80km参加レポート by橘選手 - Arabian Horse Ranch

第 9 回八ヶ岳ホーストレッキング&エンデュランス馬術大会 80km 参加レポート
PONYBOY & 橘
参加レポート 2008.5.9(金)-10(日)
5 月 9 日(金)
所要のため、獣医検査はランチの方に代理で行ってもらいました。ポニーはいつもどお
り好調だそうで、問題なく、事前検査を終えました。
PONYBOY は、昨年6月の国内初の CEI3スター大会(国際馬術連盟公認の 160km大
会)である照月湖ライドで 3 位入賞した名馬です。私も、昨年 10 月の照月湖エンデュラン
ス大会でポニーボーイに騎乗して、馬のおかげで優勝しました。GW に最終調整で騎乗し
た際も、相変わらず前進気勢抜群でパワフル、しかも、真面目でサボらないし乗りやすい、
と相変わらずの名馬ぶりを見せてくれました。
今大会は秋に同じ場所で開かれる全日本を睨み、75kg の重量負担があります。事前にウ
ェイトを積んでのトレーニングを行った際、私は騎乗中に錘が鞍下にある違和感がありま
した。が、ポニーはビクともしていないように見えました。また、アラビアンホースラン
チからは 80km には、カリーム&蓮見選手、ギタップ&遠藤選手、バンディット&佐々木
彩妃選手と、いずれも劣らぬ名馬&経験豊富なライダーが参加するので心強いです。
前日、蓮見選手から、「ポニーボーイなら、行きたいなら、先に行ってよい」とは言わ
れましたが、私が初めて 10kg に相当する重量を背負わなければならないレースであり、私
自身は未だ錘の違和感をぬぐえないので、無理のない程度に他のランチの馬たちについて
いくことにします。今回の私の目標は、
①八ヶ岳大会の新コースである第1レグの 40km を体験する。
これは事前検査が通った時点でクリアし、ホッとしました。
②初めて重量負担をするので、錘を積んだレースの違いを実感する。
私は海外で 160km 完走をしていますが、FEI カテゴリーのレースではなかったので重量
負担はありませんでした。国内でも、まだ重量負担をしたことがありません。
③可能な限り、蓮見選手の走りを見る。
蓮見選手と走るのは今回初めてです。世界選手権に出場するような選手の走りの戦略と
いうのはどういうものなのか、可能な限りストーカーをして(やられる方は嫌でしょうが)、
見てみたいと思います。しかも、蓮見選手は秋のジャパンカップで連覇しているなど、八
ヶ岳のコースに滅法強いのです。
大事に走るといっても、同じ山岳コースである照月湖のコースを 5 時間半で走ったこと
のあるポニーなら、普通に走って 6 時間半くらいではないかと予想します。
5 月 10 日(土)
ポニーに馬装をして、本部前まで連れて行き、馬装をいったん解いてライダーの重量検
査をします。前日にできなかったためなのですが、その際、手伝ってくれたのが全日本チ
ャンピオンの三浦さん。アラビアンホースランチの豪華ゲストクルーです。
八ヶ岳の出発地となる競技場はとても立派なのですが、立派過ぎて馬房と出発地が離れ
ているのが難点です。ポニーはもともと馬装されるのが好きではなく、わざとお腹を膨ら
ませて腹帯を締めさせなかったりする馬なのですが、案の定、再度馬装されると機嫌が悪
くなりました。競技開始 15 分くらい前から騎乗しますが、久しぶりの暴れっぷりで、猛然
と速歩をし、他の馬を見て威嚇しようとします。普段は停止の合図でピタッと止まる馬な
のですが、なかなか止まりません。まぁ、レースを前に入れ込んで気合を見せていると思
えば悪くないかもしれません。押さえて押さえきれない馬ではないので、気にしないこと
にします。
6時にスタート。雨が降っていて気温が低いので、この時点では暑いよりはマシと思い
ました。前日のブリーフィングで技術代表の田中さんから「第1レグはゆるい上り坂が続
き、700m 上がるので、馬に任せて飛ばして走らないように」という注意があったそうです
が、スタート前にチーフスチュワードの大豆生田さんからも、「第1レグは、上りが想像
以上に厳しいので、スピードを出さないように」と再三言われます。
アラビアンホースランチは、カリーム、ギタップ、ポニーボーイが一緒に行き、重量負
担が初めてのため大事に行くバンディットが少し遅れて進みました。道中では行く気満々
のカリームが先頭のことが多く、上り坂などではポニーボーイが行く気をみせたので先頭
になることもありました。気心知れた 3 頭一緒だったので、馬もリラックスしていたよう
に思います。
今回の 40km コースでは、30km コースでおなじみの競技場近くの周回コースの 7.5km
あたりの地点から、長野県側に北上します。5km から 10km あたりに傾斜が急な上りが続
き、最初の方で馬も元気なのですが、抑えながら常歩を入れつつ進みます。相変わらずカ
リームのペースに併せて快調に 3 頭で進みますが、
驚いたのは想像以上に常歩が多いこと。
蓮見選手いわく、世界選手権を連勝するような選手も、メリハリの効いた走りをし、常歩
と駈歩を効果的に取り入れ、少し馬が疲れたなと思うと、馬の足を止めて青草を食べさせ
るそうです。私はどちらかというと、最初から最後まで一定スピードの速歩で進むことを
得意にしていましたし、蓮見選手の日頃のタイムの速さをみて、さぞかし道中飛ばしてい
るのだろうと思っていたので、意外でもあり勉強になりました。
13km 地点あたりの山上の周回コース基点のゆるやかな部分で一息つきつつ、15km のク
ルーポイントに進みます。ここでは大豆生田さんが待ち構えていて、「これから急になる
から気をつけて」とライダーに声をかけます。もっとも、ライダーの目から見ると、確か
に地形図は 18km から 20km あたりが一番急勾配なのですが、8km から 10km 地点辺りの
方が急に感じました。これは、道幅やライダーの慣れも関係していると思います。
20km 付近の最高地点に到着です。後に聞いたところ、気温は 2 度。雨も降り続け、人の
ほうも一向に体が温まってきません。また、あれだけ大事に行ったわりに、トップのフリ
ーダム・セバスチャンⅡ&中馬さん、サツキ&高鳥さんらとは 10 分ほどしか離れていませ
ん。改めて、このような厳しい山岳コースにおけるメリハリのきいた走行の有効さを感じ
ました。
さて、今回は、ウォーターポイントは約 5km おきに置かれており、非常に親切です。初
めのうちは飲まなかった馬たちも、順調に水を飲むようになってきました。しかし、残念
なのは、無造作に手桶が入った水槽が多かったことです。しかもこの手桶はピンクやブル
ーのプラスチック製で、プカプカ浮かんでいました。ポニーは鼻息を荒くして威嚇したり、
そっぽをむいたりで、水を飲ませるのに非常に苦労をしました。手桶やスポンジを使う用
の水槽と、飲み水用の水槽が分けてあれば、より良かったと思います。また、贅沢だとは
思うのですが、このような寒い日は、飲み水にお湯を混ぜてあげたいな、と思いました。
クルーが用意するしかないかもしれませんが。
下りは上りよりも幾分軽快に進みます。途中で歩様検査があったのは驚きました。が、1
レグで、しかも下りでやることには少し疑問が残りました。
やがて一番の難所に到着します。上りでもっとも急だった 8-10km 地点(トータルで見
ると 33-35km 地点)が、下りでは坂が急なだけでなく、道幅が細く、多くの馬が上りで
通った後で、ぬかるんだ道がデコボコになっていたのです。下馬しようかとも思ったので
すが、人の方がつまづきそうなので、騎乗したまま常歩で降りました。
35km 地点、いつもの周回コースに入るとホッとします。3 頭一緒に 1 レグを終えます。
ポニーは他の馬同様、競技場に入ってきてから常歩をしていたので、帰ってきた時点で心
拍がほぼ 60 でした。獣医検査では、左前肢に熱感があり、そのせいで歩様が B だと言われ
ました。ポニーでは珍しいことです。また、バンディットは1レグで跛行失権したそうで
す。彩妃ちゃんは、バンディットの腰を気遣って、ずっと立ち乗りしていたそうですが、
重量を背負っていたこともあり、難しいライドになったようでした。
第 2 レグがスタートです。獣医検査や馬装が順調に進み、先に行ったカリームをギタッ
プと私で追いかけ、1km くらいのところで追いつき、一緒に進みました。2 レグはおなじ
みの 30km のコース。私も昨春の大会で 40km に参加したときに一度走っています。
7.5km 地点あたりから、防火帯に入っていきます。折り返しまで上りが続くのですが、
今回も常歩や青草を食べさせるのを混ぜながら、馬が気持ちよく進めるよう走ります。
ただし、途中でポニーの走りがやけに重く感じてきました。そのわりに馬の足運びに問
題はなく、駈歩をしたがるのです。今、思えば、疲れていたと言うよりは、降り続く雨で
鞍やライダーの洋服がかなり重くなっていたことが原因だと思います。私は重りを 75kg よ
り 1-2kg 重くなるように調整していましたが、雨のときはギリギリで良かったと反省して
います。私は疲れ始めたかと思って、スピードをセーブしましたが、セーブする必要はな
かったと思います。また、ポニーは駈歩を出したがる馬なので、あまり気にせずに普段の
ように押さえて速歩をしましたが、カリームも走りたがる素振りを見せたところから考え
ると、馬も寒くて走りたかったのだと思います。帰りの平地では、あまりに走りたがるの
で、ストレス発散的に走らせましたが、今回のような天気の場合、もう少し積極的に走ら
せてよかったのだと思います。寒かったと思ったもう 1 つの理由は、クルーポイントでク
ルーの方が水をかけようとすると、ポニーが逃げ回ったことです。私は 1 レグ後の獣医検
査で前肢の熱感を指摘されていたので、前肢だけ水をかけてもらおうかと思っていたので
すが、あまりに嫌がるのでやめました。たぶん、水が冷たかったのだと思います。
折り返し地点付近で先を行く高鳥さん、中馬さん、フォーモサ&福田さんとすれ違い、
勝太郎&鎌田さんと同行して下りに入ります。下りではポニーが他の馬を置いていくほど
スピードを上げたがるので、カリームの後ろに下げて、一定ペースを保つようにします。
前述したとおり、帰りの道路脇の道の良いコースでは、ポニーが首を振って走りたいと
主張するので、しばらく駈歩をさせました。落ち着くかと思いましたが、速歩でも落ち着
きがありません。オーバーペースが心配でなだめながらの走行となりました。
獣医検査は、腸音が B でしたが、歩様は良くなりました。しかし、B でも C に近いほう
なので、10 分前から出発前までに再検査を受けるように言われます。水も良く飲み、青草
も良く食べていたのに、なぜ腸音が悪いのか、これからどうしたらよいのかと獣医の先生
に聞くと、こういう寒い日は仕方がない部分があるというお返事。よく引き馬をして、と
アドバイスを受けます。
少し休ませてから馬装をし、再検査に連れて行きます。寒さのせいか、過半数の馬が再
検査を受けているようです。再検査を受けている間、馬着は着せていたのですが、他の馬
が入っている間、少し待っている間にポニーは寒くなってしまったようです。検査場に入
り、馬着を直すときは何ともなかったのですが、後ろの腰辺りを震わせました。獣医の先
生には「今なら棄権もできます」と言われましたが、私とクルーは、動いて暖かくなれば
問題ない、あと 10km だから大丈夫だと判断しました。が、3 人の獣医の投票で失権となり
ました。
その後、ギタップは 4 位で完走、カリームは 3 位で、しかも 2 レグのときよりも体調よ
くゴールしました。蓮見選手いわく、3 レグはカリームが駈歩をしたがったので、寒いせい
だろうと思って、行く気のままに駈歩をさせたそうです。翌日のベストコンディション賞
の審査でも、カリームは際立って元気でピカピカの馬体でした。2 位はフォーモサ。エンデ
ュランス歴の浅い私は、この馬のことはよく知らなかったのですが、前日、蓮見選手が強
いと名前を挙げていた馬でした。そして、優勝はサツキ。全日本選手権の優勝後、ケガの
ためになかなか出て来れず、これが復帰戦でした。八ヶ岳はホームコースとはいえ、優勝
するとは劇的なカムバックです。高鳥さんがサツキを信じて苦心してここまできたのだと
思うと、頭が下がりました。このように、喜ばしいこともたくさんありましたが、80km ラ
イド全体では、21 頭中、完走が 9 頭ということで、山岳コースの難しさ、気象条件の難し
さを表したレースでした。
今回は、雨で寒い日のレースの怖さをしみじみと感じたレースでした。暑さ対策や脱水
の心配はしていても、本州のレースでは寒さというのは軽んじられてきた、というか、過
酷な寒さは想定されていなかったのだと思います。たとえば、馬用のお湯がないことを見
ても、それが伺われます。
私は今年 4 月に、土砂降りの中、オーストラリアで 160km 走りました。このときは、道
はぬかるんでいたものの、気温は 15 度くらいで心地よく、13 時間くらいで完走しました。
最終レグに再度、夜になって馬が寒くならないか心配でしたが、足場が悪く常歩しかでき
ないことが多い中、全く問題はありませんでした。また、昨年 5 月に北海道の北大雪の大
会に出場した時は、スタート時で 2 度でした。終始、セーターと上着を羽織って走行しま
したが、馬にとって厳しいという感じではありませんでした。氷雨というのは、いかに人
馬ともに消耗するか、改めて知ることができました。救われたのは、ランチの馬は、八ヶ
岳大会が終わって、冬を過ごす伊豆から北軽井沢に移動したのですが、翌日以降、普段ど
おり元気だったことです。
レース後、アラビアンホースランチのみなさんと反省会をしました。
まずは失権だった彩妃ちゃんと私の共通認識は、「重量負担は厳しい」です。二人とも
今回は 10kg の鉛を鞍とゼッケンの間に積んでいました。錘の影響をあまり感じないライダ
ーもいるようですが、彩妃ちゃんと私は「ライディングに影響が出るし、馬も何か違う」
と感じました。錘を背負わないでちょうど 75kg なのと、私たちのようにデッドウェイトを
背負って 75kg の人とでは、明らかに私たちが不利だと思います。馬も、デッドウェイトで
は動きが変わると思います。FEI の新ルールでは負担重量は 70kg になるそうで、全日本な
どもいずれ準拠するはずです。小柄な日本人女性にとって朗報ですし、5kg の錘を背負うく
らいなら、自分の体重を増やした方がマシだと思いました。
また、全体に言えることは、寒い日の対策に尽きると思います。自前でもいいから馬の
ケア用にお湯を使えるようにしたい、腰用ブランケットの必要性、馬体への水の使用をラ
イダー、クルーともにもっと状況に応じた判断ができるようになるべきだ、といった意見
が出ました。
私はエンデュランス人生で初失権、しかも、頑丈でほぼ失権知らずのポニーでというこ
とでかなりショックなのですが、よい勉強になりました。
今回、ポニーボーイを貸してくださっただけでなく、ライダーとして実地で騎乗法を教
えてくださった蓮見選手、レース後に失権や棄権のタイミングについて貴重なアドバイス
をくださった蓮見明美さん、クルーをしてくださった佐々木さん、三橋さん、清水さん、
三浦さん、今大会のライドについての感想を聞いてくださった田中さん、日頃のケアやト
レーニングを担ってくださっているランチのスタッフの方々、そして大会運営にかかわっ
たみなさまに、本当に感謝しております。
どうもありがとうございました。