生物多様性と文化複合系の再構築に関する研究

生物多様性と文化複合系の再構築に関する研究
Study on reconstruction of conpound system with ecology and culture
岡村幸二*1 木村達司*1 和田彰*1 稲葉修一*2 藤原正明*3 高橋孝*4
Koji OKAMURA, Tatsushi KIMURA, Akira WADA, Shuichi INABA, Masaaki FUJIWARA, Takashi TAKAHASHI
本研究は、「山水都市」と呼ばれる日本の伝統的な都市構造に見られるように、生物多様性と文化多様性
がバランス良く融合した都市のあるべき姿(これを生態・文化複合系と仮称)の概念を明らかにし、今後の
まちづくりのなかで具体化するための方法論(仕組み並びに技術)を提示することを目的とする。特に都市
の水辺・水網に焦点をあて、各地の実態からまちづくりの中で自然が都市の文化に取り込まれてきた背景に
ついての分析を行い、行政の垣根や官民の垣根を越えた、生態・文化複合系再構築の新たな方向性を提案し
た。
キーワード:生態系、生物多様性、水辺、水網、半公半私、まちニワ
1. 研究の背景と目的
1.1 生態・文化複合系研究の背景
日本の都市は、古くから水路・水網を取り込んだ「山
水都市」と呼ぶに相応しく、都市と自然が調和した関係
をもって、鎮守の森や屋敷林、溜め池や氾濫源など「山
気水脈のネットワーク」がつくられていた。
「江戸名所図会」にも見られるように、江戸の町割り
において、いたる所に庭、広場、路地、水辺、河原など
が存在し、まちと自然が混在化した都市の構成を示して
いた。明治以降の近年になって、都市に人口が集中し流
域の開発・都市化が巨大化する過程で、広場や緑が失わ
れ、沼地の埋立、水路の暗渠化が進み、治水事業によっ
て河川のコンクリート護岸化、水辺の潤いの喪失が進ん
だ。
水路・水網の空間は、今でも地方に残された一部の都
市を除いて、その多くが失われていった。また、都市か
らも農村からも自然生態系が失われていった。こうした
中で、生態・文化複合系を再構築して、伝統的に日本の
都市に培われてきた都市の中に自然を取り込んだ「まち
ニワ」の空間を再生して、文化の花開く「山水都市」を
再構築することが求められている。
1.2 本研究の目的と課題
<目的>
本研究は、
「山水都市」
と呼ばれる日本の伝統的な都市
構造に見られる、生物多様性と文化多様性がバランス良
く融合した都市のあるべき姿(これを生態・文化複合系
と仮称)の概念を明らかにし、まちづくりのなかで具体
化するための方法論(仕組み並びに技術)を提示するこ
とを目的とする。ここでは、特に都市の水網に焦点をあ
て、各地の水網の実態から、まちづくりのなかで自然が
都市の文化に取り込まれ、あるいは切り離されてきた背
景についての分析を行い、行政の垣根や官民の垣根を越
えた、生態・文化複合系再構築の新たな手法を提案する
ものである。
以下に研究全体のフロー図を示す。
1.研究準備
2.生態・文化複合系研究に関する基礎情報収集
関連情報収集(文献、事例)
3.生態・文化複合系研究における課題整理
3.1
都市における広
場・水網研究の
課題
3.2
「まちニワ」の
類型と研究の課
題
3.3 生態・文化複合系
の再構築の課題
48 期研究成果とりまとめ
4.ケーススタディ検討
5.各テーマ技術研究
5.1
都市における広
場・水網研究
5.2
「まちニワ」の
類型と研究
5.3 生態・文化複合系
の研究
6.生態・文化複合系再構築に関する全体の方向性
7.全体成果とりまとめ
図1 研究の全体フロー
*1
国土文化研究所 Research Center for Sustainable Communities
*2
東京本社 環境部 Environment Division,Tokyo office
*3
東京本社 都市システム部 Urban Planning Division,Tokyo office
東京本社 水システム部 Water Management & Research Division,Tokyo Office
*4
社内各技術部門成果ヒアリング
- 79 -
<本研究の課題>
生態・文化複合系の再構築をすすめる上で要となる水
網ネットワークの復元は、狭義の「生物多様性」と「文
化多様性」を別々のものとして捉えるものではなく、生
物多様性が文化に取り込まれる、広義の「生態・文化複
合系」として「人」と「自然」と「社交(コミュニティ)
」
の場として復元することは重要な意義がある。また、日
本の都市の多くがかつては「山水都市」の姿をもち、一
度失われた水辺と水網ネットワークを復活させることが
生物多様性にも寄与することを説明することは、
「生物
多様性条約」を締結した我が国の国家的な使命への提言
にもなると思われる。
実際にかつての水網ネットワークを復元するためには、
「水郷」
「水都」と呼ばれる地域が、どのように“水”と
付き合ってきたのかを、現地を調査したり関係者のヒア
リングを実施するなど、地域の歴史や地理を丁寧に調べ
ることが欠かせない。また、水路・水網が生活や生業の
中でどのような役割を果たしていたかを知り、それらを
現代に引き継ぐ「生態・文化複合系の再構築」の方策を
検討することは、時宜にかなったことであると考える。
そのためには行政施行の仕組みを変えることが前提と
して必要であるが、湧水、農業用水、河川、運河・掘割
に至るまで、人々の生活に密着した小水路から大きな水
路までの水網全体を形成する必要がある。
都市の中に様々な形態をもつ水網を有するというとい
うことは、河川に課せられた治水の制限(HWL、管理
用通路、占用、植樹基準等)を受けない水辺において、
自由度の高いデザインが可能となり、都市の水辺におけ
る人々の社交の場(これを「まちニワ」と呼ぶ)の形成
が現実的なものとなる。その際に、かつて水辺が生活空
間の一部であった時代に戻って、歴史的町並みのように
それらを復元するといったノスタルジーな思想ではなく、
現在・未来の都市に求められる水辺社交の場(
「まちニ
ワ」
)となるに違いない。
また、
様々な形態をもつ水辺を復元するということは、
現在絶滅の危機にある生物を初めとした生物生息環境が
豊かになるということであり、生物多様性の面からも水
網の復元が必要である。
本研究は、当社の得意分野である「水」を対象とした
研究であるということは、水網及び「まちニワ」の復元
を実現化するにあたり、これまで当社が培ってきた技術
を融合して活用することに他ならず、今後の社会資本整
備をリードする可能性が高いと考える。
1.3 生態・文化複合系研究の意義
<変貌した「山水都市」日本>
かつて我が国には山や水などの自然を巧みに利用した、
いわば「山水都市」というべき伝統的な地域づくりが行
われていた。ここでは、地域の自然環境の特性に応じた
土地利用や地域社会の形成が行われ、豊かな文化と生物
との共生も含めたエコロジカルな暮らしが成立していた
- 80 -
と考えられる。どの地域でも毛細血管にあたる川や水路
が身近に存在し、飲用・洗濯・水運・農工・漁業・防災・
娯楽・景観など生活に根ざした利用がなされ、これらが
地域独自の文化を生み出し、生物と文化が程良く融合し
た自然循環型社会を形成してきた。いわば、
「生物多様
性」と「文化多様性」がバランス良く複合した地域づく
りが行われていた。
このような地域形成を目指すことを、
ここでは「生態・文化複合系(仮称)
」の地域づくりと呼
ぶこととする。
しかし、経済最優先の近代化・都市化の過程で、洪水
の危険性や衛生面の問題など川や水路が負の側面を抱え
るようになると、地域が連携して対応してきた歴史を棄
て、それらの対処を行政に任せる、すなわち自分たちの
暮らしから水辺を遠ざけるという選択をした。こうして
合理化優先の中で人間と自然の繋がりを切断した結果、
それまで保たれていた自然と社会との適度な緊張感や環
境のバランスが崩れるとともに、水と人との関わりの中
で生まれるコミュニティの繋がりや精神的、観念的な規
範が薄れ、地域の個性やアイデンティティという文化を
も失うこととなった。
「生態・文化複合系」を再構築することは、これから
我が国が直面する「循環型社会」
、
「自然共生社会」
、
「低
炭素社会」を一体的に捉えた持続可能な社会を実現する
ことを目指し、
生物多様性を地域の文化に取り込んだ
“現
代の山水都市”をつくることである。
祇園白川(京都市)
2. 生態・文化複合系に関する基礎情報整理
2.1 水辺と都市・生態の変遷
(1)近年の行政の取り組み
都市化とともに水辺・水網の環境が悪化し、水路も多
くが失われた。その反省もあって、近年水辺を取り戻そ
うと、
各省庁においてそれぞれの政策がなされているが、
縦割り行政による水辺の復活の取り組み、少子高齢化・
財源の枯渇を理由として、かつてのような水網の復元に
は至っていないと推定される。
また、実現化された部分的な水辺の復元においても、
狭義の「親水的整備」
(都市のなかで生物の生息・生育不
可能な水路等)と、
「生態的整備」
(ビオトープの整備)
と二極化の傾向があると推定され、本来、我が国が有し
ていた文化と自然と社交場がミックスされた水辺の形成
には至っていないと推定される。
一方、現在の水辺に依存する生物の現状をみると、環境
省で出されているレッドデータリストでは、汽水魚・淡
水魚の 400 種のうち絶滅のおそれのある種の総数は 144
種が選定され、日本に生育する水草のおよそ3分の1の
種が絶滅危惧種に選定されるなど、水辺環境には多くの
絶滅危惧種が存在する。民謡や唱歌に歌われてきたドジ
ョウ、ホタル、メダカなどが絶滅の危機に瀕しているの
である。2010 年 6 月現在、日本を含む 192 か国及び欧州
連合(EU)が「生物多様性条約」を締結しており、我が
国においては、水辺の生物多様性の復元は、国家として
取り組むべき宿題が課せられたと考えられる。
しかし、そんな状況のなかでも、柳川掘割や郡上八幡
のように、水を家の庭に引き込むなど人々の生活に密着
した毛細血管のような流れが維持されている地域もあり、
人と生物が共存し、舟下りなど人と水辺との社交の場も
維持されている。また、大都市の中でも六本木ヒルズに
おける毛利庭園の水辺復元と隣接したカフェテラスが整
備されるなど新しい試みもされている。
2.2 類似研究活動の概要整理
自然再生や生物多様性の取り組みが地域の文化に取り込
まれるための様々な既往研究をあげると、土木系、建築
系、環境系、人文系などに分類して整理してみると、次
のように 6 件の参考事例があげられる。
①21 世紀の社会システム・国土管理のあり方に関する研
究会(2002 年~2003 年、国土交通省)
②自然共生型流域圏の構築を基軸とした国土形成に向け
表1
て―都市・地域環境の再生―(2006 年~2008 年、日本学
術会議)
③「生態と歴史を結びつける都市と地域の再生研究」
(2004 年~現在、法政大学エコ地域デザイン研究所)
④水辺のまちづくり研究(2000 年ごろ、日本建築学会環
境工学委員会)
⑤里川研究プロジェクト(2003 年~2006 年、ミツカン水
の文化センター)
⑥湿潤アジアにおける「人と水」の総合的研究(2006 年
~2010 年、人間文化研究機構)
2.3 水辺・水網事例調査(概略事例調査)
(1) 生態・文化複合系に配慮した水辺・水網調査
我が国には、
「水網都市」
と呼ぶべきまちが各地に存在
していた。これらの水網都市は、例えば、農業開発のた
めの用水路を生活や産業、舟運等に活用するなかでまち
のなかに水路網が形成されたもの、城下町の建設の過程
で、舟運や上水の確保のための水路網を形成したもの、
デルタ地帯を乱流する河川を堀割として整備・活用した
ものなど、さまざまな由来を持っている。こうした水環
境や水辺空間が地域の特性に応じて活用されるなかで、
その地域特有の文化が生まれ、生態系が形成されてきた
ことを、ひとことで言うならば「生態・文化複合系」と
呼ぶことができる。
これまでの水辺・水網都市と呼ばれる全国の事例の中
には、
「生態・文化複合系」にふさわしい箇所が含まれて
いると考える。ここでは、文献調査から、合計 51 箇所の
事例を選定し、それぞれの機能、地形、利用形態などを
整理分析し、一覧表に取りまとめた。
水辺・水網調査基礎調査・一覧表
■生態・文化複合系 水辺・水網調査
№
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
類
型
G
A
A
A
D
D
B
G
F
A
D
D
G
A
G
A
A
A
D
C
A
C
C
D
A
D
B
A
B
A
E
A
A
F
F
C
B
D
C
B
D
B
B
A
D
B
G
A
B
A
E
水網
六郷湧水群(美郷町)
山形五堰(御殿堰)(山形市)
会津若松(会津若松市)
大内宿(下郷町)
巴波川(栃木市)
利根川下流部(潮来・小野川等)
玉川上水等(東京都)
野川と関連する用水(東京都)
江東内部河川(東京都)
日野の用水網(日野市)
信濃川・阿賀野川デルタ(新潟市)
松川・いたち川・富岩運河(富山市)
生地の清水(しょうず)(黒部市)
辰巳用水・鞍月用水等(金沢市)
本願清水等(大野市)
熊川宿・前川(若狭町)
越前東郷(福井市)
安曇野の水路(安曇野市)
木曽三川下流部
瀬戸川用水(飛騨市)
三町用水路(高山市)
馬籠宿の水路(中津川市)
郡上八幡(郡上市)
水門川(大垣市)
源兵衛川(三島市)
勢田川(伊勢市)
八幡堀(近江八幡市)
高月町・雨森地区(長浜市)
新旭町・針江地区(高島市)
坂本水路網(大津市)
地蔵川(米原市)
五個荘町の水路(東近江市)
祇園白川・高瀬川(京都市)
道頓堀川・東横堀川等(大阪市)
松江堀川(松江市)
津和野の水路(津和野町)
西川用水・枝川用水(岡山市)
太田川デルタ(広島市)
坪野の水路(安芸太田町)
藍場川(萩市)
吉野川デルタ(徳島市)
柳川堀割(柳川市)
佐賀の水路(佐賀市)
島原の湧水・水路(島原市)
緑川・白川下流部(熊本市)
元荒川と葛西用水(越谷市)
過去の水網の履歴(六本木)
星川他用水(熊谷市)
高沼用水(さいたま市・与野)
芦ヶ池水路(堺市)
江川せせらぎ(川崎市)
機能
湧水
用水路
用水路
用水路
河川
河川
用水路
河川・湧水
堀割・運河
用水路
河川
複合
湧水
用水路
湧水
用水路
用水路
用水路
河川
用水路
用水路
用水路
用水路
複合
用水路
河川
用水路
用水路
用水路
用水路
河川
用水路
用水路
堀割・運河
堀割・運河
用水路
用水路
河川
用水路
用水路
河川
用水路
用水路
用水路
河川
用水路
湧水・池
用水路
用水路
用水路
河川
地形
扇状地
扇状地
扇状地
盆地
沖積平野
デルタ
台地
台地(崖線)
デルタ
扇状地
デルタ
沖積平野
扇状地
扇状地
扇状地
扇状地
扇状地
扇状地
沖積平野
谷底平野
扇状地
谷底平野
谷底平野
沖積平野
扇状地
デルタ
デルタ
扇状地
デルタ
扇状地
扇状地
扇状地
扇状地
デルタ
デルタ
谷底平野
沖積平野
デルタ
谷底平野
デルタ
デルタ
デルタ
デルタ
扇状地
沖積平野
沖積平野
台地(崖線)
扇状地
台地
扇状地
扇状地
分類
水網 単独
△
○
○
◇
○
◇
○
○
○
○
◇
○
△
○
△
◇
◇
○
○
◇
◇
○
◇
◇
◇
○
○
○
◇
○
○
◇
○
◇
◇
○
◇
◇
○
○
◇
○
○
◇
○
◇
◇
◇
利用形態(○はかつて、◎は現在も)
生活 農業 舟運 生物 遣水 治水 親水 観光
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◎
◇
◎
◇
◇
○
◎
◎
◎
◇
◎
○
◇
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎
◎
◇
◎
○
◎
○
◎
◇
◎
◇
◇
○
○
○
◎
◇
◎
◎
○
○
◎
○
○
○
○
◎
○
◎
◎
◎
◇
◇
◇
○
○
○
○
◎
○
◎
○
○
◎
◎
◇
◇
○
◎
○
◎
◎
◎
◇
◇
○
○
○
○
◎
○
◇
◎
◇
◇
◎
◎
◇
○
○
○
○
◇
◎
○
◇
◎
○
◎
◎
◇
◇
○
◎
◎
◎
◇
◇
○
○
◎
○
◎
◇
◇
◎
○
○
○
○
○
△
◎
○
◎
◎
◎
◎
◇
○
◇
◇
○
○
○
○
◎
◎
◎
◇
◎
◎
○
○
○
○
○
○
○
○
○
◇
◇
○
◇
- 81 -
文化
○
重点
D
◇
G
◇
A
◇
○
◇
D
◎
○
○
C
A
C
◇
A
◇
B
◇
A
G
A
F
F
◇
B
B
○
○
○
○
◇
B
B
特記
町内78か所の湧水群で、名水百選にも選定されている。
馬見ケ埼川の合口頭首工から取水され、疎水百選にも選定されいる。
戸の口堰、雁堰、門田堰からの水路網が健在だが市街地内は暗渠化される。
伝建地区の町並み集落を流れる水路が昔の街道沿いの宿場を演出する。
思川から取水した巴波川等の舟運で発展した。05年から舟運観光も始まる。
佐原地区は重要伝建地区に選定され、水の里百選にも選ばれている。
武蔵野台地一帯にかつての用水路網が残されている。
小金井市地下水及び湧水を保全する条例あり。真姿の池湧水群が名水百選。
隅田川・荒川にもつながる防災・親水空間のネットワークとして機能。
日野市清流保全条例はH18年に全面改定。いまでも170kmの用水路がある。
信濃川と阿賀野川のデルタ一帯の内水面
富山市街を囲うように松川といたち川が流れる。城下町の舟めぐりが運行。
生地(いくじ)地区は家と家の間や小路など至る所に湧水がある。名水100選
辰巳用水は兼六園の曲水にも利用され、鞍月用水も香林坊など市内を流れる
イトヨの里として知られる。湧水は名水百選にも選ばれる。
若狭街道途中の重要伝建地区の宿場町。各家前に「かわと」と呼ぶ洗い場。
越前東郷駅前を流れる堂田川のせせらぎを活かしたまちづくり
山々から広い河原に伏流し、再び流出して名水100選わさび田湧水群を形成。
木曽三川河口地域の低平地の水網地域。海津市・長島町では水の里百選に。
以前は農業用水、生活用水や流雪溝にも利用し、今は町並みと一体水路に。
城下町高山の町並みは重要伝建地区で、防火用水としても欠かせない。
馬籠宿の前を流れる小水路。水車などにも使われ,観光客の目にも止まる
今も水路が生活空間の一部。用水ごとに掃除当番がいて共同洗い場もある。
大垣は芭蕉など文化かおり、地下水が豊富でまちには水と緑があふれる。
富士山の湧水を水源に、中心市街地を流れ、市民の憩いの場として再整備。
河崎地区は瀬田川の水運を利用した問屋街として発展。「川の駅」も整備。
琵琶湖有数の商都として栄え、水郷めぐりでは八幡堀から湖畔のヨシ原まで
集落内に用水路が縦横に流れ、手作りの水車や鉢が置かれ鯉が泳いでいる
針江大川の集落内の湧水(水路)や”カバタ”(川端)の暮らしが特徴
比叡山東麓の町に、大宮川から水を引き込んだ日本の伝統的な遣水庭園
「居醒の清水」から湧き出る中山道の醒ケ井宿を流れ、各家に洗い場がある
中山道の要衝で伝建地区の金堂地区は近江商人発祥の地。水路には鯉が泳ぐ
山紫水明の地に大阪から物資を送った高瀬川。祇園白川には古都の風情が。
「水の都」大阪随一の繁華街を流れる道頓堀川。水上バスも盛んに走る。
H5年から市民ぐるみの水質浄化後、遊覧船コースは歴史・文化・水が見える
町の中央・錦川から水を引き込み白壁沿いに水路に菖蒲を植え、鯉を放す。
旭川からの用水は市街地を緑道として流れ、沿川にブティック、カフェが。
今も残る雁木は当時の荷揚げ場を物語る。遊覧船観光は重要な手段である。
加計町の坪野地区に流れる農業用水に、鯉が泳ぎ、イモ洗い水車が回る。
阿武川が分岐する三角州一帯に2.6kmにわたり藍場川が縫うように流れる。
吉野川の派川の新町川にはボードウォークや水辺の公園があり、舟運も盛ん
一度暗渠化を決めた掘割を浚渫再生し、水郷の風情を満喫する整備を実施
濠、水路、クリークがネットワークされ、石井樋から多布施川を通して導水
武家屋敷がたたずむ小京都。雲仙普賢岳噴火以降、水をテーマにまちづくり
下流部の水網を活かして緑と水のネットワークを進める
越谷市役所などの前を元荒川と葛西用水が並行して親水空間(ボート練習)をつくる
六本木かいわいは江戸時代に毛利庭園や多度津藩江戸屋敷跡の岩崎邸の庭園が残る
熊谷市中心市街地を流れる星川と周辺の農業用水網は一部環境用水としての価値が
さいたま市与野の住宅地を流れる用水。市民活動に支えられて「まちニワ」をつくる
芦ヶ池と仁徳陵をつなぐ水路の再生を「貴重な歴史遺産のひとつ」WSでまとめる
「湧水の小道」など8つのゾーンに分け、下水処理水によるせせらぎ水路を整備した
(2) 基礎調査からの絞り込み
(2) 所在地(都道府県・市町村・最寄駅)
① 水辺・水網事例の選定方法
(3) 水網構成要素(河川・用水路・湧水・その他)
基礎調査から一次選定した 51 の事例は、
河川の類型と
(4) 水源(河川・湧水・その他)
しての
「流れの機能」
「地形」
「水網か単独水路」
「利用形
(5) スケール
態」などから、バランス良く特性・類型整理を行った。
(6) 地形(山間地・盆地・台地・扇状地・自然堤防帯・
<7 つの類型からひと通り選ぶ>
デルタ)
A.用水路・扇状地タイプ
(7) 水網形態(本支川型・単一水路型・分合流型・分派
B.用水路・デルタ(沖積平野)タイプ
流下型・網状・回廊型・その他)
C.用水路・谷底平野タイプ
(8) 水量
D.河川・沖積平野(デルタ)タイプ
(9) 水質
E.河川・扇状地タイプ
(10)まちニワ要素
F.掘割/運河・デルタタイプ
(11)地形図
G.湧水・扇状地タイプ
(12)利用形態(治水・生活用水・農業用水・舟運・生業。
・
<全国的に対象箇所を選定する>
生態系・行事イベント・その他)
できるだけ地域が偏らないように配慮する。
(13)水網の成り立ち(目的・成立年代・主な変遷)
関東 2、東京 3、北陸 2、中部 4、近畿 5、中国 4、九州1
(14)近年の事業等の推移
<生活の中に活かされている>
(15)主な活動団体
主要な著作にも紹介がされており、一般的な知名度が高
(16)写真
いものは積極的に選定する。また、とくに生活の中に溶
(17)参考資料
け込んでいる事例については優先的に選定をする。
2.4 水辺・水網詳細調査
② 調査票を作成する対象事例(二次選定 21 か所)
(1) 21 事例の調査票からの分析
水辺・水網調査票は以下の項目により作成した。
水辺・河川の機能と地形条件などから、7 つのタイプ
(1) 水辺・水網の名称
に分類整理した。
表 2 水辺・水網の特性から見た類型区分
目的別の分類
水路・河川の類型
水辺・水網の特性
主な事例
1.持続可能な水循環 C 用水路・谷底平野 農業用水や生活用水目的の水路を 瀬戸川用水
系の維持
タイプ
基本的に維持・保全
郡上八幡水路
2.持続可能な水循環 G 湧水/河川・扇状 湧水を飲料水として使われるとと 国分寺崖線/野川
系の維持
地タイプ
もに、親水水路としても活用
地蔵川
3.自然と共生して用 A 用水路・扇状地タ かつての農業用水の一部を維持・保 日野の用水網
水路を維持
イプ
全し、環境用水として機能
4.自然と共生して用 B 用水路・デルタ/ かつての上水水路網を残して、清流 玉川上水
水路を維持
沖積平野タイプ
復活を目的に自然と共生。
5.骨格河川の中に残 D 河川・沖積平野/
され水網を活用
デルタタイプ
かつての物資運搬の舟運機能に代
わって、地域活性化や観光目的で水
辺を活用
6. 水辺を残して文 B 運河/用水路・デ 一度は不要となった掘割を浚渫・浄
化・賑わいを創出
ルタ/沖積平野タイ 化して、観光舟運などで地域の観光
プ
資源となる
7.歴史的町並みの風 A 用水路・扇状地タ 疎水や用水の水路を地域の町並み
致形成のために環境 イプ
と合わせて保全し、環境用水路とし
用水を維持
て活用
3. 生態・文化複合系の再構築に関する課題整理
3.1 水辺・水網事例からみた変遷要因分析
水系が失われた要因をみると、時代の変化によって土
地利用が変わり、水辺・水網の役割そのものが変わる「背
景としての要因」と、河道整備、下水道整備、道路整備
などの「直接的な要因」に分けることができる。
巴波川
潮来・小野川
松川・いたち川
八幡堀、柳川掘割、
松江堀川
道頓堀川
祇園白川・高瀬川
辰巳・鞍月用水
坂本水路網
(1) 要因のポイント
◆背景としての要因
<流域の開発・都市化>
→ 流出量増大、氾濫原の市街化
→ 一極集中にともなう地域の崩壊
<川と離れた生活スタイル>
- 82 -
4.賑わいの創出
一度は水網ネットワークの役割がなくなった地域にお
いて、新たに地域振興の目玉として生物多様性の環境を
活かし、舟めぐり等の文化行事復活の取り組みを行って
いる。
4.大内宿、35.松江堀川、36.津和野、42.柳川掘割
→ 舟運交通の減少、水辺に背を向けた家並み、親水空
間の喪失
<循環系及び水系ネットワークの崩壊>
→ 水網ネットワークの喪失
◆直接的な要因
<治水優先の河道整備>
→ 水網と骨格河川との不連続化
→ 河道中心の対応・効率性重視による画一化
<下水道の整備>
→ 下水道網の整備による水路の暗渠化
<生物多様性の弱体化による自然の喪失>
→ 水生生物の減少、身近な川の生物の消失
国分寺崖線の湧水「お鷹の道」
図 2 都市化で失われる水網のイメージ
(2) 生態・文化複合系の成立要因
生態・文化複合系のネットワークが、現在においても
維持・継続しているケースの主な成立要因をみてみると、
以下の 5 つの要因が考えられる。
【主な成立要因】
1.持続可能な水系・地域社会
生態・文化複合系の基本構造そのものが時代によって
変わることなく、農業用水や生活用水としての湧水など
が現代においても存在し、継続的に水系が維持されてい
る。
1.六郷湧水群、2.山形五堰、10.日野の用水網、13.
生地の清水、14.辰巳用水、18.安曇野の水路、27.八
幡堀、30.坂本水路網、40.藍場川、43.佐賀の水路
日野市内の用水網
広島:太田川
2.自然との共生
生物多様性(自然)と文化多様性(コミュニティ)と
の融合があることによって、都市の文化の中へ生態系が
取り込まれる(自然を人間の懐深く取り込む)ことで自
然と共生する関係を確保している。
10.日野の用水網、27.近江八幡、18.安曇野の水路
八幡堀と歴史的町並み
3.骨格デザインの存在
地形と河川の水系による骨格的なデザインが存在し、
その中に水網と結びついた地域の生活が成立している。
12.松川・いたち川、38.太田川デルタ
5.暗渠化した水路に代わる水路再生
農業用水路の機能の廃止などから、水路の暗渠化や廃
止に代わって、
せせらぎ水路として復活させた。
水源は、
下水処理水の有効利用などを活用している。
- 83 -
50.芦ヶ池水路、51.江川せせらぎ遊歩道
図-3 概念装置としての「まちニワ」
暗渠排水の地上部は親水水路
3.2 生態・文化複合系に関する「まちニワ」の概念整理
(1) 生態・文化複合系に「まちニワ」を位置づける
生態・文化複合系の再構築を実現するには、まず「面
の対応」として水辺・水網を支える水系そのものを維持・
保全することが第一であり、水源地である山林や農地を
保全するとともに、コンパクト・シティを目指して都市
全体において生物多様性への配慮を行っていくことが必
要である。第二には「線の対応」として、現代の山水都
市復活いう観点から、水系全体の毛細血管にあたる水網
をできる限り復活させて、その水源確保と水質浄化にも
取り組むこと、そして第三に「点の対応」として、生態・
文化複合系を構成する重要な要素である、半公半私の空
間の「まちニワ」を構築していくことである。
「生物多様性」と「文化多様性」がバランス良く複合
した地域づくりを考えるとき、都市近郊に見られるいわ
ゆる「里地里山」の役割も重要である。
「里地里山」とは、原生的な自然と都市との中間に位置
し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農
地、ため池、草原などで構成される地域であり、農林業
などに携わる人間の働きかけを通じて環境が形成・維持
されてきた。こうした里山には、その地特有の生物生息
環境として、
食料や木材など自然資源の供給場所として、
地域らしい景観、文化の伝承という視点からも重要な地
域である。
一方、
「まちニワ」は、
「里地里山」に対して、都市内
において、自然的空間と文化的空間が影響をし合って、
人々の安らぎと交流の場となるコミュニティ空間と定義
されるものであり、現代日本の都市において「生態・文
化複合系」を構成する重要な要素であると考えられる。
「まちニワ」にも歴史的にみても「道」
「広場」
「水辺」
「水網」
「みどり」
「社寺」など、様々な領域において里
山と類似する空間が浮かんでくる。先の生態・文化複合
系の中で考えると、
「水辺」
「水網」の中において、人が
水を利用する接点となる場所、例えば、水くみ場、洗い
場、渡し場、橋詰などの空間は、人が自然と触れあう場
所であり、人が集まり賑わう場所でもあるという点で、
「まちニワ」の一例であると言えよう。
- 84 -
(2) 「まちニワ」の持つ性格と機能
「まちニワ」とは、以下の性格を複数備えた空間と考
えることが出来る。
ここでは、
事例をもとに、
「まちニワ」
空間のもつ性格を明らかにするとともに、その機能、役
割、配置について考察する。また、それらが時代の変遷
とともにどのように変化してきたのか、その結果として
現在どのような課題があるかを明らかにする
これらの「まちニワ」において共通してもっている場
の特徴を、以下のように整理することができる。
<主要な性格>
・曖昧性:公の空間と私の空間の境界領域に存在する
・開放性:地域の住民が共同で利用する
・多様性:単一目的ではないさまざまな利用がある
・自然性:都市における生物ネットワークの拠点となる
・歴史性:古くからコミュニティの中心として機能する
・文化性:地域特有の文化・風習を育んでいる
<個別的・特徴的な性格>
・精神性:地域の人々の心の拠り所となっている
・規範性:地域による無言のルールが定められている
・生産性:生業・生活に結びついている
・象徴性:信仰や地域アイデンティティの対象となる
・啓発性:災害や事故などの記憶を伝承する
・安寧性:火除け地や助命壇など、災害時の避難場所や
備蓄場所となる
境界が曖昧で開放的な水路
3.3 生態・文化複合系の再構築における課題整理
以上の研究を踏まえ、これからの生態・文化複合系を
再構築するための課題を整理する。
ここでは、人々が生活し、様々な活動を地域の中で行
うことで、生態・文化複合系の再構築に向けての3つの
段階に広げていくことで、生物多様性が都市の文化にど
のように取り込まれることが可能であるのかを整理する。
<再構築の3つの段階>
A.生態・文化複合系を保全する
・これまでの地域社会と生態系の保全に対しての積極的
な取り組みを継続的に守ることで、生物多様性と文化多
様性が維持されている状況を維持・保全する。
・たとえば、野川と関連する用水、辰巳用水・鞍月用水
B.生態・文化複合系を回復させる
・都市化の拡大及び機能的、効率的な治水事業の進展に
よって、かつての水網ネットワークや遣り水水路などが
失われるか、暗渠化の水路に変貌してしまった現状に対
して、市民の要望や活動を背景として、親水水路の復活
や観光事業としての魅力度向上によって、水路・水網の
再生を行う。
・たとえば、八幡堀、柳川堀割、芦ヶ池水路
C.生態・文化複合系を創出する
・都市の中に求められる生物多様性のエコロジカルネッ
トワークや緑の基本計画における緑のネットワークを構
築する場合に、生態・文化複合系の観点から、せせらぎ
水路の創出や人々の生活に密着した毛細血管のような水
網を形成する。
・たとえば、江川せせらぎ
人
文 化
生態
コミュニティ
2
4.生態・文化複合系の再構築の方針とイメージ
4.1 再構築の方針
<再構築によって得られるもの>
生態・文化複合系の再構築は、いま、地球環境への負
荷の軽減や自然エネルギーの積極的な活用をめざす取り
組みの中で、
「コンパクト・シティ」
「循環型社会」
「低炭
素社会」をめざすことにも繋がっていくことが明らかで
ある。生態・文化複合系の再構築により得られるものは、
「保全」
「回復」
「創出」のいずれの段階においても、次
の4つのテーマに集約することができる。
(1)緑の連続性
・都市における緑のつながりとネットワークをつくる。
そのために、すべての自治体において「緑の基本計画」
に示されるように、緑の保全・活用や樹木・樹林地の保
全・活用、緑のネットワークづくりに力を注ぐこととす
る。
(2)水網の復活
・水と親しめる水辺空間を豊かにして、都市の中に水網
ネットワークをつくる。そのために、都市の水循環の確
保を重視して、いま残されている河川・水路の環境を保
全するとともに、失われた水網に対して、新たな「水の
道」を復活させる取り組みを行う。
(3)生物多様性
・生物多様性に配慮して、都市内にも生態系豊かな環境
をつくる。そのために、生き物の生息・移動に配慮して、
多自然河川の整備、公園・学校などのビオトープ、河川・
水路の水質浄化などを推進する。
(4)賑わい・交流
・市民が集い憩うことのできる安らぎと交流の場をつく
る。そのために、市民が自分たちのまちに誇りが持てる
ような賑わい・交流のできる「まちニワ」を創出し、山
紫水明の自然へのつながりを新たに構築する。
以上の取り組みテーマを幅広く進めていくことによっ
て、人と自然との交流が強まって、生態系が都市の文化
に取り込まれるようになる。
遊水地
里地里山
ヨシ原復元
小学校
水路復活
都市内農地
文化施設
- 85 -
集合住宅
【目指すべきテーマ】
緑の連続性
(緑の基本計画)
【具体的取り組み】
緑のつながりをつくる
公園・緑地を整備する
生態系への配慮
(生物多様性戦略)
生態・文化複合系の
再構築
水循環を確保する
多自然川づくり
水網ネットワーク
の改善・復活
水辺・水網の復元
「まちニワ」の創出
賑わい・交流
中心市街地活性化
人にやさしい道づくり
歴史・文化を踏まえた
街並み形成
図-4 生態・文化複合系の再構築の全体像
4.2 まちニワの考え方とイメージ
(1)まちニワの基本的考え方
<場所のもつ性格>
①「まちニワ」とは、生物多様性と文化多様性の再構築
を実現するため、農村や都市近郊での「里山」の実現と
合わせて、都市住民が必要とするコミュニティ空間であ
る。
②公と私のどちらでもないように見える場所
(半公半私)
事例:国分寺崖線
③境界のあいまい性(柵などで仕切られない空間、共有
の場所・入会地)
事例:神社の境内(昔から)
、団地内の共有地(現代)
③隣接する建物群の一体的空間となっている
事例:
「緑を取り入れたビル群」
(文京区後楽1丁目)
④その場所につながる動線(または水路)が複数存在す
る
事例:近江八幡の八幡堀
⑤自然と隣り合わせの“里山”に対して、都市に囲まれ
た“まちニワ”
<まちニワの過去と現在>
「まちニワ」の存在が都市域において失われてきたの
は、生態・文化複合系が失われてきた要因とほぼ同じ理
由と考えられるが、全国で水辺・水網が残されている事
例によれば、今なお炊事・洗濯などの生活用水として利
用されていること、山紫水明の自然に対する気配を感じ
る場として存在していることがわかる。また、将来にお
ける「まちニワ」の役割は、都市における生物多様性を
きめ細かく育てていくために、都市住民が必要とするコ
- 86 -
ミュニティ空間として位置付ける。公共事業によるまち
づくりの推進に様々な限界のある今、半公半私の空間ネ
ットワークを拡大して、都市の新たな活気と賑わいを取
り戻すこととする。
(2) 「まちニワ」のイメージ
<多自然空間:身近な自然に触れ合うことができる>
・緑の多様性、生物多様性の空間(例えば、トンボ、チ
ョウ、小鳥などが集まる)
事例:国分寺湧水・水路、横浜市新治里山公園
・河畔の緑地空間、治水の影響を受けない旧川敷や疎水
事例:日野市用水路、大川親水緑地(太田市)
、牛池川水
辺の楽校
・緑陰による木陰の快適さ、川筋からやってくる風
事例:路地にある夕涼みのベンチ・縁台
<親水空間:身近な水辺に接することができる>
・湧水や水洗い場に人が集まる
事例:国分寺湧水、郡上八幡
・水の流れが水網としてつながり、山紫水明の“自然”
を感じる
事例:日野市用水、山水都市(小布施、巴波川)
・親水空間として楽しめる
事例:隅田川の橋詰空間、源兵衛川
<アメニティ空間:人と語らうことができる>
・広々とした川に面した賑わいの場所
事例:カフェ ある程度滞在時間が長い
・祭りのときに休憩などに利用する場所
事例:街角ひろば、ポケットコーナー
4.3 現代版まちニワの再生手法の検討
都市、道路、河川等の各分野から、これからのまちニ
ワ再生の手法を提案する
<新しい「まちニワ」をどのようにつくるか>
・地域の誰でもが集まれる“都市の入会地”をつくる
・都市の中に生物多様性をめざす多自然空間をつくる
・都市の中に水辺・水網を導入し、緑地と合わせて水と
緑のやすらぎ空間をつくる
・コンパクト・シティ、人口減少の都市を想定し、都市
の遊休地、空洞化を埋めていく手法の一つとして位置付
ける。
・道路、河川、公園、集合住宅などを有機的に結びつけ
て、魅力的な都市活動を実現できるように、既存施設を
リニューアルしながら「まちニワ」を実現させる。
④市庁舎・美術館・ミュージアムのテラス前に水辺・水
路をつくる。
事例:東京ミッドタウン、館林美術館
⑤水辺に面してカフェやレストランを導入する。
事例:千代田区外壕
<「まちニワ」の具体策>
①暗渠化された水路・道路空間を、
「まちニワ道路」 と
して再整備する。 事例:荒川区の町屋6丁目
5.今年度の成果の到達点と今後の課題
今年度の研究の到達点としては、まず、生態・文化複
合系の再構築と「まちニワ」に関する基本概念を明確に
できたこと、そしてそれらの具体的な実例のケースを想
定することで基本のイメージ整理ができたことである。
第二には、生態・文化複合系の再構築の研究を進めてい
くための前提として、全国にいまでも残されている水
辺・水網の事例を 51 か所にわたり調査し、それらの河川
特性、地形特性を分類して、7 つの普遍的なパターンと
して整理できたことである。
この中で、野川・国分寺崖線、巴波川、近江八幡の 3
か所については、現地調査も行って、この先のケースス
タディ検討の対象として、様々な視点からの詳細調査を
行うことができた。第三に、水辺・水網が失われてきた
要因を分析して、社会的な背景としての要因と下水道の
暗渠化の直接的な要因などに整理して、生態・文化複合
系の成立要因を5つに分類整理した。
また、
この中で検討がまだ不足している点をあげれば、
1点目は、なぜ同様の社会的背景の中で、水路・水網が
残され地域の魅力として活かされている地域と、本来の
水路の役割が失われてしまっている地域とに分かれるの
か、より深く分析する必要があること。2点目は、生態・
文化複合系の施策を市町村の単位ですすめている事例を
もう少し丁寧に拾い集めることが必要であること。特に
自治体が計画する「みどりの基本計画」に関する事例収
②河川を埋め立てた既存の緑道を再整備して、周辺の街
並みとのつながりをつくる。事例:浜町緑道
③歩道の広がり部やコーナー部を活用する。
事例:カフェやレストランなどの前面のオープンテラス
- 87 -
集が必要であると思われる。
次年度の研究テーマとしては、次の 3 点が重要なポイ
ントになると考えられる。
① 野川・国分寺崖線、巴波川、近江八幡および京都の
高瀬川などを対象に、現地調査結果を活かしながら生
態・文化複合系の再構築に関するケーススタディの具体
的な実施・検討を行う。
② 「まちニワ」の概念整理を深め、水辺・水網に関す
る「まちニワ」イメージのパターンを明確にして、
「まち
ニワ」の展開の進め方・考え方を整理する。
③ 水網復活のための水路・水網整備の治水サイド、都
市サイドからの位置づけの整理
参考文献
①都市の風景をつくる 藤原書店 (中村良夫著)
②暮らしを潤す身近な水路(財団法人 リバーフロント
整備センター)2003 年
③日本の水郷・水都 (財団法人 リバーフロント整備
センター)
2006 年
④里川の可能性(ミツカン水の文化センター企画)2006
年
⑤「間」と景観 技報堂出版(山田圭二郎著)2008 年
⑥河川景観デザイン (財団法人 リバーフロント整備
センター)
2006 年
⑦水辺のまちづくり(日本建築学会編)2008 年
⑧水路の造形美(渡部一二著)東海大学出版会 2006 年
- 88 -