西洋演劇史(第 8 回)―ドイツ・ロマン主義演劇― 1.フランス古典主義

西洋演劇史(第 8 回)―ドイツ・ロマン主義演劇―
1. フ ラ ン ス 古 典 主 義 演 劇 の 衰 退
(1)メディアの多様化
(a)バレエ(15c 頃〜) フォークダンス → コートダンス → 社交の手段
(b)オペラ(17c 頃〜) イタリアで誕生(宮廷古典劇が母胎) モンテヴェルディ『オルフェオ』(1607)・・・最初の傑作オペラ
(2)新旧論争
ギリシア・ローマの古典と現代の作品のどちらが優れているか
(古)ラ・ブリュイエール、ボワロー
(新)ペロー、フォントネル
→ 古典派敗北
(3)風俗喜劇
上流階級ではない庶民の台頭(庶民による貴族的風俗の模倣)
(英)コングリーヴ『世の習い』(1700)、ウィチャリー『田舎女房』(1675)
(仏)マリヴォー『愛と偶然の戯れ』
(1730)、ボーマルシェ『フィガロの結婚』
(1784)
2. ド イ ツ ・ ロ マ ン 主 義 演 劇 ― ゲ ー テ と シ ラ ー
(1)ロマン主義とは
原則・秩序<自由
理性<感情・想像力 → 幻想・空想
→ 抒情の過多、散漫な筋、現実からの遊離
(2)ゲーテ(1749~1832)
シェイクスピアへの傾倒 / 啓蒙思想の影響(個人の自由)
シュトルム・ウント・ドランク運動の中心人物
(1787)『タウリス島のイフィゲーニエ』 (1806)『ファウスト』
(3)シラー(1759~1805)
ロマン主義的流動美と古典主義的な格調の両方を持つ / 緊密な劇構成
(1781)『群盗』 (1799)『ヴァレンシュタイン』 (1803)『オルレアンの少女』
3. ゲ ー テ の 主 な 作 品 、『 フ ァ ウ ス ト 』
(1)あらすじ
第一部——学問で世界の神秘をきわめようとした老 学 者 フ ァ ウ ス ト は、かいのない努力に絶望して、悪
魔メフィストフェレスと結託し、「わしが満足する時がきたら、おまえに魂をわたす」という血書の
証文をわたし、悪魔を家来にする。魔法の力で若返ったファウストは、初めて味わった人生にうつつをぬ
かし、かれんな乙女グレーチヒェン[注:映像ではマルガレーテ]に恋し、家来にたのんで手に入れる。メ
フィストフェレスがファウストとの逢引のためにグレーチヒェンの母親につくった眠り薬の量を誤り、母
親は死に、一方グレーチヒェンの堕落をなげく兄は、ファウストたちの剣で倒される。身ごもったグレー
チヒェンはファウストの子を身ごもるが、気が狂ってその子を殺してしまう。
メフィストフェレスはファウストを、悪魔どもの官能的な乱痴気騒ぎである「ワルプルギスの夜」に連
れ出すが、かれはふとグレーチヒェンを幻に見る。そして、彼女を救おうと思いたつ。彼女は赤子殺しの
罪にとわれ、乱心して牢獄で処刑をまっていた。罪のつぐないだけをのぞむ彼女は、ファウストが近づく
とこわくなり、メフィストフェレスを悪魔と見破る。彼 女 は 悪 魔 と 手 を 結 ん だ フ ァ ウ ス ト の 助 け を 拒
み、牢獄にとどまって死ぬ。メフィストフェレスが「あの女は裁かれた」と叫んで、ファウストを彼女か
らひきはなそうとすると、天上から「救われたり」と神々しい声がきこえてくる。
第二部——ファウストは大世界へ出て、ギリシアにも遊ぶが、やがて行為の人としての自覚をもつよう
になり、大干拓事業を起こし、人類のためにひたすら努力を続ける。年老いて盲目になったファウストは、
今や広大な新開地を前に、壮大な一瞬にむかって「さあ、とどまれ、おまえはあまりにも美しいから」と
叫ぶ。この「満 足 の 一 時 」(最初に交わした証文の内容)をねらっていたメフィストフェレスは、老ファ
ウストの魂をさらおうとするが、天 上 か ら の 「 永 遠 に 女 性 的 な る も の 」( 贖 罪 の 女 グ レ ー チ ヒ ェ ン )
に救われる。(永野藤夫『世界の演劇』、108〜109 頁を改変)
(2)解釈例
ゲーテが全生涯にわたって労作をつづけた『ファウスト』は、古典的名作ですが、ゲーテはこの作で、ギ
リシア的芸術の理想を「西欧の芸術意欲」と結びつけ、ドイツ的なもの(中世伝来のもの)とシェイクス
ピア的なものをギリシア的に総合し、ドイツ古典劇を生みだし、ドイツ演劇を西欧に知らせたのでした。
ゲーテの劇作家としての意味は、ここにあるといえます。
(中略)ファウストが救われる最後の場面は、非
常に印象的ですが、老ゲーテがここでかなりカトリック的な立場(意志と善行による救い)をとっている
のは、伝統的とはいえ感銘ふかいことです。それは、ゲーテの敬虔主義的・汎神論宗教思想が、長い年月
の間にその源へさかのぼっていることを、示しているからです。(『世界の演劇』、107, 109 頁を一部改変)
4. シ ラ ー の 主 な 作 品 、『 オ ル レ ア ン の 少 女 』
(1)史実
・(1337~1453)英仏百年戦争……英仏王朝王位継承争い。当初はフランスの連戦連敗。
・
(1425)13歳のジャンヌ、天使ミカエルのお告げを聞く。
「フランスへ行け」
「オルレアンを救え」
・(1429)ジャンヌの活躍により、シャルル七世即位へ。
・(1430)ブルゴーニュ派につかまり、イギリスに引き渡される。ル ー ア ン で 火 あ ぶ り の 刑 にあい、
死亡。
(2)解釈例
突如彗星のように出現した田舎の一少女が、敗北に瀕した祖国を奇蹟的に挽回するというのは、詩文に
とり、まさに最高の題材(中略)果して、ジャンヌを文芸作品として取り扱った人々の中には、シェイク
スピア、ヴォルテール、シラー、バーナード・ショーの四つの大きな名が見えているのである。しかし、
ジャンヌの不運といおうか、上の四大詩人のうち、彼女の気高い姿を理想化して表現してくれたものは、
シラー一人であって、他の三人はいずれも、それぞれ偏った特殊の立場から、彼女及びその周囲を、ある
いは戯画化し、あるいは諷刺の対象として取り扱った。(中略)
ジャンヌ・ダルクの史実を戯曲化する際に逢着する最大の困難は、ジャンヌの活躍が夥しい数の土地と
結びつくことである。そこでシラーは、いわゆる「詩人の権利」を行使して、史実の大筋を保つかぎり、
個々の出来事については、無遠慮に自由な取扱いをなした。(中略)なんと言っても、一番大きい変改は、
主人公ジャンヌの最期についての取扱いであろう。正史上のジャンヌは、おのが身を焼く薪の光を天国へ
の道を照らす松明(たいまつ)として、敵人の嘲罵のうちに、救世主のまぼろしを唯一の慰藉としながら
死んでゆくのであるが、シ ラ ー は 、 烈 し い 地 上 の 愛 の 煩 悩 に 打 ち 克 っ て 自 ら と も 国 人 と も 和 し た 少
女の魂が、味方の哀惜のうちに静かに薔薇色の雲のたなびく「喜びの天国」へ上昇する結末を作っ
た。主人公自身の罪と購いとの契機によって、はじめて「悲劇」の深みを得たわけで、これがなければ、
この史実は単なる哀史となるほかはなかったであろう。(佐藤通次訳『オルレアンの少女』、岩波文庫解説
より)
5. 参 考 文 献
〈書籍〉
・永野藤夫、『世界の演劇』(中央出版社)
・シラー(佐藤通次訳)『オルレアンの少女』(岩波文庫)
〈DVD〉
・『グノー:歌劇「ファウスト」』(キングレコード)
・白井晃演出『ジャンヌ・ダルク』(ポニー・キャニオン)