第3準備書面

平成28年(行ケ)第3号
地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事
件
原
告
国土交通大臣
石
井
啓
一
被
告
沖 縄 県 知 事
翁
長
雄
志
第3準備書面
平 成 28 年 8 月 4 日
福岡高等裁判所那覇支部民事部ⅡB係
御中
被告訴訟代理人
弁護士
竹
下
勇
夫
同
加
藤
同
松
永
和
宏
同
久
保
以
明
同
仲
西
孝
浩
同
秀
浦
由紀子
同
亀
山
聡
裕
被告指定代理人
謝
花
喜一郎
池
田
竹
州
金
城
典
和
城
間
正
彦
玉
寄
秀
人
新
垣
耕
神
元
愛
城
間
恒
司
山
城
智
一
川
満
健太郎
山
城
正
大
城
和華子
島
袋
均
桃
原
聡
奥
平
勝
昭
吉
元
徹
成
宮
城
勇
治
也
永
山
多良間
正
一
弘
中
村
當
銘
勇
矢
野
慎太郎
桑
江
隆
知
念
宏
忠
崎
枝
正
輝
神
谷
大二郎
具志堅
猛
洋
太
介
目次
第1
主 張 の 概 要 ............................................................................. 4
1
是正 指 示 理 由 及 び 訴 状の 主 張 ................................................... 4
2
被告 の 主 張 .............................................................................. 5
第2
瑕 疵 あ る 行 政 処 分 は 原 則 と し て 取 消 さ れる べ き で あ る こ と ....... 7
1
はじ め に ................................................................................. 7
2
行政 処 分 ゆ え に 格 別 高度 の 安 定 性 が 要 求 され る も の で な い こ と 8
⑴
行政 処 分 の 公 定 力 に つい て ................................................... 8
⑵
行政 処 分 の 不 可 争 力 につ い て ................................................ 9
⑶
行政 処 分 の 不 可 変 更 力に つ い て ........................................... 10
⑷
小括 .................................................................................... 10
3
原則 と し て の 取 消 し と例 外 と し て の 取 消 制限 .......................... 11
4
これ ま で の 日 本 国 の 主張 ........................................................ 12
5
東京 高 判 平成 16 年9 月 7 日 判 決 ............................................ 13
6
小括 ....................................................................................... 13
第3
公 有 水 面 埋 立 法 に 基 づ く 承 認 処 分 の 性 質と 職 権 取 消 ................ 13
1
根拠 法 と 埋 立 承 認 処 分の 拘 束 力 .............................................. 13
2
公有 水 面 埋 立 法 に 基 づく 承 認 の 性 質 ........................................ 14
⑴
承認処分は埋立地上において特定の事業活動を行うことを前提
に 公 有水 面 を 廃 し 土 地 を 整備 す る 資 格 を 付 与 す る 処 分 で あ る こ と 14
⑵
承認は国家機関に対して「固有の資格」に基づく公益の調整行
為 を 含む 処 分 で あ る こ と ............................................................ 16
⑶
公有水面埋立承認処分は拒否処分について片面的裁量性を認
め る もの で あ る こ と ................................................................... 18
1
⑷
公有 水 面 埋 立 の 免 許 ・承 認 は 単 純 な 授 益 的処 分 で は な い こ と 20
⑸
要件 充 足 判 断 に お い て公 益 判 断 が な さ れ てい る こ と ............. 21
⑹
訴状 に お け る 国 土 交 通大 臣 の 主 張 に つ い て .......................... 22
3
最判 昭 和 43 年 判 決 につ い て ................................................... 25
4
小括 ....................................................................................... 28
第4
信 頼 保 護 に 基 づ く 職 権 取 消 の 制 限 法 理 につ い て ...................... 28
1
是正 の 指 示 が 関 与 関 係で あ る こ と に 基 づ く制 約 ....................... 28
⑴
是正 の 指 示 の 理 由 は 公益 と 信 頼 利 益 と が 混淆 し て い る こ と ... 28
⑵
是正 の 指 示 の 要 件 ............................................................... 30
⑶
関与 は 法 律 に よ る 行 政を 守 る た め の 制 度 であ る こ と ............. 31
2
本件承認処分により与えられた資格が存続するに足る信頼利益は
存 在 しな い こ と ............................................................................. 32
⑴
国の主張全般に共通する問題点(承認以前の事情が含まれてい
る こ と) .................................................................................... 32
⑵
資格 の 存 続 を 求 め る に足 る 信 頼 が な い こ と .......................... 34
⑶
承認 処 分 に 至 っ た 原 因に つ い て ........................................... 36
第5
本 件 埋 立 承 認 は 公 益 上 取 り 消 さ な け れ ばな ら な い こ と ............ 41
1
承認 処 分 を 放 置 す る こと が 公 益 を 著 し く 害す る こ と ................ 42
⑴
はじ め に ............................................................................. 42
⑵
希少 な 自 然 環 境 の 不 可逆 的 な 喪 失 ........................................ 43
⑶
新基地建設は日本国憲法の精神にも反するというべき沖縄の
米 軍 基地 の 現 状 を 固 定 化 する も の で あ る こ と .............................. 46
⑷
2
⑴
小括 .................................................................................... 52
承認 処 分 か ら 承 認 取 消処 分 ま で に 生 じ た 事情 の 検 討 ................ 52
是正の指示においては承認によって生じた問題ではない事情が
理 由 とさ れ て い る こ と ............................................................... 52
2
⑵
国家間でした約束事を実現できないことによる国際的な信頼関
係 の 低下 と い う 主 張 に つ いて ..................................................... 54
⑶
普天間飛行場周辺の住民の生命・身体又は財産に対する危険性
の 除 去を 振 り 出 し に 戻 す との 是 正 指 示 理 由 に つ い て .................... 56
(4)
普 天 間 飛 行場 跡 地 利 用 に よ る 年 間 約 3866 億 円 に 上 る と さ れる
経 済 的発 展 が 頓 挫 す る と の是 正 指 示 理 由 に つ い て ....................... 63
(5)
3
沖 縄 県 全 体の 負 担 の 軽 減 が 実 現 さ れ な いと の 主 張 に つ い て .. 65
平成 8 年 以 降 の 日 米 の「 積 み 重 ね 」 に つ いて .......................... 66
⑴
はじ め に ............................................................................. 66
⑵
被 告 に お け る 平 成 11 年 の 沖 縄 県 知 事 及 び 名 護 市 長 の 受 入 表 明
の 位 置づ け ................................................................................ 67
⑶
軍民共用空港を前提とした環境影響評価手続きまでの経緯につ
い て .......................................................................................... 68
⑷
民意 を 無 視 し た 基 地 計画 の 変 容 の 経 緯 ................................. 76
⑸
沖縄 県 民 の 明 確 な 拒 絶の 意 思 ............................................... 81
⑹
結論 .................................................................................... 82
4
小括 ....................................................................................... 84
第6
結 論 ...................................................................................... 85
3
第1
1
主張の概要
是正指示理由及び訴状の主張
是 正 指示 理 由 は、
「 授 益 処分 と し て の 行 政 処 分は 、そ れ に 法 的 瑕 疵
があり違法であっても、直ちに取消権が発生したり、あるいはこれ
を行使できるものではなく、処分を取り消すことによって生ずる不
利益と、取消しをしないことによって当該処分に基づいて生じた効
果をそのまま維持することの不利益を比較考慮し、当該処分を放置
することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められ
る と きに 限 っ て こ れ を 取 り消 す こ と が で き る と 解 さ れ る 」
(最高裁昭
和 43 年 11 月7 日 判 決 ・ 民 集 22 巻 12 号 2421 頁 、 最 高 裁 昭 和 28
年 9 月4 日 判 決 ・ 民 集 7 巻9 号 868 頁 、 最 高裁 昭 和 31 年 3 月 2日
判 決・民集 10 巻 3 号 147 頁 ,最 高 裁 昭 和 33 年 9 月 9 日 判 決・民集
12 巻 13 号 1949 頁 ,東 京 高等 裁 判 所 平 成 16 年 9 月 7 日・判 例 時 報
1905 号 68 頁 等 参 照 )、 と し 、「 本 件 承 認 処 分 を 取 り 消 し た 本 件 取消
処 分 は違 法 で あ る 」 と し てい る 。
そして、訴状において国土交通大臣は、第1に「処分の相手方た
る国が被る不利益」として、①普天間飛行場の周辺住民等の生命・
身体等の危険除去が出来ないこと、②日米間の信頼関係が破壊され
ること、③我が国が国際社会からの信頼を失うこと、④沖縄県の負
担軽減が進められなくなること、⑤普天間飛行場返還後の跡地利用
による経済的利益が得られなくなること、⑥事業のための経費等が
無駄になること、⑦被告が代替施設の建設候補地の検討をしていな
い こ とを も っ て 不 利 益 に 対す る 緩 和 措 置 が な いこ と と し て 挙 げ る 。
第 2 に、「 処分 に よ る 第 三者 へ の 影 響 」 と し て、 平 成 18 年 度 か ら
平 成 27 年 度 末 まで 1293 億 円、平成 26 年 度 及 び 平 成 27 年 度 に 更に
955 億円 の 契 約 を 締 結 し て い る こ と を 挙 げ る 。 第 3に 瑕 疵 を 生 じ さ
4
せた原因が事業者に無いことを考慮すべきとする。第4に公水法は
一旦付与した法的地位を容易には否定しない趣旨の規定を設けてい
る も のと 解 釈 す る 。
そして、以上に加えて、承認処分の瑕疵の重大性を否定して、比
較 衡 量上 、被 告 は 本 件 承 認処 分 を 取 消 す こ と は出 来 な い と 主 張 す る。
2
被告の主張
以 上 に対 し て 、 被 告 の 主 張は 大 要 、 次 の 通 り であ る 。
第1に、行政権は法律に由来し、その成立の手続及び内容、形式
などのすべての点において法律の定めに合致し、公益に適合してい
なければならないものである以上、処分行政庁において、自らさき
の行政処分の違法性を認識した以上は、法治主義の観点から、処分
を取消すことにより適法状態の回復がなされるべきことを、我が国
に お ける 法 体 系 の 原 則 と して 認 識 し な け れ ば な ら な い も の で あ る 。
第2に、公有水面埋立法に基づく承認とは、自然公物の公用廃止
を意味するものであり、公衆の自由使用や公有水面の有する環境機
能や生態系維持機能といった重要な社会的利益に係るものである以
上、知事が誤って違法に公有水面の埋立を承認してしまい、専門家
による検証を経て事後にその誤りに気付いたとしても、国土利用上
適正性を欠き、貴重な自然環境を破壊してしまう埋立工事を手を拱
いて傍観せざるを得ないとは到底考えられないものであり、この様
な違法な資格による事業活動を将来にわたって維持するために職権
取消を制限する法理は存しないものである。特に、本件事業は、約
2100 万 立 方 メ ー ト ル の 土砂( 高 さ 1 メ ー ト ル・幅 100 メ ー ト ル で敷
い て いく と 全 長 約 210 キ ロ メ ー ト ル に 及 ぶ 量で あ る 。)を 投 入 す ると
いう前例のない大規模な埋立工事を行い、事業実施区域の環境に回
5
復不可能な被害を生ぜしめるものであるとともに、異常なまでの沖
縄への基地集中の過重負担・格差をさらに将来にわたって固定化す
る処分であって、この様な地域生活、自然環境に甚大な影響を及ぼ
す処分の処分要件を欠いているにも関わらず承認処分が行われてし
まった場合については、根拠法の規定から、公益上、処分の取り消
し を しな け れ ば な ら な い もの で あ る 。
第3に、国土交通大臣の主張にかかる職権取消の制限法理は、行
政に依存せざるを得ない私人の信頼保護を根拠とするものであって、
行政の適法性を確保するために行使されるべき関与権限の行使の根
拠とはなり得ない。特に、事業者による事業経費の支出、不利益緩
和措置の有無、国と第三者との契約関係に関しては、当該権利関係
の主体が争っているものでもない(むしろ、現在は不可争の状態に
なっている)にも関わらず、国家がその特定の主体に帰属すべき利
益を代弁して、敢えて違法処分を存続させるための指示を行う理由
にはなり得ない。また、取消処分に至る原因事実が誰の責任に係る
ものかという問題も、その本質はまさに処分の相手方における信頼
保護の問題であって、国土交通大臣が法定受託事務の執行の適性を
図る関与関係において問題となし得る事情ではあり得ない。更に、
ここで国土交通大臣が述べる諸事情は、本件の具体的な事情に鑑み
たとき正当な信頼を生ぜしめるものとは言えず、また、事後的な金
銭的賠償の問題はともかく、本件承認処分が要件適合性を欠如して
いたにも関わらず、当該違法資格それ自体を存続させる根拠には到
底 な り得 な い も の で あ る 。
第4に、普天間飛行場の周辺住民等の生命・身体等の危険除去、
日米あるいは国際的な信頼関係、沖縄県の負担軽減、普天間飛行場
返還後の跡地利用等、国土交通大臣による公益にかかる主張のほと
6
んど全てが、瑕疵のある原処分がなされた時点以前に形成されてい
た権利利益などに関するものであり、または、瑕疵ある行政処分に
そのものによって将来得られる受益を主張するものに過ぎず、本件
においては、本件承認処分から本件承認取消処分までの間に保護さ
れ る べき 公 共 の 利 益 は ほ ぼ形 成 さ れ て い な い と い っ て よ い 。
したがって、要件適合性を欠如し,違法に付与され、それ故、法
律=公有水面埋立法による行政の原理をも覆して、資格を取消すこ
と を 違法 と す べ き 特 段 の 事情 は 、 本 件 に お い て何 ら 存 在 し な い 。
以上からすれば、沖縄県知事に公益保護の為に取消しをする責務
があるものというべきであるから、本件埋立承認取消処分が適法で
あ る こと は 明 ら か で あ る 。
第2
1
瑕疵ある行政処分は原則として取消されるべきであること
はじめに
行政行為は、その成立の手続及び内容、形式などのすべての点に
おいて法律の定めに合致し、公益に適合していなければならない。
このことは法律による行政の原理から導かれる当然の要請であり、
それ故、瑕疵ある行政行為は、法治主義の観点から取り消されて適
法 状 態の 回 復 が な さ れ る べき も の で あ る 。
こ れ に対 し て 、是 正 指 示 理由 及 び 訴 状 で は 、行政 処 分 の 性 質 か ら、
行政処分については特別高度の安定性・信頼性が要請されるという
独自の前提のもと、職権取消において特別高度の必要性を要すると
の 主 張を 展 開 す る も の で ある 。
しかしながら、この様な主張は、瑕疵ある行政処分の是正につい
て の 原則 と 例 外 を 取 り 違 えた も の と 言 わ な け れ ば な ら な い 。
7
2
⑴
行政処分ゆえに格別高度の安定性が要求されるものでないこと
行政処分の公定力について
行政処分の公定力は、当該処分の名宛人や第三者らの利害関係
者が当該処分の法効果の覆滅を権利として求めるためには取消訴
訟や行政上の不服申立ての手段を通じてこれを行わなければなら
ないという取消争訟手続の排他性から帰結する手続制度的な効力
に 過 ぎな い 。
公定力は、職権取消及び争訟取消自体を何ら制約する効果を持
つものではないことには争いはない。つまり、公定力の根拠と機
能は行政処分の取消権原を行政庁と裁判所に集中させ、かつ、争
訟取消による場合にはその取消権原の発動手続きを排他的なもの
と す るこ と に よ っ て 、紛 争 処理 の 合 理 化・単 純 化を 図 る 点 に あ る。
そうでなければ、ある争訟との関係においては行政処分の効力が
否定され、他方との関係においては有効とされるなどすることに
なり、行政運営に支障が生じ得るのである。しかしながら、この
ことを瑕疵のある行政処分それ自体の安定性を、特別に保護し、
違法な行政処分の効力を存続させる機能・効力を有するものでは
ないことは明らかである。すなわち、行政処分に公定力が働くと
しても、行政訴訟という手続管轄さえ遵守すれば、通常の民事訴
訟手続きにしたがって、主張・立証を尽くし、審理の結果として
瑕疵があると認められ場合には、事情判決・事情裁決という例外
的 状 況を 除 い て 当 然 に 取 消さ れ な け れ ば な ら ない も の で あ る 。
したがって、公定力をもって、行政処分について高度の安定性
が要請される根拠と位置付けることは出来ないものと言わざるを
得ない。
なお、公定力の根拠として、過去には行政処分に対する適法性
8
の推定が語られることがあった。しかし、仮に原告がその様な根
拠に基づいて行政処分の安定性・信頼性を主張するものであると
すれば、それは、とりもなおさず、行政庁の専門的・裁量的判断
の尊重を要することを意味するものであって、本件についてみれ
ば、処分行政庁である現沖縄県知事による職権取消の判断を尊重
し な けれ ば な ら な い も の であ る 。
以上から、公定力が、行政処分について特段の安定性・信頼性
を保護し職権取消の制約根拠とする原告の主張は明らかに理由が
ない。
⑵
行政処分の不可争力について
また、不可争力は、処分の法効果の覆滅を処分の名宛人や第三
者が請求する専管的手続たる争訟手続には短期の出訴期間(行訴
法 14 条 ) や 不服 申 立 期 間( 行 審 法 14 条 ・45 条 ・ 53 条 、 改 正 行
審法 18 条・54 条・ 62 条 )が 設け ら れ て い る結 果 、そ の 期 間 の 徒
過後は、もはや名宛人や第三者は当該処分の法効果の覆滅を権利
として請求することが出来なくなるという、やはり手続制度的な
効 力 であ る 。
不可争力は、特定の名宛人等の個々の利益に基づいた争訟提起
行 為 につ い て は 、裁 判 を 受け る 権 利( 憲 法 32 条 )を 侵 害 し な い範
囲における立法政策として一律の出訴期間という制約を課したも
のに過ぎず、これを処分行政庁自身に対する取消権の制約原理と
考 え るこ と は 出 来 な い 。
なお、不可争力は当然に本件承認「取消」処分にも生じるもの
であって、承認処分固有の性質ではない。この点、本件において
は、国土交通大臣が承認取消処分によって影響を受けると主張す
9
る事業者や関係業者の誰からも取消訴訟が提起されておらず、そ
れらの者について実際上,承認取消処分についての不可争力が生
じ て いる と こ ろ で あ る 。
⑶
行政処分の不可変更力について
以上に対して、処分庁の職権取消権を制限する効力は、不可変
更力と呼ばれ、これは、公定力や不可争力のように行政処分に広
く一般的には承認されておらず、行政不服審査法に基づく審査請
求等の不服申立てに対する審査庁の裁決・決定等の争訟裁断的行
政処分に限って認められている。一般の行政処分については、そ
れが違法であれば、法律による行政の原理に服する行政庁として
その活動の適法性を実現すべくその効果を覆滅させるのは当然で
あるし、仮に当該処分に違法性その他の瑕疵がなくとも、将来に
向かって積極的形成的に行われる行政作用の性質上、新たな社会
経済状況に自らの活動を目的適合的に変動させていく必要がある
からである。これに対し、争訟裁断的行政処分は、現在の法律関
係に関する紛争を裁断する裁判判決に類似したその機能の故に、
法的安定性を確保すべく紛争裁断者自らそれを取消・変更するこ
とが遮断されるべきであると考えられている。そして、前沖縄県
知事による埋立承認処分が、かかる争訟裁断的行政処分ではない
こ と は改 め て 述 べ る ま で もな い 。
⑷
小括
こ の よ う に 行 政 処 分 の 公 定力 や 不 可 争 力 は 、 もっ ぱ ら 当 該 処
分 の 名宛 人 や 利 害 関 係 を 有す る 第 三 者 に 対 す る手 続 的 効 力 を 有 す
る に とど ま っ て お り 、 そ れが 行 政 処 分 に 固 有 の何 ら か の 高 度 の 安
10
定 性 を要 請 す る 趣 旨 で あ ると は 到 底 解 さ れ ず 、ま し て や 、 処 分 を
行 っ た処 分 庁 自 身 に よ る 職権 取 消 処 分 に お け る制 約 根 拠 と し て 位
置 付 ける こ と は 許 さ れ な い。
処 分 行 政 庁 は 、 公 定 力 あ るい は 不 可 争 力 の 様 な手 続 的 効 力 に 拘
束 さ れる こ と な く 、 自 ら 処分 を 違 法 ・ 不 当 と 認め て 職 権 に よ っ て
処 分 を取 り 消 す こ と が で きる こ と に 争 い は な い。
3
原則としての取消しと例外としての取消制限
職権取消制限の法理は、あくまでも例外的に行政庁の職権取消権
を制限する法理であり、行政活動の適法性を確保するために行政庁
が違法・不当な行政処分の職権取消権を行使することができること
が 原 則で あ る 。
違法・不当な授益的行政処分がなされ、当該処分の名宛人と対立
する利害関係第三者があり、それに原告適格や不服申立適格が認め
られる場合、当該第三者から当該処分の争訟取消が裁判所や審査庁
に求められ、当該処分に違法若しくは不当の瑕疵があれば、如何に
名宛人の権利利益が害されることがあっても、裁判所や審査庁は、
処分を取り消さなければならない。ただ、事情判決や事情裁決をな
すべき事由がある場合に限って、当該授益処分が違法であることを
判決・裁決主文で宣言しつつ、第三者に対する損害等の補填などの
事情も考慮の上、請求を棄却することが認められるのみである(行
訴 法 31 条 、 行 審 法 40 条 6 項 ・48 条 ・ 56 条 、改 正 行 審 法 45 条 3
項 ・64 条 4 項)。
このことは、争訟取消を求める国民の権利を保障した行政争訟制
度の制度趣旨から当然に導かれることである。このような法律によ
る行政の原理とそれを担保する争訟的保障のシステムの存在を視野
11
に入れるとき、たとえ行政処分によって相手方国民に保護すべき信
頼利益が生じているとしても、当該処分が違法であれば、行政庁に
よる職権取消がおよそ原則的に許されないとされるべきではないこ
と は 明ら か と い う べ き で ある 。
藤 田 宙靖「 行 政 法 総 論 」243 頁 は、
「 違 法 な 行政 行 為 の 取 消 制 限 と
い う こ と が 一 般 に 認 め ら れ る の は 、 あ く ま で も 、『 法 律 に よ る 行 政 』
という要請と相手方及び関係者の法的安全の保護という要請との価
値衡量の結果、後者に重きが置かれる場合が存する、ということが
承認されるからであるが、理論的に見る限り、それはやはりさしあ
たって『法律による行政の原理』の例外(ないし限界)を成すもの
と 言 わざ る を 得 な い 。」
「『 法 律に よ る 行 政 の 原 理 』を 、今 日 な お 行政
法解釈論の出発点として採用しようとする限りにおいては、違法な
行政行為について、原則としての取消しと例外としての取消制限、
という理論的なけじめを明確につけておくことが必要であると思わ
れ る 。」 と 指 摘 し て い る 。
4
これまでの日本国の主張
以上に加えて、他ならぬ日本国自体が、これまでの行政訴訟にお
いて、瑕疵ある行政行為は取り消されることが大原則であり、取消
し が 制限 さ れ る こ と は 例 外で あ る と 主 張 し て き た も の で あ る 。
す な わち 、是 正 指 示 理 由 に引 用 さ れ て い る 東 京 高 等 裁 判 所 平 成 16
年 9 月7 日 判 決 ( 以 下 「 東京 高 判 平 成 16 年 」 と い う 。) の 事 案 にお
い て も、国 は 、
「 信 義 則 を適 用 す る と、法 律 に 違 反 す る 状 況 が 生 じて
しまうのであり、法律による行政の原理・原則によれば、信義則の
適 用 に つ い て は 慎 重 で な け れ ば な ら な い 」、「 一 般 に 、 行 政 処 分 は 、
適法かつ妥当なものでなければならないから、いったんされた行政
12
処分も、後にそれが違法又は不当であることが明らかになったとき
は、処分庁自らこれを職権で取り消し、遡及的に処分がされなかっ
た の と同 一 の 状 態 に 復 せ しめ る こ と が で き る の が 本 来 で あ る 」 と主
張 し てい た も の で あ る 。
5
東 京 高 判 平 成 16 年 9 月 7 日 判 決
そ し て、 東 京 高 判 平 成 16 年 は、「 一 般に 、 行 政処 分 は 適 法 か つ 妥
当なものでなければならないから、いったんされた行政処分も、後
にそれが違法又は不当なものであることが明らかになった場合には、
法律による行政の原理又は法治主義の要請に基づき、行政行為の適
法性や合目的性を回復するため、法律上特別の根拠なくして、処分
をした行政庁が自ら職権によりこれを取り消すことができるという
べきである」と判示し、瑕疵ある行政行為は取消されることが原則
で あ り、 例 外 的 に 制 限 さ れる こ と が あ る こ と を 示 し て い る 。
6
小括
以上のとおり、今日の学説や裁判例では、違法・不当な行政行為
は取り消されることが原則であるとされており、職権取消制限はあ
く ま でも 例 外 的 な 法 理 で ある 。
第3
1
公有水面埋立法に基づく承認処分の性質と職権取消
根拠法と埋立承認処分の拘束力
以上述べたとおり、法律による行政の原理に鑑みれば、瑕疵ある
行政処分は取消されるべきことを原則とするものであることは明ら
か で ある 。
もっとも、処分は常にその根拠法に基づく授権により行われる以
13
上は、根拠法に基づく処分の性質との関係において、その拘束力の
程 度 には 差 異 が あ り 得 る こと は 、最 高 裁 も 指 摘 す る と こ ろ で あ る(最
判 昭 和 28 年 9 月 4 日 判 決・民 集 7 巻9 号 868 頁 。以 下、「 最 判 昭和
28 年判 決 」 と い う 。)。
本件においても、公有水面埋立法に基づく埋立承認処分の性質に
鑑 み て、 そ の 拘 束 力 の 程 度に 関 す る 検 討 を 行 う 必 要 が あ る 。
2
⑴
公有水面埋立法に基づく承認の性質
承認処分は埋立地上において特定の事業活動を行うことを前提
に公有水面を廃し土地を整備する資格を付与する処分であること
公有水面埋立法に基づく承認あるいは免許は、その承認の可否
の 判 断に お い て 、同 法 4 条1 項 各 号 に 定 め ら れた 各 要 件 に 従 っ て、
公衆の自由使用や公有水面の有する環境機能や生態系維持機能と
いった重要な社会的利益に係る審査を都道府県知事に任せ、知事
による承認により、公有水面を廃止して陸地化した土地上におい
て、その埋立の用途に従った事業活動を行う基盤を整備するもの
で あ る。
したがって、承認処分は事業活動を前提として、公有水面を陸
地化する資格を付与する処分である。このような資格を付与する
処分については、塩野宏教授が「資格等の地位付与に関する場合
は 公 益 上 必 要 な 要 件 が 欠 け て い る 以 上 、取 消 権 の 制 限 は 及 ば な い 」
( 塩 野 宏 『 行 政 法 Ⅰ [ 第 六 版 ] 行 政 法 総 論 』 190 頁 ) と 指 摘 す る
とおり、要件適合性を欠くにも関わらず付与された資格について
は、処分後に状況が変わったとしても、その資格それ自体を存続
さ せ るべ き 正 当 な 利 益 は 通常 存 在 し 得 な い も ので あ る 1
1
2。
国 地 方 係 争 処 理 委 員 会 平 成 28 年 4 月 22 日 の 審 査 期 日 に お い て 、 委 員 よ り 、「 今
14
な お 、 原 告 は 大 分 地 裁 平成 27 年 2 月 23 日 判決 に 触 れ る が 、教
職員の採用決定と公有水面の埋立承認を同列に解すこと自体疑問
で あ るこ と は も と よ り、同 じ 問 題 を取 扱 っ た 大分 地 裁 平成 28 年1
月 14 日判 決 ( 大 分 地 方 裁判 所 平 成 21 年 ( 行 ウ ) 第 4 号 ) は 「本
件採用処分が違法である以上,原告には,その地位を保有する正
当 な 利益 は 認 め ら れ な い。」 と 解し た も の で ある 。
また、事案の相違に関しても指摘しておくが、上記大分地裁平
成 27 年 判 決 は、「 平 成 20 年 6 月 14 日 に ,県 教 委 幹 部 が 贈収 賄 の
事 実 によ り 逮 捕 さ れ る や,そ の 1 か月 後 で あ る同 年 7 月 16 日 に は,
不正な方法により採用されたことが確認できた者については採用
を取り消すとの方針を採ることを決定しており,この前後に,法
的な問題点を抽出し,詳細な検討を加えたり,個別具体的な事実
関 係 の調 査 を し た り し た こと は う か が え な い。」と 事実 認 定 し てお
り、不 正 な 加 点 の 存 在 か ら地 公 法 15 条 の 能 力 実 証 主 義 と の 適 合 性
に関して何ら検討を経ることなく即座に取消しを行ったものであ
り 、取 消 に 至 る 検 証・判 断 過程 は 本 件 と は 全 く異 な る も の で あ る。
回 の 埋 立 承 認 は 私 人 に 対 す る 処 分 で は な く て 、行 政 機 関 で あ る 沖 縄 防 衛 局 を 名 宛 人 と
す る も の で 、資 格 の 地 位 を 付 与 す る も の で あ る と 理 解 し て お り ま す 。そ の 点 で 引 用 し
て い た だ き ま し た 判 例 の 事 実 関 係 で す と か 、行 政 法 の 学 説 が 前 提 と し て い る 職 権 取 消
し の 制 限 に 関 す る 事 実 関 係 と は 若 干 異 な る と こ ろ が あ る よ う に も 思 え る わ け で す 」と
の 指 摘 が な さ れ て い る ( 議 事 録 22 頁 )。
2
札 幌 地 判 S29.11.9 行 集 5.11.2773 は 、鉱 業 法 27 条 1 項 、52 条 に 基 づ く 鉱 業 権 取
消 処 分 を 、「 原 告 ら の 右 取 消 処 分 に よ り 被 る 損 害 が 甚 大 で あ る と し て も 、 こ の 一 事 を
もつて直ちに右取消処分を違法ということができない」としている。
神 戸 地 判 H1.9.11 判 タ 726.149 は 、 条 件 付 運 転 免 許 を 受 け た も の の 、 更 新 時 に 行
政 庁 の 手 違 い で 無 条 件 運 転 免 許 を 受 け た 者 に 対 し 、そ の 次 の 更 新 時 に 職 権 で 当 初 の 条
件 付 き 免 許 証 を 交 付 し た こ と に つ い て( こ の 交 付 が 、運 転 免 許 条 件 解 除 処 分 の 取 消 処
分 と さ れ て い る )、 条 件 解 除 に 技 能 審 査 が 課 さ れ て い る こ と か ら 、 条 件 解 除 処 分 の 放
置は著しく不当であるとし、当該取消処分を適法としている。
15
⑵
承認は国家機関に対して「固有の資格」に基づく公益の調整行
為を含む処分であること
更に、公有水面埋立「承認」処分についてはより一層違法・不
当 に 付 与 さ れ た 資 格 を 存 続さ せ る べ き 根 拠 は 存在 し な い 。そ れ は、
承認処分は、私人に与えられる免許と全く異なり、当該処分自体
に公有水面の効用を廃止すべき公物管理権原の付与を含む国家
「固有の資格」において処分の名宛人となるべき処分であるから
で あ る。
す な わ ち 、公 水 法 は 、国 に対 す る「 承 認 」と 国 以 外 に 対 す る「免
許 」を区 分 し、「 承 認 」の名 宛 人 は 、国 の 機 関に 限 定 し 、ま た 、公
水法の適用を受ける水面は、私法の適用は排除されるいわゆる公
物 で あり 、国 が 公 水 法 第 1条 に い う 公 有 水 面 の「 所 有 」者 と し て、
そ れ 以外 の 者 と 公 有 水 面 に対 し て 異 な る 立 場 に 立 つ 3 。
それ故、
「 免 許 」に よ り 国以 外 の 者 に 対 し て 設定 さ れ る 公 有 水面
埋 立 権 に つ い て は 、 公 水 法 は 譲 渡 性 を 認 め て お り ( 第 16 な い し
21 条)、
「 公 有 水 面 埋 立 権 」は 差 押 え の 対 象 と も な る も の で あ る 4 の
に 対 し て 、 承 認 に つ い て は、 公 水 法 第 42 条 2項 は 、 同 法 16 ない
し 21 条 を 準 用 して お ら ず、 譲 渡 は 認 め ら れ てい な い 。
また、公物を公物以外の物にするためには、公物管理権者によ
る公用廃止が必要であり、公有水面を構成する一要素としての地
盤に土砂その他の物件が添付されて土地的状態へと形態変化して
も、公用廃止がなされるまでは、公物としての本質は変更されな
いから、私法の適用を受けず、所有権の対象とならない(最高裁
3
公水法第1条は、
「本法ニ於テ公有水面ト称スルハ…国ノ所有ニ属スルモノヲ謂ヒ」
と し て い る 。公 有 水 面 埋 立 法 逐 条 理 由 は 、
「国の所有に属すと謂ふは官有地取扱規則
第 12 条 に 所 謂 官 に 属 す と 同 一 な り 」 と し て い る 。
4 「融通性ヲ有シ権利者ノ一身ニ専属スルモノニアラサル」
(昭和6年2月9日長崎
控訴院民事二部判決)
16
判 所 平成 17 年 12 月 6 日第 二 小 法 廷 判 決 ・ 民集 59 巻 10 号 2931
頁)。
し か し、「 免 許 」と「 承認 」と で 公 有 水 面 の 公用 廃 止 と い う 極め
て重要な事柄について、公水法は、ではまったく異なる制度とし
て い る 点 は 重 要 で あ る 。す な わ ち 、免許 に つ いて は 、
「免許処分を
行った目的に照らして適合である旨の宣言を行う『竣功認可』と
いう別個の行政処分に拠り」公用廃止が行われる(三善政二「公
有 水 面埋 立 法(問 題 点 の 考え 方 )」58∼60 頁な ど )。こ れ に 対 し て 、
国が「承認」により行う埋立については、国が都道府県知事に対
し て 竣功 通 知 を し( 第 42 条 2 項 )、
「 竣 功 通 知の 日 に お い て 、当該
埋立地についての支配権が私法上の所有権に転化し、これを取得
す る 」 山 口 眞 弘 ・ 住 田 正 二 「 公 有 水 面 埋 立 法 」 341 頁 ) も の と さ
れ て いる 。
そうすると、
「 承 認 」に よ り 国 に 対 し て 設 定 され る 埋 立 権 の 内容
には、国にその公物管理権に基づいて竣功通知による公用廃止を
行 う 権限 を 付 与 す る こ と が含 ま れ て い る も の と解 さ れ る 。
この様に、公物管理権者である行政にしかなしえない公用廃止
の 権 限を 付 与 す る 点 に お いて 、「免 許 」と「承 認 」は 本 質 的 に 異質
な も ので あ る 5 。
したがって、公有水面埋立承認処分については、国がその固有
の資格において処分の名宛人となって、公益の観点からする公物
管理権原の調整行為を含む処分であって、これはすなわち、埋立
て「免許」処分と同じ意味での受益性を認めることは出来ない性
5
な お 、か り に 、
「 免 許 」が 竣 功 認 可 を 条 件 と す る 公 用 廃 止 処 分 で あ り 、ま た 、
「承認」
が 竣 功 通 知 を 条 件 と す る 公 用 廃 止 処 分 で あ る と 解 し た と し て も 、承 認 に お い て は 国 が
自ら公用廃止を行う権限を付与する点で両者がまったく異質の制度であることに変
わりはない
17
質のものであるとともに、より一層強い意味において、処分の法
規 適 合性 が 求 め ら れ る 処 分で あ る 。
⑶
公有水面埋立承認処分は拒否処分について片面的裁量性を認
めるものであること
既に第2準備書面において述べたとおり、公有水面埋立法4条
1項は、都道府県知事による埋立免許権限の行使に対して、1号
以下の免許基準をすべて満たさなければ免許を与えてはならない
という拘束を課す一方、1号以下の基準をすべて満たした場合で
も、他の必要な条件を考慮することにより免許を拒否する可能性
を 認 める 趣 旨 の 規 定 で あ ると 解 さ れ る 。換 言 する と 、
「 免許 を 為 す」
場合(免許を与える場合)と免許を為さない場合(免許を拒否す
る場合)との間に裁量的判断の幅に差があることを認め、免許を
与える局面については裁量的判断の余地を否定し又はほとんど認
めないのに対し、免許を拒否する局面については、幅広い裁量的
判 断 の余 地 を 認 め て い る 。
公有水面という対象物とその埋立てという行為の性質を検討す
る際に真っ先に考慮すべきであるのは、公有水面は国民の共通資
産であり、それを埋め立てる権利は、個々人が元来有しているも
のではないという特質である。また、今日特に重視しなければな
らないのは、公有水面の多くは自然環境の一部として国民共通の
又は国境を越えたグローバルな資産としての価値を有するという
点である。以上のような他に比べることのできない高度の公益性
を有する資産である限り、元来の権利者ではない個々の人による
埋立てについて免許を付与するか否かの判断には、当該公有水面
の特質と稀少性を十分に配慮した特に慎重な判断が要請される。
18
そのような視点から埋立免許における裁量の存否と程度を考える
ならば、免許を行うか否かの判断に際しては、免許基準として明
示的に定められた規定を適切かつ厳正に運用する必要があるのは
言うまでもないが、同時に、上述のような公有水面の埋立てとい
う事柄の性質を慎重に考慮した結果、免許拒否という結論が正当
と 評 価さ れ る べ き 場 合 が あり 得 る こ と と な る わけ で あ る 。
そ し て こ の 様 な 解 釈 は 、1973 年に お け る 法 改正 の 経 緯 と 同 改正
直 後 に発 出 さ れ た 通 達、す な わ ち、1973 年 9月 27 日 港 管第 2358
号 、建 設省 河 政 発 第 75 号 、港 湾 局 長・河 川 局 長か ら 港 湾 管 理 者 の
長、都道府県知事あて「公有水面埋立法の一部を改正する法律の
施行までの間における措置について」において、埋立ての免許及
び 承 認に つ い て、
「 改 正 法の 免 許 基 準 等 の 趣 旨に の っ と り 、慎 重に
審 査 する こ と 」等 が 指 示 され 、ま た、1974 年6 月 14 日港 管 第 1580
号 、建 設省 河 政 発 第 57 号 、港 湾 局 長・河 川 局 長か ら 港 湾 管 理 者 の
長、都道府県知事あて「公有水面埋立法の一部改正について」で
は、改正法の趣旨を受けて「今後の埋立てについては、従来以上
に環境保全等に留意しつつ公共の利益に寄与するよう慎重に処理
することとされたい」とした上で、免許基準を含む埋立免許及び
承認のあり方に関する具体的指針を詳細に指示するものであった。
な か でも 4 条 1 項 の 免 許 基準 に 関 し て 、同 通 達 は 、
「埋 立 て の 免 許
基準の性格について」という表題の下で、以下のように述べてい
る。
「 法 第 4条 1 項 各 号 の基 準 は 、こ れ ら の 基準 に 適 合 し な い と免
許することができない最小限度のものであり、これらの基準のす
べてに適合している場合であっても免許の拒否はあり得るので、
埋立ての必要性等他の要素も総合的に勘案して慎重に審査を行う
こと」が示された上で、これらの通達により示された解釈運用の
19
指針は、行政手続法施行後において、同法5条に基づく審査基準
の 設 定・ 公 表 の 対 象 と さ れて い る の で あ る (1994 年 9 月 30 日港
管第 2159 号 、 建 設 省 河 政発 第 57 号 、港 湾 局管 理 課 長・ 河 川 局水
政課長から港湾管理者の長、部局長、都道府土木部長あて「行政
手続法の施行に伴う公有水面埋立法における処分の審査基準等に
つ い て」)。
この様な公水法の解釈に鑑みれば、その要件適合性に関する判
断は慎重でなければならず、処分行政庁において、要件適合性を
欠如する処分であると判断された場合においては、当該処分の効
力 を 覆滅 せ し め る べ き 強 い法 的 な 要 請 が あ る と言 う べ き で あ る 。
⑷
公有水面埋立の免許・承認は単純な授益的処分ではないこと
公有水面の免許・承認は、公有水面という自然公物の公用廃止
を必然的に生ぜしめる処分である。従って、これまで公有水面を
自由使用できた公衆からすれば、それが法的権利として保障され
たものではないとしても、公有水面埋立免許・承認は、自由使用
を排されるという不利益を与えることを意味し、また、将来にわ
た り 漁場 と し て の 使 用 も 不可 能 と な る 。
また、自然公物である公有水面は、環境維持機能や生態系維持
機能をはたしてきた公衆の共有資産である。環境保全が十分では
なく免許・承認基準に適合しないにも関わらず、公有水面埋立の
免許・承認がなされるならば、個々人の法的権利として保障され
ていないとしても、かけがえのない社会的利益が失われることに
なる。
瑕疵ある埋立免許・承認を取り消すことは、公衆の自然公物の
自由使用の利益、有形無形の社会的利益の侵害の回復を意味する
20
ものであり、取消制限がなされるということは多様な社会的利益
が瑕疵ある埋立承認によって侵害された状態を維持することを意
味 す る。
免許・承認基準に適合しない瑕疵ある免許・承認を維持するこ
と は 、公 水 法 の 昭 和 48 年改 正 に お い て 、権 利 者保 護 と い う 仕 組み
だけでは保全できない社会的利益の保護をはかるべく、免許・承
認基準をあらたに定め、都道府県知事の権限行使により法的権利
として確立されていない多様な社会的利益の保護をはかった趣旨
に 真 っ向 か ら 反 す る こ と にな る 。
すなわち、公水法が公益とする社会的利益を守るために、本件
埋立承認を取り消すことが求められているものであり、取消うべ
き瑕疵を認めながら取り消さないという選択は、公益上、許され
な い もの と い う べ き で あ る。
したがって、瑕疵ある免許等に基づく事業活動の排除という要
請は、公水法においてはとりわけ強く要請されるものというべき
であり、免許・承認基準に適合しないという瑕疵ある免許・承認
に つ いて は 、 職 権 取 消 は 制限 さ れ な い も の と いう べ き で あ る 。
⑸
要件充足判断において公益判断がなされていること
本 件 埋 立 承 認 取 消 の 理 由 は 、「 第 4 条 第 1 項 第 1 号 に つ い て は …
『 国 土 利 用 上 適 正 且 合 理 的 ナ ル コ ト 』 の 要 件 を 充 足 し て い な い 」、
「 第 4条 第 1 項 第 2 号 に つ い て は …「 其 ノ 埋 立ガ 環 境 保 全 及 災 害防
止 ニ 付十 分 配 慮 セ ラ レ タ ルモ ノ ナ ル コ ト 」の 要 件 を 充 足し て い な い」
と し たも の で あ る 。
すなわち、その不確定概念について要件裁量が認められており、
そ の 要件 適 合 性 判 断 に お い て 、利 益 衡 量 が な さ れ 、公 益 判 断 が 具 体
21
的 に なさ れ て い る も の で あ る 。
そ の 利 益 衡 量 、公益 判 断 の具 体 的 な 内 容 は、被 告 第 4 準 備書 面 以
下 に おい て 詳 細 に 述 べ た とお り で あ り、本 件 埋 立 承 認 出 願 に 係 る埋
立 事 業が 遂 行 さ れ る な ら ば 、著 し い公 益 侵 害 が生 じ る こ と と な る と
判 断 され た も の で あ る 。宮 田三 郎「 行 政 裁 量 とそ の 統 制 密 度( 増 補
版 )」 21 頁 は 、「 法 律 要 件 面 に お け る 多 義 的 な 不 確 定 概 念 と 『 す る
こ と がで き る 』規 定 と が 結合 し て い る 法 律 の 規定 の 場 合 に は 、効 果
裁 量 の際 に 考 慮 さ れ る べ き 視 点 が す べ て 、不 確 定 概 念 を含 む 法 律要
件 認 定 の 際 に 考 慮 さ れ て し ま っ た と き は 、『 す る こ と が で き る 』 規
定 は 実際 上 『 し な け れ ば な ら な い 』 規 定 と な る。」 とし て い る 。
1 号 要 件 、2 号 要 件 を 充 足 し な い と 判 断 し た とい う こ と は 、本 件
埋 立 承認 出 願 に 係 る 埋 立 事 業 が 遂 行 さ れ る こ とは 、国 土利 用 上 不適
切 か つ不 合 理 な 事 態 が 生 じ 、環 境 等に 十 分 配 慮し て い な い 事 態 が生
じ る と判 断 し た と い う こ と に ほ か な ら な い 。すな わ ち 、本 件 事 業 が、
約 2100 万 立 方 メ ー ト ル の土 砂( 高 さ1 メ ー トル・幅 100 メ ー ト ル
で 敷 いて い く と 全 長 約 210 キ ロ メ ー ト ル に 及ぶ 量 で あ る。) を 投入
す る とい う 前 例 の な い 大 規 模 な 埋 立 工 事 を 行 い、事 業 実施 区 域 の 不
十分な環境配慮により回復不可能な被害を生ぜしめるものである
と と もに 、異 常 なま で の 沖縄 へ の 基 地 集 中 の 過重 負 担・格差 を さ ら
に 将 来に わ た っ て 固 定 化 す る と い う 判 断 に 他 なら ず 、1 号要 件、2
号 要 件を 充 足 し な い と 判 断 し た 以 上 、公 益 の た め 、処 分 行 政 庁 に お
いては、取り消さなければならない責務を負うというべきである
( な お、 具 体 的 な 判 断 に つ い て は 第 4 な い し 第8 準 備 書 面 参 照 )。
⑹
訴状における国土交通大臣の主張について
以上に対して、国土交通大臣は訴状において、公有水面埋立法が
22
「免許処分」について、監督処分としての免許の取消しを竣功認可
前に限定し、かつ、詐欺による免許の場合においても処分に選択肢
を設けていることを挙げて、処分の法的安定性を確保する趣旨と主
張 し てい る 。
し か しな が ら 、一 般 法 理 に基 づ く 職 権 取 消 し 等 は 公 水 法 32 条 に 影
響されることなく可能である。福岡高等裁判所那覇支部(行ケ)第
1 号 (地 方 自 治 法 第 251 条 の 5 に 基 づ く 違 法な 国 の 関 与 の 取 消 請 求
事 件 )の 答 弁 書 にお い て、国 土 交 通 大 臣 は 、
「 一 般的 に は 、行 政 庁は
明文の規定がなくとも、埋立承認に瑕疵がある場合や事後的に公益
違反の状態が生じた場合には職権による取消し又は撤回を行うこと
ができると解されるから、いうまでもなく、このような一般法理に
基づく職権取消し又は撤回は、国に対する『承認』であっても、私
人に対する『免許』であっても可能であると解される」と主張して
いる。
また、事情判決や出訴期間の制限の可能性はともかく、承認処分
が根拠を喪失した場合において国は県知事に対して原状回復義務を
負 担 する の で あ っ て( 広 島 高 裁平 成 25 年 11 月 13 日 訴 訟 月 報 61 巻
4 号 761 頁)、公 水 法 32 条 1 項 柱 書 が 特 段 法的 安 定 性 を 要 求 す る 規
定 と は解 さ れ な い 。
む し ろ、公 水 法 32 条 2 項は 、同 条 1 項 7 号 の 場 合 に の み 損 害 の 補
償を要求していることに鑑みれば、竣工認可前にあっては、補償を
要 す るこ と な く 広 く 免 許 の取 り 消 し を 認 め る 趣 旨 と 解 さ れ る 。ま た、
監督処分としての免許取り消しが竣功認可前とされる根拠は専ら、
埋立てにより陸地化してしまって以降は現実問題としてその原状回
復が困難であることや、埋立により陸地を形成して以降も公水法の
監督処分を適用するとなれば、公水法に基づく監督処分が行使可能
23
な範囲が不明確なることによるものである。したがって、本件の様
に本体工事が何ら進行していない本件の様な場合に、処分の安定性
を 確 保す る 趣 旨 と は 到 底 考え 難 い 。
また、公水法は免許処分について、詐欺による免許取得について
取消以外の監督処分を規定するが、詐欺はそれ自体必ずしも免許要
件の欠如と直接に結びつくものではなく、その趣旨とするところは
むしろ、申請手続きの誠実性自体を確保する趣旨と解されよう(建
設 業 法 29 条 5 号 の 取 消 原因 で あ る「 不 正 の 手段 に よ り 許 可 を 受 けた
場合」について、上記の様に解した裁判例として仙台地判平成6年
7 月 11 日 ・ 行 集 45 巻7 号 1525 頁 , 同 事 案の 控 訴 審 で あ る 仙 台高
判 平 成6 年 12 月 9 日 ・ 行集 45 巻 12 号 2011 頁 )。 法 32 条 1 項 が 、
承認が要件適合性を欠き、処分行政庁において埋立てが公益に適わ
ないと判断しながらも、それでもなお、特段の事情もなく効果裁量
権の行使として、埋立てを続行させる趣旨の規定と解することは、
埋立て行為の著しい環境影響が社会的に認識され、無願埋立を廃止
し 6 、環 境 配 慮 条 項 を 挿 入 した 現 行 法 の 解 釈 と して 時 代 錯 誤 と 言 わ ざ
る を 得な い 。
更に言えば、詐欺なのか事実誤認か、また故意なのか過失なのか
は、事実認定上その限界の区分は相当に困難であり、事情如何によ
っては、法令解釈・適用に通暁しない私人たる申請者の悪質性が低
く、かつ、埋立て工事という強力な事実行為が相当程度進行してし
昭 和 48 年 に 廃 止 さ れ た 追 認 制 度 に つ い て は 、
「 今 度 廃 止 さ れ る 追 認 制 度 な ど は 、無
許 可 で 埋 め 立 て を 行 な い 、事 後 に 法 的 許 可 を 求 め る と い っ た 制 度 で 、時 代 錯 誤 も は な
は だ し い 。」( 昭 和 48 年 9 月 13 日 建 設 委 員 会 沢 田 議 員 発 言 ) な ど 、 強 烈 な 批 判 を
浴 び て 一 切 の 経 過 措 置 も 無 く 廃 止 さ れ て い る 。ま た 、法 改 正 前 に 既 に な さ れ て い た 追
認 申 請 に 対 し て も 厳 正 な 対 処 を 求 め る 通 達( 前 掲 昭 和 48 年 9 月 27 日 港 管 第 2358 号 )
が出されているものである。
こ の 様 な こ と か ら も 、現 行 法 に お い て 、違 法 な 埋 立 に つ い て 、事 実 行 為 や 事 実 状 態
の保護を重視する解釈は採り得ない。
6
24
まった結果として、資格を剥奪することが適当でない場合もあり得
ることを想定したものであって、行政機関間における本件承認処分
において、当該規定を援用して資格の存続を求めることは許されな
い。
以上から、公水法はあくまでその要件適合性を欠如する承認処分
について、処分行政庁が自らその違法・不当を認識した場合におい
て、原則として処分の取り消しを処分行政庁に義務づけるものと言
わ ね ばな ら な い 。
3
最 判 昭 和 43 年 判 決 に つ い て
以 上 に反 し て 、国 土 交 通 大臣 は 最 高 裁 昭 和 43 年 判 決 を 繰 返 し 引 用
し 、 職権 取 消 を 極 め て 制 限的 に 理 解 す る 。
し か し、最 判 昭和 43 年 は 自 作 農 特 別措 置 法(以 下「 自 創 法 」と い
う 。)によ る 特 殊 な 事 案 に関 す る も の で あ り、そ も そ も そ れ が 一 般的
な 通 用性 を 有 す る も の で はな い 。
同 最 判の 事 案 は 、昭 和 23 年 3 月 に 農地 委 員 会が 農 地 を 不 在 者 地 主
の所有する小作地と認定し、自創法に基づき、買収・売渡計画を樹
立し、知事が買収令によってこれを買収し、上告人に売り渡した。
その後に、農地委員会が事実上の異議を受けて調査したところ、買
収処分以前に、当該土地が、知事の許可を得て他者に譲渡されてお
り、それが、在村地主の自作地であったと認めて買収・売渡計画の
取 消 した と い う も の で あ る。
したがって、処分の性質上、抽象的なレベルにおいては、売渡処
分を受けた私人において憲法上の保障を受けるべき私的土地所有権
7 の 保 持 に 対 す る 強 い 期 待 が生 じ 得 る 事 案 で あ る 。国土 交 通 大 臣 が一
7
公水法も、竣功認可ないし竣功通知により、私的所有権が設定されるが、そもそ
25
般 論 とし て 引 用 す る 部 分 の主 語 も 、
「 買 収 計 画 、売 渡 計画 の ご と き行
政処分」を対象とするものであり、これが、自創法に基づく買収・
売 渡 処分 を 前 提 と し た も ので あ る こ と は 明 ら か で あ る 。
このことは、当該事案の引用判例として、同じく自創法に基づく
売渡処分に関して本来買収すべきではないものから買収をして売渡
を 行 った と い う 最 判 昭 和 31 年3 月 2 日 判 決 のみ が 引 用 さ れ て お り、
農調法第9条3項による賃貸借契約の更新拒絶許可処分(講学上の
認可処分)に関して処分の性質論に鑑みて職権取消を制限した最判
昭 和 28 年 判 決 はも と よ り、買 収 処 分 に 係 る 違法 が 一 部( 全 体 面 積の
10% 以 下 ) に と ど ま る に も か か わ ら ず そ の 全 部 の 取 消 を す る こ と が
売渡処分を受けるべき地位にある者との関係で比例原則に反するこ
と か ら こ れ を 違 法 と し た 最 判 昭 和 33 年 9 月 9 日 判 決 も 引 用 さ れ て
い な い。
ま た 、変更 処 分 に 関 す る もの で あ る が 、最 判 昭和 47 年 12 月 8 日
判 決 (集 民 107 号 319 頁 ) は 、 最 判 昭 和 43 年 判 決を 引 用 し て 「処
分を撤回または変更することが公益に適合するかどうかを判断する
に あ たつ て は 、た ん に こ れ を 必 要 と す る 行 政 上の 都 合 ば か り で な く、
当該処分の性質、内容やその撤回または変更によつて相手方の被る
不利益の程度等をも総合的に考慮して、これを決しなければならな
い 」とだ け 述 べ 、最 判 昭和 43 年 判 決 を 単 に 利益 衡 量 を 行 う こ と を求
める趣旨と解しており、そこでは「著しく公益を害する」ことには
も公有水面は一般公共のために供される法定外公共用物として本来的には財産権保
障 の 対 象 外 の も の で あ り 、た だ 公 用 廃 止 と い う 行 政 処 分 の 結 果 と し て 私 的 所 有 権 に 転
換 す る も の で あ る の に 対 し て 、買 収・売 渡 処 分 は 、本 来 的 な 個 人 の 生 活 基 盤 で あ る 私
的な土地所有権の帰属に関わる処分である点で全く異なる。
さ ら に 言 え ば 、本 件 で は 、竣 功 通 知 に よ っ て 私 的 所 有 権 の 対 象 に 転 換 し た 土 地 に 関
して取引に入った第三者の利益が問題とされているわけでもない。
26
何 ら 触れ て い な い 8 。
そ し て、こ の 最 高 裁 昭和 43 年 判 決 につ い て は、戦 後 間 も な い 時 期
の農地改革の特別措置法に関する特殊な処分についてのみ通用する
主張であるというのが、これまで国の示してきた見解でもある。例
え ば 、扶助 料 返 還 請 求 事 件(高 松 高 等 裁 判 所 昭和 45 年 4月 24 日判
決 ・ 訴訟 月 報 16 巻 7 号 702 頁 ) に お い て 、国 は 、 職 権 取 消 制 限法
理 に つ い て 、「 主 と し て 農 地 法 ( も し く は 自 創 法 ) 上 の 各 種 の 処 分 、
許可などの取り消しの可否の問題をめぐつて形成されてきた超法規
的な条理上の取消権の制限にほかならない」と主張しているもので
ある。
こ の こと に 加 え て 、 最 判 昭 和 43 年 判 決 の 具 体 的 な 判 示 は 、 一 応、
一般論の様な形で国土交通大臣引用に係る部分を判示しながらも、
本来買収すべからざるものから買収処分を行い、その様な手続きに
よって買収された土地を売り渡すことは「特段の事情がない限り」
違 法 であ る と 判 示 し た も ので あ る 9 。
最 判 昭 和 43 年 判 決 の 一 般 論 と し て の 通 用 性 に 疑 義 が あ る こ と を
一先ず措くとしても、根拠法の趣旨目的に照らして、本来、当該地
位を得るべきことが許されない立場にありながら、当該地位を得た
場 合 にお い て 、
「 特 段 の 事情 が な い 限 り 」処 分 を 取 消 す べ き で あ るこ
と は 最判 昭 和 43 年 判 決 の判 示 に 鑑 み て も 明 ら か で あ ろ う 。
8 そ も そ も 、 最 判 昭 和 43 年 判 決 は 昭 和 31 年 3 月 2 日 判 決 を 引 用 し た も の で あ る
が 、 同 様 に 昭 和 31 年 判 決 を 引 用 し た 最 判 昭 和 34 年 1 月 11 日 判 決 ( 判 時 175 号 12
頁 )の 引 用 趣 旨 か ら 見 る と 、処 分 が 何 人 に と っ て も 不 可 争 の 状 態 に な っ て い る こ と を
前提とした判示とも考えられる。
9 な お , 最 判 昭 和 43 年 判 決 は 結 論 と し て 「 特 段 の 事 情 」 を 否 定 し て お り , ま た , 前
掲 最 判 昭 和 34 年 1 月 11 日 判 決 は , 買 収 処 分 の 対 象 の う ち 一 部 の 土 地 が 林 地 で あ っ
た に も か か わ ら ず ,全 部 を 採 草 地 と 認 定 し て 買 収 し ,そ の 後 ,十 数 名 に 分 割 し て 売 渡
処分まで行われた事案において全ての売渡処分の取消を認めている。
27
4
小括
結 局、職 権 取 消の 制 限 に 関し て は、
「 抽 象 的 な利 益 衡 量 原 則 に つ い
ては判例法が形成されているけれども(中略)類型的なケースごと
の 蓄 積は 形 成 さ れ て い な い」
( 前 掲 塩 野 190 頁 )の で あ り 、最 判 昭 和
43 年判 決 の 具 体 的 な 通 用性 は 極 め て 疑 問 で あ る 。
そして、以上述べた公有水面埋立法に基づく承認処分の性質に鑑
みれば、法の定める要件に適合しない承認処分については、法治主
義の観点から取消すべきことを強く要請しているものであって、そ
の 様 な法 律 上 の 要 請 を 覆 して も な お 処 分 を 維 持 す べ き「 特 段 の 事 情」
が存在しない限り、自ら処分の違法・不当を認識した処分行政庁に
あっては承認処分を取消さねばならない義務を負うというべきであ
る。
第4
信頼保護に基づく職権取消の制限法理について
以 上 述 べ た こ と か ら 、 公 有 水 面 埋 立 承 認 処 分 に つ い て は 、 そ の 要件
適合性を欠如する以上は特段の事情ない限り処分行政庁は、取消を行
うべき義務を負うところであるが、以下、国土交通大臣が考慮要素と
し て 主張 す る 事 情 に つ い て検 討 を 加 え る 。
1
⑴
是正の指示が関与関係であることに基づく制約
是正の指示の理由は公益と信頼利益とが混淆していること
第一に、本件が「是正の指示」という法令所管大臣が法適用の
適性を確保するために、都道府県知事に関与を行うという関与関
係 で ある こ と に つ い て 別 途検 討 が 必 要 で あ る 。
すなわち、一般に職権取消の制限法理と言われるものの中にあ
28
っても、その具体的な判断に鑑みたとき、処分との関係において
外在的な理由に基づく私人の信頼保護の問題と、処分に基づいて
形成された事実状態を覆滅させても取消を行うべき公益上の必要
性が存在するかどうかという、裁量権行使における一般論の問題
が 含 まれ る こ と が 指 摘 さ れて い る と こ ろ で あ る 10 。ま た 、前 掲 最 判
昭 和 28 年 判 決 で 問 題 と な っ た 農 調 法 に お け る 更 新 拒 絶 の 許 可 処
分は、賃貸借契約の両当事者に対して直接かつ等しく効力を及ぼ
すものであり、どちらか一方の信頼の保護の問題には解消し難い
事案であるが、この様な事案について、最高裁は根拠法の趣旨に
照 ら し取 消 を 要 す る 公 益 上の 必 要 性 を 求 め て いる 。
もっとも、従来の裁判例にあっては、処分によって自らの法的
利益を害される私人がその法律上の利益保護を求めて訴訟を行っ
てきたものである。したがって、実際上、上記の区分は、裁判所
が判断を行うにあたっては重要な意味を持つものではなかった。
そ の 意味 で 、註 11 に 紹 介し た 中 川 論 文 に お いて 、異 な っ た レ ベル
の職権取消・撤回の違法事由が混在する形で論じられてきたとの
指 摘 を受 け る こ と は あ る 意味 当 然 で あ る 。
しかしながら、本件の様な関与訴訟においては、この問題を意
識すべきである。
国土交通大臣は訴状において、①国による事業経費の支出、②
10
従 来 の 学 説・判 例 に お け る 職 権 取 消・撤 回 の 制 限 の 法 理 に 関 す る 議 論 を 精 緻 に 検
討 し 、そ こ に 、① 職 権 取 消 を 行 う こ と 及 び 取 消 の 内 容 に つ い て 比 例 原 則 違 反 や 平 等 原
則 違 反 が あ る こ と 、当 該 事 案 に お け る 特 に 重 視 す べ き 事 情 な ど へ の 周 到 な 考 慮 を 欠 く
な ど 合 理 的 な 裁 量 権 行 使 が な さ れ て い な い こ と 、② 信 頼 保 護 原 則 違 反 や 行 政 権 の 濫 用
が あ る こ と 、と い う 異 な っ た レ ベ ル の 職 権 取 消・撤 回 の 違 法 事 由 が 論 じ ら れ て い る こ
と を 明 ら か に し た 最 近 の 業 績 と し て 、 中 川 丈 久 「『 職 権 取 消 し と 撤 回 』 の 再 考 」 水 野
武 夫 先 生 古 稀 記 念 論 文 集 『 行 政 と 国 民 の 権 利 』( 法 律 文 化 社 、 2011 年 ) 377 頁 以 下 。
こ の 論 文 は 、結 論 と し て 、行 政 処 分 の 職 権 取 消・撤 回 の 制 限 と し て 論 じ ら れ て き た 問
題 は 、 そ う し た 特 定 類 型 の 行 政 処 分 に 固 有 な 制 限 論 と は い え ず 、「 行 政 処 分 一 般 に 共
通 す る ご く 基 本 的 な 問 題 を 、『 取 消 し 』 と 呼 ば れ る 場 面 を 素 材 に 論 じ て い る だ け で あ
る 」( 前 掲 論 文 367 頁 ) と 述 べ て い る 。
29
国と第三者との契約関係、③相手方に対する不利益緩和措置の有
無、④取消処分に至る原因事実が誰の責任に係るものかという事
情と、⑤国家間の信頼関係、⑥普天間飛行場の危険性の継続、⑦
宜野湾市における経済発展の遅滞等、信頼保護に関わる事情と公
益に関する主張が混交しているにもかかわらず、その全てを信頼
保 護 の問 題 と し て 主 張 す るも の で あ る 。
しかし、①②については、処分により形成された事実状態が一
定の広がりを持つという意味において法的安定性の問題とも一応
位置付けられるが、他方で、事実の積み重ねがある以上取消され
ないという期待を持ち得るという意味では信頼保護の問題となり
得る点で複合的な要素ではあるものの、この様な直接的な不利益
は個々の法主体が主体的に自らの被った損害について争うべきで
あるから、公序として捉えるよりも個々の損害を被る当事者の信
頼の問題と位置付けることが適当であろう。他方、③④について
は、もっぱら信頼保護の問題でしかあり得ない事情であり,⑤以
下 は 明ら か に 処 分 に 対 す る信 頼 利 益 保 護 の 問 題 で は な い 。
⑵
是正の指示の要件
この様に、国土交通大臣の主張には性質の異なる多様な考慮要
素が含まれるものである。そうであるにもかかわらず、本件にお
いて国土交通大臣は是正の指示において、上記の全てを条理とし
て 認 めら れ る 「 信 頼 保 護 」と し て 主 張 す る も ので あ る 。
こ の 点、
「 都 道 府 県 知 事 の法 定 受 託 事 務 の 管 理若 し く は 執 行 が法
令 の 規定 に 違 反 し て い る と認 め る と き 」 が 、 地自 法 第 245 条 の7
第1項に基づく是正の指示の要件であるところ、信頼保護に基づ
く職権取消制限において判例が指摘する「条理」とは、法律によ
30
る行政の原理と緊張関係に立ち、場合によってはそれをも乗り越
え て 処分 の 職 権 取 消 を 制 約す る も の で あ り 、な に よ り も「 信 義 則」
な か んず く「 授 益的 行 政 処分 の 相 手 方 の 受 益 への 信 頼 保 護 の 原 則」
である。
この様な信頼保護に基づく制約は、処分それ自体の適法性に対
し て 本来 的 に は 外 在 的 な 制約 で あ っ て 、こ れ を到 底「 法 令 の 規 定」
と言うことは出来ないから、そもそも「是正の指示」の根拠とな
る も ので は な い 。
この法理は、当該処分の名宛人の適法な処分によって授益を享
受できるとの信頼が保護されるべきことを根拠とするものである
から、そうした制限法理を援用することができる者は、当該名宛
人 で ある 。
国土交通大臣は、本件埋立承認処分の名宛人受益者ではなく、
もちろん埋立承認取消処分の名宛人でもないのであるから、職権
取 消 制限 の 法 理 を 主 張 す る適 格 を 欠 い て い る もの で あ る 。
⑶
関与は法律による行政を守るための制度であること
そもそも、法定受託事務に国の関与が認められるのは、法定受
託事務の法適合性、法律に基づく行政を維持するためである。国
土交通大臣は、公有水面埋立法の所管大臣として、同法に基づく
法定受託事務である埋立承認事務の管理・執行の適法を確保する
た め に関 与 で き る も の で ある 。
国土交通大臣の主張に係る職権取消制限法理は、信頼利益の保
護から法律による行政の原理の例外を認め、瑕疵ある行政行為の
効 力 を維 持 す る も の で あ る。
職権取消制限に違反しているとして国が職権取消の取消しを指
31
示 す ると い う こ と は 、
「 法 令 の 規定 に 違 反 」し て い る こ と を 根 拠と
して関与した結果、根拠法令の規定に違反している状態が維持さ
れ る こと に な る が 、 こ れ は一 義 的 な 論 理 矛 盾 であ る 。
公水法の要件を充たさない違法な承認処分について、法令の適
正な執行をその責務とする国土交通大臣が、本来の争訟主体であ
る私人(しかも、既に、不可争力により処分の効力を争うことが
出 来 なく な っ て い る 。)の 信 頼 利 益 を 肩 代 わ り し て 、違 法 状 態 を 維
持することを目的として関与をすることが許されないことは、あ
ま り にも 当 然 の こ と で あ る。
2
本件承認処分により与えられた資格が存続するに足る信頼利益
は存在しないこと
以上のとおり、本来関与関係である是正の指示において、信頼保
護に基づく職権制限法理を国土交通大臣が主張することは許されな
いものと言わねばならないが、更に、以下、本件においては事業者
等 の 信 頼 が 法 的 保 護 に 足 る と 認 め ら れ な い こ と に つ い て 主 張 す る 11 。
⑴
国 の 主 張 全 般 に 共 通 す る 問 題 点( 承 認 以 前 の 事 情 が 含 ま れ て い る
こと)
まず国土交通大臣の是正の指示における考慮事項に関して、共
通して指摘しておかなければならないのは、承認時点以前の事情
11
法律による行政の原理と信義則なかんずく信頼保護原則との衝突が問題になる
局 面 は 、違 法 な 授 益 的 行 政 処 分 の 職 権 取 消 の 局 面 だ け で は な い 。行 政 機 関 の 誤 っ た 行
政 指 導 や 情 報 提 供 等 を 信 頼 し た 私 人 が 、そ の 信 頼 に 基 づ い て 活 動 し た 結 果 、そ れ に 対
して適法な不利益的行政処分等がなされたことにより当該私人が不測の不利益を受
ける場合がある。そのような場合に実定法上適法な当該処分も信義則違反として違
法・無効となるかが争われた事例として、文化学院非課税通知事件(東京高判昭和
41 年 6 月 6 日 行 集 17 巻 6 号 607 頁 )、 酒 屋 青 色 承 認 申 請 懈 怠 事 件 ( 最 判 昭 和 62 年
10 月 30 日 判 時 1262 号 91 頁 ) な ど が あ り 、 い ず れ も 信 義 則 違 反 の 主 張 は 退 け ら れ
ている。
32
を 主 張し て い る 点 で あ る 。
指 示 に お い て も 引 用 さ れ て い る 東 京 高 判 平 成 16 年 判 決 か ら 見
て も、
「 取 り消 さ れ る べ き行 政 処 分 の 性 質 、相 手 方 そ の 他 の 利 害 関
係人の既得の権利利益の保護、当該行政処分を基礎として形成さ
れた新たな法律関係の安定の要請などの見地から、条理上その取
消しをすることが許されず、又は、制限される場合があるという
べ き であ る 。」( 注
下 線 は 代 理 人 に よ る 。) とし て いる 。
すなわち、瑕疵のある原処分の取消が制限されるのは、仮に当
初から瑕疵のない処分をなしていた場合には生じていなかったは
ずの新たな既得権や利益が、すでに原処分の取消をしようとして
いる時点で生じているということを考慮するものである。上記東
京 高 判平 成 16 年判 決 の 下線 部 は 、そ の こ と を 示 し て い る も の で あ
る。
以 上 を 踏 ま え て 、是 正 指 示 理 由 を 検 討 す る に 、国土 交 通 大 臣 は、
職権取消が許されないとする理由として、辺野古沿岸埋立工事等
に 国 が支 出 し た約 473 億円 が 無 駄 と な る こ とを 挙 げ て い る 。
し か し 、 こ の 約 473 億 円 と い う金 額 は 、 平 成 18 年 度 か ら 平 成
25 年度 ま で の 累 計 金 額 であ り 、そ の 大 半 は 、環境 影 響 評 価 費 用等
の本件埋立承認より前の支出に関するものであって、本件埋立承
認前の支出が職権取消制限の理由となりうるものでない。また、
関係者との契約金額についても相当程度、承認処分前のものが含
ま れ てい る 。
斯様な承認前の支出をもって信頼を主張することは、国がたく
さんのお金を使ったから、県知事は承認する必要があると言うに
等 し く、 何 ら 論 理 の 体 を なし て い な い 。
33
⑵
資格の存続を求めるに足る信頼がないこと
また、国土交通大臣は利害関係人に対する影響や不利益緩和措
置 に つい て も 言 及 す る と ころ で あ る が、⑶において述べるとおり、
本件の具体的状況に鑑みれば、そもそも本件において信頼を生じ
うる状況にはなかったことは明らかであるが、この点を措くとし
ても、本件承認処分は、特定の事業活動を実施することを前提と
して、法定外公共用物である公有水面を埋立てる資格を付与する
処分であって、国土交通大臣の主張に係る事情は、要件適合性を
欠き違法に付与された資格を存続させる事情には到底なり得ない
も の であ る 。
すなわち、信頼保護を根拠として処分の取り消しを求める以上
は、その信頼とは違法処分であったとしても、その資格に基づく
行為を続行することが出来ると信ずべき特段の事情という他ない
が、単に事業者あるいは関係者において金銭的出捐を生ずる可能
性があるということでは、国に対する契約責任の追及や損失の補
て ん 12 等に よ り 回 復 さ れ る 可能 性 は と も か く 、到 底 、違 法 に 付 与 さ
れた「資格が存続する」ことに対する信頼があり、それを存続さ
せ る こと が 適 切 で あ る と いう こ と に も な ら な いの で あ る 。
東 京 高 裁 平 成 16 年 判 決 等 、社 会 保 障 に 関 す る事 案 の 様 に 、行 政
に依存している私人が特定の給付を保持できると信ずることや、
長年にわたって公的給付に依存して生活しており、その様な給付
を受ける資格を将来にわたって受けられると信頼するということ
はあり得ることであるが、他方で、本件の様な資格を付与する処
分が存続することに対する信頼は容易には認められないし、違
参 照 、 宜 野 座 村 工 場 誘 致 事 件 ( 最 判 昭 和 56 年 1 月 27 日 民 集 35 巻 1 号 35 頁 )
など
12
34
法・不当な処分により付与された資格に基づいてかけがえのない
自然環境を改変し公共の用に供されている一般海面を廃止するこ
と を 認め る に 足 る 信 頼 な どあ り 得 な い 。
特に、公有水面の埋立てにおいて特徴的であるのは、ひとたび
埋立てという事実行為が実行されてしまうと、論理的に違法であ
ってもその余りにも強力な事実行為としての効力によって、環境
の改変行為を受け入れざるを得ないという性質である。だからこ
そ、古くは無願埋立・追認という、本来的には、到底許されない
行為すらやむを得ず根拠を与える法制度すら存在していたところ
で あ る。
し か し な が ら 、 本 件 に お いて は 、 平成 27 年 10 月 28 日に 「 工
事着手届出書」提出し、その後、実際に工事をすることもなく平
成 28 年 3 月 4 日に 工 事 は中 止 さ れ た も の で ある 。し た が っ て 、公
有水面による土砂の投入=埋立てという、古くは立法においてさ
え認めざるを得なかった強力な事実上の効力は何ら生じていない
状態なのである。また、この様な事実上の効力を後ろ盾に、無秩
序な埋立行為が蔓延して環境被害を生じさせてきたことについて、
痛 烈 な批 判 13 を 浴 び て 公 水 法が 改 正 さ れ た 経 緯 に 鑑 み れ ば 、処 分 以
後一定の関係者の広がりがあるとしても(また、承認取消処分に
対して取消訴訟の提起もすることなく事実上不可争の状態に至っ
て い るに も 関 わ ら ず )、違 法・不当 に 与 え ら れ た 承 認 の 効 力 を 存 続
昭 和 49 年 3 月 5 日 予 算 委 員 会 第 5 分 科 会 で 森 井 分 科 員 は 、「 も と も と こ の 法 律 は
大 正 十 年 の 法 律 な ん で す ね 。そ こ で 、当 時 日 本 と し て は 、国 土 の 膨 張 あ る い は 国 力 の
培 養 と い う ふ う な 大 き な 社 会 目 的 と い い ま す か 、国 家 目 的 等 が 私 は あ っ た と 思 う の で
す 。」 と 述 べ 、 そ の 上 で 「 企 業 立 地 そ の 他 で ず い ぶ ん と 無 制 限 な 埋 め 立 て が 横 行 い た
し ま し た 。そ の 結 果 、た と え ば 瀬 戸 内 海 で は 自 浄 作 用 を 失 っ て 文 字 ど お り 公 害 の も と
に な る 。そ れ だ け で は あ り ま せ ん 。で き た 土 地 か ら 排 出 を さ れ ま す 工 場 廃 水 等 も あ り
ま す け れ ど も 、い ず れ に い た し ま し て も 、も う 埋 め 立 て と い う の を 従 来 の 観 念 で 認 め
て い く わ け に い か な い 。」 と 指 摘 し て い る 。
13
35
させ、要件適合性を欠き公共の利益に適わない埋立行為を認める
こ と は到 底 あ っ て は な ら ない の で あ る 。
なお、国土交通大臣は不利益緩和措置の不存在を主張するが、
それ自体以上述べたとおり資格を存続させる根拠とはならないし、
また、国土交通大臣が訴状において具体的に指摘しているのは、
「沖縄県知事が代替候補地を提示していないこと」である。この
様な指摘は、そもそも、代替施設の候補地について沖縄県知事に
は選択権がないという自身の主張とも整合しないばかりか、自ら
信 頼 保護 の 問 題 で な い こ とを 認 め る に 等 し い 主張 で あ る 。
⑶
ア
承認処分に至った原因について
行政 機 関 等 に お い て 信 頼 保 護 は 通 常問 題 と な ら な い こ と
国土交通大臣は、更に、承認処分に瑕疵があったとしても、
そ の 原因 は 事 業 者 に 存 在 しな い な ど と 主 張 す る 。
しかしながら、本件においては、そもそもの環境影響評価書
が 知 事 意 見 を し て「 不 可 能 」と 言わ せ し め る 不当 な も の で あ り 、
名護市長意見や、環境生活部意見を受けながら、何ら補正する
こともなかったものであり、かつ、多くの事情が願書あるいは
保 全 図書 に 記 載 さ れ ず に 後出 し さ れ た も の で あ る 。
例 え ば 、MV-22 オ ス プ レ イの ヘ リ モ ー ド = ホ バリ ン グ と し て 、
同機がヘリ機能を有する機体であるにもかかわらず、ヘリパッ
ド上空でのみ運用されるものという前提で予測がされているこ
とは、環境保全図書からは一切明らかではない。そのため、承
認申請後において、沖縄県環境生活部が「垂直離着陸モードに
ついては、環境保全図書においても記載されず、垂直離着陸モ
ードの騒音基礎データも示されていないため、予測・評価の妥
36
当性が確認できない。
」
(環境生活部意見7⑵)
、ま た 、「 飛 行 場
事業に対する知事意見第3−3−⑵−サにおいて、
「MV-22 の各
モードによる飛行回数は、米側への聞き取り調査の結果に基づ
き 、転 換モ ー ド に よ る 離 着 陸 を 考 慮 し た 」と し て い る が、
(中略)
垂直離着陸モードについての記載がないこと、現普天間飛行場
でも垂直離着陸モードの着陸が見られることなどから、予測・
評価の妥当性が確認できない。
」
(環境生活部意見7⑸)と指摘
した。
これに対する事業者の第3次回答において、初めて「ヘリモ
ー ド =ホ バ リ ン グ で あ る こと 」及び「 平 成 24 年 協 定 が 遵守 さ れ
る こ とを 確 認 し て い る」( し た が っ て 、ヘ リ モー ド が「 ホ バ リ ン
グ」としてヘリパッド上でのみ運用されると予測したことに問
題 な い。)と す る 見 解 が 初め て 明 ら か に な っ たも の で あ り 、こ の
様な情報の後出しが不十分、不合理な本件承認処分を招いた要
因 で ある こ と は 明 ら か で ある 。
また、そもそも、取消処分に至る原因が如何なるものである
かという問題は、法治主義とは無関係な純粋な信頼保護の問題
であって、国が違法な行政処分に関する行政法令の解釈・適用
に対し正当に信頼が生ずるということ自体凡そ考え難い。乙部
哲 郎 「 行 政 行 為 の 取 消 と 撤 回 」( 312 頁 ) も 、「 処 分 の 相 手 方 が
国 民 金融 公 庫 14 な ど 公 法 人 や行 政 機 関 で あ る 場 合に は 、行 政法 令
の解釈・適用への信頼保護の必要は原則的に否定される」と述
な お 、最 判 平 成 6 年 2 月 8 日 判 決( 民 集 48 巻 2 号 123 頁 )は「 恩 給 受 給 者 が 国 民
金融公庫からの借入金の担保に供した恩給につき国が公庫にその払渡しを完了した
後 に 恩 給 裁 定 が 取 り 消 さ れ た 場 合 に お け る 国 の 公 庫 に 対 す る 払 渡 金 返 還 請 求 」に つ い
て 、信 義 則 な い し 権 利 濫 用 の 主 張 を 容 れ た が 、当 該 事 例 は 公 庫 に お い て 恩 給 裁 定 の 有
効 性 を 審 査 出 来 ず 法 律 上 処 分 が 有 効 と 取 り 扱 わ ざ る を 得 な い 事 案 で あ り 、本 文 で 述 べ
た一般論とは全く異なるケースである。
14
37
べ る とこ ろ で あ る 。
イ
埋立承認処分は「固有の資格」において国が名宛人となるこ
と
ま た 、埋 立「 承 認」処 分 は 第3の⑵に 述 べ た と お り 、国 が「 固
有の資格」においてその名宛人となるべき処分であり、公物管
理権原に関する調整をも含む、国と都道府県との関係において
のみ存在する処分である。この様な行政機関間の処分において
は、処分権者たる県知事における慎重かつ十分な検証の結果と
して、承認処分が違法・不当であると認識するに至ったことに
ついて、行政機関たる国に保護すべき信頼が生じるなど到底考
え ら れな い 。
ウ
本 件 承 認 取 消 処 分 は 当 然 に 予 測 で きた こ と
加えて、本件埋立承認については、次に経緯があり、本件埋
立承認に至る経緯の不合理性を国は認識していたものであるし、
また、本件埋立承認について、要件適合性を欠いているとの指
摘がなされていることも国は知っており、従って、要件適合性
を欠いた違法な処分であるとして取り消される事態は、国にお
い て も当 然 に 予 期 で き た もの で あ る 。
すなわち、国においては、知事意見で「環境の保全は不可能
と考える」との意見が示され、環境生活部長意見は「環境の保
全についての懸念が払拭できない」とし、この知事意見につい
て補正評価書は対応していないとの認識を示していたことを知
っていたものである。また、前沖縄県知事と総理大臣との面談
において、前沖縄県知事は総理大臣から沖縄振興策について概
算要求を超える額の予算を確保したことなどの説明を受け、こ
れ に 対し て 、前 沖 縄 県 知 事が 、「 安倍 総 理 に ご回 答 い た だ き ま し
38
た、やっていただいたことも、きちんと胸の中に受け止めて、
こ れ らを 基 礎 に 、こ れ か ら 先 の 普 天 間 飛 行 場 の代 替 施 設 建 設 も 、
建設に係る埋め立ての承認・不承認、我々も2日以内に最終的
に 決 めた い と 思 っ て い ま す。」と 述 べ て い た が 、概 算 要 求 を 超 え
る予算額の措置がなされたことと、本件埋立承認出願が異なる
問題であることは当然であり、概算要求を超える予算額の措置
がなされたことを基礎に、承認の判断をすることが不合理であ
ることは一義的に明らかであり、この不合理な承認の経緯を、
国 は 知悉 し て い た も の で ある 。補 正 評 価 書 の 提出 時 点 に お い て 、
知事意見に対応していないという意見が学会等から示され、ま
た、本件埋立承認出願に対しては、1号要件、2号要件を満た
していないとする日本弁護士連合会の意見等、要件適合性を欠
いているものであるとの意見が示されていたが、国はかかる事
実 を 認識 し て い た も の で ある 。
本件埋立承認に対しては、公水法の要件を欠いた違法な承認
であるとの意見が相次いで示されており、本件埋立承認の2週
間後には、沖縄県議会の可決した意見書において、埋立承認申
請書は公有水面埋立法の基準要件を満たさないことは明白であ
ると指摘されていたものである。そして、現沖縄県知事は、第
三者委員会を設置して検討をしてきたが、その結果によっては
取り消されることもありうることから、第三者委員会の判断が
で る まで 調 査 等 の 作 業 を しな い よ う に 求 め て い た も の で あ る 。
この様に、そもそもの承認において、国の不十分な申請によ
り極めて多数の再質問や意見照会を要し、その結果、具体的な
検討がなされないままに承認処分に至ってしまったものであり、
しかも、そのことは承認以前においてすら環境生活部の意見と
39
し て 表明 さ れ て い た も の で あ る 。
知事により公水法の趣旨とは異なる目的で承認をしたと考え
られても仕方ない、極めて不可解な経緯により承認処分が下さ
れ、その上で、承認直後から県議会をはじめ多数の環境団体か
らの指摘もあり本件承認取消処分に至る可能性は十分に予測さ
れたものであって、事業者等の信頼を生ずべき具体的状況にな
い こ とは 明 ら か で あ る 。
エ
小括
最 判 昭 和 28 年 判 決 は 、農 調法 の 9 条 3 項 の 許 可 が 自 由 裁 量 行
為であることを前提に、要件判断に係る行政庁の判断の適否に
ついて立ち入らない一方で、取消には「不正行為」等を要する
として取消を強く制限したものであるが、係る判断は、農調法
が処分行政庁に罰則を背景とした強い調査権限を認め(旧農調
法 第 17 条 、第 17 条 の 5)、処 分行 政 庁 に 賃 貸人 の み な ら ず 賃 借
人 の 事情 を も 考 慮 す る こ とを 求 め 15 、し か も 、国 家 が本 来 的 に は
私的自治に任される賃貸借契約に、農業生産の維持増進という
観 点 か ら 積 極 的 に 介 入 し て 、 も っ て 、「 耕 作 者 の 安 定 」 16 を 達 成
することを目的とするという法制度との関係において理解され
なければならず、単純に、不正行為が無ければ取消せないと判
15
農調法第九條(土地上ノ制限)
「3 農地ノ賃貸借ノ當事者賃貸借ノ解除若ハ解約ヲ爲シ叉ハ更新ヲ拒マントス
ル ト キ ハ 命 令 ノ 定 ム ル 所 ニ 依 リ 都 道 府 縣 知 事 ノ 承 認 ヲ 受 ク ベ シ 。」
農調法施行令第十一條
「市町村農地委員曾農地ノ賃貸人ノ自作ヲ相當トスルコトヲ理由トシテ農地調整
法第九條第三項ノ承認ヲ爲サントスルトキハ當該賃貸人ガ自作ヲ爲スニ必要ナル経
営 能 力 施 設 等 ヲ 有 ス ル ヤ 否 、當 該 賃 貸 人 ノ 自 作 ニ 因 リ 當 該 農 地 ノ 生 産 ガ 増 大 ス ル ヤ 否 、
賃 貸 借 ノ 解 除 、解 約 叉 ハ 更 新 ノ 拒 絶 ニ 因 リ 當 該 農 地 ノ 賃 借 入 ノ 相 當 ナ ル 生 活 ノ 維 持 が
困 難 ト 爲 ル コ ト ナ キ ヤ 否 等 ノ 諸 般 ノ 事 情 ヲ 考 慮 ス ル コ ト ヲ 要 ス 。」
16
農調法法第一條(目的)
「本法ハ耕作者ノ地位ノ安定及農業生産力ノ維持増進ヲ図ル爲農地関係ノ調整ヲ
爲 ス ヲ 以 テ 目 的 ト ス 。」
40
断 し たも の で は な い 。
他 方 、最 判 昭 和 43 年 判 決 の 事 案 は、も と も と の 所 有 者 と し て
認定されていた者から他者に対する譲渡を行うに付いて、知事
が当該譲渡を許可していた処分行政庁の過誤に基づくものであ
り 、 同様 に 昭 和 34 年 1 月 22 日判 決 等 も 処 分 行 政 庁 の 認 定 の 誤
りによるものである。
したがって、そもそも、取消に至る原因事実が職権取消の制
限を考える上において決定的ではないばかりか、先に述べた様
に、そもそもの環境影響評価書それ自体が知事意見をして「不
可能」と言わせしめる極めて不十分なものであり、また、国と
いう行政機関としての性格、本件の処分が承認処分という公益
調整を含む資格付与処分であること、未だ公有水面の改変行為
が何ら行われていないことを考慮すれば、そのことによって到
底違法に付与された資格を存続すべきことにはならないのであ
る。
第5
本件埋立承認は公益上取り消さなければならないこと
以 上 述 べ た と お り 、 本 件 に お い て 国 土 交 通 大 臣 が 信 頼 保 護 を 根 拠と
して是正の指示を主張することは許されず、また、考慮するとしても
そのことによって違法に付与された資格を存続させることに何ら帰結
す る もの で は な い 。
他 方 、 次 に 述 べ る と お り 、 本 件 埋 立 承 認 は 公 益 上 取 消 さ な け れ ばな
ら な いも の で あ る こ と は 明ら か で あ る 。
41
1
⑴
承認処分を放置することが公益を著しく害すること
はじめに
瑕疵ある本件埋立承認の取消しをしないことによって、本件承
認に基づき既に生じた効果をそのまま維持する不利益は著しいも
の で ある 。
沖 縄 県 へ の 極 端 な ま で の 過度 の 基 地 集 中 の た めに 、70 年 余 に わ
たって沖縄県の自治が侵害され、住民が負担にあえいできたもの
であり、沖縄県民は、基地の異常なまでの集中の解消を求め、本
件埋立承認出願に対する明確な反対の意思を示していた。新基地
建設は、この沖縄の民意に反して、本件埋立対象地の貴重な自然
環境を破壊し、付近の生活環境を悪化させ、地域振興開発の阻害
要因を作出するものであり、これは、基地負担・基地被害を沖縄
県内に移設してさらに将来にわたって固定化するものにほかなら
ない。
公 有 水 面 埋 立 法 第 2 条 1 項・42 条 第 1 項 は 、行政 の 責 任 者 たる
都道府県知事に対して、地方公共団体の重大要素となる海域、沿
岸域の総合的な管理・利用の際の重要な法的コントロールの手法
として、埋立の免許(承認)権限を与えて、その権限行使によっ
て当該地方公共団体の利益を保護するという仕組みを採用してい
るのであるから、都道府県知事には、適切に権限を行使する責務
があり、本件埋立承認について取消しうるべき瑕疵が認められた
ものである以上、公益保護のために本件埋立承認を取り消さなけ
れ ば なら な い も の で あ る 。
そして、この様な瑕疵は、承認以前から環境生活部が指摘し、
承認直後から沖縄県議会や環境の専門家から違法処分であること
が指摘されていたものであって、現沖縄県知事がこの様な指摘を
42
踏まえて専門家によって構成された検証委員会において、7カ月
もの審査・検討の結果として、そもそもの埋立の必要性に係る論
理飛躍をはじめとして、1号要件不適合性、そして、2号要件に
関する広範な環境保全措置の不適合性に基づいて、法的瑕疵があ
る と 認め ら れ た も の で あ る。
⑵
希少な自然環境の不可逆的な喪失
ア
辺野古崎・大浦湾は、琉球列島内でも特異な自然環境が形成
されている。この海域の特徴は、ラッパ状に大きく切れ込んだ
とても深い「湾」があることである。非常に長い時間の中での
断層の活動や、氷河時代に湾全体が陸になっていたときの川の
侵食作用によって形作られたものだと考えられているが、この
ような大きさと深さを持った湾は、琉球列島でも特異なもので
ある。この固有の特徴的な地形のため、外洋に面したところか
ら陸の影響を受ける湾の奥部や湾内の深いところまで、多様な
生物生息環境が生み出されている。波あたりの強い外洋に面し
た環境にはサンゴ礁、湾の一番奥の最も内湾的な環境にはマン
グローブ・干潟、その中間に位置する環境には海草藻場が広が
り、また湾の中の深いところの深場の泥地はとても強い内湾的
環 境 で あ る 。こ の よ う な 湾奥 の 内 湾 的 な 環 境 、湾 内の 深 場 に形
成された泥場、そして波あたりの強い外洋に面したリーフなど
の多様な環境が有機的に結びついて、それぞれの環境に適応し
た生物が生息し、琉球列島の他の地域でも見られないほどの著
し く 高 い 生 物 多 様 性 が 保 たれ て い る 。
大浦湾に流れ込む大浦川と汀間川は、希少な両側回遊型魚類
の生息場所となっており、魚類相は琉球列島全体の中でも屈指
43
の多様性をもち、貴重種もきわめて多く確認されている。湾奥
から湾口まで続く溝には、河川から流れてきた泥が堆積し、大
浦湾の砂泥環境からはいくつもの未記載種や新種、日本初記録
種などが発見され貴重な生物の宝庫であることが明らかとなっ
ているが、このような砂泥環境は琉球列島の中でもごく限られ
た地域にしか存在しない。造礁サンゴについてみると、外洋に
面したところから湾の奥までの様々な環境に応じて多種多様な
サンゴ類が見られ、チリビシのアオサンゴ群集(石垣島・白保
のアオサンゴ群集とは遺伝子型も形も異なり、世界でここだけ
で 生 息 し て い る 可 能 性 も 指 摘 さ れ て い る 。)、 数 百 年 間 生 き て き
た巨大な塊状ハナサンゴ群集、大規模なユビエダハマサンゴ群
集のほか、泥場の環境にも、特異な生活史をもつサンゴ(海底
に固着せず娘群体を無性的につくるコモチハナガサンゴの群集、
「歩くサンゴ」として知られるスイショウガイと共生するキク
メイシモドキ、自ら扇形に割れることにより増えるワレクサビ
ライシなど)などが生息している。また、海草藻場はジュゴン
やウミガメ類の餌場であり、またアイゴなどの魚類が幼生の時
期を過ごす役目を果たす場所であるが、環境省の第4回自然環
境保全基礎調査(平成6年)では、沖縄島周辺に分布する海草
藻 場 は 1282 ヘ ク タ ー ル であ る が 辺 野 古 の 海 草藻 場 は 最 大 の 173
ヘクタールである。大浦湾を含む辺野古崎周辺海域における海
域 生 物は 、 沖 縄 防 衛 局 に よる 調 査 の 結 果 、 約 5,800 種 確 認 され
( 環 境保 全 図 書 6-13-137)、著 し く 高 い 生 物 多様 性 が 確 認 さ れ て
いる。
イ
辺野 古 崎・大 浦 湾 に は 、豊 か で 貴 重 な 自 然環 境 が 残 さ れ て
い
る も の で あ る が 、こ の 貴 重な 自 然 環 境 は 、一 度 消失 す れ ば 、い く
44
ら 巨 額 の 資 金 を 投 資 し た とし て も 、人 工 的 に は再 生 不 可 能 で あ る。
辺 野 古 崎・大 浦 湾 の こ こ にし か 見 る こ と の で きな い 特 異 な 地 理 的
環 境 と 希 少 な 生 物 相 は 、長 い 時 間 の な か で 、奇 跡 的 に 形 成 さ れた
ものである。
沖 縄 の 島 々 の 海 岸 の 断 面 の部 分 を 見 る と 、中 は す べて サ ン ゴや
サンゴ礁に棲む生物の遺骸が積み重なったものからできており、
その表面の部分に砂礫地や岩礁地、泥場等などが形成されるが、
生きているサンゴがサンゴ礁という地形を形成するのには長い
時 間 が必 要 で あ る 。長 い 時間 を か け て 、辺 野 古崎・大 浦 湾 に 琉 球
列 島 でも 稀 な 独 特 の 地 形 が 形 成 さ れ 、そ の サ ンゴ 礁 生 態 系 は 、サ
ン ゴ 群集 、海 草藻 場 、マ ン グ ロ ー ブ、干 潟、泥 地 、砂 地 が 同 時 に
存 在 し 、微 妙 な バ ラ ン ス を取 り つ つ 現 在 の 状 態 を 保 つ こ と に より
成 立 して お り 、貴 重 で 脆 弱な 自 然 環 境 で あ り 、一度 損 な わ れ る な
ら ば 、ど れ だ け の 費 用 と 時間 を か け て も 人 類 の 力 を も っ て し ては
回 復 でき な い も の で あ る 。
ウ
詳 細 は 第 4 準 備 書面 に お い て 述 べ た と お り で あ る が 、本 件 埋 立
承 認 処分 は 、以 上の 様 な、事 業 実 施 区域 周 辺 の稀 少 な 生 態 系 の 重
要性の評価がなされないまま事業の実施を前提とした保全措置
に 終 始し 、技 術 的 に 確 立 して い な い 海 草 や サ ンゴ の 消 失 に 対 す る
評価が十分なされない一方でその移植の手法について具体化せ
ず に 先延 ば し に し て い る。ま た 、本 事業 に よ って 絶 滅 を 招 く こ と
は到底容認できないジュゴン地域個体群の生息にとっての事業
実 施 区域 周 辺 の 環 境 の 評 価が 非 科 学 的 で あ る こと 、ウ ミ ガメ の 産
卵場所の評価や整備についても十分な知見に基づいていないこ
と、外 来 種 侵 入 対策 に つ いて も 具 体 化 せ ず に 先延 ば し に し て い る
こ と、騒 音 や 低 周波 音 の 影響 に つ い て も 希 望 的な 予 測 評 価 に 終 始
45
し て いる こ と 等 の 重 大 な 問題 が あ る 。
この様な問題を抱えたまま、貴重で感受性の高い自然環境に、
約 2100 万 立 方 メ ー ト ル の土 砂( 高 さ 1 メ ー トル・幅 100 メ ート
ル で 敷い て い く と 全 長 約 210 キ ロ メ ート ル に 及ぶ 量 で あ る。) を
投 入 する と い う 前 例 の な い 大 規 模 な 埋 立 工 事 を行 い 、事 業 実 施区
域 の 環境 に 回 復 不 可 能 な 被 害 を 生 ぜ し め 、ま た 、多年 に わ た り普
天 間 飛行 場 の 周 辺 住 民 に 違 法 な 権 利 侵 害 を 生 じさ せ 続 け 、そ れ 故 、
繰返し違法判断を受けて来た騒音被害を移転するという結果は、
公 益 に著 し く 反 す る も の と 言 わ な け れ ば な ら ない 。
⑶
新基地建設は日本国憲法の精神にも反するというべき沖縄の
米軍基地の現状を固定化するものであること
ア
検証結果報告書は、埋立対象地は極めて保全の必要性が高い
地域であるが埋立てが実施されればほぼ回復不可能であること、
騒音被害などは地域住民に直接多大な不利益を与えるものであ
ること、沖縄県や名護市の地域計画等の阻害要因などを示し、
本件埋立が沖縄県の過重な米軍基地負担を固定化するものであ
る こ と に つ い て 、「 (ア)… 沖 縄 県 に は , 平 成 24 年 3 月 末 現 在 ,
県 下 41 市 町 村 の う ち 21 市 町 村 に わ た っ て 33 施 設 ,
23,176.3ha の 米 軍 基 地 が所 在 し て お り ,県 土 面 積の 10.2% を 占
めている。また,在沖米軍基地は,米軍が常時使用できる専用
施 設 に 限 っ て み る と , 実 に全 国 の 73.8% が 沖縄 県 に 集 中 し てい
る。ちなみに,他の都道府県の面積に占める米軍基地の割合を
み る と , 本 県 10.2% に 対し , 静 岡 県 及 び 山 梨県 が 1 % 台 で あ る
ほかは,1%にも満たない状況であり,また,国土面積に占め
る 米 軍 基 地 の 割 合 は 0.27%と な っ て い る( 米 軍 基 地 の 面 積 に つ
46
い て ,日 本 全 体 と 沖 縄 の 負担 度 を 比 較 し た 場 合,そ の 差 は約 468
倍 に 上 る と 指 摘 さ れ て い る )。 (イ) こ の よ う に 広 大 か つ 過 密 に 存
在する米軍基地は,沖縄県の振興開発を進める上で大きな制約
となっているばかりでなく,航空機騒音の住民生活への悪影響
や演習に伴う事故の発生,後を絶たない米軍人・軍属による刑
事事件の発生,さらには汚染物質の流出等による自然環境破壊
の問題等,県民にとって過重な負担となっている。このような
状 態 は , 法 の 下 の 平 等 を 定 め た 日 本 国 憲 法 第 14 条 の 精 神 に も
反するものと考えられる。本件埋立は,一面で普天間飛行場の
移設という負担軽減の側面があるものの,他面において普天間
飛行場の代替施設を沖縄県内において新たに建設するものであ
る。本件埋立は,沖縄県内において米軍基地の固定化を招く契
機となり,基地負担について格差や過重負担を固定化する不利
益 を 内 包 す る も の と 言 え る」( 検 証 結 果 報 告書 45 頁 ) とし 、 本
件 埋 立 は「 日 本 国 憲 法 第 14 条 の 精 神に も 反 する 」現 状 を 固 定 化
す る も の で あ る と 指 摘 し てい る 。
イ
前世 紀 、今 か ら 約 20 年 前 の い わゆ る 代 理署 名 訴 訟( 最 高 裁 判
所 平 成 八 年( 行 サ )第 五 号地 方 自 治 法 第 一 五 一条 の 二 第 三 項 に基
づ く 職 務 執 行 命 令 裁 判 請 求 上 告 受 理 事 件 ) の 上 告 理 由 に お い て、
当 時 の 沖 縄 県 知 事 は 、「 日 米 安 保 条 約は 、 日 本 全 土 を 対 象 と す る
も の で あ る か ら 、沖 縄 県 民に の み か か る 米 軍 基地 の 負 担 を 強 いる
こ と は 、法 の 根 本理 念 た る正 義 衡 平 の 観 念 に 照ら し て 到 底 容 認し
う る も の で は な い 。仮 に 、米 軍に 提 供 す る 土 地の 場 所 や 規 模 の決
定 に つ い て 、地 理 的 、歴史 的 条 件 な ど が 考 慮 要 素 と な り 、そ の 決
定 が 行 政 府 の 裁 量 事 項 で ある と し て も、沖 縄 県へ の 米 軍 基 地 の集
中 の 現 状 は 、一 般的 に 合 理性 を 有 す る と は 到 底考 え ら れ な い 程度
47
に 達 し て お り 、行 政 府 の 裁量 の 限 界 を 明 ら か に超 え て い る も のと
言 わ な け れ ば な ら な い 。そ し て 、原 判決 も『被 告 が 本 件 署名 等 代
行事務を拒否した背景には背景事実記載のような事実が存在し
て お り 、被 告 は 、そ の 本 人尋 問 に お い て 、特 に 、沖縄 の 本 土 復帰
後二三年の間に米軍基地は本土では六〇パーセントも縮小して
い る の に 沖 縄 県 で は 一 五 パー セ ン ト し か 縮 小 して い な い こ と 、政
府 は 、米 軍 に よ る 事 件 事 故が 発 生 し た 場 合 、本 土 にお い て は 素早
い 対 応 を 見 せ る が、沖 縄 では そ う で は な い な ど沖 縄 は 本 土 に 比し
米 軍 基 地 に つ い て 過 重 な 負担 を 強 い ら れ て い るこ と 、し か し 、米
軍に対する基地の提供が我が国の安全保障上欠かせないもので
あ る と い う な ら ば、全 国 民が 平 等 に こ れ を 負 担す べ き で あ る こと
を 強 調 す る 。そ し て 、沖 縄 県 民の 命 と 暮 ら し を守 る こ と を 使 命と
する沖縄県における行政の首長としての立場からは現状のまま
での米軍基地の維持存続につながりかねない署名等代行をする
こ と は で き な い と し て そ の心 情 を 吐 露 し て い る。こ れ ら の事 情に
鑑 み る と 、被 告が 沖 縄 に おけ る 基 地 の 現 状、こ れ に 係 る県 民 感 情、
沖縄県の将来等を慮って本件署名等代行事務を拒否したことは
沖縄県における行政の最高責任者としてはやむを得ない選択で
あ る と し て 理 解 で き な い こと で は な い・・・沖 縄 に お け る米 軍 基
地 の 問 題 は 、被 告 の 供 述 にあ る と お り、段 階 的に そ の 整 理、縮 小
を 推 進 す る こ と 等 に よ っ て解 決 さ れ る べ き も ので あ り 、前提 事実
及 び 背 景 事 実 に 照 ら す と、こ の 点 に つい て の 国の 責 任 は 重 い もの
と 思 料 さ れ る 』… と 判 示 して 、沖 縄 へ の 米 軍 基地 の 過 重 負 担 を解
消 し て 不 平 等 を 是 正 す べ き国 の 責 任 を 認 め て いる 。そ し て 、この
沖 縄 に の み 異 常 な ま で に 基地 が 集 中 す る 状 態 は 、戦 後 五 〇年 以 上 、
復 帰 か ら で も 二 三 年 以 上 にも 及 ん で い る 。復 帰 当 時 の 米 軍専 用施
48
設 の 施 設 面 積 は 、沖 縄 県 二万 七 八 九 三 ヘ ク タ ール 、本 土 一 万 九七
〇 〇 ヘ ク タ ー ル で あ り、既 に 復 帰 時 点か ら 沖 縄県 と 本 土 の 間 で は、
著 し い 不 平 等 が 生 じ て い たの で あ る か ら 、復 帰 時 から 、国 は 沖縄
県 へ の 基 地 集 中 を 解 消 し、本 土 と の 不平 等 を 是正 す べ き 責 務 を負
っ て い る こ と は 明 ら か で あっ た 。と こ ろ が 、本 土 の米 軍 専 用 施設
に つ い て は 、復 帰時 と 比 べて 約 六 〇 パ ー セ ン トの 米 軍 基 地 が 減少
し た の に 対 し 、沖 縄 県 で は今 日 に お い て も 約 一五 パ ー セ ン ト しか
減 少 し て お ら ず 、か え っ て本 土 と の 格 差 が 著 しく 拡 大 し て い るの
で あ る 。復 帰 以 前に 沖 縄 にお け る 広 大 な 米 軍 基地 が 形 成 さ れ てい
た と い う 歴 史 的 事 情 を 考 慮す る と し て も 、沖 縄 へ の 基 地 偏在 の解
消 に 必 要 な 合 理 的 期 間 を 遥か に 超 え 、国 の 怠 慢は 明 ら か で あ ると
言 わ ね ば な ら な い 。右 に 述べ た と お り 、沖 縄 県民 に 対 す る 不 平等
な 基 地 負 担 の し わ 寄 せ は 著し い も の で あ り、駐 留 軍 用 地 特措 法そ
の 他 の 基 地 提 供 法 令 の 運 用の 実 態 は 、沖 縄 県 民の 平 等 権 を 侵 害す
る も の と し て 明 ら か に 違 憲状 態 に あ る と の 評 価を 免 れ ず 、こ の運
用の一環として本件各土地に駐留軍用地特措法を適用すること
は 憲 法 一 四 条 に 違 反 す る もの で あ る」、
「 沖 縄 県に の み 、長 期 間に
わ た っ て 、他 の 都 道 府 県 と比 べ て 著 し い 米 軍 基地 の 負 担 、制 約を
強 い る 基 地 提 供 法 令 の 運 用の 実 態 は 、国 政 全 般を 直 接 拘 束 す る客
観 的 法 原 則 た る 平 等 原 則 に反 し て 違 憲 で あ り、こ の 運 用 の一 環と
して本件各土地に駐留軍用地特措法を適用することは憲法第一
四 条 、第九 二 条 、第 九 五 条に 違 反 す る も の で ある 。も っ と も 、人
権 の 享 有 主 体 は 本 来 個 人 であ る か ら 、地 方 公 共団 体 に つ い て 平等
原 則 の 適 用 は な い の で は な い か と の 疑 問 も あ り え よ う 。 し か し、
住 民 の 属 す る 集 団 と し て の地 方 公 共 団 体 が、国 家 か ら 他 の地 方 公
共 団 体 と 比 し て 不 平 等 に 扱わ れ る 場 合 に は、間 接 的 に せ よ住 民自
49
身 が 不 利 益 を 被 る こ と に なる の で あ る 。ま た 、国 際人 権 法 に おい
て は 、『 人 民 』 とい う 集 団 自 体 に 自 決 権 が 保 障 さ れ て お り ( 国 際
人 権 A 規 約 ・ B 規 約 共 通 一 条 )、 究 極的 に 個 人 の 人 権 保 障 に 資 す
る も の で あ れ ば 、集 団 自 体に 人 権 享 有 主 体 性 を認 め う る も の であ
る 。 そ も そ も 、 憲 法 が 地 方 自 治 を 保 障 し た の は 、 地 域 の 政 治 を、
住 民 の 意 思 に 基 づ き 、国 家 か ら 独 立 し た 団 体 の意 思 と 責 任 の 下に
行 う こ と に よ っ て、住 民 の人 権 を 保 障 し よ う とし た も の に 他 なら
な い 。す な わ ち 、国 家 か ら 独 立 し て 、住 民 の 自己 決 定 を 内 包 し た
団 体 独 自 の 自 己 決 定 に 基 づく 地 方 自 治 を 行 う こと こ そ が 、住 民の
意 思 に 基 づ く 民 主 政 治 を 実現 し 、住 民の 人 権 保障 に な る と の 趣旨
に 基 づ く も の で あ る 。し か る に 、国 家が 特 定 の地 方 公 共 団 体 のみ
を 不 平 等 に 扱 い 、そ の 結 果 、当該 地 方 公 共 団 体の 自 己 決 定 権 が侵
害 さ れ る 場 合 に は 、 住 民 の 自 己 決 定 権 が 阻 害 さ れ る こ と に な り、
ひ い て は 憲 法 の 地 方 自 治 保障 の 趣 旨 、人 権 尊 重の 理 念 に 悖 る こと
と な る 。そ う で あれ ば こ そ 、憲 法 第 九五 条 は、特 定 の 地 方公 共 団
体 に の み 異 な る 扱 い を す る場 合 に は 、住 民 の 特別 投 票 を 要 す るも
の と し て 、地 域 住民 の 自 己決 定 に よ ら な け れ ば差 別 的 扱 い を 許容
し な い も の と し た の で あ り、こ れ は 憲法 が 地 方公 共 団 体 の 平 等権
を 保 障 し た も の に 他 な ら ない 。以 上 述 べ た こ とよ り す れ ば 、国家
が 地 方 公 共 団 体 を 不 平 等 に 取 り 扱 っ て は な ら な い と い う 意 昧 で、
地 方 公 共 団 体 に も 平 等 原 則 の 適 用 が あ る も の と 言 う べ き で あ る。
も と よ り 、国 家 が各 地 方 の実 情 に 応 じ た 合 理 的な 差 別 を な し うる
こ と は 当 然 で あ り、そ の 合理 性 の 判 断 に つ い ては 国 家 の 裁 量 が認
め ら れ る も の で あ る が、特 定 の 地 方 公共 団 体 に対 す る 不 平 等 が著
し く 、国 民 の 正 義衡 平 の 観念 か ら 到 底 許 容 で きな い 限 度 に 至 って
い る 場合 に は 、もは や 一 見明 白 に 平 等 原 則 に 違反 し て い る も の と
50
言 え 、裁 判 所 は 違憲 判 断 を な し う る も の と 解 され る 。そ して 、沖
縄 県 へ の 長 期 間 に わ た る 米軍 基 地 の 集 中 に よ って 、沖 縄 県が 他の
都 道 府 県 に 例 を 見 な い 過 度の 基 地 の 負 担 を 負 わさ れ 、そ のた めに
沖縄県の自律的発展が著しく阻害されている現状は著しく不平
等 で あ り 、到 底 国民 の 正 義衡 平 の 観 念 が 許 容 しう る も の で は な い」
と訴えていた。
しか し 、そ の後 20 年を 経 過 し て も 、沖 縄 への 基 地 集 中 、基 地
ウ
の過重負担はなんら是正されていない。代理署名訴訟から世紀
が変わった今また、まったく同じことを訴えなければならない
ような、変わることのない基地負担・基地格差を強いられてい
るのである。
そして、新基地建設によって、基地負担が沖縄県内でたらい
回しされてさらに将来にわたって固定されようとしているもの
であり、このまま新基地建設が強行されるならば、来世紀にな
ってもまた、沖縄県、沖縄県民は同じことを訴え続けなければ
ならないこととなる。法の根本理念たる正義公平の精神、日本
国憲法の精神よりすれば、異常なまでの沖縄への基地集中の解
消が要請されているものであり、これに真っ向から反して、あ
らたに沖縄に基地を建設して沖縄への基地の過重負担・格差を
さらに将来にわたって固定化することは、日本国憲法の精神に
も悖ることになる。
エ
以上のほか詳細は準備書面5ないし8において述べたとお
り 、本 件 埋 立 承 認 処 分 は、埋 立 て の 必要 性 に 実証 的 根 拠 が 認 め
ら れ ない の に 対 し て 、埋 立 て に よ り 自然 環 境 及び 生 活 環 境 等 に
重 大 な悪 影 響 を 及 ぼ し 、か つ 、自 治 権の 空 白 地帯 、地 域 振 興 の
阻 害 要因 を あ ら た に 作 出 し、 上 記 の と お り 70 年 に も 及 ぶ 沖 縄
51
県における深刻かつ過重な基地負担や基地負担の地域格差を
将 来 にわ た っ て 固 定 化 す るも の で あ る 。
⑷
小括
よって、本件承認処分の瑕疵は極めて重大であり、また、これ
を維持することによって生じる不利益は、環境という側面におい
ても、地域における土地利用という観点からも、地方自治の本旨
等 の 憲法 的 価 値 に 鑑 み て も 、 著 し い も の で あ る。
2
⑴
承認処分から承認取消処分までに生じた事情の検討
是正の指示においては承認によって生じた問題ではない事情が
理由とされていること
以上に対して、是正指示理由は、国家間でした約束事を実現で
きないことによる国際的な信頼関係の低下、普天間飛行場周辺の
住民の生命・身体又は財産に対する危険性の除去を振り出しに戻
す こ と 、普天 間 飛 行 場 跡 地利 用 に よ る 年 間約 3866 億 円 に 上 る とさ
れる経済的発展が頓挫すること、沖縄県全体の負担軽減も実現で
き な いこ と な ど を 主 張 し てい る 。
既 に 第4の2⑴に お い て も 指 摘 し た と こ ろ で あ る が 、 国 土 交 通
大臣の主張について検討するにおいて、まずもって留意されなけ
ればならないことは、是正指示理由に示された内容は承認によっ
て 生 じた 問 題 と 異 な る 問 題が 含 ま れ て い る こ とで あ る 。
したがって、検討については、取消制限により保護される権利
利益に該当するか否かについては、時系列による区分が必要であ
り 、 以下 の 2 点 を 留 意 し なけ れ ば な ら な い 。
第1に、瑕疵のある原処分がなされた時点以前に形成されてい
52
た権利利益などで、瑕疵のある原処分を取り消した時点で失われ
るはずの権利利益は、取消制限法理での考慮対象とはならない。
なぜなら、これらの権利利益は、もともと原処分時に瑕疵のない
処 分( 不 承 認 処 分 等 )を 行 った と き に は 当 然 喪失 す る も の で あ り、
瑕疵のある原処分を行ったことによって新たに形成されたもので
はなく、もともと瑕疵のない処分を受けたときには甘受しなけれ
ばならない不利益だったはずだからである。例えば、原処分に至
るまでの間にその処分の申請者がいかに労力や費用を投下したと
しても、そのことによる利益自体が保護されて原処分時の判断に
影 響 を及 ぼ す も の で は な く、瑕 疵 の ある 原 処 分を 取 り 消 す 場 合 に、
当 該 原処 分 以 前 の 関 係 者 等の 利 益 等 を 考 慮 す る必 要 は な い 。
第2には、瑕疵のある原処分を取り消そうとするときに、当該
原処分を受けてすでに生じている新たな権利利益や法律関係が考
慮されるにとどまり、その時点で生じていない、原処分によって
将来得られる権利利益や法律関係は区別して除外されなければな
らない。なぜなら、法律による行政の原理に従って本来瑕疵ある
行政処分は取り消さなければならず、瑕疵ある行政処分による受
益は予定されていないところ、それにもかかわらず既に瑕疵ある
行政処分によって発生してしまった既得権や新たな法律関係があ
ったとき、それが瑕疵ある行政処分をなしたことに起因すること
に基づき一定の保護を与えようとするものであり、瑕疵ある行政
処分によって将来得られる、同処分そのものによる受益を保護す
る も ので は な い か ら で あ る。
53
⑵
国家間でした約束事を実現できないことによる国際的な信頼関
係の低下という主張について
ア
承認 処 分 に よ っ て 形 成さ れ た 事 情 で は な い こ と
是 正 指 示 書 は、「 本 件 承 認処 分 を 取 り 消 す こ とは ,普 天 間 飛 行
場 の 返還 が 決 ま っ た 平 成 8 年 以 降 の 約 20 年 , 辺 野古 沿 岸 域 を
埋め立てて普天間飛行場の代替施設を建設することが決まった
平 成 14 年 以 降 の 約 14 年 に わ た る 我 が 国 国 内 に お け る 様 々 な
行為や計画,さらにその間の日米間の長い協議によって得られ
た成果を全て白紙に戻し,それらを根こそぎ覆滅させ…日本の
過去,現在及び将来にわたり極めて重要な意味を持つ日米両国
間の信頼関係に大きな亀裂を生じさせかねないという計り知れ
ない不利益をもたらす行為でもある。また、ことは米国との関
係にとどまるものではなく,国家間でした約束事を実現できな
いこととなれば,国際社会における我が国に対する信頼の低下
に も つな が る 」 と し て い る。
国土交通大臣の主張に係る「積み重ね」の存在それ自体まっ
たく適切さを欠いた一方的なものであるが、ここで主張されて
いるのは、本件埋立承認以前の積み重ねの問題であって、本件
埋立承認によって生じた問題ではないから、職権取消制限の根
拠 と はな り え な い も の で ある 。
イ
「 積 み 重ね 」が 国 際 的信 頼 を 害 す る と い う主 張 自 体 が 論 理を
な し てい な い こ と
念 の 為 述 べ て お く な ら ば、そ も そも 埋 立 承 認 を 得 ら れ な い こ
と が 国際 的 な 信 頼 関 係 を 破壊 す る と い う 主 張 自 体 が 、およ そ 論
理 を なし て い な い も の で ある 。
そ も そも 、埋 立て に よ り 基地 を 建 設 し て 提 供 す る の で あ れ ば 、
54
国内法によりその権限を取得しなければならないことは当然
で あ る。日 米 両 国 間 の 政 治 的 な 合 意 が あ る と して も 、国 内法 令
に 基 づい て 基 地 建 設 の 為 の法 的 権 限 を 取 得 し えな い な ら ば、そ
れ が 履行 で き な い こ と は 当然 の こ と で あ る 。国 内 法 に より 権 限
を取得できないことにより、基地を提供できなくなることが、
国 際 的信 頼 関 係 を 破 壊 す るも の で は な い 。
平成8年の橋本総理とモンデール駐日大使の共同記者会見
の 際 に も 、「 環 境 ア セ ス メ ン ト で 最 初 の 候 補 地 が 問 題 が あ る と
な っ て、別 の 候補 地 を 探 す と い っ た よ う な 事 態が 起 こ る か も 知
れ な い 。」 と 言 及 さ れ て い た も の で あ り 、 環 境 影 響 評 価 の 結 果
を 受 けて 本 件 埋 立 事 業 が 不適 切 と 判 断 さ れ る こ と に よ っ て、外
交・安 全 保 障 上の 正 当 な 国 際 的 信 頼 関 係 維 持 がで き な い と い う
こ と はで き な い も の で あ り、相 手 方 の 主 張 自 体が 不 合 理 な も の
で あ る。
本 件 埋立 承 認 出 願 は 、環 境 影 響 評 価法 の 対 象 事 業 と さ れ る も
の で ある が 、環 境 影 響 評 価 は そ の 結 果 の 免 許 等へ の 反 映 を 目 的
と す る手 続 で あ り( 環 境 影響 評 価 法 33 条 、環 境 基 本 法 20 条 )、
環 境 の保 全 に 関 す る 審 査 の結 果 、当 該 免 許 等 を拒 否 す る 処 分 を
行 う こと も 予 定 し て い る もの で あ る 。
こ れ は、そ の 候 補 地 を 選 定す る ま で の 経 緯 と は 、次 元 の 異な
る、ま っ た く 別 の 問 題 で ある 。この 是 正 指 示 の理 由 は 、環 境 影
響 評 価を 本 質 的 に 否 定 す るに 等 し い も の で あ る 。
ウ
国 土 交 通 大 臣 に よ る 承 認 取 消 処 分 のレ ビ ュ ー は、あ く まで 国
土交通大臣の所管する法律の目的の範囲内においてなされな
け れ ばな ら な い こ と
国 土 交 通 省 設 置 法 第 3 条 は、国 土 交 通 省 の 任 務に つ い て「国
55
土の総合的かつ体系的な利用、開発及び保全、そのための社会
資本の整合的な整備、交通政策の推進、観光立国の実現に向け
た施策の推進、気象業務の健全な発達並びに海上の安全及び治
安の確保を図ること」と定めており、外交・安全保障上の国際
的信頼関係の維持はその任務とされていない。また、同法第4
条は、第3条の任務を達成するため必要となる明確な範囲の所
掌 事 務 を 定 め て い る が 、第 4 条 1 号 か ら 128 号ま で に 定 め られ
た国土交通省の所掌事務に、外交・安全保障上の国際的信頼関
係の維持は含まれていない。国土交通大臣が公有水面埋立事務
を 担 当 す る の は ( 国 土 交 通省 設 置 法 第 4 条 57 号)、「 国 土 の総
合 的 か つ 体 系 的 な 利 用、開 発 及 び 保 全 」
( 同 法 第3 条 )とい う 国
土 交 通 省 の 設 置 目 的 に 基 づく も の で あ る 。
国 土 交 通 大 臣 は 、公 水 法 の目 的 を 逸 脱 し た 関 与を す る こ とは
で き な い が 、公水 法 は、外 交 や 防 衛を 目 的 と する 法 律 で は な い 。
外 交・軍事 的 安 全 保 障 上 の国 際 的 信 頼 関 係 維 持と い う こ と は、
国 土 交 通 大 臣 に よ る 是 正 の 指 示 の 根 拠 と な し え な い も の で あ り、
この是正指示理由は、国土交通大臣の権限を逸脱したものであ
る。
⑶
普 天 間 飛 行 場 周 辺 の 住 民 の 生 命・身 体 又 は 財 産 に 対 す る 危 険 性 の
除去を振り出しに戻すとの是正指示理由について
ア
処分 に よ っ て 形 成 さ れた 事 情 で は な い こ と
普天間飛行場周辺の危険性は、本件埋立承認時と本件埋立承
認取消時のいずれの時点においても同じである。本件埋立承認取
消によって、普天間飛行場周辺の住民の危険性が復活したもので
はない。従って、要件適合性の問題としてはともかく、職権取消
56
制 限 の根 拠 と な り え な い こと は 明 ら か で あ る 。
イ
国土交通大臣の主張は違法な被害を容認し固定化するものであ
ること
埋立承認に対する信頼の問題か否かという点をさておき、念の
た め 、 以 下 の 反 論 を し て おく こ と と す る 。
辺野古移設とは、現在生じている被害は容認して相当の年数に
わ た っ て 固 定 化 す る こ と にほ か な ら な い 。
(ア)
仲 井 眞 前 知 事 の 本件 承 認 時 に お け る 記者 会 見
仲 井 眞前 知 事 は 、本 件 埋 立 承 認 時 の 記 者 会 見 にお い て 、
「現在政
府 が 示 し て い る 辺 野 古 移 設計 画 は 約 10 年 の 期 間 を 要 し 、そ の 間 普
天間飛行場が現状維持の状態となるような事態は絶対に避けなけ
ればなりません。このため県外のすでに飛行場のある場所へ移設
するほうがもっとも早いという私の考えは変わらず、辺野古移設
を実行するにあたって、暫定的であったとしても、考え得る県外
移設案を全て検討し、5年以内の運用停止をはかる必要があると
考えます。したがって政府は普天間飛行場の危険性の除去をはか
るため、5年以内運用停止の実現に向けて今後も県外移設を検討
する必要があることは言うまでもありません。以上をもって私の
説 明 と さ せ て い た だ き ま す。」、
「 ま ず 私 が 辺 野古 の 場 合 、先 ほ ど も
ここで申し上げましたけれども、時間がかかりますよ、なかなか
困難な部分がありますよ、ということはずっと申し上げてきたと
おりで、これはこれからもおそらくなかなか大変な場所であるこ
と は み な さ ん も よ く ご 存 知だ と 思 い ま す 。そ う い う こ とで す か ら、
なにが我々にとってもさらに一番重要かというと、宜野湾市の街
の真ん中にある危険な飛行場を一日も早く街の外に出そうという
ことですから、どうかみなさんこれをご理解していただきたい。
57
これを政府がしっかりと取り組んで5年以内に県外に移設をする、
移設をするって言いました、県外に移設をし、そしてこの今の飛
行場の運用を停止する、ということに取り組むという、総理自ら
の 確 約 を 得 て お り ま す か ら、内 容 的に は 県 外 とい う と い う こ と も、
それから辺野古がなかなか困難なものですよということも何ら変
わ っ て お り ま せ ん 。 以 上 でご ざ い ま す。」 と 述べ て い た 。
本件埋立事業により新基地を建設して移駐するまでの間、現状
のとおり航空機の運用がなされるとするのであれば、被害を固定
化 す る の と 同 じ と 言 わ ざ るを え な い 。
(イ)
本件 埋 立 工 事 に は 長 期間 を 要 す る こ と
本件埋立工事に使用されるとてつもない土砂の量だけを考えて
も、埋立工事・基地建設には、長い年数を要することはあまりに
も明らかである。
仲 井 眞前 知 事 の 議 会 答 弁( 平成 25 年 度 第 1 回 沖 縄 県 議 会 )を引
用 す る な ら ば、
「 埋 め 立 てを す る に し て も 当 時言 わ れ て い た あ たり
は膨大なイシグーというか、その埋め立ての土砂等が要る。これ
をどこから持ってくるんだと。当時言われていたのは――これは
正 確 じ ゃ な い で す よ 、表 現 で す から ― ― 土 木 建築 部 の 10 年 分 の 仕
事に相当する可能性すらあると。これをどうやって調達するかな
どなど、現実にもし建設計画があるとすれば、何年かかってどん
なふうにこういうものは実現可能かも非常に難しい面が予想され
る。そうすると、今の普天間を一日も早くクローズをする、固定
化させない。これが辺野古を頼りにやったとすれば、辺野古へ賛
成か反対か以前に、これは一体実現の可能性が本当にあるのかな
いのかというのがすぐ僕らの頭をよぎります。さすれば、基地の
県外移設、沖縄から減らすという点から見ても、沖縄以外の地域
58
で自衛隊の基地もおありでしょうし、民間専用の空港も共用の空
港があるはずですから、そこら辺の利用度などなどを調べれば、
恐らく国交省のみならず防衛省も持っているのではないかと、こ
れは推測します。そういうところへ移してしまうというほうが直
ちにクローズ、つまり埋め立てなんか要りませんからできるので
はないかというのが私の考えです。ですから、そちらを選ばない
と、仮に賛成・反対はちょっとこちらへ置いておきまして、建設
を 想 像 す る だ け で も 5 年 、い や 10 年 、 い や 15 年 と な る と 、 事実
上 固 定 化 と 同 じ だ と い う のが 私 の 考 え。」 と いう も の で あ る 。
是正指示理由は、本件埋立事業を行い、新基地を建設し、移駐
をするまでの間、すなわち、埋立承認が有効であるとしても、今
後何年の年数を要するのかも分からないような長い年数にわたっ
て、普天間飛行場の運用により被害が固定化されること前提とす
る も の に ほ か な ら な い こ とに こ そ 、 留 意 さ れ るべ き で あ る 。
(ウ)
普天間飛行場の閉鎖の必要性と辺野古移設が適切か否かとい
う こ とは 、 次 元 の 異 な る 問題 で あ る こ と
また、是正指示理由は、今後、米軍の航空機の運用が改善され
る こ と が な く 、ま た 、第 36 海 兵 航 空 群 の 沖 縄 へ の 駐 留 の 必 要 性が
変わることはないということを前提とするものであるが、そのよ
うなことを所与の前提とすること自体が批判されるべきものであ
り、また、不確実な将来における抽象的危険性であって違法な行
政 行 為 を 維 持 す る 具 体 的 な根 拠 と な る も の で はな い 。
そもそも、普天間飛行場の閉鎖の必要性があるということと、
辺野古崎・大浦湾を埋め立てることが適切か否かということは、
次元の異なる問題である。
仮に、普天間飛行場の閉鎖の為には飛行場施設の新設が必要で
59
あるということを前提にしても、そのことと、どの場所に新設を
するのかということは、次元の異なる問題であり、相手方の主張
に は 、 論 理 の 飛 躍 ( 論 理 の欠 如 ) が 存 す る も ので あ る 。
な お 、第 36 海 兵 航 空 群 の 駐 留 の 為 に 、辺 野 古新 基 地 の 建 設 が必
要 で あ る と い う の が 、埋 立 必要 理 由 で あ る が 、第 36 海 兵 航 空 群が
沖縄に駐留しなければならない必然性はないし、また、新基地の
場所が辺野古でなければならないという根拠がないことは、第7
準備書面のとおりである。
普天間飛行場が閉鎖されるべきことは当然であるが、普天間飛
行場が存在すること自体によって周辺住民の生命・身体等に対す
る被害が発生するわけではない。周辺住民への被害は、普天間飛
行場の運用、すなわち、米軍航空機の離陸、飛行、着陸がなされ
ることによって発生するのであり、日本国が米軍に提供した基地
の運用、米軍航空機の運用によって、航空機の事故や航空機騒音
等 が 生 じ て い る と い う 問 題で あ る 。
(エ)
周 辺 住 民 へ の 被 害は 、地 位 協上 の 義 務や 日 米 合 同 委 員 会 にお け
る 合 意に 反 す る 運 用 に よ り生 じ て い る こ と
そして、普天間飛行場、米軍航空機の運用による周辺住民への
被害は、地位協上の義務や日米合同委員会における合意に反する
運 用 に よ り 、 さ ら に 深 刻 化し て い る も の で あ る。
す な わち 、地 位 協 定 第 16 条 に よ り 日本 国 法 令順 守 義 務 が あ る に
もかかわらず我が国の環境基準に反して我が国の国内法上不法行
為とされる航空機の運用がなされ、また、平成8年に日米合同委
員会で合意された普天間飛行場における航空機騒音規制措置(a
進入及び出発経路を含む飛行場の場周経路は、できる限り学校、
病 院 を 含 む 人 口 稠 密 地 域 上空 を 避 け る よ う 設 定す る 。b 普 天 間 飛
60
行場近傍(飛行場管制区域として定義される区域、即ち、飛行場
の中心部より半径5陸マイル内の区域)において、航空機は、海
抜 1,000 フ ィ ー ト の 最 低 高 度 を 維 持 す る 。 ただ し 、 次 の 場 合 を除
く。承認された有視界飛行方式による進入及び出発経路の飛行、
離着陸、有視界飛行方式の場周経路、航空管制官による指示があ
る 場 合 又 は 計 器 進 入 。c 任 務に よ り 必 要 と され る 場 合 を 除 き 、現
地 場 周 経 路 高 度 以 下 の 飛 行を 避 け る。d 普 天 間 飛 行 場 の 場 周 経 路
内で着陸訓練を行う航空機の数は、訓練の所要に見合った最小限
に お さ え る 。e アフター・バーナーの 使用 は 、飛 行 の安 全 及 び 運 用 上 の 所
要のために必要とされるものに制限される。離陸の為に使用され
る アフター・バーナーは 、で き る 限り 早 く 停 止 す る 。f 普天 間 飛 行 場 近 傍
及び沖縄本島の陸地上空において、訓練中に超音速飛行を行うこ
と は 、 禁 止 す る 。 g 22:00∼ 06:00 の 間 の 飛 行 及 び 地 上 で の 活 動
は、米国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限さ
れる。夜間訓練飛行は、在日米軍に与えられた任務を達成し、又
は飛行要員の練度を維持するために必要な最小限に制限される。
部隊司令官は、できる限り早く夜間の飛行を終了させるよう最大
限 の 努 力 を 払 う 。h 日 曜 日 の 訓練 飛 行 は 差 控え 、任 務 の所 要 を 満
たす為に必要と考えられるものに制限される。慰霊の日のような
周辺地域社会にとって特別に意義のある日については、訓練飛行
を 最 小 限 に す る よ う 配 慮 する 。i 有 効 な 消 音 器 が 使 用 さ れ な い限
り、又は、運用上の能力もしくは相応態勢が損なわれる場合を除
き 、18:00∼08:00 の 間 、ジ ェ ッ ト・エ ン ジ ン の テス ト は 行 わ な い 。
j エンジン調整は、できる限りサイレンサーを使用する。k 普
天間飛行場近傍(飛行場管制区域として定義される区域、即ち、
飛行場の中心部より半径5陸マイル内の区域)においては空戦訓
61
練に関連した曲技飛行は行わない。しかしながら、あらかじめ計
画 さ れ た 曲 技 飛 行 の 展 示 は除 外 さ れ る。l 普 天 間 飛行 場 に 配 属 さ
れる、あるいは同飛行場を一時的に使用するすべての航空関係従
事者は、周辺地域社会に与える航空機騒音の影響を減少させる為
に本措置に述べられている必要事項について十分な教育を受け、
こ れ を 遵 守 す る 。)や 平成 24 年の MV-22 オス プ レ イ に 関 す る 合意
(5.米軍施設及び区域の上空及び周辺における飛行経路及び運
用:a.合衆国政府は,適用される騒音規制措置に関する合同委
員会合意を引き続き遵守する意図を有する。b.合衆国政府は,
周辺のコミュニティに及ぼす飛行運用による影響が最小限になる
よう,米軍施設及び区域の上空及び周辺における飛行経路を設定
する。この目的の為に,MV−22を飛行運用する際の進入及び
出発経路は,できる限り学校や病院を含む人口密集地域上空を避
けるよう設定される。MV−22は,陸上あるいは水上を飛行す
る に も 安 全 で あ る が ,移 動 の際 に は ,可 能 な 限り 水 上 を 飛 行 す る。
c.22時から6時までの間,MV−22の飛行及び地上での活
動は,運用上必要と考えられるものに制限される。夜間訓練飛行
は,在日米軍に与えられた任務を達成し,又は飛行要員の練度を
維持するために必要な最小限に制限される。部隊司令官は,でき
る限り早く夜間の飛行を終了させるよう最大限の努力を払う。合
衆国政府は,シミュレーターの使用等により,MV−22の夜間
飛行訓練が普天間飛行場の周辺コミュニティに与える影響を最小
限にする。d.MV−22は,安全な飛行運用を確保する為に,
普天間飛行場における離発着の際,基本的に,既存の固定翼機及
び回転翼機の場周経路並びに現地の運用手順の双方を使用する。
e.MV−22は,通常,ほとんどの時間を固定翼モードで飛行
62
する。運用上必要な場合を除き,MV−22は,通常,米軍の施
設及び区域内においてのみ垂直離着陸モードで飛行し,転換モー
ドで飛行する時間をできる限り限定する。f.MV−22の沖縄
への配備の後,既存の計画の一部として,また,日本国政府から
の支援も得て,日米両政府は,日本国内の沖縄以外の場所で飛行
訓 練 を 行 う 可 能 性 を 検 討 する 意 向 で あ る 。)と いう 日 米 両 国 間 の地
位協定に関わる合意事項が順守されていない等の米軍の航空機の
運 用 に よ っ て 、 周 辺 住 民 の被 害 は 深 刻 化 し て いる も の で あ る 。
日本国が米軍に提供した基地の運用によって、基地周辺住民等
の生命・身体等に対する重大な危険性が現実化していると認識し
ているのであれば、外交・防衛の問題として、即時に違法な運用
の 改 善 を こ そ な さ れ な け れば な ら な い 。
(4)
普 天 間 飛 行 場 跡 地 利 用 に よ る 年 間 約 3866 億 円 に 上 る と さ れ る 経
済的発展が頓挫するとの是正指示理由について
ア
処分 に よ っ て 形 成 さ れた 事 情 で は な い こ と
普天間飛行場の所在する土地を産業のために利用できない
ことは、本件埋立承認時も本件埋立承認取消時のいずれの時点
においても同じである。本件埋立承認取消によって、普天間飛
行場の所在する土地が利用できなくなったものではない。これ
は、本件埋立承認処分によって形成された状態に対する信頼保
護の問題ではない。従って、要件適合性の問題としてはともか
く 、 職権 取 消 制 限 の 根 拠 とな り え な い こ と は 明 ら か で あ る 。
イ
沖縄県に恒久的に基地が固定化されることにより、健全な自
律 し た 経 済 の 発 展 の 可 能 性を 奪 う も の で あ る こと
埋立承認に対する信頼の問題か否かという点をさておき、念
63
の た め、 以 下 の 反 論 を し てお く こ と と す る 。
普天間飛行場の閉鎖と本件埋立対象地の埋立ての許容性は次
元の異なる問題である。前述したとおり、普天間飛行場の閉鎖
の必要性があるということと、辺野古崎・大浦湾を埋め立てる
ことが適切か否かということは、次元の異なる問題であり、是
正 指 示理 由 は 論 理 を な し てい な い も の で あ る 。
普天間飛行場の存在は、地域振興の深刻な阻害要因となって
おり、日本国が米国に普天間飛行場を提供することにより生じ
ている機会利益の喪失額(跡地利用により見込まれる経済的利
益)は、莫大なものであるから、普天間飛行場は、ただちに閉
鎖 し て返 還 さ れ る べ き で あ る 。
そして、辺野古崎・大浦湾の埋立により新基地を建設して部
隊を移駐させることによって普天間飛行場を閉鎖するとするな
らば、予測をすることも困難な長い年月を要することになり、
事実上の固定化にほかならないものであり、途方もない経済損
失 の 固定 化 を 承 認 す る こ とで あ る 。
今日、老朽化した普天間飛行場に代わるものとして、沖縄県
内にあらたに恒久的基地を建設することは、将来にわたって沖
縄 県 に米 軍 基 地 を 固 定 化 する こ と を 意 味 す る も の で あ り 、ま た 、
移設先とされる名護市やその周辺地域は将来にわたって基地の
た め に自 律 的 な 経 済 発 展 を阻 害 さ れ る こ と と な る 。
現沖縄県知事は、沖縄県に恒久的に基地が固定化されること
により、健全な自律した経済の発展の可能性を奪うものである
と判断したものであり、沖縄県の地域振興に関して責任を持つ
都道府県知事の地域振興にかかる政策的公益判断を国家機関は
尊重すべきものであるから、国土交通大臣が、沖縄県の地域振
64
興開発に係る知事の判断を尊重すべきことは当然であり、国土
交通大臣が、現沖縄県知事の上記判断を否定することはできな
い も ので あ る 。
(5)
沖縄県全体の負担の軽減が実現されないとの主張について
ア
処 分 に よ っ て 形 成 さ れ た 事 情 で は ない こ と
基 本 的 に ⑸ア に お い て 述 べた こ と と 同 じ で あ る 。
たとえば、ここで真に取消制限との関係で「沖縄の負担軽
減」が問題とされるとすれば、すでに本件承認処分を受けて辺
野古への新基地建設との引き換え条件で基地の閉鎖などがなさ
れる既成事実が発生したにもかかわらず、本件承認取消処分に
よってそれが覆滅し、閉鎖した基地が再開されるなどの事態を
生じるというようなことであるはずであるが、そのような事実
は 存 しな い 。
本件埋立承認によって形成された法律関係といった職権取消
制 限 法理 に よ る 保 護 と は 異な る 問 題 で あ る 。
また、既に述べたとおり、今日、前例もないような大規模な
埋立を行って新基地を建設することは、沖縄県への基地集中を
遠 い 将来 に わ た っ て 固 定 化す る こ と に ほ か な ら な い 。
沖縄県の基地負担というのは、沖縄県の公益の問題である。
地 方 公共 団 体 の 長 、議 会 の 議 員 は 住 民 か ら 直 接選 挙 さ れ た 者 で 、
長や議会の判断は地方自治の観点から最大限に尊重されるべき
ものであり、地方公共団体の事務に係る地域公益の問題は、当
該地方公共団体の住民自治のプロセスによって判断されるべき
であって、国は地方公共団体の自主的判断を尊重すべきもので
ある。
65
沖縄県の民意は、現沖縄県知事による本件埋立承認取消を圧
倒 的 な民 意 を も っ て 支 持 して い る も の で あ る 。
国の関与において、職権取消制限の根拠として、沖縄県全体
の基地負担の軽減ができないなどと主張することは、およそ許
容 さ れる べ き こ と で は な い。
イ
海兵 隊 グ ア ム 移 転 費 用に つ い て
また 、国 土 交 通 大 臣 は 、海兵 隊 の グ ア ム 移転 費 用 の 予 算 凍 結解
除 に つ い て 言 及 す る が 、そ も そも 、当 該 予 算 は 日 米 安 全 保 障 協議
委 員 会 に お い て 、普 天 間 飛行 場 の 移 設 の 問 題 とは 切 り 離 す こ と が
合意されていたものである。また、予算凍結の解除に関しても、
米国防省が議会から要請されていたグアム移転に係る基本計画
を 提 出 し た こ と に よ る も ので あ っ て 、こ の こ とに よ っ て 処 分 を 維
持 す べ き 根 拠 に は な り 得 ない 。
3
⑴
平成8年以降の日米の「積み重ね」について
はじめに
国及び国土交通大臣は、これまで訴訟内外、そして、国地方係
争処理委員会においてもやはり、平成8年の橋本・モンデール会
談以降、国が沖縄県や名護市との交渉等の積み重ねを通じて得ら
れ た 結論 が 平 成 11 年 に お け る 知 事 及 び 名 護 市長 の 受 入 れ 表 明 であ
るとし、また、本件埋立承認申請に至るまでの経緯を関係者の多
大な努力と苦渋の決断の累積と評し、もって、日米の信頼関係を
保 護 すべ し と す る が 、 こ の点 に つ い て 、 以 下 、 反 論 す る 。
66
⑵
被 告 に お け る 平 成 11 年 の 沖 縄 県 知 事 及 び 名 護 市 長 の 受 入 表 明 の
位置づけ
現 在 、沖 縄 県 に お け る 、稲 嶺 知 事 及 び 岸 本 名 護市 長 の 平成 11 年
における受入れ表明の位置づけは、「受け入れの前提条件が取り
消された以上、沖縄側が辺野古移設を受け入れていると主張する
の は 正 当 性 が な い 」( 平成 27 年 第2 回 沖 縄 県議 会( 定 例 会 )一 般
質問における新里米吉議員からの質問に対する知事公室長答弁)
と い うも の で あ る 。
稲嶺知事及び岸本市長による条件付受入れ判断においては、新
基地は沖合での建設が想定されており、沿岸域の埋立工法による
V字型2本の滑走路を有する基地の建設は全く前提となっていな
い。しかも、使用期限付きのものとして、空港が将来にわたる県
民の財産となるべきことを絶対条件とする重要な留保付きのもの
で あ る。そ の 様 な限 定 的 な受 け 入 れ 表 明 で あ った に も か か わ ら ず、
政府はその後、沖縄県民の民意を全く顧みることなく移設計画案
を変容させた結果、現行案である沿岸V字案の推進を公約として
当 選 した 知 事 ・ 市 長 は い ない 。
それ故、国土交通大臣が稲嶺知事及び岸本市長の判断あるいは
その後の経緯をもって「積み重ね」と評し、「辺野古が唯一」で
あ る と主 張 す る こ と は 明 らか に 不 当 で あ る 。
以 下 、稲 嶺 知 事 及び 岸 本 市長 の 判 断 の 前 提 と なっ て い た 事 実 と、
それが、如何に沖縄県の民意を無視して現行案に至ったのかを、
そ の 経緯 と と も に 主 張 す る。
67
⑶
軍民共用空港を前提とした環境影響評価手続きまでの経緯につ
いて
ア
比嘉名護市長による住民投票
「沖縄県民は一度たりとも自ら基地を提供したことはない」
被告が度々公の場において述べているとおり、普天間飛行場
は米軍による強制接収によって一方的に奪われた土地である。
この様な経緯に鑑みれば、沖縄県民がこれを甘受しなければな
らない合理的理由は存在せず、沖縄県民は本土復帰以前からそ
の返還を要求し続けてきたところであるが、平成7年9月4日
の少女暴行事件を契機として、沖縄県全体を挙げた大きなうね
り と なっ て 基 地 問 題 の 改 善が 叫 ば れ た 。
普天間飛行場が基地化した経緯を踏まえれば、この時点にお
いて、県外・国外への移設が果たされるべきであり、モンデー
ル氏によれば米側はその様な事態への危機感をも持っていたに
もかかわらず、日本政府はなお、そこまでの要求をすることは
な か った 。
この様な政府の対応から、沖縄県民は極めて厳しい、それこ
そ 苦 渋の 判 断 を 迫 ら れ、当 時 の 比 嘉名 護 市 長 は 、SACO 最 終 報 告
の「海上施設は、(中略)その必要性が失われたときには撤去
可能なものである。」という報告に基づいて、撤去可能な海上
ヘ リ ポー ト の 建 設 の 是 非 を問 う 住 民 投 票 を 実 施 し た 。
投票は、賛成・反対のほか、条件付賛成・条件付賛成(地域
発展が望めるから賛成,期待できないから反対)の4通りに分
けて行われたものであるが、その結果は、反対票が賛成票を上
回った。ここで着目すべきは、具体的な内訳は、純粋な賛成が
68
わずか8%であるのに対して、反対意見の殆ど全てが純粋な反
対 で あっ た 点 で あ る 。
この様に、結論として反対が賛成を上回り、また、賛成票を
投じた住民も手放しで軍事基地の受け入れを容認していたもの
ではなく、沖縄の置かれた現状を受けた苦渋の判断であったの
で あ る。
イ
沖 縄 県 の 検 討 作 業 と 稲 嶺 知 事 及 び 岸本 名 護 市 長 の 付 し た条 件
もともと、自ら望んで受入れたものでもない基地の県内移設
について、住民が分断されるという苦しい県内情勢の中、比嘉
名護市長は、上述の住民投票の結果にもかかわらず受け入れを
表 明 して 辞 任 し た 。
比 嘉 市 長 の 辞 任 後 、岸 本 名護 市 長 が 当 選 し 、また 、平 成 10 年
11 月 15 日 の 沖 縄 県 知 事 選挙 で 、次 の と お り「 一 定 期 間 に 限 定 し
た 軍 民共 用 空 港 」 を 公 約 とし て 掲 げ た 稲 嶺 惠 一 氏 が 当 選 し た 。
【 稲 嶺氏 の 公 約 ( 平 成 10 年 9 月 21 日 ) 】
③ 普 天間 基 地 の 代 替 施 設 に つ い て
「 海 上ヘ リ 基 地 案 」 に つ いて は 責 任 を も っ て 政府 に 見 直 し を 求
め る 。そ の か わ り 県 民 の 財産 と な る“ 新 空 港”を 陸 上 に 建設 さ せ 、
一 定 期間 に 限 定 し て 軍 民 共 用 と し 、 当 該 地 域 には 臨 空 型 の 産 業 振
興 や 特段 の 配 慮 を し た 振 興 開 発 を セ ッ ト と す る。
稲嶺知事は、当選後、普天間飛行場の移設について、県民の
財産となる新空港の建設、一定期間に限定しての軍民共用、臨
空型の産業振興や特段の配慮をした振興開発をセットとすると
い う 方針 を 県 議 会 等 で 表 明し 、平 成 11 年 3 月 1 日 に「 普 天 間 飛
行場・那覇港湾施設返還問題対策室」を発足させ、普天間飛行
場の県内移設に向けて、様々な観点から検討する作業を開始し
69
た。
これにより、当該移設候補地の選定作業が始まったが、稲嶺
知事の公約を踏まえ、次の基本方針に基づいて選定作業が行わ
れ た もの で あ る 。
【 基 本方 針 】
①
米軍 基 地 の 整 理 ・ 縮 小を 図 る も の で あ る こと 。
②
住民 の 安 全 が 確 保 さ れ、 騒 音 等 の 影 響 が 軽減 さ れ る こ と 。
③
建設 さ れ る 空 港 は 民 間空 港 が 就 航 で き る 滑 走 路 を 有 す る も の
で 、将 来 に わた っ て 地 域 及び 県 民 の 財 産 と な るも の で あ る こ と。
④
県土 の 均 衡 あ る 発 展 を図 る 観 点 か ら 地 域 の活 性 化 に 資 す る も
の で 、県 民 の 利 益 に つ な が る も の で あ る こ と 。
さらに稲嶺知事は、次のとおり、移設に当って整備すべき条
件 を 提示 し て い る 。
①
普天 間 飛 行 場 の 移 設 先及 び 周 辺 地 域 の 振 興、 並 び に 跡 地 利 用
に つ いて は 、 実 施 体 制 の 整備 、 行 財 政 上 の 措 置に つ い て 立 法 等
を 含 め特 別 な 対 策 を 講 じ るこ と 。
②
代替 施 設 の 建 設 に つ いて は 、 必 要 な 調 査 を行 い 、 地 域 住 民 の
生 活 に十 分 配 慮 す る と と もに 自 然 環 境 へ の 影 響を 極 力 少 な く す
る こ と。
③
代替 施 設 は 、 民 間 空 港基 が 就 航 で き る 軍 民共 用 空 港 と し 、 将
来 に わた っ て 地 域 及 び 県 民の 財 産 に な り 得 る もの で あ る こ と 。
④
米軍 に よ る 施 設 の 使 用に つ い て は 、15 年 の 期 限 を 設け る こ と
が 、 基地 の 整 理 ・ 縮 小 を 求め る 県 民 感 情 か ら して 必 要 で あ る こ
と。
沖縄県は第一段階として、移設候補地の選定にあたっての上
70
記 「 基本 方 針 」 を 設 定 し 、基 本 方 針 に 基 づ いて 7 カ 所 (う ち 2
カ所は要請のある地域)を選定し、第二段階で、運航空域条件
を再検討し、自然条件、社会条件、建設条件等に基づいて移設
候 補 地を 2 カ 所( 辺 野 古 沿岸 域 、津堅 島 東 沿 岸 域 )に 絞 り 込 み 、
当 初 設定 し た『 基 本 方 針 』と『 知事 公 約 と の 整合 性 』を 踏 ま え 、
民間空港の設置による県土の均衡ある発展等の観点を重視して
「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」を移設候補
地 と して 選 定 し て い る 。
したがって、この選定作業は、あくまで将来における県民資
産となる民間空港としての利用を想定した上でのものである。
また、当時の想定は沖合海上案であり、沿岸のV字型滑走路敷
設を前提とするものではないためそもそもの代替基地計画の前
提自体が異なっているものである。航空機騒音・低周波音につ
いてみても辺野古集落から数キロメートル沖合の海上に基地を
建設する場合と、沿岸を埋め立てる場合とでは全く異なること
は 明 らか で あ る 。
加 え て 、橋 本・モ ン デ ー ル共 同 記 者 会 見 に お いて も「 例 え ば 、
環境アセスメントで最初の候補地が問題があるとなって、別の
候補地を探すといったような事態が起こるかも知れない。」と
の 見 解が 表 明 さ れ て お り 、岸本 市 長 が「 自 然 環境 へ の 配 慮 」「 基
地使用協定」等を前提条件とした上で「このような前提が、確
実に実施されるための明確で具体的な方策が明らかにされなけ
れば、移設容認を撤回する考えであります。」という考えを示
し 17 、県 の 選 定 作 業 に あ た って も「 具体 的 な 位 置、工 法 等に つ い
17
岸本市長は「沖縄県民が基地の移設先を自らの県内に求め、名護市民にその是
非 が 問 わ れ て い る こ と に つ い て 、日 本 国 民 は こ の こ と の 重 大 さ を 十 分 認 識 す べ き で
71
ては、国において各種の調査を実施し、移設先及び周辺地域の
意向を踏まえつつ、最善の方策が示される必要がある」とされ
て い る 。こ の 様 に 平 成 11 年 時 点の 候 補 地 選 定は 、
(当然ながら)
詳細な調査も実施されておらず、具体的な工法も未定という状
況下におけるものであるため、この選定作業に際しては、文化
環 境 部( 当 時 ) の 意 見 を 確認 し て い る も の で も な い 。
したがって、環境影響評価手続等の手続きにおいて具体的な
環境への影響等が明らかになった際には当然に移設場所を含め
た 再 検討 が 想 定 さ れ 得 る もの で あ る 。
ウ
平 成 11 年 12 月 28 日 閣 議 決 定
一方、政府は、上記イに述べた沖縄県知事及び名護市長の苦
渋 の 決断 を 重 く 受 け と め 、平 成 11 年 12 月 28 日 、 次の と お り、
軍民共用案を前提に「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を
閣 議 決定 し た 。
記
I
普 天 間 飛 行 場代 替 施 設に つ い て
普 天 間飛 行 場 代 替 施 設 ( 以 下 「 代 替 施 設 」 と いう ) に つ い て は 、
軍民共用空港を念頭に整備を図ることとし、米軍とも緊密に協議
し つ つ 、 以 下 の 諸 点 を 踏 まえ て 取 り 組 む こ と とす る 。
1.基本計画の策定
建 設 地 点 を「 キ ャ ン プ・シュ ワ ブ 水 域 内 名 護市 辺 野 古 沿 岸 域 」
と し 、今 後 、代 替 施 設 の 工法 及 び 具 体 的 建 設 場所 の 検 討 を 含 め
あ る と 考 え る も の で あ り ま す 。」、「 容 認 に 当 た っ て は 、 安 全 性 の 確 保 、 自 然 環 境 へ
の配慮、既存の米軍施設等の改善、日米地位協定の改善及び当該施設の使用期限、
基 地 使 用 協 定 、基 地 の 整 理 縮 小 、持 続 的 発 展 等 の 前 提 条 件 が 履 行 さ れ る 必 要 が あ り 、
こ の よ う な 前 提 が 、確 実 に 実 施 さ れ る た め の 明 確 で 具 体 的 な 方 策 が 明 ら か に さ れ な
け れ ば 、 移 設 容 認 を 撤 回 す る 考 え で あ り ま す 。」 と し て い る 。( 平 成 11 年 12 月 27
日付け名市室第9号)
72
て 基 本計 画 の 策 定 を 行 う 。基 本 計画 の 策 定 に 当た っ て は、移 設
先 及 び 周 辺 地 域( 以 下「 地 域 」と い う )の 住 民 生 活 に 著 し い 影
響 を 与 え な い 施 設 計 画 と な る よ う 取 り 組 む も の と する 。
代 替 施 設 の 工 法 及 び具 体 的 建 設 場 所 に つい て は 、地 域 住 民 の
意向を尊重すべく、沖縄県及び地元地方公共団体とよく相談
を行い、最善の方法をもって対処することとする。
2.安全・環境対策
(1)
基 本 方針
地域の住民生活及び自然環境に著しい影響を及ぼすことの
な い よ う 最 大 限 の 努 力 を 行 う も のと す る 。
(2)
代 替 施設 の 機 能 及 び 規 模
代 替 施 設 に つ い て は、S A C O最 終 報 告に お け る 普 天 間 飛 行
場移設に伴う機能及び民間飛行場としての機能の双方の確保
を図る中で、安全性や自然環境に配慮した最小限の規模とす
る。
(3)
環 境 影響 評 価 の 実 施 等
[1]環 境 影 響 評 価 を 実 施 す る と と も に 、 そ の 影 響 を 最 小 限 に
止めるための適切な対策を講じる。
[2]必 要 に 応 じ て 、 新 た な 代 替 環 境 の 積 極 的 醸 成 に 努 め る こ
ととし、そのために必要な研究機関等の設置に努める。
(4)
代 替 施設 の 使 用 に 関 す る 協定 の 締 結
地域の安全対策及び代替施設から発生する諸問題の対策等
を 講 じ る た め 、[1]飛 行 ル ー ト 、[2]飛 行 時 間 の 設 定 、[3]騒 音 対
策 、 [3]航 空 機 の 夜 間 飛 行 及 び 夜 間 飛 行 訓 練 、 廃 弾 処 理 等 、 名
護 市 に お け る 既 存 施 設 ・ 区 域 の 使 用 に 関 す る 対 策 、 [4]そ の 他
の 環 境問 題 、[6]代 替 施 設 内へ の 地 方 公 共 団 体 の立 入 り に つ き 、
73
地方公共団体の意見が反映したものとなるよう、政府は誠意
をもって米国政府と協議を行い、政府関係当局と名護市との
間で協定を締結し、沖縄県が立ち会うものとする。
(5)
協 議 機関 等 の 設 置
代 替 施 設 の 基 本 計 画の 策 定 に 当 た っ て は 、政府 、沖 縄 県 及 び
地 元 地方 公 共 団 体 の 間 で 協議 機 関 を 設 置 し 、協 議 を 行 う こと と
する。
また、航空機騒音や航空機の運用に伴う事故防止等、生活
環境や安全性、自然環境への影響等について、専門的な考察
による客観的な分析・評価を行えるよう、政府において、適
切 な 体 制 を 確 保 す る こ と とす る 。
(6)
実 施 体制 の 確 立
代替施設の基本計画に基づく建設及びその後の運用段階に
おいても、適切な協議機関等を設置し、地域の住民生活に著
しい影響を及ぼさないよう取り組むこととする。また、協議
機関においては、代替施設の使用に関する協定及び環境問題
に つ い て の 定 期 的 な フ ォ ロ ー ア ッ プ を 行 う こ と と する 。
3.使用期限問題
政 府 と し て は 、代 替 施 設 の 使 用 期 限 に つ い て は、国 際 情 勢も
あ り 厳し い 問 題 が あ る と の任 認 識 を 有 し て い る が 、沖 縄 県 知 事
及 び 名 護 市 長 か ら 要 請 が な さ れ た こ と を 重 く 受 け 止 め 、こ れ を
米 国 政 府 と の 話 し 合 い の 中 で 取 り 上 げ る と と も に 、国 際 情 勢 の
変 化 に 対 応 し て 、本 代 替 施 設 を 含 め 、在 沖 縄 米 軍 の 兵 力 構 成 等
の軍事態勢につき、米国政府と協議していくこととする。
4.関連事項
(1)
米 軍 施設 ・ 区 域 の 整 理 ・ 統合 ・ 縮 小 へ の 取 組
74
沖 縄 県 に お け る 米 軍 施 設・区 域 の負 担 を 軽 減 する た め、県 民
の 理 解 と 協 力 を 得 な が ら 、S A CO 最 終 報 告 を踏 ま え 、さ ら な
る 米 軍施 設・区 域 の 計 画 的 、段 階 的 な 整 理・統 合・縮 小 に向 け
て 取 り組 む 。
(2)
日 米 地位 協 定 の 改 善
地 位 協 定 の 運 用 改 善 に つ い て 、誠 意 を も っ て 取 り 組 み 、必 要
な改善に努める。
(3)
名 護 市内 の 既 存 の 米 軍 施 設・ 区 域 に 係 る 事 項
[1]
キャンプ・シュワブ内の廃弾処理については、市民生活へ
の 影 響に 配 慮 し 、 所 要 の 対策 に つ い て 取 り 組 む 。
[2]
辺 野 古弾 薬 庫 の 危 険 区 域 の問 題 に つ い て 取 り 組 む 。
[3]
キャンプ・シュワブ内の兵站地区に現存するヘリポートの
普 天 間飛 行 場 代 替 施 設 へ の移 設 に つ い て は 、米 国 と の 話 し合 い
に 取 り組 む 。
こ の 平 成 11 年 閣 議 決 定 は「地 域 住 民 の 意 向 を尊 重 す べ く 、沖
縄県及び地元地方公共団体とよく相談を行い、最善の方法をも
って対処する」とされ、使用期限付きかつ軍民共用空港として
県民の財産となることを前提とする等、当時の沖縄県知事及び
名 護 市長 の 判 断 が 反 映 さ れた 重 要 な 閣 議 決 定 で あ る 。
エ
軍 民 共 用 沖 合 海 上 案 の 環 境 影 響 評 価手 続 き の 開 始
平成 11 年 閣 議 決 定 後 、 平成 12 年 8 月 5 日 か ら 、 代 替 施 設 協
議 会 が開 催 さ れ 、 平 成 14 年 7月 29 日 、 第 9回 代 替 施 設 協 議 会
において、辺野古集落から滑走路中心まで2.2キロメートル
の沖合に滑走路1本を敷設し、工法は埋立工法とする基本計画
が策定された。この際、防衛庁長官も「ICAO(国際民間航
75
空機関)における民間飛行場の基準を踏まえたものとする」と
説明しており、民間空港としての利用が想定されたものであっ
た 。 また 、 同 年 11 月 17 日 に は任 期 満 了 に 伴う 県 知 事 選 挙 が 実
施 さ れ、 現 職 の 稲 嶺 惠 一 氏が 、 代 替 飛 行 場 の 米 軍 使 用 期 限 を 15
年 に 限定 す る こ と を 主 張 して 再 選 を 果 た し た 。
そ し て 、 平 成 16 年 4月 28 日 、那 覇 防 衛 施 設局 ( 当 時 ) は 、
軍民共用案について沖縄県に方法書を送付して環境影響評価手
続 が 開始 さ れ 、 同 年 11 月 29 日 に 知 事 意 見 が提 出 さ れ た 。
⑷
民意を無視した基地計画の変容の経緯
ア
海上案から沿岸案への変遷
(ア)辺野古沿岸L字案
以上の様に、使用期限付き軍民共用案を前提として、平成
16 年 に は 環 境 影響 評 価 手 続 き が 開 始 さ れ た にも か か わ ら ず 、
平 成 17 年 10 月 29 日 の 「 2 + 2 」 共 同 文 書 (中 間 報 告 ) にお
い て 、政 府 は 突 如、移 設 先を 辺 野 古 崎 沿 岸 部 に変 更 し 、代替 施
設 を キ ャ ン プ ・シ ュ ワ ブ の海 岸 線 の 区 域 と こ れに 近 接 す る 大 浦
湾 の 水 域 を 結 ぶ L 字 型 に 設置 す る( L 字 型 案 18 )こと を 表 明 し
た。こ れ に よ り、稲 嶺 知 事 が 公 約 に 掲 げ た 軍 民共 用 案 の ボ ーリ
ン グ 調 査 は 同 年 11 月 1 日 に 気 象 調 査 を 除 い て停 止 さ れ 、 その
後 、 平 成 19 年 8 月 7 日 に 事 業 廃 止 届 が 提 出 され た 。
上 記 中 間 報 告 に よ れ ば「 普 天 間飛 行 場 の 移 設 が大 幅 に 遅 延し
て い る こ と を 認 識 し 、運 用 上 の 能 力 を 維 持 し つつ 、普 天間 飛 行
場 の 返 還 を 加 速 で き る よ うな 、沖 縄 県 内 で の 移設 の あ り 得 べき
他 の 多 く の 選 択 肢 を 検 討 した 。 」 と い う 。
18
な お 、「 L 字 型 」 と は 代 替 施 設 の 形 を 意 味 し て お り 、 滑 走 路 自 体 は 1 本 で あ る 。
76
し か し な が ら 、既 に 軍 民 共用 案 に つ い て 環 境 影響 評 価 手 続き
が 開 始 さ れ て お り、ま た、軍 民 共 用 案 が 辺 野 古集 落 か ら 2.2
キ ロ メ ー ト ル の 沖 合 に 基 地を 建 設 す る も の で ある の に 対 し て 、
L 字 型 案 は 、辺野 古 集 落 と 1 .1 キロ メ ー ト ルの 距 離 に 基 地 を
設 置 す る も の で あ り 、か つ 、大 浦湾 内 の 大 規 模な 埋 立 を 伴 う全
く 異 な る 内 容 で あ っ た こ とか ら 、こ の 計 画 変 更は 沖 縄 県 に 大き
な混乱をもたらした。
( イ )沿 岸案 に 対 する 稲 嶺 知 事 及 び 岸 本名 護 市 長 の 反 対 意 見表 明
( ア )の と おり 、L 字 型 案 へ の 計画 変 更 は 、そ れ ま での 計
画 と 異 な る 内 容 で あ り 、か つ 、全 く 沖縄 県 と の協 議 も な く 行
わ れ た も の で あ っ て 、「 代 替 施 設 の 工法 及 び 具体 的 建 設 場 所
に つ い て は 、地 域住 民 の 意向 を 尊 重 す べ く 、沖 縄 県 及 び 地元
地 方 公 共 団 体 と よ く 相 談 を行 い 、最 善 の 方 法 をも っ て 対 処 す
る こ と と す る 。 」 と す る 平 成 11 年 閣議 決 定 にも 明 ら か に 反
するものである。
そ れ 故 、 平成 17 年 10 月 31 日 、 稲 嶺 知事 は 、 俄 か に出 現
した辺野古沿岸L字型案は容認できないとのコメントを発
表 し 、 当 該 案 の 受 け 容 れ を拒 否 し た 。 県 議 会 は平 成 17 年 12
月 16 日 に 「 沖 縄 県 の 米 軍基 地 に 関 す る 意 見 書」 を 全 会 一 致
で可決して新たな案に対する反対の意思を表明した(なお、
以 降 、県 議 会 で は辺 野 古 移設 計 画 に 反 対 す る 決議 を 度 々 可 決
している)。
平 成 18 年2 月 4 日 、 岸 本 市 長 は「 日 米 安 全 保 障 協 議 委員
会 で 合 意 さ れ た 沿 岸 案 は 、滑 走 路 延 長 線 上 に 民 間 住 宅 が あ り 、
学 校 等 が 近 在 す る な ど 、住 民 生 活 へ の 影 響 を 考 え て も 論 外 で
ある。」「これまでの経緯に鑑みても、沿岸案については、
77
到 底 、受 け 入 れ る こ と が 出 来 な い 。」と コ メ ン ト し や は り 沿
岸 案 を 拒 絶 し た 。こ の 岸 本市 長 の コ メ ン ト は 、沿 岸 案 が 如何
に沖縄県の頭越しに決められたものであるかを端的に表現
するものである。
( ウ ) 島 袋 名 護 市 長 の 公 約 と 基 本 合 意 書の 締 結
岸 本 名 護 市 長の 体 調 不 良 に よ る 退任 ( そ の 後 平 成 18 年3
月 に 逝 去 )を 受 け て 行 わ れた 名 護 市 長 選 挙 で は 、「 岸 本 市 長
と 同 様 、沿 岸 案 の バ リ エ ー シ ョ ン で は 受 け 入 れ ら れ な い 」と、
沿岸案及び沿岸案の修正を拒絶することを公約に掲げた島
袋 吉 和 氏 が 名 護 市 長 に 当 選し た 。
に も か か わ らず 、政 府 は 県 民・市 民を 全 く 顧 み る こ と な く 、
交 渉 を 進 め 、島 袋 市 長 は 、当 選 か ら わ ず か 3 か月 後 の 平成 18
年 4 月 に 、L 字 型 案 か ら 滑走 路 を 1 本 増 や し てこ れ を V 字 型
に 設 置 す る 現 行 案 を 前 提 とし て「 普 天 間 飛 行 場代 替 施 設 の 建
設 に 係 る 基 本 合 意 書 」 を 締結 し た 。
国 土 交 通 大 臣は 、以 上 の経 緯 に つい て 、度 々「 平 成 8年 か
ら の 積 み 重 ね 」 、 「 平 成 14 年 か ら は辺 野 古 が既 定 路 線 」 等
として、辺野古沿岸の埋立工法によるV字案が、あたかも、
平 成 11 年 に 稲 嶺知 事 及 び岸 本 市 長 の 受 入 れ 表明 に 基 づ い て
検 討 さ れ て い た 海 上 案 と 連続 的 な 内 容 で あ り、こ れ を 島 袋市
長 が 受 け 入 れ た か の 様 な 主張 を 展 開 す る 。しか し な が ら 、既
に 述 べ た 様 に 、軍民 共 用 案が 辺 野 古 集 落 か ら 2.2 キ ロ メー
ト の 沖 合 に 基 地 を 建 設 す るも の で あ る の に 対 して 、沿 岸 L字
型 案 な い し V 字 型 案 は 、大 浦 湾 内 の 大規 模 な 埋立 を 伴 い 、か
つ 、辺 野 古 集 落 と1 .1キ ロ メ ー ト ルの 距 離 に基 地 を 設 置 す
るものである。
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ま た 、飛 行 経 路 と の 関 係 で 言 え ば 、沿 岸 V 字 型案 に お ける
A 滑 走路 を 使 用 し た 場 合、安 部 集 落と 380 メ ー トル に ま で 近
接 す る。そ の 上 、A 滑 走 路 と 同 様 に B 滑 走 路 に場 周 経 路 を設
定 し た場 合 、住 宅 地 域 に 極め て 接 近 す る と 考 えら れ る に も か
か わ らず 、B 滑 走 路 に つ い て は「 米 軍 の 運 用 」を 持 ち 出 し て、
場 周 経路 さ え 設 定 し な い と い う 不 自 然 な 内 容 であ る 。
更 に 、 衆 議 院 議 員 照 屋 寛 徳 議 員 に よ る 平 成 18 年 4 月 21
日 付 け「 普 天 間 基 地 移 設「 沿 岸 案 」修 正 合 意 に 関 す る 質 問主
意 書 」に お け る「 基 本 合 意に 基 づ く 埋 立 面 積 は い く ら か 、中
間 報 告「 沿 岸 案 」の 埋 立 面積 と 比 べ て 概 算 で どれ だ け 埋 立 面
積 が 増え る の か 、こ れ に よっ て 失 う 藻 場 面 積 はい く ら か 明 ら
か に した 上 で 、政 府 の 見 解を 示 さ れ た い 。」と の 質 問 に 対 す
る 答 弁に お い て 、時 の 内 閣総 理 大 臣 小 泉 純 一 郎が 、「 基 本 合
意 書 に 示 さ れ た 代 替 施 設 に 係 る 工 法 に つ い て は 、埋 立 て か ど
う か を 含 め 現 時 点 に お い て 決 定 さ れ て い な い 。」と 述 べ てい
る。
こ の 様 に 、現 行 沿 岸 V 字 型 案 は 、そ れ ま で の 経緯 を 無 視し
て 突 如と し て 現 れ た 異 質 なも の で あ る に も か かわ ら ず 、基 本
合 意 書は 、「 岸 本 市 長 と 同 様 、沿 岸 案 の バ リ エ ー シ ョ ン で は
受 け 入 れ ら れ な い 」こ と を掲 げ て 当 選 し た は ずの 島 袋 市 長 が、
当 選 から わ ず か 3 か 月 、工 法 の 決 定 も さ れ て いな い ま ま に 締
結 さ れた も の で あ っ て 、到 底 民 意 に 応 え た も のと は 言 え な い
の で ある 。
イ
平成 11 年 閣 議 決 定 の 一 方 的 廃 止
平成 18 年 5 月 1 日 に は 、
「 2 + 2」で 米 軍 再編 協 議( DPRI)
の 最 終 報 告「 再 編実 施 の ため の 日 米 の ロ ー ド マッ プ 」が 合意
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さ れ 、「 沿 岸 V 字型 案 」は こ の 中 で 提示 さ れ る形 で 日 米 間 に
おいて承認された。
平成 18 年 5 月 1 日 の 合 意内 容 に つ い て 、当 時 の 稲嶺 知 事 は、
平 成 18 年 5 月 4 日 に 発 表し た 知 事 コ メ ン ト に お い て 、 「 普天
間 飛 行 場 の 移 設 に 係 る 新 たな 合 意 案 に つ い て は 、海 兵隊 の 県外
移 転 と い う 県 の 基 本 的 な 考え 方 と も 異 な る こ とや 、こ れ ま での
経 緯 を 踏 ま え れ ば 、既 に 明 ら か に し た よ う に 沖縄 県 と し て は容
認 で き ま せ ん 」 と し た 。 また 、 同 年 5 月 11 日 に 稲嶺 知 事 と額
賀 防 衛 長 官 が 締 結 し た「 基 本 確 認 書」に つ い ても 、額 賀 防衛 長
官 と の 共 同 記 者 会 見 に お ける「 こ の 確 認 書 を もっ て 、いわ ゆ る
辺野古崎にV字滑走路を造る計画について合意したと受け止
め て よ ろ し い で し ょ う か 」と の質 問 に 対 し て 、「 い い え 、全く
違 い ま す 。( 中略 )事 業 の 実 行 可 能 性 に 留 意 して 対 応 す る とい
う こ と が 一 つ の 考 え 方 で ござ い ま す し 、 そ れ に基 づ き ま し て 、
今 後 、誠 意 をも っ て 継 続 的 に 協 議 を す る も の であ る と い う こと
です。」としている。
し か し な が ら 、政 府 は 更 に強 硬 に 、平成 18 年 5 月 30 日 に「 日
米 軍 の 兵 力 構 成 見 直 し 等 に関 す る 政 府 の 取 組 に つ い て 」を 閣議
決 定 し 、 「 普 天 間 飛 行 場 の移 設 に つ い て は 、 平 成 18 年 5 月 1
日に日米安全保障協議委員会において承認された案を基本と
し て 、( 中 略 )早 急 に 代 替 施 設 の 建 設 計 画 を 策定 す る も の とす
る 。 」 と し 、 こ れ に 伴 い 、平 成 11 年 閣 議 決 定 を 一 方 的 に 廃止
した。
こ の 閣 議 決 定 に 対 し て、稲 嶺 知 事 は 、「 県 や 地元 関 係 市 町村
との事前の十分な協議はなされないまま閣議決定がなされた
こ と は 極 め て 遺 憾 で あ る」と し 、また 、名 護 市長 も 同 閣 議 決定
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に 対 し 、「 閣 議決 定 の 内 容は 、名 護 市の 考 え 方を 十 分 反 映 し た
内 容 と は 言 え ず 、納 得 の い く も の で は な い と 考 え て お り ま す 。」
との見解を表明している。
平 成 11 年閣 議 決 定 は 、 当時 の 沖 縄 県 知 事 と 名護 市 長 の 意見
を 踏 ま え 、受 入 れ の 前 提 条 件 で あ る 使 用 期 限 や軍 民 共 用 空 港と
し て の 利 用 を ふ ま え た 重 要な 閣 議 決 定 で あ る 。こ の 様な 重 要な
閣議決定を沖縄県と何らの協議もなくして一方的に廃止する
こ と は 、 沖 縄 県 民 無 視 も 甚だ し い 行 為 と 言 わ ざる を 得 な い 。
⑸
沖縄県民の明確な拒絶の意思
以上述べたように、辺野古移設に係る動向は政府による民意無
視のものであって、これに対して、沖縄県民は明確な拒絶の意思
を 示 す。
す な わ ち 、 平成 18 年 12 月に は 、 沖 縄 県 知 事選 が 行 わ れ 「 現 行
案のままでは賛成できない」として政府案の再考を求める立場の
仲 井 眞知 事 が 当 選 し 、 平成 20 年 6 月の 沖 縄 県議 会 議 員 選 挙 で は、
辺 野 古案 に 反 対 を 公 約 と する 候 補 が 県 議 会 議 席過 半 数 を 占 め 、同 7
月 の 県議 会 で 辺 野 古 案 に 反対 す る 内 容 の 決 議 がな さ れ た 。 平 成 21
年8月の衆議院議員総選挙でも、全選挙区において辺野古移設に
反対する議員が当選する一方で、辺野古移設を容認する候補者は
全 て 落選 し た 。平成 22 年 1 月 の 名 護 市 長 選 挙で は 辺 野 古 移 設 反 対
を掲げた稲嶺進名護市長が当選を果たし,同年9月の名護市議会
議員選挙では、辺野古移設に反対派が過半数を獲得し、更に、同
年 11 月 の 県知 事 選 挙 に お い て は 、「一 日 も 早い 普 天 間 基 地 の 危 険
性の除去を実現します」及び「『日米共同声明の見直し、県外移
設の実現』を強く求めていきます」と公約に掲げた仲井眞知事が
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再 選 を果 た す 。
本 件 埋 立 承 認 後 も 、 平成 26 年 12 月 9 日 の 沖縄 県 知 事 選 で 被告
が 仲 井眞 前 知 事 を 圧 倒 的 な差 で 降 ろ し、同年 12 月 14 日 の 第 47 回
衆議院選挙でも、普天間基地の県内移設反対を掲げる候補者が4
つ の 選挙 区 す べ て で 当 選 し、更 に 、平成 28 年 6 月 5 日 の 沖 縄 県 議
会 議 員選 挙 、同 年 7 月 10 日 参 議院 選 挙 に お い て も 民 意 が 示 さ れ た。
その結果、全国的には自由民主党が衆参の過半数を保持している
現状においてすら、沖縄県の選挙区選出議員は誰一人いないとい
う 、 国家 と 地 方 の 重 大 な 歪み 、 捻 れ を 生 じ さ せて い る の で あ る 。
こ の 様 に 、沖 縄 県民 は 沿 岸V 字 案 の 発 表 と 平成 11 年閣 議 決 定 の
一 方 的撤 回 以 降 、辺 野 古 移設 を 明 確 に 拒 絶 し てい る も の で あ っ て、
一 度 たり と も こ れ を 受 け 入れ た こ と は な い の であ る 。
以上の様な経緯に鑑みれば、「受け入れの前提条件が取り消さ
れた以上、沖縄側が辺野古移設を受け入れていると主張するのは
正 当 性が な い 」 と い う 沖 縄県 の 主 張 は 明 ら か に 正 当 で あ る 。
⑹
結論
国 土 交 通 大 臣 は、稲 嶺 県 政 時に 沖 縄 県が 移 設 先 と し て 辺 野古 を
選 定 した こ と 等 を 挙 げ 、橋 本・モ ン デ ー ル 合 意及 び こ れ に 続 く S
A C O最 終 報 告 か ら 仲 井 眞前 知 事 埋 立 承 認 ま で の 17 年 間に お け
る 積 み重 ね に よ り 「 辺 野 古が 唯 一 」 と な っ た と主 張 す る 。
し か し な が ら 、こ れ ま で 述べ て き た 様 に 、平成 11 年に お け る稲
嶺知事及び岸本市長による受け入れ表明及び沖縄県による選定作
業 は 、 15 年使 用 期 限 、 軍民 共 用 な ど の 条 件 付 き の も の で あ る 。し
たがって、民間空港としての利用を前提として県土の発展に寄与
し、かつ、県民の資産となるべきことを前提とするものであって
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現在と全く前提が異なる状況で行われたことは明らかである。こ
の点、1号要件との関係でいえば使用期限付きで恒久的な県民財
産となるかどうかは極めて重要な要素であり、また、その設置位
置との関係でもこれを前提とした判断と前提としない判断は全く
異 な るも の で あ ろ う 。
また、環境面についても、沖縄県による選定作業は沖合海上案
を前提としており、この時点において騒音・低周波音について現
行案と比較出来るものではない。また、候補地として辺野古を挙
げてはいるものの、具体的な工法も未定の段階のものに過ぎず、
この点は環境影響評価手続き及び承認審査手続きにより、自然環
境・生活環境への影響が許容され得るものと評価されることが大
前提である。そうであるにもかかわらず、本件埋立承認申請は、
知事意見において「不可能」と断じられ、かつ、多数の補正を要
した(なお、この点について国土交通大臣は「多数の補正に対応
した」などとこれを努力の様に主張するが欠陥を表明しているだ
けであることを理解すべきである。)上でなお、懸念が払拭でき
な い 程度 の 不 十 分 な も の なの で あ る 。
ま た 、国 土 交 通 大 臣 が「積 み 重 ね 」と評 する 17 年 の経 緯 を つ ぶ
さに見れば、稲嶺知事が受け入れを表明した軍民共用の沖合案の
環境影響評価手続きが始まっていたにもかかわらず、沖縄県民の
意 見 をふ ま え る こ と な し に政 府 間 で 辺 野 古 沿 岸案 を 合 意 し、か つ、
沿岸V字案決定後、国は県との十分な協議を経ずに、稲嶺知事及
び 岸 本市 長 の 意 思 を 反 映 した 平 成 11 年 の 閣 議 決 定 を 廃 止 し た も の
である。そして、その後、沿岸V字案は一切沖縄県民に受け入れ
られていないのであるから、到底、これが「積み重ね」と評する
こ と が出 来 る も の で な い こと は 明 ら か で あ る 。
83
むしろ、国土交通大臣の主張は、前提の全く異なる受入れ表明
及び選定作業をもって、沖縄県民に一切受け入れられていない沿
岸V字案の論拠として、意図的に混同あるいは合成して主張する
も の であ り 、 詭 弁 で あ る と言 わ ね ば な ら な い 。
以上のとおり、過去になされた意思決定は、現行案と全く異な
る前提条件やプロセスを経てなされたものであり、かつ、現行案
を沖縄県が承認したことはないということを考慮せずに、「辺野
古が唯一」であると主張することは極めて不当であり、何ら、合
理 性 ない も の で あ る 。
本件埋立承認取消処分を行うにあたって上記の経緯が制約にな
る と いう 国 土 交 通 大 臣 の 主張 は そ れ 自 体 失 当 であ る が 、これ ま で、
国が重ねて主張してきた平成8年以降の「積み重ね」とは、極め
て 空 虚な も の で あ り 、ただ 沖 縄 県 の 民意 に 反 して 基 地 負 担 を 20 年
にわたり押し付けて来た歴史でしかないのであって、それが違法
な 承 認処 分 を 存 続 さ せ る べき 根 拠 に な り 得 な いも の で あ る 。
4
小括
以上から、国交大臣が主張している取消制限を基礎づける事実
は、そもそもそのほとんどすべてが、本件承認処分を受けてこれ
による信頼によって発生、形成された事実や利益等ではなく、本
件承認処分以前の事実関係であるか、もしくは本件取消処分時に
も い まだ に 形 成 さ れ て い ない 将 来 の 利 益 の 主 張で あ る 。
取消制限法理が誤った行政処分の結果すでに発生した既成事実
をどう保護すべきかを論ずる議論であることを無視し、承認処分
そのものによる処分前後の包括的な利益を取消制限の根拠として
主 張 する 国 の 主 張 は 、同法 理 の 理 解 を根 本 的 に誤 っ た も の で あ る。
84
本件において、本件埋立承認前に承認が認められるかのような
公的見解が表示されたことはない。反対に、仲井眞前沖縄県知事
においても、環境影響評価手続において問題点があることを指摘
し 続 け 、環境 影 響 評 価 法第 24 条 に 基 づ く 知 事意 見 に お い て も「 事
業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不
可 能 と考 え る 」 と し て い たも の で あ る 。
そして、本件埋立承認取消前には本体工事には着手されておら
ず、本件承認取消処分に対する執行停止決定翌日に初めて工事着
手届出書が提出されたに過ぎず、本件承認処分から本件承認取消
処分までの間に、本件承認処分の取り消しを違法とすべき法律関
係 や 既得 権 な ど の 利 益 は ほぼ な い と い っ て よ い。
第6
結論
以 上 より 、本 件 埋 立 承 認 の職 権 取 消 し を 制 限 すべ き 事 情 は 存 在 せ ず、
むしろ、沖縄県知事は公益保護のために取消しをする責務があるもの
と い うべ き で あ る か ら 、 本件 埋 立 承 認 取 消 は 適 法 で あ る 。
以
85
上