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Apr. 2013
Vol.31
Medical Device Daily
カプセル内視鏡のパイオニア
これからも患者や医師の希望を現実に……1
Medical Device Daily
競争が激化する中国の医療機器市場……3
Same-Day Surgery
その術前検査、必要ですか?……5
Same-Day Surgery
汚染薬剤による髄膜炎が拡⼤……7
インド専⾨ニュース
インド通信……8
メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
予防接種の効果はたったの 9%?……9
The Academia Highlight[31]
古くて新しい免疫の仕組み……10
by うのめ・たかのめ
Medical Device Daily……11
Kawanishi Hotline……19
ヒューマンドキュメント医療機器を開発した⼈たち
「ラップディスク開発物語」-6-……21
Apr. 2013
Vol.31
カプセル内視鏡のパイオニア
これからも患者や医師の希望を現実に
ギブン・イメージングの社長兼CEO Nachum Shamir氏インタビュー
――Jim Stommen/MDD 寄稿者
口からも肛門からも遠
れらの要素を結びつけられないかと考え始めまし
く内視鏡が届きにくいう
た。そして 1998 年、飲み込むだけで小腸を撮影
え、6mにおよぶ長さがあ
できる使い捨てカプセルの初めての試作品を作っ
る小腸は、長い間人体の
たのです。
2001 年、我が社は世界で初めて、小腸用カプセ
「暗黒大陸」とされてき
ル内視鏡の CE マークと FDA 承認を取得しまし
た。その検査に革命をも
た。現在では、PillCam SB(小腸用)、PillCam
たらしたのが、ギブン・
イメージングのカプセル
COLON(大腸用)
、PillCam ESO(食道用)など、
内視鏡である。患者は飲
いくつかのタイプを開発しています。
み込むだけでよいので挿入の苦痛から解放され、X 線
透視にはつきものの放射線を浴びる心配もない。同
PillCam は御社の製品としては最も知ら
様の製品は、オリンパスやアールエフからも発売さ
れていますね。現在の開発状況を教えていただけ
れており、観察プラスアルファの機能の搭載をめざ
ますか?
し、開発競争は激しさを増している。
Shamir
カプセル内視鏡という新たな分野を切り開いたギ
小腸用でいえば、我々は 2001 年に最初
ブン・イメージングの社長兼 CEO を務める Nachum
の認可を受け、2006~2007 年には、光学技術・
Shamir 氏に、カプセル内視鏡の未来についてうか
電池寿命・ソフトウェアを大きく前進させた、第
2 世代のカプセルを発売しました。今年は、第 3
がった。
世代の PillCam SB 3 を発売する計画です。まず
欧州で発売し、米国では市販前届 510(k)が完了し
次第、今年中に発売する予定です。
ギブン・イメージングは、カプセル内視
大腸、下部消化管用では、昨年 11 月に PillCam
鏡分野の先駆者です。創業の経緯をお聞かせくだ
COLON 2 の販売承認を FDA に申請しました。
さい。
また、日本の厚生労働省にも日本での臨床試験の
Shamir
1980 年代に、イスラエルのある消化器
結果を提出し、承認を待っているところです。い
内科医が、
「大腸内視鏡検査では小腸全体を見るこ
ずれも年末までには決定が出るでしょう。この製
とができない」と創設者の 1 人である Gabi Iddan
品には非常に期待しています。大腸を非侵襲的に
に 嘆 いた こ とが 発端 で す。 エン ジ ニアだ っ た
可視化するという、いままで満たされていなかっ
Iddan はこの問題の解決法として、嚥下可能な画
たニーズにかなり応えられる製品だと思います。
像診断カプセルというアイデアを思いつきました。
PillCam 全体での販売数は、世界中で 200 万個
ただ、この新たな診断ツールを作るには、十分な
の大台に近づいています。今年だけで、25 万個近
電池寿命・光源の必要性、その環境下で機能する
く販売することになるでしょう。
光学レンズなどの問題がありました。
1990 年代半ばにはモバイル技術が登場し、電子
消化器内科医はほかの専門医に比べて表
機器の小型化も実現しました。そこで Iddan はこ
舞台に立つことが少なく、その役割はあまり知ら
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Vol.31
りません。しかも、保険者から見ても非常に費用
れていません。ここ数年で変化はありましたか?
対効果が高いのです。
Shamir
いくつかのタイプの消化器内科医がい
ますが、そのなかの1つが内視鏡治療医です。彼
らは多くの複雑な処置を行っており、新しい技術
に高い関心を持ち、適切な臨床データが入手でき
れば採用にも前向きなことで知られています。コ
ンピューター、iPhone または iPad で画像を見る
飲み込んだカプセルが撮影し
た画像は、身に着けたデータ
レコーダに無線で送られる
ことを全く厭わない新世代の消化器内科医です。
PillCam は最先端の製品なので、米国のほとん
どすべてのクリニックや病院で使用されています。
(http://www.givenimaging.com/)
PillCam SB の発売前は、小腸の問題を抱えた患
FDA の認可や償還問題へはどのように対
者の診断や治療には、
しばしば手術が必要でした。
いまは患者が PillCam SB を飲み込むだけで、出
処されてきたのですか?
血源を特定したり、病変・潰瘍・腫瘍を検出する
ことができます。すでに PillCam は、消化器内科
Shamir
医にとって標準的なツール、診断法になっていま
最近の COLON 2 の承認申請では、技術の利点を
す。
理解してもらうために事前協議で積極的に対話を
FDA とは極めて良好な関係にあります。
重ねた結果、De Novo プロセス(実質的同等品は
新しい技術に関心が高いのは、消費者も
ないがクラスⅢに分類されるほどリスクが高くな
同じですね。賢い消費者の登場で、新しい技術が
い製品のための承認プロセス)を通じた申請への
より速く普及するようになり、医療に大きな変化
道が開かれることになりました。この FDA の対
が起こりました。
応にはとても勇気付けられました。これで承認が
数カ月早まるものと期待しています。
Shamir
その通りです。最近の患者は自らの健康
償還については、十分な臨床的な証拠を提供す
についてより多くの知識を得ており、インターネ
ることに重点を置いて対応しています。PillCam
ットで自分の抱える健康問題の解決策を調べてい
の有効性やアウトカムに関する臨床論文は、小腸
ます。新しい診断ツールや治療法についても積極
だけでも 1,800 件に達しようとしています。これ
的に医師に尋ねます。彼らのなかで、PillCam は
は、政府や保険者にとって非常に重要です。
患者にやさしい選択肢であると認知され始めてい
るのです。
カプセル内視鏡は、確かに今世紀におけ
る真の医療イノベーションの 1 つです。御社の今
米国では、特に大腸炎やクローン病などの慢性
疾患を抱える患者にこの傾向が見られます。クロ
後のイノベーションについて教えてください。
ーン病は、75%以上の患者が小腸の慢性疾患を持
ち、再発リスクが高い疾患です。PillCam が登場
Shamir
する前は、この病気の経過をモニタリングする唯
視化に重点を置いていましたが、いまではクロー
一の方法は大腸内視鏡検査でした。これはかなり
ン病など、具体的な疾患をターゲットにしていま
侵襲的な検査であるうえ、内視鏡はなかなか小腸
す。特別に設計されたカプセルを使えば出血や病
まで届きません。繰り返し大腸内視鏡検査を受け
変をもっとうまく検出でき、さまざまな病状の要
ることは、
患者にとって本当に苦痛だったのです。
因を詳しく調べることができるでしょう。
我が社はスタート時こそ小腸粘膜の可
その点 PillCam は、合併症の可能性があるスラ
また、現在の PillCam は体の自然な蠕動運動に
イディング・チューブの使用や鎮静剤を必要とし
よって移動しますが、これを医師が体外から操作
ない、低侵襲な検査法です。仕事を休む必要もあ
できるようにする開発も進んでいます。もし操作
ぜんどう
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つもりです。
可能なカプセルがあれば、治療機能を搭載するこ
とができます。格納スペースを持ち、薬剤放出や
仮想生検(生体標本を採取せずに病気の診断や経
御社は、イスラエルの医療技術分野で最
過予後の判定をすること)が可能なカプセルも登
も目覚ましい成功を遂げた企業の 1 つです。その
場することでしょう。
そのために、我々は過去数年間でとても良い買
成功の陰にどんな要因があったのでしょうか?
収を行いました。2008 年には、胃食道逆流症用と
Shamir
して唯一ワイヤレスで、カテーテルを使用しない
企業における評価では、イスラエルは世界でトッ
pH テストを持つ Bravo pH Monitoring System
プレベルを維持しています。これは、政府が特に
社を、2010 年には、消化管運動機能障害を診断す
医療部門のイノベーションに手厚い支援をしてい
る た めの 高 解像 度マ ノ メト リ製 品 事業を 持 つ
るおかげです。我々も政府から補助金を受給し、
医療技術部門のイノベーションや新設
Sierra Scientific Instruments 社を買収しました。 初期の研究開発を支援してもらいました。開発優
そして昨年 10 月には、消化管内の pH・圧力・温度
先地域に本拠を構えているため、税制上の優遇措
を測定する SmartPill システムを持つ SmartPill
置も受けています。インキュベーターやイノベー
社を買収しています。
ションなど、企業を起こして成長させる要素がイ
スラエルにはそろっているのです。
我々は、これからも非侵襲的で革新的な製品開
発のリーダーであり続けるつもりですし、もっと
患者にやさしく、そして医師と患者双方が納得の
「Medical Device Daily」
いく治療を行うことができる製品を提供し続ける
(2013 年 1 月 17 日&1 月 24 日号)
競争が激化する中国の医療機器市場
中国メーカーの追い上げで海外メーカーとの本格競争に
――Ames Gross/MDD 寄稿者
急伸を続ける中国の医療機器市場は 90 億ドル
が、健康保険に加入することとなった。
規模といわれ、世界 6 位に浮上している。向こう
競争は熾烈を極める。中国の国産メーカーが毎
5 年は年間 15~20%の成長が期待できると、アナ
日のように新規参入しており、マインドレイ、
リストらは分析する。
MicroPort 社、Lepu Medical Technology 社とい
世界人口の約 20%を占める 13 億人をかかえる
った中国企業が急成長を遂げている。なかでも低
中国では、このところの中産階級の急増で、医療
価格の画像診断機器やモニタリング装置を製造す
に対する需要が過去に例を見ないほど高くなって
るマインドレイの過去 5 年の売り上げは、毎年平
いる。医療にお金をかける人が増え、さまざまな
均で 25%伸びており、2012 年の売り上げは 10
手技や医療機器が普及し、高性能な植込み型デバ
億ドルを超えた。同社は、GE やフィリップスと
イスや画像診断機器を利用できるようになった。
いった高性能な機器を求める一流の病院は相手に
同時に、健康保険の加入者が増えたことも医療
しないと割り切って販売数を伸ばしている。
需要の底上げに寄与している。中国衛生部は 2009
「中国製品は低品質」という認識は過去のものに
~11 年に 1,240 億ドルを医療分野に投じ、大部分
なりつつある。2008 年に起こった汚染ヘパリン事
を健康保険の拡大に充てた。これにより、未加入
件などの不祥事はあったものの、品質管理体制は
だった地方在住者 9 億人を含む人口の 95%以上
5 年前より格段に向上している。ほとんどの中国
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メーカーは、医療機器の国際規格である ISO13485
メーカーTrauson Holdings 社を買収した案件は
を取得しており、米国や欧州の製造・品質管理基
記憶に新しい。しかし、Trauson 社は中国のトラ
準を満たしている企業もある。クリーンルームな
ウマ市場で 1 位、脊椎市場で 3 位と有益なメーカ
ど、医療機器や医薬品の製造に欠かせないインフ
ーではあるが、同社の企業価値は実質 3.5 億ドル
ラも徐々に整備されている。
といわれている。同様に、メドトロニックが昨年
7.55 億ドルで買収した China Kanghui Holdings
いまや中国製の医療機器は、さまざまな分野で
社の実質的な価値は 4.9 億ドルだった。
欧米製品と競合するようになった。販売促進効果
の高いリベート制度を取り入れるなど、中国メー
なぜ海外メーカーは、高いのれん代をつけて中
カーは海外メーカーに本気の勝負を挑んでいる。
国メーカーを買収するのだろうか? 投資額に見
合う見返りは期待できるのだろうか? 買収され
た中国メーカーは、買収した海外メーカーと競合
する製品を手掛けないという契約を守るだろう
か? 異なるビジネス文化を持つメーカー同士が
うまくやっていけるだろうか? 買収は繰り返さ
れても、疑問は何ひとつ解消されないままだ。
加えて、このような海外メーカーで品質管理や
薬事関連業務に就く中国人スタッフは、たいてい
高給取りである。欧米の手法で鍛え上げられてい
(http://www.mindray.com/)
海外メーカーは、中国メーカーが技術的に製造
るとはいえ、管理者ともなると年収は 15 万ドル
できない高性能な製品を販売して売り上げを伸ば
にのぼる。ここまでくると、中国が持つ低賃金の
してきたが、中国メーカーはイノベーションによ
優位性などないも同然だ。
り急速に技術力の差を縮めている。これには、国
海外メーカーと中国メーカーの戦いは、国内市
際的な製造基準の導入や、欧米で教育を受けた中
場だけでなく海外市場でも繰り広げられている。
国人の帰国と彼らによる技術開発が影響している。 中国の大手メーカーは、海外メーカーが力を入れ
米国で数学や科学技術分野の博士号を取得しても、 るブラジル・インド・ロシアのような新興市場へ
専門職用の就労ビザを取得できない中国人留学生
の輸出を強化している。Lepu 社が良い例で、同
は、企業からの引き合いがある母国に戻って就職
社の海外での売り上げは 5 年前にはゼロだったが、
するしかないからだ。
現在では 20%を占める。
価格も中国メーカーの追い上げに一役買ってい
いましばらくは、中国での高性能医療機器のシ
る。中国製品の多くは、海外メーカーの競合製品
ェアは海外メーカーが握るだろう。中国の富裕層
よりはるかに安価だ。例えばマインドレイの超音
は海外製の機器を好む。とはいえ、中国の平均的
波診断装置は、フィリップスの類似品より 45%も
な労働者の年収は 5,000 ドルであり、安価な中国
安い。5 年前は市場の 75%を海外メーカーが占め
製機器の売り上げが今後も急激に伸び続けること
ていた薬剤溶出ステント(DES)も、いまでは安
は間違いない。
価な中国メーカーの DES が 75%以上を占める。
中国に進出した海外メーカーは、欧米のやり方
海外メーカーが安価な中国製品に対抗するには、 で育てた中国人スタッフを大切に確保しておく必
ハイエンド製品の基本機能を残した廉価版が必要
要がある。せっかく育てた中国人スタッフが中国
となる。このため、海外メーカーは中国に工場を
メーカーに転職したりすれば、イノベーション・
設立したり、
中国メーカーを買収したりしている。
品質・ノウハウでの競争が激化することは必至だ。
高品質で欠陥の少ない製品を現地で製造し、現地
5 年後、誰が中国市場を制するのかはまさに予測
の顧客に安く提供することが、海外メーカーが中
不能である。
国で生き残る 1 つの方法だからだ。
「Medical Device Daily」
(2013 年 2 月 1 日号)
ストライカーが 7.64 億ドルで中国の整形外科
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その術前検査、必要ですか?
形式的な術前検査は浪費でしかない
手術を安全に行うために術前検査は欠かせない。
けたとする。外科医が結果を尋ねると、
「たぶん問
しかし不要な術前検査を積み重ねることは、患者や
題なかった」という曖昧な答えが返ってくるだろ
病院にとって大きな損失となる。病院は人件費や検
う。いまのところ、このようなやり取りで1カ月
査用品代を浪費するだけでなく、検査結果が偽陽性
前の結果を知ろうとするより、もう一度レントゲ
ンを撮り直すほうが簡単だと Dagi は言う。
となれば手術が延期になりかねない。仕事を休んで
検査や手術を受ける患者にとっても大きな痛手だ。
それでは、行うべき術前検査をどうやって判断
普段何気なく行っている一連の検査の意義を、もう
すればよいのだろうか。最近の検査を取り巻く状
一度考えてみたい。(編集部)
況と研究を見てみよう。
なぜ不要な術前検査が実施されているのか?
最も根本的なこの問いに、シカゴ大学病院の麻
酔科科長 Jeffrey L. Apfelbaum は、
「医療過誤の
訴訟リスクを回避するため、検査や診療に手間を
かける〈守りの医療〉を行う必要があるからだと
いう答えをよく耳にする」と語る。手に入る情報
はすべて持っておくことが、
〈守りの医療〉には欠
術前検査は低リスク患者で過剰に行われている
かせない要素の1つなのだ。
コンサルティング会社 Numerof & Associates
2012 年 9 月号の『Annals of Surgery』で発表
社(ミズーリ州)
の共同創立者 Michael N. Abrams
された研究によると、術前検査は低リスクの日帰
も同意見だ。Abrams はほかに考えられる理由と
り手術患者で過剰に行われており、検査を受けた
して、①深刻になりそうな疾患を早期発見する、
かどうかや検査結果の異常は、術後の合併症とは
②手術中や術後の合併症につながる持病を見つけ
る、③すべての検査は正常だったと報告すること
関連がないという結果となった。
ヘルニアの手術を受けた 73,596 人を対象にし
で患者や家族に安心感を与える、などを挙げる。
たこの調査では、63.8%の患者が検査を受け、そ
医師が検査を行う理由はさまざまだが、検査は
のうち 61.6%の患者で異常が発見された。併存疾
本来、リスクを低くするために行うものだ。米国
患がなく、検査が不要と考えられる 25,149 人に
外科学会の周術期医療に関する委員会の委員長 T.
ついても、54%がなんらかの検査を受けていた。
Forcht Dagi は、
「電子カルテの導入で、検査項目
さらに、そのうちの 15.3%は手術当日に検査が実
を絞りこめるかもしれない」と期待する。電子カ
施され、6 割以上の患者に異常な結果が出たにも
ルテが広まり、地域医療全体でデータを相互交換
かかわらず手術は行われた。再挿管・肺塞栓・脳
できるようになれば、患者が受けた検査の種類と
卒中などの術中合併症がみられたのは、検査を受
結果が簡単に分かるようになるからだ。
けた患者のうち、わずか 0.3%だった。
現状はまだそうはいかない。例えば、外科医が
健康であるにもかかわらず検査を行うケースが
胸部レントゲン写真を見たいと思い、患者が「そ
多いことから、術前検査は医師が優先順位をつけ
れなら1カ月前にレントゲンを撮った」と打ち明
て指示するべきだと研究者は指摘している。
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麻酔科医の意思決定に役立つ術前検査を
削減しておけば、支払方式の移行もスムーズにで
2012 年、米国麻酔学会の基準検討委員会は、
「麻
きる。簡単な治療を受けている患者が、出血リス
酔の前評価をするための注意書」を改定した。そ
クがとても低く、血液凝固や出血の異常がないの
こでは、術前検査は形式的に行うのではなく、周
であれば、その患者は事前に血液凝固能に影響を
術期管理を最適に行うために、必要に応じて実施
与える薬の服用を控えておけば、大手術の際にも
されることが望ましいとしている。
術前の血液凝固検査のいくつかを省くことができ
る。Dagi はこう説明している。
委員会はまた、形式的な術前検査の実施に十分
-
な根拠はないと述べる。そのうえで、
「患者の臨床
的特徴を厳選して特定の術前検査を行えば、麻酔
科医の役に立つかもしれない。検査内容と実施の
タイミングは個々の患者に応じたものであるべき
であり、それらを決定するためには医療記録・問
診・身体検査・予定された手術の方法や侵襲性の
情報が参考になる」と提案している。
検査を選択することの必要性は、Apfelbaum も
-
強調している。
「医療技術を駆使して情報を集め、
クリニカルパスの活用でさらに効率アップ
医療機関が経費削減をめざすなら、不要な術前
検討のうえで必要な検査を選択すれば、麻酔科医
が患者の術前評価や周術期管理に役立つ決定をし
検査を避けるだけでなく、クリニカルパスを利用
やすくなる」
。
するべきだと Abrams は提案する。
HHS の術前検査のガイドライン
米国保健社会福祉省(HHS)の医療品質研究調
を最小限にすれば、巨額の人件費を節約できる。
査機構は現在、麻酔を必要とする待機的手術や日
効率が上がり、処理時間やスタッフの負荷も改善
帰り手術を受ける患者に対する術前検査の調査プ
できるだろう。その際には、偽陽性の結果が出た
ロジェクトを実施している。Abrams の言葉を借
ときの追加検査に費やす時間と労力を考慮に入れ
りれば、これは「優れたガイドライン」を規定す
ておくことだ」と Abrams は言う。
「検査の実施と評価、治療や処置を行う労働時間
どれほど無駄を削減できるかを知るためには、
るためのものだ。
作成中のこのガイドラインは、術前検査の一般
スタッフ業務のばらつきのデータを見ればよい。
的なメリットやデメリットだけを示すものではな
検査の実施率・検査の偽陽性率・関連手術のキャ
い。外科処置のリスク・使用する麻酔の種類・手
ンセル率・用品の使用量・手術時間やスタッフの
術の適応・併存疾患・その他患者の特徴など、患
有効活用・合併症率・請求漏れや保険請求の否認
者の利害に直接かかわるような要素を検討するこ
などがそれに当たる。
クリニカルパスを順守することで、アウトカム
とも含まれる。
「現在の出来高払い方式の診療報酬では術前検
の改善や合併症の減少が見られ、患者や家族の満
査を省くメリットはほとんどないが、制度は急速
足度が高まることは知られている。効果的にクリ
に変わりつつある」と Abrams は言う。包括払い
ニカルパスを利用することで、すべての医師がよ
方式になれば、検査費用はすべて診療報酬に含ま
りよい、最高のパフォーマンスを発揮できるよう
れる。現在のメディケアの包括払い方式には、ま
になる。合併症治療に費やされる医療器材やスタ
だ診断検査や画像検査は含まれていないが、
「患者
ッフの労働時間削減にも寄与できるだろう。
「さら
保護および医療費負担適正化法」(PPACA)が全
に、患者との絆や施設の評判も上がる」と Abrams
面的に施行されるにつれて、それらも含める方向
は請け合った。
に進むだろうと Abrams は予想する。
「Same-Day Surgery」(2013 年 2 月号)
適切な検査だけを行い、いまのうちから経費を
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汚染薬剤による髄膜炎が拡大
調剤業者の安全性をどう見極めるか
昨年 9 月、米国で汚染薬剤による真菌性髄膜炎の
調剤業者や調剤手順に対する監査を怠れば法的責
アウトブレイクが発生した。プロであるはずの調剤
任を課される可能性があると、利用を敬遠する外
業者が製造した薬剤が汚染されていただけに衝撃は
来手術センターも出てきている。一方で、
『角を矯
大きく、製薬会社に比べて調剤業者への規制が緩い
めて牛を殺す』という格言があるように、法的責
ことを問題視する声も上がる。医療の信頼性をどう
任を免れるためだけに調剤業者の利用を止めては
確保するか、関係者の姿勢が問われている。
(編集部)
ならないという意見もある。
米国では、汚染されたステロイド剤が原因とみ
られる真菌性髄膜炎が拡大している。AP 通信社
によると、汚染ステロイド剤は約 14,000 人に処
方された。米国疾病予防管理センター(CDC)は、
少なくとも 2 ロットのステロイド剤に髄膜炎の原
因菌が混入し、全米 23 州の医療機関に流通した
こと、現在までの髄膜炎発症者は 472 名で、その
重要なのは、一連の調剤作業に常に注意を払っ
ている優れた調剤業者を探し出すことだと Sones
うち 32 名が死亡したことを発表した。
問題の薬剤を製造した調剤業者 New England
は言う。不誠実な会社が提供するサービスは劣化
Compounding Center(NECC)社は、市場に出
しているものだ。また、コストも調剤業者を選ぶ
回っているすべての自社製品を自主回収するとと
基準の 1 つにすぎない。コストを抑えたばかりに
もに営業を停止した。その後の調査で、関連会社
患者に訴訟を起こされれば、結局は高くつく。
Ameridose Sterile Admixing Services 社の製造
調剤業者を選ぶときのポイントは次のとおりだ。
プラントの殺菌過程に問題があることが明らかに
 調剤業者を正しく監査せよ
Sones は、国際調剤薬剤師アカデミーが発行す
なり、同社もすべての自社製品を自主回収した。
外来手術センターの団体 Ambulatory Surgery
る 監 査 ツ ー ル 「 Compounding Pharmacy
Center Association(ASCA)によると、州の調査
員は、医療機関が自主回収に従っているかどうか
Assessment Questionnaire(CPAQ)」の利用を
の調査を抜き打ちで進めている。この抜き打ち調
勧める。これはさまざまな観点から監査できるよ
査を甘く見てはいけない。患者の安全に取り組む
うに考えられており、CPAQ の記入は契約の大前
団体 Connecticut Center for Patient Safety の代
提だという。
表 Sheldeon S. Sones は、
「汚染薬剤による髄膜炎
拡大という危機的状況から考えて、調査員は医療
 調剤業者が認定されているか確かめよ
自力での監査が難しい開業医は、調剤業者を認
機関の薬剤リコールに関する規定や手順が機能し
定する団体と提携しているコンサルタントに頼る
ているかまで確認するだろう」と語る。
手 も あ る 。 調 剤 分 野 の 認 定 は 、 Pharmacy
外来手術センターは薬剤が不足しがちで、1 回
Compounding Accreditation Board(PCAB)が
分の薬剤を必要なだけ調合してくれる調剤業者に
行っており、
「もし契約する調剤業者が認定されて
頼るところが大きい。しかし今回の事件を受け、
いなければ、
ほかを探すべきだ」
と Sones は言う。
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Vol.31
Lechtman の施設では NECC 社の利用を停止
 納入業者から確実に回収情報を入手せよ
医療機関は、薬剤の回収情報を確実に入手でき
したが、ほかの調剤業者の利用を止めたわけでは
るルートを確保しておく必要がある。医薬品の納
ない。薬剤の包装作業に手間がかかり、特定の医
入業者には、回収情報の伝達について責任を持つ
薬品が不足している現状では、医療機関は調剤業
ことを明記した誓約書を提出させるよう Sones は
者を利用せざるを得ない。Lechtman は鎮静薬プ
助言している。
ロポフォールを例に挙げ、
「この優れた薬剤は調剤
業者からでないと入手できない」と説明する。
髄膜炎の原因菌による汚染に端を発した今回の
ASCA イリノイの代表 Mark Mayo は、
「関係な
自主回収は、多くの外来手術センターが調剤業者
いと分かっているものも含め、全薬品を調査して
の利用を再考するきっかけになったと、整形外科
文書化してこそ、主体的で有効な情報管理が行え
の Sequoia Surgery Center の共同経営者 Alex
る」と指摘する。自主回収に対処するルールを作
Lechtman は言う。Lechtman らは、NECC 社の
り、回収対象の薬品が残っていたり、患者に使用
ステロイド剤を処方した 250 人の患者のうち、5
されていないかをチェックすることが重要だ。
人がインフルエンザ様症状を訴え救急部にかかっ
「Same-Day Surgery」
ていたことを突き止めた。この 5 人からはいずれ
(2013 年 1 月号)
も原因菌は検出されていない。
インド通信
インド専門ニュースサイト「インド新聞」より、運営会社ムロドーの
許諾を得て、最新情報をお届けします。(http://indonews.jp/)
医療機器や手術費の
分割払いが普及(3/5)
低いことが分かった。
「平均余命」
「主要疾患によ
る死亡率」
「5 歳未満の子どもの死亡率」
「15~49
医療機関や医療機器メーカーの間で、手術費用や
歳の死亡率」などの指標で、同じ新興国の中国や
医療機器代金の分割払い制度を導入する動きが
ブラジル、隣国のスリランカと比べて大きく劣っ
広がっている。インドでは健康保険の加入率が低
ているほか、周辺の途上国との比較でもやや低い
く、1 度の入院にかかる費用が年間支出の 6 割程
結果となった。IHME のラリト・ダンドラ氏は、
度になるケースが多い。各社とも消費者の懐事情
「インド政府が国民の健康増進に充てる予算額
に合った支払い方法を選択できるようにするこ
は世界で最も低い水準だ」と批判している。
とで、市場の開拓につなげたい考えだ。例えばメ
(約 1,000 円)で購入できる制度を導入している。
病院大手と NPO、
農村部での医療普及で協力(3/15)
また、ミヤ・ヘルス・クレジット(ムンバイ)はタ
大手病院チェーンのマックス・ヘルスケアと非営
タ・グループ傘下のタタ・キャピタルと提携し、手
利団体(NPO)ヘルス・ポイント・サービシズ・イ
術代金のローンを提供する事業を行っている。
ンディア(HSI)は、プライマリ・ケアの普及が
ドトロニックは、ペースメーカを月々600 ルピー
遅れる農村部に医療サービスを提供する事業で
インド人の健康状態、
途上国でも低位(3/6)
提携した。低料金で質の高い診療を受けられるよ
う、HSI が運営する診療所「E ヘルス・ポイント」
米ワシントン大学保健指標・保健評価研究所(IH
を訪れた患者を、マックスの医師が遠隔医療シス
ME)が世界 187 カ国を対象に行った国際調査の
テムを通じて診察する仕組みを導入するという。
結果、インド人の健康状態はほかの新興国よりも
まずはパンジャブ州からサービスを開始する。
8
8
Apr. 2013
Vol.31
予防接種の効果はたったの 9 %?
CDC に求められる新たなインフルエンザ対策
――メリー・コーベット/本誌 アドバイザリー・スタッフ
せいか、今年度 CDC は、前年度に比べてかなり
米国疾病予防管理センター(CDC)によると、
2012~13 年は前シーズンに比べてインフルエン
控えめな数字を発表している。
ザの流行が長期化し、入院する患者が多かった。
バッシングの背景には、予防接種を拒否した病
インフルエンザの予防にはワクチン接種が有効と
院スタッフが解雇されたり、学生が登校を拒否さ
されるが、その年に流行するウイルスの型とワク
れるなど、接種を強いる風潮への反発も見え隠れ
チンの型が一致しないと効果が低いという難点が
する。
「細菌性肺炎で死亡する患者が多いなら、イ
ある。CDC からは、今季のワクチン型の予想はほ
ンフルエンザよりそちらの対策を優先するべき」
ぼ的中との発表があっただけに、患者数が前シー
という人もいるくらいだ。ところが、細菌性肺炎
ズンを上回ったのは大きな驚きであった。
の対策も、インフルエンザ予防と同じ問題を抱え
『New England Journal of Medicine』によると、 ている。治療に欠かせない抗生物質の有効性が、
いま、世界的に低下しているのだ。
最も予防接種が必要とされる 65 歳以上の接種率
は、1979~2001 年に調査されたデータと比べる
と、ここ30 年で大きく上がっているにもかかわら
ず、入院率は増加傾向にある。この年代の今季の
ワクチンの予防効果はわずか 9%(全世代では
47%)だったという CDC の発表もあり、予防接
種の効果はほとんど見られない。さらに別のデー
タでは、インフルエンザで入院した人の割合は、
去年が全人口の 0.03%だったのに対し、今年は
(http://www.cdc.gov/)
0.15%に跳ね上がっている。
デューク大学の生命倫理学者 Jonny Anomaly
教授は、医学倫理の情報誌『Journal of Medical
このようなデータを見ると、
「ワクチンが効いて
いないのでは?」と疑ってしまう。生後 6 カ月以
Ethics』で、「いま世界が最も懸念すべき問題は、
上の全国民に、インフルエンザワクチンの接種を
薬剤耐性菌によって人が、抗生物質の効きにくい
積極的に呼びかけてきた CDC は説明を迫られ、
体質になることだ」と述べた。米国は抗生物質の
対応に苦しんでいる。
8 割を家畜の飼料として消費している。これによ
特にやり玉にあげられているのが、CDC がウェ
り家畜の体内で薬剤耐性菌が増殖し、人がその家
ブサイト上で発表していた推定死亡者数だ。成人
畜を食べると抗生物質が効きにくくなってしまう。
はインフルエンザで死亡しても CDC に報告する
違法な薬物を使用するよりもはるかに健康上のリ
義務はないため、データの信頼性に疑問がある。
スクが高いため、同氏は「撲滅にお金をかけるな
さらにこの数には、インフルエンザが直接の原因
ら、違法薬物より抗生物質が先だ」と発言し、注
で死亡した人だけでなく、併発した肺炎や循環器
目を集めた。
系疾患、
心不全などで死亡した人も含まれている。
ワクチンと抗生物質はいずれも感染症予防・対
肺炎を例に挙げると、死亡に至る肺炎はインフル
策の大きな柱である。両方の有効性が低下傾向に
エンザに起因するウイルス性肺炎よりも細菌性で
あるとほのめかす最新データに CDC がどう応え
ある場合が多く、対象外のデータまで含まれてい
るか、今後打ち出される感染症対策に世界が注目
る可能性が高い。この点について非難が殺到した
している。
9
Apr. 2013
Vol.31
The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [ 31]
古くて新しい免疫の仕組み
うのめ・たかのめ
by
春が本格化すると憂鬱になる人が増える。今
自然免疫システムには自己寛容の働きが備
年は大陸発の大気汚染物質 PM2.5 が加わり、
わり、自己攻撃はしない仕組みのはずだが、
脅威が増している。花粉症に限らず、特定の抗
TLR の誤作動で正常な自己抗原に反応し、自
原に過剰な免疫反応を起こすアレルギー疾患
己組織を攻撃する厄介な自己免疫病になると
は年々増加しており、過剰なクリーン育児や腸
の説が現在では有力になっている。何らかの
そう
自己免疫病患者は 5%もいるといわれるだけ
内細菌叢の変化を指摘する研究者も多い。
免疫は文字どおり、私たちの体を守るために
に、発症の手懸りは朗報である。また、TLR
病原体などの非自己物質を認識して排除する
群の応答機能により、細胞が壊死して血中に
仕組みだ。生まれつき備わった自然免疫ではな
流れ出た DNA・RNA・核タンパク質等の細
く、人為的な獲得免疫を人類が手にしたのは、
胞成分は危険信号とみなされ、賦活して生体
ジェンナーの種痘法を別にすれば、19 世紀末
防御に動きだすことも指摘しておきたい。
にコッホが病原菌を実証した前後からパスツ
骨免疫学では骨が造血だけでなく、他臓器
ールを始めとして感染症ワクチン開発ラッシ
の働きを制御しており、癌の骨への転移のし
ュが起きて以降である。
やすさもその証拠だとの見方も出ている。そ
自然免疫と獲得免疫が相互に密接な関連を
れだけに、骨芽細胞の活性化と破骨細胞の抑
持ち、無数に近い抗原受容体が病原体等の抗原
制の 2 つの働きを兼ね備えるタンパク質セマ
のさまざまな成分を三次元的に極めて正確に
フォリン 3A 発見のニュースは話題となった。
認識していることが明らかになったのは、2011
また、新たな感染症としてマダニが媒介す
年のノーベル医学生理学賞を受賞した Bruce
る SFTS 感染症があるが、マダニの唾液抗原
A.Beutler、Jules A.Hoffmann 両博士の業績で
に対抗できるのは悪玉のイメージが強い好塩
ある、Toll 様受容体(TLR, パターン認識受容
基球との発見も、新たな免疫機構を示唆して
体)の発見が核になっている。この TLR 命名
おり研究が進展するだろう。
の謂れが面白い。その働きを観察していた際、
免疫機構を活用して治療する抗体医薬の開
思わず“zur Toll(すごい!)
”と叫んだのが、
発はこの 10 年あまり盛んだが、市販は 44 件
そのまま使われるようになった。
で、400 件が治験中といわれている。内訳は、
大阪大・審良静男教授は、12 種類あるこの
癌とアルツハイマー病が双璧である。重篤な
TLR が病原体の認識センサーとなって、免疫
副作用が認められた例もあるが、最有力の治
系を正常に働かせる多種のサイトカインを T
療法としてその視線は極めて熱い。
細胞等に作らせるだけでなく、自然免疫に働き
慢性疾患の代表例、メタボリックシンドロ
かけて獲得免疫が効果的に機能するよう誘導
ームは内臓脂肪が溜まることで全身の臓器が
する役割を担っていることを突き止めた。これ
炎症を起こし、発症するとの見方が有力だが、
により、2 つの独立した免疫系と思われていた
癌・アルツハイマー病も免疫機構が有効に働
ものが、実は TLR を橋渡し役にした 1 つの統
かなくなった結果、徐々に不正規の継子が勢
合的な免疫システムだったことが判明し、旧来
力を増して発症に至ると見られる。これら慢
のパラダイムがひっくり返ってしまった。
性疾患克服の鍵は、免疫系が握っている。
10
Apr. 2013
Vol.31
Medical
Device Daily
2013/3/1― 2013/3/31
(
)
Diagnostics
Orthopedics
ジェノミック・ヘルスの
乳癌の予後予測遺伝子検査
オンコタイプ DX
Lanx 社、
ジェノミック・ヘルスは、乳癌の予後予測遺伝
脊椎関連製品を開発する非上場の Lanx 社が、
子検査「オンコタイプ DX」が、乳癌の治療効果
頸椎前方除圧固定術(ACDF)用のスペーサーシ
を向上させる有用なツールであることを米国腫瘍
ステム「ALTA」の販売を開始した。
頸椎前方固定システム
ALTA を発売
2013 年 3 月 18 日
2013 年 3 月 7 日
PEEK 製の椎体間スペーサーと 3 種類の金属プ
外科学会の年次集会で発表した。
この検査では、手術で取り出した少量の乳癌組
レートがセットになっており、患者に最適なプレ
織から癌細胞内の 21 種類の遺伝子を解析し、癌
ートを選んで変性した椎間板と置き換える。複数
の発現の仕方や活性度を確認できる。さらに、独
のキットを用意する必要がないので、効率的な手
自の再発スコア(0~100)で再発率が分かるほか、
術が可能だ。また、プレートはサイズにより固定
ホルモン療法に化学療法を加えた場合の治療効果
するスクリューの本数が異なる。いずれも薄型で
も調査可能だ。
切開範囲を最小限に抑えられるため、手術の低侵
リンパ節転移の見られるホルモン受容体陽性患
襲性と安全性向上に一役買っている。
者 1,065 人を対象に行った臨床試験では、平均 11
今回の発売は一部の医療機関に限られているが、
年のフォローアップ期間中、80 人に局所再発が見
同社は使用実績のデータを十分に得てから、今年
られた。検査結果で再発率が高い患者ほど実際の
の秋に全米で発売する予定だ。
再発率も高かったため、同社は有用性を実証でき
(http://www.lanx.com/)
たとしている。
すでに世界 70 カ国以上で約 33 万セットが使用
AAOS で注目の的
されており、日本では医療機関を通じて申し込む
デピューの人工膝関節システム
ようになっている。日本の総代理店はエスアール
ATTUNE Knee
エルとなっている。
2013 年 3 月 21 日
今年の米国整形外科学会(AAOS)の年次総会
で、J&J デピュー・オーソペディックスが約 2 億
ドルを投じ 6 年かけて開発した、全人工膝関節置
換術(TKA)用システム「ATTUNE Knee」が注
目を集めた。
ATTUNE Knee は、デピューとデンバー大学が
自然な形状に近い人工膝関節をめざして共同開発
した製品。大腿骨コンポーネントは、曲線を緩や
(http://www.oncotypedx.com/ja-JP/Breast/Breast.aspx)
11
Apr. 2013
Vol.31
かにしたデザイン ATTUNE GRADIUS Curve に
Cardiology
より動きがスムーズで、
前後方向の安定性が高い。
また SOFCAM Contact 技術により、安定性を維
持したままインプラントにかかる負荷を軽減でき
る。さらに脛骨コンポーネント「LOGICLOCK
Tibial Base」は、微細動作を抑えるよう設計され、
メドトロニック、CRT-D 用
リードAttain Performa の
CE マークを取得
2013 年 3 月 7 日
インサートの摩耗を軽減できる。LOGICLOCK
は、10 種類の標準サイズに加えて 4 種類の小型サ
イズがあり、患者の脛骨の形状にあわせたインプ
メドトロニックが、両室ペーシング機能付き植
込み型除細動器(CRT-D)
「Viva」と「Brava Quad」
ラントの選択が可能だ。
用の左心室リード「Attain Performa」の CE マ
市販前承認(PMA)は取得済みで、デピューは
年内に米国外でも発売したいとコメントしている。 ークを取得し、欧州で発売する。これは 4 つの電
極により 16 のペーシングモードを実現した、単
(http://www.depuy.com/)
極・双極リードに比べて設定の幅が広い製品。
CRT-D の植込みでは横隔神経の近くにリード
K2M 社、人工骨補填材
Venado を発売
を 留 置す る ため 、合 併 症と して 横 隔神経 刺 激
(PNS)を発症することがある。その場合、単極・
2013 年 3 月 28 日
双極リードは留置位置を変更する必要があるが、
Attain Performa は刺激を送る距離を短く設定
K2M 社は人工骨補填材「Venado Foam Strips」
することで PNS を抑制できる。また、電極から
と「Venado Granules」を発売した。Venado シ
ステロイド剤を溶出して心筋の炎症を防ぎ、ペー
リーズは、ハイドロキシアパタイト 60%、βリン
シングの電圧(閾値)の上昇を抑制する。そのた
酸三カルシウム 40%で構成される生体吸収性の
め、本体のバッテリーの持ちも良い。
J 型、S 型、直線型の 3 種類があり、患者にあ
セラミックがベース。このセラミックは X 線不透
ったリードを選択可能だ。さらに VectorExpress
過性が高く、X 線撮影時の視認性も良好だ。
Venado Foam Strips は、セラミックと繊維性
技術により、わずか 3 分でペーシングの状態をチ
コラーゲンを結びつけてストリップ(短冊)状に
ェックし、最適なモードを選ぶことができる。米
したもの。水・血液・生理食塩水を吸収すること
国ではまだ承認されていない。
で柔軟で加工しやすい状態へと変わるが、分離や
(http://wwwp.medtronic.com/)
引き裂きには強い。多孔構造で骨のイングロース
(内部骨成長)を促進し、骨形成のスキャフォー
アボットが薬剤溶出型 BVS
Absorb の
良好な長期成績を発表
ルドとして機能する。サイズは縦・横・厚さが 50
×10×2mm、50×10×5mm、100×25×4mm の
3 種類がある。
Venado Granules は、セラミックを顆粒にした
製品で、使用後 6~18 カ月で生体に吸収される。
顆粒の大きさが 0.5~1mm、1~3mm、1~6mm
2013 年 3 月 12 日
アボットは、薬剤溶出型BVS(生体吸収性スキ
の 3 タイプをそろえる。
ャフォールド)
「Absorb」の臨床試験を行い、良
好な長期成績を米国心臓学会(ACC)で発表した。
Absorb は、一般的な金属製の薬剤溶出ステント
(DES)と同じように薬剤を溶出するが、ストラ
Foam Strips
Granules
ットが加水分解するプラスチックのポリ乳酸でで
きている。金属製 DES とは異なり、約1年で生
(http://www.k2m.com/products/)
12
Apr. 2013
Vol.31
エネルギーで焼灼することで腎動脈壁の交感
体に吸収されるため、体内に異物が残らない。
101 人を対象に行った試験では、術後 3 年の有
神経を不活化できる。以前の臨床試験では、
術後 2 年の血圧が平均 31/11mmHg 低下した。
害事象発生率は 10%で、金属製 DES と同レベル
だった。また、術後 1 年と 3 年時点の血管を測定
(http://www.medtronicrdn.com/)
したところ、45 人について収縮・拡張機能の向上、
内径の拡大(平均 7.2%)
、プラーク減少が確認さ
(2) セント・ジュード・メディカル
4 つの電極を備えたバスケット型デザインの
れた。試験を行った医師によると、これらの改善
は体内に異物が残る金属製 DES には見られない
腎除神経システム「EnligHTN」は、1回で
効果であり、Absorb は金属製 DES を凌ぐ治療効
効率的に RDN を行える。臨床試験では、高
果を秘めているという。
血圧の治療効果だけでなく、心疾患のリスク
Absorb は CE マークを取得済みで、米国以外の
が減るかどうかも調べる予定だ。
40 カ国で販売されているが、
米国では金属製 DES
(http://www.sjmprofessional.com/)
との治療効果を比較する臨床試験が開始されたば
かりである。同社は 2015 年に市販前承認(PMA)
を申請する予定だ。
(3) Kona Medical 社
高密度焦点式超音波(HIFU)を用いた腎除神
経システム「Surround System」の WAVE1
臨床試験の結果が良好で、ほかにも 2 つの試
験を行っている。システムの詳細は明らかに
されていないが、他のメーカーのようにカテ
ーテルを使うのではなく、体外から HIFU を
照射して腎動脈神経を焼灼できる。
(http://konamedical.com/)
(http://www.abbott.com/index.htm)
(4) CyberHeart 社
放射線によるアブレーションシステム
米国心臓病学会で
腎除神経分野の
セッションが盛況
「CyberHeart System」を開発中。これは、
アキュレイの高精度放射線治療機器「サイバ
ーナイフ」を使用して定位手術的照射(SRS)
2013 年 3 月 14 日
を行い、非侵襲的に腎動脈交感神経を焼灼す
るシステム。ポスターセッションでは良好な
動物実験のデータを発表した。
治療抵抗性高血圧の治療に腎除神経術(RDN)
が効果的という考えは、
ここ 2 年で急速に広まり、
今年の米国心臓病学会でも RDN に関するセッシ
(http://cyberheartinc.com/index.htm)
Neurology
ョンが多数開催された。BMO Capital Markets
社の調査によると、患者数は世界中で 4,000~
6,000 万人にのぼり、
約 60 もの企業や団体が RDN
製品を開発しているという。
MRI Interventions 社の
(1) メドトロニック
ClearPoint
脳手術用ガイドシステム
RDN 分野の先発メーカーである同社は最近、
2013 年 3 月 19 日
腎除神経用 RF アブレーションカテーテル
「Symplicity」について、米国で 4 回目の臨
脳神経外科の手術では、重篤な合併症を避ける
床試験を行う申請を提出した。低出力の RF
ために術中に患者を麻酔から覚まさせ、医師が患
13
Apr. 2013
Vol.31
者の反応を見ながらターゲット部位を特定する覚
デバイスで、カテーテルにより前立腺動脈に留置
醒下手術を行うことが多い。MRI Interventions
される。血流を遮断することで前立腺を縮小し、
社は、リアルタイムで脳神経を可視化し、覚醒下
尿道狭窄を抑制することができる。
臨床試験では、
手術を回避できる「ClearPoint system」を販売
外科的手術や薬剤投与による治療に比べて合併症
中だ。
や副作用がなく、より高い治療効果が得られた。
米国でも BPH 用としての承認獲得に向け、
ClearPoint は、ナビゲーション用のソフトウェ
ア、手術用具の挿入ガイド、患者の頭部を固定す
BPH の代表的な治療法である経尿道的前立腺切
るフレームからなる。患者の頭部にフレームとガ
除術の治療効果と比較する臨床試験が実施される
イドを固定して MRI で撮影すると、ソフトウェ
予定だ。
アが画像を解析し、ナビゲーションを作成する。
子宮筋腫・血管過多腫瘍・動静脈奇形の治療用
それに従ってガイドの位置と角度を調整すれば、
としてはすでに世界 50 カ国以上で販売されてお
ターゲット部位に正確に手術用具を挿入できる。
り、日本では日本化薬が取り扱っている。
脳 腫 瘍に 抗 癌剤 を注 入 する 際や 、 脳深部 刺 激
(http://www.merit.com/)
(DBS)装置の電極を植込む際に役立つ。
2010 年に市販前届 510(k)を完了しており、CE
泌尿器科癌関連の
デバイス開発が進む
イスラエル
マークも取得済み。2012 年末までに米国と欧州で
すでに 20 台を販売している。
2013 年 3 月 11 日
欧 州泌 尿器 学会 ( EAU) と米 国泌 尿器学会
(AUA)の開催を間近に控え、イスラエルの泌尿
器関連の製品を開発する企業は、提携先や研究開
発のパートナーを探そうと意気込んでいる。
両学会に参加する TheraCoat 社と Elmedical
社は、50~80%と再発率の高い筋層非浸潤性膀胱
癌(NMIBC)の治療効果向上をめざし、独自の
(http://www. mriinterventions.com/)
ドラッグデリバリーシステムを開発している。
TheraCoat 社は、膀胱内での抗癌剤の滞留性を
Urology
高める生体適合性ポリマーを開発した。この製品
と抗癌剤を混ぜ合わせて膀胱に注入すると、体温
でゲル化して膀胱壁に密着するため、薬剤を効率
血管塞栓治療用ビーズ
Embosphere、BPH の
症状緩和用として適応拡大
的に作用させることができる。このポリマーは医
療機器として CE マークを取得しており、2015
年に発売される予定だ。
Elmedical 社は、抗癌剤とハイパーサーミアを
2013 年 3 月 11 日
組み合わせたシステム「Bladder Wall Thermochemotherapy」を欧州やイスラエルで発売中だ。
Merit Medical Systems 社は、血管塞栓治療用
ビーズ「Embosphere」について、前立腺肥大症
専用の尿道カテーテル「UniThermia」を膀胱内
(BPH)の症状緩和用として CE マークの適応拡
に挿入し、抗癌剤マイトマイシン C を含んだ
44.5℃の蒸留水を循環させて膀胱壁を温めること
大承認を取得した。
で、薬剤の吸収率を高める。火傷や尿道狭窄など
これは、豚ゼラチンを含浸・コーティングした
の有害事象もないという。
アクリル系共重合体からなる非吸水性のビーズ状
14
Apr. 2013
Vol.31
このほか BioProtect 社は、前立腺癌の放射線治
Other Products
療を安全に行うための生体吸収性バルーン
「BioProtect Balloon Implant」を欧州で販売し
Mercator社、
薬液注入カテ
Cricket and Bullfrog の
CE マークを取得
ている。放射線治療時に直腸と前立腺の間にこの
バルーンを留置することで、周辺組織への放射線
の影響を遮断する。術後は約半年で生体に吸収さ
2013 年 3 月 4 日
れる。
Mercator MedSystems 社が、薬液注入カテー
テ ル 「 Cricket and Bullfrog Micro-Infusion
Catheters」の CE マークを取得した。市販前届
510(k)は昨年完了している。
(TheraCoat>http://theracoat.com/)
(Elmedical>http://www.elmedical.co.il/)
(BioProtect>http://www.bioprotect.co.il/)
先端にバルーンとマイクロニードルを備えてお
り、バルーンを拡張するとその側面にあるマイク
ロニードルが血管壁を穿刺し、血管外の周辺組織
Oncology
に薬剤を注入できるようになっている。周辺組織
に治療薬を貯留することで薬をゆるやかに血管に
癌のみを狙えるActium 社の
ハイパーサーミアシステム
送りこみ、効果的な治療が行える。直径 2.5~7
2013 年 3 月 5 日
は血管形成用のバルーンカテーテルと同じだが、
mm の血管に対応しており、プラーク形成の治療
薬、抗腫瘍薬、細胞分裂を促進する成長因子、移
ACT system
植用の幹細胞などの注入に使用可能だ。拡張方法
より低い圧力で拡張できるため、血管壁の損傷を
防止できる。
化学療法にハイパーサーミアを組み合わせるこ
とで、癌の治療効果が飛躍的に向上することはよ
前臨床試験では、血管が狭窄した患者に血管形
く知られているが、正常な組織に悪影響を与える
成術を行った後、Cricket and Bullfrog で再狭窄
ことなく、癌細胞のみを加熱することは難しい。
防止剤エストラジオールを注入したところ、1年
後の再狭窄を 75%抑制できた。
Actium BioSystems 社が開発している「ACT
system」は、膀胱癌を選択的に加熱できるハイパ
ーサーミアシステムだ。まず、癌細胞にのみ付着
する性質を持つ酸化鉄のナノ粒子をカテーテルで
膀胱内に注入し、粒子を癌細胞に付着させる。次
に磁気発生器で体外から磁気を当てると、粒子が
反応して発熱し、癌細胞だけを破壊できる。コン
(http://www.mercatormed.com/product1.html)
ピュータ制御により、患者の体温に応じて 30~
50℃の間で温度を調整することも可能だ。化学療
MID 社の
法との併用で、より効率的な癌治療を行うことが
内視鏡のレンズ用シールド
できる。
FloShield
同社は今後、頭部や頸部、胸部の癌にもこのシ
2013 年 3 月 26 日
ステムを応用する予定で、市販前承認(PMA)取
得に向けて一刻も早く臨床試験を開始したいとし
Minimally Invasive Devices(MID)社の内視
ている。
鏡のレンズ用シールド「FloShield」は、術中に内
(http://www.actiumbiosystems.com/)
15
Apr. 2013
Vol.31
視鏡のレンズをクリアに保つシース状のデバイス。 は今回が初めてで、同社はこの領域を「多大な可
内視鏡にかぶせると、レンズ部分に渦を巻くよう
能性を秘めた市場」と位置付け、新たな製品開発
に空気を送って見えないバリアを形成し、レンズ
に意欲的に取り組んでいる。
の汚れを防ぐ。直径 5mm と 10mm の内視鏡用が
(http://pages.cookmedical.com/ohns)
あり、先端部の形状はフラットとスラッシュカッ
トの 2 種類から選択できる。
TransMedics 社の
さらにオプションで生体適合性に優れた界面活
肺灌流システム
性剤「Flo-X lens wash」を使用すれば、術中に強
Organ Care System
固な汚れが付着しても、患者の体内でレンズを洗
2013 年 3 月 28 日
浄することができる。このため、医師は内視鏡を
取り出すことなく、クリアな視界を維持したまま
手術を続けられる。
現在、肺移植用のドナー肺は、氷の入ったクー
市販前承認(PMA)は取得している。
ラーボックスで冷保存されている。この方法では
摘出後 8 時間以内に移植しなければならないため、
移送や手術に携わる医師やスタッフは常に時間と
戦っている。しかし、TransMedics 社の体外式肺
灌流システム「Organ Care System (OCS)」を使
えば、この制約時間の問題を解決できるかもしれ
ない。
OCS は灌流容器、酸素ボンベ、拍動血流ポンプ、
栄養素の溶液、小型モニターを内蔵した移動式の
(http://www.floshield.com/index.htm)
プラットフォーム。灌流容器にドナー肺を入れ、
ドナーから採取した血液に酸素や必要な栄養素を
クックの唾石摘出術用
カテーテルシステム
混ぜて容器内に循環させることで、ドナー肺を適
温・適湿に保ち、
感染から保護することができる。
2013 年 3 月 19 日
また、移送中にモニターでドナー肺の機能評価も
行える。さらに、従来なら肺炎を発症しているド
ナーの肺は移植に使用できなかったが、OCS で抗
クックメディカルは、唾液管内視鏡による唾石
生物質を与えて状態を改善することで使用できる
摘出術用のカテーテルシステムを発売した。
ようになるという。
柔軟性の高いガイドワイヤーとダイレーター、
唾液管壁の保護に優れたシースイントロデューサ
CE マークは取得しており、現在は FDA の承認
「Kolenda Salivary Access Introducer Set」
、唾
待ち。同社は、移植用の心臓にこのシステムを使
石摘出用のバスケット鉗子「NGage」
「NCircle」
用する臨床試験も行う予定だ。
がセットになっており、経カテーテル的に唾石を
摘出できる。バスケット鉗子はいずれもナイチノ
ール製で、自在に変形可能だ。
これまで唾液腺を閉塞してしまう唾石を摘出す
るには、顔周辺の皮膚切開が必要だった。唾液管
内視鏡を用いれば口の中から唾液腺を通して唾石
を摘出できるため、低侵襲的な治療が行える。ま
た外来手術も可能で、顔面神経麻痺やその他副作
用のリスクを抑制できる。
クックが唾液管内視鏡の関連製品を発売するの
(http://international.transmedics.com/)
16
Apr. 2013
Vol.31
M&A
らいの割合で実施されるという。エドワーズライ
フサイエンスは、TAVR デバイス「Sapien XT」
の臨床試験を行っており、2014 年の発売をめざし
アルゴン社、Angiotech 社の
インターベンション事業を
買収
ている。さらに次世代型の「Sapien 3」も開発中
で、今年の夏から米国で臨床試験を開始する。
僧帽弁閉鎖不全(MR)分野では、経皮的僧帽
2013 年 3 月 26 日
弁修復術(PMVR)の大きな進歩が予想される。
アボットのクリップ状デバイス「MitraClip」は、
アルゴンメディカルデバイスズ社は、医薬品と
この 3 月に FDA の諮問委員会で協議されるが、
Angiotech
市販前承認(PMA)を取得できるかは依然不明だ
Pharmaceuticals 社(カナダ)の血管インターベ
(編集部注:諮問委員会は 3 月 20 日に承認見送
ン シ ョ ン 事 業 部 を 3.6 億 ド ル で 買 収 す る 。
りを勧告した)
。MitraClip は、経皮的に挿入して
Angiotech 社は、今回の買収で得た資金を負債の
僧帽弁前尖と後尖を留めるデバイス。競合には
支払いと、営業を継続する外科手術デバイス事業
Mitralign 社の MR 治療システムがあり、こちら
部やライセンス事業部の運営に充てる。
は先端が二股になったカテーテル「Bident」で僧
医 療 機 器 の 開 発 を 行 う
Angiotech 社のインターベンション製品には、
帽弁輪の P1&P3 近辺に縫合糸をかけ、縫合糸を
ス ネ ア 「 Atrieve 」、 ド レ ナ ー ジ カ テ ー テ ル
引いて僧帽弁を引き寄せることで、逆流症状を改
「SKATER」、止血パッド「V+Pad」がある。ア
善する。このほか Valtech 社(イスラエル)も
ルゴン社は IVR、心血管インターベンション、血
MR 治療用デバイス「Cardioband」を開発中で、
管手術などの製品を販売しており、これら
製品の開発競争は激化している。
Angiotech 社の製品を加えることで自社のライン
ナ ッ プを 拡 充す る狙 い 。ま たア ル ゴン社 は 、
Angiotech 社の営業スタッフや販売ネットワーク
を継承して、いままで営業拠点のなかった欧州諸
国のほか、アジア、南米での販売を強化したいと
している。
(http://www.angioedupro.com/)
MitraClip
Bident
Market Prospect
ウェルズファーゴが語る、
経カテーテル
心臓関連製品の今後
(MitraClip>http://www.abbottvascular.com/)
(Bident>http://www.mitralign.com/)
大手モダリティメーカーが
感じるアジア勢の脅威
2013 年 3 月 5 日
2013 年 3 月 11 日
ウェルズファーゴのアナリストが、心臓分野の
製品について将来予測を発表した。
経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は画期
先日行われた欧州放射線学会議(ECR)で、3
的な術式だが、現在のところ適応となる患者が少
大モダリティメーカーである GE ヘルスケア、フ
なく普及が進んでいない。しかし、心尖部アプロ
ィリップス、シーメンス以上に存在感を見せつけ
ーチや細径化されたデバイスが承認されれば普及
たのが、サムスン(韓)やマインドレイ(中)と
は進み、10 年後には TAVR と外科手術が同じく
いったアジア勢だった。
17
Apr. 2013
Vol.31
サムスンは、買収したばかりの NeuroLogica 社
した。しかし同社は現在、マンモ検査の被曝量問
のポータブル型の CT 装置を展示した。2015 年に
題に対処するため、他社製品に比べ 18~50%も低
は、新たに開発中のハイエンドな CT 装置を発表
い放射線量で検査できるマイクロドーズの販売に
する予定だ。また、画像の確認手段として、医用
注力しており、トモシンセシスの今後の方針は決
画像管理システム(PACS)に加え、スマートフ
まっていない。
ォンやほかの電子機器との連携を強化している。
Senographe Essential
一方のマインドレイは、スペックを落とすなどし
マイクロドーズ
て、新興国市場に低価格な製品を投入している。
これに対して大手メーカーは、超音波・CT・
MRI といったモダリティだけでなく、医療機器全
般で競合状態になるとみて、警戒を強めている。
シーメンスは、マインドレイを始めとしたアジア
勢の急伸に対抗するため、3 年以内に製品価格を
見直す意向を示した。また GE は、各社が価格と
(Senographe>http://japan.gehealthcare.com/)
(マイクロドーズ>http://www.healthcare.philips.com/)
製造量のバランスをどのようにコントロールして
低価格を実現するのかを見極めるため、いましば
らくは静観する構えだ。
医療業界の M&A
今年のターゲットは
デバイスメーカー
トモシンセシス分野の
将来予測
2013 年 3 月 18 日
2013 年 3 月 12 日
Mesirow Financial 社で投資部門の部長を務め
る Paul Teitelbaum は、医療分野で活発化する
欧州放射線学会議で、トモシンセシス技術によ
るマンモグラフィーの将来予測が発表された。GE
M&A のターゲットは、従来の製薬会社ではなく、
ヘルスケアやフィリップスといった後発メーカ
デバイスメーカーに移行するとの見方を示した。
デバイス関連の中小企業は、デバイス税の導入、
ーの新製品投入が遅れていることから、ホロジッ
クなどの先発メーカーも、この先1年は様子見す
承認の規制強化、保険償還の難しさといった問題
るものとみられる。
を抱えているため、大企業による買収を希望して
GE は 2-D マンモグラフィー装置「Senographe
いる。どんなに優れた技術を開発しても自社での
Essential」のオプションとして、トモシンセシス
商業化は難しく、大企業に頼らざるを得ないのが
機能の市販前承認(PMA)を申請しているが、ま
実情だ。そのため買い手側の大企業はどっしりと
だ取得には至っていない。CE マークも取得でき
構え、将来有望な技術を吟味している。
ておらず、発売時期は未定のままだ。しかし、未
この状況を受け、医薬品一筋だった大企業まで
承認ながらも GE のトモシンセシスは画像のにじ
デバイス関連事業に興味を示し、診断やデバイス
みが少なく、他メーカーの装置に比べ解像度が高
メーカーの買収に着手し始めている。一方で、デ
い とい う技 術的 な優 位性 があ る。 Senographe
バイス部門と医薬品部門を持つ大企業は、医薬品
Essential がすでに 2,400 台の導入実績を持って
部門を独立させる傾向にある。例えば、コヴィデ
いることも、同社のトモシンセシス分野における
ィエンは医薬品事業のスピンオフを進めており、
潜在能力の高さを物語る。
今年前半に完了させる予定という。
一方フィリップスは、昨年 Sectra 社(スウェー
――――――――――――――――――――――
デン)を買収し、2-D マンモグラフィー装置「マ
編集部注:本社所在地が米国の企業は、国名記載を省略し
ています。
イクロドーズ」とトモシンセシスの試作機を獲得
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Apr. 2013
Vol.31
Kawanishi Hotline
前号の Medical Device Daily から、カワニシの社員が選んだ注目の記事をご紹介します。
Benvenue 社の脊椎圧迫骨折治療
システム Kiva、BKPを凌ぐ有用性〈2/21〉
ーでも使用できるかなどが気になる。(若江)
• BKP は順調に症例数を伸ばしており、今後も一
般的な治療法として選択されていくと予想され
PEEK 素材のコイル状デバイスで椎体を拡張し、
その内側に骨セメントを充填するため安定性が
高い。骨セメントの漏出率・疼痛緩和などをバ
ルーンカイフォプラスティー(BKP)と比較し
た臨床試験で優れた有用性を示した。
る。Kiva の有用性が事実なら、競合製品が少な
く、市場での競争が有利にできるだろう。
(萬木)
エチコンの血管シーリングシステム
Ensealの新型、市販前届を完了〈2/5〉
• 高齢者の骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折は多い。椎
「Enseal G2 Articulating Tissue Sealer」のシ
ャフトは4サイズ展開で、先端を最大60度まで
曲げられる。20mmのジョー(シーリングと切
除を行う先端部)にはカーブ型とストレート型
があり、最大7mmまでの組織をシールできる。
体形成術によるセメント注入は特に除痛効果が
高く、著明な痛みの軽減が患者の 80~90%以上
にみられる。最近では発症後 6 カ月以上経過した
慢性症例にも疼痛の緩和効果が認められるとの
報告がなされ、適応は拡大傾向にある。「Kiva」
は PEEK 素材のため、術者は設置イメージをつ
• 縫合糸やステープルを使用しない血管シーリン
かみやすく、狙いどおりの位置にセメントを注入
グシステムは、体内に異物が残らないので患者に
することができる。BKP の手技と比較してもデ
やさしい。さらに技術加算があるため、各社が競
リバリー器械が簡単でセメントの漏出率が低い
って開発している。いままでコヴィディエンの
など、優位性が高い。また、低侵襲で手術時間も
「LigaSure」が市場を独占してきただけに、新
短く、患者の QOL 向上にも役立つと思う。
(中脇)
型投入を市場は歓迎しそう。腹腔鏡下手術は処置
• 日本ではメドトロニックソファモアダネックの
具の挿入角度に制限があるが、先端が 60 度まで
BKP 以外に選択肢がないので、上市されれば選択
曲げられれば最適な切除角度を選べる。「先端が
の幅が広がる。最近は BKP の不具合も散見され、
腹腔内で曲げられる点が興味深い」と語る専門医
有効性を疑問視するドクターもいる。より不具合
もいる。現在は 8 万円前後の定価に対して加算は
の起きにくい機構を備えた Kiva には十分な競争
3,000 点。もう少し加算点数が上がれば、積極的
力があり、場合によっては BKP を駆逐する勢い
に使用する施設が増えるのではないか。(井本)
で広まるかもしれない。海外同様、日本での取り
• 安全かつ確実な止血ができ、縫合糸性肉芽種リス
扱いもジンマーになる可能性が高いが、新製品は
クの軽減、手術時間の短縮ができる血管シーリン
高くなりがちなので(BKP の償還価格は 37 万円)、
グシステムは、日本でも 10 年以上使われている。
柔軟な価格対応を期待したい。(青木)
• BKP をされているドクターの興味を引くことは
先端が 60 度まで曲げられるシャフトと 4 種のサ
イズバリエーションは他社にはないので、競合と
間違いなさそう。ユニークな手技で安全性が高く、
の差別化を図るには十分。価格と豊富なバリエー
PEEK 素材ということも、いまの流行にマッチし
ションゆえの在庫リスクがネックか。(鈴木)
ている。BKP 適応症例は広島県内の多い施設で
• つい最近も類似の機能を持つ製品に対する問い
年間 120 例ほどあり、ある程度の市場ボリューム
合わせがあり、市場ニーズにあった製品だと感じ
になるのは間違いない。BKP のように手技を行
る。年間使用数量は 500 床クラス・年間手術件数
う際に資格が必要か、BKP の経験のないドクタ
5,000 ほどの病院で 250 本というところか。
(須田)
19
Apr. 2013
Vol.31
Endosense社の圧力感知アブレーション
カテーテルTactiCath Quartz〈2/4〉
注目のデバイス関連記事を
ピックアップ!(未掲載記事より)
肺静脈隔離術用で、カテーテル先端のセンサー
で測定した心臓壁への接触力をモニターに表示
する。独自指標「LSI」によりアブレーションの
到達範囲と深さを確認できるほか、術後の再伝
導リスクも予測可能だ。CEマークは取得済み。
■ ライフテクノロジーズの HLA-DNA
タイピング試薬「SeCore HLA」
〈2/12〉
サンガー法に基づく遺伝子解析装置「3500 DX」
で使用し、ヒト白血球抗原(HLA)の型を遺伝子
レベルで判別する。市販前届 510(k)は完了済み。
• 接触圧の表示はより安全・確実な治療へ寄与する
• 2 年ほど前から日本での承認を積極的に行っ
ている注目の企業で、遺伝子関連では世界ト
ップ。技術を持っているだけに市場に入り込
むスピードは早いと思われる。HLA 解析は、
今後は輸血関連でも応用されそう。(穐田)
機能と考えられ、心房細動治療を中心に拡大しつ
つある心臓アブレーション市場において期待が
高まっている。過度な接触圧で心タンポナーデを
起こしたり、肺静脈隔離術施行後に再発して焼き
残しが確認された経験を持つドクターからは、
「早く使用したい」との声が寄せられている。日
■ Mauna Kea 社の共焦点蛍光マイクロ
本では本製品に先駆け、J&J バイオセンス ウェ
プローブ「Cellvizio」
〈2/4〉
ブスターの「Smart-Touch」がこの春に一斉発売
消化管・気管支内視鏡で粘膜を拡大観察する光
の予定で、心房細動治療のマストアイテムになる
学的生検に用いる。CE マーク、市販前届 510(k)
のではないかと思われる。3-D でのナビゲーショ
は承認済みで、日本での臨床試験も秒読み段階。
ン機能とあわせて使用できるため、Smart-Touch
• ついに日本に入ってきたという印象。内視鏡
で顕微鏡レベルの検査ができれば、確定診断
の強力なバックアップになる。プローブ部分
はディスポのようなので売りやすい。あとは
のほうが優位性は高い。まずはバイオセンスの商
権を保有しておくべきだろう。(本山)
ジェット水流で椎間板ヘルニアを治療
するHydroCision社のSpineJet〈2/7〉
償還価格がつくかどうかが問題。(長﨑)
■ United Health Products(UEEC)社の
止血ガーゼ「Hemostyp」〈2/15〉
創傷部位に留置するとすぐに血液凝固を開始
し、治癒後は水分を含ませるだけで簡単に除去
できる。市販前届 510(k)は完了している。
噴射口と吸引口を備えたノズルを経皮的に椎
間板内へ挿入し、高圧で生理食塩水を噴射して
髄核を吸引することで、椎間板による神経圧迫
を軽減する。施術時間は 20 分と短く、非常に
低侵襲なため患者の予後も良い。
• 救急分野では非常に有用だと思う。ガーゼの
使用数も減り、コスト削減につながるのでは。
適応に手術まで含まれればなおよい。
(河野)
• 椎間板ヘルニアの症例は日本でも多く、100 万人
以上と聞く。薬物療法や経過観察では痛みが改善
してもすぐに戻ってくるのでいたちごっこにな
り、根治を期待して侵襲性の高い手術を行っても、
再発などの問題が多いやっかいな症例である。
「SpineJet」は低侵襲で予後がよいとあるので、
患者にとって一筋の光になるかも。(竹内)
• 国内では、方法は異なるものの同じ目的で使用す
る商品がかなり前から流通しているが、使用する
■ SpineGuard 社の椎弓根プローブ
「PediGuard」〈2/28〉
生体組織の電気伝導率によって異なるビープ音
を発し、どこを削っているかを把握しやすくす
る。CE マーク、市販前届 510(k)の承認済み。
• 安全にペディクルスクリューを挿入するた
施設は限られている。水流を利用するからといっ
めのデバイスで、とてもおもしろい。おそら
くディスポのため価格が気になる。(原田)
て大きく広まることはないと予測されるが、洗浄
効果が高そうなので、化膿性脊椎炎等に使えるか
もしれない。(西山)
※〈 〉は MDD の配信日、
( )内は回答社員の名字
20
Apr. 2013
Vol.31
ヒューマンドキュメント医療機器を開発した⼈たち
ハンドアシスト法を⽤いた腹腔鏡⼿術を普及させた
「ラップディスク開発物語 」-6-
―――取材・執筆
ふくやま
たけし
福⼭ 健
を挟み込むことができない。そこからロングタイプ
この「ラップディスク開発物語」(全 12 回)は、NPO
という新たな製品開発のヒントが生まれた。
法人・日医文化総研の文化情報誌、
『知遊 Vol.15』
(2011
ともあれ、内視鏡手術で最先端を走り、ハンドア
年 1 月刊)と『知遊 Vol.16』
(同 7 月刊)に掲載のヒュ
シスト法が行われているアメリカにおいて、ラップ
ーマンドキュメントを一部編集して転載したものです。
ディスクは一定の関心を集めることができた。それ
を知りえた成果は大きかった。
翌 98 年 4 月には、ラップディスクを用いたハン
⾃分にしかできない⼿技は
標準になりえない
ドアシスト法腹腔鏡下手術をテーマとして、米国内
「ラップディスクを用いた新しいハンドアシスト
にはイタリアのローマで開催の世界内視鏡学会にお
視鏡外科学会において下村は演題発表を行う。6 月
法を広く知ってもらいたい」
いて演題発表。10 月にはACSにおける製品展示と
かずゆき
下村一之は最初の試作品を見た半年後の 97 年 3
ビデオ発表。以後、99 年ヨーロッパ内視鏡学会での
月の時点で早くも、同年 10 月にシカゴで開催され
展示発表、2000 年世界婦人科内視鏡学会での演題発
る全米外科学会(ACS)に向けた図面作成を依頼
表など、国際活動が続く。
している。ACSが開催されると、会場にプロトタ
国内においても、日本内視鏡外科学会、日本外科
イプ(量産前段階)のラップディスクを展示し、ポ
学会、日本臨床外科学会、日本消化器外科学会、日
スター発表を行った。ポスター発表はポスターを資
本医科器械学会などの場で、演題発表に取り組む。
料として使いながら、発表者が全体を説明するもの
ラップディスクの製造承認申請が認可されたのが、
98 年 9 月、製品が発売されたのは、同年 11 月であ
だが、下村が発表者となり、開発技術に関する質問
ゆきひこ
には玉井亨彦が答えた。
る。
それに先立ち、下村のもとに 1 通の朗報が届いた。
ACSのような大規模な学会では、ポスター発表
第 1 回日本内視鏡外科学会「伊藤賞」発表で、受
の件数も多い。個々のポスター発表の人気・不人気
は、そのポスター発表者の前にどれだけの人だかり
賞者に選ばれたという知らせである。
がしているかでわかる。大勢集
まっているところもあれば、閑
散としているところもある。
はたして、プロトタイプのラ
ップディスクが、どれほどの関
心を呼ぶのか。発表者の下村に
とっても不安であった。だが、
思った以上の手ごたえを感じた。
日本にいては気づかない点にも
気づかされた。アメリカの肥満
体の人の腹壁は 7 センチを超え
る。そうなると、下リングとフ
レキシブルリングとの間に腹壁
全米外科学会(2000 年アトランタ開催)の会場でポスター発表をする下村医師。
21
Apr. 2013
Vol.31
伊藤賞は同学会の機関誌『日本内視鏡外科学会雑
誌』に掲載された投稿論文のなかから最も優れた論
文を年間に 1 編選び、その論文に与えられる賞だ。
この年は 20 編の候補作のなかから、
「私の工夫欄」
に掲載された下村の論文「LAPDISC(再気腹用
腹壁ディスク)を使用した新しいハンドアシスト法
腹腔鏡下手術」(98 年 8 月号掲載)が選出された。
受賞作のサマリーを紹介しておこう。
腹腔鏡下手術は、2 次元画像のもとでの遠隔操作
画像表示モニターを見ながら腹腔鏡手術をする下村医師
(向かっていちばん右)らの手術チーム。
というハンディキャップをもっている。これを改善
する目的で、われわれはハンドアシスト法に用いる
腹壁ディスク(LAP DISC)を開発した。この装
置は、気腹を維持したままで術者の手を腹腔内に挿
器外科のみならず、呼吸器外科、整形外科、産婦人
入し、術中の触診や、臓器の把持、牽引などを行う
科、泌尿器科へと大きく適応範囲を広げている。
ことができる。したがって、比較的標本の大きな手
「自分にしかできない手技は標準にはなりえない」
術、悪性疾患に対する手術、術中に出血などの合併
内視鏡外科学会のワークショップなどで、下村は
症発生の可能性が比較的高い手術など、広い範囲の
繰り返し指摘してきた。
腹腔鏡下術式に応用が可能である。LAP DISCを
短いけれども、この言葉の意味するところは深い。
用いたハンドアシスト法の腹腔鏡下手術は、これま
“ゴッドハンド(神の手)”と呼ばれる卓越した手
での腹腔鏡下術式の安全性、確実性の向上、手技の
技を持つ医師がいて、世間で高い評価を受ける。し
平易化、適応の拡大に大きく寄与する方法と考えら
かし、いくら優れていても、特定の個人だけしかで
れる。
きない手技は標準術式にはなりえない。大切なのは、
広く臨床の場に役立てることができ、多くの医師が
行うことができる標準化された術式にすることだ。
掲載誌には、この論文が受理されたのが 98 年 4
「患者本位の治療を推進する当科では、腹腔鏡下手
月 2 日であることが記されている。
術を標準術式として行っており、術後の痛みの緩和
それから十年余が経過した今日、ラップディスク
と早期の回復に努めています。場合によりハンドア
を用いたハンドアシスト法の腹腔鏡下手術は、消化
シスト法という片手を腹部に入れる方法を併用して
います」
「腹腔鏡手術を行う技術をもった施設においては、
腹腔鏡下の腎摘除術、副腎摘除術などは標準的な術
式となっています。当科は全国でも有数の腹腔鏡技
術をもった集団であることを自負しています」
こうした病院のホームページを目にすると、下村
の指摘が生かされていることがわかる。腹腔鏡手術
を標準術式としている診療科は、
「患者本位」や「優
秀な技術」を高らかに掲げている。
ラップディスク開発は、腹腔鏡手術を標準術式化
するうえでも大きく寄与してきたといえる。腹腔鏡
手術の件数は右肩上がりに増え、その多くでハンド
アシスト法が併用されている。
ラップディスクの形状は美しい。
用途に応じて多種多様なタイプがある。
(次号に続く)
22
Apr. 2013
Vol.31
[出典紹介]
MDD (Medical Device Daily)
医療・検査器材を中心に、海外医療の最新情報や将来動向をたんねんに収録したデイリーニュース。
医療制度、市場動向、保険者や病院団体の動向、学会、新技術、FDA、新製品、VIP インタビュー等。
HRM (Healthcare Risk Management)
医療訴訟や医療機関におけるリスクマネジメントの最新情報。
CMA (Case Management Advisor)
入院から退院、在宅医療までのケース・マネジメントにまつわるさまざまな問題やその解決方法を収録。
HCM (Hospital Case Management)
病院が抱える多くの問題を病院間で共有・解決するためのアドバイスやテクニック、成功/失敗事例の紹介。
SDS (Same-Day Surgery)
感染症コントロールから償還、コスト削減策まで、日帰り手術の効果と安全性を高める情報を幅広く収録。
TR (Trauma Reports)
外傷患者の救急医療についての精査された情報を提供。
知遊 (CHIYU)
特定非営利活動法人(NPO 法人)・日医文化総研が、年 2 回刊行する文化情報誌。今日の医療を取り巻く
文化状況を、芸術文化・歴史・経済など幅広い視点から取り上げている。(http://www.chiyuu.com/)
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Apr. 2013 Vol. 31
[発⾏⼈]―――⾼井
http://www.kawanishi-md.co.jp/mg
平
[編集⼈]―――前島達也
[発⾏所]―――㈱カワニシホールディングス
〒700-0975 岡⼭市北区今 1 丁⽬ 4-31
TEL: 086-241-9241
Internet:http://www.kawanishi-md.co.jp/mg
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