泥炭性軟弱地盤における盛土施工事例

全地連「技術e-フォーラム2006」名古屋
【31】
泥炭性軟弱地盤における盛土施工事例
㈱ダイヤコンサルタント北海道支社
○近藤 桂二
江副 智成
1.はじめに
(3) 盛土の施工パターン
当該地域は,高圧縮性の泥炭を含む層厚約12m の軟弱
・盛土速度は5cm/day の緩速載荷工法を基本とする。
地盤が分布している。この軟弱地盤上を盛土による道路
・A ヤード:計画盛土高 H=1.9m,必要盛土厚 Hb=5.7m
建設が計画されており,盛土による地盤沈下,盛土破壊
押え盛土(高さ2m,幅6m)+カードボード
および周辺への影響等が懸念されている。当箇所におい
ドレーン工法(格子1.5m 配置)
ては,地盤調査,軟弱地盤解析等の実施により対策工法
・B ヤード:計画盛土高 H=2.0m,必要盛土厚 Hb=5.8m
の検討が行われており,併せて実物大モデルの試験盛土
を実施している。
押え盛土工法(高さ2m,幅6m)
(4) 観測機器の配置(図-2)
本文では,対策工の異なる2箇所の試験施工結果につい
て報告する。
各観測機器の測定目的は,以下のとおりである。
・地表面沈下板:地盤全体の沈下量観測
・層別沈下計:土層別の沈下量観測
2.試験施工の概要
・地表面変位杭:周辺地盤の変位観測
(1) 目的
・間隙水圧計:地盤中の過剰間隙水圧測定
試験盛土の主な実施理由は以下のとおりである。
・地中変位計:地盤深部の変位量測定
・本地域では大規模な盛土施工実績がなく,現対策工
地表面沈下板
施工時の地盤挙動に対する信頼性が乏しい。
地表面変位杭;
のり尻から0m,2.5m,10m,15m,25m,40m
・動態観測により,盛土の安定度,土質定数値の検証,
用水定点観測
周辺への影響等の確認を行う。
・本施工に向けた対策工修正や盛土安定管理方法,沈
地表面変位杭
(町道)
Ap1層
下収束時期等に関し,より精度の高い検討を行う。
(2) 試験ヤード(A,B)の仕様(表-1)
A ヤードは両層の中間に層厚1.5m 程度の砂層(As1)
地中変位計
Ac1層
・泥炭層(Ap1),粘性土層(Ac1)が層厚10m 程度分布し,
間隙水圧計
※Bヤード地盤
基底層
を挟在する。
・Ap1層の含水比は800%程度と非常に高く,圧縮性に富
層別沈下計
図-2 観測機器の配置
んでいる。
3.試験施工結果
表-1 各施工ヤードの地盤状況
層厚(m)
粘着力
c
2
(kN/m )
(1) 盛土施工実績(図-3)
内部
強度
摩擦角φ 増加率
(°)
m
Aヤード
Bヤード
Ap1
5.8
5.2
800
10.2
c=7,(Z<3)
c=7+(Z-3),(3≦Z)
0
0.40
As1
1.5
0.0
-
17.0
0
25
-
土層
記号
泥炭
砂質土
粘性土
単体
γt
3
(kN/m )
含水比
Wn
(%)
Ac1
3.2
5.0
110
14.0
c=7+(Z-3),(3≦Z)
0
0.35
※)Z;深度(m)
・A ヤード:必要盛土厚 Hb=5.7m に対し,施工盛土厚
Ht=5.7m(完了)
平均盛土速度 v=5.6cm/day
・B ヤード:必要盛土厚 Hb=5.8m に対し,施工盛土厚
Ht=4.1m(不安定化により中止)
平均盛土速度 v=4.4cm/day
(2) 盛土周辺の土地利用状況(図-1)
・L 側:旧 JR 跡地の盛土,町道,用水路(杭基礎)
(2) 沈下量経時変化図(図-3)
・R 側:水田,畑地
地表面沈下板の観測データ(全沈下量)を比較する
本体盛土
防雪林帯
用水路
と,盛土開始から80日付近までは,A ヤードの方が B
押え盛土
旧JR盛土
ヤードより初期沈下が大きい。中間砂層(As1)の排水層
としての効果もあるが,カードボードドレーンによる
町道
沈下促進効果も機能していると考えられる。
水田、畑地
図-1 試験施工ヤード周辺の土地利用状況
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6.0
(5) 安定管理図(図-6)
5.0
盛土厚(m)
4.0
盛土の安定管理は,「松尾・川村の安定管理図」を主要管
3.0
2.0
理方法として用いた。地中変位計のデータも同管理図に
Aヤード
Bヤード
1.0
0.0
0
20
40
60
80
100
120
経過日数t (日)
140
160
180
200
220
プロットし,安定管理の補助として用いた。
0
・A ヤード:設計盛土厚 H=5.7m を安定した状態で完了。
Aヤード
Bヤード
50
全沈下量(cm)
100
法尻変位杭,地中変位計ともに軌跡は上向きに推移し
150
200
ており安定した状態で盛土を完了した。
250
300
・B ヤード:盛土厚 H=4.1m にて,不安定化により盛土
350
図-3 盛土施工実績と発生沈下量
中止。法尻変位杭の変位量がさほど大きくはなかった
が,地中変位計の軌跡が右上へ推移する挙動が現れた
(3) 周辺地盤の鉛直変位状況(図-4)
ため,途中段階で盛土を中止している。
両試験ヤードとも,L 側の用水路および町道はほとん
松尾・川村の安定管理図
ど変位がなく,盛土施工による影響はないと判断される。
3.0
破壊基準線
Pj/Pf=1.0
(Fs=1.0)
R 側の畑地への変位は,B ヤードにおいて非常に大きく出
2.5
ている。これは,側方流動による影響の他,L 側が旧 JR
盛土完了
(Hb=5.7m)
Aヤード(地表面変位杭)
Bヤード(地表面変位杭)
Aヤード(地中変位)
Bヤード(地中変位)
Pj/Pf=0.8:盛土荷重が破壊荷重の約80(%)
Pj/Pf=0.9: 〃 約90(%)
Pj/Pf=1.0: 〃 約100(%)
盛土完了
(Hb=5.7m)
跡地で地盤強度が高いために,地盤変形が R 側に偏った
本体盛土
Aヤード沈下曲線(盛土完了時t=123日)
Bヤード沈下曲線(最終盛土時t=111日)
防雪林帯
用水路
旧JR盛土
押え盛土
町道
盛土沈下量S(m)
2.0
ためと推定される。
1.5
最終盛土
(Hb=4.1m)
最終盛土
(Hb=4.1m)
右上へ推移
(盛土中止の判断)
Pj/Pf=0.9
(Fs=1.11)
1.0
GL-1m
GL-2m
0.5
Pj/Pf=0.8
(Fs=1.25)
GL-3m
GL-4m
0.0
0.0
図-4 周辺地盤の変位
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
のり尻水平変位δ/盛土沈下量S
(地中最大水平変位δ/盛土沈下量S)
図-6 安定管理図
(4) 地中変位計の観測結果(図-5)
・A ヤードは,中間砂層(As1)が分布するため,Ap1層
に変位が集中し,下位の Ac1層まで変位は及んでい
ない。最大変位量を示す深度は一定であり,変位の
4.まとめ
カードボードドレーンと中間砂層により,地盤の圧密
を促進出来る構造を持った A ヤードは,ほぼ安定した状
増加率も小さい。
・B ヤードは,盛土が立ち上がるにつれて,最大変位
態を確保して盛土を完了する事が出来た。安定に関して
量を示す深度が Ac1層深部へ移動している。盛土厚
は,中間砂層の強度および対策工による圧密促進効果が
H=2.0m までの変位に比べ,それ以降の変位の増加率
影響していたと判断される。地表面変位杭,地中変位計
は大きくなっており,継続して盛土施工した場合,
供に盛土の不安定化を示唆する挙動は見られなかった。
B ヤードについては,Ac1層の圧密が遅いために,十分
すべり破壊の可能性も考えられる。
各測定深度毎の初期値からの変位量 (mm)
盛土側
-150
0
Aヤード
畑側
区間変位量(mm)
-100
-50
0
50
各測定深度毎の初期値からの変位量 (mm)
100
150
盛土側
-150
0
Bヤード
-50
Aヤード
0
50
100
150
面変位杭には不安定化を示唆する挙動は見られなかった
2
2
が,地中変位計にはその兆候が現れていた。この理由は,
Ap1
3
3
4
4
5
5
6
6
GL-(m)
GL-(m)
Ap1
7
当該箇所の様に泥炭性軟弱地盤が厚く分布し,圧密沈下
量が大きい場合は,盛土本体の引込沈下(L 側への変位)
の影響で,地表面変位杭の水平変位(R 側への変位)が低
7
Ac1
Ac1
8
8
9
9
減されたためと推定される。
今後は,同様の地盤条件での盛土施工の場合,地中変
10
10
位計を併用した動態観測計画を積極的に提案したい。
基底
11
11
基底
12
13
のため,盛土が不安定化し中止する結果となった。地表
Bヤード
1
1
As1
畑側
区間変位量(mm)
-100
な地盤強度を確保出来ず,地盤の側方流動を招いた。そ
Aヤード;H=2.0m(t=56日)
Aヤード;H=3.8m(t=94日)
Aヤード;H=5.7m(盛土完了時t=123日)
12
Bヤード;H=2.0m(t=69日)
Bヤード;H=3.2m(t=92日)
Bヤード;H=4.1m(最終盛土時t=111日)
13
図-5 地中変位計の観測結果