ボールタッチからみたサッカーチーム戦略分析

ボールタッチからみた
サッカーチーム戦略分析
~J リーグ編~
立教大学社会学部三年
池田良太
加藤順代
唐木祐介
高橋謙一郎
村上正成
1
目次
1.
はじめに ..................................................................................................................... 3
2.
データの概要 .............................................................................................................. 3
3.
分析目的 ..................................................................................................................... 3
4.
分析方法 ..................................................................................................................... 3
5.
分析結果、考察~J1編~ ......................................................................................... 4
6.
5.1.
累積寄与率........................................................................................................... 4
5.2.
主成分分析........................................................................................................... 4
5.3.
クラスター分析.................................................................................................... 7
分析結果、考察~J2編~ ......................................................................................... 8
6.1.
累積寄与率........................................................................................................... 8
6.2.
主成分分析........................................................................................................... 9
6.3.
クラスター分析...................................................................................................12
7.
まとめ........................................................................................................................13
8.
参考文献・URL ......................................................................................................13
9.
付録 ...........................................................................................................................14
2
1. はじめに
現代サッカーにおいて一人の選手によって勝敗が決定されることは少なくなっている。
それは、サッカー戦術が以前より複雑化したこと、技術レベルの頭打ち、また科学技術に
よる戦術研究が高度かつ正確に出来るようになったことがあげられる。このような現代サ
ッカーにおいて、戦術、技術ともに世界のトップレベルと比べると発展レベルにある日本
の J リーグの場合ではどのような傾向が見られるのか。今回はクラスター分析を行うこと
で J リーグの特徴および、全30チームの特徴を明らかにするとともに戦術的な分析を目
的とした。
2. データの概要
今回の分析で用いるデータは、(株)データスタジアムから提供されたサッカーJ リーグの
2005年度全試合のプレーデータを使用する。
3. 分析目的
一般的にサッカーにはキープレーヤーとなる選手が2~3人存在する。一方、そのよう
なキープレーヤーをあえて設定せずに 11 人の出場選手全員でボールを運びゴールに至ろう
とする戦術を取っているチームも存在する。各チームの取る戦術はそれぞれではあるが、
戦術的に複雑化している現代サッカーにおいて主流となっている戦術とは何なのか、また
もっとも効果的な戦術とは何なのか。今回は J リーグ全チームに所属する各選手のボール
タッチ数に着目し各チームを戦術的に分類したうえで、以上の内容を検証していこうと思
う。
4. 分析方法
まず、元のデータから選手の具体的なプレーデータを抽出し、各選手のプレー回数をボ
ールタッチ回数としてカウントする。また各選手のボールタッチ数をチームごとにまとめ
ることで各チームの戦術的分類を容易にできるようにする。そしてそれらのボールタッチ
数を多い順に並べ、それを変数として、各チームを主成分分析、クラスター分析すること
で全チームの特徴を明確にし、戦術的に分類する。
3
5. 分析結果、考察~J1編~
まず、ボールタッチ数のデータを用いてJ1の全 18 チームの主成分分析、クラスター分
析を行っていこうと思う。
5.1.
累積寄与率
Relative Importance of Principal Components
200000
100000
Variances
300000
0.569
0.705
50000
0.799
0.909
0.937
0.956
0.97
0.979
0.986
Comp.6
Comp.7
Comp.8
Comp.9
Comp.10
0
0.865
Comp.1
Comp.2
Comp.3
Comp.4
Comp.5
図1:J1 累積寄与率
図 1 よりJ1累積寄与率を見ていくと第三主成分までで 80%近い数値を示しているため、
今回は第三主成分までを取り上げて分析すればいいということがわかる。
5.2.
主成分分析
次に、第一主成分、第二主成分、第三主成分それぞれで散布図を描き、視覚的に理解し
やすくしたうえで、散布図上で各チームを特徴付け、その特徴や戦術ごとに分類する。
4
清水エスパルス
500
横浜F・マリノス
サンフレッチェ広島
300
ヴィッセル神戸
Comp.2
川崎フロンターレ
100
ガンバ大阪
FC東京
柏レイソル
大宮アルディージャ
鹿島アントラーズ
大分トリニータ
アルビレックス新潟
-100
ジェフユナイテッド千葉
名古屋グランパス
-300
ジュビロ磐田
東京ヴェルディ1969 セレッソ大阪
浦和レッズ
-500
-1000
-500
0
500
1000
Comp.1
図 2:第一主成分と第二主成分の散布図
500
横浜F・マリノス
名古屋グランパス
東京ヴェルディ1969
300
清水エスパルス
100
大分トリニータ
Comp.3
セレッソ大阪
ジュビロ磐田
サンフレッチェ広島
ジェフユナイテッド千葉
-100
ガンバ大阪
鹿島アントラーズ
アルビレックス新潟
柏レイソル
ヴィッセル神戸
FC東京
大宮アルディージャ
浦和レッズ
-300
川崎フロンターレ
-500
-1000
-500
0
Comp.1
図 3:第一主成分と第三主成分の散布図
5
500
1000
500
横浜F・マリノス
名古屋グランパス
東京ヴェルディ1969
300
清水エスパルス
大分トリニータ
Comp.3
100
セレッソ大阪
ジュビロ磐田
ジェフユナイテッド千葉
サンフレッチェ広島
アルビレックス新潟
鹿島アントラーズ
FC東京
柏レイソル
ガンバ大阪
-100
ヴィッセル神戸
大宮アルディージャ
浦和レッズ
-300
川崎フロンターレ
-500
-400
-200
0
200
400
600
Comp.2
図 4:第二主成分と第三主成分の散布図
図2・3・4から第一主成分は非常に単純で、ボールタッチ回数の多い「ガンバ大阪」、
「東
京ヴェルディ1969」、「ジェフユナイテッド千葉」などのチームの得点が小さい。反対
に「ヴィッセル神戸」、「柏レイソル」、「アルビレックス新潟」などボールタッチ回数の少
ないチームの得点は大きくなっていることがわかる。
また第二主成分は中盤から下、特にDFのボールタッチ回数の多い「横浜Fマリノス」、
「清水エスパルス」などのチームの得点が大きく、逆に「浦和レッズ」、「セレッソ大阪」
といった中盤から前で積極的に守備をしてDFがあまりボールにタッチしないようなチー
ムの得点が小さくなっていることが見て取れる。
第三主成分は「横浜Fマリノス」、「名古屋グランパス」といった特定の選手にボールを
あつめ、その選手を攻撃の起点としたサッカーを展開しているチームの得点が大きく、「川
崎フロンターレ」、「浦和レッズ」のような出場選手全員がポジションチェンジをするなど
柔軟で流動性のあるバランスのよい攻撃を仕掛けているチームの得点は小さくなっている。
以上から主成分得点によるJ1全18チームの特徴や戦術は明らかになってきたように
思われる。
6
5.3.
クラスター分析
つぎはさらに細かく分類分析するためにクラスター分析を用いて、各チームの特徴や戦
術を明らかにしていこうとおもう。
フ
ユ
ナ
イ
テ
鹿
島
ア
ン
ト
ラ
東
京
ヴ
ズ
1
9
6
9
ド
千
葉
ル
デ
柏
レ
イ
ソ
ル
ア
ル
ビ
レ
ク
ス
新
潟
大
分
ト
リ
ニ
ー
ジ
ジ
ィ
広
島
大
宮
ア
ル
デ
ー
チ
ガ
ン
バ
大
阪
ッ
サ
ン
フ
レ
ッ
図 5:J1
清
水
エ
ス
パ
ル
ス
ャ
横
浜
F
・
マ
リ
ノ
ス
ィー
レ
F
C
東
京
ェ
ー
川
崎
フ
ロ
ン
タ
ッ
ズ
名
古
屋
グ
ラ
ン
パ
ス
ェ
ッ
ソ
大
阪
浦
和
レ
タ
ヴ
ィッ
ッ
ビ
ロ
磐
田
セ
レ
ェ
ュ
ジ
セ
ル
神
戸
階層型クラスタリング
図5のように、ボールタッチ数を変数としてクラスター分析した結果、大きく三つのク
ラスターに分類することができた。今回はから第一クラスター、第二クラスター、第三ク
ラスターと名づけることとする。第一クラスターに分類されたチームはカウンタータイプ、
第二クラスターではポゼッションタイプ、第三クラスターはその他で分類される。
第一クラスターに分類されたカウンタータイプのチームで代表的なチームは「浦和レッ
ズ」、
「セレッソ大阪」、
「FC東京」であり、優秀なFWを擁しているので手数をかけずにシ
ュートにいたる戦術を取っている傾向がある。これらのカウンタータイプのチームは全体
7
としてFWのタッチ数が多く中盤をあまり経由することなく早く前線にボールを運ぼうと
いうチームの意図が見て取ることができる。
一方、第二クラスターに分類されたポゼッションタイプのチームで代表的なチームは「ガ
ンバ大阪」、「ジェフユナイテッド千葉」、「鹿島アントラーズ」であり、カウンタータイプ
のチームとは異なり中盤で多くのパスをまわし、ゆっくりと攻撃を仕掛けるチームが多く
分類された。ポゼッションタイプのチームはDF、MFが中盤で多くのパス交換をするな
かで、相手の守備を崩していこうとする戦術なので必然的にDF、MFのボールタッチ数
は多くなる。したがってDFやMFにテクニックに優れた選手を配しボールキープ率を高
めようという戦術を嗜好していることがわかる。
第三クラスターに分類されたチームはカウンター、ポゼッションどちらとも言いがたく
最終的な成績も芳しくなかったチームが分類された。これらのチームは全体としてボール
タッチ数が少ないので、90 分を通して相手に攻められることが多く自分たちでボールキー
プすることが少なかったので、攻撃に転じる機会も当然限られてしまい、結果的に良い成
績は残せなかったことが明らかになった。
6. 分析結果、考察~J2編~
次にJ1編と同様の手順でJ2編の分析、考察を行っていこうとおもう。
6.1.
累積寄与率
0.668
300000
200000
100000
0.8
0.888
0.934
0.956
0.971
0.981
0.99
0.995
0.999
Comp.5
Comp.6
Comp.7
Comp.8
Comp.9
Comp.10
0
Variances
400000
500000
600000
Relative Importance of Principal Components
Comp.1
Comp.2
Comp.3
Comp.4
図6:J2
累積寄与率
8
図6よりJ1編と同様に累積寄与率を見ていくと第三主成分までで 80%近い数値を示し
ているため、J2編でも第三主成分までを取り上げて分析すればいいということがわかる。
6.2.
主成分分析
次に、第一主成分、第二主成分、第三主成分それぞれで散布図を描き、視覚的に理解し
やすくしたうえで、散布図上で各チームを特徴付け、その特徴や戦術ごとに分類する。
水戸ホーリーホック
600
200
京都パープルサンガ
モンテディオ山形
横浜FC
サガン鳥栖
ヴァンフォーレ甲府
Comp.2
ザスパ草津
コンサドーレ札幌
湘南ベルマーレ
-200
徳島ヴォルティス
ベガルタ仙台
アビスパ福岡
-600
-1500
-1000
-500
0
500
Comp.1
図7:第一主成分と第二主成分の散布図
9
1000
1500
京都パープルサンガ
400
ヴァンフォーレ甲府
Comp.3
200
コンサドーレ札幌
徳島ヴォルティス
ザスパ草津
0
アビスパ福岡
横浜FC
湘南ベルマーレ 水戸ホーリーホック
ベガルタ仙台
-200
サガン鳥栖
-400
-600
モンテディオ山形
-1500
-1000
-500
0
500
1000
1500
Comp.1
図8:第一主成分と第三主成分の散布図
京都パープルサンガ
400
ヴァンフォーレ甲府
Comp.3
200
コンサドーレ札幌
ザスパ草津
徳島ヴォルティス
0
アビスパ福岡
-200
横浜FC
水戸ホーリーホック
湘南ベルマーレ
ベガルタ仙台
サガン鳥栖
-400
モンテディオ山形
-600
-600
-400
-200
0
200
Comp.2
図9:第二主成分と第三主成分の散布図
10
400
600
図7・8・9から第一主成分は優秀な選手を多く擁し、チーム全体のボールタッチ回数が
多い「京都パープルサンガ」、「モンテディオ山形」、「ヴァンフォーレ甲府」などのチーム
の得点が大きい。反対に「横浜FC」、「ザスパ草津」など戦力的に乏しく、守備に追われ
る機会が多くボールタッチ数の少ないチームの得点は低くなっていることがわかる。
また第二主成分は中盤から下、特にFWのボールタッチ回数の多い「アビスパ福岡」
、
「ベ
ガルタ仙台」などのチームの得点が小さく、逆に「水戸ホーリーホック」のようなFWが
あまり攻撃に絡まないチームの得点が大きくなっている。
第三主成分は「京都パープルサンガ」、「ヴァンフォーレ甲府」などの各ポジションに核
となる選手を配し、その選手を中心にしたサッカーを展開しているチームの得点が大きく、
「モンテディオ山形」のような出場選手全員がバランスよくボールタッチすることでフィ
ールドを幅広く使っているチームの得点は低くなっている。
以上から主成分得点によるJ2全12チームの特徴や戦術は明らかになってきた。
11
6.3.
クラスター分析
J1編と同じく、さらに細かく分類分析するためにクラスター分析を用いて、J2各チ
ームの特徴や戦術を明らかにしていこうとおもう。
ヴ
ー
コ
ン
サ
ド
横
浜
F
C
サ
ガ
ン
鳥
栖
ザ
ス
パ
草
津
ベ
ガ
ル
タ
仙
台
水
戸
ホ
リ
ッ
レ
ス
レ
札
幌
ア
ビ
ス
パ
福
岡
ー
ー
ル
テ
ィ
オ
山
形
湘
南
ベ
ル
マ
ー
徳
島
ヴ
ォ
レ
甲
府
モ
ン
テ
デ
ィ
ン
フ
ォー
プ
ル
サ
ン
ガ
ァ
ー
京
都
パ
ホ
ク
図10:J2
階層型クラスタリング
図10のようにJ2でもJ1編と同様に大きく三つのクラスターに分類することができ
た。今回も左から第一クラスター、第二クラスター、第三クラスターとして考察していこ
うとおもう。
第一クラスターには最終的に好成績を残した「京都パープルサンガ」、「ヴァンフォーレ
甲府」が分類されているのに対し、第三クラスターには成績不振で下位に低迷してしまっ
12
た「水戸ホーリーホック」、「ザスパ草津」、「横浜FC」が分類されている。また、第二ク
ラスターには「アビスパ福岡」、「徳島ヴォルティス」など戦術的にカウンターを得意とす
るチームが多く分類される結果となった。
7. まとめ
以上よりJ1全18チームとJ2全12チームを分類することができた。J1とJ2で
分析結果、特にクラスター分析の部分で違いが見られたが、これはJ2ではJ1と比較し
て全体的に技術的、戦術的なレベルが低いので個人能力の差が成績や戦術に大きく影響を
及ぼしているからであると考えられる。したがって、ボールタッチ数という各選手の単純
で具体的なプレーデータを基にした分析を行った場合、戦力差があまりにも大きいとJ2
編のような単純なクラスタリングになってしまうことが示された。したがって今回のデー
タに得点、失点、シュート数、パス数、センタリング数などの詳細なプレーデータを組み
込んで分析すればより明確な戦術的分類が可能になったとおもわれる。
今回は Visual Mining Studio を利用したが、データと分析ツールをテーブル上でつない
でいく手法は分析のプロセスが視覚的に理解しやすくなっていたのでとても利用しやすい
という点が Visual Mining Studio の特徴であり最大の長所であると分析の過程で実感でき
た。
8. 参考文献・URL
(1)W.N.ヴェナブルズ・B.D.リプリー
「S-PLUSによる統計解析」
シュプ
リンガー・フェアラーク東京(2001)
(2)渋谷政昭・柴田里程 「S によるデータ解析」共立出版株式会社(1992)
(3)植田政美 「AccessVBA/関数パーフェクトマスター」 株式会社
秀和システム(2
003)
(4)Jリーグ公式ホームページ(http://www.j-league.or.jp/)閲覧日10月27日
13
9. 付録
チーム名
第一主成分
第二主成分
第三主成分
ガンバ大阪
-1151.09679
108.6968591
-122.9653783
浦和レッズ
-57.92229349
-399.4610449
-235.2245591
233.1010871
67.22855047
-113.3617992
鹿島アントラーズ
-410.0534771
-45.33721651
-101.3327848
ジェフユナイテッド千葉
-600.3415539
-191.0617983
-34.15375427
セレッソ大阪
-77.55989037
-321.3603693
78.84234832
ジュビロ磐田
-70.7270939
-321.111139
14.73449449
サンフレッチェ広島
-719.6276188
334.5132903
-25.55192904
川崎フロンターレ
-102.4010266
203.9992576
-456.8905001
大分トリニータ
857.5356905
-92.54327826
156.231926
アルビレックス新潟
967.4384357
-129.9646264
-96.56119323
大宮アルディージャ
-209.8319697
-10.16659836
-200.4782496
名古屋グランパス
347.9543871
-237.3784656
392.3156684
清水エスパルス
91.53980262
554.5074666
180.2263107
800.558135
9.242617962
-121.3172984
-574.2699588
-325.9488924
379.9438922
ヴィッセル神戸
774.482546
327.3405739
-159.1216197
横浜F・マリノス
-98.77841092
468.8048131
464.6644255
FC東京
柏レイソル
東京ヴェルディ1969
図11:J1主成分分析スコア
チーム名
第一主成分
第二主成分
第三主成分
ヴァンフォーレ甲府
-637.772532
81.407941
330.9659706
ベガルタ仙台
533.9331635
-533.9127703
-158.8616099
モンテディオ山形
-1352.018487
225.7284925
-571.709408
コンサドーレ札幌
18.37047445
32.83877453
194.7886285
湘南ベルマーレ
-288.5656019
-129.1163946
-145.1203498
サガン鳥栖
678.5185694
83.31986775
-229.5382621
徳島ヴォルティス
94.96499179
-455.0999608
180.522171
水戸ホーリーホック
314.4394904
608.9443488
-125.9995789
横浜FC
854.6196385
204.4362994
-82.50979702
1295.95292
186.6833253
180.2001755
-433.010434
-536.1731375
-71.32866393
-1079.432193
230.943214
498.5907241
ザスパ草津
アビスパ福岡
京都パープルサンガ
図12:J2主成分分析スコア
14