“今度こそ”オーストリアに緑の大統領が誕生 2016 年 12 月 4 日、オーストリア大統領選のやり直し決選投票が行われました。英国の EU 離脱、 米国のトランプ(次期)大統領誕生などで、排他的ポピュリズムが欧米を席巻する中で、既存政党 ではなく、リベラル対極右の一騎打ちとなった今回のオーストリア大統領選挙はかつてないほど世 界から注目されました。そして、開票の結果、オーストリア緑の党共同代表を務めたアレクサンダ ー・ファン・デア・ベレン氏(72)が、極右・自由党のホーファー氏(45)に勝利したことが明らかにな りました。いよいよ史上初の緑の党出身の大統領が誕生したことになります。 得票率は、都市部を中心に票を集めたベレン氏が 2,472,892 票で 53.79%、ホーファー氏は地方 を中心に 2,124,661 票で 46.21%、投票率は前回 5 月から 1.4%ポイント増え、74.21%でした。 ■5 月の勝利から一転、再選挙に 2016 年 5 月 22 日(日)、オーストリアの連邦大統領選挙(第二回投票/決選投票)がおこなわれ、 オーストリア緑の党共同代表を務めたベレン氏が僅差で勝利し第 9 代オーストリア大統領に・・・な るはずでした。しかしながら、開票の手続きに不備があったとして右翼政党自由党がオーストリア の憲法裁判所に異議を申し立てました。その結果、立会人が揃う前に前に集計を開始するなど、 郵便投票の手続きに不備が認められ、裁判所は大統領選をやり直すように命じ、今回の再選挙 が行われることとなりました。 前回の選挙結果の報告は下記リンク http://greens.gr.jp/world-news/17390/ ■今回の大統領選挙分析(SORA Institute for Social Research and Consulting) (1)地域 オーストリア国内の 2100 の自治体のうち、2053 の自治体においてベレン氏は、前回よりも得票率 を伸ばし、280 の自治体においては前回の結果を逆転しました。ベレン氏は特にウィーン、ザルツ ブルク、リンツ、インスブルクなどの都市部で強く、ウィーンの自治体においてはすべて得票数で ホーファー氏を上回りました。一方、多くの地方では、「緑の党は危険な極左翼分子である」という プロパガンタを自由党のメンバーが長年展開してきた影響も現れており、選挙結果もそれを反映 しているといえます。 (2)今回と前回の票の流れ 5 月におこなわれた選挙から今回の票の動きで興味深いのは、前回ホーファー氏に投票した 7 万 7 千票がベレン氏に流れたのに対し、ベレン氏からは 3 万票がホーファー氏に流れたのみになり ました。また、前回選挙にいかなかった有権者については、ベレン氏が 16 万 9 千票を掘り起こし たのに対し、ホーファー氏は 3 万 3000 票にとどまり、無関心層に対してもオーストリア緑の党の全 面的バックアップを受けたベレン氏が効果的に働きかけていたことが分ります。 前回大統領選挙から今回への票の流れ 参照:SORA Institute for Social Research and Consulting (3)支持層の違い それぞれの支持層では、56%の男性がホーファー氏に投票する一方で、62%の女性がベレン氏 に投票しています。ベレン氏が女性票によって勝利したことになります。30-59 歳の年齢層では比 較的ホーファー氏が多く票を獲得しており、若い世代はベレン氏に、特に 29 歳までの女性の割合 が 69%と多いのが特徴です。 有権者の最終学歴においても明らかな違いが浮かび上がりました。83%の大卒や 74%の Mutura(高校の卒業証明書のようなもの)所有者がベレン氏を支持する一方で、義務教育や技術 系の専門学校の後、工場などで働いている層はホーファー氏に投票しています。これは、労働形 態にも如実に表れていて、ブルーカラー層の実に 85%がホーファー氏に投票しており、彼の強い 支持基盤となっていることがわかります。 (4)大政党支持者の動き 今回の大統領選挙では、これまでオーストリアの政治を担ってきたオーストリア社会民主党や保 守系のオーストリア国民党ではなく、緑の党と右翼政党の争いとなり、これらの大政党支持者の 票の行方も注目されました。ここでもオーストリア社会民主党の支持者の 9 割がベレン氏に投票 する一方で、保守系のオーストリア国民党支持者がホーファー氏に投票したのは 45%にとどまり ました。これは現実となった英国の EU 離脱と、排他的ポピュリストの台頭に対して、一時的な心理 的なブレーキが働いていたのかもしれません。あるいは、移民出身のホーファー氏が選挙で訴え た「故郷」というキーワードも、信頼と懐の広さを有権者に感じさせたのかもしれません。 また、将来の生活水準について「良くなる」と楽観している人の実に 73%がベレン氏に投票し、悪 くなると悲観的な層の 70%がホーファー氏に投票したことが分ります。 ■ 希望は緑 オーストリアにおける緑の党出身の大統領誕生は大変うれしい出来事ですが、それを喜んでばか りいられません。投票行動の分析からも分るとおり、格差社会が欧州で深刻な状況を迎えており、 今回の選挙で将来の生活不安をもつ人々や経済の底辺層を取り込んだのは極右政党でした。ベ レン氏の勝利は女性、高学歴、オフィスワーカーや公務員、そして将来を楽観する人々に支えら れましたが、経済・社会状況が悪くなってくれば、更なる右傾化をまねく危険性もはらんでいます。 今回の大統領選挙において欧米の右傾化傾向にはっきりと「NO」というポジションで臨んだオース トリア緑の党ですが、右傾化の対抗軸として存在はますます大きくなっています。EU を支持し融和 をうったえるオーストリアの次期大統領が、今後どのようにウィングを広げて活動していくのか、オ ーストリア緑の党のメンバーとも情報交換をしながら、注視していきたいと考えています。
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