資料3−1 フィリピン共和国:国別レポート(Reviced)

資料3−1
フィリピン共和国:国別レポート(Reviced)
平成 18 年2月
1.一般情報
1−1
一般事情
。7,109 の島
(1)面積:299,404Km2(日本の8割の広さ)
(2)人口:7,650 万人(2000 年5月国勢調査)
(3)首都:メトロ・マニラ(人口993万人)
(4)人種:マレイ系が主体。他に中国系、スペイン系、及びこれらとの混血、更に少数
民族等がいる。
(5)言語:国語はフィリピノ語、公用語はフィリピノ語と英語。80前後の言語がある。
(6)宗教:国民の83%がカトリック、その他のキリスト教が10%、イスラム教は5%。
(7)地形:3つの地域(北部;ルソン、中部;ビサヤ、南部;ミンダナオ)に分かれる。
(8)行政区:15地域(ルソン;7、ビサヤ;3、ミンダナオ;5)に分かれる75の
province からなる。
1−2
政治体制・内政
(1) 政体:立憲共和制
(2) 元首:グロリア・マカパガル・アロヨ大統領
(3) 議会:上・下二院制
(4) 内政:2001 年1月の政権交代により、エストラーダ前大統領の後継としてアロヨ
大統領が就任。アロヨ大統領は、貧困撲滅、汚職追放による政治倫理の確立、治安
改善、反政府勢力との和平交渉による国民融和等を重要政策として掲げている。
2004 年5月の大統領選挙でアロヨ大統領が当選し、これまでの3年半を含め9年
半の長期政権を担うこととなった。2002 年8月日本とフィリピン両国政府は自由
貿易協定(FTA)などの経済連携に関する予備協議を開催。協議では、日比間の
経済連携協定に向けた作業部会の設置が決定され、同年10月第1回の会合が開催
された。その後、2004 年 11 月 FTA 交渉は、大筋で合意に達し、フィリピン側が
求めていたサービス分野(看護師や介護士の派遣等)の開放が決まった(受け入れ人数は
白紙)。2001 年8月、政府と反政府勢力のモロ・イスラム戦線(MILF)は停戦合意
に達した。アロヨ政権は、前エストラーダ政権から 180 度方向転換し、MILF に
対する和平政策を推し進めている。
資料3−1
1−3
経済
(1) 主要産業:農林水産業(全就業人口の約37%が従事)
(2) 主要経済指標
99
00
01
02
03
802
790
757
820
864
1,045
1,051
978
1,034
1,050
経済成長率(%)
3.4
4.4
3.2
4.6
4.5
物価上昇率(%)
6.7
4.4
6.0
3.1
3.1
9.8
350.4
307.4
11.2
380.8
344.9
11.1
321.5
330.6
11.4
352.0
354.3
11.4
357.5
374.5
GNP(億米ドル)
1人当たり GNP(米ドル)
失業率(%)
総貿易額(億米ドル):輸出
:輸入
(3)外貨準備高:
135億ドル
(4)対外債務残高:
574億ドル
(5) 貿易品目:
輸出;電子・電気機器、輸送用機器
輸入;通信・電気機器、電子部品、発電用重電機器等
(6) 貿易相手国:輸出;①米国、②日本、③オランダ (02年)
輸入;①日本、②米国、③韓国
(7) 為替レート:
(02年)
1ペソ=約2円(04年10月現在)
(8) 経済概況:アジア通貨危機以降は穏やかな回復基調、03年のGDP成長率 4.5%
増を記録、政府目標値 4.2−5.2%を達成した。今後、持続的な成長を
維持していくには、経済構造改革、財政赤字解消、不良債権処理、治
安回復によるフィリピン経済への信頼回復が課題である。
1−4
経済協力
(1) 我が国の援助実績:
①有償資金協力:20,326億円
(うち02年 272億円)
②無償資金協力:
2,443億円
(うち02年
71億円)
③技術協力実績:
1,592億円
(うち03年
67億円)
(2) 我が国の対比援助における重点分野「国別援助計画より」
①持続的成長のための経済体質強化及び成長制約要因の克服
②格差の是正(貧困緩和及び地域格差の是正)
③環境保全及び防災
④人材育成及び制度造り
(3) 主要援助国実績(00年、支出純額合計 502 百万ドル)
①日本(62.4%)、②米(15.4%)、③豪(6.2%)、④蘭(5.0%)
(4) その他:
資料3−2
対フィリピン援助額は我が国二国間ODAの第5位(02年暦年)
累計ではインドネシア、中国に次いで第3位(支出純額 97.6 億ドル)
。
また、我が国はフィリピンにとって最大のドナー国
出典;外務省ホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/philippines/data.html
JETROホームページ
http://www3.jetro.go.jp/jetro-file/search-text.do?url=010012500101
2.下水道、水環境情報
2−1
一般事項1)
フィリピンにおいて、環境を理解するためのキーワードは、以下のとおりである。
①国内総生産;GDP、国民総生産;GNP(2000 年)
995 米ドル
全国GDP:752億米ドル
一人当たりGNP:1,040 米ドル
全国GNP:787億米ドル
一人当たりGDP:
②多数の島から構成される群島国
ルソン、ミンダナオ等主要11島を含め大小 7,000
の島々
③貧困層人口率の高さ
貧困層の割合38%:1999年
④都市部への人口集中
都市人口率 58.6%(2000 年)
総人口
7,658 万人、都市人口
4,487 万人
⑤自然災害
台風の通り道
→
風水害、交通網遮断
火山国
→
火山灰、泥流災害
同様に、環境問題に係るキーワードとしては、
① 都市環境問題:深刻な大気汚染、生活・産業・農業活動から発生する排水の流入
② 廃棄物管理:オープンダンピングとごみの発火、有害廃棄物の増加
③ 生態系の破壊:不公平な資源へのアクセス、人口増加による圧力、非効率な政策
少なくとも 794 種が絶滅に瀕している
があげられており1)、都市部への人口集中と貧困層人口率の高さ、多数の島から成立し
ている地理的条件等が、課題となっている。
一方、同国において今後持続的な成長を維持していくには、経済構造改革、財政赤字解
消、不良債権処理、治安回復によるフィリピン経済への信頼回復が課題とされており、我
が国の国別援助計画においては、以下の4項目が重点分野となっている。
資料3−3
①持続的成長のための経済体質強化及び成長制約要因の克服
②格差の是正(貧困緩和及び地域格差の是正)
③環境保全及び防災
④人材育成及び制度造り
2−2
上水道の概要1),2)
フィリピンは豊富な水資源に恵まれており、3千万haの土地のうち、70%(2,100
万ha)は流域(例;湖、泉、河川)と考えられており、419の河川流域がある。地下
水として1億 4200 万m3/日の資源量があるほか、平均年間降水量 2,400mm は8億 3300
万m3/日の表流水となっている。これらの資源のため、年間3億 5587 万m3の水を供給
することができており、水需要は、再生可能な水資源量の1/3以下である。
水資源利用の調整機関は国家水資源局(NWRB)であり、水供給に関連する他の機関
としては、首都圏上下水道システム(MWSS)、地方水道公社(LWUA)、国家灌漑管
理局(NIA)、公共事業道路省(DPWH)等の25の機関がある。
2000 年におけるフィリピンでの安全な飲み水普及率は、都市域で93%、農村域で7
7%であった。(ADB2001、WB2001)。(ここで、
「安全な飲み水」とは、処理済み地表水、
保護された泉や掘削井戸、衛生的な井戸から汲み上げた未処理の水を含む。)しかしながら、
マニラ首都圏、大セブ圏、パギオ市等の都市ではインフラ不足の問題から水不足が問題と
なってきている。1995 年時点で、水栓による各戸給水の普及率はマニラ首都圏で84%、
他の都市で37%、地方では16%であり、地方では井戸や共同水栓による給水が主流で
あり、安全な水を容易に得る状況にない。
136万ヘクタールに分布する119の流域の大部分では、以下のような様々な問題が
発生している。
・ 無許可の工業用地下水の揚水(家庭用の場合許可は必要なく揚水可能)により、許
容量を 20−60%超過
・ 地下水利用の増加と涵養速度の低下による塩水遡上
・ 下水、工場排水、農薬等による地下水汚染
首都圏における給水事業は、これまで首都圏上下水道システム(MWSS)、地方都市に
おいては地方水道公社(LWUA)、
その他の地域では地方自治体が運営してきた。しかし、
どの事業体も収支は健全ではなく、新たな設備投資や十分な維持管理ができない状況であ
る。首都圏では首都圏上下水道公社が二分割され、事業運営が民間に委ねられた。
2−3
下水道の概要1),3)、4)、5)
フィリピンにおける2000年の下水設備の普及率は、都市域で87%、農村域で67%
であった(ADB2001、WB2001)。ここで、「下水設備の普及率」とは、都市人口が穴型屋
外便所、注水式便所、浄化槽、公衆共同便所、あるいはそれらに類する施設等の公共下水
や家屋内の設備の便宜を享受していること。農村部においては、人口が穴型屋外便所や注
水式便所その他の適切な処理方法を利用できるかどうかによる。
しかしながら、1999年において、マニラ首都圏の11の地域で適切な下水道システ
資料3−4
ムが利用可能な人口は全体の10%以下であり、地方部においては汚水はほとんど処理さ
れずに公共用水域に放流されている。
この結果、132あるフィリピンの河川のうち、約37の河川は、家庭排水や都市ゴミ、
産業排水により大変汚濁されている。マニラ首都圏における水質汚濁の汚濁源は、70−
80%が生活排水であり、20−30%が工場排水である。
1)水清浄法(Clean Water Act)3)、8)
生活排水や工場排水、鉱業や農業に起因する汚濁から水環境を保全するための包括的水
管理プログラムを行うための水清浄法が2004年3月制定された。
本法により、各省庁はフィリピン全土における水質を改善するために、より厳しい政策
を定めるとともに実行するとともに、他の政府機関や利害関係者と協力を深める権限が与
えられている。
本法において特筆すべきことは、河川流域や水資源地域等をユニットとした水質管理地
域の策定である。策定された水質管理地域内では、水質を保全するための地域水質管理基
金が創設されることとなっている。
同時に本法によって、効率的な下水道使用料金制度についても定められ、水域に下水を
放流する者は全て下水道料金を払う必要があることとされた。本料金制度によって、関係
者は適切な排水処理技術を採用することにより、発生する汚濁負荷量を削減しようとする
インセンティブがはたらく。
本法では、違反した日ごとに1万ペソから20万ペソを支払うという厳しい罰金制度が
課せられることとなった。操業停止命令に従わず罰金も支払わないような場合には、汚濁
裁定委員会により300万ペソの罰金あるいは6年以上10年以下の懲役が課せられる。
本 法 を 執 行 す る 主 官 庁 は 、 Department of Environment and Natural
Resources(DENR)であり、他の政府機関、LGU、NGO、そして民間機関と協力を行う。
また、National Water Resources Board(NWRB)と協調して、河川流域や水資源地域等を
ユニットとした水質管理地域(Water Quality Management Areas)の策定を行い、水質
管理区域の管理は各LGUで行われる。また、横断的な組織(Multisectoral governing
boards)が、管轄区域内の水質管理のために設立される。Governing Boards は、市長、
LGUの長、関連する中央政府機関、NGO、他の関係団体の代表で構成される。DEN
Rはまた、放流水質をリビューし、放流水質を決定する。また、水質ガイドラインの策定、
地下水源の分類、水域の分離、国際的に受け入れられる水質分析の設定、水質管理マネー
ジメントの準備と策定、各々の水質管理地域に対する10年間の水質管理計画の策定を行
う。
LGU(Local Government Units)は、それぞれの管理区域内の水質管理と水質改善の責
任を分担する。さらに、LGUは水質のモニタリングの責任と水質汚濁改善を担う政府関
係機関と協調して、水質保護と改善に関する全ての行動に対して積極的に関与する。各々
のLGUは、処理場建設の土地を供給し、処理場建設と管理のためのファンドを設立する。
DENRと各々のLGUは、適切な政府系機関と協調するとともに、民間と協議し、水
域への負荷を減少させる機器を導入することにより水域の保護を行う適切な計画を策定す
資料3−5
る。
本法により、Department of Public Works and Highways(DPWH)は、DENRとLG
Uと協力して、全国的な下水道事業とセプテックタンクの管理プログラムを策定する。こ
のプログラムには、各LGUに対する下水道事業とセプティックタンクの管理に関する優
先順位が含まれる。
MWSS(Metropolitan Waterworks and Sewerage System)とLWUA、他の機関
は、水道供給と下水道を設置する権限を有し、各々の区域において下水収集と処理放流を
確実とする。
本法に示される一連の手続きは各種機関が関連するとともに、下水道実施までには種々
の機関で各種検討が必要であり、各自治体において下水道事業が実施されるまでのロード
マップは以下のとおりである。
DENR;Department of Environmental and Natural Resources
・ 水質管理地域の設定
・ 放流水質のリビュー及び設定
・ 水質ガイドラインのリビューと実施
・ 水域の分類、あるいは再分類
・ 国際的に受け入れられるサンプリング及び解析手法の確立
・ 包括的水質管理フレームワークの作成
・ 水質管理区域における10年間の管理計画の作成
・ 水環境保全の推進
DPWH;Department of Public Works and Highways
・ DENR、LGU、他の関連する機関と連携して下水道と腐敗槽に関す
る国家計画の作成
LWUA:Local Water Utilities Administration
・ 下水道施設の提供と効率的で安全な下水の収集、処理、放流の確定
(マニラ都市圏を除く)
MWSS;Metropolitan Waterworks and Sewerage System
・マニラ都市圏における下水道施設の提供と効率的で安全な下水の収集、処
理、放流の確定
LGU;Local Government Units
・ 責任地域内における水質管理区域の水質管理と水質改善に関する責任の
分担
・ 水質モニタリング
・ 水質保護と改善に関する努力
・ 他の政府機関、及び関連セクターと協調して水質汚濁防止施策の実施
・ 進入道路を含む下水道処理施設のための土地の提供、及び施設の建設・
管理のためのファンドの設立
資料3−6
2)水環境保全実施関連機関3)、8)
Metropolitan Waterworks and Sewerage System(MWSS)
マニラ首都圏、及び隣接する13の市と24の地方自治体における水道と下水道サービス
を行う。これら地域の人口は13百万人以上と推定される。1997年、マニラ首都圏の
上水と下水道に関し2つの民間会社とコンセッション契約を行う。実施。
Local Water Utilities Administration(LWUA)
マニラ首都圏以外の水道及び下水道サービスを実施する。LWUAによるサービスが行わ
れない地域は、Local Government Units あるいは民間会社により保有・管理される施設
により水道及び下水道サービスが行われる。現在は上水サービスが中心。
Local Government Units (LGU)
MWSSあるいは、LWUAでカバーされない地域の下水道事業は、LGU(地方自治体
公社)で管理運営され、場合により民間会社で管理・運営される。しかしながら、現状で
は上水供給に重点が置かれている。
【JICA 集団研修「下水道技術」コース過去参加者所属組織】
LWUA(1985、1999、2004年各1名)
MWSS(1990から1995まで、各年1名)
DENR(1992)
合計10名
3)主要都市における下水道実施状況
①マニラ首都圏3)、4)、5)6)7)
か つ て 首 都 圏 の 上 下 水 道 を 管 理 し て い た の は 公 営 の M W S S ( Metropolitan
Waterworks and Sewerage System)マニラ上下水道公社であったが、資金不足と非効率
な経営のため、1997 年に外国資本を導入した2私企業に分割(民営化)され、25年のフ
ランチャイズ契約が結ばれた。
人口密度が高く貧困な西部地区は、地元財閥のベンプレス・ホールディングスとフラン
スのオンデオの出資するマニラ水道サービス会社(MWSI)がMWSSの事業を引継い
だ。落札時の水道料金は、1立方メートル当たり4.96ペソであった(MWSS当時は
8.78ペソ)
一方、比較的裕福な東部地区は、地元アヤラ財閥を中心にイギリス(United Utilities)、
アメリカ(ベクテル)、日本企業(三菱商事)が参画したマニラ水道会社(MWC)が事業を引
き継いだ。落札時の契約料金設定は、2.32ペソであった。
MWSIとMWCは、それぞれの契約の下、水道システムの修復を図りつつ運営を行い、
資料3−7
漏水を減らし、違法な水利用を監視し、サービス提供エリアを拡大することを約束した。
また、以下の項目が利用者に約束された。
・ 10年以内に水道普及率を100%
・ 当初10年間は実質値上げを行わない
・ 当初10年間で無収水率を56%から32%に減らす
・ 25年以内に80%の地区で効果的な下水道プログラムを実施
等
しかしながら、1997年のアジア通貨危機の際のペソ暴落による損失を穴埋めするため、
そして2002年の料金算定基準の改訂により、2003年1月までに、MWSIの水道
料金は21.11ペソ(1m3当たり)MWCの場合は12.21ペソに値上がりした。
東地区を担当しているMWCの地元企業であるアヤラは、透明性、企業倫理がしっかり
している企業であり、本社マネージャーが従業員と料金徴収に回ったり、現場表彰制度を
設ける等現場のモチベーションを高めている。この結果、無収水率も改善し貧困層への水
の配給等も含め、カスターマーサービスも年々向上しており、料金値上げも西地区より値
上げ幅が小さかった。MWCは黒字経営で、民営化事業は成功しているようである。
一方、西部地区に関しては、MWSIは 2001 年1月には、月々2億ペソの委託契約金
の支払いを停止し、料金値上げ後も支払いは再開されず、値上げによっても経営状況は改
善されなかった。また、2002 年 12 月、MWSIは、フィリピン政府と結んでいた委託契
約を破棄すると通告。水道サービスの提供の失敗が政府にあるとして、同社が民営化後行
ったとする3臆300万ドルと同額以上の返金を求める等民営化は失敗している状況にあ
る。
現在、委託契約の行方は、パリに本拠を置く国際商業会議所の仲裁パネルが支配している。
2003 年2月に発効した裁定は、MWSIによる委託契約の破棄を無期延期にするというも
のであった。つまり、仲裁プロセスが完了するまでMWSIが西地区の水道事業を継続す
るという意味である。2003 年1月、MWSIは契約で決められている解約料が支払われな
い限り、経営権を政府に返還しないと発表。一方、MWSSはもし同事業を引き受ける民
間セクターがいなければ、事業を引き取ると述べている。
マニラ首都圏の下水処理に関しては、公称4つのシステムがある。
①Dagat-Dagatan System(西部地区MWSI)
市の西北部の2市2町の一部の汚水を集めたもので標準活性汚泥法を採用。処理人口は
約5万人。
②Central System(西部地区MWSI)
旧マニラ市内の70万人の汚水を集めてパッシグ川を横断し、マニラ湾沖2km で海に
無処理で放流。
③Ayala System(東部地区
MWC)
市の中心部ビジネス街の排水が集められ、活性汚泥法が採用されている。処理人口は約
13万人。
資料3−8
④Separate System(東部地区
MWC)
市の高級住宅地の一部のし尿を集めて4ケ所のコミプラで処理。処理人口は約20万人。
これらより、マニラ首都圏における下水道接続率は、約10%(人口約1000万人に
対し、約108万人の下水を排除)であり、下水処理人口比率は約3∼4%と推察されて
いる。
なお、新規の下水道整備に当たっては、政府からの補助金は一切無く、必要な投資資金は
全て料金で回収されなくてはならないため、下水道施設に関しては比較的安価な数百t∼
数千t程度のコミプラ的な施設で対応されている。
②Baguio 市3)、4)
Baguio 市は、ルソンにおいて最も人気のある観光地で、人口は25万人以上である。同
市の下水道は 1920 年代の後半アメリカにより建設された。当初の下水道は処理施設を有
しておらず、収集された下水は直接放流されていた。1970 年代初頭、放流水域は相当汚染
されており、住民は市に対して処理場を建設するように求めた。あいにく市は十分な予算
を有しておらず、JICAが処理施設の建設と管路施設の改築のための無償援助を行うま
では、何の進展もなかった。
JICA無償援助による工事の設計と施工管理はLWUAと Baguio 市により行われた。
1994 年に完成した処理施設は、市に引き渡された。管路施設は、850 世帯と 6,550 の商業
施設をカバーしていたが、区域の拡大による流入水量の増大により処理施設はオーバーロ
ードであり、処理機能の評価と改良計画の策定が必要である。なお、オーバーロード前の
施設は、料金徴集を含め市により適正に行なわれていた。
③Vigan 市3)、4)
Vigan 市は人口 45,000 人の観光都市である。管路施設は70年前にアメリカにより建
設され、処理場を有していない。その後、5つのセプティックタンクが追加され、わずか
の管路施設が改築された。現在まで下水道施設は非常に劣悪な状況にある。多くの管路施
設は崩壊し、1ケ所のセプティックタンクは運転管理不可能となっている。下水道施設に
は、247 の家屋と 60 の商業施設が接続されている。
④Zamboanga 市3)、4)
同市の人口は、60 万人以上でミンダナオにおける大都市の一つである。1930 年代にア
メリカにより当初の下水道施設が建設された。水路により下水道区域は東西2つに分かれ
ており、東地区で発生した汚水はポンプ場に集められ、西地区に圧送される。収集された
下水は無処理で放流されている。建設されて以来管路施設とポンプ場に対して改築はほと
んどなされていない。管路施設は、680 世帯と 990 の商業施設に接続されている。絶え間
なく管きょに下水が接続されていることから、処理場はオーバーロード気味になっている。
市は、フィリピンでも最も都市化した都市であること、国際空港や港湾があり交通の要点、
西ミンダナオの商業・経済・交通の要点であることから緊急度は高い。
資料3−9
⑤Bacolod 市3)、4)
Bacolod 市の人口は、42 万人である。管路施設は、1950 年代後半に建設され、191 箇
所で下水に接続されている。収集された下水は共同セプティックタンクに集められ、近く
の水路に放流される。システムの管理は、特別衛生委員会を通じて、1961 年に地方自治体
に引き渡された。
⑥Cebu 市3)、4)
Cebu 市は、ビサヤにおける最も先進的な都市で、人口は 71 万人以上である。既存施設
は、市の中心部を整備区域にする予定であったが、処理施設は飲料水工場とショッピング
センターの汚水を処理しているだけである。
⑦Davao 市3)、4)
同市はミンダナオにおいて最も進歩的な都市で、人口は 114 万人以上である。2つの下
水道システムがあり、一方は 1971 年に建設されわずか 94 の接続数しかないが、もう一方
は 1974 年に建設され 1100 以上の接続数がある。
⑧Cauayan 市3)、4)
ルソン地域にある同市の人口は約 10 万人であり、市により管理されている。1989 年に
建設され、処理法は安定化池である。現在接続箇所は 800 であるが、市は急激な都市化の
ため処理施設を増設できないでいる。
4)処理料金3)、4)
前述した各市においては料金回収の問題に直面している。多くの場合、下水管路施設へ
の接続は信頼できないサービスを前提として行われているとともに、低い料金はサービス
の改善を困難としている。
Bagio 市の料金は、代表的水の使用量に応じた定額制である。この場合、商業施設はよ
り多くの水を消費することから、一般消費者よりも高い料金となっている。しかしながら、
料金設定が低いことから市当局は維持管理費を補助しなくてはならない。Bagio 市の下水
道の場合、最も多くの職員がおり、改築・更新及び施設の拡張が適切に行われている唯一
の例である。
Vigan 市水道局は、上水と下水の両方を管理しており、料金は定額制である。しかしな
がら低い接続率と低い料金回収率によって、下水道の維持管理費を上水の収入から補助し
なければならなくなっている。下水道関係の特別の職員はいないが、上水関係の職員が小
規模の維持管理を行っている。
Zamboanga 市は、上水と下水の両方を管理している。下水道料金は上水の料金の50%
である。同市には、1日当たり16時間故障・修理等に対応できる維持管理職員がいる。
資料3−10
他の市の下水道施設施設に関しては、下水道の維持管理職員はいない。職員に給与を払
う余裕もないし、維持管理機器もなく、前述の市以外の多くの自治体では下水のための予
算がない。
下水道料金制度と関連職員
Pricing Policies and Staffing
Baguio City
Vigan City
Zamboanga City
料金制度
Tariff Structure
家庭排水
Residential
工業排水
Commercial
職員数
Number of Staff
固定
Php30
Php416
45
Php49
Php91
0
変
変
14
Flat rate
固定
Flat rate
水道料金の 50%
50% of water bill
動
Variable
動
Variable
【参考資料】
1)国別環境情報整備調査報告書(フィリピン国)
国際協力事業団
平成14年2月
企画・評価部
2)フィリピン国別援助研究会報告書(第3次)
1993年3月
国際協力事業団
3)2004年度JICA集団研修「下水道コースⅢ」参加研修生(LWUA)
Country Report、Case Study Report
4)1999年度JICA集団研修「下水道コースⅡ」参加研修生(LWUA)
Country Report
5)フィリピンのトイレ事情
小椋建二、月刊下水道
Vol.24、No.1
6)水の商品化・民営化、「環境・持続社会研究センター(JACSES)」ホームページ
www.jacses.org/sdap/water/report04.html
7)マニラ上下水道の民営化の成功例と失敗例
平成15年度グローバル化検討委員会調査報告書参考資料2−1、2−2
8)SBMC Newsletter Vol.2 No.3, Report from 2004 Participant of Sewage Works
Engineering III
3.下水道事業・水環境保全上の課題、及び今後の方向
現状、フィリピンではマニラ首都圏、及び他の主要な市町村以外では、下水道事業はほ
とんど実施されていない。しかしながら、今回「水清浄法」が決定され、水質保全に関す
資料3−11
る基本フレームと各実施機関の権限や責任等が定められたことにより、今後多くの水質管
理地域内で Multisectoral governing boards が設立されるとともに、各々の区域内の水質
管理計画の策定が進むものと予想される。
ただし、下水道事業の実施に当たっては、中央からの補助金がなく、全て下水道使用料
で賄わなければならないが、現状下水道を行っている自治体では、下水道料金を徴収して
いないか、あるいはわずかである。このため、下水道事業実施においては、財政的に困難
となることが予想される。
このようなことから、今後、住民への啓蒙等を含め、使用料により下水道事業が運営で
きる下地を形成していくことが望まれる。また、現在下水道料金により良好に運営されて
いるのは、マニラ首都圏東地区と Bagio 市(ただし、運営費は市からの補助がある)のみ
であり、財政面を含めたフィリピン版下水道実施モデルの形成が求められる。
資料3−12
4.ODA関連情報
4−1
専門家派遣状況
・短期専門家
①バギオ市下水管網整備計画
【H1.7.11∼1.7.31】
大迫建一(JS)
諫山和仁(福岡市)
②都市排水
【H13.9.24∼13.10.7】
松原誠(国総研)
4−2
調査団派遣状況
① パギオ市下水処理施設建設計画基本設計
【1983∼1984】
村山哲夫(建設省)
② パギオ市下水管網整備計画基本設計
【1989∼1990】
大迫建一(JS)
③ メトロマニラ上下水道総合計画
【1994∼1994】
金井重夫(JS)
④ マニラ首都圏中心地域排水機能向上調査
4−3
【2003∼
】
資金協力実績
・無償援助
①
1984年
パギオ市下水処理施設建設
(15.76億円)
②
1989年
マニラ首都圏排水路改善計画
③
1991年
パギオ市下水管網整備計画
(4.85億円)
④
1992年
パギオ市下水管網整備計画
(6.3億円)
⑤
1992年
マニラ首都圏排水路改善計画
(12.31億円)
(12.54億円)
・有償援助
上下水道・衛生部門では、1978年より地方上水道整備計画事業等の水道事業で
13件実施。これまでの有償援助は、運輸(地方道路)、防災(治水・洪水防御・消
防)、農業・灌漑、環境(廃棄物)が主体。
資料3−13
4−4
No.
1
2
3
4
5
6
フィリピン関連調査レポート
JICA
国際総合研究所
書誌事項
フィリピン共和国 バギオ市下水処理施設建設計画基本設計調査報告書.
-- 国際協力事業団、1984.
帰国研修員巡回指導 : 東南アジア水質汚濁下水道コース
集団研修帰国研修員に対する巡回指導報告書 : 昭和 52 年度.
-- 国際協力事業団研修事業部、1978.
フィリピン共和国 バギオ市下水道網整備計画基本設計調査報告書.
-- 国際協力事業団、1990.
フィリピン共和国 バギオ市下水道網整備計画基本設計調査報告書(補足調査).
-- 国際協力事業団、1991.
フィリピン国 メトロマニラ上下水道総合計画事前調査報告書.
-- 国際協力事業団、1994.
経済協力評価調査報告書 ; 平成 6 年度. -- 世界経営協議会、1995.
7
フィリピン共和国地方環境衛生整備計画(フェーズ 3)基本設計報告書.
-- 国際協力事業団、1994.
8 フィリピン国地方水供給・下水・衛星セクター計画調査事前調査報告書.
-- 国際協力事業団、1994.
9 フィリピン共和国メトロマニラ上下水道総合計画調査最終報告書 要約.
-- 国際協力事業団 : 日本上下水道設計 : トーマツ、1996.
10 フィリピン共和国地方水供給・下水・衛星セクター計画調査 ; 第 1 巻.
-- 国際協力事業団 : 日本上下水道設計、1996.
11 フィリピン国 全国総合水資源開発計画調査最終報告書 和文要約.
-- 国際協力事業団 : 日本工営 : 日本上下水道設計、1998.
資料3−14
資料 3−2
モロッコ 国別レポート(Reviced)
平成 18 年2月
1. 一般情報
1-1
一般事情
(1)面積:
44.6 万 km2(日本の約 1.2 倍
(2)人口:
3,008 万人(2003 年)
(3)首都:
ラバト
(4)人種:
アラブ人(65%) ベルベル人(35%)
(5)言語:
アラビア語(公用語)、フランス語
(6)宗教:
イスラム教(スンニ派がほとんど)
1-2
西サハラ除く)
政治体制・内政
(1)政
体:
立憲君主制
(2)元
首:
モハメッド 6 世(1999 年 7 月即位)
(3)議
会:
2 院制(96 年 9 月の憲法改正により従来の 1 院制から移行)
(4)政
府:
首相:ドリス・ジェットゥ
外相:モハメッド・ベナイッサ
(5)内
政:
① モハメッド 6 世国王は、前国王の政策を基本的に継承。
② 反王制の動きも見られず、政局は比較的安定。
③ 2001 年 8 月、民主化、経済自由化等を進めるための「5 ヶ年計
画」が国会を通過。
④ 現在最大の懸案は西サハラ領有問題。国連のイニシアティブ
の下に留意しつつ、西サハラ問題の政治的解決を模索している。
⑤ 92 年モロッコ型民主主義の定着を図るため憲法改正、8 年振り
に地方選挙、93 年には 9 年ぶりに国会議員選挙を実施。94 年
には政治犯の恩赦を実施。
⑥ 96 年 9 月 13 日、国会第 2 院創設のため憲法改正の可否を問う国
民投票が実施され、圧倒的多数(99.56%)の賛成を得て承認。
97 年に両院の選挙を実施。
⑦ 2000 年 9 月には二院制の導入以来、初の参議院改選が実施され、
全体の 3 分の 1 の議員が入れ替わった。2002 年 9 月の衆議院選
挙では連立与党が勝利したものの、イスラム政党が大幅に議席
数をのばした。2003 年 5 月のカサブランカにおける爆弾テロ発
生後、イスラム政党勢力は減速。
資料3−15
1-3
外交・国防
(1)外交基本方針:
① 西サハラの領有権につき国際的承認を得ることである。アフリ
カ連合(AU)への復帰はいまだ果たされていないが、アラブ・
マグレブ連合(AMU)の連携強化のためにアルジェリアとの関
係改善を図る等の外交活動を行いつつ、西サハラ領土のモロッ
コへの統合を果たすために様々な努力が行われている
② アフリカ北西部に位置し南欧の一角を自称するモロッコは、こ
れまで同様アラブ・イスラム諸国との関係強化を重視しつつ、
今後とも欧米諸国を中心として多角的な外交を行っていくもの
と考えられる。
(2)軍事力:
(ミリタリーバランス 2004・2005)
①予算
18 億 2,600 万ドル
②兵役
徴兵制(18 ヶ月)
③兵力 19.63 万人 (陸軍 17.5 万人、海軍 7800 人、
空軍 1.35 万人) 予備役 15 万人
1-4
経済
・水産業、鉱業(燐鉱石)
、
(1)主 要 産 業: ・農業(小麦・大麦・柑橘類・オリーブ)、
・工業(繊維・皮革製品・食品加工)
(2)主要経済指標
GN I :
43,920 百万米ドル(2004 年
一人当たり GNI: 1,623 米ドル(2004 年
経 済 成 長 率 : 3.5%(2004 年
同上)
物 価 上 昇 率 : 1.5%(2004 年
同上)
統計局年報)
同上)
失業率(都市部): 10.8%(2004 年 同上)
(5)総 貿 易 額 : ① 輸出; 88 億ドル((2004 年)
② 輸入; 143 億ドル((2004 年)
( 6) 貿 易 品 目 :
① 輸出; 既製服、生地・織物、燐酸液等
② 輸入; 原油、機械、小麦、装置類等
( 7) 貿 易 相 手 国 :
① 仏
( 8) 為 替 レ ー ト :
1 米ドル=9.508DH(2004 年平均)
( 9) 経 済 概 況 :
1983 年以降、世銀、IMF の勧告に基づく構造調整実施。若年層の高
失業率問題、貧富の差等の解決が課題。また、農業生産が天候に左
右されやすく、96 年は降水量に恵まれ 11.8%の経済成長率を達成し
たものの、翌年は旱魃のためマイナス成長を記録。旱魃がほぼ隔年
訪れ、その影響で成長率がマイナスを記録する傾向がある。2000 年
は前年に続く旱魃に見舞われたが、政府の補助金投入等積極的対策
により、プラス成長に転じ、2001 年は 6.5%、2002 年は 3.2%の経済
成長を記録。
② スペイン
③ 伊
資料3−16
④ 英
⑤ 独
1-5
経済協力
(1)主要援助国実績:
① 仏(205.0)、 ② 日本(64.8)、 ③ 伊(21.9)、
④ 独(15.7)
(2003 年 単位百 万ドル)
(2)我が国の援助実績: (2003 年度での累積)
① 有償資金協力
1,598.5 億円(E/N ベース)
② 無償資金協力
279.41 億円(E/N ベース)
③ 技 術 協 力
257.40 億円(JICA 実績ベース)
1-6
二国間関係
( 1) 政 治 関 係 :
① 1956 年 6 月 19 日に我が国はモロッコの独立を承認し、1961
年 10 月 1 日に在モロッコ大使館を開設、モロッコは 1965 年
11 月 5 日に在本邦大使館を開設。
② 伝統的に良好な関係にあり、経済協力及び文化協力を活発に
実 施。
( 2) 経 済 関 係 :
①
貿易額・主要貿易品目(2003 年)
対日輸出 1.74 億ドル
対日輸入 2.98 億ドル
② 我が国からの直接投資
( 3) 文 化 関 係 :
魚介類、燐酸塩
自動車、機械類
累計 14 件
466 万ドル
① 毎年国費留学生の受け入れの他、文化人招聘及び派遣、スポ
ーツ交流等を実施。
② モハメッド 5 世大学には日本語講座が開かれており、日本か
らの日本語教育専門家を派遣。
③ 要請に基づき、文化無償協力を行っている他、大使館の事業
として各種文化事業を実施。
出典;外務省ホームページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/morocco/
資料3−17
2.下水道、水環境情報
2−1 一般事項
①
地勢;モロッコはアフリカ北西部にあり、北に地中海、西に大西洋を望む位置にある。
面積は約 71 万km2 であり、16 の行政地域に分かれている。
②
社会;人口は約 3 千万人。長年に渡る旱魃のため、人口は都市に集中する傾向にある。
③
経済;開発途上国に共通の問題として、緊縮財政、民間企業の参入障壁及び海外貿易
障壁の緩和、持続可能な経済成長などが挙げられる。GDP は 2002 年現在で約 1.2 兆
米ドルであり、一人当たり約 4 千米ドルである。主要産業は、農業、工業(食品、繊
維、化学)、鉱業、漁業、観光などがある。
2−2 水資源
モロッコでは、降雨は時期及び場所によって非常に異なっている。サハラ地域を含むア
トラス山脈の南部では、年間降雨量は 300mm未満であり、アトラス山脈の北部では、年
間降雨量は 1000mm以上である。全国の年間降雨量は約 1500 億m3 と見積もられており、
この内有効降雨量は 200 億m3(表流水 160m3、地下水 40 億m3)である。
水需要は年々増加している。これは、長引く旱魃による農業用水需要の増加や、工業の
進展に伴う工業用水需要の増加、人口の増加及び生活水準の向上に伴う需要の増加などの
要因による。反面、水質は年々悪化している。
2−3 汚水
汚水量は、1960 年に 480 億m3、1990 年に 4230 億m3 と見積もられており、年々増加し
ている。なお、2020 年には 9000 億m3 になると予想されている。この要因は以下のとおり
である。
・ 都市人口の増加(年 4.4∼5%の増加)
・ 上水道の普及(1972 年に 53%、2000 年に 85%の普及率)
・ 下水道網の整備(1999 年に大都市で 75%が整備)
・ 上水道使用量の増加(1972 年に 85l/人、1992 年に 116l/人)
モロッコの人口の約 56%は都市に住んでおり、その内 80%は下水道に接続している。残
りはセプティックタンクまたは未処理放流となっている。大都市は全て下水道(管渠)を
整備している。下水道への接続率は 44.8%となる。表−1 に都市規模別の下水道整備都市
数を示す。
資料3−18
表−1
都市規模別下水道整備都市数
都市規模
都市数
下水道整備
都市数
2万人以下
201
145
2万人∼10万人
69
67
10万人以上
23
23
計
293
235
都市部から排出される汚水は、その 58%が海域に放流され、42%が河川等に放流されてい
る。表−2 に都市規模別の汚水水質を示す。都市規模が大きくなるに従って、BOD,COD,
SS 等の水質は低下する傾向にある。これは、大都市になるほど上水の使用量が増加するた
めである。
なお、工場排水は特別な処理は行わず、下水道に排出されている。
表−2 都市規模別汚水水質
水質項目
小都市
(2万人未満)
中都市
(2万人∼10万人)
大都市
(10万人以上)
平均
BOD(mg/l)
400
350
300
350
COD(mg/l)
1000
950
850
900
SS(mg/l)
500
400
300
400
普及率(%)
50
75
80
65
1人当たり使用量
(l/人)
40
70
80
60
資料3−19
2−4 汚濁の状況
① 水資源:
雨水と地下水の2つの水源からなる。
雨水:290 億 m3 の降雨があり、流出水 200 億 m3 と地下水を涵養する浸入水 90 億 m3
地下水:32 の深層の地下滞水層と 48 の浅い滞水層で 40 億 m3 の地下水を汲み上げ、農業
開発や渇水期の上水供給に重要な役割を担っている。
② 水質汚濁
全ての水源(表流水・地下水)の水質は、不幸にも、種々の汚濁源(家庭汚水、工場排水、農
業用水など)によって、過去数十年間で悪化している。この事実は、全体の環境と衛生状態、そ
の結果財政支出に多大な影響を与えている。
モロッコにおける環境悪化のコスト
Costs of the degradation of the environment in Morocco
環境
年間費用 Annual Cost
GNP比(%)
Environment
(Billions of Dirhams)
% of PIB
水・ごみ
14.5
6.0
Water and scraps
大気 Air
4.5
1.9
土壌・自然環境
0.7
0.3
Soils and natural environment
計 Total
19.7
8.2
出典:環境と継続的な開発の保全に関する国家戦略(National strategy for the protection of the
environment and lasting development(1995)
③ モロッコにおける環境の悪化に伴うコスト
1年間に下水(546 百万 m3)の 58%が、未処理で海域または河川へ排出されている。
受水域
Receptor Milieu
地中海・大西洋
Oueds Tahlwegs
計 Total
排水量
Discharged Volume
316 百万 m3
230 百万 m3
546 百万 m3
割合
Ratio
57.8%
42.2%
100%
Source : CSEC 2001
④ 汚水の増大する主な要因
・ 都市人口の年間増加率 4.4%∼5%による増加
・ 都市域における上水道網の整備による増加
・ (1972−53%、1993 年−79%、2000 年−85%)
・ 大都市における下水道の普及による増加(1999 年−75%)
大都市における一人当り上水使用量の増加による増加(1972 年−85 ㍑、1992 年−116 ㍑)
資料3−20
2−5 下水処理
現在、沿岸部の大都市からの下水は、未処理のまま海域に放流されている。内陸部でも、
未処理のまま河川等に放流されている。また、一部は未処理のまま、農業用水として利用
されている。
下水道整備については、地方自治体がその業務を実施している。しかしながら、大都市
のカサブランカやラバトでは、上下水道事業を民間企業(海外の水会社)に委託している。
下水処理施設に関しては、1950 年頃から建設が始まったが、主に大都市以外の都市で実
施されている。現在 71 の処理施設があるが、運転中の施設はこのうち 31 施設にとどまっ
ている(表−3 参照)。
表−3 モロッコの下水処理施設
処理法
個所数
運転中
故障中
未接続
活性汚泥法
Activated Sludge
22
14
5
3
浸透
Percolation
11
5
6
0
沈殿・消化
Settling basin - Digester
17
2
13
2
ラグーン+浸透
Lagoon + Filtration Percolation
3
0
3
0
ラグーン
Lagoon
13
7
5
1
ろ過・浸透
Filtration-Percolation
2
2
0
0
植生処理
Algal Channel
3
1
1
1
計
71
31
33
7
稼動状況が悪い原因については、下記の理由と考えられる。
・ 地方自治体が維持管理費用を賄えない、
・ 必要な技術者がいない、
このような下水処理施設の整備の遅れに対応するため、モロッコ政府は、水資源の保全
を目的として、大都市における下水道整備マスタープランを策定した。マスタープランに
おいては、下水収集方式として合流式を採用し、下水処理施設を設置することとしている。
なお、2020 年に下水処理普及率を 40%にすることを目標としている。
主要 5 都市の下水道整備計画の概要を表−4 に示す。
資料3−21
表−4 主要 5 都市の下水道整備計画
カサブランカ
Casabranca
ラバト
Rabat
フェス
Fes
供用開始時期
未定
2003∼2005年
人口(人)
3,639,000
628,000
1,049,000
1,071,000
676,000
下水処理率(%)
70
80
80
81
75
管渠延長(km)
1400
660
500
586
550
下水量(m3/日)
200,000
90,500
105,000
100,000
50,000
収集方式
合流式
合流式
合流式
合流式
合流式
処理方法
ラグーン
Lagoon
−
活性汚泥法
Activated Sludge
活性汚泥法
Activated Sludge
ろ過・浸透
FiltrationPercolation
再利用
農業用水
−
ガス回収
ガス回収
農業用水
汚泥コンポスト
第一期
第二期
2007年
2008年
マラケシュ
Marrakech
第一期
第二期
2007年
2012年
アガディル
Agadir
第一期
第二期
2003年
2007年
下水処理場(TREATMENT PLANTS)
都市(CITY)
Casablanca
Rabat
Fes
Marrakech
P1
Agadir P1
供用開始
Date of launch
n.c.
06/2003 to 2005
P1 2007,
P2 2008
P1 2007,
P2 2012
P1 2003
P2 2007
援助機関
Financing
LYDEC
REDAL
FAD & EBI
EBD & RADEEMA
FAD & JAPAN FUND
処理能力
Capacity
480,000 m3/day
14,120 m3/day
150,000 m3/day
73,440 m3/day
50,000 m3/day
除去率
Performance
n.c.
n.c.
SS 90%
BOD 66%
SS 66%
BOD 33%
SS 70%
DBO 50%
接続人口
Connected
population
4,500,000
63,000
1,600,000
1,300,000
500,000
放流先
Destination of
treated water
Atlantic Ocean
Atlantic Ocean,
Bou Regreg
river
Sebou river
Tensift river
Atlantic Ocean
◎5大都市の現状
今日まで、下水道は水域(海・河川)へ排出している。
都市 CITIES
人口 Population
接続率
Connected
管延長
Length (km)
集水方法
Casablanca
5.5 million
92%
4,157
自然流下 90%
Rabat
1.5 million
80%
2,200
自然流下 85%
Fes
1.1 million
94%
1,500
自然流下 95%
1.0 million
80%
1,300
自然流下 86%
0.8 million
95%
800
ポンプ排水 95%
Marrakech
1st Touristic Destination
Agadir
2nd Touristic Destination
資料3−22
下水の水質(Wastewater quality)
20,000∼
20,000 人未満
100,000 人以上
100,000 人
400
350
300
項 目
BOD5 mg/l
全国平均
350
COD mg/l
1,000
950
850
900
TSS mg/l
500
400
300
400
普及率(%)
50
75
80
65
1 人当り使用量(l/人)
40
70
80
60
Source : ONEP – GTZ 1998
◎工場排水
工場排水は、水利用の89%を占め、その殆ど(99.4%)は、大西洋・地中海へ排出されている。
Quantity ton/year
% of total rejected
SS
6,565,500
99.6
DCO
12,600
12.6
DBO5
4,300
18.8
Nitrogen
1,780
55.0
Phosphors
11
6.0
Fluorides
37,700
100
Phosphates
54,840
100
Chlorides
1,900
100
Mercury
0.015
100
◎湾へ排出される工場排水の内訳
工場用水は、様々な水源から10億m3を上回る用水を使用している。海水−81%、表流水14%、上
水−4%、地下水−1%であり、排水の99%は海域へ排出されている。
工業
化学工業
Chemistry
Para chemistry
織物・皮革
Textile, Leather
食品加工
Agro alimentary
金属・電気
Mechanic Metallurgy
Electricity
Total
海水
(1,000 m³)
表流水
(1,000 m³)
地下水
(1,000 m³)
上水
(1,000 m³)
割合 %
875,500
147,608
5,920
22,390
96.59
0
0
1,940
9,130
1.02
1,600
4.750
3,400
14,200
2.20
10
210
190
1,690
0.19
877,110
152,568
11,450
47,410
100
資料3−23
2−6
処理水再利用
水資源に乏しいモロッコでは、下水処理水の農業用水及び地下水涵養への利用が求めら
れている。農業用水利用に関しては、現在約 7000ha の農地で未処理の下水が利用されてい
る(表−5 参照)。
表−5
下水の農用地利用状況
都市
面積(ha)
作物
Marrakech
2,000
穀物、野菜、樹木
Meknes
1,400
穀物、野菜、樹木
Oujda
1,175
穀物、野菜、樹木
Fes
800
穀物、野菜
El Jadida
800
野菜、樹木
Khouribga
360
穀物、野菜
Agadir
310
野菜、樹木、大豆、花
Beni Mellal
225
穀物、野菜、綿花、テンサイ
Benguerir
96
野菜、樹木、飼料
Tetouane
70
野菜、飼料
計
7,236
しかしながら、衛生面、環境面から、未処理下水の農業用水利用はリスクが大きいと考
えられる。政府においても、野菜には未処理下水の利用を禁止しているが、現実には実施
されている。今後、下水処理施設の建設が進むに従い、処理水量は増大し、良好な水資源
となることが期待される。
現在、モロッコ各地で処理水の再利用が実施されているが、それらの処理施設における
各水質の除去率を表−6 に示す。
表−6 下水処理性能(除去率:%)
Ouarzazate
Ben sergao
Drarga
Ben slimane
Marrakech
Bouznika
処理方式
ラグーン
ろ過・浸透
ろ過・浸透
エアレーティ
イドラグーン
通性嫌気性
ラグーン
ラグーン
BOD
81.7
98
97
78
97
75
COD
72
92
96
79
76
71
SS
28
100
96.6
−
69
76
資料3−24
窒素
32
85
65
75
71
14
りん
48.5
36
−
41
85
−
大腸菌
99.9
99.9
90
100
99.4
99.9
寄生虫卵
100
100
100
100
100
100
また、モロッコにおける処理水再利用の例を以下に示す。
・ Nador と Khouribga では、活性汚泥法で処理した下水を農業用水として利用している。
また、Khouribga では、処理水をタンカーや水槽付トラックで輸送し、市内の街路樹等
の散水に利用している。
・ Boujaad では、ラグーンで処理した下水を市場用草花の散水に利用している。
・ Ben Slimane では、ラグーンで処理した下水を再ばっ気し、WHO 基準の A ランクの水質
を確保し、ゴルフ場に散水している。また、乾季には、処理場下流の農家が、農業用水
に利用している。
下水処理水の農業用水利用は、水資源の節減、及び肥料使用量の削減、更には環境保全
という役割を担っている。表−7 に、処理水の農業用水利用による、水及び肥料のコスト
縮減効果を示した。
表−7
処理水の農業利用によるコスト縮減効果
1US$=9∼10DH
コスト縮減:水
(DH/ha)
コスト縮減:肥料
(DH/ha)
合計
(DH/ha)
小麦
750
1,492
2,242
とうもろこし
1,588
3,614
5,202
アルファルファ
774
1,539
2,313
ズッキーニ
677
1,545
2,222
トマト
1,553
3,542
5,095
資料3−25
2−7
水環境関連組織
水関係の法律としては、1995 年に制定された水法(Law 10−95 on Water)が基本法であ
る。水環境、下水道には、多くの組織が関係している。
(1)中央政府
①
水・気候最高会議(Superior Council of Water and Climate)
②
内務省(Ministry of Interior)
・地方自治体総局(General Direction of Local Municipalities):地方自治体の指導・監督
・公営事業・コンセッション総局(General Direction of State Owned
Companies and Concessions):公営企業及び契約企業の指導・監督
③
地域計画・環境・水省(Ministry of Territorial Planning, Environment and Water)
・環境局(Department of Environment):環境保全及び環境保全の法制度
・水局(Department of Water):水質基準と規制
・国家上水局(National Office of Drinking Water):上水処理、上水供給、
水質分析
④
住宅・都市計画省(Ministry of Housing and Town Planning)
・都市計画・建築総局(General Direction of City Planning and Architecture):下水道施設
を含む都市・地域計画
・都市計画局(Department of City Planning):都市開発を規制し、都市・
地方の人口や衛生・処理施設、排水施設、下水道等の多様な大規模施設
のニーズの将来予測を実施。都市・地方開発に関する法規制・規則、都
市計画に関する地方管理や都市計画の内容・規制の適用に関わる全ての
都市関連組織の監督。
⑤
農業・地方開発省(Ministry of Agriculture and Rural Development)
・農業局(Department of Agriculture):水流域団体(Hydraulic Basins Agencies)の監督
及びダムからの灌漑用水の管理
⑥
公共事業・交通省(Ministry of Public Works and Transportation)
・公共事業局(Department of Public Works):下水処理場、ポンプ場、ダム等の大規模
構造物の建設。
⑦
厚生省(Ministry of Public Health)
・公衆衛生局(Department of Public Hygiene):飲料水の水質
⑧
商工業省(Ministry of Commerce and Industry)
・工業局(Department of Industry):工業用水・排水の管理及び規制
⑨
エネルギー・鉱業省(Ministry of Energy and Mines)
・国家電気局(National Office of Electricity):大規模ポンプ場や下水処理場への電力供
給、ダム・貯水池における水管理
⑩
経済・財政省(Ministry of Economy and Finance)
財政局(Department of Finance):上記の事業者の支出に対する補助金・監督
資料3−26
(2)地方
下水道施設の建設、維持管理は基本的に地方自治体が実施している。しかしながら、カ
サブランカ等の大都市では、上水道及び下水道は海外の水会社が運営している。
・ カサブランカ:Lydec(フランス)
・ ラバト:Redal/Vivendi(フランス)
・ タンジール:Amendis(スペイン)
他の都市では、上水の処理及び供給は、公営企業が実施しているが、下水道については
自治体の責務となっている。また、小都市については、国家上水局が上水の供給を実施し
ている。
2−8
①
下水道事業の今後の課題
組織・法律等
・ 下水道関係の法律の未整備
・ 行政、住民等の協調不足:下水処理施設の整備及び処理水の再利用については、行政、
住民、利用者等の緊密な連携が求められる。
②
財政等
・ 下水処理施設建設の遅れ
・ 下水処理に対する政府の関与不足
・ 住民の財政力不足
・ 下水処理施設の建設費・機材費が高く、自治体の財政力を上回っている。
・ 処理水再利用のための施設(送水、貯留)の費用が高い
2−9 CASE STUDY THEME:ケーススタディ Sidi Taibi 地区の再構築
モロッコの首都 Rabat市では、生活費の日々の高騰によって、低所得層は最低限の生活費で過
ごすようになり劣悪なまたは不法な状態にある。Sidi Taibi市は、Maamora(国内最大の森林地帯)
の森に位置し、水道水源の首元にある。この地域では、都市施設が整備されていない不法居住者
の大移住地区で、上水に井戸を使用している人口稠密地域である。その結果、セプティックタン
クが水質悪化の原因となっている。この問題に対して、都市計画局(Direction of City Planning
plans)は、地区の再開発を行い、適切なマスタープランを策定することにより水資源の保全と
地区住民に対する居住環境の改善を計画している。
目的:Maamora森林と水源の保全・一体化のために、都市開発・下水道マスタープランの策定
許可を受けるための補助金を確保すること。
計画概要:
人口 31,000人 6,000戸 (スラム街) 予想戸数14,000
面積 690ha(農地・林地/国有地)
管路施設:コンドミニアル下水道(住宅地内)
処理場:ラグーン法
計画着手:1997年
資料3−27
参考資料
1) 2005 年度 JICA 集団研修「下水道コースⅢ」参加研修生
Country Report, Case Study
2)2004 年度 JICA 集団研修「下水道コースⅢ」参加研修生
Country Report, Case Study
3.
ODA関連情報
3−1
専門家派遣情報
・短期専門家
① 環境行政調査指導
花嶋 正孝
(福岡大学)
田中 勝
(国立公衆衛生院)
石川 忠男
(日本下水道事業団
柴田 高博
(建設省都市局)
柴田 雅人
(厚生省)
② 環境行政調査指導
長谷川 清
3−2
【S52.10.1∼S52.10.30】
【H11.1.25∼11.4.25】
(住鉱コンサルタント)
モロッコ関連調査レポート
JICA 国際総合研究所
No.
書誌事項
1
モロッコ国環境行政(廃棄物処理・下水道)専門課帰国報告書. : 国際協力事業団、
1978
資料3−28