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~ Series Gerontology ~
「高齢者マーケットの切り口 -QOL-(第2回)」
オルフェウスコンサルティング株式会社
代表取締役社長 沢部 浩久
(前(株)リサーチ・アンド・ディベロプメント 代表取締役副社長)
1.高齢者の就労について
前回は高齢者マーケットへの取り組みとしての「高齢者CORE調査」(トライアル調査)の調査
概要と結果の一部(生活満足度)についてご紹介しましたが、今回は就労に関するデータを
ご紹介します。
現在の日本の労働力人口は6,657万人、労働力人口に占める65歳以上の割合は7.8%(2006年
時点、総務省「労働力調査」)であり、2030年には同6,109万人、9.9%(雇用政策研究会,2005年
推計値)になると予測されています。但し、これは各種施策を講じることにより、より多くの
高齢者が働くことが可能となったと仮定したケースでの推計値であり、性・年齢別の労働力率が
2004年実績と同じ水準で推移すると仮定したケースでは同5,597万人、9.0%となり、労働力
人口は約1,000万人も減少することになります。少子・高齢化は、人口減少と同時に労働力の
大幅な低下をもたらすことが社会的・経済的問題であるのです。果たして、高齢者の就労を
どのように考えていくべきなのでしょうか。
2.高齢者の就労状況
(1)前期高齢者(郵送調査)
近年の雇用延長に対する政策的な指導も有ることから60代前半の就労率は男性で85.6%
と高く、60代後半でも過半数は何らかの仕事をしています。女性は60代前半で46.9%の就業率
でありますが、60代後半、70代前半と年齢が高くなるにつれ男性の就業率に接近しています。
(図1参照)
◆図1.就労の状況
〔男性〕
(n= )
〔女性〕
就労
60~64才(97)
65~69才(91)
70~74才(67)
非就労
85.6
51.6
35.8
14.4
48.4
64.2
1
(%)
非就労
就労
(98)
(97)
(74)
46.9
37.1
27.0
53.1
62.9
73.0
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就労の内容をみると、男性60代前半では正社員から嘱託社員契約若しくは契約社員に移行
した人が多いと推察されます。60代後半ではこれらの割合は低くなりパート・アルバイトが
就労者の半数近くを占めています。男性70代前半では商工自営に従事する人が最も多くなって
います。(表1参照)
これに対して女性はパート・アルバイトが多いのですが、70代になっても正社員、契約社員
として就労している人が少ないながらも存在している点は男性と異なっています。また、商工
自営及び家業手伝いに従事している人は年齢に係わらず一定割合存在しています。
前述した(図1でみた)年齢と就労率の関係で、男性に比べて女性の就労の“歩留まり”が高い
のは、この就労内容によるものと考えられます。
◆表1.就労内容(職業)
*非就労者を含む全体ベース (n= )
パート・
アルバイト 商工自営
正社員
契約社員
21.6
2.2
男
性
60~64才 (97)
65~69才 (91)
70~74才 (67)
12.4
3.3
-
11.3
5.5
1.5
女
性
60~64才 (98)
65~69才 (97)
70~74才 (74)
6.1
1.0
2.7
1.0
1.0
2.7
嘱託
家業
手伝い (%)
-
11.3
23.1
10.4
12.4
11.0
17.9
-
-
22.4
18.6
5.4
7.1
7.2
2.7
4.1
4.1
6.8
注)主要な職業のみ示した
就労者に「何歳くらいまで働きたいですか」と実数で聞いた結果を5才刻みで整理したのが
表2です。各年代共に「あと5年くらい」を挙げる人が多いのですが、70才前半になると80才過ぎ
くらいまで或いは85才以降という回答も目立ち、「働けるだけ」と考えるようになっている
様子が窺えます。
◆表2.就労継続意向
*非就労者を含む全体ベース 65~69才 70~74才 75~79才 80~84才
(n= )
~64才
60~64才(97)
男
65~69才(91)
性
70~74才(67)
7.2
60~64才(98)
65~69才(97)
70~74才(74)
*
*
女
性
*
*
37.1
2.2
*
24.5
4.1
*
85才~
不明
(%)
非就労
35.1
35.2
1.5
5.2
9.9
16.4
2.2
9.0
1.1
1.5
1.0
1.1
7.5
14.4
48.4
64.2
16.3
25.8
1.4
1.0
5.2
9.5
1.0
5.4
1.4
5.1
1.0
9.5
53.1
62.9
73.0
次に、現在働いていない人に「仕事をしたいですか」という質問をしたところ、次ページ図2に
示すように年代が高いほど意向は低くなるものの男女それぞれ一定の割合で就労への意向が確認
されました。特に男性では70才前半でも非就労者の約1/3が仕事をしたいとの意向を示しました。
2
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◆図2.就労意向
*現在非就労者ベース
〔男性〕
したい したくない 不明
〔女性〕
(%)
したい したくない不明
(n=)
60~64才(14)
42.9
57.1
0.0
(52)
25.0
69.2
5.8
27.9
65.6
6.6
65~69才(44)
34.1
59.1
6.8
(61)
70~74才(43)
32.6
60.5
7.0
(54) 9.3
85.2
5.6
(2)後期高齢者(訪問面接調査)
後期高齢者の就労状況をみたものが図3ですが、70代後半で男女共それぞれ約2割前後の人が
働いています。因みに就労の内容(職業)は、男女共に商工自営及び家業手伝いが大半を占めて
いますが、女性70代後半でパート・アルバイトも3割前後存在しています。
また、後期高齢者で現在働いていない人の中にも、1割に満たない程度ですが「働きたい」と
考えている人が存在しています。(図4参照)
◆図3.就労の状況
〔男性〕
就労
非就労
〔女性〕
就労
非就労
(65) 21.5
78.5
(%)
(n= )
75~79才(62) 17.7
80才~(38) 7.9
82.3
(35) 11.4
92.1
88.6
◆図4.就労意向
*現在非就労者ベース
〔男性〕
したい
したくない 〔女性〕
(%)
したい したくない 不明
(n= )
75~79才(51) 7.8
92.2
(51) 9.8
80才~(35) 8.6
91.4
(31) 3.2
3
90.2
93.5
0.0
3.2
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3.就労状況からみた生活満足
(1)前期高齢者
前期高齢者を現在仕事をしている人としていない人に分けてそれぞれで生活総合満足度をみた
ものが図5です。男性では就労者が非就労者より生活満足のレベルが高くなっているのに対して、
女性では非就労者の方が満足レベルが高くなっています。
ここで更に経済的な満足意識という観点を加えてみたものが図6です。性別や就労に係わらず
経済的な満足度が高い人は生活にも満足しています。ところが経済的に不満である場合は生活に
満足している人としない人に二分されます。然しながら男性では、経済的な満足度が低い場合
でも就労者が非就労者に比べて生活に満足している割合が高い傾向にあります。
◆図5.就労状況別にみた生活総合満足度
〔男性〕
〔女性〕
※
満足 非満足 不満 不明
(%)
満足 非満足 不満 不明
(n= )
就労(154)
23.4
39.6
非就労(101)
19.8
47.5
31.8
5.2
31.7 1.0
就労(102)
17.6
非就労(167)
41.2
29.3
38.2
49.7
2.9
19.81.2
注)非満足:総合的にみた生活の満足度(7段階で聴取)で「まあ満足している」との回答
※
※
◆図6.就労状況別にみた経済満足度と生活総合満足度
〔男性〕
〔女性〕
経済不満
生活満足
経済満足
生活満足
経済満足
生活不満
就労(154)
非就労(101)
経済不満
生活不満
27.3 1.3
35.7
37.5
1.0 29.7
30.5
経済満足
生活満足
不明
5.2
30.7 1.0
就労(102)
非就労(167)
経済不満
生活満足
経済満足
生活不満
26.5 1.0 32.4
41.3
(%)
経済不満
生活不満
1.8
37.3
37.0
不明
2.9
18.01.2
注1)経済満足度:夫婦のみ(単身者は本人のみ)世帯は世帯年収、配偶者以外の同居家族が
居る世帯は同居家族全員の合計年収について、それぞれ7段階評価で満足度を聴取した後に
合成して、満足層及び不満層(中間回答含む)に分類している
注2)生活満足:総合生活満足度の「満足+非満足」を「生活満足」、それ以外を「不満」としている
(2)後期高齢者
同様に後期高齢者について、就労の有無によって生活総合満足度をみたものを図7(次ページ)
に示しました。就労者が非就労者に比べて生活満足のレベルが高い結果となっています。男女別
にみるにはサンプル数が少ないのですが、どうやら男女共に傾向は同様のようです。
また、経済的な満足意識を加味してみるとやはり就労に係わらず経済的な満足度が高い人は
生活にも満足しています。更に、就労者では非就労者に比べて、経済的な満足度が低い場合でも
生活満足のレベルが高くなっています。これは女性だけでみても同様の傾向であり、前述の前期
高齢者とは様子が若干異なっています。(次ページ図8参照)
4
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◆図7.就労状況別にみた生活総合満足度
〔男性〕
〔女性〕
満足 非満足 不満 就労(14)
非就労(86)
42.9
23.3
57.1
58.1
0.0
満足 非満足 不満 就労(18)
38.9
非就労(82)
18.6
(%)
50.0
28.0
11.1
54.9
17.1
◆図8.就労状況別にみた経済満足度と生活総合満足度
〔男性〕
〔女性〕
経済不満
生活満足
経済満足
生活満足
経済満足
生活不満
就労(14)
50.0
非就労(86)
51.2
経済不満
生活不満
0.0
7.0
50.0
30.2
経済不満
生活満足
経済満足
生活満足
0.0
11.6
経済満足
生活不満
(%)
経済不満
生活不満
就労(18)
61.1
5.6
非就労(82)
62.2
2.4 20.7 14.6
27.8
5.6
4.高齢者の就労“マーケット”
ここまで前期及び後期高齢者の就労の状況と意識についてデータの一部をご紹介しました。
65才を過ぎると(被雇用者としては)、実際には就労率が大きく落ち込みますが70代前半までは
「仕事をしたい」というニーズがかなりの割合で存在しています。(就労の状況などについては
総務省が実施している「就業構造基本調査」にも、本調査と同様の結果が記されています)
減少する労働力の提供、優れた技術やナレッジの伝承といった社会的要請という見地からも、
これまで以上に高齢者の就労を促進することが必要になるでしょう。
就労は、特に男性にとっては長い間現役で働き続けきたこともあり、更に働き続けたいという
ニーズにはかなり強いものが有ります。(勿論、人によって一様ではないでしょうが)女性ほど
地域社会とのつながりや職場以外の友人などとの交友関係を持っていないことも影響していると
考えられます。男性で就労者の方が非就労者より生活満足レベルが高いのはこの辺りの要因が
大きいものと推察されます。生活満足度に対しては経済的な側面が大きいことは、違和感はない
ものと思われますが、決してそれだけでないことも今回の調査結果から一端が覗けました。
「働けるうちはいつまでも」という就労意識が高いことは、伸び続けている老後の自立生活期間
が根底にあるものと考えられます。この期間のQOLを高める為にも就労をどのように位置づける
のかが政府(政策)も個人にも課題となってきている中で、就労への支援や機会創出に係わる
ビジネスチャンスも大きなものとなる可能性が有ると考えられます。
(2010年 4月 30日)
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