タイトル ソーシャル・コンピューティングとは何か : 技術が 拓く未来 (第1部

 タイトル
ソーシャル・コンピューティングとは何か : 技術が
拓く未来 (第1部 : 講演3)
著者
増永, 良文
引用
社会情報 = Social Information, 22(2): 26-35
発行日
URL
2013-03-30
http://hdl.handle.net/10742/1697
札幌学院大学総合研究所 〒069-8555 北海道江別市文京台11番地 電話:011-386-8111
社
2
6
会
情
報
Mar
.2
0
1
3
第1部:講演3
ソーシャル・コンピューティングとは何か
얨技術が拓く未来
얨
Whati
sSoc
i
alComput
i
ng?
Al
e
adi
ngTe
chnol
ogyf
ort
heFut
ur
e
増永 良文
【経歴】
東北大学大学院工学研究科博士課程電気及通信工学専攻修了,工学博
士.専門 野は,データベースとウェブテクノロジに関する研究.情報
処理学会データベースシステム研究会主査,情報処理学会監事,ACMSI
GMOD日本支部長,日本データベース学会設立準備会世話人代表を
歴任.情報処理学会フェロー,電子情報通信学会フェロー,お茶の水女
子大学名誉教授.
『リレーショナルデータベース入門.新訂版.―データ
モデル・SQL・管理システム』など,データベースに関する著作多数.
日本データベース学会会長.
【要旨】
ウェブ(Web)が登場して 2
0年がたち,インターネット技術が格段に
進歩した今日,新しいコンピューティング・パラダイムが 成されつつ
あます.それがソーシャル・コンピューティング(s
oci
alc
omput
i
ng)
です.ソーシャルとは文字通り社会的という意味ですが,ソーシャル・
コンピューティングでは社会の構成員たる群衆が直接コンピューティン
グに参画していきます.この変革はコンピューティングの 野だけでな
く,社会科学の 野でも集合知(c
)の持つ力とし
ol
l
ec
t
i
vei
nt
e
l
l
i
ge
nce
て広く認識されるようになっています.ソーシャル・コンピューティン
グによりどのようなことが可能になったのかという技術的側面と,その
社会的な影響について「社会の中の技術」を議論することにより,未来
を構想したいと えます.
1.はじめに
学部は4年前に出来まして,それで今,丁度
青山学院大学の社会情報学部の増永といい
4年生は卒論に初めて取組み出して,去年か
ます.私も社会情報学部でして,札幌学院大
らですけれども就職に一生懸命という所で,
学は 2
0年なのですけれども,
我々の社会情報
大変若い学部なのですけれども,皆さん方と
志を同じくして社会情報学を勉強している学
MASUNAGA Yos
hi
f
umi 青山学院大学社会情報学部教授
部です.従って,今日の私の話は,実は4年
2
Vol
.
2
2 No.
震災を乗り越える社会情報学
2
7
前に青学の社会情報学部の教員になりまし
問
野をスタート地点として,社会情報学と
て,その時に
「社会情報学ってなんだろう?」
いう新しい学問
と,非常に素朴で単純な疑問を持ったという
で,情報科学の基礎となっているコンピュー
所からスタートしています.
ティング自体に関する一定の認識から話を進
野を目指している所なの
今日は森田学部長から4人の講師の紹介が
めたいと思います.コンピューティングと
ありましたけれども,私の話はある意味テク
言っているのは何なのかということですけれ
ニカルで,他の3先生が社会学の第一線の研
ども,これ自体はそんなに唐突な定義ではな
究を行っていたり,或いはジャーナリストと
くて,一般にコンピュータを
して第一線で活躍をされていたりする話なの
をしたりして情報処理をすることというコン
ですけれども,私は元々データベースが専門
センサスは得られていると思うのです.
ったり,操作
野なので,社会学的
それを簡単に図式化してみると,図1のよ
な観点とはまた少し違うので恐縮なのですけ
うに,根底にコンピュータがあり,そしてイ
れども,幸いな事に先程の I
WJの岩上さんの
ンプットがあり,そしてアウトプットがある
話,或いは最初の早稲田大学の伊藤先生の所
という,そういう仕組みだと思うのです.皆
にも「集合知」という観点があったので,そ
さんが例えばプログラムを書いて入力を与え
の集合知によって支えられる「ソーシャル・
るとちゃんと計算が出てくる.その時の一つ
コンピューティング」というのは何かという
のキーワードは「再現性」だと思うのです.
ことで,技術が拓く未来をお話させて頂きた
どなたが何時,どう操作しようともあるプロ
いと思います.
グラムがきちんと動いていれば,同じ入力を
でエンジニアリングの
実は札幌学院大学の社会情報学部の先生と
与えれば同じ出力が出て来るという意味で,
か,今日既にお話になった伊藤先生とか,そ
コンピュテーションの過程に再現性があると
して私の後にご発表になります東北大学の正
いうこと,そこが基本なのです.けれども,
村先生とか,日本社会情報学会の力も合わせ
ソーシャル・コンピューティングと言った時
て,社会情報学とは一体何だろうということ
には,こういうモデルで良いのだろうか.そ
を集合知的に明らかにするという研究をやっ
こは多
ていまして,ソーシャル・コンピューティン
るとどのような形のモデルがソーシャル・コ
グとは何かというテーマの中で,皆さんにそ
ンピューティングになるのか,そしてコン
ういう取組についても紹介をして行きたいと
ピューティングとどういう関係になるのか
思います.
を,フォーマルな観点からきちんとしてみた
違うと思うのですけれども,そうす
いなと思います.
2.ソーシャル・コン ピューティン グ
とは何か
いう言葉なのですけれども,それを調べた結
はじめに,ソーシャル・コンピューティン
果を皆さんにお伝えします.ソーシャル・コ
先ず,ソーシャル・コンピューティングと
グは一体何だろうという話をしてみたいと思
います.ソーシャル・コンピューティングは,
ある意味,若い言葉なのですけれど,どうい
う具合にきちんと捉えるべきかについて先ず
話をしたいと思います.
社会情報学部ですと,基本的には,社会科
学と情報科学の融合というか,その二つの学
図1
社
2
8
会
情
報
Mar
.2
0
1
3
ンピューティングという言葉はある意味バズ
かブログと言っているのは弱い意味になっ
ワード,流行言葉になっているのですけれど
て,強い意味と言っている所はどうなってい
も,私が認識するようになるのはほぼ数年前
るのかというと,
「群衆の英知」という言い方
のことです.
既にソーシャル・コンピューティ
をしています.それを際立たせたのがアメリ
ングということを掲げた国際会議が,実は
カ の ジャーナ リ ス ト の ジェーム ス・ス ロ
2
0
09年に開催されていて,それはバンクー
ウィッキーの本,
(
『「みんなの意見」
は案外正
バーで 行 わ れ た ソーシャル コ ム(Soci
al
しい』,小高尚子(訳)
,原本:The Wisdom
)
というのですけれども,これが,き
Com-0
9
of Cr
owds: Why the Many Ar
e Smar
ter
ちんとした米国の学会が仕切って行われた世
Than the Few and How Collective Wisdom
界で最初のソーシャル・コンピューティング
Shapes Business, Economies, Societies and
の国際会議です.私もそこに出まして座長な
,角川書店,2
0
0
6
)ですが,そ
Nations ,20
0
4
んかをやったりしたのですけれども,論文の
れにより,人々のグループによる計算を,強
採択率は9%という非常に高いクオリティー
い意味でのソーシャル・コンピューティング
になりました.私は今日本データベース学会
という意味としています.
の会長を務めていますけれども,それまでは
例 と し て は,協 調 フィル タ リ ン グ(c
ol
-
データベースに関する人材の育成と科学技術
l
abor
at
i
vef
i
l
t
e
r
i
ng),或いはオークションで
の振興ということを定款に掲げていたのです
す.Amazonとか,楽天でやっています.ま
が,昨年6月の
会では,学会の定款に,デー
たは評価システム(r
)で
e
put
at
i
on s
ys
t
e
ms
タベースに加えて,メディアコンテンツ,情
す.或いは皆さんやっているかどうか知りま
報マネージメント,そしてソーシャル・コン
せんけれども Fl
i
c
krなんかのタグ付けです.
ピューティングに関する人材の育成と科学技
猫 の 写 真 を アップ す る 時 に タ ク ソ ノ ミー
術の振興を掲げて,対象領域を広げました.
(t
axonomy)のタギングだと,ただの「猫」
さて,外来語ですから,英語版のウィキペ
になりますけれども,フォークソノミー
(f
ol
-
ディアで,ソーシャル・コンピューティング
ks
onomy)タギングだと「可愛い」というタ
というのはいつ頃出たのかなと思って調べて
グを付けて登録できます.
みますと,2
0
0
5年の1月 2
1日にソーシャル・
そういうシステム,そういうやり方,そう
コンピューティングという記事が立って,そ
いう
れが初めてでした.
その時に書いてあるのは,
グの強い意味で,それが群衆の英知のモデル
電子メールや,俗に言うチャット,ブログで
によってもたらされたものであるという定義
す.今から5,6年位前,ソーシャル・コン
を打ち出したのです.皆さんの中には,この
ピューティングというのは電子メールとか
本をお読みになったかも知れません.この本
チャットとかブログとか,そういうことだっ
が契機となってソーシャル・コンピューティ
たのです.
ングというのが,新しいコンピューティング
ところが,随
え方がソーシャル・コンピューティン
認識が今とは違っていて,
の形態として出現したということが,米国の
その後ウィキペディアの記事がどう変化した
ウィキペディアに明記されるようになったの
のかなと思って,
ヒストリーを
です.
ってみると,
実は 20
0
7年6月 1
4日に記事が大幅に書き変
それを受けて,私はソーシャル・コンピュー
えられます.どういう具合かというと,要す
ティングのフォーマルモデルというのは,こ
るに弱い意味と,強い意味の定義があって,
ういう形じゃないかなと論文に書きまして,
最初の 20
0
5年頃のeメールとかチャットと
日本データベース学会の論文誌の去年(2
0
10
2
Vol
.
22 No.
震災を乗り越える社会情報学
2
9
年)の6月号に収録して頂いたのですけれど
グ・インフラストラクチャと書きました.
ソー
も,先程の従来のコンピューティング,計算
シャル・コンピューティングの一つの典型事
という概念というのは,インプットがあれば
例は,ウィキペディアだと言われています.
コンピュータがそれを処理して出力を出しま
ウィキペディアのことを
すよ,という世界だったのです.けれども,
ウィキという,ウェブ上で稼働するソフト
スロウィッキーが言っている群衆の英知モデ
ウェアの上に作られる知の集約システムです
ル が きっか け と なった ソーシャル・コ ン
けれども,それがソーシャルコンピューティ
ピューティングにとっては,主役を担ってい
ング・エンジンになるだろうし,ソーシャル
るのは,
「gr
」即ち群衆,クラ
oupofpeopl
e
コンピューティング・インフラストラクチャ
ウド(c
r
owd)です.
と言っているのはそういう装置が稼働する基
それを
え る と ソーシャル・コ ン ピュー
ティングのモデルは図2のような形なのでは
ないでしょうか.インプットがあって,何ら
えれば,メディア
盤としてのもの,
ウィキペディアの例ですと,
ウェブそのものになります.
そこで次の議論のために
えておきたいの
かの処理がされて一端出力は出るのですけれ
は,図2のフィードバック・ループを削ると
ども,その出力を,群衆,人々は敏感に見て
どうなりますかということです.
そうすると,
いて,それを取り込んで,そして彼等が,ま
インプットがあってアウトプットがあって,
た彼等独自の意見というか,そういうものを
ソーシャル・コンピューティングではクラウ
新たに入力にほどこして,インプットとアウ
ドが加わった訳ですけれども,このクラウド
トプットを重ねます.すなわち,群衆によっ
のループを削ると,これはインプットがあれ
てフィードバック・ループが形成されて,こ
ば何かが動いてアウトプットが出るというこ
の繰り返しの計算過程で,一つのきっかけの
とになりますから,
これは先程冒頭に述べた,
入力があり,その出力に反応した入力がある
図1のコンピューティングのモデルになりま
と新たな計算がされていくという,その過程
す.
をソーシャル・コンピューティングというの
その意味で,コンピューティングというの
えます.そうすると当然です
はソーシャル・コンピューティングと言われ
けれども,同じ入力を与えて,それが計算さ
ているモデルのある一つの特殊な場合になる
れて,それがクラウドによってフィードバッ
ということです.
「I
SA」と表わすと少し語弊
クされて,それがまた新たな計算の結果を生
があるかも知れないのですけれども,概念の
んで行きますから,同じ入力を与えても,時
包摂的包含関係を表す関係性と捉えるとすれ
間とか場所とかいろいろな環境が変われば,
ば,今この2つの図の関係から Comput
i
ng
その出力は当然変わって来るだろうと思いま
I
SAs
oci
alc
omput
i
ng,即ちソーシャル・コ
ではないかと
す.そういう意味でソーシャル・コンピュー
ティングのこのモデルにおいて,従来のコン
ピューティングが持っていた最大の特性であ
る再現性というのは実現されない.
かえって,
そのクラウドが直接に意思決定に絡むという
意味で極めて民主性に富んだシステム,計算
の過程になります.
ここに,ソーシャルコンピューティング・
エ ン ジ ン と,ソーシャル コ ン ピューティン
図2
社
3
0
会
ンピューティング は,概 念 的 に コ ン ピュー
ティングを含むモデルになります.その意味
情
報
Mar
.2
0
1
3
コ ン ピューティン グ・カ リ キュラ ム 2
0
01
(CC20
)によれば,コンピューティングには
0
1
でこれまでのコンピューティングを方向付け
次の5つのサブエリアがあります.CE
(Com-
する新しいパラダイムを提供したということ
,CS(Comput
put
e
r Engi
nee
r
i
ng)
e
r Sc
i
-
になります.
ence),SE(Sof
t
war
e Engi
neer
i
ng), I
S
実は,ウィキペディアの記事を見ていた時
(I
nf
or
mat
i
on Sys
t
e
m),I
T(I
nf
or
mat
i
on
に,
冒頭にこういうことが書いてあるのです.
Te
chnol
ogy)です.明らかに,コンピュータ
ウィキペディアの冒頭,
最初の 2
00
5年の記事
サイエンスは,コンピューティングのサブエ
もそうですし,その後に改正された 2
0
0
7年の
リア,一
記事もそうですけれども,冒頭に「Soci
al
摂的包含関係で表現すれば,コンピュータサ
c
omput
i
ngi
sage
ne
r
alt
e
r
mf
oranar
e
aof
イエンスというのはコンピューティングの一
」
と書いてあるのです.即
c
omput
ers
c
i
e
nc
e
.
.
.
野になっていますから,先程の包
野だという事を,この権威ある I
EEECS
ち,皆が騒いでいるソーシャル・コンピュー
と ACM のワーキンググループの人達は認め
ティングは,コンピュータサイエンスの一
ているということです.
野ですというのです.それで私は,大変疑問
そうすると,非常に簡単な話で,ウィキペ
に感じました.私の感触としては,ソーシャ
ディアは,ソーシャル・コンピューティング
ル・コンピューティングというのは人を巻き
がコンピュータサイエンスの一
込んで,群衆を巻き込んで計算そのものを
ました(
「Soc
i
alComput
i
ngI
SA Comput
e
r
やって行こうということです.従来のコン
」
).今ご紹介した I
Sci
enc
e
EEECSと ACM
ピュータサイエンスというのは,要するにコ
の CC2
0
01の主張は,コンピュータサイエン
ンピュータ中心主義で情報処理を全部やって
スはコンピューティングの一
行きましょうという世界です.なのに,人が
います(
「Comput
e
rSc
i
enc
eI
SA Comput
-
巻き込まれて人が行うコンピューティング
.もし,ウィキペディアの主張が正しい
i
ng」)
は,そのコンピュータだけで行われるコン
とすれば,この概念の包摂的な関係性という
ピュータサイエンスの一
の は 推 移 律 が 成 り 立 ち ま す か ら,
「Soc
i
al
野だというので
野だと言い
野だと言って
す.ウィキペディアの冒頭の記事はおかしい
Comput
i
ngI
SA Comput
i
ng」になってしま
のではないのかなと思いました.
います.ところが先程皆さんにお示ししたよ
では,コンピュータサイエンスというのは
うに,ソーシャル・コンピューティングはそ
どう定義されているか.実はコンピューティ
こに人が絡む,
群衆が絡むということなので,
ング・カリキュラム 2
00
1と言って,I
EEECS
ソーシャル・コ ン ピューティン グ は コ ン
(TheI
ns
t
i
t
ut
eofEl
e
ct
r
i
calandEl
e
c
t
r
oni
c
s
ピューティングを含む(
「Comput
i
ng I
SA
Engi
ne
e
r
s
Comput
e
rSoc
i
e
t
y)というアメリ
Soci
alComput
i
ng」)という話を先程しまし
カの電気電子技術者協会と ACM(As
s
oc
i
a-
た.我々が求めたこのことに逆の事ですから
t
i
onf
orComput
i
ngMac
hi
ner
y)というアメ
明らかに矛盾しています.
リカの情報関連の巨大学会,その2つのワー
I
EEECSと ACM のコン ピュータ サ イ エ
キンググループが作り上げたレポートがあっ
ンスはコンピューティングの一
て,それは 2
0
01年に
のは私もそう思います.では,この相矛盾し
表されたのですけれど
も,コンピューティングは,どんな学問
野
野だという
たものは,何から起こって来たのかと言えば,
で,このような学問体系ですということを策
ウィキペディアが何の根拠も無く,冒頭に,
定して
ソーシャル・コンピューティングというのは
表しています.
2
Vol
.
22 No.
震災を乗り越える社会情報学
3
1
野だと書いて
になるという期待をそこに非常に込める訳で
いる,その主張が間違っているからというこ
す.従ってそれだからこそ,日本データベー
とが
コンピュータサイエンスの一
かります.これはいずれ何らかの形で
ス学会の定款を変えてまでして,我々がカ
正して行こうと思っていますけれども,そう
バーすべき,今後の最大の目標というのは
いう意味で我々が今話題にしているソーシャ
ソーシャル・コンピューティングだと言って
ル・コンピューティングは,
従来のコンピュー
います.
ティングを含む新しいパラダイムを提供して
いるということです.
即ち,ソーシャル・コンピューティングの
意義というのは,従来のコンピューティング
3.ソーシャル・コン ピューティン グ
の典型的成功事例
ソーシャル・コンピューティングのこれま
を包摂する新しいコンピューティング・パラ
での典型的な成功事例はこの
ダイムだということと,そのベースにスロ
に蓄積されています.先程も話がありました
ウィッキーの TheWi
s
dom ofCr
owdsがあ
けれども,一つはウィキペディアです.ウィ
り,集合知に基づいているということです.
キペディア自体は 20
01年に始まったのです
コレクティブ・インテリジェンスというの
は1
9
90年代の最初から既にいろいろな
野でそれなり
けれども,今はアメリカの英語版で 3
5
0万件,
野
記事があるということです.ウィキペディア
で概念があります.例えば蟻が集団として,
に関する本もいろいろ出ています.セールス
あたかも一定の意思を持ったように振舞いま
ポイントとしての一つの大きな効果は「参加
す.あれもコレクティブ・インテリジェンス
(par
」
です.どうして一文も貰えな
t
i
c
i
pat
i
on)
です.では,スロウィッキーの群衆の英知は,
いのに記事を書いているのですか,何でああ
コレクティブ・インテリジェンスとは,違う
いう巨大なオンライン上の百科事典が出来上
のか,一緒なのか,どういう関係性にあるの
るのですか,ということの大きなモチベー
か.このことはスロウィッキーの本には書い
ションは,その構築に「参加」することに価
ていないのですけれども,スロウィッキーの
値を見いだしていることだと言われていま
YouTubeを幾つか丹念に聞いてみますと,
す.もう一つ,このウィキペディアのファン
彼は,はっきりと,群衆の英知モデルは,コ
ダーの一人が言っている話で,「ピラニア効
レクティブ・インテリジェンスの一つのモデ
果」というのがあると言われています.ピラ
ルだと言っています.集団があたかも何か一
ニア効果って何だろう.ピラニアというのは
つの意思を持ったように動くということに対
アマゾン川にいるピラニアの事です.一匹の
して,多様性,独立性,
ピラニアでは牛は殺せないけれども,沢山集
散性,そして集約
のメカニズムがあった時に,
そういう集団は,
まると巨大な一つの力となって牛でも食べて
きちんとした意思決定をする事が出来る.こ
骨だけにしてしまうという効果です.
のモデルを群衆の英知と彼は言っています.
次に,典型的な成功例として良く言われて
それがソーシャル・コンピューティングの
いるのは,グーグルの検索です.グーグルで
基になっているということで,私もそう思う
検索を行なって,例えば「ハワイ」と入れた
のですけれども,従って人々,先程パブリッ
時に何かそれらしき検索結果が出る訳ですけ
クという話もありましたけれども,
クラウド,
れども,あれはハワイというキーワードを沢
ピープル,パブリック抜きに情報処理は語れ
山含んでいるページ順に出て来ている訳では
ないということで,集合知という視点で
ないのです.もちろんそういう要素も
え
ると,これまでにない新しい情報処理が可能
慮さ
れますけれども,要するに何かハワイという
社
3
2
会
情
報
Mar
.2
0
1
3
と参照されることが多いページが結果として
した答えは返って来ないのではないかと思い
表示される訳です.そういう意味で支持票で
ます.その時にアードヴァークは,これはア
す.
ページランクというアルゴリズム自体は,
メリカのシステムですけれども,Fac
e
book
それ自体がどこまで他の人達によって支持さ
のようなソーシャル・ネットワーク・サービ
れているかで,票を貰うということですから,
スでの人のつながりを頼りに検索をするので
それは典型的なソーシャル・コンピューティ
す.要するに,自
ングの事例になっています.
その友達の友達というのを頼りに,新札幌に
また,
アマゾンの推薦システムもあります.
の友達,その友達の友達,
詳しい人,そして食べ物に興味のある人とい
皆さん,アマゾンをいろいろと利用された時
うのを,友達の輪を通じてみつけてくれるの
に何かを注文をすると「これをお買いになっ
です.そうするとグーグルで検索したよりも
た人は,こういうのも買っていますよ」とい
非常に的確な「あそこの店だよ」という話が
ろいろな形でどんどん推薦が来ます.それに
返って来ます.実際に私の研究室でアメリカ
評価のシステムまで付随しています.良かっ
にあるアードヴァークのサイトを
たとか,悪かったとか.アマゾンは,それに
に関して少し真面目な質問をしてみたとこ
参加してくれた人とか,購買をしてくれた
ろ,良く
ユーザとか,クリックをした人とか,メール
を見つけに行って,そしてあなたに「友達の
を書いてくれた人とか,そこら辺の事で成り
遠縁からこういう問い合わせが来ているのだ
立つ商売です.それも典型的なソーシャル・
けれど,答えてくれませんか」と言うとディ
コンピューティングの成功事例だと言われて
レー(del
0時間とか1
ay)が掛かるのです.1
います.Yahoo!
オークションとか楽天オーク
日とか2日とか.でも結構的確かな答えが出
ションがありますけれども,皆さんもオーク
て来るというので,これをグーグルが買収し
ションをもしやられたとしたら,あれも一つ
たのですけれども,グーグルに何か思う事が
の集合知になっています.
あったのでしょう,ついこの間アードヴァー
先程申したようなソーシャルタギングと言
われている Fl
i
ckrもそうです.タクソノミー
は要するに
類学なので,可愛い猫を撮った
写真をアップしようとすると
類学で行けば
「猫」
というインデックスを付けなければいけ
って数学
かった一つの欠点は,友達の友達
クのサービスが閉鎖されました.
ソーシャル・コンピューティングの典型事
例と言われているもう一つが Li
nuxのオー
プ ン ソース ソ フ ト ウェア の 作 り 方 で す.
Li
nuxというと,
かる方が一杯いらっしゃ
ません.ところがソーシャルタギングになれ
ると思いますので説明は省略しますが,そう
ば「可愛い」というタグを付けてそれをアッ
いうことです.
プする事が許されます.そういう世界が出来
上がって来ます.典型的な一つのソーシャ
ル・コンピューティングだと言われています.
また,多
4.ソーシャル・コン ピューティン グ
を学ぶ
皆さん知らないだろうと思うの
図3はソーシャル・コンピューティングを
ですけれども,これは最近閉じたのですけれ
学ぶために私が書いているシナリオで,これ
ども,アードヴァーク(Aar
dvar
k)というシ
に基づいて青学では私が講義をしていますけ
ステムがあるのです.ソーシャル サーチ を
れども,集合知,ソーシャル・コンピューティ
知っていますか.
グーグルで検索をする時に,
ングの話を理解して貰って,そして次にハイ
例えば新札幌で一番おいしい店を探すために
パーテキストとウェブから始まって,ウェブ
「新札幌一番おいしい店」
と入れてもきちんと
技術を理解して貰って,次に ソーシャル メ
2
Vol
.
22 No.
震災を乗り越える社会情報学
3
3
それと,先程の話を聞いていて本当にそう
だなと思ったのですけれども,
伊藤先生は
「第
二の近代」と確かおっしゃったのですけれど
も,情報社会というのはこういう形で展開し
ているかなと思っていて,その変遷を図4の
ように書いてみました.最初はコンピュータ
システムを作るという話になりました.次は
データベースで頑張りましょうという話にな
りました.その次はコンピュータネットワー
クですという話になったのですけれども,ま
だウェブも初めの頃はコミュニケーション指
図3
向が強かったのですけれども,質的な変化を
遂げたというのは,これは岩上さんの話にも
ディア,そ し て ソーシャル ソ フ ト ウェア,
あったように,私に言わせると集合知が出て
wi
ki関係を学びます.そして次は先程申した
来て,世の中はウェブ的にはコミュニケー
ようなソーシャルサーチに関する事例をいろ
ション指向を脱却して,今は集合知指向の情
いろと勉強して貰っています.
報社会,要するにクラウドが,人々が民主的
私は元々,データベース屋なのですけれど
に様々な意思決定のプロセスにどんどん入っ
も,こういう話をしているのはどうしてかと
て行く,そういう系図に移行しているのだな
いうと,データベースというのは元々世の中
という認識です.図4にそれを示します.
の写し絵なのです.データを解析するという
いうのも,実世界そのものを写し込んでいる
5.ソーシャル・コン ピューティン グ
の力で社会情報学の知識体系を策
定する 얨Wi
ki
BOK Pr
oj
e
ct
訳です.従って,ウェブをマイニングして行
次に,集合知を語るだけではなくて,冒頭
けばそこには社会が現れて来るという話と,
に申したように,社会情報学とは何かという
そして後は社会というのは人と人の繫がりが
話です.これは札幌学院大学社会情報学部が
りですから,そこら辺が如実に現れていると
2
0年も前に 19
91年に
いうことです.
生から 10周年の時に厳しいお話もあったと
ことは,実は世の中を知るということなので
す.そういう具合に
えて行くと,ウェブと
図4
られて,先程伊藤先
社
3
4
会
情
報
Mar
.2
0
1
3
いうような事もありましたけれども,本当に
例えば社会情報学とコンピュータサイエンス
社会情報学とは何かを,集合知として明らか
はどう違うのかということを比較する事も出
にする事は出来ないかという試みです.
来ます.ここで作り上げているシステムを,
このプロジェクトは,実は我々青山学院大
札幌学院大学の社会情報学部の皆さんが,学
学の社会情報学部の教員だけではなくて,札
生も含めて,自
幌学院大学社会情報学部の千葉先生,長田先
作り上げて頂ければ,青山学院大学の社会情
生,高橋先生にも正式にメンバーに入って頂
報学部の人達が,自
いて,作業をしております.それと今日伊藤
うだと作り上げる.そうすれば,札幌学院大
先生はお話になられましたし,今から正村先
学の社会情報学と,青山学院大学の社会情報
生もお話になられますけれども,日本社会情
学は,どう違うのだろうという比較も出来る
報学会の重鎮のお二人の先生にもメンバーに
訳です.他にもいろいろと出来るのです.
なっていただきまして,文科省の科学研究費
達の社会情報学はこうだと
達の社会情報学部はこ
知識体系はどういう形で作り上げられて来
補助金では昨年度,今年度,来年度,そして
たかというと,CC2
00
1に代表されるのです
青山学院大学の
けれども,その道の権威が作ってきたのです.
合研究所の研究助成として
は,
青学の社会情報学部が発足した 2
0
0
8年度
しかし,社会情報学のような新しい
野の学
から 11年度までということで研究を進めて
問体系を作り上げることのできる権威はいま
います.
すか.皆一応にそれなりに一家言をお持ちな
一つ,二つキーワードがあるのですけれど
のでしょうけれども,その全貌を語れる人は
も,BOK というのがあります.
「Body of
いないのではないかということがこの根底に
」というのですけれども,これは
Knowl
e
dge
あるのです.従って新しい学問
知識体系という訳です.学問
系というのは,トップダウンじゃなくてボト
野の体系を表
します.先程の I
EEECSと ACM が作り上
げたコンピューティング・カリキュラム 2
0
01
野の知識体
ムアップで作られるのです.
それらの断片的な知を,最終的には Body
(CC2
)というのは,コンピュータサイエン
00
1
ofKnowl
e
dgeとして集約して行くメカニズ
スはどういう学問体系になっているのかを作
ムをきちんと作り上げる事が出来れば,集合
り上げたのですけれども,例えば私の専門で
知として,大きく言えば ソーシャル・コ ン
あるデータベースの体系をと言われれば,
ピューティングの結果として,社会情報学と
データベースというのは,データモデ ル と
いう学問体系はこうだということを指し示す
データベース管理システムというサブ
事が出来ます.
野を
持っていて,データモデルでしたら,リレー
我々は BOK プラスという構築原理を
え
ショナルデータモデルとか,オブジェクト指
ました.要するに誰もその全貌を知らないの
向データモデルとか,そういうものを持って
ですから,先ずは
いるでしょうみたいな体系を作ろうという話
付資料から始まって,そこに生起してくる用
ですね.
語を整理して,その上で社会情報学はこうい
今,私達は wi
kiというウェブ上で協調作
業を支援するためのソフトを
って,集合知
として,社会情報学の知識体系を作ろうとい
っている教科書とか,配
う知識体系になっていることを作り上げて行
きます.
それで,20
08年から我々は始めているので
うプロジェクトをやっている訳ですけれど
すけれども,現在 Wi
ki
BOK というシステム
も,我々が開発しているシステムを用いて知
を構築しています.それは Se
mant
i
cMedi
a
識体系を構築する事が出来るようになれば,
Wi
kiと い う ソ フ ト ウェア と,ビ ジュア ル
2
Vol
.
22 No.
震災を乗り越える社会情報学
ゼーションのツールである Gr
aphvi
zという
のを
って,そして BOK Edi
,De
t
or
s
c
r
i
p-
3
5
す.
このプロジェクトはお蔭さまでいろいろと
,Edi
t
i
onEdi
t
or
tConf
l
i
c
tRes
ol
ve
rという
進みまして,先程挙げましたような先生方の
モジュールを中心にして,システム開発を今
ご尽力で,ある程度の環境を整えることがで
進めています.
きました.BOK 構築を実際行なってみると
BOK Edi
t
orというのは,ツリーである
集約力というか,何処まで多様な先生のご意
BOK 木を編集するツールです.そして BOK
見をうまくまとめて行けるのか,人の力に何
に出て来るノード,いろいろなノードが出て
処まで対応し,何処までシステムが判断して
来ると思うのですけれども,ノードというの
行かないといけないかという所が問題です.
は社会情報学を構成するであろう重要なキー
少なくとも来年度中にはシステムをオープン
ワードです.それをエディティングす る エ
ソースとして
ディタが De
s
c
r
i
pt
i
onEdi
t
orです.現在は,
れまでの研究成果を英語で幾つか出しており
Edi
tConf
l
i
c
tRe
s
ol
ve
rというのですけれど
ます.
開したいと思っています.こ
も,これは集合知のコンピューティングで宿
時間が来てしまいましたけれども,我々は
命的というか,必ず解決して行かなければい
2
00
8年からスタートしたのですけれども,札
けないことなのですけれども,一つのものを
幌学院大学と青山学院大学の先生方,日本社
いろいろな人が協同して編集して行く訳です
会情報学会の先生方の力を借りて,
是非,
ソー
から,ある人はAをBにしたいと思うかもし
シャル・コンピューティングという
れない,ある人はAをCにしたいと思うかも
会情報学の知識体系を作ってみたいというこ
知れない,そういうエディティングのコンフ
とで,この研究をやっております.ご静聴ど
リクトが起こります.衝突が起こります.そ
うも有難うございました.
こに一つのルールを設けて,解決して行きま
えで社