No.5 OCT - 公益社団法人 日本航空機操縦士協会

PILOT No.328 2011 No.5 OCT
Pilotが作る季刊誌
2011 No.5 OCT
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
ISSN 0389-5254
『日本航空機操縦士協会のめざすもの』
1.私達の活動の目的は、定款に定められた通り「航空技術の向上を図り、航空の安全確保
につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い、もって我が国航空の健全な発展を促
進する」ことです。
2.私達は、定款の目的を踏まえ、将来のあるべき姿として「安全で誰からも信頼され、愛
される航空を実現する」というビジョンを描いています。
3.私達は、目的・ビジョンを達成するために下記を基本的指針に掲げて活動して行きます。
⑴ 航空の安全文化を構築する。
(組織と個人が安全を最優先する気風や習慣を育て、社
会全体で安全意識を高めて行くこと)
⑵ 地球環境と航空の発展との調和を図る。
⑶ 航空に携わるものどうしが心を通わせ共存共栄を図る。
第47期重点施策
日本航空機操縦士協会は、継続して航空の安全に資する役割を果たすと共に、今年度
は次の二点を重点目標として取り組みます。
1.公益社団法人の認定を取得し、円滑に新体制に移行すること
2.健全な財務体質を確立すること
まず、公益法人化については、公益申請に関する課題について問題を一つずつクリア
し、着々と申請の準備を重ねて来ています。今後、明確なスケジュールに従い、詰めの
作業を行なって本年度中の申請、認定を目指すこととし、円滑に公益法人への移行を実
施いたします。
次に、健全な財務体質の確立についてです。公益法人化のために、過去数年に亘って
取り組んで来た内部留保の適正化を達成した今、取り組むべきことは、今後協会が永続
的に発展していくための裏付けとなる、健全な財務体質を確立する事です。そのため、
引き続き抜本的な収支の改善に取り組んで行きます。
操縦士協会は会員を募集しています。
JAPA は公益法人として国土交通大臣の認可を受けた日本唯一の操縦士団体です。
目的 本協会は、航空技術の向上を図り、航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究
を行い、もって我が国航空の健全な発展を促進することを目的としています。
協会の会員は、下記のように分かれます。
正 会 員;協会の目的に賛同して入会された方で、原則として操縦士技能証明をお持ちの方です。
賛助会員;協会の事業を賛助するため入会した個人または法人です。個人賛助会員は、満16歳以上
の操縦士技能証明を持たない方で、法人賛助会員の資格は、特に定めはありません。
正会員の会費;月 額 1,500円:協会運営費
個人賛助会員;月 額 1,500円:協会運営費
法人賛助会員:一口年額 50,000円:協会運営費
入会すると?
①協会機関誌(AIM・PILOT 誌など)の無償入手
②航空関連商品(書籍等)の割引購入
③会員向け、空港施設見学や講習会への参加
④協会契約割引施設の利用
お申し込みは別途「入会申込書」をお送り致しますので、事務局までご連絡下さい。
皆様のご入会をお待ち致しております!
社団法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOSIATION
TEL03-3501-0433 FAX03-3501-0435 E-Mail [email protected]
Home page URL http://www.japa.or.jp/
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20
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日本航空機操縦士協会事務所
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内幸町駅
至虎ノ門
至東京
烏森口
至品川
CONTENTS
No.328 2011 No.5 OCT
4
10
17
21
特別寄稿
B787,塚本機長に聞く
38
43
48
55
峯 匡太朗
寄稿
65
787納入初号機来日
72
ANA B-787 シミュレータ試乗報告
林 晃一
「星の王子さま」の事故
佐々木 望
技術の進歩に感動
峯 匡太朗
特集
技術革新と警鐘①
大西洋上の暗雲の中、消息を絶ったA330に何が起きたのか
山 康博
技術革新と警鐘②
航空界の憂鬱
上田 恒夫
ゆう
30
60
うつ
役立つ! 運航・技術講座
1回完結のフリーサイト 投稿ブログ
Flight は知識と実際の結合
蔵岡 賢治
痛し痒しのタンデム・ローター・ヘリコプタ その2
自動飛行装置 PFA
湧井カレン
Aviation Café
Flip・Flop・フラップ
湧井カレン
編隊飛行は変態飛行?
駆け出しパイロット
空のスポーツ「グライダー」
ロートルパイロット
航空気象
低層域における空域悪天情報の必要性
大村 大
安全の分水領
アクシデント・インシデント概要
74
78
80
81
新地球環境問題 原子力関連用語の解説⑵
国際・国内機関、放射性物質、放射性同位体、半減期
運航技術委員会
参加報告
関東西部地区飛行連絡会
奥貫 博
がんばろう日本 コウノトリ但馬空港フェスティバル11
奥貫 博
第2回 全日本曲技飛行競技会
「誌上ジャッジスクール⑸」
髙木 雄一
セミナー報告
危機管理・コミュニケーションスキルセミナーに参加して
伊藤 康太
オススメ情報ボックス
書籍 & Goods 紹介
FAI ニュース
奥貫 博
開催予告
第33回 ATS シンポジウム開催について
第6回 航空気象シンポジウム
83
JAPA 通信
88
平成23年度 航空安全セミナー
89
航空安全講習会のご案内
90
JAPA で飛行訓練を!
91
PILOT 誌に貴方の記事を!
92
JAPA 出張講座開設!
94
JAPA Aerial Photo Exhibition
96
編集後記
GA:ジェネアビ情報
計器飛行は別世界へのいざない
野村 達夫
社団
法人
日本航空機操縦士協会
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
◦特別寄稿
B787,塚本機長に聞く
航空大学校54回生Ⅳ期卒
峯 匡太朗
B787の塚本機長
初めに
PILOT 誌の7月号に全日空 B787の空輸についての記事を掲載した。
このたびその空輸を担当した、塚本機長にインタビューをする事が出来た。本当はこちらか
ら先方に赴かなければならない所、JAPA まで来て頂ける事になり、8月18日に JAPA の会
議室でのインタビューになった。
有野がインタビュー担当。峯が纏める事になったが、大内会長と後輩の伊藤君がオブザーブ
参加した。
787の開発に PILOT として携わるに
至った経緯
有野:本日は今年の夏一番の暑さではないかと
思われますが、わざわざ JAPA までお越し頂き
ありがとうございます。
最初に、787の開発に PILOT として携わった
経緯についてお聞きします。
塚本:787の導入が決まって、一年位経った頃
に、訓練審査関係の担当者の社内募集がありま
した。やる気のある者来たれと言う訳ですね。
2001年にルフトハンザと PILOT を交換して
飛ばそうという PILOT 育成プログラムがあっ
て、それに応募していたのですが、例の9.11テ
ロの為流れてしまいました。その後にこのよう
な機会があって、海外でやってみようと思った
のがきっかけです。当時訓練企画部に所属して
747-400の教官をやっていましたので、787の訓
練審査を担当する事になったのです。
有野:全日空も粋な計らいをしたものですねー。
しかし、そのような試みは社員の励みになりま
すよね。
4
2011 OCT
ローンチカスタマーについて
有野:全日空が787のローンチカスタマーになり
ましたが、ローンチカスタマーとはどう言うも
のですか。
塚本:航空機製造メーカーが、航空機の開発や
設計に着手する時には、エアラインからそれなり
の注文数が必要になります。787については全日
空が一番最初に50機を発注すると言う約束をした
ので、ボーイング(以降ボ社と記す)はそれでは
作りましょうという事になり、全日空がローンチ
カスタマーになった訳です。通常は複数のエアラ
インから注文があってからの話でしょうが、全日
空からの50機というのは大きかったのですね。
有野:実際には55機のオーダーになりましたよ
ね。これは確約なのですか。確か JAL も35機
オーダーしていますね。
塚本:そうです。余談になりますが、ボ社では
短距離仕様の主翼幅が52mの機体で燃費の良い
787-3の開発にも着手していたのですが、思って
いた性能が出なかったので、現在は開発を中止
しています。
有野:747の LR、SR の様なものですね。
全日空が導入するのは787-8ですね。
塚本:787には -8と -9があって、概略の航続距
離を表しているようです。-8は8000マイル、-9
は9000マイルと言う感じで、今の所 ANA では
787-8を導入する予定です。
有野:へー、そうなんですか。
ローンチカスタマーのメリットは何でしょうか。
塚本:787は今までの飛行機と異なり、オプショ
ンパーツを殆ど付けられないのです。スタンダー
ドな形で統一されています。
逆に言うと設計段階から絡んでいるローンチ
カスタマーの全日空はこのような仕様の飛行機
が欲しいと言える訳です。全日空のニーズに合っ
た飛行機ができるという強みがあります。
有野:なるほど。787は767の後継機という位置
づけでしたね。
塚本:そうです。767よりキャパシティーが大き
く燃費の良い飛行機を想定していたのですが、
-3は現在開発を中止しています。
Working Together について
有野:全日空も加わって Working Together と
いう言葉を掲げて開発された訳ですが。どのよ
うな意味を持っているのでしょうか。
塚本:Working Together というのはメーカー
とエアラインが互いの強みを活かして、共同で
製品を開発しましょうという事です。エアライ
ン側にはエアラインのニーズが分かっており、
製造側はエアラインのニーズを取り入れて良い
飛行機が作れる。結局900機弱のオーダーがある
という訳です。特に787はオプションが認められ
ない事から、基本仕様への意見反映が重要になっ
てきます。さらに機体導入に必要な訓練、マニュ
アル、施設、設備、部品等に対する、エアライ
ンのニーズへの反映について、共同で準備を行
い、機体就航後の円滑な Operation と、高水準
で安定した品質の早期実現に向けた協調等、全
日空が世界初の運航者となる事から、その役目
は極めて重要なのです。
開発への PILOT としての関与
有野:そうでしょうね。ところで塚本さんはこ
の開発に PILOT として、どのように関与され
たのか聞かせて下さい。
塚本:訓練、審査、運航に関する事項で、PILOT
にしか分からないものがあります。通常は、ア
メリカのエアラインがローンチカスタマーにな
る事が殆どなのですが、アメリカのエアライン
以外では、1968年にルフトハンザが737-100の開
発でなって以来の事です。その国の航空局が、
どのような法体系でどのような運航をエアライ
ンに要求しているのかを知る必要があったので
す。ボ社、FAA、JCAB の間に立つ Liaison(連
絡係)の PILOT が必要という要求が、ボ社と
FAA からありました。787のタイプレーティン
グをどのように決めるかと言う PQP(Pilot Qualification Plan)があります。FAA と、ヨーロッ
パの EASA、カナダの TCCA の3つの局で FSB
(Flight Standardization Board)Report に基づき
“この飛行機はこういうものですよ、訓練・審査
はこうやって、タイプレーティングはこうです
よという事を決めています。そこへ最初に787を
飛ばす国の局も入って欲しいとの事で、そこへ
私は PILOT として参加しました。JCAB は PQP
活動にはオブザーバーとして参加していたので
すが、傍観しているわけにはいきませんでした。
当初787は2008年の5月に引き渡し予定でしたか
ら、FAA が訓練、審査、運航要領を決める前
に、JCAB が全ての事を決定しておかなければ
ならなかったのです。一番心配したのは JCAB
が決定を下した後に、FAA に違う答えを出され
る事で、食い違いがないように、FAA の方針の
先を行くように一歩一歩進めていきました。
有野:787の訓練、審査、レギュレーションには
PQP により当初から JCAB の Requirement を
どのように適用するか FAA と共に考えてきた
ので OK という事ですね。今までは例えば747を
導入する時には FAA のやり方を、日本ではど
のように適応させるかを考えなければならなかっ
たのが、787では初めから全て日本でも適応でき
るようになっているんですね。
2011 OCT
5
時間で移行訓練を終わらせたいと考えています。
苦労話
有野:開発にずっと関与されて来られたわけで
すが、どのような苦労がありましたか。
塚本:FAA に先だって色々決めなくてはなら
ないなかで、FAA と JCAB との間にはあまり
コネクションがなかったので、全日空が仲介役
を務めました。FAA で一つずつ勉強をして、
日本に持ち帰って、又は一緒に PQP 会議に参加
して JCAB と検討しました。やる程に質問事項
が生まれて大変でしたね。
有野:すごく時間が掛かりそうですが、結局何
年位アメリカにいたのですか。
塚本:2005年5月からですが、2ケ月アメリカ
で2ケ月日本を繰り返し、大体半年日本、半年
をアメリカといった生活で、機長認定を維持し
ていました。途中でアメリカに駐在する事にな
りもう一名の PILOT が指名されて、06年から
09年までの3年間は1年半ずつ駐在しました。
ところが駐在が終わってもまだ完成しなかった
ので、またアメリカで活動しました。
有野:それは大変でしたね。単身だったのですか。
塚本:かみさんが来てくれなかったのでね(笑)。
中途半端な滞在は嫌だったようです。
有野:最初から期間が決まっていればよかった
のかも知れませんね。アメリカにいる時はフラ
イトをしていたのですか。
塚本:フライトはできませんでした。SIM を
使って787に携わっていました。私の乗務機種は
-400でしたが、787携わる為には777のタイプ
レーティングが必要という事で、FAA の ATPL
と、777の限定をアメリカで取得しました。学科
を受けて、SIM の審査も受けました。
有野:787は777に良く似ているという事ですか。
塚本:そうですね。技術はもっと進んでいます
がね。
有野:エアバスのプレゼンテーションの時、
A320のレーティングを取得すれば A340(当時
A380はまだなかったと思う)まで与えますよと
冗談なのか分かりませんが言っていましたが、
それと同じ事ですか。
塚本:ボ社もそれを目指しています。もっと短い
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2011 OCT
有野:777からの移行訓練と審査はどのように
なっていますか。
塚本:すごく短いですよ。ボ社では5日間で終
わります。G/S が3日、SIM が1HOP で、その
後すぐに SIM で試験です。日本では12日間で
す。試験後に運航に必要な訓練を SIM で行いま
すが、LOFT の様なものですね。
有野:あっという間に終る感じですね。路線訓
練はやるのですか。
塚本:慣熟として初期要員は2LEG、つまり往復
だけです。実地試験はなくて、口述の審査はあ
ります。
有野:行って帰ったら終わりですか。
開発が遅れた理由
有野:こんなに開発が遅れてしまった理由は何
ですか。
塚本:メーカーは世界中色々な所に頼んで部品
を調達しています。サプライチェーンと言う言
葉がありますよね。例えばボ社がある国のメー
カーに部品を依頼したとします。依頼された会
社は、その会社で全てを作るのではなく、一部
をその下請け会社に依頼するわけです。その下
請けが又下請けに依頼するという具合で、ボ社
が末端の下請けまで全てをコントロールするこ
とができなくなったのです。777の時は遅れた所
を重点的に、ボ社がシフト勤務を変えて対処し
て上手く行ったのですが、今回はそれができま
せんでした。設計変更をしようとすると、6000
マイル以上も離れた所と連絡を取って、しかも
返事が来るまで時間が掛かるという具合に納期
が守れなくなってしまうという訳です。
有野:日本企業は全体の35%位の部分を担当し
ていますね。例えば三菱重工が部品を作る場合、
やはり下請けにも依頼すると思うのですが、製
品管理は日本と外国とでは違いますか。
塚本:違いますね。日本は納期をきちっと守り
ますが、外国にはそうでもない国があります。
ある国で作った部品と日本で作った部品を合わ
せようとしたら、隙間ができたという事もあり
ました。勿論日本で作った部品は設計図通りに
できていましたが。ボ社のスタッフが現地まで
行って指導しながら作った事もありました。納
期が迫っていても、
“お金がないので下請けにも
頼めない。早く作って欲しいのなら、お金をく
れ”と云い返してきた会社もあったようです。
悪循環に陥ってしまった事もありました。
有野:そう言った所を改善すればもう少し早く
完成したかも知れませんね。ボ社が世界中に部
品を発注した理由は何ですか。
塚本:やはりコスト削減だったと思います。も
う一つ、一度に新しい技術を沢山取り入れたのも
遅れた理由に挙げられると思います。一つ一つは
ちゃんと機能するのですがそれを合わせると動か
なくなり、問題を解決するのが大変でした。開発
過程で機体重量が重くなってしまった事がありま
した。その時社員全員に1ポンドの“重り”を渡
して、この1ポンドでも良いから軽くするアイ
ディアを出せと言う取り組みをやりました。その
中でコックピットの電動椅子を止めようという話
も出てきましたが、
“最新鋭機のコックピットの
座席が手動かい”って訳で、結局は電動になった
なんて言う笑い話もありました。
B787の特徴について
有野:787の特徴についてお聞きしたいのです
が、私とここにいる峯君は7月3日の着陸シー
ンと放水のシーンを撮影しに行っていました。
塚本:あの放水の時はびっくりしました。急に
前が見えなくなって。(笑)
有野:787には炭素繊維複合材が使われています
が、被雷した時に問題があったと耳にした事が
張り巡らせる事にしました。重くならないよう
に、できるだけ効率よく導電させるように工夫
しています。
有野:新素材のメリットは何でしょうか。
塚本:非常に軽くて強いという事です。アルミ
合金で作った場合と比べて、9トンも軽くなり
ました。5%も軽くなっています。この前の空
輸時ですが、シアトルでの出発時の搭載燃料は
15万ポンドでした。9時間10分のフライトでし
たが、到着後の残燃料が4万ポンドでした。軽
かったと言う事もありますが燃費は凄く良いで
すね。それから、エンジンのブリードエアーを
殆ど使っていないのも驚きですね。ブリードエ
アーはエンジンカウルのアンチアイスに使って
いるだけです。その他は全て電気で動かしてい
ます。キャビンの与圧は、電動のコンプレッサー
で行っています。ブレーキもエンジンスタート
も 電 気 で す。 ハ イ ド ロ も 使 用 し て い ま す が
5000psi と高く、通常よりコンパクトになり軽量
化されています。
有野:ワイパーの Park 位置が気になっていた
のですが。
塚本:元々ワイパーは無かったんです。シアト
ルには虫もいないし、雨も日本の様な降り方で
はないので不要と思ったのでしょう。コックピッ
トウィンドシールドの形状が雨を流しやすくなっ
てはいますが。しかし、日本では使う事が多い
だろうと言う事でやっと装備する事になった訳
です。元々装備する気がなかったので、あの位
置しかなかったのでしょう。
有野:DC8はやはりワイパーが無く、ニューマ
ティック・エアーで飛ばすようになっていたと
聞いた事がありますがそのようなものも必要な
ありましたが、解決したのですか。
塚本:解決しました。人工的に被雷させた痕を
いと。
塚本:そうなんです。その他全日空の要望によっ
見せて貰いましたが表面が燃えたような感じに
なるだけで、裏側は全く問題ありませんでした。
有野:その痕もすぐに補修できるようなもので
すか。
て実現したものは客室内の結露による水滴落下
防止装置です。コックピットは湿度を調節でき
るのですが、客室は空気を循環させて、絶えず
20%の湿度を保っています。それが上空で凍結
塚本:その通りです。炭素繊維複合材は電気を
通しませんが、最初はそれが問題でした。被雷
すると穴があいてしまうのです。そこで導線を
してまう。機体が上空から降りてくると凍って
いた水分が融けて、客室が水浸しになってしま
うという現象が発生したので、その防止装置を
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付けました。
その他、エンジンの内部の点検孔を増設して整
備性を向上させました。経済的なエンジン推力コ
ントロール装置、乗員の酸素マスク改良もありま
す。あれが日本人には全然合わなかったのです。
典型的な日本人を派遣して合うようにしました。
ウォシュレットはご存知ですよね。その他色々あ
ります。われわれが一番便利だと思ったのはコッ
クピットの座席を動かす SW が座席の背もたれに
もついた事です。凄く動かし易いです。
有野:騒音は如何ですか。
塚本:全体的に静かです。エアコンの音は少し
うるさく感じましたが、エンジンの音はとても
静かですね。シェブロンノズルは NASA が偶然
発見したものですが、音が後方に流れるのです。
地上にも客室にも騒音が軽減されています。
有野:キャビン高度はどれくらいですか。
塚本:最大で6000フィートです。従来より低く
過ごし易くなっています。
有野:それだけあるといいですね。CA も疲れ
が少ないし。機体の強度は必要でしょうが。速
度は如何ですか。
塚本:ECON で MACH 0.85です。777より早い
ですね。
導入ペースと乗員養成について
有野:導入ペースはいかがですか。
塚本:今年度に12機です。
有野:かなりペースが早いですね。乗員について
も120人位必要でしょう。最初から国際線ですか。
塚本:最初は国内線からですね。羽田から岡山、
または広島の予定です。飛行時間が比較的短い
上に、効率的な運航を行える路線です。新幹線
との競合路線に新機材を投入するという話題性
もあります。乗員養成の観点からも先ず国内線
で大勢作りたいですね。導入と乗員養成とのバ
ランスが大事です。国際線への就航も早いと思
います。
有野:羽田からの深夜出発の国際線はD滑走路
を使用しますが、2500mで就航できますか。
塚本:今、お客さんが沢山乗れるように考えて
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2011 OCT
います。SID の改良によって搭載燃料が少なく
なって ACL が増えて来ていますから、大丈夫
だと思います。
操縦性、操作性について
有野:操縦性については如何ですか。
塚本:操縦性は777と同じです。ピッチに関して
は777と同じですが、Lateral-directional に関し
ては大幅に進歩しています。エンジンの推力に
差が発生すると自動的にラダーを動かすシステ
ムは777と同じですが、787ではさらに進歩して
いて、PILOT のインプットなしで自動的にヨー
イングをゼロにしてくれます。PILOT のイン
プットがなければ、その時の状態を維持してく
れます。操作が簡単すぎるんです。ONE ENG
OUT での ILS APP でも何もしないでもスーと
飛んでいきます。このような飛行機に最初から
乗務すると、ラダーが使えない PILOT が出来
上がってしまうのではないかと思います。例え
ばマニュアルフライトで、25°の BANK で旋回
を安定させた後に、スラストレバーを左右交互
に動かして推力差を与えても、手放しで25°
BANK を維持します。One Eng での Missed
App. でも在来機のように大きなワークロードは
ありません。ただ操縦桿を引く必要はあります。
787は HUD を有効に使ってトラックとパスを
コントロールします。
諸々のデータを計算して、飛行機のトラック
とパスの現在と目標を表示してくれます。
HUD の Flight Path Symbol(or Vector)を
Flight Guidance Cue に合わせるように操縦する
と、目的のトラックとパスを維持できます。
さらに Flight Path Acceleration と Speed
Error Tape を参考にしてより精度の高い安定し
た飛行ができます。
有野:そういう装置にはすぐに慣れるものですか。
塚本:すぐに慣れますよ。慣れてくるとこの装
備がなければって話になります。
ここで、i-Pad を使って HUD のデモを見せて
貰った。確かに優れた機能だと思った。
有野:世の中進歩していますね。
塚本:デジタルの世界は本当に進歩していて、
をしたそうだ。それが今回のボ社への派遣の役
に立っていると、言っておられた。
昔は実機に合わせて SIM を作ったのですが、最
近では SIM の動きに合うような実機を作ろうと
いう方向になってきています。他にも凄いのが
現在、技能証明を持ちながら、私も含めて就
職先を探している PILOT が大勢いる。また、
例の津波の為訓練が中断している航大生もいる。
ボ社の設計思想である、Aviate、Navigate、
Communicate の全てにおいてバックアップが取
られていることです。例えば Aviate、日本では
そのような皆に、塚本さんがお話をして頂ける
との事で楽しみにしている。
FLY FIRST と言っていますが、ハイドロが無
くなっても2枚のスポイラーとスタビライザー
だけで飛行機をコントロールできます。ディス
プレイが全部消えてしまっても、再起動できる
SW があります。操縦系統とディスプレイ系統
とが分かれているので、無表示のままでも操縦
は可能なのです。又、ストールスピードに近づ
くと、コントロール系統が変わって、AOA で
コントロールされるようになります。人間の操
縦ミスをカバーできるシステムになっていて、
エアバスの思想に近づいているように思えます
ね。ある程度は PILOT を信用してもこれ以上
は信用しないというボーダーラインを感じます。
有野:PILOT がやる事がなくなりますね。
塚本:マニューバーに関してはそうです。ディ
スプレイに色々な情報が表示されますが、それ
をどのように理解し、処理するかが大事です。
ディスプレイが壊れたり、何も表示しなくなっ
た時は、それだけ失う情報が大きい訳です。必
要な情報を必要な時に出せるようになるには慣
れる事が必要です。訓練の観点が変わってきて
いるのを感じます。
有野:今日は長時間ありがとうございました。
航空機の進歩を感じる事が出来て、大変興味深
かったです。
塚本:こちらこそありがとうございました。
後記
今回のインタビューを通じて技術の進歩に驚
かされた。特に PILOT のバックアップ機能は
凄いと思った。
塚本さんは航空大学校卒業後、すぐにエアラ
インに就職できなかった。雌伏2年、念願叶っ
て全日空へ入社できたが、その間英会話の勉強
塚本機長(左)とインタビュー参加者
塚本 真己(つかもと まさみ)機長
航空略歴
1962年12月生れ
1984年11月 航空大学校卒業
1985年 1 月 横川電気㈱入社
1986年 9 月 全日本空輸㈱入社
1988年 1 月 B727航空機関士
1991年 6 月 B767副操縦士
1993年 2 月 B747-400副操縦士
1998年10月 B747-400機長・教官
2009年 7 月 B777機長
2011年 6 月 B787機長・教官
現在
全日本空輸㈱運航本部グループフライトオ
ペレーション品質企画室
品質企画部企画チーム主席部員
B787準備室兼 AATP プロジェクト
B787機長
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◦ 寄 稿
ANA B-787 シミュレータ試乗報告
@全日空乗員訓練センター
FT(フライトテスト)委員会
●フライトテスト委員会(以下、FT 委員会)
は、平成23年度活動の一環として、8月10日
(水)ANA 乗員訓練センターで、導入されたば
かりの B787シミュレータを用いた研修会を行い
ました。当日は、この夏一番の暑さと報道され
ました。ご存知のとおり B787就航前の乗員訓練
で忙しい時期であり、これほど早いタイミング
で試乗するチャンスが巡ってくるとは誰も予想
していませんでした。このような機会をいただ
いた ANA 関係者の皆様には誌面を借りて厚く
御礼申し上げます。参加者は FT 委員会メンバー
22名、航空機製造会社技術者6名、ANA から
5名の計33名でした。
●ANA B787の概要
朝から強い日差しの中、10時スタートにもか
かわらず、乗員訓練センターには9時頃から参
加者が集まり始め定刻よりも早く全員が集合し、
プレゼンテーション・ルームへ移動後 FT 委員
長の馬場の挨拶、ANA 野村キャプテンの挨拶
に引き続き、ANA 運航本部の高橋さんから B787
林 晃一
●機体諸元等
B787-8 B787-9 B777-200ER
全 長(m)
56.7
62.8
63.7
16.9
17.0
18.5
全 高(m)
60.1
60.1
60.9
全 幅(m)
最大乗客数(人) 335
400
306
エンジンは、Rolls Royce Trent 1000、複合材
を多用し、多くの電動システムを採用。HUD
(Dual)、VSD、EFB 等も標準装備です。
最大離陸重量は462,900 lbs、最大着陸重量は
370,000 lbs。
●巡航性能
B747シリーズと同レベルであるマッハ0.85の
巡航が可能であり、B787-9では航続距離はメー
カー公表値で8,000~8,500NM にも達します。運
用限界高度は43,100 ft です。
●パイロットの訓練量の短縮
フライトデッキは B777と共通性を意識したデ
の概要説明がありました。
ANA が世界に先駆けてローンチカスタマー
となったのは周知のことですが、運航実績のな
い機体を55機も発注したことは、ANA が B787
に大きな期待を寄せていることの証でしょう。
●製 造
この機体における製造分担の内35%が日本企
業であり、ボーイングの分担35%と同等となっ
ています。日本人技術者の知恵と技術力が活用
されています。
10
2011 OCT
B787 コクピット
ザインであり機種移行訓練は最短で5日間で可
能とボーイングは説明しています。ただし、
・HUD を出したままのコックピットへ乗り込む
にはヘッドクリアランスが少ない。
ANA における機種移行訓練は十分に時間をか
けて実施されていると説明がありました。
・メモクリップ等、乗員が欲する部分のケアが
良好。
・ラダー・ペダル・ステアリングが DC10に比
●特別講演
概要説明とシミュレータのためのオリエンテー
ションが終了後、シミュレータ試乗までの間、
FT 特別委員の岩瀬氏より、「Experiences &
Lessons Learned as an Airline Test Pilot」と題
して講演が行われました。岩瀬氏が日本航空在
籍中に乗務した機種を中心とした飛行試験での
エピソードと、今まで知り合いとなった数多く
の宇宙飛行士やテストパイロットとのエピソー
ドが紹介され、その後は活発な質疑応答が時間
ぎりぎりまで行われました。
●B787シミュレータ試乗(1200~1700)
講演終了後、参加者を5つのグループに分け
1台のシミュレータを占有させていただき順番
に操縦を実施しました。離陸~上昇~巡航~降
下~進入~着陸と一連の流れで、時間的制約が
あるため各パイロットが特に希望するシナリオ
を重点的に実施しました。
シミュレータ設定:モーション OFF、ビジュ
アル ON、Fuel Freeze(重量一定:350,000 lbs)、
CG;25% MAC、ISA、HND RWY 34R
べるとセンシティブに感じた。
・3舵の調和は良好。
・操縦というより、いかに情報処理を行うかが
ポイント。
・シミュレータだけの比較では、B777のハンド
リングとかなり似ている。
・HUD は見やすく、PFD、外界と視線の移動
もスムーズ。ただし、慣熟が必要。
・HUD の情報はもう少し整理されていればさら
にワークロードが少なくなる。
・EFIS、MFD が非常に使いやすい。
・Over Head Panel の文字は大きく老眼対策?
・スイッチ類も使いやすい大きさ。
・コンソール画面のコントロールはタッチ・パッ
ド方式であり、応答は良好。ただし、手袋を
併用すると感度が低下。
・急激な操縦入力に対する応答はゆっくりであ
り、PIO の傾向はない。
・Biz Jet と比較するとまだ進歩の余地がある。
離 陸
・Take off Rotation はやや重く、ピッチコント
ロールに対する応答は穏やか。
・After V1での Engine 故障は Rudder Assist が
働いており、ラダー操舵力が少なくすむため
パイロットのワークロードを減らしている。
巡 航
・上空でのハンドリングは B777と同等で B767
の操舵力に比べると軽く良かった。
B787 シミュレータ・コクピット
●パイロット・コメント
全 般
・コックピットは十分な広さで快適。
・Unusual 状態に対する Back Assist に大きな
進歩を感じる。
・FBW の Normal Law でも Acceleration Stall
に入るがリカバリーは良好。シェーカー、プッ
シャーは適切に作動する。
・横のコントロールは30度以上の BANK 時には
違和感を覚えるがごとく操舵力が増大するた
2011 OCT
11
めエアラインの運航器材としては十分なプロ
テクションとなっている。
・サイド・ウインドウの大型化により Roll 方向
の視界良好。相対的に正面ウインドウが小さ
く感じる。
・横の応答は制御則で遅めに設定されていると
思われ、速い周波数での入力には応答せず、
PIO に入らない。
着 陸
・Single Engine Landing 時における Thrust 操
作に伴う Yaw はなく、ハンドリングは良好。
・Single Engine Landing を意識させない。
・横風30kt Landing を意識させない、Easy。
・Offset Landing では Flight Control が PIO 傾
向に入らないようになっており応答が若干鈍
いと感じた。Thrust についても同じ。
・HUD は外界を見ながら進入できるため極めて
有効。
・Auto throttle を使用せずに進入中でも設定さ
れた速度よりも下回ると、自動的に Auto
Throttle が作動し加速を始めるので、滑走路
までの距離が短い場合には強制的に着陸復行
となる。
試乗を終えた第2グループ
離陸(ペイン・フィールド)
(Boeing 所属機)
以上ですが、一部のコメントは、誌面の都合
で割愛させてもらいました。
●おわりに
FT 委員会の企画した今研修のために、ご協
力いただいた、ANA 関係者の皆様に心より御
礼申し上げます。コメントをいただいた参加者
の皆様にも感謝しております。
ANA B787 初号機(文字787の大きさ着目)
なお、当日はシミュレータ内部の写真撮影の許
可が得られなかったため、第2グループ6名の
写真以外は、ANA から提供いただいた写真を
使用しております。
この記事がパイロットの皆様にとって少しで
も参考になれば幸いです。
着陸(東京国際空港 34L)
(Boeing 所属機)
12
2011 OCT
◦ 寄 稿
「星の王子さま」の事故
サン=テグジュペリの経験したヒューマンファクターズ
航空評論家
佐々木 望
1 はじめに
わずかでも抵触する者は、理由の如何を問わず
容赦なく処分してしまいます。引用された部分
皆さんは「星の王子さま」の冒頭部、帽子の
ような形の象を呑みこんだ「うわばみ」の挿絵
や記述に触れた経験をお持ちの方が多いと推測
します。私も40年以上前にその種の経験をした
一人です。その「星の王子さま」が PILOT 誌
の読者に何の関係があるのかと問われれば、こ
の本をお読みになった方には思い出していただ
きたいと思いますが、そもそもこの物語は皆さ
んと同じ「飛行士」が航空機の故障で砂漠に緊
急着陸した際の「王子さま」との物語、つまり
皆さんの関心が深い航空機事故に関係したストー
リーだったということです。本書を児童文学や
童話に分類するとすれば、かなり変わったシチュ
エーションといえるでしょう。
とある業界誌の記事(注1)を読んだのをきっか
けとして、サン=テグジュペリの著作や生涯に
興味を持つようになりました。その記事で引用
では1910年にアルゼンチンで最初に飛行機を組
み立てたというベテラン整備主任は、その人柄
を支配人に買われていたにもかかわらず、ただ
一度の作業ミスをとがめられ、下働きへの降格
か退職を迫られることになります。
この支配人は「見せしめが必要なんだ!」と
本人に向かって叫びつつも、問題解決に当たっ
て事故原因の関係者を処罰して終わりという、
当時のこうした責任指向型解決で良いのかとい
う疑問は感じていました。そしてどんなに厳し
く罰しても無くならないエラーやミスというも
のの本質を、
「人の手の及ばない暗黒の力」とも
表現しています。それは著者であるサン=テグ
ジュペリの考えでもあったでしょう。
「恐らく彼
には責任がないのだろう、彼を通して現れた悪
なのだ」とはかなり的確な認識です。
「私は正し
いのだろうか、それとも間違っているのか?そ
されていたのは彼の出世作である「夜間飛行」
の一節です。この「夜間飛行」の主人公は、航
空郵便会社のブエノスアイレス支店の支配人で
す。時代は第一次世界大戦が終結して幾ばくも
れはわからない。わかっているのは私が厳しく
していれば事故が少ないということだけだ」葛
藤の果て、結局彼は当時の支配的な考え方であ
る責任指向を追求します。もし彼が現代のヒュー
ない1920年代、彼は大陸間に航空便のネットを
張り巡らせようとしています。航空機の優れた
マンファクターズ理論を知っており、この場合
対策を立て再発防止策を講じる原因指向型解決
速度と遠大な航続距離という特性を、そのまま
郵便業界の成功に持ち込もうとする彼にとって
最大の障害は夜でした。せっかくの高速性も夜
飛ばなければ他の低速で安価な輸送手段に追い
が図られるべきと知っていれば、かくも悩む必
要は無かったろうというのが記事の論旨でした。
著者であるサン=テグジュペリは、1920年代
から30年代にかけて航空郵便の草創期に、北ア
つかれてしまいます。その克服のため彼は当時
の未発達なテクノロジーの中、厳罰主義で奮闘
フリカや南米で郵便機のパイロットとして活躍
し、第二次世界大戦では連合国軍の偵察機に搭
します。搭乗員だろうが整備員だろうが規則に
乗しました。彼はノルマンジー上陸作戦の約二
2011 OCT
13
か月後、1944年7月末日に偵察飛行に出て未帰
還となっています。当時彼は44歳になったばか
な後遺症が残る身となりました。
なぜこんなことになったかと言えば、熱帯性
りで連合国軍最高齢の操縦者でした。彼の著書
のうち生前に発行された単行本は「星の王子さ
ま」の他、
「南方郵便機」
「夜間飛行」
「人間の土
気候で標高1,500メートルに位置するこの飛行場
から、無風かつ暑い日に離陸するには燃料積載
量をかなり制限する必要がありました。前日厳
寒期の合衆国北東部ニューアーク飛行場を出発
地」
「戦う操縦士」と4冊ありますが、このうち
直接的なトピックとして航空事故が出てこない
のは、第二次世界大戦初頭に経験した自らの偵
察飛行を主題にした「戦う操縦士」だけです。
「星の王子さま」も前述のように事故中の体験記
の体裁をとっていますから、彼の作品イコール
航空事故文学といっても差し支えないものとなっ
ています。単に作品に事故を取り上げただけで
なく、彼自身が実に多くの事故を経験していま
すが事故で何機も航空機を失いながら彼が生き
延びただけでなく、同乗者の命も全て助かった
という強運の持主でもありました。ここでは彼
が経験した事故の中でヒューマンファクターズ
に関わるものをひとつ紹介します。
した時とは発生する揚力が全然違います。彼は
パンアメリカン航空の現地駐在員の「機体を軽
くすべし」という助言を入れ目的地を近傍に変
更し、整備士に算定し直した給油量を指示しま
した。この時の指示がフランスで使っていたリッ
トル単位だったのか、米大陸で使われるガロン
1938年2月16日、サン=テグジュペリは、愛
機である4人乗りのレシプロ単発単葉固定脚尾
輪式のツーリング機コードロン・シムーン型機
で、南北アメリカ縦断飛行に挑戦中、グアテマ
ラのラ・アウローラ空港で13時半頃離陸を開始
するも十分な速度が得られず、2、3メートル
浮いたところで左翼を飛行場のフェンスにもが
れ、滑走路延長上の砂利採取場に転覆状態で突っ
単位だったのか分かっていませんが、航空機に
はガロン単位で給油されました。問題はグアテ
マラで使われているのは英ガロン(1ガロン約
4.5リットル)であって、昨日までいた米国で使
われる米ガロン(1ガロン約3.8リットル)とで
は2割の差があったことです。整備士は現地の
給油車が示す英ガロン単位表示のまま頓着無く
給油してしまい、パイロットが慎重を期して計
画を変更し給油量を決定したにもかかわらず、
2割の過積載となってしまいました。仮にフェ
ンスに引っかからなかったとして、その先には
水道橋がそびえていました。もっと悲惨な事故
になり「星の王子さま」は世に誕生しなかった
ことと思います。
サン=テグジュペリがこうした長距離飛行に
挑むのは実は三度目でした。それらには全てこ
のシムーン型機が使われました。最初は1935年
にパリ-サイゴン間の飛行記録更新に挑戦し、
込みました。同乗整備士はその手前でエンジン
の下敷きとなり、サン=テグジュペリはむき出
し状態となったコクピットに座ったままの状態
で救出されました。整備士は右足を複数箇所骨
深夜リビア砂漠に墜落して失敗します。この時
のサバイバル経験が「人間の土地」で語られて
います。次は1937年に9,000キロに及ぶフランス
-ダカール間内陸部新ルート開拓で、こちらは
折する重傷、操縦者は頭部を含む左半身全体と
右手首を負傷し、1か月以上入院した上、深刻
見事成功させます。そして自分にとって最後の
長距離飛行になるだろうとの予想と覚悟を持っ
2 サン=テグジュペリ生涯最大の事故
て、これまで以上に入念な準備をして臨んだの
が今回です。これら3回とも同じ整備士が同乗
しました。気になるのは事前の駐在員との調整
です。サン=テグジュペリにはある問題があり
コードロン・シームン型機
14
2011 OCT
ました。彼は「フランス人は英語を話したがら
ない」という良くあるイメージどおりの人物で、
スペイン語とドイツ語はある程度だったようで
すが、信じられないことに英語は喫茶店でコー
が、整備員が給油量を要求する際に確認した換
算係数を、燃料員はいつも使っているリットル
ヒーを頼めないほどダメでした(のちにニュー
ヨークの喫茶店で身振りで頼んで半熟卵が出て
きたという逸話があります)
。英語論外の彼と駐
とポンドの係数「1.77」と答えてしまいました。
キログラムの換算では「0.803」が正解です。結
果的にこの飛行機には22,300ポンド(10,115㎏)
しか搭載されないことになってしまいました。
在員とは現地公用語であるスペイン語でやりと
りされたと推測しますが、そういう中でメート
ルやキログラムといった国際単位系(SI)の本
家であるフランス育ちの飛行士に、米ガロンだ
英ガロンだといった細部まで認識できたかは疑
問です。これまで自分や同僚達の経験した数々
の航空事故を題材にしてきたサン=テグジュペ
リですが、この生涯最大の事故について書くこ
とはありませんでした。彼の伝記作家の中には
「愚かな過ち」と記したものもありますし、彼自
身もこの事故については苛立ちを覚えずにはい
られなかったようです。では私達もこの事故を
そのように評価して良いのでしょうか、次の事
例を紹介したいと思います。
3 ギムリー・グライダー
時は流れて1983年7月23日、モントリオール
発エドモントン行きのエア・カナダ143便は航空
自衛隊の AWACS と同型のボーイング767-200
型機でしたが、この航空機が上空で両エンジン
フレームアウトを起こし、約17分の滑空を経て
軍の閉鎖された滑走路跡地(ギムリー基地跡)
に不時着するという事故が発生しました。
両エンジンフレームアウトという、滅多に起
こらないはずのトラブルの原因は、なんと燃料
切れでした。何故に現代のハイテク機でそんな
ことになったのかと言えば、起点は燃料系の指
示不安定にありました。本来2チャンネルある
系統でしたが、故障探求の経緯で燃料計測棒で
マニュアル計測するしかなくなってしまいまし
た。民航機の運用はコストコントロールのため、
もともと燃料に余裕を持たないと聞いています
が、この場合は予想される修理のために、飛行
後の燃料タンクを努めて空にする必要もあった
と思います。必要燃料は予備も含めてキログラ
ムでは正しく22,300㎏と算出されていたのです
当時は国際単位系への切り替え途上でエア・カ
ナダの使用機の主体はヤードポンド法を使って
いました。この機体は同社の国際単位系を使っ
た最初の機体だったのです。
機長は搭載量に何となく疑問を感じ、自分で
計算してみたりしましたが、係数をやっぱり間
違えたままなので是正はされません。更にフラ
イトマネージメントコンピューターへの入力も、
キログラムに(間違ったまま)換算した数値を
入力していますので、問題なく通ってしまいま
した。この飛行機はオタワを中継しましたので、
念を入れてオタワでも別の整備員が搭載燃料を
実測しましたが、安全工学でいうスイス・チー
ズの穴(注2)を見事に通り抜けた係数で彼も残燃
料を計算してしまい、是正されることはありま
せんでした。こうして143便はサン=テグジュペ
リを笑うことのできないフライトに旅立ちまし
た。
本稿の趣旨から言うと余談になりますが、そ
の後の機長達の処置についても触れておきます。
フレームアウト後、高度28,000フィートだった
機体は燃料が無いため補助動力装置も作動せず、
降下率計、対気速度計、予備高度計、コンパス
といった電源不要の計器のみで、滑空可能距離
や飛行方向などをパイロットは掴まなくてはな
りませんでした。ラムエアタービン(風力原動
機)が油圧を発生させ、操縦系統がある程度動
くようになりますと、機長は滑空の最大効率と
される220KTS を保つ姿勢に機体を維持します。
副機長は降下率からダイバート候補のウィニペ
グにたどり着くのは無理と判断しますが、その
時彼の軍歴が役に立ちました。近傍に彼がかつ
て勤務したギムリー基地があることを思い出し
たのです(しかし閉鎖されているとまでは幸か
不幸か知りませんでした)。
基地を発見しギアダウンしますが、オーバー
2011 OCT
15
スピードなのか滑空姿勢が影響したのか、前脚
が自重でロックできません。更にギアダウンで
機速が落ちたためにラムエアタービンの能力が
落ち、操縦も細かい修正が難しくなってきまし
た。しかし、目標基地に降りるにはまだ高度が
高すぎます。このピンチに今度はグライダーを
趣味とする機長のスキルが活かされました。彼
は高度を一気に下げるために、バンクをとって
のは、政府が設置した特別調査委員会が、会社
の国際単位系への移行処置の配慮が不十分だっ
たと指摘する1年後の事でした。
4 おわりに
飛行機に接する機会がほとんど無かったであ
ろう当時の人々にサン=テグジュペリの詩情豊
その反対方向へ大きくラダー操作を行う、フォ
ワードスリップを敢行します。タッチダウンす
るやブレーキを力一杯作動させた(767型機は油
かな空の物語は熱狂的に受け入れられ、彼は「星
の王子さま」執筆以前に、すでに我々には想像
しがたいほどのベストセラー作家で、数々の文
圧が無い場合アキュムレーターの残圧分しかブ
レーキは使えません)機体は、タイヤを何本か
バーストさせながら前脚アンロックのため機首
をこすって小さい火災を発生させつつ滑走しま
したが、機首をこする分抵抗が増えたためか、
滑走路跡地のオーバーランで実施されていたア
マチュアカーレースの群衆の手前で停止するこ
とができました。その火災も消火器を持って駆
けつけたレーサー達のおかげですぐに消せたそ
うです。61名の乗客のうち10名が前脚アンロッ
クのせいで持ち上がった尾部のスライダーで脱
出した際に軽傷を負いましたが、機体は2日間
の修理でまた飛べるようになりました。
学賞を受賞しています。彼の著書を読んで空を
志した人は多く、特に欧州の航空関係者には必
読必携で、第二次世界大戦の欧州上空の空中戦
とは、彼の愛読者同士の戦いと言って良いほど
のものでした。作家としての彼は航空機の特質
である脆弱性から派生するドラマ性や、悲劇性
を描く事に見事な成果を上げましたが、その航
空機の安全に影響を及ぼす人間の不完全性や愚
かさに起因すると思わせるミスやエラー、特に
自分自身についてのものを著すことには耐えら
れなかったようです。FAA(連邦航空局)が
ヒューマンファクターズガイドをとりまとめた
のはようやく1995年になっての事です。
「夜間飛
行」で原因指向型解決の存在を予感していた彼
が、グアテマラで自らが「暗黒の力」に捕らえ
られた体験を作品に残してくれれば、この空飛
ぶ文豪の筆力で航空界はもっと早くヒューマン
ファクターズ理論の門戸を叩けたかもしれませ
ん。彼にそれができなかった点もまた、ヒュー
マンファクターズの特性の証左といえるのでは
ないでしょうか。
(注1)渡利邦宏:事例で考えるヒューマンファク
事故後のエア・カナダ143便
かくも頑張った機長達に待ち受けていたのは
給油ミスの件での処罰でした。この時点でも「夜
間飛行」の時代と航空会社の考え方は全然変わっ
ていなかったのです。彼らの名誉が回復された
16
2011 OCT
タ⑼航空技術№546 p.50-51
(注2)ジェームズ・リーズン:組織事故とレジリ
エンス p.123
略歴 1956年生、宮城県出身、航空安全関係の
職務に長く携わる。
787納入初号機来日
技術の進歩に感動
航空大学校54回生Ⅳ期卒 峯 匡太朗
協力:編集委員 有野 達也 奥貫 博
待望の納入初号機
9月28日9時2分、787の納入初号機が羽田空
港に着陸した。前回来日の機体は試験飛行用の
米国籍ものだったが、今回は実際にお客様を乗
せて飛行する ANA の787初号機、JA801A だ。
目を引くのはカラーリングの違いである。787
が初来日した時とは違う号機ではあるが、外観
は同じため、前回ほどのインパクトは味わえな
いだろうと思っていた。しかし、実際に機体を
目の前にすると、塗装ひとつでこうも印象が変
わってしまうのかと驚いた。
前方から見ると白色が際立って見えるが、側
面からみると機体前方に大きく787と描かれてお
り、後方には藍色の上に交差する白のラインが
描かれ、ANA のネットワークとプロダクトサー
ビスブランド「Inspiration of Japan」を表現す
るデザインとなっている。
白いラインの交点はオレンジで塗装されてお
り、それぞれ「イノベーティブ」
(乗るたびにわ
雅に大空を泳ぐ機体というイメージがあった。
その他、側面には「e-flight」や「Dream Liner」
の文字が書かれている。燃費効率のよい787なら
ではである。この特別塗装は初号機と2号機の
みに施されるとのこと。JAL の787も早く見て
みたいと、期待がふくらむ。
日本人クルーによるフェリー
空輸は早川、樋上、有村の各機長が担当され、
シアトルの離陸は樋上機長、羽田の着陸は早川
機長が操縦した。早川機長は、ANA の初号機
とはいえ平常心でと心がけたが、着陸に際して
はやはり感動を覚えたとのこと。
機体に関しては、787は素直な飛行機で、思っ
たように操縦できる事を強調していた。また、
揺れが少なく、キャビンの気圧が高く快適。燃
料の効率性は素晴らしい等の感想が述べられた。
くわくする)、
「際立つ個性」
(独自の価値を見出
し、期待を超えた喜びをお届けする)、「モダン
ジャパン」
(日本初の新鮮なひらめきや発想を、
細やかな心遣いと共にお届けする)を意味して
いる。
「我こそは次世代最新鋭機 B-787である」
と言わんばかりの分かり易い塗装で、どんな人
でも注目してしまうデザインである。
塗装にはいろいろな意味が込められているの
だろうが、白のカラーリングはさわやかに、そ
して後方の藍色と白のラインが波を表現し、優
空輸担当の樋上、早川、有村 各機長
2011 OCT
17
写真中央の早川機長が持つ鍵は、ボーイング
から手渡された、デリバリーの記念の鍵との事。
新鮮な内装
外観のインパクトは非常に大きかったが、内
装も同様に驚かされる点が多かった。機体後部
から機内へ搭乗したのだが、機内は清潔感が漂
い、新車を購入した際のビニールシートを剥が
した後のあの感覚に近いものを感じた。また、
機内に入る際は、靴が機内を汚さないように、
取材する人達全員の靴にカバーをかけるほどの
徹底ぶりだった。
機内で一番初めに目が行くのは、何と言って
も窓である。大きさもさることながら、その機
能には最新鋭の機体である事をお客様に十分表
現できるものがあった。スイッチ一つで透明だっ
た窓がだんだんと青みを帯びて、やがて黒っぽ
い色に変化し、光を抑えてくれる。電気的に光
の透過率を変えられるエレクトロミズムを採用
している事は前々から知っていたが、実際にやっ
てみると非常に面白い。窓を暗くしても外の風
景が見えるというところが印象的であった。
座席はこれまでの機体と比較して頭部が薄く
なっており、代わりにクッションが取り付けら
れた仕様になっていた。座り心地はとてもよかっ
た。
座り心地の良い座席
また、座席の背もたれに取り付けられている
ディスプレイもタッチパネル式で、フライトの
現在の情報を知ることや、映像や音楽を楽しむ
ことできる上、画像も美しく、昔の777等に取り
付けられているものと比較すると明らかな進歩
が伺える。
楽しめそうな座席ディスプレイ
座席自体は767や777の新造機には取り付けられ
ているようであるが、古い座席しか知らない私
にとって、その変貌ぶりは劇的であり、はっき
り言って座席と窓だけでフライトを十分楽しめ
ると感じた。
JA801A は短距離国際線仕様で、キャビンは
2-4-2の座席配置で180席、プレミアムクラスは
光の透過率を変えられる窓
18
2011 OCT
2-2-2で12席ある。
普通席の窓際席でも圧迫感が少なく、また天
井も高くなっているので、中型機でありながら
もとても広々とした印象を持った。
ウォッシュレット付きのトイレは清潔感があ
り、想像よりも広く感じた。扉の開閉もスムー
ズに行うことが出来るので、快適で使いやすい
ものになっている。
カウンターバーまで備えたキャビン
ウォッシュレット付きのトイレ
機内の照明は全てカラー LED ライトである
ため白色だけでなく様々な色を表現することが
でき、フライトの状況に応じて色や明るさを細
かく使い分ける事が出来る。
取材中機内の照明を暗くし、LED ライトで虹
色を表現するというパフォーマンスを行ってい
たが、白色を基本とする内装に映えて本当に鮮
やかだった。
しても使用することができ、お客様に使って頂
きたいと語っていた。航空機の快適性をとこと
ん追求すると、移動手段という枠を飛び越えて
進化するのかと驚かされた。
国内線仕様と共に、海外への運航も考慮した
装備なのであろうが、これからの飛行機はどう
なっていくのか見当がつかない。
操縦室に入ると787dream liner の文字が目に
入り、HUD が座席前方に降りていた。EFB も
含め、左右にディスプレイが広がっている様子
は近未来の操縦室を象徴しているように感じた。
(今回も操縦室の見学は30sec ほどで、じっくり
見ることができなかった)
第二ドア付近のギャレーはカウンターバーと
近未来を感じさせる操縦室
今回の取材はパイロットとしてのものではな
虹色に変化する LED の機内照明
く、完全にお客様目線で行うこととなったが、
新しいものには興奮してしまうというシンプル
な気持ちを表に出させてくれる仕様だった。
2011 OCT
19
JA801A としての
ボーイング787
787は新技術のオンパレードであり、その空
力、構造、装備はこれからの飛行機の造りを大
今回納入された、JA801A としてのボーイン
グ787は、これまで見てきた787とはやはり別の
きく変えてしまう可能性を十分に秘めている。
苦労して作り上げた機体であることはこれまで
の経緯から伺えるし、その分期待も大きい。
ものであった。
特別塗装による印象はあるが、それよりも、
これから末永く、快適な空を提供する晴れがま
LED ライト、バーカウンター、トイレなどの
内装はすべて日本製であり、肌理細やかなおも
てなしを表現している。日本の技術は本当に素
しさと、新しいものに対する緊張感が入り混じっ
た感動が感じられた。
晴らしいと思う。
そしてフライトの安全性や快適性は多くの
人々によって支えられているが、そのような人々
前部胴体は白くさわやかな印象
にも働き易い新技術が用意されている。私は地
上の787しか見ていないのだが、787でのフライ
トは、きっと素晴らしい体験をさせてくれるの
ではないか。
当初の納入予定から3年の遅れ等、新技術へ
のチャレンジには大変な苦労があった787である
が、ようやく、お客さんに乗っていただき、そ
の素晴らしさを体験いただける段階になった。
今年度、ANA は計10機の787を受領の予定で
あり、来年には JAL の787も日本の空を飛び始
める予定である。
まずはお客様として実際に搭乗して、進化し
たサービスを体験してみたら如何でしょうか。
これからの活躍に注目したい。
躍動感にあふれる後部胴体
整備ハンガーに翼を休める787
本文:航空大学校54回生Ⅳ期卒 峯 匡太朗
写真:有野 達也 奥貫 博
誇らしげな JA 番号と日の丸
20
2011 OCT
編集:奥貫 博
◦ 特 集 技術革新と警鐘①
大西洋上の暗雲の中、消息を絶ったA330に何が起きたのか
エールフランス447便事故中間報告書より
運航技術委員会
山 康博(翻訳)
エールフランス航空447便(リオ・デ・ジャネイロ発パリ行き)A330-200は2009年5月31
日22時29分(UTC)に乗員12名(運航乗員3名、客室乗員9名)と乗客216名を乗せてリオ・
デ・ジャネイロを離陸した。そして3時間45分後、大西洋上で消息を絶った。この中間報告書は
2年後に発見されたブラックボックスを BEA(フランス事故調査当局)が解析して作成された。
以下は、中間報告書の要旨と新しい安全勧告を訳したものである。
●はじめに
中間報告書 No.3は海底の捜索キャンペーンに
より発見されたフライトレコーダーの読み取り
後2011年5月に作成された。その時までに明ら
かになった情報は事故の状況を解明する希望を
我々に対して与えてくれなかった。得られた情
報のみで BEA はいくつかの安全勧告を行った。
過去数週間 CVR と FDR から復元されたデータ
の解析が行われ、事故調査に貢献した。調査は
続行されており、最終報告書に盛り込まれる事
故原因を確定するための解析作業が続行されて
いる。
●フライトの経過と新しい事実
飛行は3つのフェーズに分けられる
●フェーズ1
当初機体は FL350で飛行していた。オートパ
イロット2とオートスロットルが使用され、フ
ライトは静穏だった。乗員は VHF で Recife
ATC センターと連絡を取っていた。乗員は高温
(ノーマル・プラス11度)について話していた
が、気象が問題をおこすとは考えていなかった。
キャプテンはコパイロットの乗務時間の長さ
を考慮して休息を取るよう勧めたが、コパイロッ
トは眠くないと断った。1時35分15秒にコパイ
ロットは ATLANTICO の管制官に INTOL を
通過した旨通報し、その後 SALPU に1時48分、
ORARO に2時00分到着予定とした。さらに
SELCAL コードを発信し、テストは成功裡に終
了した。
フェーズ1
CVR 録音開始からオートパイロットの解除まで
1時35分46秒に管制官は FL350を維持するよ
う指示し、TASIL の ETA を知らせるよう連絡
した。1時35分53秒と1時36分14秒の間に管制官
は返答がないので再度 TASIL の ETA を聞いた。
フェーズ2
オートパイロットの解除から失速警報の作動まで
これ以上の乗員と管制機関間の通信は無かった。
1時55分、キャプテンは第2コパイロットを
フェーズ3
失速警報の作動から飛行の最後まで
起こして、彼が自分のポジションに座るよう告
げた。1時59分32秒と2時1分46秒の間にキャ
プテンは2人のコパイロットの間で行なわれた
2011 OCT
21
ブリーフィングに立会い、PF は「今経験した
ように若干のタービュレンスがあるが、同様の
事 実
・重量と重心位置は運用限界内だった
ものが前方にもあるだろう。不運にも雲の層の
間にいるので現在は高く上がれない、何故なら
温度が予測よりゆっくり降下しているからだ。
・2時6分4秒に PF は客室乗務員を呼び「2
分以内に現在より揺れる空域に入るので十分
DAKAR への CPDLC のログオンは失敗し
た。
」と述べた。キャプテンはコックピットを離
れた。
事 実
・キャプテンは明確な運航上の指示を与えない
でコックピットを離れた。
・乗員配置は運航者の規定どおりだった。
・2人のコパイロットの間で明確な役割分担は
なかった。
機 体 は ORARO に 近 づ い た。 飛 行 高 度 は
FL350、速度はマッハ0.82、ピッチ角は約2.5度
だった。重量と重心位置は各々205トン、29%
MAC だった。オートパイロット2とオートス
ロットルが使用されていた。
客室を見張るように」と伝え、その空域から
出たらまた呼びますと付け加えた。
・2時8分7秒、PNF は「ちょっと左に行って
ください」と言った。機体は左方向にゆるや
かに旋回し、当初の経路に対して約12度の角
度だった。タービュレンスのレベルは少し増
し、乗員は速度をマッハ0.80に減速すること
を決めた。
事 実
・乗員はレーダーエコーに気付いていた。
・乗員は経路に対して左12度のヘディング変更
を行なった。
Lateral Profile
Vertical Profile
Atlantic Ocean
22
2011 OCT
●フェーズ2
上昇率は7,000ft/min に達し、その後700ft/min
2時10分5秒、オートパイロットとオートス
ロットルが解除され、PF が「アイ・ハブ・コ
まで落ちた。そしてロール角は右12度、左10度
の間で変化した。左席での指示速度は突然215kt
(マッハ0.68)まで増加した。
ントロール」と言った。機体は右方向にロール
し始め、PF は左方向に機首上げの操作を行なっ
た。失速警報が2度続けて鳴った。記録された
事 実
・左 PFD の速度は29秒間無効な表示だった。
パラメーターによれば、左 PFD の速度は275kt
から60kt に急減し、インテグレィティッド・ス
タンバイ・インストルメント・システム(ISIS)
機体はその後、高度約37,500ft で迎え角は4
度だった。2時10分50秒から PNF は何度もキャ
にも遅れて表示された。
プテンに操縦席に戻るよう呼びかけた。
事 実
・オートパイロットは若干乱れた雲の層を飛行
中に解除された。
・アイス・クリスタルの環境下でピトー管の阻
害の結果として速度の不一致が PFD と ISIS
間に見られた。
・オートパイロットが解除された時点で機長は
休息を取っていた。
2時10分16秒に PNF は「我々は速度を失っ
た」
、
「オルタネート・ロー プロテクション」
と叫んだ。機体のピッチ角は10度を超えて次第
に増加し、機体は上昇を始めた。
事 実
・乗員は速度表示の減少を認識して言葉に出し
たが、2人のコパイロットはどちらも「アン・
リライアブル・エアスピード」時の手順を
ECL(Electronic Check List)で呼び出さな
かった。
・コパイロットは「アン・リライアブル・エア
スピード」時の高迎角訓練の手順と手動によ
る機体制御の訓練を受けていなかった。
・ピッチ角と垂直速度の差についてのスタンダー
ド・コールアウトは行なわれなかった
・コパイロット2名に対してリリーフキャプテ
ン(Second in Command)としての CRM 訓
練は行なわれなかった。
PF は右と左で機首下げの操作を行なった。
●フェーズ3
2時10分51秒、失速警報が再度作動した。ス
ラストレバーは TO/GA ディテントに置かれ、
PF は機首上げを維持した。記録された迎角は
失速警報が作動した時点で6度前後で増加し続
けた。トリム可能な水平安定版(THS)が動き
始め、1分間で3度から13度ノーズアップまで
動き、飛行の最後までこの位置だった。
事 実
・失速へ近づいたことは警報の作動そしてバ
フェットの兆候で特徴付けられる。
・失速警報の作動後、短い時間で PF は TO/GA
スラストに入れ機首上げ操作を行なった。
・オートパイロットの解除後1分足らずの間に
機体はフライトエンベロープの外に出て、そ
の後機首上げの手動操作が行なわれた。
・機体がフライトエンベロープの外に出るまで、
機体のピッチ方向の動きは舵面の動きと一致
していた。
・どちらのパイロットも失速警報に言及してい
ない。
・どちらのパイロットも失速状態にあることを
正式に認めていない。
約15秒後、ISIS に表示された速度は突然185kt
まで増加した。
事 実
・ISIS に表示された速度が無効である状態は54
2011 OCT
23
秒間続いた。
よるサイドスティックの機首下げの操作が同時
に行なわれたことが記録されており、PF は
この事象は表示された他の速度と一致してい
る。PF は機首上げの操作を続けた。高度は約
38,000ft の最高高度に達し、ピッチ角と迎角は
「ゴーアヘッド、ユーハブ・ザ・コントロール」
と言った。迎角は数字が有効な時は常に35度以
上を指示していた。
16度に達した。
2時11分42秒に機長は操縦席に戻った。その
数秒後、記録されたすべての速度が無効となり
事 実
・飛行全体を通してエレベーターと水平安定板
失速警報が止まった。
事 実
(THS)の動きはパイロットの入力と一致し
ていた。
・エンジンは作動しており、常に乗員の入力に
・機長はオートパイロットが解除されてから1
分30秒後に操縦席に戻ってきた。
・迎角は失速警報を作動させるパラメーターで、
迎角の数値が無効になると失速警報は停止す
る。
・設計により速度が60kt を下回ると3つの迎角
値は無効となる。
・失速警報が作動する度に、迎角は理論的な作
動値を超えた。
・失速警報は54秒間連続的に作動した。
応答していた。
・乗客へのアナウンスはされなかった。
飛行高度は35,000ft 前後、迎角は40度を超え
て垂直速度は-10,000ft/min 前後だった。機体
のピッチ角は15度を超えず、エンジンの N1は
100%近くだった。機体はロール方向の振動に入
り、ロール角は時々40度まで達した。PF はサ
イドスティックで機首上げ、左バンクの入力を
ストップ位置まで押して30秒間続けた。
●安全勧告
事 実
機体の迎角はパイロットに直接表示されない。
2時12分2秒、PF は「もう何も指示値がな
い」と言い、PNF は「我々には有効な指示値が
ない」と言った。その時点でスラストレバーは
IDLE ディテントにあり、N1は55%だった。15
秒後に PF はピッチダウンの入力をした。次の
瞬間、迎角は減少して速度値は再度有効となり、
再度失速警報が作動した。
2時13分32秒、PF は「もうじき高度10,000ft
に達する」と言った。15秒後、両パイロットに
24
2011 OCT
記録は2時14分28秒で停止していた。最後に
記録されたのは垂直速度 -10,912ft/min、対地速
度107kt、ピッチ角16.2度機首上げ、ロール角左
5.3度、磁方位270度だった。
乗員による緊急通報は行なわれなかった。残
骸は機体から発信された最後の位置から北北東
6.5マイルの地点で3,900m の海底から2011年4月
3日に発見された。
フライトレコーダーの読み取りに基づき飛行
経過が解析され、新しい安全勧告が発行された。
●運航に関連した3件の勧告
・手動による機体操縦の訓練(1件)
規制当局が訓練やチェックの内容を再検証し、
特に手動での機体操縦における定期的な必須訓
練要目の設定を勧告した。高高度における失速
への接近と回復方法も含まれる。
・リリーフ・キャプテン(2件)
クルー交替の場合の適切な役割分担を確実に
するため、リリーフ・キャプテンの役割につい
て追加的な判断基準を規制当局が設定するよう
2件の勧告が出された。
●航空機の型式証明に関する勧告
・迎角の表示
機上の乗員が直接迎角を読み取れる計器を機
上に搭載するかどうかについて規制当局が検討
するよう勧告を行なった。
●フライトレコーダーに関する4件の勧告
・イメージレコーダー(2件)
航空運送事業用の機体については計器盤全体
を記録できるようなイメージレコーダーの装備
の必要性について規制当局が検討するよう勧告
した。もう1件の勧告はこのような記録の使用
について厳格な規則を設定するよう求めるもの
である。
・パラメーターの記録(2件)
記録すべき追加パラメーターについて2件の
勧告が行なわれた。
●フライトデータの送信に関する2件の勧告
1件の勧告は緊急事態が検知された場合、デー
タを特定の場所に収容するために送信を規制当
局が義務付けるというものである。もう1件は
同じく緊急事態が検知された場合に ELT の作
動を義務付ける可能性について検討するという
ものである。
この事故中間報告書と安全勧告は非常に示唆
に富む内容を含んでいると思われる。読者の皆
さんは教訓として何を学ばれるだろう。
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● JAPA SHOP
※正会員には無償配布(送料込)
2011年4月より順次価格改定
JAPA 販売商品
定価(一般)
会員定価
送 料
AIM-JAPAN 英 語 前期版・後期版
学科試験スタディーガイド
TAKE-OFF 安全飛行への招待
パイロットガイダンス 改訂版(前年度版は旧価格)
ヘリコプター操縦教本 改訂版(前年度版は旧価格)
航空気象
5,250円
5,250円
5,250円
5,250円
5,250円
5,250円
2,500円
4,725円
4,725円
4,725円
4,725円
4,725円
4,725円
2,250円
380円
380円
420円
380円
380円
380円
380円
空中衝突
PILOT 誌 (4冊発行/年)
パイロット手帳(1冊発行/年)
ライセンスケース
手袋
2,300円
1,050円
1,575円
5,250円
5,250円
2,070円
945円
1,417円
4,725円
4,725円
380円
240円
280円
280円
280円
AIM-JAPAN 日本語 前期版・後期版
JAPA 取扱商品
※
※
※
※
定価(一般)
会員定価
送 料
区分航空図 501~507各
ターミナル航空図 253、
254、
255、256
2,600円
2,600円
2,340円
2,340円
280円
280円
首都圏詳細航空図
3,000円
2,700円
280円
定価(本体価格+税)
お買い求めは操縦士協会もしくは、お近くの販売店をご利用ください。
直販の場合は代金先払いとなりますのでお近くの郵便局よりお振込みください。
(お振込前に必ず在庫確認をお願いいたします。)
振込口座:郵便局00180-9-88490 社団法人 日本航空機操縦士協会宛
お問い合わせ先:TEL 03-3501-0433 FAX 03-3501-0435
E-Mail:[email protected]
2011 OCT
25
◦ 特 集 技術革新と警鐘②
ゆう うつ
航空界の憂鬱
現実となったパイロットの技量低下
元日本航空機長
上田 恒夫
―はじめに―
時、うわさで伝え聞いたボーイング747へ移行す
る、パンアメリカン航空のクルーの経験要件で
去る7月29日、BEA(フランス航空機事故調
査委員会)はエアーフランス447便(A-330-200)
の事故(2009年6月1日大西洋上で消息不明)
に関する第3回目の中間報告を発表した。
その中で、報告書は3人のクルー誰しもが失
速に気がついていなかったばかりでなく極度の
機首上げ姿勢のまま10,000ft/min で落下してい
る機のコントロールが出来なくなっていた事実
を明らかにしている。そして報告書は、エアー
フランス社の乗員訓練の不足を指摘しているが、
他方では多くのパイロットを含む航空安全の専
門家は、この事故も最近起きたインシデントの
多くも皆オートメーションが必然的に招いたパ
イロットの技量低下の結果であると警告してい
るのである。(8月30日 AP 通信)
航空機自体の信頼性がますます向上している
この時代に、失速からの回復ができないばかり
あった。
「そんな神様みたいな経験を持つクルーは、日
本ではいてもほんのひとにぎりだよ」とは、当
時の先輩機長の言葉であった。
ボーイング707や DC-8が就航したとき、時代
は大量高速輸送時代に突入したと、新聞はこぞっ
て航空界を祝福したものである。そして1970年
1月、ニューヨークからロンドンに初めての747
が就航したとき、今度は超大量高速輸送時代の
幕開けという言葉で、テレビが主役になったマ
スコミは人々に明るい未来の到来を予感させず
にはおかなかった。さらには、超音速輸送機の
開発が進行中で、航空界はバラ色一色に塗りつ
ぶされていたと言っても過言ではないほど、経
済の成長と共に右肩上がりの時代を迎えていた
のである。
そんな航空界で、機長の責任がますます重く
か、空中で発生する諸問題に対処できないパイ
ロットの出現は、航空を利用する一般の旅行者
を震え上がらせるに違いない。
われわれはなぜこんな時代を迎えてしまった
なっていったのは当然の結果であり、社会もこ
ぞって大きな責任を果たす機長の社会的地位の
向上を後押しした。
「キャプテン(船長)の言葉は法律である」
のだろうか?
航空はどこへ向かえば良いのだろうか?
は、航空界にも持ち込まれ、機長は船長以上
たてまつ
に 奉 られて尊敬され、後に“機長の神格化”と
筆者はジェット機の運航が始まった時代から
の歴史を振り返りながら、これらの質問の答え
を模索してみたい。
いう言葉で、機長は神様扱いされる場面を迎え
ることになるのである。
―神様クルーを求めた時代―
機長3万時間以上、副操縦士1万5千時間以
上、航空機関士2万時間以上。これは1969年当
26
2011 OCT
―思想の大転換―
「コックピットは決して民主的な世界ではない
ことを、今や、新人のパイロットたちに再教育
するときである。一度機長が命令を下したこと
に対して、投票などということはあり得ないの
である」
。
に委ねるのは誤りで、チームワークという人間
同士が醸し出す個人能力より大きな力、相乗効
1974年アメリカのウィリアムズバーグで行わ
れた FSF(飛行安全財団)の総会の席上で、ア
メリカ大手の航空会社の機長はこう演説で述べ
果によって達成されるべきである。
た。
この頃、航空界の片隅で、事故が起きるたび
にある疑問が投げかけられていた。
「機長が誤った決定を下したとき、悪天候下の
進入中、堂々と規則違反をして最低降下高度よ
り低く降下し機が危険な状態になったとき、副
操縦士は機長から操縦桿を取り上げても良いの
ではないか?」。
しかし社会の反応は鈍く、あっても煮え切ら
ないものであった。
「コックピット内にさし迫った事態が起きたと
き、副操縦士が機長から操縦桿を取り上げる、
何らかの方法があってもいいだろうが、だから
といって、機長の絶対的権限を、一時的にもゆ
るがす危険に陥れることはできない」
(NTSB)。
「機長の指揮権は、守られなければならない。
最低降下高度以下に降下する、そのことの方が
コックピット内で機長と副操縦士が操縦桿を取
り合って低速度、低高度で取っ組み合いのけん
かをするより、危険は少ないかもしれない」
(FAA)
。
1983年ブラジルのリオデジャネイロでの FSF
の総会。ここでは、思想の大転換が起きていた。
その変化を、当時の NTSB の委員長であった
ジム・バーネット氏の演説に見てみよう。
「航空会社は、人間の行動に中心をおいた訓練
プログラムを強化しなければなりません。
―中略―
従来のような個人能力に焦点を当てた訓練で
はなく、チームとしての乗務員の訓練が、私が
これまで話してきたことの一つの具体策ならば、
高度に改良されたシミュレーターの使用は、も
うひとつの具体策です」。
この演説でバーネット委員長が公式に明らか
にした事実とは、1.人間個人がいくら優秀で
あってもその力はちっぽけなものである、2.
したがって、航空安全という大命題を個人の力
熟練と慢心
―パイロット無用論―
航空界が大きく変わるきっかけとなったのは、
1977年3月27日に発生したテネリフェの事故で
ある。(B-747同志の滑走路上での衝突)
余談になるが、この事故の後「こんな大きな
事故を起こすのなら、いっそ人間に操縦を任せ
るのはやめて、無人操縦の飛行機を開発すれば
良い」という声がボーイング社にも届き、開発
担当者は「真剣に検討します」と新聞紙上で答
えていた。
この事故以来、人間のミスを防止する様々な
研究や実験が繰り返され、アメリカでは CRM
(Crew Resource Management)、ヨーロッパで
は NOTECS(Non-Technical skills)が開発さ
れ、クルーの訓練に導入されるようになった。
いずれの訓練も、それまでクルーの訓練にはな
かった人間同士の交流からチームワークを生み
出す技能を付加することを目的とするものであ
る。
これらの訓練の効果を疑問視する声がなかっ
たわけではないが、1989年すべての油圧系統を
失って操縦不能となったユナイテッド航空232便
(DC-10)を生還させたクルーのチームワーク
は、CRM を航空安全に必要不可欠なクルーの
技能として定着させ、さらには改善を急がせる
結果となったのである。
2011 OCT
27
大手の航空会社の運航規定がオートパイロット
を外して自動操縦に切り替えることを制限した
り、禁止したりする規定を設けることによって
手動操縦を妨げている事実を公表するに至った。
―魔の2009年―
2009年は、航空機の失速による墜落を3件経
験するという、異常な年となった。
慢心と倦怠
CRM は他方で、パイロットがコックピット
内でコマネズミのように忙しく操縦や通信に従
事することから開放し、互いの行動をモニター
する余裕を作るためオートパイロットの使用を
極力推奨することとなった。また、より精密な
操縦を要求する航空環境の変化(全天候運航、
GPS 進入等々)はますます自動装置への依存を
加速させていったのである。
そんな中で、1983年に就航した B-767は、飛
行機のシステムの知識とキー操作を覚えればパ
イロットでなくてもこの飛行機を飛ばすことが
できる機材として登場したのである。その後投
入された A-330、B-747-400はいずれもパイロッ
トがいなくても飛ばすことができる飛行機とし
て一部の関係者、特にパイロットの訓練費の削
減に熱心であった航空会社から熱烈に歓迎され
たのである。
また高額なパイロットの人件費に常に批判や
疑問を投げかけていた関係者も、自動化による
パイロットレス運航、すなわちパイロット無用
論を歓迎したのは言うまでもない。
だが自動化への過度の依存はつい最近、新た
な安全への懸念として FAA の安全諮問委員会
によって警告をうけることになった。
安全諮問委員会は、最近起きた人間の死亡を
発生させた重大事故と9,000便に及ぶ定期航空便
のモニター調査、パイロットの面接調査によっ
て、平均2時間以内のフライトとなるコミュー
ター航空では手動で操縦する時間は80秒以下、
28
2011 OCT
ニューヨーク州バッファロー、アムステルダ
ム、リオデジャネイロ沖、いずれの事故におい
ても、パイロットが最も重要な基本である機の
速度をモニターしていれば防げた事故であるこ
とが指摘されている。
この事実は、ついに自動化に依存しなければ
飛行機を飛ばすことができないパイロットが航
空会社の定期路線の運航に従事していることを
結果的に暴露することになった。そして航空界
が犯した過ち(自動化への過度の依存)の結果
が、同時進行的に世界で起きたことを伺わせる
ものであった。
同じ2009年に起きた、ハドソン河への奇跡的
な着水を成功させたサレンバーガー機長は、空
軍時代グライダーの教官業務に従事していた。
常に基本計器で飛行するグライダーの経験から、
氏は最近のインタビューで、手動操縦と自動化
されたシステムとの統合の素晴らしさを讃える
一方で、手動で鳥のように空を飛ぶ喜び、それ
はパイロットが絶対に忘れてはならない特権で
あり、喜びであると、そしてそれはエアライン
パイロットが常に仕事の中心に備えるべき人間
愛を生む源であると述べている。
―おわりに―
油にまみれたカバーオールやゴーグルを身に
付けて空を飛んでいたパイロットの先輩たちの
姿は、ネクタイを締め、ドスキンの制服に身に
包んだ人に取って代わられても、空に受け入れ
られる条件、空を飛ぶ技術、それらは少しも変
わっていないはずである。
空は相変わらず、
「海以上に過酷なまでに人間
のミスを容赦しない」のである。
昔に帰ること、それは進歩を続ける航空界で
られているのではなかろうか?
上田 恒夫氏のプロファイル
1941年静岡県生まれ、千葉県松戸市在住。
1963年日本航空入社、副操縦士時代は米国
に駐在。
1972年機長に、同社運航安全推進部次長、
同技術研究所基礎技術部次長を歴任、JAPA
理事。
Flying Donkey
はダサイことに見えるかもしれない。でも、旧
式な計器を思い起こし、それらがいかに航空の
安全と進歩を推進してきたか、われわれは原点
であるそこに帰って操縦技術を磨く必要性に迫
2001年 7 月にラストフライトを迎える。
「敬天愛人」を座右の銘に妻と長男の 3 人
暮らしの日々、退職後は自宅から孫のいる
アメリカと北海道を棲み分ける生活。
近著「サレンバーガー機長が実証したもの」
をご記憶かと…編集委員会
Keep away of me !
Auh God !
Woops !
Sorry !
2011 OCT
29
再発見! そんな技
ࢫᇌếὲẅᢃᑋ Ὁ ২ᘐᜒࡈ
我々の運航の環境は、規程などの種々の制約で取り巻かれています。これらの制約は並大抵
のことでは覚えられません。覚えて知識となったとしても忘れ去ることも多い、と思います。
しかし、以前から、私の経験も含めて、Captain になるための訓練等々では『知識と実際の結
合』が、口が酸っぱくなる程強調されて来ました。
『知識と実際の結合』を容易に且つ忘れ難く
するための方策は『現在の機種の運航と結び付ける』ことに尽きます。
1回完結のフリーサイト 投稿ブログ
Flight は知識と実際の結合
運航技術委員会 蔵岡 賢治
『知識と実際の結合』を、先ず運航で必要な ICAO に準拠す
る日本の計器飛行および最低気象条件の設定基準で考えてみま
しょう。
図-①
図-①は、標準の旋回離陸上昇区域の模式図です。
離陸後、Runway から1nm で旋回し離陸上昇経路に乗る、と
だけ覚えるのではなく、実際に書かれてある旋回経路の中心の
半径は1.75nm、3.5nm 半径の中で旋回しなければなりません。
旋回半径1.75nm は、Speed 220kts で Bank25度、180kts ならば
Bank15度、旋回半径3.5nm の場合は250kts で Bank18度です。ま
た、離陸上昇経路への Intercept Course は30度となります。こ
れを知るだけで Operation の幅が広がるのではないでしょうか。
Rough Air で Over Bank しない様に必死で Bank25度を守る
人がいますが、離陸後の Climb Speed が160kts ならば Bank20度でも良く、Pitch 変化も少なく余裕
があり、また旋回中に加速する場合も旋回終了まで220kts 以下であれば、中心線の内側を飛行する
ので標準の旋回離陸上昇区域を逸脱することはありません。
旋回後、離陸上昇経路へは30度で Intercept すれば良く、Bank を深めて VOR 局に向かう、或い
は FMS 機材の LNAV に Follow して右左と Bank する必要も無いことになります。但し、この標準
の旋回離陸上昇区域は、空港毎の特性、Terrain、Noise Abatement、Control Area 等々で旋回の範
囲が指定される事もあります。
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2011 OCT
図-②
図-①では、標準の旋回離陸上昇区域の Lateral Profile を見ましたが、Vertical Profile はどうで
しょうか?
図-②、通常の SID(Standard Instrument Departure)の無障害物表面は、①の Terrain に対し
ては40:1で設定されます。
しかし、②の Terrain、40:1を超え30:1を超えない障害物がある場合は、1nm につき300ft(=
20:1)の上昇率が指定されます。我々の運航に結びつけるには Climb Rate を考える必要がありま
す。
1nm につき300ft(=20:1)は、Approach の3.0度 Path の目安の Descent Rate =1/2× Ground
Speed と同じです。40:1はその半分となります。
Approach の Data は Take Off にも利用できます。
40:1と20:1の高度は、Runway から5nm の例でも倍違います。1Engine Failure となった時、
Climb Gradient を得る事が厳しい双発機あるいは3/4発機の Heavy Weight)では Take Off Thrust
の Selection や Engine Failure 時の Gradient の Check の参考になるのではないでしょうか?
図-③
図-③は、Non Precision Approach の最低気象条件の設定と通常設置されている Simple Approach
Lighting System を組み合わせた図です。Non Precision Approach の最低気象条件は、滑走路内側
1000ft の地点から3.0度(Category D)と MDA が交わった点から、Approach Guidance Light 等の
照明施設の末端までの斜距離が Visibility Minima として設定されます。つまり、Visibility が Marginal の時、実際は設置された照明施設の APP Guidance Light 等の先端しか見えません。Runway
を一生懸命探している人もいますが、Runway が見えた時には既に適正3.0度 Path の降下地点を過
ぎています。
実際の運航と結び付けるには、MDA の高度を300ft/1nm で計算すると概略把握することが出来
ます。
例えば、図-③ MDA が600ft HAT であれば、Touch Down までの距離は約2.0nm で約3600mの
Visibility が必要です。通常の3000ft の Approach Guidance Light 等の照明施設の末端が見える Vis2011 OCT
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ibility は900m引けば2700mとなります。
Visibility 3000mと報じられている時は、VDP からは
図-④
Approach Guidance Light 等しか見えません。
3600mでも VDP の基準から PAPI は見えず Runway End
しか見えません。VDP で何が見えるか予想することは重要
です。これらが見えれば Approach が可能ですが、少ない
目標で Runway Align や Path 降下が余儀なくされ、MDA
からの降下が如何に難しいか!が想像できると思います。
この時は、Runway や Extend Center Line が表示される
ND(Navigation Display)や HSI で Runway Align のため
の Lateral 情報、VNAV Path Indicator や DME 等で Path
降下のため Vertical 情報等々、種々の情報を最大限に利用しなければなりません。
図-④は、Non Precision Approach の旋回進入復行区域の模式図です。MAP(Missed Approach
Point)から進入復行する場合、設定基準では MAP 点で即旋回となっています。MAP 即旋回の時
の半径は1.5nm で設定されており、150kts では Bank15度で可能です。
実際の Missed Approach はどうでしょうか?
TO/GA Switch Push → GA Thrust → Flap ○ → Gear Up →『LNAV』等々で LNAV が Engage
されるまで直進し旋回開始が遅れます。
ILS では1nm 直進できる第一進入復行区域がありますが、Non Precision Approach の旋回進入復
行区域では旋回半径も考えなければならず、直進できる余裕はあまりありません。旋回が指定され
た Missed Approach は Terrain や Obstacle 等のためで出来るだけ早い旋回開始が望ましいでしょ
う。旋回後、進入復行経路へは30度で Intercept すれば良く、離陸上昇経路へ飛行するのと同じく、
Bank を深めて VOR 局に向かう、或いは FMS 機材の LNAV に Follow して右左と Bank する必要
も無いことになります。
図-⑤
設定基準の数例で『知識と実際』を見てきましたが運航の重要な Phase である Approach を見て
みましょう。
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2011 OCT
図-⑤は、ILS の基準の Glide Slope と Localizer の Profile です。設置場所がズレてはいますが、
解り易くするために PAPI の Path(点線と白白赤赤範囲を塗り潰しで表示)を Glide Slope の Profile
に重ねています。
Glide Slope の図から解る様に、Glide Slope 1dot 以内は、ほぼ PAPI の白白赤赤の範囲で、HAT
200ft では20ft、Threshold では5ft の幅で、1~2dot の範囲は PAPI の白白白赤や白赤赤赤の範囲に
ほぼ等しいことが解ります。
Final の Path 降下は『3度の Glide Slope 上を Landing Flap で Level Flight する』と考えれば、
Runway から5nm の位置では1dot 幅は150ft なので、150ft 以内で一定の高度を Level Flight をする
ための Pitch Control、同様に、HAT 200ft では20ft 以内の Pitch Control、つまり20ft 以内の Level
Flight と考えれば、Runway が近づくに従い1dot 幅は狭くなり Pitch 変化も同様に次第に小さくし
なければならないことが理解できると思います。
Glide Slope を維持するには、PAPI の白白赤赤の範囲から、Chase するのではなく『近づけてい
く Control』で良いはずです。その時の Pitch 変化は Glide Slope の2dot 範囲=±0.56度から、±1.0
度の Pitch 変化でも十分でしょう。
FMS 機材では1度の Pitch 目盛が無いので Aircraft Symbol の1dot 以内で近づけると考えれば良
いと思います。
Visual Approach の Path Control も Glide Slope と PAPI の比較から見えて来るのではないでしょ
うか?
PAPI の白白赤赤の範囲と Glide Slope 1dot 幅がほぼ等しい事を考えれば、PAPI の白白赤赤を維
持する Pitch Control は、Glide Slope の Control と同じく、大きな Pitch 変化で Chase するのではな
く『近づけていく Control』となります。
さて Localizer について、HAT200ft で Localizer 1dot は約220ft です。1/3dot でも Runway Center Line から約70ft ずれています。Runway の幅や機種によっては Main Gear は Runway Edge 付
近です。従って、同じ1dot でも Glide Slope と Localizer の幅は違います。
低高度200ft 以下では、Glide Slope の修正は可能ですが、Localizer から外れた場合、『S Turn』
(Course Correction)できる機会は1回限りです。従って Localizer(PAR も同様)の Center を維
持することは重要です。
以上、設定基準等、数例をあげて実際の運航との結合を述べてきました。設定基準に限らず、知
識は知識、Operation は Operation、と分けて覚えれば、その知識は受験勉強の様な覚えるだけの知
識となり、Back Ground の無い Operation となってしまいます。
種々の知識は実際を Image して、実際の Data や実際の機種、運航と結び付けて初めて本物の生
きた知識となります。種々の文献や資料を見る際『実際飛んだらどうなんだろう?』と考えて読む
と、解っていたつもりでも新たな発見があり、また興味が湧き『知識と実際の結合』が図られるの
ではないでしょうか!
2011 OCT
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痛し痒しのタンデム・ローター・ヘリコプタ その2
自動飛行装置 PFA
文と絵
湧井 カレン
まず前篇「お助けマン SAS」の復習ですが、V107の基本的な操縦が、①パイロットの操縦+安定
増大装置(SAS=3軸周りの運動に減衰を与えて動安定を改善する、②横滑り角を検知して風見安
定を高め、中・高速域でスティックのみによる釣り合い旋回を可能にする)+縦スティックトリム
(ALCT=中・高速域で静的速度安定を改善する、③巡航速度での過度の機首下げ姿勢を改善する)
の3者で成立しており、電子的な「お助けマン」なしには満足な安定が得られない「傷みと痒み」
を紹介しました。
本編では V107タンデム・ローター・ヘリの自動飛行装置(PFA)の機能について
紹介しましょう。
AFE(Automatic Flight Equipments)はスエーデン王立海軍で使用する KV107II ヘリ用に我が
国で開発した装置で、航法信号源にドプラー航法装置を利用していました。今では INS や GPS に
なるのでしょうが当時はまだ普及の段階ではなかったようです。
一般にヘリコプタのオートパイロットはパイロットが手動により設定した飛行状態(姿勢、速度、
高度、方位など)の保持を、パイロットに代わって自動的に行う自動操縦が主流でした。ところで
自動飛行装置は別名 PFA(Programmed Flight Autopilot)と言う呼び方があるように、ホバリン
グから巡航状態に至る広い飛行範囲で、自動的に希望の飛行状態へ移行させ、保持する機能があり
ます。パイロットは通常の操縦装置には一切手足を触れることなく、すべてコントロールパネルに
組み込まれたボタン、ノブ、スイッチ、ジョイ・スティックなどを操作するだけで希望の飛行状態
を指令できるのです。
作動モード
図1にその作動モードと機能・精度を示します。ASE, ASE + ALT, ATC モードは固定翼機の姿
勢保持、速度・高度保持、方位保持、PSH モードと同じです。特筆すべきは Cruise モードと Approach
モードですが、固定翼機の NAV/App モードと違って、任意の一点(多くは海面上の船舶や遭難
者)に正確にアプローチし、離脱するモードであり、地上からの援助信号は受けないところです。
またホバリングと言う厄介なマヌーバーの下で自動飛行を行うことです。
Cruise モードにはホバリングから巡航領域への Transition up が含まれます。速度と高度の信号
は Approach モードも含めて対地速度、対地高度を用いますが、巡航領域の速度は対気速度になり
ます。Approach モードには巡航域からホバリングへの自動アプローチ(Transition down)とホバ
リングでの高度・速度の変更と保持機能があります。またホバリングには2つのサブモードがあり、
Pilot モードと Both モードに分かれます。Both モードはキャビンの乗組員のジョイ・スティックに
より位置・速度制御ができます。また正確なホバリングを行うために海中(Dipping Soner など)
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2011 OCT
からのケーブルによる信号でも制御できます。
ASE は Automatic Stability Equipment の略
です。
ATC(Automatic Turn Control)はモード
に関係なく40kt 以上ではバンク角14度の釣り
合い旋回を、40kt 以下では SAS によりバン
クを伴わない旋回を行います。
センサーと信号源
PFA の入力信号を作りだすセンサーと信号
源は次のものです。
*姿勢ジャイロ:姿勢角、ピッチ、ロール
*方向ジャイロ:ヨー信号
*ドプラーレーダー:位置情報、対地速度(自
動対地・対水ホバリングを可能にする)
*電波高度計:低高度での飛行と対地・対水
ホバリング信号
*加速度計:海面のうねりを Washout する信
号
*対気速度・気圧高度変換機:ピトー系圧力
を利用し、姿勢角と操縦装置のプログラム
から40kt 以上の信号源とする。40kt 以下で
はドプラーレーダーからの対地速度信号を
利用する。40kt の切り替わり時には両者の
信号の差(横風成分など)を記憶し補正を
かける。
*RMI(Relative Magnetic Indicator):磁方
位信号、旋回時の機首方位信号を方向ジャ
イロから取り込む。
図1 自動飛行のモード
PFA の出力信号は電気・機械式アクチュエーターにより
各軸ごとに操縦系統へ並列的に伝えられます。また PFA が
作動中でもパイロットが操縦装置を握る(触れる)だけで
いつでも手動でオーバーライド出来るよう安全機構が用意
されています。
(図2では PFA を含む自動飛行装置の総称として AFE
の用語が使われています)
図2 オーバーライド機構の模式図
2011 OCT
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自動アプローチ
PFA の最大の特徴は自動アプローチにおける「距離の再現性」と「理想経路の設定」にありま
す。図3に示すように、Cruise Area 内の任
意の1点を Normal Entry Gate に選び、アプ
ローチの終点(Target 高度30ft)までの経路
が決まります。ここで設計屋さんの選んだも
のは点線のような直線で減速率は1.5kt/Sec. で
した。この経路に沿ってアプローチさせてみ
るとパイロットは大変な違和感を覚えます。
そこで実線のような非線形の経路をたどるよ
うに変更させたところ、安心・安全感のある
アプローチになりました。設計屋にはさぞ「痒
かった」ことでしょう。
図3 アプローチ経路
絵1 救難自動飛行のパターン
絵1は運用面での一例です。遭難者を発見したヘリは先ずその上を通過し On top(Target)を
マークすると Entry Point となる同心円ができます。風向きや周囲の状況から円上の任意の1点を
Entry Point に選ぶとその場で target までの Approach Path が設定されます。以後は自動的に Entry
Point を通過し Target に向かって Approach します。救助後は意図した経路に沿って上昇し、巡航
に戻ります。センサーにドプラー信号を用いたことで、海流などでドリフトする Target にも追従
してアプローチできるのですね。
Cruise モード(Transition up)と異なり、Approach モード(Transition down)では距離制御信
号が加わります。対地速度信号と実際の通過距離信号を計算、比較して「まだ進むべき距離」を割
り出し、減速率を変化させることで「距離の再現性」を獲得しているのです。このへんは設計屋が
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2011 OCT
「痛む」ところで、パイロットには何となく分かれば良いことでしょうか?文献には難しく書いてあ
りますが、省略します。
ロールおよびヨーについては速度40kt での SAS のヨー・レート信号の切り替えが関係しますが、
対地ホバリングを達成するために、風上への横対地速度を残すことで見かけの横対地速度をゼロに
する制御を行います。つまり風の成分だけ風上に進んでいる状態です。また海流などがあればその
ドリフトと共にホバリングします。40kt 以上では通常のロール軸制御だけで問題ありません。
システム全体
いずれのモードでも、
1 パイロットのフィーリングを満足させる動きであること
2 IFR および手放し飛行が可能で全天候性を持つこと
が条件なので、パイロットのどんな指令操作にも機体が危険状態に陥らないことを確認しました。
PFA の開発プロセスではたくさんの痛みや痒みを経験しました。初期の飛行試験ではプログラム
の信号切り替えがうまく行きません。パイロットのコメントは設計意図上の理想を目論む技術屋(機
械屋、電子屋、油圧屋)を悩ませますが、衆知を合わせ最後に両者が納得する結果を出します。パ
イロットから見て技術屋たちの解決力、あるいは「丸めこむ技術」にも感心するものがあります。
そして400飛行回数、850飛行時間の飛行試験により PFA のパラメータが決定されました。
対地マヌーバーで問題とな
るのは風やガストの影響です
が、タンデム・ローター・ヘ
リは対横風能力に優れている
ので、この PFA は15kt 以下
では全方向、35kt 以下では機
首から60°
以内の風向に対して
所定の性能が確認されていま
す。また60°以上では精度が低
下するものの安全性に影響が
ないことが風速40kt の条件で
立証されています。
今では新しい機材、欧州製
写真 救難仕様の KV107Ⅱ
の NH90にバトンタッチして
しまった KV107II ですが、雲の低い荒波のバルト海や北海で遭難者の救助に活躍したことが誇らし
く思える筆者です。
参照した文献:
大型ヘリコプタの AFE について
航空宇宙学会誌 第23巻 263号 二木節夫・瀬尾良三・上村 誠
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航空に携わる方々の、チョットした一コマなどを紹介する、皆さまからの投稿で成り立つ、
Café で気楽に読める様な投稿コーナーです。日常的な事ごとや思い出など、色々なジャンルの
読物をお寄せ下さい。
Flip・Flop・フラップ
湧井 カレン
知人のAさんは小型飛行機を所有するサンデー
パイロットだ。社会的な信用も篤いし、その地
方では著名な紳士でもある。Aさんの飛行機は
固定脚でハンドリングも易しい単発機。
ある快晴の日、Aさんの機の後席に同乗する
機会を得た。几帳面な性格のAさん、飛行前点
検チェックリストを一項目ごとに追ってゆく、
手に入っている個所も決してはしょらない。離
陸前のエンジン点検も過去の数値と比べるほど
の周到さである。慣れた機材とあなどって手順
の省略などしない、真摯な姿勢はアマチュア、
プロを問わず見習うべきである。
とに気付かされた。
一般にアプローチから着陸に至る過程では降
着装置とフラップをスケジュールどおりに作動
させ、速度と高度を処理する。ATC や位置情
報、滑走路状態の確認など、パイロットに課せ
られるワークロードは一気に増える。
着陸にフラップを必要としない条件なら、敢
えてフラップを出すなどの余計な操作は無駄な
だけだ。自分の飛行機は自分流に易しく、安全
に使えばいいのである。
オーナーパイロットの伸びやかさはこのへん
にあることに気付かされた。
遠路を訪れた右席のBさんにその地方の案内
を兼ねた1時間ほどの遊覧飛行をした後、見事
な着陸でそのフライトは終えた。
いっぽうプロ・パイロットの悩ましさはどう
だろう。
「Aさん、どうしてフラップを使わないの?」
飛行機を自分流に使う、などの発想は許され
ないのである。飛行機は常に最大公約数の安全・
私は尋ねた。
「どうしてフラップを使わなきゃいけない
の?」Aさんは言う。
「あ、そっか!」とっさの返事に困った私だ
快適を以て操作しなければならない。これらの
装置を最も効果的に使うことが必須になるのだ。
論理、性能上、最大の有償荷重を運ぶ使命の
旅客機の場合は、アプローチの速度、高度に応
じて細やかなフラップ操作が決められている。
が、2000m もある長い滑走路の150m しか使わ
しかも温度、風、滑走路の状態などで変数が加
ない飛行機が、フラップを出して舵を鈍くし、
わざわざ遅い速度で接地する必要なんかないこ
味される。
またかつて私の仕事であったスペックに合致
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2011 OCT
する飛行機を提供する使命のメーカーパイロッ
トにはギア、フラップの操作の確かさ、作動時
間、トリム変化、操作に伴う振動・異音の有無
なども観察対象になるのだ。
着陸にはフラップを降ろす、いつしか沁みつ
いた習性があの日のAさんへの問いかけとなっ
VOR などビーコンから降下しながら出発して
ターンしてまたビーコンに戻る、計器飛行訓練
のアプローチで経験することだ。
ATC の指示如何で臨機応変にフラップ
位置を選択する。フラップのスケジュー
アマチュアパイロットの
おおらかさに乾杯!
ていたのである。要らない時は使わないフラッ
プだが、でも必要な時は使うのを忘れないでく
ださい。
ルを間違って出したり引っこめたり、私
の失敗を横で見た教官(アメリカ人)は
笑った。
「おまえは Flip・flop パイロット
である」と。
Flip・flop とは「あっちへやったりこっ
ちへやったり」という意味らしい。政局
伺いの新米議員じゃあるまいし、日本語
では「右にペタリ、左にペタリ」の二股
膏薬(公約)とでも言うのだろうか。
編隊飛行は変態飛行?
かけだしパイロットの追憶-③
ソロを終え、野外飛行、アクロバットと続く
訓練を終えると編隊飛行の訓練にはいる。
駆出しパイロット
れ、編隊飛行とならない。
それまでの訓練は教官同乗の個別で行う訓練
チョット気取って航空力学的に言うと、自機
の翼端が前方機のプロペラ後流や翼端渦流に巻
であったが、今度は2機編隊の訓練となる。
自機だけ勝手に飛べば良い、とはいかないの
き込まれ小刻みな横転やバンク、加えてプロペ
ラ後流の影響を受け、その抵抗で速度が変化し
だ。
置いてきぼりを食らう。自機のプロペラで発生
するトルクにも気が抜けない。
例えて言うと、ガストウィンドの中で速度は
極めて一定、滑走路のセンターラインの幅より
編隊飛行の後方機は前方機との位置関係が重
要である。
前後は、キャノピーとエルロンの端と結んだ
線上に自分の目線を置き翼端が少し重なる様に
狭い位置を保たねばならない。
左右をコントロールする。その場所はただの一
点と言っても良いほどである。
チョット気を緩めたり気を抜くと前方機と離
とにかくプロペラ機の編隊飛行は前方機から
目が離せず外の景色に見とれている暇などない。
ただ一点を見て操縦しているのだ。前方機が
2011 OCT
39
バンクしたり、旋回や上昇をしているのさえ判
らない。
ロットルレバーも同じである。暫くそれに見と
れていた。
プロップ回転数は、記憶は薄れたが、上昇降
下時に備えた2400rpm に合せ、速度は微妙なス
教官が何か言った。その言葉は、見とれてい
た自分の耳をかすめて飛んで行った。
再び教官の怒鳴り声が、今度は自分の耳に突
ロットルレバー操作と、非常に微妙なエルロン、
エレベーター、ラダーのコントロールが要求さ
れる。
き刺さった。「操縦してんのか !!!」
パイロット人生40年経た今、その時を振り返
れば操縦の基本3舵の基礎の基礎を習ったよう
に思われる。効率化と経済性ばかりを追う即席
つける事から始まる。教官のデモンストレーショ
ンが自分にそう告げたのだ。
の操縦教育ではなかった。
「デ モ ン ス ト レ ー シ ョ ン は 有 効!」 後 日、
ジェット機の教官になった時も、この言葉は生
きていた。訓練飛行中、事あるごと、チョット
した合間にデモンストレーションをして見せた。
話を編隊飛行に戻そう。
スロットルレバーは絶対に大きな操作をして
はならないのだ。大きく前方に動かせば前方機
の翼端と接触、または前方に飛び出たり、大き
く引けば、あっという間に取り残される。
スティックレバーのエルロンとエレベーター
ラダーのコントロールは微妙な小さいコントロー
ルなのだ。
編隊訓練飛行の一日目
教官が前方機の後方まで機体を持っていき
「You Have !」操縦を自分が受け取った、が直
ぐに前方機に取り残され、慌ててスロットルレ
バーを前に動かし前方機を追うと、翼端をかす
め前にでてしまう。またまた慌ててスロットル
レバーを引くとあれよあれよと後方に置いてき
ぼりを食らってしまう。
小さな僅かなコントロールは僅かなズレを見
再び編隊飛行に戻る。
今度は目を皿のようにして前方機の定位置か
らの僅かなズレに注視し目を見張った。
数回繰り返すと何となくコツが見えてきたの
である。しかし、この日は、そのコツを掴む前
に今度は後方機を従える前方機に代わってしまっ
た。前方機は楽である。眼下の瀬戸内海の島々
が浮かぶ景色を見ながら、ゆっくりと大きな旋
回や上昇降下をすれば良いのだ。
やがて太陽は赤みを増し、編隊を解いた僚機
に写るその赤い照り返しを見ながら訓練飛行場
に翼をかえし帰投した。
まったく最初の訓練なのだ。スティックレバー
編隊訓練飛行の二日目
のエルロンとエレベーターコントロールも言わ
ずもがな。遠ざかったり教官が慌てて操縦桿を
握るほど近づいたり、上に行ったり下に行った
り、およそ編隊飛行とはほど遠い。
編隊飛行のコツを掴みかけた次の訓練に向か
うその日は心なしか気分が高揚していた。
今日こそは !!!
前方機からの定位置につき、目を皿のように
「チョット俺にやらせろ !!」と教官が言う。
そして手を放す。すると機体が殆ど定位置か
ら離れない。
して、定位置からのズレに、回りの物が一切見
えないほど集中したのである。とにかく僅かな
コントロールで済むように僅かなズレを見逃さ
どんな技だ ???
スティックレバーを見ると1㎝、いや5㎜程
度の小刻みな動きしかしていない。ラダーとス
ない様に、一心不乱とはこの事を言うのかも知
れない。
40
2011 OCT
編隊飛行に没頭していた耳に、後席の教官が
何か判らぬが前方機の教官と無線で話す声がか
すめた。その後である。
にして尻を追いかけると変態だぞ!」
ヘルメットの中の顔は汗にまみれ、つなぎのフ
ライトスーツにも汗が浮出て濡れ変色していた。
前方機からの定位置に集中している時、何か
異様な“G”を感じた。しかし目は離せない。
今度は前方機の役に回った。しかし、その操
しかし前方機の向こうにその理由を発見した。
水平線が大きくひっくり返ったのだ。
縦をする気持ちは何か晴々とし、眼下の島々の
緑が鮮やかに目に飛び込んできた。
そして機は急降下に移ったが、目は前方機に
張り付いいたままだった。教官が「I have !」
と言って編隊を解き僚機の横についた。
教官デモンストレーションは何よりも勝る!
操縦を上手くなりたいヤツは盗め !!!
教官は笑って言った。
「前の飛行機にループを
やらせてみたが、お前、そこまで目を皿のよう
今もって、編隊飛行は尻を追いかける変態飛
行に何か通ずる様な気がしてならない。
空のスポーツ「グライダー」
ロートルパイロット
空のスポーツというが、スポーツを名乗るの
なら、ルールも、競技もなければならない。そ
うでなければ単なる遊びでしかない。
その面から見ると、スポーツを名乗ることが
出来そうな小型機の空の活動は、エアロバティッ
クスと、グライダーとなる。その中でも、グラ
イダーはなかなかの存在である。
航空機曳航の高度は日本の場合2,000Ft が標準
で、その曳航料金も4,000円程度から。従って飛
行回数にもよるが、1回当り5千円程度で飛ぶ
ことも可能となる。滞空時間は腕次第なので5
千円で5時間以上飛ぶことも可能である。
飛行機ライセンス所有者がグライダーのライ
センスを取ると、モーターグライダーのライセ
ンスを実地試験免除で得ることができる。
もちろん、エアロバティックスは魅力的なの
だが、この日本では、スポーツよりも空の航空
交通の秩序が優先されるため、競技会及びその
練習の環境はようやく整備されつつある段階で、
モーターグライダーの運航費用は軽飛行機の
半分程度なので、飛行機よりは手軽に空を楽し
むことができる。
まだ広く一般的な存在とは言い難い。
十分な飛行経験がある飛行機ライセンス所有
者の場合は、飛行機曳航のパイロットとしてグ
それに比べ、グライダーは全国各地に訓練環
境が存在する。訓練費用も手頃である。社会人
グライダークラブの訓練料金は、年間12万円も
出せば教官料込みで複座訓練グライダー乗り放
題といったものもある。後はウィンチ又は航空
ライダー活動に参加することも可能となる。
その場合、先ずはグライダーの操縦ライセン
スを取得し、グライダーの飛行を重ねて滑空場
の運用に慣れ、曳航機の訓練に移行となる。
機曳航の料金のみである。
訓練を重ね、飛行機曳航ができるようになっ
2011 OCT
41
ても、全くの無償奉仕で責任は重く、なかなか
容易ではない。単に飛ぶことが好きなだけでは
そのまた大昔、熊谷の北、妻沼滑空場から飛
び立ったMさん、
「今日は一丁やったるで」と気
なく、しっかりした責任感と奉仕の心がなけれ
ば、とても勤まるものではない。
合を入れ、利根川沿いに下り始めた。栗橋を超
え、取手を越え、佐原を超え、「まだまだ」と頑
張っているうち、とうとう銚子岬に着いてしまっ
グライダーに話を戻すと、その魅力は、空を
相手にした、メンタルな要素の多いスポーツと
いうことになる。
た。もう先には行けない。妻沼からは140㎞の距
離。飛行時間は1時間48分であった。
上空で曳航索を離脱したその瞬間から、飛行
機とは全く異なるスポーツの世界が待っている。
動力を持たず、大気の動きが相手だから、頭と
目と、手足を使って、勝つための飛び方をしな
ければならない。
通常の競技は、指定の通過点で構成されるコー
スを、いかに早く回ってくるかが勝負である。
無理をすれば途中で降りることになってしまう
し、慎重に上昇気流を捜せば時間がかかってし
まい、勝つことは容易ではないのである。
無事に銚子岬の砂浜に着陸したのだが、それ
からが大変。、妻沼に電話をして機体回収用のト
レーラーを呼び、それが銚子に着いたのが夜中
の11時。機体を分解して積み込み、妻沼に帰り
着いたのは、翌朝7時になってしまった。
なんとも大変な話であるが、苦労よりも、全
員の達成感の方が大きいという、グライダー乗
りにしかわからない感情があるのだ。
グライダーのフライトは、飛行機とは別物。
飛んで着陸するだけならば、飛行機のライセン
ス所有者にとって、それ程の苦労はないが、鳥
を目指そうと思えば、それは全くの別世界。
最近はグライダーの性能が向上し、先鋭的な
活動では関東から出発して、北は盛岡近くまで
往復のこともある。こうなると回収は無理なの
で、いざという時に利用できるエンジンを積ん
だグライダーが多くなった。
「もうダメ」となっ
たら、格納してあったエンジンを出して高度を
回復させ、帰還しようというのである。
グライダーの醍醐味は、毎回のフライトの、
スポーツそのものの挑戦、緊張感、達成感、そ
して爽快感。また、グライダーは仲間との共同
作業が無ければ飛べないが、それもまた、なか
ともあれ、グライダー特有の楽しみと共に、
スポーツとしての厳しい訓練の存在は、鈍った
身体と頭の鍛え直しには、なかなかのものであ
る。長い飛行人生の一環に、グライダーを組み
なか人間味があって良い。
入れてみることをお勧めしたい。
上を目指せば限りが無い。その飛行距離は、
世界では3000㎞、国内では1000㎞にも達してい
る。動力を使用しないグライダーが、夜明けか
ら日没まで、平均時速200㎞/h で15時間飛び続
けると3000㎞という訳である。
それは遠い夢の世界として、現実には、自分
の距離、時間を延ばすことに努力が必要で、そ
の行動半径の拡大が達成感につながり、また新
たな挑戦への魅力が高まるのである。
42
2011 OCT
低層域における
空域悪天情報の必要性
~気象庁長官宛に提出した要望書の背景~
航空気象委員会担当 理事
大村 大
去る9月1日に当協会会長及び自家用操縦士4団体代表者と連名で気象庁長官に宛てに「低層域
を対象とした空域悪天予想の発行に関する要望について」を提出いたしました。今回はこの要望書
の提出の背景について気象庁航空気象管理官へ提出した資料を基に説明いたします。
これは本年1月と2月に開催された航空安全講習会での意見の中で小型機用の気象情報がほとん
ど無い現状を改善して欲しいという意見が多数出されたことに端を発しています。具体的には「ア
メリカのような気象ブリーフィングシステムが欲しい。」、
「小型機の飛ぶ空域の詳しい気象情報が欲
しい。
」等の内容でした。
1.気象が原因となる事故の重大性
ここ数年の航空機事故は小型機のものが比較的多く、しかも気象状況が影響している CFIT(Controlled Flight Into Terrain)が圧倒的に多いです。
それは何故なのか? 小型機の運航の現状については後ほど述べますが、まずは気象情報と航空
機事故の現状を把握するため2001年以降の航空事故報告書の統計を見てみました。
(カッコ内の数字
は事故調査中で航空気象委員会において気象が原因と推測したものです。)
飛行機大
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
合計
気象要因の
事故の割合(%)
推測含む
事故件数
2
4
2
4
1
3
5
3
6
0
1
31
うち
気象要因
1
2
0
3
0
2
2
2
2
0
(1)
14
飛行機小
5
4
10
11
8
3
3
6
2
4
7
63
うち
うち
ヘリコプター
気象要因
気象要因
1
2
0
1
0
1
2
0
0
(1)
(3)
7
8
15
1
6
7
2
7
3
7
4
1
61
1
1
0
1
0
0
1
1
1
(2)
1
7
45.2
11.1
11.5
(17)
(11)
(8)
事故件数 うち気象が
合計
要因の事故
15
23
13
21
16
8
15
11
15
8
9
155
3
5
0
5
0
3
5
3
3
3
5
28
18.1
2011 OCT
43
大型飛行機の事故原因のほとんどは上空でのタービュランスによる事故、小型飛行機においては
操縦ミス・判断ミス、ヘリコプターにおいては機体故障による事故が多い傾向にあります。また、
小型飛行機とヘリコプターにおいては気象が原因もしくは原因と推測される事故件数は毎年ほぼ一
定の割合で発生しています。
この中で総事故件数とその中で気象が原因又は原因と推測される事故の割合を見てみますと以下
のグラフのようになります。黒線は飛行機及び回転翼機の総事故件数、破線はその中で気象が原因
又は原因と推測される事故件数です。縦軸は事故件数、横軸は2001年から2011年各年次です。
2001年から2011年にかけて年平均14.6件の航空事故が発生しており、年により変動しますが全体
として減少傾向にあります。しかしながら、気象が原因又は原因と推測される事故については毎年
一定の割合で発生していることがわかります。
総事故件数と気象要因事故件数
25
23
21
事故件数
20
16
15
15
15
13
15
11
10
8
5
5
3
5
1
2
3
5
3
0
0
9
8
3
3
5
3
0
4
5
6
7
8
9
10
11
年次
この中で航空死亡事故だけを取り出してみますと以下の表のようになります。
航空死亡事故件数(2001年~2011年)
総事故件数
うち、気象要因もしくは推定される事故件数
飛行機大型
1
1
飛行機小型
16※
6
ヘリコプター
18
5
合計
35
12(34%)
(※2001/5/19に発生した小型機とヘリコプターの衝突事故は飛行機小型に含める。
)
航空死亡事故の中で気象が原因と考えられる件数は全体の約1/3にもなります。
また、同じ期間の航空死亡事故における犠牲者数を見ると、全体で81名の方が死亡又は行方不明
になっており、この中で気象が原因と考えられる事故での死者・行方不明者数は27名(約33%)に
のぼります。
また、これを事故での死亡率という点から見ると、以下の表のようになります。
気象が原因又は推測される事故での死傷率
気象が原因又は推測
される事故での死傷
者数
44
2011 OCT
搭乗者数
39名
100%
死亡
25名
64%
行方不明
2名
5%
重傷
12名
軽傷
0名
31%
0%
この表から見ていただく通り、気象が原因又は推測される事故による死亡率・行方不明率は約70%
に達していることになります。これは飛行中に悪天候もしくは予想外の気象条件に遭遇して事故を
起こした場合に大変に高い死亡率となることを示しています。
米国 NTSB の Safety Study においても IMC 状態で発生した General Aviation(主に小型機)事
故の66%が死亡事故などの重大事故になるとの報告が出ており、気象による事故が他の要因の事故
よりも死亡率が高いことが調査結果として報告されています。ヨーロッパでも同じ傾向があること
が認識されており、
「SKYbrary」という航空安全啓蒙のウェブサイトにおける「VFR flight into
IMC」という項目の中で GA 事故件数の割合は少ないものの重大事故になる場合が多いと書いてい
ます。
2.小型機の運航の現状
先に述べた安全講習会や航空事故報告書の事故原因から小型機の操縦士がもっとも必要とする気
象情報は、
① 飛行中ルート上の峠を越えられるかどうかを判断するために必要な雲頂高度と雲底高度(雲)。
② この先の飛行ルートが有視界飛行を継続できるのかどうかを判断するための視程予測分布図
(霧・雨等)。
③ 防除氷能力が脆弱な機体が避けるためのアイシング発生の予測分布図(雪等)。
④ TS・CB の予想発生エリア。
が代表的なものです。
一般的に小型機の運航での主な気象情報の情報源は、気象官署でのブリーフィングの他には気象
庁発表の情報として、
① 各空港における METAR、TAF
② ASAS、AUPQ78、AUPQ35、等の実況天気図
③ FXFE502、FXFE5782、FXJP854、FSAS24、国内悪天予想図等の予想図
④ 各種衛星画像
⑤ レーダー画像や解析雨量
⑥ アメダス(利用例:日照時間による雲の有無の予想)
⑦ ウィンドプロファイラ等の情報
また、インターネットや携帯電話から一般的に入手可能な情報として、
⑧ 民間気象会社が提供する地域限定の気象情報
⑨ インターネットによる各種ライブカメラ
⑩ 電力会社などが提供するエコー情報
等を利用して飛行に必要な気象情報を得ています。また、場合によってはゴルフ場や娯楽施設の天
気予報を使用して気象判断を行っています。
航空機使用事業においては、MetAir(気象庁の航空気象情報提供システム)を利用できる事業者
が多いため更に詳細な情報を得ることができます。
しかし、自家用運航においては上記の①~⑦については気象庁 HP で入手可能ですが、それ以外
の気象情報については入手できません。
現在東日本大震災への緊急の対応として、気象庁 HP のポータルサイトにて東北地方の全空港の
2011 OCT
45
METAR/TAF 及び国内悪天予想図を入手できるようになっています。現地で小型機により災害救
援を行う操縦士は大変に喜んでいます。
3.気象情報提供への具体的要望
前述の小型機の運航の現状をふまえて以下の要望を行いました。
⑴ 自家用運航においても MetAir で得られるのと同様な詳細な航空気象情報を気象庁の HP 等
のインターネット、もしくは「AIS JAPAN によるノータム等の提供」と同様に個人登録に
よる利用等の方策での情報提供を検討して戴きたい。
航空機使用事業においては、現地での気象情報収集の困難さと低空域の詳細な航空気象情報の把
握の困難さが原因で的確な判断や顧客への説明が困難となり、結果として無理な運航に至るという
ケースがあります。
航空機使用事業での主な運航目的は報道・救急・訓練・測量・輸送等であり、また最近では東日
本大震災等における救援活動があります。これらの運航において重要な気象情報は飛行距離を限定
した比較的短時間の気象予報です。
現状での気象庁提供情報では、小型機やヘリコプターの活動範囲である限定されたエリアでの気
象情報は(特に山岳地帯などでは顕著ですが)、総観スケールでの天気図ではスケールが大きすぎま
す。可能であればメソスケールで提供される情報が運航形態から考えて合理的です。
これらのことから以下の要望を行いました。
⑵ 「低層域を対象とした詳細な空域悪天予測情報」をできるだけ早い時期に提供して戴きたい。
また、空域以外にも小型機の運航にとって重要なのは、空港における気象情報の充実です。
現在の気象庁提供のプロダクト等の改良という視点で以下の3点も口頭にて要望しました。
Ⅰ.METAR AUTO の高度化(観測装置更新により、視程、雲量、雲底高度の把握が可能なもの)
Ⅱ.全ての空港での TAF の発表
Ⅲ.各空港にライブカメラを設置
これらの改良がなされれば、気象情報の把握が格段に向上すると考えられます。これらの情報に
関しても気象庁 HP 上からの情報提供等、より容易に情報を入手可能にする環境の整備は大変に重
要です。
4.各国の低層域への情報提供方法
各国の低層域における情報提供方法をアメリカ、カナダ、イギリスの例を挙げて紹介します。
① アメリカ NOAA の低層用悪天予想図
現在米国 NOAA では低層域における悪天予想図を WEB 上で発行しています。
② カナダ NAV CANADA の場合
カナダにおいては、各空港での Observation 及び Forecast を VFR, MVFR, IFR に色分けして
WEB 上で表示しています。
46
2011 OCT
③ イギリスの場合
先に述べた「SKYbrary」における気象情
報の重要性の解説と共に気象機関からは主と
してイギリス国内用とヨーロッパ全体用の4
種(F215, F214, F414, F415)のブリーフィン
グ用のチャートが用意されています。同時に
FL100以下の気圧配置、地上視程、天候およ
び雲域が図とテキスト形式で表示されていま
す。
5.今後の小型機の安全運航への提言
航空事故を減少させるには、まずパイロット自身が気象の重要性をきちんと認識し知識を涵養す
ることはもちろんのこと、航空事故報告書の中でも頻繁に事故原因の一つとして指摘されている「出
発前の航空気象情報の把握不足」を解消していく方策を取る必要があります。
航空法73条の2に於いて「当該飛行に必要な気象情報」は、機長の出発前の確認事項として義務
化せれており、AIM-JAPAN 第8章などでも小型機の機長は出発前に主に各空港の気象官署もし
くは電話にて気象ブリーフィングを受けることを推奨されています。
気象官署には様々な気象情報があり操縦士は気象ブリーフィングを受けることはできます。しか
しながら、小型機運航における飛行時間内の飛行距離と飛行高度に適した精度の高い詳細な空域悪
天情報を簡単明瞭に把握できる気象プロダクトはありません。
気象庁 HP 等では公表されてはいませんが、気象官署などで確認することができる FBTT(狭域
悪天予想図(羽田))等でも小型機の運航に必要なスケールの情報としては不足しています。
このことはブリーフィングを行う気象庁の方々も、FSC で飛行中に操縦士に気象情報を与える情
報官も、いろいろな形で情報を得る操縦士も飛行安全に必要な気象情報を限られた時間内で効率的
に取得するには不十分です。
運航に必要な気象情報を確実に把握することは一義的にはパイロット自身の責任と自覚の問題で
すが、より容易(短時間かつ簡潔に)に気象状況を把握できる悪天情報図の提供と同時に航空気象
情報をより入手しやすくすること。つまり、より把握しやすい情報の提供と容易に情報を入手し得
る環境の整備もまた重要と考えます。
また、航空機使用事業では作業現場や救助現場など気象情報を入手するための施設が整わない場
所での気象情報収集が必要になる場合があります。携帯電話やインターネットを利用してどの場所
においても容易に気象情報を入手できる環境の整備がこの点でも大変重要であります。
これらの整備が行われれば、気象ブリーフィングに於いても飛行中の飛行情報業務においても、
操縦士が必要とする気象情報の把握が飛躍的に向上すると考えられます。これにより航空機事故全
体の約18%を占める気象が関わる航空機事故の減少に大いに貢献するでしょう。
またこれに加えて、当協会で実施しています「航空安全講習会」、「航空気象シンポジウム」等を
通じて、操縦士に対して継続的に気象情報の収集の重要性を認識させ、航空気象知識の涵養をサポー
トし、航空安全を維持向上させる不断の努力が必要だと考えております。
2011 OCT
47
“安全の分水領 ”
アクシデント ・ インシデント概要
フライト・ セイフティ・ファウンデーション(FSF)2011年1月号より
訳 佐藤 裕
ここに示す文書は、読者の皆さんが飛行中の遭遇するかも知れない困難な状態を切り抜けるうえ
で、何らかの手助けになれば、と思い掲載し続けています。
なお、この文書は各国の運輸安全委員会が発行した、正式な報告書をもとにまとめてあります。
:FSF 編集部
2010年6月7日の午後、イングランド、ウエ
スト・ヨークシャーにあるリーズ・ブラッド
フォード国際空港を離陸しようとしていたこの
航空機は、誤ってパーキング・ブレーキを作動
させたままだったのか、あるいは離陸滑走中、
無意識のうちにホイール・ブレーキを踏み込ん
でいたためか、ブレーキはオーバーヒート、そ
して破損してしまい、安全に離陸中断(RTO:
てしまう。
パイロットでありこのサイテーションの所有
者である同乗者は、無事に機外へ逃れている。
この航空機は、フランス、カンヌへ向かおう
としていた。
管制官がこの航空機に、ランウェイ14に進入
し、離陸指示を待つように伝えた当時の気象状
態は VMC で、風も弱い北風であった。
報告書は“ランウェイに進入し、機体を停止
させた後、パイロットはパーキング・ブレーキ
を作動させた”と書いている。
事故後このパイロットは調査官に、離陸許可
を得た後、パーキング・ブレーキを解除したか
どうか、よく覚えていないと告げた。
離陸滑走を開始し、速度が80ノットに達した
Reject Takeoff)操作不能の状態になってしまっ
た、とイギリス事故調査委員会(AAIB:U.K.
Air Accidents Investigation Branch)の報告書
は書く。
時点で、両方の速度計を確認したパイロットは、
共に同じ速度を指示していることを確認したが、
機体は何時もどおりに加速しない。
パイロットは同乗者に“何か変だ!”と告げ、
サイテーションは2,113m(6,933フィート)の
ランウェイをオーバーランしてしまい、高さ83
離陸中断操作を開始した。
スロットルを閉じ、ホイール・ブレーキを一
m(272フィート)ある斜面を転がり落ち、道路
を横切り、空港境界にあるフェンス沿いに進み、
樹木にぶつかる直前で停止した。
この事故でノーズ・ランディング・ギアは引
杯に踏み込み、スピード・ブレーキを操作し
“Abort, abort, abort”と送信する。
管制官は援助が必要かどうかを訊ねているが、
これに対しパイロットから“Stand by,”との応
きちぎられて吹き飛び、右メイン・ランディン
グ・ギアは折れ、主翼及びノーズ部分を中破し
答が。
機体が左に向きを変え始めてしまったため、
ジェット
激しいオーバーヒート
セスナ・サイテーション CJ1:中破、負傷者無し
48
2011 OCT
パイロットはゆっくりとラダーを右に操作し始
めたが、やがて右一杯に踏み込んだ状態となっ
事故調査報告書は“CJ1航空機のブレーキが
熱くなっている状態でパーキング・ブレーキを
てしまう。
当時ランウェイの近くに専用車両を止め、航
空機の運航状態を見守っていた空港の航空機安
セットしてしまうと、ブレーキ・ディスクの固
着が発生しやすい、という件はよく知られてい
る事実で、実際にも数度発生したことも体験し
全運航監督者は、このパイロットが離陸中断を
送信した2秒ほど後、右メイン・ランディング・
ギアから火災が発生している状態を見ていた。
ている”と言う運航会社の意見を記載している。
そしてセスナ社は AAIB に対し、CJ1航空機
に関し、ブレーキの固着はまれに発生する問題
この火災に気付いた管制官も“機体の右下か
ら炎が出ている”と送信した。
報告書は“パイロットは、この段階で既に、
ブレーキが全く効かなくなってしまったことに
気付いていた、と話している”と書いている。
“ランウェイの舗装部分が途切れてしまうエン
ド近くまで接近したパイロットはエマージェン
シー・ブレーキ・ハンドルを操作しようとした
が、誤ってすぐ横に有る、緊急脚下げハンドル
を操作してしまったため、ブレーキは全く効か
ず、機体はランウェイ・エンドから飛び出して
しまう……。
機体が舗装面を飛び出してしまった時、この
機体のオーナーである同乗者はスロットルを
‘OFF’ 位置にし、エンジンを停止させた”と報
告書。
調査時、この事故に結びついたと思われるの
は、離陸前、パーキング・ブレーキが解除され
ていなかったのではないか? 離陸滑走中、不
注意にブレーキを踏み続けてしまったのではな
いか? あるはブレーキが固着していたのでは
ないか?という3つの可能性が浮かび上がった
ものの、これらに結びつく事実は発見されなかっ
た。
パーキング・ブレーキはブレーキ・ペダルを
踏んだ状態のまま、ハンドルを引いてブレーキ・
ライン内に圧力を閉じ込め、エンゲージさせる。
これまでのサイテーション CJ1の起こしたブ
レーキ関連のインシデントについて調査したが、
2008年9月、チャンネル・アイランド、ジャー
ジーで発生したインシデントでは、離陸時、機
体の加速状態がいつもと違うと感じたクルーは
離陸中断を決意し、無事に停止できたものの、
右ブレーキ・アッセンブリーから煙が発生した。
である、と考えられるがブラッドフォード空港
で発生した事故の原因に結びついた要因として
“その可能性を否定することはできない”と話し
ている。
離陸前に発見できなかった損傷
ボンバルディア・チャレンジャー604:
中破、負傷者無し
2009年9月27日の午後、合衆国マサチュー
セッツ州ビンヤード・ヘブン空港の気象状態は、
風向風速120度16ノット、ガスト23ノット、視程
1/4マイル(400m)で激しい雨、ブロークンで
シーリング400フィートであった。
空港近くまで飛行してきたキャプテンは、アプ
ローチ速度を135ノット、フラップを30度に下げ、
ランウェイ24ILS アプローチを行おうと決める。
しかし、航空機オペレーティング・マニュアル
(AOM)には、ウインドシアーの予想されるラン
ウェイにアプローチする場合の最小フラップ下げ
角度について“フラップを45度下げて行うアプ
ローチのみを承認されている”と合衆国運輸安全
委員会(NTSB)の報告書は書いている。
そして“航空機製造会社は、フラップ・シス
テム故障時を除き、フラップを30度下げた状態
での性能表を用意していない”とも書いている。
キャプテン、コーパイロットとも、ランウェ
イ直上、高度15~20フィートでフレアー操作を
開始し、チャレンジャー航空機がウインドシアー
と遭遇するまでのアプローチはスタビライズし
ていた、と話している。
機体は速度140ノットほどで激しく接地したの
ちバウンドし、再度20フィートほど浮き上がっ
てしまい、最初に接地した地点から100フィート
2011 OCT
49
ほど離れた位置にノーズ・ホイールから接地し
てしまった。
るようにと指示し、スタンドで乗客87名とクルー
6名も機体から降りる。
乗客2名を降ろした後、キャプテンは機体を
点検したが、特に異常は発見されなかった。
15分ほど後、この航空機は再び離陸し、ギア
AAIB の報告書は“調査したところ、右側サー
キット・ブレーカー・パネルの裏側に絶縁材が
燃え、緩んでしまった配線類、そして電気火災
を上げようと操作したクルーは、ノーズギアの
ライトが点灯し続けている状態に気付く。
キャプテンは、無事にコネティカット州ウイ
による激しく焦げ跡が発見された。
なぜ電気系統に火災が発生してしまったのか、
その原因を究明することは出来なかった。
ンザー・ロックスに代替着陸した。
“この航空機を調査した連邦航空局(FAA)
の検査官は、前方圧力隔壁部についたしわを含
ただ、繊維状のほこりが残っていたことから、
このほこりが火災に結びついた可能性も考えら
れる”と書いている。
むノーズ部分の損傷を発見した”と報告書。
対地接近警報装置(EGPWS)のデータをダ
ウンロードして分析すると、先ほどビンヤード・
ヘブン空港へアプローチした際、300フィート
AGL ほどの高度で“TOO LOW, FLAPS”の警
報が、そして50フィート AGL 付近では“SINK
RATE”の警報が発せられていたことが判る。
そして報告書は“EGPWS はウインドシアー
に関する警報を発生していない”と書いている。
そして報告書は“この事故の後、航空機製造
会社は、同航空機のオペレーティング・マニュ
アルからウインドシアーの予想される場合のミ
ニマム・フラップ・セッティングに関する項目
を削除した”と注記している。
被覆が熔けてしまった原因については“様々
な要因が考えられるが、炎により熔けてしまっ
た、と考えられる”と報告書は書いている。
2007年、エアバス社は電気系統の接続システ
ム(EWIS)について、定期点検及び清掃を義
務付けている、と注記している。
そして同型航空機について運航会社に対し、
2011年3月までにこの点検を終えること、と指
示している。
定期 EWIS 点検を実施する際“異物及び積
もったほこりによる電気故障発生を防ぐ”改訂
した点検方法を、総ての同航空機を運航する会
社に伝えている。
サーキット・ブレーカー・パネルの火
災は、ホコリに原因が
エアバス A319-131:小破、負傷者無し
2009年3月15日夜、ロンドン、ヒースロー空
港で出発準備をしていたこの航空機は No1エン
ジンを始動し、No1ジェネレーターのスイッチ
を ON にすると、キャプテン側のプライマリー・
ディスプレイそしてナビゲーション・ディスプ
レイは共に消えてしまう。
原因を特定するため、クルーはチェックリス
トに従って操作し、ジェネレーターをリセット
するとその直後、右側サーキット・ブレーカー
から爆発音がしたが、煙は発生しなかった。
両エンジンを停止させたクルーは乗客87名を
降ろしたいので、スタンドまで A319を牽引す
50
2011 OCT
ターボプロップ
短く、しかもウエット状態だったラン
ウェイでオーバーランを
ビーチ・キングエアー A200:中破、負傷者無し
2008年9月25日の午後、合衆国バージニア州
ブリッジウォーター・エアー・パーク空港で機
体の機能検査を行なっていたこの航空機のパイ
ロットは、短く上り勾配になっているものの、
グルービング加工されていないウエット状態の
ランウェイへ着陸しようと決めたが、接地帯を
通り過ぎてから着陸し、結局オーバーランして
しまった、と NTSB の報告書は書いている。
整備終了後、与圧装置が正常に作動するか確
認するため、着陸後停止せず、すぐ上昇しよう
としていた、と事故調査官に話している。
整備士を乗せ、ブリッジウォーター空港のラ
ンウェイ15から離陸した当時の風向風速は、070
度5ノットだった。
このランウェイは全長2,745フィート(837m)
だったが、進入経路上に障害物があるため、着
陸する場合、スレッシュホールドも内側に移設
されていて、2,377フィート(725m)のみしか
使用できないようになっている。
与圧装置が正常に作動することを確認したパ
イロットは、ランウェイ33に着陸しようと決め
た。
NTSB の報告書は“先ほど作動確認をしたと
き、このランウェイでゴー・アラウンドしてい
るので、大丈夫だとこのパイロットは判断して
しまった”と書いている。
2度目の着陸でこのパイロットは、内側に移
設されているスレッシュホールドを飛び越し、
300フィート(91m)も内側にキングエアー航空
機を接地させてしてしまう。
パイロットはホイール・ブレーキ及びリバー
ス・スラストを使用したが“ランウェイはウエッ
トであったため、ブレーキの効きはプアの状態
で、パイロットもこのままではランウェイのエ
ンドを飛び越してしまう、と感じていた。
しかし、すでに低下している速度、機体の形
態、前方に見える家屋,上り勾配になっている
ランウェイ等の状況から、このパイロットは
ゴー・アラウンドはしない、と決めてしまった”
と報告書。
ランウェイを飛び出してしまい、湿った芝地
によりブレーキの効きは一層悪くなってしまっ
た。
そしてこのキングエアー航空機は前方の傾斜
地を滑り降り、川の中へ突っ込んでしまい、主
翼を破損した。
パイロット、整備士共に負傷することなく、
機外へ逃れている。
報告書はこの事故に結びついた一つの要因と
して、航空会社に機能検査飛行を行う場合の指
針が示されていなかった点を上げている。
離陸時、アクセス・ドアが吹き飛んで
しまう
ボンバルディア・ダッシュ8-402:中破、負傷者無し
2010年4月22日早朝、不意に発生した故障の
整備を終え、整備士そしてパイロットが行なっ
た飛行前点検で特に異常も発見されなかったこ
の航空機は、クルー4名、乗客40名を乗せ、イ
ングランドのサザンプトン空港を出発しようと
していた。
点検した整備士そしてパイロット共に、機体
に異常のないことを確認している。
“駐機している他の航空機のコクピット内に
座っていたパイロットは、その航空機が離陸滑
走し始めた時、パネルが外れ、上に跳ね上がる
様子を目撃した。目撃したパイロットは、直ち
に ATC にこの状態を伝え、ATC もこの機のフ
ライト・クルーにアクセス・ドアが開いている、
と伝えた”と AAIB の報告書。
これを聞いたクルーは直ちに空港へ引き返し、
何事も無く無事に着陸した。
この航空機を調査した結果、離陸滑走中 No.2
エンジンの前方内側アクセス・ドアが外れ、引
きちぎられてしまい、右主翼前縁部にぶつかり、
前縁部に損傷を与えていた。
“このドア下側についているラッチは,全開位
置になっている状態にあり、整備終了後、きち
んとロック位置にされていなかったことを物
語っている”と報告書は書いている。
伝えられなかったハイドロプレーニン
グ状態
ATR72-500:中破、負傷者無し
2009年11月10日、インドのムンバイ空港の
NOTAM には、工事が行われているためラン
ウェイ27での離着陸には1,703m(5,588フィー
ト)のみ使用可能である、と記載されている。
この日の天候は小雨でランウェイ上には水た
まりが多く見られ、ATR72航空機の前方をアプ
ローチし、着陸したエアバス A319航空機のフ
ライト・クルーは管制官に、着陸中にハイドロ
2011 OCT
51
プレーニングを起こし、ランウェイのエッジ・
ライトを2つ破損してしまった、と伝えている。
管制官はこの通報を了解したと伝え、ライト
を点検するため空港の職員を現場に向かわせる。
しかしこの管制官は、ハイドロプレーニング
の危険性をあまりよく理解していなく、後続の
この航空機のクルーに、A319クルーのリポート
したハイドロプレーニングについて伝えなかっ
た、とインド航空安全委員会(Air Safety Directorate of India)の事故報告書。
管制官はこの航空機のクルーに、ランウェイ
ピストン航空機
プレッシャー、無理な着陸を
パルテナビア P68C:大破、3名死亡
夜遅く、肝臓移植リストにより移植の順番を
待っている、という男性から合衆国フロリダ州
キーウェストをベースとしている小型航空機
チャーター会社に電話がかかる。
NTSB の報告書は“この男性の話によると、
はウエット状態であると伝えたものの、ランウェ
同州ゲインズビルに移植用の臓器があるので、
イ上に水溜まりが出来ている点については伝え
移植手術を受けるため、翌朝早く行きたいのだ
なかった。
この航空機のアプローチはスタビライズせず、 が、ということであった”と書いている。
2008年12月7日、現地時間00:37、この男性
機体もグライド・パスよりも高くなってしまう。
と妻を乗せパルテナビア機はキーウェストを離
キャプテンはオートパイロットを解除し、機
陸した。
体の機首下げ姿勢を深くした。
ゲインズビル付近まで接近したこの航空機に、
EGPWS は連続して“SINK RATE”の警報を
同空港のフライト・サービスにいる担当者から、
発していたが、クルーはゴー・アラウンドしな
空港の視程は1/4マイル(400m)で霧、シーリ
かった。
ング不明、垂直視程100フィートである、との送
そして機体は異常に大きな速度で、ランウェ
信が。
イ・エンドまであと1,000m(3,281フィート)ほ
パイロットは ILS ランウェイ29を行うが、な
どの地点に接地してしまう。
ぜか公示されている決心高以下へ降下してしま
ウエット状態だったランウェイ上でタイヤは
う。
ハイドロプレーニングを起こし、パイロットが
そして02:46、ランウェイから4,150フィート
リバース・スラストをフルにし、最大までホイー
ル・ブレーキを作動させても、機体を十分に減 (1,265m)ほど離れた場所に生えている高さ100
フィート程の立木と衝突してしまった。
速できなかった。
最寄りの空港の気象状態は幾分ここよりは良
そして機体はランウェイの左側に向かってス
いにもかかわらず“先ほど伝えられた気象状態
キッドし始め、ランウェイ・エンドも迫ってき
たためキャプテンは機体を右を向かせようとす
る。
この後機体は右を向き始め、ランウェイの右
外側に飛び出してしまい、排水用のパイプ数本
をなぎ倒し、水がたまり沼状になった場所で停
止した。
機体は中破したものの、乗客38名、クルー4
名とも全員無事だった。
について、パイロットはアプローチを開始する
前、そしてアプローチしている最中にも気になっ
て仕方なかった筈であると思われるが、チャー
ターした客が病院で臓器移植を受けようとして
いる患者であるという事情から、気象状態が公
示されている最低以下の状態であるにもかかわ
らず、アプローチを開始しようという判断をさ
せてしまったのかもしれない”と報告書は注記
している。
52
2011 OCT
模擬エンジン故障訓練
パイパー・ツインコマンチ:大破、2名死亡
鴨、ウインドシールドを突き破る
ビーチ B55バロン:中破、1名重傷
2007年8月25日の午後、2人のプライベート・
パイロットが乗り込んだ PA-39小型双発機はフ
2010年4月6日の夜、この公共団体の所有す
る航空機は、合衆国ノースダコタ州ビスマーク
ランス Vannes にある Meucon 飛行場を離陸し
た。
右席に乗るこの航空機の所有者は最近多発機
(Bimarck)から計器飛行の訓練を行う目的で、
同州ハゼン(Hazen)へ向かって飛行していた。
当時気象状態は VMC であったが、バロン航空
のレイティングを持ったものの、まだフライト・
インストラクターの資格は得ていない。
操縦していた、と思われる左席に乗る女性パ
機がノースダコタ州の中央部で降下を開始し、高
度4200フィートを通過したとき、数羽のカモと衝
突してしまうが、その時操縦しているパイロット
イロットは多発機の資格を保有していたものの、
5年ほど前に失効していた、とフランス事故調
査委員会(Bureau D’Enquetes et d’Analyses)
の報告書は書いている。
このツイン・コマンチ機が全長1,530m(5,020
フィート)のランウェイ04から離陸した当時の
地上風は、060度10ノットであった。
この航空機が離陸する様子を見ていた目撃者
は事故調査官に、異常に長く地上滑走してから
離陸したが、離陸後の速度も非常に遅く見えた、
と話している。
そしてこの後、この機体は右に傾いた状態で
墜落した。
墜落した機体を調査した結果、墜落時、右エ
ンジンはかなり少ない出力しか発生していなかっ
たことが解る。
“右エンジンが故障していたという事実は見ら
れず、燃料系統にも異常が見られなかったため、
正常に作動していたと思われる”と報告書。
は外が見えないようにするフードを着けていた。
操縦していたパイロットは後日、NTSB の事
故調査官に、鴨が衝突した時、大きな何かが破
裂したような音が聞こえ、その後“激しい風”
を感じた、と話している。
“NTSB の事故報告書は“衝突し、ウインド
シールドを突き破り、機内に飛び込んだ鴨はコ
クピット右席にいたフライト・インストラクター
の顔にあたり、彼に重傷を負わせてしまった”
と書いている。
操縦していたパイロットはエマージェンシー
を宣告し、ビスマークに戻り、無事に着陸した。
事故を起こした航空機の調査が行われ、その
結果、右主翼の前縁部及びノーズ・コーンにも、
鴨が衝突したために発生した損傷が発見されて
いる。
さらに報告書は“右エンジンの出力が低下し
ていたという事実から、どちらかのパイロット
が離陸時のエンジン故障訓練を行おうとしてい
たのではないか……と思われる。
この訓練科目は、フライト・インストラクター
の資格を持つパイロット同乗で行う科目で、資
格を持っていないパイロット同士が互乗して行
う訓練の枠を越えていた、これが事故の大きな
原因と思われる”とも書いている。
ヘリコプター
船上のデッキでテイルをぶつけてしまう
ベル222:中破、負傷者無し
2009年4月8日の午後、合衆国テキサス州ガ
ルベストン市の沖合71ノーティカル・マイル
(131㎞)ほど離れたメキシコ湾上に投錨してい
る船の船員は、唯一着陸可能な場所であるデッ
キに着陸してくれ、とパイロットに指示した、
と合衆国運輸安全委員会(NTSB)の報告書は
書いている。
2011 OCT
53
しかしこのデッキには船のバルブ・アッセン
ブリーが突き出ていて、ヘリコプターはこれに
テイル・ローターをぶつけてしまい、機首を右
に60度程振ってしまう。
この後テイル・ローターは船の側壁にぶつかっ
てしまい、ヘリコプターは機首をデッキに接地
させた状態で停止する。
ヘリコプターに乗り込んでいた5名、及び船
員に怪我はなかった。
ヘリコプターを調査すると、機体及びテイル・
ブーム、水平安定板そしてテイル・ローター・
ブレードとギア・ボックスに中程度の破損が見
られる。
このパイロットの事故報告書には“狭い船上
に着陸する場合、パイロットは最大限の注意を
払わなければならない。
特にこれらバルブ等がデッキと同じ色に塗ら
れている場合には、最大限に注意を払わなけれ
ばならない”と記されている。
吹流し、操縦不能の原因に
ベル206L-3:中破、2名重傷、2名軽傷
2008 年 1 月 18 日 朝、 イ ン ド、 マ イ ソ ー ル
(Mysore)にある個人所有のヘリパッドに着陸
しようとしていたロングレンジャーは、突然テ
イル・ローターが効かなくなってしまうトラブ
ル(LET)に見舞われてしまったが、その原因
は不適当な場所にある吹流しによるものだった、
とインド航空安全委員会(Air Safety Directorate of India)の報告書は書いている。
この吹流しは壁及び樹木の近くに設置してあ
り、これらに邪魔されるため気流は乱れ、風向
風速を正しく示さなかった、と報告書。
初めてこのヘリパッドに着陸しようとしてい
たパイロットは吹流しを見て、風向風速は050度
から3ノット程度と判断し、機首方位050にして
アプローチを開始した、と調査官に話した。
ヘリパッド中央付近、10フィート程の高度で
ホバリングしたが、突然ヘリコプターの機首は
右を向き始めてしまう。
“直ちにコレクティブ・レバーを下げ、左ラ
54
2011 OCT
ダー・ペダルを踏んだが、ヘリコプターは機首
を右に振り続け、そのまま接地してしまった、
ともパイロットは話している”と報告書。
左側ランディング・スキッドは折れて吹き飛
び、ロングレンジャーは横転してしまった。
この事故で乗客2名は重傷を、乗客1名とパ
イロット1名は軽傷を負い、乗客1名は無事に
機外へ逃れている。
報告書は“吹流しを見て風に正対してアプロー
チしたものの、実際には追い風あるいは左クロ
ス・ウインドを受けながら高出力で低速度のま
ま低高度に降下してしまったため、テイル・ロー
ターの効果を失ってしまった”と書いている。
オートローテーションの訓練中、送電
線と衝突してしまう
シュワイザー269C-1:大破、2名死亡
2009年4月1日の午後、このヘリコプターは
アイルランドのダブリンにあるウエストン・エ
グゼクティブ空港を離陸し、訓練飛行へ向かう。
管制の行われていない空域に進入した後、
ATC に送信は無かった、とアイルランド事故調
査委員会(Irish Air Accident Investigation
Unit)の報告書。
翌朝、このヘリコプターで訓練に向かったパ
イロットとインストラクターの家族から彼らが
帰宅しないという通報を受け、空からの搜索が
開始される。
搜索にあたっていた沿岸警備隊のヘリコプ
ターは、Kilshachoe 付近に墜落しているヘリコ
プターと2名を発見した。
このヘリコプターは急降下し、その後見えな
くなってしまった、と目撃者は話している。
事故調査の結果、オートローテーション着陸
の訓練を行なっている最中、このシュワイザー・
ヘリコプターは誤って送電線と衝突した、とい
う結論に達した。
“本来なら銀色に輝いているはずの送電線表面
は酸化し、鈍い灰色に変色していた”と報告書
は書いている。
GA:ジェネアビ情報(第55回)
計器飛行は別世界へのいざない
AOPA JAPAN 技量維持担当安全委員
野村 達夫
計器飛行証明の取得は、我々非職業 GA パイロットの悲願のひとつです。これから計器飛行
証明を目指す方々のトリガーと成るよう、難しさを抜けると素晴らしい IFR の世界に巡り合う
ことを書き綴ります。
計器飛行証明を取得して実際に計器飛行をすると、その楽しさと難しさとが組合わされた計
器飛行冥利を味わえます。その終わりのない難しさ、そしてこのいざないで強調したいのが飛
行訓練による技量向上が安全飛行に結びつき、奥深い満足感が得られることです。この満足感
が得られなければ計器飛行証明の魅力を失うでしょう。ではその実例で挙げてみましょう。
雲がたれ込めた雨の降る夕方の空を、IFR で
出発。ATC クリアランスを貰い滑走路にライン
ナップ、フルパワーで離陸。雨粒に翼端灯が宝
石を散りばめた様に輝く。まもなく雲に入り SID
に従い上昇、雲のトップを突き抜ける瞬間、そ
こには素晴らしい情景が待っている。雲海の彼
方の夕陽は眩いばかりのくれない色に輝き、機
体は微動だにせず、エンジンの振動が心地よく
身体に響く。雲海上には月が輝き、巡航飛行の
後、陽が落ちた雲海を STAR に従い進入降下、
雲から出た瞬間遠くの町の明かりに安堵感を覚
える。やがて整列した進入灯、滑走路灯に導か
れてタッチダウン。これは自分が操縦している
のだ!計器飛行証明を取得したことの無上の感
すから、VFR パイロットの方も、計器飛行証明
取得を目指して頑張ってみるべきです。
ランウエイライトが雨に輝く薄暮の滑走路(FTD)
激を覚える瞬間である。
計器飛行証明を取得したいと思う動機は様々
でしょう。それは悪天候で死ぬ思いをしたから、
単に必要だから、技量向上に結びつくから等々、
私の場合は、悪天候で死ぬ思いをしたことがきっ
かけでした。
計器飛行証明を取得すると飛行中気持にゆと
りが生まれ、広く的確な判断が出来るようにな
ります。折角好きな飛行機の世界に入ったので
達成の感激と安堵感に満ちた滑走路視認(FTD)
2011 OCT
55
計器飛行証明を目指す最大の理由は、飛行領
域を拡大し、技量の向上を図ることです。また、
プロの IFR 機と同居する空のルールの複雑さも
学びます、これらの技量と知識を習得すること
はライセンスのクラスに関係なく、安全に飛行
することの大切さを知ることなのです。
何故 IFR 飛行なのか
出発時の気象確認ではエンルート、目的地共
に VMC であったのに、予想に反して目的地の
視程が悪化し、IMC になることがあります。こ
のような場合には、SVFR をリクエストして着
陸することが出来ますが、管制官からは IFR 同
様のクリアランスによる許可が発出され、パイ
ロットは正確にリードバックすることを求めら
れます。只単に Roger では済みません。計器飛
行訓練を受けていれば、SVFR に対しても心の
ゆとりを持つ事が出来るでしょう。
近年は、与圧キャビン機等、高性能な小型機
が登場してきました。小型機ながら200kt 以上
の速度、20,000ft 前後の巡航高度の飛行では、
上昇降下時に IFR ルートと交錯することも良く
あり、これらの性能にマッチした飛行を安全に
行うには技量の向上、計器飛行能力の習得が強
く望まれます。
海上飛行では一番近い陸岸から30分以上離れ
て飛行する場合も機長には計器飛行証明が必要
になります。
計器飛行証明を取得しておくと、エンルート
JCAB の計器飛行証明の取得は難しいと思わ
れていますが、試験官は、努力に対しては評価
をしてくれるものです。何れにしても困難は克
服しなければなりません。私の場合次のような
ことを考えると、それほど難しくないと気が付
き、やる気を奮い立たせる事に繋がりました。
上や到着地の天候急変においても習得した技量
により心のゆとりを持つことができ、ターミナ
計器飛行証明の取得はそれが終わりではなく、
登竜門に立つと言う事だと気がついたのです。
ルレーダーによる誘導を受けられれば、スムー
スに着陸進入することも出来ます。
計器飛行証明を持たないため、目的飛行場を
目前にして着陸できず引き返した経験をされた
辛口に表現するならば、この時点では、単に揺
れのない悪視程中を飛行できる程度で、これか
らあらゆる雲の中を飛行して経験を積む正に序
章なのです。だから実技試験に完璧を求めては
パイロットは少なくないでしょう。実はこの引
き返す時にも、場合によっては大きなリスクを
無理と思うことで気持ちを軽くする事が出来ま
す。しかしフードによるエアワーク、航法の諸
伴うことを忘れてはなりません。
元をこなす技量は最低限度必要です。合格後、
時には、特徴的気象条件の中を飛行するために、
経験者の話を聞き、さらに実践本を読み技量向
56
2011 OCT
有視界飛行の引き返しにおけるリスク
計器飛行証明の取得
上を目指すことが必要です。では、総飛行時間
がどの位であれば合格ラインに到達するのかと
気になるところですが、これについては人様々
です。200時間未満で合格している人もいます、
250時間以上であれば、受験の準備を始めて良い
でしょう。
小型プロペラ機の
IFR 飛行と注意事項
1.我々 GA 機の最大の特徴は一人乗務で飛ぶ
事にあり、全ての操作を一人でこなす能力を要
積乱雲には絶対入ってはならない
求されるのです。雲中飛行では常に2歩以上の
先読みが大切です。雲中に於いて、突然次のポ
イントでホールディングを指示されるかもしれ
ない、この位置から別のフィックスへ回される
かもしれない、機体の具合が悪くなったらどの
様に飛行するか等々予想される事態の代替プラ
ンを思い描いておく事が、安全に計器飛行をす
る為の重要な秘訣です。
雷の存在は、我々の機体では VHF に入るフ
リッカ音や ADF 指針の異常な振れで雷雲の存
在を判断するのがせいぜいなところです。気象
庁が2010年5月から始めた雷ナウキャスト情報
からは雷及び CU, CB に関わる乱気流の存在を
高い確率で予測ができるのでその活用効果は期
待できるでしょう。
2.150馬力級の小さな機体では積雲系に入るこ
とや、不安定な大気状態の悪天候の存在するエ
ンルート飛行は、安全の観点から絶対に避ける
べきです。
低馬力機で余裕を持って飛行できる環境は普
通の低視程状態、そして悪天候に於いては到着
地での着陸進入に留めるべきです、但し進入と
言っても強風時の進入には風に流されないよう
十分注意する必要があります。
もしエンルートを飛行せざる得ないときには、
3.着氷の遭遇が予想されるときは事前にピトー
ヒートを ON にします。風防の着氷予防のため
に暖房のデフロストを最大にして、速度低下に
注意するのはご承知の通りです。
着氷に遭遇しても慌てる必要は有りません、
十分状況判断できる時間はあります。
ガラスが割れるような衝撃音を伴う着氷も有
りますが、いきなり飛べなくなることはまずあ
りません。大切なことは0℃以下の着氷高度を
飛行するときには、着氷による飛行不可能を想
山岳地帯の飛行は避けるべきです。着氷や、下
降気流で高度維持が出来ない状況に遭遇する事
定し絶えず+1℃の高度とその高度へ降下した
場合障害物にぶつからないことを確認しながら
を、想定しなければなりません。
積乱雲には絶対入ってはいけません、レーダー
搭載のない機体による暗夜の飛行では雷雲の存
在が分からないため、夜間飛行は十分に注意が
飛行することです。
プロペラヒーターがありながらも除氷できず
振動が増す場合、デアイサーブーツ使用基準の
厚さに達しない中途半端な厚さの着氷状態で速
必要です。単独の CU,CB なら雷光で存在が分か
ります。しかし広範囲の不安定な大気の雲中に
度が低下した場合、またはそれらの装備が無い
機体で除氷を行なうには+1℃の外気温度とな
存在する CU, CB は、雷光も見えないため FSC
等から情報をこまめに入手することが大切で
す。
る高度迄降下することにより除氷の効果を得る
事ができるでしょう。外気温が+1℃以上にな
ると着氷は直ぐに、ビュッビュッと剥がれ飛ん
2011 OCT
57
でいきます。
デアイサーブーツやプロペラヒーターの性能
はそれぞれの飛行規程に書かれていますが、そ
の性能を熟知することはもとより、これらの装
備があっても完全な防除氷機能を有していない
ことも承知していなければなりません。
着氷により安全な飛行の継続ができなくなる
ことが予想されたら、すかさず管制にアイシン
グ回避のための高度や方位の変更をリクエスト
します。管制は素早く調整し対応してくれるで
しょう。
4.到着地に着氷条件が無いこと。
(+1℃以上
の気温の確認)
冬期において飛行する場合、小型機では、雲
に入らなくても可動部分が凍結することも有り
ます。
その凍結を、機器の機能のみでは解凍が出来
ないことを想定して、到着地の気温が+1℃以
上により解凍できる気象状態であることを確認
する事も飛行準備として大切です。
5.150~200馬力級の機体での IFR 飛行は全て
に余裕が無いのですが、IFR が出来ないかと言
うと、決してそうではありません。このクラス
の機体で IFR に威力を発揮するのは、一般的な
低視程、層雲系の凍結高度以下での雲中飛行、
秋や春など穏やかな気候の夜間飛行です。
これらの気象状態に於いては VFR で地面を
這う飛行より、遥かに安心安全な飛行ができま
す。このような比較的穏やかながらも VMC 以
下の気象状態に遭遇した時のために IFR の訓練
をしておくことで、遭遇時に動揺することなく、
落ち着いて安全な方向へ回避するための余裕を
持つ事ができます。
機体の防除氷装備
既に述べた通り、IFR 飛行の小型機を危険に
落とし入れる現象は激しい乱気流(特に下降気
流)と着氷に尽きると言えます。
58
2011 OCT
着氷を完全に克服できる装備は、小型レシプ
ロ機にはありませんが、防氷除氷装置を装備し
た機体は、パイロットの経験と相まって相応に
機能します。
防氷装置の装備と飛行については次頁の表を
参照して下さい。
IFR 飛行のための機体はそれに見合う耐空検
査証明審査に合格していなければなりません。
VOR 施設縮退の影響と
GPS 機器の活用
さて、計器飛行を行なうのに無くてはならな
い装備で、昭和40年初めから今日までの長きに
わたり航法に重要な役割を果たしてきた VOR
は、新しい航法システムである GNSS との併用
に移行しています。
同時に運用経費削減により空港設備を除く(木
更津を除く)34の VOR 地上設備は DME を残し
平成27年中に縮減されます。この縮減に対応する
ための GPS や GNSS 機器の搭載は、小型機にとっ
て過大な費用が必要となり、それらの取り付けが
容易に叶わぬ状況です。VOR 施設の縮退は、VOR
のみを航法用の無線機器とする小型機の運用に大
きな影響があります。計器飛行のみならず VFR
飛行をする場合に於いても安全上大きな影響を及
ぼし、困った事態になりそうです。
しかし高度な技術革新により、安全飛行を目
指す為の大きな時代変革期と捉えることも必要
と考えます。
としながらも、経費を掛けられる事業会社の
大型機と、限られた経済範囲で運航する小型機
とを全て一様に捉えられては、小型機の活動は
さらに萎縮してしまいます。経済的に許容され
た範囲で飛行する小型機用の携帯 GPS の搭載
を、VFR 運航に於いても可能とするために関係
者間による相互協議の前向きな結果を強く期待
する次第です。
今後小型機に於いても航法機器の主流は GPS
や GNSS へと移行し、さらに RNAV 運航の承
認に於いても小型機に合致した、より現実的な
運航基準を強く望むものです。
防氷装置の装備と飛行
装備の種類と説明
プロペラヒーター
⃝電熱式が主流 *1
装備状況による飛行の判断
装備有り
装備無し、または故障
可能な限り0°~-10℃の間
着氷域の雲の中を完全
の雲中着氷の起こり易い域の
ではないが飛行できる
継続的な飛行は行わない
デアイサーブーツ
⃝圧縮空気式が主流
フロントウインド
ヒーター
⃝電熱式が主流
ピトーヒーター
〃
〃
凍結状態による着陸時
に前方視界が確保でき
る
着氷発生予想前に暖房デフロ
スターを最大にしておく
雲に入る前の外気温度
+2°C以下では作動
備 考
アルコール式も
ある
ア ル コ ー ル 式、
電熱式もある
外気温+2℃以下の雲には絶
⃝電熱式
・計器飛行には義務付
させる
けられている
対に入らない、その様な気象
*2
状態の中は絶対に飛行しては
いけない。
インジェクションタイプのた
キャブヒーター
外気温度と雲の関係で めインテークを塞ぐような着
・中間位置操作は禁止。
操作する。
氷の場合オルタネートエアー
目一杯コールドか
飛行規程に従う。
バルブの操作をして燃焼空気
ホットで使用。
が遮断されることを防ぐ
*1:ヒーターを使うアンチアイシング機器の場合電流計を見ながら起動すると針がプラス側に触れる事
で動作していることが分かる。
*2:ピトーヒーターの故障が飛行中分かった場合速度計が正常値を示さないことを想定してエンジンパ
ワー、高度計及び昇降計の値と動きで速度感覚を判断する。
これらの状況から、今後購入を予定されてい
る小型機には、GPS 又は GNSS 搭載が可能な機
体にすることをオーナーに望みます。
GPS、GNSS 機器の運用テクニックに関する
事は他の関係資料をお読み頂きたい。
おわりに
航空乗第2077号技量維持の指針に従って GA
パイロットひとりひとりに理解と努力を仰ぎ、
用が始まる事に決まりました。
計器飛行の技量習得は、GA パイロットの冥
利であり、その素晴らしさと奥深さの一端を感
じていただけたことと思います。
明日からのフライトでは、計器飛行の技量取
得を心掛けていただき、多くの自家用操縦士に
計器飛行証明の取得を目指して頂きたいと切に
願う次第です。
野村 達夫 (のむらたつお) 1950年生
小型機の事故を無くす為の技量向上を目指し安
全飛行を啓蒙する技量維持活動は、開始から今
年で10年を迎えるに至りました。
1967 自家用陸上単発(飛)
そしてこの度、特定操縦技能の審査制度に関
する法案が国会承認され2012年5月から制度運
現在 AOPA-JAPAN 技量維持安全委員
1980 計器飛行証明(飛)
総飛行時間 約1600時間
2011 OCT
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新地球環境問題 原子力関連用語の解説 ⑵
国際・国内機関、放射性物質、放射性同位体、半減期
運航技術委員会
前号の解説用語
1.放射線の種類(α線、β線、γ線、X線、
中性子線)
2.ベクレル
3.シーベルト(毎時シーベルト)
4.IAEA:国際原子力機関
IAEA は International Atomic Energy
Agency の略で、原子力の平和利用を促進し、
軍事転用されないための保障措置を実施する国
際機関ですが、国連とは直接関係はありません。
本部はオーストリアのウィーンに置かれ、ト
ロントと東京の2ヶ所に地域事務所と、ニュー
ヨークとジュネーブに連絡室が設置されていま
す。
IAEA は2005年度ノーベル平和賞を、当時の
エルバラダイ事務局長とともに受賞しています。
1953年、アメリカ合衆国大統領ドワイト・D・
アイゼンハワーによる国連総会演説「平和のた
めの核」を契機として、1957年に創立されまし
た。現在の加盟国は144ヶ国。主な組織として
は、総会(General Conference)、理事会(Board
of Governors)、そして事務局(Secretariat)が
あり、機関の代表である事務局長は、総会の承
認を得て理事会が任命し。その任期は4年となっ
ています。
IAEA 事務局長(現天野之弥氏は第5代にあ
たります)は、国際政治の思惑に左右されるポ
ストです。事務局長のもとに、次の6局が置か
れており、各局長は、事務次長を兼ねることに
なっています。
・管理局(Department of Management)
・技術協力局(Dep. of Technical Cooperation)
60
2011 OCT
・原子力局(Dep. of Nuclear Energy)
・原子力安全保安局(Dep. of Nuclear Safety
and Security)
・原子力科学応用局(Dep. of Nuclear Science
and Applications)
・保障措置局(Department of Safeguards)
創立以来、IAEA による査察を拒否したと認
定されている国は、イラク、イラン、朝鮮民主
主義人民共和国の3カ国です。
5.ICRP: 国際放射線防護委員会
ICRP は、International Commission on Radiological Protection の略で、1928年に設立された
国際X線・ラジウム防護委員会を継承して、1950
年に設立された国際的な放射線防護の専門家の
委員会です。
1956年以降は世界保健機構(WHO)の諮問機
関として放射線防護に関する国際的な基準を勧
告してきました。これらの勧告は、日本を含む
世界各国の放射線障害防止に関する法令に採用
されてきました。
ICRP はイギリスの非営利団体として公認さ
れた慈善団体で、科学事務局の所在地はカナダ
のオタワに設けられています。
ICRP は主委員会と5つの専門委員会からな
り、必要に応じてタスクグループが作られてい
ます。
・第1専門委員会 放射線の影響
・第2専門委員会 放射線の線量
・第3専門委員会 医療分野における防護
・第4専門委員会 委員会勧告の適用
・第5専門委員会 環境への防護
2007年の勧告では、1年間の被曝限度となる
放 射 線 量 を1mSv 未 満、 緊 急 時 に は 2 0 ~
100mSv、緊急事故後の復旧時は1~20mSv と
2.エネルギーとし手の利用に関する原子力の
安全の確保に関すること。
定めています。
この勧告に基づき、2011年の東日本大震災に
3.火薬類の取締まり、高圧ガスの保安、鉱山
における保安その他の所掌に係る保安(産
業保安)の確保に関すること。
伴う福島第一原子力発電所の事故に際し、ICRP
は日本政府に対して被曝放射線量の許容値を、
通常の20~100倍に引き上げることを提案しまし
4.所嘗事務に係る国際協力に関すること。
5.前各号に掲げるもののほか、法律(法律に
基づく命令を含む)に基づき経済産業省に
た。ただし、事故後も住民が住み続ける場合は、
1~20mSv を限度とし、長期的には1mSv 未満
を目指すべきだとしています。これを受けて、
内閣府の原子力安全委員会は、累積被曝量が
20mSv を超えた地域において防護措置をとるよ
う政府に提言しました。これらを参考に、日本
政府の方針が背景説明不足のまま発表され実行
に移されたため、多くの人々が納得できないま
ま避難し、あるいは避難準備をしているのが実
状です。
6.原子力安全・保安院
英 語 で は、Nuclear and Industrial Safety
Agency(NISA)となっており、守備範囲が原
子力だけでないことが判ります。
中央省庁再編前は、エネルギー行政に関する
行政事務は、原子力安全に関しては、科学技術
庁原子力安全局と資源エネルギー庁の所掌する
原子力発電施設の安全に関する事務、そして産
業保安に関しては、通商産業省環境立地局の所
掌する高圧ガス、液化石油ガス、火薬類、鉱山
の保安に関する事務、および資源エネルギー庁
の所掌する、電気工作物、都市ガス、熱供給の
保安に関する事務、というように分散して所掌
されていました。
現在の原子力安全・保安院の任務は、下記の
ように定められています。
1.原子力に係わる精錬、加工、貯蔵、再処理
及び廃棄の事業ならびに発電用原子力施設
属させられた事務。
8月5日、政府は原子力安全・保安院の経済
産業省からの分離、および次に述べる内閣府の
原子力安全委員会等を統合し、原子力安全庁(仮
称)を新設すると発表していますが、産業保安
に関連する組織をどうするのか、全くマスコミ
も報道していません。(8月末現在)このため、
原子力安全・保安院は原子力だけを専門に担当
する組織であるとの誤解を人々に与えています。
参考までに、現在の組織を下記に示します。
・院長
・次長
・審議官
・主席統括安全審査官
・企画調整課
・国際室
・原子力安全広報課
・原子力安全技術基盤課
・原子力安全特別調査課
・原子力発電安全審査課
・原子力発電検査課
・核燃料サイクル規制課
・核燃料管理規制課
・放射性廃棄物規制課
・原子力防災課
・保安課
・電力安全課
・ガス安全課
・液化石油ガス保安課
・鉱山保安課
・産業保安監督部(地方機関)
に関する規制その他これらの事業及び施設
*筆者注;
に関する安全の確保に関すること。
産業保安関連組織を経済産業省に残すことは、
2011 OCT
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暗黙の了解かもしれませんが、官僚の画策で焼
け太り組織にならないかと危惧しています。
放射性物質は不安定であるため、一定の確率で
原子核崩壊を起こしそれに伴い放射線を放出し
7.原子力安全委員会
ます。この性質が放射能と呼ばれるものです。
天然のものと人工的な放射性物質が存在します。
英語では、Nuclear Safety Commission と訳
され、略して NSC と呼ばれている行政機関の一
つです。2001年1月の省庁再編を機に総理府か
ら内閣府に移管されました。
原子力安全委員会の職務は、原子力の研究開
発および利用に関する事項の中、安全の確保に
関する事項について企画し、審議し、および決
定する ことであると定められています。具体的
には下記各号の通りです。
1.原子力利用に関する政策のうち、安全の確
保のための規制に関する政策に関すること
2.核燃料物質および原子炉に関する規制のう
ち、安全のための規制に関すること
3.原子力利用に伴う障害防止の基本に関する
こと
4.放射性降下物による障害の防止に関する対
策の基本に関すること
5.第一号から第三号までに掲げるもののほか、
原子力利用に関する重要事項のうち、安全
の確保のための規制に係るものに関するこ
と
原子力安全委員会の下には、専門部会8、助
言組織3、専門審査会2、調査プロジェクト・
チーム2、特別委員会1、検討委員会1、調査
主な原子核崩壊には、アルファ崩壊、ベータ、
崩壊、ガンマ崩壊があります。崩壊にともなっ
て、それぞれα粒子、β粒子、γ線が放出され
ます。(PILOT 誌2011 No.4 JUL 参照)放出さ
れた粒子や電磁波は高いエネルギーを持ってお
り、最終的には熱エネルギーに変わります。こ
の熱エネルギーを電気エネルギーに転換する仕
組みが原子力電池や原子力発電です。
今回の原発事故では、大量の放射性物質が微
粒子となり大気中に流れ出しました。これらが
「放射能雲」となり風下に流れていく間に、放射
性物質の一部が地面にまで降下します。この傾
向は、風向・風速、降雨等の気象条件によって
異なり、放射線汚染区域が広範囲にわたる所以
です。
9.放射性同位体(Radioisotope)
私達の体を含めすべての物質は原子で構成さ
れています。原子は、その中心に原子核があり、
その周辺をいくつかの電子が特定の軌道上を回っ
ています。原子核は電気的にはプラスの電荷を
持ち、電子は負の電荷を持っています。
原子の中心にある原子核は、プラスの電気を
帯びた陽子と、電気的に中性な中性子が、特別
会1、懇談会1が設置されています。
な引力(核力)によって結びつけられています。
原子核の陽子の個数と軌道電子の個数は通常
原子力安全委員会の委員は、衆・参両議院の
同意を経て、内閣総理大臣によって任命され、
は同じで、この個数が原子番
号で元素記号と対応していま
す。
任期は3年で、現在の委員は5名、委員長は委
員の互選によると定められています。
8.放射性物質(Radioactive Materials)
放射線を出す物質を放射性物質(次頁表-1
参照)といいますが、放射性物質は放射線の発
生源であり、生物に害を与えるのが放射線です。
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2011 OCT
元素の質量数および原子番
号は、
酸素
質量数
16
8
原子番号
O
・質量数=陽子数+中性子数
・原子番号=陽子数
で表わせます。例えば酸素原子の原子核は、8
個の陽子と8個の中性子で構成されています。
左下図は酸素の場合ですが、元素記号“O”
の左肩に質量数を、左下に原子番号を書いて表
壊変の速度がその時点の原子数に比例すること
を時間tに関する常微分方程式で表すと、次の
現するのが普通です。
ようになります。
-dN/dt=λN
λは固有の壊変定数であり、平均寿命の逆数
同じ化学元素でありながら、質量数の異なる
原子を、互いに同位体といい、放射能を持つ同
位体を放射性同位体、または放射性同位元素と
いいます。同位体には、安定なものと不安定な
ものがあり、同位体の違いを区別して原子核を
呼ぶ時には、核種といいます。
ニュースでおなじみのセシウム137(137Cs)
は、セシウムの放射性同位体であり、質量が137
(陽子55個、中性子88個)のものを指します。ウ
ラン235等の核分裂によってのみ生成される人工
の放射性物質です。
原発大事故で放出されるその他の人工放射性
物質の中には、放射性クリプトン、放射性キセ
ノン、ヨウ素131、プルトニウム239等がありま
す。
一方、放射性同位体は、様々な分野で利用さ
れていますのでその一部を紹介します。
例えば、放射線療法による癌などの治療、突
然変異誘発による作物育種、非破壊検査(NDI;
Non Destructive Inspection)、火災報知機など
に応用されています。
また、医療検査・診断関係では、シンチグラ
フィがあります。さらに、生化学分野では、化
学反応の詳細を調べることにも利用されていま
す。最近テレビドラマで頻繁にでてくる免疫学
的検定や、DNA の塩基配列決定なども応用分
野です。
10.半減期(Half-life)
半減期は、放射性核種あるいは素粒子が崩壊
して別の核種あるいは素粒子に変わる時、元の
核種あるいは素粒子の半分が崩壊する期間を言
います。これは核種あるいは素粒子の安定度を
です。原子の数は減少するだけなので dN/dt は
常に負の値になります。ある時点での放射能の
強さを A
(t)とすると、A
(t)=A0e-λt と表され
ます。ここで A0 は、時刻0での放射能強度で
す。放射能が半分になる時間と壊変定数との関
係は、計算の途中経過は省略しますが、t1/2 ≒
0,693/λとなります。
放射壊変と壊変定数は、核種に固有な値を持
つので、半減期を測定すると核種を推定できま
す。
右記表-1は主な放射性物質の名称とその半
減期を示したものです。
右表に含まれていませんが、天然放射性物質
で放射性炭素年代測定に利用されている炭素14
があります。この半減期は、約5,730年です。
*⑴ヨウ素-131
ヨウ素は184℃で気体になるため、原発事故で
非常に放出されやすい人工放射性核種です。天
然のヨウ素はすべて安定なヨウ素127で天然には
放射性ヨウ素は存在しません。ヨウ素は人体に
必須な微量元素で、咽喉(のど)の近くの甲状
腺に集まり成長ホルモンの成分になります。呼
吸や水・食物を通して放射性ヨウ素を取り込む
と、ヨウ素と同じように甲状腺に集まり、甲状
腺が被曝します。しかし半減期が8日なので半
年後には殆ど消滅します。しかし、遺伝子につ
いた傷が残ると、甲状腺ガンを引き起こします。
*⑵セシウム-137
原発事故で放出されるセシウム137も678℃で
気体になり、放射能雲として風に流され、降下
示す値でもあり、半減期が短ければ短いほど不
安定な核種あるいは素粒子ということになりま
し地面に到達します。セシウムは土壌粒子と結
合しやすく半減期が30年と長いため、土地表面
から流されず残り地表面から放射線を放ち続け、
す。
ある時間に残存する原子数をNとして、放射
農作物に取り込まれて長期汚染の原因となりま
す。
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表-1 主な放射性物質とその半減期
放射性物質の名称
炭素-11
酸素-15
リン-32
カリウム-40
鉄-59
コバルト-60
ニッケル-63
ストロンチウム-90
ヨウ素-131*(1)
セシウム-137*(2)
ラジウム-226
ウラン-235
ウラン-238
プルトニウム-239
記号
11
O
15
C
32
P
40
K
59
Fe
60
Co
63
Ni
90
Sr
13
1I
137
Cs
226
Ra
235
U
238
U
239
Pu
半減期(約)
20分
2分
14日
13億年
45日
5.3年
100年
29年
8日
30年
1600年
7億年
45億年
2万4千年
主な放射線の種類
γ線
γ線
β線
β線、γ線
β線、γ線
β線、γ線
β線
γ線
β線、γ線
β線、γ線
α線
α線、γ線
α線
α線
Remarks
人工
人工
人工
天然
人工
人工
人工
人工
人工
人工
天然
天然
天然
人工
*(参考)放射能の強さの例(1グラム当り)
⑴ 天然の放射性核種
・ウラン238
1.2万ベクレル
26万ベクレル
・カリウム40
370億ベクレル
・ラジウム226
⑵ 人工の放射性核種
・セシウム137
3.2兆ベクレル
・ヨウ素131
4600兆ベクレル
・キセノン133
・クリプトン88
6900兆ベクレル
290京ベクレル
半減期
45億年
12.5億年
1600年
30年
8日
5.3日
2.8時間
(黄)
放射線が発生している場所、例えば病院や診
療所のレントゲン撮影室などには、右記のよう
な標識が表示されています。中心の●のまわり
の3つの葉は、アルファ線、ベータ線、ガンマ
線を意味しています。
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2011 OCT
以上は、インターネット入手情報をもとにま
とめたものです。
以下次号
参加報告
関東西部地区飛行連絡会
奥貫 博
7月20日 13時-17時に、航空自衛隊入間基地
で「関東西部地区飛行連絡会」が開催されまし
た。この会の趣旨は、関東西部地区の低高度空
域の混雑した飛行状況を認識し、空中衝突、異
常接近の危険性を再認識した上で、運航関係者
同士の情報交換、意見交換等の対策を行って、
安全の確保を図ろうというものです。
この目的に沿って、航空、陸上、海上自衛隊
関係、横田基地関係、東京航空局管制課、調布
空港事務所、警視庁航空隊、防災ヘリコプター
関係、航空運送事業会社、使用事業会社(含、
ドクターヘリ運航委託)、グライダー関係、日本
航空機操縦士協会、日本飛行連盟、日本滑空協
会、NPO 法人 AOPA-JAPAN 等から約80名も
の参加者がありました。
内容は、最初に入間基地の飛行、管制、飛行
点検等、関東西部地区の空域に関わる様々な説
明が行われ、合せて問題点の事例報告と注意喚
細部の情報につきましては、この誌面では書
ききれませんので、要点のみをかいつまんで報
告させていただきます。
先ずはこの連絡会発足の経緯です。
今年度はその第9回目になりますが、依然と
起が行われました。横田基地関係では業務内容
の説明に加え、レーダー監視における注意点等
して有視界飛行の小型機に関する危険な状態は
無くなりません。この連絡会での情報の交換と
の紹介がありました。航空局からは、関東空域
第二次再編の説明、また民間側からは、グライ
ダーの活動に関する説明、航空安全講習会等の
取組み、航空機使用事業の飛行活動、ドクター
意見交換を通じて、お互いの理解と問題点の共
有は図られたはずなのですが、まだ安全確保へ
の課題は多いようです。
そこで今回の連絡会の重点目標は、
「問題点の
ヘリの運航等の説明がありました。
説明の担当者も、質問者も、全てこの空域の
把握」と設定されました。情報の共有が出来た
所で、先ずは問題点を把握し、この空域の飛行
飛行に関わる当事者ですから、その内容は非常
にわかりやすく、質疑応答を含め多くの貴重な
情報が得られ有意義な連絡会でした。
に係る各部署、各人がそれを認識した上で、自
主的対策の確立につなげ飛行安全の確保を図ろ
うという訳です。
関東西部地区飛行連絡会発足の経緯
2011 OCT
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次の図は、入間基地周辺での VFR 機との交
錯飛行のものです。3件の事例が示されていま
す。入間基地関係の飛行経路を理解し、危機意
識をもって飛行することが必要です。
関東西部地区飛行連絡会運営のねらい
では、今回の重点目標の「問題点の把握」に
沿って、いくつかの事例を紹介します。
下の図は、当日紹介された入間管制圏無許可
侵入飛行の航跡です。すぐ近くの小型機用飛行
場の機体のようですが、入間基地の滑走路の直
上を何の通信設定も無く飛行しています。地図
上の現在位置のことも、この空域のことも、通
信設定も、全て頭から抜けているとしか言いよ
うがありません。
同じような入間管制圏無許可通過飛行の事例
がもう1件紹介されましたが、なぜこのような
ことが起こるのか、その要因を良く考え問題点
を掘り下げて対策につなげる必要があります。
入間基地周辺での VFR 機との交錯飛行
もう1件の事例は、高高度訓練及び飛行試験
用のH空域でのものです。このような空域を、
無許可で飛行することは極めて危険です。区分
航空図を見て、必要な通信設定をして飛行する
ことが必要です。
不明機(5500ft)
高々度飛行試験用H空域での交錯飛行
3件の事例を紹介しましたが、いずれも現在
位置に関する認識の不足が根底にあるようです。
有視界飛行では、地図に飛行予定コースの線を
引き、その近傍に存在するリスクを考え、必要
な備えをして飛行するのが基本なのですが、そ
の辺に問題があるようです。
小型機の入間管制圏無許可侵入飛行の航跡
66
2011 OCT
以上のような状況がありますので、関東西部
地区の空域情報を、改めて見てみたいと思いま
す。皆様御存知のように、入間、横田、厚木、
立川の基地が存在し、その近傍には、有視界飛
行の小型機の調布空港、ホンダエアポート等が
また、当日は飛行点検隊の、点検訓練飛行経
路の説明もありました。飛行点検機は、特殊な
飛行を行いますので、注意が必要です。
存在します。また、北の方の利根川近辺では、
グライダーの飛行活動もあります。
飛行点検隊の点検訓練飛行経路
関東西部地区の空域
このような空域を安全に飛行するには、飛行
前の情報確認が特に重要になります。
また、横田アプローチは、確実に通信設定が
出来てレーダーで把握していただければ、安心
感があるのですが、それでも下図の斜線部のよ
うな要注意の箇所がありますから油断はなりま
せん。
以上のように、関東西部地区に係る様々な情
報の説明があり、また質疑応答がありましたが、
そこから得られた内容を要約してみますと、要
はごく基本的な以下の内容に集約されるようで
す。
1.空域情報の把握
2.現在地点の確認
3.通信設定、聴取、意志の伝達
4.確実な見張り
有視界飛行においては、飛行する空域に関わ
る各種飛行活動の存在を事前に認識し、危機意
識をもって調べ、必要な準備をした上で飛行す
ることが重要です。
その辺を徹底し、この連絡会で指摘されたよ
うな危険な状態が生じないようにしなければな
りません。
GPS や電子化された位置表示システム等便利
な時代になっても、人間の錯誤がありますとど
うにもなりませんし、人家が密集した関東平野
横田アプローチの要注意箇所
で空中衝突が起これば悲惨な結果になるのはい
うまでもありません。高い意識で航空安全を心
がけたいと思います。
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参加報告 がんばろう日本
コウノトリ但馬空港フェスティバル11
奥貫 博
小型機の空の祭典
空のイベントには様々なものがありますが、
小型機を中心として地域と空港の活性化を目指
し、国土交通省、及び財団法人日本航空協会の
後援を得て実施されるイベントは、そうあるも
のではありません。
昨年迄は、国土交通省の指導のもとに各地で
のスカイレジャージャパンが開催されていまし
たが、今年はそれも休止になってしまいました。
そのような背景の中、7月30日、31日に開催さ
れた「コウノトリ但馬空港フェスティバル」は、
小型機の空のフェスティバルを通じて「心の元
気」を作り出し、経済を元気にし、東日本大震
災の被災地をはじめ全国に夢や希望そして支援
の輪を広めようと「がんばろう、日本」をサブ
テーマとしての開催でした。
兵庫県豊岡市のコウノトリ但馬空港は、1994
年5月に開港した1200m 滑走路1本のコミュー
タ空港です。小型機の航空スポーツ用飛行場と
しても力を入れており、1995年以降継続して空
のイベントが開催されてきました。
では、当日のスカイイベントの模様を、順を
追って紹介します。
早朝からの熱気球の体験登場
ターミナルビル前の広場では、早朝から熱気
球の体験搭乗が行われています。大阪へのコ
ミュータ便が出発しますと、滑走路上空での、
モーターパラグライダーの飛行が始まります。
今年は迫力のあるエアロバティックスを中心
に、各種航空機による充実したデモフライトを
はじめ「空」を身近に感じるための様々なイベ
ントを用意したとの事。計4万5千人の観客は
小型機のフライト、体験イベント、各種ステー
ジイベント、地元の名産品即売、航空関係のブー
ス等を楽しまれていました。
モーターパラグライダーの飛行
68
2011 OCT
Deep blues 室屋氏のオープニング飛行
スーパーウイングスの風船割り飛行
オープニング飛行は、エアロバティックス世
界選手権に参加の Deep blues 室屋氏が Extra
300S で担当されました。ここから4時間、但馬
空港上空は小型機の舞台になります。
スーパーウイングスのメンバーは、地上では
笑いが絶えない楽しいオジサン達とレディです。
皆さん飛行機が好きなだけのアマチュアなので
すが、ひと声かければすぐに集まるチームワー
クの良さがあります。
メンバーの技量のレベルは高く、FA200の編
隊飛行からエアロバティックスまで何でもこな
します。中には、操縦教育証明所有者、英語証
明の所有者、また戦中からの筋金入りの大教官
もいて、この様なクラブのお手本になる存在と
思います。
スーパーウイングスの編隊飛行
次は、但馬ではおなじみのスーパーウイング
スの編隊飛行と風船割りです。4機の FA200は
熊本から飛来しました。このチームの魅力は、
その統率の取れたフライトです。
各機それぞれに離陸した機体は直ちに編隊を
組み、ブレークして滑走路上での風船割りを2
回行います。この風船割りは風に流されて動く
但馬飛行クラブのボナンザの飛行
風船を時速200Km/h でプロペラの回転面内に捕
らえるものですが、皆さん本気を出せば先ず外
地元但馬フライングクラブは、ボナンザの飛
行を披露しました。
すことはありません。その後空中集合し、編隊
で会場上空を通過して着陸します。離陸から着
陸まで飛行には無駄がなく、安定感があって楽
しく完成度の高い演技でした。
高級単発機ボナンザの高速及び低速ローパス
を主体にした飛行展示は、腕の冴えもあって安
定感にあふれ、重厚で豪快な飛行は見ごたえの
あるものでした。
2011 OCT
69
岡山航空のビジネスジェットの飛行
グライダーの飛行展示
ボナンザの後は岡山航空のセスナサイテーショ
ン525A の飛行です。ジェット機ならではの高
速性と着陸形態での低速性能のデモを主体とし、
また急旋回等も組み合わせた見ごたえのある飛
行でした。
ただ、あまりにも高速であったため、安全の
ためにはもう少し観客から離れ、また高度もも
う少し高くといった印象がありました。
次はグライダーとモーターグライダーの飛行
自衛隊ヘリコプターのデモ飛行
WP 競技曲技飛行チームの Extra300L
日曜日には、陸上自衛隊の AH-1S 及び OH-1
ヘリコプターの飛行展示が行われました。
さて、ここからがエアロバティックス飛行展
示の始まりです。初参加のウイスキーパパ競技
観客前の限られた展示エリアを上手に使った
豪快な展示飛行は、その腕の冴えに自衛隊さん
曲技飛行チームの Extra300L は、世界選手権参
加選手の内海さんの操縦で正確で華麗なエアロ
の頼もしさを感じる内容のもので感心をさせら
れました。
また、この2機は、地上展示でのサービスも
良く大変な人気を集めていました。
バティックスを披露されました。
当初は赤い WACO 複葉機との模擬空中戦の
予定でしたが、WACO 複葉機のトラブルで今回
は単機での飛行でした。
70
2011 OCT
展示です。福井グライダークラブのモーターグ
ライダー Diamond HK36TT が大野グライダー
クラブのグライダー DiscusBT を曳航して離陸
し、上空で離脱した後、それぞれの飛行を見せ
るというものでした。
グライダーならではの静かで優雅な飛行は、
また別な魅力にあふれるものでした。
おわりに
今年も暑さの中の行事でしたが、心配された
天候も崩れることなく2日間で4万5千人の観
客が集まる大盛況でした。
コウノトリ但馬空港フェスティバルは、大規
模な航空ショーとは異なり、この空港と航空ス
ポーツを愛する人々、及び団体によって支えら
れた貴重な存在のイベントです。
このようなイベントの存続は、決して容易な
FA200のエアロバティックス飛行展示
エアロバティックス飛行の2番手は、国産機
FA200エアロスバルです。操縦は PILOT 誌編
集委員の奥貫が担当しました。FA200はエアロ
バティックス専用機ではありませんから、エン
ジンパワーに頼る飛行も派手な動きも出来ない
のですが、それはそれでロールも宙返りもゆっ
たりと見ていただきました。
ものではなく大変な苦労を伴うものですが、歓
迎パーティーであいさつされた実行委員会会長
の中貝豊岡市長は、コウノトリ但馬空港フェス
ティバルについて熱く語られ、また最後まで参
加者の皆さんと同席されて皆さんの話を聞かれ
ていました。
真夏の暑い中、それは大変なのですが、この
イベントを支える方々、また楽しみに但馬に集
まる皆様のことを思いますと、また来年も頑張
らなければ、となってしまいます。
様々な飛行展示、機体展示会場でのパイロッ
トとの触れ合い、体験イベント、セスナの体験
飛行等々は、夏の日の良い想い出になったこと
でしょう。
お子様や若い人が、このような空のイベント
の機会を通じて航空の世界に親しんでいただき、
空への夢が実現するよう心から願って今年の参
加報告といたします。
Deep Blues のエアロバティックス飛行
最後は、世界選手権最高峰の無制限クラスを
戦う室屋選手の Extra300S のエアロバティック
ス飛行です。離陸直後の背面飛行から垂直上昇
に移行しロールしながら急上昇する飛行は、ま
さに別格で、パワフルなエンジン、シャープな
舵、エアロバティックスで鍛え上げた技の正確
さは、毎年技量の向上が感じられ、見ていて気
持ちのよいものでした。
今回は地上展示のみの WACO 複葉機
2011 OCT
71
第2回 全日本曲技飛行競技会
「誌上ジャッジスクール⑸」
米国 IAC 曲技飛行
公認審判員
これまでは、フィギュアのラインの角度やルー
プ部分の半径など、判定基準について説明しま
した。最終回の今回は、別の面から見た判定基
準「プレゼンテーション」の紹介と、そして精
確にフィギュアを飛行しても時として0点となっ
てしまう、通称「ハードゼロ(HZ)
」を避ける
ためにルールをもう一度確認してみましょう。
髙木 雄一
度は1,500ft AGL です。この高度でジャッジラ
イン近くを飛ぶと、まるで直上を見上げるよう
になり、フィギュアの形は判り辛くなります。
望ましいものは、近すぎず、遠すぎず、ボック
ス内の「パフォーマンスゾーン」と呼ばれる判
定に適したところでの飛行です。
精確なフィギュアを組合わせた飛行が、全体
として見て、必ずしも美しく素晴らしい飛行に
なるとは限りません。料理に例えるなら、調理
後の盛り付けや副菜との組合わせが最終的な完
成度に影響を与えるようなものでしょうか。
飛行する場所に加え、高度もジャッジライン
からの見え方に影響を与えます。安全性を犠牲
にはできませんが、高すぎる高度も同様にジャッ
ジラインから見上げるようになり、判定を難し
くします。もし、シークエンスの進行に従って
次第に高度を消費する計画なら、前半をボック
ス内の遠くで飛行し、徐々にジャッジラインに
近付けることも良い作戦です。
プレゼンテーションとは、フィギュアの精確
さだけでは計れない要素を10点満点として評価
します。スポーツマンのプレゼンテーションの
Kファクターは6ですから、10点満点では60点
となります。小さな数字でも、他の競技者に差
を付けるには十分です。
次にフィギュアの配置です。通常、シークエ
ンスには同じ飛行方向のフィギュアが2から3
あり、これらを全てジャッジラインの直前で行
うことは空間的に無理があります。しかし、そ
れらがバランスよく配置されていることはプレ
ゼンテーションに大きく影響します。
これには、ジャッジの判定に適した場所で飛
また、シークエンスを通し、各フィギュアが
行しているか、フィギュアがボックス内にバラ
ンスよく配置されているか、リズムの取れた飛
行であるか、などが含まれます。
音楽に乗るように、一定のリズムで進行するこ
とも重要な要素です。ボックス内の風の影響な
どによってはリズムを一定に飛行することは難
しいことですが、ここを競技者がどのように対
「ジャッジに近いところで飛行することで見栄
えがよくなり、プレゼンテーションが向上する」
応するかで飛行の芸術性が変化します。
という意見はよく聞かれます。確かに、近くで
あれば機体の細かな部品までも見えるでしょう。
しかし、スポーツマンカテゴリーの最低飛行高
このように、プレゼンテーションは得点が接
近する競技者たちに差を作るための道具のひと
つであり、工夫次第で大きな武器となります。
●プレゼンテーションとは?
72
2011 OCT
●ハードゼロ! 思いがけない0点を防
ぐために
5.ボックスへ初期進入の以前に開始したフィ
ギュア。
(プライマリーカテゴリーを除く)
フィギュアの採点は10点からの減点方法が用
いられ、減点が積み重なれば最終的に0点とな
フィギュア1をボックスの外側で開始し、
その途中からボックスに進入した場合、フィ
ギュア1は0点となり、次の2から採点と
り、これを通称「ソフトゼロ」と呼びます。大
きな失敗がない限り、通常はいくらかの得点が
期待できるものですが、時としてルールの不履
なります。ボックスに入ったと信じて開始
した最初のフィギュアがまだボックスの外
で、0点としてしまうことは多く見られま
行により得点が0点となることがあります。こ
れは「ハードゼロ」と呼ばれ、不注意やルール
を熟知していなかったことが大きな原因です。
す。
同様に、ボックスに一度も進入すること
なく終えた飛行にも当てはまり、この場合
以下が、ハードゼロとなる状況です。
1.プログラムに指示されたフィギュアを飛行
しなかった。
2.プログラムにないフィギュアを追加した。
3.ジャッジの使用するB用紙またはC用紙に
指示されているフィギュアから逸脱した。
例:2ポイントロールの指示を、1回転の
スローロールとして飛行した場合など。
4.X 軸上で行うフィギュアの方向を誤った。
(Y軸上のフィギュアには方向性はなし)
ボックス内のオフィシャルウィンドは
ジャッジから見て、右から左又は左から右
のどちらかに、X軸に沿って設定されます。
プログラムのB用紙及びC用紙にはオフィ
シャルウィンドの方向が指定してあり、X
軸上で行うフィギュアの方向を誤って逆方
向に行うと、精確さに関わらず0点となり
ます。
オフィシャルウィンド方向の変更は、該
当するカテゴリーのチーフジャッジの判断
に任され、仮にボックス内の風が一時的に
変化しても継続されることがあります。も
は飛行した全てのフィギュアが0点となり
ます。初期進入はとても重要です。開始す
る場所は必ずボックス内であることを確認
しましょう。
6.ジャッジラインの後方で開始したフィギュ
ア。
ただし、フィギュアの途中でジャッジラ
イン後方を飛行した場合は0点とはならず、
該当するバウンダリー侵害のみが与えられ
ます。
7.デッドラインを超えて飛行したフィギュア。
デッドラインとは、隣接する市街地や空
域などを避けるために、主に安全を維持す
る目的で設定されることがあります。
8.機械的な問題で中断したフィギュアが、着
陸後の検証で競技者に責任があるとされた
もの。
9.フリープログラムにおいて、構成について
ルール上の問題が飛行後に発見された場合。
10.滑空機競技のスーパースローロールのロー
ル率が規定の10秒 /360度よりも速いもの。
し変更がある場合は、飛行予定時間の15分
前にその旨を通達します。オフィシャルウィ
以上を持ちまして、5回に渡って掲載させて
頂いた誌上ジャッジスクールは終了となります。
書き漏れた内容も多く、その構成に反省すべき
ンドは地上の風向には影響されず、あくま
でも上空のボックス内の風向が判断材料で
す。地上の風向や使用滑走路の方向と、ボッ
点もありますが、曲技飛行競技を愛すべきスカ
イスポーツの一つとして、日本での発展の一つ
の礎となれば嬉しく思います。
クス内のオフィシャルウィンドは別とお考
えください。
お付き合い頂きありがとうございました。
2011 OCT
73
セミナー報告
危機管理・コミュニケーションスキルセミナー
に参加して
~今、求められていることとは~
航空大学校 56回生Ⅱ期
伊藤 康太
◆~はじめに~
的に考える必要があると思います。
◆~危機管理と生活~
※リスクマネジメントの概念
⃝危機事態の発生を予防するためのリスクの分
私は、東日本大震災の後、操縦士協会の主催
する危機管理・コミュニケーションセミナーに
参加をしてきました。このセミナーは今年4月
からスタートし、2012年春まで開催が予定され
ています。セミナーの構成はその名の示す通り、
危機管理とコミュニケーションについてからな
るものであり、航空業界での経験をお持ちの講
師の方に講義をして頂くことで、日常生活に生
かせる知識を身に着けることができます。
PILOT 誌5月号に、震災の経験を寄稿し、セ
ミナーへの継続的な参加を通じて理解し、経験
したことを整理する意味も込めて、改めて寄稿
をさせて頂きます。
震災以降、いやが上にも関心を集める安全・
安心を考えると、まずは一人一人にできること
があると思います。非常時の避難について確認
をしておくこと、物資の備蓄をすること、周囲
危機管理とは、第二次世界大戦の後に生じた
世界的な枠組みの変動の中で生まれた概念であ
り、国家間の相互作用の働きを政策的、戦略的
に抑制する必要性を起源に持つとも言われてい
ます。甚大な被害を招く事態の拡大を防止する
ことを目的として、その回避のための方策が検
討されたことが起源とされているため、現在で
は、防災や企業経営などさまざまな危機を対象
とする場面にも用いられています。さらに、日
本語ではクライシスマネジメントとリスクマネ
ジメントの二つの意味が「危機管理」として一
本化されて扱われていることがあります。
析方法等が中心。
※クライシスマネジメントの概念
⃝危機事態の発生後の対処方法に関する点が中
心。
の人と防災についての知識を共有すること等、
有事に直結した内容のものも多いと思います。
しかし、恐怖や経験があって、初めて行動や発
想を変えるのではなく、日常生活の中から、少
し意識と行動を変えるだけでも、有事の際の対
応も変わってくると考えられます。そして、各
個人が危機管理に対する考えを身につけたうえ
でコミュニケーションをとりながらリスクを捉
えることができたとしたら……誰もが求める安
全・安心を求める欲求を少しは満たせるのだと
思います。そのために、何ができるのかを具体
74
2011 OCT
セミナーの風景
さらに次の項では危機管理ついて具体的に書こ
うと思います。
◆~危機管理のツボ~
危機管理という言葉から、本格的な対策を想
像される方もいるかと思いますが、セミナーで
習った危機管理の基礎は健康管理と情報力にあ
ります。この生活に直結した内容がいかにして
危機管理につながるのか、それは危機の未然防
止(=リスクマネジメント)につながるからで
す。
前にもでてきたリスクマネジメントですが、
リスクマネジメントとは、人間の活動における
リスクの未然防止、被害局限対応、回復、再発
防止をいい、危機管理はその体系の中での危機
の未然防止と、危機に陥った際の最悪の事態を
防ぐ被害極限対応を言います。
では、なぜ、情報に溢れ、健康にも留意して
いる人が暮らしている生活の中から危機管理を
考える必要があるのでしょうか? そのことを
社会や心理から考えてみようと思います。今回
の震災では、「想定外」「未曾有」という言葉が
よく聞かれました。それは、その事態を誰も想
像できていなかった、対策をとることもできて
いなかったということの表れであると思います。
もちろん、本当に想定できなかったケースも
ありますが、確率が低く、データが不足してい
ることで除外されてしまうケース、発生を予測
できても、本気で取り組むと、予算の都合など
がつかなくなってしまうケースもあり、その裏
には無意識に働く人の心理があります。
人の心理が関係していることについては、
「想
定外」に関連するシステム辺縁事故もあります。
システム辺縁事故とは、運輸機関、化学工場、
大事故を起こしてしまうケースを指しています。
この時のミスやエラーは、まさに「想定外」と
して扱われるのです。
◆~ヒューマンエラー~
人間がエラーを起こすと、エラーは期待され
た範囲から逸脱した結果を起こした「原因」で
あり、対策も表層的なもの、つまり人の意識に
訴えかけるものになることが多いと言われてい
ます。そして、エラー対策は意識高揚による方
法が第一と思われていることもあります。しか
し、大切なことはエラーの起こりうる環境その
ものから対策の対象とし、ヒューマンエラーを
「原因」ではなく、「結果」として捉える必要が
あると思います。そして、人間の持っている特
性と、人間を取り巻く環境がうまく合致してい
ないために、結果として誘発されたものがエラー
であると理解することで、より有効な対策がと
れるのではないでしょうか。
下図は SHEL モデルを図示したものです。
Lは【liveware】ライブウェア:自分自身
Sは【software】ソフトウェア:作業手順や作
業指示の内容等、ソフトに関わる要素
Hは【hardware】ハードウェア:機器・設備な
どハードに関わる要素
Eは【environment】環境:照明や騒音、温度
や湿度などの作業環境にかかわる要素
Lは【liveware】ライブウェア:周囲の人
その人と共に作業を行う同僚などを表し、人
間(L)の周囲の凸凹は人間の限界を示し、そ
の凸凹とそれを取り巻く要素(S, H, E, L)の凸
原発など複雑で高度な技術を駆使したシステム
や装置の中で人間のミスやエラーにより生じる
事故のことです。システムの中心部は安全確保
に万全の配慮をした設計にしてあり、人間も設
計や指定されたとおりに動けば、正確に動いて
いると判断をしがちですが、その中で、「まさ
か」と思うようなことが起こると、それが引き
金となり、システム全体を破局に陥れるような
2011 OCT
75
凹が合致しないと不具合が生じるという考え方
です。この図を用いて、特定の分野・範囲のみ
り組みの中に、危機管理があり、セミナーで学
んだ危機管理の基礎があるのだと思います。
で考えず、総合的な対策をとることが、ヒュー
マンエラーへの対策となると考えられます。
国際的な動きを見ても、ICAO(国際民間航空
機関)は加盟国の監督省庁に対し、USOAP(ユ
ニバーサル安全管理監査システム)を行い、
◆~航空業界では~
前項ではヒューマンエラーについて触れまし
たが、航空業界とヒューマンエラーの関わりに
IATA(国際航空運送協会)はすべての加盟エ
アライン、エアラインに対して IOSA(国際運
航安全監査プログラム)を行っています。この
ついて書いてみようと思います。先日、私が見
学してきた ANA グループ安全教育センター(以
下 ASEC)では過去の事象を基にした展示が行
ような仕組みでの対応、事象に対する分析や理
解の積み重ねが必要なのだと思います。そして、
組織としての取り組みを各個人の理解や取り組
われていて、一般向けにも開放されています。
解説を受けながら見学できる事により、事象の
起きた原因や構造を理解し、ヒューマンエラー
が簡単に起こりうる事を併せて体験することが
できました。
過去の事象の中には乱気流やハイジャックに
よって引き起こされたものもありますが、航空
の世界では、やはり原因の大半がパイロットに
よるものだとされています。しかし、すべての
原因がパイロットによるものなのかというと、
最後の引き金を引いたのがパイロットである可
能性は高いものの、原因のすべてをパイロット
に帰属させることは難しいと思います。
そこで、前項の SHEL モデルを思い出すと、
やはり、パイロットをモデルの中心にある「L」
に据えることはできても、原因はパイロットだ
けではなく、環境や全体で考える必要があるの
ではないでしょうか。ASEC では「エラーは人
間の宿命であり、エラーが起きても、被害を抑
みが支えているのだと思います。
次は、各個人が危機管理について理解したう
えで、組織として取り組む上で必要になるコミュ
ニケーションについて書きます。
えてエラーを管理することが大切である」とい
うことを伺いました。そして、安全を守るため
に組織としての仕組みで対応し、個人としての
行動で対応するという両輪が駆動してこそ、安
全な日々を積み重ねていくことができるという
ことを教わりました。
私は ASEC で「事故がないということは、現
在までの積み重ねの結果であり、今日の安全が
明日の安全を保障するわけではない」という事
も聞いたのですが、エラーの存在を理解した上
での個人個人の地道な取り組みが大切なもので
あると考えます。そして、一人一人にできる取
76
2011 OCT
◆~危機管理とコミュニケーション~
私は前項の最後でコミュニケーションについ
て触れました。たとえ、危機管理に対する対策
が万全であり、各個人が危機管理についてよく
理解をしていたとしても、
「想定外」の事態が発
生した時に人間同士の連携が取れなかったとし
たら……それまでに得た知識や経験は生きるで
しょうか? 航空のみならず、非常時にはルー
ルやマニュアルによる対応だけでは不十分な場
合があります。そのような時に、危機を乗り越
える有効な手段として考えられるものがコミュ
ニケーションに基づく危機管理なのだと思いま
す。
コミュニケーションは確認会話や情報のやり
取り、何気ない動作でも取れるものであり、航
空業界ではエラーを管理する観点から CRM と
しても導入されています。
最近では対人コミュニケーションやエラーの
管理から、スレット(エラーを拡大する要素)
を管理するコンセプトへと変化をしていますが、
コミュニケーションの重要性があるからこそ
CRM という訓練方法が確立されているのだと
思います。そして、現在では医療界でも CRM
が導入されていて、ひとたび危機が生じると大
きな危険が生じる航空界、医療界でもコミュニ
ケーションの重要性が唱えられています。
では、この重要性を一般生活の中で考えるに
はどうしたらいいのでしょうか。この問いに対
する答えをセミナーで教わったことを基に考え
ると、face to face のコミュニケーションをとる
ことになります。自分自身の状態を管理し、人
間の本質や感覚を理解すること、その上で、相
手を尊重することで円滑なコミュニケーション
が図れるのだと思います。組織の中ではコミュ
ニケーションは血液のようなものであり、機械
の中では燃料の流れとも考えることができ、一
度円滑さが失われると、
「想定外」の結果をうん
でしまうことにもなります。ですが、円滑さが
確保できれば危機も未然に防止できるというこ
とにもなるのです。
◆~まとめ~
私は危機管理・コミュニケーションセミナー
を受講する中で、その基礎にあるものや危機管
理とコミュニケーションの間に関連があること
を学び、その意外さを知りました。しかし、考
えていく中で、個人個人が危機管理を理解し、
コミュニケーションの流れに、理解したことを
乗せていくこと。この流れを作り、行動するこ
とが大きな意味を持つことを学びました。しか
し、セミナーで受講した内容を体得を通じて理
解しようとすると、理解したはずなのにできな
いことや「あれ?」と思う事があり、いかに物
事に対して、見たいように見て、聞きたいよう
に聞いているかを感じました。この本質を理解
したうえで、個人としてできる取り組みを行い、
自分自身を理解することが危機管理のスタート
になるという事を学びました。
東日本大震災から半年以上が経過し、震災の
みでなく、最近では大型台風による被害もあり
ました。高齢社会を迎え、社会的弱者にも注目
される反面、ツイッターや SNS(ソーシャルネッ
トワーキングサービス)も発達し、情報や地域
社会も含めた構造が複雑化をする中、私は、い
つ何が起きてもおかしくない状況になっている
ことを感じています。ですが、必要以上に恐怖
を覚えるのではなく、適度な対策を地道に積み
重ねることが重要である気がしています。そし
て、航空業界に限った話ではなく、
「自助」から
「共助」の流れを、コミュニケーションを介して
機能させることが今、求められていることなの
だと思います。
危機管理・コミュニケーションセミナー 今後の開催予定
【日時】
・2011年10月21日(金)10:00~16:00
~危機管理セミナー~
・2011年12月 9 日(金)17:00~19:00
~フリーセミナー~
・2012年 3 月 3 日(土)10:00~16:00
~コミュニケーションセミナー
(学生対象)高校生以上
※各回定員30名
※フリーセミナーは、コース概要を体感して頂く
ための体験版セミナーです。
【場所】
日本航空機操縦士協会 会議室
(東京都港区西新橋1-18-14 小里会館7F)
【講師】
小林宏之氏「元日本航空機長」
井上妙子氏「元日本航空客室乗務員」
【講義概要】
・人間の本質を知る
<五感を探るワークショップ>
五感の中で特に重要な「視覚」
「聴覚」がどのよう
に作用しているのか? ヒューマンエラーの具体
的要因(思い込み・錯覚・一点集中、コミュニケー
ションエラー)を探る。
・コミュニケーションの本質を知る
<脳科学を実感するワークショップ>
人間の脳の特徴とは?何故正しく伝わらないのか? どのような仕組みで情報を理解し伝えているか、
情報の「省略一般化、歪曲」の原理を学ぶ。
・チームワークの本質を知る
<チーム力の意味を学ぶワークショップ>
チームワークに必要なコミュニケーションスキル
とは? チームで仕事をするときに自分の役割り
の重要性や、協力する事の意味を体感しながら考
える。
上記三点を中心に、実際に生きたスキルを身につ
けられる機会、この機会に、参加してみませんか?
2011 OCT
77
オススメ! 情報ボックス
書籍&Goods紹介
編集委員会
このコーナーでは、書籍紹介を始めとして航空に関するお勧めグッズ等を紹介しています。読者の皆
さんも、是非、フライトで使用している便利グッズや、パイロット仲間に紹介したいグッズ、書籍など
の情報を、編集委員会までお知らせください。もちろん、ステイ先などでの飲食店情報なども大歓迎です。
飛行中の危機には外的なものから自分自身の
中に存在する問題まで、様々なものがある。飛
行中ワークロードが高い時は、様々な危機の要
因が存在していても、危機管理の基本が出来て
いないと、それらの危機の要因に気付くことな
く事故に至ってしまうことを、多くの事例が物
語っている。
全てのパイロットは、その操縦技量と共に、
危機管理、即ち現存あるいは予想される危機の
諸要素を認識し、具体的にその危機を軽減させ
る方法を広い視野で考え、決定し、実行できる
航空の危機管理
土屋 正興 訳/著
発行:鳳文書林出版販売株式会社
〒105-0004 東京都港区新橋3-7-3
TEL:03-3591-0909
FAX:03-3591-0709
E-Mail:[email protected]
ISBN 978-4-89279-401-8
定価:3,700円+税
本書は、2009年8月に FAA(アメリカ連邦
航空局)が出版した Risk Management Hand-
管理能力が発揮できなければならない。
本書にはそのような危機管理の基本が、以下
の順に、わかりやすく述べられている。
1.危機管理の定義
2.人間の習性
3.危機の認識と管理
4.リスクの評価
5.意思決定
6.SRM(Single-Pilot Resource Management)
7.オートメーション(自動化)
8.リスク管理訓練
book (FAA-11-8083-2)を翻訳し、わが国
の航空界の実情に即するようにアレンジを加え、
上記の事項は、その基本的な内容に加え、航
空先進国の米国ならではの多くの実例に基づい
パイロットの危機管理を解説したものである。
その内容は、体重移動操縦型のハンググライ
ダーや超軽量動力機から、単発、双発の小型機
はもとより、大型旅客機のパイロットに至るま
て詳細に記述されている。また、危機を管理し、
安全を確保するためのチェック項目も、明日の
フライトに役立つ貴重なものとなっている。
全てのパイロットの安全な飛行のために、本
で、幅広く適用できるものとなっている。
書をお勧めしたい。
78
2011 OCT
その内容は以下の順で記載されている。
第1章:設計
1.1 理論と基本構造
1.2 経験
1.3 設計及び開発
1.4 環境への影響
1.5 性能
第2章:基本構成
ザ・ジェット・エンジン
編者:Rolls-Royce plc
発行所:社団法人日本航空技術協会
〒144-0041 東京都大田区羽田空港1-6-6
TEL:03-3747-7600
FAX:03-3747-7570
E-Mail:[email protected]
ISBN 978-4-902151-42-8
定価:5,565円(本体5,300円)
2.1 ファン及びコンプレッサー
2.2 燃焼器
2.3 タービン
2.4 負荷伝達装置
2.5 流体システム
2.6 コントロール・システム
第3章:運用
3.1 製造及び組立
3.2 エンジンの装備
3.3 整備
3.4 将来
本書は、ジェット推進(ガスタービン)作動
理論の基本的な説明から始まり、基本的工学、
設計製造、詳細な構成部品の説明からメンテナ
ンスおよびオーバーホールまで、その全てが、
詳細な文章による解説と、オールカラーの写真
及びイラストで掲載されている。
エンジンの掲載例には、全日空採用ボーイン
グ787搭載エンジン Trent 1000をはじめ、
それぞれ、初期のジェット・エンジンから、
現代までについての記載がある。
また「経験」の項には「理論上、理論と現実
の間に差異は無い。実際には両者間に差異が存
在することを経験が物語っている。」との記述が
あり、
「設計及び開発」の項には「設計には科学
的な面と芸術的な面、および精密と非精密の両
面がある。ジェット・エンジンの設計は、常に
矛盾する要求内容について妥協を図ることであ
る」との興味深い記述がある。
EJ200、MT30、Trent60等がある。
この本は、ジェット・エンジンに関わる技術
者と、その分野に興味のある技術系学生を対象
として、ジェット・エンジンに関する知識の提
更に「環境への影響」では「我々を取り巻く
虚弱な環境に害を与えることなく、いかにして
エンジンによる人類への恩恵を最大にするか
……」との、広い視野での記載もある。
供を目的とするためのものである。
その一方、現代の最先端の工業製品として、
本書はジェット・エンジンを様々な面から理
解するための1冊であるとともに、ジェット・
メカニカルな美しさと強大な力を秘めたジェッ
ト・エンジンに魅力を感じるすべての人にとっ
ても、非常に興味深い内容の1冊となっている。
エンジン技術の開発史としても、興味深いもの
がある。また文章と共に多くの写真や図も、充
実していて楽しめる。
このようなジェット・エンジンに興味がある
方に、本書をお勧めしたい。
2011 OCT
79
奥貫 博
今年の FAI 各部門の世界レベルの競技会は、
日本からエントリーが行われたエアロバティッ
クスの部門の2件が終了し、今後に向けての貴
重な成果が得られました。
この活動の成果を広く日本の FAI 航空スポー
ツの発展につなげるべく、JAPA の FAI 関係部
門としても、可能なところから前進をして行き
たいと考えています。
FAI ニュースも、その一助になればと思いま
す。では今月の情報です。
◉ロータークラフト(ヘリコプター)
FAI のロータークラフト競技は、最も現実的
な飛行内容で行われる所に特徴があります。使
用する機体は実用機体そのものです。使用事業
のヘリコプターでの参加も可能ですし、また小
型の R22、R44等の自家用ヘリコプターでも十
分に戦うことができます。
競技の内容は、ホバリング、ホバリング移動、
着陸の精度を競うもの、また物件の吊り下げ移
動及び速やかに揺らすことなく所定の場所へ降
ろす技術等日常のヘリコプターの運用技術その
ものです。
その他に、航法やフリースタイル競技もあり
ハンス・ガットマン氏は、FAI GAC 部門で
は、長年にわたり精密飛行技部門の長を務めら
れた後、2年前からは GAC 委員長として活躍
されていました。また、自作機 Glasair IIS-RG
での世界1周でも有名です。自分で飛行機を作
り、世界の GA 競技界の推進役を務める得難い
人材でした。
2006年の FAI GAC 総会出席以来の人脈が途絶
えてしまいました。その後日本でも FAI 着陸競
技の試行を行い、これからも御指導をと思ってい
ましたので、残念でなりません。御冥福をお祈り
すると共に、また新たな人脈作りのために、FAI
GAC 総会に出かけなければといった心境です。
◉エアロバティックス(FAA-CIVA)
9月9日に飛行機の曲技飛行世界選手権が終
り、今年の世界選手権の日程は全て終了しまし
た。7/26~8/7にポーランドで開催された曲技飛
行世界選手権(アンリミッテッド・グライダー)
では梶智就さんが9位という成績を収めました
が、これはパワーを含めて今までに日本人が獲
得した最高位となります。
継続して世界選手権に出場することが上位入
賞につながるのは明らかで、その支援をしてい
ますが、それぞれの競技課目ごとの優勝の栄誉
がありますので、得意な分野の技術を磨き上げ
かなければならないと思います。またイタリア
で開催された曲技飛行世界選手権(アンリミッ
課目優勝を狙うのも良いでしょう。
日本チームは、これまでに課目優勝の実績が
あります。興味があります方は、JAPA にお問
い合せ下さい。
テッド・パワー)に新しい機体(Sbach342)で
参加した室屋義秀さんは、今回は残念ながら上
位入賞はなりませんでしたが、十分に練習時間
がとれる来年以降は期待に応えてくれるでしょ
◉GAC:ジェネラル・アビエーション
(飛行機)
う。その他、今年はポーランドの国内選手権(ア
ンリミッテッド及びアドバンスド・グライダー)
6月18日の土曜日、FAI GAC 委員長のハン
に、初めて日本人ジャッジが正ジャッジとして
参加することが認められました。国内選手権で
実績を積むことができれば、いずれは世界選手
権の正ジャッジへの道も開けると思います。
ス・ガットマン氏は、他の2人と C172でイタリ
アのピアチェンツァの近くを飛行中事故に遭わ
れ亡くなられました。
80
2011 OCT
開催予告
第33回 ATS シンポジウム開催について
安全で効率の良い運航と航空管制
ATS 委員会
毎年恒例の ATS シンポジウムが10月29日(土)に開催されます。
1977年3月にスペイン領カナリア諸島テネリフェ島のロス・ロデオス空港の滑走路上で、2機の
Boeing747型機同士が衝突し、乗客乗員合わせて583人が犠牲となった死者数史上最悪の航空事故が
発生しました。
この事故は管制用語に原因があったことから、その年の12月から操縦士協会と航空管制協会のメ
ンバーが集い、管制用語の研究が始まりました。この Meeting が R/T Meeting であり、以来34年
11カ月の間、毎月第2土曜日に JAPA 会議室で開催されております。
現在は管制用語の研究の他、日常運航における航空管制の諸問題を議論し、日本の管制のあるべ
き姿、管制方式基準の改正提案等を検討しております。そして ATS シンポジウムはその活動の発
表機会であり、毎年日本全国から100名を超えるパイロット・管制官が集います。今年も大変興味深
いテーマが盛り沢山予定されていますので、皆様奮ってのご参加をお待ちしております。
◇日 時:平成23年10月29日(土)10:00~17:00
◇場 所:全日空講堂 東京国際空港第一旅客ターミナルビル1F(北側)
◇基調講演:「これからの航空管制(仮題)」
国土交通省航空局交通管制部管制課
課 長 鈴木 正則 氏 ◇解 説:「管制方式基準改正について」 国土交通省東京航空局管制課
調査官 渡邉 智史 氏 「関東空域二次再編について」
国土交通省航空局交通管制部管制課空域調整整備室調査官 吽野 一理 氏 ◇研究発表:「出発機への地上走行指示について」
「STAR に関する問題点について」
主 催:社団法人 日本航空機操縦士協会・財団法人 航空交通管制協会
後 援:国土交通省航空局
※ 参加希望の方は、当日会場受付にお越し下さい。
会場案内図
●会 場 全日本空輸㈱ 講堂
羽田空港第1ターミナル1階(北側)
2011 OCT
81
開催予告
第6回 航空気象シンポジウム
今年の航空気象シンポジウムは、東京国際空港 HND の気象特性に焦点を当てます。
空港気象ドップラーライダーの観測例、ウェイク・タービュランス、今後の管制方式について等の講
演、およびD滑走路運用開始後の悪天候事例や管制の対応についてパネルディスカッションを行います。
【日 時】
平成23年11月18日(金) 午後1時から午後5時
【会 場】
東京国際空港第一旅客ターミナルビル ANA 講堂
主 催 : 社団法人 日本航空機操縦士協会 財団法人 航空交通管制協会
注意事項:当日写真付身分証明要
(事前予約不要)
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2011 OCT
[活動報告]
-平成23年7月-
7月5日 航空身体検査証明審査会
7月22日 FTD 体験搭乗
編集委員会
東日本支部委員会
7月7日 航空保安研究センター理事会
7月23日 航空気象委員会
7月24日 航空安全セミナー
技量維持連絡会
7月8日 第210回常務理事会・顧問会
7月25日 乗員養成検討委員会
7月9日 ATS 委員会
7月10日 Yes I Can 北海道
7月26日 6月仮決算経理打ち合わせ(出塚会計)
7月11日 航空保安無線システム協会第39回評議員会
7月27日 協会創立記念日
7月12日 ANA/ANK 訓練センター
(準会員説明会) 7月13日 第1回 CARATS 企画調整会議
空港見学(熊本空港事務所)
7月21日 JAPA ホームページ会議
ヘリコプター教本 WG
航空保安大学校講義(システム統制官課
程特別研修)
7月16日 危機管理・コミュニケーションスキルセミナー
ヘリコプター IFR 等飛行安全研究会
7月28日 経理委員会
7月29日 支部長会議
-平成23年8月-
8月2日 航空身体検査証明審査会
8月22日 帝京大学(準会員説明会)
8月5日 FTD 体験搭乗会
8月6日 航空安全講習会
8月23日 ビジネス航空委員会
8月9日 共通視聴覚教材打合せ
8月24日 7月仮決算経理打ち合わせ(出塚会計)
8月12日 FTD 体験搭乗会
8月25日 経理委員会
8月13日 ATS 委員会
8月26日 危機管理・コミュニケーションスキルセミナー
8月15日 編集委員会
8月27日 航空気象委員会
8月18日 GA 委員会
8月30日 公益社団法人移行認定申請
技量維持説明会(CAB)
編集委員会(取材)
-平成23年9月-
9月3日 航空安全講習会
CARATS 第1回航空気象検討 WG 会議
9月5日 運航技術委員会
技量維持連絡会
9月6日 航空身体検査証明審査会
9月9日 第211回常務理事会
9月7日 ATS 委員会
9月10日 航空安全講習会(広島)
9月8日 航空医学委員会
ATS 委員会
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9月14日 CARATS 高規格 RNAV 検討 SG 会議
9月24日 航空気象委員会
9月26日 編集委員会
CARATS 第2回小型機用 RNAV 検討 SG 会議
9月15日 編集委員会
9月27日 崇城大学(準会員説明会)
航空安全委員会
視聴覚教材打合せ
9月16日 FTD 教官会議
9月28日 ビジネス航空委員会
航空振興財団第101回臨時理事会
法改正説明会
9月17日 GA セミナー
乗員養成検討委員会
9月20日 航空神社例大祭
9月29日 経理委員会
航空関係者表彰式・祝賀会
「空の日」
航空関係功労者大臣表彰式
第59回
9月30日 危機管理・コミュニケーションスキルセミナー
三役運営連絡会議
[活動計画]
-平成23年10月-
10月1日 航空安全講習会
10月18日 航空機安全運航支援センター研修講義
10月2日 スカイフェスタ2011(いわて花巻空港)
10月19日 機長養成講習会(東京)
10月3日 (東京・大阪)航空局長表彰式典
10月20日 GA 委員会
ヘリコプター IFR 等飛行安全研究会
10月21日 危機管理・コミュニケーションスキルセミナー
10月4日 航空身体検査証明審査会
10月22日 航空気象委員会
10月5日 編集委員会
10月23日 夢は叶う Yes, I can(航空教室)中部地区
10月6日 航空医学研究センター評議員会
10月25日 9月仮決算経理打ち合わせ(出塚会計)
10月7日 航空機安全運航支援センター理事会
10月26日 経理委員会
10月8日 ATS 委員会
10月27日 三役運営連絡会議
10月13日 CARATS 高規格 SG・小型機 SG
10月28日 ヘリコプター教本 WG
10月14日 第263回理事会
10月29日 航空安全講習会(大阪)
10月15日 航空安全セミナー
航空安全講習会(栃木)
10月16日 航空安全講習会(大阪)
ATS シンポジウム
10月17日 機長養成講習会(大阪)
航空機安全運航支援センター研修講義
CARATS 航空気象検討 SG
-平成23年11月-
11月1日 航空身体検査証明審査会
11月5日 飛行安全セミナー(北海道支部)
11月19日 GA セミナー
11月11日 第212回常務理事会
11月24日 経理委員会
11月12日 航空安全講習会(沖縄)
11月13日 Yes, I can(航空教室)沖縄
11月25日 機長養成講習会(福岡)
11月18日 航空安全委員会
11月26日 航空気象委員会
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2011 OCT
航空気象シンポジウム
航空医学委員会
事務局だより
PILOT・AIM-J 等確実にお届けするために、自宅・勤務地・mail box 等を変更された場合は速やかに
協会事務局までご連絡下さい。また郵便振替にて会費を納入いただいております会員の皆様には、便利な
口座自動引落による納入についてご案内致しますので、協会事務局までご連絡下さい。申込書をお送りさ
せていただきます。
~ 結婚祝金を給付しております ~
正会員の方(60歳未満の方)が対象となりますが、結婚祝金を給付しております。
(給付額は20,000円)
給付申請には戸籍抄本1通(原本)、 振込口座の書類提出が必要となります。なお、 婚姻届の届出より
6ヶ月以内に申請いただくこととなっておりますので、 予めご了承願います。JAPA ホームページ
(http://www.japa.or.jp)会員限定ページより申請書をダウンロード出来ますので、是非ご利用下さい。
長期インカムプラン(損保ジャパン)ご加入の皆様へ
当協会が福利厚生制度の一環として導入している「長期インカムプラン(損害保険ジャパン)
」制度に関
しましては、更新時にご案内しておりますとおり、平成24年3月1日をもって終了することとなりました。
協会といたしましては、継続的に補償を提供することが重要と考え、検討を重ねて参りました結果、保険
会社を変更し、
「
(仮称)JAPA 団体長期障害所得補償保険」として継続提供することが可能となりましたの
で、お知らせいたします。なお、引受保険会社は「㈱損害保険ジャパン」から「あいおいニッセイ同和損
害保険㈱」に変更になります。引受保険会社の変更および継続手続きのため、加入内容などの個人情報を
新引受保険会社の「あいおいニッセイ同和損害保険㈱」ならびに取扱保険代理店「株式会社 JALUX」にご
加入者の同意のもと、提出をさせいただきます。詳細につきましては、別途、ご加入者の皆様へ郵送にて
ご案内しておりますので、ご確認くださいますようお願いいたします。
2011 OCT
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平成23年度 航空功労者表彰
操縦士協会は、操縦士に関する表彰の推薦団体となっており、多年にわたり航空関係の業務で安全運航
に努められた方々を毎年推薦しております。今年度につきましては下記の方々が表彰されました。
(順不同・敬称略)
○国土交通大臣表彰:今年度受賞者は29名(航空機操縦士15名、
航空整備士7名、客室乗務員4名、運航管理者3名)が受賞さ
れました。表彰式典は9月20日「第59回空の日」に行われまし
た。
(操縦士関係)
小山政則、丹治 明、大澤光男、千場弘之、
(以上日本航
空)内藤 一、髙島和郎、藏本 朗、片山勝義、大久保聡、
門 田 明、 石 田 三 喜、 増 田 秀 隆(以 上 全 日 本 空 輸)、
榊 東(琉球エアコミュータ)
、宮本憲一(スターフライヤー)、岡崎博幸(アカギヘリコプター)
○航空局(東京・大阪)部外功労者表彰:表彰式典は10月3日に行われました。
・大阪航空局長表彰:西田 回(川崎重工)、秦 隆文(四国航空)、木島浩一(三菱重工)
(東京航空局は表彰者なし)
○平成23年度航空関係者表彰:9月20日東京・航空会館にて行われました。
日本航空協会賞表彰及び FAI(国際航空連盟賞)伝達式
・FAI 賞(エアスポーツメダル)三好恒紀
今回受賞された方々の中から、増田秀隆会員(大臣表彰)、三好恒紀会員(FAI 賞)から受賞についての
喜びをいただきましたのでご紹介致します。
◆国土交通大臣表彰を受賞して
増田 秀隆(全日本空輸)
空の日の9月20日、国土交通省において航空機操縦士15名、客室乗務員4
名、運航管理者3名、航空整備士7名が国土交通大臣から航空関係功労者とし
て表彰されました。今回、そのうちの一人として国土交通大臣表彰を受賞する
ことになり大変光栄に思うとともに、感謝の気持ちでいっぱいです。
私が航空大学校を卒業したのは第1次オイルショックの影響により、航空各
社が飛行訓練を控え始めた昭和50年でした。入社は内定したものの、副操縦士
への昇格訓練が中断されていたため11ヶ月の間自宅待機をした後に ANA に副操縦士訓練生として入社しま
したが、そのまま業務応援という形で地上勤務に配属されました。100名を超える操縦士訓練生が訓練の再
開を待っている状況であったので、その最後尾についた私としては「就職はしたものの、いつになったら
副操縦士になれるのだろう?」と不安に思ったのがつい昨日のように思い起こされます。
3年の地上勤務の後、航空機関士として B727に乗務する機会が与えられ訓練期間を含め3年間を航空機
関士として過ごしました。同世代のパイロットは他社も含め、同様の経過をたどった方が多いと思います。
その後、時間はかかりましたがやっと副操縦士への訓練が再開されることとなり、入社から7年後に YS11
の副操縦士としてスタートすることができました。戦後初の国産輸送機として開発された YS11は、夏は暑
く冬は寒いと季節感あふれる飛行機でしたが、操縦の基本を身に付けるには好都合の飛行機でした。YS11
には約5年乗務しましたが、今となっては懐かしい思い出が多く詰まった飛行機です。
次に乗務したのが、B747(いわゆるクラシックジャンボ)でした。それまでは YS11の次は中型機である
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2011 OCT
B737か B727に乗った後に、B747か L-1011に移行していましたが、制度変更によりダイレクトに大型機に
移行することになったのです。双発のターボプロップ機から一気に4発のヘビージェット機への移行とい
うことで、最初はその大きさに戸惑ったものでしたが、B747は安定感のある乗り心地の良い傑作機でした。
数多くのジャンボ機が国内の路線を飛びまわっていたのは世界広しといえども日本だけです。B747には14
年間、次の B747-400には9年間と B747シリーズには合わせて23年間乗務しました。B747シリーズは NCA
において貨物機として活躍しているものの、旅客機としてすでに JAL からは全機が退役してしまい、ANA
からもリタイヤの時期が近づいており寂しい限りです。
現在は B777に乗務していますが、操縦性の良い経済性に優れた飛行機です。結局、自分の乗務する飛行
機を好きになるのはパイロットの性でしょうか。定年まであと2年を切ってしまいましたが、定年後も加
齢乗員として乗務を続けることができるよう、これまで以上に体調の維持に努めたいと思います。
今回の表彰において特徴的なことは、JAL の受賞対象者に56歳以上のパイロットが含まれていないこと
でした。私と同年代のパイロットの多くが経営再建に協力して希望退職に応じた結果だと思われますが、
その方たちの代表として受賞したと思うと気持ちが引き締まります。表彰して戴いたのは、これまでご指
導していただいた諸先輩の方々をはじめ、同僚からのさまざまなアドバイスのお陰であると感謝していま
す。また、これまで大過なくパイロット人生を過ごしてくることができたのは家族の理解と協力があった
からこそであると家族にも感謝しています。
今後の日本の航空界は LCC の台頭など大きな変化が予想されます。この様な時こそ安全に運航すること
が求められ、自己の研鑽に努めることはもちろん、後に続く人たちに私の経験を少しでも伝えていくつも
りです。ありがとうございました。
◆ FAI エアースポーツメダル賞を受賞して
三好 恒紀
23歳からハンググライダーで楽しく15年、パラグライダーは体験程度、ウル
トラライトプレーンも飛びましたが、壊しました。そこで不安の少ない小型機
で飛べば安全だろうと、固定翼の免許を取得しました。しかしながらフライト
中いつの間にか雲に囲まれた事、山岳地帯で自機位置が不明になりとても不安
だった事、ナイトフライトで地上照明に惑わされ他方面に飛びタワーから確認
されて気づき大事に至らなかった事等々、安全は自分の知識だと気づきまし
た。平成4年フライト仲間からスーパーウイングスを作り楽しく飛ぼうと誘いを受けて会員になり、単機
から複数機のフライトになりフォーメーション訓練を経て各所の航空イベントに参加するようになりまし
た。
緊急時の着陸精度を上げる為の小型機着陸競技会も毎年枕崎空港を利用して開催し安全啓蒙を行ってい
ます。活動の一環で自家用操縦士技量維持、安全講習会、管制官との交流会等、を通してクラブ内外での
安全文化の構築に地道な努力を続けています。
また、10月8、9、10日に福島スカイパークで全日本曲技飛行競技会に参加して日本でのアクロバット
飛行の楽しさを広めたいと思っています。
今回はこのような光栄な賞を頂いた事、重ねて自家用パイロットである私をご推挙頂きましたことを大
変うれしく思っております。操縦士協会の皆さま、空の仲間たちにも御礼申し上げます。これからのジェ
ネラルアビエーションの発展のために尽力したいと思います。ありがとうございました。
2011 OCT
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計器飛行証明を目指されている方、知識レビューされたい方必見!
平成 23 年度 航空安全セミナー
今年度は、6連続開催で計器飛行に関する勉強会を開催します。
ライセンスをお持ちの方、目指されている方 是非ご参加ください。
第48回 7月24日(日)
第49回 9月17日(土)
第50回 10月15日(土)
第51回 11月19日(土)
第52回 12月17日(土)
第53回 1月21日(土)
計器飛行等関係法規と基礎知識
飛行方式設定基準
チャート判読
管制方式基準
IFR FTL の気象判読
仮題 FTD を使った IFR 解説
過去に参加された方のメッセージ!
✈ 気軽に参加できるセミナーであって内容がしっかりしている講義だったと感じた。オーラルで聞かれそ
うな内容であり、ポイントがコンパクトにまとめられていて良かったと思う
✈ 管制方式の考え方を改めた。改めて計器飛行、航法、方式の相違を確認したい
✈ 計器飛行には何がコンセプトか確認できた。内容としてとてもまとまっていたと思います。説明も分か
りやすかったです
参加費:4,000円(会員1,000円)教材費込み
お申し込みお問い合わせ
日本航空機操縦士協会 齋藤 幸雄
TEL 03-3501-0433 FAX 03-3501-0435 [email protected]
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www. japa.or.jp
www.japa.or.jp
2011 OCT
89
当協会の FTD は国土交通省の「模擬飛行装置等認定要領」の規定による
<飛行訓練装置レベル3>に認定されています。
当機による訓練で Flight Log Book への飛行時間の記入が可能です。
FTD訓練を体験して
エアーセントラル株式会社
乗員部
神保 航一
JAPA FTD では大変お世
話になりました。
訓練では知識や技術だけ
でなくエアラインの考え方など幅広く教えて
いただきとても勉強になりました。
お蔭様で志望していた航空会社に入社する
ことができました。
学んだ事を活かして今後の訓練を頑張って
いきたいと思っております。
ありがとうございました。
平成23年4月1日より新料金により訓練を行っております。
より充実した訓練を提供するよう関係者一同お待ち致しております。
≪訓練A≫ Flight Log Book へ飛行時間の記入が可能です(技能証明が必要)。
メニュー
技量維持訓練
計器飛行(180日)
計器飛行訓練
会員
18,000円
15,000円
18,000円
一般
25,000円
20,000円
25,000円
訓練時間
FTD 80分
FTD 60分
FTD 80分
・技量維持訓練
航空局乗員課通達国空乗第2077号(自家用操縦士の飛行の安全確保について)にて推奨されている技量維持を行う訓練
・計器飛行(180日)
航空法施行規則第161条(計器飛行を行うために必要な最近180日の飛行経験)を満たすための訓練
・計器飛行訓練
全15回の訓練
≪訓練B≫ Flight Log Book へ飛行時間の記入は致しません。
メニュー
ポイントレッスン
試験前訓練
体験搭乗
90
2011 OCT
会員
12,000円
12,000円
6,000円
一般
16,000円
16,000円
8,000円
訓練時間
FTD 60分
FTD 60分
FTD 30分
PILOT 誌に貴方の記事を!
『貴方の記事を PILOT 誌に!貴方の経験や知識を記事に!』
PILOT 誌は、多くの日本航空機操縦士協会の会員から、或いは一般の方々からの投稿と多くの愛読
者によって支えられ、編集委員会も皆様からの多くの御投稿に感謝しつつ、発行してきました。
編集委員会は、PILOT 誌に日本航空機操縦士協会の委員会活動等々を掲載してきましたが、航空に
関心のある方々の輪をより広げるため、読者である貴方からのご投稿の記事をお待ちしています。
投稿する記事は、技術的なもの(運航技術講座)、チョットした軽い読み物(Aviation Café)等々、
航空に関係する記事であればジャンルを問いません。
『貴方の記事は、経験と知識を伝え、そして、一服の清涼剤!』
募集開始:2011年7月1日より
投稿方法:① 投稿は、JAPA 事務局 E-Mail([email protected])にお願いします。
② 投稿は、A4版、または E-Mail で取寄せた原稿台紙(下図)の電子ファイルで送付
して下さい。
送付先、取寄せ先:JAPA 事務局 E-Mail([email protected])
③ 掲載予定の場合は、掲載紙面の形で PDF File が返送されます。
④ PILOT 誌に掲載された場合は、薄謝を進呈します。
原稿台紙(A4版 B5幅対応)
2011 OCT
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会員の皆様に
JAPA出張講座開設!
『講師になりませんか? 貴方の経験や知識を生かしませんか?』
日本航空機操縦士協会には、会員として多くの優秀なパイロットや航空関係者が所属しています。
その貴方の経験や知識を、航空界の発展やパイロットの地位向上のため、航空に関心のある方々の輪
を広げるため、航空に興味ある一般の方々や後輩のパイロットに公開する『JAPA 出張講座』を開設
いたします。
『JAPA 出張講座の講師募集』
講演は、プレゼンテーション(Power Point)形式で行い、質疑応答や休憩を含む90分(1時間半)
程度で構成します。
募集開始:2011年8月1日より
応募方法:① 講演内容を Power Point で作成し CD ROM に保存します。
② 講演内容の Power Point を A4版にプリントアウトします。
③ 出張講座申請書を E-Mail([email protected])で取寄せ、CD ROM と A4版の資料を
添え、JAPA 事務局に送付します。
・送付された CD ROM と A4版資料の講演内容は、担当部署が確認します。
・CD ROM には JAPA 様式のラベルを貼り厳重管理します。A4版の資料は協会で閲覧資料として公
開し、その概要をパイロット誌に適宜紹介します。
・貴方を『JAPA 出張講座』の講師に登録し、航空業界や一般からの講演依頼を受け派遣します。講
演料・交通費・宿泊費は規程に従って支払われます。
『来たれ! そして、貴方の経験と知識が生きる!』
参考
登録に必要な書類
JAPA 出張講座
Title
CD-R/RW の
ラベルは JAPA 様式
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2011 OCT
(75min)
AUG/01/2011
Copyright
製作
A 4 版申請書
及び解説書
JAPA出張講座紹介!
成田空港からハワイのホノルル空港までのフライトを一緒に飛んでみましょう。
飛行計画の段階から、離陸、上昇、巡航、降下、そしてホノルル空港のターミナル到着までを、映
像とともに、パイロットと一緒に飛んだ気分を味わって下さい。
また、何度見ても身震いするほど幻想的な北極や南極圏の高緯度でしか見られないオーロラなど、
高度一万メートルからみた地球の姿を映像で紹介します。
これらの映像から、次のようなことを感じ取って頂けるのではないでしょうか。
⑴ 「かけがいのない」地球の美しさ
⑵ 地球は丸い、それほど大きくはない
⑶ 地球はまだ若い活動的である
⑷ 近年の急速な温暖化による地球の姿の変貌
⑸ 温暖化による気候変動
⑹ 地球はバランスをとろうとする
⑺ 地球には回復力がある
それでは、映像でご一緒に飛びながらフライトを味わって頂き、同時に、パイロットも感じている
地球環境の変化などに関心を持って頂ければ幸いです。 -記- 小林 宏之(日本航空機操縦士協会所属)
2011 OCT
93
スイスのビジネス機ファルコン900
ボンバルディア BD-700 N228H とパイパーシャイアン JA8853
羽田空港のビジネス機のスポット(池田誠氏の撮影です)
羽田空港滑走路22-04の西側に、ビジネス機が置かれているスポットがあります。空港の西端、
新聞社格納庫が並ぶ地区のNエリアです。空港の片隅の印象はありますが、新国際線ターミナ
ルの誕生と共に、その近くになって、従来の印象よりは良くなりました。これに、専用の待合
室等を備えた周辺設備が出来れば、良いビジネス機用のエリアになることでしょう。
94
2011 OCT
編集委員会では、PILOT 誌の表紙を飾る皆様からの航空機の写真を募
集しています。
尚、応募写真は編集委員会で検討の上、掲載いたします。
以下の応募要領をご了承の上、ふるってご応募ください。
・写真はカラー・白黒・Digital Data を問いませんが、投稿者が撮
影されたものに限ります。撮影日時・場所・説明等の添書きも添
付してください。
・表紙には縦方向で採用します。 尚、Digital 写真の場合は、できる
だけ大きな画素数で撮影したものとして下さい。
・PILOT 誌の表紙に採用させて頂いた場合、または、表紙に掲載と
ならなかった場合でも優秀な写真は Aerial Photo Exhibition に
掲載し、薄謝を進呈いたします。
・応募写真は、日本航空機操縦士協会で利用させて頂く事と返却で
きない事をご了承ください。
・住所、氏名、年齢、職業、電話番号、E-Mail Address 等を明記
してください。
※個人情報に関しては当協会で厳重な秘守扱いと致します。
送付・お問合せ先
社団法人 日本航空機操縦士協会 編集委員会
〒105-0003 東京都港区西新橋1-18-14
TEL 03(3501)0433 FAX 03(3501)0435
E-mail:[email protected]
2011 OCT
95
編集後記
Pilotが作る季刊誌
PILOT
No.328 2011 No.5 OCT
2011 No.5 OCT
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
今回の表紙は4人乗り小型自家用ヘリコプター、
ロビンソン R44の離陸位置へのラインナップ旋
回中のものです。レシプロエンジン装備のシン
プルな構成で価格と運航費を低減させた、世界
(奥貫)
のベストセラー機です。
●ボーイング787を空輸した塚本機長とのインタ
ビューをすることができた。完成が3年も遅
れたが、良い飛行機ができたと自信を持って
いた。ANA への納入初号機も着いた。安全
(T.A)
運航を祈る。
●PILOT 誌が季刊誌になって2号目。それでも
編集作業はドタバタ大忙し。
(編集長 蔵岡)
No.328 2011年 10 月号/平成23年10月発行
発行 社団法人 日本航空機操縦士協会
(Japan Aircraft Pilot Association)
〒105-0003 東京都港区西新橋1-18-14
禁無断転載
落丁・乱丁本がありましたら
お取替えいたします
編集人 蔵 岡 賢 治
TEL 03-3501-0433(代) ホームページ URL http://www.japa.or.jp/
発行人 中 村 俊 治
FAX 03-3501-0435 E-Mail:[email protected] JAPAWEB:nhy6tfc
定価 1050円(税込)
振替口座/00180-9-88490
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ISSN 0389-5254
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
●航空大学校帯広分校の訓練機の事故は、残念
ながら CFIT(Control Flight Into Terrain)
と断定せざるを得ません。Situational Awareness の能力向上のために、それぞれの職責に
応じて、何をすべきか真摯に取り組むべきで
(KEN)
しょう。
Keep A Good Lookout For Safety.
(R.S. Matsen)
●最近の編集会議には異様な用語が飛び交う。
プルトニウム、劣化ウラン、××シーベルト。
風向きによって羽田にアプローチする大型機
が我が家の上空を。その中に懐しいモヒカン・
ジェットが…それは古い B727ではないのだ
が、時代が錯乱したかのような体だ。
(カレン)
●航空界では地上でも上空でも様々な事が起き
ています。安全運航。自戒。
(T.O)
●方々で「PILOT 誌のジェネアビ情報見ていま
す。頑張って下さい」と言われることがある。
小型機の人達には、PILOT 誌からの情報は貴
重な存在なのである。飛んで、考えて、原稿
にまとめる姿勢を大切にしたい。 (奥貫)
●やるか、やらないか、決断力・実行力のない
者は物事から遠ざかるのみである。
(RYU)
●日本女子サッカーチーム「なでしこジャパン」
がワールドカップで優勝した。マスコミがも
てはやしているが、いつまで長続きすること
やら。かつて、女子ソフトボールが優勝した
時も同じような報道であったが今は誰も何も
(K.A)
いわない。
●先日、仙台空港にて、国際線が再開されたが、
空港の周辺は、完全復興とは、未だ言える状
態ではない。1日も早い真の復興を願う。
(H.Y)
2011 OCT
印 刷 株式会社イーフォー
正社員募集
豊かな技術を活かして最新鋭機にチャレンジ !!
朝日航洋は、将来に向って、
若い力を必要としています。
貴方の知識、技能、経験を生
かし、日本全国を飛び回って
みませんか。
募集職種
回転翼操縦士(新人)
【採用人数】 3名(※2012年4月採用)
【勤 務 地】 東京ヘリポート(※全国転勤あり)
【応募条件】 下記資格保有者
● 昭和58年4月1日以降に生まれた方(長期訓練により、知識、技能の獲得を図る観点から、
年齢制限を設けております)
● 事業用操縦士技能証明(回転翼)
(※採用時迄に取得見込みを含む)
● 第1種航空身体検査基準を満たす方
● 航空無線通信士(航空級無線通信士)
(※採用時迄に取得見込みを含む)
【応募書類】 ※下記宛先まで送付して下さい(※応募締切り:2011年11月11日消印有効)
● 履歴書1通(写真添付)
● 航空経歴書 ● 第1種航空身体検査申請書(写)※取得見込みの
方は第2種航空身体検査申請書(写)
【選考方法】 書類選考、面接選考、筆記試験、飛行適正試験
募集職種
回転翼操縦士(経験者)
【採用人数】 2名(※入社日応相談)
【勤 務 地】 東京ヘリポート(※全国転勤あり)
【応募条件】 下記資格保有者
● 昭和46年4月1日以降に生まれた方(採用後の訓練期間を考慮し、年齢制限を設けております)
● 事業用操縦士技能証明(回転翼、陸上単発タービン以上)
● 第1種航空身体検査基準を満たす方
● 航空無線通信士(航空級無線通信士)
● 総飛行時間が2,000時間程度の方(経験を考慮します)
【応募書類】 ※下記宛先まで送付して下さい
● 履歴書1通(写真添付)
● 航空経歴書 ● 第1種航空身体検査申請書(写)
【選考方法】 書類選考、面接選考、筆記試験、飛行適正試験
【応募・問合せ先】
〒350-1165 埼玉県川越市南台3-1-1 人事部人事企画グループ
TEL:049-238-6288 http://www.aeroasahi.co.jp
E-mail:[email protected]
PILOT No.328 2011 No.5 OCT
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION