Webオリジナル変わり 2 - Mosaic Institute

朝日新聞グローブ (GLOBE)|Webオリジナル 変わり続けるモザイク
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第38号 カナダ・サバイバル 超大国の隣で Top
ブラックベリーを生んだ街
米国とは「つかず離れず」
人材活用で国際協力
祖国での紛争超え、カナダで「共存」
英仏共存から多文化主義へ
[ルポ1] トロントの「モザイク・インスティテュート」の試み
カナダから何を学ぶか
世界中から人々が集まるカナダでは、祖国で激しく対立していた人々が「隣人」として顔を合わせる。
[Webオリジナル]変わり続けるモザイク
場所が変わっても、お互いを認め合う関係になるのは簡単ではない。だが、移民らの中からも、こう
した困難を乗り越えるための取り組みが生まれ、「多文化主義」をより社会に根付いたものにしようと
している。(仲村和代)
世界で最も多民族化が進んでいるといわれるトロントに、最近、「モザイク・インスティテュート」という
新しい団体ができた。3月中旬、中心街の高層ビルにある活動拠点を訪ねると、スリランカ系の大学
生たちが、この夏に予定している「対話」のイベントの準備の会合を開いていた。真剣な口調で語ら
れる報告や意見は、こんな内容だった。
「ある人に一緒にやらないかと誘ったら、どんな
団体がかかわっているか教えるようにいわれ
た。対立団体のメンバーがいないかどうか調べ
たいらしい」
Memo
「スポンサーは中立なところを慎重に選ばない
と、対話のはずが逆に対立を招いてしまう」
「カナダとは『複雑さ』。一つの定義に収まら
ない」国際ペン会長の作家、ジョン・ラルスト
ン・ソール氏に聞く
「紛争地からの移民にも、カナダでは新しい
ページをめくって前に進もうと呼びかける」元
国連大使のアラン・ロック・オタワ大学長に
聞く
「移民がいるからこそ、平等で、かつ革新
的、創造的な社会を造ることができる」トロン
ト大学社会学部のイト・ペン教授に聞く
「カナダは開発支援について継続的に学
び、進化させている」駐アフガニスタンのカナ
ダ大使館首席公使シンディ・タモスハイゼン
氏に聞く
祖国での紛争超え、カナダで「共存」
移民が移民を支える
差別の歴史のりこえ、重み増すアジア系移
民
モザイク・インスティテュートに集まる大学生ら
スリランカでは多数派のシンハラ族と少数派のタミル族の対立から、20年以上も内戦状態が続い
た。トロントには双方の移民がいるが、これまでは分断状態にあり、対立を背景にしたとみられる仏
教寺院の放火事件も起きていた。
こうした状況を変えられるのは、幼いころからカナダで暮らしてきた自分たちしかいない――。「モザ
イク」に集まったのは、そう考えた双方の民族の若者たちだ。
トロント大学に通うジョシー・シャンムガムはタミル系。内戦が激しくなった1980年代、仕事を続けら
れなくなった父親は単身カナダへ渡り、94年に母と共に合流した。「自分たちの世代なら、カナダに
来ても分裂している二つのコミュニティーを変えられるかもしれない」と「モザイク」の計画に参加。シ
ンハラ系の学生と話すようになり、「対話をすれば理解しあえる。一番の敵は無知だ」と実感している
という。
「モザイク」の責任者は、投資家のヴォン・コロリアン。大学生ら
http://globe.asahi.com/feature/100419/side/R01_01.html
2010-05-12
朝日新聞グローブ (GLOBE)|Webオリジナル 変わり続けるモザイク
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が話し合いをしていた活動拠点は彼の会社の事務所だ。
9歳のときにエジプトからカナダに来たアルメニア系のコロリアン
は、大学生時代の体験が忘れれらない。対立している国から来
た学生たちが、カナダのキャンパスでは肩を並べ、わだかまりな
く接していた。トルコ系への憎しみを引きずったままのコミュニテ
ィーで育った彼にとっては衝撃的だった。「カナダでは、お互い
の違いを認め合い、理解が生まれている。こうした関係がそれ
ぞれの祖国にも環流すれば、平和への道が開けるのではない
か」という思いが芽生えた。
ヴォン・コロリアン氏
30年近くたち、投資家として成功すると、長年抱いていた思い
をかたちにするため、イラン出身の政策研究家とともに2007年
にモザイク・インティテュートを設立した。翌年にはオンタリオ州政府からジョン・モナハンが加わり、
政府とも協力しながら、新しい国際協力の形を探っている。
コロリアンはこう話す。「カナダは政治的に安定して豊かな国だ。同時に、大国ではなく、植民地とし
ての歴史も持たず、中立で、多様性がある独特の国だ。国際協力の分野でも名をはせてきた。だ
が、欠けていたことが一つある。ここで平和に暮らす移民たちの力をあわせ、出身国での紛争を解
決するための懸け橋にすることだ」
これまで、中東の紛争当事国から来た移民たちによる対話集会などを開いてきた。コロリアンはい
う。「憎しみは重い。カナダに来て、捨てることができた私は幸運だった。もし憎まずに済む方法があ
れば、誰もがその道を選ぶはずだ」
スリランカ移民の対話イベントの準備に加わったシャンムガムは将来、NGOか国際機関で難民や紛
争で苦しむ人たちへの支援をするのが夢という。「カナダには、多様な出自を持つ市民がいる。その
一人一人が、『民間の専門家』として人道問題の解決に力を尽くせば、近いうちに世界でとても重要
な役割を担うようになるはずだ」
(文中敬称略)
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カーリングとカナダ
外交・安保 力の入れ具合
経済規模を比べてみると
歴代総督も多様な出自
カナダゆかりの有名人たち
http://globe.asahi.com/feature/100419/side/R01_01.html
2010-05-12