斜面を平地にする ― 石積み(いしづみ)や擁壁(ようへき) 我々が住んだり田畑をつくったりするためには平地が必要です。しかし、山が多く、平地の少 ない日本では、大昔から知恵と経験を積み重ねて、山の斜面を平らにする工夫をし、より豊かな くらしをするために努力してきました(図 1、図 2)。斜面を平地にする方法のうち、石積みとか 擁壁があります。高い山の上まで段々畑や棚田がありますが、その多くは、石積みを利用してい ます。一方、擁壁は土砂の崩れる(流れる、滑る)のを抑えます。 ここでは模型の斜面でさまざまな実験をして、土のくずれるのを止め、石積みや擁壁で斜面を 平地にする様子を学びます。 もとの斜面 擁壁によって平地をつくる 図 1 家を建てたり、道路を造ったりするためには斜面のままではで きないので、壁によって土を支えて平地をつくる。 図 2 狭い土地を有効に使うため、昔から石を積んでい くつもの石の壁で田畑を作ってきた。 【実 験】 1. 用意するもの (1) 実験用の台:6∼9 mm のベニア板 60 cm×60 cm 以上 1 枚、同 20 cm×60 cm1 枚 (2) 透明仕切り板 2 mm 以上のアクリル板を加工して作成する。 図 3 加工説明図 (3) 乾いた砂 ― バケツ一杯(10 リットル程度) (4) じょうご (5) スプレー(砂を湿らせる) (6) 模型の擁壁 2 mm 前後の塩ビあるいはプラスチック板で作成(厚紙、ダンボールでも良い) このような形が保てないようで あれば、支えを付ける 4 cm 5 cm 3 cm 図 4 模型の擁壁 (7) 粘土で作ったサイコロ状のもの(乾燥させたもの) ― 大 30∼40 個、小 10 個くらい(図 5)。 作り方は、ベニヤ板の上に粘土を必要な厚さの板状にしてからナイフで切れ目を入れ、適宜 ばらばらにして乾燥させる。粘土は切りやすい硬さにして作る。 2 cm 1 cm 1.5 cm 1.5 cm (大) 図 5 粘土のサイコロ 図 6 のし棒で厚さをそろえる (i) のし棒で厚さをそろえる(図 6)。 (ii) 所定の大きさにカットする(図 7)。 図 7 (a) 所定の大きさにカット 1.5 cm (小) 1.5 cm 図 7 (b) 所定の大きさにカット (iii) 柔らかいうちに形を整えてから乾燥させる。 2. 実験方法 (1) 乾いた砂と湿った砂で斜面を作ってみる。図 8 のように、きれいな山ができる。 図 8 乾いた砂でつくった斜面 (2) 壁際に模型擁壁を置いて平地を作ることができる。湿った砂でも同様に実験をすると、湿っ た砂の方が崩れにくいので、崩れる砂を支える力は少なくてすむ。つまり、土の種類によっ て土を支える壁(擁壁)の大きさが変わる、つまり工事費も変わることになる。 図 9 擁壁で平地をつくる (3) 次に、台を振動させてみる。模型擁壁が滑らないように工夫する(図 10)。 図 10 擁壁がすべらないようにして振動を加えてみる (4) 壁際にブロックを積んで石積みを作り、砂を入れて平地を作る(図 11)。石積みブロック擁壁 は 2 段あるいはそれ以上にもできる(図 12)。 図 11 石積み擁壁 図 12 石積みブロックは 2 段にもできる (5) 石積みブロック擁壁に振動を加えてみる。傾いていく様子がわかる(図 13)。粘土ブロックを 図 14 のように傾けて石積みを作り、振動を加えてみると、図 13 のときよりも崩れにくいこ とがわかる。 図 13 石積みブロックに振動を加える様子 図 14 ブロックを傾けると振動を与えても崩れにくい 【実問題との対応】 実験でわかるように、石積みや擁壁によって土を支えて平地を作ることができます。 実際の擁壁には、穴が空いています(図 15)。これは、擁壁の後ろに雨など水が溜まると、土 が重くなって擁壁は大きな力を受けることになり、それだけ大きく丈夫なものを作らなければな らなくなるからです。水が流れ出やすいように擁壁のすぐ後ろには水を透しやすい材料を使い、 水が出る穴を明けておくわけです。つまり、擁壁は経済性を考えて作られています。 また、ブロックを傾けて石積みを作った方が崩れにくかったですが、この原理を利用して実際 に石積み擁壁は傾けて作ってあります。これの規模の大きなものに、図 16 のように、お城の石積 みがあります。今では石の代わりにコンクリートで作ったコンクリートブロック擁壁が多くなっ てきています。 土 水抜き穴 砂など水を通しやすい材料 土 図 15 擁壁にあいている穴の役割 − 図 16 お城の石積みの例 【参考文献】 1) 田中輝彦:「重力の達人」(岩波ジュニア新書)p. 73 水が流れ出やすいようにしている
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