八丈島地熱発電所 - 千葉大学工学部都市環境システム学科佐藤研究室

八丈島地熱発電所/八丈島風力発電所
都市環境システム学科 助教授 佐藤 建吉
1. 研究の目的と方法
自然エネルギー利用の実践を調査するため平成 14 年 1 月 12 日∼13 日に東京都
八丈島を訪ねた。調査目的は、東京電力株式会社が行っている自然エネルギー利用
の発電所としての地熱発電所と風力発電施設の見学、それに島内電力の供給状況を
視察、ヒアリングし、資料収集することである。
2. 東京都八丈島の概況
八丈島は、東京の南方 290km に位置し、面積は 66km2 である。隣接する三原山火
山と八丈富士火山の 2 つがつながってできており繭型をしている。東京からは、飛
行機で 45 分である。島の集落は、三根、大賀郷、樫立、中之郷、末吉の5地区か
らなり、人口は 9300 人程度である。
上の写真は、飛行場の前から撮った八丈富士で、標高 800m である。
上の写真は、八丈富士の全景で、中腹に後で示す小型風車が設置されている。
さて、島内の電力供給は東京電力株式会社銀座支店が所轄で、その八丈島事務所
が担当し、内燃力発電所(11,100kW)と地熱発電所(3,300kW)が主力であるが、こ
れに風力発電所(500kW)が平成 12 年に追加されている。八丈島の電力は昭和 2 年に
毛串山水力発電所が最初であったが、鳴沢水力発電所が追加され出力 180kW で昭和
31 年まで運転された後、昭和 32 年に内燃力発電所が出力 120kW として運転された。
その後、電力需要の増加とともに出力アップされて来たが、昭和 47 年に 1,000kW
の内燃力発電機が追加され 3,800kW になり、以降順次増強され、平成 10 年までに
11,100kW の出力に増加した。平成 11 年に地熱発電所が運転開始した。以下に、そ
れぞれの内容を記す。
3. 八丈島内燃力発電所
八丈島空港で八丈島事務所長の諏訪大湖氏の出迎えを受け、島内中央の大賀郷地
区にある八丈島内燃力発電所を最初に視察した。ここは、その後調査する地熱発電
所と風力発電所から送られてくる電力を管理している中央管理室の役割も担って
いる。
内燃力発電所は、ディーゼルエンジンを用いた火力発電所である。現在、下表の
ように 6 つのユニットがあり、総計 11,100kW の出力である。
表
ユニ
ット
No
ユニッ
ト出力
(kW)
発電機
出力
(KVA)
1号機
2,500
3,125
6号機
600
7号機
内燃力発電所設備の概要
波形
発電機
メーカ
エンジ
ン出力
(PS)
エン
ジン
メーカ
回転
速度
(rpm)
6,600
交流型
西芝電機
3,600
新潟鉄工
429
H8.4
750
6,600
交流型
明電舎
900
新潟鉄工
1,000
H10.3
1,000
1,250
6,600
交流型
日立
1,450
新潟鉄工
375
S47.6
8号機
2,000
2,500
6,600
交流型
東芝
2,900
新潟鉄工
429
S49.6
9号機
2,000
2,500
6,600
交流型
日立
2,900
新潟鉄工
429
S50.7
10 号機
3,000
3,750
6,600
交流型
明電舎
4,260
三井造船
500
S56.7
移動用
600
750
6,600
交流型
明電舎
900
ダイハツ
750
H4.6
出力
合計
電圧
(V)
運転
開始
11,100
この発電所は、地熱発電所が定常的発電している電力を超える電気をカバーする
ために稼動している。八丈島では 10 時から 22 時までが 10,000kW を超える電力需
要があるので、内燃力発電でもこれをカバーできるようになっている。
写真は、稼動中の発電機(8 号機、東芝製)。
写真は、燃料として利用される A 重油のタンク。
4.
八丈島地熱発電所
八丈島では地下深部の高温高圧熱水という自然エネルギーを活用した 3,300kW
の地熱発電を平成 11 年 3 月から行っている。その経緯は、平成元年から 3 年にお
ける NEDO による地熱開発促進調査、翌 4 年から 5 年における東京電力による高精
度地表調査、7 年から 8 年にかけての調査井掘削および蒸気噴出試験を経て、さら
に自然保護調査と対策を行い、平成 10 年に発電所建設着工、11 年 3 月に発電運転
開始、となっている。
八丈島地熱発電所は、島の東側の中之郷地区にあるが、この地域には温泉があり、
地表から浸透した地下水が地下のマグマ溜まりにより加熱されたものである。この
地域の地下にはキャップブロックという、丁度ドーム状に蓋の役目をしている地層
があり、その下では地熱が貯蔵され、したがって、地下水が高温・高圧の状態、す
なわち熱水化している。下の図は、地熱博物館で展示している地熱発電の原理と地
下構造、とくにキャップロックを示している。熱水は、地下 1500mのところから
採取している。
キャップロック
地熱発電の原理
上の写真は、地上部分に敷設されている硫化水素除去装置などである。
八丈島地熱発電所の出力は 3,300kW であるが、これは本島での夜間の電力需要に
相当し、ベース電力を供給する発電施設である。これにより内燃力発電による場合
の CO2 の発生を 4 割減らすことができるという。なお地熱発電所は、日本全国に 17
箇所あり、全体の出力は、533,300kW 程度である。その立地は、火山帯に限られ、
北海道1、東北7、関東1、九州8箇所となっている。
5.
八丈島風力発電、NAS 電池施設
引き続いて、地熱発電所の敷地内に設置されている風力発電と NAS 電池施設を視
察した。風力発電機の容量は 500kW で下図に示すように水平軸 3 枚翼風車である。
特徴としては、多極発電機であり、ナセルが小さいタイプである。メーカはドイツ
のエネルコン社である。翼直径 40m、タワー高さ 44m である。本発電機は平成 12
年 3 月に営業運転を開始した。
3 枚翼多極風力発電機(ドイツ製)
地熱館の中に風力発電機の出力を常時モニターしており、訪問時は 10m/s 以上
の風を吹いており、定格値に近い出力が得られていた。定格出力は 14m/s である。
風力発電出力のモニター装置
風力発電は風速変動により電圧、周波数にも変動が生じること、また風速が弱い
ときには発電できないこと、さらに弱風から強風になり、カットイン風速に達して
発電開始時は出力変動が大きいことなど、設備電力容量が小さい島内での利用では
解決すべき課題が多い。そこで八丈島でも風力発電機の出力安定化の実証試験を行
うため、NAS(ナトリウム硫黄)電池(容量 430kW)を平成 13 年 2 月に設置された。
NAS 電池は、これまでの鉛電池と比べてエネルギー密度が 3 倍あり、小型で自己放
電がなく寿命が長いという特徴があり、負荷平準化を目的とする電力貯蔵システム、
非常電源として注目されている。現在、出力安定化効果のデータ収集が行われてい
る。
6. 町営ふれあい牧場小型風力発電所
八丈富士の中腹には、町営の八丈牧野ふれあい牧場に設置されている小型風車発
電システムが稼動している。風車はフランス製の出力 5kW 機で、合計 20kW である。
風速 3.5m/s で回転開始、4.5m/s で発電開始、12.5m/s で定格出力を得る。このほ
かディーゼルエンジン駆動による発電機も設置されているが、燃料節約のためにこ
の風車が平成 8 年に設置された。電力貯蔵には鉛蓄電池が設置されており、発電し
た電力は、牛の電子体温計、製品保存冷蔵庫、また休憩所の照明、トイレ用ポンプ、
自動販売機の電源として利用されている。ただし、訪問時は、メンテナンスのため
1台だけの稼動であった。下の写真は、4 台の集合写真である。2 枚翼であること
がわかる。
ふれあい牧場の発電風車(フランス製)
7.
終わりに
離島での自然エネルギー利用の調査のため東京都に帰属する八丈島を取り上げ
た。地熱発電と風力発電を組み合わせて電力需要のベース電力として、これをディ
ーゼル発電により負荷調整している現状を知ることができた。地熱発電は、安定し
た電力を供給できるので、地域電力源としては、CO2 削減の意味からも重要である。
千葉県も温泉地があり、調査をすることも意義深いと思われる。風力と太陽光な
ど潜在する自然エネルギーの利用は、
おわりに今回の調査は、東京電力株式会社銀座支店ならびに同八丈島事務所の所
長・副所長(下写真)の協力により、現地施設の詳細な案内と資料提供を頂きまし
た。また本学科学生・丸島忠夫氏には、同道して現地調査に協力していただきまし
た。これら関係者に御礼申し上げます。
お世話いただいた八丈島事務所長(右)と副所長(左)