問する日にだけ 特別に外国人スタッフを配置している。高額商品を販売する店舗では、外国人客と十分なコミュ ニケーションを取れるだけの態勢を構築していく必要がある。 6 【事例−2】 異国情緒あふれる街並みを活かしたイベントで観光客増 (長崎県長崎市) 長崎での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・昭和 62 年から行われてきた春節祭を活用し、長崎市と長崎新地中華街とが協力する形で、 平成 6 年から規模を拡大し「長崎ランタンフェスティバル」を開催。 ・ランタンフェスティバルの実行委員会が個別の商店主を説得し、年々装飾エリアの規模を拡 大。現在は 15 の商店街と商工会が協力する長崎の冬を代表する一大イベントとなった。 ・長崎市の市民検討委員会から提案された「まち歩きの推進」をイベント化し、平成 18 年に「長 崎さるく博’06」を開催。 ・市民からの継続開催を願う意見が非常に多く、平成 19 年から「長崎さるく博’06」は「長 崎さるく」として再スタートし、現在に至っている。長崎さるくでは、まち歩きメニューの 企画と実行が全て市民の手で実施され、利益も市民が享受する態勢が形作られている。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・ランタンフェスティバルでは、当初無関心であった商店主も、観光客を楽しませるために積 極的に協力するようになり、開催中はチャイナドレスや中国小物等、中国イメージを喚起さ せる商品を取り扱うようになる。 ・長崎さるくの観光資源であるまち歩きメニューには、長崎の名所・旧跡や料亭など、企画す る市民によって様々な地域資源が組み込まれている。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・長崎さるくでは、興味の程度に応じたまち歩きメニューや、各所でのイベント、展示を実施。 まちなかに「さるく茶屋」の設置や市民ボランティアガイドを配置し、街全体を博覧会会場、 散策コースをパビリオンとしてアピールすることに成功。 ・独自の認証制度によって「さるくガイド」を設定し、400 名超のボランティアガイドが登録。 《取組の成果》 ・ 「長崎ランタンフェスティバル」の参加者は毎年 80 万人程度、市内への経済波及効果が 90 億円程度発生。 「長崎さるく」では平成 18 年に、1,023 万人の参加者、865 億円の経済波及 効果を長崎市にもたらした。 7 1.地域特性と沿革 (1)観光資源に恵まれた長崎市 長崎市は、1570 年の大村純忠による長崎開港以来、 長崎港を中心に発展を続けてきた。江戸時代には、 オランダ、中国との交易の窓口となったため、現在 でも、グラバー園をはじめとする洋館や出島等の遺 跡が数多く残り、異国情緒を感じることが出来る。 基幹産業は、工業、造船業、水産業、そして観光 業である。長崎市には、洋館や出島の他、大浦天主 堂や浦上天主堂といった教会群、眼鏡橋、長崎新地 中華街など、数多くの名所・旧跡があり、観光資源 に恵まれている。そのため、長崎市には国内外から 数多くの観光客が訪問している。 (2)伸び悩む宿泊客数と観光消費額 長崎市への観光客の推移を見ると、昭和 50 年代後半から増加を続け、平成 2 年には市内で「長 崎旅博覧会」が開催されたことも影響し、628 万人が長崎市を訪問していた。しかし、その後減 少傾向に転じ、平成 16 年には 493 万人となった。 また、観光客数の減少と連動して、長崎市内の宿泊客数(観光客に限定)と観光消費額も減少 した。宿泊客数は、平成 9 年の 282 万人に対して、平成 16 年には 225 万人となり、7 年間で 50 万人以上減少した。観光消費額は、平成 9 年の 773 億円に対して、平成 16 年には 680 億円とな り、7 年間で 90 億円減少した。 長崎市では、伸び悩む観光客数と宿泊客数、観光消費額の減少傾向を食い止めることが求めら れていた。こうした中で、長崎市で観光客数の増加に貢献したものが、 「長崎ランタンフェスティ バル」と「長崎さるく」である。 図表 観光客数 (万人) 長崎市への観光客数推移 長崎旅博覧会 628 650 長崎さるく博'06 世界・炎の博覧会 600 568 550 524 554 543 540 570 日蘭交流400周年 560 540 526 570 564 542 539 522 512 505 512 505 504 504 476 484 500 493 458 450 434 400 350 300 暦年(年) 57 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 資料)長崎市提供資料 8 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 図表 長崎市の観光客数 (単位:千人、千円) 観光客数 平成9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 16年 17年 18年 19年 5,218 5,118 5,048 5,124 5,053 5,043 5,038 4,935 5,394 5,699 5,641 宿泊客 2,821 2,567 2,485 2,535 2,465 2,342 2,412 2,254 2,312 2,533 2,522 日帰り客 2,397 2,551 2,563 2,589 2,588 2,701 2,626 2,681 3,082 3,166 3,119 観光消費額 77,282,345 70,698,413 69,384,935 72,711,032 71,334,560 69,553,065 71,012,330 68,043,311 72,150,208 77,721,719 77,422,055 資料)長崎市文化観光部文化観光総務課 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)文化行事が発展した「長崎ランタンフェスティバル」 新地中華街のランタン 長崎ランタンフェスティバルは、もともとは昭和 62 年から長崎 市の新地中華街で始まった、中華圏における旧正月の祭りである 「春節祭」を発祥としている。長崎の春節祭は、中国の文化を後 世に伝えるための行事であり、当初は新地中華街を中心に開催さ れていた。開催中は、煌びやかなランタン(中国提灯)と大型の オブジェが所狭しと飾られる。 一方、平成 2 年以降観光客数、特に宿泊客数の減少に悩んでい た長崎市は、長崎市を盛り上げるためのイベントとして春節祭を 活用することを考え、新地中華街に協力を依頼した。同時期に、 長崎商工会議所青年部は、長崎新地中華街商店街振興組合の林敏 幸氏を座長とし、宿泊者を増やすための夜のイベント「光の街長 崎」を提案した。この結果、長崎市と新地中華街とが協力する形 資料)長崎市提供 で、平成 6 年から春節祭の規模を拡大し、「長崎ランタンフェスティバル」とした。 規模の拡大にあたって、ランタンフェスティバルの実行委員会は、浜市観光通商店街や銅座町 商店街など、周辺の商店街に協力を依頼した。当初は協力に疑問を持つ商店主も多かったが、実 行委員会が個別の商店主を説得することで、年々装飾エリアの規模を拡大していった。現在は、 15 の商店街と商工会が協力する長崎の冬を代表する一大イベントとなった。また、当初はランタ ンフェスティバルに無関心であった商店主も、ランタンフェスティバルに参加する観光客を楽し ませるために積極的に協力するようになった。例えば、ある呉服屋は、開催期間中にチャイナド レスを飾るようになり、ある小物屋は中国で売られている様々な小物を商品として取り扱うよう になった。 ランタンフェスティバルの規模が拡大するにつれ、集客数も増加している。開催当初は 30 万人 弱であった集客数は、現在 80 万人程度となっている。また、開催に伴う経済波及効果は 90 億円 程度となっている。 9 長崎ランタンフェスティバルの集客数と経済波及効果の推移 図表 (万人) (億円) 120 120 120 104 99 100 96 80 69 62 92 69 56.5 74 63 41 100 80 91 80 86 80 60 93 90 75 82 60 68 64 33 40 40 25 集客数 20 20 経済波及効果 0 0 平成7 9 11 13 15 17 19 21年 注)経済波及効果は平成 12 年から算出。 資料)長崎市提供資料 長崎ランタンフェスティバルの規模と集客数の増加に伴い、総事業費と長崎市の負担も増加傾 向にある。平成 6 年度の事業費は 5,570 万円、うち長崎市の負担は 2,500 万円であったが、平成 20 年度は、それぞれ 1 億 3,140 万円、9,400 万円と大幅に増加している。 図表 長崎ランタンフェスティバルの総事業費と長崎市負担費の推移 (万円) 14,000 13,140 12,930 12,270 12,000 総事業費 10,000 9,400 8,880 8,600 10,220 8,000 7,000 6,900 5,570 6,000 5,000 うち長崎市負担 4,000 2,000 2,500 0 平成6 8 10 12 14 16 18 20年度 資料)長崎市提供資料 また、長崎ランタンフェスティバルでは、最近、環境に配慮した取組も行われている。例えば、 省エネ・CO2 削減を進めるため、一部のランタンの中の電球は、白熱球から電球型蛍光灯に変更 している。 10 ランタンフェスティバル開催中の浜町アーケード 資料)長崎市提供 (2)まち歩きをすすめる「長崎さるく」 長崎市の観光客数の減少を解消するために、長崎市は、市民との検討委員会を開催していたが、 検討委員会では、 「まち歩き」の推進が提案された。このまち歩きをイベント化したものが、平成 18 年 4 月 1 日から 212 日間にわたって開催された「長崎さるく博’06」 (以下、 「さるく博」)であ る。 「さるく」とは、長崎弁で「ぶらぶら歩く」という意味であり、さるく博は、日本と中国、西 洋の“和華蘭”文化が混在する長崎の市街地を、ガイドと共に観光客や地元住民に歩いてもらい、 その魅力を再発見しようというイベントである。興味の程度に応じて、「長崎遊さるく」「長崎通 さるく」 「長崎学さるく」の 3 つのまち歩きメニューを設定し、グラバー園や出島などでの会場イ ベントや 19 の記念イベントも開催した。また、まち歩きを楽しんでもらうために、伝統工芸等の 道具やコレクションを店舗に展示した「さるく見聞館」や、まち歩きの途中で休憩とコースの情 報を得ることができる「さるく茶屋」などを長崎市内の複数箇所に設置し、地域の情報やコース 地図を配布した。そして、参加者を案内する市民ボランティアのガイドと補佐役のサポーターを 合わせて 500 人準備した。さるく博では、街全体が博覧会会場、散策コースがパビリオンと考え ていた。 さるく博は、最終的に延べ 1,023 万人の参加者、865 億円の経済波及効果を長崎市にもたらし た。終了後も、市民からの継続開催を願う意見が非常に多かったため、平成 19 年 4 月 1 日から 「長崎さるく」として再スタートし、現在に至っている。なお、ガイドについては、 (社)長崎国 際観光コンベンション協会に登録する独自の認証制度に基づいた「さるくガイド」を設定し、平 成 21 年 2 月段階で、414 名が登録されている。 長崎さるくの特徴の 1 つは、まち歩きメニューの企画と実行が全て市民(商店や企業を含む) の手で実施され、利益も市民が享受する態勢が形作られている点である。まち歩きメニューであ る「長崎学さるく」は、長崎ならではのテーマについて、専門家による講座や体験を通して、さ らに深く探求できるものであり、少人数による食事付きのメニューが多い。例えば、長崎の卓袱 料理などの長崎の食文化を学ぶ学さるく『長崎しっぽく「遊食会」 』は、料亭を訪問して食の歴史 や文化を学びながら実際に食事をするメニューだが、このメニューは訪問先である料亭から提案 されたものである。従って、学さるくに参加する観光客が増えれば、提案者である市民に何らか の形で経済的なメリットがもたらされるのである。 11 長崎市内のさるく茶屋 資料)九州経済調査協会撮影 3.今後の課題 長崎市は、長崎ランタンフェスティバルと長崎さるくによって、観光客の減少を止め、増加さ せることに成功した。平成 16 年には 493 万人であった観光客は、平成 19 年には 564 万人となっ た。今後も長崎市は、長崎ランタンフェスティバルへの支援、長崎さるくの取組を続け、地域経 済の活性化に資する予定である。 しかし、双方のイベントには課題がある。その 1 つは、外国人対応である。長崎ランタンフェ スティバルで活用しているランタンは、中国の文化を後世に伝えるために、中国の伝統的なデザ インを重視したものである。中国や台湾の春節祭で活用されるランタンは、現代風のデザインや アニメキャラクターなどを取り込んだものが主流となっており、却って、長崎ランタンフェステ ィバルの方が伝統的な春節祭となっていると言われている。そのため、長崎ランタンフェスティ バルに対する中国や台湾の観光客の潜在的なニーズがあると考えられているが、現在の長崎ラン タンフェスティバルは、通訳ガイドの設置など外国人対応の態勢がつくられていない。長崎さる くについても、外国人の参加者が年間 200 名弱発生しているが、まち歩きメニュー、さるくガイ ドの多言語化への取組が遅れている。 夜間開催される長崎ランタンフェスティバルに参加する外国人観光客が増えれば、市内の宿泊 者の増加が見込め、また長崎さるくに参加する外国人観光客が増えれば、メニューを企画した市 民に対する経済波及効果の拡大が見込まれる。今後、双方での外国人対応の充実が期待される。 12 【事例−3】 急増する韓国人観光客に対応した地域資源の活用 (長崎県対馬市) 対馬での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・長崎県対馬市は、釜山への高速船の就航により韓国人の観光客が急増し、平成 19 年には島民 人口の 1.7 倍となる 6 万 5 千人以上が訪問。 ・対馬市では、韓国釜山市に「(財)対馬国際交流協会釜山事務所」を設立。韓国人スタッフ 2 名が駐在し、PR や問い合わせ対応、韓国の旅行会社への広報等を実施。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・民間事業者(有)対馬エコツアーは、手つかずの豊かな自然、多くの無人島という地域資源を 活かしたシーカヤック体験プログラムを提供。国内を中心に利用者は徐々に増加し、東京在 住で年間 10 数回来島するリピーターも。リピーターの増加に伴い対馬市商工会青年部でも、 エコツアーへの取組を開始。対馬観光物産協会は、シーカヤックマラソン大会を開催。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・対馬市商工会は、対馬市、ショッピングセンター、TMOと協力して、 「韓国語支援センター」 を設置し、週 4 日間サポーターと呼ばれる通訳を常駐させている。 ・サポーターは、通訳、観光案内、ショッピングサポート、トラブル相談に対応。また、韓国 人が多く訪れる一部の店舗では、個別に多言語化を進めている。 《取組の成果》 ・自然資源を活用したシーカヤックの取組が徐々に広がり、体験メニューの提供や大会の開催 など、徐々にエコツアーによる地域活性化へ動き始めている。 13 1.地域特性と沿革 (1)長い韓国との交流の歴史 対馬は福岡まで海路が約 132km だが、対馬から韓国釜 山まではその半分以下の約 50 km しか離れていない。その ため、古代以来、日本と朝鮮半島との交流において、対馬 は双方の窓口として機能し続けてきた。例えば、江戸幕府 の徳川将軍の代替わりの度に朝鮮王朝から日本に派遣さ れた朝鮮通信使は、対馬を経由して、対馬藩の案内・警護 で江戸へ向かっていた。 朝鮮半島との交流の歴史を背景として、これまでの対馬 と韓国の交流は、昭和 53 年から始まった朝鮮通信使行列 を再現する「厳原港まつり(対馬アリラン祭)」などの文 化交流や、ホームステイによる相互訪問、学識経験者のフ ィールドワーク等を中心に進められてきた。 また、対馬は山林が全島の 9 割を占め、耕地と宅地は 5%未満に過ぎない。平地に乏しいが、 手つかずの豊かな自然が残っている。 (2)人口減少と少子高齢化の進展 イカ釣りや真珠養殖といった水産業以外に主要産業が少ない対馬では、人口は減少の一途をた どり、高齢化率も高くなっている。対馬の人口は昭和 35 年の 69,556 人をピークに減少し続け、 平成 17 年には 38,481 人とピーク時の 55%となった。高齢化率は、 平成 17 年には 26.2%となり、 30%に迫っている。現在、対馬では地域経済の活性化が求められている。活性化の一手段として、 対馬では、観光客の誘致に取組んでいるが、日本人の入込客数は減少傾向にある。 図表 対馬市の人口と高齢化率の推移 人口 (人) 44,000 高齢化率 43,513 43,000 (%) 26.2 22.8 30.0 25.0 42,000 41,000 40,000 20.0 41,230 18.4 15.0 38,481 39,000 10.0 38,000 5.0 37,000 0.0 36,000 H7 H12 資料)総務省「国勢調査報告」 14 H17 対馬への入込客数(国内) 図表 (千人) 290 287 284 280 276 275 270 270 259 260 250 平成14 15 16 17 18 19年 注)対馬への入込客数(降客数)から厳原港・比田勝港からの入国外国人数を引いた数値 資料)長崎県「長崎県観光統計」 、法務省「出入国管理統計年報」 (3)高速船就航による韓国人訪問者の増加 一方、韓国人の来島者はここ数年増加し続けている。多くの韓国人が対馬を訪問するようにな ったのは、平成元年の比田勝−釜山間の小型旅客船「あをしお号」の就航(不定期)がきっかけ である。平成 11 年には大亜高速海運の高速船「シーフラワー」が厳原∼釜山に不定期で就航し、 平成 12 年から定期運航、平成 13 年からは比田勝∼釜山も就航した。更に、平成 17 年の「愛・ 地球博」の開催に伴い実施された韓国人の短期滞在ビザ免除以降、対馬を訪問する韓国人は急増 し、平成 19 年には 6 万 5 千人を超えるようになった。 図表 対馬への入国韓国人の推移 (人) 65,750 70,000 60,000 50,000 42,467 36,768 40,000 30,000 21,055 15,725 20,000 10,000 8,242 8,331 12 13 10,559 2,119 0 H11 14 15 16 17 18 19年 注)厳原港、比田勝港に対する入国韓国人の合計 資料)法務省「出入国管理統計年報」 対馬観光物産協会が、韓国人訪問者約 1,000 人に対して平成 20 年 5 月に実施したアンケート調 査によると、韓国人の来島動機のおおよそ 9 割が観光目的であり、その主な内訳は、歴史(体験)、 登山、景観、釣りである。対馬に残る豊かな自然を楽しむ韓国人が多いことがうかがえる。 15 また、少人数の釣り客を含めて、韓国人の多数は、韓国の旅行社が提供するツアーに参加する 形で対馬を訪問する。韓国人のツアーは、韓国人の通訳兼ガイドが韓国から同行する形が一般的 である。 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)行政と対馬観光物産協会の取組 これまで対馬市は、外国語青年招致事業(JET プログラム)の予算で、韓国人の国際交流員を招 いてきた。国際交流員は、韓国語講座の講師、民間団体の交流イベントへの参加、観光物産協会 のパンフレット作成等で活躍した。 また、平成 15 年 4 月には、韓国釜山市に、対馬市の総合窓口として機能する「(財)対馬国際交 流協会釜山事務所」を設立した。現地採用の韓国人スタッフ 2 名が駐在しており、Web での PR、 各種問い合わせへの対応、韓国の旅行会社に対する広報等を実施している。 (2)対馬市商工会・個別商店での取組 対馬市商工会は、対馬市、対馬市交流センター(厳原にあるショッピングセンター) 、TMO(Town Management Organization の略。中心市街地活性化法に基づき,市町村の商業関係者が組織す るまちづくり機関)と協力して、交流センター内に「韓国語支援センター」を設置し、週 4 日間 サポーターと呼ばれる通訳を常駐させている。サポーターは、通訳、観光案内、ショッピングサ ポート、トラブル相談に対応している。また、対馬市交流センター内にある店舗など、韓国人が 多く訪れる一部の店舗は、韓国語での商品紹介や、韓国語での案内表示など、個別に多言語化を 進めている。 厳原市内の薬局におけるハングル表記での商品紹介 資料)九州経済調査協会撮影 ただし、ヒアリング調査によると、多くの韓国人が利用するクレジットカードによる決済に対 応した店舗の数は少ない。また、韓国人観光客向けの新たな商品・サービスの開発については、 対馬市商工会が長崎県の「地域商工業新展開支援事業費補助金」(商工農水連携事業)を活用し、 対馬の養殖マグロの内臓を使った新製品の研究を進めているが、参加するのは一部の店舗にとど まっている。商工会全体での新たな商品・サービスの開発の対応は遅れている。 16 (3)その他民間での取組 対馬市には、国内外の来島者に対して、登山等のトレッキングやシーカヤック、そば打ち、乗 馬などの体験メニューを提供する民間事業者があるが、シーカヤック体験の受け皿組織として機 能しているのが、(有)対馬エコツアーである。 あ そう 対馬は、手つかずの豊かな自然が残り、多くの無人島により構成されているため、対馬の浅茅湾 の中にシーカヤックで入ると、海と山を同時に見ることが可能で、360 度人工の建築物を見るこ とがない場所に行くことができる。こうした場所は、海上や砂漠、寒冷地を除くと、世界の中で も稀であるといわれている。 平成 16 年に設立された同社は、シーカヤックを使った海上のツアー(1 日 1 万円)、ダイビン グ(シーカヤックを含めて 2 日 2 万円)などの「エコツアー」の体験メニューを観光客に提供し ている。現在のエコツアーの年間利用者は、夏場を中心に 600 人程度であり、利用者のほとんど は日本人である。しかし、利用者は徐々に増加し続けており、東京在住で年間 10 数回来島するリ ピーターも現れるようになった。また、リピーターの増加に合わせて、同社はツアーの出発地周 辺の空き家を買い取り、合宿等での利用を想定した宿泊施設としての改築を進めている。 リピーターの増加に伴い、対馬市商工会青年部でも、エコツアーに取組始めている。上対馬支 部では、 「上対馬シーカヤック」を設立し、体験メニューを提供している。また、対馬観光物産協 会は、 「シーカヤックマラソン大会」を実施している。このように、徐々にではあるが、エコツア ーによる地域活性化への動きが見られるようになっている。 エコツアーが実施される浅茅湾(左)と(有)対馬エコツアーのシーカヤック(右) 資料)九州経済調査協会撮影 また、(有)対馬エコツアーは、増加する韓国人観光客のエコツアーへの参加による売上増を狙っ ている。そのため、平成 20 年には韓国語のホームページを開設し、同年 12 月には、釜山に立地 する韓国の旅行社 8 社に直接営業活動を展開している。1 日 1 万円という利用料金がネックとな り、現時点では韓国の旅行社による対馬への旅行プランには、エコツアーが含まれていないが、 対馬における観光コンテンツの充実を求めている韓国の旅行社の反応は良いと言われている。同 社は、韓国人の団体客に向けた新たなツアーメニューづくりに取組んでいる。 17 3.今後の課題 (1)対馬発の観光メニューの開発と主体づくり 地域経済活性化に対する対馬の課題の 1 つは、韓国の旅行社や韓国人個人旅行者の利用を促す ような対馬発の観光メニュー(着地型観光コース)の開発である。また、島内で対馬発の観光メ ニュー開発に取組んでいる企業・組織は、個別に活動を進めており、対馬が一体となった開発態 勢に至っていない。魅力ある地域資源等地域情報の集約・発信や、多様な産業を取りまとめなが ら新たなサービスの産業化を進める主体・中間支援組織の整備も課題となる。 (2)新商品・新サービス開発に対する支援 現在、(有)対馬エコツアーや対馬市商工会青年部等、対馬内で観光客向けに新商品・新サービス 開発を進める企業・組織の多くは、自助努力により取組を進めている。今後、国等の支援施策(商 品・サービスの開発費の助成や、開発した商品・サービスの販路開拓等)を活用し、新商品・新 サービス開発を加速化することが期待される。 (3)現在表面化している問題点の着実な解消 現在の対馬では、急激な韓国人観光客の増加により、韓国人釣り客による「まき餌」の問題(外 国人に対して禁止されているまき餌を、一部の韓国人観光客が実施することによる漁業関係者と のトラブル) 、時間がかかる韓国人の入国手続き、対馬内でのウォンと円との両替等、様々な問題 が短期間で一気に表面化した。 対馬発の観光メニューの開発と主体づくり、新商品・新サービス開発に対する支援に対応する のと同時に、現在表面化している問題点を着実に解消することが課題となっている。 対馬の万関橋 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 18 【事例−4】 手つかずの自然と島民の暮らしを観光資源に (長崎県小値賀町) 小値賀での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・ゆっくり農業が出来る島を求めて来島した移住者を中心に、観光に携わる人が協力して交流人 口増加に向けた取組を開始。役場もこれに協力。 ・一元的な観光振興に向けて、観光関係の 3 組織を統合して「NPO 法人おぢかアイランドツー リズム協会(IT 協会) 」を設立。移住者がリーダーとして采配。 ・NPO 法人は、公的なまちづくりに貢献するとともに、自立した事業性を追求するために選択 された組織形態。 ・IT 協会は、役場単独ではできないことを行い、主催事業のほか、国等からの委託事業を自ら 獲得し、町からの運営補助金はゼロ。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・小値賀は、昭和 30∼40 年代の雰囲気が残る島。米と野菜と魚は自給できる豊かな島。 ・小値賀は人をもてなす風土がある。島に来たら宿泊せざるを得ない。民泊は、もともと島の自 然学校のスタッフの家に子供たちを宿泊させたのがきっかけ。 ・島の宝である「手つかずの自然」、 「島民の暮らし」、「人々とのふれあい」を、体験メニュー に取り入れて観光商品化。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・教会群を世界遺産に登録する運動の盛り上がりで、レンガ造りの旧・野首天主堂がクローズ アップされ、次第にマスコミにも注目された。 ・おぢか国際音楽祭は、経済効果よりも PR 効果が大。定着するにつれ、県内 TV の取材も増え て小値賀の露出が増加。 ・役場と IT 協会で窓口が錯綜していたが、NPO 法人に窓口を一本化。これにより観光客一人 ひとりにきめ細かな対応が可能。 ・リピーターが多いのは、体験型でホスピタリティーが良いこと、一本化した窓口で訪島前に 客の要望をつぶさに聞き、きめ細かく応えるオーダーメイド型の旅行を目指しているから。 ・小値賀の宝は「人」 。人口 3,000 人だからこそのホスピタリティーがあり、大量の客が来ない からマンツーマンに近い対応が可能。 《取組の成果》 ・IT 協会は主催事業や受託事業等を展開し、離島のハンディキャップを乗り越え、1 億円の売 上高と 10 人の常勤雇用を創出。現在、売上 5 億円を目指して新事業も展開中。 19 1.地域特性と沿革 (1)豊かだが交通不便な離島 小値賀町は、九州本土から西に 60km、長崎県五島 列島の北部に位置し、主島である小値賀島を中心に大 小 17 の島々からなる離島の町である。毎日、佐世保 港からフェリーが 4 便(約 3 時間) 、高速船が 3 便(約 2 時間) 、博多港からフェリーが 1 便(約 5 時間)就 航している。島には空港もあるが、福岡便が平成 16 年 3 月、長崎便が平成 18 年 3 月にそれぞれ休止され ている。 基幹産業は農業と漁業であり、平坦な地形の小値賀 島は米の生産量では五島列島全体の約 4 分の 1 を占め、 アワビの漁獲高ではかつて単一漁協として日本一だ ったこともある豊かな島である。しかし、昭和 30 年 代には 1 万人以上いた人口は、現在約 3,000 人まで減 少し、高齢化率は約 40%に達している。 図表 小値賀町の島々 資料)おぢか国際音楽祭HP 20 図表 小値賀町の人口と高齢化率の推移 人口 (人) 高齢化率 (%) 8,000 39.1 7,000 6,000 5,684 5,101 5,000 35.1 4,651 4,23828.3 3,765 22.0 3,268 4,000 3,000 2,000 14.7 17.1 1,000 0 昭和55 60 平成2 7 12 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 17年 資料)総務省「国勢調査報告」 (2)人口減少の危機意識をバネに「観光」で活路を 小値賀町は、周辺自治体との合併をせず、単独町政を決断した。基幹産業である農業や漁業の 低迷と、若者を中心とした人口流出が続く中、 「子ども達の未来のためにも、仕事がないなら自分 達で創ろう」という気運が高まった。物流が不安定な離島のハンディキャップから特産品販売は 困難だと判断し、 「観光」をターゲットにすることを決め、「観光産業で年間売上 5 億円、常勤雇 用 50 人を目指す」という目標を掲げた。5 億円の目標は、島の主要産業である漁業が約 10 億円、 農業が約 5 億円なので、まずは農業を目標にしたからである。 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)手つかずの自然と島民の暮らし、人々とのふれあいを観光商品化 小値賀町は、一部が西海国立公園に指定されているものの、一級の景勝地はなく、決して観光 が盛んな島ではなかった。観光の産業化に向けて売りものとなる資源は、手つかずの自然と島民 の暮らしそのもの、そして人々とのふれあいである。 まず、小値賀島の東にある野崎島の活用を考えた。野崎島は周囲 16km、面積 7.36k ㎡の急峻 な地形の島で、かつてはキリシタンを含む 3 集落 800 人が暮らしていたが、1990 年代に無人島 となった。この巨大な無人島には、野生の九州鹿が約 500 頭生息し、100 年の歴史があるレンガ 造りの教会建築(旧・野首天主堂)が建っている。 この協会建築が、教会群を世界遺産に登録する運動の盛り上がりでクローズアップされ、次第 にマスコミにも注目されたことを契機に、教会の下にある元・小中学校を平成元年に宿泊施設「自 然学塾村」に改装し、そこを拠点に無人島でのカヌー、シュノーケリング、魚釣り、トレッキン グ、鹿観察など多彩な体験メニューを整備した。 続いて、小値賀本島での観光の産業化に取組んだ。人々とのふれあいをテーマに、平成 18 年か ら島民に「民泊」での協力を依頼し、ホームステイしながら食事づくり、漁業体験、農業・畜産 21 体験、マリンクラフト、陶芸、伝統の太鼓など多彩な体験メニューを整備した。 旧・野首天主堂 カヌー体験 資料)おぢか IT 協会 HP (2)NPO 法人が地域観光の中核となり観光戦略づくりや窓口一元化を実施 平成 18 年には観光産業を一元化する組織として、従来の「観光協会」 「野崎島自然学校」 、 「民 泊組織」の 3 つを統合し、 「NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会(IT 協会) 」を立ち上げ た。同法人の中心となっているのは、島外から農業での自給自足によるゆっくりした暮らしを求 めて来島した移住者で、彼を中心に観光に携わる人々が協力して交流人口拡大に取組んでいる。 形態として NPO 法人を選んだ理由は、第 1 に自立した組織を目指したこと。第 2 に任意団体 では責任の所在が曖昧になる上、旅行会社等と契約ができないこと。第 3 に株式会社ではなく、 公的なまちづくりに貢献すべきだと考えたことにある。 設立当初は、役場と IT 協会で窓口が錯綜していたが、その後、IT協会に窓口を一本化し、ワ ンストップサービスを実現。これにより観光客一人ひとりにきめ細かな対応が可能となった。リ ピーターが多いのは、体験型でホスピタリティーが良く、一本化した窓口で訪島前に客要望をつ ぶさに聞き、きめ細かく応えるオーダーメイド型の旅行を目指しているからである。小値賀の宝 は「人」 。人口 3,000 人だからこそのホスピタリティーがあり、大量の客が来ないからマンツーマ ンに近い対応が可能となった。 IT 協会では、観光事業の推進に当たり、単に交流人口を増やして賑わいを創出するのではなく、 産業として島の経済が潤うように、 “外貨”獲得としての売上増加、島内への経済波及、常勤職員 の増加、行政からの自立という攻めの経営戦略を立て実践している。 (3)売上高 1 億円、10 人の雇用を創出 おぢか IT 協会では、島民の 30 人に 1 人が会員という地域ぐるみの活動を展開し、島の自然や 人情(もてなしの心)という地域資源を、様々な体験メニューとして商品化している。自身の主 催事業のほか、定住促進事業、子ども農山村漁村体験事業、海の体験事業等といった国等から委 託事業や旅行会社ツアーの受入など多彩な事業を展開している。 また、港のターミナルビルの指定管理者となり、売店も運営している。 結果、小値賀町への入込客数は、協会設立前の約 3,000 人から 8,000∼1 万人へと増加し、宿泊 22 者数も平成 18 年以降、民宿を中心に増加している。おぢか IT 協会の事業規模は、平成 19 年度 は 6,000 万円、平成 20 年度は約 1 億円に達し、人口約 3 千人の町で平成 20 年度に 10 人の常勤 雇用者を生み出している。おぢか IT 協会の平成 19 年度の物品購入を調査したところ、町内から の調達率は 87%に達しており、地域への経済波及が極めて大きい。加えて、現在では町からの運 営補助金を一切受けずに運営できるまでに成長した。 図表 小値賀町の宿泊客実数の推移 実数(人) 増加率(%) 平成17年 平成18年 平成19年 18/17 旅館(1軒)、民宿(6軒) 5,029 5,063 4,781 100.7 464 344 419 74.1 小値賀町若者交流センター 野崎島自然学塾村 1,696 2,000 1,925 117.9 民 泊 0 287 804 − 合 計 7,189 7,694 7,929 107.0 資料)小値賀町役場 19/18 94.4 121.8 96.3 280.1 103.1 (4)インバウンド受入でも成果 小値賀町では、インバウンドの受入でも成果を上げている。その 1 つが町制 60 周年記念イベン トとして、平成 12 年 5 月のウィーン・ダンテ四重奏団(オーストリア)のコンサートがきっかけ で毎年開催されている「長崎おぢか国際音楽祭」である。海外のアーティストも島の自然と人情 が気に入り、毎年来島を楽しみにしているという。 「長崎おぢか国際音楽祭」の特色は、コンサー トや関連イベントだけでなく、国際的な一流演奏家のレッスンを同時開催している点にあり、期 間中はレッスン希望者が東京、大阪などからも来島する。近年ではアジアのアーティストも参加 するなど広がりを見せている。 音楽祭は、経済効果よりも PR 効果が大きい。定着するにつれ、県内 TV の取材も増えて小値 賀の露出が増加し、島のイメージ向上による誘客効果につながっている。 また、平成 19 年度からは JTB を通じて「ピープル・トゥ・ピープル国際学生大使(PTP) 」の 団体を受け入れている。PTP はアイゼンハワー大統領の提唱で開始されたアメリカの修学旅行事 業で、毎年ワシントン州の高校生が世界各地に出かけるプログラムである。平成 19 年には 179 人が 9 班に分かれて 2 泊 3 日の日程で小値賀町を訪問し、全体で 1,000 人を越える町民が国際交 流に参加した。その結果、全世界のコースに参加した生徒達からとったアンケートでは、小値賀・ 平戸・長崎のプログラムが、最も満足度が高かったプログラムとして平成 19 年度、平成 20 年度 と 2 年連続で世界一の評価を勝ち取っている。 23 長崎おぢか国際音楽祭 資料)長崎おぢか国際音楽祭 HP ピープル・トゥ・ピープル国際学生大使 資料)NPO 法人おぢかアイランドツーリズム協会チラシより 3.今後の課題 おぢか IT 協会では、現在の売上 1 億円から目標の 5 億円に向けてさらなる誘客と産業化に取組 んでいる。その 1 つが京都の町家再生事業で有名なアレックス・カー氏とのコラボレーションで 実施している古民家再生事業である。個人旅行や二人旅、シニア世代の旅行が増加する中で、 「昼 間は体験を楽しんでも夜は快適な宿で他人への気遣いなくリラックスしたい」という需要に応え るため、かつて鯨漁で栄えた時代の立派な古民家を改造し、快適でおしゃれな宿と食を提供しよ うという試みである。この事業で 1 泊 3 食 3 万円×1 万人=3 億円の売上を目指している。 しかし、いくつかの課題もある。1 つが NPO 組織の限界である。目標は年間売上 5 億円と常勤 雇用 50 人であるが、NPO は非営利団体であり、利益を留保して新たな投資事業を行うことは出 来ない。そこで、NPO とは別に株式会社を立ち上げ、旅行業の免許を取得して企画、営業、広報 を行うとともに、物産の開発・販売等を行う計画である。 また、新たな事業を展開するための初期投資の資金が不足しており、投資資金の確保が課題と なっている。さらに、漁業体験や古民家再生事業など各種の事業を実施するにあたっての法規制 の壁に直面する場面が多く、法規制への対応が課題となっている。 24 【事例−5】 地域資源を活かした米米惣門ツアーによる温泉地の復興 (熊本県山鹿市) 山鹿での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 】 ・山鹿温泉は、熊本県内で最も歴史のある温泉の一つと言われ、古くから温泉地として全国的 に知られていたが、昭和 40 年代頃をピークに衰退が始まった。 ・地域住民の「以前の賑わいのある温泉地を取り戻したい」という思いから、まちづくりに力 を注いでいた行政の後押しを受けながら、観光客誘客に向けた取組に繋がっている。 ・テレビドラマのロケ地となったこと、街のシンボル的存在であった芝居小屋の修復作業を契 機に、菊池川水運で栄えた下町地区に残る街並みを活かした地域振興を行っている。 ・下町地区の従業員による任意団体「下町惣門会」により、酒造所、味噌屋、煎餅屋といった 「米」に関連した店舗の従業員がガイドを行う米米惣門ツアーを企画。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・テレビドラマを契機に地域の素材探しを行う中で、 「米」での共通点に着目し、 「米米惣門ツ アー」というネーミングやツアー内容が開発された。 ・スポーツコンベンションでは、大きなスポーツ施設が一つのエリアに集中している特徴を活 かした誘致を実施している。 【受入態勢の充実とその「見える化」】 ・米米惣門ツアーでは、店舗の従業員によるリレー方式での案内が好評である。 ・ツアー参加者の目的に合わせてガイド内容を変えるほか、別の店の商品を勧めたりバスツア ーの運転手が商品を勧めるなど、参加者の消費を促進するための工夫に優れている。 ・山鹿温泉観光協会では、市内のスポーツ施設と温泉、宿泊施設を生かし、スポーツコンベン ションの誘致に積極的に取組んでおり、協会がワンストップ窓口を担っている。 《取組の成果》 ・米米惣門ツアーを始めたことで、観光客数が増加しただけでなく観光客の滞在時間も大幅 に増加し、地域での消費へと結びついている。 ・スポーツコンベンションの誘致により、大会期間中は宿泊だけでなく、買い物、洗濯、夜 の飲食など、街の色々なところに関連した消費効果が発生している。 25 1.地域特性と沿革 山鹿市は、熊本県の北部に位置し、北は福岡県・大分県、 東は菊池市、南は植木町や玉東町、西は和水町にそれぞれ 接している。交通アクセスは、鉄道の最寄り駅となる JR 玉 名駅からはバスで 50 分と離れているものの、自動車利用の 場合は高速道路インターチェンジから 15 分程度と利便性 が高く、福岡県内や熊本市内からのアクセスは良い。 山鹿温泉は、熊本県内で最も歴史のある温泉の一つと言 われ、古くから全国的に知られている。賑わいのピークは 昭和 40 年代頃であったが、昭和 48 年に「さくら湯」とい う街のシンボルであった建物を壊し、跡地に温泉プラザビ ルを建設した頃を境に衰退が始まった。その後、大規模旅 館の建ち並ぶ温泉地から、次第に秘湯ブームに代表される 小さくても風情の溢れる温泉地に人気が集まるようになる と、山鹿温泉の観光客は減少の一途をたどった。現在は、 テレビドラマのロケや八千代座の修復を契機に、様々な取組みを通じて魅力的な温泉地へと生ま れ変わりつつある。 現在の山鹿温泉の入込客数は年間 30 万人程度。 山鹿灯籠浪漫・百華百彩 最近 10 年間、宿泊客は横ばいで推移している。日帰 り客は宿泊客の 10 倍弱で、最近 10 年間では微増で 推移している。入込客で最も多いのが福岡県からの 団体客であるが、最近は個人客も増加傾向にある。 特に首都圏からの個人客がかなり増加したほか、 「山 鹿灯籠まつり」や「山鹿灯籠浪漫・百華百彩」とい ったイベント開催によるメディア露出の影響で、最 近 3 年間で中国地方からの観光客も増加している。 資料)山鹿温泉観光協会 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)米米惣門ツアー 米米惣門ツアーは、下町惣門会(会長:井口圭祐氏)が山鹿温泉下町地区で実施しているツア ーである。この地区に店を構える酒蔵、味噌蔵、米蔵、煎餅屋など「米」に関連した店舗の従業 員が菊池川水運で栄えた下町地区に残る街並みのガイドを行っている。参加費は 1 人 500 円(お 土産付き)で、ツアー時間は 60 分、1 日 5 回程度開催している。 1、2 人の個人参加者からバス数台で訪問する 150 人クラスの大人数まで様々 ツアーの参加者は、 である。参加者は女性が半分以上で、老人会や婦人会の旅行など、比較的高い年代の参加者が多 い。米米惣門ツアーの予約による参加者は年間 4,000 人程度だが、実際には、予約無しで立ち寄 る人がとても多く、予約客の 5∼10 倍程度の客が訪問している。 26 ツアー設立の経緯 ツアーの設立は、平成 12 年 10 月から NHK で放送された朝の連続ドラマ「オードリー」のロ ケが山鹿温泉の下町地区で行われたことがきっかけとなった。下町地区の住民もエキストラとし て撮影に参加し、撮影の合間の雑談の中で、 「ドラマを見た観光客がここを訪れるに違いない。案 内して紹介もできる受入態勢を整えておく必要がある」という話で盛り上がり、ドラマ放送まで の 3 カ月間という短期間で準備に取り掛かった。つまり、全くの無の状態から始まったものであ る。 まずは地域の素材探しから始め、その結果下町地区には、酒蔵、味噌蔵、米蔵、煎餅屋が店を 構えており、これらの共通点が「米」であった。下町地区の入口にかつて惣門が建てられていた こと、ツアー内容が「米」で共通していること、さらに「米」を英語表記すると「come」になる ため、ツアーは「米米惣門ツアー」という名前に決まった。 当初は市内のボランティアガイド組織である「山鹿市旅先案内人の会」のメンバーにガイドを 依頼する予定であった。しかし、実際に立ち上げてみると、予約客以外の急な参加者が多く、ツ アーの開催も頻繁で手間が掛かってしまうため、現在は下町惣門会でガイドを行っている。 米米惣門ツアーの様子 ツアーの成功要因 ツアーの成功要因としては、企画の構想からツア ー実施までの期間が 3 カ月と短期間であったことが 大きい。「構想期間が短いため、実際の立ち上げは 見切り発車だった部分も多かったものの、おそらく タイムリミット(=ドラマの放送開始日)が決まっ ていなければ、ダラダラと動いてしまい、未だにツ アーが立ち上がっていなかったことも十分に考え られる」と井口会長は話す。また、観光ガイドでは なく、店のスタッフが直接案内をすることで詳しい 資料)山鹿温泉観光協会 説明を行うことができ、店のスタッフは自分の店に 誇りを持っているため、話の内容も面白い。その点も好評の理由だと考えられる。 ガイドはリレー方式で行われている。それぞれの店は自分の店のガイドを行い、次のお店にバ トンタッチするやり方を採用している。ツアーのエリアは全長 200m 足らずの直線であるため、 ツアー客が今どこにいて、自分の店にはいつ頃来るのか目視で把握できるところが利点である。 ツアー客の誘導などは、通りに出て身振り手振りで他の店に伝えることができる。 地域での消費を活発にするための工夫 米米惣門ツアーでは、参加者に山鹿温泉での消費を促すための工夫が特に優れている。まず、 スタッフは常にツアー内容の研鑽を図っている。ツアーの予約が入っている場合は当日の朝に打 合せを行い、ツアー客が帰った後は反省会を開いている。反省会では、 「どんな内容を話したらウ ケが良かった」 、また「この客層にこの話をしても関心が薄かった」ということをスタッフ同士で 話し合っている。参加者によって、ツアーの目的が買い物や歴史散策と異なるため、話す内容は その都度臨機応変に変化させている。 27 また、スタッフはツアーの内容が自分の店の押し売りにならないように配慮している。いかに 商品を買ってもらうかではなく、いかにお店や商品に興味を持ってもらうことができるかが大事 である。そのために有効な手段が、リレー方式で別の店の商品をアピールしていくことである。 たとえば、味噌蔵の案内スタッフが「今のシーズンはしぼりたての原酒がお勧めだ」と話すこと で酒蔵の商品をアピールする。自分の店の商品を売り込むよりも、他の店で勧められた商品やサ ービスは参加者にとって信頼性が高い。 さらに、山鹿温泉では、バスツアーの運転手にとても気を遣っている。通常の観光地では、添 乗員を厚遇する一方で、運転手の扱いには気を配らないことが多い。そのため、山鹿温泉では、 旅館で運転手のためにも宿泊部屋に一人部屋を提供したり、夕食に参加者と同じものを提供する 等配慮する。米米惣門ツアーでも、バスの駐車スペースで待機している運転手にお酒のワンカッ プをお土産に持たせる。 「帰ってから飲んでください」と渡すことで、運転手は山鹿に対して非常 に好意を持ってくれる。その結果、ツアー参加者を山鹿に案内する道中で、参加者に山鹿のお勧 めスポットや商品・サービスを紹介する運転手が発生する。運転手がお勧め商品を案内すること は観光客に対して非常に効果的で、参加者のほとんどが運転手のお勧め商品を買って帰ることも あるという。 米米惣門ツアーが地域にもたらした影響 米米惣門ツアーを始めたことによる大きな変化は、山鹿を訪れる観光客の滞在時間が大幅に増 えたことである。これまで 18 時頃のチェックインが多かったものが 14 時頃に早まり、9 時頃の チェックアウトが 12 時頃に延びたことで、山鹿での食事回数の増加に繋がった。 また、団体客の特性として、参加者の一人がある商品を購入すると、他の参加者も同じ商品を 購入する動きがみられる。例えば、米米惣門ツアーのバス乗降場所の近くにある魚屋ではシーフ ードコロッケを販売しており、特に名物ではないのだが、参加者の一人がそれを購入してバスに 戻ると、他の参加者がわざわざバスを降りて買いに行くことがしばしば見られる。同様の理由で、 ツアーの案内ルート上にある文具店では、参加者の一人が宝くじを購入したのを契機に、他の参 加者もこぞって宝くじを購入したという。 (2)スポーツコンベンションの誘致 山鹿温泉では、市内の充実したスポーツ施設と温泉、宿泊施設を生かし、スポーツコンベンシ ョンの誘致に積極的に取組んでいる。学生のスポーツ合宿からハンドボールの世界大会まで大小 様々なスポーツコンベンションを受け入れており、申込からスポーツ施設、宿泊施設の手配、開 催時期のサポートまでを山鹿温泉観光協会(事務局長:松岡靖人氏)が一括して行っている。 取組み始めた経緯 スポーツコンベンションの誘致に取組み始めた時期は、米米惣門ツアーと同時期である。山鹿 の復興に向けた取組は、全てほぼ同時期にスタートしている。 きっかけは、平成 9 年に世界男子ハンドボール選手権が熊本市と山鹿市で開催されたことであ る。山鹿市で世界大会が開催されたのは、ハンドボール女子の強豪チーム「オムロンピンディー ズ」が市内に本拠地を構えていること、市内に大きな体育館が完成したことの 2 点が大きな要因 28 である。 世界男子ハンドボール選手権の成功を受け、その後、熊本県内で開催される国体・インターハ イでも、ハンドボールと柔道が山鹿市で開催されることになった。また、国体・インターハイの 運営を円滑に進めるためにリハーサル大会も開催された。これらの大会開催による訪問客の増加 は、温泉入込客の減少に悩んでいた地元にとって励みとなり、山鹿温泉ではこれを契機にスポー ツコンベンションの誘致に取り組み始めた。 スポーツコンベンション開催地としての山鹿の強み 山鹿温泉の強みとして、ハンドボールができるコートを市内に 6 面、車で 20 分の隣町に 1 面 有していることが挙げられる。ハンドボールのコートは室内スポーツで最も大きな面積を必要と するため、ハンドボールができれば全ての室内スポーツを行うことが可能である。これだけ大き なスポーツ施設が一つのエリアに集中している地域は、九州では他に無いと言われている。 また、交通アクセスの良さも強みの一つである。スポーツ選手はバスや乗用車で来るのが一般 的である。そのため、高速道路のインターチェンジから近い山鹿の立地が強みになっている。 スポーツコンベンションの主催者は、不況の影響もあり大会運営費の捻出に苦慮している。山 鹿温泉では、観光協会が中心となって大会の受入態勢を整えており、他の地域と違って旅行会社 が窓口として間に入ることが少ないため、手数料等の中間費用を安く抑えることが可能である。 一般的に宿泊手数料+大会協賛金などで発生する諸費用を大きく削減し、山鹿温泉観光協会では、 1 泊 1 人当たり 200 円∼800 円を旅館・ホテルから宿泊協賛金として預かり、主催者や主管団体 の大会運営費へと補助している。 スポーツ大会が地域にもたらした影響 山鹿で行われているスポーツ大会で最も大きな大会は、少年野球のボーイズリーグである。こ れは、3 日間の開催日程で 6,000∼7,000 人の関係者が山鹿を訪れる。そのうち 2,500 人ほどが選 手(児童)で、残りのほとんどは保護者である。街には宿泊だけでなく、大会期間中は買い物、 洗濯、保護者の夜の飲食など、様々なところで消費 が発生している。同様に地元消費に大きく貢献する スポーツコンベンション 大会としては、バレーボールやソフトボールなどの ママさんスポーツ大会があり、宿泊、飲食にあわせ てカラオケなどの関連消費がある。 国際大会は、ハンドボールの世界大会が開催され ている。上記の大会と比べると、大会期間中に選手 が外出することが少なく、プロ野球キャンプなどと 違いファンが観戦に訪問することも少ないため、関 係者の宿泊以外への消費波及が少ない。ただし、山 資料)山鹿温泉観光協会 鹿温泉のスポーツコンベンション地としてのネームバリューを高めることには大きな効果があり、 国内の他スポーツコンベンション都市と競合する上で大きな武器となっている。 29 単年度開催で終わらせないために スポーツコンベンションの受入を行う上で重要なのは、ハード面の整備よりも人材の育成・確 保である。人材というのは、細やかな業務までサポートできることと、人脈を持っていることが 重要である。スポーツ施設や宿泊施設の手配、当日の弁当の手配などをワンストップで引き受け るのはもちろん、開催期間中にも観光協会のスタッフが顔を出して細かい仕事を手伝ったりして いる。特に、一回限りの開催でなく、何回も連続して開催してもらうには上記のような細かいフ ォローが必要になる。 3.今後の課題 米米惣門ツアーにおける課題は、地元商店街との連携である。もともと、ドラマロケ後の観光 客受入態勢の整備は、米米惣門ツアーの舞台となる下町地区以外も含めた商店街全体の取組とし て活動する予定であったが、テーマとエリアを限定したことにより、ツアーのエリアから外れて しまった他の商店主からは反発を招いた。その結果、商店街として米米惣門ツアーを実施するこ とには同意が得られず、 「下町惣門会」という新たな組織を立ち上げてスタートさせた経緯がある。 しかし、現在、ツアーが地域にもたらした波及効果は下町地区以外にも及んでおり、今後は商店 街とも連携して、地域全体での観光活性化に繋げていくことが求められる。 スポーツコンベンションの誘致を図る上での課題は、 「スポーツ施設は誰のためのものなのか」 という考え方への対応である。スポーツコンベンションを誘致することで地域経済が活性化する 一方、市民の利用機会を奪ってしまう可能性もある。現在は、市民の利用予約が入っている日に、 大きなスポーツ大会の開催打診が重なった場合、行政が間に入って市民に別会場や別日程への予 約変更を依頼している。施設の利用に際し地域経済の活性化を優先させるのか、市民のレクリエ ーション利用という役割を優先させるのか、バランスが非常に難しいと言える。行政や観光協会 によって、スポーツコンベンションの町としての山鹿を市民に PR し、市民の理解を得ることが 重要になっている。 また、前述したように山鹿温泉におけるスポーツコンベンションの誘致が成功している背景に は、主催者を大会終了まで細やかにサポートし、臨機応変な対応を行っていることが大きい。そ のため、マニュアル化された業務にすることが困難であり、担当者の能力に依存することになる。 マニュアル通りにならない点も含めた継承を行う上では、常に優れた人材を確保し育成していく ことが重要である。 30 【事例−6】 中核的推進組織による阿蘇カルデラツーリズムの展開 (熊本県阿蘇地域) 阿蘇地域での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 】 ・阿蘇地域内の連携を図り、地域・観光の振興、環境・景観の保全等を広域で取組むため、1 (阿蘇DC)を設立。 市 7 町村と熊本県が出資し、 「 (財)阿蘇地域振興デザインセンター」 ・阿蘇DCは、地域のシンクタンク、ビジョンを具現化するドゥタンクとして、地域課題に応 じた広域的な取組のプランづくりと、実践組織としてのプラン実現に向けた仕掛けづくりの 両機能を発揮する中核的存在。地域内の行政機関、民間団体、企業、住民等と広範な連携に より取組を推進。 ・阿蘇DCのリーダーは、コンサルティング会社で地域振興計画等に携わったことのある経 験者を地域外から招き、事務局長に抜擢。その先見性と企画力、地域をまとめる手腕により、 多様な主体の様々な取組がコーディネートされ、 「阿蘇カルデラツーリズム」として結集。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・多様な観光資源が広域に点在する阿蘇地域において、より誘客力を高めるための一体的な「阿 蘇」イメージの創出に向け、観光商品を「阿蘇カルデラツーリズム」としてパッケージ化。 ・ 「阿蘇カルデラツーリズム」は①グリーンツーリズム(農林業・農村)②タウンツーリズム (商店街・温泉街)③エコツーリズム(自然・環境)、の 3 つのツーリズムからなり、滞在 型観光に対応し、地域資源を活用した体験メニューづくり等を、着地(地元)主導で拡充。 【受入態勢の充実とその「見える化」】 ・阿蘇DCは、地域内の旅館や観光関係者等と連携を密にすることで、観光客からの求めに一 元的に対応できるワンストップサービスを実現。また、地域内の受入先が、観光客の多様 な求めに応じた訪問プランや体験メニュー等を提案できるコンシェルジュ機能を強化する ため、阿蘇地域内の滞在型観光メニューをリストアップしたガイド本を作成し普及。 ・阿蘇の魅力を包括的にプロモーションし、マスコミやITを活用した情報発信を強化。 特にインターネットテレビ「ASO−TV」や携帯電話情報「阿蘇ナビ」は、ビジュアルで 多言語表記となっており、多言語のパンフやDVDも併せてインバウンド対応も充実。 ・インバウンドへの接遇の向上に向け、インターネットによる通訳システムの導入、多言語 記載の接遇マニュアル作成、外国語教室・外国人接遇教室等を積極的に実施。 《取組の成果》 ・着地型主導により滞在型観光を推進し、その中で多様な体験メニューと回遊させる仕掛け、 消費誘発の仕掛けの整備により、商店街や農村等の交流人口が増加し、地域活性化の兆し。 ・地域振興の視点からワークショップ等の手法により地域資源の発掘、人材育成を行うことで、 各エリアの自発的な地域活性化を誘発中。 31 1.地域特性と沿革 (1)多様な観光資源が観光客を惹きつける阿蘇地域 阿蘇地域は、世界最大級のカルデラ地形、ブナの原生 林や大草原の広がる外輪山をもち、その雄大で美しい自 然、眺望から国内外の観光客から人気の高い観光地であ る。阿蘇地域は平成 18 年には日帰り客 1,639 万人、宿泊 客 213 万人の来訪があった(熊本県観光統計) 。 また、外国人観光客も近年増加している。阿蘇市単独 の外国人の入込客数(日帰・宿泊)は、平成 19 年に 66 万 1 千人であり、 平成 16 年から約 4 倍にも増加している。 多様な魅力の地域資源をもつ阿蘇地域 資料)阿蘇 DC 発刊資料より (2)阿蘇観光の中核的な役割を果たす阿蘇地域振興デザインセンター 阿蘇地域においても旅行の個人化、マイカーでの来訪の増加等、旅行形態の変化により、来訪 者の特性やニーズが多様化し、地域資源の再認識や農村や商店街の魅力の創造が必要になってい た。また、広域エリアに多様な魅力を持っている阿蘇地域は、逆にいえば各観光拠点が点在して おり、地域経済へ大きな波及効果を生み出すことが難しい状況にあった。そのため、ひとつの地 域としての「阿蘇」のイメージを構築し、情報を発信することが求められていた。 そのような中で、阿蘇地域において自治体の枠を超えた地域振興、観光振興の中間支援の役割 を果たしているのが、 (財)阿蘇地域振興デザインセンター(阿蘇 DC)である。阿蘇 DC は、旧 阿蘇郡 12 町村(現・1 市 7 町村)と熊本県の出資により設立された公益法人である。 阿蘇 DC は、地域課題に対応して阿蘇地域全体を考える企画立案機能と、事業の実施機能を兼 ねた組織である。広域連携に関するソフト事業は、阿蘇 DC がコーディネーターの役割を果たし ながら推進し、具体的な振興策は、阿蘇地域の各行政機関、広域関係機関、民間団体等との地域 住民と広範な連携を図り進めている。 平成 13 年 10 月に、地域振興の計画づくりに精通し現場での実務経験も豊富な坂元英俊氏を事 務局長として招いた。平成 14 年より①阿蘇地域の農林業に触れ農村と交流する“グリーンツーリ 32 ズム” 、②商店街・温泉街を散策する“タウンツーリズム”、③阿蘇の雄大な自然や史跡を歩く“エ コツーリズム”の 3 つを柱とした「阿蘇カルデラツーリズム」として包括的にプロモーションす ると同時に、 「スローな阿蘇づくり」として、マイカーと地域内循環バスなどの公共交通との共存 を図り、滞在型観光を促進している。 図表 阿蘇地域振興デザインセンターの役割図 資料)阿蘇 DC ホームページより 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)長期的に地域へ関与することで自発的な地域資源活用を促進 様々な活動を展開する阿蘇 DC であるが、その基本は、地道な地域への関与にあり、暮らしの 継続と住んでいる人が良いと思う誇りある地域にするための活動である。 阿蘇 DC では、平成 20 年度に「阿蘇まちめぐりガイドブック」という各エリアの観光資源をメ ニュー化した冊子を作り上げている。この冊子は、平成 18 年度から平成 20 年度の 3 年間をかけ て作られた阿蘇地域における地域資源活性化の集大成であり、この冊子を活用することで、旅行 会社の滞在型観光のパッケージ商品化や、地域コンシェルジュによる個人客向け旅行プランの提 案など様々な応用が期待される。 このようなメニューを作る過程には、ワークショップや地域へのアドバイスなど、長期的な地 域への関与がある。第一のポイントは、中間支援組織として地域住民の気付きを誘発する手法を とっている点にある。地域には多くの地域資源があるが、それを使えるようにするためには、第 三者としてコーディネーターが関わり、地域は何が魅力で、何が得意で、何が一番のお勧めなの か、地域自身が気づき発見するための初動を促す役割が重要になる。それを担うのは、県や市町 村といった単独自治体よりも、中立的立場でかかわることのできる阿蘇 DC のような中間組織が、 よりかかわりやすいといえよう。 第二に、実践する地域住民を育てることである。地域づくりを実践するのは、あくまで地域に 住んでいる人たちである。中間支援組織がすべての地域に手取り足取りかかわることは不可能で あるが、地域に人が育てば、その人たちが動き出し、地域に活動が波及していく効果が期待され 33 る。 (2)商店主達の自発性を促すことにより商店街を活性化 阿蘇 DC では、このような地域振興のプロセスによって、各地域の地域資源や人材を活性化し ており、その好例のひとつが阿蘇神社に続く門前町商店街(阿蘇市一の宮町)である。商店街は、 消費の場へ来訪者を結び付ける役割を持ち、地域経済の活性化においても重要である。 以前、門前町商店街は、郊外型大型店やモータリゼーションの影響を受け、空き店舗の目立つ 閑散とした状況にあった。その商店街が活性化するきっかけとなったのは、平成 14 年に阿蘇地域 に循環バスを走らせる交通実証実験を行ったことに始まる。 門前町商店街の「若きゃもん會」と阿蘇 DC の坂本事務局長は、 「水と森の商店街」という景観 づくりに取組んだ。互いにアイデアを出し合うことから生まれたものであり、「水基(みずき)」 と呼ばれる湧水の水飲み場の再活用や、街路の植樹、統一された店舗外観への改装、案内看板の 設置などを、商店街の有志自らが取組んでいった。 また、まちの大きな魅力のひとつは“食”である。門前町商店街では、 「お食事処はなびし」の 田舎いなり御膳、 「阿蘇とり宮」の馬ロッケ、 「阿蘇お菓子工房たのや」のたのシューという 3 つ のアピールできる“食”が出てきたことが契機となった。阿蘇 DC が紹介するテレビ番組に商店 街を取り上げてもらうことで、大幅に集客が増加したことから、一部の商店主の取組んでいた商 店街再生に向けた“熱”が周辺店舗にも伝播していった。このように商店主達が自身の店のどん なところがよいのか、伝えられるような下地をつくりあげることで、はじめて集客プロモーショ ンがよりよい循環に繋がるのである。 門前町商店街の風景 資料)阿蘇 DC 発刊資料、提供写真より (3)戦略的な交通・情報インフラの整備 これまで紹介したような地域資源を、より滞在型観光に結びつけていくためには、阿蘇地域を 回遊するためのシステムが必要となる。阿蘇 DC では、4~5 年先の展開を見据えて戦略的に交通・ 情報システムの充実を図ってきている。 交通システムでは、マイカーから公共交通利用への転換を促し、滞在型観光を推進するため、 平成 14 年度に阿蘇谷・南郷谷で循環バスを独自に試行運行、そのことが九州運輸局にも届き、さ らに平成 15 年∼平成 16 年度には阿蘇公共交通利用転換推進協議会を設立し、国土交通省の交通 実証実験の補助事業を活用した。交通実証実験では、自転車を JR 九州の豊肥本線の列車に乗せ ることのできるサイクルトレインやパークアンドライド、阿蘇の主要エリアを巡る「阿蘇カルデ 34 ラ循環バス」を運行するなど、多様な取組を行っている。この交通実証実験にあわせて、各エリ アのモデルコースや観光資源の発掘を行うことで、阿蘇地域の滞在型観光のコンテンツ形成もあ わせて行っている。熊本駅を発車する特急観光列車 aso1962 には、現在自転車を乗せるスペース が設けられている。 情報システムでは、まず携帯電話で阿蘇の地域情報を取得できる「阿蘇ナビ」サービスを提供 している。平成 18 年度の国土交通省実証実験「まちめぐりナビ・プロジェクト」によって、基本 的な通信システムを整備したのち、阿蘇 DC において継続運営し、観光スポットの加入促進や掲 載エリアの拡大が進められ、平成 19 年度には月間平均 1 万件以上のアクセスと 20 万件以上のペ ージビューがある。また、インターネットでの阿蘇の動画配信を行う「ASO−TV」では、1 日 1 万件以上のアクセスがある。その他にも、阿蘇広域観光サイト「阿蘇ファンクラブ」 、FM熊 本「ゆっくりのんびり ASO 大陸」 、情報誌の発刊等、多様な媒体での情報発信を行っている。 サイクルトレイン 阿蘇ナビ 小国郷ぐるっとバス 資料)阿蘇デザインセンター発刊資料、提供写真、九州経済調査協会撮影写真より (4)インバウンド対応のための多言語化の取組 阿蘇 DC におけるインバウンド対応の基本は、日本人向けにつくったシステムを多言語化して 対応していくという視点である。 平成 17 年度より実施している国土交通省の補助事業「阿蘇地域観光ルネサンス事業」では、国 際競争力のある観光地の整備に向けて、インバウンド対応策を充実させてきている。 外国人向けの情報発信では、パンフレットや DVD、阿蘇テレビなどのホームページといったコ ンテンツを多言語化することで、情報提供を行っている。 また、外国人の受入態勢の充実では、 「阿蘇地域接遇レベルアップ推進事業」として、外国人観 光客に接する機会の多い職業に従事する人を対象として、英会話・韓国語講座を実施している。 さらに、阿蘇独自のインターネット通訳システムの開発(現在は開発中)や観光事業者向けの「阿 蘇だれもがちょっと会話本」 、公共交通の主要結節点での多言語サインの設置を行っている。 多言語化された観光案内板(左)と阿蘇地域情報パンフレット・会話本(右) 資料)九州経済調査協会撮影 35 (5)さらなる広域観光・滞在型観光の充実に向けて 阿蘇 DC では、平成 19 年度から 23 年度までの中期計画を策定しており、その中でも特筆すべ きは、平成 23 年の九州新幹線全線開通にあわせて開催を予定している「2011 阿蘇カルデラツー リズム博覧会(愛称:阿蘇ゆるっと博) 」である。「阿蘇カルデラツーリズム」の集大成として、 阿蘇における滞在交流型ツーリズムの定着に向けた、大規模なプロモーションイベントを開催す る予定である。農村集落や商店街など各地の観光拠点をパビリオンにたとえて、それを公共交通 ネットワークでつないで回遊可能にするものであり、同時に各エリアの地域コンシェルジュを育 成し、各エリアで魅力ある旅行情報・パッケージを提供することで、豊富なコンテンツを提供し ていく試みである。 観光庁の観光圏整備法により「阿蘇くじゅう観光圏整備計画」を策定している。阿蘇くじゅう 国定公園を活かしたエコツーリズムを柱として、九州ナンバーワンの滞在交流型観光地づくりの 取組を始めている。その活動主体として、阿蘇地域・くじゅう地域の関係機関等からなる広域連 携組織「阿蘇・くじゅう地域デザイン会議」を立ち上げている。地域住民を主体とした継続的・ 自立的な態勢を確立すると同時に、観光地としてのスケールを強化し、魅力ある観光スポット・ 施設を増やすことで、滞在時間の拡大、広域による地域間連携と経済の活性化を目指している。 3.今後の課題 広域観光・滞在型観光の対応の充実 阿蘇地域のみならず、くじゅう地域とも連携した広域観光を推進するためには、一層の交通体 系の充実が必要となる。今後は、阿蘇 DC をはじめとした阿蘇くじゅう地域の関係機関において、 バス等の公共交通の実証実験事業を展開しながら、実験から定常化へと取組みを進めていく予定 としている。 また、エリアの広域化にあわせて、さらに各地域での国内外に対する窓口機能やコンシェルジ ュ機能などの総合的なサービス強化および地元住民による受入態勢を確立する必要がある。その 解決に向けて、現在阿蘇地域では、 「中小企業地域資源活用売れる商品づくり支援事業」において、 地元の旅行業 3 社が主体となり、地域密着型の旅行商品を販売・開発する取組をおこなっている。 なお、阿蘇カルデラツーリズム博覧会開催後は、阿蘇全体の観光拠点となる「(仮称)阿蘇広域観 光交流センター」の設立を予定している。 36 【事例−7】 オンパク型手法による地域資源の活用と人材育成 (大分県別府市) 別府での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・数回に渡る経済不況等を背景に観光地として衰退していくなか、旅館組合の若手を中心に、 欧米の温泉地のリーダーとの交流の中で、観光地の再生策を検討開始。ほかでも、危機意識 を背景に、民間や市民による地域づくり系組織が、自然発生的に多数誕生。 ・旅館組合が中心となり、他の多くの民間・市民の組織を束ねて、事業を統合・実践する組織 (オンパク)を設立。地域資源を活かした地場産業 として「NPO法人ハットウ・オンパク」 (泊覧会)を、平成 13 年から毎年の春と の育成を図る体験イベント「別府八湯温泉泊覧会」 秋に開催。 ・別府では、バーチャルあるいはフェイス・トゥ・フェイスの「地域づくりプラットフォーム」 が形成され、多様なコミュニティビジネスが生み出されている。現在、5,000 人の顧客会員組 織と 200 社以上の事業者による「ネット上での情報交換の場(別府八湯メーリングリスト) 」 を形成し、コミュニティビジネスの育成・支援を展開。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・個々では販売・集客力が劣る商品・サービスでも、オンパクに参加することで、新たな開発 や集客に当たっての支援を受けることができ、オンパクの統一感のあるコンセプトの下での PRにより消費者から信頼も獲得しやすくなる等、事業の初期段階で効果あり。 ・各地区に発生した「街歩き系」の組織は、現在 10 組織。住民が散策ガイドを勤め、路地裏や 名店等を案内するビジネスは好評。これらの組織とオンパクが連携することで、街中の資源 を活用した多様な散策プログラムを、地域一体となった体験型観光事業として展開。 ・リラクゼーションやエステの人気の高まりに合わせ、温泉と健康や美容等のサービス業を組 み合わせた「ウェルネス産業」を推進。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・口コミ情報を重要視し、全国の顧客会員を中心に、メールにより生の声を情報交換。 ・多彩な散策プログラム・体験メニュー等を掲載した各種ガイド本の作成のほか、それらをホ ームページで具体的かつ詳細に情報発信し、ネット上で申込み受付。 《取組の成果》 ・地元企業やまちづくり団体等にとって、新たな事業のテストマーケティングやプロモーショ ンの機会となっており、地域資源を活かした多彩なコミュニティビジネスを生み出している。 ・オンパク型手法は、別府から全国に発信され、北は北海道函館から南は宮崎県都城まで全国 で取組まれている。 37 1.地域特性と沿革 (1) 観光客・宿泊客の減少により高まる危機感 別府は日本を代表する温泉観光都市である。別府八湯 とは、別府、浜脇、亀川、鉄輪、柴石、明礬、堀田、観 海寺の各温泉郷を指し、その総称が別府温泉である。泉 質分類 11 種類のうち 10 種類、湧出量 13 万 kl/日という 豊富な温泉資源を基礎に、明治 4 年の別府港開港以来、 交通アクセスの整備や地獄巡りなど観光施設整備によ り順調に発展してきた。 高度成長期には人口 13 万人を越える都市に成長し、 ピークとなる昭和 51 年には年間 600 万人以上の宿泊者 を集めた。 しかし、その後、観光客・宿泊客は減少に転じた。バブル経済による一時的な回復はみられた ものの、長期的な減少傾向に歯止めがかからず、近年は年間 400 万人前後で推移している。特に 平成 9∼10 年頃は、金融不安からくるデフレで先行きが見通せない状況となり、別府でも危機感 が高まっていた。 別府の湯煙 (2) 様々な地域づくり組織とオンパクの誕生 旅館組合など若手を中心とするリーダー達は、平成 10 年から 3 カ年かけて「別府 ONSEN 文化国際交流事業」を実施した。 欧米の温泉地のリーダーとの交流を重ね、地域の再生には、 「別 府の温泉文化の整理、活用または再生」と「温泉資源を活かし た産業の創出」が必要であり、起業家精神を持った人材育成が 重要だと考えるようになった。 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 別府では 1990 年代から、民間や市民の地域づくり組織が自 竹瓦温泉 然発生的に誕生しつつあった。その端緒は平成 8 年の「別府八 湯勝手に独立宣言(取材:別府観光産業経営研究会)」だと言わ れている。路地裏散歩を開始していた別府八湯竹瓦倶楽部(平 成 10 年設立)など、様々な取組を開始していた小集団が集まり、 競い合いながら助け合ってまちづくりを行うようになっていた。 その後、市民レベルの小規模組織が多くなり、旅館組合がそ 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 れらのシーズを育てる事務局となり、複数のまちづくり事業を コーディネート・実践する組織として、平成 16 年に「NPO 法人ハットウ・オンパク」 (代表者は ホテルニューツルタ社長 鶴田浩一郎氏。現在スタッフ 8 名)が設立された。オンパクとは、平 成 13 年から始まった「別府八湯温泉泊覧会」の略称にちなんだ名称であり、地域資源を活かした 地場産業の育成を図る組織である。 38 別府市の宿泊客数の推移 (千人) 7,000 6,132 6,000 5,000 3,835 4,000 3,000 2,000 1,000 0 S40 42 44 46 48 50 52 54 56 58 60 62 H1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 資料)別府市「観光動態要覧」 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)別府八湯温泉泊覧会は小規模かつ多様な体験交流型プログラムの集積 別府八湯温泉泊覧会は、平成 13 年秋から開始され、原則として春と秋に各 24 日間開催されて いる。定員 5∼30 名程度の小規模かつ多様な体験交流型プログラムの集積により構成されており、 例えば平成 19 年秋に開催された 12 回目のオンパクでは、約 100 種の多彩な体験型プログラムが 約 3 週間の間に提供された。 例えば、ゲンキ+キレイをキーワードとした食やダンス、イタリアから技術を学んだファンゴ エステ等の体験イベント、ネックレスやペンダントなどを手作りするワークショップ、竹瓦地区・ 北浜地区・亀川地区などでの街歩き、秘湯巡りや別府湾ミニクルーズなど別府を起点としたショ ートトリップ、市内の歴史ある名店巡りなどである。 平成 19 年秋の参加者は、地元の女性を中心に 3,000 人弱に達し、各プログラムの定員稼働率は 約 90%に達している。 平成 19 年秋の別府八湯温泉泊覧会における「ビジネス・チャレンジ」の状況 目的別のチャレンジ事例数(件) 参加事業者の内訳 新サービスの 既存サービス 非営利事業 営利事業者 小計 開発やテスト の 者 個人や企業 対象マーケット マーケティング プロモーション NPOなど 地域コミュニティ 18 31 49 57 29 地域+旅行 16 8 24 37 19 旅行マーケット 23 0 23 54 18 合 計 57 39 96 148 66 注)参加事業者の数が事例件数よりも多いのは、コラボレーションによる。 資料)NPO 法人 ハットウ・オンパク提供資料 39 小計 86 56 72 214 ファンゴエステ 街歩き 資料)九州観光素材集 資料)九州観光素材集 (2)新事業のテストマーケティングやプロモーションの機会 毎年春、秋に定期的に開催される泊覧会は、地元企業やまちづくり団体等にとっては、新たな 事業のテストマーケティングやプロモーションの機会となっている。 泊覧会のプログラムは、中小企業や市民、まちづくり団体といった多様な事業者による小規模 なメニューの集合体である。一般に、小資本の事業者が個々で行う新しいサービスや商品開発、 プロモーションには限界があり、新しい事業として育ちにくい。泊覧会は、個々では商品力や集 客力が劣るサービスでも、統一感のあるコンセプトの下に宣伝を行い、質の向上を図ること等、 集積の効果を狙ったものである。事業者は、泊覧会への参加を通じて集客、新商品開発などの支 援を受けることができ、消費者の信頼も獲得しやすいので、事業の初期段階における様々な問題 を解決できるというメリットがある。 オンパクでは、組織的にビジネスを考えており、泊覧会では毎回、それまでとは異なる新しい メニューを必ず加えるようにしている。そして、事業者に、3 週間という期間限定の泊覧会をテ ストマーケットとして利用してもらい、成功したら通年事業へというシナリオ考えている。その 意味で泊覧会は、サービス業を中心とした、まち全体での巨大な見本市と言うこともできる。 芸者文化体験 地元の食文化体験 資料)NPO 法人 ハットウ・オンパク提供資料 資料)NPO 法人 ハットウ・オンパク提供資料 40 (3)新しいビジネス創出の動き 別府ではすでに、地域の資源を活かした多くのコミュニティビジネスが生まれはじめている。 ある程度ビジネス化に成功した事業として、例えば散策ガイドビジネス(別府八湯ウォーク) がある。他の観光地では、不定期で事前予約制のボランティアが中心であるのに対し、別府では 定期開催で有料ガイドが参加者から 500∼2,000 円を徴収するビジネスである。散策ガイドビジネ スは、街歩きをビジネス化したイギリスのロンドンウォークにヒントを得て開始され、平成 10 年頃の竹瓦温泉倶楽部の成功を見て、各地が続々と名乗りを上げた。現在では鉄輪、浜脇、亀川 など 10 団体に増加して、別府八湯ウォーク連絡協議会を形成へと至っている。また、散策ガイド ビジネスの収入は、オンパクや市民組織の重要な資金源になっている。 別府湾弁当「タミコの夢」は、竹瓦小路の木造アーケードを復活させたいとの夢を持った 1 人 の女性が、売上金の一部を復活資金にとの思いで開始した事業である。オンパクを通じて JR 九 州との提携が実現し、1 日 30 食限定の予約販売ながら、JR 九州の駅弁大会で 2 位に入るほどの 人気商品となった。 湯治の宿・大黒屋では、オンパクの 50 万円の出資で、温泉噴気を利用した「地獄蒸し屋台」を 3 基整備した。泊覧会を通じて人気となり、顧客層が拡大して湯治宿から繁盛旅館になった。ま た、旅館・入舟荘では、温泉噴気を利用した、子供向けの豚まんづくりプログラムが好評で、女 将が「地獄蒸し」豚まん本舗を開業した。 そして、オンパクが新たな産業振興として特に期待し、力を入れているのが健康や美容などウ ェルネス産業である。ウェルネス産業は、女性や個人の事業者でも参入可能な点が特徴であり、 特にエステやリラクゼーションの分野では女性が参入しやすい。エステの人材育成にも取組んで おり、オンパクメンバーを指導者として、1 年間かけて 10 人のエステ人材を養成した。テストマ ーケティングでは、岩盤浴とヨガ&ヒーリングなど、複数の既存商品のコラボレーションも多い。 現在では、ホテルや旅館も加わり、計 200 事業者がウェルネス分野に協力し、約 30 ヶ所がエス テ、リラクゼーション、メンタルヘルス等に従事している。 (4)地域づくりプラットフォーム 別府で、地域資源を活用したビジネスやまちづくり事業のシーズが次々と生まれている背景に は、 「ネット上での情報交換の場(別府八湯メーリングリスト)」の設定や、 「フェイス・トゥ・フ ェイス」の交流拠点の確保による、参加促進の仕組み「地域づくりプラットフォーム」がある。 「ネット上での情報交換の場」の端緒は、1990 年代のパソコン通信の萌芽期で、まず 100 名ほ どが参加して地域の話をバーチャルで行なうようになった。インターネットに移行して、現在地 域づくりに関わっている人は 400∼500 人に増加した。 うち 200∼300 人はネット上で常時発言し、 毎日 80 件のメールが飛び交うという。東京在住の別府ファンも 50 人ほどおり、東京では 1 年に 4 回ほどのオフ会も開催されるほど活発である。これが、日々多様なアイデアが生み出され、実 現される原動力となっている。新規イベントへの動員も 30∼40 人程度はすぐに集まるという。 メーリングリストは維持管理が重要であり、別府では 5 人のボランティアスタッフが常時管理 している。パソコン通信時代から実名主義で、匿名での無責任な発言を抑制し、皆が拒絶反応を 示すような過激な意見は抑えるなど、高質なメーリングリストの維持に努めている。 41 また、 「フェイス・トゥ・フェイス」の交流拠点として、竹瓦温泉近くのカフェとサロンが、昼 と夜それぞれで、地域づくりに関わる人が集まる場となっている。小さな店だが、頻繁にまちづ くり系の団体が会議を開催しており、民間の良さを引き出す、良い意味での「溜り場」になって いる。そこで合意された話は実行性が高いという。 一般に観光地では、既存の旅館やホテルなど観光業者と市民とが乖離していることが多い。別 府でも観光業者と市民が簡単にネットワークできたわけではなく、地域づくりプラットフォーム の形成を通じ、時間をかけて、徐々に市民との信頼関係を醸成していった。 博覧会を通じ商品化された地域資源活用型サービスの例 名 称 ファンティカ 概 要 別府の温泉泥を使ったエステプログラム。オンパクへの参加を通じて顧客 の募集とサービスメニューの開発を実施。 地獄蒸し屋台 オンパク・パートナーである旅館・大黒屋がオンパクの協力を得て自社の敷 地に作った飲食施設。 別府八湯ウオー 地元のNPO 法人などが主催しているガイド付きの散策プログラム。一般顧 ク 客や旅行エージェント向けの散策ガイドの派遣事業が好調で、当該NPO 法 人の運営資金源となっている。 別府湾弁当 オンパク・パートナーである地元喫茶店ママが別府の素材を活かして作る 手作り弁当。オンパクがJR 九州を紹介して事業化。 別府ナビフリー 地元大学生がJR 九州とタイアップして別府の観光情報を満載したフリー ペーパー ペーパーを九州一円の駅にて設置する事業。 べっぴん泉事業 別府の温泉水を使った無添加化粧水の開発と販売をオンパクのネットワー クを通じて実施。 オリジナルス オンパクが運営する「砂湯」におけるオリジナル商品の販売事業。オンパ イーツ開発 ク・パートナーの菓子店が手がけている。 ウェルネスス オンパクが運営する健康増進型温泉施設における住民向けの健康増進教 クール事業 室の実施。 人材育成事業 エステティシャンや運動指導員など、健康・美容に関わる現場人材育成事 業をオンパク・パートナーと連携して実施中。 スポーツ・カル スピリチュアルカウンセリング、フラメンコ、ヨガ、ベリーダンス、マッサージ、 チャー・エステ ハワイアンロミロミ、アロマエステなど個人事業者により提供される多彩な 系のサービス サービスがオンパクへの参加を通じてサービスレベルの向上と顧客獲得を 実現し定着している。 地域づくり団体 「別府路地裏地域B級グルメガイドブック事業」、「芋汁等農村料理ケータリ の活動支援 ング事業」、「漁港朝市における買いたて海産物の炭火焼付き朝ごはん提 供事業」 など、多数の事例がある。 資料)NPO 法人 ハットウ・オンパク「地域の輝きを育てる「オンパク」モデル」 (5)全国に広がるオンパク流の地域づくり 地域の輝きを取り戻し、地域の資源を活かし、地域の人々が共感し、地域の想いを 1 つにまと め、地域の新しいビジネスを生み出していくオンパクの手法は、別府から日本全国へと発信され ている。現在ではオンパク流の地域づくりが、北海道函館、岩手県いわて、福島県いわき、新潟 県妙高、石川県能登、長野県諏訪、静岡県熱海、岡山県総社、福岡県久留米、宮崎県都城の 10 地域に広がり、平成 20 年には、別府のハンズオン支援を通じて、10 地域のうち 9 地域でオンパ ク型の取組が開催された。このほかにもオンパク手法をモデルに地域振興を開始した地域があり、 NPO 法人ハットウ・オンパクは、オンパク流地域づくりが全国的に広がっていることを評価され て、第 3 回 JTB 交流文化賞最優秀賞を受賞した。 42 全国に広がるオンパク 資料)NPO 法人 ハットウ・オンパク提供資料 3.今後の課題 (1)地元への経済効果の拡大 オンパクは春と秋、1 回につき原則 24 日間で約 100 種のプログラムを実施する。イベントの効 果だけみると、参加率は高いものの、参加者は個人客約 3,000 人、そのうち宿泊客は約 10%と、 年間 250 万人の宿泊実数がある別府市における経済効果は大きいとはいえない。 交流人口増加の目的は、地域に住む人々の 1 人当たり所得の増加にあるが、オンパクの効果は、 情報発信力の強さと中長期的視点での地域ブランド力の向上、個人客向けの新たなビジネスの創 出にある。いきなり高品質の商品を高価で販売することは、現実には困難であり、別府では地元 への愛着と経済効果とのバランスを考慮しつつ、雇用創出につながる質の高いサービスを模索し ている。そのため、地元の金融機関や行政機関による新たなビジネスの創業支援を期待している。 (2)組織運営の改革とスタッフの給与水準の維持向上 泊覧会の規模は徐々に拡大し、ビジネス分野も広がっている。オンパクといえども、すでに中 小企業に近いオペレーションが必要となっており、組織運営の改革が課題となっている。 また、地域の再生には 30 代後半∼40 代前半のリーダーが不可欠だといわれ、それらの年代の 有能なスタッフを確保するための給与水準の維持向上も課題となっている。 (3)ウェルネス産業育成の環境づくり オンパクは、長期滞在温泉保養地への方向性を明確にし、温泉保養の基盤となるウェルネス産 業の育成に取組んだ。同産業への女性マーケットへの浸透度は様々なアイデアにて実現している が、滞在保養マーケットは思うように伸びていない。欧州では温泉療養に保険が効き、医療パッ ケージで療養に来る客が多いのでウェルネスメニューを安く受けられるが、日本では保険が効か ないので、特に長期滞在では高価になってしまうからである。安価で気軽にウェルネスメニュー を受けられる環境づくりが課題となっている。 43 【事例−8】 スポーツツーリズムによる集客の取組 (宮崎県宮崎市など) 宮崎での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」】 ・宮崎県では、温暖な気候を生かし、スポーツのオフシーズンとなる冬場を中心に多くの集客 を実現。 ・スポーツツーリズムの振興は、業界団体や行政を中心に展開。昭和 63 年に「スポーツラン ドみやざき推進委員会」が設立されて以降、年々推進態勢は強化。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・キャンプ地としての実績がさらなるキャンプの誘致につながるといった好循環が発生。近隣 に対戦相手が多数いる地域がキャンプ地に選ばれやすく、集積が集積を生む状態に。 ・県産品の PR の場としても活用。プロ野球キャンプでの集客を利用して、地鶏の炭火焼き等 の宮崎の名物料理を PR。 【受入態勢の充実とその「見える化」】 ・スポーツランドみやざき推進協議会の事務局が、キャンプ希望団体の予約調整をワンストッ プで対応。県内の球場・グランドの空き情報と団体応対を一元管理することで、施設間の調 整や視察対応が迅速となり、提案営業も可能となっている。 ・新たな分野としてマリンスポーツ客の戦略的な取り込みにも着手。「宮崎サーフポイントガ イドマップ」の作成やサーフィンお試し型サービスを提供。 ・韓国からのゴルフ客の集客にも先駆けて着手。宮崎∼ソウル線の就航や人気ゴルファーの宮 崎でのプレーが報道されたことで、多くの韓国人ゴルフ客が来訪するようになった。 ・ゴルフツアーに次いで、韓国国内で人気のトレッキングツアーの誘致も実施。韓国のメディ アなどに対するプロモーションを実施。 《取組の成果》 ・宮崎県へのスポーツキャンプ・合宿の受入団体数、のべ参加人数は右肩上がりで上昇。平成 19 年度には、団体数が 1,000 を超え、のべ参加人数は 16 万人以上と、過去最高を記録。 ・平成 20 年春のキャンプの経済効果は、観光消費による経済効果が 83 億円、マスコミによる PR 効果が 72 億円にのぼる。 ・韓国からのゴルフ客も増加している。インバウンドのゴルフ客は約 3 万人で、その大半が韓 国人である。 45 1.地域特性と沿革 (1)南国ムードあふれる観光地として発展 宮崎県では、 「宮崎観光の父」と呼ばれる岩切章太郎 氏を中心とした観光地づくりの努力と、昭和 35 年と 昭和 37 年の相次ぐ皇族のご訪問によって新婚旅行ブ ームが起こった。当時は、沖縄の本土復帰以前であり、 本土最南端である九州、なかでも気候の温暖な宮崎は、 南国ムードあふれる観光地として人気の的となり、発 展を遂げてきた。 しかしながら、昭和 47 年の沖縄本土復帰により、 宮崎の南国ムードは観光地としての優位性が徐々に失 われていくとともに、海外旅行の自由化、国民所得の 向上も影響して新婚旅行ブームで賑わった宮崎の人気 にも、徐々にかげりが出てきた。 青島 日南海岸 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 (2)スポーツツーリズムの振興へ 宮崎県におけるスポーツによる集客の取組は、昭和 61 年の県観光協会と宮崎市旅館組合との間 におけるスポーツによる観光客誘致(スポーツランドみやざき構想)の検討にさかのぼる。翌 62 年には県観光協会の企画委員会において取組の提案と協議がなされ、63 年には推進主体として 「スポーツランドみやざき推進委員会」が設立された。 平成 3 年には、県の観光施策としてスポーツランドみやざきの展開が位置づけられ、平成 8 年 にはスポーツランドみやざき推進協議会が設立、平成 14 年には県の観光・リゾート課にスポーツ ランド推進班が設置されるなど、スポーツによる集客の推進態勢は、年々強化されていった。 このような推進態勢の強化により、宮崎県へのスポーツキャンプ・合宿の受入団体数、延べ参 加人数は右肩上がりで上昇しており、平成 19 年度には、団体数が初めて 1,000 を超え、延べ参加 人数は 16 万人以上と、いずれも過去最高を記録した。 46 図表 スポーツランドみやざきの動き 年度 内容 昭和 61 宮崎県観光協会と宮崎市旅館組合との間で、スポーツランドみやざき構想による観光客誘致 の検討開始 62 宮崎県観光協会内に設置された企画委員会において、スポーツランドみやざきの取組が提案 協議 63 スポーツランドみやざき創出事業により「スポーツランドinみやざき」パンフレット2万部作成 スポーツランドみやざき推進委員会設立 平成 元 昭和63年12月に発足した(財)宮崎コンベンションビューローにスポーツランド部会を設置 3 第4次宮崎県観光振興計画で「スポーツランドみやざきの展開」を基本的視点として位置づけ 6 宮崎県観光振興課が「スポーツランドみやざき」パンフレット、「みやざきスポーツマップ」を各6 千部作成・配布 8 スポーツランドみやざき推進協議会設立 14 宮崎県観光・リゾート課にスポーツランド推進班設置 16 スポーツランドみやざき推進協議会事務部門をみやざき観光コンベンション協会に統合 地域再生計画「スポーツランドみやざき展開プロジェクト」認定 新宮崎県観光・リゾート振興計画で「スポーツランドみやざきの全県的な展開」を施策の基本 方針に 宮崎県長期計画分野横断プロジェクト「スポーツランドみやざきプロジェクト」策定 マリンスポーツパラダイスみやざき調査事業 17 マリンスポーツパラダイスみやざき推進事業開始 資料)財団法人 みやざき観光コンベンション協会 図表 スポーツキャンプ・合宿の受入団体数と延べ参加人数の推移 (万人) (団体) 2,000 20 15.2 16.2 13.7 1,500 10.6 1,000 8.4 500 280 687 698 8.9 8.9 760 778 831 1,041 878 898 933 団体数 5.1 9.1 11.5 10 延べ参加人数 団 体 数 延べ参加人数 15 5 0 0 平成5 平成11 平成12 平成13 平成14 平成15 平成16 平成17 平成18 平成19 (年度) 資料)宮崎県観光交流局「平成 19 年度 県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績について」 宮崎県においては、キャンプ地としての実績がさらなるキャンプの誘致につながるといった好 循環が生まれている。J リーグクラブのキャンプは、練習だけでなく、多くの練習試合を組んで 実戦への備えを進めるという志向が強い。したがって、近隣に対戦相手が多数いる地域がキャン プ地に選ばれやすく、集積が集積を生む状態となっている。平成 21 年には J リーグの 36 チーム 中 18 チームが宮崎県内でのキャンプを実施しており、全国最多の J リーグキャンプの開催実績を 誇っている。 47 (3)プロ野球キャンプ誘致の波及効果の拡大 スポーツキャンプは、プロ・アマを問わず選手・スタッフが長期間滞在し、宿泊費や飲食費な どにおいて多額の消費がなされるため、長期滞在型観光と同等の経済効果が見込めるものである。 なかでもプロ野球キャンプは、選手・スタッフの滞在による経済効果の他に、キャンプ自体が 集客の資源となるため、多くの観客が訪れ、宮崎での観光消費が拡大する効果をもたらしている。 さらに、マスコミのキャンプ報道による PR 効果もあるため、スポーツツーリズムの振興の中で も大きな波及効果が見込めるものとして受入態勢を強化している。 平成 20 年春のキャンプ(プロ・アマを問わず、すべてのキャンプ)の経済効果は、選手・スタ ッフの滞在やキャンプ見学客の観光消費などによる経済効果が 83 億円、マスコミによる PR 効果 が 72 億円にのぼっている。 (宮崎県観光交流局による推計) プロ野球キャンプ球場周辺のにぎわい(ソフトバンクホークスキャンプ) 資料)九州経済調査協会撮影 図表 春期キャンプ観客数の推移 (万人) 70 60 50 Jリーグ 他 40 野球 他 30 ソフトバンク 読売 20 10 0 平成15 平成16 平成17 平成18 平成19 平成20 注)野球他の内訳は、広島(全期間) 、西武(H16∼) 、近鉄(∼H16) 、楽天(H17) 、 ヤクルト 2 軍(全期間) 、茨城ゴールデンゴールズ(H17∼) 、韓国プロ野球、オープン戦の計 資料)宮崎県観光交流局「平成 19 年度 県外からのスポーツキャンプ・合宿の受入実績について」 48 宮崎におけるプロ野球キャンプの歴史は、昭和 34 年からの読売ジャイアンツ(宮崎市)、昭和 38 年からの広島東洋カープ(日南市)キャンプまでさかのぼるが、福岡ソフトバンクホークスが、 平成 15 年秋季キャンプから宮崎市でキャンプを行うようになると、観客数は急増し、平成 20 年 春のキャンプ観客数は 60 万人を突破した。平成 21 年は WBC 日本代表のキャンプも行われたこ とから、この数字はさらに増加する見込みである。 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)キャンプ受入態勢のワンストップ化 宮崎県におけるスポーツキャンプの受入が伸びている要因は、受入に関するワンストップサー ビス態勢を確保していることにある。 スポーツキャンプの受入の窓口となるスポーツランドみやざき推進協議会の事務局(みやざき 観光コンベンション協会内に設置)では、担当者が関係市町村への情報収集によって、県内の球 場・グランドの空き情報を一元管理している。そのため、キャンプを希望する団体から照会があ ったとき、希望の施設が満杯の場合でも、すぐさま代替案の提示が可能であり、ビジネスチャン スを逃さない。また、実際に視察を希望された場合にも、ワンストップサービス態勢によって訪 問先へのアポイント調整も事務局が行うため、キャンプを検討する団体にとっては調整の手間を 省くことができる。受入側としては、例えば、照会を希望した団体が宮崎市の施設しか知らなか った場合に、空いている他市町村の施設を提案営業ができるといったメリットがある。 また、事務局では、プロスポーツキャンプの誘致に関しては、 「お得意様」を優先する態勢を取 っている。前年にキャンプを実施したチームに対しては、その年も優先的にキャンプが行えるよ う会場を確保しており、他のチームが先に照会をかけてきた場合でも、前年にキャンプを行って いたチームが来ないことが確定するまでは、待ってもらうことにしている。こうしたリピーター 重視の姿勢は顧客満足につながっており、キャンプの定着につながっている。 (2)キャンプを利用した物産等の情報発信 宮崎県においては、東国原知事の就任以降、県産品の PR 効果が飛躍的に伸びたが、こうした 県産品の PR の場として、プロ野球キャンプの場がうまく利用されている。 キャンプ会場における宮崎の名物料理の販売を知らせるパンフレット 資料)福岡ソフトバンクホークス 宮崎春季キャンプガイド 49 スポーツランドみやざき推進協議会では、県内でキャンプを実施するチームに対し、宮崎牛、 みやざき地頭鶏、日向夏、キンカンなどの県産品を贈呈している。プロ野球キャンプの会場で、 東国原知事がジャイアンツの原監督やホークスの秋山監督に県産品を渡している姿などはマスコ ミでも広く取り上げられており、県産品の PR に貢献している。 また、ホークスキャンプのような多くの見学客が訪れる会場では、地鶏の炭火焼きやレタス巻 き等、さまざまな宮崎の名物料理を売る屋台が軒を連ね、見学客の舌を楽しませている。こうし たことも、県産品の PR や観光消費の拡大に結びついている。 (3)冬場を中心としたゴルフ客の誘致 冬場を中心としたゴルフ客誘致の取組も、宮崎県におけるスポーツツーリズムの取組としては 特徴的なものである。宮崎県は冬場でも気候が温暖で、晴天に恵まれやすい天候であることから、 ゴルフ客の集客に取組んでいる。なかでも韓国からのゴルフ客の集客においては、他地域に先駆 けて取組をスタートさせている。 韓国ではゴルフが高い人気を誇っているものの、国内にはゴルフ場が少なく、予約が困難な上 にプレー料金の高騰が続いている。しかも、冬場は寒冷のため、国内のゴルフ場の大半がクロー ズされてしまう。こうしたことから、往復の旅費を含めても比較的安価でプレーが可能な日本の ゴルフ場が注目を集めるようになり、ゴルフ客の誘致に取組んだ。その結果、韓国からのゴルフ 客が増加している。ヒアリングによれば、インバウンドのゴルフ客は約 3 万人にのぼり、その大 半が韓国人であるという。 シーガイア 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 韓国人ゴルフ客が増加した背景には、平成 13 年にアシアナ航空の宮崎∼ソウル線が就航し、そ れにあわせた誘致活動の効果に加え、シーガイアのフェニックスカントリークラブで開催された ダンロップフェニックスオープンに、タイガーウッズや韓国人プロゴルファーが出場したことが 高い宣伝効果となったことが挙げられる。また、ダンロップフェニックスオープンは 11 月に開催 される大会であるが、11 月であるにもかかわらず、選手が半袖でプレーしている映像が映ること で、宮崎の温暖さがアピールされたことも大きな宣伝効果となった。 ゴルフ客の誘致に関しては、スポーツランドみやざき推進協議会の取組ではなく、宮崎県観光 交流局やみやざき観光コンベンション協会の観光推進局が一般の観光客誘致の活動と同様の取組 として担当している。 50 (4)スポーツツーリズムの新たな動き 宮崎県では、スポーツキャンプやゴルフ客の誘致の他にもスポーツツーリズムによる集客の動 きが活性化している。 1 つはマリンスポーツである。これまで宮崎には、サ 宮崎サーフポイントガイドマップ ーフィンの客が多く来ていたものの、来訪実態を把握 できていなかったことから、平成 16 年度に実態調査に 着手し、マリンスポーツ客を戦略的に取り込むための 方策を検討した。その結果、平成 17 年度には、みやざ き観光コンベンション協会の補助により「宮崎サーフ ポイントガイドマップ」を作成した(作成は NPO 法人 サーファーズネットワーク)ほか、サーフィン初心者 向けのお試し型サービスを提供することで、サーフィ ン人口のすそ野の拡大を図り、集客拡大につなげる取 組みをスタートさせた。お試し型のサービスは好評で、 これまで中上級者向けのメニューしか用意していなか ったサーフショップでも、お試し版のメニューも作る といった動きが出るようになった。 資料)みやざき観光コンベンション協会 また、韓国からの集客では、ゴルフに次ぐ取組として、 韓国国内で人気の高いトレッキング客の誘致にも動いている。韓国でのトレッキング人気を受け て、専門誌や大手メディアを招致して霧島連峰の韓国岳へのトレッキング体験ツアーを実施した ところ、非常に高い評価を得たことから、市場化に向けて今後の取組を強化していく方針である。 3.地域経済活性化に対する今後の課題 (1)スポーツキャンプの県内全域への波及と通年化 右肩上がりで推移している宮崎県へのスポーツキャンプであるが、キャンプの開催場所は宮崎 市に集中する傾向にある。とくに J リーグクラブのキャンプに関しては、県内の受入地は満杯に 近づいており、今後は機会ロスが生じる懸念を有している。スポーツツーリズムの振興による効 果を広げていくためには、十分活用されていない受入可能な施設を活用しながら、スポーツキャ ンプの開催地を全県下に広げていくことが課題である。 また、スポーツキャンプに関しては、現状では野球(延べ参加人数の 45.2%)とサッカー(同 18.4%) 、陸上競技(同 11.8%)が主であるが、これらの競技はキャンプの時期が 1∼3 月に集中 する傾向がある。他の観光地ではオフシーズンとなるこの時期をハイシーズンすることができて いることはスポーツツーリズムの振興が成果を上げている証拠として評価できるが、通年化が図 られれば、さらなるスポーツキャンプの誘致の可能性も出てくる。そこで、キャンプの開催実績 を他の種目にも広げていき、施設の有効活用やスポーツキャンプの通年化につなげていこうとい う方針を持っている。 51 キャンプ風景 資料)九州経済調査協会撮影 (2)ゴルフ客誘致における他地域との競争激化 宮崎県は韓国人ゴルフ客を中心に早くから誘致活動に取組み、成果を上げてきた。しかしなが ら、宮崎県の成功を受けて他地域でも同様の取組が行われるようになり、地域間の競争が激化し ている。鹿児島県では、鹿児島空港に大韓航空のソウル便が就航していることから、鹿児島県の ゴルフ場と大韓航空が連携して集客を図っている。また、夏場のゴルフ客の誘致に関しては、東 北・北海道の売り込みも活発になっていることから、東北・北海道へのゴルフ客の流出が懸念さ れるところである。韓国でも済州島が冬期のゴルフ客誘致に力を注いでおり、ゴルフ+αの魅力 をいかに打ち出していくことができるかが今後の課題となっている。 52 【事例−9】 桜島をまるごと博物館として体験観光をビジネス化 (鹿児島県鹿児島市桜島) 桜島での取組のカギ 【地域づくりを担い、多様な主体をつなぐ「中核的推進組織とリーダーづくり」 】 ・火山学者が、桜島をまるごと博物館と考えるエコミュージアムの考えに基づき、地域を良く したい思いから「NPO 法人 桜島ミュージアム」を設立。 ・火山学の知識を活かした学術的なツアーだけでなく、地域資源を活用したユニークかつ多彩 な体験メニューの商品化に取組む。体験観光による産業化を、桜島の複数の主体に拡大す ることにも貢献。 【地域資源を活かした「魅力ある観光資源づくり」 】 ・桜島ミュージアムでは、砂防体感ツアー、桜島だいこん収穫体験、シーカヤックツアー、新 島探検ツアー、ナイトウォークなど地域資源を活かした多彩なメニューを試行錯誤しながら 充実させている。人気メニューは「温泉掘り体験」や「フロマラソン」 (桜島内 42km をバ スで巡る温泉に関わる各種体験ツアー) 、鹿児島ゆかりの農業、考古学、歴史等を巡る「案 1.取り組みの着眼点と概要 内人と行く旅」等である。 ・地場産品の開発では、桜島の新商品として「椿油の特産品化」に取組もうとしている。 【受入態勢の充実とその「見える化」 】 ・資金とスタッフの不足から PR 事業は行っていないが、メニューの魅力からツアー参加者は 堅調に推移しており、修学旅行の予約も急増している。 《取組の成果》 ・体験ツアー等の受入は、実績としてはほぼ横ばいだが、多くの修学旅行の予約が入っている。 ・周辺の事業者にも活動の効果は波及しており、桜島焼窯元や国民宿舎のシーカヤック体験の 参加者も増加している。また、周辺事業者と協力した陶芸体験やシーカヤック体験では参加 者が増加している。 53 1.地域特性と沿革 (1)鹿児島のシンボル「桜島」 桜島は、鹿児島湾に浮かぶ東西約 12km、南北約 10km、 周囲約 55km、面積約 77km²の火山島で、大正 3 年の大噴 火で大隅半島と繋がった。鹿児島港と桜島港とは桜島フェリ ーにより 15 分で結ばれている。桜島町は1市5町での市町 村合併で鹿児島市となった。 桜島の人口は、明治時代には 2 万人以上だったが、大正 3 年の大噴火で 9,000 人に激減した。その後も減少が続き、昭 和 60 年には約 8,500 人、平成 12 年には約 6,300 人、平成 19 年には約 5,800 人となった。 桜島は、気象庁の火山活動度による分類でランクAに属す る日本で最も活動的な火山の 1 つである。同時に、その美 しい景観や自然環境から、島内の約 85%が霧島屋久国立公 園に指定されている。島内には古里温泉等の宿泊施設があり、 桜島大根や桜島小みかんなどの特産品も有名である。 桜島 古里温泉 資料)鹿児島県庁HP 桜島小みかん 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 桜島大根 資料)九州観光推進機構「九州観光素材集」 54 (2)平成 17 年 3 月に NPO 法人桜島ミュージアム設立 桜島の観光は、かつては湯之平展望所などに団体で訪れて溶岩原を見物し、古里温泉に宿泊す る周遊型観光が一般的であった。 この桜島で、平成 17 年 3 月に「NPO 法人桜島ミュージアム」が設立された。代表を務める福 島大輔氏は、火山学者という異色の経歴を持つ。鹿児島大学大学院で火山学を研究し、理学博士 号を取得後、3 年間の任期で桜島にある京都大学の火山活動研究センターに勤務した。観測業務 の傍ら、 「エコミュージアム(地域全体を博物館ととらえ有形無形の自然や文化を現地で保存・展 示する新しいタイプの博物館システム) 」についての知識を習得し、桜島を良くしたいとの思いか らセンター退官と同時に 1 人で NPO を立ち上げた。 桜島ミュージアムでは、桜島全体を博物館ととらえ、自然・歴史・文化の調査・保存・展示活 動を行うとともに、火山や防災の教育普及や啓発活動を行っており、様々な体験事業やイベント に取組んでいる。現在、専任スタッフは 2 人であり、多客時にはアルバイトやボランティアに応 援を要請している。アルバイトは大学生が中心で、教育学部や理学部、環境サークルの学生など を事前にトレーニングしている。 2.観光を通じた地域活性化への取組 (1)人気体験メニューは「温泉掘り」と「フロマラソン」 桜島ミュージアムは、砂防体感ツアー、桜島だいこん収穫体験、シーカヤックツアー、新島探 検ツアー、ナイトウォークなど多彩なメニューを試行錯誤しながら充実させている。 様々な体験観光メニューの中で、最も人気があるのは「温泉掘り体験」である。桜島には干潮 時に掘れば温泉が湧く海岸があり、そこにガイドが案内し、実際に掘ってもらう体験である。 「温泉掘り体験」は、掘れる潮位(実施時間)と参加人数(スペース)が限られている。当初 は、ガイドが温度の高い場所を教えていたので、参加できる人数が限られていた。そこで、場所 を一切教えずに、参加者に競争させて「最も温度の高い温泉を掘り当てたグループが優勝」とい うメニューに変えたところ、イベント性が高まるとともに、約 100 人までの人数を受入れること が可能となった。 温泉掘り体験 資料)桜島ミュージアムHP 温泉掘り体験 資料)桜島ミュージアムHP 55 「温泉掘り体験」は人気とともに徐々に知名度も上がり、カップルや少人数グループからの申 込もある。しかし、スタッフ 2 名では、少人数の客には十分に対応できない。そこで現在、個人・ グループ客が自分達で体験できる仕組みづくりを考えている。海岸までの道順や掘削可能時間、 注意事項を書いたガイドブックをつくり、スコップ、腰掛用スノコ、タオル等をセットにして定 額で貸し出すことを検討中である。 温泉掘りの次に人気のある体験メニューは「フロマラソン」である。桜島内 42km をバスで巡 る体験ツアーである。単に温泉に「入る(古里温泉)」だけでなく、「飲む(古里温泉の飲用)」、 「見る(海底温泉) 」 、 「つくる(温泉掘り) 」そして「食べる(温泉卵)」など温泉に関わる各種の 体験を楽しむツアーである。特に、ツアー出発前に各自の名前を書いた卵を温泉につけておき、 ツアー最後に卵ごはんにして食べる温泉卵はおいしいと好評だという。 (2)体験ツアー等の受入は堅調、21 年度は修学旅行の予約が急増 「案内人と行く旅」というバスツアーも人気がある。火山に関する専門知識や桜島の農業、考 古学、歴史などを、現物を見せながらガイドが説明するツアーで、戦国期の島津義弘の屋敷跡や 天障院篤姫時代の造船所跡、日の丸ゆかりの地、海軍基地跡などを巡る。参加者は、県内の PTA や校区会の視察が多いが、 「地元なのに知らなかった」という人が多い。知的欲求を満足させるの で、子ども達より中高年女性を中心とする大人に好評である。 桜島ミュージアムの体験ツアー等の受入は堅調に推移しており、特に平成 21 年度は修学旅行の 予約が急増している。 桜島ふしぎ発見ツアー 資料)桜島ミュージアムHP 桜島だいこん収穫体験 資料)桜島ミュージアムHP 図表 NPO 法人桜島ミュージアムの受入実績 体験ツアー等 団体数 参加人数 19年度(6月∼) 39 807 20年度 28 669 21年度(予約) 注)平成 21 年 2 月現在 資料)桜島ミュージアム提供資料 56 修学旅行 校数 人数 2 66 0 0 6 460 (3)桜島の各地で広がる体験メニューづくり 桜島ミュージアムの活動は、桜島における体験観光の先鞭をつけるとともに、徐々に地域の人々 の意識を変え、観光を通じた地域活性化に貢献しつつある。 桜島焼窯元の「㈲桜岳陶芸」は、3 年前に桜島ミュージアムの働きかけもあって陶芸体験を受 入れたところ、体験者は平成 17 年度の 93 人から、18 年度 244 人、19 年度は 1∼8 月で 597 人 と急増した。体験料は 1 人 2,000 円(送料別)で 1 回最大 60 人まで受入可能である。今では陶 器販売とともに、陶芸体験での収入が同社の柱となっている。 また、国民宿舎「レインボー桜島」では、シーカヤック体験に取組んでいる。体験料は 2∼3 時間で 5,000 円で、当初は宿舎スタッフが外に出ることに反対もあったが、参加者は平成 17 年度 84 人、18 年度 85 人から、19 年度は 120 人へと増加した。レインボー桜島には、プロのカヤッ クガイドがおり、受講料 1 万円以上の専門的なツアーもある。 観光の産業化への動きが広がる中、桜島ミュージアムでは平成 20 年度に地域の人々の啓発事業 として「桜島観光まちづくりセミナー」を開催した。中小企業基盤整備機構の助成を受け、年間 10 回、九州を中心に全国から地域づくりやグリーンツーリズムの講師を招いての勉強会である。 受講者として古里温泉ホテル、桜岳陶芸のほか、溶岩加工センター(石材や焼肉プレート製造)、 グリーンツーリズムへの意識の高い農家、行動の意欲がある養鶏場の主人などが参加した。桜島 でも観光の産業化に向けた人の輪が徐々に広がってきている。 「桜岳陶芸」での陶芸体験 資料)桜岳陶芸HP (4)特産の椿を活用した商品開発にも取組む 桜島には、 「桜島大根」や「桜島小みかん」、 「桜島びわ」といった名物がある。これらの農産物 の一部は、道の駅「さくらじま旬菜館」において、地元の女性の手で加工・販売されている。し かし、日々の加工業務に追われて手一杯の状況であり、新商品開発を行なう余裕がないのが現状 だという。 桜島ミュージアムでは、大根や小みかん等に続く桜島の新商品として、 「椿油の特産品化」に取 組もうとしている。桜島では、特産の小みかんが火山灰の被害を受けるので、みかんの代替作物 57 として椿の植樹が奨励されてきた。椿は火山灰に強いが、せっかく実が採れるほど成長したのに、 現状ではほとんど活用されていない。そこで、地域の人が椿から少しでも収入を得られればと考 えた。桜島ミュージアムでは商品化に向けて、まずは安定供給と品質管理のための調査研究を実 施する方針である。 3.今後の課題 (1) 「桜島」を代表する組織・団体の欠如 桜島では、小規模な噴火でも、報道による風評被害で観光客が激減する恐れがある。しかし、 現状ではマスコミにこうした配慮を要請する組織や団体がない。 また、桜島は公共交通のアクセスが悪く、周遊するインフラも整っていない。しかし、インフ ラ整備を桜島全体として行政に要請する組織や団体がない。 桜島ミュージアムでは、資金とスタッフの不足から PR 事業は行っておらず、桜島を代表する だけの力量もまだないという。 (2)不安定なガイド収入 桜島ミュージアムでは、収入の柱であるガイド収入が不安定なことが課題となっている。欧米 では有料ガイドが当然で、日本でも道具を使うアウトドアスポーツ系の体験では有料が当然とい う意識があるが、桜島ミュージアムのような体験ツアーには、なかなかお金を払って参加しない という。今後は有料ガイドへの理解を深め、ガイドには対価を支払うという意識を定着させてい くことが課題となっている。 (3)スタッフの不足 桜島ミュージアムでは、椿油の特産化に取組む考えであるが、それ以外にも様々な事業に取組 みたいという構想を持っている。しかし、2 名の専任スタッフでは不足しており、現状は手つか ずの状態である。今後は、各種事業の初期投資費用の調達と、スタッフの増加が課題となってい る。 58 平成20年度地域中小企業活性化政策委託事業 国内外からの観光集客人口の増加による地域経済活性化の可能性調査 事例集 平成 21 年 3 月発行 発 行:九州経済産業局 総務企画部企画課 〒812-8546 福岡市博多区博多駅東 2 丁目 11 番 1 号 TEL:092-482-5415 FAX:092-482-5947 URL:http://www.kyushu.meti.go.jp 調査委託先:財団法人 九州経済調査協会 〒810-0041 福岡市中央区大名 1-9-48 TEL:092-721-4907 FAX:092-716-4710 URL:http://www.kerc.or.jp/ 福岡合同庁舎本館
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