北海道機能性素材辞典(PDF形式/3575KB)

はじめに
昨今の厳しい経済情勢下、安定成長を続ける北海道の機
能性食品・化粧品産業。道内には、サケ、キノコ類、タマ
ネギ、ジャガイモ、海藻類などの豊富な天然資源を生かし、
機能性に富んだ食品素材を開発し、全国、世界に展開して
いるバイオ企業が多数存在します。
開発する食品素材は、産学官連携により、効果・効能、
安全性の科学的データを検証、蓄積しており、我が国の機
能性食品・化粧品メーカーの有力商材となっております。
このように、農林水産、食品等北海道の地域産業とのコ
ラボレーションを推進し、一次産品・素材のブランド力の
活用とエビデンスの充実により「北海道らしさ」をアピー
ルした機能性食品素材が全国・世界に展開されております。
また、北海道は薬用植物の栽培に適し、漢方薬原料の有数
の産地として知られています。今後は、医薬品だけではなく、
機能性食品や化粧品原料としての利用も期待されます。
本書は、
北海道の機能性を有する食品素材や薬用植物を、
機能性食品・化粧品メーカーや関連業界の方々に広くご紹
介することにより、素材流通、製造企業の販路の拡大を図
るとともに、道産食品素材の付加価値やブランド力の向上
を図るために発行しました。
本書が、道内バイオ産業の更なる発展の一助となれば幸
いです。
2
目 次
北海道産機能性素材辞典
~風土が育む豊かな天然資源に知恵と技術がプラス~
北海道の主な機能性素材リスト
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
北海道の主な機能性素材リスト・・・・・・・・・・3
水産物
機能性食品素材
主な有効成分
サケ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
小豆
イカ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
アスパラガス
アスパラギン酸、
グルタチオン、ルチン、
ビタミン
亜麻仁
オメガ3系脂肪酸、
リグナン、
カニ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
エイ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
ホタテ貝殻・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
海 藻 類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
農産物
タマ ネ ギ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
ジャガイモ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
ブドウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
アロニア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
シーベリー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
ハスカップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
キノコ類・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
亜麻仁・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
ハマナス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
カテキングルコシド、ルチン、
ビタミン、
コリン、サポニン
アロニア
アントシアニン、
β-クリプトキサンチン
イカ
コンドロイチン硫酸(E型)、
タウリン、
EPA、DHA
エイ(カスベ)
コンドロイチン硫酸、
コラーゲン
エミュー
鉄、
オレイン酸、
リノール酸
ガゴメコンブ
フコイダン、
ビタミン、
ミネラル
カニ
キトサン
カバノアナタケ
β-D-グルカン、
リグニン、ベツリン酸、
トリテルペン
カボチャ
リグナン、脂肪酸、
トコフェロール
唐松
アラビノガラクタン
ジアリルトリスルフィド、アリシン
ギョウジャニンニク メチルアリルトリスルフィド、
菌糸体培養抽出物
アセチル化α-グルカン
クマ笹
クマ笹多糖類
行者ニンニク・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
サケ
核酸、
コラーゲン、ペプチド、
コンドロイチン硫酸、
プロテオグリカン
ヤーコン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
シーベリー
オメガ7系脂肪酸、ポリフェノール
甜 菜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
ジャガイモ
ペプチド、
タンパク質、食物繊維
大 豆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
シソ
フラボノイドの配糖体(アピゲニン・ルテオリン)、
ロスマリン酸
カボチャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
白樺樹液
有機酸、
ミネラル
アスパラガス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
スジメコンブ
フコイダン
小 豆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
大豆
大豆イソフラボン、大豆タンパク、大豆レシチン、亜鉛
ダッタンソバ
ルチン、ケルセチン
クマ 笹・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
チコリー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
ナガイモ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
ゆりね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
シソ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
ハッカ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
薬用植物
概 要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
センキュウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
ダイオウ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
ハトムギ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
トウキ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
トリカブト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
その他植物
・・27
(カンゾウ、ゲンチアナ、カノコソウ、シャクヤク)
北海道生薬地図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
畜産物
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
プラセンタ(馬・豚)
タマネギ
ケルセチン、
ジプロピル トリスルフィド、硫黄化合物
タモギタケ
β-D-グルカン、
エルゴステロール、ペプチド
甜菜
オリゴ糖、食物繊維、
セラミド、ベタイン
チコリー
オリゴ糖、ポリフェノール
ナガイモ
ジアスターゼ、アミラーゼ、
ミネラル、
ビタミン
ハスカップ
ビタミンC、
α-トコフェノール(ビタミンE)、ポリフェノール
ハッカ
ハッカ油、
L
(-)
メントール、
L-カルボン
ハマナス
ビタミンC、ポリフェノール
ブドウ
レスベラトロール、
プロアントシアニジン
プラセンタ
必須アミノ酸、活性ペプチド、ムコ多糖類、
ビタミン、
ミネラル
ホタテ貝殻
カルシウム
ヤーコン
フラクトオリゴ糖、ポリフェノール、
ミネラル、アホエン
ゆりね
炭水化物、
ミネラル、
ビタミン、
霊芝
β-D-グルカン、
トリテルペン-ガノデリン酸類、
ミネラル
薬用植物
センキュウ
効能・効果
血行促進、鎮静、鎮痛
エミュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
ダイオウ
便秘解消、抗菌、抗炎症、止血
ハトムギ
神経痛、筋肉痛、関節痛などの改善
問い合わせ先/取材協力先一覧・・・・・・・・・31
トウキ
血行改善、鎮痛、鎮静
トリカブト
鎮痛、強心、血管拡張
3
サケ
DHA・EPA
コンドロイチン硫酸
コラーゲン(Ⅱ型)
プロテオグリカン
ヒアルロン酸
卵巣外皮
ペプチド
DHA・EPA
ビタミン E
アミノ酸
北海道の河口から沿岸部で獲れるサケはシロサケが最も多く、秋の味覚を代表する
重要な食材として古くから親しまれている。シロサケは寒流系の魚で、産卵のために故
郷の川に戻ってくるのが秋なので「秋サケ」とも呼ばれる。身はもちろんのこと、卵や白
子、頭、皮、内臓、
中骨、尾びれまで、捨てるところのない魚だ。
道産サケからは、白子由来の核酸、皮由来のコラーゲン、卵巣外皮由来のペプチド、
鼻軟骨由来のコンドロイチン硫酸やプロテオグリカンなど数多くの機能性素材が開発
されている。これらの機能性素材は、水産加工時に出る副産物を原料に使用するため、
水産廃棄物を減らすことにも貢献している。
サケ由来の機能性素材は、
日本人の馴染みの深い魚を原材料としていることから、消
費者の安心感を得られやすいという利点もあり、数多くの商品に採用されている。
核 酸
サケの白子から抽出し、
開発された機能 性素材が
核酸だ。白子は食用として
の需要が少なく、主に畜産
動物の飼料に利用されてい
た。 しかし、 白子 の主 成
分である DNA、核タンパク(ヌクレオプロテイン)
に注目し、 研 究 開 発を 進 めた 結 果、 高 分 子
DNA、塩基性タンパク質およびこれらを酵素分
解処理し低分子化したものなどの機能性素材が
開発され、サプリメントや化粧品などへの導入
が進んだ。核酸はビール酵母、大豆、ノリ、カ
ツオ節などにも含まれているが、サプリメントや
4
化粧品に用いられるのは、サケ白子由来の原料
が主流。ここ数年は、飲料需要が増えたことに
伴い、水溶性原料が供給量を伸ばしている。
これまでの機能性研究で、新陳代謝促進作用
や抗酸化作用のほか、脳機能改善や育毛効果
への有用性も報告されている。美容・美肌素材
として定着する中、脳サポート対応の食品や育
毛剤など新たな切り口の商品も開発されている。
このほか、ユニークなところでは、二重らせん
構造をもつ DNA を用いたダイオキシン類などの
有害物質集積技術を確立し、タバコやエアコン
などのフィルターに活用されるなど、工業用途で
の導入も進んでいる。
北海道産 機 能性 素材
コラーゲン
コラーゲンは、動物の体内に存在する線維状
のタンパク質で、生体内に広く存在し、特に皮
膚組織の真皮では 70%、また軟骨組織には 50
%と高い割合で含有する。現在、コラーゲン市
場を牽引するのは、美肌を中心とする美容効果
を目的とした製品で、美容サプリではナンバーワ
ン素材として君臨する。
サケ由来のコラーゲンでは、皮を利用して抽
出した純度の高い素材が開発されている。ほ乳
類由来のコラーゲンに比べ、アレルギー性が少
なく、新たな機能性も確認されている。低温で
の安定性、保水性、生体への馴染みやすさなど
の機能 性を持っている
のが特徴。変性温度は
17 ℃前後と、ほ乳類由
来のコラーゲンよりもか
なり低いのも特 徴の一
つ。現在、サプリメント
や化粧品のほか、代用
皮膚のラミネート材、止
血 剤などの 医 療 原 料、
凍結損傷防止効果をも
つ食品添加物、新しい食感のゼラチン食品など
幅広い用途で導入されている。
ペプチド
サケの筋子からイクラ
を作る際に廃棄物として
出る卵巣 外皮を酵 素分
解して得られるのがペプ
チド。動物由来のプラセ
ンタエキスと同様の機能
を兼ね備え、 グリシン、
ハイドロキシプロリンな
どは、動物由来よりも多
く含有している。
海洋性のプラセンタ様物質として人気が高まっ
ているほか、イスラム圏などでは宗教上の理由か
ら豚由来製品が敬遠されることから、代替品とし
ての利用も見込まれている。現在、サプリメント
やドリンク、
化粧品用途での商品化が進んでいる。
機能性研究では、脂肪蓄積予防効果、脂肪・
すい臓の機能低下抑制効果、抗毒性効果、チロ
シナーゼ活性阻害能、SOD 様活性、ACE 阻害
活性、抗糖尿効果、不定愁訴などに関する生理
活性の解明が行われている。現在は美容・美肌
市場での利用が中心だが、メタボリックシンドロー
ム対策に向けた商品への応用も期待されている。
コンドロイチン硫酸・プロテオグリカン
北海道では、産学官連携でサケの鼻軟骨から
抽出したコンドロイチン硫酸、Ⅱ型コラーゲン、プ
ロテオグリカンなどが開発されている。
サケの鼻軟骨由来のコンドロイチン硫酸は新し
い型で、特に分子構造はヒトに近いことが分かっ
ている。グルコロン酸とグルコサミンと同じ仲間の
ガラクトサミンの2糖が交互に連なっており、関節
訴求の素材として提案されている。
プロテオグリカンは、一般的にコアタンパク質に
数本から数 10 本の糖鎖(グリコサミノグリカン)
が共有結合した構造の複合糖質の一種で、動物
の皮膚、軟骨、血管などに広く存在する。特に軟
骨に存在するプロ
テオグリカンは、
その糖鎖のほとん
どがコンドロイチ
ン硫 酸 で、分 子
量 が 大きいのが
特 徴。非常に高
い保湿性を有しており、コラーゲンやヒアルロン酸
とともに軟骨を形成する重要な成分だ。主な用途
は、高い保湿効果によりエイジングケアが期待され
る化粧品、血流改善訴求のサプリメント、医薬品・
人工臓器などの一次原料や研究用試薬など。
5
イカ
軟体動物の頭足類に分類されるイカの種類は
約 450 種といわれ、このうち日本近海で 140 種
が確認されている。北海道沿岸ではスルメイカ
(マイカ)が最も多く漁獲され、ヤリイカやアカイ
カなども水揚げされる。
イカは低カロリー、低脂肪、高タンパクの食
材で、タウリン、EPA、DHAなどを含む。ナ
イアシン、ビタミンB群、ビタミンE、パントテン
酸のほか、カリウム、カルシウム、マグネシウム、
なども含む。またイカ墨にはリゾチームによる防
腐作用やメラニンによる抗腫瘍作用などが知ら
れており、さらにムコ多糖の一種であるタンパク
質複合体(プロテオグリカン)の抗腫瘍作用な
どさまざまな機能性研究が進められている。
イカ由来の機能性素材では、コンドロイチン
硫酸が注目されている。コンドロイチン硫酸は、
軟骨などに豊富に含まれるムコ多糖類の一種で、
関節軟骨に多く存在し、軟骨においてはヒアル
ロン酸やタンパク質との複合体であるプロテオグ
リカンを形成。大量の水を組織に保持し、組織
に留める保湿機能をはじめ、関節、靭帯などの
弾力性、円滑性を維持する役割を担っている。
年齢を重ねるにつれコンドロイチン生成能力が
低下するため、関節軟骨の機能も低下し、変形
性膝関節症につながるとされている。
コンドロイチン硫酸は、結合している硫酸基
の位置によって、A 型、B 型、C 型、D 型、E
型の5種類に分けられ、由来原料によってそれ
ぞれ多く含む型が異なる。イカ軟骨由来のコン
ドロイチン硫酸では、生理活性が高いといわれ
るE型コンドロイチンが注目されている。
カニ
キトサンは、カニ・エビやキノコなどに多く含
まれるキチンをアルカリ処理して得られる脱ア
セチル化合物で、グルコサミンがβ -1,4 結合し
た多糖類。農林水産省が 1982 年に 10 ヵ年計
画で実施した
「未利用生物資源バイオマス計画」
の中でキトサンに関する本格的な研究が始まっ
た。それ以降、血中コレステロールや中性脂肪
低減作用、血圧上昇抑制作用、腸内環境作用、
体内の不要物質を排出する解毒・排 毒作用、
免疫増強作用、細胞の活性化、抗菌・抗カビ
効果などの有効性が明らかとなり、1990 年代
にはダイエットブームで一大市場を築いた。
キトサンは分子量によって機能性が異なる。
高分子キトサンは、ダイエットや便通改善、血
圧上昇抑制作用、血中コレステロール低下など
メタボ関連のデータを蓄積しており、特定保健
用食品の関与成分にもなっている。低分子キト
サンは、水溶性の素材で、免疫増強作用や腸
6
内環境改善などを訴求する。中
分子キトサンは、高分子キトサン
と低分子キトサンの両方の機能
を併せもっている。
キトサンは生体親和性が高く、鎮痛効果、止
血効果、抗菌・抗ウイルス作用もあることから、
人工皮膚や止血剤などにも採用されている。
カニ由来のキトサンでは、北海道産ベニズワ
イガニから抽出した、pH 安定性が高い天然高
分子の素材が開発されている。安全性が高く、
ヒアルロン酸と同程度の保湿性、高い皮膜形成
能などの機能性を持っているのが特徴で、スキ
ンケア・ヘアケア用途での商品化が進んでいる。
北海道産 機 能性 素材
エイ
Ⅱ型コラーゲ
ンは関節軟骨や
北海道の一般家庭の食卓に上る海産魚の中 目の硝子体に多
で、ホッケ、サケ、タラ、カレイなどとともに人気 く存在し、軟骨
の高い魚がガンギエイ(地方名・カスベ)だ。エ 特有のクッショ
イ目ガンギエイ科の冷水魚で、北海道の宗谷沖 ンとして機能し、
などオホーツク近海で最も多く水揚げされる。 3 本 の α1( Ⅱ
通年にわたって漁獲されるが、
旬は 11 ~ 12 月。 型)鎖から構成される。Ⅰ型
主にヒレの部分を食用とし、北海道や青森・秋 コラーゲンが美容素材として
田など東北の一部で長い食経験をもつ。塩焼き、 不動の地位を築く一方で、体
煮付け、煮こごり、ムニエル、唐揚げなどの料 感性の良さや関節炎の発症抑制を中心とする豊
理法が一般的。骨の大半が軟骨のため、骨もま 富なバックデータ、コラーゲンとしての認知度の
るごと食べることができる。この軟骨に着目した 高さなどから、高齢者向けの“ポストグルコサミ
研究開発が産学官共同で進められ、コンドロイ ン”を狙う関節対応素材として需要が急増して
チン硫酸やコラーゲンなどの機能性素材が開発 いる。
機能性研究では、マウス試験で乳腺がんや
されている。
エイ軟骨由来のコンドロイチン硫酸にはⅡ型コ 大腸がんに対する抗腫瘍活性、皮膚の保湿性
ラーゲンや、高硫酸化コンドロイチン硫酸である 向上効果、脳神経細胞の伸長促進作用などが
DユニットとEユニットを豊富に含んでいるのが 確認されている。現在は、関節訴求のサプリメ
ント用途での商品化が中心だ。
特徴。
ホタテ貝殻
ホタテガイはウグイスガイ目イタヤガイ科に分
類される二枚貝で、北海道沿岸、青森の陸奥
湾、岩手・宮城の三陸海岸で国内漁獲量の大
半を占める。ホタテガイの食経験は古く、5,000
年前の縄文時代の貝塚や出土品からホタテ貝殻
が発見されている。ホタテガイの年間漁獲量は
50 万t(天然・養殖を含む)を超え、北海道が
8割近くのシェアを占める。北海道の海面漁業
では生産量、生産額ともにトップ。漁場は地まき
放流による底引き網漁と垂下方式による養殖で
行われ、北海道のオホーツク沿岸は地まき放流
した3~4年物、噴火湾は養殖した2~3年物
が中心。オホーツク沿岸は初夏から秋、噴火湾
は冬から春にかけて漁獲される。
貝柱にはタウリンやグリコーゲンなどが豊富に
含まれ、食材としての利用価値も高いが、一方
で大量に廃棄されるホタテ貝殻の有効利用を目
指し、食品素材や工業素材などの開発と実用化
に向けた研究も
進められてきた。
食品素材とし
ては、ホタテ貝
殻を焼成し、貝
殻表面のタンパ
ク質を除去した
後、炭酸ガスと
反応させて再合成した高純度
の炭酸カルシウムや、未焼成による炭酸カルシ
ウムが開発されている。平均粒度2~3μmとい
う微粒子のため、分散性、食感、吸収性に優
れているのが特徴。原料はカルシウム強化食品
のほか、加工食品の品質改良や日持ち向上にも
利用できるなど、用途拡大が進んでいる。また
殺菌・抗菌効果も報告されており、野菜洗浄な
どでの活用が提案されている。国民健康・栄養
調査によると、日本人のカルシウム摂取量は男
女とも不足しており、栄養機能食品や特定保健
用食品の関与成分にもなっている。
7
海藻類
コンブ、ワカメ、ノリなどの海藻類は、日本の食文化を語るうえで欠かすことので
きない海の食材として親しまれている。そのなかで、日本人にとって最も馴染みの深
い海藻がコンブだ。海藻由来の機能性素材は、フコイダンを中心にカロテノイドの
一種であるフコキサンチンも今後の市場形成に大きな期待がかかる。海藻市場を牽
引するフコイダンは、抗腫瘍、免疫賦活、抗ピロリ菌、抗ウイルスを切り口に食品用
途での商品化が活発化。
“二日酔い対応”
“アスリート向け”
“メタボ対応”など、新
コンセプトの商品開発も進んでいる。化粧品用途では、保湿や美容・美白を訴求す
る商品への配合が目立つほか、育毛対応素材としての注目も高まっている。
コンブは寒流の親潮海域に生息する代表的な
海藻で、一大産地は北海道沿岸。コンブが群生
する大きな藻場は、ウニやアワビなどの水産資源
や多様な生態系を保つうえでも重要な役割を担
っている。またコンブが群生する海域は、それ
だけ良好な漁場環境が保
たれている証しともなって
いる。
一般的には、生物学的
な和名として「コンブ」と
いう言葉を用いるが、正確
にはコンブ 科植物の種を
標準和名として使う。日本
の沿岸域には 30 種以上の
ガゴメコンブ
コンブが生息。北海道で
8
はマコンブ、リシリコンブ(利尻コンブ)
、オニコ
ンブ(羅臼コンブ)
、ホソメコンブ(細目コンブ)
、
ミツイシコンブ(日高コンブ)
、ナガコンブ(長コ
ンブ、厚いものは厚葉コンブ)
、ガゴメコンブな
どが漁獲される。特に日高コンブや利尻コンブ
は、ブランド物として高値で取引される。
栄養面では、ビタミンやミネラルが豊富なほか、
海藻特有のヌメリ成分にはアルギン酸などの食
物繊維や、多糖類の一種であるフコイダンを豊
富に含む。さらに、海藻由来の新規素材として
注目されているのが、褐藻類特有のカロテノイド
であるフコキサンチンだ。現在、抗肥満・抗糖
尿作用に着目した研究が進められており、食品
や化粧品・エステ分野において市場が形成され
つつある。
北海道産 機 能性 素材
フコイダン
海藻由来の機能性素材の代表格はフコイダ
ン。フコイダンは、グルコースやフコースなどの
単糖類が数珠つなぎに結合したもの。原料由来
はガゴメコンブのほか、モズク(オキナワ・トン
ガ)
、マコンブ、ワカメのメカブなど多岐にわた
り、海藻の由来別にフコイダンの構造が異なる。
そのため、原料メーカーでは、抗腫瘍、免疫賦
活、抗ピロリ菌、抗ウイルス、育毛、美容(保
湿)など、由来別に違った視点から研究データ
を蓄積し、それぞれの訴求ポイントで市場を形
成しているのがフコイダンの大きな特徴だ。代
替医療の現場では、充実したエビデンスを背景
に、高い評価を受けている製品もある。
市場にはドリン
ク、 顆 粒、 錠 剤、
エキスなどのサプ
リメントから、茶、
飴、乳製品など多
様な食品が流通す
る。また近年では、二日酔い対応、アスリート
向け、メタボ対応など、新たなコンセプトによる
商品化も進んでいるほか、育毛対応素材として
の市場形成も本格化している。
北海道産コンブでは、ガゴメコンブ、マコンブ
の仮根(ガニアシ)
、スジメ由来のフコイダンが
開発されている。
ガゴメコンブ
コンブの中でも、トロロコンブ属に属するガゴ
メコンブは、水温・水深などの生育条件にデリ
ケートで、北海道函館市の津軽海峡沿岸を中心
とする限られた場所でのみ漁獲される。名前は、
特徴のあるでこぼこ模様が籠の目に似ていること
に由来する。ガゴメコンブはマコンブに比べて硬
く、ぬめりが強いことから、トロロコンブや松前
漬けなどの加工食品に利用されていた。
しかし近年の研究で、他のコンブに比べ、フ
コイダンを高含有することが分かり、ガゴメコン
ブ由来のフコイダンを利用した商品開発が活発
化。ガゴメコンブには乾燥重量当たり約 5%のフ
ガゴメコンブを利用した商品群
コイダンを含有することが明らかとなった。
函館 市管内のガゴメコンブの年間漁獲量は
250 ~ 300t で推移している。漁獲時期は7~ 10
月。現在は天然のガゴメコンブが主流だが、各
漁業協同組合では増養殖によって増産に対応で
きるよう、さまざまな取り組みを行っている。ガ
ゴメコンブは、雑コンブ、元揃コンブ、折コンブ、
長切コンブなどの形態で出荷されていたが、近
年は 90㎝ほどに切り揃えた雑コンブが主流とな
っている。
函館では産学官連携で函館マリンバイオクラ
スターを組織し、ガゴメコンブを活用した商品の
PRに力を入れている。クラスターには民間企業
112 社が参画する。開発された商品はサプリメン
トや化粧品のほか、松前漬、イカ明太、明太子
などの水産加工品、キャラメルやチョコレートな
どの菓子類、食酢、塩、しょう油、ドレッシン
グ、ふりかけ、ラーメン、納豆など 200 品目に上
る。
ガゴメコンブ由来のフコイダンを用いた機能性
研究では、抗腫瘍作用、抗血栓作用、組織障
害の修復作用、育毛促進作用、皮膚細胞活性
化作用、抗ペプシン作用などのデータが報告さ
れている。
9
タマネギ
北海道を代表する生鮮野菜の一つがタマネギだ。タマネギ栽培発祥の地は札幌で、
現在最も多く流通しているのは黄色種の辛タマネギ。日本でタマネギの機能性研究が
本格化したのは1980年代で、
1989年に日本初のタマネギサプリメントが登場した。有
効成分は可食部(りん茎)と外皮によって異なり、
可食部は硫黄化合物、外皮はフラボノ
イドの一種であるケルセチンを豊富に含む。北海道では産学官連携で、タマネギを特
定の条件下で加工した際に生成される二次代謝産物のDPTSを多く含む機能性素材
が開発され、注目を集めている。さらに品種改良により、ケルセチンを高含有する新品
種のタマネギも誕生しており、
サプリメントなどへの応用が期待されている。
タマネギはユリ科ネギ属の多年草で、ネギ、ニ
ラ、ニンニクなど他のネギ属と同様、独特のにお
いをもつのが特徴。イラン、アフガニスタン、パキ
スタンなどの中央アジアが原産地とされるが、野
国産タマネギの半数以上は北海道産
10
生種は見つかっていない。栽培の歴史は古く、紀
元前 4000 年頃のエジプトでは食用として普及し
ていたという。その後、ヨーロッパの地中海沿岸
に広がり、アメリカやインドへと伝った。タマネギ
の食経験が長いヨーロッパやインドなどでは、発
熱、むくみ、胃炎などの民間薬として活用。特に
イギリス、フランス、インドでは、タマネギの研
究開発にいち早く取り組み、糖尿病、高脂血症、
血流改善などに対する有効性を解明している。
日本でタマネギ栽培が導入された地域は札幌
が最初とされ、札幌農学校(現北海道大学)で
本格的な栽培が始まった。北海道はタマネギ国
内生産量の5割以上を占める一大産地で、そのう
ち北見市の生産量が4分の1近くを占める。
品種は外皮の色の違いにより、白色種、黄色
北海道産 機 能性 素材
種、赤色種に大別される。白色種は早春に流通
する新タマネギとして知られているが、日本では
黄色種が最も多く栽培されている。
日本では、農林水産省がタマネギの機能性研
究に関するプロジェクトを立ち上げたことでデータ
の蓄積が進み、1989 年に日本初のタマネギサプ
リメントが登場。米国国立がん研究所が中心とな
ってまとめたがん予防に有効な植物性食品・デザ
イナーフーズおよびファインケミカルの議論を背景
に、品薄状態になるほどの一大ブームを巻き起こ
した。
タマネギの有効成分は、硫黄化合物とフラボノ
イドの一種であるケルセチンの2つに大別され
る。硫黄化合物は主に可食部に、ケルセチンは
外皮および可食部に含まれている。硫黄化合物
はネギ属のもつ独特のにおいの元となる成分。そ
の成分は、イソアリイン、サイクロアリイン、プロ
ピルアリルジスルフィドなど数百種類に上り、血
圧降下作用、血糖降下作用、血流改善作用、血
小板凝集抑制作用などに関する研究成果が報告
されている。硫黄化合物はニンニクにも含まれて
いるが、タマネギのほうがニンニクに比べて種類
は豊富だ。
機能性素材として流通するタマネギ原料は、粉
末、ペースト、スプレードライ、エキス、ビネガー
などの形態で供給されており、用途は錠剤・カプ
セルのほか、スープやお茶、飴、ゼリーなどと幅
広い。
ジプロピル トリスルフィド(DPTS)
タマネギを特定の条件下で加工した際に生成
される二次代謝産物として、DPTS(ジプロピル
トリスルフィド)という有効成分が増加すること
が明らかとなっている。
これはタマネギのもつ自己防御のメカニズムを
利用し、酵素系に働きかけ、ヒトの体に良い影
響を与える防御物質を生成しようというもの。タ
マネギをカット加工後、酵素や熱化学反応により
トリスルフィド類やセパエン類が生成されること
が分かっている。
DPTS を用いた
機能 性 研究では、
学習記憶障害改善
作用が高く、脳内
の記憶を司る海馬
部分の酸化を抑制
することが確認されているほか、血液流動性の
改善作用、血液成分の改善作用、冷え性改善作
用、肝機能改善作用などに関する研究成果も報
告されている。
ケルセチン
タマネギは生鮮食品の中でも輸入量が多く、
産地間競争も激しくなっている。このため、交
配育種によって、有効成分のケルセチンを多く含
む新品種のタマネギを開発し、差別化を図る動
きも出ている。
北海道栗山町では、産学官連携で「栗山町タ
マネギプロジェク
ト」 を立 ち 上 げ、
新品 種「 さらさら
レッド」のブランド
化に着手した。こ
のタマネギは、世
界中から 300 以上
の品種を集め、ケルセチンと含硫化合物を遺伝
的に多く含む品種を交配し、開発された。分析
結果では、従来のタマネギに比べ、1.5 ~3倍の
ケルセチンを含み、国内では最もケルセチン含
量の高いことが確認されている。名前のとおり、
赤い色をしており、ポリフェノールの一種である
アントシアニンを豊富に含む。
タマネギに含まれるケルセチンは、他の野菜
や果物に比べて、含有量が多く、吸収率も高い
とされている。タマネギ由来のケルセチンを用い
た機能性研究では、抗アレルギー、紫外線防御、
血糖降下作用、抗酸化作用、脂肪吸収抑制作
用、発がん抑制作用などが報告されている。
11
ジャガイモ
北海道のジャガイモは国内シェア8割を占める重要な作物で、主食の代用食材と
しても知られている。ジャガイモは米、小麦、トウモロコシとともに世界4大作物に
数えられ、米の流通量が少なかった開拓当時の北海道では、米や麦などに混ぜ、主
食の1つとして利用されていた。ジャガイモは冷害にも強く、飢饉の際に多くの人を
救ったというエピソードも世界各地で数多く報告されている。
道産ジャガイモからは、デンプン製造時に排出される未利用残渣から抽出したペ
プチドやタンパク質を含むダイエット素材が開発されている。未利用残渣にはタン
パク質や食物繊維が豊富に含まれ、再利用可能な資源として注目されている。
ジャガイモはナス科の多年草植物で、馬鈴薯
(ばれいしょ)とも呼ばれている。原産地は南米
北海道産ジャガイモの国内シェアは 8 割に上る
12
アンデス山脈の高地といわれ、16 世紀以降、ヨ
ーロッパやアジア、ロシアなどに伝わったとされ
ている。日本に導入されたのは 17 世紀初め。
18 世紀終わり頃にはロシアを通じて北海道での
栽 培が開始された。ジャガイモは低温に強く、
冷害による凶作の年にも安定した収穫が見込め
ることから、幕末には飢饉対策としてジャガイモ
の栽培が奨励されるようになった。
日本でジャガイモ栽培が本格化したのは明治
以降で、北海道の開拓使がアメリカから導入し
た品種を用いて、本格的な栽培を開始した。現
在、北海道のジャガイモ生産量のシェアは8割に
上る。
北海道のジャガイモの収穫時期は、早生品種
が 8 月下旬~ 9 月上旬、晩生(おくて)品種が
北海道産 機 能性 素材
10 月上旬。主要な品種は男爵薯で、煮くずれし
にくいメイクイーンの知名度も高い。
栄養成分では、炭水化物であるデンプンの含
量が最も高く、含有率 30%を超える品種もあ
る。このほか、タンパク質、脂質、ビタミン B
群、C、カリウム、マグネシウム、食物繊維など
も多く含まれている。ジャガイモは味が良く淡泊
なため、主食の代用食材としての利用価値が高
いほか、サラダ、コロッケ、ポテトチップス、片
栗粉など幅広い用途で活躍している。
ペプチド
国内のジャガイモ生産量の5割近くはデンプン
原料として流通される。デンプン原料には、紅
丸という品種が多く利用されており、片栗粉原
料のほとんどはジャガイモ由来だ。
従来、デンプン原料製造時に排出されるデン
プン以外の成分は未利用のまま残渣として処理
されていたが、未利用残渣に有用なタンパク質
や食物繊維が豊富に含まれている点に着目。産
学官連携で、有効成分の抽出に向けた生産技術
の開発や機能性研究が行われるようになった。
その代表的な機能性素材が、タンパク質から
抽出したペプチド。帯広畜産大学などの研究チ
ームらは、酵素処理によって、大豆タンパク質と
同等の機能 性をもつペプチドの抽出方法を確
立。
「ポテトペプチド」の製品化に成功した。
ペプチドはアミノ酸が2個以上結合した状態
のことで、50 ~ 100 個までをペプチドと呼び、
それ以上のものをタンパク質としているが、明確
な定義はない。ポテトペプ
チドでは、アミノ酸配列が
解明されているが、現在、
異なるアミノ酸配列をもつ
ペプチドの研究も進められ
ている。
機能 性 研究では、脂質
代謝改善効果や肝毒性抑
制効果などが報告されてお
り、生活習慣病予防に向けた機能性素材として、
飲料、ゼリー、冷菓、サプリメント用途での提
案が進められている。
また、ペプチドは窒素含有量が多いのも特徴
の1つで、食品のコクや風味を付与し、調理感
を高める効果も確認されている。このため、漬
物や納豆などの発酵食品や、レトルト食品、ス
ープ、菓子、ハム・ソーセージなど加工食品で
の利用も見込まれている。
タンパク質含有素材
冒頭に飢饉対策としてジャガイモの栽培が促
進されたことを紹介したが、ジャガイモを食べる
ことによって空腹感が解消され、満腹感が得ら
れる伝承的な効果に着目したタンパク質由来の
ダイエット素材も開発されている。
道産ジャガイモから抽出したタンパク質含有の
機能性素材を用いて臨床試験を行ったところ、
満腹感向上作用や食事量減少作用があることが
明らかとなり、この素材を活用することで体重や
体脂肪の減少が期待されている。海外でもジャ
ガイモ由来のダイエット素材が開発・製品化され
ているが、国産の安全・安心素材へのニーズが
高まる中で、道産素材として海外産との差別化
を図っている。
ダイエット食 品
市場では、満腹感
を高め、カロリー
摂取量を減らす新
たなカテゴリーとし
て“満腹系”が注
目されており、サプリメントのほか、汎用性の高
さから一般食品や飲料などへの利用拡大も期待
されている。またジャガイモは世界の重要作物と
して各国で普及し、食経験も十分あることから、
海外市場での需要拡大も見込める素材として期
待されている。
13
ブドウ
DNA の保護作
用や眼病予防な
ブドウはブドウ科のつる性低木で、人類の歴史 ど、さまざまな機
とともに歩んできた世界最古の果物として各国に 能 性をもつこと
広がり、果物別の生産量では世界一。ブドウの が明らかとなって
機能性については、早くから注目され、赤ワイン いる。またプロ
は薬用酒として、日本をはじめとする主要国の薬 アントシアニジン
局方に収載されている。1990 年代初めには、
“フ では、抗腫瘍抑
レンチ・パラドックス”と呼ばれる疫学的な事象 制や血糖値上昇抑制作用など
が話題となり、赤ワインの一大ブームを引き起こし の有効性が報告されている。ブドウ由来の機能
た。フランスでは、他の欧米諸国と同様に脂肪摂 性素材を利用した商品では、エイジングケア訴求
取量が多いにもかかわらず、心臓病による死亡率 のサプリメントや化粧品が先行しているが、メタ
が低いことが判明。世界一のワイン消費国である ボ対策や認知症対策素材としての注目度も高い。
ワイン用ブドウ生産量の国内トップは北海道。
こととの関連が注目を集め、ポリフェノールの研
究開発に拍車がかかった。ブドウの種子や果皮 約4割のシェアをもち、道内各地でヨーロッパ系品
由来のポリフェノールの中で注目されるのが、高 種の栽培を行っている。現在、道産ワインの製造
い抗酸化能をもつレスベラトロールとプロアントシ 過程で生じる果皮や種子などを粉砕・乾燥させ
た機能性素材が開発され、サプリメントや飲料、
アニジンの2成分だ。
レスベラトロールは、一酸化窒素産生を促す強 保湿・美肌効果や抗炎症作用に着目した化粧品
力なポリフェノールで、抗がん、抗動脈硬化防止、 の商品化が進められている。
アロニア
分かった。
機能性素材と
アロニアは北米原産のバラ科の小果樹で、約 しては、果実を
200 年前にヨーロッパに移入され、ロシアには約 原料とする濃縮
100 年前に導入された。日本では 1976 年、現 果汁や抽出エキ
ロシア農業技術交流事業を通じて種子を導入 スのほか、圧搾
し、アロニアの実の栽培が始まった。現在、北 後に残った残渣
海道には、ロシアと北欧由来の樹木があり、千 を有効利用する
歳市、江別市、伊達市(大滝村)などで栽培さ ための研究開発も行われている。濃
れている。ロシアでは北海道の街路樹としても 縮果汁は甘味や酸味が強く、飲料や菓子などの
馴染みのあるナナカマドに似ていることから、 原料に利用されている。また抽出エキスはポリ
「黒い実のナナカマド」と呼ばれ、古くからジャ フェノールを豊富に含み、サプリメントの原料と
ムやジュース、果実酒として利用している。果実 して流通する。このほか、アロニアの濃い紫色
はアントシアニン色素を多く含むため、濃い紫色 を生かしたワインやアイスクリーム、ジャムなど、
をしている。アントシアニンはブルーベリーの2 数多くの製品が誕生している。
現在、アントシアニンのもつ眼精疲労軽減効
倍以上も含まれる。
北海道立食品加工研究センターなどがアロニ 果に着目したアイケア訴求の商品化が活発だが、
アの成分を調べたところ、他の果実類に比べ、 産学官連携による機能性研究で、抗肥満作用、
食物繊維、
β-カロテンを多く含み、
β- クリプトキ 血圧降下作用なども解明されており、メタボ対
サンチンとポリフェノールの含有量も高いことが 策にも大きな期待が寄せられている。
14
北海道産 機 能 性 素 材
シーベリー
シーベリーはタワラグミ科の潅木で、英語名は
シーバックソーン、学名はヒッポファエ・ラムノイデ
ス。中国青海省、山西省、四川省、チベット、内
モンゴルからシベリア、東欧などに広く自生する。
中国ではサジー(沙棘)と呼ばれる。8世紀、中
国・唐の時代の薬典『四部医典』には、
「潤肺(肺
を潤し)
、痰(痰を除去し)
、止咳(咳を止め)
、消
五谷(食物を消化させ)
、食欲を増し、肝臓病を
除去し、老化を防止する」と記載されているなど、
古くから食効ある果物として利用されてきた。日本
では 10 数年前に導入されたばかり。
これまでシーベリーは気候、土壌などの面で日
本での栽培は難しいとされていたが、北海道の
企業がロシア原産の品種を導入し、無農薬による
国内栽培で成功した。ロシア原産の品種は中国
原産と比べ、果実が一回り大きく、多くの栄養素
を含んでいるのが特徴。ビタミンC、A、Eを豊
富に含むほか、18 種類のアミノ酸、鉄や亜鉛な
どのミネラル類、フラボノイドなど 200 種類以上
の成分を含有。高い抗酸化作用による美容・美
肌訴求の商品として流通する。また種子に含まれ
るオイルには、オメガ7系脂肪酸などの不飽和脂
肪酸やアミノ酸 18 種類を含有。フラボノイドやポ
リフェノール類など抗酸化成分も 30 種類以上含
む。色彩的に黄色の小果実は珍しく、食品の中で
も特に菓子業界からのニーズが高まっていること
に加え、豊富なビタミン類と同時に脂質を非常に
多く含んでいることから、化粧品など幅広い分野
への活用も検討されている。
ハスカップ
ており、この抗 酸化
成分の含量測定結果
ハスカップはアイヌ語で「ハシカプ」に由来す からポリフェノール含
る呼び名で、和名を「クロミノウグイスカグラ」と 量はかなり多く、アン
いう。スイカズラ科スイカズラ属の落葉低木で、 トシアニン含 量はブ
サハリンやシベリアなど寒い地域で自生してい ルーベリーとほぼ同
る。道外では高山植物で、標高の高い場所にし 等で、さらに未 知の
か生育しないものの、北海道では苫小牧を中心 ポリフェノールの存在
とする勇払(ゆうふつ)平野には多く自生してい が示唆されている。
る。薄く折り重なるような特徴のある樹皮を持ち、 また1年間冷凍貯蔵してもビタミン C 含量にはほ
初夏には薄黄色の花をつけ、果実は、はじめは とんど差がなく、ハスカップの冷凍貯蔵によるビ
黄緑色ですが熟すと青紫色になる。味はブルー タミン C の安定性が確認されている。
ハスカップには株(系統)により苦い果実をつ
ベリーに似ており、道内ではジャム、果実酒や
けるものがあり、食品と
して利用する場合には排
お菓子などの加工用として広く栽培されており、
品種改良により、甘みを増したものや多く実のな 除されてきた。しかし最近の研究によると、苦味
成分のなかに血圧降下の薬理作用のあるイリノイ
るものも広まっている。
ハスカップの成分の中で注目されるのは、他 ド配糖体である 7-ketologanin および loganin の
の果実類に比べ、有機酸・食物繊維およびミネ 存在が推定されており、今後の研究の進展が期
ラル、特に鉄分が多いことである。またビタミン 待されている。ハスカップは古くから「貧血によく
C とα -トコフェロール(ビタミン E 効力)含量も 効く」とか「不老長寿の果実」と言われてきたこ
多い。ハスカップは通常冷凍果実として流通し とが科学的に明らかにされつつある。
15
キノコ類
菌糸体培養抽出物
タモギタケ 霊芝(鹿角霊芝)
カバノアナタケ
キノコは古くから生薬などに利用され、豊富な食経験をもつポピュラーな素材だ。機
能性を訴求するキノコ健食市場では、
アガリクス、霊芝、カバノアナタケ、ハナビラタケ、
菌糸体培養抽出物など数多くのキノコ商材が流通する。キノコ類は、
β-グルカンやアミ
ノ酸などを多く含むのが特徴。機能性研究では、免疫関連やメタボリックシンドローム
対策に焦点を当てた研究成果が数多く報告されている。2009年度には厚生労働省が
ん研究助成金による「がんの代替医療の科学的検証に関する研究班」が発足。がんに効
くとされる健康食品の有効症例の調査研究をスタートさせた。がん医療現場では、
補完
代替医療を利用するがん患者は約半数に上り、
9割強が健康食品を利用していることが
判明。キノコ類の利用率は7割を超える。健食業界では、
有効性や安全性に関するバック
データを有していることを前提に、医家向けへの導入を進める企業が増えている。
菌糸体培養抽出物
キノコは 通
常、実の部分
( 子実 体) を
食べるが、子
実体の根元か
ら伸びてくる
糸状の菌糸が
集まってでき
たものを菌糸体という。成分面では、菌糸体と
子実体に含まれる多糖類の種類に違いがあるこ
とが分かっている。菌糸体を用いた機能性素材
では、菌糸体を米ぬか由来の培養液で長期間培
16
養し、培養濾液を凍結乾燥させた菌糸体培養抽
出物が広く知られている。
菌糸体培養抽出物には、担子菌が産生する酵
素がさまざまな成分と反応することによって得ら
れる特有の成分を含有し、その代表的な成分は
アセチル化されたα - グルカン。アセチル化α グルカンは比較的低分子(分子量約 5,000)で、
β - グルカンよりも吸収されやすくなっている。
機能性研究では、免疫賦活作用、化学療法
剤の副作用軽減作用、感染性防御作用、自然
免疫増強作用などの有効性を示唆する広範囲な
研究成果が報告されている。
北海道産 機 能 性 素 材
タモギタケ
タモギタケは東北以北に分布し、北海道では
食経験豊富なキノコとして親しまれている。道内
のタモギタケ栽培は昭和 40 年代から始まった。
道立林産試験場で開発された品種が使用され、
年間生産量は 500 t近くに上る。
成分面では、旨味成分である 5´グアニル酸
の含有量がブナシメジの約 2 倍、シイタケの約
1.5 倍もあることが判明。β -D- グルカン、食物
繊維、アミノ酸も豊富に含む。タモギタケ子実体
由来の抽出エキスを用いた試験では、抗腫瘍作
用、血糖値上昇作用、血圧上昇抑制作用などが
あることが確認さ
れた。
また、タモギタ
ケからグルコシル
セラミド(スフィン
ゴ脂質)を抽出し、
米糠やトウモロコシとは異なる構造をもつグルコ
シルセラミドを高純度で抽出する技術も確立され
ている。現在、保湿作用や抗アレルギー作用を
もつ素材として、サプリメントや化粧品用途での
導入が進んでいる。
カバノアナタケ
カバノアナタケはロシア、中
国、北欧、北海道などの寒冷
地の山岳地帯に自生するキノ
コ。白樺や岳樺(ダケカンバ)
の樹液を吸いながら、10 年以
上かけてゆっくり成長する。
菌糸が養分を蓄えて、菌核と
呼ばれるこぶ状の塊となる。外側は石炭のよう
に黒く、内側は明るい茶色をしている。白樺 1
~ 2 万本に 1 本しか見つけることができない貴
重なキノコだ。ロシアでは 1980 年代に医薬品と
して認可され、がんや胃潰瘍の治療として利用
している。日本では北海道の先住民が民間薬と
して、カバノアナタケを摂取していた。
主な有 効成分は、多糖 類のβ -D- グルカン、
水溶性食物繊維、フラボノイド、ミネラル、イノ
シトールなど。現在、リグニン、エルゴステロー
ル、ベツリン酸、トリテルペン、ラノステロール
などの成分に着目した研究開発も行われている。
機能性研究では、抗酸化作用、免疫異常の正
常化作用などが確認されているほか、糖尿病、
高脂血症、肥満、高尿酸 血症などに対する改
善・予防に向けた解明や、抗ウイルス、抗アレル
ギー、血管新生阻害作用、アポトーシス誘導作
用、抗細菌活性などに関する検討も進められて
いる。
霊芝(れいし)
中国では数年の歴史をもつ霊芝。和名を万年茸
(マンネンタケ)といい、サルノコシカケ科に属す
る担子菌の一種。傘・柄を含めた子実体は、乾
燥させるとそのままの形で保存できることから、
万年茸という名前がついたとされている。現存す
る中国最古の医学書で、漢方薬のバイブル書『神
農本草経』では、霊芝を最高ランクの「上品」と
して位置づけている。主な有効成分は、β -Dグルカンなどの多糖類やトリテルペン - ガノデリン
酸類、ミネラルなど。
日本で霊芝の人工栽培が本格化したのは 1980
年代以降だ。現在、
北海道でも道産の
原木などを用いた
人 工 栽 培 により、
高品質な霊芝が生
産されている。
機能性研究では、抗腫瘍、免疫活性、鎮痛・
鎮静、血圧降下作用、利尿作用、肝炎改善、コ
レステロール低下、血液浄化作用、抗酸化作用、
自律神経作用、抗アレルギー、抗ストレスなどに
関する有効性が報告されている。
17
亜麻仁(アマニ)
亜麻は中央アジア原産のアマ科の一年草で、
冷涼な気候である亜寒帯地域の国々で栽培さ
れている。亜麻と人とのかかわりは古く、約 1
万年前から栽 培されていた記 録 が 残ってい
る。古代ギリシャの医学の父・ヒポクラテスは、
「亜麻を食べると胃腸の調子が良くなる」として、
亜麻栽培を推奨したといわれている。
亜麻仁の世界生産量は 200 万 t 以上に上り、
最大の生産国はカナダ。日本では北海道だけ
が亜麻栽培の適地とされている。北海道では
明治初期に亜麻栽培が始まり、亜麻事業は軍
需拡大により繊維用途を中心に活発化。終戦
後、化学 繊 維が 安く製 造できるようになり、
1970 年代を最後に亜麻は姿を消した。その後、
40 年ぶりに亜麻栽培が復活。現在、サプリメ
ントや化粧品などへの利用が広がっている。
北海道の亜麻栽培は無農薬で行われる。4
月下旬から 5 月上旬に種を蒔き、6 月下旬から
ハマナス
ハマナス(Rosa rugosa Thunb)はバラ科バ
ラ属の北方系植物で、学名は“皺のある葉を持
ったバラ”に由来する。花が美しいことから北海
道のシンボルの花に指定されている。北海道か
ら日本海側は山陰地方、太平洋側は房総半島ま
で自生する。1796 年に日本から初めてヨーロッ
パに持ち込まれ、北方系のバラの品種改良の遺
伝材料になったことでも知られている。北海道で
は戦前よりバラ精油を採油するために栽培してい
たが、合成バラ油などが流通して以降、香料用
ハマナスは栽培されなくなった。アイヌは昔から
熟した果実を割り、種を取って生で食べたり、乾
燥したものを保存食として利用。花は水腫病の
治療目的として、煎じて服用していた。この記録
は秋田県立図書館の蔵書で、医師の岩谷省達
氏が蝦夷地に派遣された時に書き残した『胡地
養生考、安政4年』にも紹介されている。
北見工業大学がハマナスの花弁を分析したと
18
7月上旬に開
花。 初 夏 の 亜
麻畑は薄紫色の
花が美しいじゅ
うたんを作り出
す。8 月中 旬に
成 熟 し、 茎 が
黄色く、種子のさやが茶色になる
のを待ち、収穫される。
亜 麻仁は、α - リノレン酸(n-3 系脂肪 酸)
を豊富に含み、SDG と呼ばれる特有のリグナ
ンや非可溶性および可溶性の繊維も多く含有し
ているのが大きな特徴。厚生労働省が 2005
年に発表した「日本人の食事摂取基準」の中
で、n-3 系脂肪酸の摂取目標を設定したことに
より、亜麻仁を利用した商品開発が活発化。
SDG は、メタボ対策や更年期対応の成分とし
て注目されている。亜麻仁は抗アレルギーや美
肌訴求の素材としての利用価値も高い。
ころ、生 花 100
g中にビタミンC
が 約 80 ㎎ 含ま
れ、ハマナスの
ビタミンCは煮沸
しても分 解され
にくいことを突き
止めた。このほ
か、花弁の有効成分としてポリフェノールと色素
を含有する。ポリフェノールは抗酸化活性の強
い加水分解型タンニンであることが判明。乾燥
花にはポリフェノール約 20%を含有する。色素
の大部分はアントシアニンの配糖体で、美白効
果が期待されている。
現在、北海道ではハマナス花エキスを配合し
たサプリメントやお茶、調味料、化粧品などが
流通する。機能性研究では、便臭抑制効果、
ビフィズス菌に対する増殖効果と整腸効果、消
化酵素阻害作用、体臭抑制効果、血中トリグリ
セライド低下作用などが報告されている。
18
北海道産 機 能 性 素 材
行者(ギョウジャ)ニンニク
徴。 ア リイン、
ジアリルジスル
行者(ギョウジャ)ニンニクはユリ科ネギ属の フィド、メチルア
多年草。和名は山野で修行中の僧(行者)が リルトリスルフィ
体力をつけるための栄養源として利用し、その ド、ジアリルトリ
香りがニンニクに近い植物だったことに由来す スルフィドなど
る。アイヌ語ではキトピロ、ヒトピロなどと呼び、 の硫化アリル群
ギョウジャニンニクを食べたり、火にくべて強烈 は、ニンニクの
な臭いのする煙をおこし、そのにおいを体に浴 約4倍含まれる。
機能面では、血流改善 作
びたりして、 肺炎、 風邪、 下痢、火傷、 打ち身、
消毒などの万能薬として使用していたという。ニ 用、血小板凝集阻害、血栓溶解作用などをも
ラと同じように葉と茎を食べる。主な産地は北 つ。またアリインは、ビタミンB1と摂取すること
海道で、4月下旬~6月上旬が旬。北海道でも で、疲労回復効果のあるアリチアミンの生成とと
かつては近隣の山野で手軽に採ることができた もに消臭することが分かっており、抗疲労や男
が、乱獲や山野の開発が進んだ結果、自生地 性機能対応素材としても注目されている。
を見つけることが難しい幻の野草となりつつあ
また機能性素材として流通するギョウジャニン
る。栽培技術は確立されているものの、成長速 ニクは、タマネギと同様に硫化アリルを選択的
度が遅く、収穫までに3~5年を要する。
に増加させる処理を行い、健康維持に役立つ
有効成分では、タマネギやニンニクなどのネ 生体調節機能を賦活化させた粉末原料が開発
ギ属と同様に硫黄化合物を多量に含むのが特 されており、
サプリメント用途で供給されている。
ヤーコン
ヤーコンは南米アンデス地方原産のキク科の
多年草。アンデス地方では、インカ帝国の時代
から野菜として食しており、世界有数の長寿国・
アンデスを支える食材の一つとされている。芋の
形はサツマイモに似ているが、デンプン質はほと
んど含まれていない。日本には 1985 年に導入さ
れ、1990 年にフラクトオリゴ糖を大量に含むこと
が判明し、健康野菜として注目されるようになっ
た。現在、地域特産品として商品化する動きが
高まっている。北海道での植え付け時期は5月頃
で、10 ~ 11 月の降霜までに収穫する。
芋と葉・茎の両方を食用として利用でき、芋の
部分には、フラクトオリゴ糖、食物繊維、クロロ
ゲン酸やカフェ酸などのポリフェノール類を豊富
に含む。特にフラクトオリゴ糖は野菜の中では最
も多く、収穫直後のヤーコン芋には7~9%のフ
ラクトオリゴ糖を含む。芋は生食や加熱調理して
食べることができ、生はシャキシャキとした食感
とほんのりとした
甘味をもつのが
特 徴。サラダと
の相性も良い。
また芋を乾燥粉
末にして、菓子
や乳製品などに
配合した商品も
開発されている。葉部には、
カリウム、カルシウム、マグネ
シウムなどミネラルが豊富に含
まれるほか、フラボノイドやテルペン類も含有。
葉部は主に煎じてハーブティーとして利用される。
機能性については、フラクトオリゴ糖や食物繊
維を豊富に含む芋では、整腸作用や骨強化、血
糖値上昇抑制作用、免疫力向上、ダイエット効
果などが期待されている。フラクトオリゴ糖は、
特定保健用食品の関与成分にもなっている。ま
た葉部では、抗酸化作用や血糖値上昇抑制効
果が報告されている。
19
甜菜(てんさい)
甜菜はアカザ科フダンソウ属の植物で、主に北
半球の冷涼な地域で栽培される。別名「砂糖大
根、ビート」とも呼ばれる。見た目は大根やカブに
似ているが、分類上はほうれん草と同じアカザ科
に属している。ヨーロッパにおいて、砂糖は甜菜糖
のことを指し、世界の砂糖消費量の約3割は甜菜
糖で占める。
甜菜糖が発見されたのは 1747 年。ドイツの化
学者が甜菜の根から砂糖を分離することに成功し
た。日本における甜菜糖業は 1879 年に官営工場
が北海道2ヵ所に建設されたことに始まる。現在は
日本甜菜製糖に北海道糖業とホクレン農業協同
組合を加えた2社1団体が甜菜糖業を展開する。
日本で流通する砂糖の4分の1は甜菜糖で占める。
甜菜由来の機能性素材では、天然オリゴ糖(ラ
フィノース)
、食物繊維、セラミド、ベタインなどが開
発されている。
ラフィノースはトウモロコシやジャガイモなどにも含
大豆
まれる食経験豊
富なオリゴ糖。シ
ョ糖(グルコース
+フルクトース)に
ガラクトースがα
結合した三糖類
で、吸湿性が非
常に低いのが特徴。ビフィズス菌増
殖や便通・便性の改善、免疫賦活、抗アレルギー
作用などの作用をもつ。食物繊維は水に不溶で、
野菜本来の食物繊維の特徴として、ペクチン、ヘミ
セルロース、セルロース、リグニンをバランスよく含
む。セラミドはグルコシルセラミドのほか、リン脂質
や植物ステロ―ルなどを含有。新しい美容素材と
して提案されている。ベタインはアミノ酸系物質で、
水産物に多く含まれ、甘味とうま味にかかわる新し
い機能性素材として注目を集めている。植物では
ストレス耐性に関与するといわれ、アカザ科植物の
ほか、麦やサツマイモにも多く含まれている。
成分ごとに有効
性・安全性研究
大豆はマメ科の1年草で、約 2,000 年前に朝 が進んだ。
米国食品医薬
鮮半島を経由し、日本での栽培が始まったとされ
ている。大豆の国内生産量は年間 22 ~ 26 万t 局では、1999 年
で推移し、北海道の大豆生産量は約6~7万tで に大 豆タンパク
国内トップ。北海道では明治初期から十勝地方を を 1 日 25g 摂取すると冠動脈心疾患の罹患リス
中心に、品質の良い大豆の本格的な栽培が始ま ク低減に効果的とする見解を発表。これを受け、
った。栄養面では、ミネラルや脂肪を豊富に含む 大豆関連の健康食品などが一大ブームとなり、そ
ほか、8 種類の必須アミノ酸を理想的なバランス の影響は日本市場にも及んだ。
一方、ここ数年、大豆をまるごと使用した商品
で含有。肉に匹敵するタンパク素材であることか
ら、
「畑の肉」とも呼ばれ、
“ミラクルフード”とし 開発が活発化する中、道内の民間企業2社が共
て近年、
世界的に再評価する動きが高まっている。 同で、北海道沿岸に自生する海藻のエキスを配合
機能性成分では、大豆イソフラボン、大豆タン した専用肥料を使用し、亜鉛を通常の 2.5 倍含
パク、大豆ペプチド、大豆レシチン、ギャバ、トコ む大豆の栽培法を開発、食品業界から注目を集
フェロール、ホスファチジルセリン、大豆サポニン めている。国が定める食事摂取基準では、亜鉛
などが注目され、健康食品として大きな市場を築 の1日当たりの推奨量を男性 9mg、女性 7mgとし
いてきた。日本では昔から「大豆は体に良い」と ているが、国民健康・栄養調査によると 20%近く
いう伝承的なイメージが浸透していたが、イソフ の国民が亜鉛欠乏か亜鉛欠乏予備軍とみられ、
亜鉛強化食品への利用が期待されている。
ラボンやペプチドなどの機能性成分が見出され、 今後、
20
北海道産 機 能 性 素 材
カボチャ
西洋カボチャの種子
カボチャには、16 世紀にカンボシアから伝わっ 油もペポカボチャの成
た日本カボチャ、明治期にアメリカから導入された 分と類似の成分が含
西洋カボチャ、ズッキーニに代表されるペポカボチ まれていることが 判
ャなどがある。カボチャの国内生産量は北海道が 明。排尿阻害抑制な
45%のシェアを占める。栄養成分面では、ビタミン ど生活習慣病の改善効果に関する
A、B、C、β - カロテンが豊富に含まれているの 研究を進めており、これまで廃棄され
ていた未利用部位の製品化に取り組んでいる。
が特徴。
種子油には、リグナン、脂肪酸、トコフェロール
健康食品に利用される品種はペポカボチャの種
子油。ドイツでは前立腺肥大症や過敏性膀胱炎 類などの成分を含む。健康食品市場では、排尿ト
の治療薬として承認されており、その機能性に注目 ラブル素材として流通する商品が多く、中高年男性
して道内でも試験栽培が開始された。さらに近年、 を主なターゲットに展開する。
アスパラガス
アスパラガスはユリ科の多年草で、国内では北
海道が一大産地。大正時代に北海道の冷害対策
として、ホワイトアスパラの育成と缶詰の事業化に
成功したのが北海道岩内町。同町には「日本アス
パラガス発祥の地」という記念碑が建てられてい
る。アスパラギン酸、グルタチオン、ルチンのほか、
ビタミンA、B、C、E、葉酸などのビタミンを豊富に
含む。
近年、健康食品としても流通するようになり、ア
スパラガスの未利用部分である擬葉を利用した青
汁やゼリー商品が発売されている。擬葉を用いた
機 能 性 研 究では、
血中コレステロール
や中性脂肪の低下
作用が 報 告されて
いる。
また北海道のバイ
オ企業は、アスパラガスを熱水抽
出したエキスに抗ストレス作用があ
ることを突き止めた。活性成分とし
て、ヒドロキシメチルフルフラールに関連する新規
物質「HSP70 誘導物質」を単離同定することに
成功した。
小豆
機能性素材で
は、小豆の煮汁
小豆の原産地は東アジアで、日本でも縄文史跡 を濃 縮し、噴霧
から発掘されるなど古くから貴重なタンパク源として 乾燥させた粉末
利用されていた。日本では北海道が6割以上の生 原 料 が 流 通 す
産量を占める。栄養面ではタンパク質、炭水化物、 る。水溶性で安
ビタミンA、ビタミン B1、コリン、サポニンなどを含有 定し、溶解後は
沈殿やオリが生じないなどの特徴を持つ。耐熱性、
する。漢方では赤小豆湯として利用されている。
耐酸性、耐アルカ
リ性、耐光性に優れており、赤
また近年は、小豆に含まれるカテキングルコシド、
カテキン、ルチンなどのポリフェノールに着目した商 飯をはじめとする加工食品の色付けや、小豆ポリフ
品化が進んでいる。小豆のポリフェノールは抗酸化 ェノールを利用した健康飲料、健康食品などへの
作用が強く、さまざまな機能性が研究されている。 導入が進められている。
21
クマ笹
クマ笹は単子葉類ササの一種で、日本に最も広
く分布する植物。「本草網目」には漢方生薬として
「呼吸器系、咽喉の疾患に効き、腫瘍を消す」と
収載されている。クマ笹と日本人の関係は深く、
「創
傷治療」、「利尿」
「吐血」などを目的とした民間薬
としての利用のほか、抗菌・殺菌効果があることか
ら、食品の保存にも広く活用されていた。
クマ笹を用いた健康食品は 50 年以上前から上
市されており、原材料は北海道産が中心。原料は
天然クマイザサ(Sasa senanensis)の葉を原料に
した粉末、エキス、エキス末が流通する。ビタミン、
ミネラル、アミノ酸、食
物繊維、オリゴ糖など
多様な成分を含有し、
中でも注目されている
有効成分はクマ笹多
糖体。多糖体はキノコ類にも多く含まれ、免疫賦
活作用のほか、抗菌・消臭効果、抗酸化作用、
腸内ビフィズス菌増強作用などの研究成果が数多
く報告されている。クマ笹に含まれる有効成分は
そのままでは消化吸収が困難とされ、各社とも独
自の抽出法、乾燥法、熟成法により差別化を図っ
ている。
チコリー
タミンのほか、
チコリーはヨーロッパ原産のキク科ニガナ属の多 カリウム、カ
年草。ヨーロッパでは広く流通しているポピュラー ルシウム、マ
な野菜。葉はサラダとして利用されるほか、根は茹 グネシウム、
でたり、炒ったりして食べる。根を焙煎してカフェイ リン、鉄など
ンレスのコーヒーとして飲むことができる。根の主 のミネラル、
成分は血糖値上昇抑制作用のあるイヌリン。北海 食物繊維を豊富に含む。若葉
道では十勝地方や石狩地方、北見市などで栽培 はほんのりとした苦味があり、
されている。
北海道産チコリーの収穫時期は11月。 その主要成分が鎮静・鎮痛
栄養成分面では、β - カロテン、ビタミンC、E、 作用を持つラクチュコピクリン。ワイルドレタスからも
K、B群、ナイアシン、葉酸、パントテン酸などのビ 同様の成分が発見されている。
ナガイモ
ナガイモ(長芋)はヤマノイモ科ヤマノイモ属の
根菜で、中国が原産とされている。ナガイモは昔か
ら「山薬」
(サンヤオ)や「山うなぎ」といわれ、消
化吸収に優れ、滋養強壮や夏バテ予防に効果が
あることが知られている。中国では漢方薬として利
用される。北海道では幕別町、帯広市、芽室町が
一大産地。ナガイモの国内生産量は北海道産が
47%を占める。道内で栽培される主な品種は「十
勝系選抜」と「夕張選抜」
。3月の圃場の準備を
始め、収穫は 11 月上旬頃。
ナガイモの主成分はデンプン。食べ物の栄養素
22
を効率よく吸収させる
働きを持つジアスター
ゼやアミラーゼなどの
消化酵素も多く含有す
る。このほか、カリウ
ム、亜鉛、鉄、ビタミ
ン B1、ビタミン C、食物繊維などを含む。特有の
ぬめりはタンパク質と多糖類の結合体であるムチ
ン。体内の粘膜を保護する成分も兼ね備えるほか、
血清中の総コレステロール濃度を低下させる作用も
報告されている。またナガイモ中に含まれるタンパ
ク質に、抗ウイルス活性機能があることも明らかと
なっている。
北海道産 機 能 性 素 材
ゆりね
ゆりねはユリ科ユリ属の隣茎(球根)で、北海
道では大正時代に和田伊三郎氏が本州に自生す
る小鬼ユリから選抜して増殖栽培に取り組んだの
が始まりとされる。主産地の真狩村では、1961 年
に「斎藤ゆり」で有名な斎藤行雄氏が自家用栽培
していた在来種の増殖を試みたのが始まり。1966
年には真狩村ゆりね生産組合が設立され、本格
的な栽培を開始した。食用では現在、苦みの少な
い小鬼ユリを交配親とする品種「白銀」を栽培し
ている。ゆりねの生産は北海道が全国の 98%を占
め、そのうち真狩町が道内の約4割を生産する。
京懐石料理にも用いられ、
京都の丹波地方でも栽培
されている。ゆりねの栽培
は畑に植え付けするまで
に 3 年、畑に植え付けてからさら
に 3 年の月日を必要とする。
中国では、古くから滋養強壮、
利尿、咳止め、鎮静作用などの薬用植物として用
いられていた。栄養成分面では炭水化物のほか、
カリウム、鉄、銅などのミネラル、ビタミン B1、B2、
ナイアシン、葉酸、食物繊維を豊富に含む。カリウ
ムの含有量は野菜の中でもトップクラス。
シソ
-タンニン系のロスマリン
酸、ルテオリン、アピゲ
シソはシソ科シソ属の一年草で、日本では奈良 ニンなどのフラボノイド
時代に薬用目的の栽培が始まり、食用になったの 配糖体などの有効成分
は室町時代以降とされている。シソは古くから漢方 も多く含む。機能性研
薬や民間薬として用いられ、またシソの種子には 究 では、TNF- α産 生
n-3系脂肪酸のα- リノレン酸のほか、ステアリン 抑制作用、IgE 抗体産生抑制作用、かゆみの抑
酸、パルミチン酸などが含まれ、咳や喘息の症状 制作用、花粉症、アトピー性皮膚炎などに対する
を緩和する作用が知られている。
改善効果が多数確認されている。シソ独特の香り
青シソの葉には、
β- カロテンとカルシウムのほか、 成分であるペリルアルデヒド類を除去した原料が
ビタミンB群、ビタミンK、カリウム、カルシウム、カ 流通しており、味覚や臭いに違和感がなく、汎用
ルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄分など豊富な栄 性も高いため、健康食品、飲料、菓子、化粧品、
養素を含む。また、抗アレルギー作用のあるカフェ 医薬品などさまざまな分野で利用されている。
ハッカ
らが品種の違いによる
「香りや風味」の差異を
ハッカはシソ科の植物で、全世界で栽培される 醸し出している。ハッカ
多品種のハーブ。3,500 年前に古代ギリシャで生 油は、水蒸気蒸留によっ
薬として利用されており、北海道では明治時代に て抽出され、さらにこれ
栽培されるようになった。
を冷却して再結晶させハ
シソ科特有の正方形の茎形と、葉をもむだけで ッカ脳と呼ばれる複合結晶(主成
感じられるスーッとする独特な清涼感は、ハッカ草 分は l- メントール)を得る原料に用いられる。これ
に含有する「ハッカ油」という精油によって出される らは食品用、生活用品、タバコなどの香料、医薬
もの。ハッカ油の含有量は一番多い「和種ハッカ」 品用としても利用されている。食品分野では、昔な
でも、1 ~ 2%ほどしか含まれていない。ハッカ油に がらの菓子、飴などの香料としての用途が代表的。
は、
「L(‐) メントール」や「L- カルボン」という主成 漢方薬(生薬名:薄荷葉(はっかよう)
)としても清
分と、その他 100 種類以上の成分が含まれ、これ 涼、解熱、発汗、健胃などの目的で用いられる。
23
薬用植物
薬用植物は薬用に用いる植物の総称であり、主に漢方薬(医薬品)の原料として
利用されている。
北海道は冷涼な気候や大規模栽培が可能であるなど、薬用植物の栽培に適した
環境を有しており、日本国内における主要産地の1つとして位置づけられている。ま
た、栽培の歴史も古く、開拓以前から薬用植物の栽培が行われている。
薬用植物は医薬品だけではなく、健康食品や化粧品の原料としても利用されるこ
とから、薬用植物の栽培に加えこれらの製品製造が北海道内で行われるようになれ
ば、一層大きな産業として発展する可能性がある。
医薬品原料としての薬用植物(生薬)は、現
在日本国内で 248 品目使用され、年間総使用量
は 20,273t に達する。このうち、中国から輸入す
る薬用植物は、国内総使用量の 83% を占めてお
り、中国からの輸入量、輸入価格はともに上昇
している。
国際的な医薬品向け薬用植物の需要は、中国
国内の増加に加え、米国での代替医療(漢方医
学や温泉療法、灸、アロマテラピーなど通常医
療を補完するもの)の拡大に伴ってさらに増加す
ると推測される。米国では代替医療の中でも漢
方薬が注目されており、
米国食品医薬品局(FDA)
24
が漢方製剤の承認を行った実績もある。
薬用植物は、医薬品以外にも健康食品や化粧
品の原料としても利用されるが、最終製品の用
途により、要求される品質、量、加工方法、価
格などが異なるため、販売目的で栽培する場合
は、事前にどの分野で取引を行うか十分な検討
を行うとともに、予め取引先を探し契約栽培を
行う必要がある。
なお、薬用植物の中には、品目や植物の部位
によって薬事法上の「医薬品」に該当し規制を
受けるものがあるため、使用に当たっては専門
家の指導を仰ぐことが重要である。
北海道産 機 能 性 素 材
センキュウ
センキュウはセリ科の多年草で、高さは 30㎝
~ 60㎝になる。セロリに似た特有の強い芳香が
ある。
中国が原産であるが、日本と中国で薬として
使用する品種が異なるため、主として国産のセ
ンキュウが薬として使用され、その大半が北海
道産である。
重要な漢方薬原料生薬の一つで、根茎を湯
通しして乾燥させたものが医薬品原料の「川芎」
(センキュウ)となり、鎮静剤、鎮痛剤として使
用される。また、血管を拡張して血液の流れを
良くし、体を温める作用があることから、漢方
薬では婦人薬として配合されるほか、入浴剤と
【生薬「川芎」を用いた漢方処方】
しても使用される。
血管を拡張して血液の流れを良くし、体を温
本来は芎窮(きゅうきゅう)と呼ばれていたが、
める作用があることから、特に婦人薬に配合さ
四川省のものが優良品であったため、四川芎窮
れ、一般用漢方処方では、当帰芍薬散、四物
が簡略化されて川芎となったと言われている。
湯、
防風通聖散など 56 処方に配合されている。
ダイオウ
ダイオウはタデ 科の多年草で、中国の標高
3,000 m以上の高原地帯に自生し、花茎の高さ
は 1.5 ~ 2 mにもなる。
日本では、シンシュウダイオウやホッカイダイオ
ウが、北海道や長野県などの冷涼地で栽培され
ている。
乾燥した根茎は、医薬品原料の「大黄」
(ダイ
オウ)として使用され、多くの漢方薬に配合され
る。医薬品原料としての国内での使用量は、中
国産が 8 割、日本産が 2 割程度である。
健胃、消炎、便秘改善などの効能がある。薬
効作用が強く劇的な効果が得られるため「将軍」
の異名を持つ。
食用として古くからヨーロッパで栽培されてい
【生薬「大黄」を用いた漢方処方】
るルバーブ(ショクヨウダイオウ)は、西洋料理や
大黄は広く便秘を解消する寫下薬として知られ
ジャム、菓子用フレーバーなどに使用され、日本 ており、一般用漢方処方では、大黄甘草湯、乙
でも長野県で栽培されている。
字湯、大黄牡丹皮湯など 33 処方に配合されて
いる。
25
ハトムギ
ハトムギはイネ科の 1 年草で、アジア熱帯地
域が原産。種皮を除いた種子を医薬品原料の
「薏苡仁」
(ヨクイニン)として用い、また、雑
穀として食用に、製粉して菓子などの原料、煎
った種子をハトムギ茶に利用する。さらに、そ
の抽出エキスは化 粧品原 料に利用されてい
る。なお、医薬品原料としての国内の使用量
は、ほぼ全てが外国産であり、うち中国産が 8
割を占める。北海道における栽培では、寒冷地
向け品種として育成した「北のはと」や「オホー
ツク1 号」が栽培されているが、冷涼な気候によ
り病虫害の発生が少なく、ほとんど農薬を使わ
ずに栽培できる。
また、道内の米、
麦および大豆農家
が保有するプラン
ター(播種機)や
コンバイン(収穫機)を利用することで、ハトム
ギの大規模・機械化栽培ができる。
【生薬「薏苡仁」を用いた漢方処方】
薏苡仁は,水分代謝を調節して関節や筋肉の
腫れ,神経痛,関節痛や筋肉痛などの病変や
胃腸病の改善の目的で漢方処方に配合される。
一般用漢方処方では、麻杏薏甘湯、薏苡仁
湯、参苓白朮散、桂枝茯苓丸料加薏苡仁、薏
苡附子敗醤散に配合されている。
トウキ
差が大きいところ
がよいとされる。
トウキはセリ科の多年草で、高さが 60 ㎝~ また、はさ掛け
80㎝程度になる。根を湯通しして乾燥させたも による自然 乾 燥
のが医薬品原料の「当帰」
(トウキ)として使用 は、トウキ調 製
される。医薬品原料としての国内での使用量は、 の重要な工程で
中国産が 7 割、日本産が 3 割程度である。肥え ある。寒 風に当
て大きく、細かい根が少なく潤いがあり、香味 てて自然乾燥させることでエキス含量が増加する
が強いものが良品とされる。
ことが知られている。
主な国内の産地は、奈良県、北海道、群馬
【生薬「当帰」を用いた漢方処方】
県、岩手県など。日本産の当帰は奈良、和歌山
当帰は血行障害、鎮痛、鎮静薬として婦人科
で主として栽培されるオオブカトウキと、北海道 疾患の治療を目的に処方される。一般用漢方処
で栽培されるホッカイトウキの 2 種がある。栽培 方では、当帰芍薬散、女神散、加味逍遙散等
については、気候を選ばないが、昼夜の寒暖の 75 処方に配合されている。
トリカブト(猛毒)
トリカブトはキンポウゲ科の多年草で、主に
北海道で栽培され、日本原産のオクトリカブト及
び中国原産のハナトリカブトの塊根を特殊な方
法で加工し、毒の成分を減らしたものが医薬品
原料の「附子」
(ブシ)として使用される。
毒性成分のアコニチンを含むため、アイヌの
人々が狩猟用の矢毒として用いたほか、狂言の
演目「ブス」に登場する同名の毒薬ブスも附子
(ブシ)のことであり、毒薬として非常に良く知
26
られている。
山菜のニリンソウ
やヨモギに似ており、
毎年のように食中毒
が発生。取り扱いに
は十分な注意 が 必
要である。
【生薬「附子」を用いた漢方処方】
附子は鎮痛作用、強心作用、血管拡張作用が
あり、一般用漢方処方では、八味地黄丸、牛車
腎気丸、真武湯など 25 処方に配合されている。
北海道産 機 能 性 素 材
その他の薬用植物
このほかにも、現在は生産量が少ないが、寒
冷地に生育適性があるもの、過去に大量生産し
ていた実績があるものなど、北海道で今後生産
が拡大していくことが期待できる薬用植物を以
下に紹介する。
カンゾウはマメ科の多年草で、ほとんどが中国
からの輸入である。鎮静作用や消炎作用などの
効能があり、日本で使用される漢方薬の 7 割に
使用されるほか、甘味料として醤油や菓子等に
も広く使用される。北海道は栽培に適した気候
であり、現在、道内の試験研究機関で栽培研究
が進められている。
ゲンチアナはリンドウ科の多年草で、寒冷地
に適した薬用植物であり、主にヨーロッパ山麓に
自生し、または栽培されている。日本では北海
道で栽培され、苦味健胃薬として使用される。
カノコソウはオミナエシ科の多年草で、昭和初
期には北海道や本州で栽培され多くはヨーロッパ
に輸出されていた。鎮静作用やリラックス効果を
持ち、漢方薬原料としては日本産のもののみが
使用されている。
シャクヤクはボタン科の多年草で、消炎・鎮痛
作用、血流改善作用などの効能があり、カンゾ
ウに次いで日本の漢方薬に多く使用されている。
日本では北海道や奈良などで栽培されている。
「根」は医薬品成分を持つため、漢方薬以外に
使用することはできない。
カンゾウ
ゲンチアナ
カノコソウ
シャクヤク
27
北海道生薬地図
稚内
しゃくやく
だいおう
芍薬、大黄、ゲンチアナ、
かんぞう
甘草、薏苡仁、ラベンダー
名寄
士別
ベニサラサ
(エゾノレンリソウ 野生品)
旭川
東川
美瑛
上富良野
芍薬
よく い にん
薏苡仁
(ハトムギ)
赤井川
豊浦
八雲
伊達
厚沢部
函館
28
当麻
札幌
由仁
富良野
夕張
千歳
壮瞥
附子
川芎
川芎、当帰、吉草根
当帰、附子、大黄、
吉草根、薏苡仁
根
せんきゅう
とう き
川芎、当帰、大黄、ゲンチアナ、
きっ そう こん
し こん
吉草根、紫根、薏苡仁
川芎、当帰、芍薬、
はっ か よう
吉草根、薄荷葉
にんじん
当帰、人参
湧別
滝上
常呂
網走
佐呂間
訓子 府
北見
足寄
音更
帯広
芽室
釧路
池田
幕別 浦 幌
し
ご か
刺五加(エゾウコギ)
更別
ぶ
し
附子(ハナトリカブト)
川芎、当帰、芍薬、
吉草根、大黄
芍薬
出所:北海道立衛生研究所
29
北海道産 機 能 性 素 材
豚・馬プラセンタ
北海道には養豚場や競争馬(サラブレッド)
を育成する牧場が数多くあることから、近年、
道産の豚・馬の胎盤から抽出したプラセンタ原
料を供給する企業が増えている。
プラセンタとは英語で胎盤を意味し、人体に
欠かせない各種の物質を胎児に供給する重要
な役割を担っている。プラセンタは必須アミノ
酸をはじめ、活性ペプチド、ムコ多糖体、ビタ
ミン・ミネラル、酵素類など豊富な栄養成分を
含む。また大きな特徴として、細胞の増殖・分
化を促進する各種の成長因子(グロースファク
ター)を含有することが知られている。
機能性研究では、ストレスなどで損傷した細
胞を再生・修復する作用などが相次いで報告さ
れているほか、美白作用、ホルモン調整作用、
抗酸化作用、免疫賦活作用、抗疲労、肌荒れ
改善、肝機能改善、毛髪関連などさまざまな
研究成果が発表されている。
プラセンタ原料は豚由来が大半を占めるが、
ここ数年で馬由来の原料も市場に浸透した。
健康食品市場では、コラーゲンやヒアルロン酸
など他の美容素材と組み合わせた複合品の上
市が活発化。コラーゲンに続く大型美容素材
としての地位を築いている。また強壮系素材と
組み合わせた商品も数多く流通する。
原料はエキス、エキス末。商品は飲料、ゼ
リー、アイスキャンディーのほか、錠剤・カプ
セルなどが流通する。馬プラセンタは1頭当た
り年1回、約3kg しか取れない希少性が売り。
イメージの良さやアミノ酸を高含有する点を特
徴としている。
エミュー
エミューはオーストラリアの国鳥で、アフリカ原
産のダチョウに次いで世界で 2 番目に背の高い
鳥類。気温差のある砂漠地帯に生息し、寒暖
の差にも強く、何万年もの間過酷な環境を生き
延びてきた生命力の強さは、寒さの厳しい北海
道での飼育も可能とし、北海道網走市にある東
京農業大学オホーツクキャンパスが本格導入を
進めている。雑食で、草や花、昆虫なども食べ
る。体長は大人の背丈ほどにもなるが、気性は
おだやかで人懐っこい動物である。
肉は高タンパク、低カロリーで、豚肉の約4倍
の鉄分を含む。また卵は卵白に特徴があり、独
特の弾力性を持っている。殻の色も天然保護色
のため深い緑色の特徴ある色合いであり、エッ
グアートなどに加工されている。羽根は1つの根
元から2枚の羽根が生え出した珍しい物で、オ
ーストラリアでは寝具などの羽毛商品として販売
されている。皮や骨、内臓に至るまで加工品とし
30
ての可能性を秘めている。
また他の家禽と特化して異なる点は、エミュー
の脂肪から取れるオイルの特性にある。もともと
オイルはオーストラリア先住民のアボリジニに数
千年前から利用されてきた歴史がある。動物性
なのに植物性脂肪を構成する不飽和脂肪酸を
多く含み、その中でも天然の潤い成分とされるオ
レイン酸は保湿効果、リノール酸は清潔感を保
つ効果が期待されている。厚生労働省の医薬部
外品成分表にもエミュー油として記載されており、
オイルはスキンケア商品や医薬部外品としての大
きな可能性を秘めている。
30
素
5 5素
材 材
北海道
問
い 合
わ
せ 先
問い合わせ先
ご紹介した北海道産機能性食品素材の詳細については、以下までお問い合わせください。
北海道バイオ産業クラスター・フォーラム(事務局)
公益財団法人北海道科学技術総合振興センター
(ノーステック財団)
クラスター研究部
〒 001-0021
札幌市北区北 21 条西 12 丁目 北海道産学官協働センター
TEL:011- 708 - 6392 FAX:011- 747-1911
E-Mail:[email protected]
取材協力先一覧
ご紹介した北海道産機能性食品素材の内容は、以下の企業および製品をもとに作成しております。
企業名
日生バイオ㈱
サケ
キノコ類
タマネギ
ジャガイモ
海藻類
亜麻仁(アマニ)
アロニア
ブドウ
ハマナス
甜菜
大豆
ヤーコン
行者(ギョウジャ)ニンニク
アスパラガス
カボチャ
主要製品
サケ白子由来 DNA、核タンパク、酵母由来 DNA
井原水産(㈱
サケ皮由来コラーゲン(アテロ化マリンコラーゲン溶液、マリンコラーゲンペプチド)
㈱藤井水産
サケ鼻軟骨由来コンドロイチン硫酸
バイオマテックジャパン㈱
サケ鼻軟骨由来プロテオグリカン、Ⅱ型コラーゲン(ナチュラルプロテオグリカン、ナチュラルコラーゲンⅡ)
㈱アミノアップ化学
AHCC(担子菌培養抽出物)
㈱スリービー
グルコセラミド(タモギタケ由来セラミド)
、バイオゴッド(タモギタケ濃縮エキス)
㈱北海道霊芝
純北海道産・自社培養栽培鹿角霊芝(旺煌)
ホクサン㈱
カバナタケ顆粒(ケストース<結晶オリゴ糖>添加)
㈱北海道バイオインダストリー
BRCオニオン(DPTS含有タマネギ加工品)
㈲植物育種研究所
くりやま健康たまねぎ さらさらレッド
コスモ食品㈱ 北海道工場
ポテ味(ポテトペプチド)
㈱東洋新薬
ポテイン(ジャガイモ由来タンパク質含有加工品)
( 公財 ) 函館地域産業振興財団
がごめ昆布
㈲亜麻公社
亜麻仁油(★)
ホクサン㈱
アロニア冷凍果実、アロニア粉体
㈱北海道バイオインダストリー
アロニア冷凍果実、アロニア濃縮果汁・エキス・粉体
北海道ワイン㈱
ワイン製造残渣(圧搾粕、澱<おり>)
㈱はるにれバイオ研究所
ハマナスエキス(化粧品用途)
㈱日本甜菜製糖
ニッテンラフィノース、ニッテンベタイン、ビートファイバー
㈱山本忠信商店
亜鉛大豆
㈱北海道バイオインダストリー
ヤーコンパウダー(ヤーコン粉)
㈱北海道バイオインダストリー
ギョウジャニンニクおよび粉体加工品
㈱北辰フーズ
アスパラ擬葉粉末および加工品
㈱アミノアップ化学
酵素処理アスパラガス抽出物
㈱北辰フーズ
西洋かぼちゃ種子油
シソ
㈱アミノアップ化学
シソ葉のエキス(粉体・液体)
カニ
北海道曹達㈱
ノースキトサン(工業用グレード)、キトアクア(天然保湿剤)、キトサン細胞培養基材
エイ
丸共バイオフーズ㈱
エイ軟骨由来コンドロイチン硫酸、エイ皮由来コラーゲン
ホタテ貝殻
北海道石灰化工㈱
シェルライム(ホタテ貝殻カルシウム)
ハスカップ
㈲はすかっぷサービス
ハスカップ果実(生 / 冷凍)
、ハスカップ加工食品
シーベリー
㈱遠藤組
シーベリー果実、シーベリーブレットペースト
㈱北見ハッカ通商
和種ハッカ油配合商品
㈱東京農大バイオインダストリー
エミューを使用した加工製品
コスモ食品㈱ 北海道工場
あずきの素(あずきエキス)
ハッカ
エミュー
小豆
ナガイモ
ゆりね
薬用植物
(財)十勝圏振興機構
ホクレン農業協同組合連合会
ナガイモ漬物(三升漬・醤油漬・味噌漬)
ー
独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究所
(★)自社商品の素材にのみ使用
31