ブラジル経済の現状と今後の展望 - HSBC Global Asset Management

- 運用のスペシャリストが語る -
ブラジル経済の現状と今後の展望
ご参考資料
2012年9月
ロンドンオリンピックは盛り上がりを見せて終了しましたが、ブラジルは次回2016年のオリンピック開催国
として、また、2014年のサッカーワールドカップの開催国として、今後ますますその動向が注目されます。
世界経済は減速感が強まっていますが、「今」のブラジルはどのような状況なのでしょうか。そこで、
HSBCグローバル・アセット・マネジメントのブラジルの運用スペシャリストであるペドロ・バストスにブラジ
ル経済の動向や株式・債券市場をどのように見ているのか、について聞きました。
(本文内容は、2012年9月21日のインタビュー時点のものです)
ペドロ・バストス
HSBCバンク ブラジル エス エイ 運用部門チーフ・エグゼクティブ・オフィサー兼
HSBCグローバル・アセット・マネジメント 中南米地域運用部門責任者
2006年10月にHSBC(ブラジル)に運用部門のCEOとして入社。2011年3月より現職。
HSBC入社以前は、米国のファースト・トラスト・カンパニーにて証券アナリストとして9年間の
経験を積んだ後、ブラジル大手銀行ウニバンコの証券部門の調査部に移りヘッドを務める。
その後、ウニバンコのアセットマネジメント部門にて株式、ヘッジファンド、クレジット分析を担当。
- オリンピック、ワールドカップに向けて、インフラ整備は順調に進んでいますか。
インフラ整備に積極的に取り組むブラジル政府
サッカーワールドカップにおける経済効果
現在進行中のPAC2(成長促進プログラム第2弾)は、2011
年から2014年までの4年間に9,550億レアル(約37兆円)を投
じ、インフラ整備を進める計画です。初年度の2011年には投
資総額の約15%に相当する1,428億レアルの投資が行われ
ました。
2014年のサッカー・ワールドカップ、2016年のオリンピック
は、ブラジルに世界の注目が集まることが大いに期待され
ます。政府は、この大型イベントを控え、長年の構造的な問
題であるインフラ整備に懸命に取り組んでいます。国内12都
市で開催されるサッカー・ワールドカップでは大きな経済効
果が見込まれ、ブラジルスポーツ省では、その波及効果を
含め、2010年から2019年の期間で総額1,832億レアル(約
7.1兆円)と試算しています。内訳は、インフラ投資、観光、消
費などの直接的効果で475億レアル(約1.8兆円)、さらに波
及効果として1,357億レアル(約5.2兆円)を見込んでいます。
また、これとは別に、オリンピック向けのインフラ投資として、
約120億レアル(約4,600億円)が割り当てられています。こ
のように、ブラジルのインフラ投資は大型イベントを控え、進
展する方向にあります。
※為替は1レアル=38.60円(2012年8月末)で換算
1
4ページの留意点を必ずご覧ください
総額 1,832億レアル
波及効果
1,357億レアル
直接的効果
475億レアル
出所:ブラジルスポーツ省のデータをもとにHSBC投信が
作成
HSBC × Brazil
ブラジル経済の現状と今後の展望
さらに、8月中旬に政府は新たに輸送インフラ投資計画を発表しました。これは向こう30年にわたり最大1,330
億レアル(約5.1兆円)を投資する計画であり、総額の6割の795億レアルが5年以内に投資される計画となってい
ます。内訳は、420億レアルが全長7,500㎞の道路の複車線化、910億レアルが鉄道10,000㎞の路線拡張に充当
される計画です。この計画は、民間事業者に道路および鉄道の建設・運営権を付与する方式で行われます。こ
れまで政府のインフラ関連プロジェクトは進捗が遅く、非効率的であることがたびたび指摘されてきました。その
意味で、今回、民間事業者に事業を委託する方式が採られ、民間の参加によりプロジェクトが進められることは
、望ましいものと思われます。
※為替は1レアル=38.60円(2012年8月末)で換算
- ブラジル経済の牽引役とされる個人消費の動向は。
拡大ペースは鈍化するも、底堅く推移
12
個人消費は、この数四半期は拡大ペースがやや
鈍化していますが、引き続き底堅く推移しています。 10
この背景としては、失業率の低下に示されているよ
うに良好な雇用情勢、金利の低下、個人向け貸出
8
しの伸びなどがあげられます。
6
また、小売売上高は比較的堅調に推移していま
4
す。これは政府による自動車、家電製品などに対
する減税措置の効果が表れているものと思われま
2
す。
失業率の推移
(2007年1月末~2012年8月末)
(%)
2012年8月末
5.3%
0
07/1
08/1
09/1
10/1
11/1
12/1 (年/月)
出所:ブルームバーグのデータをもとにHSBC投信が作成
- 欧州諸国の財政問題はブラジル経済にどのような影響を及ぼしていますか?また、ブラジルの
財政状況はどうですか?
輸出を通じて欧州経済悪化の影響を受けているものの、ブラジルの財政状況は比較的良好
欧州債務危機は、ブラジルの欧州向け輸出を抑
制し、国内経済に影響を及ぼしています。また、世
界経済の先行き不透明感は、ブラジル企業の景況
感に悪影響を与えています。
しかし、ブラジルの財政は比較的良好な状態が
続いています。例えば、プライマリーバランス(基礎
的財政収支)は7月時点の過去12ヶ月間の黒字額
(対GDP比)が2.5%と6月時点の+2.7%からやや
低下しているものの、黒字を維持しています。
また、政府純債務残高(対GDP比)も依然として
低い水準にとどまっており、IMFの予想では2012年
は36%と、2011年より低下が見込まれています。
政府純債務残高(対GDP比)の推移
(2002年~2012年、2012年は予想)
70
(%)
60
50
40
30
20
10
政府純債務残高 (対GDP比)
国の経済規模に対する政府の債務の比率を表し、こ
の比率が低いほど、財政が健全であると言えます。
2
5ページの留意点を必ずご覧ください
0
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12 (年)
出所:IMF World Economic Outlook Database(April 2012)の
データをもとにHSBC投信が作成
HSBC × Brazil
ブラジル経済の現状と今後の展望
- 経済成長は減速傾向にありますが、この主な理由は何ですか。
輸出と投資の低迷が主な要因
ブラジル経済は2011年前半まで続いた金融・財政緊縮策や、欧州債務危機の影響から、2012年上半期は減
速感を強めています。
ブラジル中央銀行は、 2010年4月から2011年7月までインフレ圧力の高まりから金融引き締め策(政策金利
を計3.75%引き上げ)を採り、「マクロ・プルデンシャル措置(金融システムの健全化・安定化措置)」の導入、歳
出削減など、金融政策に加え、財政政策も景気抑制型としてきました。
その後、2011年8月末以降は景気減速懸念を背景に利下げに転じていますが、通常、利下げ効果は、ある
程度のタイムラグを伴って景気に表れるため、2012年に入っても、それまでの金融引き締め効果が働いてい
たものと考えられます。
上記のことから、実質GDP成長率(前年同期比)は、2012年1-3月期が+0.8%、4-6月期が+0.5%と低い伸
びにとどまりました。内訳を見ると、個人消費が底堅く推移した一方、世界経済の減速とレアル高を受けて、輸
出が低迷したことに加え、景気見通しの悪化などから企業の設備投資が落ち込んだことが成長ペースを鈍化
させた主な要因です。
需要項目別 実質GDP成長率の推移 (前年同期比、四半期ベース)
実質GDP成長率
個人消費
政府支出
投資
輸出
輸入
11年1-3月期 11年4-6月期 11年7-9月期 11年10-12月期 12年1-3月期 12年4-6月期
4.2%
3.3%
2.1%
1.4%
0.8%
0.5%
6.0%
5.6%
2.8%
2.1%
2.5%
2.4%
1.8%
3.5%
1.2%
1.3%
3.4%
3.1%
8.8%
6.2%
2.5%
2.0%
-2.1%
-3.7%
4.0%
6.2%
4.1%
3.7%
6.6%
-2.5%
13.4%
14.8%
5.8%
6.4%
6.3%
1.6%
出所:ブラジル地理統計院のデータをもとにHSBC投信が作成
- 追加利下げの可能性はありますか。それとも利下げは最終局面なのでしょうか。
2011年8月末から続いた政策金利の引き下げは最終局面に
ブラジル中央銀行は、今年8月の金融政策委員会
で市場の予想通り、政策金利を0.5%引き下げ7.5%
としました。ただし、中央銀行は、今回の声明では、
「さらなる金融緩和はあったとしても最小限にとどめ
るべき」、と述べ、利下げの打ち止めが近いことを示
唆しました。
当社では、次回10月10日の金融政策委員会に
おいて0.25%の追加利下げが行われると予想し
ていますが、昨年8月以降、計9回実施された利
下げは最終局面に近づきつつあると見ています。
- ブラジル債券市場の今後の見通しを教えてください。
良好なファンダメンタルズを背景に相対的に高い利回り
ブラジルの相対的に良好な経済ファンダメンタルズ
(基礎的諸条件)や信用力を考えれば、ブラジル債
券市場は先進国や他の新興国と比べ、魅力的な利
回りを提供しているものと思われます。
先進諸国の多くが深刻な財政問題を抱える中で、
前述のように、ブラジルは比較的健全な財政状態を
維持しています。また、ブラジルの信用力は向上し
ており、現在、3大格付会社がいずれも投資適格級
の格付を付与しています。
3
5ページの留意点を必ずご覧ください
ブラジル中央銀行は、政策金利をすでに過去最
低水準の7.5%まで引き下げています。しかしなが
ら、ブラジルの実質金利は依然として世界でも高水
準にあります。今後、ブラジルの高い実質金利は
国際的な水準へと収斂する方向にあると思われ、
ブラジル債券市場には、なお利回り低下(価格上
昇)余地があるものと見ています。
HSBC × Brazil
ブラジル経済の現状と今後の展望
- ブラジル株式市場の見通しを教えてください。
新興国株式の中で有望な投資対象のひとつ
ブラジル株式市場は、短期的には、世界経済
の動向と投資家のリスク選好度の変化という外
的要因に左右される展開が続くことが予想されま
す。しかしながら、中長期的には、ブラジル株式
市場は、引き続き有望な投資対象であると見て
います。
今後、2012年末にかけて景気が回復軌道に乗
り、さらに資源価格が堅調に推移することが期待
される中、企業収益もその恩恵を受けることが見
込まれます。また、現在のブラジル株式のPER
(株価収益率)は他の新興国と比較して割安な水
準である点も注目されます。
各国の予想PER(2012年8月末)
(倍)
20
15
14.4
13.1
13.0
11.7
11.4
10.0
10
7.3
5.5
5
0
ブ
ラ
ジ
ル
PER(株価収益率)
一般的に株価が割高か割安かを判断する際に用い
られます。株価をEPS(1株当たり利益)で割って算出
し、PERが高いほど相対的に株価が割高、PERが低
いほど株価が割安であることを意味します。
ロ
シ
ア
イ
ン
ド
中
国
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
メ
キ
シ
コ
南
ア
フ
リ
カ
タ
イ
※ブラジル:ボベスパ指数、ロシア:RTS指数、インド:SENSEX指数、
中国:H株指数、インドネシア:ジャカルタ総合指数、
南アフリカ:FTSE/JSEアフリカ全株指数指数、メキシコ:ボルサ指数、
タイ:SET指数を使用
出所 : ブルームバーグのデータをもとにHSBC投信が作成
- 今年に入ってからのレアルの動向を教えてください。また、今後の見通しは。
中長期的には経済ファンダメンタルズを反映した動きに
レアルは2012年5月以降、1米ドル=1.95から
2.10レアルで推移しています。政府は、為替相場
を安定的に維持したい意向を示しており、しばらく
は、この範囲内での動きが続く可能性が高いも
のと思われます。レアルは世界経済の先行き不
透明感、各国の為替介入などから、短期的には
不安定な動きとなる可能性があります。
しかし、中長期的に見た場合、レアル相場は経
済成長や健全な経済ファンダメンタルズなどを反
映した動きとなることが予想されます。また、先進
国を中心に世界的に低金利が続く環境下では、
ブラジルのような相対的に金利の高い国の通貨
が恩恵を受けると見ています。
レアル(対円、対米ドル)の推移
(2012年1月2日~8月31日)
(米ドル/レアル)
(レアル/円)
1.6
55
1.8
50
対米ドル(右軸)
2.0
45
対円(左軸)
2.2
40
2.4
35
12/1
12/3
12/5
12/7
(年/月)
出所:ブルームバーグのデータをもとにHSBC投信が作成
4
5ページの留意点を必ずご覧ください
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
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