貧困と向き合いながら

出典: 「婦人之友」 2011年8月号
ページから続く)
── 本当のリーダーシップを
(カラー
リーダーシップの大切さをいつもお
て、ぜひ伝えたいと思われたことな
話しですが、世界銀行の仕事を通し
日本の女性として初めて世界銀行
のでしょうか。
はい、リーダーシップのよしあしが
ハンガリーがまだ鉄のカーテンの向
講演や執筆などの傍ら年に数回、
こう側にあった1983年から数年
国づくりを大きく左右すると学んだか
ろな形で応援している。忙しいス
間、税制や経済構造などの初期改革の
日本へ。若い力や地方の力が育つ
ケジュールの中、「『婦人之友』に
らです。
は、子どものころから親しんでい
お手伝いをした経験が大きかったので
学生たちなどに教えられました (詳し
貧民街の女性たちや、NGO活動家、
ーシップを学びました。他の国でも、
と仕事を共にする中で、彼らにリーダ
会議も。100人以上の現地の人たち
れたくないときは、ピクニックで青空
聴を逆手にとったり、どうしても聞か
人が集まりました。会議や、電話の盗
気で」解決しようと、夢を同じくする
思っています。
る人の支えになれるようでありたいと
す か ら、
「本気で」やろうと思ってい
そういう人に助けられた経験がありま
性でも、相談する人が必要です。私も
に、大人でも子どもでも、男性でも女
があるので、打たれそうになったとき
界でも、出る釘は打たれるということ
相談相手になりたいのです。どこの世
そしてできれば、そういう人たちの
き 合 っ て、 自 分 を ひ っ ぱ っ て い く こ
ダーシップというのは自分と正直に向
る か と い う こ と で す が、 私 は、 リ ー
社などの組織で、いかにリーダーにな
ついても、お話しですね。
る な ど、 チ ー ム と グ ル ー プ の 違 い に
ループ」は強いリーダーに率いられ
シ ッ プ を 分 か ち 合 う け れ ど、「 グ
「チーム」は状況に応じてリーダー
ーシップの在り方を伝えていきたいと
き一番強く思ったのは、本物のリーダ
その力がある。世界銀行を退職したと
くことだと思うのです。人にはみな、
ひとつ造るのでも、土建屋さん、お医
野の専門家だけではできません。水道
の「開発」という仕事は、ひとつの分
はあります。でも、たとえば世界銀行
チームの中でも、組織的なリーダー
に何かをしていこうと、道を拓いてい
と、そして世の中や他の人たちのため
よく言われるリーダーシップは、会
。
くは著書『国をつくるという仕事』に)
大 変 難 し い 問 題 が あ り ま し た が、「 本
す。社会主義のイデオロギーの中で、
ました」と、お話くださった。
ようにと、学生、社会人をいろい
ん。現在はバージン諸島に暮らし
の副総裁を務めた西水美恵子さ
貧困のない世界へ
スリランカの村の小学校。先生がいないため、
代わりに勉強をみる西水さん。
いうことでした。
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世銀に加盟する途上国国民の過半数
話の中で、私の堰も切れました。当時、
のかと堰が切れたように話されました。
が、自分がもし悪王だったらどうする
に働きます。相手の意見を聞きながら
は声なき貧民。政治的に無視されがち
世銀職員の意識改革をと反対を押し
約束を守ることです。
仕事をしなくてはなりませんが、他の
な声を汲みとるのが仕事で、権力者と
者さん、経営者、経済学者などが一緒
人の意見を深く聞くということができ
たので、国家の改革とは比べ物になら
切って始めたことの中で悩んでいまし
ないと、謝りつつも、話していくうち
の喧嘩が役目と肝に銘じていました
が、民意を代表するリーダーとも、正
るようになると、誰がリーダーでもい
直に向かい合おうとしました。
いるのか」などと、聞く耳をもつこと
だな」
「今の物理学はそこまで行って
の意見に「若い人って考え方が違うの
経験や年齢の差があっても、若い人
部門から汚職を追放しないと」と。
その後も将軍は「敵は貧困。あらゆる
た将軍との信頼関係が始まりました。
い」と本当にうれしそうな表情で応え
話 し、「 は っ き り 言 っ て く れ て う れ し
セスを軍政権が断ち切るのは邪道」と
由はどうあれ、民主主義のたどるプロ
軍 と そ の 翌 年 に 会 っ た と き に は、「 理
ています。人間そのものの価値観や生
の人間というものを忘れがちだと思っ
るのですが、私は近代経済学は、肝心
れを理論立てて分析し、政策に役立て
マルとしてとる行動を分析します。そ
経済学は、人間がエコノミックアニ
どんなことですか。
ブータンの政治哲学に学ばれたのは
に信頼関係が生まれました。
い の で す。 分 野 は 違 っ て も 目 的 は 同
パキスタンで首相の権力濫用に、
じ、 情 熱 を も っ て 一 緒 に や り ま し ょ
う、という風になります。それが本当
が大切です。
ブータンでは、ジグミ・シンゲ・ワ
きがい、仕事のやりがいなど、人間の
年のクーデターを率いたムシャラフ将
支援を成り立たせるためにも欠かせ
ンチュク雷龍王との初めての謁見で、
起こす行動を左右する大切なものを考
のチームだと思います。
ない、人と人の信頼関係を築く基本
国王は、君主制度は国民のためになら
えなくてはということを、ブータンで
は?
それを語る具体的なエピソー
ない、国の将来は民の選択に託すべき
ドをお話いただけますか。
信頼関係を築くのに大切なのは、自
学びました。
まい、そのうち来なくなってしまうこ
だ。国民は今のままでいいと反対する
バージン諸島のご自宅は、古来から
とがあります。カリブ海の西向きのベ
ランダで、海に沈む夕陽をみながらリ
の、嵐に強く、暑さの中でもすごし
きた継ぎ手でつないだ、暴風に逆らわ
「鉄の木」と呼ばれる堅い熱帯樹でで
古 く か ら の 知 恵 で、 屋 根 と 石 壁 を
す。わが家は貿易風に向かって開く東
ンで日を遮らないとならないほどで
て歩けないし、冷房をつけて、カーテ
て無理。西日のあたるベランダは熱く
やすい造りと伺いました。
ず、 風 を 友 に 踊 る よ う な 屋 根 の 家 で
向き、熱気を逃がし、涼風をとり入れ
ラックスする時間を夢見ても、暑すぎ
す。 世紀ころからの建物ですが、暴
る仕組みで冷房なしでも快適です。
国であってほしいですか。
日本が世界の中で、これからどんな
ところに家が建っていて、台風が来る
てっぺんが、折れていることも。でも
た後、となりの家とわが家の境の木の
のとれた社会。そして人と人のつなが
的な満足と、物質的な満足のバランス
自然に対する畏れをもちながら、精神
自然の中で生かされているという、
うか。
(編集部・羽仁曜子)
をみんな望んでいるのではないでしょ
りが生活を支えている、そのような国
おそ
「強風から家を守る風道」と言われる
に住むための知恵をもたずに建ててし
て、立派な別荘を建てますが、亜熱帯
ヨーロッパやアメリカの人が憧れ
すばらしい。
とおり、家は大丈夫。昔の人の知恵は
けるような轟音が響きます。風が抜け
と、まるで家の両側を新幹線が通りぬ
風を集めて通す谷に挟まれた小高い
風雨にびくともしません。
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分自身に真っ正直であること、そして
英国領バージン諸島にある西水さんの家は、 世紀
の建物。亜熱帯に住む知恵の生きた造り。
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